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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】自動運転車両における乗員拘束装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/08 20060101AFI20231108BHJP
   B60R 21/0134 20060101ALI20231108BHJP
   B60N 2/42 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
B60R21/08 Z
B60R21/08 P
B60R21/0134
B60N2/42
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020084031
(22)【出願日】2020-05-12
(65)【公開番号】P2021178555
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 辰徳
(72)【発明者】
【氏名】松田 貴男
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-076702(JP,A)
【文献】特開2002-225673(JP,A)
【文献】特開2015-199366(JP,A)
【文献】国際公開第2020/217884(WO,A1)
【文献】特公昭49-004177(JP,B1)
【文献】特開平06-183314(JP,A)
【文献】米国特許第06334490(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/00-21/38
B60N 2/427
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動運転車両の車両用シートの側面シェル又はルーフに設けられ、前記自動運転車両の衝突を予知したときに、乗員の前方へ向けて発泡材を噴射する発泡材噴射装置と、
前記側面シェル又は前記ルーフに設けられ、前記自動運転車両の衝突を予知したときに、前記発泡材噴射装置を露出させるために開き、かつ前記発泡材噴射装置から噴射された発泡材が乗員の顔に掛からないように、その顔を保護する防護壁として機能する蓋体と、
を備えた自動運転車両における乗員拘束装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動運転車両における乗員拘束装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車体の複数箇所に設けられた衝突感知センサと各座席に設けられた着座センサとからの信号に基づいて、車体の複数箇所に設けられた発泡弾性体噴射装置を作動させることにより、車室へ発泡弾性体を噴射し、その発泡弾性体によって乗員を車両用シートに拘束する瞬間発泡弾性体利用の乗員保護装置は、従来から知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-183314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自動運転車両においては、乗員が運転操作から解放されるため、シートクッションを後方側へスライドさせて車両用シートをステアリングホイールから離し、シートバックを大きく後傾させた安楽姿勢(以下「リクライニング姿勢」という)のシートポジションで、車両を走行させる場合も想定される。
【0005】
そのため、リクライニング姿勢のシートポジションで、自動運転車両が前面衝突したときには、発泡弾性体噴射装置から噴射された発泡弾性体(発泡材)が、直接乗員の顔に掛かる可能性がある。このように、自動運転車両において、発泡材を用いた乗員拘束装置には、改善の余地がある。
【0006】
