(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】車両の乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/207 20060101AFI20231108BHJP
B60R 21/213 20110101ALI20231108BHJP
B60N 2/42 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
B60R21/207
B60R21/213
B60N2/42
(21)【出願番号】P 2020163896
(22)【出願日】2020-09-29
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関塚 誠
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-030517(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0180537(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0114855(US,A1)
【文献】米国特許第05542696(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0001933(US,A1)
【文献】特開2008-114631(JP,A)
【文献】特開2017-170990(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第10346010(DE,A1)
【文献】特開2008-114713(JP,A)
【文献】特開2005-238943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/207
B60R 21/213
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員が着座するシートと、
前記乗員が車両進行方向に向いた状態でシートに着座するときの前記シートの車両幅方向側面と前記側面に対向する車室壁との間に通路を備える車両の乗員保護装置であって、
前記シートの周囲に配置され、前記シートに着座した前記乗員と前記通路との間にシート側ガスクッション部を展開するシート側エアバッグ装置と、
天井面の前記車室壁側端部の内側に配置され、前記車室壁の上側から下方向に展開される壁側ガスクッション部を含む壁側エアバッグ装置と、を備
え、
前記シート側ガスクッション部と前記壁側ガスクッション部とは、展開時に車幅方向視で重なる部分を有する、
車両の乗員保護装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の乗員保護装置において、
前記シート側エアバッグ装置は、前記シートの座面を有するシートクッションの下側、または前記シートクッションより前記通路側に配置され、前記シート側ガスクッション部が前記シートクッションの車両幅方向側面を通って上方に展開可能である、
車両の乗員保護装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両の乗員保護装置において、
前記シート側エアバッグ装置は、前記シートのシートバックの前記通路側に配置され、前記シート側ガスクッション部が前方に展開可能である、
車両の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の乗員保護装置に関し、特にシートの車両幅方向側面とこの側面に対向する車室壁との間に通路を備える車両において、シートに着座した乗員が車両の側突時に通路側に放り出されることの抑制と、乗員に加わる衝撃の吸収とに効果がある乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両のルーフサイド部に沿ってカーテンエアバッグが折り畳まれた状態で配置され、車両が側面衝突(側突)を受けたときにカーテンエアバッグが下方向に膨張展開することで、乗員を保護することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された構成では、乗員が座るシートと、シートの車両幅方向側面に対向する車室壁との間に通路が形成される場合に、その通路によってシートの横に大きな空間が形成される。これにより、車両の側突時(側面衝突時)に通路側に乗員が倒れる等で大きく放り出され、乗員が車両から大きな衝撃を受ける可能性がある。
