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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】高圧タンク及び高圧タンクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F17C 1/06 20060101AFI20231108BHJP
【FI】
F17C1/06
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020130239
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022026666
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片野 剛司
【審査官】田中 一正
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03073475(US,A)
【文献】特表2019-507851(JP,A)
【文献】国際公開第2018/066293(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0051999(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧タンクであって、
繊維強化樹脂製の円筒部と、
繊維強化樹脂製のドーム部と、
を備え、
前記円筒部は、前記高圧タンクの中心軸方向に繊維が配向された軸方向繊維層と、前記高圧タンクの周方向に繊維が配向された周方向繊維層と、を有し、
前記軸方向繊維層の端部と、前記ドーム部の端部とが接合されており、
前記軸方向繊維層は、前記周方向繊維層の内側に配されており、
前記ドーム部の端部は、前記軸方向繊維層と前記周方向繊維層の間に配されている、
高圧タンク。
【請求項2】
繊維強化樹脂製の円筒部と、繊維強化樹脂製のドーム部と、を備える高圧タンクの製造方法であって、
(a)前記円筒部を形成する軸方向繊維層であって、前記高圧タンクの軸方向に繊維が配向された軸方向繊維層と、前記ドーム部を準備する工程と、
(b)前記軸方向繊維層の端部と、前記ドーム部の端部とを接合して接合体を形成する工程と、
(c)前記軸方向繊維層の外側に、前記高圧タンクの周方向に繊維が配向された周方向繊維層を形成する工程と、
を備え、
前記工程(b)は、前記ドーム部の端部の内面と、前記軸方向繊維層の端部の外面とを接合して前記接合体を形成する工程であり、
前記工程(c)は、
前記軸方向繊維層の外側に、前記周方向繊維層の一部を形成する工程と、
前記ドーム部の端部の外側に、前記周方向繊維層の他の一部を形成する工程と、を含む、
高圧タンクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高圧タンク及び高圧タンクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ライナの外面にフィラメントワインディング法で樹脂含浸繊維を巻き付けて補強層を形成する工程を含む高圧タンクの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-149739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の発明者は、従来の方法に代わる新たな高圧タンクの製造方法として、高圧タンクの周方向に繊維が配向されたパイプ部と、ドーム部と、を別個に形成した後に、両者を接合して補強層の一部を構成する接合体を作成する方法を考案した。この製造方法において、パイプ部とドーム部が接合されているため、両者が接合された部位において、高圧タンクの軸方向の応力を受けやすい。本開示の発明者は、パイプ部が高圧タンクの周方向に配向された繊維のみからなるため、高圧タンクの軸方向の応力を、繊維で受けにくいという課題があることを見出した。そのため、高圧タンクの強度について、さらなる改良が求められた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、繊維強化樹脂製の円筒部と、繊維強化樹脂製のドーム部と、を備える高圧タンクが提供される。この高圧タンクは、前記円筒部は、前記高圧タンクの中心軸方向に繊維が配向された軸方向繊維層と、前記高圧タンクの周方向に繊維が配向された周方向繊維層と、を有し、前記軸方向繊維層の端部と、前記ドーム部の端部とが接合されている。
