(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】ステアリング装置、駆動源制御方法、および駆動源制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B62D 1/181 20060101AFI20231108BHJP
B62D 1/183 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
B62D1/181
B62D1/183
(21)【出願番号】P 2020109997
(22)【出願日】2020-06-25
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】北原 圭
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 健
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 創
(72)【発明者】
【氏名】枝元 祥馬
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-047542(JP,A)
【文献】特開2002-154449(JP,A)
【文献】特開平03-125667(JP,A)
【文献】特開2019-182041(JP,A)
【文献】特開2019-130938(JP,A)
【文献】特開2017-071251(JP,A)
【文献】特開2016-050411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/181
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者が操作する操作部材の位置を変化させる変位機構、および前記変位機構を動作させる電動駆動源を備える動作装置と、
前記電動駆動源を動作させる電力に関する情報である駆動情報を積算し積算駆動情報を生成する情報積算部と、
前記積算駆動情報に基づき前記変位機構による前記操作部材の推定位置を位置モデルにより算出する位置推定部と、
前記位置推定部により算出された推定位置に基づき前記電動駆動源を制御する動作制御部と、
を備えるステアリング装置。
【請求項2】
前記動作制御部は、
前記推定位置が目標位置に追従するよう電動駆動源を制御する
請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記変位機構による前記操作部材の位置を示す実位置情報を検出する検出手段と、
前記検出手段の異常の有無を判断する判断部と、を備え、
前記動作制御部は、
前記判断部が前記検出手段に異常があると判断した場合、前記推定位置に基づき前記電動駆動源を制御する
請求項1または2に記載のステアリング装置。
【請求項4】
前記判断部は、
前記実位置情報が所定範囲内にある状態が所定期間継続し、前記動作装置の動作に関する情報である動作情報に含まれる前記電動駆動源を動作させるための駆動情報が異常でない場合、前記検出手段に異常が発生したと判断する
請求項3に記載のステアリング装置。
【請求項5】
複数の動作装置を備える場合であって、
前記判断部は、
前記実位置情報が所定範囲内にある状態が所定期間継続し、判断対象とは別の動作装置の動作情報が異常である場合、前記検出手段は正常であると判断する
請求項3に記載のステアリング装置。
【請求項6】
前記位置推定部は、
前記実位置情報、および前記駆動情報に基づき前記位置モデルを更新する
請求項3から5のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項7】
前記位置推定部は、
前記判断部が前記検出手段に異常があると判断した場合、前記位置モデルの更新を中断する
請求項3から6のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項8】
ステアリング装置において、運転者が操作する操作部材の位置を変化させる変位機構、および前記変位機構を動作させる電動駆動源を備える動作装置の前記電動駆動源を制御する駆動源制御方法であって、
前記電動駆動源を動作させる電力に関する情報である駆動情報を積算し積算駆動情報を情報積算部が生成し、
前記積算駆動情報に基づき前記変位機構による前記操作部材の推定位置を位置モデルにより位置推定部が算出し、
前記位置推定部により算出された推定位置に基づき前記電動駆動源を動作制御部が制御する
駆動源制御方法。
【請求項9】
