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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】高圧タンクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 41/04 20060101AFI20231108BHJP
   F17C 1/06 20060101ALI20231108BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20231108BHJP
   B29C 70/32 20060101ALI20231108BHJP
   B29C 70/68 20060101ALI20231108BHJP
   F16J 12/00 20060101ALI20231108BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20231108BHJP
   B29K 101/10 20060101ALN20231108BHJP
   B29L 22/00 20060101ALN20231108BHJP
【FI】
B29C41/04
F17C1/06
B29C70/16
B29C70/32
B29C70/68
F16J12/00 C
B29K105:08
B29K101:10
B29L22:00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020160289
(22)【出願日】2020-09-25
(65)【公開番号】P2022053579
(43)【公開日】2022-04-06
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片野 剛司
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-501546(JP,A)
【文献】特開平7-167392(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 41/04
F17C 1/06
B29C 70/16
B29C 70/32
B29C 70/68
F16J 12/00
B29K 105/08
B29K 101/10
B29L 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維を含む繊維強化樹脂で構成される補強層と、前記補強層の内側に配されるライナと、を備える高圧タンクの製造方法であって、
(a)円筒部と、前記円筒部の両側に配される一対のドーム部と、を含む前記補強層を準備する工程と、
(b)前記円筒部と前記ドーム部の内側の表面上に、前記補強層に含まれる成分によって失活させられる重合触媒を使用せずに、膜を形成する工程と、
(c)前記膜の表面上に、前記ライナの未硬化の材料であって、前記重合触媒を含む前記ライナの材料を配置する工程と、
(d)配置された前記ライナの材料を重合反応により硬化させて前記ライナを形成する工程と、
を備える、
高圧タンクの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の高圧タンクの製造方法であって、
前記工程(b)は、
(b1)前記補強層の前記円筒部の内側の表面上に、第1膜を形成する工程と、
(b2)前記補強層の前記ドーム部の内側の表面上に、第2膜を形成する工程と、
(b3)前記円筒部の両端に前記ドーム部を接合する際に、前記第1膜の端部と前記第2膜の端部とを接合する工程と、を含む、
高圧タンクの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の高圧タンクの製造方法であって、
前記工程(b1)は、前記工程(b3)において前記第2膜の端部と接合される前記第1膜の端部が、前記円筒部の中心軸に対して傾斜した方向を向く傾斜面である第1傾斜面を構成するように、前記第1膜を形成する工程を含み、
前記工程(b2)は、前記工程(b3)において前記第1膜の端部と接合される前記第2膜の端部が、前記第1傾斜面と向かいあう傾斜面である第2傾斜面を構成するように、前記第2膜を形成する工程を含み、
前記工程(b3)は、前記第1傾斜面と前記第2傾斜面を接合する工程と、を含む、
高圧タンクの製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の高圧タンクの製造方法であって、
