(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】車両用サイドエアバッグ装置及び乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/207 20060101AFI20231108BHJP
B60R 21/231 20110101ALI20231108BHJP
B60R 21/2346 20110101ALI20231108BHJP
B60N 2/42 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
B60R21/207
B60R21/231
B60R21/2346
B60N2/42
(21)【出願番号】P 2020177570
(22)【出願日】2020-10-22
【審査請求日】2022-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深渡瀬 修
(72)【発明者】
【氏名】河村 和浩
(72)【発明者】
【氏名】太田 悠登
(72)【発明者】
【氏名】荒井 佑太
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-210371(JP,A)
【文献】特開2017-036038(JP,A)
【文献】国際公開第2020/110586(WO,A1)
【文献】特開2013-154785(JP,A)
【文献】特開2008-174137(JP,A)
【文献】国際公開第2012/117561(WO,A1)
【文献】特開2017-065483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/207
B60R 21/231
B60R 21/2346
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用シートのシートバックにおける車両幅方向外側の側部に搭載される車両用サイドエアバッグ装置であって、
車両の側面衝突時にガスを発生させるインフレータと、
前記インフレータからガスの供給を受けて前記側部から乗員の側方へ膨張展開すると共に、乗員の頭部を保護する頭部チャンバ及び乗員の腰部を保護する腰部チャンバを有するサイドエアバッグと、
前記サイドエアバッグ内で前記サイドエアバッグの上下方向に延在し、前記インフレータからのガスを上側噴出口及び下側噴出口から前記頭部チャンバ内及び前記腰部チャンバ内へそれぞれ噴出させるダクトと、
前記サイドエアバッグが膨張展開し且つ前記下側噴出口から前記腰部チャンバ内へガスが噴出している状態で、
前記腰部チャンバが車両前方側へ曲がることを抑制し、前記腰部チャンバを前記腰部の側方に留める留め部と、
を備え
、
前記留め部には、前記腰部チャンバ内で車両後方斜め下方へ向かうガスの流れを生成するガス流れ生成部が含まれており、
前記ガス流れ生成部には、前記サイドエアバッグの膨張展開状態で車両後方側へ向けて曲がるように前記ダクトの下端部に形成された曲げ部が含まれており、当該曲げ部の下端に前記下側噴出口が形成されている車両用サイドエアバッグ装置。
【請求項2】
車両用シートのシートバックにおける車両幅方向外側の側部に搭載される車両用サイドエアバッグ装置であって、
車両の側面衝突時にガスを発生させるインフレータと、
前記インフレータからガスの供給を受けて前記側部から乗員の側方へ膨張展開すると共に、乗員の頭部を保護する頭部チャンバ及び乗員の腰部を保護する腰部チャンバを有するサイドエアバッグと、
前記サイドエアバッグ内で前記サイドエアバッグの上下方向に延在し、前記インフレータからのガスを上側噴出口及び下側噴出口から前記頭部チャンバ内及び前記腰部チャンバ内へそれぞれ噴出させるダクトと、
前記サイドエアバッグが膨張展開し且つ前記下側噴出口から前記腰部チャンバ内へガスが噴出している状態で、前記腰部チャンバが車両前方側へ曲がることを抑制し、前記腰部チャンバを前記腰部の側方に留める留め部と、
を備え、
前記インフレータは、前記シートバックのサイドフレームに固定され、
前記ダクトから車両後方側に延出された接続部が前記インフレータのガス噴出部と接続され、
前記サイドエアバッグの膨張展開時には、前記ダクトが前記インフレータより車両前方側で前記シートバックの高さ方向に延在する車両用サイドエアバッグ装置。
【請求項3】
車両用シートのシートバックにおける車両幅方向外側の側部に搭載される車両用サイドエアバッグ装置であって、
車両の側面衝突時にガスを発生させるインフレータと、
前記インフレータからガスの供給を受けて前記側部から乗員の側方へ膨張展開すると共に、乗員の頭部を保護する頭部チャンバ及び乗員の腰部を保護する腰部チャンバを有するサイドエアバッグと、
前記サイドエアバッグ内で前記サイドエアバッグの上下方向に延在し、前記インフレータからのガスを上側噴出口及び下側噴出口から前記頭部チャンバ内及び前記腰部チャンバ内へそれぞれ噴出させるダクトと、
前記サイドエアバッグが膨張展開し且つ前記下側噴出口から前記腰部チャンバ内へガスが噴出している状態で、前記腰部チャンバが車両前方側へ曲がることを抑制し、前記腰部チャンバを前記腰部の側方に留める留め部と、
を備え、
前記インフレータは、前記シートバックのサイドフレームに固定され、
前記ダクトから車両後方側に延出された接続部が前記インフレータのガス噴出部と接続され、
前記サイドエアバッグの膨張展開時には、前記ダクトが前記インフレータより車両前方側で前記シートバックの高さ方向に延在し、
前記インフレータは、シリンダータイプであり、軸線方向が前記シートバックの高さ方向に沿う姿勢で配置されており、
前記ガス噴出部は、前記インフレータの下端部に設けられており、
前記ダクトの前記接続部は、前記ダクトの下端部側から延出されている車両用サイドエアバッグ装置。
【請求項4】
車両用シートのシートバックにおける車両幅方向外側の側部に搭載される車両用サイドエアバッグ装置であって、
車両の側面衝突時にガスを発生させるインフレータと、
前記インフレータからガスの供給を受けて前記側部から乗員の側方へ膨張展開すると共に、乗員の頭部を保護する頭部チャンバ及び乗員の腰部を保護する腰部チャンバを有するサイドエアバッグと、
前記サイドエアバッグ内で前記サイドエアバッグの上下方向に延在し、前記インフレータからのガスを上側噴出口及び下側噴出口から前記頭部チャンバ内及び前記腰部チャンバ内へそれぞれ噴出させるダクトと、
前記サイドエアバッグが膨張展開し且つ前記下側噴出口から前記腰部チャンバ内へガスが噴出している状態で、前記腰部チャンバが車両前方側へ曲がることを抑制し、前記腰部チャンバを前記腰部の側方に留める留め部と、
を備え、
前記車両用シートには、3点式のシートベルトを用いて乗員が拘束され、
