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特許7380433燃料供給システムの異常診断システム、データ送信装置、異常診断装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】燃料供給システムの異常診断システム、データ送信装置、異常診断装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 37/00 20060101AFI20231108BHJP
   F02D 41/22 20060101ALI20231108BHJP
   F02M 63/00 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
F02M37/00 Z
F02D41/22
F02M63/00 C
F02M63/00 Q
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020100177
(22)【出願日】2020-06-09
(65)【公開番号】P2021195871
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】前田 才夫
(72)【発明者】
【氏名】加藤 夏洋
【審査官】竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-036420(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0217628(US,A1)
【文献】特開2019-143527(JP,A)
【文献】特開2006-258566(JP,A)
【文献】特開2019-196717(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 37/00
F02D 41/22
F02M 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンクから燃料を汲み上げる燃料ポンプと、
前記燃料ポンプから吐出された燃料が流れる燃料パイプと、を備えた燃料供給システムに適用され、
記憶装置と実行装置とを備え、
前記燃料供給システムのメインスイッチがオンにされてからオフにされるまでの1トリップの間における前記燃料パイプ内の最低燃圧と、その最低燃圧が記録されたときの状態を示すデータとを診断用データとして前記記憶装置に記憶し、
前記診断用データには、最低燃圧を記録したときの状態を示すデータとして、前記燃料ポンプの始動からの経過時間が含まれており、
前記実行装置が、前記診断用データを用いて前記燃料パイプ内の燃料圧力の低下に関する故障の箇所を判別して前記燃料供給システムの異常を診断し、
前記実行装置が、前記燃料パイプ内の燃料圧力の低下に関する異常の要因として、前記燃料ポンプのインペラの劣化と、前記燃料パイプに設けられていて前記燃料ポンプから吐出される燃料の流れによって開弁する一方で前記燃料ポンプが停止して燃料の供給が停止すると閉弁するチェック弁の動作不良と、を判別して前記燃料供給システムの異常を診断する
燃料供給システムの異常診断システム。
【請求項2】
燃料タンクから燃料を汲み上げる燃料ポンプと、
前記燃料ポンプから吐出された燃料が流れる燃料パイプと、を備えた燃料供給システムに適用され、
記憶装置と実行装置とを備え、
前記燃料供給システムのメインスイッチがオンにされてからオフにされるまでの1トリップの間における前記燃料パイプ内の最低燃圧と、その最低燃圧が記録されたときの状態を示すデータとを診断用データとして前記記憶装置に記憶し、
前記診断用データには、最低燃圧を記録したときの状態を示すデータとして、前記燃料ポンプの始動からの経過時間が含まれており、
前記実行装置が、前記診断用データを用いて前記燃料パイプ内の燃料圧力の低下に関する故障の箇所を判別して前記燃料供給システムの異常を診断し、
前記実行装置は、前記診断用データに含まれる各種のデータそれぞれをその値の大きさに基づいて区分した領域同士の組み合わせ毎に前記最低燃圧を記録した回数を集計した集計データを用いて前記燃料パイプ内の燃料圧力の低下に関する異常の要因を判別して前記燃料供給システムの異常を診断する
燃料供給システムの異常診断システム。
【請求項3】
前記診断用データには、最低燃圧を記録したときの状態を示すデータとして、燃料の温度が含まれている
請求項2に記載の燃料供給システムの異常診断システム。
【請求項4】
前記実行装置が、前記燃料パイプ内の燃料圧力の低下に関する異常の要因として、前記燃料ポンプのインペラの劣化と、前記燃料パイプに設けられていて前記燃料ポンプから吐出される燃料の流れによって開弁する一方で前記燃料ポンプが停止して燃料の供給が停止すると閉弁するチェック弁の動作不良と、燃料の温度の影響を受けないその他の異常と、を判別して前記燃料供給システムの異常を診断する
請求項3に記載の燃料供給システムの異常診断システム。
【請求項5】
前記記憶装置には、前記集計データに対して前記燃料パイプ内の燃料圧力の低下に関する異常の有無並びに前記異常の要因の種別を示す情報が正解ラベルとして付与された教師データを用いて機械学習した学習済みモデルが記憶されており、
前記実行装置は、前記集計データを入力とし、前記学習済みモデルを用いて前記燃料パイプ内の燃料圧力の低下に関する異常の要因を判別して前記燃料供給システムの異常を診断する
請求項4に記載の燃料供給システムの異常診断システム。
【請求項6】
前記学習済みモデルが、決定木である
請求項5に記載の燃料供給システムの異常診断システム。
【請求項7】
前記記憶装置として、車両に搭載されて前記診断用データを記憶する第1記憶装置と、前記車両とは別の機器に搭載されて前記学習済みモデルが記憶されている第2記憶装置と、を備え、
前記実行装置は、前記第2記憶装置とともに前記車両とは別の機器に搭載されていて前記車両から前記第1記憶装置に記憶されている診断用データを受信して前記集計データを作成し、作成した前記集計データを使って前記第2記憶装置に記憶されている前記学習済みモデルによって前記燃料パイプ内の燃料圧力の低下に関する異常の要因を判別して前記燃料供給システムの異常を診断する
請求項5又は請求項6に記載の燃料供給システムの異常診断システム。
【請求項8】
請求項7に記載の前記異常診断システムを構成するデータ送信装置であり、
車両に搭載され、前記第1記憶装置と、前記診断用データを送信する送信機と、を備えているデータ送信装置。
【請求項9】
請求項7に記載の前記異常診断システムを構成する異常診断装置であり、
車両とは別の機器に搭載され、前記実行装置と、前記第2記憶装置と、前記診断用データを受信する受信機と、を備えている異常診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料供給システムの異常診断システム、データ送信装置、並びに異常診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の燃料供給システムは、ポンプ電圧やポンプ電流、燃料ポンプからの吐出流量を所定の状態に揃えた状態で、目標とする燃料圧力と検出した燃料圧力との差に基づいて設定されるフィードバック補正量を算出する。そして、この燃料供給システムでは、算出されたフィードバック補正量を積算し、フィードバック補正量の積算値が閾値以上であるときに燃料ポンプが劣化した状態であると判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-143527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の燃料供給システムでは、特定の運転状態における燃料圧力のフィードバック制御の補正量の積算値が大きくなるほど燃料ポンプの劣化が進行していると判断している。そのため、特定の条件下のみで起こりやすい現象に起因する燃料圧力の低下などを燃料ポンプの劣化と診断してしまうおそれがある。また、検出した燃料圧力が目標燃料圧力よりも低い状態が継続している場合には、その要因が燃料ポンプの劣化ではなかったとしてもおしなべて燃料ポンプが劣化していると診断されてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決するための燃料供給システムの異常診断システムは、燃料タンクから燃料を汲み上げる燃料ポンプと、前記燃料ポンプから吐出された燃料が流れる燃料パイプと、を備えた燃料供給システムに適用される。この異常診断システムは、記憶装置と実行装置とを備え、前記燃料供給システムのメインスイッチがオンにされてからオフにされるまでの1トリップの間における前記燃料パイプ内の最低燃圧と、その最低燃圧が記録されたときの状態を示すデータとを診断用データとして前記記憶装置に記憶する。そして、前記実行装置が、前記診断用データを用いて前記燃料パイプ内の燃料圧力の低下に関する故障の箇所を判別して前記燃料供給システムの異常を診断する。
【0006】