前記工程(b)は、前記膜を、エポキシ樹脂によって形成する工程である、
高圧タンクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高圧タンクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、合成樹脂製ライナ材によって形成された中空容器の外層に、接着剤層を設け、接着剤層の上に炭素繊維やガラス繊維等を巻き付けることで、中空容器と強固に接着した補強層を形成する圧力容器の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-164131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の発明者は、従来の方法に代わる新たな高圧タンクの製造方法として、補強層のパイプ部とドーム部を別個に形成した後に、両者を接合して接合体を作成し、その接合体の内部にライナの材料を注入して、重合反応させることによってライナを形成する方法を考案した。ライナの材料を重合反応させるために、重合触媒が用いられることがある。発明者は、この製造方法において、補強層を形成する繊維が炭素繊維である場合、補強層に含まれる、重合触媒を失活させる成分によって、ライナの材料の硬化が阻害され、ライナの材料のモノマーが高圧タンク内に残存する可能性を見出した。補強層から、失活する原因の成分を取り除くためには、多大なコストを要する。そのため、高圧タンクの製造方法について、さらなる改良が求められた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、高圧タンクの製造方法が提供される。この高圧タンクの製造方法は、炭素繊維を含む繊維強化樹脂で構成される補強層と、前記補強層の内側に配されるライナと、を備える高圧タンクの製造方法であって、(a)円筒部と、前記円筒部の両側に配される一対のドーム部と、を含む前記補強層を準備する工程と、(b)前記円筒部と前記ドーム部の内側の表面上に、前記補強層に含まれる成分によって失活させられる重合触媒を使用せずに、膜を形成する工程と、(c)前記膜の表面上に、前記ライナの未硬化の材料であって、前記重合触媒を含む前記ライナの材料を配置する工程と、(d)配置された前記ライナの材料を重合反応により硬化させて前記ライナを形成する工程と、を備える。
この形態の高圧タンクの製造方法によれば、補強層の内側とライナの間に、補強層に含まれる成分によって失活させられる重合触媒を使用せずに、膜が形成される。これにより、ライナの材料に含まれる重合触媒が、補強層に含まれる成分によって失活することを抑制することができる。これにより、ライナの材料の硬化の際に、ライナの材料の硬化が阻害され、モノマーが残存することを抑制することができる。
(2)上記形態の高圧タンクの製造方法において、前記工程(b)は、(b1)前記補強層の前記円筒部の内側の表面上に、第1膜を形成する工程と、(b2)前記補強層の前記ドーム部の内側の表面上に、第2膜を形成する工程と、(b3)前記円筒部の両端に前記ドーム部を接合する際に、前記第1膜の端部と前記第2膜の端部とを接合する工程と、を含んでもよい。
この形態の高圧タンクの製造方法によれば、ドーム部と円筒部の接合前に、第1膜と第2膜の形成を行うため、第1膜と第2膜の形成を確認することができる。そのため、膜を円筒部とドーム部の内側に略均一に形成することができる。
(3)上記形態の高圧タンクの製造方法において、前記工程(b1)は、前記工程(b3)において前記第2膜の端部と接合される前記第1膜の端部が、前記円筒部の中心軸に対して傾斜した方向を向く傾斜面である第1傾斜面を構成するように、前記第1膜を形成する工程を含み、前記工程(b2)は、前記工程(b3)において前記第1膜の端部と接合される前記第2膜の端部が、前記第1傾斜面と向かいあう傾斜面である第2傾斜面を構成するように、前記第2膜を形成する工程を含み、前記工程(b3)は、前記第1傾斜面と前記第2傾斜面を接合する工程と、を含んでもよい。
この形態の高圧タンクの製造方法によれば、第1傾斜面が、円筒部の中心軸に対して傾斜した方向を向き、第2傾斜面が、第1傾斜面と向かい合う。そのため、第1傾斜面が円筒部の中心軸に対して平行な方向を向く場合と比べて、第1傾斜面と第2傾斜面の、接合面の面積が大きくなる。ライナの材料の硬化時にモノマーが発生した場合であっても、接合面の間の隙間をモノマーが移動する際に、第1傾斜面と第2傾斜面の接合面が円筒部の中心軸に対して平行な方向を向く場合と比べて、補強層にモノマーが到達することを抑制することができる。
