(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20231108BHJP
H01M 4/74 20060101ALI20231108BHJP
H01M 50/583 20210101ALI20231108BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M4/74 A
H01M50/583
(21)【出願番号】P 2020121156
(22)【出願日】2020-07-15
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木山 明
(72)【発明者】
【氏名】安藤 翔
(72)【発明者】
【氏名】山本 邦光
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】米田 幸志郎
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 健作
【審査官】山下 裕久
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-075278(JP,A)
【文献】特開2017-103123(JP,A)
【文献】特開2011-108646(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0585
H01M 50/572
H01M 4/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々シート状の正極と負極とがセパレータを介して積層された
積層型の電極体と、
前記電極体を収容する電池ケースとを備え、
前記電極体は、
前記電極体の最も外側に配置された正極およびセパレータからなる最外層を含む外側層と、
前記外側層よりも内側に配置された内側層とを有し、
前記外側層は、前記電極体の短絡に起因する前記電極体の発熱により溶断するように構成された溶断部材を含み、
前記内側層は、前記溶断部材を含まない、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記正極は、正極集電体と、正極合材層とを含み、
前記外側層に配置された前記正極集電体は、前記内側層に配置された前記正極集電体よりも薄く、
前記溶断部材は、前記外側層に配置された前記正極集電体を含む、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記正極は、正極集電体と、正極合材層とを含み、
前記外側層に配置された前記正極集電体は、複数の貫通孔が設けられた有孔金属箔であり、
前記溶断部材は、前記有孔金属箔を含む、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記有孔金属箔は、パンチングメタル、エキスパンドメタルおよびラスメタルのうちのいずれかである、請求項3に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド車両、プラグインハイブリッド車両および電気自動車等の走行用電源として、リチウムイオン二次電池の需要が増している。車載用の典型的なリチウムイオン二次電池は、正極と負極とがセパレータを介して巻回された電極体と、電極体を収容する電池ケースとを備える(たとえば特開2019-186156号公報:特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-186156号公報
【文献】特開2005-050771号公報
【文献】特開2012-134109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池の製造工程においては、金属異物(導電性を有する異物)が電池ケースの内部に混入し得る。金属異物が混入すると、電極体が短絡して発熱し、ひいては電極体が熱暴走する可能性がある。よって、発熱を抑制するための対策を講じることが考えられる。一方で、過度な対策を講じた場合、非水電解質二次電池池のエネルギー密度が低下したり、非水電解質二次電池のサイズが大型化したりするなどの弊害が生じる可能性がある。
