(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】レーザー加飾方法および塗装され加飾された金属部材
(51)【国際特許分類】
B23K 26/00 20140101AFI20231108BHJP
【FI】
B23K26/00 B
(21)【出願番号】P 2020167494
(22)【出願日】2020-10-02
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 修治
(72)【発明者】
【氏名】永井 信彦
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 諭
(72)【発明者】
【氏名】磯村 遼太郎
(72)【発明者】
【氏名】千地 早紀
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-63731(JP,A)
【文献】特表2015-531684(JP,A)
【文献】特開2018-69650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
B44B 1/00 - 11/04
B44C 1/00 - 1/14、
1/18 - 7/08
B44D 2/00 - 7/00
B44F 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(工程1)および(工程2)を含む塗膜層の次の特性を有する薄膜を備えた加飾された金属部材の製造方法。
特性:前記薄膜は、CO
2レーザー(波長10600nm)を出力30W、パワー100%、スキャンスピード10mm/sec、塗りつぶし間隔0.01mmピッチおよび印字回数(繰り返し回数)5回という条件で照射しても剥がれることのないものであり、
(工程1)金属素材は、金属基材そのもの、または、前記金属基材に表面処理層が形成されたものであり、前記金属素材の上に顔料を含む塗料または顔料を含まない塗料で塗装し乾燥させて塗膜層を形成する工程。
(工程2)前記塗膜層に吸収される波長であって、金属素材表面には吸収されにくい波長の光を用い、前記塗膜層を前記薄膜となるまで剥がすことで加飾する工程。
【請求項2】
前記(工程1)が、前記金属素材は、前記金属基材そのもの、または、前記金属基材に表面処理層が形成されたものであり、顔料を含まない塗料で塗装し乾燥させたクリア層を形成させ、その後、クリア層の上に顔料を含む塗料を塗装で塗膜層を形成する工程であること特徴とする請求項1記載の加飾された金属部材の製造方法。
【請求項3】
前記金属部材が、缶である請求項1または2記載の塗装された金属部材の製造方法。
【請求項4】
前記金属素材表面には吸収されにくい波長の光は、前記金属素材表面に0%より大きく5%以下しか吸収されない波長の光であることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の金属部材の製造方法。
【請求項5】
金属素材と塗膜層と加飾部を有し、
前記金属素材は、金属基材そのもの、または、前記金属基材に表面処理層が形成されたものであり、
前記塗膜層は、前記金属素材の表面に形成されたものであり、
前記加飾部は、薄膜からなり、前記薄膜は、CO
2レーザー(波長10600nm)を出力30W、パワー100%、スキャンスピード10mm/sec、塗りつぶし間隔0.01mmピッチおよび印字回数(繰り返し回数)5回という条件で照射しても剥がれることのないものであること特徴とする金属部材。
【請求項6】
前記塗膜層は、金属素材表面に形成された顔料を有さない塗料からなるクリア層とその上に顔料を有する塗料から成る有色塗膜層を有することを特徴とする請求項5記載の金属部材。
【請求項7】
前記金属部材が缶体、缶蓋のパネルまたは缶蓋のタブを含む缶の部材である請求項5または請求項6記載の金属部材。
【請求項8】
請求項4~請求項7のいずれか1項の金属部材を備え、他の部品や材料を有する製品。
【請求項9】
