(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】車載用インバータ装置及び車載用流体機械
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20231108BHJP
【FI】
H02M7/48 M
(21)【出願番号】P 2020214830
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】川島 隆
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-174630(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0091551(US,A1)
【文献】特開2002-165466(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載用電源を用いて車載用電動モータを駆動する車載用インバータ装置であって、
リレーを介して前記車載用電源と接続される入力端子と、
前記入力端子から入力される直流電力に含まれるノイズを低減し、コンデンサを有するフィルタ回路と、
接続線によって互いに直列に接続された上アームスイッチング素子及び下アームスイッチング素子を有し、前記フィルタ回路から入力される直流電力を交流電力に変換するインバータ回路と、
前記上アームスイッチング素子及び前記下アームスイッチング素子を制御する制御回路と、
前記制御回路と前記接続線とを接続する上アームグランドラインと、
前記制御回路に対して、前記リレー及び前記入力端子を介さずに直流電力を供給する低圧電源回路と、
を備え、
前記制御回路は、前記入力端子に直流電力が入力されていない状況において前記低圧電源回路から直流電力が供給された場合には、前記下アームスイッチング素子をON状態にする車載用インバータ装置。
【請求項2】
前記制御回路は、前記入力端子に直流電力が入力されたことに基づいて、前記下アームスイッチング素子をON状態からOFF状態に切り替える請求項1に記載の車載用インバータ装置。
【請求項3】
前記フィルタ回路は、コイルを有し、
前記フィルタ回路は、前記コイルと前記コンデンサとを含むローパスフィルタ回路を有している請求項1または請求項2に記載の車載用インバータ装置。
【請求項4】
前記車載用電動モータと、
請求項1~3のうちいずれか一項に記載の車載用インバータ装置と、
を備えている車載用流体機械。
【請求項5】
前記車載用流体機械は、前記車載用電動モータによって駆動する圧縮部を備えた車載用電動圧縮機である請求項4に記載の車載用流体機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用インバータ装置及び車載用流体機械に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に示すように、車載用電源を用いて直流電力を交流電力に変換する車載用インバータ装置が知られている。特許文献1に記載の車載用インバータ装置は、インバータ回路と、インバータ回路と車載用電源としての高電圧電源との間に設けられたフィルタ回路のコンデンサとしての平滑コンデンサと、平滑コンデンサと高電圧電源との間に設けられたリレーと、制御回路としての制御装置と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、本願発明者らは、車載用電源から車載用インバータ装置へ直流電力を供給するためのリレーがON状態となる前に、車載用インバータ装置内に設けられたフィルタ回路のコンデンサが充電される場合があることを見出した。そして、本願発明者らは、フィルタ回路のコンデンサが充電された状態でリレーがON状態となることによってリレーの動作に支障が生じ得ることを見出した。
【0005】
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、その目的はフィルタ回路のコンデンサが充電された状態でリレーがON状態となることを抑制できる車載用インバータ装置及びその車載用インバータ装置を備えた車載用流体機械を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する車載用インバータ装置は、車載用電源を用いて車載用電動モータを駆動するものであって、リレーを介して前記車載用電源と接続される入力端子と、前記入力端子から入力される直流電力に含まれるノイズを低減し、コンデンサを有するフィルタ回路と、接続線によって互いに直列に接続された上アームスイッチング素子及び下アームスイッチング素子を有し、前記フィルタ回路から入力される直流電力を交流電力に変換するインバータ回路と、前記上アームスイッチング素子及び前記下アームスイッチング素子を制御する制御回路と、前記制御回路と前記接続線とを接続する上アームグランドラインと、前記制御回路に対して、前記リレー及び前記入力端子を介さずに直流電力を供給する低圧電源回路と、を備え、前記制御回路は、前記入力端子に直流電力が入力されていない状況において前記低圧電源回路から直流電力が供給された場合には、前記下アームスイッチング素子をON状態にする。