そこで、本発明は、乗員がリクライニング姿勢を採っていても、自動運転車両の前面衝突時に、乗員を車両用シートに拘束するために噴射される発泡材が乗員の顔に掛かるのを抑制できる自動運転車両における乗員拘束装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明に係る請求項1に記載の自動運転車両における乗員拘束装置は、自動運転車両の車両用シートの側面シェル又はルーフに設けられ、前記自動運転車両の衝突を予知したときに、乗員の前方へ向けて発泡材を噴射する発泡材噴射装置と、前記側面シェル又は前記ルーフに設けられ、前記自動運転車両の衝突を予知したときに、前記発泡材噴射装置を露出させるために開き、かつ前記発泡材噴射装置から噴射された発泡材が乗員の顔に掛からないように、その顔を保護する防護壁として機能する蓋体と、を備えている。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、自動運転車両の衝突を予知したときに、自動運転車両の車両用シートの側面シェル又はルーフに設けられた蓋体が開き、側面シェル又はルーフに設けられた発泡材噴射装置から、乗員の前方へ向けて発泡材が噴射される。このとき、その蓋体は、発泡材噴射装置から噴射された発泡材が乗員の顔に掛からないように、その顔を保護する防護壁として機能する。したがって、乗員がリクライニング姿勢を採っていても、車両の前面衝突時に、乗員を車両用シートに拘束するために噴射される発泡材が乗員の顔に掛かるのが抑制される。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明によれば、乗員がリクライニング姿勢を採っていても、自動運転車両の前面衝突時に、乗員を車両用シートに拘束するために噴射される発泡材が乗員の顔に掛かるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係る乗員拘束装置を備えた車両用シートを示す側面図である。
図2】第1実施形態に係る乗員拘束装置を備えた車両用シートに設けられたフレーム及び弾性布を示す斜視図である。
図3】(A)フレーム及び弾性布の収納状態の一例を示す側面図である。(B)フレーム及び弾性布の収納状態の別の一例を示す側面図である。
図4】(A)フレームを押し出す押出機構の押出前を示す側面図である。(B)フレームを押し出す押出機構の押出後を示す側面図である。
図5】フレームを移動させる移動機構を示す側面図である。
図6】フレームによるエネルギー吸収機構を示す側面図である。
図7】フレームによるエネルギー吸収機構の第1変形例を示す側面図である。
図8】フレームによるエネルギー吸収機構の第2変形例を示す側面図である。
図9】フレームによるエネルギー吸収機構の第3変形例を示す側面図である。
図10】自動運転車両が前面衝突することを予知したときの第1実施形態に係る乗員拘束装置を備えた車両用シートを示す側面図である。
図11】第1実施形態に係る乗員拘束装置の発泡材噴射装置から発泡材が噴射されたときの状態を拡大して示す平面図である。
図12】第2実施形態に係る乗員拘束装置を備えた自動運転車両を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施の形態について、図面を基に詳細に説明する。なお、説明の便宜上、各図において適宜示す矢印UPを車両用シートの上方向、矢印FRを車両用シートの前方向、矢印RHを車両用シートの右方向とする。したがって、以下の説明で、特記することなく上下、前後、左右の方向を記載した場合は、車両用シートの上下、車両用シートの前後、車両用シートの左右を示すものとする。
【0012】
<第1実施形態>
まず、第1実施形態について説明する。図1に示されるように、第1実施形態に係る乗員拘束装置10は、自動運転車両(図示省略)に備えられている車両用シート20の後述する側面シェル26に設けられている。車両用シート20は、着座乗員Pの脚部及び臀部を支持するシートクッション22と、着座乗員Pの背部を支持するシートバック24と、を有している。
【0013】
車両用シート20は、ステアリングホイール(図示省略)に対して接近及び離間可能なように、シートクッション22が前後方向にスライド可能に構成されている。そして、シートバック24がリクライニング姿勢を採れるように後傾可能に構成されている。また、シートバック24の下側両側部には、シート前方側へ向かって所定の高さで突出する側面視略三角形状の突出部25が形成されており、着座乗員Pの腰部の左右方向への移動が、その突出部25によって規制されるようになっている。
【0014】
また、車両用シート20は、所謂側面シェル付シートとなっており、そのシート幅方向外側には、左右一対の側面シェル26が設けられている。各側面シェル26は、側面視で車両用シート20を覆うことができるような大きさの板状部材であり、シートバック24と共に回動可能に構成されている。つまり、シートバック24側である各側面シェル26の上半分は、シートクッション22側である各側面シェル26の下半分に対して角度(後傾角度)を変更可能に構成されている。
