IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧

<>
  • 特許-転舵装置 図1
  • 特許-転舵装置 図2
  • 特許-転舵装置 図3
  • 特許-転舵装置 図4
  • 特許-転舵装置 図5
  • 特許-転舵装置 図6
  • 特許-転舵装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】転舵装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 5/04 20060101AFI20231108BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
B62D5/04
B62D6/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020102318
(22)【出願日】2020-06-12
(65)【公開番号】P2021035820
(43)【公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2019152197
(32)【優先日】2019-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】近藤 美雄
(72)【発明者】
【氏名】尾形 俊明
(72)【発明者】
【氏名】岸田 文夫
(72)【発明者】
【氏名】仲村 圭史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 博英
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102017106671(DE,A1)
【文献】特開2010-030368(JP,A)
【文献】特開2017-137027(JP,A)
【文献】特開2004-345413(JP,A)
【文献】国際公開第2014/104253(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04
B62D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのボールねじ部を有し直線運動することにより転舵輪を転舵させる転舵軸と、
前記2つのボールねじ部にそれぞれ螺合する2つのボールナットと、
駆動力を発生する2つのモータと、
前記2つのモータの駆動力をそれぞれ対応する前記ボールナットに伝達する歯付きのベルトを有する2つの伝動機構と、
前記2つのモータの回転角をそれぞれ検出する2つの検出装置と、
前記2つのモータをそれぞれ制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記2つの検出装置を通じて検出される前記2つのモータの回転角に基づき前記ベルトの歯飛びを検出する転舵装置。
【請求項2】
前記制御装置は、第1の前記検出装置を通じて検出される第1の前記モータの回転角に基づき演算される前記転舵軸の第1の絶対位置と、第2の前記検出装置を通じて検出される第2の前記モータの回転角に基づき演算される前記転舵軸の第2の絶対位置との比較を通じて前記ベルトの歯飛びを検出する請求項1に記載の転舵装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記転舵軸の第1の絶対位置と、前記転舵軸の第2の絶対位置との差の絶対値が前記ベルトの歯飛びを判定するべく定められたしきい値以上であるとき、前記ベルトに歯飛びが発生した旨判定する請求項2に記載の転舵装置。
【請求項4】
第1の前記検出装置と第2の前記検出装置とは互いに異なる軸倍角を有し、
前記制御装置は、前記転舵輪を転舵させる転舵制御の実行開始時の初期化処理として、第1の前記検出装置を通じて検出される第1の前記モータの回転角、および第2の前記検出装置を通じて検出される第2の前記モータの回転角に基づき前記転舵軸の絶対位置を演算し、
前記初期化処理以降、第1の前記検出装置を通じて検出される第1の前記モータの回転角の変化量を前記転舵軸の移動量に換算し、この換算される前記転舵軸の移動量を前記初期化処理を通じて取得される前記絶対位置に加算することにより前記転舵軸の第1の絶対位置の現在値を演算するとともに、
第2の前記検出装置を通じて検出される第2の前記モータの回転角の変化量を前記転舵軸の移動量に換算し、この換算される前記転舵軸の移動量を前記初期化処理を通じて取得される前記絶対位置に加算することにより前記転舵軸の第2の絶対位置の現在値を演算する請求項2または請求項3に記載の転舵装置。
【請求項5】
前記転舵軸に連動して回転するシャフトと、
前記シャフトの絶対回転角を検出する絶対角センサと、を有し、
前記制御装置は、前記転舵輪を転舵させる転舵制御の実行開始時の初期化処理として、前記絶対角センサを通じて検出される前記シャフトの絶対回転角に基づき前記転舵軸の絶対位置を演算し、
前記初期化処理以降、第1の前記検出装置を通じて検出される第1の前記モータの回転角の変化量を前記転舵軸の移動量に換算し、この換算される前記転舵軸の移動量を前記初期化処理を通じて取得される前記絶対位置に加算することにより前記転舵軸の第1の絶対位置の現在値を演算するとともに、
第2の前記検出装置を通じて検出される第2の前記モータの回転角の変化量を前記転舵軸の移動量に換算し、この換算される前記転舵軸の移動量を前記初期化処理を通じて取得される前記絶対位置に加算することにより前記転舵軸の第2の絶対位置の現在値を演算する請求項2または請求項3に記載の転舵装置。
【請求項6】
前記制御装置は、定められた判定条件が成立することによって車両が直進状態である旨判定されるとき、そのときの前記転舵軸の位置を前記転舵軸の絶対位置を演算する際の基準点となる転舵中立位置として設定し、
前記転舵軸の転舵中立位置が設定された以降、第1の前記検出装置を通じて検出される第1の前記モータの回転角の変化量を前記転舵軸の移動量に換算し、この換算される前記転舵軸の移動量を前記転舵中立位置に加算することにより前記転舵軸の第1の絶対位置の現在値を演算するとともに、
前記第2の前記検出装置を通じて検出される第2の前記モータの回転角の変化量を前記転舵軸の移動量に換算し、この換算される前記転舵軸の移動量を前記転舵中立位置に加算することにより前記転舵軸の第2の絶対位置の現在値を演算する請求項2または請求項3に記載の転舵装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記歯飛びを検出した回数が回数しきい値以上であるとき、定められた警告動作を実行する請求項1~請求項6のうちいずれか一項に記載の転舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の転舵輪を転舵させる転舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達を機械的に分離した、いわゆるステアバイワイヤ方式の操舵装置が知られている。たとえば特許文献1の操舵装置では、転舵輪を転舵させる転舵軸に対して2つのモータがそれぞれ同軸上に設けられている。2つのモータのロータにはそれぞれボールナットが一体的に設けられるとともに、それらボールナットは転舵軸に設けられたボールねじに多数のボールを介して螺合されている。2つのモータの回転運動は、ボールナットを含むボールねじ機構を介して転舵軸の直線運動に変換される。
【0003】
モータの回転を転舵軸に伝達する機構には様々なタイプが存在する。製品仕様によっては、たとえば伝達機構としてベルト伝動機構が採用されることが考えられる。この場合、モータの出力軸およびボールナットにはそれぞれプーリが設けられるとともに、これらプーリには無端状のベルトが巻き掛けられる。モータの回転は、その出力軸に設けられたプーリからベルトを介してボールナットに設けられたプーリに伝達される。モータの駆動に連動してボールナットが回転することに伴い転舵軸がその軸方向に移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-347209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