【0007】
本願発明者らは、リレーがON状態となる前にフィルタ回路のコンデンサが充電される要因として、制御回路から漏れるリーク電流を見出した。詳細には、本願発明者らは、制御回路に対して直流電力が供給されると、制御回路内にてリーク電流が発生し、そのリーク電流によって、リレーがON状態となる前にフィルタ回路のコンデンサが充電されることを見出した。
【0008】
この知見に基づいて、本構成では、リレーがOFF状態である状況、すなわち入力端子に直流電力が入力されていない状況において、制御回路に直流電力が供給された場合には、下アームスイッチング素子がON状態となる。これにより、制御回路から漏れるリーク電流が上アームグランドラインを介して下アームスイッチング素子を流れることによって、フィルタ回路のコンデンサが充電されることを抑制できる。したがって、フィルタ回路のコンデンサが充電された状態でリレーがON状態となることを抑制できる。
【0009】
上記車載用インバータ装置について、前記制御回路は、前記入力端子に直流電力が入力されたことに基づいて、前記下アームスイッチング素子をON状態からOFF状態に切り替えるとよい。
【0010】
かかる構成によれば、リレーがON状態となり、直流電力が入力端子に入力された場合には、下アームスイッチング素子がOFF状態になる。これにより、車載用電動モータの制御を円滑に開始することができる。また、リレーがON状態となった後は、フィルタ回路のコンデンサが充電されてもリレーの動作に支障は生じにくい。したがって、リレーへの影響を抑制しつつ、車載用電動モータの制御を円滑に開始することができる。
【0011】
上記車載用インバータ装置について、前記フィルタ回路は、コイルを有し、前記フィルタ回路は、前記コイルと前記コンデンサとを含むローパスフィルタ回路を有しているとよい。
【0012】
かかる構成によれば、入力端子に入力される直流電力に含まれるノーマルモードノイズを低減できる。また、本構成によれば、上述したとおり、フィルタ回路のコンデンサが充電された状態でリレーがON状態となることを抑制できるため、例えばリレーがON状態となった場合におけるリレーへの影響を小さくするためにフィルタ回路のコンデンサの容量を小さくするといったことをする必要がない。したがって、リレーへの影響を考慮することなく、フィルタ回路のコンデンサの容量を自由に設定することができ、好適にノイズ低減または出力電圧の安定化を図ることができる。
【0013】
上記目的を達成する車載用流体機械は、前記車載用電動モータと、上述した車載用インバータ装置と、を備えている。
上記車載用流体機械は、前記車載用電動モータによって駆動する圧縮部を備えた車載用電動圧縮機であるとよい。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、フィルタ回路のコンデンサが充電された状態でリレーがON状態となることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】車載用インバータ装置の電気的構成を示すブロック図。
【
図3】フィルタ回路及びインバータ回路とリーク電流の流れを説明する回路図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、車載用インバータ装置、及び当該車載用インバータ装置を備えた車載用流体機械の一実施形態について説明する。なお、以下の記載は、一例を示すものであり、車載用インバータ装置及び車載用流体機械が本実施形態の内容に限定されるものではない。
【0017】
本実施形態では、車載用流体機械は車載用電動圧縮機であり、当該車載用電動圧縮機は車載用空調装置に用いられる。車載用空調装置及び車載用電動圧縮機の概要について説明する。
【0018】
図1に示すように、車両100に搭載されている車載用空調装置101は、車載用電動圧縮機10と、車載用電動圧縮機10に対して流体としての冷媒を供給する外部冷媒回路102とを備えている。
【0019】
外部冷媒回路102は、例えば熱交換器及び膨張弁等を有している。車載用空調装置101は、車載用電動圧縮機10によって冷媒が圧縮され、且つ、外部冷媒回路102によって冷媒の熱交換及び膨張が行われることによって、車内の冷暖房を行う。
【0020】
車載用空調装置101は、当該車載用空調装置101の全体を制御する空調ECU103を備えている。空調ECU103は、車内温度やカーエアコンの設定温度等を把握可能に構成されており、これらのパラメータに基づいて、車載用電動圧縮機10に対して指令回転速度などの各種指令を送信する。
【0021】
