(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20231108BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20231108BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20231108BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20231108BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0562
H01M4/134
H01M4/13
(21)【出願番号】P 2021067222
(22)【出願日】2021-04-12
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 諒一
【審査官】相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-004685(JP,A)
【文献】特開2014-086218(JP,A)
【文献】特開2019-185897(JP,A)
【文献】特開2015-122340(JP,A)
【文献】特開2008-305775(JP,A)
【文献】特表2019-535116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052 -10/0525
H01M 10/0562
H01M 4/134
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置された固体電解質層とを有し、
前記負極はSi系活物質を含み、
正極容量に対する負極容量の比xが
x=2を満たし、
前記負極の充填率yが21.43x+14.14≦y≦4.29x+60.43を満たす、
全固体電池。
【請求項2】
前記負極の充填率yが59≦y≦65を満たす、請求項1に記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、正極層と、負極層と、正極層および負極層の間に形成された固体電解質層とを有する全固体電池であって、正極層は、LixNiaCobMncOy(1.15≦x≦1.55、a+b+c=1、0≦a≦0.85、0≦b≦0.85、0.15≦c≦0.70、yは電荷中性を満たすように定まる値である)で表される組成を有する正極活物質を含有し、負極層は、Si系活物質を含有し、正極容量に対する負極容量の容量比をAとした場合に、2≦A≦5.5を満たし、正極活物質において、Me(MeはLi以外の金属元素)に対するLiのモル比をLi/Meとした場合に、0.1083A+0.9085≦Li/Meを満たす、全固体電池を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
全固体電池において負極活物質にSi系活物質を用いる場合、負極を高充填率で形成すると、充放電に伴って抵抗が増加する問題がある。Si系活物質は充放電により体積が大きく膨張収縮するため、負極を高充填率で形成すると負極内に多数の亀裂が発生するためである。
【0005】
従来では、このような問題を回避するために、負極活物質にLTO(チタン酸リチウム)が用いられてきた。LTOは充放電によりほとんど体積が膨張収縮しないため、上記のような亀裂も発生し難い。また、負極容量/正極容量の比率を大きくすることで亀裂の発生を抑制することもできる。しかし、いずれの場合も、エネルギー密度が低下する問題がある。
【0006】
そこで、本願の目的は、上記実情を鑑み、負極活物質にSi系活物質を用いた場合でも充放電による抵抗増加を抑制することができる全固体電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、上記課題を解決するための一つの手段として、正極と、負極と、正極と負極との間に配置された固体電解質層とを有し、負極はSi系活物質を含み、正極容量に対する負極容量の比xが2≦x≦2.7を満たし、負極の充填率yが21.43x+14.14≦y≦4.29x+60.43を満たす、全固体電池を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の全固体電池によれば、負極活物質にSi系活物質を用いた場合でも充放電による抵抗増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】各試験例における負極の充填率と抵抗増加率との関係を示した。
【
