(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】電池の検査装置および電池の検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/04 20180101AFI20231108BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20231108BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20231108BHJP
H01M 10/04 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
G01N23/04
H01M10/48 A
H01M10/0585
H01M10/04 Z
(21)【出願番号】P 2020530397
(86)(22)【出願日】2020-05-12
(86)【国際出願番号】 JP2020018924
(87)【国際公開番号】W WO2020250609
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2023-04-03
(31)【優先権主張番号】P 2019107730
(32)【優先日】2019-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】村井 尚宏
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-085690(JP,A)
【文献】特開2011-039014(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0096900(US,A1)
【文献】特開2016-109654(JP,A)
【文献】特開2005-228533(JP,A)
【文献】特開2018-087740(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0166802(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
H01M 10/00 - H01M 10/48
G01B 15/00 - G01B 15/08
G06T 1/00 - G06T 9/40
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池内部に略平行に複数格納された板状の電極を有する電池の前記電極の位置ずれを検査する電池の検査装置であって、X線源、該X線源からのX線を受光する受光器、および、前記電池と前記X線源との相対位置を前記電極が延在する方向に対して垂直な方向に変位させる変位手段、前記受光器の画像情報および前記変位手段の位置情報を取得し、該画像情報と位置情報に基づいて前記電極の位置を演算することで良否を判定する判断手段を具備し、
前記の受光器は、下式を充たす撮像頻度で受光が可能なものであり、前記画像情報と位置情報に基づく演算は、板状の電極の各々について、撮像された画像の中から最も投影幅が小さい画像を選択し、該選択画像データから電極の位置ずれを検出することを特徴とする電池の検査装置。
Ct≧M×vt/P (式)
(ここで、Ctは撮像頻度(1/秒)、Mは撮像における拡大率(FOD/FDD)、vtは相対変位速度(mm/秒)、Pは受光器のピクセルサイズ(mm)である。)
【請求項2】
X線源、該X線源からのX線
を受光可能な受光器、および、電池内部に略平行に複数格納された板状の電極を含む電池と前記X線源との相対位置を該板状の電極が延在する方向に対して垂直な方向に変位させる変位手段、前記受光器からの画像情報および前記変位手段の位置情報を取得するとともに、該画像情報と位置情報に基づいて演算を行い、電池の良否を判定する判断手段を少なくとも具備した電池の検査装置であって、
前記の受光器は、下式を充たす撮像頻度で受光が可能なものであり、前記の画像情報と位置情報に基づく演算は、板状の電極の各々について、撮像された画像の中から最も投影幅が小さい画像を選択するステップと、該選択された画像のデータから電極の位置を演算するステップを含んでいる、電池の検査装置。
Ct≧M×vt/P (式)
(ここで、Ctは撮像頻度(1/秒)、Mは撮像における拡大率(FOD/FDD)、vtは相対変位速度(mm/秒)、Pは受光器のピクセルサイズ(mm)である。)
【請求項7】
電池内部に略平行に複数格納された板状の電極の位置を検査する電池の検査方法であって、
