(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】ステアリング装置、異常判断方法、および異常判断プログラム
(51)【国際特許分類】
B62D 1/183 20060101AFI20231108BHJP
B62D 1/181 20060101ALI20231108BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20231108BHJP
【FI】
B62D1/183
B62D1/181
B60W60/00
(21)【出願番号】P 2020109989
(22)【出願日】2020-06-25
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】枝元 祥馬
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 健
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 創
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-117476(JP,A)
【文献】特開2008-137449(JP,A)
【文献】特開2007-106181(JP,A)
【文献】国際公開第2021/175758(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102020202536(DE,A1)
【文献】特許第6596615(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D1/00-1/28
B62D5/00
B62D6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者が操作する操作部材の位置を変化させる第一変位機構、前記第一変位機構を動作させる第一電動駆動源、および前記第一変位機構に基づく前記操作部材の位置を示す第一位置情報を検出する第一検出手段を備える第一動作装置と、
前記第一変位機構とは異なる第二変位機構、前記第二変位機構を動作させる第二電動駆動源、および前記第二変位機構に基づく前記操作部材の位置を示す第二位置情報を検出する第二検出手段を備える第二動作装置と、
前記第一動作装置の動作に関する情報である第一動作情報に基づき前記第一動作装置に異常有りと判断し、かつ前記第二動作装置の動作に関する情報である第二動作情報に基づき前記第二動作装置に異常ありと判断した場合、前記第一動作装置、および前記第二動作装置に故障はないと判断する判断部と、
を備えるステアリング装置。
【請求項2】
前記第一変位機構は、
前記操作部材を運転者に対して進出、後退させる出退機構であり、
前記第二変位機構は、
前記操作部材を上下させるチルト機構である
請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記判断部は、
前記第一動作情報に含まれる前記第一位置情報が所定の正常動作ではない異常動作を示した場合、前記第一動作装置に異常有りと判断する
請求項1または2に記載のステアリング装置。
【請求項4】
前記判断部は、
前記第一位置情報が所定範囲内にある状態が所定期間継続し、前記第一動作情報に含まれる前記第一電動駆動源を動作させるための第一駆動情報が異常でない場合、前記第一検出手段に異常が発生したと判断する
請求項1から3のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項5】
前記判断部は、
前記第一駆動情報に含まれる指示電流値と実電流値との差分が第二閾値以上となった場合、前記第一検出手段に故障が発生したと判断する
請求項4に記載のステアリング装置。
【請求項6】
前記判断部は、
前記第一動作情報に含まれる前記第一電動駆動源を動作させるための第一駆動情報が電力閾値を超えた場合、前記第一変位機構に故障が発生したと判断する
請求項1から3のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項7】
前記判断部は、
前記第一動作情報に含まれる前記第一電動駆動源を動作させるための第一駆動情報が第一閾値を超えた場合、前記第一動作装置の動作に異常有りと判断する
請求項1または2に記載のステアリング装置。
【請求項8】
前記判断部が、前記第一動作装置の動作異常の有無を判断するために、前記第二動作装置に所定の動作をさせる動作制御部を備える
請求項1から7のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項9】
運転者が操作する操作部材の位置を変化させる第一変位機構、前記第一変位機構を動作させる第一電動駆動源、および前記第一変位機構に基づく前記操作部材の位置を示す第一位置情報を検出する第一検出手段を備える第一動作装置と、前記第一変位機構とは異なる第二変位機構、前記第二変位機構を動作させる第二電動駆動源、および前記第二変位機構に基づく前記操作部材の位置を示す第二位置情報を検出する第二検出手段を備える第二動作装置と、を備えるステアリング装置の異常判断方法であって、
