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特許7380444転炉脱りん処理用上吹きランスおよび転炉吹錬方法
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  • 特許-転炉脱りん処理用上吹きランスおよび転炉吹錬方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】転炉脱りん処理用上吹きランスおよび転炉吹錬方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/46 20060101AFI20231108BHJP
   C21C 5/35 20060101ALI20231108BHJP
   C21C 5/30 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
C21C5/46 101
C21C5/35
C21C5/30 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020108571
(22)【出願日】2020-06-24
(65)【公開番号】P2022006385
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2022-01-26
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 裕美
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 新吾
(72)【発明者】
【氏名】茶谷 悠喬
(72)【発明者】
【氏名】加藤 向平
(72)【発明者】
【氏名】根岸 秀光
(72)【発明者】
【氏名】田中 高太郎
(72)【発明者】
【氏名】川畑 涼
(72)【発明者】
【氏名】菊池 直樹
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-108165(JP,A)
【文献】特開2015-098648(JP,A)
【文献】国際公開第2013/094634(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/039285(WO,A1)
【文献】特開2017-057469(JP,A)
【文献】特開2015-092018(JP,A)
【文献】国際公開第2012/108529(WO,A1)
【文献】特開2009-203491(JP,A)
【文献】特開2006-348331(JP,A)
【文献】特開2011-001585(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 5/28-5/50
C21C 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉内の溶鉄に上吹きランスから酸素ガスとともにCaOを主成分とする脱りん用媒溶材を転炉内の溶鉄に吹き付けて、溶鉄からりんを酸化除去するための転炉脱りん処理用の上吹きランスであって、
ランス軸に対し回転対称に配置され精錬酸素のための複数の周孔を有し、該周孔からの噴流は下記の(1)式で定義される噴流直進度γが0.31以上0.75以下であり、
下記の(2)式で定義される媒溶材のラップ率λが、0.19以上となるよう設計されていることを特徴とする転炉脱りん処理用上吹きランス。
γ=Xjet/Xlinear ・・・(1)
ここで、Xiは、条件iにおいて、浴面相当面上のランス軸投影位置からの距離を表し、
添字jetは、干渉によって偏向させられた噴流の中心位置を示し、
添字linearは、周孔中心軸線の延長上の位置を表す。
λ=(火点内へ投射された媒溶材総重量)/(供給した媒溶材総重量) ・・・(2)
【請求項2】
上吹きランスを用い、該上吹きランスから酸素ガスを吹き付けるとともに、CaOを主成分とする脱りん用媒溶材を転炉内の溶鉄に供給して溶鉄からりんを酸化除去する転炉吹錬方法であって、