前記頭部チャンバは、前記シートベルトのショルダベルトに対して乗員の頭部側へ膨張展開し、
収納状態の前記サイドエアバッグは、前記シートバックの外サイドフレームの車両幅方向外側で前記シートバックの高さ方向に延在する縦延部と、前記シートバックのアッパフレームの車両後方側で車両幅方向に延在する横延部とによって構成されており、前記シートバックの肩口の高さで屈曲されており、前記頭部チャンバを含む部位が前記シートバックの肩口から前記車両用シートのヘッドレスト側へ向けて延在する車両用サイドエアバッグ装置。
【請求項5】
車両用シートのシートバックにおける車両幅方向外側の側部に搭載される車両用サイドエアバッグ装置であって、
車両の側面衝突時にガスを発生させるインフレータと、
前記インフレータからガスの供給を受けて前記側部から乗員の側方へ膨張展開すると共に、乗員の頭部を保護する頭部チャンバ及び乗員の腰部を保護する腰部チャンバを有するサイドエアバッグと、
前記サイドエアバッグ内で前記サイドエアバッグの上下方向に延在し、前記インフレータからのガスを上側噴出口及び下側噴出口から前記頭部チャンバ内及び前記腰部チャンバ内へそれぞれ噴出させるダクトと、
前記サイドエアバッグが膨張展開し且つ前記下側噴出口から前記腰部チャンバ内へガスが噴出している状態で、前記腰部チャンバが車両前方側へ曲がることを抑制し、前記腰部チャンバを前記腰部の側方に留める留め部と、
を備え、
前記車両用シートには、3点式のシートベルトを用いて乗員が拘束され、
前記インフレータは、前記シートバックのサイドフレームに固定され、
前記ダクトから延出された接続部が前記インフレータのガス噴出部と接続され、
前記サイドエアバッグの膨張展開時には、前記ダクトが前記インフレータより車両前方側で前記シートバックの高さ方向に延在し、
前記上側噴出口は、前記サイドエアバッグの膨張展開時に、前記車両用シートのヘッドレストにおける車両幅方向外側の側面と、前記3点式シートベルトのショルダベルトと、前記シートバックの車両幅方向外側の側部の上端部との間の空間で開口するように設定されている車両用サイドエアバッグ装置。
【請求項6】
シートクッション及びシートバックを有する車両用シートと、
前記シートバックの車両幅方向外側の側部に搭載された請求項1~請求項5の何れか1項に記載の車両用サイドエアバッグ装置と、
を備えた乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用サイドエアバッグ装置及び該装置を備えた乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に開示された車両用サイドエアバッグ装置では、頭部保護膨張部(頭部チャンバ)及び腰部保護膨張部(腰部チャンバ)を有するサイドエアバッグ内にインフレータ及びインナチューブ(ダクト)が収容されている。車両の側面衝突時には、インフレ-タから発生するガスがダクトを介して頭部チャンバ及び腰部チャンバへ供給される。これにより、頭部チャンバが乗員の頭部の側方に膨張展開し、腰部チャンバが乗員の腰部の側方に膨張展開する。下記特許文献2にも同様の技術が開示されている。
【0003】
下記特許文献3に開示された車両用サイドエアバッグ装置では、乗員の肩部から腰部までを保護可能なサイドエアバッグ内にインフレータ及びインナチューブ(ダクト)が収容されている。車両の側面衝突時には、インフレータから発生するガスがダクトを介してサイドエアバッグの上部区画室及び下部区画室に供給される。これにより、上部区画室が乗員の肩部及び胸部の側方に膨張展開し、下部区画室が乗員の腹部及び腰部の側方に膨張展開する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-105107号公報
【文献】国際公開第2011/016107号
【文献】特開2005-225351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記各先行技術では、シリンダータイプのインフレータが円筒状のダクト内に収容されている。これらのインフレータ及びダクトは、シートバックのサイドフレームに支持されている。このような構成では、車両用シートの構造上、インフレータ及びダクトが前下がりに傾斜した姿勢で配置される。このダクトの下側噴出口からは、車両前方斜め下方へ向けてガスが噴出される。このガスの噴出力により腰部チャンバが腰部に対して車両前方側へ位置ずれする。その結果、腰部チャンバによって腰部を適切に拘束できなくなり、衝突エネルギの吸収効率が低下する。
【0006】
本発明は上記事実を考慮し、インフレータからのガスの力で腰部チャンバが腰部に対して車両前方側へ位置ずれすることによるエネルギ吸収効率の低下を防止又は抑制することができる車両用サイドエアバッグ装置及び乗員保護装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様の車両用サイドエアバッグ装置は、車両用シートのシートバックにおける車両幅方向外側の側部に搭載される車両用サイドエアバッグ装置であって、車両の側面衝突時にガスを発生させるインフレータと、前記インフレータからガスの供給を受けて前記側部から乗員の側方へ膨張展開すると共に、乗員の頭部を保護する頭部チャンバ及び乗員の腰部を保護する腰部チャンバを有するサイドエアバッグと、前記サイドエアバッグ内で前記サイドエアバッグの上下方向に延在し、前記インフレータからのガスを上側噴出口及び下側噴出口から前記頭部チャンバ内及び前記腰部チャンバ内へそれぞれ噴出させるダクトと、前記下側噴出口から前記腰部チャンバ内へガスが噴出している状態で、前記腰部チャンバを前記腰部の側方に留める留め部と、を備えている。
【0008】
第1の態様に記載の「腰部の側方」は、例えば車両幅方向から見て乗員の腰部と重なる領域のことである。
【0009】
第1の態様では、車両用シートのシートバックにおける車両幅方向外側の側部に車両用サイドエアバッグ装置が搭載される。この車両用サイドエアバッグ装置では、車両の側面衝突時にインフレータからガスが発生し、当該ガスがサイドエアバッグに供給される。これにより、サイドエアバッグがシートバックの上記側部から乗員の側方へ膨張展開する。このサイドエアバッグは、乗員の頭部を保護する頭部チャンバと、乗員の腰部を保護する腰部チャンバを有している。頭部チャンバ内及び腰部チャンバ内には、サイドエアバッグ内でサイドエアバッグの上下方向に延在するダクトの上側噴出口及び下側噴出口からそれぞれガスが噴出される。上記の下側噴出口から腰部チャンバ内へガスが噴出している状態では、留め部によって腰部チャンバが腰部の側方に留めさせられる。これにより、腰部チャンバによる衝突エネルギの吸収効率が低下することを防止又は抑制できる。
【0010】
