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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 5/04 20060101AFI20231108BHJP
   B60R 25/0215 20130101ALI20231108BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20231108BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20231108BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20231108BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20231108BHJP
【FI】
B62D5/04
B60R25/0215
B62D6/00
B62D113:00
B62D119:00
B62D101:00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020083915
(22)【出願日】2020-05-12
(65)【公開番号】P2021178548
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇志
(72)【発明者】
【氏名】株根 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】藤田 敏博
(72)【発明者】
【氏名】松田 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】天野 春樹
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-054916(JP,A)
【文献】特開2010-162983(JP,A)
【文献】特開2020-158091(JP,A)
【文献】特開2017-087781(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0183476(US,A1)
【文献】特開2019-123436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04
B60R 25/0215
B62D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバのステアリング操舵において発生する量を検出する操舵量センサ(94)と、
前記操舵量センサの検出値に応じてドライバのステアリング操舵を電気的にアシストする操舵アシストアクチュエータ(800)と、
前記操舵量センサよりもドライバ側に配置され、ステアリングの回転を機械的に規制するロック装置(20)と、
前記ロック装置を駆動するロックアクチュエータ(710)と、
前記操舵アシストアクチュエータに通電する第1の回路(68、681、682)と、
前記ロックアクチュエータに通電する第2の回路(67)と、
前記第1の回路及び前記第2の回路を操作し、前記操舵アシストアクチュエータ及び前記ロックアクチュエータの動作を制御する制御部(30)と、
を備え、
前記制御部は、前記第1の回路の動作中に、操舵角相当値の絶対値が閾値より大きいとき前記ロック装置をロック状態とするように前記第2の回路により前記ロックアクチュエータに通電し、前記操舵角相当値の絶対値が前記閾値以下のとき前記ロック装置を解除状態とするように前記第2の回路により前記ロックアクチュエータに通電するステアリング装置。
【請求項2】
前記操舵量センサは、ドライバの操舵トルクを検出するトルクセンサである請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記操舵アシストアクチュエータはモータであり、
前記操舵角相当は、前記操舵アシストアクチュエータの回転角から演算された値である請求項1または2に記載のステアリング装置。
【請求項4】
前記ロック装置は、
前記ロックアクチュエータにより往復移動する可動部(21)と、
径方向に相対的に突出した一つ以上の凸部(27)、及び、径方向に相対的に凹んだ一つ以上の凹部(28)が周方向に配置され、ステアリングに追従して回転する被係止体(25)と、を有し、
前記制御部は、前記第2の回路により前記ロックアクチュエータに通電して前記可動部に形成された突起(23)を前記被係止体に近づくよう前進、又は、前記被係止体から遠ざかるよう後退させ、
前記突起が前進したとき、前記突起が前記被係止体の前記凸部もしくは前記凹部に当接する、又は、前記突起が隣接する前記凸部同士の間もしくは前記凹部に嵌入するロック状態となり、
前記突起が後退したとき、前記突起が前記被係止体から離間する解除状態となる請求項1~3のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項5】
前記可動部は、弾性力により前記突起を前進方向に付勢する弾性部(22)を有し、
前記突起が前記凸部の径方向外壁(274)に当接した位置から前記被係止体が回転し、前記突起と前記凹部との位置が一致したとき、前記弾性部の付勢力により、前記突起が隣接する前記凸部同士の間もしくは前記凹部に嵌入する請求項4に記載のステアリング装置。
【請求項6】
前記第1の回路の動作中に前記突起が前進したとき、前記突起が前記凸部もしくは前記凹部の周方向側壁(275、265)に当接して前記ロック状態となり、
前記第1の回路の停止中に前記突起が前進したとき、前記突起が隣接する前記凸部同士の間もしくは前記凹部に嵌入して前記ロック状態となる請求項4に記載のステアリング装置。
【請求項7】
前記被係止体の前記凸部及び前記凹部の周方向位置と前記可動部の前記突起の位置との相対関係は、ステアリング(91)の操舵角に応じて変化し、
ステアリングが中立位置に近づいたとき、前記突起が前記凹部に近づき、
ステアリングが中立位置から離れたとき、前記突起が前記凸部に近づく請求項4に記載のステアリング装置。
【請求項8】
前記第1の回路及び前記第2の回路は同一の筐体(600)内に設けられる請求項1~7のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項9】
