(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】車両の前部車体構造
(51)【国際特許分類】
B60R 19/04 20060101AFI20231108BHJP
【FI】
B60R19/04 M
(21)【出願番号】P 2020113723
(22)【出願日】2020-07-01
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100127797
【氏名又は名称】平田 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】楢原 隆志
(72)【発明者】
【氏名】澁武 信行
(72)【発明者】
【氏名】石川 靖
(72)【発明者】
【氏名】守田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】藤本 賢
(72)【発明者】
【氏名】山口 雄作
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-153164(JP,A)
【文献】特開2013-241034(JP,A)
【文献】特開2014-088125(JP,A)
【文献】特開2018-176889(JP,A)
【文献】特開2017-088058(JP,A)
【文献】特開平06-328988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向に延びるバンパーを備えた車両の前部車体構造であって、
前記バンパーは、
車幅方向に延びるとともに車両前方に開いたコ字断面形状を有するバンパービームと、
前記バンパービームを車両前方から覆って前記バンパービームとともに閉断面を形成するフロントプレートと、
車幅方向に延びるとともに前記閉断面の内部に設けられる補強部材と
を備えており、
前記バンパービームは、車両側面視で、車両前後方向に延びるビーム上面部と、前記ビーム上面部の後端から下方に延びるビーム後面部と、前記ビーム後面部の下端から車両前方に延びるビーム下面部と、前記ビーム下面部と前記ビーム後面部とによって形成される下方角部と、を備えており、
前記補強部材は、補強部材上面部と、前記補強部材上面部の後端から下方に延びる補強部材後面部と、前記補強部材後面部の下端から車両前方に延びる補強部材下面部と、を備えており、
前記補強部材上面部は、前記ビーム上面部に接合され、
前記補強部材後面部は、前記ビーム後面部に接合され、
前記補強部材下面部は、前記ビーム下面部に接合されない状態で前記ビーム下面部の上方の位置に配置され、
前記補強部材下面部は、当該補強部材下面部の前端部が下方に折り曲げられたフランジ部を有する、
ことを特徴とする車両の前部車体構造。
【請求項2】
前記フランジ部は、前記下方角部の高さと同じまたはそれ以下の高さに配置されている、
請求項1に記載の車両の前部車体構造。
【請求項3】
前記バンパービームの後端において車幅方向に互いに離間した位置で固定された一対のクラッシュカンをさらに備えており、
前記バンパービームは、車幅方向両側において、前記クラッシュカンに固定されるクラッシュカン固定部と、前記クラッシュカン固定部よりも車幅方向外側に延びる延長部と、を備え、
前記フランジ部は、前記補強部材の車幅方向端部から前記クラッシュカン固定部の車幅方向内側端部に対応する位置または当該位置よりも車幅方向中央側の位置まで延びる、
請求項1または2に記載の車両の前部車体構造。
【請求項4】
前記フランジ部は、前記バンパービームの中央に向かうにつれて下方に折り曲げる角度が小さくなる、
請求項1~3のいずれか1項に記載の車両の前部車体構造。
【請求項5】
前記バンパービームは、
前記ビーム上面部の前端から上方に延びるとともに前記フロントプレートと接合する上方接合部と、
前記ビーム下面部の前端から下方に延びるとともに前記フロントプレートと接合する下方接合部と、
前記補強部材の前記フランジ部が設けられる領域において前記上方接合部の上端を後方に折り曲げ形成された上方ビームフランジ部と、
前記補強部材の前記フランジ部が設けられる領域において前記下方接合部の下端を後方に折り曲げ形成された下方ビームフランジ部と、
を有する、
請求項2に記載の車両の前部車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の前部に設けられたバンパーを補強するための構造として、特許文献1記載のように、補強部材がバンパーの車幅方向の両端部に設けられた構造が開示されている。
