(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】車両の乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/207 20060101AFI20231108BHJP
B60R 21/21 20110101ALI20231108BHJP
B60N 2/42 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
B60R21/207
B60R21/21
B60N2/42
(21)【出願番号】P 2020163903
(22)【出願日】2020-09-29
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 文人
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-030517(JP,A)
【文献】特開2006-240545(JP,A)
【文献】特開2017-124789(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0180537(US,A1)
【文献】特開2004-330925(JP,A)
【文献】特開2020-117113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/207
B60R 21/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員が着座するシートと、
前記乗員が車両進行方向に向いた状態でシートに着座するときの前記シートの車両幅方向側面と前記側面に対向する車室壁との間に通路を備える車両の乗員保護装置であって、
前記シートの周囲に配置され、前記シートに着座した前記乗員と前記通路との間にシート側ガスクッション部が展開されるシート側エアバッグ装置と、
前記車室壁の内側に配置され、前記シート側から前記通路に展開される前記シート側ガスクッション部に向かって壁側ガスクッション部が展開される壁側エアバッグ装置と、を備え
、
前記シート側ガスクッション部及び前記壁側ガスクッション部の一方のガスクッション部には、展開状態で、他方の前記ガスクッション部の先端部を受け入れるための凹部が前記一方のガスクッション部自身により形成され、
前記一方のガスクッション部は、展開状態で前記他方のガスクッション部に対向する第1対向面部を有し、前記凹部は、前記第1対向面部の一部に設けられ、
前記他方のガスクッション部は、展開状態で前記一方のガスクッション部に対向する第2対向面部を有し、前記凹部に受け入れられる前記先端部は、前記第2対向面部の一部に設けられ、
前記凹部は、展開状態で前記先端部に接触するが、
前記第1対向面部のうち、前記凹部以外の部分は、展開状態で前記第2対向面部に接触せず、
前記第2対向面部のうち、前記先端部以外の部分は、展開状態で前記第1対向面部に接触しない、
車両の乗員保護装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の乗員保護装置において、
前記シート側エアバッグ装置は、前記シートのシートバックの車両幅方向端に位置する側部に配置される、
車両の乗員保護装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の車両の乗員保護装置において、
車両側面視において、前記シート側ガスクッション部が前記壁側ガスクッション部より広く展開し、
車両正面視において、前記壁側ガスクッション部が前記シート側ガスクッション部より、前記通路の幅方向に大きく展開する、
車両の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の乗員保護装置に関し、特にシートの車両幅方向側面とこの側面に対向する車室壁との間に通路を備える車両において、シートに着座した乗員が車両の側突時に通路側に放り出されることの抑制と、乗員に加わる衝撃の吸収とに効果がある乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両のシートの横で、ドアパネルにエアバッグ装置が取り付けられ、そのエアバッグ装置が車両衝突時に上方に延びるようにガスクッション部を展開させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された構成では、シートと車室壁との間に通路が形成される場合に、その通路によってシートの横に大きな空間が形成される。これにより、車両の側突時(側面衝突時)に通路側に乗員が倒れる等で大きく放り出され、乗員が車両から大きな衝撃を受ける可能性がある。