1)該板状の電極が延在する方向に対してX線を照射可能に配置されたX線源および該X線源からのX線を受光する受光器、ならびに該X線源と電極との相対位置を該板状の電極が延在する方向に対して垂直な方向に変位可能な手段を用いて、X線源と電極との相対位置を該板状の電極が延在する方向に対して垂直な方向に変位させながら前記複数格納された電極の全てに対して
下式を充たす撮像頻度で撮像する工程、
Ct≧M×vt/P (式)
(ここで、Ctは撮像頻度(1/秒)、Mは撮像における拡大率(FOD/FDD)、vtは相対変位速度(mm/秒)、Pは受光器のピクセルサイズ(mm)である。)
2)撮像された電極の各々について、前記
工程1)で撮像された画像の中から、最も投影幅が小さい画像を選択する工程、
3)該選択された画像の画像データに基づき電池内部における電極の位置を各電極について演算する工程、および、
4)該演算した結果に基づき電池の良否を判断する工程、を含む、
電池の検査方法。
【請求項12】
前記間接変換方式のX線検出器は、セル方式シンチレータを備える、請求項11記載の電池の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線を用いて電池内部を検査する検査装置および検査方法に関して、特に電池容器内に層状に正極と負極とが交互に配置されてなるスタック型電池の検査において好適である電池の検査装置および検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話などの機器の発達や電気自動車の実用化でリチウムイオン電池などの二次電池の需要が拡大している。リチウムイオン電池の正極板と負極板は平板状であり、負極板にリチウムの吸蔵および放出が可能な炭素質材料等が用いられるとともに、正極板にはLiCoO2等の遷移金属とリチウムとの複合酸化物が用いられている。そして両電極の間にセパレータを介在させて幾層にも積み上げる積層構造(以下、「スタック型」ということがある)とした状態で電解液と共にケースに収納されている。
【0003】
このリチウムイオン電池において、正極板の位置がズレ、正極板の側端縁が負極板の側端縁より外側に出ていると、電池を使用しているうちに、外側に出ている正極板に金属リチウムが析出し、電極間がショートして発火することがある。そのため、常に正極板の側端縁が負極板の側端縁より内側に入った位置関係を保つことが安全上重要である。そこで、万一で電池の製造工程において電極の位置ズレが生じることを想定して、電極が容器内に封入されたあとにおいて、電極の位置ズレが発生していないかX線透視による検査がされている。
【0004】
X線を用いての電極の位置ズレを計測する検査としては、特許文献1及び2に記載の様に、電池のコーナー部にX線を電極と並行に照射して検査する方法が提案されている。しかしながらX線は線源の一点から放射状に照射されるために、電極の一枚ごとにX線の放射軸と電極とが平行となるよう電池を位置決めする必要がある。そのため、検査に非常に時間を要することとなる。また、例えば電池の製造工程における不具合で、電極を容器に収納するときに電極の先端部分が容器に接触するなどして、電極の先端が大きく曲がった場合、先端部分の位置(座標)を計測するときに先端部分が想定していた観察領域から外れてしまい、この観察領域から外れた位置で電極の先端座標として検出されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-109654号公報
【文献】特開2012-164620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑み、電極の位置ズレを正確に短時間で検査できる、電池の検査装置及び電池の検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の電池の検査装置は、電池内部に略平行に複数格納された板状の電極を有する電池の前記電極の位置ずれを検査する電池の検査装置であって、X線源、該X線源からのX線を受光する受光器、および、前記電池と前記X線源との相対位置を前記電極が延在する方向に対して垂直な方向に変位させる変位手段、前記受光器の画像情報および前記変位手段の位置情報を取得し、該画像情報と位置情報に基づいて前記電極の位置を演算することで良否を判定する判断手段を具備し、前記画像情報と位置情報に基づく演算は、板状の電極の各々について、撮像された画像の中から最も投影幅が小さい画像を選択し、該選択画像データから電極の位置ずれを検出することを特徴とした電池の検査装置である。
【0008】
