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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20231108BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20231108BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20231108BHJP
   H01M 8/0438 20160101ALI20231108BHJP
   B60L 58/30 20190101ALI20231108BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20231108BHJP
【FI】
H01M8/04 Z
H01M8/00 Z
H01M8/04746
H01M8/0438
H01M8/04 J
B60L58/30
H01M8/10 101
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021027250
(22)【出願日】2021-02-24
(65)【公開番号】P2022128817
(43)【公開日】2022-09-05
【審査請求日】2023-02-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】森永 礼
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-048812(JP,A)
【文献】特開2015-198537(JP,A)
【文献】特開2009-301739(JP,A)
【文献】特開2009-022129(JP,A)
【文献】特開2001-359204(JP,A)
【文献】特開2007-299691(JP,A)
【文献】特開2008-215107(JP,A)
【文献】特開2014-009619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-3/12
7/00-13/00
15/00-58/40
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体用の燃料電池システムであって、
前記燃料電池システムは、燃料電池、前記燃料電池に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給系、及び、制御部を有し、
前記酸化剤ガス供給系は、エアコンプレッサを備え、
前記エアコンプレッサは、ロータ、エアベアリング、及び、ハウジングを備え、
前記制御部は、前記移動体の移動速度を計測する移動速度検知部を備え、
前記制御部は、前記移動体に加わる加速度Gを予測するG検知部を備え、
前記制御部は、前記G検知部が予測した加速度Gが所定の加速度閾値G1以上であるか否か判定し、
前記制御部は、前記G検知部が予測した加速度Gが前記加速度閾値G1以上であると判定した場合に、前記エアコンプレッサの回転数が所定の第1回転数R1以上となるように、前記エアコンプレッサの回転数を制御することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記エアコンプレッサの回転数が所定の第2回転数R2以上前記第1回転数R1未満であるか否か判定し、
前記制御部は、前記エアコンプレッサの回転数が前記第2回転数R2以上前記第1回転数R1未満であると判定した場合に、前記G検知部が予測した加速度Gが前記加速度閾値G1以上であるか否か判定し、
前記制御部は、前記G検知部が予測した加速度Gが前記加速度閾値G1以上であると判定した場合に、前記エアコンプレッサの回転数が前記第1回転数R1以上となるように、前記エアコンプレッサの回転数を制御し、
前記制御部は、前記G検知部が予測した加速度Gが前記加速度閾値G1未満であると判定した場合に、前記エアコンプレッサの回転数が前記第2回転数R2となるように、前記エアコンプレッサの回転数を制御する、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記移動速度検知部が計測した前記移動体の移動速度が所定の第1移動速度V1未満であるか否か判定し、
前記制御部は、前記移動速度が前記第1移動速度V1以上であると判定した場合に、前記エアコンプレッサの回転数が前記第1回転数R1以上となるように、前記エアコンプレッサの回転数を制御し、
前記制御部は、前記移動速度が前記第1移動速度V1未満であると判定した場合に、前記G検知部が予測した加速度Gが前記加速度閾値G1以上であるか否か判定し、
前記制御部は、前記G検知部が予測した加速度Gが前記加速度閾値G1以上であると判定した場合に、前記エアコンプレッサの回転数が前記第1回転数R1以上となるように、前記エアコンプレッサの回転数を制御する、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記G検知部が予測した加速度Gが前記加速度閾値G1未満であると判定した場合に、前記移動速度が前記第1移動速度V1よりも小さい所定の第2移動速度V2以上であるか否か判定し、
前記制御部は、前記移動速度が前記第2移動速度V2以上であると判定した場合、前記エアコンプレッサの回転数が前記第1回転数R1よりも小さい所定の第3回転数R3となるように、前記エアコンプレッサの回転数を制御し、
前記制御部は、前記移動速度が前記第2移動速度V2未満であると判定した場合、前記エアコンプレッサの回転数が前記第3回転数R3よりも小さい所定の第2回転数R2となるように、前記エアコンプレッサの回転数を制御する、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記第2回転数R2は、前記移動体が停止しているときに必要な前記エアコンプレッサの最小回転数である、請求項2又は4に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記第3回転数R3は、前記移動体の移動速度が前記第2移動速度V2以上且つ前記第1移動速度V1未満であるときに必要な前記エアコンプレッサの回転数である、請求項4に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池(FC)は、1つの単セル又は複数の単セル(以下、セルと記載する場合がある)を積層した燃料電池スタック(以下、単にスタックと記載する場合がある)に、水素等の燃料ガスと酸素等の酸化剤ガスとの電気化学反応によって電気エネルギーを取り出す発電装置である。なお、実際に燃料電池に供給される燃料ガスおよび酸化剤ガスは、酸化・還元に寄与しないガスとの混合物である場合が多い。特に酸化剤ガスは酸素を含む空気である場合が多い。