転舵装置において、モータの回転を転舵軸に伝達する機構としてベルト伝動機構を採用する場合、モータの回転を転舵軸に対してより適切に伝達する観点から、プーリとしてそれぞれ歯付プーリが、またベルトとして歯付ベルトが採用されることがある。このようにすれば、2つのプーリの歯とベルトの歯とが互いに噛み合うことにより、スリップすることなくモータの回転が転舵軸に伝達される。しかし、歯付プーリおよび歯付ベルトを使用する場合、つぎのようなことが懸念される。
【0006】
すなわち、車両の縁石乗り上げなどに起因して大きな逆入力荷重が転舵軸に作用することがある。この場合、転舵軸がその軸方向へ移動することにより、転舵軸の端部がハウジングに当接する、いわゆる端当てが生じるおそれがある。この場合、転舵軸の移動が物理的に規制されることによってボールナットおよびベルトの回転が規制される。これに対して、モータおよび駆動プーリは、それらの慣性力によって回転し続けようとする。このため、ベルトには、いわゆる歯飛びが生じるおそれがある。歯飛びとは、ベルトの歯とプーリの歯とが適切に噛み合わないことに起因して、ベルトの歯がプーリの歯を乗り越える現象をいう。
【0007】
このベルトの歯飛びが繰り返し発生するとベルトの歯の摩耗が進行し、やがてベルト伝動機構の静粛性能あるいはトルク伝達性能が低下することが懸念される。このため、ベルトの歯飛びの発生に対して何らかの対策を講じるうえで、ベルトの歯飛びを検出することが求められていた。
【0008】
本発明の目的は、ベルトの歯飛びを検出することができる転舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成し得る転舵装置は、2つのボールねじ部を有し直線運動することにより転舵輪を転舵させる転舵軸と、前記2つのボールねじ部にそれぞれ螺合する2つのボールナットと、駆動力を発生する2つのモータと、前記2つのモータの駆動力をそれぞれ対応する前記ボールナットに伝達する歯付きのベルトを有する2つの伝動機構と、前記2つのモータの回転角をそれぞれ検出する2つの検出装置と、前記2つのモータをそれぞれ制御する制御装置と、を備えている。前記制御装置は、前記2つの検出装置を通じて検出される前記2つのモータの回転角に基づき前記ベルトの歯飛びを検出する。
【0010】
たとえば2つの伝動機構のうちいずれか一方のベルトに歯飛びが生じた場合、その歯飛びが生じた伝動機構に連結されたモータの回転量、および歯飛びが生じていない伝動機構に連結されたモータの回転量は、歯飛びの程度に応じて互いに異なる。このため、上記の転舵装置によるように、2つのモータの回転角に基づき2つの伝動機構のうちいずれか一方のベルトに歯飛びが発生したことを検出することができる。
【0011】
上記の転舵装置において、前記制御装置は、第1の前記検出装置を通じて検出される第1の前記モータの回転角に基づき演算される前記転舵軸の第1の絶対位置と、第2の前記検出装置を通じて検出される第2の前記モータの回転角に基づき演算される前記転舵軸の第2の絶対位置との比較を通じて前記ベルトの歯飛びを検出するようにしてもよい。
【0012】
2つの伝動機構のうちいずれか一方のベルトに歯飛びが生じた場合、その歯飛びが生じた伝動機構に連結されたモータの回転量、および歯飛びが生じていない伝動機構に連結されたモータの回転量は、歯飛びの程度に応じて互いに異なる。このため、2つの伝動機構のうちいずれか一方のベルトに歯飛びが生じた場合、第1のモータの回転角に基づき演算される転舵軸の第1の絶対位置、および第2のモータの回転角に基づき演算される転舵軸の第2の絶対位置についても、歯飛びの程度に応じて互いに異なる値となる。したがって、上記の転舵装置によるように、第1のモータの回転角に基づき演算される転舵軸の第1の絶対位置と、第2のモータの回転角に基づき演算される転舵軸の第2の絶対位置とを比較することによって、ベルトの歯飛びを適切に検出することができる。
【0013】
上記の転舵装置において、前記制御装置は、前記転舵軸の第1の絶対位置と、前記転舵軸の第2の絶対位置との差の絶対値が前記ベルトの歯飛びを判定するべく定められたしきい値以上であるとき、前記ベルトに歯飛びが発生した旨判定するようにしてもよい。
【0014】
2つの伝動機構のうちいずれか一方のベルトに歯飛びが生じた場合、第1のモータの回転角に基づき演算される転舵軸の第1の絶対位置、および第2のモータの回転角に基づき演算される転舵軸の第2の絶対位置は、歯飛びの程度に応じて互いに異なる値となる。このため、転舵軸の第1の絶対位置と第2の絶対位置との差の絶対値は、歯飛びの程度に応じた値となる。たとえば歯飛びの程度がより大きいときほど、転舵軸の第1の絶対位置と第2の絶対位置との差の絶対値はより大きい値になる。逆に、歯飛びの程度がより小さいときほど、転舵軸の第1の絶対位置と第2の絶対位置との差の絶対値はより小さい値になる。したがって、上記の転舵装置によるように、転舵軸の第1の絶対位置と第2の絶対位置との差の絶対値が、ベルトの歯飛びを判定するべく定められたしきい値以上となることをもってベルトに歯飛びが発生した旨判定することができる。また、しきい値を転舵装置として要求される歯飛びの検出精度に応じて設定することにより、ベルトの歯飛びを適切に検出することができる。
【0015】
上記の転舵装置において、第1の前記検出装置と第2の前記検出装置とは互いに異なる軸倍角を有していてもよい。この場合、前記制御装置は、前記転舵輪を転舵させる転舵制御の実行開始時の初期化処理として、第1の前記検出装置を通じて検出される第1の前記モータの回転角、および第2の前記検出装置を通じて検出される第2の前記モータの回転角に基づき前記転舵軸の絶対位置を演算するようにしてもよい。前記制御装置は、前記初期化処理以降、第1の前記検出装置を通じて検出される第1の前記モータの回転角の変化量を前記転舵軸の移動量に換算し、この換算される前記転舵軸の移動量を前記初期化処理を通じて取得される前記絶対位置に加算することにより前記転舵軸の第1の絶対位置の現在値を演算することができる。また、前記制御装置は、第2の前記検出装置を通じて検出される第2の前記モータの回転角の変化量を前記転舵軸の移動量に換算し、この換算される前記転舵軸の移動量を前記初期化処理を通じて取得される前記絶対位置に加算することにより前記転舵軸の第2の絶対位置の現在値を演算することができる。
【0016】
上記の転舵装置において、前記転舵軸に連動して回転するシャフトと、前記シャフトの絶対回転角を検出する絶対角センサと、を有していてもよい。この場合、前記制御装置は、前記転舵輪を転舵させる転舵制御の実行開始時の初期化処理として、前記絶対角センサを通じて検出される前記シャフトの絶対回転角に基づき前記転舵軸の絶対位置を演算するようにしてもよい。前記制御装置は、前記初期化処理以降、第1の前記検出装置を通じて検出される第1の前記モータの回転角の変化量を前記転舵軸の移動量に換算し、この換算される前記転舵軸の移動量を前記初期化処理を通じて取得される前記絶対位置に加算することにより、前記転舵軸の第1の絶対位置の現在値を演算することができる。また、前記制御装置は、前記初期化処理以降、第2の前記検出装置を通じて検出される第2の前記モータの回転角の変化量を前記転舵軸の移動量に換算し、この換算される前記転舵軸の移動量を前記初期化処理を通じて取得される前記絶対位置に加算することにより、前記転舵軸の第2の絶対位置の現在値を演算することができる。
【0017】
上記の転舵装置において、前記制御装置は、定められた判定条件が成立することによって車両が直進状態である旨判定されるとき、そのときの前記転舵軸の位置を前記転舵軸の絶対位置を演算する際の基準点となる転舵中立位置として設定するようにしてもよい。前記制御装置は、前記転舵軸の転舵中立位置が設定された以降、第1の前記検出装置を通じて検出される第1の前記モータの回転角の変化量を前記転舵軸の移動量に換算し、この換算される前記転舵軸の移動量を前記転舵中立位置に加算することにより前記転舵軸の第1の絶対位置の現在値を演算することができる。また、前記制御装置は、前記第2の前記検出装置を通じて検出される第2の前記モータの回転角の変化量を前記転舵軸の移動量に換算し、この換算される前記転舵軸の移動量を前記転舵中立位置に加算することにより前記転舵軸の第2の絶対位置の現在値を演算することができる。
【0018】
上記の転舵装置において、前記制御装置は、前記歯飛びを検出した回数が回数しきい値以上であるとき、定められた警告動作を実行するようにしてもよい。
この構成によれば、ベルトに歯飛びが発生したことを適切に警告することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の転舵装置によれば、ベルトの歯飛びを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】転舵装置の第1の実施の形態の構成図。