すなわち、X線源、該X線源からのX線を実質的に連続的に受光可能な受光器、および、電池内部に略平行に複数格納された板状の電極を含む電池と前記X線源との相対位置を該板状の電極が延在する方向に対して垂直な方向に変位させる変位手段、前記受光器からの画像情報および前記変位手段の位置情報を取得するとともに、該画像情報と位置情報に基づいて演算を行い、電池の良否を判定する判断手段を少なくとも具備した電池の検査装置であって、前記の画像情報と位置情報に基づく演算は、板状の電極の各々について、撮像された画像の中から最も投影幅が小さい画像を選択するステップと、該選択された画像のデータから電極の位置を演算するステップを含んでいる、電池の検査装置、である。
【0009】
また、上記課題を解決する本発明の電池の検査方法は、電池内部に略平行に複数格納された板状の電極の位置を検査する電池の検査方法であって、
1)該板状の電極が延在する方向に対してX線を照射可能に配置されたX線源および該X線源からのX線を受光する受光器、ならびに該X線源と電極との相対位置を該板状の電極が延在する方向に対して垂直な方向に変位可能な手段を用いて、X線源と電極との相対位置を該板状の電極が延在する方向に対して垂直な方向に変位させながら前記複数格納された電極の全てに対して実質的に連続的に撮像する工程、
2)撮像された電極の各々について、前記実質的に連続的に撮像された画像の中から、最も投影幅が小さい画像を選択する工程、
3)該選択された画像の画像データに基づき電池内部における電極の位置を各電極について演算する工程、および、
4)該演算した結果に基づき電池の良否を判断する工程、を含む、
電池の検査方法、である。
【0010】
また、種々の改良された態様を提案する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、短時間で電極の位置ズレを検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係る電池検査装置の構成を示す模式図。
【
図1a】X線照射器1(a)内部で行われる測定形態の例を表した模式図。
【
図1b】X線照射器1(a)~1(h)における電池角部に対するX線の照射方向の例を示す模式図。
【
図2】スタック型リチウムイオン電池の基本的な構成の概念図。
【
図3】照射領域内における電極の位置と、輝度ピークとの関係を表す模式図。
【
図4】電池の良品・不良品判定工程の例を示すフローチャート図。
【
図7】負極板がX線と平行となる画像を選択するステップの説明のための模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について、スタック型リチウムイオン電池の電極位置の検査に適用した場合を例にとって、図面を参照しながら説明する。但し、以下で説明される具体的な例は本発明の一実施形態について例示し、説明するものであって、本発明は係る具体的な例に限定して解釈されるものではない。もちろん、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、以下で説明される具体的な例を改変して実施することは可能である。
【0014】
最初に、スタック型リチウムイオン電池の基本的な構成について説明する。
図2はリチウムイオン電池(以下、単に「電池」ということがある)の要部を抽出した概念図を示す。
図2(a)は、電池を側面から見た側面図であり、
図2(b)は、電池のA-A’断面図である。また、
図2(c)は、A-A’断面図の一部を拡大した拡大断面図である。
図2(a)~2(c)に示すように、電池は、例えば、約140×85mmの正極板14と、この正極板より縦横それぞれ数mm大きい負極板15とが交互に層重ねられており、1層が約0.3mm、全体は約3mmの厚みを有する電池であることができる。正極板14と負極板15の間には、薄い樹脂製のセパレータ(図示せず)が挟み込まれており、電極(正極板14と負極板15の総称とする。)の全体は、アルミケースなどの電池ケース13に収納され、正極板と負極板(電極)の間隙は電解液(図示せず)で充填されている。また、各正極板には、正極リード16が接続され、正極リード16は1本に束ねられて外部に取り出されている。負極板15も同様に、各負極板に負極リード17が接続され、この負極リード17は1本に束ねられて外部に取り出されている。
【0015】
このようなリチウムイオン電池において、正極板14が負極板15よりもその縁が外側に存在していると、充放電を繰り返して使用しているうちに、負極板15よりも外側に存在する正極板14の部分に金属リチウムが析出して電極間がショートし、発火することがある。そのため、正極板14と負極板15の位置関係を保ってズレが生じないようにすることが安全のため重要である。しかしながら完成した電池は、通常金属が用いられたケースの内部に電極が封入されることとなるので、電極が封入された後では、目視による電極位置の確認ができない。このため、電極の封入後に放射線で透視を行っての電極の位置ズレの検査が行われることとなる。
【0016】