この形態の高圧タンクによれば、高圧タンクの軸方向の応力を、軸方向繊維層が受けることができる。そのため、軸方向繊維層を備えない高圧タンクに比べて、強度を高くすることができる。
(2)上記形態の高圧タンクにおいて、前記軸方向繊維層は、前記周方向繊維層の内側に配されていてもよい。
この形態の高圧タンクによれば、高圧タンクの内圧が高まると、軸方向繊維層が高圧タンクの中心軸の外側に向かって膨らむ。周方向繊維層は、中心軸の外側に向かって膨らみにくいため、軸方向繊維層の中心軸の外側への膨らみを抑えることができる。
(3)上記形態の高圧タンクにおいて、前記ドーム部の端部は、前記軸方向繊維層と前記周方向繊維層の間に配されていてもよい。
この形態の高圧タンクによれば、高圧タンク内の圧力が高まり、軸方向繊維層が高圧タンクの中心軸の外側に向かって膨らむと、ドーム部の端部が、周方向繊維層に押し付けられる。これにより、ドーム部と軸方向繊維層とをより強く接合させることができ、高圧タンクの軸方向に対する強度を高くすることができる。
(4)本開示の他の形態によれば、繊維強化樹脂製の円筒部と、繊維強化樹脂製のドーム部と、を備える高圧タンクの製造方法が提供される。この高圧タンクの製造方法は、(a)前記円筒部を形成する軸方向繊維層であって、前記高圧タンクの軸方向に繊維が配向された軸方向繊維層と、前記ドーム部を準備する工程と、(b)前記軸方向繊維層の端部と、前記ドーム部の端部とを接合して接合体を形成する工程と、(c)前記軸方向繊維層の外側または内側に、前記高圧タンクの周方向に繊維が配向された周方向繊維層を形成する工程と、を備える。
この形態の高圧タンクの製造方法によれば、高圧タンクの軸方向の応力を、軸方向繊維層が受ける高圧タンクを製造することができる。この高圧タンクは、軸方向繊維層を備えない高圧タンクに比べて、強度を高くすることができる。
(5)上記形態の高圧タンクの製造方法において、前記工程(c)は、前記軸方向繊維層の外側に、前記周方向繊維層の少なくとも一部を形成する工程を含んでいてもよい。
この形態の高圧タンクの製造方法によれば、軸方向繊維層の外側に、周方向繊維層の少なくとも一部を形成することができるため、軸方向繊維層の内側に周方向繊維層を形成する場合と比べて、巻き付け途中の周方向繊維層を確認することができる。そのため、高圧タンクの生産性を向上させることができる。
(6)上記形態の高圧タンクの製造方法において、前記工程(b)は、前記ドーム部の端部の内面と、前記軸方向繊維層の端部の外面とを接合して接合体を形成する工程であり、前記工程(c)は、さらに、前記ドーム部の前記端部の外側に、前記周方向繊維層の他の一部を形成する工程を含んでもよい。
この形態の高圧タンクの製造方法によれば、ドーム部の端部の外側に周方向繊維層の他の一部を形成することができるため、ドーム部の端部の、外側への移動を抑制する高圧タンクを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施形態における高圧タンクの構成を示す断面図。
図2】高圧タンクの製造方法を示す工程図。
図3】軸方向繊維層の形成方法の一例を示す説明図。
図4】ドーム部の形成方法の一例を示す説明図。
図5】周方向繊維層の形成方法を説明する図。
図6】外ヘリカル層の形成方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.実施形態:
図1は、本実施形態における高圧タンク100の構成を示す断面図である。高圧タンク100は、高圧水素などの高圧流体を貯蔵する貯蔵容器である。高圧タンク100は、例えば、燃料電池に水素を供給するために、燃料電池車両に搭載される。なお、高圧タンク100は、燃料電池車両に限らず、電気自動車、ハイブリッド自動車等の他の車両に搭載されてもよいし、船舶、飛行機、ロボット等の他の移動体に搭載されてもよい。また、住宅、ビル等の定置設備に備えられてもよい。
【0009】
高圧タンク100は、ライナ10と、補強層20と、を備えている。ライナ10は、高圧タンク100の内壁を構成する。ライナ10は、内部空間に充填されたガスが外部に漏れないように遮断する性質を有する樹脂で形成されている。ライナ10を形成する樹脂としては、例えば、ポリアミド、ポリエチレン、及びエチレンービニルアルコール共重合樹脂、ポリエステル、ナイロン等の熱可塑性樹脂や、エポキシ等の熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0010】
