(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/30 20060101AFI20231108BHJP
B60K 6/445 20071001ALI20231108BHJP
B60W 20/50 20160101ALI20231108BHJP
F02B 67/06 20060101ALI20231108BHJP
F16H 7/08 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
B60W10/30 900
B60K6/445 ZHV
B60W20/50
F02B67/06 A
F16H7/08 B
(21)【出願番号】P 2020180540
(22)【出願日】2020-10-28
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】虫賀 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 准司
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-102992(JP,A)
【文献】特開2007-002767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/30
B60K 6/445
B60W 20/50
F02B 67/06
F16H 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、
モータジェネレータと、
前記内燃機関のクランク軸に固定された駆動スプロケットと、
前記駆動スプロケットからの駆動力が伝達される従動スプロケットと、
前記駆動スプロケット及び前記従動スプロケットに巻き掛けられたチェーンと、
揺動可能に支持された揺動ガイドと、
前記揺動ガイドを前記チェーンに押し付けるチェーンテンショナと、
前記クランク軸の回転に基づきオイルを吐出するオイルポンプと、
を備えた車両に適用され、
前記車両の走行モードを、前記内燃機関を停止させつつ前記モータジェネレータを駆動させて走行させるEVモード、及び、前記内燃機関を駆動させて走行させる非EVモードのいずれかの走行モードに制御する制御装置であって、
前記チェーンテンショナは、前記オイルポンプから供給されるオイルによりオイルダンパとしての機能を有し、
前記EVモードから前記非EVモードに移行した場合、前記EVモードが継続された時間であるEV継続時間が規定時間以上であるときの前記チェーンテンショナに供給されるオイルの供給圧力を、前記EV継続時間が前記規定時間未満であるときの前記供給圧力よりも高くする高圧処理を実行
し、
前記高圧処理では、前記EV継続時間が長いほど、前記供給圧力を高くする
車両の制御装置。
【請求項2】
内燃機関と、
モータジェネレータと、
前記内燃機関のクランク軸に固定された駆動スプロケットと、
前記駆動スプロケットからの駆動力が伝達される従動スプロケットと、
前記駆動スプロケット及び前記従動スプロケットに巻き掛けられたチェーンと、
揺動可能に支持された揺動ガイドと、
前記揺動ガイドを前記チェーンに押し付けるチェーンテンショナと、
前記クランク軸の回転に基づきオイルを吐出するオイルポンプと、
を備えた車両に適用され、
前記車両の走行モードを、前記内燃機関を停止させつつ前記モータジェネレータを駆動させて走行させるEVモード、及び、前記内燃機関を駆動させて走行させる非EVモードのいずれかの走行モードに制御する制御装置であって、
前記チェーンテンショナは、前記オイルポンプから供給されるオイルによりオイルダンパとしての機能を有し、
前記EVモードから前記非EVモードに移行した場合、前記EVモードが継続された時間であるEV継続時間が規定時間以上であるときの前記チェーンテンショナに供給されるオイルの供給圧力を、前記EV継続時間が前記規定時間未満であるときの前記供給圧力よりも高くする高圧処理を実行
し、
前記EVモードから前記非EVモードに移行した後、前記高圧処理の前に、前記オイルポンプの目標圧力を、前記高圧処理での前記供給圧力よりも高い充填圧力にする充填処理を実行し、
前記充填処理での前記充填圧力は、前記EV継続時間に基づいて変化しない
車両の制御装置。
【請求項3】
前記高圧処理は、前記内燃機関の機関回転速度が予め定められた規定回転速度以下であることを条件に実行する
請求項1又は請求項2に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の車両は、駆動スプロケット、2つの従動スプロケット、チェーン、揺動ガイド、及びチェーンテンショナを備えている。駆動スプロケットは、内燃機関のクランク軸に取り付けられている。従動スプロケットは、内燃機関の吸気カム軸及び排気カム軸に、それぞれ取り付けられている。チェーンは、駆動スプロケット及び2つの揺動スプロケットに巻き掛けられている。揺動ガイドは、チェーンの近傍に位置している。内燃機関は、揺動ガイドを、揺動可能に支持している。チェーンテンショナは、揺動ガイドを、チェーンへと押し付けている。すなわち、チェーンテンショナは、揺動ガイドを介して、チェーンに張力を与えている。また、チェーンテンショナにはオイルが供給される。そして、チェーンテンショナは、オイルダンパとしての機能を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関に加えて、駆動源としてのモータジェネレータを備える車両が知られている。また、こうした車両では、内燃機関を停止させつつモータジェネレータを駆動させて走行するEVモードでの走行が可能になっている。
【0005】