前記製品が、飲料入り缶である請求項8記載の製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー加飾方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザーマーキングは、対象物にレーザー光を照射して表面を溶かす、焦がす、剥離する、酸化させる、削る、変色させることでロゴや商品名、シリアル番号や型番などを印字する方法として使用されている。
この内、対象物の表面の塗装や印刷、メッキなどを剥離し、基材色とのコントラストを出すことでレーザー印字する技術が一般に用いられていることが非特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】KEYENCE、マーキング学習塾、URLhttps://www.keyence.co.jp/ss/products/marker/lasermarker/basics/laser_marking.jsp
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レーザーで塗膜を剥がす従来技術を、アルミニウム基材等の表面に化成処理や塗布処理等の表面処理を施し表面処理層を形成した容器などの金属部材に適用することが考えられる。ところが表面処理を施した表面処理層を有する金属部材に適用すると、表面処理層に影響を与えることが判明した。
即ち、この塗膜層にレーザー光を照射してマーキング等の加飾を行った場合、レーザー光の照射位置で塗膜層が除去され、更に、表面処理層が除去されてアルミニウム基材が表面に露出するケースが多い。このような状態になると、その後にレトルト殺菌等の加熱殺菌処理などを行った場合に、露出したアルミニウム基材の表面が黒色に変色(以下、黒変)することが判明した。
【0005】
本発明は、このような問題に対処することを課題としている。すなわち、加飾部の変色や錆びなどを抑止することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するために、本発明は、一形態として以下の構成を具備する。
以下の(工程1)および(工程2)を含む塗膜層の次の特性を有する薄膜を備えた加飾された金属部材の製造方法。特性:前記薄膜は、CO2レーザー(波長10600nm)を出力30W、パワー100%、スキャンスピード10mm/sec、塗りつぶし間隔0.01mmピッチおよび印字回数(繰り返し回数)5回という条件で照射しても剥がれることのないものであり、(工程1)金属素材は、金属基材そのもの、または、前記金属基材に表面処理層が形成されたものであり、前記金属素材の上に顔料を含む塗料または顔料を含まない塗料で塗装し乾燥させて塗膜層を形成する工程。(工程2)前記塗膜層に吸収される波長であって、金属素材表面には吸収されにくい波長の光を用い、前記塗膜層を前記薄膜となるまで剥がすことで加飾する工程。
【0007】
また、このような課題を解決するために、本発明は別形態として、金属素材と塗膜層と加飾部を有し、前記金属素材は、金属基材そのもの、または、前記金属基材に表面処理層が形成されたものであり、前記塗膜層は、前記金属素材の表面に形成されたものであり、前記加飾部は、薄膜からなり、前記薄膜は、CO2レーザー(波長10600nm)を出力30W、パワー100%、スキャンスピード10mm/sec、塗りつぶし間隔0.01mmピッチおよび印字回数(繰り返し回数)5回という条件で照射しても剥がれることのないものであること特徴とする金属部材を提供する。
【発明の効果】
【0008】
このような特徴を有する本発明のレーザー加飾方法、および、加飾部に薄膜が残された金属材料によると、加飾された部分の変色や錆び等を抑止することができた。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】ファイバーレーザー(波長1064nm)による加飾の説明図(a)ファイバーレーザー(波長1064nm)の加飾工程およびレトルト殺菌(熱水殺菌)処理工程の説明図(b)ファイバーレーザー(波長1064nm)による加飾写真(c)ファイバーレーザー(波長1064nm)によるレトルト殺菌(熱水殺菌)前後の写真