補強層20は、ライナ10を補強するための繊維強化樹脂製の層である。補強層20は、ライナ10の外面に配置される。補強層20は、2つのドーム部21と円筒部22を含む第2接合体60と、外ヘリカル層23と、を有する。補強層20を、「補強体」とよぶことも可能である。補強層20に含まれるドーム部21と、円筒部22と、外ヘリカル層23は、繊維に樹脂を含浸させたものによって形成される。補強層20に含まれるドーム部21と、円筒部22と、外ヘリカル層23を形成する繊維としては、ガラス繊維や炭素繊維等を用いることができる。繊維に含侵させる樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることができる。第2接合体60については、後述する。
【0011】
ドーム部21は、その一端から他の端部である開口端211に向けて外径が次第に増大する形状を有する。開口端211は、高圧タンク100の中心軸である軸CA方向に沿ったドーム部21の両端のうち、高圧タンク100の中心Оにより近い方の端である。開口端211と反対側の端は、後述する第1口金30または第2口金31に接している。図1において、ドーム部21は、中空の略球体の一部を切断して得られる形状を有している。なお、ドーム部は、これ以外の種々の形状を採用可能である。
【0012】
円筒部22は、軸方向繊維層221と、周方向繊維層222と、を有する。軸方向繊維層221は、内圧によって生じる、高圧タンク100の軸CAの方向に対する応力を受ける機能を有している。軸方向繊維層221は、両端が開口した略円筒の形状を有している。軸方向繊維層221は、上述した繊維が、高圧タンク100の軸CAの方向に対し配向されるように形成されている。繊維が軸CAの方向に対し配向されるとは、軸方向繊維層221の繊維の方向が、高圧タンク100の軸CAの方向から±20度の範囲内にあることを意味する。軸方向の強度を高める観点からは、軸方向繊維層221の繊維の方向が、高圧タンク100の軸CAの方向から±10度の範囲内に収まることが好ましい。
【0013】
軸方向繊維層221は、周方向繊維層222の内側に配されている。軸方向繊維層221は、軸方向繊維層221の両端にそれぞれ軸方向端部223を有する。ドーム部21の開口端211の内面と、軸方向繊維層221の軸方向端部223の外面とが接合され、接合部40が形成されることにより、ドーム部21と軸方向繊維層221とを含む接合体50が形成されている。接合部40が形成されることにより、高圧タンク100の内圧が高まった際に、接合部40の軸CA方向に生じる応力を、軸方向繊維層221が受けることができる。これにより、接合部40における、軸CA方向の強度が、軸方向繊維層221を備えない高圧タンク100に比べて高くなる。接合体50は、さらに、ドーム部21に接合された第1口金30と第2口金31を含んでいる。
【0014】
周方向繊維層222は、内圧によって生じる、高圧タンク100の軸CAから外向きに発生する力を受ける機能を有している。周方向繊維層222は、両端が開口した略円筒の形状を有している。周方向繊維層222は、上述した繊維が、高圧タンク100の周方向に対し配向されるように形成されている。繊維が高圧タンク100の周方向に対し配向されるとは、周方向繊維層222の繊維の方向が、高圧タンク100の周方向から±20度の範囲内にあることを意味する。周方向の強度を高める観点からは、周方向繊維層222の繊維の方向が、高圧タンク100の周方向から±10度の範囲内に収まることが好ましい。
【0015】
周方向繊維層222は、軸方向繊維層221の外側に配されており、周方向繊維層222が、軸方向端部223を除く軸方向繊維層221の外面を覆って、第2接合体60が形成されている。高圧タンク100の内圧が高まると、軸方向繊維層221が高圧タンク100の軸CAの外側に向かって膨らみ得る。一方、周方向繊維層222は、軸CAの外側に向かって膨らみにくいため、軸方向繊維層221の軸CAの外側への膨らみを抑えることができる。
【0016】
本実施形態において、ドーム部21の開口端211は、軸方向繊維層221の軸方向繊維層221と周方向繊維層222の間に配されている。高圧タンク100内の圧力が高まり、軸方向繊維層221が高圧タンク100の軸CAの外側に向かって膨らむと、軸方向繊維層221の軸方向端部223によって、開口端211が周方向繊維層222に向かって押し付けられる。これにより、ドーム部21の開口端211と軸方向繊維層221の軸方向端部223とをより強く接合させることができ、高圧タンク100の、軸CA方向に対する強度を高くすることができる。
【0017】
外ヘリカル層23は、接合体50と周方向繊維層222を含む第2接合体60の外面に、繊維強化樹脂をヘリカル巻きすることによって形成された層である。外ヘリカル層23は、高圧タンク100の内圧が高くなったときに、ドーム部21の高圧タンク100の中心から外側へ向かう向きの移動を防止する。