ここで、EVモードで走行可能な車両が、特許文献1に記載のチェーンテンショナを備えていたとする。EVモード中は内燃機関が停止しているため、内燃機関を駆動源として動作するオイルポンプからチェーンテンショナへのオイルの供給も停止する。この状態で、チェーンからチェーンテンショナへと力が作用して、チェーンテンショナが動作すると、オイルポンプからチェーンテンショナへの油路に混入している空気がチェーンテンショナ内に入り込むことがある。そして、一旦、チェーンテンショナ内に空気が入り込んでしまうと、その空気をチェーンテンショナ外に排出するまでに時間がかかり、その間、チェーンテンショナがオイルダンパとして期待される効果を発揮できないおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための車両の制御装置は、内燃機関と、モータジェネレータと、前記内燃機関のクランク軸に固定された駆動スプロケットと、前記駆動スプロケットからの駆動力が伝達される従動スプロケットと、前記駆動スプロケット及び前記従動スプロケットに巻き掛けられたチェーンと、揺動可能に支持された揺動ガイドと、前記揺動ガイドを前記チェーンに押し付けるチェーンテンショナと、前記クランク軸の回転に基づきオイルを吐出するオイルポンプと、を備えた車両に適用され、前記車両の走行モードを、前記内燃機関を停止させつつ前記モータジェネレータを駆動させて走行させるEVモード、及び、前記内燃機関を駆動させて走行させる非EVモードのいずれかの走行モードに制御する制御装置であって、前記チェーンテンショナは、前記オイルポンプから供給されるオイルによりオイルダンパとしての機能を有し、前記EVモードから前記非EVモードに移行した場合、前記EVモードが継続された時間であるEV継続時間が規定時間以上であるときの前記チェーンテンショナに供給されるオイルの供給圧力を、前記EV継続時間が前記規定時間未満であるときの前記供給圧力よりも高くする高圧処理を実行する。
【0007】
上記構成によれば、EV継続時間が規定時間以上である場合、すなわちチェーンテンショナの内部に空気が存在する可能性が高い場合には供給圧力が高くなる。そのため、EV継続時間が規定時間未満のときと同じ供給圧力である場合に比べて、チェーンテンショナの内部に流入するオイルの量が多くなり、チェーンテンショナの内部から排出されるオイルの量も多くなる。このオイルの排出に伴って、チェーンテンショナの内部に存在する空気が外部に排出されやすいので、EVモードから非EVモードに移行したときにチェーンテンショナの内部に空気が存在したとしても、その空気を速やかに排出できる。
【0008】
上記構成において、前記高圧処理は、前記内燃機関の機関回転速度が予め定められた規定回転速度以下であることを条件に実行してもよい。上記構成によれば、内燃機関の機関回転速度が規定回転速度を超えていて、オイルポンプからチェーンテンショナに供給されるオイルの圧力として十分な圧力が確保可能な場合には、高圧処理が実行されない。したがって、例えば、高圧処理を実行することに伴うエネルギー損失を防げる。
【0009】
上記構成において、前記高圧処理では、前記EV継続時間が長いほど、前記供給圧力を高くしてもよい。上記構成によれば、EV継続時間が長くて、チェーンテンショナの内部に存在する空気の量が多くなっている可能性が高いほど、高圧処理での供給圧力が高くなる。したがって、EV継続時間が長くても、その後の非EVモードにおいてチェーンテンショナの内部の空気を速やかに排出できる。
【0010】
上記構成において、前記EVモードから前記非EVモードに移行した後、前記高圧処理の前に、前記オイルポンプの目標圧力を、前記高圧処理での前記供給圧力よりも高い充填圧力にする充填処理を実行し、前記充填処理での前記充填圧力は、前記EV継続時間に基づいて変化しなくてもよい。
【0011】
上記構成によれば、EVモードから非EVモードに移行したときに充填処理が実行されるので、オイルポンプからチェーンテンショナまでの油路内のオイルの圧力が速やかに上昇する。その一方で、EV継続時間に応じて、充填処理での高い充填圧力がさらに高められるといったことは生じないので、例えばオイルポンプ及び油路に過度な負担を与えることはない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図5】(a)は、HVモードの選択状況の変化を示すタイムチャート。(b)は、EVモードの選択状況の変化を示すタイムチャート。(c)は、内燃機関の駆動状況の変化を示すタイムチャート。(d)は、第2モータジェネレータの駆動状況の変化を示すタイムチャート。(e)は、オイルポンプの目標圧力の変化を示すタイムチャート。(f)は、チェーンテンショナのダンピング力の変化を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を
図1~
図5にしたがって説明する。先ず、本発明の制御装置90が適用された車両100の概略構成について説明する。
図1に示すように、車両100は、動力が伝達される経路として、内燃機関10、動力分割機構40、リダクション機構50、第1モータジェネレータ61、第2モータジェネレータ62、伝達機構66、ディファレンシャル67、及び複数の駆動輪68を備えている。
【0014】
内燃機関10は、出力軸としてクランク軸11を備えている。クランク軸11は、動力分割機構40に接続している。動力分割機構40は、サンギア41、キャリア42、複数のピニオンギア43、リングギア44、及びリングギア軸45を有する遊星歯車機構である。外歯歯車のサンギア41及び内歯歯車のリングギア44は、同軸上に位置している。サンギア41は、複数のピニオンギア43を介してリングギア44に連結している。キャリア42は、ピニオンギア43を自転可能な状態で支持している。また、キャリア42は、ピニオンギア43を公転可能に支持している。すなわち、ピニオンギア43は、キャリア42の回転に伴い公転する。キャリア42は、クランク軸11に接続している。サンギア41は、第1モータジェネレータ61の回転軸に連結している。
【0015】
内燃機関10のトルクがキャリア42に入力されると、当該内燃機関10のトルクは、サンギア41側とリングギア44側とに分配される。そして、サンギア41を介して伝達された内燃機関10のトルクが第1モータジェネレータ61の回転軸に入力されると、第1モータジェネレータ61が発電機として機能する。
