(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】アルミニウム心線用防食端子材とその製造方法、及び防食端子並びに電線端末部構造
(51)【国際特許分類】
C25D 5/50 20060101AFI20231108BHJP
C25D 5/10 20060101ALI20231108BHJP
C25D 5/12 20060101ALI20231108BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20231108BHJP
H01B 7/28 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
C25D5/50
C25D5/10
C25D5/12
H01B7/00 306
H01B7/28 F
(21)【出願番号】P 2020110986
(22)【出願日】2020-06-26
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】玉川 隆士
(72)【発明者】
【氏名】久保田 賢治
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-011504(JP,A)
【文献】国際公開第2018/139628(WO,A1)
【文献】特開2016-166397(JP,A)
【文献】特開2018-147777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/50
C25D 5/10
C25D 5/12
H01B 7/00
H01B 7/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面が銅又は銅合金からなる基材と、該基材の上の少なくとも一部に防食皮膜が形成されており、該防食皮膜は、錫合金からなる中間合金層と、該中間合金層の上に形成された亜鉛又は亜鉛合金からなる亜鉛層と、該亜鉛層の上に形成され、亜鉛を含む錫合金からなる錫亜鉛合金層とを有し、
前記中間合金層は、錫の含有量が90at%以下であることを特徴とするアルミニウム心線用防食端子材。
【請求項2】
前記中間合金層は、銅錫合金層であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム心線用防食端子材。
【請求項3】
前記中間合金層は、ニッケル錫合金層であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム心線用防食端子材。
【請求項4】
前記中間合金層と前記亜鉛層との間にニッケル又はニッケル合金からなる中間ニッケル層が形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のアルミニウム心線用防食端子材。
【請求項5】
前記錫亜鉛合金層と前記亜鉛層との全体における錫の単位面積当たりの含有量は0.5mg/cm
2以上7.0mg/cm
2であり、亜鉛の単位面積当たりの含有量は0.07mg/cm
2以上2.0mg/cm
2以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のアルミニウム心線用防食端子材。
【請求項6】
前記防食皮膜は前記基材の上の一部に設けられているとともに、該防食皮膜が設けられていない部分に第1皮膜が設けられており、該第1皮膜は、前記基材の上に、前記中間合金層と、該中間合金層の上に形成された錫又は前記中間合金層と異なる組成の錫合金からなる第1錫層とを有し、前記防食皮膜には、前記中間合金層の上に前記第1錫層を有しないことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のアルミニウム心線用防食端子材。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のアルミニウム心線用防食端子材からなることを特徴とするアルミニウム心線用防食端子。
【請求項8】
請求項7記載のアルミニウム心線用防食端子がアルミニウム又はアルミニウム合金からなる電線の端末に圧着されていることを特徴とする電線端末部構造。
【請求項9】
請求項1から6のいずれか一項に記載のアルミニウム心線用防食端子材の製造方法であって、
少なくとも表面が銅又は銅合金からなる基材の上に複数のめっき層を積層して、合金化工程を経ることにより、錫合金からなる中間合金層と、該中間合金層の上の錫又は前記中間合金層と異なる組成の錫合金からなる第1錫層とを有する第1皮膜を形成する第1皮膜形成工程と、
該第1皮膜のうちの前記第1錫層を除去する錫層除去工程と、
前記第1錫層が除去された後の前記中間合金層の上に亜鉛又は亜鉛合金からなる亜鉛層と、錫又は錫合金からなる第2錫層とを順に形成する防食皮膜形成工程と
を有することを特徴とするアルミニウム心線用防食端子材の製造方法。
【請求項10】
前記中間合金層は、銅錫合金層であることを特徴とする請求項9に記載のアルミニウム心線用防食端子材の製造方法。
【請求項11】
前記中間合金層は、ニッケル錫合金層であることを特徴とする請求項9に記載のアルミニウム心線用防食端子材の製造方法。
【請求項12】
前記錫