【
図2】CO
2レーザー(波長10600nm)による加飾の説明図(a)CO
2レーザー(波長10600nm)による加飾工程およびレトルト殺菌(熱水殺菌)処理工程の説明図(b)CO
2レーザー(波長10600nm)による加飾直後の写真(c)加飾領域の拡大図
【
図3】クリア層の説明図(a)実施形態1の説明図(b)実施形態2の説明図(c)実施形態1の写真および実施形態2の写真
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明では、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
【0011】
(実施形態1)
図面を参照して本発明の実施形態1を説明する。実施形態1は、化成処理した表面処理層L2を有するアルミニウム容器を金属部材L6とする例である。
金属基材L3とは、金属や合金を意味する。
図1(a)を参照されたい。表面処理層L2を持たない金属基材L3の場合、金属基材L3が金属素材L5となる。これに対して、アルミニウムのように表面処理層L2を有する金属や合金の場合は、表面処理層L2とその下にある金属基材(アルミニウム基材)L3を併せて、金属素材L5という。
金属部材L6は、金属素材L5に塗膜層L1を設け、製品の部材になったものをいう。例えば、アルミニウム容器の場合は、塗装され金属部材L6となる。
【0012】
(従来の例)
図1(a)は、アルミニウム容器を金属部材L6とした例である。金属基材(アルミニウム基材)L3の表面を化成処理し表面処理層L2を形成し、その上に顔料を有する有色の塗膜層L1を有している。加飾用レーザーとして、一般的に用いられているファイバーレーザー(波長1064nm)を使用した。化成処理は、リン酸クロメート処理(CP処理)を行い、金属基材(アルミニウム基材)L3の表面に表面処理層L2を形成し、更にその上に塗膜層L1を形成した。塗膜層L1が完全に乾いてから、塗膜層L1にファイバーレーザー(波長1064nm)を当てた。
【0013】
その結果を写真で撮影したのが
図1(b)である。星形に正確に加飾がなされている。複雑な形状でもきわめて視認性が良い加飾が行えることが分かる。ファイバーレーザー(波長1064nm)のレーザー光がガルバノミラーで掃引し、塗りつぶし間隔0.1mmとした名残として、加飾領域の縁部が微小なデコボコになっていることが観て取れる。
しかしながら、
図1(c)の写真が示すように、加飾部2の塗膜がきれいに剥がれている。なお、黒く見える部分は黒変ではなく、撮影条件(光の反射によるゴースト)で黒く見えているだけであり、塗膜は全く存在していない。そして、
図1(c)の写真で示すようにレトルト殺菌(熱水殺菌)を施すと、加飾部2の全体にわたって黒変部位Bが生じる。
図1(b)の加飾領域を調べたところ、ファイバーレーザー(波長1064nm)により、表面処理層L2がダメージを受け、加飾領域にわずかに表面処理層L2が残存するものの、金属基材(アルミニウム基材)L3が大きく露出していることが分かった。
【0014】
すなわち、
図1(a)のように、一般的に用いられる加飾用のファイバーレーザー(波長1064nm)で処理をすると、表面処理層L2まで剥がしてしまい、金属基材(アルミニウム基材)L3までレーザー光の影響が及んでしまう。その後レトルト殺菌(熱水殺菌)処理を行うと、黒変部位Bが生じる。黒変部位Bを分析した結果、金属基材(アルミニウム基材)L3にレトルト殺菌中処理中の熱水に含まれる微量な金属イオン(Ca,Mg,Si等)が取り込まれて変色することが判明した。いずれにせよ、表面処理層L2を失い露出した金属基材(アルミニウム基材)L3がレトルト殺菌中に反応を引き起こし、黒変することが判明した。
【0015】
(本発明者による発見)
本発明者の発見について説明する。
(実験1)
図2(a)は、CO
2レーザー(波長10600nm)を用いた加飾を用いた概念図である。
図2(b)および
図2(c)は、その結果を示す写真である。