【0005】
これについて、エアバッグ装置の単体のみで、シートと車室壁との間に、車両の幅方向に延びるようにガスクッション部を展開させることも考えられるが、その場合には、エアバッグ装置の単体が大型化すると共に、ガスクッション部の展開に時間がかかってしまう不都合がある。
【0006】
本発明は、シートと車室壁との間に通路を備える車両の乗員保護装置において、エアバッグ装置単体を過度に大型化することなく、シートに着座した乗員が車両の側突時に通路側に放り出されることを抑制すると共に、乗員に加わる衝撃を効果的に吸収することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両の乗員保護装置は、乗員が着座するシートと、前記シートの車両幅方向側面と前記側面に対向する車室壁との間に通路を備える車両の乗員保護装置であって、前記シートの周囲に配置され、前記シートに着座した前記乗員と前記通路との間にシート側ガスクッション部が展開されるシート側エアバッグ装置と、前記車室壁の内側に配置され、前記シート側から前記通路に展開される前記シート側ガスクッション部に向かって壁側ガスクッション部が展開される壁側エアバッグ装置と、を備える、車両の乗員保護装置である。
【0008】
本発明に係る車両の乗員保護装置によれば、シートと車室壁との間に通路の存在に伴う大きな空間がある場合でも、エアバッグ装置単体を過度に大型化することなく、2つのエアバッグ装置のそれぞれから展開されるガスクッション部によって、空間内に車両幅方向に連続した、ガスクッション部の連結体を迅速に形成しやすい。これによってエアバッグ装置単体を過度に大型化することなく、シートに着座した乗員が、車両の側突時に通路側に放り出されることを抑制できると共に、乗員に加わる衝撃を効果的に吸収できる。
【0009】
本発明に係る車両の乗員保護装置において、前記シート側エアバッグ装置は、前記シートのシートバックの車両幅方向端に位置する側部に配置される構成としてもよい。
【0010】
上記構成によれば、車両の衝突がない通常時に、前記シート側エアバッグ装置が、乗員の横に配置されないので、乗員と車室壁との間のスペースが広くなる。
【0011】
本発明に係る車両の乗員保護装置において、車両側面視において、前記シート側ガスクッション部が前記壁側ガスクッション部より広く展開し、車両正面視において、前記壁側ガスクッション部が前記シート側ガスクッション部より、前記通路の幅方向に大きく展開する構成としてもよい。
【0012】
上記構成によれば、乗員の近くでシート側ガスクッション部が広く展開することで乗員の体を保護しやすくなると共に、壁側ガスクッション部が通路の幅方向に大きく迅速に展開しやすくなるため、より迅速に通路を塞ぐガスクッション部の連結体を形成しやすくなる。
【0013】
本発明に係る車両の乗員保護装置において、前記シート側ガスクッション部及び前記壁側ガスクッション部の一方のガスクッション部には、展開状態で、他方の前記ガスクッション部を受け入れる凹部が形成される構成としてもよい。
【0014】
上記構成によれば、ガスクッション部の展開状態で、ガスクッション部の連結体を安定して形成しやすくなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る車両の乗員保護装置によれば、エアバッグ装置単体を過度に大型化することなく、シートに着座した乗員が、車両の側突時に通路側に放り出されることを抑制できると共に、乗員に加わる衝撃を効果的に吸収できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る実施形態の車両の乗員保護装置が組み込まれた車両の前側部分の概略横断面図である。
【
図3】車両の側突試験時において、車両が
図3の矢印α方向にスライドして試験用ポールに衝突し、シート側及び壁側のエアバッグ装置が作動した状態を示している
図1に対応する図である。
【
図4】
図3を車両の右側から見た場合におけるシート側及び壁側のガスクッション部の位置関係を示す図である。
【
図5】本発明に係る実施形態の別例の車両の乗員保護装置が組み込まれた車両の前側部分の概略横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら実施形態の車両の乗員保護装置を説明する。この説明において、具体的な形状、材料、配置位置等は、本発明の理解を容易にするための例示であって、仕様に応じて適宜変更することができる。また、各図に示す矢印F、矢印U、矢印Rは、車両の前方向、上方向、右方向をそれぞれ示している。また、各矢印F,矢印U,矢印Rの反対方向は、車両の後方向、下方向、左方向をそれぞれ意味する。