燃料ポンプを稼働させているときに燃料パイプ内の燃料圧力が低下したときには、燃料供給システムに異常が生じている可能性がある。上記構成によれば、特定の条件下での異常の有無を診断するのではなく、最低燃圧と、最低燃圧が記録されたときの状態を示すデータとに基づいて異常の診断が行われる。そのため、異なる要因による多様な異常を検知し得る。
【0007】
また、最低燃圧を記録したときの状態を示すデータは、異常が生じたと推定されるときの状態を示すデータである。そのため、最低燃圧を記録したときの状態を示すデータを含む診断用データを用いれば、燃料パイプ内の燃料圧力が最低燃圧を記録した要因を推定できる。
【0008】
したがって、診断用データを用いて燃料供給システムの異常を診断する上記構成によれば、異常の有無を診断するだけではなく、燃料パイプ内の燃料圧力の低下に関する故障の箇所を判別することもできる。
【0009】
燃料供給システムの異常診断システムの一態様では、前記診断用データには、最低燃圧を記録したときの状態を示すデータとして、前記燃料ポンプの始動からの経過時間が含まれている。
【0010】
燃料ポンプの始動から最低燃圧が記録されるまでの経過時間は、燃料ポンプの始動開始時期と燃料圧力の低下が生じた時期との関係を示すデータである。上記構成によれば、燃料圧力の低下が燃料ポンプの始動後すぐに生じたのか、始動から暫く経過したときに生じたのかを参照して燃料パイプ内の燃料圧力の低下に関する故障の箇所を判別することができる。
【0011】
燃料供給システムの異常診断システムの一態様では、前記実行装置が、前記燃料パイプ内の燃料圧力の低下に関する異常の要因として、前記燃料ポンプのインペラの劣化と、前記燃料パイプに設けられていて前記燃料ポンプから吐出される燃料の流れによって開弁する一方で前記燃料ポンプが停止して燃料の供給が停止すると閉弁するチェック弁の動作不良と、を判別して前記燃料供給システムの異常を診断する。
【0012】
チェック弁は燃料ポンプが稼働しており燃料ポンプから燃料が吐出されていて燃料パイプ内に燃料ポンプ側から燃料噴射弁側に向かう燃料の流れがあるときに開弁する。チェック弁の動作不良によりチェック弁が適切に開弁しない場合には、燃料圧力の低下が燃料ポンプを始動した直後に生じやすい。これに対して、燃料ポンプのインペラが劣化していると、燃料ポンプを稼働させている間に燃料ポンプのインペラが変形し、インペラがハウジングと干渉して回転しにくくなる。その結果、燃料圧力の低下が生じるようになる。こうしたインペラの劣化による燃料圧力の低下は、チェック弁の動作不良による燃料圧力の低下が生じやすい時間帯よりも後の時間帯に生じやすい。
【0013】
そのため、燃料ポンプの始動からの経過時間が比較的長くなってから最低燃圧が記録されている場合には、チェック弁の動作不良よりもインペラの劣化が燃料圧力の低下の要因である可能性が高い。
【0014】
そのため、上記構成のように、燃料ポンプの始動開始時期と燃料圧力の低下が生じた時期との関係を示すデータを診断用データとして用いれば、燃料ポンプのインペラの劣化と、チェック弁の動作不良と、を判別して前記燃料供給システムの異常を診断することができる。
【0015】
燃料供給システムの異常診断システムの一態様では、前記実行装置は、前記診断用データに含まれる各種のデータそれぞれをその値の大きさに基づいて区分した領域同士の組み合わせ毎に前記最低燃圧を記録した回数を集計した集計データを用いて前記燃料パイプ内の燃料圧力の低下に関する異常の要因を判別して前記燃料供給システムの異常を診断する。
【0016】
上記構成によれば、複数回のトリップにおける診断用データを集計した集計データを用いて診断を行うため、1回のトリップの診断用データのみから診断を行う場合と比較して、より精度の高い診断を行うことができる。
【0017】
燃料供給システムの制御装置の異常診断システムの一態様では、前記診断用データには、最低燃圧を記録したときの状態を示すデータとして、燃料の温度が含まれている。
最低燃圧が記録されたときの燃料温度は、燃料温度と燃料圧力の低下との関係を示すデータである。燃料供給システムに異常が生じて燃料圧力が低下する場合、燃料圧力の低下に対する燃料の温度の影響の度合いは故障が生じている箇所によって異なる。上記構成によれば、燃料圧力の低下が燃料の温度が低いときに生じているのか、燃料の温度が高いときに生じているのかを参照して燃料パイプ内の燃料圧力の低下に関する故障の箇所を判別することができる。
【0018】
燃料供給システムの異常診断システムの一態様では、前記実行装置が、前記燃料パイプ内の燃料圧力の低下に関する異常の要因として、前記燃料ポンプのインペラの劣化と、前記燃料パイプに設けられていて前記燃料ポンプから吐出される燃料の流れによって開弁する一方で前記燃料ポンプが停止して燃料の供給が停止すると閉弁するチェック弁の動作不良と、燃料の温度の影響を受けないその他の異常と、を判別して前記燃料供給システムの異常を診断する。
【0019】
インペラが劣化していると燃料の温度及びインペラの温度の上昇に伴ってインペラが変形し、インペラがハウジングと干渉して燃料圧力が低下しやすくなる。また、チェック弁は燃料の温度が低いほど動作不良を起こしやすい。そのため、上記構成のように、最低燃圧を記録したときの燃料の温度のデータを含む診断用データを集計した集計データを用いて診断を行うことにより、燃料圧力の低下が燃料の温度の影響を受けるインペラの劣化やチェック弁の動作不良であるのか、また、燃料の温度の影響を受けないその他の異常であるのかを診断することができる。
【0020】
なお、燃料の温度の影響を受けないその他の異常には、例えば、燃料パイプの破れなどが含まれる。
燃料供給システムの異常診断システムの一態様では、前記記憶装置には、前記集計データに対して前記燃料パイプ内の燃料圧力の低下に関する異常の有無並びに前記異常の要因の種別を示す情報が正解ラベルとして付与された教師データを用いて機械学習した学習済みモデルが記憶されており、前記実行装置は、前記集計データを入力とし、前記学習済みモデルを用いて前記燃料パイプ内の燃料圧力の低下に関する異常の要因を判別して前記燃料供給システムの異常を診断する。
【0021】
集計データから異常の有無を診断し、異常が生じている場合のその異常の要因の種別を出力するモデルを、機械学習を用いて作成することができる。
機械学習を用いれば、人が気付きにくい特徴を抽出して異常診断を行うことができる可能性がある。また、上記構成のように、診断用データを集計した集計データを入力として用いる学習済みモデルであれば、複数の診断用データそのものを入力とする学習済みモデルを構築する場合と比較して、入力データの量を少なくすることができる。
【0022】
燃料供給システムの異常診断システムの一態様では、前記学習済みモデルが、決定木である。
決定木はニューラルネットワークなどのモデルに比べて、学習済みモデルによる診断の根拠を人が理解しやすい。上記構成によれば、診断結果が導き出された理由を説明しやすい異常診断システムを構築することができる。
【0023】
燃料供給システムの異常診断システムの一態様では、前記記憶装置として、車両に搭載されて前記診断用データを記憶する第1記憶装置と、前記車両とは別の機器に搭載されて前記学習済みモデルが記憶されている第2記憶装置と、を備え、前記実行装置は、前記第2記憶装置とともに前記車両とは別の機器に搭載されていて前記車両から前記第1記憶装置に記憶されている診断用データを受信して前記集計データを作成し、作成した前記集計データを使って前記第2記憶装置に記憶されている前記学習済みモデルによって前記燃料パイプ内の燃料圧力の低下に関する異常の要因を判別して前記燃料供給システムの異常を診断する。
【0024】
こうした構成によれば、集計データの作成や学習済みモデルによる異常の診断などが車両とは別の機器で行われることになる。そのため、車両側の記憶装置の容量の増大や、車両側の演算負荷の増大を抑制することができる。
【0025】
なお、こうした構成の異常診断システムを構成するものとして、車両に搭載され、第1記憶装置と、診断用データを送信する送信機と、を備えているデータ送信装置や車両とは別の機器に搭載され、実行装置と、第2記憶装置と、診断用データを受信する受信機と、を備えている異常診断装置が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施形態の異常診断システムと、同異常診断システムの診断対象である燃料供給システムとの関係を示す模式図。
図2】燃料ポンプにおけるインペラの状態の変化を示す模式図。
図3】最低燃圧と燃料温度との組み合わせに応じて最低燃圧を記録した回数を集計する集計データについて説明する表。
図4】最低燃圧と燃料ポンプ始動からの経過時間との組み合わせに応じて最低燃圧を記録した回数を集計する集計データについて説明する表。
図5】診断処理に用いる決定木。
図6】診断用データの取得にかかるルーチンにおける一連の処理の流れを示すフローチャート。
図7】集計データの更新にかかるルーチンにおける一連の処理の流れを示すフローチャート。
図8】診断処理にかかるルーチンにおける一連の処理の流れを示すフローチャート。