【0005】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであり、本開示の目的は、エネルギー密度の低下または大型化などの弊害を防止しつつ電極体の短絡に伴う発熱(特に熱暴走)を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示のある局面に従う非水電解質二次電池は、各々シート状の正極と負極とがセパレータを介して積層された電極体と、電極体を収容する電池ケースとを備える。電極体は、電極体の最も外側に配置された正極およびセパレータからなる最外層を含む外側層と、外側層よりも内側に配置された内側層とを有する。外側層は、電極体の短絡に起因する電極体の発熱により溶断するように構成された溶断部材を含む。内側層は、溶断部材を含まない。
【0007】
上記(1)の構成においては外側層が溶断部材を含む。溶断部材は、金属異物により電極体が短絡して短絡電流が流れた場合、速やかに溶断する。そうすると、電極体の内部における金属異物を介した短絡経路(正極-金属異物-負極との経路)が遮断される。その結果、それ以上の短絡電流が流れなくなり、電極体の発熱を抑制できる。また、溶断部材は、電極体全体ではなく外側層に局所的に設けられているため、エネルギー密度の低下または大型化などの弊害を防止できる。よって、上記(1)の構成によれば、エネルギー密度の低下または大型化などの弊害を防止しつつ電極体の短絡に伴う発熱を抑制できる。
【0008】
(2)正極は、正極集電体と、正極合材層とを含む。外側層に配置された正極集電体は、内側層に配置された正極集電体よりも薄い。溶断部材は、外側層に配置された正極集電体を含む。
【0009】
上記(2)の構成においては、外側層に含まれる正極集電体を薄くすることで、電極体の短絡に伴い正極集電体が溶融または蒸発がしやすくなる。よって、上記(2)の構成によれば、正極集電体の短時間での溶断を実現できる。
【0010】
(3)正極は、正極集電体と、正極合材層とを含む。外側層に配置された正極集電体は、複数の貫通孔が設けられた有孔金属箔である。溶断部材は、有孔金属箔を含む。
【0011】
(4)有孔金属箔は、パンチングメタル、エキスパンドメタルおよびラスメタルのうちのいずれかである。
【0012】
上記(3),(4)の構成においては、正極集電体を有孔金属箔とすることで、電極体の短絡に伴い正極集電体が溶融または蒸発がしやすくなる。よって、上記(3),(4)の構成によれば、正極集電体の短時間での溶断を実現できる。
【0013】
(5)電極体は、積層型である。
上記(5)の構成によれば、非水電解質二次電池の製造を容易にすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、エネルギー密度の低下または大型化などの弊害を防止しつつ電極体の短絡に伴う発熱(特に熱暴走)を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態1の形態に係るリチウムイオン二次電池の構成の一例を概略的に示す斜視図である。
【
図2】実施の形態1に係るリチウムイオン二次電池の構成の他の一例を概略的に示す斜視図である。
【
図3】実施の形態1における電極体の構成の一例を示す図である。
【
図4】
図3のIV-IV線に沿う電極体の断面を模式的に示す図である。
【
図5】正極集電体の薄型化により得られる効果を説明するための概念図である。
【
図6】実施の形態2における電極体の断面を模式的に示す図である。
【
図7】実施の形態2における正極集電体の構造を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0017】
以下の実施の形態では、本開示に係る非水電解質二次電池の例示的形態として、リチウムイオン二次電池を採用する。ただし、本開示に係る非水電解質二次電池は、これに限定されず、たとえばナトリウムイオン二次電池であってもよい。
【0018】
[実施の形態1]
<リチウムイオン二次電池の全体構成>
図1は、実施の形態1の形態に係るリチウムイオン二次電池の構成の一例を概略的に示す斜視図である。以下では、実施の形態1に係るリチウムイオン二次電池をセル5と記載する。理解を容易にするため、
図1にはセル5の内部を透視した図が示されている。
【0019】
セル5は、この例では密閉型の角型電池ある。ただし、セル5の形状は角型に限定されず、たとえば円筒型であってもよい。セル5は、電極体6と、電解液7と、電池ケース8とを備える。
【0020】
図1に示す電極体6は積層型(スタック型)である。すなわち、電極体6は、正極1と負極2とが、その間にセパレータ3(いずれも
図3参照)を挟みつつ交互に積層されることにより形成されている。
【0021】
電解液7は、電池ケース8に注入され、電極体6に含浸している。なお、
図1では電解液7の液面を一点鎖線で示している。電極体6(正極1、負極2、セパレータ3)および電解液7に用いられる材料等、詳細な構成については後述する。