【0015】
したがって、各側面シェル26は、例えば図1に示されるように、シートバック24がリクライニング姿勢を採っているときには、車両用シート20よりも上方側及び前方側へ張り出すような略楕円形状をなすようになっている。なお、以下において、各側面シェル26の形状は、シートバック24がリクライニング姿勢を採っているときの略楕円形状として説明する。
【0016】
図2に示されるように、各側面シェル26の上部側及び前部側の辺縁部における内面には、左右一対のスライドレール28が設けられている。各スライドレール28は、断面略「C」字状に形成されており、各スライドレール28のシート幅方向内側には、それぞれ長手方向に沿った開口溝28Aが形成されている。そして、各開口溝28Aは、各側面シェル26の上半分の上端部から下半分の前端部近傍まで連続するように構成されている。
【0017】
したがって、フレーム30は、各開口溝28Aに沿って各側面シェル26の上端部から前端部近傍(スライドレール28の前端部)まで移動可能になっている。フレーム30は、円柱状に形成されており、その軸方向の長さは、左右のスライドレール28における外側壁28Bの内面同士の間隔と略同一の長さとされている。
【0018】
そして、フレーム30の外径は、スライドレール28の開口溝28Aの幅より若干小さく形成されている。これにより、フレーム30の軸方向両端部30Aが、左右のスライドレール28内から外れることなく、そのスライドレール28内をスライド可能となる構成になっている。
【0019】
また、図2図3(A)に示されるように、左右の側面シェル26の上端部には、弾性布36が巻回された円筒状の回転部材34を回転可能に支持する軸部34Aが、シート幅方向を軸方向として取り付けられて固定されている。弾性布36は、その長手方向の一端部が回転部材34の外周面に取り付けられて固定されており、その回転部材34に巻回された状態で側面シェル26の上端部(着座乗員Pの頭部よりも上方側に位置する上端部)に配置されている。
【0020】
なお、弾性布36は、後述する発泡材が外部へ漏出しないような布で形成されることが好ましいが、発泡材は噴射されると同時に固化するため、ネット(網)状のものであってもよい。また、弾性布36の長手方向の他端部は、フレーム30の外周面に取り付けられて固定されている。また、図3(B)に示されるように、弾性布36は、蛇腹状に折り畳まれて、左右の側面シェル26の上端部に、その長手方向の一端部両側が固定されて収納される構成になっていてもよい。
【0021】
図4に示されるように、左右一対のスライドレール28の上端部には、フレーム30を下方側へ向けて移動させるための押出機構40がそれぞれ設けられている。各押出機構40は、各スライドレール28の上端部からフレーム30の軸方向両端部30Aにそれぞれ接触し、その両端部30Aをスライドレール28に沿って押し出す押出板42と、押出板42を付勢するコイルスプリング44と、押出板42及びコイルスプリング44を収容する筐体38と、を有している。
【0022】
各筐体38は、各スライドレール28内の上端部に固定されている。各押出板42は、筐体38の断面形状よりも若干小さい矩形平板状に形成されており、その表面42Aがフレーム30の軸方向両端部30Aにおける外周面に接触している。そして、各コイルスプリング44は、その一端部が筐体38の内壁面38Aに取り付けられており、その他端部が押出板42の裏面42Bに取り付けられている。
【0023】
また、各スライドレール28には、フレーム30の軸方向両端部30Aを保持するためのストッパー29が設けられている。各ストッパー29は、自動運転車両に設けられた制御部(図示省略)の制御によって解除されるように、公知の機構で構成されており、例えば上端部がヒンジ部29Aとされて回動可能な矩形平板状に形成されている。
【0024】
したがって、図4(A)に示されるように、通常時(制御部が自動運転車両の衝突を予知しないとき)には、フレーム30の軸方向両端部30Aは、各スライドレール28の上端部に設けられたストッパー29によって、コイルスプリング44の付勢力に抗して、そのスライドレール28の上端部に保持される。
【0025】
一方、自動運転車両が前面衝突することを制御部が予知(検知)したときには、その制御部の制御により、各ストッパー29が解除され(各ストッパー29がヒンジ部29Aを中心に回動し)、図4(B)に示されるように、各押出板42がコイルスプリング44の付勢力によって飛び出して、フレーム30の軸方向両端部30Aを押し出すようになっている。
