(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】酸素を含む試料を対象とする水素炎イオン化検出方法とその装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/626 20210101AFI20231108BHJP
G01N 30/68 20060101ALI20231108BHJP
G01N 30/86 20060101ALI20231108BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
G01N27/626 A
G01N30/68 Z
G01N30/86 J
G01N30/88 G
(21)【出願番号】P 2020139879
(22)【出願日】2020-08-21
【審査請求日】2022-03-02
(31)【優先権主張番号】201911228910.4
(32)【優先日】2019-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファン ホンイー
(72)【発明者】
【氏名】グー ティン
(72)【発明者】
【氏名】チャン スイスイ
(72)【発明者】
【氏名】加田 智之
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-119006(JP,A)
【文献】特開昭53-132397(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109991345(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60 - G01N 27/70
G01N 30/00 - G01N 30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に含まれる測定対象ガスの濃度測定に用いられる水素炎イオン化検出方法であって、
異なる酸素濃度を有する複数の標準ガスを使用して得られた測定値と、酸素を含まない標準ガスを使用して得られた測定値とに基づいて補正式を算出する校正ステップと、
前記試料を測定し、前記試料の測定値を取得する測定ステップと、
前記試料に含まれる酸素濃度と、前記校正ステップにおいて算出された前記補正式とに基づき、前記測定ステップで取得された前記試料の測定値を補正する補正ステップと、
を有し、
前記校正ステップにおいて使用される標準ガスにおける測定対象ガスは前記試料における測定対象ガスと同種なガスであり、
前記補正式は、酸素濃度の変化に対して非線形特性を有する補正関数であり、
前記補正関数は下式で示され、
【数7】
式中、A’が補正値、Aが前記試料の測量値、a
1、a
2、、、a
nは前記校正ステップにおいて異なる酸素濃度を有する複数の標準ガスを使用して得られた測定値と、酸素を含まない標準ガスを使用して得られた測定値とから特定された常数であり、Co
2が酸素濃度、nが整数であることを特徴とする、酸素を含む試料を対象とする水素炎イオン化検出方法。
【請求項2】
前記校正ステップにおいて使用される標準ガスにおける測定対象ガスの濃度と、前記試料における測定対象ガスの濃度とは同様であることを特徴とする、
請求項1に記載の酸素を含む試料を対象とする水素炎イオン化検出方法。
【請求項3】
前記補正関数は、下式で示され、
【数8】
式中、a、bは前記校正ステップにおいて異なる酸素濃度を有する複数の標準ガスを使用して得られた測定値と、酸素を含まない標準ガスを使用して得られた測定値とから特定された常数であり、Co
2が酸素濃度であることを特徴とする、
請求項1に記載の酸素を含む試料を対象とする水素炎イオン化検出方法。
【請求項4】
前記校正ステップにおいて、異なる酸素濃度を有する少なくとも二本の標準ガスと、酸素を含まない標準ガスを使用して、a、bを特定することを特徴とする、
請求項3に記載の酸素を含む試料を対象とする水素炎イオン化検出方法。
【請求項5】
酸素測定装置を用いて、リアルタイムまたは所定時刻で前記試料中の酸素濃度を測定するステップを、更に有することを特徴とする、
請求項1に記載の酸素を含む試料を対象とする水素炎イオン化検出方法。
【請求項6】
ガスクロマトグラフと水素炎イオン化検出器をセットで実施することを特徴とする、
請求項1に記載の酸素を含む試料を対象とする水素炎イオン化検出方法。
【請求項7】
前記測定対象ガスは、前記試料に含まれる非メタン炭化水素であることを特徴とする、