【0016】
一方、第1モータジェネレータ61を電動機として機能させた場合、第1モータジェネレータ61のトルクがサンギア41に入力される。すると、サンギア41に入力された第1モータジェネレータ61のトルクは、キャリア42側とリングギア44側とに分配される。そして、キャリア42を介して伝達された第1モータジェネレータ61のトルクが内燃機関10のクランク軸11に入力されると、内燃機関10のクランク軸11が回転する。すなわち、第1モータジェネレータ61は、内燃機関10にトルクを作用させることが可能である。
【0017】
リングギア44は、リングギア軸45に連結している。リングギア軸45は、リングギア44と一体に回転する。リングギア軸45は、伝達機構66に接続している。伝達機構66は、例えば減速歯車機構及び自動変速機を含んでいる。伝達機構66は、ディファレンシャル67を介して駆動輪68に接続している。ディファレンシャル67は、左右の駆動輪68に回転速度差が生じることを許容する。
【0018】
また、リングギア軸45は、リダクション機構50に接続している。リダクション機構50は、サンギア51、キャリア52、複数のピニオンギア53、リングギア54、及びケース55を有する遊星歯車機構である。外歯歯車のサンギア51及び内歯歯車のリングギア54は、同軸上に位置している。サンギア51は、複数のピニオンギア53を介してリングギア54に連結している。キャリア52は、ピニオンギア53を自転可能な状態で支持している。キャリア52は、リダクション機構50のケース55に固定されている。すなわち、キャリア52は、回転不可能であり、ピニオンギア53は、キャリア52により公転不可能な状態になっている。リングギア54は、リングギア軸45に接続している。サンギア51は、第2モータジェネレータ62の回転軸に接続している。
【0019】
第2モータジェネレータ62は、車両100を減速させる際に発電機として機能することで、第2モータジェネレータ62の発電量に応じた回生制動力を車両100に発生させることができる。
【0020】
一方、第2モータジェネレータ62を電動機として機能させた場合、第2モータジェネレータ62のトルクは、リダクション機構50、リングギア軸45、伝達機構66、及びディファレンシャル67を介して駆動輪68に入力される。すると、第2モータジェネレータ62のトルクによって、駆動輪68が回転する。
【0021】
車両100は、電力を授受するための装置として、第1インバータ71、第2インバータ72、及びバッテリ73を備えている。第1インバータ71は、第1モータジェネレータ61とバッテリ73との間の電力の授受量を調整する。第2インバータ72は、第2モータジェネレータ62とバッテリ73との間の電力の授受量を調整する。
【0022】
図1に示すように、車両100は、オイルを供給するための機構として、供給通路76、及びオイルポンプ77を備えている。オイルポンプ77は、クランク軸11に連結しており、当該クランク軸11が回転することにより駆動する。したがって、オイルポンプ77は、クランク軸11の回転に基づきオイルを吐出する、いわゆる機械式のオイルポンプである。また、オイルポンプ77は、図示しない調整バルブを制御してオイルポンプ77の容量を調整することにより、クランク軸11が1回転する際に吐出するオイルの量を変更可能である。すなわち、オイルポンプ77は、容量可変式ポンプである。供給通路76は、オイルポンプ77に接続している。供給通路76は、オイルポンプ77から吐出されるオイルを、内燃機関10の各所に供給する。
【0023】
図2に示すように、車両100は、クランク軸11の駆動力を他の装置に伝達するためのチェーン機構20を備えている。チェーン機構20は、駆動スプロケット21、吸気側スプロケット22、排気側スプロケット23、チェーン24、固定ガイド25、揺動ガイド26、カバー27、及びチェーンテンショナ30を備えている。
【0024】
駆動スプロケット21は、クランク軸11に取り付けられている。吸気側スプロケット22は、内燃機関10の図示しない吸気カム軸に取り付けられている。排気側スプロケット23は、内燃機関10の図示しない排気側カム軸に取り付けられている。なお、吸気カム軸は、内燃機関10の吸気バルブを開閉させるためのものであり、排気カム軸は、内燃機関10の排気バルブを開閉させるためのものである。チェーン24は、駆動スプロケット21、吸気側スプロケット22、及び排気側スプロケット23に巻き掛けられている。したがって、駆動スプロケット21が回転すると、チェーン24が走行し、吸気側スプロケット22及び排気側スプロケット23に駆動力が伝達されて吸気側スプロケット22及び排気側スプロケット23が回転する。したがって、本実施形態において、吸気側スプロケット22及び排気側スプロケット23は、従動スプロケットである。
【0025】
カバー27は、吸気側スプロケット22及び排気側スプロケット23の近傍に位置している。カバー27は、チェーン24のうち、吸気側スプロケット22及び排気側スプロケット23に巻き掛けられた部分をチェーン24の外側から覆っている。
【0026】
固定ガイド25は、チェーン24で囲まれる領域の外であって当該チェーン24の近傍に位置している。固定ガイド25は、駆動スプロケット21及び排気側スプロケット23の間に位置している。固定ガイド25は、駆動スプロケット21から排気側スプロケット23に向かうように延びている。固定ガイド25は、ボルトにより内燃機関10の外面に固定されている。固定ガイド25は、チェーン24で囲まれる領域の外から当該チェーン24に接触している。
【0027】