【0018】
図1は、実施形態の乗員保護装置20が組み込まれた車両10の前側部分の概略横断面図である。車両10は、車室11内の前側に乗員としてオペレータが着座するオペレータ用シート12が配置され、オペレータ用シート12の後側に、複数の乗客が着座することが可能な複数の乗客用シート(図示せず)が配置されるバス型の車両である。車両10は、基本的に自動運転される。乗客は、例えば、オペレータ用シート12の後側で、車両10の両側に着座し、ドアで開閉される出入口(図示せず)を通じて乗降可能である。オペレータは、オペレータ用シート12に座って、必要に応じて車両の発進や停止、ドアの開閉などの操作を行うことができる。なお、車両10は、自動運転車両とせず、オペレータがステアリングホイールやアクセルペダルを使って、常時運転する構成としてもよい。
図1において、オペレータ用シート12は、車室11内の車両幅方向中央に配置されてもよい。なお、各図では、実際のオペレータの代わりに衝突試験用のダミーPがオペレータ用シート12に着座している。以下では、オペレータ用シート12に着座したオペレータの位置の説明のために、ダミーPは、オペレータPとして説明する場合がある。
【0019】
車両10には、オペレータ用シート12の車両幅方向側面である右側面13と右側面13に対向する車室壁50との間に、通路51が設けられる。通路51は、オペレータ、または乗客が通行可能である。以下、オペレータ用シート12は、シート12と記載する。以下では、車両10の車室11内の右側に通路51が形成されている場合を中心に説明する。
【0020】
乗員保護装置20は、シート側エアバッグ装置21と、壁側エアバッグ装置31とを含んで構成される。シート側エアバッグ装置21は、シート12の周囲に配置される。シート側エアバッグ装置21は、車両10の側突検知時に、シート12に着座したオペレータPと通路51との間にシート側ガスクッション部23(
図2~
図4)を展開する。
【0021】
具体的には、シート12は、略直立したシートバック14と、座面を有するシートクッション18とを有する。シート側エアバッグ装置21は、シート12のシートバック14の車両幅方向右端に位置する側部15に配置される。このとき、シート側ガスクッション部23は、シート側エアバッグ装置21の第1ケース22内に折り畳まれた状態で配置され、第1ケース22は、シートバック14の側部15内に配置される。
【0022】
図2を用いてより具体的に説明する。
図2は、
図1のA-A断面である。第1ケース22は、シートバック14を形成するシートバックフレーム16のうち、シートバック14の側部15に位置し、上下方向に延在するサイドサポート部17の前側に固定される。シートバックフレーム16は金属製であり、シートバック14の骨格を形成する。
【0023】
第1ケース22の内部には、第1インフレータ(図示せず)が固定される。第1インフレータは、着火剤とガス発生部とガス噴出口とを有する。第1インフレータには、
図1に示される側突ECU53が電気的に接続される。ガス噴出口には、シート側ガスクッション部23のガス供給口(図示せず)が接続される。シート側ガスクッション部23は、例えばナイロン系またはポリエステル系の樹脂製の2枚の布材が、展開状態で車両幅方向に向き合うように重ね合わされて外周縁部が縫製されることにより、袋状に形成される。車両の衝突がない通常時には、シート側ガスクッション部23は折り畳まれて第1ケース22に収容される。
【0024】
側突ECU53には車両の側突を検出するセンサ54が電気的に接続される。センサ54は、加速度センサまたは圧力センサなどである。側突ECU53は、センサ54の出力に基づいて側突を検知した場合に、第1インフレータを作動させる。第1インフレータが作動することにより、着火剤が着火され、ガス発生部で発生したガスがガス噴出口から噴出される。これにより、ガス噴出口からシート側ガスクッション部23のガス供給口にガスが充填されて、シート側ガスクッション部23が膨張展開される。このとき、シート側ガスクッション部23は、第1ケース22の前側でシートバック14を形成するシートパッド及びシート表皮を突き破る。
【0025】
図3は、車両10の側突試験時において、車両10が
図3の矢印α方向にスライドして試験用ポール100に衝突し、シート側及び壁側のエアバッグ装置21,31が作動した状態を示している。
図3の側突試験では、車両10が台車(図示せず)に載せられた状態で、上下方向に立設した試験用ポール100に、所定の速度で矢印α方向に衝突している。