本発明の第2の態様の車両用サイドエアバッグ装置は、第1の態様において、前記留め部には、前記サイドエアバッグの膨張展開状態で車両下方側へ向かうほど車両後方側へ向かうように傾斜する形状に前縁部が形成された前記腰部チャンバが含まれる。
【0011】
第2の態様によれば、サイドエアバッグの膨張展開状態では、腰部チャンバの前縁部が車両下方側へ向かうほど車両後方側へ向かうように傾斜する。つまり、この腰部チャンバは、サイドエアバッグの膨張展開状態で車両後方寄りに位置するように予め形状が設定されている。このため、ダクトの下側噴出口から噴出するガスの噴出力により、上記の腰部チャンバが車両前方側へ変位しても、当該腰部チャンバを腰部の側方の領域内に留めることが可能となる。
【0012】
本発明の第3の態様の車両用サイドエアバッグ装置は、第1の態様又は第2の態様において、前記留め部には、前記腰部チャンバ内で車両後方斜め下方へ向かうガスの流れを生成するガス流れ生成部が含まれる。
【0013】
第3の態様によれば、ダクトの下側噴出口から腰部チャンバ内へガスが噴出している状態では、腰部チャンバ内に、車両後方斜め下方へ向かうガスの流れが生成される。このガスの流れにより、腰部チャンバを腰部の側方に留めることが可能となる。
【0014】
本発明の第4の態様の車両用サイドエアバッグ装置は、第3の態様において、前記ガス流れ成形部には、前記サイドエアバッグの膨張展開状態で車両後方斜め下方へ向けて開口する前記ダクトの前記下側噴出口が含まれる。
【0015】
第4の態様によれば、サイドエアバッグの膨張展開状態では、ダクトの下側噴出口が車両後方斜め下方へ向けて開口する。これにより、下側噴出口から噴出するガスが車両後方斜め下方へ向かって流れる。
【0016】
本発明の第5の態様の車両用サイドエアバッグ装置は、第3の態様又は第4の態様において、前記ガス流れ生成部には、前記サイドエアバッグの膨張展開状態で車両後方側へ向けて曲がるように前記ダクトの下端部に形成された曲げ部が含まれており、当該曲げ部の下端に前記下側噴出口が形成されている。
【0017】
第5の態様によれば、サイドエアバッグの膨張展開状態では、ダクトの下端部に形成された曲げ部が車両後方側へ向けて曲がる。これにより、曲げ部の下端に形成された下側噴出口から噴出されるガスが車両後方斜め下方へ向かって流れる。
【0018】
本発明の第6の態様の車両用サイドエアバッグ装置は、第1の態様~第5の態様の何れか1つの態様において、前記車両用シートには、3点式のシートベルトを用いて乗員が拘束され、前記頭部チャンバは、前記シートベルトのショルダベルトに対して乗員の頭部側へ膨張展開する。
【0019】
第6の態様では、サイドエアバッグの頭部チャンバは、3点式シートベルトのショルダベルトに対して乗員の頭部側(すなわち車両幅方向内側)へ膨張展開する。これにより、頭部チャンバの膨張展開位置を乗員の頭部に接近させることができるので、頭部の初期拘束性能を向上させることができる。しかも、ショルダベルトで頭部チャンバを押さえることができるので、下側噴出口からのガスの噴出による腰部チャンバの車両前方側への変位を更に抑制することが可能となる。
【0020】
本発明の第7の態様の車両用サイドエアバッグ装置は、第1の態様~第6の態様の何れか1つの態様において、前記インフレータは、前記シートバックのサイドフレームに固定され、前記ダクトから延出された接続部が前記インフレータのガス噴出部と接続され、前記サイドエアバッグの膨張展開時には、前記ダクトが前記インフレータより車両前方側で前記シートバックの高さ方向に延在する。
【0021】
第7の態様によれば、インフレータは、シートバックのサイドフレームに固定されている。このインフレータのガス噴出部には、ダクトから延出された接続部が接続される。これにより、インフレータからのガスがダクト内に導入される。このダクトは、サイドエアバッグの膨張展開時に、インフレータより車両前方側でシートバックの高さ方向に延在する。このダクトは、インフレータから導入されるガスにより、サイドエアバッグ内で相対的に高圧になる。この高圧のダクトが上記のように延在するので、例えば乗員の肋骨の後部をダクトにより効果的に拘束することができる。
【0022】
本発明の第8の態様の車両用サイドエアバッグ装置は、第7の態様において、前記インフレータは、シリンダータイプであり、軸線方向が前記シートバックの高さ方向に沿う姿勢で配置されており、前記ガス噴出部は、前記インフレータの下端部に設けられており、前記ダクトの前記接続部は、前記ダクトの下端部側から延出されている。
【0023】
第8の態様では、ダクトの下端部側から延出された接続部が、インフレータの下端部に設けられたガス噴出部と接続される。これにより、インフレータからのガスがダクトを介して早期に腰部チャンバ内へ供給される。その結果、腰部チャンバを頭部チャンバよりも早期に膨張展開させることができるので、乗員の腰部と車体側部との間の狭い隙間に腰部チャンバを早期に膨張展開させ易くなる。
【0024】
本発明の第9の態様の乗員保護装置は、シートクッション及びシートバックを有する車両用シートと、前記車両用シートに乗員を拘束する3点式のシートベルトを有する車両用シートベルト装置と、前記シートバックの車両幅方向外側の側部に搭載された第1の態様~第8の態様の何れか1つの態様の車両用サイドエアバッグ装置と、を備えている。
【0025】
第9の態様によれば、シートクッション及びシートバックを有する車両用シートには、車両用シートベルト装置が有する3点式のシートベルトによって乗員が拘束される。上記シートバックの車両幅方向外側の側部には、車両用サイドエアバッグ装置が搭載される。この車両用サイドエアバッグ装置は、第1の態様~第8の態様の何れか1つの態様のものであるため、前述した作用及び効果が得られる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明に係る車両用サイドエアバッグ装置及び乗員保護装置では、インフレータからのガスの力で腰部チャンバが腰部に対して車両前方側へ位置ずれすることによるエネルギ吸収効率の低下を防止又は抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】第1実施形態に係る乗員保護装置においてサイドエアバッグが膨張展開した状態を示す側面図である。
【
図2】第1実施形態に係る乗員保護装置においてサイドエアバッグが膨張展開した状態を示す正面図である。
【
図3】サイドエアバッグの収納状態を示す側面図である。
【
図4】サイドエアバッグの収納状態を示す正面図である。
【
図5】インフレータからのガスの力による腰部チャンバの変位について説明するための
図1に対応した側面図である。
【
図6】
図5のF6-F6線に沿った切断面を示す平断面図であり、ポール側面衝突時の状況を示す図である。
【