図2】第1の実施の形態における制御装置のブロック図。
図3】第1の実施の形態における異常検出処理の手順を示すフローチャート。
図4】第2の実施の形態における制御装置のブロック図。
図5】転舵装置の第3の実施の形態の構成図。
図6】第3の実施の形態における制御装置のブロック図。
図7】第4の実施の形態における制御装置のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1の実施の形態>
以下、車両の転舵装置を具体化した第1の実施の形態を説明する。
図1に示すように、転舵装置10は、図示しない車体に固定されるハウジング11を有している。ハウジング11の内部には車体の左右方向(図1中の左右方向)に沿って延びる転舵軸12が収容されている。転舵軸12の両端には、それぞれタイロッド13,13を介して転舵輪14,14が連結される。転舵軸12がその軸方向に沿って移動することにより転舵輪14,14の転舵角θw,θwが変更される。
【0022】
転舵軸12には、第1のボールねじ部12aおよび第2のボールねじ部12bが設けられている。第1のボールねじ部12aは、転舵軸12における第1の端部(図1中の左端部)に寄った所定範囲にわたって右ねじが設けられた部分である。第2のボールねじ部12bは、転舵軸12における第2の端部(図1中の右端部)に寄った所定範囲にわたって左ねじが設けられた部分である。
【0023】
転舵装置10は、第1のボールナット15および第2のボールナット16を有している。第1のボールナット15は、転舵軸12の第1のボールねじ部12aに対して図示しない複数のボールを介して螺合されている。第2のボールナット16は、転舵軸12の第2のボールねじ部12bに対して図示しない複数のボールを介して螺合されている。
【0024】
転舵装置10は、第1のモータ17および第2のモータ18を有している。これら第1のモータ17および第2のモータ18は、転舵輪14,14を転舵させるための動力である転舵力の発生源であって、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。第1のモータ17および第2のモータ18は、それぞれハウジング11の外側の部分に固定される。第1のモータ17の出力軸17aおよび第2のモータ18の出力軸18aは、それぞれ転舵軸12に対して平行に延びている。
【0025】
転舵装置10は、第1の伝動機構21および第2の伝動機構22を有している。
第1の伝動機構21は、駆動プーリ23、従動プーリ24、および無端状のベルト25を有している。駆動プーリ23は、第1のモータ17の出力軸17aに固定されている。従動プーリ24は、第1のボールナット15の外周面に嵌められた状態で固定されている。ベルト25は、駆動プーリ23と従動プーリ24との間に掛け渡されている。したがって、第1のモータ17の回転は、駆動プーリ23、ベルト25および従動プーリ24を介して第1のボールナット15に伝達される。
【0026】
駆動プーリ23は、その外周面に歯23aが設けられた歯付きプーリである。駆動プーリ23の歯23aの歯筋は、駆動プーリ23の軸に対して傾いている。従動プーリ24も、その外周面に歯24aが設けられた歯付きプーリである。従動プーリ24の歯24aの歯筋は、従動プーリ24の軸に対して駆動プーリ23の歯筋と同じ方向へ向けて傾いている。また、ベルト25は、その内周面に歯25aが設けられた歯付きのベルトである。ベルト25の歯25aの歯筋は、駆動プーリ23の歯筋および従動プーリ24の歯筋に応じて傾いている。
【0027】
第2の伝動機構22は、第1の伝動機構21と同様に、駆動プーリ26、従動プーリ27、および無端状のベルト28を有している。駆動プーリ26は、第2のモータ18の出力軸18aに固定されている。従動プーリ27は、第2のボールナット16の外周面に嵌められた状態で固定されている。ベルト28は、駆動プーリ26と従動プーリ27との間に掛け渡されている。したがって、第2のモータ18の回転は、駆動プーリ26、ベルト28および従動プーリ27を介して第2のボールナット16に伝達される。
【0028】
駆動プーリ26は、その外周面に歯26aが設けられた歯付きプーリである。駆動プーリ26の歯26aの歯筋は、駆動プーリ26の軸に対して傾いている。従動プーリ27も、その外周面に歯27aが設けられた歯付きプーリである。従動プーリ27の歯27aの歯筋は、従動プーリ27の軸に対して駆動プーリ26の歯筋と同じ方向へ向けて傾いている。また、ベルト28は、その内周面に歯28aが設けられた歯付きのベルトである。ベルト28の歯28aの歯筋は、駆動プーリ26の歯筋および従動プーリ27の歯筋に対応して傾いている。
【0029】
ちなみに、第1のモータ17から転舵軸12までの間の減速比、および第2のモータ18から転舵軸12までの間の減速比は同じ値である。また、転舵軸12における第1のボールねじ部12aのリード、および第2のボールねじ部12bのリードは同じ値である。したがって、第1のモータ17が1回転したときの転舵軸12の移動量と、第2のモータ18が1回転したときの転舵軸12の移動量とは、同じ値になる。
【0030】
転舵装置10は、第1のモータ17の回転角を検出する第1の検出装置30a、および第2のモータ18の回転角を検出する第2の検出装置30bを有している。第1の検出装置30aは、第1のモータ17に設けられていて、第1の回転角センサ31および第2の回転角センサ32を有している。第2の検出装置30bは、第2のモータ18に設けられていて、第3の回転角センサ33および第4の回転角センサ34を有している。これら4つの回転角センサ(31~34)としては、たとえばレゾルバが採用される。また、4つの回転角センサ(31~34)の検出範囲は、第1のモータ17あるいは第2のモータ18の電気角の1周期に対応する360°である。
【0031】
第1の回転角センサ31は、第1のモータ17の回転角α1を検出する。第1の回転角センサ31は、第1のモータ17の回転に応じた電気信号として正弦波状に変化する第1の正弦信号(sin信号)、および第1のモータ17の回転に応じて余弦波状に変化する第1の余弦信号(cos信号)を生成する。第1の回転角センサ31は、第1の正弦信号および第1の余弦信号に基づく逆正接を第1のモータ17の回転角α1として演算する。この回転角α1は、第1の回転角センサ31の軸倍角に応じた周期でのこぎり波状に変化する。すなわち、回転角α1は、第1のモータ17の回転に応じて立ち上がりと急峻な立ち下がりとを繰り返すかたちで変化する。
【0032】
第2の回転角センサ32は、第1のモータ17の回転角α2を検出する。第2の回転角センサ32は、第1の回転角センサ31と同じ構成および同じ機能を有するものであり、第1の回転角センサ31と合わせて第1のモータ17の回転角センサの冗長系を構成する。
【0033】
第3の回転角センサ33は、第2のモータ18の回転角β1を検出する。第3の回転角センサ33は、第2のモータ18の回転に応じた電気信号として正弦波状に変化する第3の正弦信号、および第2のモータ18の回転に応じて余弦波状に変化する第3の余弦信号を生成する。第3の回転角センサ33は、第3の正弦信号および第3の余弦信号に基づく逆正接を第2のモータ18の回転角β1として演算する。この回転角β1は、第3の回転角センサ33の軸倍角に応じた周期でのこぎり波状に変化する。
【0034】
第4の回転角センサ34は、第2のモータ18の回転角β2を検出する。第4の回転角センサ34は、第3の回転角センサ33と同じ構成および同じ機能を有するものであり、第3の回転角センサ33と合わせて第2のモータ18の回転角センサの冗長系を構成する。
【0035】
第1の回転角センサ31と第3の回転角センサ33とは、互いに異なる軸倍角を有している。また、第2の回転角センサ32と第4の回転角センサ34とは、互いに異なる軸倍角を有している。軸倍角とは、第1のモータ17および第2のモータ18の回転角(機械角)に対する電気信号の電気角の比をいう。たとえば第1のモータ17が1回転する間に第1の回転角センサ31が1周期分の電気信号を生成する場合、第1の回転角センサ31の軸倍角は1倍角(1X)である。また、第1のモータ17が1回転する間に第1の回転角センサ31が4周期分の電気信号を生成する場合、第1の回転角センサ31の軸倍角は4倍角(4X)である。
【0036】