【0022】
電池ケース8は、たとえばアルミニウム(Al)合金等により構成され得る。ただし、電池ケース8が密閉され得る限り、電池ケース8は、たとえばAlラミネートフィルム製のパウチ等であってもよい。電池ケース8は、ケース本体81と、蓋体82とを含む。
【0023】
ケース本体81は、電極体6および電解液7を収容する。ケース本体81は、扁平直方体の外形形状を有する。ケース本体81と蓋体82とは、たとえばレーザ溶接により接合されている。蓋体82には、正極端子91および負極端子92が設けられている。図示しないが、蓋体82には、注液口、ガス排出弁、電流遮断機構(CID:Current Interrupt Device)等がさらに設けられていてもよい。
【0024】
図2は、実施の形態1に係るリチウムイオン二次電池の構成の他の一例を概略的に示す斜視図である。
図2を参照して、セル5Aは、積層型の電極体6に代えて巻回型の電極体6Aを備える点において、
図1に示したセル5と異なる。
巻回型の電極体6Aは
、正極1と負極2とが、その間にセパレータ3を挟みつつ交互に積層され、さらに、その積層体が筒状に巻回されることにより成型されている。
【0025】
以下では、積層型の電極体6を例に説明するが、以下の説明と同様の構成を巻回型の電極体6Aに適用してもよい。一般に、積層型の電極体の製造の方が巻回型の電極体の製造よりも容易であるため、電極体6を積層型とすることにより、生産効率を向上させることができる。
【0026】
<電極体の形状>
図3は、実施の形態1における電極体6の構成の一例を示す図である。
図3に示すように、電極体6は、電池ケース8(ケース本体81)と同様に、扁平直方体の外径形状を有する。電極体6は、扁平直方体の長辺(図中、左右方向(y方向)の辺)が電池ケース8の長辺方向(
図2参照)に延在するように電池ケース8に収容されている。
【0027】
<正極>
正極1は帯状のシートである。正極1は、正極集電体11と、正極合材層12とを含む。正極集電体11は、正極端子91(
図1参照)に電気的に接続されている。正極集電体11は、たとえばアルミニウム(Al)箔、Al合金箔等であり得る。
【0028】
正極合材層12は、この例では正極集電体11の表面および裏面の両面に形成されている。しかし、正極合材層12は、正極集電体11の表面(いずれか一方の面)にのみ形成されていてもよい。正極合材層12は、正極活物質、導電材、バインダおよび難燃剤(いずれも図示せず)を含む。
【0029】
正極活物質は、たとえばLiCoO2、LiNiO2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(NCM)、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2(NCA)、LiMnO2、LiMn2O4、LiFePO4であり得る。2種以上の正極活物質が組み合わされて使用されてもよい。
【0030】
導電材は、たとえばアセチレンブラック(AB)、ファーネスブラック、気相成長炭素繊維(VGCF)、黒鉛であり得る。
【0031】
バインダは、たとえばポリフッ化ビニリデン(PVdF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であり得る。
【0032】
難燃剤は、リン(P)または硫黄(S)を含む難燃剤であり、かつ、難燃剤の熱分解温度が80℃以上210℃以下である限り、特に限定されない。難燃剤は、たとえばスルファミン酸グアニジン、リン酸グアニジン、リン酸グアニル尿素、リン酸二アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム、メラミンシアヌレート、ビスフェノールAビス(ジフェニルリン酸エステル)、レゾルシノールビス(ジフェニルリン酸エステル)、トリイソピルフェニルリン酸エステル、トリフェニルリン酸エステル、トリメチルリン酸エステル、トリエチルリン酸エステル、トリクレジルリン酸エステル、トリス(クロロイソプロピル)リン酸エステル、(C4H9)3PO)、(HO-C3H6)3PO、ホスファゼン化合物、五酸化二リン、ポリリン酸、メラミン等であり得る。これらの難燃剤は単独で使用されてもよいし、2種以上の難燃剤が組み合わされて使用されてもよい。
【0033】
<負極>
負極2は帯状のシートである。負極2は、負極合材層22および負極集電体21を含む。負極集電体21は、負極端子92(
図1参照)に電気的に接続されている。負極集電体21は、たとえば銅(Cu)箔であり得る。
【0034】