【0005】
側突時の乗員の放り出しを抑制するために、エアバッグ装置の単体のみで、シートと車室壁との間に、車両の幅方向に延びるようにガスクッション部を展開させることも考えられるが、その場合には、エアバッグ装置の単体が大型化すると共に、ガスクッション部の展開に時間がかかってしまう不都合がある。
【0006】
本発明は、シートと車室壁との間に通路を備える車両の乗員保護装置において、エアバッグ装置単体を過度に大型化することなく、シートに着座した乗員が車両の側突時に通路側に放り出されることを抑制すると共に、乗員に加わる衝撃を効果的に吸収することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両の乗員保護装置は、乗員が着座するシートと、前記シートの車両幅方向側面と前記側面に対向する車室壁との間に通路を備える車両の乗員保護装置であって、前記シートの周囲に配置され、前記シートに着座した前記乗員と前記通路との間にシート側ガスクッション部を展開するシート側エアバッグ装置と、天井面の前記車室壁側端部の内側に配置され、前記車室壁の上側から下方向に展開される壁側ガスクッション部を含む壁側エアバッグ装置と、を備える、車両の乗員保護装置である。
【0008】
本発明に係る車両の乗員保護装置によれば、シートと車室壁との間に通路の存在に伴う大きな空間がある場合であって、車両に幅方向の通路側外端から側突時の荷重が加わり、乗員が通路側に放り出される状態となった場合に、展開したシート側ガスクッション部が、通路側に倒れる乗員に押されて、通路側に変形する。このとき、シート側ガスクッション部は、上側から下方向に展開した壁側ガスクッション部に先端側が近づくように変形する。これにより、シート側ガスクッション部の先端側部分が壁側ガスクッション部に押し付けられて、通路側に移動した乗員の体を支えやすい。このため、乗員が通路側に大きく放り出されることを抑制しやすくなると共に、乗員に加わる衝撃を吸収しやすい。さらに、この構成では、エアバッグ装置単体を過度に大型化することなく、2つのエアバッグ装置で、乗員を支持する支持体を迅速に形成しやすい。
【0009】
本発明に係る車両の乗員保護装置において、前記シート側エアバッグ装置は、前記シートの座面を有するシートクッションの下側、または前記シートクッションより前記通路側に配置され、前記シート側ガスクッション部が前記シートクッションの車両幅方向側面を通って上方に展開可能である構成としてもよい。
【0010】
上記構成によれば、車両の側突時に、乗員の通路側への倒れにしたがって、シート側ガスクッション部の先端側が通路側に移動する。このとき、シート側ガスクッション部がシートの車両幅方向側面を通って上方に展開されることで、シート側ガスクッション部の上下方向の多くの部分を乗員の体に沿って変形させやすい。これにより、乗員が通路側に大きく放り出されることをより抑制しやすい。
【0011】
本発明に係る車両の乗員保護装置において、前記シート側エアバッグ装置は、前記シートのシートバックの前記通路側に配置され、前記シート側ガスクッション部が前方に展開可能である構成としてもよい。
【0012】
上記構成によれば、車両の衝突がない通常時に、前記シート側エアバッグ装置が、乗員の横に配置されないので、乗員と車室壁との間のスペースが広くなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る車両の乗員保護装置によれば、エアバッグ装置単体を過度に大型化することなく、シートに着座した乗員が、車両の側突時に通路側に放り出されることを抑制できると共に、乗員に加わる衝撃を効果的に吸収できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る実施形態の車両の乗員保護装置が組み込まれた車両の車室前側部分の横断面図である。
【
図3】シート側エアバッグ装置が作動した状態を示している
図1に対応する図である。
【
図6】壁側エアバッグ装置が作動した状態を示している図であり、車両の左斜め上から見た斜視図である。
【
図8】車両の衝突試験時において、車両が