第1の回転角センサ31と第3の回転角センサ33とが互いに異なる軸倍角を有するとともに、第2の回転角センサ32と第4の回転角センサ34とが互いに異なる軸倍角を有している。このため、第1のモータ17の1回転あたりの回転角α1,α2および第2のモータ18の1回転あたりの回転角β1,β2の周期数は互いに異なる。また、第1の回転角センサ31および第2の回転角センサ32により生成される電気信号の一周期あたりの第1のモータ17の機械角で示される回転角の値と、第3の回転角センサ33および第4の回転角センサ34により生成される電気信号の一周期あたりの第2のモータ18の機械角で示される回転角の値とは互いに異なる。
【0037】
第1のモータ17は第1の伝動機構21を介して転舵軸12、ひいては転舵輪14,14に連結されている。また、第2のモータ18は第2の伝動機構22を介して転舵軸12、ひいては転舵輪14,14に連結されている。このため、第1のモータ17の回転角α1,α2および第2のモータ18の回転角β1,β2は、それぞれ転舵軸12の軸方向における絶対位置、ひいては転舵輪14,14の転舵角を反映する値である。
【0038】
転舵装置10は、第1の制御装置41および第2の制御装置42を有している。なお、第1の制御装置41は、(1)コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ、(2)各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する特定用途向け集積回路(ASIC)等の1つ以上の専用のハードウェア回路、或いは(3)それらの組み合わせ、を含む処理回路によって構成することができる。プロセッサは、CPU並びに、RAMおよびROM等のメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわち非一時的なコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。第2の制御装置42の構成も、第1の制御装置41と同様である。
【0039】
第1の制御装置41は、第1のモータ17を制御する。第1の制御装置41は、たとえば車載される上位の制御装置が車両の操舵状態あるいは車両の走行状態に応じて演算する目標転舵角θを取り込む。また、第1の制御装置41は、第1の回転角センサ31を通じて検出される第1のモータ17の回転角α1、および第2の回転角センサ32を通じて検出される第1のモータ17の回転角α2を取り込む。また、第1の制御装置41は、第3の回転角センサ33を通じて検出される第2のモータ18の回転角β1、および第4の回転角センサ34を通じて検出される第2のモータ18の回転角β2を第2の制御装置42を介して取り込む。
【0040】
第1の制御装置41は、第1のモータ17の駆動制御を通じて転舵輪14,14を操舵状態に応じて転舵させる転舵制御を実行する。第1の制御装置41は、転舵制御の実行開始時の初期化処理として、第1の回転角センサ31を通じて検出される第1のモータ17の回転角α1、および第3の回転角センサ33を通じて検出される第2のモータ18の回転角β1を使用して転舵軸12の実際の絶対位置を演算する。第1の制御装置41は、初期化処理以降、第1のモータ17の回転角α1に基づいて、具体的には回転角α1の変化量を転舵軸12の移動量に換算し、この換算される転舵軸12の移動量を初期化処理時に取得される転舵軸12の絶対位置に加算することにより、転舵軸12の絶対位置の現在値を演算する。また、第1の制御装置41は、目標転舵角θに基づき転舵軸12の目標絶対位置を演算する。第1の制御装置41は、転舵軸12の目標絶対位置と実際の絶対位置との差を求め、この差を無くすように第1のモータ17に対する給電を制御する。
【0041】
第2の制御装置42は、第2のモータ18を制御する。第2の制御装置42は、第1の制御装置41により生成される電流指令値を取り込む。また、第2の制御装置42は、第3の回転角センサ33を通じて検出される第2のモータ18の回転角β1、および第4の回転角センサ34を通じて検出される第2のモータ18の回転角β2を取り込む。また、第2の制御装置42は、第1の回転角センサ31を通じて検出される第1のモータ17の回転角α1、および第2の回転角センサ32を通じて検出される第1のモータ17の回転角α2を第1の制御装置41を介して取り込む。
【0042】
第2の制御装置42は、第2のモータ18の駆動制御を通じて転舵輪14,14を操舵状態に応じて転舵させる転舵制御を実行する。第2の制御装置42は、転舵制御の実行開始時の初期化処理として、第1の回転角センサ31を通じて検出される第1のモータ17の回転角α1、および第3の回転角センサ33を通じて検出される第2のモータ18の回転角β1を使用して転舵軸12の実際の絶対位置を演算する。第2の制御装置42は、初期化処理以降、第2のモータ18の回転角β1に基づいて、具体的には回転角β1の変化量を転舵軸12の移動量に換算し、この換算される転舵軸12の移動量を初期化処理時に取得された転舵軸12の絶対位置に加算することにより、転舵軸12の絶対位置の現在値を演算する。また、第2の制御装置42は、第1の制御装置41により生成される電流指令値に基づき第2のモータ18に対する給電を制御する。
【0043】
ちなみに、転舵軸12に対する第1のボールナット15および第2のボールナット16の相対回転に伴い、転舵軸12には軸周りのトルクが作用する。転舵軸12を特定の方向へ向けて移動させようとする場合、第1のボールナット15および第2のボールナット16が互いに反対方向へ向けて回転するとともに、それらボールナットの回転に伴い転舵軸12に作用するトルクの大きさが同じ値になるように、第1のモータ17および第2のモータ18の動作が制御される。このため、互いに逆方向のトルクである、第1のボールナット15の回転に伴い転舵軸12に作用するトルクと、第2のボールナット16の回転に伴い転舵軸12に作用するトルクとが相殺される。したがって、転舵軸12に軸周りのトルクが作用することはない。
【0044】
<制御装置>
つぎに、第1の制御装置41および第2の制御装置42について詳細に説明する。
図2に示すように、第1の制御装置41は、位置検出回路51、位置制御回路52、および電流制御回路53を有している。
【0045】
位置検出回路51は、転舵制御の実行開始時の初期化処理として、第1の回転角センサ31を通じて検出される第1のモータ17の回転角α1、および第3の回転角センサ33を通じて検出される第2のモータ18の回転角β1を取り込み、これら取り込まれる回転角α1,β1に基づき転舵軸12の絶対位置P1を演算する。第1の回転角センサ31の軸倍角および第3の回転角センサ33の軸倍角は、第1の回転角センサ31により検出される回転角α1と第3の回転角センサ33により検出される回転角β1とが転舵軸12の最大移動範囲内において一致しないように設定される。このため、回転角α1の値と回転角β1の値との組み合わせと、転舵軸12の絶対位置P1とは1対1で対応する。したがって、2つの回転角α1,β1の組み合わせに基づき、転舵軸12の絶対位置P1を検出することが可能である。位置検出回路51は、初期化処理以降、第1のモータ17の回転角α1の変化量を転舵軸12の移動量に換算し、この換算される転舵軸12の移動量を初期化処理時に取得された転舵軸12の絶対位置に加算することにより、転舵軸12の絶対位置P1の現在値を演算する。位置検出回路51により演算される絶対位置P1の現在値の演算範囲の中点が原点、すなわち車両が直進走行しているときの転舵軸12の位置である転舵中立位置(転舵角θw=0°)として設定される。
【0046】
ちなみに、位置検出回路51は、第1の制御装置41の記憶装置に格納される第1のテーブルを利用して転舵軸12の絶対位置P1を演算するようにしてもよい。この第1のテーブルは、第1の回転角センサ31により検出される回転角α1の値と第3の回転角センサ33により検出される回転角β1の値の組み合わせと、転舵軸12の絶対位置との関係を規定するものである。
【0047】
位置制御回路52は、前述した上位の制御装置が演算する目標転舵角θに基づき転舵軸12の目標絶対位置を演算する。転舵軸12と転舵輪14,14とは互いに連動するため、転舵軸12と転舵輪14,14の転舵角θwとの間には相間関係がある。この相間関係を利用して目標転舵角θから転舵軸12の目標絶対位置を求めることができる。位置制御回路52は、転舵軸12の目標絶対位置と位置検出回路51により演算される転舵軸12の実際の絶対位置P1との差を求め、この差を無くすように第1のモータ17に対する電流指令値I および第2のモータ18に対する電流指令値I を演算する。通常、電流指令値I と電流指令値I とは同じ値に設定される。ただし、製品仕様などによっては、電流指令値I と電流指令値I とが異なる値に設定されてもよい。