(工程1)金属基材(アルミニウム基材)L3の表面に表面処理層L2が形成されたものを金属素材L5として、金属素材L5の上に顔料を含む塗料で塗装した。
(工程2)その後、塗料を焼き付け乾燥させ塗膜層L1を得た。
【0016】
ファイバーレーザー(波長1064nm)による加飾では、
図1(b)のように、顔料を有する有色の塗膜層L1がすべて剥がされている。これに対して、CO
2レーザー(波長10600nm)による加飾では、
図2(b)の写真および
図2(c)の薄膜L4の拡大写真に示されているように、加飾部2には、薄膜L4が残っている。この時のCO
2レーザー(波長10600nm)による加飾条件は、出力30W、パワー100%、スキャンスピード4000mm/sec、塗りつぶし間隔0.1mmピッチ、印字回数(繰り返し回数)1回という条件であった。
図2(c)のように、残った塗膜層L1の薄膜L4は、金属素材表面L5a(表面処理層L2)が見える程薄く、かつ膜厚が均一であった。なお、
図2(b)および
図2(c)の写真を撮影するに当たり、薄膜L4が残っていることが分かるようにあえて顔料濃度の濃い赤い塗料を使用し、薄膜L4の存在が分かるようにしている。
【0017】
いずれにせよ、金属素材表面L5a(表面処理層L2)が見える程薄い塗膜層L1が残っているため、
図2(a)のように、レトルト殺菌(熱水殺菌)を行ったが、黒変することは全くなかった。わずかでも薄膜L4に孔があれば孔の部分が黒変するため、薄膜L4には金属素材表面L5a(表面処理層L2)を露出するような孔は開いておらず、均一な薄膜L4となって残存していることが確認された。
【0018】
(実験2)
そこで、CO2レーザー(波長10600nm)の出力を高める実験を行った。その結果、出力をいくら高めても、顔料を有する有色の塗膜層L1の加飾部2には薄膜L4が残存し、CO2レーザー(波長10600nm)によって塗膜層L1をすべて剥離することが困難であることが判明した。
【0019】
(実験3)
実験1で作成した薄膜L4に対して、薄膜L4の特性を調べる実験を行った。特性調査条件として、CO2レーザー(波長10600nm)、出力30W、パワー100%、スキャンスピード10mm/sec、塗りつぶし間隔0.01mmピッチ、印字回数(繰り返し回数)5回というものであった。
結果として、薄膜L4は剥がれることはなかった。
特性調査条件は、前述した加飾出力条件であるCO2レーザー(波長10600nm)、出力30W、パワー100%、スキャンスピード4000mm/sec、塗りつぶし間隔0.1mmピッチ、印字回数(繰り返し回数)1回と比較して、非常に過酷な条件であることが分かる。
この条件は、スキャンスピードが極めて遅く、塗りつぶし間隔が0.01mmと印字箇所があえて重なるように、しかも印字回数が5回であり同じ印字箇所にCO2レーザー(波長10600nm)が多数回照射されるという厳しい条件である。
この条件で照射しても薄膜L4は剥がれることがなく、何らかの物理的な現象で、CO2レーザー(波長10600nm)では剥がせない特性の薄膜L4であることが分かった。
実験3から、特性調査条件は、薄膜L4を特定するのに有効であることが分かった。
【0020】
(実験4)
原因を明らかにすべく実験をしたところ、波長の長いCO2レーザー(波長10600nm)は、表面処理層L2に吸収されにくい波長(吸収率は0%よりも大きく5%以下)であること。塗膜層L1に含まれる顔料や樹脂に吸収される波長であることが分かった。
塗膜層L1が薄膜L4となって薄く残存する理由は、顔料の粒径がCO2レーザー(波長10600nm)の波長に比較して薄いため回折限界を超えており光が吸収されにくくなっていることが原因の一つして考えられる。かつ、表面処理層L2に吸収されずに反射するため、塗膜層L1が薄く残ることが考えられる。さらに、金属基材L3は熱伝導性が良く、熱が金属基材L3から逃げるなどの複合的な要因で薄膜L4が残るものと推定される。
【0021】