図8の矢印α方向にスライドして試験用ポールに衝突し、シート側及び壁側のエアバッグ装置が作動した状態を示している
図1のA部に対応する概略図である。
【
図9】本発明に係る実施形態の別例の乗員保護装置が組み込まれた車両において、シート側エアバッグ装置が作動している状態を示している車室前側部分の横断面図である。
【
図10】本発明に係る実施形態の別例の乗員保護装置が組み込まれた車両の車室前側部分の横断面図である。
【
図12】シート側エアバッグ装置が作動している状態を示している
図10に対応する図である。
【
図14】車両の衝突試験時において、車両が
図14の矢印α方向にスライドして試験用ポールに衝突し、シート側及び壁側のエアバッグ装置が作動した状態を示している
図10のB部に対応する概略図である。
【
図15】通路側に倒れたダミーと、シート側エアバッグ装置のシート側ガスクッション部とを、
図14の上側から見た図である。
【
図16】本発明に係る実施形態の別例の乗員保護装置において、シート側エアバッグ装置が作動している状態を示している、シート付近の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら実施形態の車両の乗員保護装置を説明する。この説明において、具体的な形状、材料、個数、配置位置等は、本発明の理解を容易にするための例示であって、仕様に応じて適宜変更することができる。また、各図に示す矢印F、矢印U、矢印Rは、車両の前方向、上方向、右方向をそれぞれ示している。また、各矢印F,矢印U,矢印Rの反対方向は、車両の後方向、下方向、左方向をそれぞれ意味する。
【0016】
図1は、実施形態の乗員保護装置20が組み込まれた車両10の車室11前側部分の横断面である。
図2は、
図1を上側から見た図である。車両10は、車室11内の前側に乗員としてオペレータが着座するオペレータ用シート12が配置され、オペレータ用シート12の後側に、複数の乗客が着座することが可能な複数の乗客用シート(図示せず)が配置されるバス型の車両である。車両10は、基本的に自動運転される。乗客は、例えば、オペレータ用シート12の後側で、車両10の両側に着座し、ドアで開閉される出入口(図示せず)を通じて乗降可能である。オペレータは、オペレータ用シート12に座って、必要に応じて車両の発進や停止、ドアの開閉などの操作を行うことができる。なお、車両10は、自動運転車両とせず、オペレータがステアリングホイールやアクセルペダルを使って、常時運転する構成としてもよい。
図1において、オペレータ用シート12は、車室11内の車両幅方向中央に配置されてもよい。なお、
図1及び以下で説明する一部の図では、実際のオペレータの代わりに衝突試験用のダミーPがオペレータ用シート12に着座している。以下では、オペレータ用シート12に着座したオペレータの位置の説明のために、ダミーPは、オペレータPとして説明する場合がある。
【0017】
車両10には、オペレータ用シート12の車両幅方向側面である右側面13と右側面13に対向する車室壁50との間に、通路51が設けられる。車室壁50は、樹脂製のトリムを含み、車室11の側面を形成する。通路51は、オペレータ、または乗客が通行可能である。以下、オペレータ用シート12は、シート12と記載する。以下では、車両10の車室11内の右側に通路51が形成されている場合を中心に説明する。シート12の後側には、シート12を支持するための上下方向の柱部61,62及び横方向のフレームを組み合わせたシートフレーム構造60が配置される。通路51は、シート12の右側からシートフレーム構造60を避けながら、
図2の矢印X方向に沿って後側に通行可能である。車室壁50の下側部分と室内側に隣り合う位置には、上端が平坦なカバー部52が、前後方向に延びるように配置される。カバー部52は、樹脂製のトリムにより形成され、内部に空調装置の機器や、電子機器等が収容される。
【0018】
乗員保護装置20は、シート側エアバッグ装置21と、壁側エアバッグ装置31とを含んで構成される。シート側エアバッグ装置21は、シート12の周囲に配置される。シート側エアバッグ装置21は、車両10の側突検知時に、シート12に着座したオペレータPと通路51との間にシート側ガスクッション部23(
図3~
図4)を、シート12の下側から上側に展開する。
【0019】