【0048】
電流制御回路53は、位置制御回路52により演算される電流指令値I に応じた電力を第1のモータ17へ供給する。これにより、第1のモータ17は、電流指令値I に応じたトルクを発生する。
【0049】
図2に示すように、第2の制御装置42は、位置検出回路61および電流制御回路63を有している。
位置検出回路61は、転舵制御の実行開始時の初期化処理として、第3の回転角センサ33を通じて検出される第2のモータ18の回転角β1、および第1の回転角センサ31を通じて検出される第1のモータ17の回転角α1を取り込み、これら取り込まれる回転角β1,α1に基づき転舵軸12の絶対位置P2を演算する。第3の回転角センサ33の軸倍角および第1の回転角センサ31の軸倍角は、第3の回転角センサ33により検出される回転角β1と第1の回転角センサ31により検出される回転角α1とが転舵軸12の最大移動範囲内において一致しないように設定される。このため、回転角β1の値と回転角α1の値との組み合わせと、転舵軸12の絶対位置P2とは1対1で対応する。したがって、2つの回転角β1,α1の組み合わせに基づき、転舵軸12の絶対位置P2を検出することが可能である。位置検出回路61は、初期化処理以降、第2のモータ18の回転角β1の変化量を転舵軸12の移動量に換算し、この換算される転舵軸12の移動量を初期化処理時に取得された転舵軸12の絶対位置に加算することにより、転舵軸12の絶対位置P2の現在値を演算する。
【0050】
ちなみに、位置検出回路61は、第2の制御装置42の記憶装置に格納される第2のテーブルを利用して転舵軸12の絶対位置P2を演算するようにしてもよい。この第2のテーブルは、第3の回転角センサ33により検出される回転角β1の値と第1の回転角センサ31により検出される回転角α1の値との組み合わせと、転舵軸12の絶対位置P2との関係を規定するものである。また、位置検出回路61により演算される絶対位置P2の演算範囲の中点が原点(転転舵角θw=0°)として設定される。
【0051】
電流制御回路63は、位置制御回路52により演算される電流指令値I に応じた電力を第2のモータ18へ供給する。これにより、第2のモータ18は、電流指令値I に応じたトルクを発生する。
【0052】
<異常検出回路>
ここで、前述したように、転舵装置10では、第1のモータ17および第2のモータ18の回転をそれぞれ転舵軸12に伝達する伝動機構としてベルト伝動機構を採用している。このため、転舵装置10においては、つぎのようなことが懸念される。
【0053】
すなわち、車両の縁石乗り上げなどに起因して大きな逆入力荷重が転舵軸12に作用した場合、転舵軸12がその軸方向へ移動することにより転舵軸12の端部がハウジング11に当接する、いわゆる端当てが生じるおそれがある。この場合、転舵軸12の移動が物理的に規制されることによって、第1のボールナット15および第1の伝動機構21におけるベルト25の回転、ならびに第2のボールナット16および第2の伝動機構22におけるベルト28の回転が規制される。これに対して、第1のモータ17および第1の伝動機構21における駆動プーリ23、ならびに第2のモータ18および第2の伝動機構22における駆動プーリ26は、それらの慣性力によって回転し続けようとする。このため、ベルト25,28には、いわゆる歯飛びが生じるおそれがある。この歯飛びが繰り返し発生するとベルト25,28の歯25a,28aの摩耗が進行するおそれがある。
【0054】
そこで、本実施の形態では、歯飛びを検出するために、つぎの構成を採用している。
図2に示すように、第1の制御装置41は異常検出回路54を有している。第2の制御装置42は、異常検出回路64を有している。これら異常検出回路54,64は、位置検出回路51により演算される転舵軸12の絶対位置P1の現在値、および位置検出回路61により演算される転舵軸12の絶対位置P2の現在値をそれぞれ取り込む。異常検出回路54,64は、それぞれ転舵軸12の絶対位置P1,P2の比較を通じてベルト25,28の歯飛びを検出する。
【0055】
これは、つぎの観点に基づく。すなわち、たとえば第1の伝動機構21のベルト25または第2の伝動機構22のベルト28に歯飛びが生じた場合、その歯飛びが生じた伝動機構に連結されたモータの回転量と、歯飛びが生じていない伝動機構に連結されたモータの回転量とが歯飛びの程度に応じて異なる値になる。このため、歯飛びが生じた伝動機構に連結されたモータの回転角に基づき演算される転舵軸12の絶対位置の現在値、および歯飛びが生じていない伝動機構に連結されたモータの回転角に基づき演算される転舵軸12の絶対位置の現在値についても、歯飛びの程度に応じて互いに異なる値となる。したがって、第1のモータ17の回転角α1に基づき演算される転舵軸12の絶対位置P1の現在値と、第2のモータ18の回転角β1に基づき演算される転舵軸12の絶対位置P2の現在値とを比較することにより、2つのベルト25,28のいずれか一方に歯飛びが発生したことを検出することが可能である。
【0056】
異常検出回路54は、ベルト25,28の歯飛びが検出されるとき、たとえば車室内に設けられる報知装置70に対する報知指令信号S1を生成する。また、異常検出回路64は、ベルト25,28の歯飛びが検出されるとき、報知装置70に対する報知指令信号S2を生成する。報知指令信号S1,S2は、報知装置70に対して所定の報知動作を実行させるための命令である。報知装置70は、報知指令信号S1または報知指令信号S2に基づき報知動作を行う。報知動作としては、たとえば警告音を発したり、ディスプレイに警告を表示したりすることが挙げられる。
【0057】
<異常検出処理の手順>
つぎに、異常検出回路54,64においてそれぞれ実行される異常検出処理の手順を図3のフローチャートに従って説明する。このフローチャートの処理は、定められた制御周期で実行される。
【0058】
図3のフローチャートに示すように、異常検出回路54は、位置検出回路51により演算される転舵軸12の絶対位置P1の現在値、および位置検出回路61により演算される転舵軸12の絶対位置P2の現在値を取り込む(ステップS101)。
【0059】
つぎに、異常検出回路54は、絶対位置P1と絶対位置P2との差の絶対値が歯飛び判定しきい値Pth以上であるかどうかを判定する(ステップS102)。歯飛び判定しきい値Pthは、転舵装置10として要求される歯飛びの検出精度に応じて設定される。ここでは、歯飛び判定しきい値Pthは、ベルト25,28の歯25a,28aの1つ分以上の歯飛びを検出する観点に基づき、ベルト25,28がそれらの歯25a,28aの1つ分だけ回転したときの転舵軸12の移動量を基準として設定されている。
【0060】
異常検出回路54は、絶対位置P1と絶対位置P2との差の絶対値が歯飛び判定しきい値Pth以上ではない旨判定されるとき(ステップS102でNO)、ベルト25,28に歯飛びは発生していないとして(ステップS103)、処理を終了する。
【0061】
先のステップS102において、異常検出回路54は、絶対位置P1と絶対位置P2との差の絶対値が歯飛び判定しきい値Pth以上である旨判定されるとき(ステップS102でYES)、2つのベルト25,28のうちいずれか一方に歯飛びが発生したとして(ステップS104)、つぎのステップS105へ処理を移行する。
【0062】
ステップS105において、異常検出回路54は、ベルト25,28の歯飛びを検出した回数であるカウント値Nをインクリメントする。インクリメントとは、カウント値Nに所定数(ここでは、「1」)を加算することをいう。
【0063】
つぎに、異常検出回路54は、カウント値Nが回数しきい値Nth以上であるかどうかを判定する(ステップS106)。ベルト25,28の歯飛びが繰り返し発生することによってベルト25,28の歯25a,28aの摩耗が進行するおそれがあるところ、回数しきい値Nthは、たとえばベルト25,28に歯飛びが生じたことを警告すべきであるとして定められた回数を基準として設定される。
【0064】
異常検出回路54は、カウント値Nが回数しきい値Nth以上ではない場合(ステップS106でNO)、処理を終了する。