前記上吹きランスは、ランス軸に対し回転対称に配置され精錬酸素のための複数の周孔を有し、該周孔からの噴流は下記の(1)式で定義される噴流直進度γを0.31以上0.75以下とし、
前記脱りん用媒溶材の少なくとも一部を上吹きランスから転炉内の溶鉄浴面に向けて吹き付け添加するにあたり、下記の(2)式で定義される媒溶材のラップ率λを、0.19以上とすることを特徴とする転炉吹錬方法。
γ=Xjet/Xlinear ・・・(1)
ここで、Xiは、条件iにおいて、浴面相当面上のランス軸投影位置からの距離を表し、
添字jetは、干渉によって偏向させられた噴流の中心位置を示し、
添字linearは、周孔中心軸線の延長上の位置を表す。
λ=(火点内へ投射された媒溶材総重量)/(供給した媒溶材総重量) ・・・(2)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素を用いて溶鉄を酸化脱りん吹錬する転炉脱りん処理用の上吹きランスおよびそれを用いた転炉の吹錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、銑鋼一貫製鉄所においてはコスト面及び品質面で有利であることから、転炉での脱炭精錬の前に予備処理工程として脱りん処理を実施し、あらかじめ溶鉄中のりんを除去するプロセスが広く行われている。これは、脱りん反応は精錬温度が低いほど進行しやすく、溶鋼段階よりも溶鉄段階のほうが脱りん反応は進行しやすく少ない副原料で脱りん精錬を行うことができるためである。
【0003】
この溶鉄の脱りん処理は、生石灰などのCaOを主成分とする脱りん用媒溶材を添加し、かつ酸素ガスや酸化鉄などの酸素源を脱りん剤として添加する。溶鉄の脱りん現象を以下の反応式(3)に示す。
2[P]+2(FeO)+3(CaO・FeO)(l)
→ (3CaO・P)(s)+5[Fe] ・・・(3)
ここで、[M]は溶鉄中の元素Mを表し、(S)はスラグ中の化学物質Sを表す。
(3)式よりわかる通り、脱りん反応は酸化反応であり、酸化鉄(FeO)の存在が不可欠である。また生成したりん酸化物(P)は不安定であるので、石灰(CaO)と反応させて(3CaO・P)として、スラグ中に安定化させる必要がある。そのため、脱りんには、石灰が同様に不可欠である。スラグ中の(FeO)は上吹きランスから噴出される酸素含有ガスが鉄浴面に吹き付けられる面である火点に吸収され、鉄を酸化することで生成する。また、りん酸化物と反応する石灰は、投入された時点では融点が2500℃以上であり、炉内温度1300~1500℃に比べ圧倒的に融点が高く反応効率が著しく低位である。しかしながら、酸化鉄と反応して低融点のカルシウムフェライト(CaO・FeO)を形成することで滓化し、脱りん反応に寄与することになる。上記のことから酸化鉄は、直接Pを酸化するだけでなく、石灰の滓化を通じて脱りん反応効率の向上にも寄与することがわかる。
【0004】
上述の通り、溶鉄の脱りん処理においてCaOの滓化が重要な役割を担っているため、CaOの滓化を促すため、溶鉄に酸素噴流が直接接触し、絶えずFeOが供給されている火点へ石灰を供給することでCaOの滓化を促進する手法が採用されることが多い。
【0005】
例えば、特許文献1では、転炉内の溶鉄に対してCaO源を主体とする脱りん用媒溶材を添加し、上吹きランスから溶鉄浴面に酸素ガスの吹き付けを行う脱りん処理方法において、上吹きランスからの酸素ガスの供給速度を1.5-5.0Nm/min/溶鉄-tonとしスラグ中FeO濃度を高く維持し、前記脱りん用媒溶材のうち少なくとも一部が酸素ガスの吹き付けによって溶鉄浴面に生ずる火点に吹き付けられるようにすることでカルシウムフェライトの形成を促進し効率よく脱りんする方法が提案されている。
【0006】