図3】各試験例における負極の充填率と耐久試験後の抵抗値との関係を示した。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の全固体電池は正極と、負極と、正極と負極との間に配置された固体電解質層とを有し、負極はSi系活物質を含み、正極容量に対する負極容量の比xが2≦x≦2.7を満たし、負極の充填率yが21.43x+14.14≦y≦4.29x+60.43を満たすものである。
【0011】
上述した通り、負極活物質としてSi系活物質を用いる場合、充放電によるSi系活物質の体積の膨張収縮により、負極内に亀裂が発生する虞がある。このような亀裂の発生は、負極の充填率が高いほど顕著である。なぜならば、充填率が高いほど負極活物質の膨張による体積増加の逃げ場がなくなり、その膨張による応力が負極の強度を超えると破断し、多数の大きな亀裂が発生するためである。このような亀裂により、電子伝導パスおよびイオン伝導パスを断絶し、抵抗が増加する。
【0012】
このような亀裂を抑制するために、上述したように、負極容量/正極容量の比率を大きくすることが考えられるが、その場合エネルギー密度が低下する問題がある。また、負極の充填率を低下させることも考えられる。負極の充填率を低下させることで、Si系活物質の膨張を負極内の空隙に逃がし、負極内に発生する応力を緩和ことができ、亀裂の発生を抑制することができるためである。しかし、充填率を低下させすぎると、粒子間の接触力や接触面積が小さくなり接触抵抗が増加する虞がある。
【0013】
そこで、本開示の全固体電池は、正極容量に対する負極容量の比(容量比)xが2≦x≦2.7を満たし、負極の充填率yが21.43x+14.14≦y≦4.29x+60.43を満たすことを特徴としている。このように容量比xを2.7以下と小さくした場合でも、充填率yを上記の範囲に制御することで、負極活物質にLTOを用いた場合と同等以下の抵抗値に抑えることができる。また、容量比xを2以上としたことにより、Si系活物質の膨張に耐え得る強度を確保することができる。言い換えると、容量比が2未満である場合、充填率を低くしても、電極構造が単位重量当たりのSi活物質の膨張量に耐えられず、充放電による抵抗増加を抑制することが困難である。
【0014】
以上より、本開示の全固体電池によれば、負極活物質にSi系活物質を用いた場合でも充放電による抵抗増加を抑制することができる。
【0015】
<全固体電池100>
以下、本開示の全固体電池について、一実施形態である全固体電池100を用いてさらに説明する。
図1に全固体電池100の断面概略図を示した。
【0016】
図1の通り、全固体電池100は正極10と、負極20と、正極と負極との間に配置された固体電解質層30とを有している。また、全固体電池100は正極集電体40及び負極集電体50を備える。ここで全固体電池100は全固体リチウム電池である。
【0017】
(正極10)
正極10は正極活物質を含む。正極活物質は全固体電池に適用可能な公知の正極活物質を用いればよい。例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム等のリチウム含有複合酸化物を用いることができる。正極活物質の粒径は特に限定されないが、例えば1~50μmの範囲である。正極10における正極活物質の含有量は、例えば50重量%~99重量%の範囲である。正極活物質は表面がニオブ酸リチウム層やチタン酸リチウム層、リン酸リチウム層等の酸化物層で被覆されていてもよい。
【0018】
ここで、本明細書において「粒径」とは、レーザ回折・散乱法によって測定された体積基準の粒度分布において、積算値50%での粒子径(D50)を意味する。
【0019】
正極10は任意に固体電解質を備えていてもよい。固体電解質としては酸化物固体電解質や硫化物固体電解質等が挙げられる。好ましくは硫化物固体電解質である。酸化物固体電解質としては、例えばLi7La3Zr2O12、Li7-xLa3Zr1-xNbxO12、Li3PO4、Li3+xPO4-xNx(LiPON)等が挙げられる。硫化物固体電解質としては、例えばLi3PS4、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Si2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiI-LiBr、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5-GeS2等が挙げられる。正極10における固体電解質の含有量は特に限定されないが、例えば1重量%~50重量%の範囲である。
【0020】
正極10は任意に導電助剤を備えていてもよい。導電助剤としては、例えば、アセチレンブラックやケッチェンブラック、気相法炭素繊維(VGCF)等の炭素材料やニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属材料が挙げられる。正極10における導電助剤の含有量は特に限定されないが、例えば0.1重量%~10重量%の範囲である。