層除去工程では、前記第1錫層の一部を除去し、該第1錫層を除去しなかった部分の表面は前記第1皮膜の表面を露出させた状態に維持することを特徴とする請求項9から11のいずれか一項に記載のアルミニウム心線用防食端子材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム心線からなる電線の端末に圧着される端子として、腐食防止効果の高い防食端子材とその製造方法、及びその端子材からなる防食端子、並びにその端子を用いた電線端末部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、銅又は銅合金で構成されている電線の端末部に、銅又は銅合金で構成された端子を圧着し、この端子を機器に設けられた端子に接続することにより、その電線を機器に接続することが行われている。また、電線の軽量化等のために、電線の心線を、銅又は銅合金に代えて、アルミニウム又はアルミニウム合金で構成している場合がある。
例えば、特許文献1には、アルミニウム合金からなる自動車ワイヤーハーネス用アルミ電線が開示されている。
【0003】
ところで、電線(導線)をアルミニウム又はアルミニウム合金で構成し、端子を銅又は銅合金で構成すると、水が端子と電線との圧着部に入ったときに、異金属の電位差による電食が発生することがある。そして、その電線の腐食に伴い、圧着部での電気抵抗値の上昇や圧着力の低下が生ずるおそれがある。
【0004】
この腐食の防止法としては、例えば特許文献2記載のものがある。
特許文献2には、被覆電線の端末領域において、端子金具の一方端に形成されるかしめ部が被覆電線の被覆部分の外周に沿ってかしめられ、少なくともかしめ部の端部露出領域及びその近傍領域の全外周をモールド樹脂により完全に覆っているワイヤーハーネスの端末構造が開示されている。
しかし、この方法は端子加工後に樹脂モールドする工程が必要となり、作業工程が増えるため、生産性が低下し、製造コストが高くなる。さらに、樹脂による端子断面積増加によりワイヤーハーネスの小型化が妨げられるという問題があった。
【0005】
一方、端子加工後の追加工程がない防食法として表面処理法を用いたものとして、例えば、特許文献3、特許文献4や特許文献5記載のものがある。
特許文献3に記載の端子材は、銅又は銅合金からなる基材と、該基材の上に形成された接点特性皮膜と、該接点特性皮膜の一部の上に形成された防食皮膜とを有し、接点特性皮膜は、表面にリフロー処理された錫又は錫合金からなる第一錫層が形成されており、前記防食皮膜は、接点特性皮膜の上に、亜鉛及びニッケルを含有する亜鉛ニッケル合金層と、該亜鉛ニッケル合金層の上に形成された錫又は錫合金からなる第二錫層と、該第二錫層の上に形成された金属亜鉛層とがこの順に積層されている。
【0006】
特許文献4に記載の端子材は、銅または銅合金からなる基材の表面にSn含有層が形成されたSnめっき材において、Sn含有層がCu-Sn合金層とこのCu-Sn合金層の表面に形成された厚さ5μm以下のSnからなるSn層とから構成され、Sn含有層の表面にNiめっき層が形成され、このNiめっき層の表面に最表層としてZnめっき層が形成されている。
【0007】
これらはいずれも、端子部材として端子接点の接続信頼性と電線かしめ部の防食性を両立する必要があるため、端子接点部には錫層を表面に有する錫めっき材が、電線かしめ部にはその錫層の上に亜鉛層が形成された構造となっている。
電線かしめ部において、形成された亜鉛層は、この金属亜鉛の腐食電位がアルミニウムと近いので、アルミニウム製心線と接触した場合の電食の発生を抑えることができる。
一方で、金属亜鉛層が錫層の表面に存在すると、高温高湿や腐食性ガスなどの腐食環境下において接続信頼性が損なわれることがある。このため、防食皮膜が形成されていない部分については、第一錫層を表面に有する接点特性皮膜とし、腐食環境に曝された際も接触抵抗の上昇を抑えることが可能となる。
【0008】
しかしながら、亜鉛層と錫層は密着性が悪く、特許文献3、4はいずれも密着性を改善するために、錫層の表面を脱脂及び活性化処理し、その後、錫層の上にニッケルストライクめっきを施している。
これは、錫の酸化物が亜鉛層との密着を阻害するため、表面活性化処理あるいはニッケル(ストライク)めっき等の表面を活性化(錫の酸化膜除去)処理を施すものである。
【0009】
また、亜鉛層と錫層との密着性を向上させるため、特許文献5に記載の端子材では、最表層として錫層を有する銅または銅合金素材からなる板材の表面を、被処理面積率が75%以上であり、かつ算術平均粗さRaが0.2μm以上3.0μm以下となるようにブラスト処理するブラスト処理工程と、ブラスト処理されたSn層の表面に、溶射により、平均厚さが5μm以上80μm以下となるようにZnまたはZn合金層を形成する溶射工程とを施して製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2004-134212号公報
【文献】特開2011-222243号公報
【文献】特開2019-11503号公報
【文献】特開2018-90875号公報
【文献】特開2018-59147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
これらの手段は、表面活性化処理やブラスト処理が不十分な場合は錫層の上の亜鉛層が剥がれてしまうことが懸念される。