また、特許文献2では、上吹きランスの主孔の平均傾角が13°以上とされており、また隣り合う主孔からの噴流間干渉率は30~60%の範囲内とし噴流を合体させることで減衰の少ない超音速ジェットが得られるものでありながら、媒溶材の吹き付けを行ってもノズルの損耗が少なくなるような設計がなされている。特許文献2では、粉体状媒溶材は合体した噴流と同様の軌跡をとり、火点へ効果的に投射できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-266666号公報
【文献】特開2006-336033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来技術には以下の問題がある。
特許文献1に開示の技術では、送酸量に適正範囲を指定しているものの、上記適正範囲は生成したFeOが脱りん・脱炭反応のために消費され続けることを前提としており、上記前提を満たすための言及はなされていない。
【0009】
生成したFeOが脱りん・脱炭反応に寄与し消費されるづけるためには反応物である溶鉄中のPやCがFeOの存在するスラグメタル界面、あるいは火点領域へ供給される必要がある。ところが、上吹きランス噴流の浴面動圧が不足し、溶鉄の攪拌が不足するとその供給が滞り、脱りん・脱炭反応が低位となる。そのため、FeOの消費が少なくなり、スラグ中に過剰にたまる。この問題を回避するため、ランスを設計する際は操業ごとに目標とする浴面動圧が決まっており、上記を達成しうるようにランス形状を設定することが一般的である。
【0010】
しかし、実操業において設計通りの浴面動圧を恒常的に得ることは困難である。ランスから吐出された噴流は雰囲気ガスを巻き込み流速の減衰を続けながら浴面へ達するため、浴面動圧を検討する際にはランスから浴面までの距離(ランス高さ)が重要な因子として寄与する。一方で実転炉では冷鉄源として投入したスクラップの溶け残りや炉内付着地金等に起因して、炉内の形状・容積が時々刻々変化する。結果、浴面位置が設計位置に対し100~300mm程度増減することが頻繁に発生する。特に浴面位置が低下するような場合では浴面の低下分だけランスから浴面までの距離が大きくなって噴流が余分に減衰し、浴面動圧不足となる。このときスラグ中には反応に寄与しない余剰のFeOが大量に存在することになる。
【0011】
上記のような環境では、スラグ中に懸濁する粒鉄中のCと脱りんや脱炭に寄与しない過大なFeOとの間で反応が進行し大量のCOガスがスラグ中に生じる。その結果、スラグが過剰に泡立ち、炉口からあふれだすスロッピングと呼ばれる現象が発生する。スロッピングによりあふれたスラグは炉下に飛散し出湯・排滓用の鍋台車用線路をふさぐため、頻繁に炉下を掃除する必要が発生し操業を阻害する。ゆえに、上吹きランスからの酸素含有ガスの噴射においては、適量のFeOを供給すると同時に適切に溶鉄中PやCとの反応を進行させ続けなければならない。
【0012】
特許文献1では、脱りんに必要となるFeOの供給量を富化するために必要な酸素供給量に関し言及しているが、上述の通り操業の中で湯面位置が低下し、ランス高さが高くなり攪拌動力が不足した際、溶鉄中のPやCとの反応が滞る問題に対する対策がなされていない。この問題は操業阻害因子となるスロッピングを引き起こし、生産性を著しく悪化させるため重要な課題である。
【0013】
上記課題の解決法として、ランス高さに対する噴流の減衰が小さな上吹きランスが開発されている。たとえば、特許文献2に開示の技術では、多孔ノズルから吐出される噴流同士をあえて干渉・偏向するよう設計し合体噴流とし減衰の少ないジェットとすることで、前記ランス高さの影響を受けず狙いの動圧を安定的に得ている。しかし、特許文献2に開示の方法では、ランスノズルから供給される粉体が噴流と同様の軌跡を得られる根拠が示されていない。そのため、酸化性ガス噴流が溶鉄に吸収されてFeOが生成される領域と、脱りんに必要な副原料である脱りん剤が到達する領域が異なるおそれがある。したがって、FeO、PおよびCaOの3者の共存を必要とする上掲式(3)の反応式の進行が悪くなることが課題となる。特許文献2に示すようなランスでは、密度が大きく慣性力の大きな粉体状脱りん剤は噴流よりも直進性が高く、噴流が干渉・偏向したとしても、噴流への追従性が悪くなり、反応に寄与しない脱りん剤が多く発生する。そのため、脱りん反応効率も悪化する。