車両100は、車載用電源としての車載用蓄電装置104を備えている。車載用蓄電装置104は、直流電力の充放電が可能なものであれば任意であり、例えば二次電池や電気二重層キャパシタ等である。車載用蓄電装置104は、高直流電力P1を出力するものである。高直流電力P1は、車載用蓄電装置104の放電電力である。
【0022】
車載用電動圧縮機10は、車載用電動モータ11と、車載用電動モータ11によって駆動する圧縮部12と、車載用蓄電装置104を用いて車載用電動モータ11を駆動させるのに用いられる車載用インバータ装置30と、を備えている。
【0023】
車載用電動モータ11は、回転軸21と、回転軸21に固定されたロータ22と、ロータ22に対して対向配置されているステータ23と、ステータ23に捲回された3相コイル24u,24v,24wと、を有している。ロータ22は永久磁石22aを含んでいる。詳細には、永久磁石22aはロータ22内に埋め込まれている。
図2に示すように、3相コイル24u,24v,24wは例えばY結線されている。ロータ22及び回転軸21は、3相コイル24u,24v,24wが所定のパターンで通電されることにより回転する。すなわち、本実施形態の車載用電動モータ11は、3相モータである。
【0024】
なお、3相コイル24u,24v,24wの結線態様は、Y結線に限られず任意であり、例えばデルタ結線でもよい。また、車載用電動モータ11の回転速度及び加速度とは、ロータ22の回転速度及び加速度を意味する。
【0025】
圧縮部12は、車載用電動モータ11が駆動することによって流体(本実施形態では冷媒)を圧縮するものである。詳細には、圧縮部12は、回転軸21が回転することによって、外部冷媒回路102から供給された吸入冷媒を圧縮し、その圧縮された冷媒を吐出する。圧縮部12の具体的な構成は、スクロールタイプ、ピストンタイプ、ベーンタイプ等任意である。
【0026】
図2に示すように、車載用インバータ装置30は、入力端子31,32と、出力端子33,34,35と、を備えている。
入力端子31,32は、車載用インバータ装置30と車載用蓄電装置104とを接続するのに用いられるものである。本実施形態では、入力端子31,32は、リレー111,112,114,115を介して車載用蓄電装置104と接続される。詳細には、車両100は、入力端子31,32と車載用蓄電装置104とを接続する車両電源ラインLN11,LN12を有している。リレー111,114は、第1車両電源ラインLN11上に設けられている。リレー112,115は、第2車両電源ラインLN12上に設けられている。なお、本実施形態では、リレー111,112,114,115は、車載用インバータ装置30外に設けられている。
【0027】
かかる構成によれば、リレー111,112,114,115がON状態である場合に、車載用蓄電装置104から出力される高直流電力P1が入力端子31,32に入力される。一方、リレー111,112,114,115がOFF状態である場合、高直流電力P1は、入力端子31,32に入力されない。本実施形態では、リレー111,112,114,115は初期状態ではOFF状態である。
【0028】
本実施形態では、車両100は、車載用蓄電装置104に接続された平滑コンデンサ113を備えている。平滑コンデンサ113は、両車両電源ラインLN11,LN12に接続されている。平滑コンデンサ113は、リレー111,112とリレー114,115との間に設けられている。この場合、リレー111,112は、車載用蓄電装置104と平滑コンデンサ113との間に設けられており、リレー114,115は、平滑コンデンサ113と入力端子31,32との間に設けられているともいえる。なお、説明の便宜上、以下の説明では、リレー111,112をメインリレー111,112ともいい、リレー114,115をサブリレー114,115ともいう。
【0029】
出力端子33,34,35は、車載用インバータ装置30と車載用電動モータ11とを接続するのに用いられるものである。本実施形態では、出力端子33,34,35は、車載用電動モータ11の3相コイル24u,24v,24wに接続される。
【0030】
車載用インバータ装置30は、入力端子31,32から入力される高直流電力P1を交流電力に変換し、その変換された交流電力を出力端子33,34,35から出力することにより、車載用蓄電装置104を用いて車載用電動モータ11を駆動させる。
【0031】
図1及び
図2に示すように、車載用インバータ装置30は、正極母線41及び負極母線42と、インバータ回路50と、フィルタ回路60と、インバータ回路50を制御する制御回路としてのドライバ回路71及びコンプECU72と、を備えている。
【0032】
図2に示すように、正極母線41は、第1入力端子31に接続されている。正極母線41は、第1入力端子31、第1サブリレー114及び第1メインリレー111を介して車載用蓄電装置104の正極端子(+端子)に接続される。負極母線42は、第2入力端子32に接続されている。負極母線42は、第2入力端子32、第2サブリレー115及び第2メインリレー112を介して車載用蓄電装置104の負極端子(-端子)に接続される。
