(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20231108BHJP
B60K 6/445 20071001ALI20231108BHJP
B60W 10/02 20060101ALI20231108BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20231108BHJP
B60W 10/10 20120101ALI20231108BHJP
B60W 10/11 20120101ALI20231108BHJP
B60W 20/19 20160101ALI20231108BHJP
F02D 29/00 20060101ALI20231108BHJP
F16H 59/08 20060101ALI20231108BHJP
F16H 59/68 20060101ALI20231108BHJP
F16H 61/02 20060101ALI20231108BHJP
F16H 61/684 20060101ALI20231108BHJP
F16H 63/50 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
B60L15/20 K
B60K6/445 ZHV
B60W10/02 900
B60W10/08 900
B60W10/10 900
B60W10/11
B60W20/19
F02D29/00 C
F16H59/08
F16H59/68
F16H61/02
F16H61/684
F16H63/50
(21)【出願番号】P 2020176977
(22)【出願日】2020-10-21
【審査請求日】2022-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】笹出 晋一
(72)【発明者】
【氏名】松原 亨
(72)【発明者】
【氏名】達城 宏真
(72)【発明者】
【氏名】寿山 大介
(72)【発明者】
【氏名】木村 知靖
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-069886(JP,A)
【文献】特開2016-205538(JP,A)
【文献】特開2017-039427(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 15/20
B60K 6/445
B60W 10/02
B60W 10/08
B60W 10/10
B60W 10/11
B60W 20/19
F02D 29/00
F16H 59/08
F16H 59/68
F16H 61/02
F16H 61/684
F16H 63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも回転機を含んで構成される駆動力源と、該駆動力源と駆動輪との間の動力伝達経路上に設けられ、内部に備えられる複数個の係合装置の係合状態が切り替えられることにより複数のギヤ段に変速される変速機と、を備え、運転者の運転操作に基づいて走行する手動運転モードと、運転者による運転操作に依存することなく車両の運転を行う自動運転モードと、を実行可能な車両の制御装置であって、
前記自動運転モードで走行中の前記変速機のダウンシフトにおいて、ダウンシフト中に解放される前記係合装置に供給される作動油の油圧を、前記手動運転モードで走行中の場合よりも高くする自動運転時油圧変更部と、
前記係合装置の作動油の前記油圧を前記手動運転モードで走行中の場合よりも高くする間、前記回転機から出力される駆動側のトルクを、前記手動運転モードで走行中の場合に出力されるトルクよりも増加させる自動運転時回転機制御部と、を備え
、
前記自動運転時油圧変更部は、前記自動運転モードで走行中であり、且つ、前記変速機のダウンシフトのイナーシャ相中において、ダウンシフト中に解放される前記係合装置に供給される作動油の前記油圧を、前記手動運転モードで走行中の場合よりも高くし、
前記自動運転時回転機制御部は、前記変速機のダウンシフトのイナーシャ相中における前記変速機の入力回転速度が、前記手動運転モードで走行中の場合と同じ勾配で上昇するように、前記回転機のトルクを制御する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記自動運転時油圧変更部は、前記自動運転モードで走行中において、前記変速機のダウンシフト中に解放される前記係合装置に供給される作動油の前記油圧の減少勾配を、前記手動運転モードで走行中の場合の減少勾配よりも小さくする
ことを特徴とする請求項
1の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力源と変速機とを備え、自動運転モードで走行可能な車両の変速制御に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動力源と、駆動力源と駆動輪との間の動力伝達経路上に設けられた変速機とを備え、運転者による操作に依存することなく自動で走行させる自動運転モードで走行可能な車両が知られている。特許文献1に記載の車両がそれである。特許文献1には、自動運転モードと手動運転モードとに切替可能に構成される車両において、自動運転モードで走行中は、手動運転モードと比較して変速機の変速時間を長くすることで、自動運転モードで走行中の変速ショックを低減することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の技術では、自動運転モードで走行中の変速機の変速時間が長くなるため、その背反として、ダウンシフト中の駆動トルクの抜けにより加速度が減少する、加速度の引き込みの発生する時間が長くなる。その結果、加速度の引き込みが長くなることに起因してショックが発生し、運転者が違和感を感じる虞があった。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、駆動力源と変速機とを備え、自動運転モードで走行可能な車両において、自動運転モードで走行中の変速機のダウンシフト中に発生する加速度の引き込みを低減し、運転者に与える違和感を低減できる制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の要旨とするところは、(a)少なくとも回転機を含んで構成される駆動力源と、その駆動力源と駆動輪との間の動力伝達経路上に設けられ、内部に備えられる複数個の係合装置の係合状態が切り替えられることにより複数のギヤ段に変速される変速機と、を備え、運転者の運転操作に基づいて走行する手動運転モードと、運転者による運転操作に依存することなく車両の運転を行う自動運転モードと、を実行可能な車両の制御装置であって、(b)前記自動運転モードで走行中の前記変速機のダウンシフトにおいて、ダウンシフト中に解放される前記係合装置に供給される作動油の油圧を、前記手動運転モードで走行中の場合よりも高くする自動運転時油圧変更部と、(c)前記係合装置に供給される作動油の前記油圧を前記手動運転モードで走行中の場合よりも高くする間、前記回転機から出力される駆動側のトルクを、前記手動運転モードで走行中の場合に出力されるトルクよりも増加させる自動運転時回転機制御部と、を備え、(d)前記自動運転時油圧変更部は、前記自動運転モードで走行中であり、且つ、前記変速機のダウンシフトのイナーシャ相中において、ダウンシフト中に解放される前記係合装置に供給される作動油の前記油圧を、前記手動運転モードで走行中の場合よりも高くし、(e)前記自動運転時回転機制御部は、前記変速機のダウンシフトのイナーシャ相中における前記変速機の入力回転速度が、前記手動運転モードで走行中の場合と同じ勾配で上昇するように、前記回転機のトルクを制御することを特徴とする。
【0008】
第2発明の要旨とするところは、第1発明において、前記自動運転時油圧変更部は、前記自動運転モードで走行中において、前記変速機のダウンシフト中に解放される前記係合装置に供給される作動油の前記油圧の減少勾配を、前記手動運転モードで走行中の場合の減少勾配よりも小さくすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明によれば、自動運転モードで走行中は、自動運転時油圧変更部が、変速機のダウンシフト中に解放される係合装置に供給される作動油の油圧を、手動運転モードで走行中の場合よりも高くするため、ダウンシフト中の駆動トルクの抜けによる加速度の引き込みが低減される。一方で、ダウンシフト中に解放される係合装置に供給される作動油の油圧が高くされることで、変速時間が長くなり易いものの、この間は自動運転時回転機制御部が、回転機から出力される駆動側のトルクを手動運転モードで走行中の場合よりも増加させるため、ダウンシフトの進行が速められる。従って、変速時間が長くなることが防止され、加速度の引き込みが長時間続くことによるショックを低減して運転者に与える違和感を低減することができる。
また、第1発明によれば、変速機のダウンシフトのイナーシャ相中において、自動運転時油圧変更部が、ダウンシフト中に解放される係合装置に供給される作動油の油圧を、手動運転モードで走行中の場合よりも高くするため、イナーシャ相中に発生する駆動トルクの抜けによる加速度の引き込みが低減される。
また、第1発明によれば、自動運転時回転機制御部は、変速機のダウンシフトのイナーシャ相中における変速機の入力回転速度が手動運転モードで走行中の場合と同じ勾配で上昇するように、回転機のトルクを制御するため、イナーシャ相中における変速の進行速度が手動運転モードで走行中の場合と略同じになり、イナーシャ相中における変速時間が手動運転モードの場合よりも長くなることが防止される。
【0012】
第2発明によれば、自動運転時油圧変更部は、自動運転モードで走行中のダウンシフト中に解放される係合装置に供給される作動油の油圧の減少勾配を、手動運転モードで走行中の場合の減少勾配よりも小さくするため、ダウンシフト中の駆動トルクの抜けによる加速度の引き込みが低減される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明が適用される車両の概略構成を説明する図であると共に、車両における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