【0014】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、連続操業の中で変動し、かつ制御困難なパラメーターであるランス高さの影響を最小化しスロッピングの発生を抑制しうることを達成したうえで、さらに脱りん剤の反応効率の高い上吹きランスを提供するとともに、その上吹きランスを使用した転炉の吹錬方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を有利に解決する本発明の転炉脱りん処理用上吹きランスは、ランス軸に対し回転対称に配置された複数の周孔を有し、下記の(1)式(式中、Xiは、条件iにおいて、浴面相当面上のランス軸投影位置からの距離を表し、添字jetは、干渉によって偏向させられた噴流の中心位置を示し、添字linearは、周孔中心軸線の延長上の位置を表す。)で定義される噴流直進度γが0.31以上0.75以下であることを特徴とする。
γ=Xjet/Xlinear ・・・(1)
【0016】
なお、本発明にかかる転炉脱りん処理用上吹きランスは、転炉内の溶鉄に上吹きランスから酸素ガスとともにCaOを主成分とする脱りん用媒溶材を転炉内の溶鉄に吹き付けて、溶鉄からりんを酸化除去するための上吹きランスであって、下記の(2)式で定義される媒溶材のラップ率λが、0.19以上となるよう設計されていること、がより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
λ=(火点内へ投射された媒溶材総重量)/(供給した媒溶材総重量) ・・・(2)
【0017】
上記課題を有利に解決する転炉吹錬方法は、上吹きランスを用い、該上吹きランスから酸素ガスを吹き付けて溶鉄からりんを酸化除去する転炉吹錬方法であって、前記上吹きランスは、ランス軸に対し回転対称に配置された複数の周孔を有し、上記の(1)式で定義される噴流直進度γを0.31以上0.75以下とすることを特徴とする。
【0018】
なお、本発明にかかる転炉吹錬方法は、転炉内の溶鉄に上吹きランスから酸素ガスを吹き付けるとともに、CaOを主成分とする脱りん用媒溶材を転炉内の溶鉄に供給して溶鉄からりんを酸化除去する転炉吹錬方法であって、前記脱りん用媒溶材の少なくとも一部を上吹きランスから転炉内の溶鉄浴面に向けて吹き付け添加するにあたり、上記の(2)式で定義される媒溶材のラップ率λを、0.19以上とすること、がより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、多孔ランスから供給される酸素ジェットを積極的に干渉させ、合体噴流とし、ランス高さの変動による減衰の小さな噴流を得ることでスロッピングを抑制しうる。その結果、安定して脱りん処理を行うことができる。
【0020】
また、加えて、好ましくは、ノズル形状・粉体媒溶材粒度・送酸量などの設計項目のパラメーターが酸化性ガスと粉体媒溶材の軌道へ与える影響を事前に推定し、噴流合体下において火点へ到達する媒溶材量を最大化しうるランスを提供できる。その結果、スロッピングの恐れがなく安定操業可能であり、かつ、副原料コストの抑制が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態にかかる上吹きランス先端の縦断面の拡大模式図である。
図2図1に示す周孔のノズル形状を拡大した断面図である。
図3】本発明の一実施形態にかかる噴流直進度γの概念を示す模式図である。
図4】数値解析により得た、浴面相当面上の火点分布に対する石灰の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を好ましい実施形態に基づき説明するにあたり、まず、本発明に至った検討結果について説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる上吹きランス先端部2の縦断面の拡大模式図である。図2は、図1に示す周孔のノズル部3形状を拡大した断面図である。