【0018】
第1口金30は、ライナ10内の空間と、外部空間とを連通する連通孔30aを有する。連通孔30aは、ガスを充填および排出するためのバルブを含む接続装置が設置される。第2口金31は、外部空間に連通する連通孔30aを有していない。しかし、第2口金31は、連通孔30aを有するものとしてもよい。また、第2口金31は省略してもよい。第1口金30と第2口金31は、アルミニウムやステンレス鋼等の金属によって構成されている。
【0019】
図2は、高圧タンク100の製造方法を示す工程図である。図3は、軸方向繊維層221の形成方法の一例を示す説明図である。図2のステップS100では、軸方向繊維層221とドーム部21を準備する。本実施形態において、軸方向繊維層221は、引抜法を用いて形成する(図3参照)。引抜法では、図示しない引抜棚から矢印方向に引き出された繊維70が、樹脂を溶かした含浸装置71に浸漬される。その後、樹脂が含浸した繊維72が金型73に引き込まれ、金型73内で硬化される。その後、金型73から樹脂強化性繊維74が引き抜かれ、切断される。引抜法を用いることにより、軸CA方向に配向する軸方向繊維層221を効率的に形成することができる。
【0020】
ステップS100で軸方向繊維層221の樹脂の硬化を行う場合には、樹脂の粘度が安定した状態となるまで完全に硬化を行う「本硬化」を行ってもよいし、本硬化に至らない予備硬化を行ってもよい。一般に、未硬化の熱硬化性樹脂は、加熱すると最初は粘度が低下する。その後も加熱を続けると粘度が上昇してゆき、十分な時間、加熱を継続すると、樹脂の粘度が目標値以上となり、安定した状態となる。このような経過を前提としたとき、粘度の低下後に粘度が再上昇して、加熱開始時の粘度に再度到達した後も硬化を継続し、本硬化の終点に至る前のいずれかの時点で硬化を終了する処理を「予備硬化」と呼ぶ。ステップS100において予備硬化を実施し、後述するステップS600において本硬化を実行するようにすれば、本硬化に至る前の軸方向繊維層221の樹脂の粘度で接着することができるため、軸方向繊維層221を、ドーム部21と周方向繊維層222に対して、より強固に接合させることができる。
【0021】
図4は、ドーム部21の形成方法の一例を示す説明図である。本実施形態において、ドーム部21は、フィラメントワインディング法を用いて、マンドレル80に繊維束FBを巻き付けることによって形成する。マンドレル80は、ドーム部21を2つ合わせた外形と相似形の外形を有するものとすることが好ましい。フィラメントワインディング法では、マンドレル80を回転させながら、繊維束ガイド81を移動させることによってマンドレル80に繊維束FBを巻き付ける。図4では、ヘリカル巻きによって繊維束FBをマンドレル80に巻き付けている。繊維束FBの巻きつけが終了した後に、切断線CLに沿って切断することにより、2つのドーム部21を得ることができる。
【0022】
一般に、繊維強化樹脂製の物体を形成する方法として、以下のような方法が存在する。
<ウェットFW>ウェットFWは、繊維束を巻き付ける直前に、粘度を低くした液状の樹脂を繊維束に含侵させ、その樹脂を含浸させた繊維束をマンドレルに巻き付ける方法である。
<ドライFW>ドライFWは、繊維束に予め樹脂を含浸させて乾燥させたトウプリプレグを準備し、トウプリプレグをマンドレルに巻き付ける方法である。
<RTM(Resin Transfer Molding)成型>RTM成型は、雌雄一対の成形型内に繊維を設置し、型を閉めた後、樹脂注入口より樹脂を注入して繊維に含侵させて成形する方法である。
【0023】
フィラメントワインディング法としては、ウェットFWとドライFWのいずれも利用可能である。なお、フィラメントワインディング法以外の、RTM成型等の他の方法を用いてドーム部を形成してもよい。
【0024】
ドーム部21の樹脂の硬化は、ステップS100において実行してもよく、あるいは、ステップS600において実行してもよい。この際の樹脂の硬化は、本硬化を行ってもよく、予備硬化を行ってもよい。ステップS100において予備硬化を実施し、ステップS600において本硬化を実行するようにすれば、本硬化に至る前のドーム部21の樹脂の粘度で接着することができるため、ドーム部21を、円筒部22と外ヘリカル層23に対して、より強固に接合させることができる。高圧タンク100の直径を変える場合、ステップS100において、ドーム部21に巻き付ける繊維の量を増やすことで、対応することができる。
【0025】