【0033】
インバータ回路50は、3相スイッチング素子Qu1~Qw2を有している。詳細には、インバータ回路50は、u相コイル24uに対応するu相スイッチング素子Qu1,Qu2と、v相コイル24vに対応するv相スイッチング素子Qv1,Qv2と、w相コイル24wに対応するw相スイッチング素子Qw1,Qw2と、を備えている。
【0034】
3相スイッチング素子Qu1~Qw2は、例えばIGBT等のパワースイッチング素子である。3相スイッチング素子Qu1~Qw2は、制御端子としてのゲート端子と、インバータ電流が流れるコレクタ端子及びエミッタ端子と、を有している。インバータ電流とは、3相コイル24u,24v,24wに流れる電流である。また、3相スイッチング素子Qu1~Qw2は、還流ダイオードDu1~Dw2を有している。
【0035】
但し、3相スイッチング素子Qu1~Qw2は、IGBTに限られず、任意であり、例えばMOSFETでもよい。この場合、還流ダイオードDu1~Dw2は、3相スイッチング素子Qu1~Qw2のボディダイオードによって構成されていてもよい。
【0036】
各u相スイッチング素子Qu1,Qu2は、u相接続線LNuを介して互いに直列に接続されている。u相接続線LNuは、u相出力端子33を介してu相コイル24uに接続される。
【0037】
u相上アームスイッチング素子Qu1は正極母線41に接続されており、u相下アームスイッチング素子Qu2は負極母線42に接続されている。詳細には、u相上アームスイッチング素子Qu1のコレクタ端子が正極母線41に接続されており、u相下アームスイッチング素子Qu2のエミッタ端子が負極母線42に接続されている。
【0038】
u相上アーム還流ダイオードDu1のアノードはu相接続線LNuに接続されており、u相上アーム還流ダイオードDu1のカソードは正極母線41に接続されている。u相下アーム還流ダイオードDu2のアノードは負極母線42に接続されており、u相上アーム還流ダイオードDu1のカソードはu相接続線LNuに接続されている。
【0039】
なお、他のスイッチング素子Qv1,Qv2,Qw1,Qw2の接続態様は、対応する出力端子が異なる点を除いて、u相スイッチング素子Qu1,Qu2と同様である。すなわち、v相上アームスイッチング素子Qv1とv相下アームスイッチング素子Qv2とはv相接続線LNvによって互いに直列に接続されており、w相上アームスイッチング素子Qw1とw相下アームスイッチング素子Qw2とはw相接続線LNwによって互いに直列に接続されている。
【0040】
図2に示すように、フィルタ回路60は、入力端子31,32とインバータ回路50との間に設けられている。フィルタ回路60は、入力端子31,32から入力される高直流電力P1に含まれるノイズを低減する。これにより、フィルタ回路60によってノイズが低減された直流電力がインバータ回路50に入力される。そして、インバータ回路50は、フィルタ回路60から入力される直流電力を交流電力に変換する。
【0041】
フィルタ回路60は、例えば両母線41,42上に設けられたコモンモードコイル61と、正極母線41及び負極母線42の少なくとも一方(本実施形態では正極母線41)上に設けられたノーマルモードコイル62と、フィルタコンデンサ63と、を備えている。本実施形態では、フィルタコンデンサ63が「フィルタ回路のコンデンサ」に対応する。
【0042】
フィルタコンデンサ63は、例えば、両母線41,42を介して、インバータ回路50(詳細には3相スイッチング素子Qu1~Qw2)に接続されているとともに入力端子31,32に接続されている。
【0043】
本実施形態では、ノーマルモードコイル62とフィルタコンデンサ63とによってローパスフィルタ回路が構成されている。すなわち、本実施形態のフィルタ回路60は、ノーマルモードコイル62とフィルタコンデンサ63とを含むローパスフィルタ回路を有していると言える。なお、本実施形態のフィルタコンデンサ63はXコンデンサともいえる。
【0044】
ちなみに、本実施形態のフィルタコンデンサ63の容量は、ローパスフィルタ回路の共振周波数が所望の値となり、且つ、高直流電力P1の電圧を安定化させることができるように設定されている。ただし、これに限られず、フィルタコンデンサ63の容量は任意である。
【0045】
なお、フィルタコンデンサ63の容量は、平滑コンデンサ113の容量よりも小さくてもよいし、その逆でもよい。また、フィルタコンデンサ63の容量と平滑コンデンサ113の容量とは同一でもよい。
【0046】
ドライバ回路71は、例えばIC及びスイッチング素子を有する回路である。ドライバ回路71は、高直流電力P1よりも低電圧の低直流電力P2が供給されることによって動作する回路である。ドライバ回路71は、コンプECU72からの指令に基づいて、3相スイッチング素子Qu1~Qw2を個別に駆動させる。高直流電力P1は第1電圧の直流電力ともいえ、低直流電力P2は第1電圧よりも低い第2電圧の直流電力ともいえる。