異常検出回路54は、カウント値Nが回数しきい値Nth以上である場合(ステップS106でYES)、報知装置70に対する報知指令信号S1を生成して(ステップS107)、処理を終了する。報知装置70は、報知指令信号S1の受信を契機として、定められた報知動作を行う。車両の運転者は、報知装置70の報知動作を通じて、ベルト25,28の歯飛びが繰り返し発生していることを認識することが可能である。
【0065】
ちなみに、第2の制御装置42の異常検出回路64も、異常検出回路54と同様に、先の図3のフローチャートの各処理を実行する。異常検出回路64は、カウント値Nが回数しきい値Nth以上である場合(ステップS106でYES)、報知装置70に対する報知指令信号S2を生成して(ステップS107)、処理を終了する。
【0066】
<第1の実施の形態の効果>
したがって、第1の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)第1の伝動機構21のベルト25または第2の伝動機構22のベルト28に歯飛びが生じた場合、第1のモータ17の回転角α1に基づき演算される転舵軸12の絶対位置P1の現在値、および第2のモータ18の回転角β1に基づき演算される転舵軸12の絶対位置P2の現在値は、歯飛びの程度に応じて互いに異なる。このため、絶対位置P1の現在値と絶対位置P2の現在値との差の絶対値は、歯飛びの程度に応じた値となる。したがって、絶対位置P1の現在値と絶対位置P2の現在値との差の絶対値が、ベルト25,28の歯飛びを判定するべく定められた歯飛び判定しきい値Pth以上であることをもってベルト25,28に歯飛びが発生した旨判定することができる。また、歯飛び判定しきい値Pthを転舵装置10として要求される歯飛びの検出精度に応じて設定することにより、ベルト25,28の歯飛びを適切に検出することができる。
【0067】
(2)また、第1の検出装置30aを通じて検出される第1のモータ17の回転角α1、および第2の検出装置30bを通じて検出される第2のモータ18の回転角β1を利用することにより、ベルト25,28の歯飛びをより正確に検出することができる。歯飛び判定しきい値Pthの設定次第でベルト25,28の歯25a,28aの1つ分の歯飛びを検出することも可能である。これは、つぎの理由による。たとえば操舵角などの360°を超える多回転の回転角を絶対値で検出する回転角センサが存在するところ、このタイプの回転角センサは第1のモータ17および第2のモータ18の回転角を検出する回転角センサ(31~34)に比べて分解能が低いことがある。このため、分解能がより高いモータの回転角センサ(31~34)を利用することにより、歯飛びの検出精度を確保することができる。
【0068】
(3)歯飛びの検出回数であるカウント値Nが回数しきい値Nthに達したとき、歯飛びの発生が警告される。このため、ベルト25,28に歯飛びが発生したことが過剰に報知されることがない。
【0069】
<第2の実施の形態>
つぎに、転舵装置の第2の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の図1および図2に示される第1の実施の形態と同様の構成を有しており、同一の構成については第1の実施の形態と同一の符号を付してその説明を省略している。ただし、第2の制御装置42として、先の図2に示される位置検出回路61を割愛した構成が採用される。本実施の形態は、ベルトの歯飛びの検出方法の点で第1の実施の形態と異なるものの、先の図3のフローチャートに準じた異常検出処理の実行を通じてベルトの歯飛びを検出する。
【0070】
図4に示すように、第1の制御装置41の異常検出回路54は、転舵軸12の絶対位置P1,P2ではなく、たとえば第1の回転角センサ31を通じて検出される第1のモータ17の回転角α1、および第3の回転角センサ33を通じて検出される第2のモータ18の回転角β1を取り込む。異常検出回路54は、第1のモータ17の回転角α1と第2のモータ18の回転角β1との差の絶対値が歯飛び判定しきい値以上であるとき、ベルト25,28の歯飛びを検出する。第2の制御装置42の異常検出回路64は、第1の制御装置41の異常検出回路54と同様にしてベルト25,28の歯飛びを検出する。異常検出回路54,64は、歯飛びの検出回数であるカウント値が回数しきい値以上である場合、報知装置70に対する報知指令信号S1,S2を生成する。
【0071】
歯飛び判定しきい値は、転舵装置10として要求される歯飛びの検出精度に応じて設定される。歯飛び判定しきい値は、たとえばベルト25,28の歯25a,28aの1つ分以上の歯飛びを検出する観点に基づき、ベルト25,28がそれらの歯25a,28aの1つ分だけ回転したときの第1のモータ17および第2のモータ18の回転量を基準として設定される。
【0072】
第1の伝動機構21のベルト25または第2の伝動機構22のベルト28に歯飛びが生じた場合、その歯飛びが生じた伝動機構に連結されたモータの回転量、および歯飛びが生じていない伝動機構に連結されたモータの回転量は、歯飛びの程度に応じて互いに異なる値となる。このため、第1のモータ17の回転角α1と第2のモータ18の回転角β1との差の絶対値は、歯飛びの程度に応じた値となる。したがって、第1のモータ17の回転角α1と第2のモータ18の回転角β1との差の絶対値に基づき、ベルト25,28に歯飛びが発生した旨判定することができる。また、歯飛び判定しきい値を転舵装置10として要求される歯飛びの検出精度に応じて設定することにより、ベルト25,28の歯飛びを適切に検出することができる。
【0073】
ちなみに、異常検出回路54,64は、第1のモータ17の回転角α1および第2のモータ18の回転角β1に代えて、第1のモータ17の回転角α2および第2のモータ18の回転角β2を取り込み、これら回転角α2,β2の差の値に基づきベルト25,28の歯飛びを検出するようにしてもよい。
【0074】
したがって、第2の実施の形態によれば、先の第1の実施の形態の(1)~(3)と同様の効果に加え、つぎの効果を得ることができる。
(4)第1の回転角センサ31を通じて検出される第1のモータ17の回転角α1、および第3の回転角センサ33を通じて検出される第2のモータ18の回転角β1をそのまま利用してベルト25,28の歯飛びを検出する。このため、たとえば転舵軸12の絶対位置P1,P2を演算することなく、ベルト25,28の歯飛びを簡単に検出することができる。
【0075】
(5)第2の制御装置42として、先の図2に示される位置検出回路61を割愛した構成を採用することができる。このため、第2の制御装置42の構成を簡素化することができる。
【0076】
<第3の実施の形態>
つぎに、転舵装置の第3の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の図1および図2に示される第1の実施の形態と同様の構成を有しており、同一の構成については第1の実施の形態と同一の符号を付してその説明を省略している。本実施の形態は、転舵軸12の絶対位置P1,P2の演算方法の点で第1の実施の形態と異なる。
【0077】
図5に示すように、転舵装置10は、ピニオンシャフト71を有している。ピニオンシャフト71はハウジング11に対して回転可能に支持されている。ピニオンシャフト71は、転舵軸12の中央部分、すなわち第1のボールねじ部12aと第2のボールねじ部12bとの間の部分に対して交わるように設けられている。ピニオンシャフト71のピニオン歯71aは、転舵軸12の中央部分に設けられたラック歯12cに噛み合わされている。ピニオンシャフト71は、転舵軸12の移動に連動して回転する。ピニオンシャフト71の1回転に対する転舵軸12の移動量を比ストロークという。
【0078】
ピニオンシャフト71には、絶対角センサ72が設けられている。絶対角センサ72は、ハウジング11に支持されている。絶対角センサ72は、ピニオンシャフト71の360°を超える多回転にわたる回転角θpを絶対角で検出する。
【0079】
第1の制御装置41は、絶対角センサ72を通じて検出されるピニオンシャフト71の回転角θpおよび第1の回転角センサ31を通じて検出される第1のモータ17の回転角α1に基づき、転舵軸12の絶対位置P1の現在値を演算する。第2の制御装置42は、絶対角センサ72を通じて検出されるピニオンシャフト71の回転角θpおよび第3の回転角センサ33を通じて検出される第2のモータ18の回転角β1に基づき、転舵軸12の絶対位置P2の現在値を演算する。
【0080】