請求項8に記載の駆動源制御方法をコンピュータに実現させる駆動源制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動で操作部材の位置が変化するステアリング装置、駆動源制御方法、および駆動源制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の自動運転においてシステムが全責任をもつ自動運転レベル4以上の状態では、運転者が車両の操作に責任を持つ必要が無く、ステアリングホイールなどの操作部材を持つ必要がなくなる。従って自動運転時にステアリングホイールが移動し運転者の前方の空間が広く確保されれば運転者の快適性を高めることが出来る。そのため、自動運転時にはステアリングホイールを車両の前側の退避場所に移動させる技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、操作部材を軸方向に移動させる場合、操作部材の位置をセンサにより検出し、操作部材の実際の位置が目標位置となるようフィードバック制御を行っている。しかし、センサに異常が発生した時にはフィードバック制御を継続することができず、操作部材が目標の位置に到達できない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、センサに依存することなく操作部材を目標位置に配置することができるステアリング装置、駆動源制御方法、および駆動源制御プログラムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の1つであるステアリング装置は、運転者が操作する操作部材の位置を変化させる変位機構、および前記変位機構を動作させる電動駆動源を備える動作装置と、前記電動駆動源を動作させる電力に関する情報である駆動情報を積算し積算駆動情報を生成する情報積算部と、前記積算駆動情報に基づき前記変位機構による前記操作部材の推定位置を位置モデルにより算出する位置推定部と、前記位置推定部により算出された推定位置に基づき前記電動駆動源を制御する動作制御部と、を備える。
【0007】
また、本発明の他の1つである駆動源制御方法は、ステアリング装置において、運転者が操作する操作部材の位置を変化させる変位機構、および前記変位機構を動作させる電動駆動源を備える動作装置の前記電動駆動源を制御する駆動源制御方法であって、前記電動駆動源を動作させる電力に関する情報である駆動情報を積算し積算駆動情報を情報積算部が生成し、前記積算駆動情報に基づき前記変位機構による前記操作部材の推定位置を位置モデルにより位置推定部が算出し、前記位置推定部により算出された推定位置に基づき前記電動駆動源を動作制御部が制御する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、操作部材の位置を検出する検出手段の出力によらず電動駆動源を制御して操作部材を目標位置に配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施の形態1に係るステアリング装置の機能構成を機構構成とともに示すブロック図である。
【
図2】
図2は、移動する操作部材の各段階を別々に示す図である。
【
図3】
図3は、実施の形態1に係る制御における情報の流れの制御例2を示すブロック線図である。
【
図4】
図4は、実施の形態2に係るステアリング装置の機能構成を機構構成とともに示すブロック図である。
【
図5】
図5は、変位機構に異常が発生したと判断される状態を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施の形態2に係る情報の流れを示すブロック線図である。
【
図7】
図7は、位置モデルの更新の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明に係るステアリング装置、駆動源制御方法、および駆動源制御プログラムの実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の位置関係、および接続状態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下では複数の発明を一つの実施の形態として説明する場合があるが、請求項に記載されていない構成要素については、その請求項に係る発明に関しては任意の構成要素であるとして説明している。また、図面は、本発明を説明するために適宜強調や省略、比率の調整を行った模式的な図となっており、実際の形状や位置関係、比率とは異なる場合がある。