(4)上記形態の高圧タンクの製造方法において、前記工程(b)は、前記膜を、エポキシ樹脂によって形成する工程であってもよい。
この形態の高圧タンクの製造方法によれば、安価で安定性の高いエポキシ樹脂によって膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態の高圧タンクの構成を示す断面図。
図2図1の破線枠P内を拡大した図。
図3】高圧タンクの製造方法を示す工程図の一例。
図4】円筒部の形成方法の一例を示す説明図。
図5】ドーム部の形成方法の一例を示す説明図。
図6】第1膜の形成方法の一例を示す説明図。
図7】第2膜の形成方法の一例を示す説明図。
図8】外ヘリカル層の形成を説明する図。
図9】第2実施形態の高圧タンクの構成を示す断面図。
図10】第2実施形態の高圧タンク100の製造方法を示す工程図の一例。
図11】第1膜の形成方法の一例を示す説明図。
図12】第2膜の形成方法の一例を示す説明図。
図13】他の形態1における、第1膜と第2膜の接合を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態の高圧タンク100の構成を示す断面図である。高圧タンク100は、高圧水素などの高圧流体を貯蔵する貯蔵容器である。高圧タンク100は、例えば、燃料電池に水素を供給するために、燃料電池車両に搭載される。
【0009】
高圧タンク100は、ライナ10と、補強層20と、を備えている。ライナ10は、高圧タンク100の内壁を構成する。ライナ10は、内部空間に充填されたガスが外部に漏れないように遮断する性質を有する樹脂で形成されている。ライナ10は、反応射出成形(RIM:Reaction Injection Molding)によって形成される。本実施形態では、ライナ10を形成する樹脂として、ナイロン6を用いている。なお、ライナ10を形成する樹脂として、ナイロン6以外の、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド樹脂や、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエポキシ等が用いられてもよい。
【0010】
補強層20は、ライナ10を補強するための繊維強化樹脂製の層である。補強層20は、ライナ10の外面に配置される。補強層20は、円筒部21と、ドーム部22と、を含む接合体30と、外ヘリカル層23と、を有する。補強層20に含まれるドーム部22と、円筒部21と、外ヘリカル層23は、繊維に樹脂を含浸させたものによって形成される。本実施形態では、補強層20に含まれるドーム部22と、円筒部21と、外ヘリカル層23を形成する繊維として、炭素繊維を用いている。炭素繊維に含侵させる樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることができる。本実施形態において、接合体30は、更に、ドーム部22に接合された第1口金40と、第2口金41とを含んでいる。
【0011】
円筒部21は、両端が開口した略円筒の形状を有している。円筒部21は、直管部211と、直管部211の両端にそれぞれ設けられた縮径部212と、を有する。縮径部212は、外径が、円筒部21の端部に向けて縮小するように形成されている。なお、直管部211の内形と縮径部212の内形は、等しいことが好ましい。円筒部21の両端には、ドーム部22がそれぞれ接合されている。なお、円筒部21は、縮径部212が設けられず、全体が直管部211であってもよい。
【0012】
図2は、図1の破線枠P内を拡大した図である。円筒部21は、さらに、円筒部21の内側の表面上に、エポキシ樹脂を用いて形成された膜を有している。円筒部21の内側とは、円筒部21の、高圧タンク100の中心O側をいう。円筒部21の内側の表面上に形成された膜を、「第1膜213」とよぶ。第1膜213の厚さは、円筒部21の厚さに比べて、薄く形成されている。これにより、安価で安定性の高いエポキシ樹脂を用いて膜を形成することができる。
【0013】
図1に示すように、ドーム部22は、その一端から他の端部である開口端221に向けて外径が次第に増大する形状を有する。開口端221は、高圧タンク100の中心軸CA方向に沿ったドーム部22の両端のうち、高圧タンク100の中心Оにより近い方の端である。反対側の端は、第1口金40または第2口金41に接している。ドーム部22は、中空の略球体の一部を切断して得られる形状を有している。なお、ドーム部22は、これ以外の種々の形状を採用可能である。後述の製造方法において、ドーム部22が、円筒部21と接合されることで、ドーム部22が円筒部21の両側に配された高圧タンク100が製造される。本実施形態では、開口端221が円筒部21の外側に位置するように、ドーム部22が配置されている。なお、開口端221が円筒部21の内側に位置するようにドーム部22が配置されていてもよい。