図9】変更例の異常診断システムにおいて診断処理に用いるニューラルネットワーク。
図10】他の変更例の異常診断システムにおいて診断処理に用いる決定木。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、燃料供給システムの異常診断システムの一実施形態について、図1図8を参照して説明する。
図1は、本実施形態の異常診断システムと、異常診断システムが適用される燃料供給システムの構成を示している。本実施形態の異常診断システム600は、車両500に搭載された車載エンジンの燃料供給システム550に適用される。
【0028】
図1に示すように、この異常診断システム600が適用される燃料供給システム550には、燃料タンク51内に設置された燃料ポンプ52と、燃料タンク51外に設置された高圧燃料ポンプ60と、の2つの燃料ポンプが設けられている。燃料ポンプ52は、ブラシレスモータによってインペラを回転させる電動式のポンプである。また、この燃料供給システム550には、筒内燃料噴射弁44とポート燃料噴射弁30とが設けられている。筒内燃料噴射弁44は、エンジンの各気筒に設けられ、気筒内に直接燃料を噴射する。筒内燃料噴射弁44は、燃料の蓄圧容器である高圧側デリバリパイプ71に接続されている。また、ポート燃料噴射弁30は、エンジンの各気筒に繋がる吸気ポート内に燃料を噴射する。ポート燃料噴射弁30は低圧側デリバリパイプ31に接続されている。なお、この燃料供給システム550が搭載されたエンジンは直列4気筒のエンジンであり、高圧側デリバリパイプ71には4つの筒内燃料噴射弁44が接続されている。また、低圧側デリバリパイプ31にも4つのポート燃料噴射弁30が接続されている。
【0029】
そして、この燃料供給システム550には、燃料ポンプ52から高圧燃料ポンプ60及び低圧側デリバリパイプ31に燃料を送る燃料通路である燃料パイプ57と、高圧燃料ポンプ60から高圧側デリバリパイプ71に燃料を送る燃料通路である高圧燃料パイプ72と、が設けられている。なお、燃料パイプ57は、途中で分岐し、一方が高圧燃料ポンプ60に接続されており、もう一方が低圧側デリバリパイプ31に接続されている。
【0030】
低圧側デリバリパイプ31には、燃料パイプ57及び低圧側デリバリパイプ31内の燃料の圧力を検出する燃料圧力センサ131が設置されている。また、高圧側デリバリパイプ71には、内部に蓄えられている燃料の圧力である高圧側燃料圧力を検出する燃料圧力センサ132が設置されている。燃料圧力センサ131,132は大気圧を基準としたゲージ圧で燃料圧力を示す。
【0031】
燃料ポンプ52は、給電に応じて燃料タンク51内の燃料を、上流側フィルタ53を介して吸引して燃料パイプ57に送出する。燃料パイプ57における燃料タンク51の内部に位置する部分には、燃料ポンプ52により燃料パイプ57に送出された燃料の圧力、すなわち燃料パイプ57内の燃料圧力であるフィード圧Pfが既定の開弁圧力を超えたときに開弁して燃料パイプ57から燃料タンク51に燃料をリリーフするリリーフ弁56が設けられている。
【0032】
また、燃料パイプ57におけるリリーフ弁56が設けられている部分よりも上流側の部分には、燃料ポンプ側を下方にして配設され、弁体が下方に位置する弁座に自重で着座しており、燃料ポンプ52から吐出される燃料の流れによって開弁するチェック弁59が設けられている。チェック弁59は、燃料ポンプ52が停止して燃料の供給が停止すると閉弁する。
【0033】
そして、燃料パイプ57は、燃料パイプ57を流れる燃料中の不純物を濾過する下流側フィルタ58と燃料パイプ57内の燃料圧力の脈動を低減するためのパルセーションダンパ61とを介して高圧燃料ポンプ60に接続されている。
【0034】
高圧燃料ポンプ60は、プランジャ62、燃料室63、電磁スピル弁64、チェック弁65及びリリーフ弁66を備えている。プランジャ62は、エンジンのカムシャフト42に設けられたポンプカム67により往復駆動され、その往復駆動に応じて燃料室63の容積を変化させる。燃料室63は、電磁スピル弁64を介して燃料パイプ57に接続されている。
【0035】
電磁スピル弁64は、通電に応じて閉弁して、燃料室63と燃料パイプ57との間の燃料の流通を遮断するとともに、通電の停止に応じて開弁して、燃料室63と燃料パイプ57との間の燃料の流通を許容する。チェック弁65は、燃料室63から高圧側デリバリパイプ71への燃料の吐出を許容する一方、高圧側デリバリパイプ71から燃料室63への燃料の逆流を禁止する。リリーフ弁66は、チェック弁65を迂回する通路に設けられており、高圧側デリバリパイプ71側の圧力が過剰に高くなったときに開弁して燃料室63側への燃料の逆流を許容する。
【0036】
以上のように構成された高圧燃料ポンプ60の燃料の加圧動作について説明する。高圧燃料ポンプ60では、プランジャ62の往復動に応じて燃料室63の容積が変化する。以下の説明では、燃料室63の容積が拡大する方向へのプランジャ62の動作をプランジャ62の下降と記載し、これとは逆に燃料室63の容積が縮小する方向へのプランジャ62の動作をプランジャ62の上昇と記載する。
【0037】
高圧燃料ポンプ60において、電磁スピル弁64が開弁した状態でプランジャ62が下降を開始すると、燃料室63の容積の拡大に伴って、燃料パイプ57から燃料室63に燃料が流入する。プランジャ62が下降から上昇に転じた後も電磁スピル弁64が開弁した状態を維持すると、プランジャ62の下降中に燃料室63に流入した燃料が燃料パイプ57に戻される。プランジャ62の上昇中に電磁スピル弁64を閉弁し、その後にプランジャ62が上昇から下降に転じるまで、電磁スピル弁64の閉弁を維持すると、プランジャ62の上昇に伴う燃料室63の容積の縮小により、燃料室63内の燃料が加圧される。そして、燃料室63内の燃料圧力が高圧燃料パイプ72内の燃料圧力を上回ると、チェック弁65が開弁して、燃料室63内の加圧された燃料が高圧燃料パイプ72に送出される。こうして高圧燃料ポンプ60は、プランジャ62の往復動毎に、燃料パイプ57内の燃料を加圧して高圧燃料パイプ72に送出する。なお、プランジャ62の上昇中における電磁スピル弁64の閉弁時期を変えることで、高圧燃料ポンプ60が加圧動作毎に高圧燃料パイプ72に送出する燃料の量が増減される。
【0038】
こうした燃料供給システム550を備えるエンジンは、制御装置100により制御される。制御装置100は、エンジンの制御装置であり、エンジンの燃料供給システム550の制御も司る。すなわち、制御装置100は燃料供給システム550の制御装置でもある。
【0039】
制御装置100は、各種演算処理を実行する実行装置101と、制御用のプログラムやデータが記憶された記憶装置102と、を備えている。また、制御装置100は、通信ネットワーク400を通じてデータを送信する送信機103と、通信ネットワーク400を通じてデータを受信する受信機104と、を備えている。
【0040】
そして、制御装置100は、実行装置101が記憶装置102に記憶されたプログラムを読み込んで実行することで、燃料供給システム550の制御を含んだエンジンの制御を行っている。
【0041】
なお、制御装置100には、エンジンの運転状態を検出するための各種センサの検出信号が入力されている。図1に示すように、制御装置100には、アクセルポジションセンサ142によって運転者のアクセルの操作量の検出信号が入力され、車速センサ141によって車両の走行速度である車速の検出信号が入力されている。
【0042】
さらに、制御装置100には、他にも各種のセンサの検出信号が入力されている。例えば、図1に示すように、制御装置100には、燃料圧力センサ131,132の他に、エアフロメータ133、クランクポジションセンサ134、カムポジションセンサ135、冷却水温センサ136が接続されている。
【0043】
エアフロメータ133は、エンジンの吸気通路を通じて気筒内に吸入される空気の温度と、吸入される空気の質量である吸入空気量を検出する。クランクポジションセンサ134は、エンジンの出力軸であるクランクシャフトの回転位相の変化に応じたクランク角信号を出力する。制御装置100は、クランクポジションセンサ134から入力されるクランク角信号に基づいて単位時間あたりのクランクシャフトの回転数である機関回転数を算出する。
【0044】
カムポジションセンサ135は、カムシャフト42の回転位相の変化に応じたカム角信号を出力する。冷却水温センサ136は、エンジンの冷却水の温度である冷却水温を検出する。
【0045】
また、制御装置100には、燃料タンク51内の燃料の温度である燃料温度Tfを検出する燃料温度センサ137と、燃料タンク51内の燃料の液面の高さの水準を検知して燃料の残量を示す検出信号を出力する燃料レベルセンサ138と、外気温を検出する外気温センサ139も接続されている。
【0046】
さらに制御装置100には、車両のメインスイッチ140や表示部150も接続されている。表示部150は、車両500に異常が生じたときに異常の発生を乗員に報知するアイコンや文章を表示する。
【0047】