【0047】
詳細には、車載用インバータ装置30は、3相スイッチング素子Qu1~Qw2のゲート端子とドライバ回路71とを接続するゲートラインLgu1~Lgw2を有している。ドライバ回路71は、ゲートラインLgu1~Lgw2を介して、3相スイッチング素子Qu1~Qw2のゲート端子に対してゲート電圧を印加することにより、3相スイッチング素子Qu1~Qw2を個別に駆動させる。
【0048】
コンプECU72は、CPU及びメモリ等といった電子部品を有するコントローラである。コンプECU72は、ドライバ回路71に対して各種指令を出力することにより、ドライバ回路71を制御する。なお、コンプECU72は、例えば1つ以上の専用のハードウェア回路、及び、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ(回路)の少なくとも一方によって実現されていればよい。
【0049】
車載用インバータ装置30は、入力端子31,32に入力される直流電力を検出する電圧センサ73を備えている。電圧センサ73は、両母線41,42間に印加される電圧を検出することにより、入力端子31,32に高直流電力P1が入力されているか否かを検出する。そして、電圧センサ73は、両母線41,42間に印加される電圧の検出結果をコンプECU72に出力する。これにより、コンプECU72は、入力端子31,32から高直流電力P1が入力されているか否かを把握できる。
【0050】
コンプECU72は、低直流電力P2が供給されることによって動作する回路である。コンプECU72は、外部としての空調ECU103から送信される外部指令値と車載用電動モータ11の回転数とに基づいて、インバータ回路50をPWM制御することにより車載用電動モータ11の回転制御を行う。
【0051】
詳細には、コンプECU72は、3相スイッチング素子Qu1~Qw2についてPWM信号を生成し、そのPWM信号をドライバ回路71に出力する。ドライバ回路71は、コンプECU72から入力されるPWM信号に基づいて3相スイッチング素子Qu1~Qw2のゲート電圧を生成し、各ゲートラインLgu1~Lgw2を介してそのゲート電圧を出力することにより、3相スイッチング素子Qu1~Qw2を周期的にON/OFFさせる。
【0052】
図2及び
図3に示すように、車載用インバータ装置30は、リレー111,112,114,115及び入力端子31,32を介することなく、制御回路としてのドライバ回路71及びコンプECU72に対して低直流電力P2を供給する低圧電源回路80を備えている。
【0053】
低圧電源回路80は、リレー111,112,114,115及び入力端子31,32を介することなく、車両100に搭載されている低圧用電源ELと接続されるものである。低圧電源回路80は、低圧用電源ELから低直流電力P2の供給を受けることに基づいて、ドライバ回路71及びコンプECU72に対して低直流電力P2を供給する。これにより、ドライバ回路71及びコンプECU72が動作する。換言すれば、ドライバ回路71及びコンプECU72は、低直流電力P2が供給されることに基づいて、停止状態から動作状態(アクティブ状態)に切り替わるものと言える。
【0054】
なお、低圧用電源ELから低直流電力P2の供給を受けるタイミングは任意であり、例えば車両100の電源ON時でもよいし、車内エアコンの起動時でもよい。
ここで、ドライバ回路71とインバータ回路50との間に流れるリーク電流Irについて
図3を用いて説明する。説明の便宜上、
図3では、u相上アームスイッチング素子Qu1及びu相下アームスイッチング素子Qu2を示し、他の相のスイッチング素子については図示を省略する。
【0055】
図3に示すように、車載用インバータ装置30は、ドライバ回路71とインバータ回路50とを接続する配線として、ゲートラインLgu1~Lgw2とは別に、上アームグランドライン91及び下アームグランドライン92を備えている。
【0056】
上アームグランドライン91は、u相接続線LNuとドライバ回路71とを接続する配線である。ドライバ回路71は、上アームグランドライン91に入力される電位よりも高い電位をu相上アームゲートラインLgu1に出力することによりu相上アームスイッチング素子Qu1を駆動させる。
【0057】
下アームグランドライン92は、負極母線42とドライバ回路71とを接続する配線である。ドライバ回路71は、下アームグランドライン92に入力される電位よりも高い電位をu相下アームゲートラインLgu2に出力することによりu相下アームスイッチング素子Qu2を駆動させる。
【0058】
ここで、