なお、以下では、燃料ガスや酸化剤ガスを、特に区別することなく単に「反応ガス」あるいは「ガス」と呼ぶ場合もある。また、単セル、及び、単セルを積層した燃料電池スタックのいずれも、燃料電池と呼ぶ場合がある。
この燃料電池の単セルは、通常、膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を備える。
膜電極接合体は、固体高分子型電解質膜(以下、単に「電解質膜」とも呼ぶ)の両面に、それぞれ、触媒層及びガス拡散層(GDL、以下単に拡散層と記載する場合がある)が順に形成された構造を有している。そのため、膜電極接合体は、膜電極ガス拡散層接合体(MEGA)と称される場合がある。
単セルは、必要に応じて当該膜電極ガス拡散層接合体の両面を挟持する2枚のセパレータを有する。セパレータは、通常、ガス拡散層に接する面に反応ガスの流路としての溝が形成された構造を有している。なお、このセパレータは電子伝導性を持ち、発電した電気の集電体としても機能する。
燃料電池の燃料極(アノード)では、ガス流路及びガス拡散層から供給される燃料ガスとしての水素(H)が触媒層の触媒作用によりプロトン化し、電解質膜を通過して酸化剤極(カソード)へと移動する。同時に生成した電子は、外部回路を通って仕事をし、カソードへと移動する。カソードに供給される酸化剤ガスとしての酸素(O)は、カソードの触媒層でプロトンおよび電子と反応し、水を生成する。生成した水は、電解質膜に適度な湿度を与え、余剰な水はガス拡散層を透過して、系外へと排出される。
【0003】
燃料電池車両(以下車両と記載する場合がある)等の移動体に搭載されて用いられる燃料電池システムに関して種々の研究がなされている。
例えば特許文献1では、最小回転数でのエアコンプレッサでの消費電力を小さくするため、要求電力が小さいときは容量の小さいエアコンプレッサを使用し、要求電力が大きいときは容量の大きいエアコンプレッサと使用する、燃料電池システムが開示されている。
【0004】
特許文献2では、コンプレッサの動作を制御する制御装置を備え、コンプレッサは、エアベアリングを有し、制御装置は、燃料電池が発電中であるか否かに関わらずコンプレッサを駆動させる、車両が開示されている。
【0005】
特許文献3では、空気軸受による軸支が最小回転数速度領域にある場合、実流量が目標流量より多い場合に圧力調整手段を介してエア圧力を高める手段と加湿器と加湿器バイパスの流れの割合を調整する酸化剤流れ調整手段を備え、燃料電池への要求電流値から目標流量及び目標圧力を設定し、実流量が目標流量より多いときには、設定した目標圧力に所定値を加えて新たな目標圧力を設定する燃料電池システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-299691号公報
【文献】特開2020-149778号公報
【文献】国際公開2013/157488号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
燃料電池システムからの燃料電池への要求出力が所定値以下の場合には、酸化剤ガスの燃料電池への必要量が低下するため、酸化剤ガスの供給装置であるエアコンプレッサ(ACP)のモータ回転数を低下させることが一般的である。
エアコンプレッサを構成するモータの小型化、高耐久化、高出力高効率化を狙い、モータ部にエアベアリング(空気軸受)を採用する動きが増えてきている。エアベアリングを用いたエアコンプレッサでは、ロータ(回転体)を回転させることでロータとハウジング間に空気流を発生させロータを浮上させる機構のため、燃料電池への要求出力が小さい場合でもロータを浮上させるための一定以上の回転数(最小回転数)が必要である。一方、エアベアリングを用いたエアコンプレッサではエアベアリングを浮上させるために必要な電力が大きいため、燃料電池への要求出力が小さい場合は、燃費を良くするためエアコンプレッサの回転数を下げたいというニーズがある。
上記特許文献1では大小2つのエアコンプレッサを備える必要があり、車両の限られた搭載スペースでは不利な要素である。そこで1つのエアコンプレッサで要求出力に応じて回転数を制御するというアプローチが取られると考えられる。しかし、回転数を設定する上では、消費電力以外に、運転中の車両前後左右方向にかかるG(本開示においては加速度を意味する。)に対して、ロータとハウジングとが接しないよう、加速度Gを減衰させるマージン回転数を最小回転数よりも大きい値で設けることも考慮する必要がある。
エアベアリングを備えたエアコンプレッサでは、外部からの加速度Gに応じて回転数を切り替えるという思想が織り込まれていない。またその思想を織り込むうえでは、外部からの加速度Gが加わった後では回転数切り替えが間に合わないため、例えば回転数が小さいときに加速度Gが加わり回転数を大きくする必要があるときは、加速度Gを減衰させることができずロータとハウジングとが接し、エアコンプレッサの損傷につながる虞がある。
【0008】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、エアコンプレッサの耐久性を向上させることができる燃料電池システムを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の燃料電池システムは、移動体用の燃料電池システムであって、前記燃料電池システムは、燃料電池、前記燃料電池に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給系、及び、制御部を有し、前記酸化剤ガス供給系は、エアコンプレッサを備え、前記エアコンプレッサは、ロータ、エアベアリング、及び、ハウジングを備え、前記制御部は、前記移動体の移動速度を計測する移動速度検知部を備え、前記制御部は、前記移動体に加わる加速度Gを予測するG検知部を備え、前記制御部は、前記G検知部が予測した加速度Gが所定の加速度閾値G1以上であるか否か判定し、前記制御部は、前記G検知部が予測した加速度Gが前記加速度閾値G1以上であると判定した場合に、前記エアコンプレッサの回転数が所定の第1回転数R1以上となるように、前記エアコンプレッサの回転数を制御することを特徴とする。