また、制御装置100には、燃料ポンプ52のインペラの単位時間当たりの回転数であるポンプ回転数Npを制御する燃料ポンプ制御装置200が接続されている。燃料ポンプ制御装置200は、制御装置100からの指令に基づき、燃料ポンプ52への供給電力をパルス幅変調により調整することで、ポンプ回転数Npを増減している。なお、燃料ポンプ制御装置200は、燃料ポンプ52に供給されている電流であるポンプ電流Ip、及びポンプ回転数Npの情報を制御装置100に送信している。
【0048】
制御装置100は、エンジン制御の一環として、燃料噴射量制御、燃料圧力可変制御、及びフィード圧制御を実行している。
燃料噴射量制御に際して制御装置100はまず、機関回転数やエンジンの負荷率などのエンジン運転状態に応じて筒内燃料噴射弁44、ポート燃料噴射弁30の燃料噴射量の要求値である要求噴射量をそれぞれ演算する。続いて制御装置100は、要求噴射量分の燃料噴射に要する筒内燃料噴射弁44、ポート燃料噴射弁30の開弁時間をそれぞれ演算する。そして、制御装置100は、演算した開弁時間に相当する期間の間、燃料を噴射すべく各気筒の筒内燃料噴射弁44、ポート燃料噴射弁30を操作する。また、制御装置100は、燃料噴射制御の一環として、アクセルの操作量が「0」になっている減速中などに、燃料の噴射を停止してエンジンの燃焼室への燃料の供給を停止し、燃料消費率の低減を図るフューエルカット制御も行う。なお、制御装置100は、燃料の噴射を停止しているときには燃料ポンプ52の稼働を停止させる。
【0049】
燃料圧力可変制御に際して制御装置100は、エンジンの負荷率などに基づき、高圧側燃料圧力の目標値を算出する。高圧側燃料圧力の目標値は基本的には、エンジンの負荷率が低いときには低い圧力に、エンジンの負荷率が高いときには高い圧力に設定される。そして、制御装置100は、燃料圧力センサ132による高圧側燃料圧力の検出値と高圧側燃料圧力の目標値との偏差を縮小すべく、高圧燃料ポンプ60の燃料送出量を調整する。具体的には、高圧側燃料圧力の検出値が目標値よりも低い場合には、プランジャ62の上昇期間における電磁スピル弁64の閉弁時期を早くして、高圧燃料ポンプ60の燃料送出量を増加させる。また、高圧側燃料圧力の検出値が目標値よりも高いときには、プランジャ62の上昇期間における電磁スピル弁64の閉弁時期を遅くして、高圧燃料ポンプ60の燃料送出量を減少させる。
【0050】
続いて、フィード圧制御の一環として実行する圧力調整処理の詳細を説明する。圧力調整処理は、次の目的で行われる。燃料ポンプ52から送出されて燃料パイプ57を流れる燃料がエンジンの熱を受けて高温となると、燃料パイプ57内にベーパが発生して、高圧側デリバリパイプ71、低圧側デリバリパイプ31への燃料の供給が滞ることがある。燃料の圧力が高いほど、燃料の気化温度は高くなるため、燃料パイプ57でのベーパの発生を防止するには、燃料パイプ57への燃料ポンプ52の燃料送出量を多くしてフィード圧Pfを高くすればよい。しかしながら、燃料送出量を増加させれば、その分、燃料ポンプ52の電力消費量が増えてしまう。そこで、圧力調整処理では、ベーパの発生を防止可能な限りにおいてフィード圧Pfを低い圧力に維持すべく、燃料ポンプ52の燃料吐出量を調整することで、電力消費を抑えつつ、ベーパの発生を防止している。
【0051】
具体的には、制御装置100の実行装置101は、燃料温度センサ137で検出した燃料温度Tfに基づいてフィード圧Pfの目標値である要求フィード圧Pf*を算出する。この制御装置100では、燃料温度Tfに応じて要求フィード圧Pf*を切り替える。制御装置100では、使用が想定される燃料のうち、最も飽和蒸気圧が高くなる燃料を使用した場合であっても要求フィード圧Pf*が、飽和蒸気圧を下回ることがないように、燃料温度Tfが高いときほど、要求フィード圧Pf*を高くする。そして、実行装置101は、燃料噴射量Qfと、要求フィード圧Pf*とに基づいて、ポンプ回転数Npの目標値である要求ポンプ回転数Np*を算出する。
【0052】
なお、燃料噴射量Qfは、燃料噴射量制御を通じて算出された要求噴射量、すなわち筒内燃料噴射弁44に対する要求燃料噴射量とポート燃料噴射弁30に対する要求燃料噴射量との和に基づいて把握できる。
【0053】
制御装置100では、実行装置101が、燃料噴射制御の実行による燃料の消費量を考慮した上で要求フィード圧Pf*を実現するために必要なポンプ回転数Npを、要求ポンプ回転数Np*として算出する。具体的には、実行装置101は、記憶装置102に記憶されている演算マップを参照して要求ポンプ回転数Np*を算出する。この演算マップは、例えば、ガソリンを燃料として使用した実験の結果に基づいて要求ポンプ回転数Np*を算出できるように作成されている。この演算マップでは、要求フィード圧Pf*が高く、燃料噴射量Qfが多いときほど、出力される要求ポンプ回転数Np*が大きくなる。
【0054】
制御装置100の実行装置101は、要求フィード圧Pf*と、燃料圧力センサ131が検出したフィード圧Pfとに基づいて要求ポンプ回転数Np*の補正量ΔNを算出する。具体的には、実行装置101は、フィード圧Pfが要求フィード圧Pf*よりも小さいときには、補正量ΔNを所定量大きくする。一方で、実行装置101は、フィード圧Pfが要求フィード圧Pf*よりも大きいときには、補正量ΔNを所定量小さくする。そして、実行装置101は、算出した補正量ΔNを、要求ポンプ回転数Np*に加算して要求ポンプ回転数Np*を補正する。これにより、燃料ポンプ制御装置200には、補正量ΔNによって補正された後の要求ポンプ回転数Np*が入力される。そして、燃料ポンプ制御装置200は、入力された要求ポンプ回転数Np*を実現するように燃料ポンプ52への供給電力を制御する。
【0055】
要求ポンプ回転数Np*を大きくすると、単位時間当たりに燃料ポンプ52から吐出される燃料の量が増えるため、フィード圧Pfが高くなる。一方で、要求ポンプ回転数Np*を小さくすると、単位時間当たりに燃料ポンプ52から吐出される燃料の量が減るため、フィード圧Pfが低くなる。
【0056】
このように燃料供給システム550では、フィード圧Pfをフィードバック制御している。制御装置100の実行装置101は、こうした圧力調整処理を通じて要求フィード圧Pf*を実現するように燃料ポンプ52への供給電力を制御する。
【0057】
ところで、燃料供給システム550に異常が発生すると、要求フィード圧Pf*を実現することができなくなってしまう。そのため、異常診断システム600では、通信ネットワーク400を介して制御装置100と接続されたサーバ装置300によって燃料供給システム550の情報を収集して燃料供給システム550の異常を診断する。
【0058】
図1に示すように、サーバ装置300は、実行装置301と、制御用のプログラムやデータが記憶された記憶装置302と、を備えている。また、サーバ装置300は、通信ネットワーク400を通じて制御装置100の受信機104にデータを送信する送信機303と、通信ネットワーク400を通じて制御装置100の送信機103から送信されたデータを受信する受信機304とを備えている。
【0059】
なお、燃料供給システム550において異常が発生すると、フィード圧Pfが低下し、フィード圧Pfが要求フィード圧Pf*を下回るようになることがある。異常診断システム600では、こうしたフィード圧Pfの低下を引き起こしている故障の箇所を予め定めた3つの分類の中から判別して燃料供給システム550の異常を診断する。
【0060】
具体的には、この異常診断システム600では、サーバ装置300の実行装置301が、燃料供給システム550において異常が発生しているか否かを診断する。実行装置301は、異常が発生していると診断する場合には、その異常の要因が燃料ポンプ52のインペラの劣化、チェック弁59の動作不良、燃料温度Tfの影響を受けないその他の異常、のいずれであるのかを判別して異常が発生していることを診断する。
【0061】
図2に示すように、燃料ポンプ52は、ハウジング52b内に収容されているインペラ52cをブラシレスモータ52aによって駆動することによって燃料を汲み上げる。インペラ52cは樹脂製であり、燃料が含浸することによって劣化すると温度の上昇とともに変形するようになる。図2に二点鎖線で示すように、インペラ52cが変形して反ってしまうと、インペラ52cがハウジング52bと干渉して回転しにくくなる。その結果、フィード圧Pfの低下が生じるようになる。すなわち、こうしたインペラ52cの劣化によるフィード圧Pfの低下は、燃料温度Tfが高いときに生じやすい。
【0062】
図1に示すように、チェック弁59は燃料ポンプ52の下流に配置されている。このチェック弁59の動作不良によりチェック弁59が適切に開弁しない場合にもフィード圧Pfの低下が発生する。こうしたチェック弁59の動作不良は、燃料温度Tfが低いときや、燃料ポンプ52の稼働が開始された直後に生じやすい。
【0063】