図7】第2実施形態に係る乗員保護装置においてサイドエアバッグが膨張展開した状態を示す側面図である。
【
図8】第3実施形態に係る乗員保護装置においてサイドエアバッグが膨張展開した状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<第1の実施形態>
以下、
図1~
図5を参照して本発明の第1実施形態に係る乗員保護装置10について説明する。なお、各図中に適宜示される矢印FRは車両前方を示しており、矢印UPは車両上方を示しており、矢印LH(OUT)は車両左方(車両幅方向の外方)を示している。以下、単に前後、左右、上下の方向を用いて説明する場合、特に断りのない限り、車両前後方向の前後、車両左右方向(車両幅方向)の左右、車両上下方向の上下を示すものとする。
【0029】
図1及び
図2に示されるように、本実施形態に係る乗員保護装置10は、車両用シート12と、車両用シートベルト装置30と、車両用サイドエアバッグ装置40とによって構成されている。車両用シート12は、例えば左ハンドル車の運転席、又は右ハンドル車の助手席とされており、車室内の左側に配置されている。この車両用シート12の前後方向、左右方向(幅方向)及び上下方向は、車両の前後方向、左右方向(幅方向)及び上下方向と一致している。この車両用シート12が車室内の右側に配置される場合、本実施形態とは左右対称の構成となる。以下、車両用シート12、車両用シートベルト装置30及び車両用サイドエアバッグ装置40の構成について順次説明し、その後に本実施形態の要部について説明する。
【0030】
(車両用シートの構成)
図1及び
図2に示されるように、車両用シート12は、当該車両用シート12に着座した乗員Pの臀部及び大腿部を支持するシートクッション14と、シートクッション14の後端部に連結されて乗員Pの背部を支持するシートバック16と、シートバック16の上端部に連結されて乗員Pの頭部Hを支持するヘッドレスト22と、を有している。
【0031】
なお、
図1及び
図2では、実際の乗員の代わりに衝突試験用のダミーPが車両用シート12に着座している。このダミーPは、国際統一側面衝突ダミー(World Side Impact Dummy;WorldSID)のAM50(米国人成人男性の50パーセンタイル)である。このダミーPは、側面衝突試験法に規定される着座方法で車両用シート12に着座している。この車両用シート12の車両に対する前後位置、及びシートクッション14に対するシートバック16の傾斜角度は、上記の着座方法に対応した基準設定位置に調整されている。この状態では、シートバック16の前後左右上下の方向と車両の前後左右上下の方向とが一致している。
【0032】
ダミーPの胴体には、6つのリブR1、R2、R3、R4、R5、R6が設けられている。これらのリブR1、R2、R3、R4、R5、R6は、上から順番に「肩リブR1」、「胸上リブR2」、「胸中リブR3」、「胸下リブR4」、「腹上リブR5」、「腹下リブR6」と称される場合がある。肩リブR1は、ダミーPの肩部Sに設けられており、胸上リブR2、胸中リブR3及び胸下リブR4は、ダミーPの胸部Cに設けられており、腹上リブR5及び腹下リブR6は、ダミーPの腹部Bに設けられている。以下、ダミーPを「乗員P」と称する場合がある。
【0033】
図1、
図3及び
図4に示されるように、シートバック16は、骨格部材であるシートバックフレーム18と、シートバックフレーム18に被せられた図示しないシートバックパッドと、シートバックパッドを覆ったシートバック表皮20と、を備えている。シートバックフレーム18は、例えば金属又は樹脂によって構成されており、シートバックパッドは、例えばウレタンフォーム等の発泡体によって構成されている。シートバック表皮20は、例えば布材(織り物)、ニット素材(編み物)、合成皮革、皮革等からなる複数の表皮片が互いに縫製されて構成されている。
【0034】
上記のシートバックフレーム18は、シートバック16の車両幅方向外側の側部16A内で車両上下方向に延在する外サイドフレーム18Aと、シートバック16の車両幅方向内側の側部16Bで車両上下方向に延在する内サイドフレーム18Bと、を備えている。また、シートバックフレーム18は、外サイドフレーム18Aと内サイドフレーム18Bとの上端部同士を繋ぐアッパフレーム18Cと、外サイドフレーム18Aと内サイドフレーム18Bとの下端部同士をシート幅方向に繋ぐロアフレーム18Dと、を備えている。上記の側部16Aは、シートバック16において、車両幅方向外側のサイドサポート部を含む車両幅方向外側の部位である。この側部16Aの上面16A1は、シートバック16の上面の一部を構成している。この側部16Aは、本発明における「シートバックの車両幅方向外側の側部」に相当し、上記の外サイドフレーム18Aは、本発明における「サイドフレーム」に相当する。以下の説明では、上記の側部16Aを「外側サイド部16A」と称する。
【0035】
(車両用シートベルト装置の構成)
図1に示されるように、車両用シートベルト装置30は、乗員拘束用の3点式のシートベルト(ウエビング)32を備えている。なお、
図1ではシートベルト32の一部であるショルダベルト32Aのみを図示している。
【0036】
シートベルト32の図示しない長手方向一端部は、車両用シート12に対する車両幅方向外側(ここでは左側)で車体フロア等に固定された図示しないアンカプレートに係止されている。シートベルト32の図示しない他端部は、車両のBピラーの下部等に配設された図示しないリトラクタ(ウエビング巻取装置)の巻取軸に係止されている。シートベルト32の中間部は、Bピラーの上部等に配設された図示しないショルダアンカに挿通されて折り返されている。シートベルト32におけるショルダアンカからアンカプレートまでの間の部分には、図示しないタングプレートが摺動可能に取り付けられている。このタングプレートは、車両用シート12に対する車両幅方向内側(ここでは右側)で車両用シート12の下端部等に取り付けられた図示しないバックル装置に連結される。これにより、乗員Pがシートベルト32を装着した状態となる。このシートベルト装着状態では、シートベルト32のうちショルダアンカとタングプレートとの間の部位であるショルダベルト32Aによって乗員Pの胸部C及び腹部Bが拘束される。また、このシートベルト装着状態では、シートベルト32のうちタングプレートとアンカプレートとの間の部位である図示しないラップベルトによって乗員Pの腰部Wが拘束される。
【0037】
(車両用サイドエアバッグ装置の構成)
図1及び
図2に示されるように、車両用サイドエアバッグ装置40は、インフレータ44と、サイドエアバッグ46と、ダクト48とを備えている。インフレータ44は、作動することによりガスを発生し、サイドエアバッグ46は、インフレータ44からガスの供給を受けて乗員Pの側方で膨張展開する(