【0014】
図2に示すように、ドーム部22は、ドーム部22の内側の表面上に、エポキシ樹脂を用いて形成された膜を有している。ドーム部22の内側とは、高圧タンク100の中心O側をいう。ドーム部22の内側の表面上に形成された膜を、「第2膜223」とよぶ。第2膜223の厚さは、ドーム部22の厚さに比べて、薄く形成されている。本実施形態では、第2膜223の厚さは、第1膜213の厚さと略均一である。なお、第1膜213と第2膜223の厚さは異なっていてもよい。また、第1膜213と、第2膜223の材料は異なっていてもよい。図2では、第1膜213と第2膜223の厚さを誇張して示している。
【0015】
第1膜213と第2膜223は、第1膜213の端部である第1端214と、第2膜223の端部である第2端224の側面が接合されている。第1端214と第2端224とが接合した面を、接合面230とよぶ。
【0016】
外ヘリカル層23は、接合体30の外面に、繊維強化樹脂をヘリカル巻きすることによって形成された層である(図1参照)。外ヘリカル層23は、高圧タンク100の内圧が高くなったときに、ドーム部22の高圧タンク100の中心から外側へ向かう向きの移動を抑制する。
【0017】
第1口金40は、ライナ10内の空間と、外部空間とを連通する連通孔40aを有する。連通孔40aは、ガスを充填および排出するためのバルブを含む接続装置が設置される。第2口金41は、外部空間に連通する連通孔40aを有していない。しかし、第2口金41は、連通孔40aを有するものとしてもよい。また、第2口金41は省略してもよい。第1口金40と第2口金41は、アルミニウムやステンレス鋼等の金属によって構成されている。
【0018】
図3は、高圧タンク100の製造方法を示す工程図の一例である。図4は、円筒部21の形成方法の一例を示す説明図である。図3のステップS100では、円筒部21とドーム部22が準備される。本実施形態において、円筒部21は、フィラメントワインディング法を用いて、マンドレル50に繊維束FBを巻き付けることによって形成することができる。フィラメントワインディング法では、マンドレル50を回転させながら、繊維束ガイド51を移動させることによって、マンドレル50に繊維束FBが巻き付けられる。
【0019】
一般に、繊維強化樹脂製の物体を形成する方法として、以下のような方法が存在する。
<ウェットFW>ウェットFWは、繊維束を巻き付ける直前に、粘度を低くした液状の樹脂を繊維束に含侵させ、その樹脂を含浸させた繊維束をマンドレルに巻き付ける方法である。
<ドライFW>ドライFWは、繊維束に予め樹脂を含浸させて乾燥させたトウプリプレグを準備し、トウプリプレグをマンドレルに巻き付ける方法である。
<RTM(Resin Transfer Molding)成型>RTM成型は、雌雄一対の成形型内に繊維を設置し、型を閉めた後、樹脂注入口より樹脂を注入して繊維に含侵させて成形する方法である。
<CW(Centrifugal-Winding)法>CW法は、回転する円筒形の型の内面に繊維シートを貼り付けることによって筒状の部材を形成する方法である。繊維シートとしては、予め樹脂が含浸された繊維シートを用いてもよく、樹脂が含浸されていない繊維シートを用いてもよい。後者の場合には、繊維シートを筒状に巻いた後に、型内に樹脂を流し込んで繊維シートに樹脂を含浸させる。
【0020】
フィラメントワインディング法としては、ウェットFWとドライFWのいずれも利用可能である。なお、フィラメントワインディング法以外の、RTM成型等の他の方法を用いて円筒部21を形成してもよい。
【0021】
図5は、ドーム部22の形成方法の一例を示す説明図である。本実施形態において、ドーム部22は、フィラメントワインディング法を用いて、マンドレル60に繊維束FBが巻き付けられることによって形成する。マンドレル60は、ドーム部22を2つ合わせた外形と相似形の外形を有するものとする。フィラメントワインディング方では、マンドレル60を回転させながら、繊維束ガイド61を移動させることによってマンドレル60に繊維束FBが巻き付けられる。図5では、ヘリカル巻きによって繊維束FBがマンドレル60に巻き付けられている。繊維束FBの巻きつけが終了した後に、切断線CLに沿って切断されることにより、2つのドーム部22を得ることができる。