前記操舵アシストアクチュエータ及び前記ロック装置は、ともにステアリングコラム(93)に配置される請求項1~8のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項10】
前記操舵アシストアクチュエータ及び前記ロック装置は、ともにステアリングラック(97)に配置される請求項1~8のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項11】
前記操舵アシストアクチュエータはステアリングラックに(97)に配置され、前記ロック装置はステアリングコラム(93)に配置される請求項1~8のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動パワーステアリング装置において、操舵角が所定量を超えたときエンド当てにより発生する機械装置への負荷を低減する技術が知られている。
【0003】
例えば特許文献1に開示された操舵制御装置は、転舵輪の転舵角が限界角に到達したと判定される場合、操舵アシストモータを駆動する電流指令値の大きさを制限する。つまり、操舵アシストモータの出力をエンド付近で絞ることで、エンド当てにより発生する機械装置の負荷を下げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-30533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本明細書では、操舵アシストモータの上位概念の用語として、モータ以外を含む「操舵アシストアクチュエータ」を用いる。特許文献1による電気的な出力制限の技術に対し、操舵角のエンド付近でステアリングを機械的に規制することで機械装置の負荷を下げる技術が考えられる。この技術では、ステアリングがロックされた状態でドライバがトルクを加えると、そのトルクに対してアシストトルクを生成しようとする制御が働き、操舵アシストアクチュエータの出力が大きくなる。そのため、機械的に規制する装置に強度が必要で大型化する。また、機械的に規制する装置を動かすアクチュエータや駆動回路が必要になるとともに、操舵アシストアクチュエータに拮抗する出力を出す必要があり、アクチュエータや駆動回路が大型化するという問題がある。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、操舵角のエンド付近でステアリングを機械的にロックするステアリング装置において、アクチュエータや駆動回路の小型化を図るステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のステアリング装置は、操舵量センサ(94)と、操舵アシストアクチュエータ(800)と、ロック装置(20)と、ロックアクチュエータ(710)と、第1の回路(68、681、682)と、第2の回路(67)と、制御部(30)と、を備える。
【0008】
操舵量センサは、ドライバのステアリング操舵において発生する量を検出する。例えば操舵量センサは、ドライバの操舵トルクを検出するトルクセンサである。操舵アシストアクチュエータは、操舵量センサの検出値に応じてドライバのステアリング操舵を電気的にアシストする。ロック装置は、操舵量センサよりもドライバ側に配置され、ステアリングの回転を機械的に規制する。ロックアクチュエータは、ロック装置を駆動する。
【0009】
第1の回路は、操舵アシストアクチュエータに通電する。第2の回路は、ロックアクチュエータに通電する。制御部は、第1の回路及び第2の回路を操作し、操舵アシストアクチュエータ及びロックアクチュエータの動作を制御する。
【0010】
制御部は、第1の回路の動作中に、操舵角相当値の絶対値が閾値より大きいときロック装置をロック状態とするように第2の回路によりロックアクチュエータに通し、操舵角相当値の絶対値が閾値以下のときロック装置を解除状態とするように第2の回路によりロックアクチュエータに通電する。例えば操舵アシストアクチュエータはモータであり、操舵角相当は、操舵アシストアクチュエータの回転角から演算された値である。
【0011】
ロック装置は操舵量センサよりもドライバ側に配置されているため、ロック状態でドライバがトルクを加えてもそのトルクが操舵量センサに伝わらない。したがって、操舵量センサの検出値に応じて演算される操舵アシストアクチュエータの最大出力を下げることができる。よって、アクチュエータや駆動回路を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態のステアリング装置が適用されるコラムタイプEPSシステムの図。
図2】同上のラックタイプEPSシステムの図。
図3】モータ駆動回路の回路構成例1の図。
図4】モータ駆動回路の回路構成例2の図。
図5】モータ駆動回路の回路構成例3の図。
図6】三相二重巻線回転機の構成を示す模式図。
図7】本実施形態のステアリング装置の制御ブロック図。
図8】各実施形態のロック装置の全体構成を示す模式図。
図9図8のIX-IX線断面模式図。
図10】ロック装置の動作制御を示すフローチャート。
図11】第1実施形態のロック装置の被係止体の模式図。
図12】第1実施形態のロック装置において(a)可動部の突起が被係止体の凸部の径方向外壁に当接した状態、(b)突起が凹部に嵌入した状態を示す模式図。
図13】第2実施形態のロック装置の(a)中立位置付近、(b)エンド付近における被係止体の模式図。
図14】第3実施形態のロック装置の(a)中立位置付近、(b)エンド付近における被係止体の模式図。
図15図2のラックタイプEPSシステムの変形例の図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のステアリング装置の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。各実施形態のステアリング装置は、車両の電動パワーステアリングシステム(以下「EPSシステム」)に適用され、操舵角のエンド付近でステアリングの回転を機械的に規制するものである。
【0014】
[システム構成]
最初に図1図2を参照し、「ステアリング装置」が適用されるEPSシステム901について説明する。そのうち、図1にはコラムタイプのEPSシステムを示し、図2にはラックタイプのEPSシステムを示す。区別する場合、コラムタイプのEPSシステムの符号を901C、ラックタイプのEPSシステムの符号を901Rと記す。図1図2においてタイヤ99は片側のみを図示し、反対側のタイヤの図示を省略する。