請求項1に記載の酸素を含む試料を対象とする水素炎イオン化検出方法。
【請求項8】
試料に含まれる測定対象ガスの濃度測定に用いられる水素炎イオン化検出装置であって、
異なる酸素濃度を有する複数の標準ガスを使用して得られた測定値と、酸素を含まない標準ガスを使用して得られた測定値とに基づいて補正式を算出する
校正処理を実行する校正ユニットと、
前記試料を測定し、前記試料の測定値を取得する測定ユニットと、
前記試料に含まれる酸素濃度と、前記校正ユニットにおいて算出された前記補正式とに基づき、前記測定ユニットで取得された前記試料の測定値を補正する補正ユニットと、
を有し、
標準ガスにおける測定対象ガスは前記試料における測定対象ガスと同種なガスであり、
前記補正式は、酸素濃度の変化に対して非線形特性を有する補正関数であり、
前記補正関数は下式で示され、
【数9】
式中、A’が補正値、Aが前記試料の測量値、a
1、a
2、、、a
nは前記校正
処理において異なる酸素濃度を有する複数の標準ガスを使用して得られた測定値と、酸素を含まない標準ガスを使用して得られた測定値とから特定された常数であり、Co
2が酸素濃度、nが整数であることを特徴とする、酸素を含む試料を対象とする水素炎イオン化検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水素炎イオン化検出技術に関するもので、具体的には、酸素を含む試料を対象とした水素炎イオン化検出方法とその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来では、差分法を使用して、ガスクロマトグラフィ-水素炎イオン化検出器装置(GC-FID,Gas Chromatography-Flame Ionization Detector)にて試料の非メタン全炭化水素含有量を簡便に測定することができる。
【0003】
図1を参照すれば、従来のガスクロマトグラフィ-水素炎イオン化検出器装置は、全炭化水素カラムとメタンカラムとを含み、通常、全炭化水素カラムにはフィラーを設けないのに対して、メタンカラムには非メタン全炭化水素(NMHC,Non-Methane Hydrocarbon)とメタンを互いに分離させるためのフィラーが充填されている。
【0004】
測定の際に、まず、試料を全炭化水素カラムとメタンカラムに同時に導入する。試料が全炭化水素カラムを流れる間に、フィラーによって遮られることはないため、先にFID(水素炎イオン化検出器、Flame Ionization Detector)に入ってピークが検出されるとともに、メタンカラムでは、非メタン全炭化水素とメタンとが徐々に分離していく。次に、キャリアガスを順方向に沿って流通させると、メタンカラムにおけるメタンは分子量が小さく、極性も低いため、まずFIDに移動してピークが検出されることになる。メタンカラムにおけるメタンのピークが完全に検出されると、流路弁によりキャリアガスの方向を変えて、メタンカラムにおける非メタン炭化水素を逆方向に吹き出すようにしている。
【0005】
試料が全炭化水素カラムを通過した後に検出されるピークの結果と、メタン分離後に検出されるピークの結果とを分析することにより、試料の全炭化水素含有量(THC, Total Hydrocarbon)とメタン含有量をそれぞれ得ることができ、両者の差が非メタン全炭化水素含有量であると判定される。
【0006】
しかしながら、上記の測定方法では、試料が全炭化水素カラムを通過した後に直接にピークが検出されるため、試料中の酸素がFIDを通過する際に火炎に影響を与え、測定結果にばらつきが生じてしまう課題がある。
【0007】
このような課題を解決するために、特許文献1には、酸素を含む校正ガスを追加供給し、試料ガスに含まれる酸素による干渉を解消または軽減する方法が開示されている。しかし、この方法には、装置の配管システムを変更する必要があるため、実施には相当不便なものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のような課題に鑑みて、本発明は、配管システムに対する変更や調整の必要がなく、試料ガスに含まれる酸素による干渉を解消または軽減することができる、酸素を含む試料を対象とした水素炎イオン化検出方法を提供するものである。
【0010】