【0022】
ステップS100で、円筒部21とドーム部22の樹脂の硬化が行われる。ステップS100では、樹脂の粘度が安定した状態となるまで完全に硬化を行う「本硬化」が行われる。この際に、ドーム部22に、第1口金40と第2口金41とを接合させる。ドーム部22と第1口金40と第2口金41との接合は、接着剤や粘着剤を用いることで行うことができる。
【0023】
図6は、第1膜213の形成方法の一例を示す説明図である。図3のステップS200では、円筒部21とドーム部22のそれぞれの内側の表面上に、膜が形成される。図6に示すように、第1膜213は、噴射器62が図の矢印A方向に動かされることで、ステップS100で準備した円筒部21の内側の表面上に未硬化のエポキシ樹脂ERが配置される。円筒部21に対し熱が与えられて回転されることで、エポキシ樹脂ERが硬化され、第1膜213が形成される。
【0024】
図7は、第2膜223の形成方法の一例を示す説明図である。噴射器63から、一部にマスキング64が施されたドーム部22の内側に対して未硬化のエポキシ樹脂ERが配置され、ドーム部22に対し熱を与えられながら、ドーム部22が回転されることによってエポキシ樹脂ERが硬化され、第2膜223が形成される。本実施形態において、マスキング64は、ドーム部22の内側であって、開口端221の周囲に施されている。ドーム部22と円筒部21の接合前に、第1膜213と第2膜223の形成が行われることで、それぞれの膜の形成を確認することができる。そのため、第1膜213と第2膜223を、円筒部21とドーム部22の内側の表面上に、厚さが略均一になるように塗布することができる。本明細書における厚さが略均一とは、膜の厚さが、円筒部21またはドーム部22の内側の表面からの膜の厚さの平均±10%の範囲に収まることをいう。
【0025】
図3のステップS300では、円筒部21と、ドーム部22とが接合される際に、第1膜213と第2膜223とが接合される。円筒部21の、縮径部212の外側と、ステップS200にてマスキング64が施されていたドーム部22の開口端221の内側が接合されることで、接合体30が形成される。ステップS300での円筒部21とドーム部22との接合は、接着剤として、エポキシ樹脂やフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることができる。ステップS300において、縮径部212と開口端221を接着させておき、高圧タンク100を形成した後に内圧により生じる摩擦によって、両者をより強く接合させることもできる。また、内圧に生じる摩擦と接着剤等をあわせた方法により、より強く円筒部21とドーム部22とを接合させることができる。
【0026】
円筒部21とドーム部22とを接合する際に、第1膜213の端部である第1端214と、第2膜223の端部である第2端224とが、接合される(図2参照)。第1端214と第2端224との接合は、接着剤として、エポキシ樹脂やフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0027】
図8は、外ヘリカル層23の形成を説明する図である。図3のステップS400では、接合体30の外側に、外ヘリカル層23が形成される。ステップS400では、フィラメントワインディング法を用いて、接合体30の外側に繊維束FBを巻き付けることにより、外ヘリカル層23が形成され、補強層20が形成される。このフィラメントワインディング方では、接合体30の中心軸CRを中心として、接合体30を回転させながら、繊維束ガイド70を移動させることによって接合体30に繊維束FBを巻き付ける。上述したように、外ヘリカル層23は、高圧タンク100の内圧が高くなったときに、ドーム部22の高圧タンク100の中心から外側への移動を防止する機能を有している。この機能を達成するため、繊維束FBの巻き付け角度αは、45度以下とすることが好ましい。巻き付け角度αは、接合体30の中心軸CRに対する繊維束FBの角度である。フィラメントワインディング法としては、ウェットFWと、ドライFWのいずれも利用可能である。
【0028】