具体的には、シート12は、略直立したシートバック14と、座面18aを有するシートクッション18とを有する。シート側エアバッグ装置21は、シート12のシートクッション18の下側で床面上に配置されたケース22と、ケース22内に収容されたシート側ガスクッション部23(
図3、
図4)とを有する。
【0020】
ケース22は、直方体状であり、樹脂により形成される。
図1ではケース22を斜格子で示している。ケース22の右側面部には、環状または略U字形の薄肉部が形成される。この薄肉部は、シート側ガスクッション部23が展開する際に、右側面部の薄肉部より内側部分がシート側ガスクッション部23で右側に大きく押されることにより破断しやすい。この破断によって、右側面部には、シート側ガスクッション部23が外側に通過可能な開口が形成される。
【0021】
さらにケース22の内部には、第1インフレータ(図示せず)が固定される。第1インフレータは、着火剤とガス発生部とガス噴出口とを有する。第1インフレータには、
図1に示される側突ECU53が電気的に接続される。ガス噴出口には、シート側ガスクッション部23(
図3、
図4)のガス供給口(図示せず)が接続される。
【0022】
図3は、シート側エアバッグ装置21が作動した状態を示している。
図4は、
図3を上側から見た図である。
図5は、
図3を車両10の左側から見た図である。シート側ガスクッション部23は、例えばナイロン系またはポリエステル系の樹脂製の2枚の布材が、展開状態で車両幅方向に向き合うように重ね合わされて外周縁部が縫製されることにより、袋状に形成される。車両10の衝突がない通常時には、シート側ガスクッション部23は折り畳まれてケース22内に収容される。
【0023】
側突ECU53には車両の側突を検出するセンサ54が電気的に接続される。センサ54は、加速度センサまたは圧力センサなどである。側突ECU53は、センサ54の出力に基づいて側突を検知した場合に、第1インフレータを作動させる。第1インフレータが作動することにより、着火剤が着火され、ガス発生部で発生したガスがガス噴出口から噴出される。これにより、ガス噴出口からシート側ガスクッション部23のガス供給口にガスが充填されて、シート側ガスクッション部23が膨張展開される。このとき、シート側ガスクッション部23は、ケース22の右側面部を突き破る。なお、実際には、側突の検知時に、シート側ガスクッション部23だけでなく、後述するように、壁側エアバッグ装置31の壁側ガスクッション部33も展開するが、
図3~
図5では、シート側ガスクッション部23の展開状態のみを説明するために、壁側ガスクッション部33は折り畳まれた状態で示している。
【0024】
図3~
図5に示すように、シート側ガスクッション部23は、ケース22の右側面部を突き破ってケース22の右側に出た後、すぐに上側に曲げられて、シートクッション18の右側面を通って上方に展開可能である。このとき、シート側ガスクッション部23は、前後方向及び通路51側に展開する。シート側ガスクッション部23の展開状態で、例えば車両幅方向長さD1(
図3)は、上下方向長さD2(
図3)及び前後方向長さD3(
図4)のそれぞれより小さい。これにより、オペレータPの近くでシート側ガスクッション部23が広く展開しやすくなるので、オペレータPの体を保護しやすくなる。
【0025】
後述の
図6、
図7に示すように、シート側ガスクッション部23が展開するときには、壁側ガスクッション部33が車室壁50の上側から下方向に展開する。そして、オペレータPの上半身が側突で通路51側に倒れる状態となったときに、シート側ガスクッション部23もオペレータPに押されて通路51側に倒れる。そして、下側に展開した壁側ガスクッション部33の通路51側の面に、シート側ガスクッション部23の先端側部分が押し付けられることにより、その先端側部分が通路51側に大きく倒れることが抑制される。このため、オペレータPが通路51側に大きく放り出されることが抑制される。
【0026】
壁側エアバッグ装置31は、側面の窓71(
図5)上の車室壁50の内側と、天井面70の車室壁50側端部の内側とに配置される。車両10の側突検知時に、壁側エアバッグ装置31の壁側ガスクッション部33(
図6、
図7)は、車室壁50の上側から下方向(
図6、
図7の矢印β方向)に展開される。
【0027】
具体的には、壁側エアバッグ装置31は、