【0011】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係るステアリング装置の機能構成を機構構成とともに示すブロック図である。ステアリング装置100は、搭載された車両の転舵輪を転舵するための操作部材200を運転者210に対して移動させることができる装置であって、動作装置と、情報積算部170と、位置推定部180と、動作制御部160と、を備えている。本実施の形態1の場合、ステアリング装置100は、動作装置として第一動作装置110、第二動作装置120、第三動作装置130、および第四動作装置140を備えている。
【0012】
本実施の形態1の場合、ステアリング装置100は、操作部材200と車両の転舵輪とが機械的に接続されず、操作部材200の操作量を示す信号に基づき転舵輪を転舵させるいわゆるステアバイワイヤ(SBW)システムに用いられる装置である。動作制御部160、情報積算部170、および位置推定部180は、プログラムをコンピュータである駆動源制御装置151に実行させることにより実現されている。
【0013】
操作部材200は、ステアリング装置100が搭載される車両の転舵輪を転舵させるために運転者210が操作する部材である。操作部材200の形状は、特に限定されるものではない。本実施の形態1の場合、いわゆるステアリングホイールと称される円環状の部材を操作部材200として採用しているが、操作部材200は、矩形の環状や棒状などでも構わない。
【0014】
第一動作装置110は、運転者210が操作する操作部材200の位置を所定の一方向(図中Y軸方向)に変化させる装置であり、第一変位機構111と、第一電動駆動源112と、を備えている。
【0015】
変位機構の1つである第一変位機構111は、運転者210が操作する操作部材200の位置を変化させる機構のうちの1つである。本実施の形態1の場合、第一変位機構111は、
図1、
図2に示すように、操作部材200を車両の前方(図中Y+側)、または後方(図中Y-側)に移動させる出退機構であり、複数段階の伸縮機構を備えている。具体的に第一変位機構111は、車両に固定される基礎レール113と、基礎レール113に案内されて車両の前後方向に移動する中間移動体114と、中間移動体114に案内されて車両の前後方向に移動する先端移動体115とを備えている。第一変位機構111は、操作部材200を運転者210に向かって進出させ、また車両のダッシュボード220に向かって後退させることができる。ステアリング装置100が搭載される車両は、特定の場所でシステムが全てを操作することができる自動運転車であり、第一変位機構111は、
図2のcの段に示すように、操作部材200をダッシュボード220内にまで後退させることができる。また、第一変位機構111自体もダッシュボード220内にまで縮むことができるものとなっている。
【0016】
電動駆動源の1つである第一電動駆動源112は、第一変位機構111を動作させる駆動力を発生させる装置である。本実施の形態1の場合、第一電動駆動源112は、三相のブラシレスモータであり、インバータから供給されるパルス状の電力により回転する電動モータである。第一電動駆動源112は、中間移動体114に取り付けられている。第一電動駆動源112は、基礎レール113に対する中間移動体114の推進力を発生させ、かつ中間移動体114に対する先端移動体115の推進力を発生させる。なお、第一電動駆動源112が取り付けられる位置は、特に限定されるものではない。また、第一電動駆動源112を複数備え、中間移動体114、および先端移動体115を別々に駆動しても構わない。
【0017】
第二動作装置120は、操作部材200の位置を第一動作装置110とは異なる方向に変化させる装置であり、第二変位機構121と、第二電動駆動源122と、を備えている。
【0018】
変位機構の1つである第二変位機構121は、第一変位機構111とは異なる方向に操作部材200の位置を変化させる機構である。本実施の形態1の場合、第二変位機構121は、車両の幅方向(図中X軸方向)に延在する第一回転軸123を中心に中間移動体114に対して先端移動体115を回転させ、操作部材200を運転者210に対して上下させるいわゆるチルト機構である。
【0019】
電動駆動源の1つである第二電動駆動源122は、第二変位機構121を動作させる駆動力を発生させる装置である。本実施の形態1の場合、第二電動駆動源122は、三相のブラシレスモータである。第二電動駆動源122は、先端移動体115に取り付けられている。なお、第二電動駆動源122は、中間移動体114に取り付けられていても構わない。
【0020】
第三動作装置130は、操作部材200の位置を第一動作装置110、および第二動作装置120とは異なる方向に変化させる装置であり、第三変位機構131と、第三電動駆動源132と、を備えている。
【0021】