本発明は、前記したスタック型リチウムイオン電池のような、電池内部に略平行に複数格納された板状の電極を検査する電池の検査方法である。ここで、略平行とは板状の電極が厳密に平行に格納されている必要が必ずしも無いことを意味し、平行に近い場合及び平行である場合を意味する。後述するとおり、本発明の検査方法は板状の電極が厳密に平行に格納されていなくとも効果的に検査を行うことが可能であるが、板状の電極は平行に格納されていることが充放電に伴っての化学反応の発生場所の偏りを無くす上では好ましい。また、板状の電極は平板状であることが生産性や電池の体積効率の点で好ましい。また、
図2(a)にみられるように、該板状の電極は側面から投影した形状として矩形(好ましく、長方形または正方形)であることが電池として使用したときの体積効率を高める上で好ましい。
【0017】
本発明の電池の検査方法においては、X線源と該X線源からのX線を受光する受光器を用いる。用いることができるX線源としては特に制限は無い。また、公知のX線源を用いることが可能である。例を挙げると、X線源としては、X線ビームの発散点であるX線焦点の大きさが50μm以下のマイクロフォーカスX線管を用いることが好ましい。X線管の管電圧には特に制限は無いが、スタック型のリチウムイオン電池は厚みが大きいことが多いので、X線を透過させるには管電圧が高い方が良く、100kV以上のものを用いることが好ましい。
【0018】
また、受光器としては、時間的な意味で実質的に連続的に撮像可能なものであれば特に制限は無い。ここで、実質的に連続的に撮像可能の意味は、後述するとおり、個々の電極とX線源とは相対位置が変位されて撮像がなされるところ、相対位置の変位速度に比較して撮像(すなわち、画像データの取得)の頻度が十分に大きいことを意味する。すなわち、受光器のピクセルサイズをP(mm)、撮像における拡大率(FOD/FDD。
図1(a)参照)をM、相対変位速度をvt(mm/秒)としたとき、撮像頻度Ct(1/秒)との関係が、少なくとも、 Ct≧M×vt/P の関係を充たし、好ましくは、 Ct≧2×M×vt/P 、更に好ましくは、 Ct≧3×M×vt/P、特に好ましくは、
Ct≧5×M×vt/P の関係を充たす。 Ct/(M×vt/P)は大きいほど好ましいが、あまりに大きすぎても得られる測定精度に較べて演算処理が重くなるだけなので、その上限としては10程度とすることが実用的である。
【0019】
更に、電極の投影像が実質的に連続的に変化し撮像可能なものであってもよい。投影像が実質的に連続的に変化するとは、個々の電極とX線源の焦点との相対位置が変位されて撮像されるところ、相対位置を正接とする角度が十分小さいことを意味する。つまり、電極の投影像の変位量をδx(mm)、変位点へのX線照射角度をθとし、X線管焦点とX線受光器表面との間の距離をFDD(Focus to Detecter Distance)すると、正接tanθ=δx/FDDの撮影ごとのθ間隔が5度以下であれば十分である。撮影頻度Ctとの関係としては、Ct≧M×vt/δxである。
【0020】
受光器としては、汎用の2次元のX線検出器で構わないが、工業用途に利用するためには高い信頼性が実現できて、検出器の外周部でも精度良く検出する精度の面も考慮すると間接変換方式のFPD(Flat Panel Detector)を使用するのが好ましい。間接変換方式のFPDは、直接変換方式の検出器と比べて、使用可能温度等の制約がなく、機械的強度も優れている。そのため、間接変換方式のX線検出器は、取扱性に優れる。さらに、間接変換方式のFPDは、セル方式シンチレータを備えることが好ましい。間接変換方式のFPDにおいては、放射線を可視光に変換するために、シンチレータパネルが使用される。シンチレータパネルは、ヨウ化セシウム(CsI)等のX線蛍光体を含み、放射されたX線に応じて、X線蛍光体が可視光を発光し、その発光をTFT(Thin Film Transistor)やCCD(Charge-Coupled Device)で電気信号に変換することにより、X線の情報をデジタル画像情報に変換する。しかしながら、間接変換方式のFPDは、X線蛍光体が発光する際に、蛍光体自体によって、可視光が散乱してしまう等の原因により、画像の鮮鋭性が低くなりやすい。一方、セル方式シンチレータが採用されたFPDは、隔壁で仕切られたセル内に蛍光体が充填されているため、可視光の散乱の影響を抑えることが可能となる。その結果、セル方式シンチレータを具備するFPDは、鮮鋭度が高く、リチウムイオン電池の電極の末端位置や欠陥位置を高精度に検出し得る。大面積かつ高鮮鋭なセル方式シンチレータを容易に形成し得る点から、ガラス粉末を含有する感光性ペーストを用いて、ガラスを主成分とする隔壁をフォトリソグラフィーにより加工して作製されたセル方式シンチレータであることがより好ましい。