【0010】
本開示の燃料電池システムにおいては、前記制御部は、前記エアコンプレッサの回転数が所定の第2回転数R2以上前記第1回転数R1未満であるか否か判定し、前記制御部は、前記エアコンプレッサの回転数が前記第2回転数R2以上前記第1回転数R1未満であると判定した場合に、前記G検知部が予測した加速度Gが前記加速度閾値G1以上であるか否か判定し、前記制御部は、前記G検知部が予測した加速度Gが前記加速度閾値G1以上であると判定した場合に、前記エアコンプレッサの回転数が前記第1回転数R1以上となるように、前記エアコンプレッサの回転数を制御し、前記制御部は、前記G検知部が予測した加速度Gが前記加速度閾値G1未満であると判定した場合に、前記エアコンプレッサの回転数が前記第2回転数R2となるように、前記エアコンプレッサの回転数を制御してもよい。
【0011】
本開示の燃料電池システムにおいては、前記制御部は、前記移動速度検知部が計測した前記移動体の移動速度が所定の第1移動速度V1未満であるか否か判定し、前記制御部は、前記移動速度が前記第1移動速度V1以上であると判定した場合に、前記エアコンプレッサの回転数が前記第1回転数R1以上となるように、前記エアコンプレッサの回転数を制御し、前記制御部は、前記移動速度が前記第1移動速度V1未満であると判定した場合に、前記G検知部が予測した加速度Gが前記加速度閾値G1以上であるか否か判定し、前記制御部は、前記G検知部が予測した加速度Gが前記加速度閾値G1以上であると判定した場合に、前記エアコンプレッサの回転数が前記第1回転数R1以上となるように、前記エアコンプレッサの回転数を制御してもよい。
【0012】
本開示の燃料電池システムにおいては、前記制御部は、前記G検知部が予測した加速度Gが前記加速度閾値G1未満であると判定した場合に、前記移動速度が前記第1移動速度V1よりも小さい所定の第2移動速度V2以上であるか否か判定し、前記制御部は、前記移動速度が前記第2移動速度V2以上であると判定した場合、前記エアコンプレッサの回転数が前記第1回転数R1よりも小さい所定の第3回転数R3となるように、前記エアコンプレッサの回転数を制御し、前記制御部は、前記移動速度が前記第2移動速度V2未満であると判定した場合、前記エアコンプレッサの回転数が前記第3回転数R3よりも小さい所定の第2回転数R2となるように、前記エアコンプレッサの回転数を制御してもよい。
【0013】
本開示の燃料電池システムにおいては、前記第2回転数R2は、前記移動体が停止しているときに必要な前記エアコンプレッサの最小回転数であってもよい。
【0014】
本開示の燃料電池システムにおいては、前記第3回転数R3は、前記移動体の移動速度が前記第2移動速度V2以上且つ前記第1移動速度V1未満であるときに必要な前記エアコンプレッサの回転数であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本開示の燃料電池システムによれば、エアコンプレッサの耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本開示の燃料電池システムの一例を示す概略構成図である。
図2図2は、本開示の燃料電池システムの制御の一例を示すフローチャートである。
図3図3は、本開示の燃料電池システムの制御の別の一例を示すフローチャートである。
図4図4は、本開示の燃料電池システムの制御の別の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示の燃料電池システムは、移動体用の燃料電池システムであって、前記燃料電池システムは、燃料電池、前記燃料電池に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給系、及び、制御部を有し、前記酸化剤ガス供給系は、エアコンプレッサを備え、前記エアコンプレッサは、ロータ、エアベアリング、及び、ハウジングを備え、前記制御部は、前記移動体の移動速度を計測する移動速度検知部を備え、前記制御部は、前記移動体に加わる加速度Gを予測するG検知部を備え、前記制御部は、前記G検知部が予測した加速度Gが所定の加速度閾値G1以上であるか否か判定し、前記制御部は、前記G検知部が予測した加速度Gが前記加速度閾値G1以上であると判定した場合に、前記エアコンプレッサの回転数が所定の第1回転数R1以上となるように、前記エアコンプレッサの回転数を制御することを特徴とする。
【0018】
エアコンプレッサは、移動体の移動時(移動速度が0km/hr以外の時)のアイドル回転数が例えば2万~3万回転であり、移動体の停止時の回転数(着座回転数)は例えば1万~2万回転であり、この間には回転数のマージンが存在する。
この回転数のマージンは、流量センサ、圧力センサ、温度センサ、大気圧センサ等のセンサ誤差、制御誤差に加え、外部からの加速度Gに対してエアベアリング容量を保ち、加速度Gの減衰量不足に伴うロータのハウジングへの接触による破損を防ぐために存在している。
加速度Gが発生する要件としては、移動体が車両の場合、悪路・波状路、路面干渉、軽衝突、高速衝突等がある。高速衝突については燃料電池に実衝突の被害がある場合には、部品交換の議論の対象になる。一方、車両の停止時(移動速度0km/hr時)においては、悪路・波状路、路面干渉は要件から除外される。そのため、車両の停止時(移動速度0km/hr時)において軽衝突(例えば25G以下)した場合にGの減衰量不足に伴うロータのハウジングへの接触によるエアコンプレッサの破損を防ぐ必要がある。