【
図2】
図1の機械式有段変速部の変速作動とそれに用いられる係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
【
図3】
図1の電気式無段変速部と機械式有段変速部とにおける各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。
【
図4】
図1の機械式有段変速部の変速制御に用いられるATギヤ段変速マップと、走行モードの切替制御に用いられる走行モード切替マップと、の一例を示す図であって、それぞれの関係を示す図でもある。
【
図5】電子制御装置の制御作動の要部、すなわち自動運転モードで走行中の有段変速部のダウンシフトにおいて、イナーシャ相中に発生する加速度の引き込みを低減できる制御作動を説明するフローチャートである。
【
図6】エンジン側から動力が伝達されるパワーオン状態で走行中に有段変速部がダウンシフトされるときの制御状態を説明するタイムチャートであり、
図5のフローチャートに基づいて制御されたときの制御結果を示すものである。
【
図7】本発明が適用される車両の概略構成を説明する図であって、
図1の車両とは別の実施例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。
図1において、車両10は、エンジン12と第1回転機MG1と第2回転機MG2とを備えている。又、車両10は、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16と、を備えている。
【0017】
エンジン12は、駆動力を発生することが可能な駆動力源であって、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。エンジン12は、後述する電子制御装置90によって、車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等を含むエンジン制御装置50が制御されることによりエンジン12の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。
【0018】
第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、電動機(モータ)としての機能及び発電機(ジェネレータ)としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、車両10に備えられたインバータ52を介して、車両10に備えられたバッテリ54に接続されている。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、後述する電子制御装置90によってインバータ52が制御されることにより、第1回転機MG1の出力トルクであるMG1トルクTg及び第2回転機MG2の出力トルクであるMG2トルクTmが制御される。回転機の出力トルクは、例えばエンジン12の運転時と同じ回転方向である正回転の場合、加速側となる正トルクでは力行トルクであり、減速側となる負トルクでは回生トルクである。バッテリ54は、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々に対して電力を授受する蓄電装置である。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、車体に取り付けられる非回転部材としてのケース18内に設けられている。
【0019】
動力伝達装置16は、ケース18内において共通の軸心上に直列に配設された、電気式無段変速部20及び機械式有段変速部22等を備えている。電気式無段変速部20は、直接的に或いは図示しないダンパーなどを介して間接的にエンジン12に連結されている。機械式有段変速部22は、電気式無段変速部20の出力側に連結されている。又、動力伝達装置16は、機械式有段変速部22の出力回転部材である出力軸24に連結された差動歯車装置26、差動歯車装置26に連結された一対の車軸28等を備えている。車軸28は、駆動輪14と連結されている。尚、以下、電気式無段変速部20を無段変速部20、機械式有段変速部22を有段変速部22という。又、無段変速部20や有段変速部22等は上記共通の軸心に対して略対称的に構成されており、
図1ではその軸心の下半分が省略されている。上記共通の軸心は、エンジン12のクランク軸、そのクランク軸に連結された無段変速部20の入力回転部材である連結軸30などの軸心である。尚、有段変速部22が、本発明の変速機に対応している。
【0020】
無段変速部20は、第1回転機MG1と、エンジン12の動力を第1回転機MG1及び無段変速部20の出力回転部材である中間伝達部材32に機械的に分割する動力分割機構としての差動機構34と、を備えている。中間伝達部材32には、第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。無段変速部20は、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構34の差動状態が制御される電気式無段変速機である。無段変速部20は、変速比(ギヤ比ともいう)γ0(=エンジン回転速度Ne/MG2回転速度Nm)が変化させられる電気的な無段変速機として作動させられる。エンジン回転速度Neは、エンジン12の回転速度であり、無段変速部20の入力回転速度すなわち連結軸30の回転速度と同値である。MG2回転速度Nmは、第2回転機MG2の回転速度であり、無段変速部20の出力回転速度すなわち中間伝達部材32の回転速度と同値である。第1回転機MG1は、エンジン回転速度Neを制御可能な回転機であって、差動用回転機に相当する。尚、第1回転機MG1の運転状態を制御することは、第1回転機MG1の運転制御を行うことである。
【0021】
差動機構34は、シングルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、サンギヤS0、キャリアCA0、及びリングギヤR0を備えている。キャリアCA0には連結軸30を介してエンジン12が動力伝達可能に連結され、サンギヤS0には第1回転機MG1が動力伝達可能に連結され、リングギヤR0には第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。差動機構34において、キャリアCA0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能する。
【0022】
有段変速部22は、中間伝達部材32と駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成する、つまり無段変速部20と駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成する、有段変速機としての機械式変速機構である。中間伝達部材32は、有段変速部22の入力回転部材としても機能する。中間伝達部材32には第2回転機MG2が一体回転するように連結されている。第2回転機MG2は、走行用の駆動力を発生することが可能な駆動力源として機能する回転機であって、走行駆動用回転機に相当する。又、無段変速部20の入力側にはエンジン12が連結されている。よって、有段変速部22は、駆動力源(エンジン12、第2回転機MG2)と駆動輪14との間の動力伝達経路上に設けられる自動変速機である。第2回転機MG2は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された回転機である。つまり、第2回転機MG2は、有段変速部22を介して駆動輪14に動力伝達可能に連結された回転機である。有段変速部22は、例えば第1遊星歯車装置36及び第2遊星歯車装置38の複数組の遊星歯車装置と、ワンウェイクラッチF1を含む、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、ブレーキB2の複数の係合装置と、をケース18の内部に備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。以下、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、及びブレーキB2については、特に区別しない場合は単に係合装置CBという。
【0023】
係合装置CBは、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、車両10に備えられた油圧制御回路56内の各ソレノイドバルブSL1-SL4等から出力される、調圧された作動油の油圧(係合圧)によりそれぞれのトルク容量が変化させられることで、各々、係合や解放などの制御状態すなわち作動状態が切り替えられる。
【0024】
有段変速部22は、第1遊星歯車装置36及び第2遊星歯車装置38の各回転要素が、直接的に或いは係合装置CBやワンウェイクラッチF1を介して間接的に、一部が互いに連結されたり、中間伝達部材32、ケース18、或いは出力軸24に連結されている。第1遊星歯車装置36の各回転要素は、サンギヤS1、キャリアCA1、リングギヤR1であり、第2遊星歯車装置38の各回転要素は、サンギヤS2、キャリアCA2、リングギヤR2である。
【0025】
有段変速部22は、係合装置CBのうちの何れかの係合装置である例えば所定の係合装置の係合によって、変速比γat(=AT入力回転速度Ni/出力回転速度No)が異なる複数の変速段(ギヤ段ともいう)のうちの何れかのギヤ段が形成される有段変速機である。つまり、有段変速部22は、複数の係合装置の係合状態が切り替えられることにより、複数のギヤ段に変速される。本実施例では、有段変速部22にて形成されるギヤ段をATギヤ段と称す。AT入力回転速度Niは、有段変速部22の入力回転速度すなわち中間伝達部材32の回転速度であり、MG2回転速度Nmと同値である。AT入力回転速度Niは、MG2回転速度Nmで表すことができる。出力回転速度Noは、有段変速部22の出力回転速度すなわち出力軸24の回転速度である。出力回転速度Noは、無段変速部20と有段変速部22とを合わせた全体の変速機である複合変速機40の出力回転速度でもある。複合変速機40は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成する自動変速機である。尚、エンジン回転速度Neは、複合変速機40の入力回転速度でもある。