図3に示すように、ドライバ回路71に対して低直流電力P2が供給されると、ドライバ回路71内にてリーク電流Irが流れる場合がある。例えば、ドライバ回路71内には、スイッチング素子などの素子を介して、低直流電力P2が供給される端子と、上アームグランドライン91と接続される端子と、を接続するリークパス71aが形成されている場合がある。この場合、リーク電流Irは、リークパス71aを通って、上アームグランドライン91に流れる。
【0059】
ここで、仮に両u相スイッチング素子Qu1,Qu2がOFF状態である場合、
図3の二点鎖線に示すように、上アームグランドライン91に流れたリーク電流Irは、u相上アーム還流ダイオードDu1、正極母線41、フィルタコンデンサ63に向けて流れ得る。これにより、フィルタコンデンサ63が充電される場合があり得る。そして、フィルタコンデンサ63が充電されていると、入力端子31,32間に電圧が発生する。
【0060】
かかる状況、すなわちフィルタコンデンサ63が充電されている状況において、リレー111,112,114,115をOFF状態からON状態に切り替える場合、リレー111,112,114,115の接続態様や切り替える順序などといった各種条件によっては、リレー111,112,114,115の動作に支障が生じ得る場合がある。例えば、メインリレー111,112がOFF状態である条件下でサブリレー114,115がOFF状態からON状態に切り替わると、両サブリレー114,115の少なくとも一方においてスパークが発生するおそれがある。
【0061】
これに対して、本実施形態の車載用インバータ装置30は、リーク電流Irによるフィルタコンデンサ63の充電が行われないように構成されている。この点について以下に説明する。
【0062】
コンプECU72は、低直流電力P2が供給されることによって動作を開始すると、電圧センサ73の検出結果に基づいて、車載用インバータ装置30の入力端子31,32に高直流電力P1が入力されているか否かを判定する。
【0063】
そして、コンプECU72は、入力端子31,32に高直流電力P1が入力されていないと判定した場合、u相下アームスイッチング素子Qu2をON状態に設定する指令をドライバ回路71に向けて出力する。ドライバ回路71は、その指令に基づいてu相下アームスイッチング素子Qu2をON状態にする。
【0064】
すなわち、本実施形態の車載用インバータ装置30は、入力端子31,32に高直流電力P1が入力されていない状況においてドライバ回路71に低直流電力P2が供給された場合にはu相下アームスイッチング素子Qu2をON状態にする。
【0065】
その後、コンプECU72は、電圧センサ73によって高直流電力P1が検出されたことに基づいて、u相下アームスイッチング素子Qu2をOFF状態に設定する指令をドライバ回路71に向けて出力する。ドライバ回路71は、その指令に基づいてu相下アームスイッチング素子Qu2を、ON状態からOFF状態に切り替える。すなわち、本実施形態のドライバ回路71及びコンプECU72は、入力端子31,32に高直流電力P1が入力されたことに基づいて、u相下アームスイッチング素子Qu2をON状態からOFF状態に切り替える。そして、コンプECU72は、空調ECU103からの指令に基づいて、車載用電動モータ11を駆動させる制御(PWM制御)を開始する。
【0066】
なお、u相と同様に、車載用インバータ装置30は、ドライバ回路71とv相接続線LNvとを接続する上アームグランドライン、及び、ドライバ回路71とw相接続線LNwとを接続する上アームグランドラインを有している。ドライバ回路71及びコンプECU72は、v相スイッチング素子Qv1,Qv2およびw相スイッチング素子Qw1,Qw2についても、u相スイッチング素子Qu1,Qu2と同様の制御を行う。すなわち、ドライバ回路71及びコンプECU72は、入力端子31,32に高直流電力P1が入力されていない状況において低圧電源回路80から低直流電力P2が供給された場合には、下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2をON状態にする。
【0067】
次に本実施形態の作用について説明する。
入力端子31,32に高直流電力P1が入力されていない状況において、ドライバ回路71に低直流電力P2が供給された場合にはu相下アームスイッチング素子Qu2がON状態になる。これにより、
図3の実線に示すように、リーク電流Irは、u相上アーム還流ダイオードDu1ではなく、u相下アームスイッチング素子Qu2を流れることとなり、フィルタコンデンサ63にはリーク電流Irは流れない。v相及びw相についても同様である。したがって、フィルタコンデンサ63が充電されにくい。
【0068】
以上詳述した本実施形態によれば以下の効果を奏する。
(1)車載用インバータ装置30は、車載用電源としての車載用蓄電装置104を用いて車載用電動モータ11を駆動する。車載用インバータ装置30は、入力端子31,32と、インバータ回路50と、フィルタ回路60と、制御回路としてのドライバ回路71及びコンプECU72と、を備えている。
【0069】