【0021】
X線検出器の光受光素子のピクセルサイズは特に限定されないが、一辺が20~300μmであることが好ましく、50~150μmが最も好ましい。ピクセルサイズが20μm未満である場合、電極の変形や欠陥に寄与しない微小な不純物まで検出し良品を不良品と誤って判断する可能性がある。また、このようなピクセルサイズでは、画像データが膨大となり、信号読み出し、画像処理に要する時間が長くなる傾向がある。一方、ピクセルサイズが300μmを超える場合、電極の位置を充分に検出できない可能性がある。
【0022】
X線検出器は、搬送面を挟んでX線源に対向した位置に、X線ビームの中心軸と検出器中央が一致するよう、また照射軸が検出器面に垂直になるよう設置することが一般的であり、なおかつ好ましい態様である。なお、X線管焦点とX線検出器表面との間の距離FDD(Focus to Detecter Distance)と、X線管焦点とリチウムイオン電池との距離FOD (Focus to Object Distance)との比である拡大率M(FOD/FDD)は、3倍以上が好ましい。また、X線管とX線検出器とは、FDDは一定間隔を保つように配置することが好ましい。
【0023】
また、本発明の検査方法においては、X線源と電極との相対位置を該板状の電極が延在する方向に対して垂直な方向に変位可能な手段を用いる。すなわち、一方から一方をみたときの変位ベクトルにおいて板状の電極が延在する方向(すなわち、板状の電極の最も広い面が拡がっている方向)に対して垂直な方向にベクトルを持つ変位をさせてゆけば、全ての板状の電極を側方あるいは上方または下方から観測することができる。最も典型的な変位は、各板状の電極は最も広い面を他の電極に向かい合わせて配列して格納されている(従って、電池内部において該面が略平行な状態で格納されている)ところ、該面に対する法線方向への変位である。
【0024】
ここで、変位させる手段としては特に制限は無いが、電池を移動させるコンベアなどの搬送手段、架台などに取り付けられたX線源および受光器を移動させる移動手段、あるいはその両方を用いることが挙げられる。
【0025】
次に、最も典型的な例として、コンベアにて電池を搬送しつつ、電池の上方からX線を照射し、電池を検査する方法を挙げて図を参照しながら本発明を説明する。なおここで、説明を簡単なものとするため、電池の搬送方向と電池に略平行に格納された板状の電極の最も広い面の法線方向とは一致しており、X線源と受光器の距離(FDD)は測定期間中を通じて一定である場合を取り上げて説明する。なお、電池の搬送方向と電池に略平行に格納された板状の電極の最も広い面の法線方向とが多少ずれていてもその方向が判っていれば演算処理において補正が可能であることは容易に理解できるであろう。X線源と受光器間の距離についても然りである。
【0026】
図1に掲げた例おいて、X線検査装置1は、筐体2を備えている。筐体2は、電池を搬送するための一軸方向に移動する移動機構を備えた搬送装置7に組み込まれている。搬送装置7は、電池の生産設備の一部とすることができ、その場合、X線検査装置1の一部でもあり、載置された電池8を所定の移動方向に搬送する搬送面を備えた搬送機構である。なお、搬送装置が透過X線画像に写らないよう、搬送装置の搬送面の短辺(言い換えると、搬送面の幅)の長さは、電池8の搬送面との接触面の当該幅方向の長さよりも短い搬送装置を用いることが好ましい。筐体2には、電池8が搬入される搬入口3と、電池8が搬出される搬出口部4が備わっている。搬送装置7は、搬入口3、搬出口4を通って筐体2を貫通している。作業者の安全のため、筐体2、搬入口3、搬出口4は、内壁に鉛、ステンレス等のX線を遮蔽可能な金属からなる遮蔽壁を備えており、搬入口3、搬出口4の開口部には外部へのX線の漏洩を防止する、ゴム製の遮蔽カバーを備えていることが通常である。搬送装置7の上方にはガイド部材6が設けられており、ガイド部材6は、電池8を搬送装置7上の幅方向の中央の位置で搬送されるように案内している。ガイド部材6は、電池8を幅方向で挟むように、左右で一対、合計4本設けられている。ガイド部材6は、X線透過率の高い材質であり、搬送路と同様に開口部3から開口部4まで貫通するように連続して設けられている。搬搬送装置7には、電池8が搬送中に転倒しないよう、固定ガイド5が設けられており、電極が搬送方向に対して直角になるように電池8を搬送機構の所定の位置に載置する。
【0027】
図1aは、