負極合材層22は、この例では負極集電体21の表面および裏面の両面に形成されている。しかし、負極合材層22は、負極集電体21の表面(いずれか一方の面)にのみ形成されていてもよい。負極合材層22は、負極活物質およびバインダ(いずれも図示せず)を含む。
【0035】
負極活物質は黒鉛系材料である。具体的には、負極活物質は、アモルファスコートグラファイト(黒鉛粒子の表面にアモルファスカーボンがコートされた形態のもの)、黒鉛、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素であり得る。
【0036】
バインダは、たとえば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)であり得る。
【0037】
<セパレータ>
セパレータ3は帯状のフィルムである。セパレータ3は、正極1と負極2との間に配置され、正極1と負極2とを電気的に絶縁する。セパレータ3の材料は、多孔質材料であって、たとえばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)であり得る。
【0038】
セパレータ3は単層構造を有していてもよい。セパレータ3は、たとえばポリエチレン(PE)製の多孔質フィルムのみから形成されていてもよい。一方で、セパレータ3は多層構造を有していてもよい。たとえば、セパレータ3は、第1ポリプロピレン(PP)製の多孔質フィルムと、ポリエチレン(PE)製の多孔質フィルムと、第2ポリプロピレン(PP)製の多孔質フィルムとからなる3層構造を有していてもよい。
【0039】
<電解液>
電解液7は、リチウム(Li)塩および溶媒を少なくとも含む。Li塩は、溶媒に溶解した支持電解質である。Li塩は、たとえば、LiPF6、LiBF4、Li[N(FSO2)2]、Li[N(CF3SO2)2]であり得る。1種のLi塩が単独で使用されてもよいし、2種以上のLi塩が組み合わされて使用されてもよい。
【0040】
溶媒は非プロトン性である。溶媒は、たとえば環状カーボネートおよび鎖状カーボネートの混合物であり得る。
【0041】
環状カーボネートは、たとえば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等であってもよい。1種の環状カーボネートが単独で使用されてもよい。2種以上の環状カーボネートが組み合わされて使用されてもよい。
【0042】
鎖状カーボネートは、たとえば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等であってもよい。1種の鎖状カーボネートが単独で使用されてもよい。2種以上の鎖状カーボネートが組み合わされて使用されてもよい。
【0043】
溶媒は、たとえば、ラクトン、環状エーテル、鎖状エーテル、カルボン酸エステル等を含んでもよい。ラクトンは、たとえば、γ-ブチロラクトン(GBL)、δ-バレロラクトン等であってもよい。環状エーテルは、たとえば、テトラヒドロフラン(THF)、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン等であってもよい。鎖状エーテルは、1,2-ジメトキシエタン(DME)等であってもよい。カルボン酸エステルは、たとえば、メチルホルメート(MF)、メチルアセテート(MA)、メチルプロピオネート(MP)等であってもよい。
【0044】
電解液7は、Li塩および溶媒に加えて、各種の機能性添加剤をさらに含んでもよい。機能性添加剤としては、たとえば、ガス発生剤(過充電添加剤)、SEI(Solid Electrolyte Interface)膜形成剤等が挙げられる。ガス発生剤は、たとえば、シクロヘキシルベンゼン(CHB)、ビフェニル(BP)であり得る。SEI膜形成剤は、たとえば、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、Li[B(C2O4)2]、LiPO2F2、プロパンサルトン(PS)、エチレンサルファイト(ES)であり得る。
【0045】
<金属異物の混入>
リチウムイオン二次電池の製造工程において電池ケースの内部に金属異物が混入し得ることが知られている。セル5を用いて具体例を挙げて説明すると、たとえば、正極集電体11および負極集電体21の端部をレーザ溶接により接合する際に金属片(スパッタ)が発生する可能性がある。また、電極体6をケース本体81に収容した後、ケース本体81と蓋体82とをレーザ溶接する際にも金属片が発生する可能性がある。さらに、セル5の製造工程以外にも、たとえばセル5を搭載した車両の衝突等により衝撃がセル5に印加されることで金属片が発生する可能性も考えられる。