実験2の結果から、実験1で行った加飾は、実質的に塗膜層L1に吸収される波長であって、表面処理層L2の表面(金属素材表面L5a)には吸収されにくい(吸収率は0%より大きく5%以下の)波長のCO2レーザー(波長10600nm)用い、薄膜L4を残して塗膜層L1を剥がすことで、加飾された金属部材L6とする工程を行っていたことになる。
【0022】
(実験5)
上述の実験では、塗膜層L1の薄膜L4が残ることを確認するため、あえて顔料含む有色の塗料を厚く塗布する実験を行った。実験条件は、塗料(赤色塗料顔料添加量3.2(PHR)、塗膜量70mg/dm
2である。
その結果、
図2(b)および
図2(c)の写真では、薄膜L4に顔料がかなり残ったが、薄膜L4を通して下層の金属素材表面L5a(表面処理層L2)が見えた。膜厚の厚い顔料を含む有色の塗膜層L1でも、塗膜層L1の薄膜L4が残ることが判明し、薄膜L4が残るのは塗膜層L1の厚さと無関係であることが分かった。
また、低い顔料濃度の塗料を使用する実験も行った。残った塗膜層L1に含まれる顔料濃度が低いため、顔料の残存が少なく、金属素材表面L5a(表面処理層L2)がよく見える透き通った均一な膜厚の薄膜L4となることが分かった。
【0023】
このことから、加飾部2の視認性を高めるためには、顔料濃度を低くした分、厚く塗料を塗布することで達成できることが判明した。つまり、厚い有色の塗膜層L1とすることで、加飾部2以外の塗膜層L1の色が濃くなる。他方、薄膜L4の領域では顔料濃度が低いため加飾部2は透き通った薄膜L4となる。塗膜層L1の部分の色が濃く、薄膜L4の部分の色が薄くなるため、視認性が向上する。
【0024】
(実験6)
実験5の結果を踏まえ、顔料添加量と塗膜量による影響を調べる実験を行った。また、顔料の色も赤、緑および黒を用意し、色による薄膜L4の影響を調べた。実験材料となる金属素材L5として、化成処理したアルミニウム板(材質5182合金)を用いた。そして、所定の顔料添加量・塗膜量の有色塗料を塗装後、焼き付け乾燥し、塗装板を得た。
塗料として、赤色塗料、黒色塗料、緑色塗料の3色の塗料を用いた。
キーエンス社製CO2レーザー(波長10600nm)を使用して、薄膜L4を残し加飾部2(薄膜L4の部位)とした。
塗装部と加飾部2(薄膜L4の部位)の色を、L*a*b*値:X-rite(積分球タイプ色差計)(x-rite社製)を用いて測定した。塗装部と加飾部2(薄膜L4の部位)の色差ΔE*は、塗装部の色を基準として求めた。
加えて、視認性目視評価も行った。視認性目視評価は、各色において、加飾部2(薄膜L4の部位)が最も視認しやすいものから順に◎>○>△>×として判断した。
(実験結果R)赤色塗料
【0025】
【0026】
実験R3~実験R5は、顔料添加量3.2PHRであることで共通しており、塗膜量が異なっている。また、実験R6と実験R7も顔料添加量2.5PHRであることで共通しており、塗膜量が異なっている。
この結果から、赤色塗料においては塗膜量を多くした方が色差ΔE*および視認性目視評価が良好になることが判明した。
また、視認性は、塗膜層L1と薄膜L4の色の差に影響されるため、実験R3と実験R6のように、同じ70mg/dm2の膜厚でも、顔料の添加量の少ないR6の方がやや劣った。
(実験結果B)黒色塗料
【0027】
【0028】
黒色塗料を用いた実験B3~実験B5、および、実験B6~実験B7でも赤色塗料と同じように塗膜量を多くした方が色差ΔE*および視認性目視評価が良好になることが判明した。黒色塗料を用いた実験結果Bは、赤色塗料を用いた実験結果Rと同じ傾向を示した。
(実験結果G)緑色塗料
【0029】
【0030】
緑色塗料を用いた実験G3~実験G5、および、実験G6~実験G7でも赤色塗料や黒色塗料と同じように塗膜量を多くした方が色差ΔE*および視認性目視評価が良好になることが判明した。緑色塗料を用いた実験結果Gは、赤色塗料を用いた実験結果Rと黒色塗料を用いた実験結果Bと同じ傾向を示した
以上のように顔料の組み合わせを検討したところ、CO2レーザーの波長10600nmの光は、色に関係なく顔料に吸収される波長であることが判明した。