前記第一動作装置の動作に関する情報である第一動作情報に基づき前記第一動作装置に異常有りと判断し、かつ前記第二動作装置の動作に関する情報である第二動作情報に基づき前記第二動作装置に異常ありと判断した場合、前記第一動作装置、および前記第二動作装置に故障はないと判断部が判断する
異常判断方法。
【請求項10】
前記判断部が、前記第一動作装置の動作に異常有りと判断した場合、動作制御部が前記第二動作装置に所定の動作をさせる
請求項9に記載の異常判断方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載の異常判断方法をコンピュータに実現させる異常判断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動で操作部材の位置が変化するステアリング装置、異常判断方法、および異常判断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の自動運転においてシステムが全責任をもつ自動運転レベル3以上の状態では、運転者が車両の操作に責任を持つ必要が無く、ステアリングホイールなどの操作部材を持つ必要がなくなる。従って自動運転時にステアリングホイールが移動し運転者の前方の空間が広く確保されれば運転者の快適性を高めることが出来る。そのため、自動運転時にはステアリングホイールを車両の前側の退避場所に移動させる技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
操作部材を電動モータにより移動させる場合、操作部材の位置を取得するセンサの異常、操作部材を動作させるための機構部における異常の発生が考えられる。更に電動モータによる操作部材の動作中に運転者などが操作部材と干渉する可能性がある。
【0005】
本発明は、上記複数の異常の発生の可能性に鑑みなされたものであり、既存のセンサなどに基づき異常の種類を切り分けられるステアリング装置、異常判断方法、および異常判断プログラムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の1つであるステアリング装置は、運転者が操作する操作部材の位置を変化させる第一変位機構、前記第一変位機構を動作させる第一電動駆動源、および前記第一変位機構に基づく前記操作部材の位置を示す第一位置情報を検出する第一検出手段を備える第一動作装置と、前記第一変位機構とは異なる第二変位機構、前記第二変位機構を動作させる第二電動駆動源、および前記第二変位機構に基づく前記操作部材の位置を示す第二位置情報を検出する第二検出手段を備える第二動作装置と、前記第一動作装置の動作に関する情報である第一動作情報に基づき前記第一動作装置に異常有りと判断し、かつ前記第二動作装置の動作に関する情報である第二動作情報に基づき前記第二動作装置に異常ありと判断した場合、前記第一動作装置、および前記第二動作装置に故障はないと判断する判断部と、を備える。
【0007】
また、本発明の他の1つである異常判断方法は、運転者が操作する操作部材の位置を変化させる第一変位機構、前記第一変位機構を動作させる第一電動駆動源、および前記第一変位機構に基づく前記操作部材の位置を示す第一位置情報を検出する第一検出手段を備える第一動作装置と、前記第一変位機構とは異なる第二変位機構、前記第二変位機構を動作させる第二電動駆動源、および前記第二変位機構に基づく前記操作部材の位置を示す第二位置情報を検出する第二検出手段を備える第二動作装置と、を備えるステアリング装置の異常判断方法であって、前記第一動作装置の動作に関する情報である第一動作情報に基づき前記第一動作装置に異常有りと判断し、かつ前記第二動作装置の動作に関する情報である第二動作情報に基づき前記第二動作装置に異常ありと判断した場合、前記第一動作装置、および前記第二動作装置に故障はないと判断部が判断する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、操作部材の動作に用いられるセンサなどからの情報に基づき、発生した異常の切り分けを適切に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、ステアリング装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、移動する操作部材の各段階を別々に示す図である。
【
図3】
図3は、異常動作と正常動作とを合わせて示すグラフである。
【
図4】
図4は、変位機構に異常が発生したと判断される状態を示すグラフである。
【
図5】