ステップS200では、ドーム部21と第1口金30と第2口金31とが接合される。ドーム部21と第1口金30と第2口金31との接合は、接着剤や粘着剤を用いることで行うことができる。ステップS300では、ステップS200で準備されたドーム部21の開口端211の内面と、軸方向繊維層221の軸方向端部223の外面とが接合され、接合体50が形成される。ステップS300での接合は、接着剤として、エポキシ樹脂やフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることができる。ステップS300において、開口端211と軸方向端部223を接着させておき、高圧タンク100を形成した後に内圧により生じる摩擦によって開口端211と軸方向端部223を接合させることもできる。また、内圧により生じる摩擦と接着剤等をあわせた方法により、より強くドーム部21と軸方向端部223とを接合させることができる。さらに、上述したように、軸方向繊維層221は、引抜法を用いて形成し、ドーム部21は、マンドレル80に繊維束FBを巻き付けることによって形成している。軸方向繊維層221の外側は、金型73の型に形成され、ドーム部21の内側はマンドレル80の型に形成されるため、両者の勘合が容易である。両者が勘合することによって、軸方向繊維層221とドーム部21がより強く接合し、高圧タンク100の強度を高くすることが可能となる。
【0026】
図5は、周方向繊維層222の形成方法を説明する図である。ステップS400では、接合体50の外側に、周方向繊維層222を形成することで、第2接合体60を形成する。周方向繊維層222は、フィラメントワインディング法を用いて、ステップS300で準備した接合体50に繊維束FBを巻き付けることによって形成することができる。フィラメントワインディング法では、接合体50を回転させながら、繊維束ガイド82を移動させることによって、接合体50に繊維束FBを巻き付ける。図5に示すように、接合体50をマンドレルとすることができるため、別の軸を用意する必要がない。そのため、周方向繊維層222を接合体50に密着させることができる。また、このような周方向繊維層222の形成方法においては、軸方向繊維層221の内側に周方向繊維層222を形成する場合と比べて、巻き付け途中の周方向繊維層222を確認することができる。このため、高圧タンク100の生産性を向上させることができる。
【0027】
図1に示すように、周方向繊維層222は、一部が軸方向繊維層221の外面上に形成される(図1の222a参照)。周方向繊維層222の他の一部は、軸方向繊維層221と開口端211が重なる部位である接合部40の外側に形成されている(図1の222b参照)。周方向繊維層222は、さらに他の一部が、ドーム部21の外面上に形成される(図1の222c参照)。開口端211の外側に周方向繊維層222を形成することにより、開口端211の外側に周方向繊維層222が形成されていない高圧タンク100と比べて、開口端211の、外側への移動を抑制する高圧タンク100を製造することができる(図1の222b参照)。なお、開口端211以外のドーム部21の外側に、周方向繊維層222が形成されていなくてもよい(図1の222c参照)。
【0028】
なお、軸方向繊維層221の内側に周方向繊維層222を形成する場合には、ステップS100で軸方向繊維層221を形成した後に、CW(Centrifugal-Winding)法によって形成することができる。CW法は、回転する円筒形の型の内面に繊維シートを貼り付けることによって筒状の部材を形成する方法である。繊維シートとしては、予め樹脂が含浸された樹脂シートを用いてもよく、樹脂が含浸されていない繊維シートを用いてもよい。後者の場合には、繊維シートを筒状に巻いた後に、型内に樹脂を流し込んで繊維シートに樹脂を含浸させる。
【0029】
CW法で周方向繊維層を形成する場合、ドーム部の形成は円筒部の形成後となる。円筒部の形成後、開口端を、軸方向端部の外側に接合する。この場合、上記の第2接合体60と異なり、開口端が、軸方向繊維層の外側かつ、周方向繊維層の内側に配置されない。軸方向繊維層221の外側かつ、周方向繊維層222の内側に開口端211が形成される本実施形態の形状のほうが、接合部40の強度が強くなると考えられる。そのため、本実施形態では軸方向繊維層221の外側に周方向繊維層222を形成する方法を採用している。なお、軸方向繊維層221の外側に周方向繊維層222を形成する方法として、フィラメントワインディング法以外に、シートワインディング法も採用が可能である。シートワインディング法では、軸方向繊維層221をマンドレルとして、軸方向繊維層221の周方向に沿って、シート状の繊維を巻き付ける。