図4は、
図3を車両の右側から見た場合におけるシート側及び壁側のガスクッション部23,33の位置関係を示している。
【0026】
図2~
図4に示すように、シート側ガスクッション部23は、展開状態で、上下方向及び前方向に広がると共に、車両幅方向に広がって、シート12側から通路51に展開される。シート側ガスクッション部23は、後述するように車両10の側突時に、車室壁50側からシート12側に展開した壁側エアバッグ装置31の壁側ガスクッション部33と車両幅方向に連結されることにより、オペレータPの通路51側への放り出しを抑制して乗員を保護できる。シート側ガスクッション部23は、
図4に示すように車両側面視で斜め上下方向に沿って長尺な形状であり、長手方向の長さD1(
図4)より車両幅方向の長さD2(
図3)が小さい形状に展開する。
【0027】
さらに、シート側ガスクッション部23には、展開状態で、通路51側の面の中央部に、後述の壁側エアバッグ装置31の壁側ガスクッション部33の先端部を受け入れる凹部24(
図3)が形成される。これにより、各ガスクッション部23,33の展開状態で、2つのガスクッション部23,33の連結体を安定して形成しやすくなる。
【0028】
凹部24は、例えば球面窪みや、円錐面窪みである。例えばシート側ガスクッション部23の内面で、凹部24の裏面位置及び凹部24と反対側の位置を、1つまたは複数の帯状の布片からなるテザーで連結し、展開状態でテザーが突っ張るようにすることにより、凹部24を形成してもよい。また、シート側ガスクッション部23の凹部24となる部分に別の布材を縫い合わせる等により、折り畳み状態で予め凹部24が3次元的に形成され、その3次元形状が展開状態で維持されるようにしてもよい。
【0029】
さらに、シート側ガスクッション部23の凹部24の内面には、壁側ガスクッション部33の先端部との滑りを抑制するための摩擦材を貼り付けたり、摩擦力を大きくするためのコーティングを施してもよい。これにより、シート側ガスクッション部23及び壁側ガスクッション部33の連結体をより安定して形成できる。例えば、摩擦材として、ゴム材や、熱硬化性樹脂膜層を微細発泡させた材料からなる滑り止めシートが凹部24に貼り付けられてもよい。摩擦材として、ポリ塩化ビニル(PVC)等の樹脂からなる網目状の滑り止めシートが凹部24に貼り付けられてもよい。また、コーティングとして、凹部24の内面に、熱硬化性樹脂膜層を微細発泡させた材料からなる被膜層が形成されてもよい。
【0030】
一方、壁側エアバッグ装置31は、側面窓下の車室壁50の内側に配置され、車両10の側突検知時に、シート12側から通路51に展開されるシート側ガスクッション部23に向かって、壁側ガスクッション部33が展開される。
【0031】
具体的には、壁側エアバッグ装置31は、車室壁50を形成する樹脂製の室内トリム50aの内側で、車両外面を形成する外側パネル55の車室内側に固定された第2ケース32と、第2ケース32内に折り畳まれた状態で収容された壁側ガスクッション部33(
図3)とを含む。第2ケース32は、室内トリムの内側で、ドアインナパネルの車室内側に固定されてもよい。第2ケース32の内部には、シート側エアバッグ装置21と同様に、第2インフレータ(図示せず)が固定される。第2インフレータには、側突ECU53が電気的に接続される。第2インフレータのガス噴出口には、壁側ガスクッション部33のガス供給口が接続される。壁側エアバッグ装置31の構成は、展開状態の壁側ガスクッション部33の形状を除いて、シート側エアバッグ装置21と同様である。車両の衝突がない通常時には、壁側ガスクッション部33は折り畳まれて第2ケース32内に収容されている。
【0032】
側突ECU53は、センサ54の出力に基づいて側突を検知した際に、第1インフレータと同時に第2インフレータを作動させる。第2インフレータが作動することにより、着火剤が着火され、ガス発生部にガスが発生して、ガス噴出口から噴出される。これにより、第2インフレータのガス噴出口から壁側ガスクッション部33のガス供給口にガスが充填されて、壁側ガスクッション部33が膨張展開される。このとき、壁側ガスクッション部33は、第2ケース32の車両幅方向内側で室内トリム50aに形成された矩形状または略U字形状の薄肉部分を破断させて形成される開口を通じて通路51に展開する。
【0033】
壁側ガスクッション部33は、展開状態で、