【0023】
従来から、転炉脱りん処理用の上吹きランス1では、上掲(3)式にて表現される脱りん反応の促進を目的とし、FeOの生成を促す設計をしている。具体的には、(A)低浴面動圧によりスラグ中へのFeO蓄積量を高め、(B)鉄浴面に酸素が吸収される火点の面積を拡大するようにしている。つまり、上記AおよびBの条件を満たすため、複数個のノズルを有する多孔ランスを用いてジェットを分散させ、衝突圧を低減し、かつ、火点面積を拡大しうることを目的としたランス設計がなされていた。なお、上吹きランス先端部2に複数個のノズルを設置する場合、中心位置(ランス軸と同軸)に設置されたノズルを中心孔、中心孔の周囲に設置されたノズルを周孔4と称している。周孔4はランス軸を中心として回転対称に均等に配置される。一方で、ランスの孔数を増やして、ノズル間隔を狭めると、噴流どうしが相互に干渉し合体することが知られている。
【0024】
また、従来の設計では、ノズル間隔を大きくとり、噴流どうしの干渉を避け、かつ火点を大きくするためにノズル傾角θを大きくするランス設計も広くとられてきた。ここで、ノズル傾角θとは、上吹きランスの中心軸(ランス軸)11と、各周孔4の吐出方向中心軸42とのなす角である。なお、ノズル傾角θを過度に大きくすると、ランス先端部2から吐出された酸化性ガス噴流が直接転炉内壁に衝突し炉内レンガを著しく損耗させるため、ノズル傾角θには上限が存在する。上記のように、従来の転炉脱りん処理用の上吹きランス1は独立噴流型の多孔ランスを使用してきた。
【0025】
上記効果検討のため、発明者らは様々な形状の多孔ランスを用いて、340t規模の転炉を用いた脱りん吹錬試験を各ランスに対しそれぞれ40~80チャージ実施した。その際、酸化性ガス噴流の干渉度合いを定量評価するために、下記(1)式によって噴流直進度γを定義した。その概念を図3に示す。噴流直進度γは以下のように計算する。まず、酸素ジェットが直線的に進み偏向しないものとした場合に、酸化性ガス噴流中心の計算浴面到達位置(=ランス高さH相当位置100)、つまり、周孔中心軸42の延長線の浴面相当面100上位置と浴面相当面100上のランス軸11投影位置との間の距離(Xlinear)を分母とする。そして、噴流の干渉の影響を考慮して、数値流体解析にて算出した噴流中心101の浴面相当面100上位置と浴面相当面100上のランス軸11投影位置との間の距離(Xjet)を分子として表した数値である。噴流直進度γが高いほど噴流の独立性が高く、低いほど噴流が偏向し合体傾向が強くなっていることを表す。なお噴流の軌跡101を算出する数値流体解析はSTAR-CCM+を用いた。計算に当たり、上吹きランス1下端中心位置Oを原点とし、周孔出口41中心位置を含む水平線をX軸と置き、ランス軸11を垂直下向きにZ軸と置いた。また、X軸上(Z=0)の噴流開始位置は、上吹きランス下端位置での周孔出口41中心をつなぐ円の直径Pの半分と置いた。
γ=Xjet/Xlinear ・・・(1)
ここで、Xiは、条件iにおいて、浴面相当面上のランス軸投影位置からの距離を表し、
添字jetは、干渉によって偏向させられた噴流の中心位置101を示し、
添字linearは、周孔中心軸線42の延長上の位置を表す。
【0026】
340t規模転炉での脱りん吹錬結果を実施した際、発明者らは噴流直進度γの高いランスほどスロッピング頻度が高くなる傾向を見出した。また、噴流直進度γの低いランスではスロッピングの発生頻度が低いことも併せて見出した。スロッピングの主たる原因が前述の通り上吹き噴流の動圧不足と考えると、噴流直進度の高いランスでは、吹錬時に設計浴面動圧以下に動圧が低下しているチャージが頻度として高かったことが推定される。これは上吹きランスから供給する酸素ガスが同じ総流量であっても、独立噴流とした場合のほうが噴流の表面積が大きく、雰囲気ガスを巻き込みやすくなることにより、噴流の減衰が顕著化して、ランス高さの影響に敏感になることが一因と考えられる。それに加え、吹錬ごとに炉内環境が変動し浴面高さが操業の中で時々刻々と変化して、設計値から外れた状態が発生しうることを合わせて考慮すれば定性的に説明可能である。