入力端子31,32は、リレー111,112,114,115を介して車載用蓄電装置104と接続される。フィルタ回路60は、入力端子31,32から入力される直流電力(詳細には高直流電力P1)に含まれるノイズを低減する回路であり、フィルタコンデンサ63を有している。インバータ回路50は、接続線LNu,LNv,LNwによって互いに直列に接続された上アームスイッチング素子Qu1,Qv1,Qw1と下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2とを備えており、フィルタ回路60から入力される高直流電力P1を交流電力に変換する。ドライバ回路71及びコンプECU72は、3相スイッチング素子Qu1~Qw2を制御する。
【0070】
車載用インバータ装置30は、制御回路としてのドライバ回路71とu相接続線LNuとを接続する上アームグランドライン91を備えている。そして、車載用インバータ装置30は、リレー111,112,114,115及び入力端子31,32を介さずに、ドライバ回路71及びコンプECU72に対して低直流電力P2を供給する低圧電源回路80を備えている。
【0071】
かかる構成において、ドライバ回路71及びコンプECU72は、入力端子31,32に高直流電力P1が入力されていない状況において低圧電源回路80から低直流電力P2が供給された場合には、下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2をON状態にする。
【0072】
かかる構成によれば、入力端子31,32に高直流電力P1が入力されていない状況において、ドライバ回路71に低直流電力P2が供給された場合には、下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2がON状態となる。これにより、ドライバ回路71から漏れるリーク電流Irによってフィルタコンデンサ63が充電されることを抑制できる。したがって、フィルタコンデンサ63が充電された状態でリレー111,112,114,115がON状態となることを抑制できる。
【0073】
なお、リレー111,112,114,115がON状態となることとは、リレー111,112,114,115が所定の順序でそれぞれON状態となること、及び、各リレー111,112,114,115の少なくとも2つが同時にON状態となることを含む。
【0074】
(2)ドライバ回路71及びコンプECU72は、入力端子31,32に高直流電力P1が入力されたことに基づいて、下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2をON状態からOFF状態に切り替える。
【0075】
かかる構成によれば、リレー111,112,114,115がON状態となり、高直流電力P1が入力端子31,32に入力された場合には、下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2がOFF状態になる。これにより、下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2がON状態となった状態で車載用電動モータ11の制御(詳細にはPWM制御)が開始されることを回避でき、車載用電動モータ11の制御を円滑に開始することができる。また、リレー111,112,114,115がON状態となった後は、フィルタコンデンサ63が充電されてもリレー111,112,114,115の動作に支障は生じにくい。したがって、リレー111,112,114,115への影響を抑制しつつ、車載用電動モータ11の制御を円滑に開始することができる。
【0076】
(3)フィルタ回路60は、コイルとしてのノーマルモードコイル62を有している。フィルタ回路60は、ノーマルモードコイル62とフィルタコンデンサ63とを含むローパスフィルタ回路を備えている。
【0077】
かかる構成によれば、入力端子31,32に入力される高直流電力P1に含まれるノーマルモードノイズを低減できる。ここで、フィルタコンデンサ63の容量は、ローパスフィルタ回路の共振周波数を調整したり、高直流電力P1の電圧を安定化させたりすることができるように設定される場合がある。この場合、フィルタコンデンサ63の容量によっては、リレー111,112,114,115がON状態となる際に、フィルタコンデンサ63に溜まっている電荷がリレー111,112,114,115に対して影響を与える場合がある。
【0078】
この点、本構成によれば、上述したとおり、フィルタコンデンサ63が充電された状態でリレー111,112,114,115がON状態となることを抑制できる。これにより、例えばリレー111,112,114,115がON状態となった場合におけるリレー111,112,114,115への影響を小さくするためにフィルタコンデンサ63の容量を小さくするといったことをする必要がない。したがって、リレー111,112,114,115への影響を考慮することなく、フィルタコンデンサ63の容量を自由に設定することができ、好適にノイズ低減または高直流電力P1の安定化を図ることができる。