【0015】
図1図2に示すように、EPSシステム901は、「ステアリング」としてのステアリングホイール91、ステアリングシャフト92、インターミディエイトシャフト95、ステアリングラック97等を含む。ステアリングシャフト92はステアリングコラム93に内包されており、一端にステアリングホイール91が接続され、他端にインターミディエイトシャフト95が接続されている。
【0016】
インターミディエイトシャフト95のステアリングホイール91と反対側の端部には、ラックアンドピニオン機構により回転を往復運動に変換して伝達するステアリングラック97が設けられている。ステアリングラック97が往復すると、タイロッド98及びナックルアーム985を介してタイヤ99が転舵される。また、インターミディエイトシャフト95の途中にはユニバーサルジョイント961、962が設けられている。
【0017】
ステアリング装置200は、トルクセンサ94、操舵アシストアクチュエータ800、ロック装置20、ロックアクチュエータ710、「第1の回路」としての三相インバータ回路68、「第2の回路」としてのHブリッジ回路67、及び、制御部30等を備える。トルクセンサ94は、「ドライバのステアリング操舵において発生する量を検出する操舵量センサ」の一形態として、ドライバの操舵トルクTsを検出する。操舵アシストアクチュエータ800は、操舵トルクTsに応じてドライバのステアリング操舵を電気的にアシストする。
【0018】
ロック装置20は、トルクセンサ94よりもドライバ側、すなわちステアリングホイール91側に配置され、ステアリングの回転を機械的に規制する。ロックアクチュエータ710は、ロック装置20を駆動してステアリングシャフト92の回転を機械的に規制することで、ラックエンドを超えてステアリングホイール91が操舵されることを防止する。
【0019】
本実施形態では、操舵アシストアクチュエータ800は三相モータで構成されており、ロックアクチュエータ710は直流モータで構成されている。「第1の回路」としての三相インバータ回路68は操舵アシストアクチュエータ800に通電する。「第2の回路」としてのHブリッジ回路67はロックアクチュエータ710に通電する。「第1の回路」である三相インバータ回路68と「第2の回路」であるHブリッジ回路67とを合わせて「モータ駆動回路」という
【0020】
制御部30は、マイコン、駆動回路等で構成され、図示しないCPU、ROM、RAM、I/O、及び、これらの構成を接続するバスライン等を備え、ROM等の実体的なメモリ装置(すなわち、読み出し可能非一時的有形記録媒体)に予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理や、専用の電子回路によるハードウェア処理による制御を実行する。
【0021】
制御部30は、トルクセンサ94が検出した操舵トルクTsや車速センサ14が検出した車速Vに基づいて三相インバータ回路68を操作し、操舵アシストアクチュエータ800の駆動を制御する。そして制御部30は、操舵アシストアクチュエータ800に所望の操舵アシストトルクを出力させる。
【0022】
また制御部30は、Hブリッジ回路67を操作し、ロックアクチュエータ710の動作を制御する。詳しくは、制御部30は、操舵角θsに応じてHブリッジ回路67によりロックアクチュエータ710に通電し、ロック装置20を動作させる。ここで、操舵角θsは操舵角センサの検出値に限らず、種々の「操舵角相当」が含まれる。例えば操舵アシストアクチュエータ800の回転角から演算された値が操舵角θsとして制御部30に取得される。
【0023】
本実施形態では、三相インバータ回路68、Hブリッジ回路67及び制御部30はECU(詳しくはEPS-ECU)10に含まれる。ECU10は、車両スイッチ11のON/OFF信号等により起動する。なお、車両スイッチ11は、エンジン車ではイグニッションスイッチに相当し、ハイブリッド車や電気自動車ではプッシュスイッチに相当する。ECU10への各信号は、CANやシリアル通信等を用いて通信されるか、アナログ電圧信号で送られる。
【0024】
また、本実施形態において三相インバータ回路68及びHブリッジ回路67、すなわちモータ駆動回路は、同一の筐体600内に設けられている。さらに図1図2の例では、モータ駆動回路と共に制御部30が同一の筐体600内に設けられている。これにより、ステアリング装置200を小型化することができ、また、ハーネスやコネクタ等の配線部品を減らすことができる。なお、後述する回路構成例1、3(図3図5参照)において、電源Btの正極及び負極と電気的に接続するためのハーネスやコネクタ等は一つでも二つでもよい。
【0025】
図1に示すコラムタイプのEPSシステム901Cでは、操舵アシストアクチュエータ800及びロック装置20は、ともにステアリングコラム93に配置される。操舵アシストアクチュエータ800の出力トルクはステアリングシャフト92に伝達される。トルクセンサ94は、ステアリングシャフト92の途中に設けられ、トーションバーの捩れ変位に基づき、ドライバの操舵トルクTsを検出する。ロック装置20は、トルクセンサ94よりもドライバ側に配置されている。
【0026】
図2に示すラックタイプのEPSシステム901Rでは、操舵アシストアクチュエータ800及びロック装置20は、ともにステアリングラック97に配置される。操舵アシストアクチュエータ800の出力トルクによりステアリングラック97の往復運動がアシストされる。トルクセンサ94は、ステアリングラック97に伝達されるドライバの操舵トルクTsを検出する。ロック装置20は、トルクセンサ94よりもドライバ側に配置されている。
【0027】
このように、コラムタイプ、ラックタイプのEPSシステム901C、901Rに共通に、ロック装置20はトルクセンサ94よりもドライバ側に配置されている。そのため、ロックした状態でドライバがステアリングホイール91にトルクを加えてもそのトルクがトルクセンサ94に伝わらない。したがって、トルクセンサ94の検出値に応じて演算される操舵アシストアクチュエータ800の最大出力が抑制される。
【0028】
[モータ駆動回路の構成例]