図1に示すX線検出器1(a)の内部を模式的に示した図である。図は斜め上から見たものである。筐体2内に搬送された電池8とX線ビームを照射するX線管(X線源9)と、検査対象の電池を透過したX線を透過画像として2次元で検出するX線検出器12(受光器)との位置関係を説明する図である。なお、X線管に高電圧の電力を供給する高圧発生器や、管電圧・管電流を制御するX線制御器などの付帯設備は図示していない。通常X線ビームは放射状に照射されるため、X線が照射された空間は通常円錐状となる。放射状に照射がされるために、X線管に近い物質はX線検出器12において大きな像として撮像され、遠い物質はX線検出器12において小さい像として撮像される。従って、被測定物が同じ形状をしているのであれば、像の大きさから被測定物の測定がされたカ所とX線源との距離を知ることができる。また、X線検出器12から出力された信号(画像情報)は、信号を処理する画像処理装置に送られ、データ処理部(図示せず)によって処理され、良否判定がなされる。信号処理部やデータ処理部は筐体2の内部に収納することができる。
【0028】
また、
図1aに示すように、X線の照射領域を板状の電極の群の角部を照射するようにX線源を配置すれば、板状の電極のそれぞれは先が細い像として撮像され、撮像された画像の先端が電極の角を示すこととなる。撮像された像における角の位置で以て電池内における角の位置を知ることができる。X線の照射領域の中心軸10と電極の上辺となす角度α(なお、通常、電極の上辺と電池の上面はほぼ平行なので、便宜上、X線の照射領域の中心軸11と電池の上面となす角度でもって代用できる)は、良好な測定精度を得やすいことから10~60°であることが好ましい(
図1a参照)。また、1つの角部だけでなく、電池8の4つの角部Cr1~Cr4をさらに照射、また更に好ましく同角部に対して反対方向から照射(
図1aの例にあっては、下側から上側に向かって照射)することで、電極の寸法情報が予め判っていれば、各電極の電池内の存在位置についての情報(電池内における絶対的な位置情報あるいは板状の電極の相互の位置関係情報)を得ることができる。
図1bは、電池8を側面からみて、X線検出器1(a)~1(h)において、X線が照射される角部と照射方向(
図1b中、a~h)の例を示している。なお、測定精度の観点からは搬送装置や電池端子の部分が撮像されないようにX線源9とX線検出器12は配置されるべきである。1つの角に対して、2方向からX線の照射を行うことで高い精度で位置情報を得ることができる。
【0029】
撮像は、電池に複数格納された電極の全てに対して実質的に連続的に行われる。電池8が搬送装置7によって搬送されてゆくことで、板状の電極の全てがX線の照射領域を通過することなり、また、撮像を実質的に連続的に行うことで、画像解析に十分な情報を得ることができる。
【0030】
次に、撮像された画像の処理および演算の工程および電池の良否の判断の工程について説明する。画像処理や演算は、電子計算機を用いて行われる。この電子計算機は搬送装置7やX線源9の制御装置を兼ねていても構わない。
【0031】
前記のとおり、板状の電極の群は搬送装置7によって搬送されることでX線源9からのX線の照射領域に入る。このとき、最初に入った電極は最初に観測される像として認識される。電池の搬送に伴って像の位置は移動するが、搬送速度が判っていれば、像と電極との対応関係は追跡可能である。また、電池内の電極の数をnとすると、最初の電極がX線の照射領域に入り、最後の電極がX線の照射領域から出るまでの間で、n枚の電極の各々について、X線の照射領域(正確には、X線検出器12で検知・撮像が可能な範囲)に入り、また、出るまでの画像情報を得ることができることとなる。
【0032】
続いて、各撮像された電極において、撮像された画像の中から最も投影幅が小さい画像を選択することについて説明する。X線は線源から放射状に照射されるために、照射領域に入って直ぐの状態では電極の最も広い面に多くのX線が照射されることとなる。このため、当該電極の像の幅は係る面への総照射量が多いほど大きくなる。撮像される画像としては、電極の角部に対応する像の位置からの広がりが大きな像となる(
図3、19-a)。電極の移動に伴い、照射領域の中央部に近づくにつれて、電極の最も広い面への総照射量は減ってゆくので、像の広がりは次第に小さくなってゆき、電極を照らすX線と電極の最も広い面とが平行になったとき、理想的にX線は板状の電極の端面しか照射しないこととなるので、電極の角部に対応する像の位置からの広がりが最も小さな像、つまり最も投影幅が小さい画像として得られる(
図3、19-b)。
【0033】