【0012】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたものであって、錫合金層の上に亜鉛層を積層した場合でも、めっきの密着性が良好なアルミニウム心線用防食端子材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のアルミニウム心線用防食端子材は、少なくとも表面が銅又は銅合金からなる基材と、該基材の上の少なくとも一部に防食皮膜が形成されており、該防食皮膜は、錫合金からなる中間合金層と、該中間合金層の上に形成された亜鉛又は亜鉛合金からなる亜鉛層と、該亜鉛層の上に形成され、亜鉛を含む錫合金からなる錫亜鉛合金層とを有し、前記中間合金層は、錫の含有量が90at%以下である。
【0014】
この防食端子は、表面の錫亜鉛合金層が亜鉛を含み、その下に亜鉛層を有しており、この亜鉛は錫よりもアルミニウムと腐食電位が近いので、アルミニウム製心線と接触した場合の電食の発生を抑えることができる。
また、中間合金層の上に錫層を介することなく亜鉛層が直接形成されているので、中間合金層と亜鉛層との密着性がよく、端子への厳しい加工を施した場合でも剥離が防止される。この場合、中間合金層中の錫の含有量が90at%を超えていると、中間合金層を形成した際に錫酸化膜が形成されやすく、その上に形成される亜鉛層が剥離しやすい。この中間合金層中の錫の含有量は65at%以下がより好ましい。
亜鉛層としては、純亜鉛の他に、亜鉛に、コバルト、ニッケル、鉄、モリブデン等を含む合金が適用でき、ニッケル亜鉛合金層が好適である。
【0015】
このアルミニウム心線用防食端子材において、前記中間合金層は、銅錫合金層又はニッケル錫合金層とすることができる。
【0016】
このアルミニウム心線用防食端子材において、前記中間合金層と前記亜鉛層との間にニッケル又はニッケル合金からなる中間ニッケル層が形成されているとよい。
中間合金層と亜鉛層との間に中間ニッケル層が介在することにより、亜鉛層の密着性がさらに向上する。
【0017】
このアルミニウム心線用防食端子材において、前記錫亜鉛合金層と前記亜鉛層との全体における錫の単位面積当たりの含有量は0.5mg/cm2以上7.0mg/cm2であり、亜鉛の単位面積当たりの含有量は0.07mg/cm2以上2.0mg/cm2以下である。
【0018】
錫の単位面積当たりの含有量は0.5mg/cm2未満では加工時に亜鉛が一部露出して接触抵抗が高くなるおそれがある。錫の単位面積当たりの含有量が7.0mg/cm2を超えると、表面への亜鉛の拡散が不十分となり、腐食電流値が高くなる。亜鉛の単位面積当たりの含有量は0.07mg/cm2未満では、亜鉛の量が不十分で腐食電流値が高くなる傾向にあり、2.0mg/cm2を超えると、亜鉛の量が多過ぎて接触抵抗が高くなる傾向にある。
【0019】
このアルミニウム心線用防食端子材において、前記防食皮膜は前記基材の上の一部に設けられているとともに、該防食皮膜が設けられていない部分に第1皮膜が設けられており、該第1皮膜は、前記基材の上に、前記中間合金層と、該中間合金層の上に形成された錫又は前記中間合金層と異なる組成の錫合金からなる第1錫層とを有するものとすることができる。この場合、前記防食皮膜には、前記中間合金層の上に前記第1錫層を有しない。
【0020】
第1皮膜は、表面が軟らかい第1錫層と、その下の硬い錫合金層とからなるので、接点として電気接続特性に優れている。
【0021】
そして、本発明のアルミニウム心線用防食端子は、上記のいずれかのアルミニウム心線用防食端子材からなり、電線端末部構造は、そのアルミニウム心線用防食端子がアルミニウム又はアルミニウム合金からなる電線の端末に圧着されている。
【0022】
本発明の防食端子材の製造方法は、少なくとも表面が銅又は銅合金からなる基材の上に複数のめっき層を積層して、合金化工程を経ることにより、錫合金からなる中間合金層、及び該中間合金層の上の錫又は前記中間合金層と異なる組成の錫合金からなる第1錫層を有する第1皮膜を形成する第1皮膜形成工程と、該第1皮膜のうちの前記第1錫層を除去する錫層除去工程と、前記第1錫層が除去された後の前記中間合金層の上に亜鉛又は亜鉛合金からなる亜鉛層と、錫又は錫合金からなる第2錫層とを順に形成する防食皮膜形成工程とを有する。
【0023】
亜鉛層の上に形成される第2錫層は亜鉛層から亜鉛が拡散して錫亜鉛合金層となるので、アルミニウム製心線と接触した場合の電食の発生を抑えることができる。
また、錫合金からなる中間合金層の上に亜鉛層が直接形成されるので、これらの密着性に優れる。
この場合、複数のめっき後の合金化工程により、中間合金層と第1錫層とを形成した後、必要な部分のみ第1錫層を除去して亜鉛層と第2錫層とを形成しており、接点としての電気特性に優れた皮膜と、アルミニウム心線に接触する部分の防食皮膜とを順に形成することができ、合理的である。合金化工程は、加熱処理あるいは常温で所定時間放置する処理であり、容易に形成することができる。
【0024】
このアルミニウム心線用防食端子材の製造方法において、前記錫層除去工程では、前記第1錫層の一部を除去し、該第1錫層を除去しなかった部分の表面は前記第1皮膜の表面を露出させた状態に維持する。
【0025】
第1錫層を残した部分は、表面が軟らかい第1錫層からなり、その下に硬い中間合金層を有しているので、接点として電気接続特性に優れている。
【0026】