しかし、従来技術では、車両ECUに備え付けられているGセンサにより軽衝突を検知し、その後、エアコンプレッサの回転数を車両停止時の回転数から、車両の移動時のアイドル回転数に上昇させることになる。そのため、軽衝突検知後では、通信遅れやエアコンプレッサの応答性(指令から応答するまでの時間差)の問題により、エアベアリング容量の不足を防ぐことができない。これは、軽衝突検知によるエアコンプレッサへの影響が数10msecオーダーなのに対し、通信速度やエアコンプレッサの応答速度は100msecオーダーなためであり、軽衝突を検出した後の対応では、エアコンプレッサの破損を防ぐのに間に合わない。また、エアベアリング容量を大きくすると、車両移動時のエアコンプレッサの最小回転数は下げられるが、車両停止時にさらにエアコンプレッサの回転数を下げることができず、移動体の燃費が悪くなる。
【0019】
本開示の燃料電池システムは、G検知部を用いて移動体の軽衝突を予測し、軽衝突が起きそうなことを判断したらエアコンプレッサの回転数を停止時の回転数から移動時の回転数に上昇させる。これにより、エアコンプレッサのロータとハウジングとが接しないための、加速度Gの影響で発生する力をエアベアリングにて吸収するために必要な回転数を確保することができる。
したがって、本開示の燃料電池システムは、1つのエアコンプレッサで、燃料電池への要求出力と外部からの加速度Gとを考慮することができ、移動体の燃費を改善し、且つ、エアベアリングの容量不足に伴うロータのハウジングへの接触によるエアコンプレッサの破損の発生を抑制することができる。また、本開示の燃料電池システムは、追加部品を伴うことなく移動体の燃費を改善し、且つ、エアコンプレッサに起因する騒音や振動を低減することができる。
【0020】
図1は、本開示の燃料電池システムの一例を示す概略構成図である。
図1に示す燃料電池システム100は、燃料電池10と、エアコンプレッサ20と、酸化剤ガス供給流路21と、酸化剤オフガス排出流路22と、酸化剤ガス圧力調整弁23と、制御部50を備える。なお、図1では、酸化剤ガス供給系のみ図示し、その他の、燃料ガス系、冷却系等の図示は省略する。
制御部50は、エアコンプレッサ20、及び、酸化剤ガス圧力調整弁23と電気的に接続され、これらの駆動を制御する。
【0021】
本開示の燃料電池システムは、移動体用である。
移動体としては、燃料電池を搭載して燃料電池の電力で駆動するものであれば特に限定されない。移動体としては、例えば、燃料電池車両等の車両、ドローン等の飛行体、船舶、鉄道、建機等が挙げられる。
移動体は、本開示の燃料電池システムを備えていてもよい。
【0022】
本開示の燃料電池システムは、燃料電池、酸化剤ガス供給系、制御部を有する。
【0023】
燃料電池は、単セルを1つのみ有するものであってもよいし、単セルを複数個積層した積層体である燃料電池スタックであってもよい。
単セルの積層数は特に限定されず、例えば、2~数百個であってもよく、2~300個であってもよい。
燃料電池スタックは、単セルの積層方向の両端にエンドプレートを備えていてもよい。
【0024】
燃料電池の単セルは、少なくとも膜電極ガス拡散層接合体を備える。
膜電極ガス拡散層接合体は、アノード側ガス拡散層及び、アノード触媒層及び、電解質膜及び、カソード触媒層及び、カソード側ガス拡散層をこの順に有する。
【0025】
カソード(酸化剤極)は、カソード触媒層及びカソード側ガス拡散層を含む。
アノード(燃料極)は、アノード触媒層及びアノード側ガス拡散層を含む。
カソード触媒層及びアノード触媒層をまとめて触媒層と称する。
触媒層は、例えば、電気化学反応を促進する触媒金属、プロトン伝導性を有する電解質、及び、電子伝導性を有する担体等を備えていてもよい。
触媒金属としては、例えば、白金(Pt)、及び、Ptと他の金属とから成る合金(例えばコバルト、及び、ニッケル等を混合したPt合金)等を用いることができる。
電解質としては、フッ素系樹脂等であってもよい。フッ素系樹脂としては、例えば、ナフィオン溶液等を用いてもよい。
上記触媒金属は担体上に担持されており、各触媒層では、触媒金属を担持した担体(触媒担持担体)と電解質とが混在していてもよい。
触媒金属を担持するための担体は、例えば、一般に市販されているカーボンなどの炭素材料等が挙げられる。
【0026】
カソード側ガス拡散層及びアノード側ガス拡散層をまとめてガス拡散層と称する。
ガス拡散層は、ガス透過性を有する導電性部材等であってもよい。
導電性部材としては、例えば、カーボンクロス、及びカーボンペーパー等のカーボン多孔質体、並びに、金属メッシュ、及び、発泡金属などの金属多孔質体等が挙げられる。
【0027】
電解質膜は、固体高分子電解質膜であってもよい。固体高分子電解質膜としては、例えば、水分が含まれたパーフルオロスルホン酸の薄膜等のフッ素系電解質膜、及び、炭化水素系電解質膜等が挙げられる。電解質膜としては、例えば、ナフィオン膜(デュポン社製)等であってもよい。
【0028】
単セルは、必要に応じて膜電極ガス拡散層接合体の両面を挟持する2枚のセパレータを備えてもよい。2枚のセパレータは、一方がアノード側セパレータであり、もう一方がカソード側セパレータである。本開示では、アノード側セパレータとカソード側セパレータとをまとめてセパレータという。
セパレータは、反応ガス及び冷媒を単セルの積層方向に流通させるための供給孔及び排出孔を有していてもよい。冷媒としては、低温時の凍結を防止するために例えばエチレングリコールと水との混合溶液を用いることができる。
供給孔は、燃料ガス供給孔、酸化剤ガス供給孔、及び、冷媒供給孔等が挙げられる。
排出孔は、燃料ガス排出孔、酸化剤ガス排出孔、及び、冷媒排出孔等が挙げられる。
セパレータは、1つ以上の燃料ガス供給孔を有していてもよく、1つ以上の酸化剤ガス供給孔を有していてもよく、1つ以上の冷媒供給孔を有していてもよく、1つ以上の燃料ガス排出孔を有していてもよく、1つ以上の酸化剤ガス排出孔を有していてもよく、1つ以上の冷媒排出孔を有していてもよい。
セパレータは、ガス拡散層に接する面に反応ガス流路を有していてもよい。また、セパレータは、ガス拡散層に接する面とは反対側の面に燃料電池の温度を一定に保つための冷媒流路を有していてもよい。