複数の板状の電極は理想的には最も広い面が平行に格納されているが、実際はやや平行からずれた状態で格納されることもあるので、全ての電極においてX線検出器12の同じ位置で撮像された画像が、最も投影幅が小さいものとなるとは限らない。そこで、各電極について撮像された画像の中から最も投影幅が小さい画像を選び出すことに拠って、電極を照らすX線と電極の最も広い面とが最も平行に近い状態になったときの画像として抽出することができる。最も投影幅が小さいことは、例えば、画像先端部の角度あるいは画像先端部から一定距離離れた場所での画像の幅で知ることができる。なお、実質的に連続的に撮像がなされているので、確実にn枚の電極の各々について、画像の抽出を行うことが可能である。また、撮像の頻度が多ければ多いほど電極を照らすX線と電極の最も広い面との平行度が高い画像を抽出することができ、測定の精度は高くなる。
【0034】
抽出された画像において、板状の電極の厚みが既知であれば、画像の幅はX線源からの距離を表すこととなるので、撮像された時点の情報と合わせて演算すれば、電極の端面の位置を特定することが可能である。また、電極群の角部に対してX線の照射を行った場合にあっては、画像の先端位置が電極の角の位置を与えることとなり、画像の幅が電極端面に関する位置情報を与えることとなる。また、隣接する電極から得られるデータを参照することで、各電極の位置関係を把握することができる。なおここで、角部への照射は板状の電極の角部に対して角を構成する二辺を透過する方向に行うことが望ましい(
図1a参照)。
【0035】
そして、判断工程では、得られた電極の位置に関する情報と規格(合否基準)とを参照して、合否判定を行い、結果を表示装置および/または制御装置系に出力する。
【0036】
以下、この例を更に詳しく説明する。
【0037】
図4は、測定フローの一例を示すフローチャートである。ステップS01において搬送装置によって電池をX線検査装置に搬入されると、ステップS02において、測定対象の電池がX線の照射領域に進入し、照射領域から出て行くまでの間で、全ての電極(電極枚数をnとする)に対して複数枚(N枚)のX線透過画像を取得する。ここで、メモリーに格納されたN枚の透過X線画像は撮像順にI(k)(k=1,2,・・・,N)とする。X線透過画像は、X線検出器13でX線の透過強度を、輝度値として二次元で出力した画像である。X線の透過強度が強い箇所は輝度値が高く(明るく)、反対に弱い箇所は輝度値が低く(暗く)検出される。
【0038】
ステップS03で、保存したX線透過画像I(k)を番号ごとに読み出し、読み込んだX線透過画像から負極板の輝度プロファイルを取得する。
図5には、電極がX線の照射領域に入ったある時点での、X線透過画像、及び、負極板の末端近傍の輝度プロファイルを示している。輝度プロファイルは、負極板末端近傍の輝度を電極の整列方向に対して取得し、縦軸に輝度値、横軸に電極の整列方向としたグラフとして表すと、極大、極小を複数持った、波形のような形20として得られる。極小値の位置が負極板の位置を示している。先述のとおり、電池が移動することで輝度ピークの位置は変化してゆくが、電池の移動速度は既知であるから、各透過画像における輝度ピークの各電極への帰属は可能である。全てのX線透過画像について輝度プロファイルを取得し、ステップS04では、取得した負極板の輝度プロファイルから負極板に対応した極小値の個数(L)を求める。ステップS05では、ステップS04で求めた極小値の個数(L)と電極の枚数nとを比較し、Lとnが一致しているか、すなわち極小値の個数(L)と負極板の枚数が同数であるか、を比較し、一致しない場合は電極が見かけ上は不足又は過剰となるような状態、例えば、電極が一体化した状態あるいは剥離した状態、であるため不良品と判定する。一致する場合は次のステップに進む。
【0039】
ステップS06~11は電極各々について着眼し、各電極について、X線と平行(あるいは略平行)となっている画像を選択するステップである。
図5に示されるように一枚の電極について着眼すると、X線透過画像はX線の照射領域に入ってから出るまでにピークの形状は変化してゆくが、まずステップS06では各画像から抽出されたその電極のX線透過画像において、末端部分(ピークの先端の領域)にROI(Region of Interest)を設定し、該部分における輝度のヒストグラムを得る。このROIは、隣接する電極に由来するピークを含まないように高さ及び幅(
図6および
図7に示された長方形を参照)を決定する。ROIの面積は演算に支障が出ない限り任意である。なお、ピークの像は演算対象とする画像が映っている撮像画像の枚数分得られるが、ROIの高さと幅は演算対象とする電極にあっては同じであることが、演算が簡便となるので望ましい。一方で、撮像された画像における隣接する電極の像との重複関係なども考慮して演算対象とする電極毎には変えることができる。また、ピークの頂点のROI中における位置は同じ位置(
図7を参照して説明すると、輝度ピークの頂点を、ROIを示す長方形の上辺の中点下に位置させるとともに、上辺からの距離を一定とする)となるように設定するべきである。ここで、輝度のヒストグラムとは、輝度値を横軸に、その輝度値を示したピクセルの数を縦軸にとった図である。