図1及び
図2図示状態)。ダクト48は、サイドエアバッグ46の内部に収容されており、インフレータ44から発生するガスをサイドエアバッグ46の上部及び下部に分配する。
【0038】
インフレータ44、サイドエアバッグ46及びダクト48は、通常時には、
図3及び
図4に示されるサイドエアバッグモジュール42とされ、シートバック16の外側サイド部16A内に収納されている。以下の説明において、サイドエアバッグ46に関して記載する前後上下の方向は、サイドエアバッグ46が膨張展開した状態での方向を示すものであり、シートバック16の前後上下の方向と略一致する方向である。
【0039】
図1に示されるように、インフレータ44は、所謂シリンダータイプのインフレータであり、円柱状に形成されている。このインフレータ44は、軸線方向がシートバック16の高さ方向に沿う姿勢すなわち前下がりに傾斜した姿勢で外サイドフレーム18Aの車両幅方向外側に配設されている。このインフレータ44は、一例として乗員Pの腹部B付近の高さに配置されている。インフレータ44の外周部からは、車両幅方向内側へ向けて上下一対のスタッドボルト(図示省略)が突出している。これらのスタッドボルトは、外サイドフレーム18Aを貫通している。これらのスタッドボルトには、それぞれ図示しないナットが螺合している。これにより、インフレータ44が外サイドフレーム18Aに取り付けられている。なお、インフレータ44の外周部から車両後方側へ突出したスタッドボルトが外サイドフレーム18Aに固定されたブラケット等を車両前方側から貫通してナットに螺合される構成(所謂背面締め)にしてもよい。
【0040】
インフレータ44の上端部又は下端部(ここでは下端部)には、噴出部44Aが設けられている。この噴出部44Aには、例えばインフレータ44の周方向に並ぶ複数のガス噴出口が形成されており、インフレータ44が起動(作動)した際には、複数のガス噴出口からガスが放射状に噴出される。このインフレータ44には、
図1に示されるように、車両に搭載された側突ECU60が電気的に接続されている。この側突ECU60には、側面衝突を検知する側突センサ62が電気的に接続されている。側突ECU60は、側突センサ62からの信号に基づいて側面衝突(の不可避)を検知した際にインフレータ44を起動させる構成になっている。なお、側突ECU60に側面衝突を予知(予測)する衝突予知センサ(プリクラッシュセンサ)が電気的に接続されている場合には、衝突予知センサからの信号に基づいて側突ECU60が側面衝突を予知した際にインフレータ44が起動される構成にしてもよい。
【0041】
図1及び
図2に示されるように、サイドエアバッグ46は、インフレータ44からガスの供給を受けて乗員Pと車体側部(
図6に示されるサイドドアSD及び図示しないBピラー)との間に膨張展開する。このサイドエアバッグ46は、例えばナイロン系又はポリエステル系の布材が切り出されて形成された2枚の基布が互いに重ね合わされて外周縁部を縫製されることにより袋状に形成されている。なお、サイドエアバッグ46の製造方法は上記に限らず適宜変更可能である。例えば1枚の基布が二つ折りにされてその外周縁部が縫製されることによりサイドエアバッグ46が製造される構成にしてもよい。また例えば、自動織機による袋織り工法(所謂OPW工法)によってサイドエアバッグ46が製造される構成にしてもよい。
【0042】
このサイドエアバッグ46は、シートバック16の高さ方向を長手とする長尺状に膨張展開する。このサイドエアバッグ46は、乗員Pの頭部Hから腰部Wまでを拘束可能な大きさに形成されている。このサイドエアバッグ46は、乗員Pの頭部Hを拘束する頭部チャンバ(頭部保護膨張部)46Aと、乗員Pの肩部Sから腹部Bまでを拘束する胸部チャンバ(胸部保護膨張部)46Cと、頭部チャンバ46Aと胸部チャンバ46Cとを接続する接続チャンバ46Bと、乗員Pの腰部Wを拘束する腰部チャンバ(腰部保護膨張部)46Dと、を一体に備えている。
【0043】
このサイドエアバッグ46において胸部チャンバ46C及び腰部チャンバ46Dに相当する部位は、車両幅方向から見てシートバック16の高さ方向を長手とする略楕円形状に膨張展開する。このサイドエアバッグ46の膨張展開状態では、胸部チャンバ46Cの前縁部が前下がりに傾斜する。この胸部チャンバ46Cの前縁部と乗員Pの上腕部Aとが摺接することにより、上腕部Aが肩部S回りに上方側へ押し上げられるようになっている。これにより、胸部C及び腹部Bと胸部チャンバ46Cとの間に上腕部Aが挟まることを防止するようにしている。
【0044】
このサイドエアバッグ46の後縁部の下部(ここでは乗員Pの腰部W及び腹部Bが位置する高さ部位)からは、車両後方側へ向けてインフレータ接続部46Eが延出されている。インフレータ接続部46Eの上端部には、インフレータ44の差し込み口が形成されており、当該差し込み口からインフレータ44の下端部がインフレータ接続部46E内に差し込まれている。
【0045】
このサイドエアバッグ46の頭部チャンバ46Aは、車両幅方向から見て略矩形状に膨張展開する。この頭部チャンバ46Aは、主にシートベルト32のショルダベルト32Aよりも乗員Pの頭部H側(車両幅方向内側)で膨張展開する。本実施形態では、膨張展開した頭部チャンバ46Aは、乗員Pの頭部Hに対して車両幅方向外側から接触又は近接して対向する。膨張展開状態の頭部チャンバ46Aは、乗員Pの頭部Hの略下半部及び首部Nに対して車両幅方向から見て重なるように配置される。
【0046】
頭部チャンバ46Aの後縁部の略上半部には、接続チャンバ46Bの上端部が一体に接続されている。接続チャンバ46Bは、略円筒状に形成されている。接続チャンバ46Bの下端部は、胸部チャンバ46Cの上端部に一体に接続されている。この接続チャンバ46B内を介して胸部チャンバ46C内と頭部チャンバ46A内とが連通されている。この接続チャンバ46Bは、車両前後方向から見て車両上方側へ向かうほど車両幅方向内側へ向かうように傾斜して膨張展開する。この接続チャンバ46Bは、シートベルト32のショルダベルト32Aに対して車両下方側に膨張展開する。
【0047】
図1及び
図2に示されるように、ダクト48は、サイドエアバッグ46の内部に収容されている。このダクト48は、インフレータ44からのガスを腰部チャンバ46D内及び頭部チャンバ46A内へと導く機能を有している。このダクト48は、円筒状に形成されたダクト本体部48Aと、ダクト本体部48Aの下端部側から車両後方側へ向けて延出されたインフレータ接続部48Bとによって構成されている。ダクト本体部48Aは、軸線方向がサイドエアバッグ46の上下方向に沿う姿勢でサイドエアバッグ46内の後部側に収容されている。このダクト本体部48Aは、サイドエアバッグ46内の上端部から下端部にわたって延在している。ダクト本体部48Aの上端部には、上側の開口部である上側噴出口50が形成されており、ダクト本体部48Aの下端部には、下側の開口部である下側噴出口52が形成されている。上側噴出口50は、頭部チャンバ46A内の後端部、すなわち頭部チャンバ46Aと接続チャンバ46Bとの接続部付近で開口している。下側噴出口52は、腰部チャンバ46D内で開口している。