続いて図3図6を参照し、モータ駆動回路の3通りの回路構成例について説明する。まず、三相インバータ回路68の駆動対象である操舵アシストアクチュエータ800に関し、三相巻線組と当該巻線組に対応する三相インバータ回路とを含む単位を「系統」という。図3図4に示す回路構成例1、2は一系統構成であり、図5に示す回路構成例3は二系統構成である。図6に示すように、二系統構成では、「第1の回路」68は二つの三相インバータ回路681、682からなる。
【0029】
一系統構成の三相巻線組は、U相、V相、W相の巻線811、812、813が中性点Nで接続されて構成されている。各相の巻線811、812、813には、三相インバータ回路68から電圧が印加される。各相には、回転数と位相のsin値との積に比例した逆起電圧が発生する。各相に発生する逆起電圧は、電圧振幅A、回転数ω、位相θに基づき、例えば式(1.1)~(1.3)により表される。
【0030】
Eu=-Aωsinθ ・・・(1.1)
Ev=-Aωsin(θ-120) ・・・(1.2)
Ew=-Aωsin(θ+120) ・・・(1.3)
【0031】
二系統構成の操舵アシストアクチュエータ800は二組の三相巻線組801、802を有する。第1系統の三相巻線組801は、U1相、V1相、W1相の巻線811、812、813が中性点N1で接続されて構成されている。第1系統の三相巻線組801の各相の巻線811、812、813には、第1系統の三相インバータ回路681から電圧が印加される。
【0032】
第2系統の三相巻線組802は、U2相、V2相、W2相の巻線821、822、823が中性点N2で接続されて構成されている。第2系統の三相巻線組802の各相の巻線821、822、823には、第2系統の三相インバータ回路682から電圧が印加される。
【0033】
図6に示すように、二系統構成の操舵アシストアクチュエータ800は、二組の三相巻線組801、802が同軸に設けられた二重巻線回転機をなしている。二組の三相巻線組801、802は電気的特性が同等であり、例えば共通のステータに、互いに電気角30[deg]ずらして配置されている。その場合、第1系統及び第2系統の各相に発生する逆起電圧は、電圧振幅A、回転数ω、位相θに基づき、例えば式(2.1)~(2.3)、(2.4a)~(2.6a)により表される。
【0034】
Eu1=-Aωsinθ ・・・(2.1)
Ev1=-Aωsin(θ-120) ・・・(2.2)
Ew1=-Aωsin(θ+120) ・・・(2.3)
Eu2=-Aωsin(θ+30) ・・・(2.4a)
Ev2=-Aωsin(θ-90) ・・・(2.5a)
Ew2=-Aωsin(θ+150) ・・・(2.6a)
【0035】
なお、二系統の位相関係を逆にした場合、例えばU2相の位相(θ+30)は(θ-30)となる。その場合、第2系統の各相に発生する逆起電圧は、式(2.4a)~(2.6a)に代えて式(2.4b)~(2.6b)で表される。さらに、30[deg]と等価な位相差は、一般化して(30±60×k)[deg](kは整数)と表される。或いは第2系統が第1系統と同位相に配置されてもよい
【0036】
Eu2=-Aωsin(θ-30) ・・・(2.4b)
Ev2=-Aωsin(θ+90) ・・・(2.5b)
Ew2=-Aωsin(θ-150) ・・・(2.6b)
【0037】
Hブリッジ回路67の駆動対象であるロックアクチュエータ710は巻線714により構成される。ロックアクチュエータ710への通電時、回転数ω1に比例した逆起電圧E1が発生する。比例定数をEとすると、逆起電圧E1は、式「E1=-Eω1」で表される。また、ロックアクチュエータ710に通電される直流電流をI1と記す。
【0038】
次に回路構成例1~3について順に説明する。図3に示す回路構成例1のECU101では、共通の電源Btに対し、三相インバータ回路68及びHブリッジ回路67が独立して設けられている。三相インバータ回路68及びHブリッジ回路67は、高電位線Lpを介して電源Btの正極と接続され、低電位線Lgを介して電源Btの負極と接続されている。電源Btは、例えば基準電圧12[V]のバッテリである。電源Btから三相インバータ回路68に入力される直流電圧を「入力電圧Vri」と記し、Hブリッジ回路67に入力される直流電圧を「入力電圧Vrd」と記す。
【0039】
三相インバータ回路68は、ブリッジ接続された高電位側及び低電位側の複数のインバータスイッチング素子IUH、IUL、IVH、IVL、IWH、IWLの動作により電源Btの直流電力を三相交流電力に変換し、操舵アシストアクチュエータ800に通電する。三相インバータ回路68の電源Bt側には高電位線Lpと低電位線Lgとの間にコンデンサCiが設けられている。
【0040】
詳しくは、インバータスイッチング素子IUH、IVH、IWHは、それぞれU相、V相、W相の高電位側に設けられる上アーム素子であり、インバータスイッチング素子IUL、IVL、IWLは、それぞれU相、V相、W相の低電位側に設けられる下アーム素子である。以下、同相の上アーム素子と下アーム素子とをまとめて、符号を「IUH/L、IVH/L、IWH/L」と記す。また、直列接続された一組の高電位側及び低電位側のスイッチング素子を「レッグ」とする。「IUH/L」はU相レッグの符号に相当する。
【0041】
三相インバータ回路68の各相の下アーム素子IUL、IVL、IWLと低電位線Lgとの間には、各相を流れる相電流Iu、Iv、Iwを検出する電流センサSAU、SAV、SAWが設置されている。電流センサSAU、SAV、SAWは、例えばシャント抵抗で構成される。
【0042】
電源BtとコンデンサCiとの間の電流経路において、電源Bt側に電源リレーPir、コンデンサCi側に逆接保護リレーPiRが直列接続されている。電源リレーPir及び逆接保護リレーPiRは、MOSFET等の半導体スイッチング素子もしくは機械式リレー等により構成され、オフ時に電源Btから三相インバータ回路68への通電を遮断可能である。電源リレーPirは、電源Btの電極が正規の向きに接続されたときに流れる方向の電流を遮断する。逆接保護リレーPiRは、電源Btの電極が正規の向きとは逆向きに接続されたときに流れる方向の電流を遮断する。
【0043】
Hブリッジ回路67は四つのスイッチング素子からなる二つのレッグを含む。片側のレッグは高電位側スイッチング素子1Ha及び低電位側スイッチング素子1Laにより構成され、反対側のレッグは高電位側スイッチング素子1Hb及び低電位側スイッチング素子1Lbにより構成されている。各レッグの中間点同士の間にロックアクチュエータ710が接続されている。
【0044】