図6に輝度のヒストグラムの例を示す。電極とX線が平行でない場合には、
図6の左図に示すように輝度の低い、すなわち電極でX線が減衰されて検出器に到達した、ピクセル数が多くなり、輝度の高い、すなわちX線が電極に殆ど遮られることなく検出器に到達した、ピクセルの数が少なくなる。電極とX線とが平行な状態に近づくにつれ、輝度の低いピクセルの数は小さくなり(
図6の左図から中央図)、平行あるいは平行に近い状態(
図6の右図)では輝度の低いピクセルの数は最小となり、一方で輝度の高いピクセルの数は最も多くなる。ステップS07では輝度のヒストグラムから平均輝度M
kL、輝度の標準偏差σ
kL、輝度の中心値C
kL((最大輝度値+最小輝度値)÷2)、輝度分布における歪度の絶対値|S
kL|を算出する。
図6の輝度のヒストグラムに、平均輝度、標準偏差、輝度の中心値を図示している。ステップS08で、標準偏差σ
kL、輝度の中心C
kL、を平均輝度にて規格化したσ’
kL(=σ
kL/M
kL)、規格化中心値C’
kL(=C
kL/M
kL)を求め、ステップS09ではP
kL=|S
kL|×C’
kL /(σ’
kL)
4で定義した平行度を算出する。
【0040】
ステップ10では、対象とする負極板が撮像された画像から求められた平行度P
kLを比較し、最も高い平行度P
kLを示すX線透過画像が対象とする負極板とX線とが最も平行に近い状態にある画像(I
L”-para)となる。例えば、ある負極板が撮像されているX線透過画像が14枚であった場合、X線透過画像(I(1)~I(14))の平行度P
kLの値とX線透過画像の関係は
図7のようになる。この場合、I(8)がその負極板とX線とが最も平行に近い状態にある画像(I
L”-para)である。
【0041】
これを全ての負極板について行い、各々の負極板に対応したIL”-paraが求められる。
【0042】
続いて、各負極板に対応して抽出された画像IL”-paraを用いて負極板と正極板の位置関係を求める。
【0043】
ステップS12では、画像IL”-paraを適切な輝度で二値化処理し、パターン認識により正極板14の輪郭線、負極板15の輪郭線を抽出する。得られた輪郭線の末端部分、末端部分は電極の角部に対応している、の座標(ちなみに、輝度プロファイルでは極小値、極大値に対応する部分となる)を、正極板では(XCL”、YCL”)として、負極板では(XAL”、YAL”)として求める。このとき、Xを電極が整列する方向とし、Yは電極が整列する向きとは垂直の方向で電極末端が大きな数値となるよう画像を座標変換しておくことが簡便である。これを各電極について求めた画像IL”-paraについて行い(ステップS12~S13)、全ての電極について終了した場合はステップS14に進む。
【0044】
ステップS14では、隣接する正負極板の末端座標間の距離DX0L’’=|XAL’
’-XCL’’|,DX1L”=|XA(L”+1)-XCL”|、DY0L”=YAL”-YCL”,DY1L”=YA(L”+1)-YCL”を求める。ステップS15では、電極ごとの良否判定を、X方向、Y方向のずれの許容量をそれぞれΔX、ΔY(ΔXとΔYは正の実数)として、0<DX0L”<ΔX,かつ 0<DX1L”<ΔX、かつ、0<DY0L”<ΔY,かつ 0<DY1L”<ΔYのとき負極板L”、及び隣接する正極板について、良品とし、他の場合を不良品とする。不良品判定がでなかったとき、測定対象とした1つの電池の角部に対して良品と判定する。他の3カ所の角部についても同様にして求め、4つの角部の全てが良品判定されたとき、総合で良品として判定する。
【0045】
(産業上の利用可能性)
本発明によれば、電池を積層面に垂直な方向に移動しながらX線透過画像を取得するので、様々なX線照射角度で撮影した電極のX線画像を複数取得することができ、また、電極各々についてX線と平行となる画像を、取得した複数の画像から演算によって求めることで、たとえ電極の先端が多少曲がっている場合においても、電極一枚ずつがX線と平行となるよう位置決めする必要がなく、短時間で高容量スタック型電池の電極の位置ズレを検査することができる。
【符号の説明】
【0046】
1、1(a)~1(h) X線検査装置
2 筐体
3 搬入口
4 搬出口
5 固定ガイド
6 ガイド部材
7 搬送装置
8 電池
9 X線源
10 X線光軸
11 X線
12 X線検出器
13 電池ケース
14 正極板
15 負極板
16 正極端子のリード
17 負極端子のリード
18、18-a、18-b、18-c 電極
19、19-a、19-b、19-c X線透過像
20 電極末端部の輝度プロファイル
21-a、21-b 負極板に由来するX線透過像
22-a 正極板に由来するX線透過像
a~h X線の照射方向