図6に示すように、第1の制御装置41の位置検出回路51は、転舵制御の実行開始時の初期化処理として、絶対角センサ72を通じて検出されるピニオンシャフト71の回転角θpに基づき転舵軸12の絶対位置P1を演算する。具体的には、位置検出回路51は、絶対角センサ72を通じて検出されるピニオンシャフト71の回転角θpを360°で除するとともに、その除した値に比ストロークを乗ずることによりピニオンシャフト71の回転角θpを転舵軸12の位置に換算し、その換算した値を転舵軸12の絶対位置P1の初期値とする。位置検出回路51は、初期化処理以降、第1のモータ17の回転角α1の変化量を転舵軸12の移動量に換算し、この換算される転舵軸12の移動量を初期化処理時に取得される転舵軸12の絶対位置P1に加算することにより転舵軸12の絶対位置P1の現在値を演算する。
【0081】
また、第2の制御装置42の位置検出回路61は、転舵制御の実行開始時の初期化処理として、絶対角センサ72を通じて検出されるピニオンシャフト71の回転角θpに基づき転舵軸12の絶対位置P2を演算する。位置検出回路61は、初期化処理以降、第2のモータ18の回転角β1の変化量を転舵軸12の移動量に換算し、この換算される転舵軸12の移動量を初期化処理時に取得される転舵軸12の絶対位置P2に加算することにより転舵軸12の絶対位置P2の現在値を演算する。
【0082】
異常検出回路54,64は、それぞれ先の図3のフローチャートで示される異常検出処理の実行を通じてベルト25,28の歯飛びを検出する。したがって、第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態の(1)~(3)と同様の効果を得ることができる。
【0083】
<第4の実施の形態>
つぎに、転舵装置の第4の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の図1および図2に示される第1の実施の形態と同様の構成を有しており、同一の構成については第1の実施の形態と同一の符号を付してその説明を省略している。本実施の形態は、転舵軸12の絶対位置P1,P2の演算方法の点で第1の実施の形態と異なる。転舵装置10は、ステアリングホイールと転舵輪14,14との間の動力伝達が分離されたバイワイヤ式の操舵装置に適用されている。
【0084】
図7に示すように、位置検出回路51,61は、車両が直進走行しているときの転舵軸12の位置である転舵中立位置を学習する。位置検出回路51,61は、たとえば、つぎの3つの判定条件(A1)~(A3)のすべてが成立するとき、車両が直進走行している旨判定する。ただし、直進走行の判定条件は製品仕様などに応じて適宜変更してもよい。
【0085】
(A1)車速Vが車速しきい値以上であること。車速Vは車載の車速センサ81を通じて検出される。
(A2)第1のモータ17の回転角α1あるいは第2のモータ18の回転角β1の時間変化量、すなわち第1のモータ17あるいは第2のモータ18の回転速度の絶対値が所定値以下の状態が設定時間以上継続すること。
【0086】
(A3)ステアリングホイール82の操作を通じてステアリングシャフト83に加わる操舵トルクτがトルクしきい値以下である状態が設定時間以上継続すること。操舵トルクτは、ステアリングシャフト83に設けられるトルクセンサ84を通じて検出される。
【0087】
位置検出回路51,61は、車両が直進状態である旨判定されるとき、図示しない記憶装置に記憶される学習アルゴリズムに従って、転舵角θwが零となるときの転舵軸12の位置である転舵中立位置を演算し、この演算される転舵中立位置を最新の学習値として記憶装置に格納する。
【0088】
位置検出回路51は、転舵軸12の転舵中立位置が演算された以降、その転舵中立位置を基準点として、その基準点からの位置変化量に基づき転舵軸12の絶対位置P1の現在値を演算する。すなわち、位置検出回路51は、第1のモータ17の回転角α1の変化量を転舵軸12の移動量に換算し、この換算される転舵軸12の移動量を転舵軸12の転舵中立位置に加算することにより転舵軸12の絶対位置P1の現在値を演算する。
【0089】
また、位置検出回路61は、転舵軸12の転舵中立位置が演算された以降、当該転舵中立位置を基準点として、その基準点からの位置変化量に基づき転舵軸12の絶対位置P2の現在値を演算する。すなわち、位置検出回路61は、第2のモータ18の回転角β1の変化量を転舵軸12の移動量に換算し、この換算される転舵軸12の移動量を転舵軸12の転舵中立位置に加算することにより転舵軸12の絶対位置P2の現在値を演算する。
【0090】
ちなみに、位置検出回路51は第1の回転角センサ31に代えて第2の回転角センサ32を通じて検出される第1のモータ17の回転角α2を使用して転舵軸12の絶対位置P1の現在値を演算するようにしてもよい。また、位置検出回路61は第3の回転角センサ33に代えて第4の回転角センサ34を通じて検出される第2のモータ18の回転角β2を使用して転舵軸12の絶対位置P2の現在値を演算するようにしてもよい。
【0091】
異常検出回路54,64は、それぞれ先の図3のフローチャートで示される異常検出処理の実行を通じてベルト25,28の歯飛びを検出する。したがって、第4の実施の形態によれば、第1の実施の形態の(1)~(3)と同様の効果を得ることができる。
【0092】
<他の実施の形態>
なお、第1~第4の実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・第1、第3および第4の実施の形態では、転舵軸12の絶対位置P1,P2の比較を通じてベルト25,28の歯飛びを検出した。しかし、歯飛びの検出に用いる状態量としては、転舵軸12の絶対位置P1,P2に限らず、絶対位置P1,P2に換算可能な状態量の比較を通じてベルト25,28の歯飛びを検出してもよい。転舵軸12の絶対位置P1,P2に換算可能な状態量としては、例えば第1のモータ17の出力軸17aの回転角であって360°を超える多回転にわたる回転角を示す絶対角、および第2のモータ18の出力軸18aの回転角であって360°を超える多回転にわたる回転角を示す絶対角が挙げられる。
【0093】
この場合、例えば位置検出回路51は、回転角α1に基づいて第1のモータ17の出力軸17aの絶対角θm1の現在値を演算する。また、例えば位置検出回路61は、回転角β1に基づいて第2のモータ18の出力軸18aの絶対角θm2の現在値を演算する。なお、この場合、絶対角θm1の演算範囲の中点および絶対角θm2の演算範囲の中点は、互いに同じ位置に設定される。こうした中点としては、例えば車両が直進走行しているときの絶対角が採用される。そして、位置検出回路51,61は、転舵軸12の絶対位置P1,P2を比較する場合と同様に、絶対角θm1,θm2の比較を通じてベルト25,28の歯飛びを検出する。
【0094】
また、転舵軸12の絶対位置P1,P2に換算可能な状態量としては、第1のモータ17の出力軸17aおよび第2のモータ18の出力軸18aの絶対角以外に、例えば転舵輪14の転舵角θw又はピニオンシャフト71の回転角θpを用いてもよく、適宜変更可能である。
【0095】
・各実施の形態において、第1のボールねじ部12aを左ねじ、第2のボールねじ部12bを右ねじとしてもよい。第1のボールねじ部12aと第2のボールねじ部12bとが互いに逆ねじの関係を有していればよい。また、第1のボールねじ部12aおよび第2のボールねじ部12bの双方を右ねじ、または左ねじとしてもよい。ただし、この構成を採用する場合、転舵軸12には、ハウジング11に対する転舵軸12の相対回転を抑制するための回転規制部を設ける。
【0096】
・各実施の形態では、歯飛び判定しきい値Pthを、ベルト25,28がそれらの歯25a,28aの1つ分だけ回転したときの転舵軸12の移動量を基準として設定したが、歯25a,28aの2つ分、3つ分あるいはそれ以上だけ回転したときの転舵軸12の移動量を基準として設定してもよい。歯飛び判定しきい値Pthは、転舵装置10に要求される歯飛びの検出精度に応じて適宜の値に設定される。
【0097】
・各実施の形態において、車載される上位の制御装置は目標転舵角θではなく、車両の操舵状態あるいは車両の走行状態に応じた転舵軸12の目標絶対位置を演算するものであってもよい。この場合、第1の制御装置41は、上位の制御装置により演算される転舵軸12の目標絶対位置を取り込み、この取り込まれる目標絶対位置に基づき第1のモータ17に対する電流指令値I および第2のモータ18に対する電流指令値I を演算する。
【0098】