【0003】
この構造では、車両前方から物体(対向車や路上設置物など)がバンパーの車幅方向端部に対して部分的に衝突した場合(すなわち、スモールオーバーラップ衝突の場合)においても、補強部材によってバンパーの変形を抑制しながらバンパーの車両後方に固定されたクラッシュボックス(以下、本明細書ではクラッシュカンという)などの車体構成部品へ衝突荷重を伝達することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、バンパーの剛性向上の観点などから、バンパーの車幅方向全体にわたって補強部材で補強する構造が提案されている。例えば、バンパーは、車幅方向に延びるコ字状断面のバンパービームと、バンパービームの前方を覆うフロントプレートを備え、バンパービームとフロントプレートで形成された閉断面の内部に車幅方向に延びるコ字状断面の補強部材が設けられた構造が考えられる。
【0006】
ここで、コ字状断面のバンパービームに対してコ字状断面の補強部材を複数個所で接合する場合、上面側同士の接合および後面側同士の接合した状態では、バンパービームや補強部材のスプリングバックなどの設計時には予測できない生産上の種々の理由により、下面側同士が接続できない場合がある。このような2面のみ接合した状態では、補強部材の下面部は自由端を有したままの状態であり、面外変形しやすく、バンパービームの下面部の補強に寄与しなくなる。そのため、バンパービームの下面部と後面部とで形成される下方角部の面外変形を抑制できず、また、バンパービームの後面部の面外変形も抑制できなくなる。その結果、車両衝突時におけるバンパービームの面外変形を抑制することが困難になる。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、バンパービームと補強部材とが部分的に接合されていない構造であっても、バンパービームの面外変形を抑制して衝突荷重に耐えることが可能な車両の前部車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の車両の前部車体構造は、車幅方向に延びるバンパーを備えた車両の前部車体構造であって、前記バンパーは、車幅方向に延びるとともに車両前方に開いたコ字断面形状を有するバンパービームと、前記バンパービームを車両前方から覆って前記バンパービームとともに閉断面を形成するフロントプレートと、車幅方向に延びるとともに前記閉断面の内部に設けられる補強部材とを備えており、前記バンパービームは、車両側面視で、車両前後方向に延びるビーム上面部と、前記ビーム上面部の後端から下方に延びるビーム後面部と、前記ビーム後面部の下端から車両前方に延びるビーム下面部と、前記ビーム下面部と前記ビーム後面部とによって形成される下方角部と、を備えており、前記補強部材は、補強部材上面部と、前記補強部材上面部の後端から下方に延びる補強部材後面部と、前記補強部材後面部の下端から車両前方に延びる補強部材下面部と、を備えており、前記補強部材上面部は、前記ビーム上面部に接合され、前記補強部材後面部は、前記ビーム後面部に接合され、前記補強部材下面部は、前記ビーム下面部に接合されない状態で前記ビーム下面部の上方の位置に配置され、前記補強部材下面部は、当該補強部材下面部の前端部が下方に折り曲げられたフランジ部を有することを特徴とする。
【0009】
かかる構成では、バンパービームと補強部材とは上面側および下面側でそれぞれ接合されている一方、補強部材下面部がビーム下面部に接合されていない構造であっても、補強部材下面部がその前端部において下方に折り曲げられたフランジ部で補強されることにより車両衝突時における補強部材の面外変形が抑制され、これにより、疑似的にビーム下面部および補強部材下面部からなる2枚板構造が形成される。それとともに、補強部材上面部および補強部材後面部の2面に接合されたバンパービームの面外変形も抑制される。これにより、ビーム下面部とビーム後面部とによって形成される下方角部の車両衝突時における変形が抑制され、これによって、ビーム後面部の面外変形を抑制することが可能になる。その結果、バンパービームと補強部材とが部分的に接合されていない構造であっても、バンパービームの面外変形を抑制して衝突荷重に耐えることが可能になる。
【0010】
上記の車両の前部車体構造において、前記フランジ部は、前記下方角部の高さと同じまたはそれ以下の高さに配置されているのが好ましい。
【0011】