揺動ガイド26は、チェーン24で囲まれる領域の外であって当該チェーン24の近傍に位置している。揺動ガイド26は、駆動スプロケット21及び吸気側スプロケット22の間に位置している。揺動ガイド26は、ガイド本体26A、支持突起26B、当接突起26C、及び回動軸26Dを備えている。ガイド本体26Aは、駆動スプロケット21から吸気側スプロケット22に向かうように延びている。ガイド本体26Aは、長手方向の中央部分がチェーン24に向かって湾曲した略弓型形状になっている。支持突起26Bは、ガイド本体26Aにおける駆動スプロケット21に近い端部に位置している。支持突起26Bは、チェーン24から離れる方向に突出している。回動軸26Dは、支持突起26Bを貫通している。回動軸26Dは、内燃機関10に固定されている。支持突起26B及びガイド本体26Aは、回動軸26Dを中心軸として揺動可能になっている。当接突起26Cは、ガイド本体26Aにおける長手方向の中央部分よりも吸気側スプロケット22に近い箇所に位置している。当接突起26Cは、チェーン24から離れる方向に突出している。
図3に示すように、当接突起26Cにおける突出端面は、当該突出端面の中央部分が窪むように湾曲している。
【0028】
図2に示すように、チェーンテンショナ30は、揺動ガイド26を挟んで、チェーン24とは反対側に位置している。
図3に示すように、チェーンテンショナ30は、ハウジング31、プランジャ32、付勢バネ33、逆止弁機構34、上側フランジ36、及び下側フランジ37を備えている。
【0029】
図3に示すように、ハウジング31は、略円筒形状になっており、第1端に開口を有し、第2端が閉塞している。ハウジング31の開口は、当接突起26Cを向いている。ハウジング31の内面は、内部空間31A、拡径空間31B、及び供給孔31Cを区画している。内部空間31Aは、ハウジング31の開口から底面に延びており、略円柱形状の空間になっている。拡径空間31Bは、内部空間31Aの軸線方向の略中央部分に接続している。拡径空間31Bは、内部空間31Aを周方向に取り囲んでおり、略円環形状の空間になっている。供給孔31Cは、拡径空間31Bからハウジング31の外周面まで貫通している。供給孔31Cは、供給通路76に接続している。
【0030】
上側フランジ36は、ハウジング31の外周面から上側に向かって突出している。上側フランジ36は、ボルトにより内燃機関10の外面に固定されている。下側フランジ37は、ハウジング31の外周面から下側に向かって突出している。下側フランジ37は、ボルトにより内燃機関10の外面に固定されている。
【0031】
プランジャ32は、略円柱形状になっている。プランジャ32の外径は、ハウジング31における内部空間31Aの内径よりもわずかに小さくなっている。プランジャ32は、ハウジング31における内部空間31Aに位置している。プランジャ32の第1端を含む一部分は、内部空間31Aから突出している。プランジャ32の第1端を含む端面は、揺動ガイド26の当接突起26Cに当接している。プランジャ32の第1端を含む端面は、中央部分が突出するように湾曲している。また、プランジャ32の第2端を含む端面とハウジング31における内部空間31Aの底面との間には、オイルが供給される油圧室30Aが区画されている。なお、チェーンテンショナ30は、油圧室30Aに供給されるオイルによりオイルダンパとしても機能する。
【0032】
プランジャ32は内部に空間を有している。プランジャ32の内面は、第1空間32A、第2空間32B、接続孔32C、及び導入孔32Dを区画している。第2空間32B、接続孔32C、及び第1空間32Aは、プランジャ32における第2端から第1端に向かって第2空間32B、接続孔32C、及び第1空間32Aの順で並んでいる。第2空間32Bは、略円柱形状の空間になっている。第2空間32Bは、油圧室30Aに開放している。接続孔32Cは、第2空間32Bに接続している。接続孔32Cは、略円柱形状の空間になっている。接続孔32Cの内径は、第2空間32Bの内径よりも小さくなっている。第1空間32Aは、接続孔32Cに接続している。第1空間32Aは、略円柱形状の空間になっている。第1空間32Aの内径は、接続孔32Cの内径よりも大きくなっている。導入孔32Dは、第1空間32Aからプランジャ32の外周面まで貫通している。
【0033】
付勢バネ33は、ハウジング31とプランジャ32との間に位置している。付勢バネ33は、圧縮されている。付勢バネ33の第1端は、ハウジング31の内部空間31Aを区画する底面に接触している。付勢バネ33の第2端を含む一部は、プランジャ32の第2空間32Bに位置しており、当該第2空間32Bを区画する底面に接触している。付勢バネ33は、プランジャ32を揺動ガイド26の当接突起26Cに向かって付勢している。
【0034】
逆止弁機構34は、プランジャ32の第2空間32Bに位置しており、当該第2空間32Bを区画する底面に取り付けられている。逆止弁機構34は、第1空間32A及び第2空間32Bのオイルの圧力に応じて、接続孔32Cを介する第1空間32A及び第2空間32Bの間のオイルの流通を規制する。具体的には、逆止弁機構34は、第1空間32Aのオイルの圧力が第2空間32Bのオイルの圧力に比べて高い場合、接続孔32Cを介する第1空間32Aから第2空間32Bへのオイルの流通を許容する。一方、逆止弁機構34は、第1空間32Aのオイルの圧力が第2空間32Bのオイルの圧力以下である場合、接続孔32Cを介する第2空間32Bから第1空間32Aへのオイルの流通を規制する。
【0035】
次に、車両100の電気的構成について説明する。
図1に示すように、車両100は、クランク角センサ81、アクセル開度センサ83、車速センサ84、及びアクセルペダル89を備えている。クランク角センサ81は、クランク軸11の近傍に取り付けられている。クランク角センサ81は、クランク軸11の回転角であるクランク角SCを検出する。アクセル開度センサ83は、運転者により操作されるアクセルペダル89の近傍に取り付けられている。アクセル開度センサ83は、運転者により操作されるアクセルペダル89の操作量であるアクセル開度ACCを検出する。車速センサ84は、車両100の速度である車速SPを検出する。
【0036】
車両100は、制御装置90を備えている。制御装置90には、クランク角SCを示す信号がクランク角センサ81から入力される。制御装置90には、アクセル開度ACCを示す信号がアクセル開度センサ83から入力される。制御装置90には、車速SPを示す信号が車速センサ84から入力される。制御装置90は、クランク角SCに基づいて、クランク軸11の回転速度である機関回転速度NEを算出する。