【0026】
有段変速部22は、例えば
図2の係合作動表に示すように、複数のATギヤ段として、AT1速ギヤ段(図中の「1st」)-AT4速ギヤ段(図中の「4th」)の4段の前進用のATギヤ段が形成される。AT1速ギヤ段の変速比γatが最も大きく、ハイ側のATギヤ段程、変速比γatが小さくなる。又、後進用のATギヤ段(図中の「Rev」)は、例えばクラッチC1の係合且つブレーキB2の係合によって形成される。つまり、後進走行を行う際には、例えばAT1速ギヤ段が形成される。
図2の係合作動表は、各ATギヤ段と複数の係合装置の各作動状態との関係をまとめたものである。すなわち、
図2の係合作動表は、各ATギヤ段と、各ATギヤ段において各々係合される係合装置である所定の係合装置との関係をまとめたものである。
図2において、「○」は係合、「△」はエンジンブレーキ時や有段変速部22のコーストダウンシフト時に係合、空欄は解放をそれぞれ表している。
【0027】
有段変速部22は、後述する電子制御装置90によって、ドライバー(=運転者)のアクセル操作や車速V等に応じて形成されるATギヤ段が切り替えられる、すなわち複数のATギヤ段が選択的に形成される。例えば、有段変速部22の変速制御においては、係合装置CBの何れかの掴み替えにより変速が実行される、すなわち係合装置CBの係合と解放との切替えにより変速が実行される、所謂クラッチツゥクラッチ変速が実行される。
【0028】
車両10は、更に、機械式のオイルポンプであるMOP58、不図示の電動式のオイルポンプ等を備えている。MOP58は、連結軸30に連結されており、エンジン12の回転と共に回転させられて動力伝達装置16にて用いられる作動油OILを吐出する。又、不図示の電動式のオイルポンプは、例えばエンジン12の停止時すなわちMOP58の非駆動時に駆動させられて作動油OILを吐出する。MOP58や不図示の電動式のオイルポンプが吐出した作動油OILは、油圧制御回路56へ供給される。係合装置CBは、作動油OILを元にして油圧制御回路56により調圧された各係合圧によって作動状態が切り替えられる。
【0029】
図3は、無段変速部20と有段変速部22とにおける各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。
図3において、無段変速部20を構成する差動機構34の3つの回転要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素RE2に対応するサンギヤS0の回転速度を表すg軸であり、第1回転要素RE1に対応するキャリアCA0の回転速度を表すe軸であり、第3回転要素RE3に対応するリングギヤR0の回転速度(すなわち有段変速部22の入力回転速度)を表すm軸である。又、有段変速部22の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素RE4に対応するサンギヤS2の回転速度、第5回転要素RE5に対応する相互に連結されたリングギヤR1及びキャリアCA2の回転速度(すなわち出力軸24の回転速度)、第6回転要素RE6に対応する相互に連結されたキャリアCA1及びリングギヤR2の回転速度、第7回転要素RE7に対応するサンギヤS1の回転速度をそれぞれ表す軸である。縦線Y1、Y2、Y3の相互の間隔は、差動機構34の歯車比ρ0に応じて定められている。又、縦線Y4、Y5、Y6、Y7の相互の間隔は、第1遊星歯車装置36の歯車比ρ1と第2遊星歯車装置38の歯車比ρ2とに応じて定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリアとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリアとリングギヤとの間が遊星歯車装置の歯車比ρ(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)に対応する間隔とされる。
【0030】
図3の共線図を用いて表現すれば、無段変速部20の差動機構34において、第1回転要素RE1にエンジン12(図中の「ENG」参照)が連結され、第2回転要素RE2に第1回転機MG1(図中の「MG1」参照)が連結され、中間伝達部材32と一体回転する第3回転要素RE3に第2回転機MG2(図中の「MG2」参照)が連結されて、エンジン12の回転を中間伝達部材32を介して有段変速部22へ伝達するように構成されている。無段変速部20では、縦線Y2を横切る各直線L0e、L0m、L0Rにより、サンギヤS0の回転速度とリングギヤR0の回転速度との関係が示される。
【0031】
又、有段変速部22において、第4回転要素RE4はクラッチC1を介して中間伝達部材32に選択的に連結され、第5回転要素RE5は出力軸24に連結され、第6回転要素RE6はクラッチC2を介して中間伝達部材32に選択的に連結されると共にブレーキB2を介してケース18に選択的に連結され、第7回転要素RE7はブレーキB1を介してケース18に選択的に連結される。有段変速部22では、係合装置CBの係合解放制御によって縦線Y5を横切る各直線L1、L2、L3、L4、LRにより、出力軸24における「1st」、「2nd」、「3rd」、「4th」、「Rev」の各回転速度が示される。
【0032】
図3中の実線で示す、直線L0e及び直線L1、L2、L3、L4は、少なくともエンジン12を駆動力源として走行するハイブリッド走行(=HV走行)が可能なHV走行モードでの前進走行における各回転要素の相対速度を示している。HV走行は、エンジン12からの駆動力を少なくとも用いて走行するエンジン走行である。このHV走行モードでは、差動機構34において、キャリアCA0に入力される正トルクのエンジントルクTeに対して、第1回転機MG1による負トルクの反力トルクとなるMG1トルクTgがサンギヤS0に入力されると、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるエンジン直達トルクTd(=Te/(1+ρ0)=-(1/ρ0)×Tg)が現れる。そして、要求駆動力Frdemに応じて、エンジン直達トルクTdとMG2トルクTmとの合算トルクが車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段-AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速部22を介して駆動輪14へ伝達される。第1回転機MG1は、正回転にて負トルクを発生する場合には発電機として機能する。第1回転機MG1の発電電力Wgは、バッテリ54に充電されたり、第2回転機MG2にて消費される。第2回転機MG2は、発電電力Wgの全部又は一部を用いて、或いは発電電力Wgに加えてバッテリ54からの電力を用いて、MG2トルクTmを出力する。
【0033】
図3中の一点鎖線で示す直線L0m及び
図3中の実線で示す直線L1、L2、L3、L4は、エンジン12の運転を停止した状態で第2回転機MG2を駆動力源として走行するモータ走行(=EV走行)が可能なEV走行モードでの前進走行における各回転要素の相対速度を示している。EV走行は、第2回転機MG2からの駆動力のみを用いて走行するモータ走行である。EV走行モードでの前進走行におけるEV走行では、キャリアCA0はゼロ回転とされ、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるMG2トルクTmが入力される。このとき、サンギヤS0に連結された第1回転機MG1は、無負荷状態とされて負回転にて空転させられる。つまり、EV走行モードでの前進走行では、エンジン12は駆動されず、エンジン回転速度Neはゼロとされ、MG2トルクTmが車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段-AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速部22を介して駆動輪14へ伝達される。ここでのMG2トルクTmは、正回転且つ正トルクの力行トルクである。
【0034】
図3中の破線で示す、直線L0R及び直線LRは、EV走行モードでの後進走行における各回転要素の相対速度を示している。このEV走行モードでの後進走行では、リングギヤR0には負回転にて負トルクとなるMG2トルクTmが入力され、そのMG2トルクTmが車両10の後進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段が形成された有段変速部22を介して駆動輪14へ伝達される。車両10では、後述する電子制御装置90によって、複数のATギヤ段のうちの前進用のロー側のATギヤ段である例えばAT1速ギヤ段が形成された状態で、前進走行時における前進用のMG2トルクTmとは正負が反対となる後進用のMG2トルクTmが第2回転機MG2から出力させられることで、後進走行を行うことができる。ここでのMG2トルクTmは、負回転且つ負トルクの力行トルクである。尚、HV走行モードにおいても、直線L0Rのように第2回転機MG2を負回転とすることが可能であるので、EV走行モードと同様に後進走行を行うことが可能である。
【0035】
車両10は、走行用の駆動力源として、エンジン12及び第2回転機MG2を備えたハイブリッド車両である。動力伝達装置16において、エンジン12や第2回転機MG2から出力される動力は、有段変速部22へ伝達され、その有段変速部22から差動歯車装置26等を介して駆動輪14へ伝達される。このように、動力伝達装置16は、駆動力源(エンジン12、第2回転機MG2)からの駆動力を駆動輪14へ伝達する。尚、動力は、特に区別しない場合にはトルクや力も同意である。
【0036】