なお、いずれの製造方法においても、亜鉛層中の亜鉛と第2錫層中の錫との相互拡散を促進させるため、若干の温度、時間で熱処理を加えてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、めっきの密着性が良好で、腐食防止効果も高い防食端子材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の防食端子材の第1実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図3】実施形態の防食端子材が適用される端子の例を示す斜視図である。
【
図4】
図3の端子を圧着した電線の端末部を示す正面図である。
【
図5】第1実施形態の防食端子材において、製造途中の第1皮膜を形成した状態を示す断面図である。
【
図6】
図5に示す状態から錫層の一部を除去した状態を示す断面図である。
【
図7】本発明の防食端子材の第2実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図8】
図1における中間合金層を凹凸状の銅錫合金層とした例を示す断面図である。
【
図9】
図1における中間合金層を一部が亜鉛層及び第1錫層に突起状に入り込んだ状態のニッケル錫合金層とした例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施形態の防食端子材とその製造方法、防食端子及び電線端末部構造を説明する。
本実施形態のアルミニウム心線用防食端子材(以下、単に防食端子材という)1は、
図2に全体を示したように、複数の端子を成形するための帯板状に形成されたストリップ材であり、平行に延びる一対の長尺な帯板状のキャリア部21の間に、端子として成形される複数の端子用部材22がキャリア部21の長さ方向に間隔をおいて配置され、各端子用部材22が細幅の連結部23を介して両キャリア部21に連結されている。各端子用部材22は例えば
図3に示すような形状に成形され、連結部23から切断されることにより、防食端子10として完成する。
【0030】
この防食端子10は、
図3の例ではメス端子を示しており、先端から、オス端子15(
図4参照)が嵌合される接続部11、電線12の露出した心線(アルミニウム心線)12aがかしめられる心線圧着部13、電線12の被覆部12bがかしめられる被覆圧着部14がこの順で並び、一体に形成されている。接続部11は角筒状に形成され、その先端に連続するばね片11aが内部に折り込まれるように挿入されている(
図4参照)。
図4は電線12に防食端子10をかしめた端末部構造を示している。
図2に示すストリップ材において、防食端子10に成形されたときに心線圧着部13及びその周辺部分を心線接触部26とする。
【0031】
そして、この防食端子材1は、
図1に断面を模式的に示したように、少なくとも表面が銅又は銅合金からなる基材2上に皮膜が形成されている。
【0032】
基材2は、その表面が銅又は銅合金からなるものであれば、特に、その組成が限定されるものではない。本実施形態では、基材2は銅又は銅合金からなる板材により構成されているが、母材の表面に銅めっき又は銅合金めっきが施されためっき材により構成されてもよい。銅又は銅合金からなる母材としては、無酸素銅(C10200)やCu-Mg系銅合金(C18665)等を適用できる。
【0033】
基材2の表面には、ニッケル又はニッケル合金からなる下地層5が全面に形成されている。この下地層5は、基材2から皮膜への銅の拡散を防止する機能があり、耐熱性の向上に寄与する。その平均厚さは、例えば0.1μm以上5.0μm以下で、ニッケル含有率は80質量%以上である。その平均厚さが0.1μm未満では銅の拡散防止効果に乏しく、5.0μmを超えるとプレス加工時に割れが生じ易い。この下地層5の平均厚さは、0.2μm以上2.0μm以下とするのがより好ましい。
また、そのニッケル含有率が80質量%未満では銅の拡散防止効果が小さい。このニッケル含有率は90質量%以上とするのがより好ましい。なお、使用環境等によっては下地層5は必ずしも必要ではない。
【0034】
皮膜のうち、心線接触部26以外の部分には第1皮膜3が形成されている。この第1皮膜3は、実施形態では、下地層5の上に、錫合金からなる中間合金層6の上に錫又は前記中間合金層と異なる組成の錫合金からなる錫層(第1錫層)7が形成されている。
中間合金層6としては銅錫合金、ニッケル錫合金、鉄錫合金、コバルト錫合金等を用いることができる。これら中間合金層6の上に軟らかい錫層7が支持されることから、コネクタ端子として摩擦係数が低く抑えられる。この第1皮膜3は、リフロー処理により錫層7の内部歪みが解放されることで、錫ウィスカーが発生し難くなる。
中間合金層6中の錫の含有量は90at%以下である。錫の含有量が90at%を超えると、錫合金層を形成した際に錫酸化膜が形成されやすく、その上に形成される亜鉛層が剥離しやすい。錫の含有量は65at%以下がより好ましい。下限は特に限定されるものではないが、10at%が好ましい。
【0035】
中間合金層6の平均厚さは0.05μm以上3.0μm以下が好ましい。合金化処理が不足するなどにより中間合金層6の平均厚さが薄くなりすぎると、錫層7の内部歪みが解放しきれず、錫ウィスカーが発生し易くなる。一方、中間合金層6の平均厚さが厚過ぎると、加工時に割れが発生しやすくなる。
錫層(第1錫層)7は、その平均厚さが0.1μm以上5.0μm以下が好ましい。錫層7の平均厚さが薄過ぎると、はんだ濡れ性の低下、接触抵抗の低下を招くおそれがある。
【0036】