そのため、非常に広範な顔料に対してCO2レーザー(波長10600nm)が有効であることが判明した。
この結果から、塗膜層L1に吸収される波長であって、金属素材表面L5aには吸収されにくい波長のレーザーであれば、原理的にどのような波長のレーザーであってもかまわないことが分かった。
【0031】
視認性は、塗膜層L1と薄膜L4との色差ΔE*が大きいことと関連する。実験6では、顔料濃度を低くし、顔料濃度の低下を補うため厚い塗膜層L1とすることで塗膜層L1の部分のL*、a*、b*色空間の測定値が大きくなる。他方、薄膜L4は、顔料濃度が低いため、薄膜L4に残る顔料が少なくなり、加飾部2(薄膜L4)のL*、a*、b*色空間の測定値が小さくなる。その結果、塗膜層L1と加飾部2(薄膜L4)と色差ΔE*が大きくなり、視認性が向上することが判明した。
(実験の総括)
【0032】
以上の実験結果R、実験結果Bおよび実験結果Gを総合すると、次のようなことが分かる。
塗料の主成分は、顔料、溶剤、塗膜成分(合成樹脂など)であるが、乾燥させた塗料には、溶剤が揮発して残っていない。塗膜層L1は、結局、顔料と塗膜成分(合成樹脂など)と添加物等で構成されるものとなる。CO2レーザー(波長10600nm)は、顔料は吸収される波長であり、また、塗膜成分(合成樹脂など)にも顔料ほどではないが吸収される波長のレーザー光である。顔料と塗膜成分(合成樹脂など)で構成される塗膜層L1にCO2レーザー(波長10600nm)を照射すると、顔料と塗膜成分(合成樹脂など)にレーザー光が吸収され、加熱されて塗膜層L1が剥がされて行く。しかし、最後の薄膜L4が、残るものであった。
表面処理層L2には、レーザー光が吸収されず、反射されてしまうことが判明した。
最終的にCO2レーザー(波長10600nm)で加熱される対象物が無くなり、塗膜成分(合成樹脂など)と顔料が残った結果、薄膜L4が残ることとなる。
【0033】
(原理)
塗膜層L1が薄膜L4となって、薄く残存する理由は、薄膜顔料の粒径や塗膜成分(合成樹脂など)の厚さがCO2レーザー(波長10600nm)の波長に比較して小さいため回折限界を超えており吸収されにくくなっていることが原因の一つして考えられる。かつ、表面処理層L2に吸収されずに反射するため、塗膜層L1が薄く残ることが考えられる。さらに、金属基材L3は熱伝導性が良く、熱が金属基材L3から逃げるなどの複合的な要因で薄膜L4が残るものと推定される。
【0034】
(薄膜の特性)
いずれにせよ、金属素材表面L5a(表面処理層L2)が見える程薄い塗膜層L1が残っているため、
図2(a)のように、レトルト殺菌(熱水殺菌)を行ったが、黒変することは全くなかった。わずかでも薄膜L4に孔があれば孔の部分が黒変するため、薄膜L4には金属素材表面L5a(表面処理層L2)を露出するような孔は開いておらず、均一な薄膜L4となって残存していることが確認された。
そして、薄膜L4は、CO
2レーザー(波長10600nm)、出力30W、パワー100%、スキャンスピード10mm/sec、塗りつぶし間隔0.01mmピッチ、印字回数(繰り返し回数)5回という条件でも薄膜L4が剥がれることがないという特性を有していることが判明した。
この特性は、薄膜L4を特定するために有効な実験手段であることが分かった。
【0035】
(表面処理層の有無)
実施形態1として、数々の実験に金属としてアルミニウム合金を使用し、リン酸クロメート処理(CP処理)による表面処理層L2を有する金属素材L5を使用した。
しかし、原理から言って、表面処理層L2が存在しない金属素材L5にも適用可能である。例えば、表面処理層L2をあえて設けないスチール(金属素材L5)でも、塗膜層L1に吸収される波長であって、金属素材表面L5aであるスチール表面にほとんど吸収されない波長のレーザーを用いれば薄膜L4が残されることは明らかである。そして、薄膜L4が残されることで、スチール(金属素材L5)の腐蝕等を防ぐことができる。
【0036】
(熱水殺菌処理容器以外への適用)
また、実施形態1や実験では、レトルト殺菌用容器について述べてきたが、樹脂層の間にアルミニウム箔を有するレトルトパウチにも適用可能である。金属素材L5は、樹脂などでコーティングされた薄いフィルムでもよい。