【0026】
そして、フレーム30は、各コイルスプリング44の付勢力(押出時の慣性力)及び自重により、スライドレール28に沿って、そのスライドレール28の前端部(側面シェル26の前端部近傍)まで移動し、図10に示されるように、着座乗員Pの頭部から脛部までを弾性布36で覆うようになっている。
【0027】
なお、フレーム30は、図5に示されるように、ワイヤー46によって引っ張られて移動する構成になっていてもよい。すなわち、フレーム30の軸方向両端部30Aにワイヤー46の一端部を引っ掛け、そのワイヤー46をスライドレール28に沿って配置させる。そして、側面シェル26の前端部に、ワイヤー46の巻取軸(図示省略)と、その巻取軸を回転させるモーター(図示省略)と、を有する巻取装置48を設ける。
【0028】
このような移動機構にすれば、自動運転車両が前面衝突することを制御部が予知(検知)したときには、その制御部の制御により、各ストッパー29が解除されるとともに、モーターが回転駆動されてワイヤー46が巻取装置48の巻取軸に巻き取られるため、フレーム30がスライドレール28に沿って、その前端部まで移動できる。
【0029】
また、図2図5では図示を省略したが、図6(A)に示されるように、フレーム30の外周面における略半分(略半周)には、エネルギー吸収部材(以下「EA材」という)32が、フレーム30のスライドレール28内に配置される両端部30Aを除く長さと略同一の長さで設けられている。EA材32は、例えばウレタンフォーム等の弾性体により所定の厚みで構成されており、フレーム30の外周面における略半分に接着剤等によって貼り付けられている。
【0030】
そして、図6(B)に示されるように、スライドレール28の前端部には、フレーム30によるエネルギー吸収機構50が設けられている。エネルギー吸収機構50は、スライドレール28の前端部に連続して側面シェル26の前端部に設けられた延長レール52で構成されており、この延長レール52は、前方へ向かって(角度を変えて)延在されている。
【0031】
この延長レール52内にフレーム30の軸方向両端部30Aが進入することにより、後述するように、前面衝突時の慣性力で前方側へ移動しようとする乗員Pの下肢(脛部)からEA材32を介してフレーム30に作用する荷重がエネルギー吸収される構成になっている。
【0032】
なお、図6(B)に示される延長レール52の開口溝52Aの幅は、スライドレール28の開口溝28Aの幅と略同一に形成されているが、延長レール52の開口溝52Aの幅は、スライドレール28の開口溝28Aの幅よりも狭く(小さく)なるように形成されていてもよい。すなわち、図7に示されるように、エネルギー吸収機構50を構成する延長レール52は、側面視で略三角形状(先細り形状)に形成されていてもよい。
【0033】
また、図8に示されるように、エネルギー吸収機構50を構成する延長レール52の内部に、開口溝52Aの幅を更に狭くする補助レール54を設けるようにしてもよい。また、図9に示されるように、エネルギー吸収機構50を構成する延長レール52の内部に、ウレタンフォーム等の弾性体56を設けるようにしてもよい。
【0034】
また、図11に示されるように、側面シェル26の上部は、二重壁構造になっており、外側壁26Aと内側壁26Bとの間に空間部Sが形成されている。そして、その空間部Sに自動運転車両の衝突を予知したときに、乗員Pの前方へ向けて発泡材を噴射する発泡材噴射装置60が左右一対で設けられている。
【0035】
各発泡材噴射装置60は、液体状の発泡材が充填されたタンク62と、発泡材を乗員Pの前方側へ噴射する噴出口64と、を有している。発泡材は、噴射と同時に固化する材料で生成されている。また、各噴出口64は、乗員Pの前方側を向いており、通常時には、側面シェル26(内側壁26B)に設けられた蓋体58によってカバーされて、乗員Pから見えないように隠されている。
【0036】
すなわち、側面シェル26を構成する内側壁26Bの一部が蓋体58とされており、各蓋体58は、その後端部がヒンジ部58Aとされて平面視で左右方向に回動可能に構成されている。そして、各蓋体58は、自動運転車両の衝突を予知したときに、制御部によって所定の角度まで開き(ヒンジ部58Aを中心に所定の角度まで回動し)、噴出口64(発泡材噴射装置60)を露出させるようになっている。
【0037】