図3のステップS500では、補強層20の未硬化の樹脂を硬化させる。この硬化は、上述した本硬化である。ステップS600では、反応射出成形により、ライナ10が形成される。具体的には、補強層20の内側である第1膜213と第2膜223の表面上に、未硬化のライナ10の材料が配置される。ライナ10の材料は、ナイロン6を生成する2種類以上の、低分子であり、低粘度である液体の樹脂材料の混合液である。本実施形態では、ライナ10の材料は、重合触媒としてηーカプロラクタム・ナトリウム塩が含まれている。混合液が、補強層20の内部に注入され、回転されている補強層20の内面に付着し、重合反応することによって、高分子のナイロン6が形成される。ステップS700において、補強層20の内部空間が冷却されることにより、ナイロン6は硬化される。これにより、安価かつ反応性がよいナイロンを用いてライナ10を形成することができる。
【0029】
なお、ステップS100において、本硬化に至らない予備硬化を行い、ステップS500で本硬化を行ってもよい。一般に、未硬化の熱硬化性樹脂は、加熱すると最初は粘度が低下する。その後も加熱を続けると粘度が上昇してゆき、十分な時間、加熱を継続すると、樹脂の粘度が目標値以上となり、安定した状態となる。このような経過を前提としたとき、粘度の低下後に粘度が再上昇して、加熱開始時の粘度に再度到達した後も硬化を継続し、本硬化の終点に至る前のいずれかの時点で硬化を終了する処理を「予備硬化」と呼ぶ。ステップS100において予備硬化を実施し、後述するステップS500において本硬化を実行するようにすれば、本硬化に至る前の円筒部21とドーム部22の樹脂の粘度で接着させることができる。そのため、円筒部21を、ドーム部22と外ヘリカル層23に対して、より強固に接合させることができ、ドーム部22を、円筒部21と外ヘリカル層23に対して、より強固に接合させることができる。
【0030】
発明者は、補強層を形成する繊維が炭素繊維であって、重合触媒を含むライナの材料を注入して、重合反応させることによってライナを形成する場合に、補強層に含まれる重合触媒を失活させる成分によって、ライナの材料の硬化が阻害され、ライナの材料のモノマーが高圧タンク内に残存する可能性を見出した。補強層に含まれる、重合触媒を失活させる成分とは、水分等の補強層に意図的に含まれない成分や、補強層に意図的に含まれる成分をいう。補強層から、失活する原因の成分を取り除くためには、多大なコストを要する。
【0031】
発明者は、本実施形態のエポキシ樹脂膜を硬化させるための硬化剤が、補強層20に含まれる成分により失活する可能性が低いことを見出した。硬化剤として、ポリアミンや、ポリアミンの誘導体や、多塩酸や、その無水物等、多官能性化合物が挙げられる。エポキシ樹脂を用いることにより、補強層20の内側とライナ10の間に、補強層20に含まれる成分によって失活させられる重合触媒を使用せずに、膜を形成することができる。そのため、ライナ10の材料に含まれる重合触媒が、補強層20に含まれる成分によって失活することを抑制することができる。この結果、ライナ10の材料の硬化の際に、ライナ10の材料の硬化が阻害され、モノマーが残存することを抑制することができる。上述したように、本実施形態では、高圧タンク100は燃料電池車両に搭載される。高圧タンクに残存したモノマーが、燃料電池スタックを被毒させることを防ぐことができる。また、安価で反応性の高いエポキシ樹脂を用いることで、生産コストを大きく増大させることなく、高圧タンク100を製造することができる。
【0032】
なお、第1膜213と第2膜223の材料は、エポキシ樹脂に限定されず、例えばシート状のエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH:ethylene-vinylalcohol copolymer)樹脂の膜を別個に準備し、円筒部21とドーム部22の内側の表面上に貼り付けることにより膜を形成してもよい。また、重合反応によってナイロンの材料を硬化させることにより、シート状のナイロンを準備し、円筒部21とドーム部22の内側の表面上に貼り付けて膜を形成してもよい。この場合、ナイロンの材料に、補強層に含まれる成分によって失活させられる重合触媒が含まれている場合であっても、ステップS200における膜の形成の際には、重合触媒は使用されない。そのため、モノマー化を起こすことなく、ナイロンによる膜を形成することができる。なお、ナイロン以外に、ポリウレタンやポリエステルの膜も、同じ方法で形成することができる。また、射出成形によって、ポリエチレンによる膜を形成することもできる。
【0033】
B.第2実施形態:
図9は、第2実施形態の高圧タンク100Bの構成を示す断面図である。第2実施形態において、第1実施形態と、第1膜213Bと第2膜223Bの形状と形成方法が異なる。その他の構成については、第1実施形態と同一であるので、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0034】