【0048】
インフレータ接続部48Bは、本発明における「接続部」に相当する。このインフレータ接続部48Bは、サイドエアバッグ46のインフレータ接続部46E内に収容されており、インフレータ接続部46Eの内側に重なっている。このインフレータ接続部48Bの上端部には、インフレータ44の差し込み口が形成されている。この差し込み口は、インフレータ接続部46Eの上端部に形成された差し込み口の内側に配置されており、当該差し込み口からインフレータ44の下端部がインフレータ接続部48B内に差し込まれている。
【0049】
上記のインフレータ44、サイドエアバッグ46及びダクト48は、前述したように、通常時には
図3及び
図4に示されるサイドエアバッグモジュール42とされ、外側サイド部16A内に収納されている。このサイドエアバッグモジュール42では、サイドエアバッグ46がダクト48と一緒に所定の折り畳み方で長尺状に折り畳まれている。収納状態のサイドエアバッグ46は、頭部チャンバ46Aを含む部位がシートバック16の肩口16S(
図3及び
図4以外では符号省略)からヘッドレスト22側へ向けて延在する。具体的には、収納状態のサイドエアバッグ46は、外サイドフレーム18Aの車両幅方向外側でシートバック16の高さ方向に延在する縦延部42Aと、アッパフレーム18Cの車両後方側で車両幅方向に延在する横延部42Bとによって構成されており、シートバック16の肩口16Sの高さで屈曲している。縦延部42Aは、サイドエアバッグ46のうち主に胸部チャンバ46C及び腰部チャンバ46Dに相当する部位で構成されており、横延部42Bは、サイドエアバッグ46のうち主に頭部チャンバ46A及び接続チャンバ46Bに相当する部位で構成されている。横延部42Bにおける車両幅方向内側の端部は、
図4に示されるように、ショルダベルト32Aに対して車両幅方向内側に配置される。なお
図3及び
図4では、インフレータ44の図示を省略している。
【0050】
上記構成の車両用サイドエアバッグ装置40では、インフレータ44が作動すると、インフレータ44の噴出部44Aから噴出するガスがインフレータ接続部48B内からダクト本体部48A内に流れ込む。ダクト本体部48A内に流れ込んだガスは、ダクト本体部48Aの下側噴出口52及び上側噴出口50から腰部チャンバ46D内及び頭部チャンバ46A内へそれぞれ噴出される。腰部チャンバ46D内及び頭部チャンバ46A内へ噴出されたガスの一部は、胸部チャンバ46C内へと流れ込む。これにより、サイドエアバッグ46が乗員Pの側方へ膨張展開する。
【0051】
この膨張展開の際には、外側サイド部16Aの前面又は側面(何れも符号省略)のうち少なくとも一方と、外側サイド部16Aの上面16A1とにおいて、シートバック表皮20に設定されたティアライン部(バーストライン部;開裂予定部)が開裂する。これにより、サイドエアバッグ46が外側サイド部16Aの外側へ膨張展開する。この際には、腰部チャンバ46Dが外側サイド部16Aの下部から腰部Wの側方へ膨張展開し、胸部チャンバ46Cが外側サイド部16Aの上下方向中間部から肩部S、胸部C及び腹部Bの側方へ膨張展開する。またこの際には、頭部チャンバ46Aが外側サイド部16Aの上面16A1から頭部H及び首部Nの側方へ膨張展開し、接続チャンバ46Bが外側サイド部16Aの上端部から肩部Sに対する車両後方斜め上方側へ膨張展開する。
【0052】
このサイドエアバッグ46の膨張展開時には、ダクト本体部48Aがサイドエアバッグ46内でサイドエアバッグ46の上下方向に延在する。このサイドエアバッグ46の膨張展開時には、
図2に示されるようにサイドエアバッグ46の接続チャンバ46B及びダクト本体部48Aが、シートバック16の肩口16Sの高さに位置する曲げ部46B1、48A1(
図2参照;
図1では符号省略)において曲がるように構成されている。これらの曲げ部46B1、48A1よりも車両上方側では、接続チャンバ46B及びダクト本体部48Aが車両幅方向内側へ傾き、頭部チャンバ46Aが胸部チャンバ46C及び腰部チャンバ46Dよりも車両幅方向内側に配置されるようになっている。また、ダクト本体部48Aは、上記の曲げ部48A1より上端側の部位の断面積が下端側の部位の断面積に比して小さく設定されている。
【0053】
図1及び
図2に示されるように、ダクト本体部48Aの上端部に形成された上側噴出口50は、サイドエアバッグ46の膨張展開時に、シートベルト32のショルダベルト32Aに対する乗員Pの頭部H側かつ頭部チャンバ46A内で開口するように設定されている。詳細には、この上側噴出口50は、サイドエアバッグ46の膨張展開時に、ヘッドレスト22における車両幅方向外側の側面22Sと、ショルダベルト32Aと、外側サイド部16Aの上端部との間の空間で開口するように設定されている。この上側噴出口50は、サイドエアバッグ46の膨張展開時に、ヘッドレスト22のステー22A(
図2参照;
図1では図示省略)に対して車両前方側かつ車両幅方向外側に隣接して配置される。この上側噴出口50は、
図1に示されるように、サイドエアバッグ46の膨張展開時に、車両前方斜め上方へ向けて開口するように形成されている。また、この上側噴出口50は、サイドエアバッグ46の膨張展開時に、車両幅方向から見てショルダベルト32Aに対する車両上方側又はショルダベルト32Aと重なる高さでショルダベルト32Aの車両幅方向内側に配置されるように設定されている。この上側噴出口50からは、車両前方斜め上方へ向けて頭部チャンバ46A内にガスが噴出される構成になっている。
【0054】
図1及び
図2に示されるように、ダクト本体部48Aの下端部に形成された下側噴出口52は、サイドエアバッグ46の膨張展開時に腰部チャンバ46D内で開口し、乗員Pの腰部Wの側方にその全体が位置するように設定されている。この下側噴出口52は、サイドエアバッグ46の膨張展開時に車両下方(ここでは車両下方かつ若干車両前方)へ向けて開口するように形成されている。この下側噴出口52からは、車両下方へ向けて腰部チャンバ46D内にガスが噴出される構成になっている。
【0055】
また、