図5は、ステアリング装置の異常箇所の切り分けの流れを示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、ステアリング装置の異常箇所の切り分けの流れの別態様1を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、ステアリング装置の異常箇所の切り分けの流れの別態様2を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明に係るステアリング装置、異常判断方法、および異常判断プログラムの実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の位置関係、および接続状態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下では複数の発明を一つの実施の形態として説明する場合があるが、請求項に記載されていない構成要素については、その請求項に係る発明に関しては任意の構成要素であるとして説明している。また、図面は、本発明を説明するために適宜強調や省略、比率の調整を行った模式的な図となっており、実際の形状や位置関係、比率とは異なる場合がある。
【0011】
図1は、ステアリング装置の機能構成を示すブロック図である。ステアリング装置100は、搭載された車両の転舵輪を転舵するための操作部材200を運転者210に対して移動させることができる装置であって、第一動作装置110と、第二動作装置120と、判断部150と、を備えている。本実施の形態の場合、ステアリング装置100は、操作部材200と車両の転舵輪とが機械的に接続されず、操作部材200の操作量を示す信号に基づき転舵輪を転舵させるいわゆるステアバイワイヤ(SBW)システムに用いられる装置であり、第三動作装置130と、第四動作装置140と、動作制御部160と、を備えている。判断部150、動作制御部160は、プログラムをコンピュータである異常判断装置151に実行させることにより実現されている。
【0012】
操作部材200は、ステアリング装置100が搭載される車両の転舵輪を転舵させるために運転者210が操作する部材である。操作部材200の形状は、特に限定されるものではない。本実施の形態の場合、いわゆるステアリングホイールと称される円環状の部材を操作部材200として採用しているが、操作部材200は、矩形の環状や棒状などでも構わない。
【0013】
第一動作装置110は、運転者210が操作する操作部材200の位置を所定の一方向(図中Y軸方向)に変化させる装置であり、第一変位機構111と、第一電動駆動源112と、第一検出手段(不図示)と、を備えている。
【0014】
第一変位機構111は、運転者210が操作する操作部材200の位置を変化させる機構のうちの1つである。本実施の形態の場合、第一変位機構111は、
図1、
図2に示すように、操作部材200を車両の前方(図中Y+側)または後方(図中Y-側)に移動させる出退機構であり、複数段階の伸縮機構を備えている。具体的に第一変位機構111は、車両に固定される基礎レール113と、基礎レール113に案内されて車両の前後方向に移動する中間移動体114と、中間移動体114に案内されて車両の前後方向に移動する先端移動体115とを備えている。第一変位機構111は、操作部材200を運転者210に向かって進出させ、また車両のダッシュボード220に向かって後退させることができる。ステアリング装置100が搭載される車両は、特定の場所でシステムが全てを操作することができる自動運転車であり、第一変位機構111は、
図2のcの段に示すように、操作部材200をダッシュボード220内にまで後退させることができる。また、第一変位機構111自体もダッシュボード220内にまで縮むことができるものとなっている。
【0015】
第一電動駆動源112は、第一変位機構111を動作させる駆動力を発生させる装置である。本実施の形態の場合、第一電動駆動源112は、三相のブラシレスモータであり、インバータから供給されるパルス状の電力により回転する電動モータである。第一電動駆動源112は、中間移動体114に取り付けられている。第一電動駆動源112は、基礎レール113に対する中間移動体114の推進力を発生させ、かつ中間移動体114に対する先端移動体115の推進力を発生させる。なお、第一電動駆動源112が取り付けられる位置は、特に限定されるものではない。また、第一電動駆動源112を複数備え、中間移動体114、および先端移動体115を別々に駆動しても構わない。
【0016】
第一検出手段は、第一変位機構111による操作部材200の位置を示す第一位置情報を検出する装置である。第一検出手段の種類は特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、第一電動駆動源112に設けられ、第一電動駆動源112の回転角を検出する、ロータリーエンコーダやレゾルバなどの回転角検出装置である。なお、第一検出手段は、第一変位機構111に取り付けられたリニアエンコーダなどでも構わない。なお、複数の第一電動駆動源112が存在する場合、第一検出手段は中間移動体114、および先端移動体115の位置をそれぞれ取得し、これらの検出結果を操作部材200の位置を示す第一位置情報として検出しても構わない。