ロックアクチュエータ710において、例えば、スイッチング素子1Ha及び1Lbをオンしたときに通電される電流I1の方向を正方向とし、スイッチング素子1Hb及び1Laをオンしたときに通電される電流I1の方向を方向とする。ロックアクチュエータ710は、正方向に通電されたとき正転し、負方向に通電されたとき逆転する。例えばロックアクチュエータ710が正転したときロック装置20がロックされ、ロックアクチュエータ710が逆転したときロック装置20のロックが解除される。
【0045】
各レッグの低電位側スイッチング素子1La、1Lbと低電位線Lgとの間には、直流電流I1を検出する電流センサSA1a、SA1bが設置されている。電流センサSA1a、SA1bは、例えばシャント抵抗で構成される。電流センサSA1a、SA1bは、高電位側スイッチング素子1Ha、1Hbと高電位線Lpとの間に設置されてもよい。Hブリッジ回路67の電源Bt側には高電位線Lpと低電位線Lgとの間にコンデンサCdが設けられている。電源BtとコンデンサCdとの間の電流経路には、電源リレーPdr及び逆接保護リレーPdRが直列接続されている。
【0046】
三相インバータ回路68の各相インバータスイッチング素子IUH/L、IVH/L、IWH/L、及び、Hブリッジ回路67の各スイッチング素子は、例えばMOSFETである。その他、スイッチング素子は、MOSFET以外の電界効果トランジスタやIGBT等であってもよい。ここで、ロックアクチュエータ710に通電される電流は、操舵アシストアクチュエータ800に流れる相電流よりも小さい。そのため、Hブリッジ回路67の各スイッチング素子は、インバータスイッチング素子IUH/L、IVH/L、IWH/Lよりも電流容量が小さいスイッチが使用されてもよい。また、ロック及び解除ができればよいため、高速スイッチングは必要なく、オン時間が遅いスイッチや機械リレーでもよい。
【0047】
図4に示す回路構成例2のECU102では、Hブリッジ回路67の片側のレッグが三相インバータ回路68のU相レッグと共有されている。図示の都合上、符号「67」は、非共有側レッグを指しているように見えるが、実際には、三相インバータ回路68のU相レッグと非共有側レッグとを合わせた部分を指している。回路構成例2では、回路構成例1に比べスイッチング素子の数を減らすことができる。
【0048】
このように、三相インバータ回路68の一相(例えばU相)のレッグと、Hブリッジ回路67の片側のレッグとが共有されて構成される電力変換回路を、本明細書では「統合電力変換回路」という。回路構成例2では、一系統の三相インバータ回路68とHブリッジ回路67とが「統合電力変換回路650」をなしている。制御部30は、三相インバータ回路68及びHブリッジ回路67を個別に動作させるのでなく、統合電力変換回路650を総合的に動作させる。
【0049】
Hブリッジ回路67の非共有側レッグは、直流モータ端子M1を介して直列接続された高電位側のスイッチング素子MU1H、及び、低電位側のスイッチング素子MU1Lにより構成される。以下、非共有側のレッグを構成する一組のスイッチング素子を「直流モータ用スイッ」と称する。インバータスイッチング素子と同様に、高電位側及び低電位側のスイッチをまとめて、直流モータ用スイッチング素子の符号を「MU1H/L」と記す。直流モータ用スイッMU1H/Lは、インバータスイッIUH/L、IVH/L、IWH/Lよりも電流容量が小さいスイッチが使用されてもよい。
【0050】
三相巻線組のU相電流経路の分岐点Juには、ロックアクチュエータ710の一端である第1端子T1が接続されている。ロックアクチュエータ710の第1端子T1とは反対側の端部である第2端子T2は、直流モータ用スイッチMU1H/Lの間の直流モータ端子M1に接続されている。直流モータ用スイッチMU1H/Lはロックアクチュエータ710を介してU相巻線811に接続されている。直流モータ用スイッチの符号「MU1H/L」の「U」はU相を意味し、「1」は直流モータの番号である。
【0051】
回路構成例2において、三相インバータ回路68に流れる相電流Iu、Iv、Iwに対し、三相巻線組に通電される相電流をIu#、Iv#、Iw#と記す。図4の例ではU相電流経路の分岐点Juにおいて相電流Iuの一部が直流モータ電流I1として分かれる。分岐点Juの三相インバータ回路68側に流れるインバータ相電流Iu、Iv、Iwと、分岐点Juの操舵アシストアクチュエータ800側に通電されるモータ相電流Iu#、Iv#、Iw#との関係は、式(3.1)~(3.4)により表される。
【0052】
Iu#=-Iv-Iw ・・・(3.1)
Iv#=Iv ・・・(3.2)
Iw#=Iw ・・・(3.3)
I1=Iu-Iu# ・・・(3.4)
【0053】
ロックアクチュエータ710において、第1端子T1から第2端子T2に向かう電流I1の方向を正方向とし、第2端子T2から第1端子T1に向かう電流I1の方向を負方向とする。ロックアクチュエータ710の第1端子T1と第2端子T2との間には電圧Vxが印加される。ロックアクチュエータ710は、正方向に通電されたとき正転し、負方向に通電されたとき逆転する。
【0054】
図5に示す回路構成例3のECU103では、操舵アシストアクチュエータ800に通電する「第1の回路」68(符号は図6参照)が二系統の三相インバータ回路681、682により構成される。第1系統の三相インバータ回路681は、三相巻線組801のU1相、V1相、W1相の巻線811、812、813に接続されている。第2系統の三相インバータ回路682は、三相巻線組802のU2相、V2相、W2相の巻線821、822、823に接続されている。
【0055】
第1系統の三相インバータ回路681には、インバータスイッチング素子IU1H/L、IV1H/L、IW1H/L、及び、各相電流Iu1、Iv1、Iw1を検出する電流センサSAU1、SAV1、SAW1が設けられている。三相インバータ回路681の電源Bt側にはコンデンサC1が設けられている。また、電源Btと三相インバータ回路681との間に、電源リレーP1r及び逆接保護リレーP1Rが設けられている。電源Btから三相インバータ回路681に入力される直流電圧を「入力電圧Vr1」と記す。三相巻線組801には相電流Iu1#、Iv1#、Iw1#が通電される。
【0056】
第2系統の構成要素の符号及び電流の記号は、第1系統の構成要素の符号及び電流の記号の「1」を「2」に置き換えて表される。また、第2系統の構成要素について、第1系統の構成要素についての説明が援用される。