図5に示すように、車両のAピラー72の上側からルーフサイド部73に沿って後側に延びた後、後端部で車両幅方向内側に折れ曲がって延びるように配置され、内部に帯状に折り畳まれた壁側ガスクッション部33を有する。壁側ガスクッション部33は、折り畳み状態で、車室壁50を形成する樹脂製のトリムの内側と、天井面70の車室壁50側端部を形成する樹脂製のトリムの内側とに配置された状態で、車体に支持される。
図1~
図5では折り畳み状態の壁側ガスクッション部33を砂地で示している。
【0028】
さらに、壁側エアバッグ装置31は、2つの第2インフレータ34,35(
図5)を有する。2つの第2インフレータ34,35のそれぞれには、側突ECU53が電気的に接続される。壁側ガスクッション部33の折り畳み状態で長手方向中間部となる部分の長手方向に離れた位置にある2つのガス供給口には、2つの第2インフレータ34,35のガス噴出口が接続される。
【0029】
側突ECU53は、センサ54の出力に基づいて側突を検知した際に、第1インフレータと同時に第2インフレータ34,35を作動させる。第2インフレータ34,35が作動することにより、着火剤が着火され、ガス発生部にガスが発生して、ガス噴出口から噴出される。これにより、各第2インフレータ34,35のガス噴出口から壁側ガスクッション部33のガス供給口にガスが充填されて、壁側ガスクッション部33が膨張展開される。このとき、壁側ガスクッション部33は、車室壁50及び天井面70のトリムの薄肉部分を破断して下方(
図6、
図7の矢印β方向)に展開する。
【0030】
図6は、壁側エアバッグ装置31が作動した状態を示している図であり、車両の左斜め上から見た斜視図である。
図7は、
図6を車両の左側から見た図である。壁側エアバッグ装置31は、展開状態で、複数の上下方向に長い筒部37,39,40が前後方向に並んで連結されたように形成される。複数の筒部37,39,40は、窓71(
図5)を覆う窓対向部36と、窓対向部36の後端に接続され、2つの筒部39,40からなる重なり部38とに分けられる。窓対向部36を形成する複数の筒部37は、それぞれ円筒状で上下両端が半球部で塞がれ、隣り合う筒部同士が内部の室を連通させている。窓対向部36の複数の筒部37は、窓71の形状に応じて前側に向かうほど高さが低くなっている。
【0031】
重なり部38を形成する前側の筒部39は、上端部が窓対向部36の後端の筒部37と略同形状の小径円筒状であり、中間部及び下端部が上端部より直径が大きくなった大径円筒状であり、互いに連結される。そして、大径円筒状の部分は、小径円筒状の部分より車両幅方向内側に張り出している。重なり部38の後側の筒部40は、前側の筒部39の中間部及び下端部と略同形状の円筒状である。重なり部38の各筒部39,40も両端が半球部で塞がれる。窓対向部36の内部の室と重なり部38の内部の室とは連通する。重なり部38は、シート側エアバッグ装置21のシート側ガスクッション部23がオペレータPと共に通路51側に倒れたときに、シート側ガスクッション部23の先端側部分と重なって、シート側ガスクッション部23の大きな倒れを抑制することにより、オペレータPの大きな放り出しを抑制できる。
【0032】
上記の乗員保護装置20によれば、シート12と車室壁50との間に通路51の存在に伴う大きな空間Sがある場合に、エアバッグ装置21,31単体を過度に大型化することなく、シート12に着座したオペレータPが、車両の側突時に通路51側に放り出されることを抑制できると共に、オペレータPに加わる衝撃を効果的に吸収できる。
【0033】
図8を用いてより具体的に説明する。
図8は、車両10の衝突試験時において、車両10が
図8の矢印α方向にスライドして試験用ポール100に衝突し、シート側及び壁側のエアバッグ装置21,31が作動した状態を示している
図1のA部に対応する概略図である。
図8の側突試験では、車両10が台車(図示せず)に載せられた状態で、上下方向に立設した試験用ポール100に、所定の速度で矢印α方向に衝突している。このとき、シート側および壁側のエアバッグ装置21,31が作動して、両方のガスクッション部23,33が展開する。そして、車両に幅方向の通路51側外端から側突時の荷重が加わることで、オペレータPが通路51側に放り出される状態となる。この場合に、展開したシート側ガスクッション部23が、通路51側に倒れるオペレータPに押されて、通路51側に変形する。このとき、シート側ガスクッション部23は、上側から下方向に展開した壁側ガスクッション部33の重なり部に先端側が近づくように変形する。