図1に戻り、車両10は、エンジン12、無段変速部20、及び有段変速部22などの制御に関連する車両10の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置90を備えている。
図1は、電子制御装置90の入出力系統を示す図であり、又、電子制御装置90による制御機能の要部を説明する機能ブロック図である。電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を行う。電子制御装置90は、必要に応じてエンジン制御用、回転機制御用、油圧制御用等の各コンピュータを含んで構成される。
【0037】
電子制御装置90には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ60、出力回転速度センサ62、MG1回転速度センサ64、MG2回転速度センサ66、アクセル開度センサ68、スロットル弁開度センサ70、ブレーキペダルセンサ71、ステアリングセンサ72、ドライバ状態センサ73、Gセンサ74、ヨーレートセンサ76、バッテリセンサ78、油温センサ79、車両周辺情報センサ80、車両位置センサ81、外部ネットワーク通信用アンテナ82、ナビゲーションシステム83、運転支援設定スイッチ群84、シフトポジションセンサ85など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン回転速度Ne、車速Vに対応する出力回転速度No、第1回転機MG1の回転速度であるMG1回転速度Ng、AT入力回転速度Niと同値であるMG2回転速度Nm、運転者の加速操作の大きさを表す運転者のアクセル操作量であるアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ホイールブレーキを作動させる為のブレーキペダルが運転者によって操作されている状態を示す信号であるブレーキオン信号Bon、運転者によるブレーキペダルの踏込操作の大きさを表すブレーキ操作量Bra、車両10に備えられたステアリングホイールの操舵角θsw及び操舵方向Dsw、ステアリングホイールが運転者によって握られている状態を示す信号であるステアリングオン信号SWon、運転者の状態を示す信号であるドライバ状態信号Drv、車両10の前後加速度Gx及び左右加速度Gy、車両10の鉛直軸まわりの回転角速度であるヨーレートRyaw、バッテリ54のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbat、作動油OILの温度である作動油温THoil、車両周辺情報Iard、位置情報Ivp、通信信号Scom、ナビ情報Inavi、自動運転制御やクルーズ制御等の運転支援制御CTsにおける運転者による設定を示す信号である運転支援設定信号Sset、車両10に備えられたシフトレバーの操作ポジションPOSshなど)が、それぞれ供給される。
【0038】
運転者のアクセル操作量は、例えばアクセルペダルなどのアクセル操作部材の操作量である加速操作量であって、車両10に対する運転者の出力要求量である。運転者の出力要求量としては、アクセル開度θaccの他に、スロットル弁開度θthなどを用いることもできる。
【0039】
ドライバ状態センサ73は、例えば運転者の表情や瞳孔などを撮影するカメラ、運転者の生体情報を検出する生体情報センサなどのうちの少なくとも一つを含んでおり、運転者の視線や顔の向き、眼球や顔の動き、心拍の状態等の運転者の状態を取得する。
【0040】
車両周辺情報センサ80は、例えばライダー、レーダー、及び車載カメラなどのうちの少なくとも一つを含んでおり、車両10の周辺情報である車両周辺情報Iardを直接的に取得する。車両周辺情報Iardは、走行中の道路に関する情報や車両周辺に存在する物体に関する情報である。前記ライダーは、例えば車両10の前方の物体、側方の物体、後方の物体などを各々検出する複数のライダー、又は、車両10の全周囲の物体を検出する一つのライダーであり、検出した物体に関する物体情報を車両周辺情報Iardとして出力する。前記レーダーは、例えば車両10の前方の物体、前方近傍の物体、後方近傍の物体などを各々検出する複数のレーダーなどであり、検出した物体に関する物体情報を車両周辺情報Iardとして出力する。前記ライダーやレーダーによる物体情報には、検出した物体の車両10からの距離と方向とが含まれる。前記車載カメラは、例えば車両10の前方や後方を撮像する単眼カメラ又はステレオカメラであり、撮像情報を車両周辺情報Iardとして出力する。この撮像情報には、走行路の車線、走行路における標識、駐車スペース、及び走行路における他車両や歩行者や障害物などの情報が含まれる。
【0041】
車両位置センサ81は、GPSアンテナなどを含んでいる。位置情報Ivpは、GPS(Global Positioning System)衛星が発信するGPS信号(軌道信号)などに基づく地表又は地図上における車両10の現在位置を示す情報である自車位置情報を含んでいる。
【0042】
ナビゲーションシステム83は、ディスプレイやスピーカ等を有する公知のナビゲーションシステムである。ナビゲーションシステム83は、位置情報Ivpに基づいて、予め記憶された地図データ上に自車位置を特定する。ナビゲーションシステム83は、ディスプレイに表示した地図上に自車位置を表示する。ナビゲーションシステム83は、目的地が入力されると、出発地から目的地までの走行経路を演算し、ディスプレイやスピーカ等で運転者に走行経路などの指示を行う。ナビ情報Inaviは、例えばナビゲーションシステム83に予め記憶された地図データに基づく道路情報や施設情報などの地図情報などを含んでいる。前記道路情報には、市街地道路、郊外道路、山岳道路、高速自動車道路すなわち高速道路などの道路の種類、道路の分岐や合流、道路の勾配、制限速度などの情報が含まれる。前記施設情報には、スーパー、商店、レストラン、駐車場、公園、車両10の故障対応業者、自宅、高速道路におけるサービスエリアなどの拠点の種類、所在位置、名称などの情報が含まれる。上記サービスエリアは、例えば高速道路で、駐車、食事、給油などの設備のある拠点である。尚、ナビ情報Inaviにおける道路情報等は、車両周辺情報Iardにもなり得る。
【0043】
運転支援設定スイッチ群84は、自動運転制御を実行させる為の自動運転選択スイッチ、クルーズ制御を実行させる為のクルーズスイッチ、クルーズ制御における車速を設定するスイッチ、クルーズ制御における先行車との車間距離を設定するスイッチ、設定された車線を維持して走行するレーンキープ制御を実行させる為のスイッチなどを含んでいる。
【0044】
通信信号Scomは、例えば道路交通情報通信システムなどの車外装置であるセンターとの間で送受信された道路交通情報など、及び/又は、前記センターを介さずに車両10の近傍にいる他車両との間で直接的に送受信された車車間通信情報などを含んでいる。前記道路交通情報には、例えば道路の渋滞、事故、工事、所要時間、駐車場などの情報が含まれる。前記車車間通信情報は、例えば車両情報、走行情報、交通環境情報などを含んでいる。前記車両情報には、例えば乗用車、トラック、二輪車などの車種を示す情報が含まれる。前記走行情報には、例えば車速V、位置情報、ブレーキペダルの操作情報、ターンシグナルランプの点滅情報、ハザードランプの点滅情報などの情報が含まれる。前記交通環境情報には、例えば道路の渋滞、工事などの情報が含まれる。
【0045】
電子制御装置90からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置50、インバータ52、油圧制御回路56、外部ネットワーク通信用アンテナ82、ホイールブレーキ装置86、操舵装置88、情報周知装置89など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を各々制御する為の回転機制御指令信号Smg、係合装置CBの作動状態を制御する為の油圧制御指令信号Sat、通信信号Scom、ホイールブレーキによる制動トルクTbを制御する為のブレーキ制御指令信号Sbra、車輪(特には前輪)の操舵を制御する為の操舵制御指令信号Sste、運転者に警告や報知を行う為の情報周知制御指令信号Sinfなど)が、それぞれ出力される。
【0046】
ホイールブレーキ装置86は、車輪にホイールブレーキによる制動トルクTbを付与するブレーキ装置である。制動トルクTbは、駆動トルクTrのうちの制動側となる負トルクである。ホイールブレーキ装置86は、運転者による例えばブレーキペダルの踏込操作などに応じて、ホイールブレーキに設けられたホイールシリンダへブレーキ油圧を供給する。ホイールブレーキ装置86では、通常時には、ブレーキマスタシリンダから発生させられる、ブレーキ操作量Braに対応した大きさのマスタシリンダ油圧がブレーキ油圧としてホイールシリンダへ供給される。一方で、ホイールブレーキ装置86では、例えばABS制御時、横滑り抑制制御時、自動車速制御時、自動運転制御時などには、ホイールブレーキによる制動トルクTbの発生の為に、各制御で必要なブレーキ油圧がホイールシリンダへ供給される。上記車輪は、駆動輪14及び不図示の従動輪である。
【0047】
操舵装置88は、例えば車速V、操舵角θsw及び操舵方向Dsw、ヨーレートRyawなどに応じたアシストトルクを車両10の操舵系に付与する。操舵装置88では、例えば自動運転制御時などには、前輪の操舵を制御するトルクを車両10の操舵系に付与する。
【0048】
情報周知装置89は、例えば車両10の走行に関わる何らかの故障が発生したり、車両10の走行に関わる機能が低下した場合などに、運転者に対して警告や報知を行う装置である。情報周知装置89は、例えばモニタやディスプレイやアラームランプ等の表示装置、及び/又はスピーカやブザー等の音出力装置などである。前記表示装置は、運転者に対して視覚的な警告や報知を行う装置である。音出力装置は、運転者に対して聴覚的な警告や報知を行う装置である。
【0049】
電子制御装置90は、車両10における各種制御を実現する為に、AT変速制御手段すなわちAT変速制御部92、ハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部94、減速度制御手段すなわち減速度制御部96、及び運転制御手段すなわち運転制御部98を、機能的に備えている。