かかる構成によれば、車両の前方衝突時において前記バンパービームが車両前後方向に変形したときに補強部材のフランジ部がバンパービームのビーム下面部に当接することが可能になり、このとき、補強部材下面部は、ビーム下面部に拘束されてビーム下面部と疑似的に接合された2枚板構造を形成する。これにより、バンパービームの下方角部を補強して、下方角部の変形を確実に抑制し、ビーム後面部の面外変形を確実に抑制することが可能になる。その結果、車両衝突時におけるバンパービームの曲げ変形を確実に抑制することが可能になる。
【0012】
上記の車両の前部車体構造において、前記バンパービームの後端において車幅方向に互いに離間した位置で固定された一対のクラッシュカンをさらに備えており、前記バンパービームは、車幅方向両側において、前記クラッシュカンに固定されるクラッシュカン固定部と、前記クラッシュカン固定部よりも車幅方向外側に延びる延長部と、を備え、前記フランジ部は、前記補強部材の車幅方向端部から前記クラッシュカン固定部の車幅方向内側端部に対応する位置または当該位置よりも車幅方向中央側の位置まで延びるのが好ましい。
【0013】
バンパービームのクラッシュカン固定部における車幅方向内側端部は、衝突荷重入力点からの距離が遠いため、延長部に車両後方に向かう衝突荷重が入力された際(すなわち、スモールオーバーラップ衝突の際)に最も座屈しやすい。そこで、上記の構成では、バンパービームの車幅方向内側端部を補強部材のフランジ部によって補強することにより、スモールオーバーラップ衝突時におけるバンパービームの車幅方向内側端部における座屈を防止することが可能である。
【0014】
上記の車両の前部車体構造において、前記フランジ部は、前記バンパービームの中央に向かうにつれて下方に折り曲げる角度が小さくなるのが好ましい。
【0015】
かかる構成によれば、補強部材のフランジ部は、バンパービームの中央に向かうにつれて下方に折り曲げる角度が連続的に小さくなるので、フランジ部によって補強される補強部材下面部の剛性は車幅方向端部から中央部へ向かうにつれて小さくなり、補強部材下面部の車幅方向における剛性差は小さくなる。その結果、補強部材下面部を含む補強部材全体、ならびに補強部材に2面で接合されたバンパービームの車幅方向における剛性差も小さくなるので、車両衝突時(とくにスモールオーバーラップ衝突時)におけるバンパービームの座屈を防止することが可能である。
【0016】
上記の車両の前部車体構造において、前記バンパービームは、前記ビーム上面部の前端から上方に延びるとともに前記フロントプレートと接合する上方接合部と、前記ビーム下面部の前端から下方に延びるとともに前記フロントプレートと接合する下方接合部と、前記補強部材の前記フランジ部が設けられる領域において前記上方接合部の上端を後方に折り曲げ形成された上方ビームフランジ部と、前記補強部材の前記フランジ部が設けられる領域において前記下方接合部の下端を後方に折り曲げ形成された下方ビームフランジ部と、を有するのが好ましい。
【0017】
かかる構成によれば、バンパービームは、補強部材のフランジ部が設けられる領域において、上方接合部の上端を後方に折り曲げ形成された上方ビームフランジ部および下方接合部の下端を後方に折り曲げ形成された下方ビームフランジ部を有する。これら上方ビームフランジ部および下方ビームフランジ部が、バンパービームの上方接合部および下方接合部とともにビーム上面部の前端およびビーム下面部の前端を補強して車両衝突時の変形を抑制するので、車両衝突時にバンパービームが車両前後方向に変形したときに補強部材のフランジ部をバンパービームのビーム下面部に確実に当接することが可能である。これにより、バンパービームの下方角部の変形を確実に抑制することが可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の車両の前部車体構造によれば、バンパービームと補強部材とが部分的に接合されていない構造であっても、バンパービームの面外変形を抑制して衝突荷重に耐えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両の前部車体構造の全体構成を示す斜め前方かつ上方から見た斜視図である。
【
図3】
図1の前部車体構造のうち、バンパーのフロントプレートを取り外した状態の斜視図である。
【
図4】
図1の前部車体構造を斜め後方かつ上方から見た斜視図である。
【
図5】
図1の前部車体構造のうち、バンパーのフロントプレートを取り外した状態を前方かつ上方から見た拡大斜視図である。