このようにインペラ52cの劣化によるフィード圧Pfの低下や、チェック弁59の動作不良によるフィード圧Pfの低下は、燃料温度Tfの影響を受ける。その一方で、燃料温度Tfが高いか低いかによって発生の頻度の傾向が変化せず、燃料温度Tfの影響を受けず発生する異常もある。異常診断システム600では、燃料供給システム550における燃料圧力の低下の発生頻度を集計し、実行装置301がこうした燃料温度Tfの影響を受けない異常を、その他の異常として分類している。なお、燃料温度Tfの影響を受けないその他の異常には、例えば、燃料パイプ57の破れなどが含まれる。
【0064】
異常診断システム600では、具体的には、車両500に搭載されている制御装置100が、メインスイッチ140がオンにされてからオフにされるまでの1トリップの間におけるフィード圧Pfを監視し、その1トリップの間における最低燃圧と、その最低燃圧が記録されたときの状態を示すデータとを診断用データとして記憶装置102に記憶する。
【0065】
なお、制御装置100はそのトリップにおける最低燃圧が記録されたときの状態を示すデータとして、最低燃圧の値に加え、最低燃圧が記録されたときの燃料温度Tfと、そのトリップにおける燃料ポンプ52の始動から最低燃圧が記録されたときまでの経過時間と、を記憶装置102に記憶する。そして、異常診断システム600では、メインスイッチ140がオフにされて1トリップが終了したときに、制御装置100が、この診断用データを送信機103によってサーバ装置300に送信する。
【0066】
サーバ装置300は、制御装置100から送信された診断用データを受信機304によって受信する。そして、サーバ装置300は、受信した診断用データを記憶装置302に記憶して集計し、診断処理に用いる集計データを作成する。すなわち、サーバ装置300では、実行装置301が、受信機304で診断用データを受信する度に記憶装置302に記憶している集計データを更新する。なお、こうした集計データの作成は、車両500毎、すなわち燃料供給システム550毎に行われる。そして、診断処理は作成された車両500毎に作成された集計データを用いて、車両500毎の燃料供給システム550に対して個別に行われる。
【0067】
異常診断システム600では、図3に示すように最低燃圧と燃料温度Tfとの組み合わせに応じて最低燃圧を記録した回数を集計した第1集計データと、図4に示すように最低燃圧と燃料ポンプ52を始動してからの経過時間との組み合わせに応じて最低燃圧を記録した回数を集計した第2集計データと、を作成している。
【0068】
図3に示すように、異常診断システム600では、第1集計データにおいて、最低燃圧をその値の大きさに応じて「0kPa~99kPa」、「100kPa~199kPa」、「200kPa~299kPa」、「300kPa~」の4つの領域に区分している。また、図3に示すように、異常診断システム600では、第1集計データにおいて、燃料温度Tfをその値の大きさに応じて「第1温度領域temp1」、「第2温度領域temp2」、「第3温度領域temp3」、「第4温度領域temp4」の4つの領域に区分している。なお、「第1温度領域temp1」は、最低燃圧を記録したときの燃料温度Tfが例えば30℃未満である場合に対応する温度領域である。「第2温度領域temp2」は、最低燃圧を記録したときの燃料温度Tfが例えば30℃以上40度未満である場合に対応する温度領域である。「第3温度領域temp3」は、最低燃圧を記録したときの燃料温度Tfが例えば40℃以上50度未満である場合に対応する温度領域である。そして、「第4温度領域temp4」は、最低燃圧を記録したときの燃料温度Tfが例えば50℃以上である場合に対応する温度領域である。
【0069】
図3に示すように、最低燃圧と燃料温度Tfとの組み合わせに応じた第1集計データでは、これら最低燃圧の値の大きさに応じた4つの領域と、燃料温度Tfの値の大きさに応じた4つの領域とを掛け合わせた16の領域に分けて、最低燃圧を記録した回数を集計する。
【0070】
例えば、異常診断システム600では、サーバ装置300が新たに受信した診断用データにおける最低燃圧が300kPa以上であり、最低燃圧を記録したときの燃料温度Tfが45℃であるときには、「temp3d」の領域における回数を1つインクリメントして集計データを更新する。
【0071】
また、図4に示すように、異常診断システム600では、第2集計データにおいて、各トリップにおいて燃料ポンプ52を始動してからの経過時間をその値の大きさに応じて「第1時間領域time1」、「第2時間領域time2」、「第3時間領域time3」、「第4時間領域time4」の4つの領域に区分している。なお、「第1時間領域time1」は、最低燃圧を記録したときの経過時間が例えば10秒未満である場合に対応する時間領域である。そして、「第2時間領域time2」以降の領域は、対応する経過時間の範囲が例えば数十秒ずつ大きな時間領域である。すなわち、「第2時間領域time2」は、最低燃圧を記録したときの経過時間が10秒以上数十秒未満の時間領域であり、「第3時間領域time3」は、「第2時間領域time2」からさらに数十秒後までの範囲に対応する温度領域である。そして、「第4時間領域time4」は、最低燃圧を記録したときの経過時間が「第3時間領域time3」に対応する経過時間よりも長い場合に対応する時間領域である。
【0072】
図4に示すように、最低燃圧と経過時間との組み合わせに応じた第2集計データでは、最低燃圧の値の大きさに応じた4つの領域と、経過時間の値の大きさに応じた4つの領域とを掛け合わせた16の領域に分けて、最低燃圧を記録した回数を集計する。
【0073】
例えば、異常診断システム600では、サーバ装置300が新たに受信した診断用データにおける最低燃圧が250kPaであり、最低燃圧を記録したときの経過時間が15秒であるときには、「time2c」の領域における回数を1つインクリメントして集計データを更新する。
【0074】
サーバ装置300は、診断対象の燃料供給システム550についての診断用データを既定回数受信する度に、集計データを用いてその燃料供給システム550に対する診断処理を行う。なお、既定回数は例えば数十から百数十回である。すなわち、異常診断システム600では、車両500におけるトリップ数が数十から百数十トリップに達する度にその車両500における燃料供給システム550の異常診断を行う。
【0075】
具体的には、サーバ装置300は、まだ診断処理に反映されていない診断用データを既定回数受信すると、第1集計データ及び第2集計データを入力データに成形する。そして、サーバ装置300は、成形した入力データを、機械学習によって生成した学習済みモデルに入力し、学習済みモデルを用いて燃料供給システム550の診断処理を実行する。
【0076】
なお、図5に示すように、異常診断システム600における学習済みモデルは、決定木であり、予め記憶装置302に記憶されている。この学習済みモデルは、集計データにおける各領域に格納されている発生回数をそれまでに集計した診断用データの総数で割った発生割合に変換した入力データに、正解ラベルが付与された教師データを用いて機械学習した学習済みモデルである。なお、正解ラベルは、フィード圧Pfの低下に関する異常の有無並びに異常の要因の種別を示す情報である。具体的には、教師データには、異常がないことを示す「正常」、インペラ52cの劣化であることを示す「インペラ」、チェック弁59の動作不良であることを示す「チェック弁」、燃料温度Tfの影響を受けないその他の異常であることを示す「その他」のいずれかのラベルが付与されている。
【0077】
すなわち、入力データは、第1集計データにおける16個の各領域において最低燃圧を記録した回数の割合をそれぞれ示す16個の数値と、第2集計データにおける16個の各領域において最低燃圧を記録した回数の割合をそれぞれ示す16個の数値と、からなる32個の数値で構成されている。そして、教師データは、これら32個の値に、上記の4つのラベルのうち何れかのラベルを示す1つの値を加えた、37個の値で構成されている。
【0078】
学習済みモデルの生成、すなわち学習は、コンピュータに教師データの集合であるデータセットを入力して行う。コンピュータは決定木の学習に用いる一般的なアルゴリズムを用いて、入力されたデータセットを用いて、欲張り法で探索を重ね、より情報獲得量が多い分岐が木の上位に配置されるように決定木を生成する。サーバ装置300の記憶装置302には、こうして予め学習を行うことによって生成された決定木が学習済みモデルとして記憶されている。
【0079】
図5に示すように、異常診断システム600の記憶装置302に記憶されている決定木は、入力データに含まれる数値についてその数値が閾値を超えているか否かによって分岐するノードと、診断結果を示すリーフによって構成されている。
【0080】
この決定木では、まず、ノードN100において、入力データにおける「temp2d」の値が閾値X1よりも大きいか否かが実行装置301によって判定される。入力データにおける「temp2d」の値が閾値X1より大きい場合には、ノードN111へと進み、実行装置301によって入力データにおける「temp1c」の値が閾値X2よりも大きいか否かが判定される。なお、閾値X2は閾値X1よりも小さい値になっている。
【0081】