図3に示すように、車両幅方向内側に広がる。これにより、壁側ガスクッション部33は、車両の側突時に、シート12側から通路51に展開したシート側ガスクッション部23に向かって展開する。このとき、壁側ガスクッション部33は、上下方向及び車両前後方向にも広がるが、その広がり量は、車両幅方向内側への広がり量より小さい。例えば、
図3、
図4に示すように、壁側ガスクッション部33は、車両幅方向に長尺な形状で、上下方向及び前後方向の長さより車両幅方向の長さDaが大きい形状に展開する。このとき、
図4に示すような車両側面視において、シート側ガスクッション部23が壁側ガスクッション部33より広く展開すると共に、
図3に示すような車両正面視において、壁側ガスクッション部33がシート側ガスクッション部23より、通路51の幅方向に大きく展開する。
【0034】
そして、壁側エアバッグ装置31及びシート側エアバッグ装置21には、車両の通路51側である車両幅方向一方側の外側から側突による荷重が加わって、展開した壁側ガスクッション部33の先端部が、展開したシート側ガスクッション部23の凹部24に受け入れられて連結される。なお、凹部24に受け入れられる壁側ガスクッション部33の先端部の外面にも、凹部24の内面の場合と同様に、凹部24との滑り抑制のための摩擦材を貼り付けたり、摩擦力を大きくするためのコーティングを施してもよい。また、凹部24と壁側ガスクッション部33の先端部との滑りを十分に抑制できるのであれば、凹部24と壁側ガスクッション部33の先端部との一方のみに、上記の摩擦材を貼り付けたり、上記のコーティングを施してもよい。
【0035】
上記の乗員保護装置20によれば、シート12と車室壁50との間に通路51の存在に伴う大きな空間Sがある場合でも、エアバッグ装置21,31の単体を過度に大型化することなく、2つのエアバッグ装置21,31のそれぞれから展開されるガスクッション部23,33によって、空間S内に車両幅方向に連続した、ガスクッション部23,33の連結体を迅速に形成しやすい。これによってエアバッグ装置21,31単体を過度に大型化することなく、シート12に着座したオペレータPが車両の側突時に通路51側に放り出されることを抑制できると共に、オペレータPに加わる衝撃を効果的に吸収できる。
【0036】
例えば、
図3に示すような側突時に、シート側及び壁側のエアバッグ装置21,31が作動して両方のガスクッション部23,33が展開した状態で、車両幅方向に2つのガスクッション部23,33が連結された状態となる。これにより、側突時にシート12からオペレータPが通路51側に倒れる方向に放り出される状態となった場合でも、オペレータPの通路51側への大きな放り出しを抑制できると共に、オペレータPに加わる衝撃を効果的に吸収できる。
【0037】
一方、比較例として、エアバッグ装置の単体のみ、すなわち、車両側エアバッグ装置またはシート側エアバッグ装置のみで、シートと車室壁との間に、車両の幅方向に延びるようにガスクッション部を展開させて、シートに着座した乗員と車室壁との間にガスクッション部を突っ張らせることも考えられる。しかしながら、その場合には、エアバッグ装置の単体が大型化すると共に、ガスクッション部の展開に時間がかかってしまう不都合がある。また、ガスクッション部が大型化した場合には、ガスの発生量が多くなるので、ガスクッション部を精度よく安定して展開させることが困難になる。これにより、正規着座位置以外の乗員に対する評価試験であるOut of Position試験において、正規着座位置以外の乗員に対し、ガスクッション部が撥ね飛ばしたり落下させたりする加害を防止するために、特別な構造を設ける必要性が高くなる。
【0038】
さらに、シート側エアバッグ装置21は、シート12のシートバック14の側部15に配置されるので、車両の衝突がない通常時に、シート側エアバッグ装置21が、オペレータPの横に配置されない。これにより、オペレータPと車室壁50との間のスペースが広くなる。
【0039】
さらに、車両側面視において、シート側ガスクッション部23が壁側ガスクッション部33より広く展開し、車両正面視において、壁側ガスクッション部33がシート側ガスクッション部23より、通路51の幅方向に大きく展開する。これにより、オペレータPの近くでシート側ガスクッション部23が広く展開することでオペレータPの体を保護しやすくなると共に、壁側ガスクッション部33が通路51の幅方向に大きく迅速に展開しやすくなるため、より迅速に通路51を塞ぐガスクッション部23,33の連結体を形成しやすくなる。また、
図4に示すように、車両側面視において、シート側ガスクッション部23の内側に壁側ガスクッション部33の全体が含まれるようにすることが、壁側ガスクッション部33を過度に大型化することなく、車両幅方向の展開長さを大きくしやすくする面から好ましい。