【
図6】
図1の前部車体構造のうち、バンパーのバンパービームおよびその周辺部を後方かつ上方から見た拡大斜視図である。
【
図7】
図6のバンパービームを後方から見た図である。
【
図8】(a)~(g)は、
図7のバンパービームを位置A~Gでそれぞれ切断したときの断面図である。
【
図9】
図2のバンパービームの端部およびクラッシュカンの拡大平面図である。
【
図10】
図9のバンパーに収容された補強部材の端部を拡大した拡大平面図である。
【
図12】
図8(g)のバンパービームが車両衝突時に変形する過程を示す断面説明図であって、(a)はバンパービームの変形前の状態、(b)はバンパービームが変形してビーム下面部が補強部材のフランジ部に当接している状態を示す。
【
図13】
図1のクラッシュカンの拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0021】
本実施形態の車両の前部車体構造1は、
図1~6に示されるように、車両前方X1からの物体(対向車や路上設置物など)との衝突時において衝突荷重を受ける部品の集合体によって構成され、具体的には、一対のフロントフレーム2と、一対のクラッシュカン3と、バンパービーム5を含む車幅方向Yに延びるバンパー4とを備えている。
【0022】
なお、
図1~2に示される符号8は、ラジエータのシュラウドを取り付けるためのブラケットを示す。このブラケット8は、衝突荷重を受けることに寄与しない部品であるので省略してもよい。
【0023】
一対のフロントフレーム2は、車幅方向Yに互いに離間して配置され、車両前後方向Xに延びている。フロントフレーム2の前端2aには、クラッシュカン3を固定するための取付フランジ9が設けられている。なお、フロントフレーム2の後端は、図示されていないヒンジピラーなどの車体構成部品に固定される。
【0024】
一対のクラッシュカン3のそれぞれは、一対のフロントフレーム2のそれぞれの前端2aに固定され、車両前後方向Xに延びている。
【0025】
一対のクラッシュカン3は、バンパービーム5の後端において車幅方向Yに互いに離間した位置で固定されている。すなわち、本実施形態のクラッシュカン3の前端3aは、バンパービーム5に溶接などによって固定され、後端3bには取付フランジ10が設けられている。クラッシュカン3の後端3bの取付フランジ10をフロントフレーム2の前端2aの取付フランジ9に重ね合わせ、ボルトなどの締結具を用いて当該取付フランジ9、10を互いに連結することによって、クラッシュカン3は、フロントフレーム2の前端2aに固定される。
【0026】
なお、本発明ではクラッシュカン3の形状についてはとくに限定しないが、例えば、
図13に示されるように、クラッシュカン3の形状は、中空の筒状体であり、十字形の断面形状を有していてもよい。さらに、クラッシュカン3の前端3aには、バンパービーム5が嵌合可能な凹部3cを形成してもよい。
【0027】
バンパー4は、
図1~10に示されるように、バンパー4の本体部であるバンパービーム5と、当該バンパービーム5の車両前方側X1に取り付けられたフロントプレート6と、補強部材7とを備えている。バンパービーム5、フロントプレート6、および補強部材7は、スチールなどの金属の板材で製造される。
【0028】
バンパービーム5は、車幅方向Yに延びており、一対のクラッシュカン3の前端3aに溶接などによって固定されている。
【0029】
バンパービーム5は、
図3~7に示されるように、車幅方向Yに延びる長尺の部材であり、上下方向Zにおける中間の領域が車両後方X2に突出しており、
図8(a)~(g)に示されるように、車両前方X1に開いたコ字断面形状を有する。
【0030】
さらに詳細に言えば、バンパービーム5は、具体的には、
図7、
図8(a)~(g)に示されるように、車両側面視で、車両前後方向Xに延びるビーム上面部5aと、ビーム上面部5aの後端から下方に延びるビーム後面部5bと、ビーム後面部5bの下端から車両前方X1に延びるビーム下面部5cと、ビーム上面部5aとビーム後面部5bとによって形成される上方角部5dと、ビーム下面部5cとビーム後面部5bとによって形成される下方角部5eとを備えている。
【0031】
さらに、バンパービーム5は、
図7、