一方、心線接触部26には第2皮膜(防食皮膜)4が形成されている。この第2皮膜4は、第1皮膜3のうちの表面の錫層7がなく、中間合金層6の上に、亜鉛又は亜鉛合金からなる亜鉛層8と、亜鉛を含む錫合金からなる錫亜鉛合金層9とが順次積層されている。錫亜鉛合金層9中の亜鉛は亜鉛層8中の亜鉛が拡散したことによる。
【0037】
亜鉛層8は、純亜鉛からなる層の他、添加元素として、ニッケル、鉄、マンガン、モリブデン、コバルト、カドミウム、鉛のいずれかを1種以上含む亜鉛合金からなる層である。これら添加元素を含有させて亜鉛合金とすることにより、耐食性を向上させることができる。また、これら添加元素は、亜鉛層8の上の錫亜鉛合金層9中への亜鉛の過度の拡散を防ぐ効果も有する。そして、腐食環境に晒され錫亜鉛合金層9が消失した際も、長く亜鉛層8を保ち続け腐食電流の増大を防ぐことができる。添加元素のうち、ニッケルを含むニッケル亜鉛合金は、耐食性を向上させる効果が高く、特に好ましい。
【0038】
これら亜鉛層8と錫亜鉛合金層9とを合わせた層の全体に含まれる錫の単位面積当たりの含有量は0.5mg/cm2以上7.0mg/cm2以下であり、亜鉛の単位面積当たりの含有量は0.07mg/cm2以上2.0mg/cm2以下である。
錫の単位面積当たりの含有量は0.5mg/cm2未満では加工時に亜鉛が一部露出して接触抵抗が高くなるおそれがある。錫の単位面積当たりの含有量が7.0mg/cm2を超えると、表面への亜鉛の拡散が不十分となり、腐食電流値が高くなる。この錫の単位面積当たりの含有量の好ましい範囲は、0.7mg/cm2以上2.0mg/cm2以下である。
亜鉛の単位面積当たりの含有量は0.07mg/cm2未満では、亜鉛の量が不十分で腐食電流値が高くなる傾向にあり、2.0mg/cm2を超えると、亜鉛の量が多過ぎて接触抵抗が高くなる傾向にある。 なお、錫亜鉛合金層9中に含まれる亜鉛の含有率は0.2質量%以上10質量%以下とするのが好ましい。
【0039】
亜鉛層8中の添加元素については、亜鉛層8と錫亜鉛合金層9とを合わせた層の全体に含まれる単位面積当たりの含有量は、0.01mg/cm2以上0.3mg/cm2以下がよい。添加元素の単位面積当たりの含有量が0.01mg/cm2未満では亜鉛の拡散を抑制する効果に乏しく、0.3mg/cm2を超えると、亜鉛の拡散が不足して腐食電流が高くなるおそれがある。
なお、前述した亜鉛の単位面積当たりの含有量は、これら添加元素の単位面積当たりの含有量の1倍以上10倍以下の範囲とするのがよい。この範囲の関係とすることにより、ウィスカーの発生がより一層抑制される。
【0040】
そして、このような構成の第2皮膜4は、腐食電位が銀塩化銀電極に対して-500mV以下-900mV以上(-500mV~-900mV)であり、アルミニウムの腐食電位が-700mV以下-900mV以上であるから、優れた防食効果を有している。
【0041】
次にこの防食端子材1の製造方法について説明する。
この防食端子材1の製造方法は、基材2に第1皮膜3を形成する第1皮膜形成工程と、第1皮膜のうちの表層である錫層(第1錫層)7の一部を除去する錫層除去工程と、錫層7を除去した部分に第2皮膜4を形成する第2皮膜形成工程とを有する。
【0042】
この場合、基材2として、銅又は銅合金からなる板材を用意し、第1皮膜形成工程後に、裁断、穴明け等のプレス加工を施すことにより、
図2に示すような、キャリア部21に複数の端子用部材22を連結部23を介して連結されてなる帯板状の端子材1の形状に成形する。そして、この端子材1に脱脂処理をすることによって表面を清浄にした後、錫層除去工程を経て第2皮膜形成工程を施す。
【0043】
[第1皮膜形成工程]
下地層5はニッケル又はニッケル合金からなるニッケルめっきにより形成される。
このニッケルめっきは緻密なニッケル主体の膜が得られるものであれば特に限定されず、公知のワット浴やスルファミン酸浴、クエン酸浴などを用いて電気めっきにより形成することができる。防食端子10へのプレス曲げ性と銅に対するバリア性を勘案すると、スルファミン酸浴から得られる純ニッケルめっきが望ましい。
【0044】
中間合金層6、錫層(第1錫層)7については、中間亜鉛層6が銅錫合金からなる場合は、下地層5の上に、銅又は銅合金からなる銅めっき、錫又は錫合金からなる錫めっきを順に施した後、合金化処理として例えばリフロー処理することにより形成される。
銅めっきは、一般的な銅めっき浴を用いればよく、例えば硫酸銅(CuSO4)及び硫酸(H2SO4)を主成分とした硫酸銅浴等を用いることができる。
錫めっきは、一般的な錫めっき浴を用いればよく、例えば硫酸(H2SO4)と硫酸第一錫(SnSO4)を主成分とした硫酸浴を用いることができる。
【0045】
リフロー処理は、基材2の表面温度が240℃以上360℃以下になるまで昇温後、当該温度に1秒以上12秒以下の時間保持した後、急冷することにより行われる。
これにより、
図5に示すように、基材2の表面(表裏両面)全体に第1皮膜3が形成される。
【0046】
一方、中間合金層6がニッケル錫合金からなる場合は、基材2の表面に、ニッケル又はニッケル合金からなるニッケルめっき層、錫又は錫合金からなる錫めっき層を順に形成した後、リフロー処理を施すことにより形成される。このニッケルめっき層は、前述した下地層5と同様であるので、下地層5を形成することなく、ニッケルめっき層、錫めっき層を形成して、合金化処理として例えばリフロー処理すればよい。下地層5を設ける場合は、ニッケル錫合金層が形成された後に下地層5としてのニッケル層が残る程度の厚さに形成すればよい。