【0050】
AT変速制御部92は、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である例えば
図4に示すようなATギヤ段変速マップを用いて有段変速部22の変速判断を行い、必要に応じて有段変速部22の変速制御を実行する為の油圧制御指令信号Satを油圧制御回路56へ出力する。又、AT変速制御部92は、自動運転モードで走行中の有段変速部22のダウンシフト時において、第2回転機MG2のMG2トルクTmを制御する自動運転時油圧変更手段すなわち自動運転時油圧変更部92aとしての機能を備えている。尚、自動運転時油圧変更部92aの具体的な制御機能については後述する。
【0051】
図4において、ATギヤ段変速マップは、例えば車速V及び要求駆動力Frdemを変数とする二次元座標上に、有段変速部22の変速が判断される為の予め定められた複数種類の変速線SHを有する所定の関係である。ここでは、車速Vに替えて出力回転速度Noなどを用いても良い。又、要求駆動力Frdemに替えて要求駆動トルクTrdemやアクセル開度θaccやスロットル弁開度θthなどを用いても良い。複数種類の変速線SHは、例えば実線に示すようなアップシフトが判断される為のアップシフト線SHua、SHub、SHuc、及び破線に示すようなダウンシフトが判断される為のダウンシフト線SHda、SHdb、SHdcを含んでいる。
【0052】
ハイブリッド制御部94は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部94aとしての機能と、インバータ52を介して第1回転機MG1及び第2回転機MG2の作動を制御する回転機制御手段すなわち回転機制御部94bとしての機能と、自動運転モードで走行中の有段変速部22のダウンシフトにおける第2回転機MG2のMG2トルクTmを制御する自動運転時回転機制御手段すなわち自動運転時回転機制御部94cと、を含んでおり、それらの制御機能によりエンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。
【0053】
ハイブリッド制御部94は、予め定められた関係である例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで駆動要求量としての駆動輪14における要求駆動力Frdemを算出する。前記駆動要求量としては、要求駆動力Frdem[N]の他に、駆動輪14における要求駆動トルクTrdem[Nm]、駆動輪14における要求駆動パワーPrdem[W]、出力軸24における要求AT出力トルク等を用いることもできる。ハイブリッド制御部94は、バッテリ54の充電可能電力Winや放電可能電力Wout等を考慮して、要求駆動トルクTrdemと車速Vとに基づく要求駆動パワーPrdemを実現するように、エンジン12を制御する指令信号であるエンジン制御指令信号Seと、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を制御する指令信号である回転機制御指令信号Smgと、を出力する。エンジン制御指令信号Seは、例えばそのときのエンジン回転速度NeにおけるエンジントルクTeを出力するエンジン12のパワーであるエンジンパワーPeの指令値である。回転機制御指令信号Smgは、例えばエンジントルクTeの反力トルクとしての指令出力時のMG1回転速度NgにおけるMG1トルクTgを出力する第1回転機MG1の発電電力Wgの指令値であり、又、指令出力時のMG2回転速度NmにおけるMG2トルクTmを出力する第2回転機MG2の消費電力Wmの指令値である。
【0054】
バッテリ54の充電可能電力Winは、バッテリ54の入力電力の制限を規定する入力可能電力であり、バッテリ54の放電可能電力Woutは、バッテリ54の出力電力の制限を規定する出力可能電力である。バッテリ54の充電可能電力Winや放電可能電力Woutは、例えばバッテリ温度THbat及びバッテリ54の充電量に相当する充電状態値SOC[%]に基づいて電子制御装置90により算出される。バッテリ54の充電状態値SOCは、バッテリ54の充電状態を示す値であり、例えばバッテリ充放電電流Ibat及びバッテリ電圧Vbatなどに基づいて電子制御装置90により算出される。
【0055】
ハイブリッド制御部94は、例えば無段変速部20を無段変速機として作動させて複合変速機40全体として無段変速機として作動させる場合、最適エンジン動作点等を考慮して、要求駆動パワーPrdemを実現するエンジンパワーPeが得られるエンジン回転速度NeとエンジントルクTeとなるように、エンジン12を制御すると共に第1回転機MG1の発電電力Wgを制御することで、無段変速部20の無段変速制御を実行して無段変速部20の変速比γ0を変化させる。この制御の結果として、無段変速機として作動させる場合の複合変速機40の変速比γt(=Ne/No)が制御される。最適エンジン動作点は、例えば要求エンジンパワーPedemを実現するときに、エンジン12単体の燃費にバッテリ54における充放電効率等を考慮した車両10におけるトータル燃費が最も良くなるエンジン動作点として予め定められている。このエンジン動作点は、エンジン回転速度NeとエンジントルクTeとで表されるエンジン12の運転点である。このように、動力伝達装置16では、ATギヤ段が形成された有段変速部22と無段変速機として作動させられる無段変速部20とで、無段変速部20と有段変速部22とが直列に配置された複合変速機40全体として無段変速機を構成することができる。
【0056】
又は、無段変速部20を有段変速機のように変速させることも可能であるので、動力伝達装置16では、ATギヤ段が形成される有段変速部22と有段変速機のように変速させる無段変速部20とで、複合変速機40全体として有段変速機のように変速させることができる。つまり、複合変速機40では、エンジン回転速度Neの出力回転速度Noに対する比の値を表す変速比γtが異なる複数のギヤ段を選択的に成立させるように、有段変速部22と無段変速部20とを制御することが可能である。本実施例では、複合変速機40にて成立させられるギヤ段を模擬ギヤ段と称する。変速比γtは、直列に配置された、無段変速部20と有段変速部22とで形成されるトータル変速比であって、無段変速部20の変速比γ0と有段変速部22の変速比γatとを乗算した値(γt=γ0×γat)となる。
【0057】
模擬ギヤ段は、例えば有段変速部22の各ATギヤ段と1又は複数種類の無段変速部20の変速比γ0との組合せによって、有段変速部22の各ATギヤ段に対してそれぞれ1又は複数種類を成立させるように割り当てられる。例えば、AT1速ギヤ段に対して模擬1速ギヤ段-模擬3速ギヤ段が成立させられ、AT2速ギヤ段に対して模擬4速ギヤ段-模擬6速ギヤ段が成立させられ、AT3速ギヤ段に対して模擬7速ギヤ段-模擬9速ギヤ段が成立させられ、AT4速ギヤ段に対して模擬10速ギヤ段が成立させられるように予め定められている。複合変速機40では、出力回転速度Noに対して所定の変速比γtを実現するエンジン回転速度Neとなるように無段変速部20が制御されることによって、あるATギヤ段において異なる模擬ギヤ段が成立させられる。又、複合変速機40では、ATギヤ段の切替えに合わせて無段変速部20が制御されることによって、模擬ギヤ段が切り替えられる。
【0058】
ハイブリッド制御部94は、例えば無段変速部20を有段変速機のように変速させて複合変速機40全体として有段変速機のように変速させる場合、予め定められた関係である例えば模擬ギヤ段変速マップを用いて複合変速機40の変速判断を行い、AT変速制御部92による有段変速部22のATギヤ段の変速制御と協調して、複数の模擬ギヤ段を選択的に成立させるように無段変速部20の変速制御を実行する。複数の模擬ギヤ段は、それぞれの変速比γtを維持できるように出力回転速度Noに応じて第1回転機MG1によりエンジン回転速度Neを制御することによって成立させることができる。各模擬ギヤ段の変速比γtは、出力回転速度Noの全域に亘って必ずしも一定値である必要はなく、所定領域で変化させても良いし、各部の回転速度の上限や下限等によって制限が加えられても良い。このように、ハイブリッド制御部94は、エンジン回転速度Neを有段変速のように変化させる変速制御が可能である。複合変速機40全体として有段変速機のように変速させる模擬有段変速制御は、例えば運転者によってスポーツ走行モード等の走行性能重視の走行モードが選択された場合や要求駆動トルクTrdemが比較的大きい場合に、複合変速機40全体として無段変速機として作動させる無段変速制御に優先して実行するだけでも良いが、所定の実行制限時を除いて基本的に模擬有段変速制御が実行されても良い。
【0059】
ハイブリッド制御部94は、走行モードとして、EV走行モード又はHV走行モードを走行状態に応じて選択的に成立させる。例えば、ハイブリッド制御部94は、予め定められた関係である例えば
図4に示すような走行モード切替マップを用いて、要求駆動パワーPrdemが比較的小さなEV走行領域にある場合には、EV走行モードを成立させる一方で、要求駆動パワーPrdemが比較的大きなHV走行領域にある場合には、HV走行モードを成立させる。
【0060】
図4において、走行モード切替マップは、例えば車速V及び要求駆動力Frdemを変数とする二次元座標上に、HV走行モードとEV走行モードとを切り替える為のHV走行領域とEV走行領域との境界線を有する所定の関係である。上記境界線は、例えば一点鎖線に示すような、EV走行とHV走行との切替えが判断される為の予め定められた走行領域切替線CFである。走行モードの切替えでは走行に用いられる駆動力源が切り替えられることから、走行領域切替線CFは駆動力源切替線でもある。尚、
図4では、便宜上、この走行モード切替マップをATギヤ段変速マップと共に示している。
【0061】
ハイブリッド制御部94は、要求駆動パワーPrdemがEV走行領域にあるときであっても、バッテリ54の充電状態値SOCが予め定められたエンジン始動閾値未満となる場合やエンジン12の暖機が必要な場合などには、HV走行モードを成立させる。前記エンジン始動閾値は、エンジン12を強制的に始動してバッテリ54を充電する必要がある充電状態値SOCであることを判断する為の予め定められた閾値である。