セパレータがアノード側セパレータである場合は、1つ以上の燃料ガス供給孔を有していてもよく、1つ以上の酸化剤ガス供給孔を有していてもよく、1つ以上の冷媒供給孔を有していてもよく、1つ以上の燃料ガス排出孔を有していてもよく、1つ以上の酸化剤ガス排出孔を有していてもよく、1つ以上の冷媒排出孔を有していてもよく、アノード側セパレータは、アノード側ガス拡散層に接する面に燃料ガス供給孔から燃料ガス排出孔に燃料ガスを流す燃料ガス流路を有していてもよく、アノード側ガス拡散層に接する面とは反対側の面に冷媒供給孔から冷媒排出孔に冷媒を流す冷媒流路を有していてもよい。
セパレータがカソード側セパレータである場合は、1つ以上の燃料ガス供給孔を有していてもよく、1つ以上の酸化剤ガス供給孔を有していてもよく、1つ以上の冷媒供給孔を有していてもよく、1つ以上の燃料ガス排出孔を有していてもよく、1つ以上の酸化剤ガス排出孔を有していてもよく、1つ以上の冷媒排出孔を有していてもよく、カソード側セパレータは、カソード側ガス拡散層に接する面に酸化剤ガス供給孔から酸化剤ガス排出孔に酸化剤ガスを流す酸化剤ガス流路を有していてもよく、カソード側ガス拡散層に接する面とは反対側の面に冷媒供給孔から冷媒排出孔に冷媒を流す冷媒流路を有していてもよい。
セパレータは、ガス不透過の導電性部材等であってもよい。導電性部材としては、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボン、及び、プレス成形した金属(例えば、鉄、アルミニウム、及び、ステンレス等)板等であってもよい。また、セパレータが集電機能を備えるものであってもよい。
【0029】
燃料電池スタックは、各供給孔が連通した入口マニホールド、及び、各排出孔が連通した出口マニホールド等のマニホールドを有していてもよい。
入口マニホールドは、アノード入口マニホールド、カソード入口マニホールド、及び、冷媒入口マニホールド等が挙げられる。
出口マニホールドは、アノード出口マニホールド、カソード出口マニホールド、及び、冷媒出口マニホールド等が挙げられる。
【0030】
本開示においては、燃料ガス、及び、酸化剤ガスをまとめて反応ガスと称する。アノードに供給される反応ガスは、燃料ガスであり、カソードに供給される反応ガスは酸化剤ガスである。燃料ガスは、主に水素を含有するガスであり、水素であってもよい。酸化剤ガスは酸素、空気、乾燥空気等であってもよい。
【0031】
酸化剤ガス供給系は、燃料電池に酸化剤ガスを供給する。具体的には、酸化剤ガス供給系は、燃料電池のカソードに酸化剤ガスを供給する。
酸化剤ガス供給系は、エアコンプレッサを備える。
エアコンプレッサは、ロータ、エアベアリング、及び、ハウジングを備える。
エアコンプレッサは、制御部と電気的に接続される。エアコンプレッサは、制御部からの制御信号に従ってそのロータの回転数が制御される。
【0032】
酸化剤ガス供給系は、酸化剤ガス供給流路を備えていてもよい。
酸化剤ガス供給流路は、エアコンプレッサと燃料電池の酸化剤ガス入口とを接続する。酸化剤ガス供給流路は、エアコンプレッサから燃料電池のカソードへの酸化剤ガスの供給を可能にする。酸化剤ガス入口は、酸化剤ガス供給孔、カソード入口マニホールド等であってもよい。
【0033】
酸化剤ガス供給系は、酸化剤オフガス排出流路を備えていてもよい。
酸化剤オフガス排出流路は、燃料電池の酸化剤ガス出口と接続する。酸化剤オフガス排出流路は、燃料電池のカソードから排出される酸化剤ガスである酸化剤オフガスの外部への排出を可能にする。酸化剤ガス出口は、酸化剤ガス排出孔、カソード出口マニホールド等であってもよい。
酸化剤オフガス排出流路には、酸化剤ガス圧力調整弁が設けられていてもよい。
酸化剤ガス圧力調整弁は、制御部と電気的に接続され、制御部によって酸化剤ガス圧力調整弁が開弁されることにより、反応済みの酸化剤ガスである酸化剤オフガスを酸化剤オフガス排出流路から外部へ排出する。また、酸化剤ガス圧力調整弁の開度を調整することにより、カソードに供給される酸化剤ガス圧力(カソード圧力)を調整してもよい。
【0034】
酸化剤ガス供給系は、酸化剤ガス供給流路から分岐し、燃料電池を迂回して酸化剤オフガス排出流路と接続するバイパス流路を備えていてもよい。
バイパス流路には、バイパス弁が配置されていてもよい。
バイパス弁は、制御部と電気的に接続され、制御部によってバイパス弁が開弁されることにより、燃料電池への酸化剤ガスの供給が不要な場合に燃料電池を迂回して酸化剤ガスを酸化剤オフガス排出流路から外部へ排出することができる。
【0035】
酸化剤ガス供給系は、圧力センサを備えていてもよい。
圧力センサは、酸化剤ガス供給系内の圧力を検出する。圧力センサは、制御部と電気的に接続される。制御部は、圧力センサで検出した圧力からエアコンプレッサの回転数を推定してもよい。圧力センサは、酸化剤ガス供給流路のエアコンプレッサよりも下流に配置されていてもよい。
圧力センサは、従来公知の圧力計等を採用することができる。
【0036】
酸化剤ガス供給系は、温度センサを備えていてもよい。
温度センサは、燃料電池の温度を検出する。燃料電池の温度は、燃料電池を流れる冷媒の温度であってもよい。温度センサは、制御部と電気的に接続される。制御部は、温度センサで検出した燃料電池の温度からエアコンプレッサの回転数を推定してもよい。温度センサは、酸化剤ガス供給流路のエアコンプレッサよりも下流に配置されていてもよい。
温度センサは、従来公知の温度計等を採用することができる。
【0037】
酸化剤ガス供給系は流量センサを備えていてもよい。
流量センサは、酸化剤ガス供給系内の酸化剤ガスの流量を検出する。流量センサは、制御部と電気的に接続される。制御部は、流量センサで検出した酸化剤ガスの流量からエアコンプレッサの回転数を推定してもよい。流量センサは、酸化剤ガス供給流路のエアコンプレッサよりも上流に配置されていてもよい。
流量センサは、従来公知の流量計等を採用することができる。
【0038】
燃料電池システムは、燃料電池の燃料ガス系として、燃料ガス供給部を備えていてもよく、燃料ガス供給流路を備えていてもよく、燃料オフガス排出流路を備えていてもよい。
燃料ガス供給部は、燃料ガスを燃料電池に供給する。具体的には燃料ガス供給部は、燃料ガスを燃料電池のアノードに供給する。
燃料ガス供給部としては、例えば、燃料タンク等が挙げられ、具体的には、液体水素タンク、圧縮水素タンク等が挙げられる。
燃料ガス供給部は、制御部と電気的に接続される。燃料ガス供給部は、制御部からの制御信号に従って、燃料ガス供給部の主止弁の開閉が制御されることにより燃料ガスの供給のON/OFFが制御されてもよい。