【0027】
一般に浴面高さの測定にはサブランスを用いるが、サブランスでの浴面測定をしている時間の分、吹錬時間が延長するため、頻繁に実施することは生産性を著しく低下させる。安定して浴面高さを測定することが困難である以上、転炉脱りん処理用上吹きランスの具備条件としてランス高さの影響に鈍感であること、すなわち減衰しにくい噴流を満たす必要があると分かった。以上より、あえて噴流同士を干渉・合体させ減衰させにくくする合体噴流型の多孔ランスを採用するべきことを知見した。上記知見の確認のため試験結果より噴流の合体度を示す指標である噴流直進度γを低下させ噴流合体型ランスによる試験を実施したところ、噴流直進度γを0.75以下に設定するとスロッピング頻度を低減しうることを確認した。一方で噴流直進度を0.31よりも小さくした際、噴流が完全に合体し、単孔ノズル(中心孔のみのランス)と同様の挙動をとり制御しえない高浴面動圧をとなった。その結果、溶鉄の飛散が発生しランス地金付き等のトラブルが発生するおそれがあることがわかった。また0.31よりも小さくした水準では高浴面動圧の強すぎる攪拌力に起因し、生成したFeOが脱炭に消費されてしまい脱りん効率も悪化した。以上から噴流直進度γは0.31以上0.75以下の範囲とする必要があると判断した。より好ましくは、噴流直進度γが0.31以上0.50以下の範囲である。
【0028】
CaOの滓化促進のために上吹きランスより酸化性ガスとともに石灰を含有する粉体状精錬媒溶材をFeO生成サイトである火点へ吹き付けるような操業を行う。このような操業に上記噴流合体型のランスを採用した際、噴流と石灰の軌道が異なることが懸念事項として挙げられた。これは低密度・低慣性力のため偏向しやすい噴流に対し密度が高く慣性力も大きな固体である粉体状媒溶材は直進性が高いことに起因する。上記を定量的に評価するため、本発明では下記(2)式で定義するラップ率λを採用した。上記検討の一例として、STAR-CCM+による数値流体解析を利用し、周孔数を8孔、ノズル傾角θ=16°のランスノズルから30000Nm/hの酸素ガスとともに平均粒度200μmの石灰を投射した際の火点相当領域6と石灰分布(石灰投射領域)7とを計算して比較した結果を図4に示す。なお、ここで火点相当領域6は0.1kPa以上の動圧がかかっている領域とした。本解析からもわかる通り、噴流が偏向する際の粉体の追従性は低く、火点相当領域6に到達しえない媒溶材が発生し脱りん吹錬への寄与効率が低下する。
λ=(火点内へ投射された媒溶材総重量)/(供給した媒溶材総重量) ・・・(2)
【0029】
上記欠点を改良するには粉体の追従性を上げるか、スロッピングを引き起こさない範囲で噴流の直進性を高めることにより解決可能である。しかし、粉体の追従性を向上するためには石灰の粒度を細かくする必要があり、粒度を細かくするほどに媒溶材の重量当たり単価が上がりコストが上昇する。そのうえ、過度に粒度の細かな粉体は静電気の影響を受けやすいため、送給の際に輸送管内へ固着しやすく閉塞を引き起こす。そこで、本実施形態ではスロッピングの発生しない領域で噴流の直進性を高めることを選択した。
【0030】
噴流の直進性の向上のためには噴流の慣性力を大きくするか、噴流間の干渉を小さくすることがあげられる。前者に関しては送酸流量を大きくすることで達成しうるが、過度な送酸は脱炭を促進し、溶銑温度を上昇させるため脱りん反応にとっては不利となる。そこで、本実施形態では噴流間の干渉を小さくすることを採用した。噴流間の干渉を小さくすることは噴流間の距離を大きくとることと同義であり、上吹きランスではノズル孔数・傾角を変更することで調整する。本実施形態においてもノズル孔数、傾角θをパラメーターとし噴流の干渉を変化させ、このときの各ラップ率λを数値流体解析から評価した。なお本検討に関して、火点相当領域6は0.1kPa以上の動圧がかかっている領域を採用し、30000Nm/hの酸素ガスとともに平均粒度200μmの粉体石灰を5kg/t-溶鉄となるよう投射した場合を設定した。また同じ条件のもと340t転炉にて脱りん吹錬を実施した。