変位機構の1つである第三変位機構131は、第一変位機構111、および第二変位機構121とは異なる方向に操作部材200の位置を変化させる機構である。本実施の形態1の場合、第三変位機構131は、操作部材200の回転方向に交差する方向であって車両の幅方向(図中X軸方向)に延在する回転軸を中心に第一変位機構111の先端移動体115に対して操作部材200を回転させ、ダッシュボード220内に収納しやすい位置に操作部材200の位置を変化させる機構である。
【0022】
電動駆動源の1つである第三電動駆動源132は、第三変位機構131を動作させる駆動力を発生させる装置である。本実施の形態1の場合、第三電動駆動源132は、三相のブラシレスモータである。
【0023】
第四動作装置140は、操作部材200の位置(姿勢)を第一動作装置110、第二動作装置120、および第三動作装置130とは異なる方向に変化させる装置であり、第四変位機構(不図示)と、第四電動駆動源142と、を備えている。
【0024】
変位機構の1つである第四変位機構は、操作部材200を回転可能に第四電動駆動源142と連結する回転軸体、および回転軸体を回転可能に保持する軸受などを備えている。なお、操作部材200が円環状であるため、第四変位機構は、操作部材200の位置として操作部材200の姿勢、つまり操作部材200の回転軸体周りの回転角を変化させる機構である。
【0025】
電動駆動源の1つである第四電動駆動源142は、操作部材200を回転軸体周りに回転させる方向に動作させる駆動力を発生させるいわゆる反力モータである。本実施の形態1の場合、第四電動駆動源142は、三相のブラシレスモータである。第四電動駆動源142は、例えば運転者210が操作部材200に付与する操作トルクに反し、機械式のステアリングにより得られる感覚を再現するようなトルクを発生させる。また、第四電動駆動源142は、収納に適した姿勢になるように操作部材200を回転させる。
【0026】
情報積算部170は、電動駆動源を動作させる電力に関する情報である駆動情報を積算し積算駆動情報を生成する処理部である。本実施の形態1の場合、電動駆動源の制御として第一電動駆動源112の制御を例示する。なお、電動駆動源の制御は、第一電動駆動源112の制御に限定されるものではなく、ステアリング装置100が備える電動駆動源の少なくとも1つの制御であればよい。
【0027】
駆動情報の1つである第一駆動情報は、例えば、第一電動駆動源112に電力を供給する第一インバータへの第一指令値、および第一電動駆動源112に供給する第一実電力値の少なくとも一方が含まれる。また、第一実電力値は、例えば第一電動駆動源112に供給する実電流値、実電圧値、およびデューティー比の少なくとも1つを用いて表される。
【0028】
積算駆動情報の1つである第一積算駆動情報は、例えば操作部材200が所定の基準位置に配置された状態から第一駆動情報を積算する。積算方法は、特に限定されるものではなく、たとえば積分器により第一駆動情報を蓄積してもかまわない。本実施の形態1の場合、情報積算部170は、第一電流指令値、および第一実電流値の少なくとも一方を時間積分することにより第一積算駆動情報を生成している。
【0029】
位置推定部180は、積算駆動情報に基づき変位機構による操作部材200の推定位置を位置モデルにより算出する。操作部材200の位置を推定するモデルは、特に限定されるものではないが、例えば第一変位機構111をモデル化した伝達関数、ニューラルネットワークなどを備える人工知能などを例示できる。また、位置推定部180は、種類やパラメータ値などが相互に異なる複数の位置モデルを備えてもよい。例えば位置推定部180は、操作部材200を運転者210に近づける進出時の位置推定に用いられる第一位置モデルと、運転者210から遠ざかる後退時の位置推定に用いられる第二位置モデルを用いて操作部材200の位置を推定してもよい。
【0030】
動作制御部160は、位置推定部180により算出された推定位置に基づき電動駆動源を制御する。動作制御部160の制御方法は、限定されるものではなく、例えば、位置推定部180から取得した推定位置が目標位置になると、電動駆動源をオフにする制御を動作制御部160の制御例1として示すことができる。
【0031】
図3は、実施の形態1に係る制御における情報の流れの制御例2を示すブロック線図である。制御例2の場合、動作制御部160は、積算駆動情報に基づき位置推定部180が推定した推定位置が目標位置に追従するよう電動駆動源を制御するいわゆるフィードバック制御を行っている。
【0032】
実施の形態1に係るステアリング装置100によれば、ステアリング装置100に検出手段を備えることなく操作部材200を目標位置に配置することができる。
【0033】
(実施の形態2)
ステアリング装置100の実施の形態2について説明する。なお、前記実施の形態1と同様の作用や機能、同様の形状や機構や構造を有するもの(部分)には同じ符号を付して説明を省略する場合がある。また、以下では実施の形態1と異なる点を中心に説明し、同じ内容については説明を省略する場合がある。