【0017】
第二動作装置120は、操作部材200の位置を第一動作装置110とは異なる方向に変化させる装置であり、第二変位機構121と、第二電動駆動源122と、第二検出手段(不図示)と、を備えている。
【0018】
第二変位機構121は、第一変位機構111とは異なる方向に操作部材200の位置を変化させる機構である。本実施の形態の場合、第二変位機構121は、車両の幅方向(図中X軸方向)に延在する第一回転軸123を中心に中間移動体114に対して先端移動体115を回転させ、操作部材200を運転者210に対して上下させるいわゆるチルト機構である。
【0019】
第二電動駆動源122は、第二変位機構121を動作させる駆動力を発生させる装置である。本実施の形態の場合、第二電動駆動源122は、三相のブラシレスモータである。第二電動駆動源122は、先端移動体115に取り付けられている。なお、第二電動駆動源122は、中間移動体114に取り付けられていても構わない。
【0020】
第二検出手段は、第二変位機構121による操作部材200の位置を示す第二位置情報を検出する装置である。第二検出手段の種類は特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、第二検出手段の種類は第一検出手段と同じである。
【0021】
第三動作装置130は、操作部材200の位置を第一動作装置110、および第二動作装置120とは異なる方向に変化させる装置であり、第三変位機構131と、第三電動駆動源132と、第三検出手段(不図示)と、を備えている。
【0022】
第三変位機構131は、第一変位機構111、および第二変位機構121とは異なる方向に操作部材200の位置を変化させる機構である。本実施の形態の場合、第三変位機構131は、操作部材200の回転方向に交差する方向であって車両の幅方向(図中X軸方向)に延在する回転軸を中心に第一変位機構111の先端移動体115に対して操作部材200を回転させ、ダッシュボード220内に収納しやすい位置に操作部材200の位置を変化させる機構である。
【0023】
第三電動駆動源132は、第三変位機構131を動作させる駆動力を発生させる装置である。本実施の形態の場合、第三電動駆動源132は、三相のブラシレスモータである。
【0024】
第三検出手段は、第三変位機構131による操作部材200の位置を示す第三位置情報を検出する装置である。第三検出手段の種類は特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、第三検出手段の種類は第一検出手段と同じである。
【0025】
第四動作装置140は、操作部材200の位置(姿勢)を第一動作装置110、第二動作装置120、および第三動作装置130とは異なる方向に変化させる装置であり、第四変位機構(不図示)と、第四電動駆動源142と、第四検出手段(不図示)と、を備えている。
【0026】
第四変位機構は、操作部材200を回転可能に第四電動駆動源142と連結する回転軸体、および回転軸体を回転可能に保持する軸受などを備えている。なお、操作部材200が円環状であるため、第四変位機構は、操作部材200の位置として操作部材200の姿勢、つまり操作部材200の回転軸体周りの回転角を変化させる機構である。
【0027】
第四電動駆動源142は、操作部材200を回転軸体周りに回転させる駆動力を発生させるいわゆる反力モータである。本実施の形態の場合、第四電動駆動源142は、三相のブラシレスモータである。第四電動駆動源142は、例えば運転者210が操作部材200に付与する操作トルクに反し、機械式のステアリングにより得られる感覚を再現するようなトルクを発生させる。また、第四電動駆動源142は、収納に適した姿勢になるように操作部材200を回転させる。
【0028】
第四検出手段は、第四変位機構による操作部材200の位置(姿勢)を示す第四位置情報を検出する装置である。第四検出手段の種類は特に限定されるものではないが、第四電動駆動源142の回転角を検出する回転角検出装置、操作部材200の回転角を検出する回転角検出装置、および操作部材200に入力されるトルクセンサの少なくとも1つを含んでもよい。
【0029】
判断部150は、第一動作装置110の動作に関する情報である第一動作情報に基づき第一動作装置110に異常有りと判断し、かつ第二動作装置120の動作に関する情報である第二動作情報に基づき第二動作装置120に異常ありと判断した場合、第一動作装置110、および第二動作装置120に故障はないと判断する処理部である。
【0030】
判断部150が取得する第一動作情報は、第一動作装置110の動作などに関する情報であれば、特に限定されるものではない。第一動作情報は、第一電動駆動源112を動作させるための第一駆動情報、および第一検出手段から得られる第一位置情報の少なくとも1つを含んでいる。第一駆動情報は、例えば、第一電動駆動源112に電力を供給する第一インバータへの第一指令値、および第一電動駆動源112に供給する第一実電力値の少なくとも一方が含まれる。第一実電力値は、例えば第一電動駆動源112に供給する実電流値、実電圧値、およびデューティー比の少なくとも1つを用いて表される。