【0062】
ハイブリッド制御部94は、エンジン12の運転停止時にHV走行モードを成立させた場合には、エンジン12を始動するエンジン始動制御を行う。ハイブリッド制御部94は、エンジン12を始動するときには、例えば第1回転機MG1によりエンジン回転速度Neを上昇させつつ、エンジン回転速度Neが点火可能な所定点火可能回転速度以上となったときに点火することでエンジン12を始動する。すなわち、ハイブリッド制御部94は、第1回転機MG1によりエンジン12をクランキングすることでエンジン12を始動する。
【0063】
減速度制御部96は、例えば運転者によるアクセル操作(例えばアクセル開度θacc、アクセル開度θaccの減少速度)、車速V、降坂路の勾配、ホイールブレーキを作動させる為の運転者によるブレーキ操作(例えばブレーキ操作量Bra、ブレーキ操作量Braの増大速度)などに基づいて要求減速度Grdemを算出し、予め定められた関係を用いて要求減速度Grdemを実現する為の要求制動トルクTbdemを設定する。減速度制御部96は、車両10の減速走行中には、要求制動トルクTbdemが得られるように車両10の制動トルクTbを発生させる。減速度Grが大きい側は、制動トルクTbが小さい側、すなわち制動トルクTbの絶対値が大きい側である。
【0064】
車両10の制動トルクTbは、例えば回生制動トルクTbr、ホイールブレーキトルクTbw、エンジンブレーキトルクTbeなどによって発生させられる。回生制動トルクTbrは、例えば第2回転機MG2の回生制御による制動すなわち第2回転機MG2による回生制動によって得られる制動トルクTbである。第2回転機MG2による回生制御は、駆動輪14から入力される被駆動トルクにより第2回転機MG2を回転駆動させて発電機として作動させ、その発電電力をインバータ52を介してバッテリ54へ充電する制御である。ホイールブレーキトルクTbwは、ホイールブレーキ装置86によるホイールブレーキによって得られる制動トルクTbである。エンジンブレーキトルクTbeは、エンジン12のフリクションによるエンジンブレーキによって得られる制動トルクTbである。
【0065】
運転制御部98は、車両10の運転制御として、運転者の運転操作に基づいて走行する手動運転モード時に実行される手動運転制御CTmと、運転者による操作に依存することなく車両10の運転を行う自動運転モード時に実行される運転支援制御CTsと、を実行することができる。手動運転制御CTmは、運転者の運転操作による手動運転にて走行する運転制御である。その手動運転は、アクセル操作、ブレーキ操作、操舵操作などの運転者の運転操作に基づいて車両10の通常走行を行う運転方法である。運転支援制御CTsは、例えば運転操作を自動的に支援する運転支援にて走行する運転制御である。その運転支援は、運転者の運転操作や意思に因らず、各種センサからの信号や情報等に基づく電子制御装置90による制御により加減速などを自動的に行うことによって車両10の走行を行う運転方法である。自動的に行われる加減速は、例えばアクセル操作、制動操作などによる加速走行、減速走行、定常走行である。
【0066】
運転支援制御CTsは、例えば運転者により入力された目的地や地図情報などに基づいて自動的に目標走行状態を設定し、その目標走行状態に基づいて加減速、操舵などを自動的に行う自動運転にて走行する自動運転制御などである。尚、運転支援制御CTsは、少なくとも加減速を自動的に行うことによって車両10の運転を行う運転制御であれば良く、運転支援制御CTsには、自動運転制御以外に、操舵操作などの一部の運転操作を運転者が行う自動車速制御などを含めても良い。前記自動車速制御は、例えば運転者により設定された目標車速Vtgtへ車速Vを追従させたり、運転者により設定された先行車との車間距離を維持させたりするように、制動トルクTbを含む駆動トルクTrを制御するクルーズ制御としての公知の車間距離制御(ACC(Adaptive Cruise Control))である。又は、前記自動車速制御は、例えば車速Vが運転者により設定された目標車速Vtgtを超えないように駆動力Frを制御する公知の自動車速制限制御(ASL(Adjustable Speed Limiter))である。要は、運転支援制御CTsは、車両周辺情報Iardなどに基づいて少なくとも車速Vを自動的に制御して車両10の運転を行う運転制御である。
【0067】
運転制御部98は、運転支援設定スイッチ群84における自動運転選択スイッチやクルーズスイッチなどがオフとされて運転支援による運転が選択されていない場合には、手動運転モードでの走行を判断し、手動運転モードを成立させて手動運転制御CTmを実行する。運転制御部98は、例えば運転者の操作等に応じて加減速を行うように、有段変速部22、エンジン12、第1回転機MG1、第2回転機MG2、及びホイールブレーキ装置86を各々制御する指令を、AT変速制御部92、ハイブリッド制御部94、及び減速度制御部96に出力することで手動運転制御CTmを実行する。
【0068】
運転制御部98は、運転者によって運転支援設定スイッチ群84における自動運転選択スイッチが操作されて自動運転制御が選択されている場合には、自動運転モードでの走行を判断し、自動運転モードを成立させて自動運転制御を実行する。具体的には、運転制御部98は、運転者により入力された目的地、位置情報Ivpに基づく自車位置情報、ナビ情報Inaviなどに基づく地図情報、及び車両周辺情報Iardに基づく走行路における各種情報等に基づいて、自動的に目標走行状態を設定する。運転制御部98は、設定した目標走行状態に基づいて加減速と操舵とを自動的に行うように、有段変速部22、エンジン12、第1回転機MG1、第2回転機MG2、及びホイールブレーキ装置86を各々制御する指令を、AT変速制御部92、ハイブリッド制御部94、及び減速度制御部96に出力することに加え、前輪の操舵を制御する為の操舵制御指令信号Ssteを操舵装置88に出力することで自動運転制御を行う。
【0069】
ところで、運転支援制御CTsによる自動運転モードで走行中は、手動運転制御CTmによる手動運転モードによる走行に比べて、運転者はNV、エンジン回転速度Neの変化、変速ショックなどを感じ易い。例えば、エンジン12側から動力が出力されるパワーオン状態で有段変速部22がダウンシフトされたとき、ダウンシフト中の駆動トルクTrの落ち込みに起因して車両10の前後加速度Gx(以下、加速度G)が一時的に落ち込む(低下する)、車両10の加速度Gの引き込みが発生することが知られている。この加速度Gの引き込みによってショックが発生し、運転者が違和感を感じる可能性がある。加速度Gの引き込みは、手動運転制御CTmによる手動運転モードによる走行では問題にならなかったが、運転支援制御CTsによる自動運転モードでの走行では、運転者が快適な乗り心地を求めるため、運転者が加速度Gの引き込みによるショックを感じ易くなる。この加速度Gの引き込みを低減するには、ダウンシフトの変速時間を長くして駆動トルクTrの落ち込み量を低減することで実現できるが、その背反として、加速度Gの引き込みが発生する時間が長くなるため、加速度Gの引き込みが長引くことにより運転者がショックを感じ、運転者に違和感を与える虞がある。
【0070】
そこで、自動運転時油圧変更部92aは、自動運転モードで走行中に、エンジン12側から動力が伝達されるパワーオン状態で有段変速部22をダウンシフトさせるパワーオンダウンシフトの実行を判断すると、ダウンシフト中に解放される係合装置CB(以下、解放側係合装置CBr)に供給される作動油の油圧である係合圧Pcbr(以下、係合圧Pcbr1)を、手動運転モードで走行中にダウンシフトされる場合の解放側係合装置CBrに供給される作動油の係合圧Pcbr(以下、係合圧Pcbr2)よりも高くする。又、加速度Gの引き込みは、ダウンシフト中に回転変化が発生するイナーシャ相中で発生することから、自動運転時油圧変更部92aは、自動運転モードで走行中における、有段変速部22のダウンシフトのイナーシャ相中において、解放側係合装置CBrの係合圧Pcbr1を、手動運転モードで走行中の場合の解放側係合装置CBrの係合圧Pcbr2よりも高くする。
【0071】
AT変速制御部92は、有段変速部22のダウンシフト時のイナーシャ相における解放側係合装置CBrの指示圧Pcbr1*を、例えばマップ(以下、油圧マップ)等で予め記憶している。AT変速制御部92は、ダウンシフト中にイナーシャ相になったことを判定すると、油圧マップに基づいてイナーシャ相中の解放側係合装置CBrの指示圧Pcbr*を決定し、解放側係合装置CBrの係合圧Pcbrを決定された指示圧Pcbr*に制御する油圧制御指令信号Satを油圧制御回路56に出力する。なお、イナーシャ相になったかは、例えばAT入力回転速度Niの変化に基づいて判定される。
【0072】
前記油圧マップは、例えばATA入力トルクTi、車速V(又は出力回転速度No)、作動油の作動油温THoilなどから構成され、更にATギヤ段など変速パターン毎にそれぞれ設定されている。油圧マップには、イナーシャ相中における解放側係合装置CBrの指示圧Pcbr1*の具体的な値、イナーシャ相中における解放側係合装置CBrの指示圧Pcbr1*の減少勾配(変化勾配)などがデータとして記憶されている。
【0073】
ここで、自動運転時油圧変更部92aは、自動運転モードで走行中に使用される油圧マップを、手動運転モードで走行中に使用される油圧マップとは別個に記憶している。自動運転モードで走行中に使用される油圧マップでは、ダウンシフト時のイナーシャ相中における解放側係合装置CBrの指示圧Pcbr1*の具体的な値が、手動運転モードで走行中に使用される油圧マップのイナーシャ相中における解放側係合装置CBrの指示圧Pcbr2*よりも高い値に設定されている。従って、自動運転モードで走行中に使用される油圧マップが適用されると、有段変速部22のダウンシフト時のイナーシャ相中において、解放側係合装置CBrの実圧である係合圧Pcbr(以下、係合圧Pcbr1)が、手動運転モードで走行中の場合の解放側係合装置CBrの係合圧Pcbr(以下、係合圧Pcbr2)よりも高くなる。
【0074】