ノードN111において入力データにおける「temp1c」の値が閾値X2よりも大きいと判定された場合には、リーフN123へと進み、実行装置301によってチェック弁59の動作不良が生じているとの診断が下される。
【0082】
一方、ノードN111において入力データにおける「temp1c」の値が閾値X2以下であると判定された場合には、リーフN122へと進み、実行装置301によって燃料供給システム550は正常であるとの診断が下される。
【0083】
なお、ノードN100において入力データにおける「temp2d」の値が閾値X1以下であると判定された場合には、ノードN110へと進み、実行装置301によって入力データにおける「time4c」の値が閾値X3より大きいか否かが判定される。なお、閾値X3の値は閾値X2よりも小さい値になっている。
【0084】
ノードN110において入力データにおける「time4c」の値が閾値X3以下であると判定された場合には、リーフN120へと進み、実行装置301によってチェック弁59の動作不良が生じているとの診断が下される。
【0085】
一方で、ノードN110において入力データにおける「time4c」の値が閾値X3よりも大きいと判定された場合には、ノードN121へと進み、実行装置301によって入力データにおける「temp1b」の値が閾値X4より大きいか否かが判定される。なお、閾値X4の値は閾値X3よりも小さい値になっている。
【0086】
ノードN121において入力データにおける「temp1b」の値が閾値X4よりも大きいと判定された場合には、リーフN131へと進み、実行装置301によって燃料温度Tfに影響を受けないその他の異常が発生しているとの診断が下される。
【0087】
一方、ノードN121において入力データにおける「temp1b」の値が閾値X4以下であると判定された場合には、リーフN130へと進み、実行装置301によってインペラ52cの劣化が発生しているとの診断が下される。
【0088】
このように、異常診断システム600では、車両500に搭載された制御装置100によって取得した診断用データが通信ネットワーク400を介してサーバ装置300に送信される。サーバ装置300は診断用データを集計した集計データを用いて入力データを作成し、記憶装置302に記憶されている学習済みモデルである決定木を用いて燃料供給システム550の異常を診断する。すなわち、この異常診断システム600では、通信ネットワーク400を介して接続された制御装置100とサーバ装置300とが異常診断システム600を構成している。
【0089】
次に、図6図8を参照して上記の異常診断を実現するために異常診断システム600における制御装置100とサーバ装置300において実行されるルーチンの内容を説明する。
【0090】
図6に示すルーチンは、車両500に搭載されている制御装置100の実行装置101によって実行される診断用データの取得にかかるルーチンを示している。このルーチンは、メインスイッチ140がオンにされて燃料ポンプ52が始動してから既定のマスク時間が経過していることを条件に、燃料ポンプ52が稼働している間に実行装置101によって繰り替えし実行される。なお、マスク時間は、異常の生じていない新品の状態の燃料供給システム550においてフィード圧Pfが300kPa以上の既定の水準に到達するのに要する時間にあわせて設定されている。
【0091】
マスク時間が経過し、このルーチンを開始すると、実行装置101は、燃料圧力センサ131によって検出した燃料パイプ57内の燃料圧力、すなわちフィード圧Pfを取得する。そして、次のステップS110において、実行装置101は、取得した燃料圧力であるフィード圧Pfが同一トリップにおいて取得したフィード圧Pfのうち最も低い圧力である最低燃圧未満であるか否かを判定する。なお、後述するように最低燃圧は記憶装置102に記憶される。メインスイッチ140がオンになってから初めてこのステップS110の処理を実行したときには、記憶装置102に最低燃圧が記録されていないため、このステップS110の処理では肯定判定がなされる。
【0092】
ステップS110の処理において、フィード圧Pfが最低燃圧未満であると判定した場合(ステップS110:YES)には、実行装置101は処理をステップS120へと進める。そして、実行装置101は、ステップS120の処理において最低燃圧の値を更新する。すなわち、実行装置101は、ステップS100の処理を通じて取得した最新のフィード圧Pfの値を新たな最低燃圧として記憶装置102に記憶させる。
【0093】
こうして最低燃圧を記憶させると、実行装置101は次のステップS130の処理において燃料ポンプ52を始動させてからの経過時間を更新する。すなわち実行装置101は、このときの経過時間を新たな経過時間として記憶装置102に記憶させる。
【0094】
次に、実行装置101は、処理をステップS130へと進め、診断用データとして記録する燃料温度Tfを更新する。すなわち、実行装置101はこのときの燃料温度Tfを新たな燃料温度Tfとして記憶装置102に記憶させる。こうして最低燃圧と、最低燃圧を記録したときの経過時間と、最低燃圧を記録したときの燃料温度Tfを診断用データとして記憶装置102に記憶させると、実行装置101はこのルーチンを一旦終了させる。
【0095】
一方で、ステップS110の処理において、フィード圧Pfが最低燃圧以上であると判定した場合(ステップS110:NO)には、実行装置101は、ステップS120~ステップS140の処理を実行せずにそのままこのルーチンを一旦終了させる。
【0096】
このように、制御装置100では、実行装置101がこのルーチンを繰り返し実行することにより1トリップの間の最低燃圧と、最低燃圧を記録したときの経過時間及び燃料温度Tfを診断用データとして記憶装置102に記憶させる。そして、制御装置100では、メインスイッチ140がオフにされてそのトリップが終了するときに、実行装置101が、記憶装置102に記憶されている診断用データを送信機103に送信させる。
【0097】
こうして制御装置100の送信機103から送信された診断用データを受信するとサーバ装置300の実行装置301は、図7に示すルーチンを実行する。このルーチンを開始すると、実行装置301は、まずステップS200の処理において、記憶装置302に記憶されている第1集計データを更新する。図3を参照して上述したように第1集計データは最低燃圧と燃料温度Tfとの組み合わせに応じて最低燃圧を記録した回数を集計したデータである。このステップS200の処理では、実行装置301は、今回受信した診断用データに基づいて第1集計データにおける対応する領域の回数を1つインクリメントさせる。
【0098】
例えば、受信した診断用データにおける最低燃圧の値が240kPaであり、経過時間が15秒であり、燃料温度Tfが35℃である場合には、実行装置301は、このステップS200の処理において第1集計データの「temp2c」における回数を1つインクリメントして第1集計データを更新する。
【0099】
次に処理をステップS210へと進め、実行装置301は、ステップS210の処理において、記憶装置302に記憶されている第2集計データを更新する。図4を参照して上述したように第2集計データは最低燃圧と最低燃圧を記録したときの経過時間との組み合わせに応じて最低燃圧を記録した回数を集計したデータである。このステップS210の処理では、実行装置301は、今回受信した診断用データに基づいて第2集計データにおける対応する領域の回数を1つインクリメントさせる。
【0100】
例えば、受信した診断用データにおける最低燃圧の値が240kPaであり、経過時間が15秒であり、燃料温度Tfが35℃である場合には、実行装置301は、このステップS210の処理において第1集計データの「time2c」における回数を1つインクリメントして第2集計データを更新する。こうして第2集計データを更新すると、実行装置301はこのルーチンを終了させる。サーバ装置300では、診断用データを受信する度にこうして集計データを更新する。
【0101】
次に、図8を参照してサーバ装置300において実行する診断処理にかかるルーチンについて説明する。上述したように、サーバ装置300は、診断対象の燃料供給システム550についての診断用データを既定回数受信する度に診断処理を行う。
【0102】
具体的には、診断用データを既定回数受信するとサーバ装置300の実行装置301がこのルーチンを実行して診断処理を実行する。実行装置301は、このルーチンを開始するとまず、ステップS300の処理において第1集計データ及び第2集計データにおける回数の値を割合に変換する。つまり、実行装置301は、記憶装置302に記憶されている集計データにおける各領域に格納されている最低燃圧の発生回数をそれまでに集計した診断用データの総数で割った発生割合に変換した集計データを作成する。例えば、既定回数が100回であり、このルーチンを実行しているときに集計されている診断用データの総数が200回である場合には、第1集計データ及び第2集計データのそれぞれには200回分の発生回数が格納されていることになる。この場合には、実行装置301は、各領域に格納されている発生回数を「200」で割った商である発生割合を算出し、各領域における発生割合が格納された集計データを作成する。