以下、高圧タンク100の、図9で示す部位に着目して説明する。第2実施形態の第1膜213Bの第1端214Bには、円筒部21の中心軸に対して、傾斜した方向である矢印B方向を向く傾斜面が形成されている。第1端214Bに形成された傾斜面を、第1傾斜面215とよぶ。円筒部21の中心軸は、高圧タンク100の中心軸CAと一致する。第2膜223Bの第2端224Bには、第1傾斜面215と向かい合う傾斜面が形成されている。第2端224Bに形成された傾斜面を、第2傾斜面225とよぶ。本明細書において第1傾斜面215と向かい合うとは、断面視において、第1傾斜面215の、高圧タンク100の中心軸CAから遠い端215aと、中心軸CAから近い端215bを中心軸CAに沿って並べた場合に、遠い端215aが、近い端215bよりも第1口金40側にあり、第2傾斜面225の、断面視において中心軸CAから遠い端225aと、中心軸CAから近い端225bを中心軸CAに沿って並べた場合に、遠い端225aが、近い端225bよりも第1口金40側にあることをいう。そして、第1傾斜面215と、第2傾斜面225が、接合されている。
【0035】
図10は、第2実施形態の高圧タンク100Bの製造方法を示す工程図の一例である。第1実施形態の工程と同じ工程は、同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0036】
図11は、第1膜213Bの形成方法の一例を示す説明図である。以下において、図11の左上部に着目して説明する。図10のステップS200Aでは、円筒部21とドーム部22のそれぞれの内部に、金型が設置される。ステップS200Bでは、金型に未硬化のエポキシ樹脂ERが流し込まれることで、第1膜213Bと第2膜223Bが形成される。
【0037】
円筒部21には、第1金型300a、300bが配置される。第1金型300aは、中心部が貫通した略円筒の形状を有している。第1金型300aは、金型傾斜面301と、第1ゲート302を有している。金型傾斜面301は、第1金型300aの端部に形成されている(図11の左上部参照)。金型傾斜面301は、円筒部21の中心軸CSに対して、傾斜した方向である白抜き矢印C方向を向く。白抜き矢印Cは、図9の白抜き矢印Bと対向する方向である。第1ゲート302は、エポキシ樹脂ERを注入するための開口である。
【0038】
第1金型300bは、略円柱の形状を有している。第1金型300bは、中心軸CS方向の寸法が第1金型300aよりも大きい。第1金型300bは、第1金型300aの金型傾斜面301に対応する傾斜面を有している。第1金型300aと第1金型300bの間に、円筒部21の中心軸CS方向について隙間が生じるように、両者は円筒部21の内部に配置される。生じた隙間を、第1流路303とよぶ。第1ゲート302から未硬化のエポキシ樹脂ERが注入されると、エポキシ樹脂ERは、第1流路303を通って、円筒部21と第1金型300a、300bの間に配される。エポキシ樹脂ERは、膜を形成するための必要量が注入される。
【0039】
第1金型300a、300bに熱を加え、エポキシ樹脂ERを硬化させた後に、第1金型300aが図11の左方向に引き抜かれ、第1金型300bが右方向に引き抜かれる。第1膜213Bからはみ出た余分なエポキシ樹脂ERがカッターで切り取られることにより、第1傾斜面215を有する第1膜213Bを形成することができる(図9参照)。
【0040】
図12は、第2膜223Bの形成方法の一例を示す説明図である。なお、図12では、ドーム部22の全体を図示しているが、以下においてドーム部22の左半分の部分に着目して説明する。ドーム部22に設置される第2金型310は、金型傾斜面311と、第2ゲート312と、第2流路313を有している。金型傾斜面311は、第2金型310の端部に設けられており、ドーム部22の中心軸CQに対して、傾斜した方向である白抜き矢印B方向を向く。白抜き矢印Bは、図9の白抜き矢印Bの方向と一致する。ドーム部22の中心軸CQは、円筒部21の中心軸CSと一致する。
【0041】
第2ゲート312は、第2金型310の中心に設けられた開口である。第2流路313は、未硬化のエポキシ樹脂ERが流れる流路である。本実施形態の第2金型310は、2つの第2流路313を有している。なお、第2流路313は、2つ以外の数が設けられていてもよい。また、第2ゲート312は、第2金型310の中心以外に設けられていてもよい。第2金型310の、第2ゲート312から、液状のエポキシ樹脂ERが矢印方向に注入され、ドーム部22が回転されながら第2金型310に熱を加えられる。これにより、エポキシ樹脂ERが硬化される。その後、第2金型310をドーム部22から取り外される。これにより、第1傾斜面215と向かい合う第2傾斜面225を有する第2膜223Bを形成することができる(図9参照)。