リフロー処理は銅錫合金層を形成する場合と同様である。
【0047】
[錫層除去工程]
次に、この第1皮膜3を形成した端子材1のうち、相手方端子との接点となる部位(
図4に示すメス端子の場合には、オス端子との接点となる部位)をマスク(図示略)によって覆った状態とする。
【0048】
そして、マスクから露出している部分の錫層7を除去する。
この後に形成される亜鉛層8の密着性を向上するためには、密着性を阻害する錫の酸化膜を除去する必要があり、そのために、化学研磨処理では錫の酸化物ごと錫層7を除去する。
錫層7を除去する方法としては、例えば化学研磨処理を用いる。化学研磨処理に用いられる化学研磨液としては、錫層7を除去できるものであれば特に限定されない。処理条件も特に限定されず、使用する化学研磨液などの種類に応じて適宜調整すればよい。
化学研磨液としては、例えば、主成分として硫酸、及び過酸化水素からなる混合液を用いることができる。
図6が錫層7の一部を除去した状態を示す。
【0049】
[第2皮膜形成工程]
次いで、錫層7を除去した部分の表面を清浄にした後、亜鉛めっき、錫めっきを順に施す。錫層7を除去した部分には、中間合金層6が露出しており、その表面に酸化膜が生じるとしても、錫層7の場合に比べて圧倒的に少ないが、亜鉛層8との密着性向上のため、例えば酸洗処理によって中間合金層6の表面を清浄化する。
【0050】
亜鉛層8を形成するための亜鉛めっき又は亜鉛合金めっきとしては、中間合金層6表面の酸化を抑制するため、酸性のめっき浴で処理するのが好ましく、例えば硫酸塩浴を用いることができる。亜鉛コバルト合金めっきは硫酸塩浴、亜鉛マンガン合金めっきはクエン酸含有硫酸塩浴、亜鉛モリブデンめっきは硫酸塩浴を用い成膜することができる。
【0051】
錫亜鉛合金層9を形成するための錫又は錫合金からなる錫めっきは、公知の方法により行うことができるが、例えば有機酸浴(例えばフェノールスルホン酸浴、アルカンスルホン酸浴又はアルカノールスルホン酸浴)、硼フッ酸浴、ハロゲン浴、硫酸浴、ピロリン酸浴等の酸性浴、或いはカリウム浴やナトリウム浴等のアルカリ浴を用いて電気めっきすることができる。
【0052】
これら亜鉛めっき、錫めっきを施した後、亜鉛の拡散のための拡散処理を行うことにより、
図1に示すように、亜鉛層8の上に亜鉛を含む錫亜鉛合金層9が形成される。
この拡散処理としては、例えば30℃以上160℃以下の温度に30分以上60分以下の時間保持する。亜鉛の拡散は速やかに起こるため、30℃以上の温度に30分以上晒すことでよい。ただし、160℃を超えると逆に錫が亜鉛層8側に拡散し亜鉛の拡散を阻害するため、160℃以下の温度とする。
【0053】
そして、プレス加工等により帯板状のまま端子用部材22が
図3に示す端子の形状に加工され、連結部23が切断されることにより、防食端子10に形成される。
図4は電線12に防食端子10をかしめた端末部構造を示しており、心線圧着部13付近が電線12の心線12aに直接接触することになる。
【0054】
この防食端子10は、心線接触部26においては、亜鉛層8の上に錫亜鉛合金層9が形成されているので、アルミニウム製心線12aに圧着された状態であっても、亜鉛の腐食電位がアルミニウムと非常に近いことから、電食の発生を防止することができる。
【0055】
一方で、接点となる部位には、中間合金層6の上に錫層7が形成されている。この錫層7は、高温高湿、ガス腐食環境に曝された際も接触抵抗の上昇を抑えることができる。また、加熱処理を得た錫層となるため、コネクタに成形時に錫ウィスカーの発生を抑制することができる。
【0056】
図7は、防食端子材の第2実施形態の断面図である。
この防食端子材101は、第2皮膜(防食皮膜)41における中間合金層6と亜鉛層8との間にニッケル又はニッケル合金からなる中間ニッケル層31を介在させたものである。第1皮膜3は第1実施形態と同じである。
この中間ニッケル層31は、中間合金層6と亜鉛層8との密着力をさらに高めるための接着層として機能する。
【0057】
この中間ニッケル層31は、一例として、ニッケルストライクめっき、ニッケルめっき、ニッケルストライクめっきを順に施して形成されている。
ニッケルストライクめっきは、公知のウッド浴などを用いて電気めっきにより形成することができる。なお、このニッケルストライクめっきは水素を多く含むため、長時間とならないように薄く形成するのが好ましい。また、中間合金層6の上にニッケルストライクめっきを施す場合、中間合金層6の表面にわずかな酸化膜が生じていたとしても、このニッケルストライクめっきによって除去される。
ニッケルめっきは、公知のワット浴やスルファミン酸浴、クエン酸浴などを用いて電気めっきにより形成することができる。
【0058】
ニッケルストライクめっきが2回、ニッケルめっきが1回の合計3回のめっきが施されるが、ニッケルストライクめっきにより形成されるニッケルストライクめっき層は、層としてまでは認識できず、3回のめっきにより中間ニッケル層31として一体のものとして認識される。
なお、この中間ニッケル層31は、接着層として形成するものであるため、1層のニッケルストライクめっき層のみによって形成してもよいし、ニッケルストライクめっき層とその上のニッケルめっき層との2層構造としてもよいが、これらに限定されない。
【0059】