【0057】
第1系統の三相巻線組801のU1相電流経路の分岐点Juには、回路構成例2と同様にロックアクチュエータ710の一端である第1端子T1が接続されている。ロックアクチュエータ710の第1端子T1とは反対側の端部である第2端子T2は、直流モータ用スイッチMU1H/Lの間の直流モータ端子M1に接続されている。図5の構成では、第2系統の三相巻線組802に他の直流モータは接続されていない。
【0058】
また、Hブリッジ回路67の片側のレッグは第1系統の三相インバータ回路681のU1相レッグと共有されている。このように回路構成例3では、二系統の三相インバータ回路681、682とHブリッジ回路67とが「統合電力変換回路660」をなしている。制御部30は、統合電力変換回路660を総合的に動作させる。
【0059】
[アクチュエータの駆動制御]
次に図7を参照し、操舵アシストアクチュエータ800及びロックアクチュエータ710の駆動制御について説明する。図1図2の説明でも触れた通り、制御部30は、車速センサ14から車速Vを取得し、トルクセンサ94から操舵トルクTsを取得する。また制御部30は、操舵角(相当)θsを取得する。制御部30は、車速V及び操舵トルクTsに基づき、「第1の回路」である三相インバータ回路68を操作して操舵アシストアクチュエータ800の動作を制御する。
【0060】
制御部30は、三相インバータ回路68の動作中に、操舵角(相当)θsに応じてHブリッジ回路67によりロックアクチュエータ710に通電し、ロック装置20を動作させる。ロック装置20の動作によりドライバによるステアリングの回転が機械的に規制される。次に、ロック装置20の機械的構成及び作用効果について説明する。
【0061】
[ロック装置の機械的構成]
まず図8図10を参照し、各実施形態に共通するロック装置20の全体構成について説明する。図8に示すように、ロック装置20は可動部21と被係止体25とを有する。可動部21は、ロックアクチュエータ710により往復移動する。被係止体25は、例えばステアリングホイール91と同軸に回転可能に設けられている。
【0062】
被係止体25は、一つ以上の凸部27及び一つ以上の凹部28が周方向に配置され、ステアリングに追従してRs方向に回転する。なお、図8には被係止体25の代表として、第1実施形態の被係止体の形状を図示する。第2、第3実施形態では、被係止体の形状が置き換わる。
【0063】
可動部21の構成例として図8図9には、モータであるロックアクチュエータ710の回転軸Azと、可動部21の回転及び往復移動の軸Axとが直交して配置される例を示す。ロックアクチュエータ710のモータ出力軸715は、回転軸Azを中心としてRz方向に正逆回転する。モータ出力軸715と可動部21のドリブンギア部215とはウォームギアを構成しており、ドリブンギア部215は、モータ出力軸715の回転に伴って回転軸Axを中心としてRx方向に正逆回転する。
【0064】
ドリブンギア部215が回転すると、同軸に固定された雄ねじ部216が回転し、雄ねじ部216と螺合するナット部217がLx方向に往復移動する。ナット部217の先端側には弾性部22を介して棒状の突起23が連結されている。突起23に外力が作用しない状態では、突起23はナット部217と共にLx方向に往復移動する。
【0065】
弾性部22は、コイルばね等で構成され、弾性力により突起23をナット部217から離れる方向に付勢する。したがって、突起23をナット部217側に押す外力が作用したとき弾性部22は圧縮される。なお、突起23が弾性部22を介して軸Ax上を直進するように案内するガイド構造等の図示を省略する。
【0066】
被係止体25の回転軸Oは、可動部21の軸Axの延長線に直交するように配置されている。被係止体25の回転位置に応じて、凸部27又は凹部28の径方向外壁が突起23の先端面に対向する。ここで、突起23が被係止体25に近づくことを前進、突起23が被係止体25から遠ざかることを後退と定義する。つまり上述の弾性部22は、弾性力により突起23を前進方向に付勢する。制御部30は、Hブリッジ回路67によりロックアクチュエータ710に通電して可動部210に形成された突起23を被係止体25に対して前進又は後退させる。
【0067】
突起23が前進したとき、突起23が被係止体25の凸部27もしくは凹部28に当接する、又は、突起23が隣接する凸部27同士の間もしくは凹部28に嵌入する「ロック状態」となる。なお、「隣接する凸部27同士の間」と「凹部28」とは、実質的にほぼ同じ意味であるが、後述のように凸部27及び凹部28の解釈の違いを考慮して二通りの表現を併記する。このとき、少なくともエンドに向かう方向のステアリングホイール91の回転が機械的に規制される。突起23が後退したとき、突起23が被係止体25から離間する「解除状態」となる。このとき、ステアリングホイール91は自由に回転可能となる。
【0068】
図10のフローチャートに、制御部30によるロック装置20の動作制御を示す。記号「S」はステップを示す。S1で制御部30は、操舵角θsを取得する。上述の通り操舵角θsは、「操舵角相当」を意味し、操舵角センサの検出値や操舵アシストアクチュエータ800の回転角から演算された値等を含む。図8に参照されるように操舵角θsは、ステアリングホイール91の中立位置に対する回転方向に応じて、例えば右回転方向が正、左回転方向が負と定義される。
【0069】
S2で制御部30は、操舵角の絶対値|θs|がエンド近傍に設定された閾値より大きいか判断する。S2でYESと判断された場合、S3で制御部30は、ロック装置20における可動部21の突起23を被係止体25に対して前進させることで、ロック状態とする。S2でNOと判断された場合、S4で制御部30は、可動部21の突起23を被係止体25から後退させることで、解除状態とする。
【0070】
各実施形態のロック装置20は、被係止体25の形状が異なる。以下、各実施形態の被係止体の符号として、「25」に続く3桁目に実施形態の番号を付して区別する。各実施形態の図において可動部21については、突起23のみ、又は、突起23と弾性部22の部分のみを図示する。各実施形態において実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0071】
(第1実施形態)