発明者は従来技術におけるGC‐FID装置に対して鋭意研究の結果、濃度が異なる酸素による測定結果に対する影響は、相応な相関式を構築すれば効果的に補正できることを発見し、本願発明に導いた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記発見に基づいて、本発明は酸素を含む試料を対象とした水素炎イオン化検出方法を提出し、当該方法は、試料に含まれる一種又は多種の測定対象ガスの濃度測定に用いられる水素炎イオン化検出方法であって、異なる酸素濃度を有する複数の標準ガスを使用して得られた測定値と、酸素を含まない標準ガスを使用して得られた測定値とに基づいて得られた補正式を算出する校正ステップと、試料を測定して試料の測定値を取得する測定ステップと、試料に含まれる酸素濃度と、校正ステップにおいて得られた補正式とに基づき、測定ステップで取得された試料の測定値を補正する補正ステップと、を有する酸素を含む試料を対象とした水素炎イオン化検出方法である。
【0012】
本発明の好ましい技術案では、校正ステップにおいて使用される標準ガス中における測定対象ガスは、試料中における測定対象ガスとは同種なガスである。試料と同種な標準ガスに基づいて経験式を校正することで、構築した経験式はガス自体の特性により合致し、特定された補正式と本来の結果との整合度を高めることができる。
【0013】
本発明の好ましい技術案では、校正ステップにおいて使用される標準ガス中における測定対象ガスの濃度と、試料中における測定対象ガスの濃度とは同様である。
【0014】
本発明の好ましい技術案では、補正式は、酸素濃度の変化に対して非線形特性を有する補正関数である。
【0015】
補正関数は下式で示され、
【数1】
式中、A’が補正値、Aが試料の測量値、a
1、a
2、、、a
nは校正ステップにおいて、異なる酸素濃度を有する複数の標準ガスを使用して得られた測定値と酸素を含まない標準ガスを使用して得られた測定値とから特定された常数であり、Co
2が酸素濃度、nが整数である。
【0016】
発明者が酸素干渉に対して鋭意研究の結果、非線形に変化する補正関数に基づき酸素干渉を効果的に補正できることを発見した。特に、多項式関数に基づいて補正を行う場合は、近似された曲線は、酸素が最終試験結果に対する影響の傾向を正確に反映できるとともに、多項式関数では、校正ステップにおいて特定される必要のある常数の数が少ないため、少ない回数の校正試験で補正式が得られるといった利点があり、より便利である。
【0017】
補正関数は、下式で示されることが更に好ましい。
【数2】
【0018】
このように、補正関数のさらなる簡略化により、特定する必要がある常数の数をさらにa、bに簡略化することができるので、当該補正関数を用いた場合、校正ステップの利便性と曲線近似の正確性とのバランスがよい。
【0019】
本発明の好ましい技術案では、異なる酸素濃度を有する少なくとも二本の標準ガスと、酸素を含まない標準ガスとを使用して、a、bの値を特定することができる。この場合、校正ステップでは、酸素を含まない標準ガスを用いて測定して測定結果を得ることができるため、この測定結果は、酸素を含まない標準ガスを使用して得られた測定値である。そして、異なる酸素濃度を有する少なくとも二本の標準ガスを測定し、測定結果を用いてそれぞれ2次方程式を構築すれば、a及びbの値を特定することができる。以上の方法により、補正関数における常数を迅速かつ効率的に特定することができる。
【0020】
本発明の好ましい別の技術案は、当該酸素を含む試料を対象とした水素炎イオン化検出方法が、酸素測定装置を用いて、リアルタイムまたは所定時刻において、試料中の酸素濃度を測定するステップを、更に有するものである。
【0021】
試料における酸素の濃度を測定することで、試料における酸素の含有量をより動的に把握でき、測定結果に対して時間経過に伴う補正を便利に行うことができる。
【0022】
本発明の好ましい別の技術案は、当該酸素を含む試料を対象とした水素炎イオン化検出方法が、ガスクロマトグラフと水素炎イオン化検出器をセットで実施するものである。
【0023】
本発明の好ましい別の技術案では、測定対象ガスは、試料に含まれた非メタン炭化水素である。
【0024】
本発明は酸素を含む試料を対象とした水素炎イオン化検出装置も提供し、この水素炎イオン化検出装置は、試料に含まれた測定対象ガスの濃度測定に用いられ、そして、
異なる酸素濃度を有する複数の標準ガスを使用して得られた測定値と、酸素を含まない標準ガスを使用して得られた測定値とに基づいて得られた補正式を算出する校正ユニットと、
試料を測定し、試料の測定値を取得する測定ユニットと、