これにより、シート側ガスクッション部23の先端側部分である上端側部分が壁側ガスクッション部33に押し付けられて、通路51側に移動したオペレータPの体を支えやすい。このため、オペレータPが通路51側に大きく放り出されることを抑制しやすくなると共に、オペレータPに加わる衝撃を吸収しやすい。さらに、この構成では、エアバッグ装置21,31単体を過度に大型化することなく、2つのエアバッグ装置21,31で、オペレータPを支持する支持体を迅速に形成しやすい。これによってエアバッグ装置21,31単体を過度に大型化することなく、シート12に着座したオペレータPが車両の側突時に通路51側に放り出されることを抑制できると共に、オペレータPに加わる衝撃を効果的に吸収できる。
【0034】
一方、比較例として、エアバッグ装置の単体のみ、すなわち、車両側エアバッグ装置またはシート側エアバッグ装置のみで、シートと車室壁との間に、車両の幅方向に延びるようにガスクッション部を展開させて、シートに着座した乗員と車室壁との間にガスクッション部を突っ張らせることも考えられる。しかしながら、その場合には、エアバッグ装置の単体が大型化すると共に、ガスクッション部の展開に時間がかかってしまう不都合がある。また、ガスクッション部が大型化した場合には、ガスの発生量が多くなるので、ガスクッション部を精度よく安定して展開させることが困難になる。
【0035】
さらに、シート側エアバッグ装置21は、シート12のシートクッション18の下側に配置され、シート側ガスクッション部23が、シートクッション18の右側面18bを通って上方に展開可能である。これにより、
図8に示したように、車両10の側突時に、オペレータPの通路51側への移動にしたがって、シート側ガスクッション部23も上端側が通路51側に移動する。このとき、シート側ガスクッション部23がシートクッション18の右側面18bを通って上方に展開されることで、シート側ガスクッション部23の上下方向の多くの部分をオペレータPの体に沿って変形させやすい。これにより、オペレータPが通路51側に大きく放り出されることをより抑制しやすい。さらに、シート側エアバッグ装置21がシートクッション18の下側に配置されるので、通常時に通路51の幅を大きく確保しやすい。
【0036】
さらに、
図8では、シート側ガスクッション部23が倒れるときに、車室壁50と隣り合うカバー部52の車両幅方向内端の上端角部にシート側ガスクッション部23の右側面が当たることで、シート側ガスクッション部23が下側にずれ落ちにくくなっている。これによっても、オペレータPが通路51側に大きく放り出されることをより抑制しやすい。
【0037】
なお、本例において、シート側エアバッグ装置21及び壁側エアバッグ装置31のガスクッション部23,33の展開タイミングは、車両の側突検知時に限定するものではなく、側突の可能性がある異常状態が発生したと制御装置が判断したときに、各ガスクッション部23,33を展開させてもよい。例えば車両に搭載された制御装置において、車両の加速度センサ等のセンサの出力から、正面衝突か側突かの判断が難しい状態が発生したと判断した場合に、各ガスクッション部23,33が展開されてもよい。
【0038】
図9は、実施形態の別例の乗員保護装置20aが組み込まれた車両10aにおいて、シート側エアバッグ装置21aが作動している状態を示している車室前側部分の横断面である。本例の場合には、シート側エアバッグ装置21aのケース22aが、床面上で、シート12のシートクッション18より通路51側に配置される。そして、シート側エアバッグ装置21aのシート側ガスクッション部23aが、シートクッション18の右側面を通って上方に展開可能である。ケース22は、上側面部に、シート側ガスクッション部23aが外側に通過可能な開口を形成するための、薄肉部が形成される。
【0039】
本例の構成によっても、
図1~
図8の構成と同様に、シート側ガスクッション部23aがシートクッション18の右側面を通って上方に展開されることで、シート側ガスクッション部23aの上下方向の多くの部分をオペレータPの体に沿って変形させやすい。これにより、オペレータPが通路51側に大きく放り出されることを抑制しやすい。本例において、その他の構成及び作用は、
図1~
図8の構成と同様である。
【0040】
図10は、実施形態の別例の乗員保護装置20bが組み込まれた車両10bの車室前側部分の横断面である。