燃料ガス供給流路は、燃料電池の燃料ガス入口と燃料ガス供給部とを接続する。燃料ガス供給流路は、燃料ガスの燃料電池のアノードへの供給を可能にする。燃料ガス入口は、燃料ガス供給孔、アノード入口マニホールド等であってもよい。
燃料オフガス排出流路は、燃料電池の燃料ガス出口と接続してもよい。燃料オフガス排出流路は、燃料電池のアノードから排出された燃料ガスである燃料オフガスを外部に排出する。燃料ガス出口は、燃料ガス排出孔、アノード出口マニホールド等であってもよい。
燃料オフガス排出流路には、燃料オフガス排出弁(排気排水弁)が備えられていてもよい。
燃料オフガス排出弁は、燃料オフガス及び水分等を外部(系外)へ排出することを可能にする。なお、外部とは、燃料電池システムの外部であってもよく、移動体の外部であってもよい。
燃料オフガス排出弁は、制御部と電気的に接続され、制御部によって燃料オフガス排出弁の開閉を制御されることにより、燃料オフガスの外部への排出流量を調整してもよい。また、燃料オフガス排出弁の開度を調整することにより、アノードに供給される燃料ガス圧力(アノード圧力)を調整してもよい。
燃料オフガスは、アノードにおいて未反応のまま通過した燃料ガス及び、カソードで生成した生成水がアノードに到達した水分等を含んでいてもよく、触媒層及び電解質膜等で生成した腐食物質及び、掃気時にアノードに供給されてもよい酸化剤ガス等を含む場合がある。
【0039】
燃料電池システムは、燃料電池の冷却系として、冷媒供給部を備えていてもよく、冷媒循環流路を備えていてもよい。
冷媒循環流路は、燃料電池に設けられる冷媒供給孔及び冷媒排出孔に連通し、冷媒供給部から供給される冷媒を燃料電池内外で循環させることを可能にする。
冷媒供給部は、制御部と電気的に接続される。冷媒供給部は、制御部からの制御信号に従って駆動される。冷媒供給部は、制御部によって冷媒供給部から燃料電池に供給される冷媒の流量を制御される。これにより燃料電池の温度が制御されてもよい。
冷媒供給部は、例えば、冷却水ポンプ等が挙げられる。
冷媒循環流路には、冷却水の熱を放熱するラジエータが設けられていてもよい。
冷媒循環流路には、冷媒を蓄えるリザーブタンクが設けられていてもよい。
【0040】
燃料電池システムは、二次電池を備えていてもよい。
二次電池(バッテリ)は、充放電可能なものであればよく、例えば、ニッケル水素二次電池、及び、リチウムイオン二次電池等の従来公知の二次電池が挙げられる。また、二次電池は、電気二重層コンデンサ等の蓄電素子を含むものであってもよい。二次電池は、複数個を直列に接続した構成であってもよい。二次電池は、エアコンプレッサ等に電力を供給する。二次電池は、例えば、家庭用電源等の移動体の外部の電源から充電可能になっていてもよい。二次電池は、燃料電池の出力により充電されてもよい。二次電池の充放電は、制御部によって制御されてもよい。
【0041】
制御部は、物理的には、例えば、CPU(中央演算処理装置)等の演算処理装置と、CPUで処理される制御プログラム及び制御データ等を記憶するROM(リードオンリーメモリー)、並びに、主として制御処理のための各種作業領域として使用されるRAM(ランダムアクセスメモリー)等の記憶装置と、入出力インターフェースとを有するものである。また、制御部は、例えば、電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)等の制御装置であってもよい。
制御部は、車両等の移動体に搭載されていてもよいイグニッションスイッチと電気的に接続されていてもよい。制御部はイグニッションスイッチが切られていても外部電源により動作可能であってもよい。
【0042】
制御部は、移動体の移動速度を計測する移動速度検知部を備える。
移動速度検知部は、従来公知の速度メータ等を採用することができる。
移動体が車両の場合は、アクセル開度を移動速度とみなしてもよく、移動速度検知部は、アクセル開度検知部であってもよい。アクセル開度検知部は、従来公知のアクセル開度センサ等を採用することができる。
【0043】
制御部は、移動体に加わる加速度Gを予測するG検知部を備える。
G検知部は、例えばコーナーセンサ、クリアランスセンサ等に用いられる超音波センサ、ミリ波センサ、カメラ、及び、3D-LIDAR等を採用してもよく、これらを組み合わせて用いてもよい。G検知部としては、コストを低くする観点からは、超音波センサまたはカメラであってもよい。
【0044】
図2は、本開示の燃料電池システムの制御の一例を示すフローチャートである。
G検知部は、加速度Gを予測する。加速度Gの予測は、燃料電池システムが起動している時、具体的には、移動体のイグニッションスイッチのON(IG-ON)時、移動体の移動時等に常に行ってもよいし、所定の時間毎に繰り返し行ってもよい。
制御部は、G検知部が予測した加速度Gが所定の加速度閾値G1以上であるか否か判定する。
制御部は、G検知部が予測した加速度Gが加速度閾値G1以上であると判定した場合に、エアコンプレッサの回転数が所定の第1回転数R1以上となるように、エアコンプレッサの回転数を制御する。その後は、制御を終了してもよいし、再度制御を最初から繰り返してもよい。1回目の制御の後2回目以降の制御を行うタイミングは特に限定されず、常時繰り返してもよく、所定の時間毎に繰り返してもよい。
【0045】
加速度閾値G1は、軽衝突を予測した値であってもよい。軽衝突としては、例えば、25m/s以下の加速度Gであってもよい。加速度閾値G1は、移動体が車両の場合に、車両の走行中に悪路や波状路を通過すると予測した値、路面干渉を受けると予測した値、及び、軽衝突を予測した値等であってもよい。なお、これらの値は、予め加速度Gが発生する要件として、各場合に応じた加速度閾値G1をデータ群として制御部に記憶させておいてもよい。
【0046】