さらに、レトルト殺菌しない場合でも、露出した金属基材L3(特にスチール)が汚れや雨水に晒されれば腐蝕(錆び)が進むこともあり得、レトルト殺菌(熱水殺菌)用容器に限らず、あらゆる容器の加飾部2の保護に寄与する。
また、本発明は、容器に限らず、様々な装置の部品や製品など塗膜層L1を有するあらゆる金属素材L5の加飾に適用可能である。
【0037】
(光の波長)
さらに、前述の数々の実験ではCO2レーザー(波長10600nm)を加飾に用いたが、上述の原理によれば、塗膜層L1に吸収される波長であって、金属素材表面L5aには吸収されにくい波長の光を用いればよく、本発明は、CO2レーザー(波長10600nm)に限定されるものではない。例えば、加飾を行おうとしている金属(合金)は様々であり得、金属(合金)の種類が異なれば、金属素材表面L5aに吸収されにくい光の波長は異なってくる。また、表面処理の種類によっても表面処理層L2の物性は異なり、金属素材表面L5aに吸収されにくい光の波長も異なってくる。
塗膜層L1に吸収される波長であって、金属素材表面L5aには吸収されにくい波長の光を用いさえすれば、本発明の実施は可能である。
【0038】
(レーザー光)
この原理に従えば、光源(加熱源)は、レーザーでなくともよく、例えば、塗膜層L1の上にマスキングテープを貼り、遠赤外線領域のランプ(波長10600nm)を用いても薄膜L4の残った加飾部2を得ることができる。
【0039】
(加飾された金属部材の製品化)
以上のように、塗装された金属素材L5から、加飾された金属部材L6が作られる。金属部材L6は、他の部材や材料を入れたり組み立てたりして製品となる。例えば、加飾された飲料缶体であれば、缶体に飲料が入れられ製品化される。また加飾された金属部材L6が缶体、缶蓋のパネル、缶蓋のタブなど、缶に限っても様々な部分の加飾に使える。さらに、飲料缶に限らず、食缶(缶詰等)、エアゾール缶など、製品の種類を問わない。
【0040】
(実施形態2)
薄膜L4が、塗膜層L1に含まれる顔料に依らないことを確かめるため、塗膜層L1の下に、顔料を全く含まない塗料を用いてクリア層Cを形成し、薄膜L4が残るか確かめた。
実施形態1では、効果を明確にするために顔料を多く添加した青色塗料を45mg/dm
2となる膜厚で塗布し、CO
2レーザー(波長10600nm)を用い加飾を行った。
図3(a)は実施形態1であり、薄膜L4が残存している。その結果は、
図3(c)に実施形態1として示した写真のように薄膜L4には、顔料が残っている。
他方、
図3(b)は、実施形態2である。透明な塗料からなるクリア層Cを25mg/dm
2となるように金属基材L3の上に塗布し、さらにクリア層Cの上に実施形態1と同じ顔料を多く添加した青色塗料を45mg/dm
2を塗布し有色の塗膜層L1を重ねたものである。
実施形態2の金属部材L6では、
図3(c)の写真のように、顔料はほとんど残っておらず、ほぼクリア層Cからなる薄膜L4が残されているだけであった。クリア層Cを作ることにより、有色の塗膜層L1と加飾部2の色の差がはっきりし、視認性が高まる。また、実施形態2では、クリア層Cの薄膜L4が残っているので、レトルト殺菌(熱水殺菌)しても黒変することはなかった。
【0041】
実施形態2においてクリア層Cを用いて実験したのは、顔料を全く含まないクリア層Cでも薄膜L4が残ることを確かめることにあった。
敢えてクリア層Cに透けて見える程の若干量の顔料を添加して、着色することも可能である。若干量の顔料を添加したものもクリア層Cに含まれる。
【0042】
また、実施形態2では、塗料を塗り重ねても下層(クリア層C)の薄膜L4が残ることが判明した。この結果から、異なる色の顔料の塗料を塗り重ねて、2層で構成すれば、下層の塗料の顔料が残る薄膜L4が形成されることとなる。その場合、敢えて下層の塗料に顔料を多く添加し、上層に下層と異なる色の顔料を添加した2層構造にすることも可能である。CO2レーザー(波長10600nm)を用いて加飾を行うと、上層の色と異なる下層由来の顔料の色が残った薄膜L4が形成される。加飾部2の色が加飾部2の周辺の色と異なることで、視認性を高めることができる。また、趣の変わった加飾部2とすることができる。