【0103】
こうして、集計データにおける発生回数を割合に変換すると、処理をステップS310へと進め、ステップS310の処理において実行装置301は、割合が格納されている集計データを入力データに成形する。なお、入力データは図5を参照して説明した記憶装置302に記憶されている学習済みモデルに入力するデータである。
【0104】
このステップS310の処理では、実行装置301は、割合に変換した第1集計データ及び第2集計データの各領域の値からなる32個の数値の集合を1つの入力データに成形する。
【0105】
次に、実行装置301は、処理をステップS320へと進め、成形した入力データを記憶装置302に記憶されている学習済みモデルに入力して診断処理を実行する。そして、次のステップS330の処理において、実行装置301は、学習済みモデルを用いて診断した診断結果を送信機303によって診断対象の燃料供給システム550を搭載した車両500に送信する。こうして診断結果を送信すると、実行装置301はこのルーチンを終了させる。
【0106】
このように、異常診断システム600では、車両500に搭載された制御装置100が、診断用データを記憶する記憶装置102と、診断用データを送信する送信機103と、を備えており、データ送信装置になっている。また、サーバ装置300が、診断処理を行う実行装置301と、学習済みのモデルが記憶された記憶装置302と、診断用データを受信する受信機304とを備えており、異常診断装置になっている。
【0107】
なお、受信機104で診断結果を受信すると、制御装置100の実行装置101は、診断結果に応じて表示部150を操作する。受信した診断結果がインペラの劣化が発生していることを示すものであった場合には、実行装置101は表示部150に燃料ポンプ52に異常が生じていることを示す情報を表示させる。一方で、受信した診断結果がチェック弁59の動作不良が生じていることを示すものであった場合には、実行装置101は表示部150にチェック弁59に異常が生じていることを示す情報を表示させる。また、受信した診断結果がその他の異常であることを示すものであった場合には、実行装置101は燃料供給システムに異常が発生していることを示す情報を表示させる。そして、診断結果が正常であることを示すものである場合には、実行装置101は表示部150を特に操作しない。
【0108】
本実施形態の作用について説明する。
燃料ポンプ52を稼働させているときに燃料パイプ57内の燃料圧力が低下したときには、燃料供給システム550に異常が生じている可能性がある。上記実施形態の異常診断システム600では、特定の条件下での異常の有無を診断するのではなく、最低燃圧と、最低燃圧が記録されたときの状態を示すデータとに基づいて異常の診断が行われる。そのため、異なる要因による多様な異常を検知し得る。
【0109】
また、最低燃圧を記録したときの状態を示すデータは、異常が生じたと推定されるときの状態を示すデータである。そのため、最低燃圧を記録したときの状態を示すデータを含む診断用データを用いれば、燃料パイプ57内の燃料圧力が最低燃圧を記録した要因を推定できる。
【0110】
本実施形態の効果について説明する。
(1)診断用データを用いて燃料供給システム550の異常を診断する上記の実施形態によれば、異常の有無を診断するだけではなく、燃料パイプ57内の燃料圧力の低下に関する故障の箇所を判別することができる。
【0111】
(2)診断用データには、最低燃圧を記録したときの状態を示すデータとして、燃料ポンプ52の始動からの経過時間が含まれている。燃料ポンプ52の始動から最低燃圧が記録されるまでの経過時間は、燃料ポンプ52の始動開始時期と燃料圧力の低下が生じた時期との関係を示すデータである。上記実施形態によれば、燃料圧力の低下が燃料ポンプ52の始動後すぐに生じたのか、始動から暫く経過したときに生じたのかを参照して燃料パイプ57内の燃料圧力の低下に関する故障の箇所を判別することができる。
【0112】
(3)チェック弁59は燃料ポンプ52が稼働しており燃料ポンプ52から燃料が吐出されていて燃料パイプ57内に燃料ポンプ52側から筒内燃料噴射弁44、ポート燃料噴射弁30側に向かう燃料の流れがあるときに開弁する。チェック弁59の動作不良によりチェック弁59が適切に開弁しない場合には、燃料圧力の低下が燃料ポンプ52を始動した直後に生じやすい。これに対して、燃料ポンプ52のインペラ52cが劣化していると、燃料ポンプ52を稼働させている間にインペラ52cが変形し、インペラ52cがハウジング52bと干渉して回転しにくくなる。その結果、燃料圧力の低下が生じるようになる。こうしたインペラ52cの劣化による燃料圧力の低下は、チェック弁59の動作不良による燃料圧力の低下が生じやすい時間帯よりも後の時間帯に生じやすい。
【0113】
そのため、燃料ポンプ52の始動からの経過時間が比較的長くなってから最低燃圧が記録されている場合には、チェック弁59の動作不良よりもインペラ52cの劣化が燃料圧力の低下の要因である可能性が高い。
【0114】
そのため、上記構成のように、燃料ポンプ52の始動開始時期と燃料圧力の低下が生じた時期との関係を示すデータを診断用データとして用いれば、燃料ポンプ52のインペラ52cの劣化と、チェック弁59の動作不良と、を判別して燃料供給システム550の異常を診断することができる。
【0115】
(4)上記の異常診断システム600によれば、複数回のトリップにおける診断用データを集計した集計データを用いて診断を行うため、1回のトリップの診断用データのみから診断を行う場合と比較して、より精度の高い診断を行うことができる。
【0116】
(5)最低燃圧が記録されたときの燃料温度Tfは、燃料温度Tfと燃料圧力の低下との関係を示すデータである。燃料供給システム550に異常が生じて燃料圧力が低下する場合、燃料圧力の低下に対する燃料の温度の影響の度合いは故障が生じている箇所によって異なる。上記の異常診断システム600によれば、燃料圧力の低下が燃料の温度が低いときに生じているのか、燃料の温度が高いときに生じているのかを参照して燃料パイプ57内の燃料圧力の低下に関する故障の箇所を判別することができる。
【0117】
(6)インペラ52cが劣化していると燃料の温度及びインペラ52cの温度の上昇に伴ってインペラ52cが変形し、インペラ52cがハウジング52bと干渉して燃料圧力が低下しやすくなる。また、チェック弁59は燃料の温度が低いほど動作不良を起こしやすい。そのため、上記のように、最低燃圧を記録したときの燃料の温度のデータを含む診断用データを集計した集計データを用いて診断を行うことにより、燃料圧力の低下が燃料の温度の影響を受けるインペラ52cの劣化やチェック弁59の動作不良であるのか、また、燃料の温度の影響を受けないその他の異常であるのかを診断することができる。
【0118】
(7)集計データから異常の有無を診断し、異常が生じている場合のその異常の要因の種別を出力するモデルを、機械学習を用いて作成することができる。
機械学習を用いれば、人が気付きにくい特徴を抽出して異常診断を行うことができる。また、上記の異常診断システム600のように、診断用データを集計した集計データを入力として用いる学習済みモデルであれば、複数の診断用データそのものを入力とする学習済みモデルを構築する場合と比較して、入力データの量を少なくすることができる。
【0119】
(8)決定木はニューラルネットワークなどのモデルに比べて、学習済みモデルによる診断の根拠を人が理解しやすい。上記の異常診断システム600によれば、診断結果が導き出された理由を説明しやすい異常診断システム600を構築することができる。
【0120】
(9)異常診断システム600では、記憶装置として、車両500に搭載されて診断用データを記憶する記憶装置102と、車両500とは別の機器であるサーバ装置300に搭載されて学習済みモデルが記憶されている記憶装置302と、が設けられている。すなわち、異常診断システム600は、車両500側に搭載された第1記憶装置としての記憶装置102と、サーバ装置300側に搭載された第2記憶装置としての記憶装置302と、を備えている。
【0121】
そして、記憶装置302とともにサーバ装置300に搭載されている実行装置301が、車両500から記憶装置102に記憶されている診断用データを受信して集計データを作成する。そして、実行装置301は、作成した集計データを使って記憶装置302に記憶されている学習済みモデルによって燃料パイプ57内の燃料圧力の低下に関する異常の要因を判別して前記燃料供給システム550の異常を診断する。
【0122】
こうした構成によれば、集計データの作成や学習済みモデルによる異常の診断などが車両500とは別のサーバ装置300で行われることになる。そのため、車両500側の記憶装置302の容量の増大や、車両500側の演算負荷の増大を抑制することができる。