図1に示されるように、上記のダクト本体部48Aは、下端部側から延出されたインフレータ接続部48Bが、インフレータ44の下端部に接続されている。これにより、インフレータ44が作動(起動)した際には、インフレータ44の下端部に設けられた噴出部44Aから噴出されるガスが、ダクト本体部48Aの下端部に形成された下側噴出口52から早期に腰部チャンバ46D内へ噴出される構成になっている。また、噴出部44Aから噴出されるガスは、ダクト本体部48Aの上端部側へも流れ込み、ダクト本体部48Aの上側噴出口50から頭部チャンバ46A内へ噴出される。これにより、サイドエアバッグ46が膨張展開すると、ダクト本体部48Aがインフレータ44より車両前方側でシートバック16の高さ方向(すなわちサイドエアバッグ46の上下方向)に延在するように構成されている。このダクト48は、インフレータ44から導入されるガスにより、サイドエアバッグ46内で相対的に高圧になる。この高圧のダクト48により、乗員Pの胸部Cの略後半部が側方から拘束されるようになっている。
【0056】
ここで、本実施形態では、上記のようにダクト本体部48Aの下側噴出口52から腰部チャンバ46D内へガスが噴出することによる腰部チャンバ46Dの車両前方側への変位(曲がり)を考慮して、腰部チャンバ46Dの形状が設定されている。すなわち、このサイドエアバッグ46の腰部チャンバ46Dは、車両後方寄りに膨張展開するように胸部チャンバ46Cに対して車両後方側へ曲がった形状に形成されている。この腰部チャンバ46Dの前縁部46D1は、サイドエアバッグ46の膨張展開状態において、車両下方側へ向かうほど車両後方側へ向かうように傾斜する形状に形成されている。この前縁部46D1は、車両の鉛直方向(上下方向)に対する傾斜角度が、例えば10度~30度の範囲内に設定されている。このように前縁部46D1が傾斜して形成された腰部チャンバ46Dは、ダクト本体部48Aの下側噴出口52から腰部チャンバ46D内へガスが噴出している状態で、当該腰部チャンバ46Dを腰部Wの側方に留める留め部を構成している。この「腰部Wの側方」は、車両幅方向から見て乗員Pの腰部Wと重なる領域のことである。なお、
図1に示される直線L1は、車両の鉛直方向に沿った仮想の直線であり、
図1に示される直線L2は、サイドエアバッグ46の前端FE及び下端LEを通る仮想の直線である。この
図1では、説明の都合上、サイドエアバッグ46の前端FE及び下端LEに白丸を付している。この
図1において、直線L1と直線L2とがなす角度θは30度とされている。
【0057】
<作用及び効果>
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0058】
本実施形態では、側突ECU52が側突センサ62からの信号によって側面衝突を検知すると、インフレータ44が側突ECU52によって起動される。これにより、インフレータ44から発生するガスが、ダクト48のインフレータ接続部48Bを介してダクト48のダクト本体部48A内へ流れ込み、上側噴出口50及び下側噴出口52から頭部チャンバ46A内及び腰部チャンバ46D内へ噴出される。その結果、サイドエアバッグ46がシートバック16の外側サイド部16Aから乗員Pの側方へ膨張展開する。このサイドエアバッグ46では、頭部チャンバ46Aが乗員Pの頭部Hの側方へ膨張展開し、腰部チャンバ46Dが乗員Pの腰部Wの側方へ膨張展開する。
【0059】
このサイドエアバッグ46の膨張展開状態では、腰部チャンバ46Dの前縁部46D1が車両下方側へ向かうほど車両後方側へ向かうように傾斜する。この腰部チャンバ46Dは、サイドエアバッグ46の膨張展開状態で車両後方寄りに位置するように予め形状が設定されている。このため、
図5に示されるように、ダクト48の下側噴出口52から噴出するガスの噴出力により、腰部チャンバ46Dが車両前方側へ変位しても、腰部チャンバ46Dを腰部Wの側方の領域内に留めることができる。なお、
図5においては、腰部チャンバ46Dが上記のように車両前方側へ変位した状態が実線で示されており、腰部チャンバ46Dが予め設定された形状通りに膨張展開した状態が二点鎖線で示されている。つまり、上記のように前縁部46D1が傾斜する腰部チャンバ46Dは、ダクト48の下側噴出口52から腰部チャンバ46D内へガスが噴出している状態で、当該腰部チャンバ46Dを腰部Wの側方に留める留め部として機能する。これにより、腰部チャンバ46Dによる衝突エネルギの吸収効率が低下することを防止又は抑制できる。
【0060】
特に、ポール側面衝突試験において、
図6に二点鎖線で示されるように、腰部チャンバ46Dが車両前方側へ変位する(曲がる)と、
図6の矢印IN方向に侵入してくるポールPLの侵入導線L3に対して車両前方側に腰部チャンバ46Dがずれてしまい、狙いの位置でエネルギ吸収ができなくなる。この点、本実施形態では、
図6に実線で示されるように、ポールPLの侵入導線L3上に腰部チャンバ46Dを適切に留めることが可能となる。その結果、腰部チャンバ46Dによって衝突エネルギを効率良く吸収することが可能となる。しかも、腰部チャンバ46Dの前縁部46D1を上記のような形状に形成するだけの僅かな設計変更で上記の効果を得ることができるので、構成を簡素化することができる。
【0061】
また、本実施形態では、車両用シート12には、3点式のシートベルト32を用いて乗員Pが拘束され、サイドエアバッグ46の頭部チャンバ46Aが、シートベルト32のショルダベルト32Aに対して乗員Pの頭部H側(すなわち車両幅方向内側)へ膨張展開する。これにより、頭部チャンバ46Aの膨張展開位置を乗員Pの頭部Hに接近させることができるので、頭部Hの初期拘束性能を向上させることができる。しかも、ショルダベルト32Aで頭部チャンバ46Aを押さえることができるので、下側噴出口52からのガスの噴出による腰部チャンバ46Dの車両前方側への変位を更に抑制することが可能となる。また、本実施形態によれば、サイドエアバッグ46の膨張展開時には、上記の上側噴出口50が、車両幅方向から見てショルダベルト32Aに対する車両上方側又はショルダベルト32Aと重なる高さでショルダベルト32Aの車両幅方向内側に配置される。この上側噴出口50から噴出するガスにより頭部チャンバ46Aが膨張展開する。これにより、頭部チャンバ46Aがショルダベルト32Aに対する車両下方側かつ車両幅方向外側を通って頭部Hの側方へ膨張展開することを防止し易くなる。
【0062】
また、本実施形態では、シートバック16の外サイドフレーム18Aに固定されたインフレータ44の噴出部44Aには、ダクト本体部48Aから延出されたインフレータ接続部48Bが接続されている。これにより、インフレータ44からのガスがダクト48内に導入される。このダクト48は、サイドエアバッグ46の膨張展開時に、インフレータ44より車両前方側でシートバック16の高さ方向に延在する。このダクト48は、インフレータ44から導入されるガスにより、サイドエアバッグ46内で相対的に高圧になる。この高圧のダクト48が上記のように延在するので、例えば乗員Pの肋骨の後部をダクト48により効果的に拘束することができる。