図8(a)~(g)に示されるように、ビーム上面部5aの前端から上方に延びるとともにフロントプレート6と接合する上方接合部5fと、ビーム下面部5cの前端から下方に延びるとともにフロントプレート6と接合する下方接合部5gとを有する。これらビーム上面部5a、ビーム後面部5b、ビーム下面部5c、上方接合部5f、および下方接合部5gによって、ハット断面形状のバンパービーム5が構成される。
【0032】
また、
図6~7および
図8(a)~(b)に示されるように、本実施形態のバンパービーム5では、ビーム上面部5aおよびビーム下面部5cのうちの少なくとも一方(本実施形態では両方)は、車幅方向Yの両側の車幅方向内側端部13の間において、上下方向に折れ曲がる(言い換えれば、ステップ状に折れ曲がる)とともに車幅方向Yに延びる段差部5j、5kが形成されている。具体的には、ビーム上面部5aには、当該上面部5aの補強のために下向きに折れ曲がる段差部5jが形成されている。ビーム下面部5cには、当該ビーム下面部5cの補強のために上向きに折れ曲がる段差部5kが形成されている。
【0033】
また、バンパービーム5は、
図2~4、
図6~7、
図9に示されるように、車幅方向Yの両側において、クラッシュカン3に固定されるクラッシュカン固定部11と、クラッシュカン固定部11よりも車幅方向Yの外側に延びる延長部12とを備えている。
【0034】
フロントプレート6は、
図1~2、
図8~9に示されるように、車幅方向Yに延びる板状部材であり、コ字断面形状のバンパービーム5を車両前方X1から覆ってバンパービーム5とともに閉断面を形成する。
【0035】
補強部材7は、バンパービーム5を補強する部材であり、車幅方向Yに延びるとともにバンパービーム5とフロントプレート6によって形成された閉断面15(
図8(a)参照)内部に設けられる。
【0036】
補強部材7も、バンパービーム5と同様に、コ字状断面を有する車幅方向に延びる形状に形成されている。
【0037】
具体的には、補強部材7は、
図8(a)~(g)に示されるように、補強部材上面部7aと、補強部材上面部7aの後端から下方に延びる補強部材後面部7bと、補強部材後面部7bの下端から車両前方X1に延びる補強部材下面部7cと、を備えている。
【0038】
補強部材上面部7aは、ビーム上面部5aにスポット溶接などによって接合部21において接合されている。補強部材後面部7bは、ビーム後面部5bにスポット溶接などによって接合部22において接合されている。一方、補強部材下面部7cは、ビーム下面部5cに接合されない状態でビーム下面部5cの上方の位置に配置されている。
【0039】
本実施形態の車両の前部車体構造1の主たる特徴として、
図8(b)~ (g)および
図11に示されるように、補強部材下面部7cは、当該補強部材下面部7cの前端部が下方に折り曲げられたフランジ部7dを有する。
【0040】
フランジ部7dは、
図8(b)~(g)に示されるように、下方角部5eの高さと同じまたはそれ以下の高さに配置されている。
【0041】
フランジ部7dは、補強部材7の車幅方向Y端部からクラッシュカン固定部11の車幅方向内側端部13(
図4、
図6、
図7、
図9参照)に対応する位置または当該位置よりも車幅方向Yの中央側の位置まで延びる。具体的には、
図11に示されるフランジ部7dは、
図7に示されるバンパービーム5の車幅方向両側において位置Bから車幅方向端部までの領域FA(
図7参照)に延びている。
【0042】
また、フランジ部7dは、
図8(b)~(g)に示されるように、バンパービーム5の中央に向かうにつれて下方に折り曲げる角度が連続的に小さくなっており、補強部材下面部7cの車幅方向Yにおける剛性差を小さくしている。
【0043】
さらに、本実施形態のバンパービーム5は、バンパービーム5の車両前方X1側の部分(すなわち、上方接合部5f、下方接合部5g、ビーム上面部5aの前端、およびビーム下面部5cの前端)を補強するために、
図7、
図8(a)~(g)に示されるように、補強部材7のフランジ部7dが設けられる領域FA(
図7参照)において上方接合部5fの上端を後方に折り曲げ形成された上方ビームフランジ部5hと、補強部材7のフランジ部7dが設けられる領域FAにおいて下方接合部5gの下端を後方に折り曲げ形成された下方ビームフランジ部5iとをさらに有している。本実施形態では、
図7に示されるように、上方ビームフランジ部5hおよび下方ビームフランジ部5iは、バンパービーム5のほぼ全長にわたって設けられているが、本発明はこれに限定されるものではなく、少なくとも補強部材7のフランジ部7dが設けられる領域FAに設けられていればよい。なお、