【0043】
実施形態2では、加飾部2において、クリア層C自体が金属素材表面L5aを覆う保護膜となり、レトルト殺菌(熱水殺菌)による変色や、汚れ(特に、海岸近くの塩風による塩分付着)などによる腐蝕(錆び)から金属部材L6を守る。
【0044】
レーザーによる加飾の原理は、塗膜層L1がレーザー光を吸収することによる。レーザー光が当たり、塗膜層L1が熱せられ高温になる。実施形態2では、クリア層Cの成分である塗膜成分(合成樹脂)も顔料ほどではないがレーザー光を吸収するので、やはり、クリア層Cも加熱され剥がされるものと推察される。
【0045】
また、クリア層Cを極端に薄くし、有色の塗膜層L1をその上に設ければ、クリア層Cと塗膜層L1からなる薄膜L4が残ることとなる。
【0046】
(塗料[顔料の有無])
以上のように、顔料を含まない塗料で形成されたクリア層Cも加飾され薄膜L4を残ることが判明した。本発明の実施には顔料の有無は無関係である。したがって、本発明でいう塗膜層L1とは、クリア層Cのみからなる場合も含まれ、塗料に顔料が含まれない塗膜層L1であっても、本発明に含まれる。
なお、上述の実施形態1および実施形態2では、クリア層Cと塗膜層L1を別の層として説明してきたが、両層ともに塗料で形成された層であることに違いはなく、クリア層Cも塗膜層L1の一種である。
【0047】
(視認性)
実施形態1の実験6の結果と実施形態2の結果を併せ、有色の塗料を用いた実験の考察ができる。視認性は、塗膜層L1と薄膜L4との色差ΔE*が大きいことと関連する。顔料濃度を低くし、顔料濃度の低下を補うため厚い塗膜層L1とすることで塗膜層L1の部分のL*、a*、b*色空間の測定値が大きくなる。他方、薄膜L4は、顔料濃度が低いため、薄膜L4に残る顔料が少なくなり、加飾部2(薄膜L4)のL*、a*、b*色空間の測定値が小さくなる。その結果、塗膜層L1と加飾部2(薄膜L4)との色差ΔE*が大きくなり、視認性が向上する。このようにすることで、加飾部2(印字)の視認性を高めることができる。さらに、クリア層Cを設けることで、加飾部2(薄膜L4)に残る顔料はさらに少なくなり、色差ΔE*がさらに広がり、加飾部2(印字)視認性が向上する。
【0048】
他方、顔料の濃度が高い塗料を使用した塗膜層L1に加飾を行う場合は、薄膜L4(印字部分)に顔料が多く残り、加飾部2(印字)の視認性が劣ることがある。このような場合、消費者に目立たないように加飾する場合に使用できる。例えば、ロット番号等の消費者に必要のない情報の印字である。
また、「加飾(印字)」とは、文字に限らず、模様、絵柄、バーコード、2次元コードや機械読取可能な情報等を含むものである。また、加飾(印字)の使用目的を問わない。
【0049】
また、実施形態2では、顔料を含まないクリア層Cも加飾されることが判明した。顔料を全く含まない塗膜層L1で塗装し、加飾しても透明な塗膜層L1に透明な薄膜L4(印字部分)が残ることとなり、きわめて視認性が劣る。
しかし、消費者に伝えることが必要のないロット番号等を印字する場合は有利になる。特定の方向から光を当てることで、印字が浮かび上がり、製造元等を確認したい場合だけロット番号等の情報を知るなどの用途に使える。
【0050】
以上、本発明に係る実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成は、これらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
また、前述の各実施形態は、その目的および構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0051】
L1:塗膜層,
L2:表面処理層,
L3:金属基材(アルミニウム基材)
L4:薄膜
L5:金属素材
L5a:金属素材表面
L6:金属部材
2 :加飾部
B :黒変部位
C :クリア層