又は、自動運転モードで走行中に使用される油圧マップでは、ダウンシフト時のイナーシャ相における解放側係合装置CBrの指示圧Pcbr1*の経過時間に対する変化量の割合である減少勾配α1(減少割合)が、手動運転モードで走行中に使用される油圧マップのイナーシャ相における減少勾配α2(減少割合)よりも小さい値に設定されている。従って、自動運転モードで走行中に使用されるマップが適用されると、有段変速部22のダウンシフト時のイナーシャ相中において、解放側係合装置CBrの係合圧Pcbr1が、手動運転モードで走行中の場合の解放側係合装置CBrの係合圧Pcbr2よりも緩やかに低下する。尚、指示圧Pcbr1*の減少勾配α1が、一時的にゼロに設定されても構わない。すなわち、自動運転モードで走行中において、ダウンシフト時のイナーシャ相中における解放側係合装置CBrの係合圧Pcbr1が、減圧することなく一時的に保持されるように設定されても構わない。
【0075】
自動運転時油圧変更部92aは、自動運転モードで走行中における有段変速部22のダウンシフトにおいて、前記自動運転モードで走行中に使用される油圧マップを適用することで、有段変速部22のダウンシフト時のイナーシャ相中に解放される解放側係合装置CBrの係合圧Pcbr1を、手動運転モードで走行中の場合の係合圧Pcbr2よりも高くする。又は、自動運転時油圧変更部92aは、自動運転モードで走行中において、有段変速部22のダウンシフト時のイナーシャ相中における解放側係合装置CBrの指示圧Pcbr1の減少勾配α1を、手動運転モードで走行中の場合の減少勾配α2よりも小さくすることで、イナーシャ相中における解放側係合装置CBrの係合圧Pcbr1を、手動運転モードで走行中の場合の係合圧Pcbr2よりも緩やかに低下させる。その結果、自動運転モードで走行中は、イナーシャ相中に有段変速部22で伝達可能な伝達トルクが、手動運転モードで走行中の場合よりも増加するため、駆動トルクTrの落ち込みが小さくなり、イナーシャ相中の加速度Gの落ち込みに対応する、加速度Gの引き込み量(引き込みレベル)も小さくなる。尚、ダウンシフト中に係合される係合側係合装置CBaについては、自動運転モードおよび手動運転モードとも同じ指示圧Pcba*に設定されているものとする。
【0076】
一方で、自動運転モードで走行中において、イナーシャ相中における解放側係合装置CBrの係合圧Pcbr1が、手動運転モードで走行中の場合に比べて高くされると、イナーシャ相中における変速の進行が手動運転モードで走行中の場合に比べて遅くなるため、加速度Gの引き込み量は減少するものの、イナーシャ相の期間が長くなり、加速度Gの引き込みが発生する時間が長くなるという問題が生じる。これに対して、自動運転時回転機制御部94cは、自動運転モードで走行中において、ダウンシフト時のイナーシャ相中におけるダウンシフトの進行速度が、手動運転モードで走行中の場合のイナーシャ相中におけるダウンシフトの進行速度と略同じとなるように、第2回転機MG2のMG2トルクTmを制御する。
【0077】
ダウンシフト時のイナーシャ相中は、AT入力回転速度Niをダウンシフト後の同期回転速度に向かって上昇させるため、イナーシャ相中で第2回転機MG2から出力されるMG2トルクTmは、正回転方向に作用する駆動トルク(正トルク)になる。従って、イナーシャ相中において手動運転モードで走行中の場合と同じ進行速度で変速を進行させる、すなわちAT入力回転速度Niを手動運転モードで走行中と同じ勾配で上昇させるため、自動運転時回転機制御部94cは、自動運転モードで走行中の有段変速部22のダウンシフトにおいて、イナーシャ相中における第2回転機MG2のMG2トルクTmを、手動運転モードで走行中の場合に第2回転機MG2から出力されるMG2トルクTmよりも増加させる。言い換えれば、自動運転時回転機制御部94cは、解放側係合装置CBrの係合圧Pcbr1が手動運転モードで走行中の場合の係合圧Pcbr2よりも高くされる間、第2回転機のMG2の駆動側に作用するMG2トルクTmを、手動運転モードで走行中の場合よりも増加させる。
【0078】
自動運転時回転機制御部94cは、自動運転モードで走行中に有段変速部22のダウンシフトのイナーシャ相が開始されると、有段変速部22の入力回転速度であるAT入力回転速度Niの変化速度dNi/dt(上昇勾配)が、予め設定されている所定値βとなるように、第2回転機MG2のMG2トルクTmを制御する。具体的には、自動運転時回転機制御部94cは、イナーシャ相中において、所定値βとAT入力回転速度Niの変化速度dNi/dtとの偏差K(=|β-dNi/dt|)に基づいて第2回転機MG2のMG2トルクTmを制御するフィードバック制御を実行する。ここで、所定値βは、予め実験的または設計的に求められて記憶される値であり、例えば手動運転モードにおいて予め設定されている、ダウンシフト時のイナーシャ相中におけるAT入力回転速度Niの変化速度dNi/dtの目標値と同じ値に設定されている。
【0079】
これより、自動運転時回転機制御部94cは、有段変速部22のダウンシフトのイナーシャ相中におけるAT入力回転速度Niが、手動運転モードで走行中の場合と同じ上昇勾配(所定値β)で上昇するように、第2回転機MG2のMG2トルクTmを制御する。従って、自動運転モードで走行中であっても、イナーシャ相におけるAT入力回転速度Niが、手動運転モードで走行中の場合と略同じ上昇勾配で上昇するため、イナーシャ相の期間が、手動運転モードで走行中の場合と略同じになる。これより、イナーシャ相の期間が長くなることが防止され、加速度Gの引き込みが長くなることによるショック及び運転者に与える違和感を低減することができる。前記フィードバック制御では、ダウンシフト時のイナーシャ相中において手動運転モードで走行中の場合と同じ速度で変速を進行させるため、第2回転機MG2から出力される正回転方向(駆動方向)に作用するMG2トルクTmは、手動運転モードで走行中の場合に出力されるMG2トルクTmよりも増加する。
【0080】
このように、自動運転モードで走行中のダウンシフト時のイナーシャ相では、解放側係合装置CBrの係合圧Pcbr1が、手動運転モードで走行中の場合の係合圧Pcbr2に比べて高くされることで、イナーシャ相中の駆動トルクTrの落ち込みに起因する加速度Gの引き込み量が小さくなる。一方、解放側係合装置CBrの指示圧Pcbr1*が高くなると、イナーシャ相中での変速時間が長くなるのに対して、イナーシャ相中における第2回転機MG2の駆動側に作用するMG2トルクTmが、手動運転モードで走行中の場合に比べて増加されることで、イナーシャ相中における変速時間が長くことも防止される。その結果、加速度Gの引き込みの発生する時間が長くなることによる、ショック及び運転者に与える違和感が低減される。
【0081】
図5は、電子制御装置90の制御作動の要部、すなわち自動運転モードで走行中の有段変速部22のダウンシフトにおいて、イナーシャ相中に発生する加速度Gの引き込みを低減できる制御作動を説明するフローチャートである。このフローチャートは、車両10の走行中において繰り返し実行される。
【0082】
先ず、運転制御部98の制御機能に対応するステップST1(以下、ステップを省略)では、車両10が自動運転モードで走行中であるかが判定される。ST1が否定される場合、リターンされる。ST1が肯定される場合、自動運転時油圧変更部92aの制御機能に対応するST2において、エンジン12側から動力が伝達された状態で有段変速部22がダウンシフトされるパワーオンダウンシフト中であるかが判定される。ST2が否定される場合、リターンされる。ST2が肯定される場合、自動運転時油圧変更部92aの制御機能に対応するST3において、イナーシャ相中であるかが判定される。ST3が否定される場合、リターンされる。ST3が肯定される場合、自動運転時油圧変更部92aの制御機能に対応するST4において、イナーシャ相中の解放側係合装置CBrの指示圧Pcbr1*が、手動運転モードで走行中の場合に設定される指示圧Pcbr2*よりも高い値に設定される。その結果、解放側係合装置CBrの実圧である係合圧Pcbr1が、手動運転モードで走行中の場合の係合圧Pcbr2よりも高くなる。次いで、自動運転時回転機制御部94cの制御機能に対応するST5では、イナーシャ相中におけるダウンシフトの進行が手動運転モードで走行中の場合と同じ速度で進行するように、イナーシャ相中の第2回転機MG2のMG2トルクTmが手動運転モードで走行中の場合のMG2トルクTmよりも増加させられる。
【0083】
図6は、エンジン12側から動力が伝達されるパワーオン状態で走行中に、有段変速部22がダウンシフトされるときの制御状態を説明するタイムチャートであり、
図5のフローチャートに基づく制御結果に対応している。
図6のタイムチャートにおいて、縦軸は、上から順番に、ATギヤ段、AT入力回転速度Ni[rpm]、係合側係合装置CBaの指示圧Pcba*[Pa]、解放側係合装置CBrの指示圧Pcbr*(係合圧)[Pa]、車両10の前後加速度Gx[m/s2]、バッテリ54から出力される電力であるHVバッテリパワーPbat[W]を、それぞれ示している。ここで、第2回転機MG2は、バッテリ54のHVバッテリパワーPbatを使って駆動されるため、
図6において、HVバッテリパワーPbatを、第2回転機MG2から出力されるMG2トルクTmに読み替えることができる。例えば、HVバッテリパワーPbatが放電側に大きくなると、第2回転機MG2の駆動側に作用するMG2トルクTmが増加することを示している。また、
図6において実線が自動運転モードで走行中のダウンシフトに対応し、破線が手動運転モードで走行中のダウンシフトに対応している。
【0084】
図6のt1時点において、有段変速部22のダウンシフトが判断されることで変速が開始される。t1時点では、ダウンシフト中に係合される係合側係合装置CBaの指示圧Pcba*が、一時的に高圧に引き上げられた(ファーストフィル)後、イナーシャ相が終了するまでの間、所定の待機圧で待機されている。又、ダウンシフト中に解放される解放側係合装置CBrの指示圧Pcbr*は、所定の待機圧まで低下し、その待機圧で一時的に維持されている。その後、指示圧Pcbr*が所定の勾配で低下している。
【0085】