試料に含まれる酸素濃度と、校正ユニットにおいて得られた補正式とに基づき、測定ユニットで取得された試料の測定値を補正する補正ユニットと、
を有する酸素を含む試料を対象とする水素炎イオン化検出装置である。
【発明の効果】
【0025】
本願発明によれば、異なる酸素濃度を有する複数の標準ガスの測定値と、酸素を含まない標準ガスを使用して得られた測定値とを比較することにより、酸素による測定結果に対する干渉を反映する経験式を有効的に構築できる。そのため、試料中の酸素濃度を把握しておければ、酸素濃度と校正ステップで得られた経験式によって、より正確に測定値を補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】従来技術において、差分法によりGC‐FIDが非メタン全炭化水素測定を行うプロセスの模式図である。
【
図2】本発明の実施形態において、酸素を含む試料を対象とする水素炎イオン化検出方法のステップの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態における図面に基づいて、本発明の実施形態における技術案について説明するが、説明された実施形態は、ただ本発明の一部の実施形態であり、全ての実施形態ではないことは言うまでもない。
【0028】
本発明における実施形態に基づいて、当業者が進歩性のある改良を必要としないことを前提として得られる全ての他の実施形態は、本発明の保護する範囲に属するものである。
【実施形態1】
【0029】
本実施形態は、酸素を含む試料を対象とした水素炎イオン化検出方法に関するものである。従来技術において、GC‐FIDすなわち、ガスクロマトグラフ‐水素炎イオン化検出器装置を用いて差分法測定を実施する際に、酸素の存在により、非メタン全炭化水素の測定結果に干渉が生じ、測定結果のばらつきを招く課題があった。
【0030】
そこで、測定結果を補正するために、本実施形態では、数値補正の方法を用いて酸素の干渉を無くし、数値補正の方法は、
図2に示す複数のステップを含むものである。以下、補正の原理に基づいて更なる説明を行う。
【0031】
酸素の濃度によって測定結果に対する影響の度合いは異なるため、酸素濃度に基づく補正式の特定が必要となる。この補正式を特定するために、本実施形態では、まず、異なる酸素濃度を有する複数の標準ガスを使用して得られた測定値と、酸素を含まない標準ガスを使用して得られた測定値とに基づいて得られた補正式を算出し、濃度の異なる酸素の影響をそれぞれ特定する校正ステップS01を有する。
【0032】
その中、酸素を含まない標準ガスを使用して得られた測定値A0は、本発明にいう「酸素を含まない標準ガスを用いて得られた測定値」であり、測定しようとする試料ガスにおける測定対象ガスの濃度は、標準ガス(すなわち、補正式を特定するための標準ガス)における測定対象ガスの濃度とは同様であり、すなわち、本実施形態では、試料ガスは、標準ガスと同じ成分配分のアルカン系ガスを有しており、また、試験回数を減らすため、異なる標準ガスにおける酸素の濃度が異なっている。
【0033】
本実施形態では、まず、酸素を含まない標準ガスを使用して得られた測定値の特定により、補正式の基準を決定する。具体的には、酸素を含まない標準ガスを使用して得られた測定値は、酸素を含まない標準ガスの測定で特定されるものである。この標準ガスには酸素を含まないため、この試験における酸素を含まない標準ガスの測定値が、酸素による干渉がなく、酸素を含まない標準ガスを使用して得られた測定値なので、補正基準として用いられることができる。
【0034】
また、測定対象ガスの濃度は、各標準ガスにおいて同一に設定されるため、変数である標準ガスの濃度の影響が効果的に排除されることで、酸素濃度の変化による影響がそのまま測定値の変化に反映され、さらに、酸素濃度が酸素を含まない標準ガスの測定値に対する変化関数を構築することにより、補正式を特定することができる。
【0035】
本実施形態では、測定しようとするターゲットパラメータは、試料に含まれる非メタン全炭化水素であるため、FIDに入って燃焼するガスは、FID自体に入れた水素の他、主にメタンなどのアルカン系ガスである。そのため、アルカン系ガスを含む標準ガスを選ぶことで補正式を特定することができる。一部の実施形態では、試料ガス中における測定対象ガスの種類の変更に合わせて標準ガス中における測定対象ガスの種類を変更することができ、また、他の実施形態において、試料ガス中における測定対象ガスの濃度の変更に合わせて標準ガス中における測定対象ガスの濃度を変更することができる。