【0037】
また、制御装置90は、アクセル開度ACC及び車速SPに基づいて、車両100が走行するために必要な出力の要求値である車両要求出力を算出する。制御装置90は、車両要求出力に基づいて、内燃機関10、第1モータジェネレータ61、及び第2モータジェネレータ62のトルク配分を決定する。制御装置90は、内燃機関10、第1モータジェネレータ61、及び第2モータジェネレータ62のトルク配分に基づいて、内燃機関10の出力と、第1モータジェネレータ61及び第2モータジェネレータ62の力行及び回生とを制御する。
【0038】
制御装置90は、内燃機関10に制御信号を出力することにより、当該内燃機関10における吸入空気量の調整、燃料噴射量の調整、点火時期の調整などの各種の制御を実行する。また、制御装置90は、第1モータジェネレータ61を制御するにあたって、第1インバータ71に制御信号を出力する。そして、制御装置90は、第1インバータ71を介して、第1モータジェネレータ61とバッテリ73との間の電力の授受量を調整することにより、第1モータジェネレータ61を制御する。さらに、制御装置90は、第2モータジェネレータ62を制御するにあたって、第2インバータ72に制御信号を出力する。そして、制御装置90は、第2インバータ72を介して、第2モータジェネレータ62とバッテリ73との間の電力の授受量を調整することにより、第2モータジェネレータ62を制御する。
【0039】
制御装置90は、車両100が走行する場合、車両100の走行モードとして、EVモード及びHVモードの何れか一方を選択する。ここで、EVモードとは、内燃機関10を停止させつつ、第1モータジェネレータ61や第2モータジェネレータ62を駆動させる車両100の走行モードである。したがって、EVモードでは、第1モータジェネレータ61のトルクや、第2モータジェネレータ62のトルクによって車両100を走行させる。また、HVモードとは、第1モータジェネレータ61及び第2モータジェネレータ62に加えて、内燃機関10を駆動させる車両100の走行モードである。したがって、HVモードでは、第1モータジェネレータ61及び第2モータジェネレータ62のトルクに加えて、内燃機関10のトルクによって車両100を走行させる。本実施形態において、HVモードは非EVモードの一例である。
【0040】
制御装置90は、例えば、バッテリ73の残容量に十分な余裕がある場合には、車両100の発進時及び軽負荷走行時においてEVモードを選択する。一方、制御装置90は、例えば、バッテリ73の残容量に十分な余裕がない場合には、HVモードを選択する。
【0041】
制御装置90は、車両100の走行モードとしてHVモードを選択している場合、オイルポンプ77から供給通路76に吐出されるオイルの通常時の目標圧力として通常圧力PBを算出する。具体的には、制御装置90は、機関回転速度NEが高いほど、通常圧力PBとして高い値を算出する。通常圧力PBの一例は、数十kPa~百数十kPa程度である。また、制御装置90は、状況に応じて、オイルポンプ77から供給通路76に吐出されるオイルの目標圧力として、通常圧力PBよりも大きな値を設定する。オイルの目標圧力の設定についての詳細は後述する。制御装置90は、設定した目標圧力が高いほど、オイルポンプ77の吐出量が大きくなるように、オイルポンプ77を制御する。
【0042】
制御装置90は、車両100の走行モードとしてEVモードを選択している場合、EVモードが継続している時間であるEV継続時間TEをカウントする。なお、上述したとおり、EVモードのときには内燃機関10は停止している。これに伴い、オイルポンプ77も停止している。したがって、EVモードのときには、制御装置90は、オイルポンプ77から供給通路76に吐出されるオイルの目標圧力を算出しない。
【0043】
上記の制御装置90は、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って各種処理を実行する1つ以上のプロセッサを含む回路(circuitry)として構成し得る。なお、制御装置90は、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する、特定用途向け集積回路(ASIC)等の1つ以上の専用のハードウェア回路、又はそれらの組み合わせを含む回路として構成してもよい。プロセッサは、CPU及び、RAM並びにROM等のメモリを含む。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる媒体を含む。
【0044】
次に、オイルポンプ77から吐出されるオイルの目標圧力を設定する圧力制御について説明する。制御装置90は、車両100の走行モードが、HVモードからEVモードに移行したときに、圧力制御を実行する。
【0045】
図4に示すように、圧力制御が開始されると、ステップS11において、制御装置90は、オイルポンプ77の目標圧力として、予め定められた充填圧力PAを設定する。そして、制御装置90は、設定された充填圧力PAに基づいて、オイルポンプ77に制御信号を出力することにより当該オイルポンプ77を制御する。充填圧力PAは、内燃機関10の始動時において供給通路76内のオイルの圧力を速やかに上昇するための目標値であり、通常圧力PBよりも高い一定の固定値が定められている。したがって、充填圧力PAは、EV継続時間TEに基づいて変化しない。充填圧力PAの一例は、オイルポンプ77が吐出できるオイルの圧力の最大値であり、数百kPa程度である。その後、制御装置90は、処理をステップS12に進める。
【0046】
ステップS12において、制御装置90は、ステップS11を実行してからの継続時間である充填継続時間T1が予め定められた第1所定時間C1以上であるか否かを判定する。第1所定時間C1は、充填圧力PAを設定してから供給通路76内のオイルの圧力を十分に高めるまでに必要な時間として、実験等により定められている。第1所定時間C1の一例は、十数秒程度である。本実施形態において、ステップS11及びステップS12の処理が充填処理である。