第1回転数R1は、移動体が停止していないとき、すなわち、移動体の移動速度が0ではないときに必要なエアコンプレッサの回転数であってもよい。第1回転数R1は、移動体の移動速度が所定の徐行速度以上であるときに必要なエアコンプレッサの回転数であってもよい。第1回転数R1は、移動体の移動速度が所定の徐行速度を超えるときに必要なエアコンプレッサの回転数であってもよい。第1回転数R1は、移動体が通常運転している時に必要なエアコンプレッサの回転数であってもよい。第1回転数R1は、移動体が通常運転速度よりも速い高速運転している時に必要なエアコンプレッサの回転数であってもよい。徐行速度は、直ちに移動体が停止できるような速度であり、例えば、10km/h以下であってもよく、5km/h以下であってもよい。移動体が通常運転している時の移動速度とは、所定の徐行速度を超える速度であってもよい。移動体が通常運転速度よりも速い高速運転している時とは、例えば、移動体が車両の場合は、高速道路を走行している場合等であってもよい。移動体が高速運転している時の移動速度とは、移動体が車両である場合は、例えば80km/h以上であってもよく、100km/h以上であってもよい。
また、第1回転数R1は、予めロータとハウジングとが接しないために加速度Gを減衰させるのに必要なエアコンプレッサの回転数と、加速度Gとの関係を示すデータ群を予め準備し、当該データ群から設定してもよい。
【0047】
図2に示す制御は、例えば、移動体に、外部からの軽衝突が予測される場合に、軽衝突前にエアコンプレッサの回転数を移動体の移動時に必要な回転数以上となるように、エアコンプレッサの回転数を増大させることにより、軽衝突時に加わる加速度Gを十分に減衰させ、エアコンプレッサの破損の発生を抑制することができる。
【0048】
図3は、本開示の燃料電池システムの制御の別の一例を示すフローチャートである。
制御部は、エアコンプレッサの回転数が所定の第2回転数R2以上且つ第1回転数R1未満であるか否か判定する。
制御部が、エアコンプレッサの回転数が第2回転数R2以上且つ第1回転数R1未満ではないと判定した場合、すなわちエアコンプレッサの回転数が第1回転数R1以上であると判定した場合は、制御を終了してもよい。
制御部が、エアコンプレッサの回転数が第2回転数R2以上且つ第1回転数R1未満であると判定した場合に、G検知部は、加速度Gを予測する。制御部は、G検知部が予測した加速度Gが加速度閾値G1以上であるか否か判定する。
制御部は、G検知部が予測した加速度Gが加速度閾値G1以上であると判定した場合に、エアコンプレッサの回転数が第1回転数R1以上となるように、エアコンプレッサの回転数を制御する。
一方、制御部は、G検知部が予測した加速度Gが加速度閾値G1未満であると判定した場合に、エアコンプレッサの回転数が第2回転数R2となるように、エアコンプレッサの回転数を制御する。その後は、制御を終了してもよいし、再度制御を最初から繰り返してもよい。1回目の制御の後2回目以降の制御を行うタイミングは特に限定されず、常時繰り返してもよく、所定の時間毎に繰り返してもよい。
【0049】
第2回転数R2は、移動体が停止しているときに必要なエアコンプレッサの最小回転数であってもよい。この場合、第1回転数R1は、移動体が停止していない時に必要なエアコンプレッサの最小回転数であってもよい。
移動体が停止しているときに必要なエアコンプレッサの最小回転数は、エアコンプレッサの性能に応じて適宜設定すればよく、1万回転以上であってもよく、2万回転以上であってもよい。
移動体が停止していない時に必要なエアコンプレッサの最小回転数は、エアコンプレッサの性能に応じて適宜設定すればよく、移動体が停止しているときに必要なエアコンプレッサの最小回転数より大きい回転数であれば特に限定されず、3万回転以上であってもよく、4万回転以上であってもよい。
【0050】
図3に示す制御は、例えば、移動体が停止しているか、又は、停止していると近似できる場合に、移動体に、外部からの軽衝突が予測される場合に、移動体の停止時のエアコンプレッサの回転数以上且つ移動体の移動時のエアコンプレッサの回転数未満のままでは、軽衝突時に加速度Gを十分に減衰することができず、ロータとハウジングが接触し、エアコンプレッサが破損してしまう可能性がある。そこで、外部からの軽衝突が予測される場合に、軽衝突前にエアコンプレッサの回転数を移動体の移動時に必要なエアコンプレッサの回転数以上となるように、エアコンプレッサの回転数を増大させることにより、軽衝突時に加わる加速度Gを十分に減衰させ、エアコンプレッサの破損の発生を抑制することができる。
一方、外部からの軽衝突が予測されない場合は、燃料電池の燃費を良好にする観点から、移動体の停止時に必要なエアコンプレッサの最小回転数に制御する。
なお、移動体が停止していると近似できる場合とは、移動体が車両の場合は、例えば、ギアをパーキングレンジに設定している場合等が挙げられる。
【0051】
軽衝突の事例として、自車両が駐車場でアイドル停止している状態(車速0km/hrだがIG-onはしている状態)で、相手車両が仮に30km/hrで自車両に軽衝突してきた場合等が挙げられる。この場合、自車両の停止時のエアコンプレッサの最小回転数から自車両の移動時のエアコンプレッサの最小回転数まで回転数を増大させるまでの時間を、通信遅れ込みで100msecと仮定すると、他車両との距離が0.83m以下になる前に他車両と衝突することを予測し、エアコンプレッサの回転数を増大させれば、衝突の瞬間にはエアコンプレッサの回転数を移動時のエアコンプレッサの最小回転数以上に増大させることができる。
【0052】
図4は、本開示の燃料電池システムの制御の別の一例を示すフローチャートである。
移動速度検知部は、所定のタイミングで移動体の移動速度を計測する。移動速度検知部が移動体の移動速度を計測するタイミングは、特に限定されず、所定の時間毎に計測してもよく、常時計測してもよい。
制御部は、移動速度検知部が計測した移動体の移動速度が所定の第1移動速度V1未満であるか否か判定する。
制御部は、移動速度が第1移動速度V1以上であると判定した場合に、エアコンプレッサの回転数が第1回転数R1以上となるように、エアコンプレッサの回転数を制御する。
一方、制御部が、移動速度が第1移動速度V1未満であると判定した場合に、G検知部は、加速度Gを予測する。制御部は、G検知部が予測した加速度Gが加速度閾値G1以上であるか否か判定する。
制御部は、G検知部が予測した加速度Gが加速度閾値G1以上であると判定した場合に、エアコンプレッサの回転数が第1回転数R1以上となるように、エアコンプレッサの回転数を制御する。