【0046】
金属異物が混入すると、その金属異物が電極体6に付着することで電極体6が短絡し得る。そうすると、電極体6が発熱し、場合によっては熱暴走する可能性がある(詳細については
図5参照)。よって、発熱、特に熱暴走を抑制するための対策を講じることが考えられる。その一方で、過度な対策を講じた場合には、セル5のエネルギー密度が低下したり、セル5のサイズが大型化したりするなどの弊害が生じる可能性がある。
【0047】
本発明者らは、金属異物が電極体6に短絡を生じさせる場合、その短絡が電極体6の最外周部分で生じやすい点に着目した。実施の形態1においては、電極体6の最外周に配置された正極1について、正極集電体11の厚みを薄くすることによって正極集電体11の耐熱性を意図的に低下させる。これにより、金属異物の混入等に起因して電極体6の短絡が生じた場合、正極集電体11が溶断しやすくなる。正極集電体11が溶断すると、金属異物を介した正極集電体11と負極集電体21との間の電気的接続(内部短絡経路)が遮断されるため、短絡電流が流れにくくなる。よって、熱暴走につながり得る電極体6の発熱を抑制できる。また、正極集電体11の薄型化では、セル5の大型化などの弊害も起こらない。
【0048】
<電極体の構成>
図4は、
図3のIV-IV線に沿う電極体6の断面を模式的に示す図である。
図4には、電極体6を構成する正極1、負極2およびセパレータ3の積層構造が電極体6の外側から内側に向けて図示されている。電極体6の外側とは電池ケース8に近い側である。
【0049】
複数の負極2のうち最も外側に配置された負極2と、その負極2の内側に配置されたセパレータ3とを「第1層」と記載する。外側から2番目に配置された層、すなわち、第1層の内側に配置された正極1と、その正極1の内側に配置されたセパレータ3とを「第2層」(すなわち、電極体の最も外側に配置された正極およびセパレータからなる最外層)と記載する。外側から3番目に配置された負極2およびセパレータ3を「第3層」と記載する。外側から4番目に配置された正極1およびセパレータ3を「第4層」と記載する。第5層以降についても同様である。
【0050】
第2層に配置された正極1Aの正極集電体11Aは、第4層および第6層(他の偶数番号の層)に配置された正極1の正極集電体11よりも薄い(D2<D4)。具体的には、正極集電体11Aの厚みD2は、正極集電体11の厚みD4の半分程度とすることができる。一例として、正極集電体11の厚みD4が15μmであるのに対し、正極集電体11Aの厚みD2は8μmである。このように、実施の形態1においては第2層に配置された正極1Aの正極集電体11Aが薄型化されている。
【0051】
図5は、正極集電体11Aの薄型化により得られる効果を説明するための概念図である。
図5を参照して、金属異物Mは、電極体6の最外周に位置する第1層付近に混入する可能性が高い。
図5には、第1層に配置された負極2の負極集電体21と第2層に配置された正極
1Aの正極集電体
11Aとが金属異物Mを介して内部短絡した様子が図示されている。
【0052】
金属異物Mによる内部短絡が生じた場合、電極体6全体から内部短絡が生じた箇所に向けて短絡電流が流れることで短絡箇所が局所的に発熱して高温になる。そうすると、短絡箇所で電極材料の発熱反応(分解反応、酸化反応等)が起こり、短絡箇所がさらに発熱する。この発熱が連続することで電極体6の熱暴走が引き起こされ得る。
【0053】
本実施の形態においては、正極集電体11Aの厚みD2が薄く、正極集電体11の厚みD4の半分程度である。そのため、短絡電流の伝搬に伴う発熱により正極集電体11Aが短時間で溶断する。具体的には、前述のように正極集電体11Aの厚みを8μmにした場合、正極集電体の厚みが15μmである場合と比べて、溶断時間を約半分に短縮できる。正極集電体11Aが溶断すると、内部短絡経路の電気抵抗が増大し、短絡電流が流れにくくなる(理想的には短絡電流が流れなくなる)。その結果、短絡箇所における短絡電流による発熱量が小さくなり、短絡箇所における電極材料の発熱反応も起こりにくくなる。したがって、電極体6の熱暴走を抑制できる。
【0054】
なお、
図4および
図5では、薄型化した正極集電体11Aが第2層(複数の正極1のうち最も外層の正極が位置する層)のみに設けられている例を図示して説明した。薄型化された正極集電体11Aは、本開示に係る「溶断部材」に相当する。そして、第2
層が本開示に係る「外側層」に相当し、第3層またはそれよりも内側に配置された層が「内側層」に相当する。
【0055】