【0030】
図6は、外ヘリカル層23の形成方法を説明する図である。ステップS500では、フィラメントワインディング法を用いて、第2接合体60の外側に繊維束FBを巻き付けることにより、外ヘリカル層23を形成し、補強層20を形成する。このフィラメントワインディング方では、第2接合体60の軸CPを中心として、第2接合体60を回転させながら、繊維束ガイド83を移動させることによって第2接合体60に繊維束FBを巻き付ける。上述したように、外ヘリカル層23は、高圧タンク100の内圧が高くなったときに、ドーム部21の高圧タンク100の中心から外側への移動を防止する機能を有している。この機能を達成するため、繊維束FBの巻き付け角度αは、45度以下とすることが好ましい。巻き付け角度αは、第2接合体60の軸CPに対する繊維束FBの角度である。フィラメントワインディング法としては、ウェットFWと、ドライFWのいずれも利用可能である。
【0031】
本開示の発明者は、軸方向繊維層221を備えていない高圧タンクの場合に、例えば高圧タンクの直径を2倍にすると、外ヘリカル層を形成するための繊維が4倍必要となることを見出した。外ヘリカル層は、高速で巻き付けることが困難であるため、軸方向繊維層を備えていない高圧タンクの直径を大きくすると、高圧タンクの製造のための時間が長くなる。本開示の高圧タンクにおいては、軸方向繊維層221が高圧タンク100の軸方向の応力を受けることができるので、高圧タンク100の直径を大きくしても、外ヘリカル層23を形成するための繊維を4倍に増やす必要がない。そのため、高圧タンク100の直径を大きくしても、軸方向繊維層を備えていない高圧タンクに比べて、高圧タンク100の製造のための時間が長くならない。また、外ヘリカル層23を形成するための設備を流用することができるため、高圧タンク100の生産性を上げることができる。
【0032】
ステップS600では、補強層20の未硬化の樹脂を硬化させる。この硬化は上述した本硬化である。ステップS700では、補強層20の内側に、ライナ10を形成する。本実施形態におけるライナ10の形成は、補強層20の内部に液状のライナの材料を入れて、補強層20を回転させながらライナの材料を硬化させることで行うことができる。このようにして、高圧タンク100を製造することができる。
【0033】
なお、ライナ10の形成は、上述した方法以外によって行ってもよい。例えば、ライナと軸方向繊維層とドーム部を別個に形成し、ライナと軸方向繊維層とドーム部と第1口金と第2口金を接合する。その後、フィラメントワインディング法によって周方向繊維層と外ヘリカル層を形成してもよい。
【0034】
B.他の実施形態:
(B1)上記実施形態では、軸方向繊維層221が、周方向繊維層222の内側に配されている。もとより、軸方向繊維層の内側に、周方向繊維層が配されていてもよい。
【0035】
(B2)上記実施形態では、軸方向繊維層221の外側に、周方向繊維層222の一部が形成され、開口端211の外側に、周方向繊維層222の他の一部が形成されることで、開口端211が、軸方向繊維層221と周方向繊維層222の間に配されている。もとより、軸方向繊維層の外側に、周方向繊維層の全てが形成され、開口端の外側に周方向繊維層が形成されていなくてもよい。
【0036】
(B3)上記実施形態では、開口端の内面と、軸方向端部の外面とが接合され、周方向繊維層が、開口端の外側に形成されていた。もとより、開口端の外面と、軸方向端部の内面とが接合され、周方向繊維層が、軸方向繊維層の外側に形成されていてもよい。この場合、周方向繊維層は、軸方向繊維層の外側に、少なくとも一部に形成されていてもよく、全てが形成されてもよい。
【0037】
本開示は、上述の実施形態や実施形態、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施形態、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0038】
10…ライナ、20…補強層、21…ドーム部、22…円筒部、23…外ヘリカル層、30…第1口金、30a…連通孔、31…第2口金、40…接合部、50…接合体、60…第2接合体、70、72…繊維、71…含浸装置、73…金型、74…樹脂強化性繊維、80…マンドレル、81、82、83…繊維束ガイド、100…高圧タンク、211…開口端、221…軸方向繊維層、222…周方向繊維層、223…軸方向端部、CA…高圧タンクの軸、CP…第2接合体の軸、CL…切断線、FB…繊維束
図1
図2
図3
図4
図5
図6