【0042】
図10のステップS300では、円筒部21とドーム部22とが接合される際に、第1膜213Bの第1傾斜面215と、第2膜223Bの第2傾斜面225が、接合される。第1傾斜面215と第2傾斜面225とが接合されることで、第1膜213Bの第1端214Bと、第2膜223Bの第2端224Bとの接合面230Bが、円筒部21の中心軸CSに対して傾斜した方向である矢印B方向を向く。そのため、第1傾斜面215と第2傾斜面225が円筒部21の中心軸CSに対して平行な方向を向く場合と比べて、第1傾斜面215と第2傾斜面225の、接合面230Bの面積が大きくなる。ライナ10の材料の硬化時にモノマーが発生し、接合面230Bの間の隙間をモノマーが移動する場合であっても、第1傾斜面と第2傾斜面の接合面が円筒部21の中心軸CSに対して平行な方向を向く場合と比べて、補強層20にモノマーが到達することを抑制することができる。
【0043】
C.他の実施形態:
(C1)図13は、他の形態1における、第1膜213Cと第2膜223Cの接合を説明する図である。図13図9に対応する。図13において、高圧タンク100の中心軸CAと第1口金40を省略している。上記第2実施形態では、中心軸CAに対して傾斜した方向を向く第1傾斜面215と、第1傾斜面215と向かい合う第2傾斜面225とが接合されていた。もとより、図13に示すように、第1傾斜面215Cと、第2傾斜面225Cとは、向かい合っていなくてもよい。具体的には、第1傾斜面215Cと第2傾斜面225Cの、断面視において高圧タンク100の中心軸CAから近い端と、中心軸CAから遠い端を、中心軸CAに沿って並べた場合に、第1傾斜面215Cの、中心軸CAから近い端が、中心軸CAから遠い端よりも第1口金40側にあり、第2傾斜面225Cの、中心軸CAから遠い端が、中心軸CAから近い端よりも第1口金40側にあってもよい。この場合、第1膜213Cの一部と、第2膜223Cの一部が、接合部240Cにおいて接合されている。
【0044】
(C2)上記実施形態では、高圧タンク100は、例えば、燃料電池に水素を供給するために、燃料電池車両に搭載される。もとより、高圧タンク100は、燃料電池車両に限らず、電気自動車、ハイブリッド自動車等の他の車両に搭載されてもよいし、船舶、飛行機、ロボット等の他の移動体に搭載されてもよい。また、住宅、ビル等の定置設備に備えられてもよい。
【0045】
(C3)上記第1実施形態では、円筒部21とドーム部22のそれぞれに膜を形成してから、両者を接合している。もとより、円筒部とドームを接合し、内部に膜の材料を入れて硬化させることにより、膜を形成してもよい。
【0046】
(C4)上記第2実施形態では、金型に熱を加えることで、未硬化のエポキシ樹脂を硬化させる。もとより、金型に流し込まれる樹脂の種類によっては、ステップS100の円筒部とドーム部の形成時に、円筒部とドーム部に加えられた熱によって硬化されてもよく、また、放置による冷却によって硬化されてもよい。
【0047】
本開示は、上述の実施形態や実施形態、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施形態、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0048】
10…ライナ、20…補強層、21…円筒部、22…ドーム部、23…外ヘリカル層、30…接合体、40…第1口金、40a…連通孔、41…第2口金、50、60…マンドレル、51、61、70…繊維束ガイド、62、63…噴射器、64…マスキング、100、100B…高圧タンク、211…直管部、212…縮径部、213、213B、213C…第1膜、214、214B…第1端、215、215C…第1傾斜面、215a、215b…第1傾斜面の端、221…開口端、223、223B、223C…第2膜、224、224B…第2端、225、225C…第2傾斜面、225a、225b…第2傾斜面の端、230、230B…接合面、240C…接合部、300a、300b…第1金型、301、311…金型傾斜面、302…第1ゲート、303…第1流路、310…第2金型、312…第2ゲート、313…第2流路、CA、CQ、CR、CS…中心軸、CL…切断線、ER…エポキシ樹脂、FB…繊維束
図1
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