なお、各蓋体58は、その後端部がヒンジ部58Aとされて左右方向に(乗員Pの顔を覆うことができるような大きさで、その顔の前方側まで)回動するため、発泡材噴射装置60の噴出口64から噴射された発泡材が乗員Pの顔に掛からないように、その顔を保護する防護壁として機能するようになっている。また、この発泡材噴射装置60と蓋体58とによって乗員拘束装置10が構成されている。
【0038】
以上のような構成とされた第1実施形態に係る乗員拘束装置10において、次にその作用について説明する。
【0039】
自動運転車両が自動運転中のとき、車両用シート20に着座している乗員Pは、運転操作から解放される。したがって、その乗員Pは、ステアリングホイールから離間するように、車両用シート20のシートクッション22を後方側へスライドさせ、そのシートバック24をリクライニングさせる(シートバック24を大きく後傾させ、水平に近い状態にする)場合がある(図1参照)。
【0040】
この場合において、制御部が、自動運転車両の前面衝突を予知(検知)すると、各スライドレール28の上端部に設けられている各ストッパー29を解除する(ヒンジ部29Aを中心に回動させる)。すると、各押出板42が各コイルスプリング44の付勢力によって飛び出し、フレーム30の軸方向両端部30Aを押し出す(図4(B)参照)。
【0041】
これにより、フレーム30(両端部30A)がスライドレール28(開口溝28A)に沿って移動を開始し、回転部材34に巻回されている弾性布36を引き出す。すなわち、フレーム30の移動に伴って回転部材34が回転し、弾性布36が引き出される。そして、フレーム30は、その押出時の慣性力及び自重により、スライドレール28に沿って移動しつつ、弾性布36を更に引き出し、スライドレール28の前端部で停止する。
【0042】
このとき、フレーム30は、乗員Pの脛部にまで達するが、そのフレーム30には、EA材32が設けられている。そのため、乗員Pの脛部には、EA材32が当たる。したがって、フレーム30が、スライドレール28の前端部(側面シェル26の前端部近傍)まで移動して乗員Pの脛部にまで達していても、その乗員Pの脛部を傷付けるようなことがない。
【0043】
こうして、シートバック24がリクライニング姿勢とされた車両用シート20に着座している乗員Pの頭部から脛部までの広い範囲が、弾性布36によって覆われる(図10参照)。そして、その直後に、制御部の制御により、蓋体58が開き、発泡材噴射装置60の噴出口64から発泡材が乗員Pの前方側へ噴射される(図11参照)。
【0044】
すなわち、車両用シート20に着座している乗員P(頭部を除く)と弾性布36との間に発泡材が噴射されるとともに、その噴射された発泡材が固化される。したがって、その直後に、自動運転中の自動運転車両が前面衝突して、リクライニング姿勢の乗員Pが慣性力でシート前方側へ移動しようとしても(図10において矢印で示す)、その乗員Pの移動(挙動)が、固化された発泡材(図示省略)によって抑制される。
【0045】
つまり、自動運転中の自動運転車両の前面衝突時に、車両用シート20に着座している乗員Pは、固化された発泡材によって車両用シート20に拘束され、車両用シート20の前方側に配置されている内装部品(例えばステアリングホイール等)との衝突が回避される。しかも、フレーム30は、その乗員Pの脛部にまで達しているため、そのフレーム30により、乗員Pの下肢も車両用シート20に拘束することができる。
【0046】
具体的には、スライドレール28の前端部に設けられているエネルギー吸収機構50を構成する延長レール52(補助レール54又は弾性体56を含む)によってフレーム30の移動が徐々に抑制されることにより、乗員Pの下肢(脛部)からEA材32を介してフレーム30に作用する荷重がエネルギー吸収される。これにより、乗員Pの下肢を車両用シート20に拘束することができる。
【0047】
また、噴出口64が乗員Pの前方側を向いていることから、発泡材は、乗員Pの前方側へ噴射される。そして、蓋体58は、その後端部がヒンジ部58Aとされて回動することから、乗員Pの顔を保護する防護壁として機能する。そのため、乗員Pの顔には、発泡材噴射装置60の噴出口64から噴射された発泡材が掛からないようにすることができる。つまり、乗員Pの顔に発泡材が掛かるリスクを低減させることができ、乗員Pの首から脛部までの広い範囲を、その発泡材で覆うことができる。
【0048】