【0036】
本実施形態では、少なくとも酸素濃度データと測定データの一部に基づいて補正式を特定することができる。なお、酸素濃度データは、手動入力の方式で既に配置完了した標準ガスのラベルに表示されたデータを根拠としてもよいし、標準ガスの入力配管に酸素含有量センサを設け、標準ガス中の酸素濃度を測定し、収集した酸素測定値を計算に取り入れてもよい。
【0037】
なお、測定プロセスは、リアルタイムであってもよく、断続的なものであってもよいが、例えば、所定時刻であってもよく、必要に応じて起動されてもよい。
【0038】
酸素を含まない標準ガスを使用して得られた測定値が特定された後、補正式には、通常まだ特定されていない常数がいくつか残り、標準ガスに対する試験により、濃度データと試験結果とを合わせて、補正関数中の常数を特定する必要がある。異なる種類の補正式(または補正関数)が有する特定対象の常数の数も異なる。特定対象の常数の数が異なるため、これらの常数を特定するために、必要な試験回数も異なっている。
【0039】
発明者は、酸素含有量の影響に対する鋭意研究の結果、異なる酸素濃度が測定結果に対する影響は非線形であり、多項式近似曲線例えばVOC(揮発性有機化合物、volatile organic compounds)面積値‐酸素濃度曲線を効果的に近似することが可能であると発見した。
【0040】
一部の実施形態では、多項式近似における補正係数は多項式の逆数形式で示され、例えば下記の多項式関数を用いて近似を行うことができる。
【数3】
式中、A’が補正値、Aが試料ガスの測量値、a
1、a
2、、、a
nは校正ステップS01において、酸素濃度の異なる標準ガスを用いて得られた測定値Aと酸素を含まない標準ガスを使用して得られた測定値A
0とから特定された常数であり、Co
2が酸素濃度、nが整数である。
【0041】
少ない試験回数で、全ての特定対象である常数を特定できることと、補正関数が、異なる酸素濃度の影響による測定値を良好に近似できることと、この両者を総合的に考慮して、本実施形態では、二次関数を用いて近似を行うことができる。
【0042】
具体的に、補正関数は、下式で示される。
【数4】
式中、a、bは校正ステップS01で、酸素濃度の異なる標準ガスを用いて得られた測定値Aと酸素を含まない標準ガスを使用して得られた測定値A
0とから特定される特定対象の常数であり、Co
2は酸素濃度である。
【0043】
本実施形態において、常数a、bを特定する具体的な方法は以下の通りである。
【0044】
酸素を含まない標準ガス0番を測定し、その測定値は酸素を含まない標準ガスを使用して得られた測定値A0とし、また、
異なる濃度の酸素を含む標準ガス1番と標準ガス2番をそれぞれ測定し、少なくともこの2回の試験での測定値A1、A2を取得し、そのうち、標準ガス1番の酸素濃度をC1とし、対応する測定値をA1とし、標準ガス2番の酸素濃度をC2とし、対応する測定値をA2とする。
【0045】
そして、補正関数(2)に、標準ガス1番と標準ガス2番の測定結果および酸素を含まない標準ガスを使用して得られた測定値A
0をそれぞれ取り入れて、下記方程式群を得られる。
【数5】
【0046】
A0、A1、A2、C1、C2は、いずれも既知であるため、この2次元(a、b)方程式群により、a、bの値を特定することが可能である。そして、さらに補正関数(補正式)が特定されることになる。
【0047】
校正ステップS01で補正関数の特定が完了した後、
試料を測定し、試料の測定値Aを得る測定ステップS02と、
試料中の酸素濃度Co2及び校正ステップS01で特定された補正式に基づいて、測定ステップS02で得られた試料の測定値Aを補正する補正ステップS03とを順に実行する。
【0048】
試料の測定値A及び試料中の酸素濃度Co2を各常数が既に特定された補正関数式(2)に取り入れることで、酸素が測定結果に対する干渉を有効的に解消または低減する補正結果A’を得られる。
【0049】
また、本発明は、酸素を含む試料に対して水素炎イオン化検出を行うモードを有し、このモードで作動する際に、本実施形態が提供する方法により補正操作を行い、GC‐FIDの測定精度を向上させ、酸素による測定結果のばらつきを補正することを特徴とするGC‐FIDも提供する。具体的には、当該GC‐FIDは、試料中の非メタン全炭化水素の含有量の測定に用いられ、
異なる酸素濃度を有する複数の標準ガスを使用して得られた測定値と、酸素を含まない標準ガスの測定値に基づいて得られた補正式を算出する校正ユニットと、