【0031】
第二動作情報は、第二動作装置120の動作などに関する情報であれば、特に限定されるものではない。第二動作情報は、第二電動駆動源122を動作させるための第二駆動情報、および第二検出手段から得られる第二位置情報の少なくとも1つを含んでいる。第二駆動情報には、例えば第二電動駆動源122に電力を供給する第二インバータへの第二指令値、および第二電動駆動源122に供給する第二実電力値の少なくとも一方が含まれる。なお、第三動作情報、および第四動作情報も第二動作情報と同様である。
【0032】
判断部150の判断手法は特に限定されるものではないが、例えば第一位置情報が所定の正常動作(
図3中の2点鎖線)ではない異常動作(
図3中の実線)を示した場合、第一動作装置110に異常有りと判断する。具体的には、第一位置情報が示す操作部材の変位が実質的な一定値を含む所定範囲内にある状態が所定期間継続した場合、判断部150は、第一動作装置110に異常有りと判断する。
【0033】
また、判断部150は、第一位置情報が所定範囲内にある状態が所定期間継続し、かつ第一動作情報に含まれる第一駆動情報が異常でない場合、第一検出手段に異常が発生したと判断してもよい。第一駆動情報が異常でない場合とは、例えば第一電動駆動源112に電力を供給する第一インバータへの第一指令値(指示電流値)が与えられているにもかかわらず第一電動駆動源112に供給する第一実電力値(実電流値)が第一指令値に追従していない場合などである。具体的には、第一指令値と第一実電力値との差分を取得して第二閾値に基づいて閾値判断し、差分が所定値を超えた場合、第一検出手段に異常が発生したと判断する。また、判断部150は、
図4の破線で示すように、第一指令値と第一実電力値の差分が前記所定値を超えず、前記第一実電力値が継続的に増加し、第一実電力値に対して定められた第一閾値を超えた場合は、第一動作装置110の動作に異常有りと判断する。
【0034】
判断部150は、第二動作装置120、第三動作装置130、および第四動作装置140に対しても同様の判断手法で異常の有無を判断することができる。なお、各動作装置における異常の有無判断の閾値などはそれぞれ異なる。
【0035】
動作制御部160は、判断部150が、第一動作装置110の動作異常の有無を判断するために、第一動作装置110の動作と伴っては動作しない第二動作装置120、第三動作装置130、および第四動作装置140の少なくとも1つに所定の動作をさせる処理部である。例えば動作制御部160は、所定の動作として第二動作装置120が停止している場合に動作させる、所定のストロークで振動させるなどの動作を第二動作装置120に実行させる。動作制御部160は、第一動作装置110に異常が発生した後に他の動作装置を動作させてもよく、異常が発生する前に他の装置を異常判断のために動作させても構わない。
【0036】
判断部150は、動作制御部160が所定の動作をさせた第二動作装置120の第二動作情報を取得して第二動作装置120に異常があるか否かを判断する。判断部150は、各動作装置が正常な状態において動作制御部160が各動作装置に所定の動作を実行させ、正常な状態の動作情報を取得し、記憶しても構わない。判断部150は、記憶している正常な状態の動作情報に基づき異常の有無を判断しても構わない。
【0037】
図5は、ステアリング装置の異常箇所の切り分けの流れを示すフローチャートである。本実施の形態の場合、第一動作装置110の異常発生箇所の切り分けを、第二動作装置120を用いて実施する場合を説明する。なお、判断される動作装置は、限定されるものではなく、判断に用いられる動作装置も限定されるものではない。
【0038】
第一動作装置110は、操作部材200を所定の位置に変位させる指令である第一動作指令を受信すると動作を開始する(S101)。第一動作装置110の動作中においては、判断部150は、第一検出手段から出力される第一位置情報をモニタリングして異常の有無を判断する(S102)。異常の発生がなく操作部材200が目標位置に到達すると処理は終了する(S103)。
【0039】
ステップS102にて第一動作装置110に異常があると判断された場合(S102:Yes)、判断部150は、第二動作情報を得るために他装置である第二動作装置120の動作が必要か否かを判断する(S104)。判断部150が、第二動作装置120に所定の動作をさせる必要があると判断した場合(S104:Yes)、動作制御部160は、所定の動作をするように第二動作装置120を制御する(S105)。
【0040】
次に判断部150は、第二動作情報に基づき第二動作装置120に異常が発生しているか否かを判断する(S106)。第二動作装置120に異常がある場合(S106:Yes)、判断部150は、操作部材200に運転者210、障害物が干渉していると判断し干渉情報を報知する(S107)。
【0041】