なお、乗員Pがハンズオフで運転姿勢を採っている場合など、シートバック24がリクライニング姿勢とされていない場合でも、乗員Pがステアリングホイールを把持していなければ、フレーム30は、上記のように移動することができ、発泡材が、乗員Pの首から脛部までの広い範囲を覆うことができる。
【0049】
このように、第1実施形態に係る乗員拘束装置10によれば、自動運転車両の前面衝突時において、車両用シート20(シートバック24)のポジショニングによらずに、乗員Pを車両用シート20に拘束することができ、乗員Pを保護することができる。
【0050】
また、発泡材は、乗員Pの首から脛部までの広い範囲を覆うため、自動運転車両の前面衝突時だけではなく、後面衝突時、側面衝突時等にも、慣性力による乗員Pの移動(挙動)を抑制することができる。つまり、第1実施形態に係る乗員拘束装置10によれば、自動運転車両に対して、あらゆる方向から荷重が加えられても、発泡材及びフレーム30により、乗員Pを車両用シート20に拘束することができ、乗員Pを保護することができる。
【0051】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同等の部位には同じ符号を付して詳細な説明(共通する作用)は適宜省略する。
【0052】
図12に示されるように、第2実施形態に係る乗員拘束装置10は、一人乗り用の小型モビリティとしての自動運転車両12に適用した場合である。具体的には、自動運転車両12のルーフとしてのルーフヘッドライニング14の上方側に発泡材噴射装置60が設けられるとともに、自動運転車両12のインストルメントパネル(以下「インパネ」という)16の裏側(前方側)に発泡材噴射装置70が設けられている。
【0053】
自動運転車両12のルーフヘッドライニング14の一部は、通常時に発泡材噴射装置60の噴出口64を隠す蓋体66とされており、この蓋体66は、車両後方側端部がヒンジ部66Aとされて、車両下方側で、かつ乗員Pの顔の車両前方側まで回動可能になっており、その顔を覆うことができるような大きさに形成されている。したがって、この蓋体66は、発泡材噴射装置60の噴出口64から噴射された発泡材が乗員Pの顔に掛からないように、その顔を保護する防護壁として機能するようになっている。
【0054】
なお、この発泡材噴射装置60から噴射された発泡材は、フロントウインドシールドガラス18と乗員P(頭部及び脛部を除く)との間で固化し、フロントウインドシールドガラス18からの反力を得て、乗員Pの主に上半身を車両用シート20に拘束するようになっている。また、この発泡材噴射装置60と蓋体66とによって乗員拘束装置10が構成されている。
【0055】
また、自動運転車両12のインパネ16の一部は、通常時に発泡材噴射装置70の噴出口72を隠す蓋体68とされており、この蓋体68は、車両下方側端部がヒンジ部68Aとされて、車両下方側へ回動可能になっている。発泡材噴射装置70の噴出口72から噴射された発泡材は、インパネ16と乗員Pの主に脛部との間で固化し、インパネ16からの反力を得て、乗員Pの主に下肢を車両用シート20に拘束するようになっている。
【0056】
一般に、小型モビリティとしての自動運転車両12では、前面衝突時に、自動運転車両12の前部側を変形させることによってエネルギー吸収する(変形ストロークを稼ぐ)ことが難しい。しかしながら、このように、発泡材を噴射して固化させる構成にすれば、自動運転車両12の前面衝突時において、乗員Pが慣性力で移動するスペースを低減させることができる。
【0057】
換言すれば、前面衝突時における自動運転車両12と乗員Pとの相対速度を小さくすることができる。しかも、自動運転車両12が、一人乗り用の小型モビリティであると、二人以上乗車できる一般的な車両の場合に比べて、液体状の発泡材が充填されるタンクの容量が小さくて済む利点がある。
【0058】
以上、本実施形態に係る乗員拘束装置10について、図面を基に説明したが、本実施形態に係る乗員拘束装置10は、図示のものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、適宜設計変更可能なものである。例えば、エネルギー吸収機構50で充分にエネルギー吸収されるのであれば、フレーム30にはEA材32が設けられていなくてもよい。
【符号の説明】
【0059】
10 乗員拘束装置
12 自動運転車両
14 ルーフヘッドライニング(ルーフ)
20 車両用シート
26 側面シェル
58 蓋体
60 発泡材噴射装置
66 蓋体
P 乗員
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12