図11図12を参照し、第1実施形態について説明する。第1実施形態の被係止体251は、回転対称形の一般的な歯車形状を呈している。つまり被係止体251は、基筒部29の周囲に複数の凸部27及び複数の凹部28が周方向に交互に配置されている。
【0072】
本明細では、基筒部29の外周をつなぐ小仮想円φiを基準とする見方により、「凸部27は小仮想円φiから径方向に相対的に突出している」と表現し、「小仮想円φiに沿って形成された凹部28は径方向に相対的に凹んでいる」と表現する。この場合、凸部27と凹部28とを接続する周方向側壁275は、凸部27の外側壁とみなされる。本実施形態の説明では基本的にこの見方を採用する。
【0073】
一方、凸部27の径方向外壁274をつなぐ大仮想円φoを基準とする見方では、「凹部28は大仮想円φoから径方向に相対的に凹んでいる」と表現し、「大仮想円φoに沿って形成された凸部27は径方向に相対的に突出している」と表現することもできる。この場合、凸部27と凹部28とを接続する周方向側壁275は、凹部28の内側壁とみなされる。
【0074】
このように、一般に歯車形状の凸部27と凹部28とは径方向の位置関係において相対的な解釈が可能である。本実施形態の解釈にあたっては、本明細書に直接的に用いられた表現に限らず、見方を変えた場合に用いられる可能性がある表現にも基づいて解釈されるものとする。
【0075】
被係止体251が図の時計回り方向に回転するように操舵されている場合を想定する。この場合、被係止体251の回転方向について時計回り方向を進み方向といい、反時計回り方向を戻し方向という。操舵角θsがエンドに近づいたとき、制御部30が可動部21の突起23を前進させると、突起23が被係止体251の周方向側壁275に当接し、被係止体251の進み方向の回転を制限する。これによりエンドに向かう方向のステアリングホイール91の回転が規制される。
【0076】
このとき、ステアリングホイール91は、エンドから離れる戻し方向には回転可能であることが求められる。そして、突起23の位置から戻し方向に隣接する周方向側壁275までの回転角度範囲が「戻し方向の余裕Mret」となる。切り戻しの操舵を阻害しないため、制御部30は、戻し方向の余裕Mret内で突起23を後退させる必要がある。
【0077】
また、図12(a)に示すように、突起23が前進するタイミングによって、突起23が凸部27の径方向外壁274に当接する可能性がある。このとき、ナット部217の前進に伴って可動部21の弾性部22が圧縮されることで、突起23の破損が防止される。そして、図12(a)の位置から被係止体251が回転し、図12(b)に示すように、突起23と凹部28との位置が一致したとき、弾性部22の付勢力により突起23が前進して、隣接する凸部27同士の間もしくは凹部28に嵌入する。これにより被係止体251がロックされる。
【0078】
(効果)
本実施形態では、制御部30は、「第1の回路」68の動作中に、操舵角(相当)θsに応じて「第2の回路」67によりロックアクチュエータ730に通電し、ロック装置20を動作させる。ここで、ロック装置20はトルクセンサ94よりドライバ側に配置されているため、ロック状態でドライバがトルクを加えてもそのトルクがトルクセンサ94に伝わらない。したがって、トルクセンサ94の検出値に応じて演算される操舵アシストアクチュエータ800の最大出力を下げることができる。よって、ロック装置20のアクチュエータや駆動回路、規制する機械を小型化することができる。
【0079】
本実施形態では、「第1の回路」である三相インバータ回路68、及び「第2の回路」であるHブリッジ回路67は同一の筐体600内に設けられる。これにより、ステアリング装置200を小型化することができ、また、ハーネスやコネクタ等の配線部品を減らすことができる。
【0080】
本実施形態のロック装置20は、ロックアクチュエータ710により往復移動する可動部21により、簡易な構成で、被係止体251の回転を機械的に規制することができる。特に第1実施形態の被係止体251は回転対称形の一般的な歯車形状であり、ステアリングホイール91の中立位置に合わせて回転初期位置を調整する必要がないため、組付けが容易である。
【0081】
(第2実施形態)
次に図13を参照し、第2実施形態について説明する。第1実施形態では「戻し方向の余裕Mret」が小さく、突起23の前進後退に使用できる時間が短い。そのため、可動部21の突起23を高速で移動させるように、制御応答性やロックアクチュエータ710及び可動部21の追従性を高める必要がある。そこで第2実施形態では、「戻し方向の余裕Mret」を大きく確保できる構成とする。
【0082】
第2実施形態の被係止体252は、第1実施形態の被係止体251に対し周方向の一部で凸部が二段構造となっている。つまり、大仮想円φoに沿って周方向に連続して形成された連続凸部270、及び、連続凸部270のさらに径方向外側に突出する外凸部26が形成されている。外凸部26は連続凸部270の周方向略中央に配置されている。また、詳細構造の図示を省略するが、可動部21は、突起23のストロークを少なくとも二段階に切り替えることができるように構成されている。
【0083】
図13(a)に示すように、中立位置付近で可動部21の突起23は、回転軸Oを挟んで外凸部26とは反対側の凹部28に対向している。三相インバータ回路68の停止中、例えば停車中等にステアリングホイール91を中立位置で保持するとき、突起23が前進し、被係止体252の隣接する凸部27同士の間もしくは凹部28に嵌入してロック状態となる。
【0084】
図13(b)に示すように、三相インバータ回路68の動作中、操舵角θsがエンドに近づいたとき、突起23が前進し、被係止体252の外凸部26の周方向側壁265に当接してロック状態となる。このとき、外凸部26を除く一周弱の角度範囲が「戻し方向の余裕Mret」となる。
【0085】
したがって第2実施形態では、「戻し方向の余裕Mret」を大きく確保することができ、突起23の前進後退に使用できる時間が長くなる。よって、制御応答性やロックアクチュエータ710及び可動部21の追従性を下げることができるため、設計自由度が大きくなる。
【0086】
(第3実施形態)
次に図14を参照し、第3実施形態について説明する。第2実施形態では「戻し方向の余裕Mret」が大きくなる反面、突起23のストロークを二段階に切り替える必要があり、可動部21の機構や駆動回路の構成と動かし方が複雑になる。そこで第3実施形態では、第2実施形態を改良し、「戻し方向の余裕Mret」を大きく確保しつつ、突起23のストローク切り替えが不要な構成とする。