【0047】
ステップS12において、制御装置90は、充填継続時間T1が第1所定時間C1未満であると判定した場合(S12:NO)、ステップS12の処理を再び実行する。ステップS12において、制御装置90は、充填継続時間T1が第1所定時間C1以上であると判定した場合(S12:YES)、処理をステップS13に進める。
【0048】
ステップS13において、制御装置90は、EV継続時間TEが予め定められた規定時間A以上であるか否かを判定する。規定時間Aは、以下のように定められている。EVモードが継続されているときには、チェーンテンショナ30の内部に空気が入り込むことがある。そして、EVモードが継続しているときにチェーンテンショナ30の内部に入り込む空気の量は、EV継続時間TEが長いほど多くなる傾向がある。そして、チェーンテンショナ30の内部に入り込む空気の量がある一定の量を超えると、チェーンテンショナ30のオイルダンパとしての機能に与える悪影響が無視できなくなる。そこで、規定時間Aは、チェーンテンショナ30のオイルダンパとしての機能に悪影響を与えるだけの空気が入り込み得る時間として実験等により定められている。規定時間Aの一例は、数十分程度である。
【0049】
ステップS13において、制御装置90は、EV継続時間TEが規定時間A未満であると判定した場合(S13:NO)、処理をステップS31に進める。一方、ステップS13において、制御装置90は、EV継続時間TEが規定時間A以上であると判定した場合(S13:YES)、処理をステップS14に進める。なお、制御装置90は、ステップS13の判定後にEV継続時間TEをリセットする。
【0050】
ステップS14において、制御装置90は、機関回転速度NEが予め定められた規定回転速度Bよりも小さいか否かを判定する。規定回転速度Bは、以下のように定められている。上述したように、制御装置90は、機関回転速度NEが高いほど、通常圧力PBとして高い値を算出する。そこで、規定回転速度Bは、通常圧力PBが予め定められた閾値より小さいことを判定するための値として定められている。通常圧力PBの閾値は、充填圧力PAを、後述する補正係数で除算した値に定められている。規定回転速度Bの一例は、数千rpm程度である。ステップS14において、制御装置90は、機関回転速度NEが規定回転速度B以上であると判定した場合(S14:NO)、処理をステップS31に進める。
【0051】
上述したように、制御装置90は、ステップS13の処理で否定判定した場合、又はステップS14の処理で否定判定した場合、処理をステップS31に進める。ステップS31において、制御装置90は、オイルポンプ77の目標圧力として通常圧力PBを設定する。そして、制御装置90は、設定された通常圧力PBに基づいて、オイルポンプ77に制御信号を出力することにより当該オイルポンプ77を制御する。その後、制御装置90は、今回の圧力制御を終了する。
【0052】
一方、ステップS14において、制御装置90は、機関回転速度NEが規定回転速度Bよりも小さいと判定した場合(S14:YES)、処理をステップS21に進める。
ステップS21において、通常圧力PBに補正係数を乗算することにより補正圧力PCを算出する。補正係数は、補正圧力PCとして、通常圧力PBよりも大きい値を算出するために実験等により予め定められている。したがって、補正係数の一例は、1よりも大きい固定値である。なお、上述したとおり、ステップS21が実行されるときには、通常圧力PBは閾値より小さい。そして、この閾値は、充填圧力PAを補正係数で除算した値である。したがって、通常圧力PBに補正係数を乗算した値である補正圧力PCは、充填圧力PAよりも小さい。その後、制御装置90は、処理をステップS22に進める。
【0053】
ステップS22において、制御装置90は、オイルポンプ77の目標圧力として補正圧力PCを設定する。そして、制御装置90は、設定された補正圧力PCに基づいて、オイルポンプ77に制御信号を出力することにより当該オイルポンプ77を制御する。その後、制御装置90は、処理をステップS23に進める。
【0054】
ステップS23において、制御装置90は、補正圧力PCを設定してからの継続時間である補正継続時間T2が予め定められた第2所定時間C2以上であるか否かを判定する。第2所定時間C2は、補正圧力PCを設定してからチェーンテンショナ30の内部に存在する全ての空気が排出されるまでに必要な時間が実験等により定められている。第2所定時間C2の一例は、数十秒~数分程度である。
【0055】
本実施形態では、ステップS21~ステップS23の処理により、オイルポンプ77の目標圧力として補正圧力PCが設定される。その結果、チェーンテンショナ30の内部に供給されるオイルの供給圧力は、オイルポンプ77の目標圧力として通常圧力PBを設定する場合に比べて高くなる。また、ステップS21~ステップS23は、ステップS13の判定が肯定である場合に実行される。したがって、ステップS21~ステップS23の処理は、EV継続時間TEが規定時間A以上であるときに供給圧力を高くする高圧処理である。
【0056】
ステップS23において、制御装置90は、補正継続時間T2が第2所定時間C2未満であると判定した場合(S23:NO)、ステップS23の処理を再び実行する。一方、ステップS23において、制御装置90は、補正継続時間T2が第2所定時間C2以上であると判定した場合(S23:YES)、処理をステップS24に進める。
【0057】
ステップS24において、制御装置90は、オイルポンプ77の目標圧力として通常圧力PBを設定する。そして、制御装置90は、設定された通常圧力PBに基づいて、オイルポンプ77に制御信号を出力することにより当該オイルポンプ77を制御する。その後、制御装置90は、今回の圧力制御を終了する。
【0058】
本実施形態の作用について説明する。
なお、
図5(e)に示すように、オイルポンプ77から供給通路76に吐出されるオイルの目標圧力が算出されていない場合、便宜上、オイルポンプ77の目標圧力を「0」とする。