図11は、
図10を上側から見た図である。本例の構成では、シート側エアバッグ装置21bは、シート12のシートバック14の通路51側に配置され、シート側ガスクッション部23b(
図12)が前方に展開可能である。
【0041】
具体的には、シート12の後側でシートフレーム構造60を形成し、シート12より通路51側に配置された柱部61の通路51側面で、シートバック14の上端部付近に、シート側エアバッグ装置21bのケース22bが固定される。通路側の柱部61は、上端が天井部に固定される。
【0042】
そして、ケース22bの内部には、シート側ガスクッション部23bが折り畳まれて収容されている。シート側ガスクッション部23bは、前方に展開可能である。このために、ケース22bの前側面部には、シート側ガスクッション部23bが外側に通過可能な開口を形成するための、薄肉部が形成される。シート側ガスクッション部23bには、上記の各例の構成と同様に、ケース22の内部に固定された第1インフレータが接続される。
【0043】
さらに、床面において、シート12の右側で通路側の柱部61の前側に隣り合う位置には、下側支持台41が固定される。下側支持台41は、シート側ガスクッション部23bが前方に展開したときに、シート側ガスクッション部23bの下端を支えるために設けられる。
図11に示すように、下側支持台41は、上から見た形状が略直角三角形である三角柱状に形成される。下側支持台41は、三角筒状に形成され、上端が蓋部で塞がれてもよい。下側支持台41の上端は、上下方向について、シートクッション18の座面18aのうち、下側支持台41と隣り合う部分の上端と同じ位置か、または低い位置にある。さらに、下側支持台41の右側面は、後方に向かって右側に傾斜した傾斜面となっている。これにより、通路51のうち、下側支持台41の右側の幅が狭くなることが抑制される。
【0044】
図12は、シート側エアバッグ装置21が作動している状態を示している
図10に対応する図である。
図13は、
図12を車両の左側から見た図である。シート側エアバッグ装置21の作動により、シート側ガスクッション部23bは、ケース22bの前側面部を突き破って前方に展開すると共に、下側及び通路51側にも展開する。シート側ガスクッション部23bの展開状態で、例えば車両幅方向長さは、上下方向長さ及び前後方向長さのそれぞれより小さい。これにより、オペレータPの近くでシート側ガスクッション部23bが広く展開しやすくなるので、オペレータPの体を保護しやすくなる。
【0045】
本例の構成によっても、シート12と車室壁50との間に通路51の存在に伴う大きな空間Sがある場合に、エアバッグ装置21b,31単体を過度に大型化することなく、シート12に着座したオペレータPが、車両の側突時に通路51側に放り出されることを抑制できると共に、オペレータPに加わる衝撃を効果的に吸収できる。
【0046】
図14、
図15を用いてより具体的に説明する。
図14は、車両10の衝突試験時において、車両10が
図14の矢印α方向にスライドして試験用ポール100に衝突し、シート側及び壁側のエアバッグ装置21b,31が作動した状態を示している
図10のB部に対応する概略図である。試験用ポール100に、車両が矢印α方向に衝突した状態で、シート側および壁側のエアバッグ装置21b,31が作動して、両方のガスクッション部23b,33が展開する。そして、オペレータPが通路51側に放り出される状態となる場合に、前方に展開したシート側ガスクッション部23bが、通路51側に倒れるオペレータPに押されて、通路51側に変形する。このとき、シート側ガスクッション部23bは、前端部が車室壁50に向かうように、
図15に矢印βで示すように外側に開く。そして、上側から下方向に展開した壁側ガスクッション部33の重なり部に、シート側ガスクッション部23bの先端側である前端側が近づくように、シート側ガスクッション部23bが変形する。これにより、
図14に示すようにシート側ガスクッション部23の先端側部分である前端側部分が壁側ガスクッション部33に押し付けられて、通路51側に移動したオペレータPの体を支えやすい。このため、オペレータPが通路51側に大きく放り出されることを抑制しやすくなると共に、オペレータPに加わる衝撃を吸収しやすい。本例において、その他の構成及び作用は、上記の各例の構成と同様である。
【0047】