【0040】
なお、本例において、シート側エアバッグ装置21及び壁側エアバッグ装置31のガスクッション部23,33の展開タイミングは、車両の側突検知時に限定するものではなく、側突の可能性がある異常状態が発生したと制御装置が判断したときに、各ガスクッション部23,33を展開させてもよい。例えば車両に搭載された制御装置において、車両の加速度センサ等のセンサの出力から、正面衝突か側突かの判断が難しい状態が発生したと判断した場合に、各ガスクッション部23,33が展開されてもよい。
【0041】
図5は、実施形態の別例の乗員保護装置20aが組み込まれた車両10aの前側部分の横断面である。本例の場合には、シート側エアバッグ装置21aが、シートクッション18の通路51側の端部に取り付けられた第1ケース22aと、第1ケース22a内に折り畳まれた状態で収容されたシート側ガスクッション部23aとを含んで構成される。シート側ガスクッション部23aは、展開状態で、上方向及び前後方向に広がると共に、車両幅方向に広がって、シート12側から通路51に展開される。車両の側突時に、シート側ガスクッション部23aは、車室壁50側からシート12側に展開した壁側エアバッグ装置31の壁側ガスクッション部33と連結されることにより、乗員の通路51側への放り出しを抑制して乗員を保護できる。このとき、シート側ガスクッション部23aに形成された凹部24aに、壁側ガスクッション部33の先端部が受け入れられる。シート側ガスクッション部23aの展開時の形状は、
図2~
図4で示したシート側ガスクッション部23と同様である。本例において、その他の構成及び作用は、
図1~
図4の構成と同様である。
【0042】
上記の各例では、シート側ガスクッション部23,23aに、展開状態で壁側ガスクッション部33を受け入れる凹部24,24aを形成しているが、壁側ガスクッション部33に、展開状態でシート側ガスクッション部23,23aを受け入れる凹部が形成されるようにしてもよい。
【0043】
また、上記では、シート側及び壁側のエアバッグ装置21,21a,31がガスクッション部23,23a、33を収容するケース22,22a、32を備える場合を説明した。一方、シート側及び壁側のエアバッグ装置の一方または両方がケースを持たず、インフレータが直接に、シートフレームや車体に固定されるようにしてもよい。
【0044】
また、上記では、シート側ガスクッション部23,23aまたは壁側ガスクッション部33の一方に、他方を受け入れるための凹部24,24aを形成しているが、シート側及び壁側の両方のガスクッション部が凹部を持たない構成としてもよい。例えば、シート側ガスクッション部及び壁側ガスクッション部の展開状態で、互いの接触部に平面部が形成されるようにし、平面部で2つのガスクッション部が連結される構成としてもよい。
【0045】
また、上記では、車室11内でシート12の右側に通路51が形成され、シート12の通路51側である右側と、通路51に対向する右端の車室壁50とにそれぞれシート側エアバッグ装置21,21a及び壁側エアバッグ装置31を配置する場合を説明した。一方、シート12の左右両側、または左側のみに通路を形成し、シート12の左側と左端の車室壁とにそれぞれシート側エアバッグ装置及び壁側エアバッグ装置が配置され、それぞれが互いに近づくように展開する構成としてもよい。
【0046】
また、上記では、シート側エアバッグ装置21,21aを周辺部に設けるシートを、オペレータPが座るシートとした場合を説明したが、シート側エアバッグ装置を周辺部に設けるシートを、乗員としての乗客が座る乗客用シートとしてもよい。このとき、乗客用シートに着座した乗客と通路との間にシート側ガスクッション部が展開される。また、車室壁に、シート側から通路に展開されるシート側ガスクッション部に向かって壁側ガスクッション部が展開される壁側エアバッグ装置を設ける。
【0047】
また、車両は、バス型に限定せず、シートの車両幅方向側面に対向した通路を有する他の種類の車両としてもよい。
【符号の説明】
【0048】
10,10a 車両、11 車室、12 オペレータ用シート(シート)、13 右側面、14 シートバック、15 側部、16 シートバックフレーム、17 サイドサポート部、18 シートクッション、20,20a 乗員保護装置、21,21a シート側エアバッグ装置、22,22a 第1ケース、23,23a シート側ガスクッション部、24,24a 凹部、31 壁側エアバッグ装置、32 第2ケース、33 壁側ガスクッション部、50 車室壁、50a 室内トリム、51 通路、53 側突ECU、54 センサ、55 外側パネル、100 試験用ポール。