【0034】
図4は、実施の形態2に係るステアリング装置の機能構成を機構構成とともに示すブロック図である。実施の形態2に係るステアリング装置100は、実施の形態1のステアリング装置100の構成に加えて、検出手段として第一検出手段(不図示)と、第二検出手段(不図示)と、第三検出手段(不図示)と、第四検出手段(不図示)と、判断部150とを備えている。
【0035】
検出手段の1つである第一検出手段は、第一変位機構111による操作部材200の位置を示す実位置情報を検出する装置である。第一検出手段の種類は特に限定されるものではないが、本実施の形態1の場合、第一電動駆動源112に設けられ、第一電動駆動源112の回転角を検出する、ロータリーエンコーダやレゾルバなどの回転角検出装置である。なお、第一検出手段は、第一変位機構111に取り付けられたリニアエンコーダなどでも構わない。なお、複数の第一電動駆動源112が存在する場合、第一検出手段は中間移動体114、および先端移動体115の位置をそれぞれ取得し、これらの検出結果を操作部材200の位置を示す第一位置情報として検出しても構わない。
【0036】
検出手段の1つである第二検出手段は、第二変位機構121による操作部材200の位置を示す第二実位置情報を検出する装置である。第二検出手段の種類は特に限定されるものではないが、本実施の形態1の場合、第二検出手段の種類は第一検出手段と同じである。
【0037】
検出手段の1つである第三検出手段は、第三変位機構131による操作部材200の位置を示す第三実位置情報を検出する装置である。第三検出手段の種類は特に限定されるものではないが、本実施の形態1の場合、第三検出手段の種類は第一検出手段と同じである。
【0038】
検出手段の1つである第四検出手段は、第四変位機構による操作部材200の位置(姿勢)を示す第四実位置情報を検出する装置である。第四検出手段の種類は特に限定されるものではないが、第四電動駆動源142の回転角を検出する回転角検出装置、操作部材200の回転角を検出する回転角検出装置、および操作部材200に入力されるトルクセンサの少なくとも1つを含んでもよい。
【0039】
判断部150は、検出手段の異常の有無を判断する。判断部150の判断手法は特に限定されるものではないが、本実施の形態2の場合、検出手段から得られた実位置情報が所定範囲内にある状態が所定期間継続し、動作装置の動作情報に含まれる電動駆動源を動作させるための駆動情報が異常でない場合、検出手段に異常が発生したと判断する。
【0040】
判断部150の具体的な判断手法は特に限定されるものではないが、例えば判断部150は、実位置情報が所定範囲内にある状態が所定期間継続し、かつ第一動作情報に含まれる第一駆動情報が異常でない場合、第一検出手段に異常が発生したと判断してもよい。第一駆動情報が異常でない場合とは、例えば第一電動駆動源112に電力を供給する第一インバータへの第一指令値(指示電流値)が与えられているにもかかわらず第一電動駆動源112に供給する第一実電力値(実電流値)が第一指令値に追従していない場合などである。具体的には、第一指令値と第一実電力値との差分を取得して第二閾値に基づいて閾値判断し、差分が所定値を超えた場合、第一検出手段に異常が発生し、報が異常ではなく、第一検出手段に異常が発生したと判断する。また、判断部150は、
図5の破線で示すように、第一指令値と第一実電力値の差分が前記所定値を越えず、前記第一実電力値が継続的に増加し、第一実電力値に対して定められた第一閾値を超えた場合は、第一動作装置110の動作に異常有りと判断する。
【0041】
また、判断部150は、第一実位置情報が所定範囲内にある状態が所定期間継続し、判断対象である第一動作装置110とは別の動作装置の動作情報が異常であると判断する場合、第一検出手段は正常であると判断してもよい。これは、他の動作装置にも異常があると判断する場合、運転者210などが操作部材200に干渉して力を加えている状態であることが推定でき、第一検出手段には異常が発生していないと考えられるからである。
【0042】
判断部150は、第二検出手段、第三検出手段、および第四検出手段に対しても同様の判断手法で異常の有無を判断することができる。なお、各動作装置における異常の有無判断の閾値などはそれぞれ異なる。
【0043】
図6は、実施の形態2に係る情報の流れを示すブロック線図である。動作制御部160は、判断部150が上記の手法により検出手段103に異常があると判断した場合、入力切り替え器161を用いて情報の取得先を検出手段103から推定位置に切り替える。情報の取得先を切り替えた後は、動作制御部160は、推定位置基づき電動駆動源を制御する。