図16は、実施形態の別例の乗員保護装置において、シート側エアバッグ装置21bが作動している状態を示している、シート12付近の斜視図である。
図17は、
図16のC部拡大図であり、
図18は、
図17のD部拡大図である。本例の構成では、シート側ガスクッション部23bの展開状態で、シート側ガスクッション部23bの通路51側面の前端縁部に布等からなる補強バンド43の長手方向中間部が貼り付けによって固定される。そして、補強バンド43の上端が、通路側の柱部61の通路51側面で、ケース22bより上側の部分に、第1金具44を介して取り付けられる。補強バンド43の下端は、シートフレーム構造60を形成し、ケース22bの下側で車両幅方向に延びる横フレーム63に、第2金具45を介して取り付けられる。本例の場合には、ケース22bの前側面部の薄肉部近傍にスリットが形成され、そのスリットがゴムリップで塞がれると共に、そのスリット及びゴムリップを通じて補強バンド43の両端部が導出されるようにしている。これにより、ケース22bの内部にシート側ガスクッション部23bが折り畳まれて収容された状態で、ケース22bから導出された補強バンド43の両端部が、第1金具44及び第2金具45を介して柱部61及び横フレーム63に取り付けられる。
【0048】
本例の構成によれば、シート側ガスクッション部23bの展開状態で、補強バンド43の上側部分と下側部分が、シート側ガスクッション部23bの通路51側面に押し付けられ、シート側ガスクッション部23bが通路51側に移動することを抑制する。このため、側突時に、オペレータPから、展開したシート側ガスクッション部23bに対し通路51側に移動させるように力が加わった場合でも、シート側ガスクッション部23bを通路51側に倒れにくくして、オペレータPが高い速度で通路51側に放り出されることをより抑制できる。補強バンド43は、上側部分と下側部分で分離して、シート側ガスクッション部23bの前端縁部に離れて固定されてもよい。本例において、その他の構成及び作用は、
図10~
図15の構成と同様である。
【0049】
なお、上記では、壁側ガスクッション部33が、通常時に、車室壁50と天井面70の車室壁側端部との両方の内側に配置される場合を説明したが、壁側ガスクッション部33は、天井面70の車室壁側端部の内側のみに配置されてもよい。
【0050】
また、上記では、車室11内でシート12の右側に通路51が形成され、シート12の通路51側である右側にシート側エアバッグ装置21,21a、21bのシート側ガスクッション部23a、23bを展開可能とし、通路51に対向する右端の車室壁50側に下方に展開可能な壁側ガスクッション部33を配置する場合を説明した。一方、シート12の左右両側、または左側のみに通路を形成し、シート12の左側にシート側ガスクッション部を展開可能とし、左端の車室壁側に下方に展開可能な壁側ガスクッション部を有する壁側エアバッグ装置が配置される構成としてもよい。
【0051】
また、上記では、シート側エアバッグ装置21,21a,21bを周辺部に設けるシートを、オペレータPが座るシートとした場合を説明したが、シート側エアバッグ装置を周辺部に設けるシートを、乗員としての乗客が座る乗客用シートとしてもよい。このとき、乗客用シートに着座した乗客と通路との間にシート側ガスクッション部が展開される。また、乗客用シートの車室壁側に、下方に展開される壁側ガスクッション部を有する壁側エアバッグ装置を設ける。
【0052】
また、車両は、バス型に限定せず、シートの車両幅方向側面に対向した通路を有する他の種類の車両としてもよい。
【符号の説明】
【0053】
10,10a,10b 車両、11 車室、12 オペレータ用シート(シート)、13 右側面、14 シートバック、18 シートクッション、18a 座面、18b 右側面、20,20a 乗員保護装置、21,21a,21b シート側エアバッグ装置、22,22a,22b ケース、23,23a,23b シート側ガスクッション部、31 壁側エアバッグ装置、33 壁側ガスクッション部、36 窓対向部、37 筒部、38 重なり部、39,40 筒部、41 下側支持台、43 補強バンド、50 車室壁、51 通路、52 カバー部、53 側突ECU、54 センサ、55 外側パネル、60 シートフレーム構造、61,62 柱部、63 横フレーム、70 天井面、71 窓、72 Aピラー、73 ルーフサイド部、100 試験用ポール。