t2時点においてイナーシャ相が開始されると、AT入力回転速度Niがダウンシフト後の同期回転速度に向かって上昇を開始する。t2時点以降の制御について、先ず、破線で示す手動運転モードで走行している場合について説明する。
【0086】
t2時点においてイナーシャ相が開始されると、破線で示すように、解放側係合装置CBrの指示圧Pcbr2*が、減少勾配α2で減少している。又、t2~t3時点の間のイナーシャ相中において、AT入力回転速度Niの変化速度dNi/dtが予め設定されている所定値βで上昇するように、第2回転機MG2のMG2トルクTmが制御されている。手動運転モードで走行中のイナーシャ相中の第2回転機MG2のMG2トルクTmは、破線で示すHVバッテリパワーPbat2に実質的に対応している。t3時点においてイナーシャ相が終了すると、解放側係合装置CBrが完全解放されるように、指示圧Pcbr2*がゼロに向かって低下している。また、イナーシャ相が終了する直前から、係合側係合装置CBaの指示圧Pcba*が係合側係合装置CBaの完全係合される油圧値に向かって引き上げられることで、係合側係合装置CBaが完全係合させられる。
【0087】
次に、実線で示す自動運転モードで走行していた場合のダウンシフトについて説明する。t2時点でイナーシャ相が開始されると、解放側係合装置CBrの指示圧Pcbr1*の低下が開始される。ここで、t2時点以降において、実線で示す指示圧Pcbr1*は、破線で示す手動運転モードの場合の指示圧Pcbr2*よりも油圧の減少勾配α1が小さい値となっている。従って、自動運転モードで走行中のイナーシャ相中における解放側係合装置CBrの係合圧Pcbr1の方が、手動運転モードで走行中の係合圧Pcbr2よりも緩やかに低下する。また、イナーシャ相の途中からは、指示圧Pcbr1*の減少勾配α1が略ゼロとなり、一定圧で保持されている。これより、自動運転モードで走行中において、ダウンシフト時のイナーシャ相中における解放側係合装置CBrの係合圧Pcb1が、手動運転モードで走行中の場合の係合圧Pcbr2よりも高くなる。これに関連して、イナーシャ相中において有段変速部22で伝達可能なトルクが、手動運転モードの場合よりも大きくなり、イナーシャ相中の駆動トルクTrの落ち込みが手動運転モードの場合よりも小さくなる。その結果、実線で示す自動運転モードの場合の前後加速度Gx1の落ち込み(すなわち車両10の加速度Gの引き込み)が、破線で示す自動運転モードの場合の前後加速度Gx2の落ち込み(車両10の加速度Gの引き込み)よりも小さくなる。
【0088】
また、t2時点~t3時点の間のイナーシャ相では、AT入力回転速度Niの変化速度dNi/dtが、手動運転モードで走行中と同じ所定値βで上昇するように、実線で示すHVバッテリパワーPbat1が、破線で示す手動運転モードの場合のHVバッテリパワーPbat2よりも放電側(駆動側)に大きくなっている。すなわち、イナーシャ相中において、自動運転モードで走行中の第2回転機MG2のMG2トルクTmが、手動運転モードで走行中の場合の第2回転機MG2のMG2トルクTmよりも増加している。その結果、イナーシャ相が手動運転モードの場合と同じt3時点で終了している。t3時点以降では、解放側係合装置CBrが完全解放されるように、指示圧Pcbr1*がゼロに向かって低下している。また、係合側係合装置CBaが完全係合されるように、係合側係合装置CBaの指示圧Pcba*が引き上げられている。このように、イナーシャ相中の第2回転機MG2のMG2トルクTmが、手動運転モードで走行中よりも増加されることで、イナーシャ相における変速時間が手動運転モードで走行中の場合と略同じとなり、加速度Gの引き込みが長くなることも防止される。
【0089】
上述のように、本実施例によれば、自動運転モードで走行中は、自動運転時油圧変更部92aが、有段変速部22のダウンシフト中に解放される解放側係合装置CBrに供給される作動油の係合圧Pcbr1を、手動運転モードで走行中の場合の係合圧Pcbr2よりも高くするため、ダウンシフト中の駆動トルクTrの抜けによる加速度Gの引き込みが低減され、駆動トルクTrの引き込み量が低減させられる。一方で、ダウンシフト中に解放される解放側係合装置CBrに供給される作動油の係合圧Pcbr1が高くされることで、変速時間が長くなり易いものの、この間は自動運転時回転機制御部94cが、第2回転機MG2から出力される駆動側のMG2トルクTmを手動運転モードで走行中の場合よりも増加させるため、ダウンシフトの進行が速められる。従って、変速時間が長くなることが防止され、加速度Gの引き込みが長時間続くことによるショックを低減し、運転者に与える違和感を低減することができる。
【0090】
また、本実施例によれば、有段変速部22のダウンシフトのイナーシャ相中において、自動運転時油圧変更部92aが、ダウンシフト中に解放される解放側係合装置CBrに供給される作動油の係合圧Pcbr1を、手動運転モードで走行中の場合の係合圧Pcbr2よりも高くするため、イナーシャ相中に発生する駆動トルクTrの抜けによる加速度Gの引き込みが低減される。また、自動運転時油圧変更部92aは、自動運転モードで走行中のダウンシフト中に解放される解放側係合装置CBrに供給される作動油の係合圧Pcbr1の減少勾配α1を、手動運転モードで走行中の場合の減少勾配α2よりも小さくするため、ダウンシフト中の駆動トルクTrの抜けによる加速度Gの引き込みが低減される。また、自動運転時回転機制御部94cは、有段変速部22のダウンシフトのイナーシャ相中における有段変速部22のAT入力回転速度Niが、手動運転モードで走行中の場合と同じ勾配(所定値β)で上昇するように、第2回転機MG2のMG2トルクTmを制御するため、イナーシャ相中における変速の進行速度が手動運転モードで走行中の場合と略同じになり、イナーシャ相中における変速時間が手動運転モードの場合よりも長くなることが防止される。
【0091】
つぎに、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0092】
図7は、本発明が適用されるハイブリッド車両100(以下、車両100)の概略構成を説明する図である。車両100は、前述の実施例1の車両10とは別の実施例である。
【0093】
図7において、車両100の電気式無段変速部102は、車両10の無段変速部20と比べて、更に、ブレーキB0とクラッチC0とを備えている。ブレーキB0はサンギヤS0とケース18との間に設けられ、クラッチC0はサンギヤS0とキャリアCA0との間に設けられている。
【0094】
電気式無段変速部102は、クラッチC0及びブレーキB0が共に解放されると、無段変速部20と同様に、電気式無段変速機とされる。一方で、電気式無段変速部102は、クラッチC0又はブレーキB0が係合されると、差動作用が不能な非差動状態とされる。クラッチC0が係合される非差動状態では、電気式無段変速部102は変速比γ0が「1」に固定された変速機として機能する有段変速状態とされる。ブレーキB0が係合される非差動状態では、電気式無段変速部102は変速比γ0が「1」より小さい値に固定された増速変速機として機能する有段変速状態とされる。
【0095】
車両100の機械式有段変速部104は、車両10の有段変速部22と同様に、複数組の遊星歯車装置と複数の係合装置とを備えた、公知の遊星歯車式の自動変速機である。尚、機械式有段変速部104が、本発明の変速機に対応している。
【0096】
電気式無段変速部102と機械式有段変速部104とを合わせた全体の変速機である複合変速機106は、車両10の複合変速機40と同様に、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成する自動変速機である。複合変速機106では、クラッチC0及びブレーキB0の何れも係合させないことで、複合変速機40と同様の作動をさせることができる。複合変速機106では、クラッチC0及びブレーキB0の何れかを係合させることで、複合変速機106全体の変速比γtが異なる複数のギヤ段が形成される有段変速機として作動をさせることができる。
【0097】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0098】
例えば、前述の実施例では、車両10、100は、何れも無段変速部20、102および有段変速部22、104からなる複合変速機40、106を備えて構成されるものであったが、本発明は、必ずしも無段変速部20、102を備える態様に限定されない。例えば、エンジン12および回転機が直接的またはクラッチ等を介して間接的に接続され、エンジン12および回転機と駆動輪との間の動力伝達経路上に有段変速部が設けられるものであっても構わない。この構成において、エンジン12および回転機と有段変速部との間に、トルクコンバータまたは入力クラッチが介挿されていても構わない。
【0099】
また、前述の実施例では、エンジン12および第2回転機MG2を駆動力源とするハイブリッド車両10、100であったが、本発明は、必ずしもハイブリッド車両に限定されない。具体的には、回転機のみを駆動力源とする電気自動車においても本発明を適用することができる。すなわち、少なくとも回転機を含んで構成される駆動力源を有する車両であれば、本発明を適宜適用することができる。
【0100】
また、前述の実施例では、ダウンシフト時のイナーシャ相中において、自動運転モードの場合の解放側係合装置CBrの係合圧Pcbr1が、手動運転モードの場合の係合圧Pcbr2に比べて高くなるように制御されるものであったが、ダウンシフト時のトルク相中において、自動運転モードの場合の解放側係合装置CBrの係合圧Pcbr1が、手動運転モードの場合の係合圧Pcbr2に比べて高くなるように制御されるものであっても構わない。
【0101】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0102】
10、100:車両
12:エンジン(駆動力源)
14:駆動輪
22、104:機械式有段変速部(変速機)
90:電子制御装置(制御装置)
92a:自動運転時油圧変更部
94c:自動運転時回転機制御部
CB:係合装置
CBr:解放側係合装置(ダウンシフト中に解放される係合装置)
MG2:第2回転機(回転機、駆動力源)