一方、制御部は、G検知部が予測した加速度Gが加速度閾値G1未満であると判定した場合に、移動速度が第1移動速度V1よりも小さい所定の第2移動速度V2以上であるか否か判定する。
制御部は、移動速度が第2移動速度V2以上であると判定した場合、エアコンプレッサの回転数が第1回転数R1よりも小さい所定の第3回転数R3となるように、エアコンプレッサの回転数を制御する。
制御部は、移動速度が第2移動速度V2未満であると判定した場合、エアコンプレッサの回転数が第3回転数R3よりも小さい所定の第2回転数R2となるように、エアコンプレッサの回転数を制御する。その後は、制御を終了してもよいし、再度制御を最初から繰り返してもよい。1回目の制御の後2回目以降の制御を行うタイミングは特に限定されず、常時繰り返してもよく、所定の時間毎に繰り返してもよい。
【0053】
ここで、第3回転数R3は、移動体の移動速度が第2移動速度V2以上且つ第1移動速度V1未満であるときに必要なエアコンプレッサの回転数であってもよい。第3回転数R3を設定する場合は、第1回転数R1は、移動体の移動速度が第1移動速度V1以上のときに必要なエアコンプレッサの回転数であってもよい。第3回転数R3を設定する場合は、第2回転数R2は、移動体の移動速度が第2移動速度V2未満のときに必要なエアコンプレッサの回転数であってもよい。
すなわち回転数は小さい方から順に第2回転数R2、第3回転数R3、第1回転数R1(R2<R3<R1)である。
【0054】
第1移動速度V1は、例えば、移動体が所定の徐行速度で徐行運転している時の移動速度であってもよい。この場合、第2移動速度V2は、移動体が停止していない時の移動速度以上且つ徐行速度未満であってもよい。この場合、第1回転数R1は、移動体が徐行運転している時に必要なエアコンプレッサの回転数であってもよい。この場合、第1回転数R3は、移動体が停止していない時の移動速度以上且つ徐行速度未満の時に必要なエアコンプレッサの回転数であってもよい。この場合、第2回転数R2は、移動体が停止しているときに必要なエアコンプレッサの最小回転数であってもよい。
【0055】
第1移動速度V1は、例えば、移動体が通常運転している時の移動速度であってもよい。この場合、第2移動速度V2は、移動体が停止していない時の移動速度以上且つ移動体が通常運転している時の移動速度未満であってもよく、移動体の移動速度が所定の徐行速度以上且つ移動体が通常運転している時の移動速度未満であってもよい。この場合、第1回転数R1は、移動体が通常運転している時に必要なエアコンプレッサの回転数であってもよい。この場合、第3回転数R3は、移動体が停止していない時の移動速度以上且つ移動体が通常運転している時の移動速度未満の時に必要なエアコンプレッサの回転数であってもよく、移動体の移動速度が所定の徐行速度以上且つ移動体が通常運転している時の移動速度未満の時に必要なエアコンプレッサの回転数であってもよい。この場合、第2回転数R2は、移動体が停止しているときに必要なエアコンプレッサの最小回転数であってもよい。
【0056】
第1移動速度V1は、例えば、移動体が通常運転速度よりも速い高速運転している時の移動速度であってもよい。この場合、第2移動速度V2は、移動体が停止していない時の移動速度以上且つ移動体が高速運転している時の移動速度未満であってもよく、移動体の移動速度が所定の徐行速度以上且つ移動体が高速運転している時の移動速度未満であってもよい。この場合、第1回転数R1は、移動体が高速運転している時に必要なエアコンプレッサの回転数であってもよい。この場合、第1回転数R3は、移動体が停止していない時の移動速度以上且つ移動体が高速運転している時の移動速度未満の時に必要なエアコンプレッサの回転数であってもよく、移動体の移動速度が所定の徐行速度以上且つ移動体が高速運転している時の移動速度未満の時に必要なエアコンプレッサの回転数であってもよい。この場合、第2回転数R2は、移動体が停止しているときに必要なエアコンプレッサの最小回転数であってもよい。
【0057】
図4に示す制御は、例えば、移動体が車両の場合に、車両の走行中に悪路や波状路を通過すると予測される場合、路面干渉を受けると予測される場合、及び、軽衝突が予測される場合等に、車両の移動速度に応じてエアコンプレッサの回転数を制御し、且つ、エアコンプレッサの回転数不足によるエアコンプレッサの破損の発生を抑制することができる。具体的には、車両の走行中に悪路や波状路を通過すると予測される場合、路面干渉を受けると予測される場合、及び、軽衝突が予測される場合は、加速度Gを減衰させるのに必要な回転数である第1回転数R1に制御してエアコンプレッサの損傷の発生を抑制する。これらが予測されない走行時は、走行時に必要な最小回転数である第3回転数R3に制御して車両の燃費を向上させる。これらが予測されない車両の停止時は第2回転数R2に制御して車両の燃費を向上させる。
G検知部における悪路、波状路、及び、路面干渉等の有無の予測は、例えば、路面情報、車線情報、道路工事予定等をGPSや3D地図を組み合わせた路面予測情報を基に行ってもよい。
路面干渉としては、例えば走行時の路面ギャップ等が挙げられる。例えば下り坂道の走行の場合は、下り坂道中に路面ギャップがなければ、予測した加速度Gが加速度閾値G1未満であると判定して、下り坂道に入る前にエアコンプレッサの回転数を第1回転数R1から第3回転数R3に減少させて、エアコンプレッサの消費電力を小さくしてもよい。一方、下り坂道中に路面ギャップがある場合は、路面ギャップ乗り越えに伴う予測加速度Gが加速度閾値G1以上となると判定して、下り坂道に入る前にエアコンプレッサの回転数を第3回転数R3から第1回転数R1に増大させることにより、エアコンプレッサの破損の発生を抑制することができる。
【0058】
以上のことから本開示の燃料電池システムであれば、移動体の移動中においても停止中においても、1つのエアコンプレッサを用いて移動体の燃費を良好にし、且つ、エアコンプレッサの耐久性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0059】
10 燃料電池
20 エアコンプレッサ
21 酸化剤ガス供給流路
22 酸化剤オフガス排出流路
23 酸化剤ガス圧力調整弁
50 制御部
100 燃料電池システム
図1
図2
図3
図4