図7では、バンパービーム5のクラッシュカン固定部11の領域において、クラッシュカン3との干渉を避けるために、上方ビームフランジ部5hおよび下方ビームフランジ部5iが設けられていない部分があるが、クラッシュカン3の寸法などの変更によって干渉が避けられる構成であれば、上方ビームフランジ部5hおよび下方ビームフランジ部5iをクラッシュカン固定部11の領域全体に設けることは可能である。
【0044】
(本実施形態の特徴)
(1)
本実施形態の車両の前部車体構造1は、
図1~10に示されるように、車幅方向Yに延びるバンパー4を備えた車両の前部車体構造1であって、バンパー4は、車幅方向Yに延びるとともに車両前方X1に開いたコ字断面形状を有するバンパービーム5と、バンパービーム5を車両前方X1から覆ってバンパービーム5とともに閉断面を形成するフロントプレート6と、車幅方向Yに延びるとともに閉断面の内部に設けられる補強部材7とを備えている。
【0045】
バンパービーム5は、
図8(a)~(g)に示されるように、車両側面視で、前後方向に延びるビーム上面部5aと、ビーム上面部5aの後端から下方に延びるビーム後面部5bと、ビーム後面部5bの下端から車両前方X1に延びるビーム下面部5cと、ビーム下面部5cとビーム後面部5bとによって形成される下方角部5eと、を備えている。補強部材7は、補強部材上面部7aと、補強部材上面部7aの後端から下方に延びる補強部材後面部7bと、補強部材後面部7bの下端から車両前方X1に延びる補強部材下面部7cと、を備えている。補強部材上面部7aは、ビーム上面部5aに接合されている。補強部材後面部7bは、ビーム後面部5bに接合されている。補強部材下面部7cは、ビーム下面部5cに接合されない状態でビーム下面部5cの上方の位置に配置されている。
【0046】
補強部材下面部7cは、
図8(b)~(g)および
図11に示されるように、当該補強部材下面部7cの前端部が下方に折り曲げられたフランジ部7dを有する。
【0047】
上記の前部車体構造1の構成では、バンパービーム5と補強部材7とは上面側および下面側でそれぞれ接合されている一方、補強部材下面部7cがビーム下面部5cに接合されていない構造であっても、
図12(a)、(b)に示されるように、補強部材下面部7cがその前端部において下方に折り曲げられたフランジ部7dで補強されることにより車両衝突時における補強部材7の面外変形が抑制され、これにより、疑似的にビーム下面部5cおよび補強部材下面部7cからなる2枚板構造が形成される。それとともに、補強部材上面部7aおよび補強部材後面部7bの2面に接合されたバンパービーム5の面外変形も抑制される。
【0048】
これにより、ビーム下面部5cとビーム後面部5bとによって形成される下方角部5eの車両衝突時における変形が抑制され、これによって、ビーム後面部5bの面外変形を抑制することが可能になる。その結果、バンパービーム5と補強部材7とが部分的に接合されていない構造であっても、バンパービーム5の面外変形を抑制して衝突荷重に耐えることが可能になる。
【0049】
(2)
また、本実施形態では、
図8(a)~(g)に示されるように、バンパービーム5の上面側では、ビーム上面部5aは補強部材上面部7aに接合されるとともにビーム後面部5bが補強部材後面部7bに接合されているので、車両衝突時においてビーム上面部5aとビーム後面部5bとによって形成される上方角部5dの変形が抑制される。したがって、上記(1)のようにバンパービーム5の下方角部5eの変形が抑制されるだけでなく、上方角部5dの変形も抑制されるので、ビーム後面部5bは上方角部5dおよび下方角部5eの両方で拘束される形になるので、ビーム後面部5bの面外変形を効果的に抑制することが可能である。
【0050】
(3)
本実施形態の車両の前部車体構造1では、
図8(b)~(g)に示されるように、フランジ部7dは、下方角部5eの高さと同じまたはそれ以下の高さに配置されている。
【0051】
かかる構成によれば、
図12(a)、(b)に示されるように、車両の前方衝突時においてバンパービーム5が車両前後方向Xに変形したときに補強部材7のフランジ部7dがバンパービーム5のビーム下面部5cに当接することが可能になり、このとき、補強部材下面部7cは、ビーム下面部5cに拘束されてビーム下面部5cと疑似的に接合された2枚板構造を形成する。これにより、バンパービーム5の下方角部5eを補強して、下方角部5eの変形を確実に抑制し、ビーム後面部5bの面外変形を確実に抑制することが可能になる。その結果、車両衝突時におけるバンパービーム5の曲げ変形を確実に抑制することが可能になる。