判断部150はさらに、第一駆動情報に基づき第一変位機構111に異常が発生しているか否かを判断する(S108)。例えば
図4に示すように、第一動作情報に含まれる第一電動駆動源112を動作させるための第一駆動情報が電力閾値を超えた場合、具体的には、第一駆動情報に含まれる実電流値が電流閾値を越えた場合、操作部材200への干渉の可能性はステップS106で除外されているため、判断部150は、第一変位機構111に故障が発生したとして異常有りと判断する(S108:Yes)。第一変位機構111が故障した場合とは、例えば第一変位機構111が備え噛み合っているギアの間、スクリューシャフトとナットとの間などへ異物が噛み込み、第一変位機構111が動作しなくなった状態などである。判断部150は、判断結果である第一変位機構111の故障情報を報知する(S109)。
【0042】
判断部150は、第一変位機構111に故障無し、と判断した場合(S108:No)、第一検出手段の故障情報を報知する(S110)。なお、判断部150は、さらに第一駆動情報に含まれる指示電流値と実電流値との差分が第二閾値以上となった場合、第一検出手段の故障を確認しても構わない。
【0043】
本実施の形態に係るステアリング装置100によれば、異常発生箇所の切り分けにのみ用いられる検出装置などを用いることなく、操作部材200を指定の位置に変位させるために用いられる駆動情報、および位置情報を異常判断装置151が取得し、判断部150が判断することにより、操作部材200に外力が入力されていることによる異常か、変位機構の故障による異常か、検出手段の故障による異常かを切り分けることができる。
【0044】
また、故障箇所を切り分けるための情報が不足している場合、動作制御部160が異常を検出した動作装置以外の動作装置を動作させることにより、判断部150は必要な情報を得ることが可能となる。
【0045】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて、また、構成要素のいくつかを除外して実現される別の実施の形態を本発明の実施の形態としてもよい。また、上記実施の形態に対して本発明の主旨、すなわち、請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本発明に含まれる。
【0046】
例えば、ステアリング装置100は、ステアバイワイヤではなく、転舵輪と操作部材200とが機械的に接続されたステアリングに用いられても構わない。例えば、運転者210の体格に応じて操作部材200の位置を電動モータの駆動力を用いて変化させるステアリング装置100であってもよい。
【0047】
また、車両の幅方向に延在し移動方向と交差する回転軸周りに操作部材200が回転して格納される場合を説明したが、第四動作装置140を備えずに操作部材200の姿勢を維持したままダッシュボード220内に埋没する場合など、操作部材200の格納状態は限定されるものではない。
【0048】
また、
図6に示すように、第一動作装置110の異常の切り分けをするために、動作制御部160は、事前に第二動作装置120を動作させても構わない。なお、
図5と同じ処理(ステップ)に関しては同じ番号を附し、説明を省略する場合がある。
【0049】
第一動作装置110は、第一動作指令に基づき動作を開始する(S101)。動作制御部160は、第一動作装置110の動作に基づき第二動作装置120が所定の動作をするように第二動作装置120を制御する(S105)。
【0050】
第一動作装置110の動作中においては、判断部150は、第一検出手段から出力される第一位置情報をモニタリングして異常の有無を判断する(S102)。異常の発生がなく操作部材200が目標位置に到達すると処理は終了する(S103)。
【0051】
ステップS102にて第一動作装置110に異常があると判断された場合(S102:Yes)、判断部150は、第二動作情報に基づき第二動作装置120に異常が発生しているか否かを判断する(S106)。
【0052】
また、第一動作装置110に伴って第二動作装置120が動作する場合、
図7に示すように、動作制御部160による制御ステップ(S105)を経ることなく、第二動作装置120の異常の有無などに基づき異常発生箇所の切り分けを行っても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、操作部材の位置を電動で変化させることのできるステアリング装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0054】
100…ステアリング装置、110…第一動作装置、111…第一変位機構、112…第一電動駆動源、120…第二動作装置、121…第二変位機構、122…第二電動駆動源、130…第三動作装置、131…第三変位機構、132…第三電動駆動源、140…第四動作装置、142…第四電動駆動源、150…判断部、151…異常判断装置、160…動作制御部、200…操作部材、210…運転者、220…ダッシュボード