このように中間ニッケル層31を形成することにより、中間合金層6と亜鉛層8との密着力がさらに向上し、剥離しにくい端子材となる。
【0060】
なお、
図1等に示す例では、中間合金層6と亜鉛層8との界面をほぼ平坦に形成しているが、合金種や合金化工程の条件によっては、その界面を
図1とは異なる独特な形状とすることも可能である。
図8に示す防食端子材102では、中間合金層が銅錫合金層61により構成され、防食皮膜42の亜鉛層81及び第1皮膜301の錫層(第1錫層)71と銅錫合金層61との界面が凹凸状に形成された例を示している。銅錫合金層61は、Cu
6Sn
5やCu
3Sn等の金属間化合物が形成されており、合金化処理時の温度を高温側、時間を長時間側とすることにより、金属間化合物を部分的に成長させて、表面を凹凸状に形成することができる。この界面形状とすることにより、銅錫合金層61と亜鉛層81との密着性がより向上する。
【0061】
図9に示す防食端子材103では、中間合金層がニッケル錫合金層63により構成されている。ニッケル錫合金層63は、Ni
3Sn
4を主成分としており、防食皮膜43の亜鉛層82及び第1皮膜302の錫層(第1錫層)72とニッケル錫合金層63との界面において、表面に向けて鱗片状又は針状に延びる突起状のNiSn
4からなるニッケル錫金属間化合物64が形成されている。このニッケル錫金属間化合物64が亜鉛層82に入り込んだ状態に形成されることから、これらの密着性が向上する。
【0062】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0063】
例えば、中間合金層として銅錫合金層、ニッケル錫合金層を例示したが、鉄めっき層と錫めっき層とを順に積層して合金化処理(例えばリフロー処理)することにより、鉄錫合金層を形成する、あるいは、コバルトめっき層と錫めっき層とを順に積層して合金化処理(例えばリフロー処理)することにより、コバルト錫合金層を形成してもよい。
【0064】
また、実施形態では相手方端子との接点部となる部分に第1皮膜3を形成し、接点部以外の部分に防食皮膜4を形成したが、少なくとも心線接触部26の、心線12aが露出する部分に防食皮膜4が形成されていればよい。本発明は、基材2の全面に防食皮膜4,41,42が形成され、第1皮膜3,301,302を有しない構成も含むものとする。
【実施例】
【0065】
基材2としてC1020の銅板を用意し、この銅板をアルカリ電解脱脂、酸洗した後、銅めっき、ニッケルめっき、鉄めっき又はコバルトめっきを施した後に、錫めっきを施してリフロー処理することにより、銅錫合金層、ニッケル錫合金層、鉄錫合金層又はコバルト錫合金層からなる中間合金層と、その上の錫層とを形成した。この錫層を化学研磨液を用いて除去し、酸洗処理後に、中間合金層に純亜鉛めっき又は各種亜鉛合金めっきを施した。また、下地層としてニッケル又はニッケル合金からなるニッケルめっきを施したものも作製した。
さらに、亜鉛めっきの前に中間ニッケル層を形成したものも作製した。中間ニッケル層としては、ニッケルストライクめっき層のみからなるもの(表1には「Niストライク」と表記)、ニッケルストライクめっき層とニッケルめっき層との2層構造としたもの(「Niめっき2層」と表記)、ニッケルストライクめっき層、ニッケルめっき層、ニッケルストライクめっき層の3層構造としたもの(「Niめっき3層」と表記)の3種類とした。
比較例として、中間合金層(銅錫合金層又はニッケル錫合金層)の上の錫層を除去せずに、その錫層の上に亜鉛めっきを施したもの(比較例1)、中間合金層の錫の含有量が90at%を超えたもの(比較例2,3)も作製した。
各めっきの条件および錫層を除去するための化学研磨条件は以下の通りとした。
【0066】
[化学研磨条件]
・化学研磨液組成
硫酸:150g/L
過酸化水素:15g/L
・浴温:30℃
【0067】
[ニッケルめっき条件(下地層)]
・めっき浴組成
スルファミン酸ニッケル:300g/L
塩化ニッケル:35g/L
ホウ酸:30g/L
・浴温:45℃
・電流密度:5A/dm2
【0068】
[銅めっき条件]
・めっき浴組成
硫酸銅五水和物:200g/L
硫酸:50g/L
・浴温:45℃
・電流密度:5A/dm2
【0069】
[ニッケルめっき条件]
・めっき浴組成
スルファミン酸ニッケル:300g/L
塩化ニッケル:35g/L
ホウ酸:30g/L
・浴温:45℃
・電流密度:5A/dm2
【0070】
[鉄めっき条件]
・塩化第一鉄四水和物:300g/L
・塩化カルシウム二水和物:300g/L
・浴温:50℃
・電流密度:2A/dm2
・pH=2
【0071】
[コバルトめっき条件]
・硫酸コバルト七水和物:300g/L
・塩化ナトリウム:3g/L
・ホウ酸:6g/L
・浴温:50℃
・電流密度:2A/dm2
・pH=1.6
【0072】
[錫めっき条件]
・めっき浴組成
メタンスルホン酸錫:200g/L
メタンスルホン酸:100g/L
光沢剤
・浴温:25℃
・電流密度:5A/dm2
【0073】
[亜鉛めっき条件]
・めっき浴組成
硫酸亜鉛七水和物:250g/L
硫酸ナトリウム:150g/L
pH=1.2
・浴温:45℃
・電流密度:3A/dm2
【0074】
[亜鉛マンガン合金めっき条件]
・めっき浴組成
硫酸マンガン一水和物:110g/L
硫酸亜鉛七水和物:50g/L
クエン酸三ナトリウム:250g/L
pH=5.3
・浴温:30℃
・電流密度:5A/dm2