【0044】
位置推定部180は、検出手段から取得する実位置情報、および駆動情報に基づき位置推定部180が備える位置モデルを更新する。また、位置推定部180は、判断部150が検出手段103に異常があると判断した場合、位置モデルの更新を中断する。
【0045】
図7は、位置モデルの更新の流れを示すフローチャートである。本実施の形態2の場合位置モデルの更新は、操作部材200の変位の完了後に実行される(S101:Yes)。つまり、第一動作装置110による操作部材200の移動が完了すると、判断部150は、第一動作情報に外乱による情報が付加されているか否かを判断する(S102)。外乱とは、例えば運転者210が移動中の操作部材200に対し力を加えた場合などである。
【0046】
判断部150が、外乱ありと判断した場合(S102:Yes)、更新処理は実行されずに終了する。判断部150が、外乱無し、と判断した場合(S102:No)、位置推定部180は、更新処理を実行する(S103)。
【0047】
具体的な更新方法は、採用される位置モデルによって異なるものであり、限定されるものではない。例えば位置モデルが変位機構をモデル化した伝達関数の場合、位置推定部180は、入力された情報、および出力した情報に基づきパラメータの値を更新する。また、位置モデルが人工知能の場合、入力された情報、および出力した情報を入力ベクトルとして人工知能に与え学習により位置モデルを更新する。
【0048】
動作装置の動作完了の度に位置モデルを更新することにより、気温の変化や経年劣化などによる変化機構の状態の変化を適切に反映させた位置モデルとすることができる。
【0049】
本実施の形態2に係るステアリング装置100によれば、異常の発生により検出手段の出力に基づく制御から推定位置に基づく制御に切り替えることができる。従って、冗長化のために複数のセンサを配置しなくとも、検出手段異常時の保証を推定位置により実行することができる。
【0050】
また、異常発生の有無の判断も、操作部材200を指定の位置に変位させるために用いられる駆動情報、および位置情報に基づき判断するため、部品点数の上昇を抑制できる。
【0051】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて、また、構成要素のいくつかを除外して実現される別の実施の形態を本発明の実施の形態としてもよい。また、上記実施の形態に対して本発明の主旨、すなわち、請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本発明に含まれる。
【0052】
例えば動作制御部160は、判断部150が、第一動作装置110の動作に異常有りと判断した場合、第二動作装置120、第三動作装置130、および第四動作装置140の少なくとも1つに所定の動作をさせてもよい。例えば動作制御部160は、所定の動作として第二動作装置120が停止している場合に動作させる、所定のストロークで振動させるなどの動作を第二動作装置120に実行させる。これにより、判断部150は、動作制御部160が所定の動作をさせた第二動作装置120の第二動作情報を取得して第二動作装置120に異常があるか否かを判断し、第一動作装置110の状態を詳細に判断することが可能となる。
【0053】
また、ステアリング装置100は、ステアバイワイヤではなく、転舵輪と操作部材200とが機械的に接続されたステアリングに用いられても構わない。例えば、運転者210の体格に応じて操作部材200の位置を電動モータの駆動力を用いて変化させるステアリング装置100であってもよい。
【0054】
また、車両の幅方向に延在し移動方向と交差する回転軸周りに操作部材200が回転して格納される場合を説明したが、第四動作装置140を備えずに操作部材200の姿勢を維持したままダッシュボード220内に埋没する場合など、操作部材200の格納状態は限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、操作部材の位置を電動で変化させることのできるステアリング装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0056】
100…ステアリング装置、103…検出手段、110…第一動作装置、111…第一変位機構、112…第一電動駆動源、120…第二動作装置、121…第二変位機構、122…第二電動駆動源、130…第三動作装置、131…第三変位機構、132…第三電動駆動源、140…第四動作装置、142…第四電動駆動源、150…判断部、151…駆動源制御装置、160…動作制御部、161…器、170…情報積算部、180…位置推定部、200…操作部材、210…運転者、220…ダッシュボード