しかし、薄型化した正極集電体11Aは、少なくとも電極体6の最も外側に配置された正極1Aに設けられていればよく、電極体6の外側から数層に亘って設けられていてもよい。正極集電体11Aは、たとえば第2層および第4層の2層に設けられていてもよい。その場合には、第2および第4層が本開示に係る「外側層」に相当し、第5層またはそれよりも内側に配置された層が「内側層」に相当する。また、正極集電体11Aは、たとえば第2層、第4層および第6層の3層に設けられていていてもよい。その場合には、第2、第4層および第6層が本開示に係る「外側層」に相当し、第7層またはそれよりも内側に配置された層が「内側層」に相当する。ただし、すべての偶数番号の層に薄型化した正極集電体11Aが設けられていることは好ましくない。
【0056】
以上のように、実施の形態1においては、積層された複数の正極1のうち最も外側に配置された正極1Aの正極集電体11Aを、電極体6の内側に配置された正極1の正極集電体11よりも薄型化する。これにより、金属異物Mの混入により電極体6が短絡した場合、短絡電流による発熱を利用して正極集電体11Aを速やかに溶断させ、正極集電体11Aのうちの残りの部分を短絡先(負極集電体21)から電気的に切り離すことが可能になる。よって、実施の形態1によれば、エネルギー密度の低下または大型化などの弊害を防止しつつ、電極体6が短絡しても電極体6の熱暴走を抑制できる。
【0057】
[実施の形態2]
正極集電体の薄型化以外の構成によって正極集電体の溶断を促進することも可能である。実施の形態2においては、正極集電体に貫通孔を設けることで、正極集電体を熱的に脆弱にする構成について説明する。なお、実施の形態2に係るリチウムイオン二次電池(セル)の全体構成は、
図1および
図2に示した構成と同様であるため、詳細な説明は繰り返さない。
【0058】
図6は、実施の形態2における電極体の断面を模式的に示す図である。
図6を参照して、電極体6Bの第2層に配置された正極1Bは、正極集電体11に代えて正極集電体11Bを含む点において、第4層などの他の偶数番号の層に配置された正極1と異なる。
【0059】
図7は、実施の形態2における正極集電体11Bの構造を示す上面図である。
図7を参照して、正極集電体11Bは、正極集電体11の基材110(アルミニウム箔等)に対して打ち抜き加工を行ったパンチングメタルである。基材110に配列する貫通孔THが正極集電体11Bの全面積に対して占める比率は、正極集電体11Bの厚み等に応じて適宜設定され得るが、たとえば50%である。
【0060】
正極集電体11Bの基材110の体積は、貫通孔THの体積の分だけ、貫通孔THが設けられていない正極集電体11の基材の体積よりも小さい。そのため、正極集電体11Bの熱容量は、正極集電体11の熱容量よりも小さい。したがって、実施の形態2においても実施の形態1(
図5参照)と同様に、短絡電流の伝搬に伴う発熱によって正極集電体11Bが短時間で溶断する。たとえば貫通孔THの比率を50%にした場合、貫通孔THを設けない場合と比べて、溶断時間を約半分に短縮できる。正極集電体11Bが溶断すると、負極2の負極集電体21と正極1Bの正極集電体11Bとの間の電気抵抗が増大し、短絡電流が流れにくくなる。その結果、短絡箇所における短絡電流による発熱量が小さくなり、短絡箇所における電極材料の発熱反応も起こりにくくなる。よって、電極体6Bの熱暴走を抑制できる。
【0061】
なお、正極集電体11Bは、複数の貫通孔THが設けられた平板状の金属箔であれば、パンチングメタルに限定されるものではない。正極集電体11Bは、エキスパンドメタル、ラスメタルなどであってもよい。
【0062】
以上のように、実施の形態2においては、電極体6Bの最も外側に配置された正極1Bの正極集電体11Bに複数の貫通孔THが設けられる。これにより、金属異物Mの混入により電極体6Bが短絡した場合、短絡電流による発熱を利用して正極集電体11Bを速やかに溶断させ、正極集電体11Bのうちの残りの部分を短絡先(負極集電体21)から電気的に切り離すことが可能になる。よって、実施の形態2によれば、エネルギー密度の低下または大型化などの弊害を防止しつつ、電極体6Bが短絡しても電極体6Bの熱暴走を抑制できる。
【0063】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0064】
1,1A,1B 正極、11,11A,11B 正極集電体、110 基材、12 正極合材層、2 負極、21 負極集電体、22,29 負極合材層、3 セパレータ、5,5A セル、7 電解液、6,6A,6B 電極体、8 電池ケース、81 ケース本体、82 蓋体、91 正極端子、92 負極端子、M 金属異物。