試料を測定し、その測定値を取得する測定ユニットと、
試料中の酸素濃度と、校正ユニットにおいて得られた補正式とに基づき、測定ユニットで取得された測定値を補正する補正ユニットと、を有するものである。
【0050】
なお、本実施形態では、測定結果を二次関数の逆数形式で補正しているが、本発明の他の実施形態では、他のいかなる形式の非線形関数、例えば対数関数、指数関数、パワー関数、三角関数、逆三角関数、多項式関数等の初等関数、及び、これら関数を数回の有理演算及び数回の関数反複合によって得られた関数を用いて結果を補正してもよい。補正関数によっては特定が必要な常数の数も異なって、例えば、立方方程式の逆数形式で補正関数を特定する場合、特定する必要がある常数の数は三つで、測定する必要のある標準ガスは通常、4本以上である。多項式(n階式)の逆数形式で補正式を特定する場合、特定が必要な常数の数はnであり、測定する必要のある標準ガスは通常、n+1本以上が必要となる。
【0051】
なお、本実施形態では、ガスクロマトグラフィ-水素炎イオン化検出器装置を例とし、当該水素炎イオン化検出の補正方法について説明したが、この方法を適用可能な機器やシステムはこれに限られるものではない。他の実施形態において、酸素が水素炎イオン化の検出結果に干渉する場合、例えば、水素炎イオン化検出装置と他の装置とのセット又は水素炎イオン化検出装置を単独に使用して測定を行う設備であっても、実施形態で提供される方法を用いて補正を行うことも出来る。
【実施形態2】
【0052】
本実施形態は、酸素を含む試料に対して水素炎イオン化検出を行う方法であって、実施形態1に提供された方法との違いは、本実施形態では、校正ステップにおいて、酸素を含まない標準ガスを使用して得られた測定値A0を用いて補正関数を特定するものではない点にある。当該補正関数の特定方法も、本発明の実施形態に該当する変形例と見なされるべきである。
【0053】
本実施形態では、測定対象ガスの成分と濃度が同様な標準ガスであれば、酸素を含まない標準ガスを使用して得られた測定値が等しいという原理を利用して、補正関数を算出する。本実施形態において、補正関数の算出は、少なくとも三本の標準ガスに対する測定に依存し、それぞれの標準ガスがいずれも酸素を含むが、酸素の濃度が異なっている。
【0054】
本実施形態の校正ステップS01では、酸素濃度はそれぞれC1、C2、C3となり、測定対象ガスの成分、濃度が同じ(例えば、同じ成分、濃度を有するアルカン系ガス)である三本の標準ガスついて、それぞれ非メタン全炭化水素の測定を行い、三本の標準ガスの測定結果(例えば、VOC面積値またはNMHCの濃度値)は、それぞれA1、A2、A3となる。
【0055】
以上の測定結果によれば、三本の標準ガスの濃度は、それぞれ異なっているが、測定対象である試料ガスの成分と濃度は同じであるため、三本の標準ガスについての測定結果は異なっているが、補正後の酸素を含まない標準ガスを使用して得られた測定値は同様であるべきである。この原理に基づいて、異なる試料ガスの酸素濃度及び測定結果を、それぞれ補正関数に取り入れて、酸素を含まない標準ガスを使用して得られた測定値が等しいという条件により、各補正関数を構築することができる。即ち、下記の式が得られる。
【数6】
【0056】
方程式(5)の演算により、常数a、bを解くことができるため、補正関数を特定することができる。
【0057】
以上に示された補正方法は、酸素を含まない標準ガスを作製または使用する必要がなく、補正関数を推定することができるため、酸素濃度による測定結果のばらつきを反映することができる。
【0058】
一部の実施形態において、GC‐FIDのユーザーインターフェースで常数を手動入力で、常数a、bを編集してもよいし、GC‐FIDユーザーインターフェースで測定結果及び/または酸素濃度を手動入力で、常数a、bを算出してもよい、また、検出器との通信接続及び酸素センサとの通信接続により、測定結果及び/または酸素濃度を自動的に取得して常数a、bを算出してもよい。常数a、bの特定が完了した後、特定された常数a、bまたは補正関数をGC‐FIDの測定プログラムに書き込んで保存することで、その後の試験過程に補正後の測定結果である補正値A’をユーザーにフィードバックすることもできる。
【0059】
以上のいずれの実施形態も、本発明の好ましい実施形態の例示に過ぎず、本発明を限定するものではない。本発明の趣旨と原則の範囲内の修正、置換、改良等は本発明の保護範囲に含まれるものである。