【0123】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記の異常診断システム600では、学習済みモデルが決定木である例を示したが、診断処理に使用する学習済みモデルは必ずしも決定木でなくてもよい。例えば、診断処理に使用する学習済みモデルは、複数の決定木の多数決によって診断結果を決定するランダムフォレストであってもよい。また、診断処理に使用する学習済みモデルは、図9に示すようなニューラルネットワークであってもよい。
【0124】
図9に示す例では、第1集計データにおける各領域での発生回数を割合に変換した値と、第2集計データにおける各領域での発生回数を割合に変換した値とを入力する32個のノード(ノードN01~ノードN32)からなる入力層を備えている。そしてこのニューラルネットワークは、4個のノード(ノードN41~ノードN44)からなる中間層と、4個のノード(ノードN51~ノードN54)からなる出力層と、を備えている。
【0125】
図9に示すニューラルネットワークでは、中間層の活性化関数はシグモイド関数である。中間層への入力は、入力層への32個の入力値のそれぞれに重みを乗じた値の和として算出される。そして、出力層には、中間層における各ノード(ノードN41~ノードN44)の出力値のそれぞれに重みを乗じた値の和が入力される。そして、これら出力層への入力値は、ソフトマックス層である出力層に入力されて、各ノード(ノードN51~ノードN54)に対応する出力値に変換される。出力層の各ノード(ノードN51~ノードN54)の出力値の和は「1」であり、それぞれの出力値は、「1」に対する割合を表している。出力層の各ノード(ノードN51~ノードN54)は、診断処理を通じて出力する診断結果のそれぞれに対応している。なお、診断結果の種類は上記実施形態と同様である。例えば、ノードN51は「正常」に対応しており、ノードN52は「インペラの劣化」に対応している。そして、ノードN53は「チェック弁59の動作不良」に対応しており、ノードN54は「その他の異常」に対応している。すなわち、出力層では、「正常」、「インペラの劣化」、「チェック弁59の動作不良」、「その他の異常」の4つの診断結果に該当する確率を出力する。
【0126】
こうしたニューラルネットワークに上記の実施形態と同様の教師データを入力することによって教師有り学習を行えば、上記の実施形態と同様の入力によって、上記の実施形態と同様に燃料供給システム550の異常を診断することのできる学習済みモデルを生成することができる。
【0127】
なお、図9に示すニューラルネットワークは、1層のみの中間層を備えているが、中間層の数は、2層以上の任意の個数とすることができ、また、中間層のノードの数も任意の個数にすることができる。
【0128】
・上記の実施形態では、機械学習によって学習した学習済みモデルを用いて異常診断を行う例を示したが、必ずしも機械学習によって学習した学習済みモデルを用いる必要はない。例えば、実験と検証を繰り返すことによって、分岐の閾値を見出し、上記実施形態の決定木のようなモデルを構築することも考えられる。
【0129】
・また、上記の実施形態では、既定回数分のトリップのデータを集計した集計データに基づいて1回の異常診断を行う例を示したが、最低燃圧と、最低燃圧を記録したときの情報とに基づいて1トリップ毎に異常診断を行うこともできる。
【0130】
・診断用データに最低燃圧を記録したときの燃料温度Tfが含まれている例を示したが、診断用データに燃料温度Tfを含めずに、異常診断を行う構成を採用することもできる。
【0131】
例えば、図10に示す決定木は、第2集計データのみに基づいて診断処理を行う決定木の例である。この決定木は、第2集計データと正解のラベルとの17個の値からなる教師データを用いて教師有り学習を行うことにより生成することができる。なお、第2集計データには燃料温度Tfについての情報が含まれていないため、この決定木では、燃料温度Tfによる影響の有無が考慮されない。そのため、この決定木の出力には上記の実施形態における「その他の異常」に対応する出力は行われない。すなわち、教師データにおけるラベルは、「正常」、「インペラ」、「チェック弁」の3種類であり、決定木が出力する診断結果は、「正常」、「インペラの劣化」、「チェック弁の動作不良」の3種類である。
【0132】
図10に示すように、この決定木では、まず、ノードN200において入力データにおける「time1c」が閾値Y1よりも大きいか否かが実行装置301によって判定される。入力データにおける「time1c」が閾値Y1以下である場合には、リーフN210へと進み、実行装置301によって正常であるとの診断が下される。
【0133】
一方で、入力データにおける「time1c」が閾値Y1より大きい場合には、ノードN211へと進み、実行装置301によって入力データにおける「time4c」が閾値Y2より大きいか否かが判定される。なお、閾値Y2は閾値Y1よりも小さい値になっている。
【0134】
入力データにおける「time4c」が閾値Y2よりも大きい場合には、リーフN221へと進み、実行装置301によってインペラ52cの劣化が生じているとの診断が下される。一方で、入力データにおける「time4c」が閾値Y2以下である場合には、リーフN220へと進み、実行装置301によってチェック弁59の動作不良が生じているとの診断が下される。
【0135】
・診断用データの内容は、上記の例に限らない。例えば、最低燃圧を記録したときの経過時間についての情報を含んでいない診断用データを用いてもよい。なお、診断用データに含まれる最低燃圧を記録したときの状態を示す情報は、燃料温度Tfや経過時間でなくてもよい。
【0136】
・データ送信装置である制御装置100において診断用データの集計を行い、制御装置100が送信機103によって集計データをサーバ装置300に送信するようにしてもよい。また、その場合、サーバ装置300は、受信した集計データから入力データを作成し、診断処理を行えばよい。
【0137】
・車両500に搭載された制御装置100のみで異常診断システムが完結していてもよい。すなわち、記憶装置102に学習済みモデルが記憶されており、制御装置100において診断用データの取得から集計、入力データの作成、診断処理を実行するようにしてもよい。また、上記の実施形態と同様に診断用データを制御装置100から送信するが、サーバ装置300では集計データを作成するだけで、サーバ装置300から集計データを制御装置100に送信し、制御装置100で診断処理を行うようにしてもよい。
【0138】
・制御装置100が、燃料ポンプ制御装置200を通じて燃料ポンプ52を制御する例を示したが、制御装置100と燃料ポンプ制御装置200の機能を兼ね備えた1つの制御装置になっている構成を採用してもよい。また、3つ以上のユニットによって燃料供給システム550の制御装置が構成されていてもよい。
【0139】
・また、上記実施形態では、表示部150を操作することによって、視覚情報を通じて異常が発生していることを報知したが、これに限らない。たとえば、スピーカを操作することによって、聴覚情報を通じて異常が発生していることを報知してもよい。
【0140】
・実行装置101や実行装置301は、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部を、ハードウェア処理する専用のハードウェア回路(たとえばASIC等)を備えてもよい。すなわち、実行装置101や実行装置301は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶するROM等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。
【0141】
・上記実施形態では、燃料噴射弁として、筒内燃料噴射弁44とポート燃料噴射弁30とを備える燃料供給システム550を例示したが、燃料供給システムの構成はこうした構成に限らない。例えば、ポート燃料噴射弁のみを備える燃料供給システムであってもよい。また例えば、筒内燃料噴射弁のみを備える燃料供給システムであってもよい。
【0142】
・車両500としては、車両の推進力を生成する装置がエンジンのみとなる車両に限らず、例えばシリーズハイブリッド車であってもよい。また、シリーズハイブリッド車以外にも、パラレルハイブリッド車や、シリーズ・パラレルハイブリッド車であってもよい。
【0143】
・燃料温度Tfを燃料温度センサ137によって検出する例を示したが、燃料温度Tfを推定によって求めるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0144】
51…燃料タンク
52…燃料ポンプ
52c…インペラ
52b…ハウジング
59…チェック弁
100…制御装置
101…実行装置
102…記憶装置
103…送信機
104…受信機
131…燃料圧力センサ
140…メインスイッチ
150…表示部
200…燃料ポンプ制御装置
300…サーバ装置
301…実行装置
302…記憶装置
303…送信機
304…受信機
400…通信ネットワーク
500…車両
550…燃料供給システム
600…異常診断システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10