・各実施の形態において、製品仕様などに応じて先の図3のフローチャートにおけるステップS105およびステップS106の処理を割愛してもよい。この場合、異常検出回路54,64は、ベルト25,28の歯飛びが検出されたとき(ステップS102でYES)、即時に報知指令信号S1,S2を生成する。
【0099】
・各実施の形態において、第1の制御装置41および第2の制御装置42を単一の制御装置として設けてもよい。
・各実施の形態において、第1の検出装置30aとして、第1の回転角センサ31および第2の回転角センサ32のうちいずれか一方のみを有する構成を採用してもよい。また、第2の検出装置30bとして、第3の回転角センサ33および第4の回転角センサ34のうちいずれか一方のみを有する構成を採用してもよい。
【0100】
・各実施の形態において、異常検出回路54,64における報知指令信号S1,S2の生成条件を、つぎのように設定してもよい。すなわち、異常検出回路54,64は、位置検出回路51,61により演算される転舵軸12の絶対位置P1,P2の履歴を記憶する。具体的には、位置検出回路51,61は、たとえば歯飛びが検出された時点における転舵軸12の絶対位置P1,P2を記憶する。異常検出回路54,64は、ベルト25,28における特定の回転位置において、定められた回数以上の歯飛びが発生したとき、報知装置70に対する報知指令信号S1,S2を生成する。歯飛びが繰り返し発生するベルト25,28の回転位置は、たとえば歯飛びが検出された時点における転舵軸12の絶対位置P1,P2をベルト25,28の1回転あたりの転舵軸12の移動量で除算した余りとして得られる。このようにすれば、ベルト25,28のどの位置で歯飛びが発生するのかを検出することが可能である。
【0101】
・各実施の形態において、位置検出回路51,61が転舵軸12の転舵中立位置の学習機能を有する場合、異常検出回路54,64は、つぎのようにしてベルト25,28の歯飛びを検出するようにしてもよい。すなわち、異常検出回路54,64には、位置検出回路51,61が転舵中立位置を演算した旨が入力される。各異常検出回路54,64は、車両が直進走行している状態において、位置検出回路51による転舵中立位置の演算前後の絶対位置P1を比較する。つまり、異常検出回路54,64は、位置検出回路51により演算される転舵中立位置が最新の学習値として記憶装置に格納されることにより、絶対位置P1の値が変化するか否かを判定する。また、異常検出回路54,64は、位置検出回路61による転舵中立位置の演算前後の絶対位置P2を比較する。つまり、異常検出回路54,64は、位置検出回路61により演算される転舵中立位置が最新の学習値として記憶装置に格納されることにより、絶対位置P2の値が変化するか否かを判定する。そして、各異常検出回路54,64は、転舵中立位置の演算前後で転舵軸12の絶対位置が変化している側のベルトに歯飛びが発生した旨判定する。
【0102】
これは、ある時点において車両が直進走行することで転舵中立位置が演算されてから、転舵中立位置が別途演算される別の時点までの間に歯飛びが発生した場合、位置検出回路51により演算される転舵軸12の絶対位置P1の値、あるいは位置検出回路61により演算される転舵軸12の絶対位置P2の値が、転舵軸12の転舵中立位置の演算前後で異なる蓋然性が高いことに基づく。異常検出回路54,64は、転舵中立位置の演算前後で絶対位置P1が変化している場合、ベルト25に歯飛びが発生した旨判定する。異常検出回路54,64は、転舵中立位置の演算前後で絶対位置P2が変化している場合、ベルト28に歯飛びが発生した旨判定する。このようにすれば、2つのベルト25,28のどちらに歯飛びが発生したのかを判定することができる。
【0103】
・各実施の形態において、異常検出回路54,64は、つぎのようにしてベルト25,28の歯飛びを検出するようにしてもよい。すなわち、異常検出回路54,64は、車両の縁石乗り上げなどではない通常の転舵動作による最初の端当てが発生した時点の転舵軸12の絶対位置P1,P2を記憶する。転舵軸12の端当てが生じたことは、たとえば転舵軸12の位置がその可動範囲の限界位置に達したかどうかに基づき検出される。この後、異常検出回路54,64は、通常の転舵動作による二回目の端当てが最初の端当てと同じ側で発生した場合、その二回目の端当てが発生した時点の転舵軸12の絶対位置P1,P2と、記憶された一回目の端当てが発生した時点の絶対位置P1,P2とを比較する。異常検出回路54,64は、一回目の端当てが発生した時点と二回目の端当てが発生した時点とで転舵軸12の絶対位置が変化している側のベルトに歯飛びが発生した旨判定する。異常検出回路54,64は、絶対位置P1が変化している場合、ベルト25に歯飛びが発生した旨判定する。異常検出回路54,64は、絶対位置P2が変化している場合、ベルト28に歯飛びが発生した旨判定する。このようにすれば、2つのベルト25,28のどちらに歯飛びが発生したのかを判定することができる。
【0104】
・各実施の形態において、異常検出回路54,64は、つぎのようにしてベルト25,28のどちらに歯飛びが発生したのかを検出するようにしてもよい。すなわち、異常検出回路54,64は、モータ(17,18)の回転速度および回転方向を検出する。これらモータの回転速度は、たとえば第1のモータ17の回転角α1,α2、および第2のモータ18の回転角β1,β2を微分することにより得られる。また、これらモータの回転方向は、たとえば回転角α1,α2および回転角β1,β2の変化に基づき得られる。異常検出回路54,64は、第1のモータ17および第2のモータ18の回転速度が、定められた速度しきい値を超えるかどうかを監視する。この速度しきい値は、たとえば歯飛びが発生する蓋然性が高いとされる回転速度を基準として設定される。また、異常検出回路54,64は、モータの回転速度が速度しきい値を超えたときの回転方向を記憶する。異常検出回路54,64は、ベルト25,28の歯飛びが検出された場合、この歯飛びが検出される前に速度しきい値を超える回転速度で回転したモータの回転方向に対応する方向へ向けて絶対位置P1,P2が変化した側のベルト25,28に歯飛びが発生した旨判定する。これは、モータの回転速度が速いほどベルト25,28の歯飛びが発生しやすいことに基づく。このようにすれば、2つのベルト25,28のどちらに歯飛びが発生したのかを判定することができる。
【0105】
・異常検出回路54,64が2つのベルト25,28のうちいずれのベルトに歯飛びが発生したのかを判定することができる場合、異常検出回路54,64は、歯飛びが検出された側の第1のモータ17または第2のモータ18へ供給される電流を制限するようにしてもよい。たとえば、異常検出回路54,64は、歯飛びが検出された側のモータ(17,18)を制御する制御装置(41,42)の電流制御回路53,63に対する制限信号を生成する。電流制御回路53,63は、異常検出回路54,64により生成される制限信号に基づき、歯飛びが検出された側のモータへ供給する電流の値を本来供給すべき電流よりも小さい値に制限する。電流制限される分だけ、歯飛びが検出された側のモータの回転が抑えられるため、歯飛びが生じたベルトの延命が図られる。
【0106】
・転舵装置10の各実施の形態は、ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達を分離したバイワイヤ式の操舵装置に適用してもよい。バイワイヤ式の操舵装置は、ステアリングシャフトに付与される操舵反力の発生源である反力モータ、および反力モータの駆動を制御する反力制御装置を有するところ、反力制御装置として車両の操舵状態あるいは車両の走行状態に基づきステアリングホイールの目標操舵角を演算するものが存在する。この場合、第1の制御装置41は、上位の制御装置としての反力制御装置により演算される目標操舵角を目標転舵角θとして取り込む。
【符号の説明】
【0107】
10…転舵装置、12…転舵軸、12a…第1のボールねじ部、12b…第2のボールねじ部、14…転舵輪、15…第1のボールナット、16…第2のボールナット、17…第1のモータ、18…第1のモータ、21…第1の伝動機構、22…第1の伝動機構、25,28…ベルト、30a…第1の検出装置、30b…第2の検出装置、41…第1の制御装置、42…第2の制御装置、72…絶対角センサ、N…カウント値、Nth…回数しきい値、P1…転舵軸の絶対位置(第1の絶対位置)、P2…転舵軸の絶対位置(第2の絶対位置)、Pth…歯飛び判定しきい値、α1,α2…第1のモータの回転角、β1,β2…第2のモータの回転角。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7