【0075】
[亜鉛モリブデン合金めっき条件]
・めっき浴組成
七モリブデン酸六アンモニウム(VI):1g/L
硫酸亜鉛七水和物:250g/L
クエン酸三ナトリウム:250g/L
pH=5.3
・浴温:30℃
・電流密度:5A/dm2
【0076】
[亜鉛ニッケル合金めっき条件]
・めっき浴組成
硫酸ニッケル六水和物:180g/L
硫酸亜鉛七水和物:80g/L
硫酸ナトリウム:150g/L
pH=2
・浴温:50℃
・電流密度:3A/dm2
【0077】
[亜鉛鉄合金めっき条件]
・めっき浴組成
硫酸鉄七水和物:500g/L
硫酸亜鉛七水和物:500g/L
硫酸ナトリウム:30g/L
pH=2
・浴温:50℃
・電流密度:3A/dm2
【0078】
[ニッケルストライクめっき条件]
・めっき浴組成
塩化ニッケル:300g/L
塩酸:100ml/L
・浴温:25℃
・電流密度:5A/dm2
・めっき時間:40秒
【0079】
次に、錫層が除去されためっき層付銅板に、錫亜鉛合金層への亜鉛の拡散のための拡散処理を施して試料とした。この拡散処理としては、表1の実施例23においては、30℃、60分、実施例24においては、50℃、30分、実施例26においては、100℃、30分である。他の実施例及び比較例は、30℃、30分とした。
【0080】
得られた試料について、亜鉛層及び錫亜鉛合金層中の亜鉛、錫及び添加元素の単位面積当たりの含有量をそれぞれ測定した。また、クロスカット試験による密着性を調べるとともに、腐食環境試験を実施し接触抵抗を測定した。
【0081】
[亜鉛層及び錫亜鉛合金層中の亜鉛、錫、各添加元素の単位面積当たりの含有量]
亜鉛層、錫亜鉛合金層中の亜鉛、錫、添加元素の単位面積当たりの含有量は、試料の当該層が成膜されている部位を所定面積分切り出して、レイボルド社製のストリッパーL80にて亜鉛層及び錫亜鉛合金層をともに溶解し、溶解液中に含まれている亜鉛、錫および添加元素の濃度を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置で分析して算出した。表1において各添加金属元素の横に単位面積当たりの含有量(mg/cm2)を記載した。
【0082】
[密着性試験]
JIS H 8504のテープ試験方法にて評価した。また、試験を厳しく行うため、テープを貼る前に鋭利な刃物でめっき面に一辺が2mmの正方形が出来るように切り込みを入れ、テープを貼り付けた。テープを剥がし、めっきがテープにくっついて素材から剥がれてしまったものを「C」、素材からめっきが剥がれたが、微小な剥がれ(全体の5%以下)だったものを「B」、テープにめっきが付かず剥がれなかったものを「A」とした。
【0083】
[腐食環境試験前後の接触抵抗]
090型(自動車業界で慣用されている端子の規格による呼称)のメス端子に成形して、防食皮膜が形成されている面に純アルミニウム線材を接触させ、これをかしめた状態でアルミニウム線と端子間の接触抵抗を四端子法により測定し(通電電流10mA)、その時の測定値を腐食環境試験前の抵抗とした。また、そのサンプルを23℃の5%塩化ナトリウム水溶液(塩水)に24時間浸漬後、85℃、85%RHの高温高湿環境下に24時間放置し、その後の接触抵抗の測定値を腐食環境試験後の抵抗とした。
【0084】
これらの測定結果を表1及び表2に示す。表1中、中間合金層の欄のCuSn層は銅錫合金層、NiSn層はニッケル錫合金層、FeSn層は鉄錫合金層、CoSn層はコバルト錫合金層であることを示す。
【0085】
【0086】
【0087】
以上の結果からわかるように、本発明の実施例の試料は、亜鉛層と中間合金層との密着性が良好で、接触抵抗値も低く、腐食環境試験後においても低い接触抵抗値が維持された。その中でも、中間合金層の錫含有量が低い場合に、より密着性が良好となった。また、中間合金層と亜鉛合金層の間に中間ニッケル層を形成した場合にも、より密着性が良好となった。さらに、錫亜鉛合金層と亜鉛層との全体における錫の単位面積当たりの含有量及び亜鉛の単位面積当たりの含有量がそれぞれ0.5mg/cm2~7.0mg/cm2及び0.07mg/cm2~2.0mg/cm2の試料では、腐食試験後の接触抵抗をより小さく維持できることが確認された。
一方、中間合金層の上に第1錫層を残したまま亜鉛層、錫亜鉛合金層を形成した比較例1、中間合金層の錫含有量が90at%を超えた比較例2,3は、いずれも密着性に劣っていた。
【0088】
なお、錫亜鉛合金層中に含まれる亜鉛の含有率は0.2質量%以上10質量%以下とするのが好ましい。この錫亜鉛合金層中における亜鉛濃度は日本電子株式会社製の電子線マイクロアナライザー:EPMA(型番JXA-8530F)を用いて、加速電圧6.5V、ビーム径φ30μmとし、試料表面を測定することができる。
【符号の説明】
【0089】
1 防食端子材
2 基材
3 第1皮膜
4 第2皮膜(防食皮膜)
5 下地層
6 中間合金層
7 錫層(第1錫層)
8 亜鉛層
9 錫亜鉛合金層
10 防食端子
11 接続部
12 電線
12a 心線(アルミニウム製心線)
12b 被覆部
13 心線圧着部
14 被覆圧着部
25 接点部
26 心線接触部
31 中間ニッケル層
41,42,43 第2皮膜(防食皮膜)
61 銅錫合金層(中間合金層)
63 ニッケル錫合金層(中間合金層)
64 金属間化合物
71,72 錫層(第1錫層)
81,82 亜鉛層
101,102 防食端子材
301,302 第1皮膜