【0059】
図5(a)に示すように、時刻t11において、車両100のシステムが駆動して、車両100の走行モードとして、HVモードが選択されたとする。すると、
図5(c)に示すように、時刻t11において内燃機関10が駆動する。また、内燃機関10が駆動してクランク軸11が回転すると、オイルポンプ77が駆動してオイルを吐出する。そして、オイルポンプ77からのオイルが供給通路76及びチェーンテンショナ30の内部に供給されていく。このとき、チェーンテンショナ30では、ハウジング31における供給孔31C、プランジャ32における導入孔32D、第1空間32A、接続孔32C、及び第2空間32Bを介して、油圧室30Aにオイルが供給される。その結果、チェーンテンショナ30は、油圧室30Aのオイルの圧力及び付勢バネ33の付勢力に応じてプランジャ32の突出量が大きくなることにより、揺動ガイド26をチェーン24に押し付ける。
【0060】
また、チェーンテンショナ30では、チェーン24の走行に伴って揺動ガイド26からプランジャ32に力が作用する。揺動ガイド26からプランジャ32に作用する力が大きくなると、プランジャ32の突出量が小さくなる。すると、ハウジング31の内周面とプランジャ32の外周面との間を介して、油圧室30Aからオイルが流出することにより、揺動ガイド26からプランジャ32に作用する力が減衰する。したがって、チェーンテンショナ30は、オイルポンプ77から供給されるオイルによりオイルダンパとして機能する。
【0061】
その後、
図5(b)に示すように、時刻t13において、車両100の走行モードとして、EVモードが選択されたとする。すると、
図5(c)及び
図5(d)に示すように、時刻t13において、内燃機関10が停止するとともに第2モータジェネレータ62が駆動する。このように内燃機関10が停止するとオイルポンプ77も停止するため、時刻t13以降においては、オイルポンプ77から供給通路76及びチェーンテンショナ30の内部へのオイルの供給が停止する。その結果、時刻t13以降においては、チェーンテンショナ30の内部のオイルの圧力が次第に低下していくことにより、
図5(f)に示すように、チェーンテンショナ30のオイルダンパとしての機能、すなわちダンピング力も低下していく。
【0062】
図5(c)に示すように、時刻t13~時刻t21においては、内燃機関10が駆動していないため、内燃機関10の駆動力によってクランク軸11が回転することはない。ただし、
図5(d)に示すように、時刻t13~時刻t21においては、第2モータジェネレータ62が駆動しているため、当該第2モータジェネレータ62の駆動力がリダクション機構50及び動力分割機構40を介してクランク軸11に伝達することがある。すると、第2モータジェネレータ62の駆動力によってクランク軸11が僅かに正回転したり、僅かに逆回転したりする。このようにクランク軸11が揺動するとチェーン24の張力が変化するため、チェーン24から揺動ガイド26を介してチェーンテンショナ30に力が作用する。揺動ガイド26からプランジャ32に作用する力が大きくなると、プランジャ32の突出量が小さくなる。すると、ハウジング31の内周面とプランジャ32の外周面との間を介して、油圧室30Aからオイルが流出する。一方、揺動ガイド26からプランジャ32に作用する力が小さくなると、付勢バネ33の付勢力によりプランジャ32の突出量が大きくなる。このとき、オイルポンプ77が停止していて供給通路76のオイルの圧力が低くなっているため、供給通路76に空気が混入していることがある。そのため、プランジャ32の突出量が大きくなるときには、供給通路76に混入している空気がチェーンテンショナ30の油圧室30Aに入り込むことがある。特に、時刻t13~時刻t21の時間であるEV継続時間TEが長いほど、チェーンテンショナ30の油圧室30Aに空気が入り込む機会が多くなるため、油圧室30Aに空気が入り込む可能性が高い。
【0063】
その後、
図5(a)に示すように、時刻t21において、車両100の走行モードとして、再びHVモードが選択されたとする。すると、
図5(c)に示すように、時刻t21において、内燃機関10が駆動する。また、
図5(e)に示すように、時刻t21において、オイルポンプ77の目標圧力として充填圧力PAが設定されると、供給通路76を介してチェーンテンショナ30の油圧室30Aにオイルが供給されていく。そのため、チェーンテンショナ30の油圧室30Aに空気が流入していても、
図5(f)において実線で示すように、時刻t21~時刻t22においては、チェーンテンショナ30のダンピング力が次第に大きくなっていく。ただし、
図5(f)において実線で示すように、チェーンテンショナ30の油圧室30Aに空気が流入している場合のチェーンテンショナ30のダンピング力は、
図5(f)において一点鎖線で示すように油圧室30Aに空気が流入していない場合に比べて小さくなってしまう。なお、このようにチェーンテンショナ30のダンピング力が小さくなると、走行するチェーン24がバタついたり、バタついたチェーン24がカバー27に接触することで異音が発生したりすることがある。
【0064】
この点、本実施形態では、EV継続時間TEが規定時間A以上である場合、
図5(e)において実線で示すように、時刻t22において、
図5(e)において二点鎖線で示す通常圧力PBよりも高い補正圧力PCが、オイルポンプ77の目標圧力として設定される。そのため、時刻t22以降においては、オイルポンプ77の目標圧力として通常圧力PBが設定される場合に比べて、チェーンテンショナ30の油圧室30Aに流入するオイルの量が多くなるとともに、油圧室30Aから排出されるオイルの量も多くなる。その後、時刻t22から第2所定時間C2が経過した時刻t23において、オイルポンプ77の目標圧力は、通常圧力PBに設定される。
【0065】
本実施形態の効果について説明する。