【0031】
上記検討の結果より、ノズル傾角θを大きくするに従いラップ率λが向上する傾向がえられたが、傾角θを20°としたときラップ率λが低下した。上記現象は、直進性の高い石灰は傾角θが大きくなるほど幾何学的にランス高さ×tanθだけランス中心から離れた箇所へ投射される一方で、噴流直進度γの向上が追随できなくなることに起因する。またラップ率λの向上に応じて石灰の脱りん能が向上したことから、ラップ率λが石灰の脱りん効率を表現しうることを確認した。このときラップ率λが0.19より小さくなると脱P量が1.0kg/tを下回ることから最低でもλを0.19以上とすることが望ましい。なお、上記した噴流直進度γの適切な範囲を考慮すると、ラップ率λの上限は0.55程度となる。より好ましくは、ラップ率λが0.20以上であり、さらに好ましくは、0.20~0.50の範囲である。
【実施例
【0032】
以下、発明例を比較例とともに示す。容量が340トンで、酸素を上吹きし、攪拌用ガスを底吹きする上底吹き複合吹錬用転炉内に約340トンの溶鉄を装入し、脱りん吹錬を行った。用いた溶鉄は、脱硫処理後溶鉄であり、溶鉄のケイ素濃度は0.3~0.5質量%、リン濃度は0.12~0.14質量%であった。転炉内には石灰系フラックスを上吹きランスから精錬酸素とともに5kg/t-溶鉄となるよう投射した。転炉底吹き用に設置した羽口からは溶湯攪拌のためアルゴンまたは窒素を10~50Nm/minの範囲で吹き込んだ。また、送酸は上吹きランスにより行い、吹錬前半の脱Si期では50000Nm/h程度、後半の脱りん期では30000Nm/h程度吹き込んだ。ランス高さHは動圧が極力同一となるよう各ランスノズルに対して設定した。吹錬開始時の溶鉄温度は約1250℃、吹錬終了時の目標溶鉄温度は1380℃を目標とした。用いた発明例の上吹きランスは周孔のみがそれぞれ6~8個設置されたノズルで傾角θは14~20°、噴流直進度γは0.31~0.75、ラップ率λは0.19~0.56であった。
【0033】
また、比較例として噴流直進度γが1.00となるよう設計した傾角θ=14°の4孔ノズル(No.1)、および、噴流直進度γが0.84となるよう設計した傾角θ=14°の5孔ノズル(No.2)の試験を実施した。なおラップ率λに関してはそれぞれ1.00、0.87であった。操業条件は発明例と同一である。
【0034】
表1にノズル条件および操業結果を示す。なお、各条件につき、40~80チャージ程度実施した。表1において、スロッピング頻度は各条件実施時発生したスロッピングチャージ数をカウントし、条件ごとの実施チャージ総数にて除算し百分率をとった指標である。脱りん量ΔPは条件ごとに実施チャージの平均値を算出した。
【0035】
【表1】
【0036】
表1に示すように、発明例においてはスロッピング頻度を比較例に比べ低減させており、また溶鉄当たりの副原料(粉体媒溶材)を同一とした条件の中でも脱りん量を向上させ、効率の良い脱りん吹錬を実現しうることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の上吹きランスは、転炉を用いた脱りん吹錬に適用して好適である。
【符号の説明】
【0038】
1 上吹きランス
11 ランス軸
2 ランス先端部
3 ノズル部
4 周孔
41 周孔出口
42 周孔中心軸
5 スロート部
6 火点相当領域
7 石灰分布(石灰投射領域)
100 浴面相当面位置
101 噴流軌跡
P 上吹きランス下端位置での周孔出口中心をつなぐ円の直径
H 上吹きランス高さ(上吹きランス下端から浴面相当位置までの距離)
θ ノズル傾角
O 上吹きランス下端中心位置
図1
図2
図3
図4