【0087】
第3実施形態の被係止体253は、第1実施形態の被係止体251に対し一部の凸部27が取り除かれた歯抜け構造となっている。つまり、一つの孤立凸部27Sから周方向両方に隣接する二つの凸部27までの間に、比較的間隔の長い連続凹部280が形成されている。図14の例では、回転軸Oを挟んで孤立凸部27Sとはちょうど反対側の位置に他の凸部27が設けられているが、孤立凸部27Sとはちょうど反対側の位置に凹部28が形成されるようにしてもよい。
【0088】
図14(a)に示すように、中立位置付近で可動部21の突起23は、回転軸Oを挟んで孤立凸部27Sとはほぼ反対側の凹部28に対向している。三相インバータ回路68の停止中、例えば停車中等にステアリングホイール91を中立位置で保持するとき、突起23が前進し、被係止体253の隣接する凸部27同士の間もしくは凹部28に嵌入してロック状態となる。図14(b)に示すように、操舵角θsがエンドに近づいたとき、突起23が前進し、被係止体253の孤立凸部27Sの周方向側壁275に当接してロック状態となる。このとき、連続凹部280の角度範囲が「戻し方向の余裕Mret」となる。
【0089】
被係止体253の凸部27、27S及び凹部28の周方向位置と可動部21の突起23の位置との相対関係は、ステアリングホイール91の操舵角θsに応じて変化する。ステアリングホイール91が中立位置に近づいたとき、突起23が凹部28に近づく。ステアリングホイール91が中立位置から離れたとき、突起23が孤立凸部27Sに近づく。
【0090】
第3実施形態では、第1実施形態に比べて「戻し方向の余裕Mret」を大きく確保することができ、突起23の前進後退に使用できる時間が長くなるため、制御応答性やロックアクチュエータ710及び可動部21の追従性を下げることができる。また、第2実施形態に比べて突起23のストローク切り替えが不要であるため、構成が簡単になる。
【0091】
(その他の実施形態)
(a)本発明における「操舵量センサ」は、操舵トルクTsを検出するトルクセンサ94に限らず、ドライバのステアリング操舵において発生する何らかの量を検出するものであればよい。つまり、操舵量センサの検出値からドライバがどの程度のステアリング操舵を行ったかを制御部30が認識し、それに応じて操舵アシストアクチュエータ800の動作が制御されればよい。例えば、操舵量センサとして舵角センサが用いられてもよい。
【0092】
(b)ステアリングホイール91の操舵角θsは、上述の通り、操舵角センサの検出値や操舵アシストアクチュエータ800の回転角から演算された値等を含む。その他、操舵角θsは、ラックストロークやタイヤの転舵角等、相関関係を有するどのような相当値が用いられてもよい。また、ドライバが操舵する「ステアリング」には、ステアリングホイール91に限らず、各種形状の操舵桿が含まれる。
【0093】
(c)図15に、図2の変形例に相当するラックタイプEPSシステム901RCを示す。図15のEPSシステム901RCでは、操舵アシストアクチュエータ800及びトルクセンサ94は、図2のEPSシステム901Rと同様にステアリングラックに97に配置される。一方、ロック装置20はステアリングコラム93に配置される。すなわち、ロック装置20はトルクセンサ94よりもドライバ側に配置されており、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0094】
(d)操舵アシストアクチュエータ800は三相モータ等の多相モータに限らず、直流モータやモータ以外のアクチュエータで構成されてもよい。同様にロックアクチュエータ710は、直流モータに限らず、リニアシリンダ等、モータ以外のアクチュエータで構成されてもよい。
【0095】
(e)ロックアクチュエータ710とロック装置20の可動部21との相対配置や動力伝達に関する構成は図8図9に例示されものに限らない。例えばロックアクチュエータ710のモータ出力軸とロック装置20の可動部21の軸とが平行に配置され、平行ギアにより動力伝達されてもよい。或いは、ロックアクチュエータ710がリニアアクチュエータで構成される場合、ロックアクチュエータ710の往復運動出力軸が可動部21の軸に直接連結されてもよい。
【0096】
(f)可動部21の突起23と被係止体25の回転軸Oとの相対配置は図8に例示されたものに限らない。例えば可動部21の軸と被係止体25の回転軸Oとが平行に配置され、突起23が軸方向から凹部28に嵌入してロック状態となるようにしてもよい。
【0097】
(g)図13図14を参照する第2、第3実施形態では、わかりやくするため、ステアリングホイール91が中立位置から略180度又は略540度回転する位置がエンドとなる前提で説明した。しかし、中立位置からエンドまでの回転角度は180度や540度に限定されるものでなく、実施形態の思想に合わせて凸部27や凹部28を配置することで、エンドまでのステアリングホイール91の可動範囲に応じて戻し方向の余裕Mretを大きく確保することができる。
【0098】
(h)図3図5に示した回路構成例に対し、三相モータリレーや直流モータリレーが追加されたり、入力部にLCフィルタ回路が追加されたりしてもよい。また、第1の回路と第2の回路とが共通の電源Btに接続されるのでなく個別の電源に接続されてもよい。回路構成例2、3では、ロックアクチュエータ710以外の直流モータが、ロックアクチュエータ710と同じ相、又は、ロックアクチュエータ710と同一系統の異なる相もしくは別の系統の一相以上に接続されてもよい。
【0099】
本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【0100】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0101】
200・・・ステアリング装置、
20・・・ロック装置、
30・・・制御部、
67・・・Hブリッジ回路(第2の回路)、
68(681、682)・・・三相インバータ回路(第1の回路)、
710・・・ロックアクチュエータ、
800・・・操舵アシストモータ(操舵アシストアクチュエータ)、
91・・・ステアリングホイール(ステアリング)、
94・・・トルクセンサ(操舵量センサ)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15