【0052】
(4)
本実施形態の車両の前部車体構造1は、
図1~6に示されるように、バンパービーム5の後端において車幅方向Yに互いに離間した位置で固定された一対のクラッシュカン3をさらに備えている。バンパービーム5は、車幅方向Y両側において、クラッシュカン3に固定されるクラッシュカン固定部11と、クラッシュカン固定部11よりも車幅方向Yの外側に延びる延長部12と、を備えている。
【0053】
フランジ部7dは、補強部材7の車幅方向Y端部からクラッシュカン固定部11の車幅方向内側端部13(
図4、
図6、
図7、
図9参照)に対応する位置または当該位置よりも車幅方向Yの中央側の位置まで延びる(具体的には、
図7に示される領域FAの範囲に延びる)。
【0054】
本実施形態の前部車体構造1における衝突時の各部品の変形を検証した場合、バンパービーム5のクラッシュカン固定部11における車幅方向内側端部13は、衝突荷重入力点からの距離が遠いため、延長部12に車両後方に向かう衝突荷重が入力された際(すなわち、スモールオーバーラップ衝突の際)に最も座屈しやすい。そこで、上記の構成では、バンパービーム5の車幅方向内側端部13を補強部材7のフランジ部7dによって補強することにより、スモールオーバーラップ衝突時におけるバンパービーム5の車幅方向内側端部13における座屈を防止することが可能である。
【0055】
(5)
本実施形態の車両の前部車体構造1では、
図8(b)~(g)に示されるように、フランジ部7dは、バンパービーム5の中央に向かうにつれて下方に折り曲げる角度が小さくなる。
【0056】
かかる構成によれば、補強部材7のフランジ部7dは、バンパービーム5の中央に向かうにつれて下方に折り曲げる角度が連続的に小さくなるので、フランジ部7dによって補強される補強部材下面部7cの剛性は車幅方向Y端部から中央部へ向かうにつれて小さくなり(より好ましくは、連続的に小さくなり、)、補強部材下面部7cの車幅方向Yにおける剛性差は小さくなる。その結果、補強部材下面部7cを含む補強部材7全体、ならびに補強部材7に2面で接合されたバンパービーム5の車幅方向Yにおける剛性差も小さくなるので、車両衝突時(とくにスモールオーバーラップ衝突時)におけるバンパービーム5の座屈を防止することが可能である。
【0057】
(6)
本実施形態の車両の前部車体構造1では、
図7、
図8(a)~(g)に示されるように、 バンパービーム5は、ビーム上面部5aの前端から上方に延びるとともにフロントプレート6と接合する上方接合部5fと、ビーム下面部5cの前端から下方に延びるとともにフロントプレート6と接合する下方接合部5gと、補強部材7のフランジ部7dが設けられる領域において上方接合部5fの上端を後方に折り曲げ形成された上方ビームフランジ部5hと、補強部材7のフランジ部7dが設けられる領域において下方接合部5gの下端を後方に折り曲げ形成された下方ビームフランジ部5iと、を有する。
【0058】
かかる構成によれば、バンパービーム5は、補強部材7のフランジ部7dが設けられる領域において、上方接合部5fの上端を後方に折り曲げ形成された上方ビームフランジ部5hおよび下方接合部5gの下端を後方に折り曲げ形成された下方ビームフランジ部5iを有する。これら上方ビームフランジ部5hおよび下方ビームフランジ部5iが、
図12(a)、(b)に示されるように、バンパービーム5の上方接合部5fおよび下方接合部5gとともにビーム上面部5aの前端およびビーム下面部5cの前端を補強して車両衝突時の変形を抑制するので、車両衝突時にバンパービーム5が車両前後方向Xに変形したときに補強部材7のフランジ部7dをバンパービーム5のビーム下面部5cに確実に当接することが可能である。これにより、バンパービーム5の下方角部5eの変形を確実に抑制することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 前部車体構造
2 フロントフレーム
3 クラッシュカン
4 バンパー
5 バンパービーム
5a ビーム上面部
5b ビーム後面部
5c ビーム下面部
5d 上方角部
5e 下方角部
5f 上方接合部
5g 下方接合部
5h 上方ビームフランジ部
5i 下方ビームフランジ部
7 補強部材
7a 補強部材上面部
7b 補強部材後面部
7c 補強部材下面部
7d フランジ部
11 クラッシュカン固定部
12 延長部
13 車幅方向内側端部
21 接合部
22 接合部