(1)本実施形態では、EV継続時間TEが規定時間A以上である場合に、オイルポンプ77の目標圧力が、通常圧力PBよりも高い補正圧力PCになる。そのため、油圧室30Aに流入するオイルの量が多くなり、油圧室30Aから排出されるオイルの量も多くなる。その結果、車両100の走行モードとしてEVモードからHVモードに移行したときにチェーンテンショナ30の油圧室30Aに空気が存在したとしても、その空気を油圧室30Aから排出されるオイルとともに速やかに排出できる。なお、このように油圧室30Aの空気を速やかに排出できれば、
図5(f)において実線で示すように、チェーンテンショナ30のダンピング力を速やかに回復できる。
【0066】
(2)通常圧力PBは機関回転速度NEが高いほど高い圧力が算出されるため、例えば機関回転速度NEが規定回転速度B以上である場合には通常圧力PBが十分に高くなる。このように通常圧力PBが十分に高くなっている場合に、オイルポンプ77の目標圧力として通常圧力PBよりも高い補正圧力PCを設定すると、オイルポンプ77の駆動するために用いられる内燃機関10の駆動力が無駄になる。
【0067】
この点、本実施形態では、機関回転速度NEが規定回転速度Bよりも小さいことを条件として、オイルポンプ77の目標圧力として通常圧力PBよりも高い補正圧力PCを設定する。これにより、機関回転速度NEが規定回転速度B以上であって、オイルポンプ77からチェーンテンショナ30に供給されるオイルの圧力として十分な圧力が確保可能な場合には、オイルポンプ77の目標圧力として通常圧力PBよりも高い補正圧力PCが設定されない。したがって、オイルポンプ77の駆動するために用いられる内燃機関10の駆動力が無駄に損失することを防げる。
【0068】
(3)本実施形態では、EVモードからHVモードに移行したときに、オイルポンプ77の目標圧力として、補正圧力PCよりも高い充填圧力PAが設定されるため、供給通路76のオイルの圧力が速やかに上昇する。その一方で、例えばEV継続時間TEに応じて、充填圧力PAがさらに高められるといったことは生じないので、オイルポンプ77及び供給通路76等に過度な負担を与えることを抑制できる。
【0069】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態において、補正圧力PCを算出する条件、すなわちステップS21を実行する条件を変更してもよい。例えば、制御装置90は、ステップS14の処理を省略して機関回転速度NEに拘わらず、補正圧力PCを算出してもよい。
【0070】
・上記実施形態において、補正圧力PCの算出の仕方は変更できる。例えば、通常圧力PBに補正係数を乗算して補正圧力PCを算出するのではなく、通常圧力PBに所定の補正値を加算して補正圧力PCを算出してもよい。
【0071】
・また、例えば、制御装置90は、EV継続時間TEが長いほど、補正圧力PCとして高い値を算出してもよい。この構成によれば、EV継続時間TEが長くて、チェーンテンショナ30の油圧室30Aに存在する空気の量が多くなっている可能性が高いほど、油圧室30Aに供給されるオイルの圧力が高くなる。したがって、EV継続時間TEが長くても、その後のHVモードにおいて油圧室30Aの空気を速やかに排出できる。
【0072】
・上記のようにEV継続時間TEが長いほど補正圧力PCとして高い値を算出する構成では、ステップS13の処理を省略できる。具体的には、EV継続時間TEが短いほど補正圧力PCが低い値になるため、EV継続時間TEが短い場合の補正圧力PCを通常圧力PBに代えて用いることで、ステップS13の処理を省略しても差し支えない。
【0073】
・EV継続時間TEが長いほど補正圧力PCとして高い値を算出する構成においては、EV継続時間TEが長くなるほど段階的に補正圧力PCを高くしてもよいし、EV継続時間TEと補正圧力PCとが正の比例関係にあってもよい。なお、EV継続時間TEと補正圧力PCとが正の比例関係にある場合、EV継続時間TEが任意の規定時間以上である場合の補正圧力PCは、EV継続時間TEが上記任意の規定時間より小さい場合の補正圧力PCよりも高くなる。したがって、この変更例の場合も、EV継続時間TEが規定時間以上であるときのオイルの供給圧力を、規定時間より小さいときのオイルの供給圧力よりも高くする高圧処理に該当する。
【0074】
・例えば、制御装置90は、必ずしも通常圧力PBに基づいて補正圧力PCを算出しなくてもよい。具体例としては、ステップS22において、制御装置90は、機関回転速度NEに基づき算出される通常圧力PBの範囲よりも大きい値として予め定められた一定の圧力を、オイルポンプ77の目標圧力として設定してもよい。
【0075】
・上記実施形態において、EV継続時間TEが規定時間A以上である場合に、充填圧力PAを、EV継続時間TEが規定時間Aより小さい場合の充填圧力PAよりも大きくしてもよい。ただし、この場合、EV継続時間TEが規定時間Aより小さい場合の充填圧力PAを、オイルポンプ77の最大吐出圧より小さくする必要がある。
【0076】
・上記実施形態において、通常圧力PBの算出の仕方は変更してもよい。例えば、制御装置90は、機関回転速度NEに拘わらず通常圧力PBを算出してもよい。なお、通常圧力PBとしては、予め定められた一定の固定値であってもよい。
【0077】
・上記実施形態において、車両100は、第1モータジェネレータ61及び第2モータジェネレータ62を必ずしも備えなくてもよく、少なくとも1つのモータジェネレータを備えていればよい。すなわち、車両は、1つ以上のモータジェネレータと内燃機関とを備えていればよい。
【符号の説明】
【0078】
A…規定時間
B…規定回転速度
NE…機関回転速度
PA…充填圧力
PB…通常圧力
PC…補正圧力
TE…EV継続時間
10…内燃機関
11…クランク軸
20…チェーン機構
21…駆動スプロケット
22…吸気側スプロケット
23…排気側スプロケット
24…チェーン
26…揺動ガイド
30…チェーンテンショナ
30A…油圧室
40…動力分割機構
50…リダクション機構
61…第1モータジェネレータ
62…第2モータジェネレータ
68…駆動輪
76…供給通路
77…オイルポンプ
90…制御装置
100…車両