【0079】
(4)車載用流体機械としての車載用電動圧縮機10は、車載用電動モータ11と車載用インバータ装置30と、を備えている。これにより、車載用電動圧縮機10において(1)の効果を得ることができる。
【0080】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○ ドライバ回路71及びコンプECU72は、入力端子31,32に高直流電力P1が入力された場合であっても、下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2をON状態に維持してもよい。
【0081】
○ フィルタ回路60の具体的な構成は任意であり、例えばノーマルモードコイル62を省略してもよいし、コモンモードコイル61を省略してもよい。また、ノーマルモードコイル62は、正極母線41及び負極母線42の双方に設けられていてもよい。
【0082】
ノーマルモードコイル62は、専用のコイルによって構成されていてもよいし、配線または他の素子の寄生インダクタンスによって構成されてもよい。
また、フィルタ回路60は、フィルタコンデンサを複数有していてもよい。例えば、フィルタ回路60は、Xコンデンサとしてのフィルタコンデンサ63とは別に、Yコンデンサを有していてもよい。
【0083】
○ インバータ回路50は、3相に限られず、2相でもよい。
○ 平滑コンデンサ113を省略してもよい。
○ リレー111,112,114,115は、車載用インバータ装置30外に設けられていたが、これに限られず、車載用インバータ装置30がリレー111,112,114,115を有する構成でもよい。
【0084】
○ リレーの数、リレー同士の接続態様及びリレーと平滑コンデンサ113との接続態様については任意である。すなわち、車載用蓄電装置104と入力端子31,32とを介するリレーの具体的な構成(例えばリレーの数及び接続態様)は任意である。
【0085】
例えば、メインリレー111,112を省略してもよい。また、例えば、サブリレー114,115を省略して、別途第1メインリレー111または第2メインリレー112に接続されるリレーを1または複数設けてもよい。この場合であっても、リレーの接続態様やON状態にする順序などによっては、フィルタコンデンサ63が充電されている状態でリレーをON状態にすることによってリレーの動作に支障が生じ得る。
【0086】
○ 車載用電動圧縮機10は、車載用空調装置101に用いられる構成に限られず、他の装置に用いられるものであってもよい。例えば、車両100が燃料電池車両である場合には、車載用電動圧縮機10は燃料電池に空気を供給する空気供給装置に用いられてもよい。すなわち、圧縮対象の流体は、冷媒に限られず、空気など任意である。
【0087】
○ 車載用流体機械は、流体を圧縮する圧縮部12を備えた車載用電動圧縮機10に限られない。例えば、車両100が燃料電池車両である場合には、車載用流体機械は、燃料電池に水素を供給するポンプと当該ポンプを駆動する車載用電動モータとを有する電動ポンプ装置であってもよい。
【0088】
○ 車載用電動モータ11は、車載用電動圧縮機10に用いられるものに限られず、車両に搭載されるものであれば任意である。例えば、車載用電動モータ11は、車両を走行させる走行用モータであってもよい。
【0089】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる好適な一例について以下に記載する。
(イ)入力端子としての第1入力端子及び第2入力端子と、第1入力端子に接続される正極母線と、第2入力端子に接続される負極母線と、上アームスイッチング素子に対して並列に接続される上アーム還流ダイオードと、を備え、上アームスイッチング素子は正極母線に接続されており、下アームスイッチング素子は負極母線に接続されており、上アーム還流ダイオードのカソードは正極母線に接続されており、上アーム還流ダイオードのアノードは接続線に接続されており、フィルタ回路のコンデンサは、正極母線及び負極母線に接続されているとよい。
【符号の説明】
【0090】
10…車載用電動圧縮機(車載用流体機械)、11…車載用電動モータ、12…圧縮部、30…車載用インバータ装置、31,32…入力端子、50…インバータ回路、60…フィルタ回路、62…ノーマルモードコイル(コイル)、71…ドライバ回路、72…コンプECU、80…低圧電源回路、91…上アームグランドライン、92…下アームグランドライン、111,112,114,115…リレー、LNu,LNv,LNw…接続線、Qu1,Qv1,Qw1…上アームスイッチング素子、Qu2,Qv2,Qw2…下アームスイッチング素子、P1…高直流電力(第1電圧の直流電力)、P2…低直流電力(第2電圧の直流電力)。