【0063】
また、本実施形態では、ダクト本体部48Aの下端部側から延出されたインフレータ接続部48Bが、インフレータ44の下端部に設けられたガス噴出部44Aと接続されている。これにより、インフレータ44からのガスがダクト本体部48Aの下側噴出口52から早期に腰部チャンバ46D内へ噴出される。その結果、腰部チャンバ46Dを頭部チャンバ46Aよりも早期に膨張展開させることができるので、乗員Pの腰部Wと車体側部との間の狭い隙間に腰部チャンバ46Dを早期に膨張展開させ易くなる。これにより、サイドエアバッグ46の乗員初期拘束性能を向上させることができる。
【0064】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。なお、第1実施形態と基本的に同様の構成及び作用については、第1実施形態と同符号を付与しその説明を省略する。
【0065】
<第2の実施形態>
図7には、本発明の第2実施形態に係る乗員保護装置10においてサイドエアバッグ46が膨張展開した状態が側面図にて示されている。この実施形態では、サイドエアバッグ46の下側噴出口52Sは、サイドエアバッグ46の膨張展開状態において、車両後方斜め下方へ向けて開口するように形成されている。この下側噴出口52Sからは、車両後方斜め下方へ向けてガスが噴出される。この下側噴出口52Sは、サイドエアバッグ46の膨張展開時に、車両の鉛直方向に対して車両後方斜め下方へ向かうガスの流れを生成するガス流れ生成部を構成している。このガス流れ生成部は、下側噴出口52Sから腰部チャンバ46D内へガスが噴出している状態で、腰部チャンバ46Dを腰部Wの側方に留める留め部を構成している。なお、
図7に示される矢印Gは、下側噴出口52Sからのガスの噴出方向を示している。
【0066】
この実施形態では、上記以外の構成は第1実施形態と同様とされている。よって、この実施形態においても、第1実施形態と基本的に同様の作用及び効果が得られる。しかも、この実施形態では、上記のように車両後方斜め下方へ向けて開口する下側噴出口52Sから噴出するガスは、車両後方斜め下方へ向かって流れる。このガスの噴出力によって、腰部チャンバ46Dが車両前方側へ変位することを抑制できる。これにより、腰部チャンバ46Dを腰部Wの側方に留める効果が向上する。しかも、下側噴出口52Sを上記のように形成する(斜めにカットする)だけの僅かな設計変更で上記の効果を得ることができるので、構成を簡素化することができる。
【0067】
<第3の実施形態>
図8には、本発明の第3実施形態に係る乗員保護装置10においてサイドエアバッグ46が膨張展開した状態が側面図にて示されている。この実施形態では、サイドエアバッグ46の下端部には、サイドエアバッグ46の膨張展開状態で車両後方側へ向けて曲がるように形成された曲げ部48Cが設けられている。この曲げ部48Cは、車両の鉛直方向に対して車両後方側へ曲がるように設定されている。この曲げ部48Cの下端には、下側噴出口52が形成されている。この下側噴出口52からは、車両後方斜め下方へ向けてガスが噴出される。上記の曲げ部48Cは、サイドエアバッグ46の膨張展開時に、車両の鉛直方向に対して車両後方斜め下方側へ向かうガスの流れを生成するガス流れ生成部を構成している。このガス流れ生成部は、下側噴出口52から腰部チャンバ46D内へガスが噴出している状態で、腰部チャンバ46Dを腰部Wの側方に留める留め部を構成している。なお、
図8に示される矢印Gは、下側噴出口52からのガスの噴出方向を示している。
【0068】
この実施形態では、上記以外の構成は第1実施形態と同様とされている。よって、この実施形態においても、第1実施形態と基本的に同様の作用及び効果が得られる。しかも、この実施形態では、サイドエアバッグ46が膨張展開する際に、ダクト48の下端部に形成された曲げ部48Cが車両後方側へ向けて曲がる。これにより、曲げ部48Cの下端に形成された下側噴出口52から噴出するガスを、車両後方斜め下方へ向かわせることができる。その結果、下側噴出口52から噴出されるガスの噴出力によって、腰部チャンバ46Dが車両前方側へ変位することを抑制できる。これにより、腰部チャンバ46Dを腰部Wの側方に留める効果が向上する。しかも、ダクト48の下端部に上記のような曲げ部48Cを設定するだけの僅かな設計変更で上記の効果を得ることができるので、構成を簡素化することができる。
【0069】
<実施形態の補足説明>
上記の第2実施形態及び第3実施形態では、腰部チャンバ46Dの前縁部46D1が、サイドエアバッグ46の膨張展開状態で、車両下方側へ向かうほど車両後方側へ向かうように傾斜する構成にしたが、これに限るものではない。例えば、上記の第2実施形態及び第3実施形態において、腰部チャンバ46Dの前縁部が、サイドエアバッグ46の膨張展開状態において、車両の鉛直方向に沿う構成にしてもよい。
【0070】
また、上記各実施形態では、インフレータ44の下端部に噴出部44Aが設けられた構成にしたが、これに限らず、インフレータ44の上端部にガス噴出部が設けられた構成にしてもよい。その場合、例えばダクト48のインフレータ接続部48Bがダクト本体部48Aの上下方向中間部から延出される構成となる。
【0071】
また、上記各実施形態では、サイドエアバッグ46の膨張展開時に、ダクト48がインフレータ44より車両前方側でシートバック16の上下方向に延在する構成にしたが、これに限るものではない。インフレータの全体がダクトの内側に収容される構成にしてもよい。
【0072】
また、上記各実施形態では、3点式のシートベルト32のショルダベルト32Aに対して乗員Pの頭部H側へ頭部チャンバ46Aが膨張展開する構成にしたが、これに限るものではない。ショルダベルト32Aに対して頭部Hとは反対側すなわち車両幅方向外側へ頭部チャンバ46Aが膨張展開する構成にしてもよい。
【0073】
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記各実施形態に限定されないことは勿論である。
【符号の説明】
【0074】
10 乗員保護装置
12 車両用シート
14 シートクッション
16 シートバック
16A 外側サイド部(車両幅方向外側の側部)
18A 外サイドフレーム(サイドフレーム)
30 車両用シートベルト装置
32 3点式のシートベルト
32A ショルダベルト
40 車両用サイドエアバッグ装置
44 インフレータ
44A ガス噴出部
46 サイドエアバッグ
46A 頭部チャンバ
46D 腰部チャンバ(留め部)
46D1 前縁部
48 ダクト
48B インフレータ接続部(接続部)
48C 曲げ部(ガス流れ生成部;留め部)
50 上側噴出口
52 下側噴出口
52S 下側噴出口(ガス流れ生成部;留め部)
P 乗員
H 頭部
W 腰部