【0021】
正極10は任意にバインダを備えていてもよい。バインダとしては、例えば、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ブチレンゴム(IIR)、アクリレートブタジエンゴム(ABR)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HFP)等が挙げられる。正極10におけるバインダの含有量は特に限定されないが、例えば0.1重量%~10重量%の範囲である。
【0022】
正極10の厚みは特に限定されず、所望の電池性能に応じて適宜設定すればよい。例えば、0.1μm以上1mm以下の範囲である。
【0023】
正極10の製造方法は特に限定されず、公知の方法により製造することができる。例えば、正極10を構成する材料を混合し、プレス成型することにより製造することができる。あるいは、正極10を構成する材料を溶媒とともに混合してスラリーとし、基材又は正極集電体40に当該スラリーを塗布して、乾燥させることにより正極10を製造することができる。
【0024】
<負極20>
負極20は少なくともSi系負極活物質を含む。Si系活物質はLiと合金化可能な活物質であることが好ましい。Si系活物質としては、Si単体、Si合金、Si酸化物が挙げられる。Si合金としては、Si元素を主成分とすることが好ましい。Si合金中のSi元素の割合は、例えば、50mol%以上であってもよく、70mol%以上であってもよく、90mol%以上であってもよい。Si酸化物としては、例えばSiOが挙げられる。SI系活物質の粒径は特に限定されないが、例えば5~50μmの範囲である。負極20における負極活物質の含有量は、例えば30重量%~90重量%の範囲である。
【0025】
負極20は任意に固体電解質を備えていてもよい。固体電解質の種類は、正極10に用いられる固体電解質の種類から適宜選択することができる。負極20における固体電解質の含有量は特に限定されないが、例えば10重量%~70重量%の範囲である。
【0026】
負極20は任意に導電助剤を備えていてもよい。導電助剤の種類は、正極10に用いられる導電助剤の種類から適宜選択することができる。負極20における導電助剤の含有量は特に限定されないが、例えば0.1重量%~20重量%の範囲である。
【0027】
負極20は任意にバインダを備えていてもよい。バインダの種類は正極10に用いられるバインダの種類から適宜選択することができる。負極20におけるバインダの含有量は特に限定されないが、例えば0.1重量%~10重量%の範囲である。
【0028】
負極20の厚みは特に限定されず、所望の電池性能に応じて適宜設定すればよい。例えば、0.1μm以上1mm以下の範囲である。
【0029】
負極20の製造方法は特に限定されず、公知の方法により製造することができる。例えば、上述した正極10の製造方法と同様の手法を採用することができる。
【0030】
<固体電解質層30>
固体電解質層30は固体電解質を含む。固体電解質の種類は正極10に用いられる固体電解質の種類から適宜選択することができる。固体電解質層30における固体電解質の含有量は、例えば50重量%~100重量%の範囲である。
【0031】
固体電解質層30は任意にバインダを備えていてもよい。バインダの種類は正極10に用いられるバインダの種類から適宜選択することができる。固体電解質層30におけるバインダの含有量は特に限定されないが、例えば0.1重量%~10重量%の範囲である。
【0032】
固体電解質層30の製造方法は特に限定されず、公知の方法により製造することができる。例えば、上述した正極10の製造方法と同様の手法を採用することができる。
【0033】
<正極集電体40、負極集電体50>
正極集電体40及び負極集電体50は、金属体や金属メッシュ等により構成すればよい。特に金属体が好ましい。正極集電体40及び負極集電体50を構成する金属としては、例えばSUSやAl、Ni等が挙げられる。正極集電体40及び負極集電体50の各々の厚みは特に限定されず、従来と同様でよい。例えば0.1μm以上1mm以下の範囲である。
【0034】
<全固体電池100>
全固体電池100は正極容量に対する負極容量の比(容量比:負極容量/正極容量)xが2≦x≦2.7を満たし、負極の充填率yが21.43x+14.14≦y≦4.29x+60.43を満たすものである。これにより、全固体電池100は充放電による抵抗増加を抑制することができる。容量比x及び充填率yは後述の実施例から実験的に求めたものである。
【0035】
全固体電池100の製造方法は例えば次のとおりである。まず、正極10、負極20、固体電解質層30を用意する。この際、容量比xが上記の範囲を満たすように、正極10と負極20とを調整する。そして、これらを順次積層し、プレス成型する。この際、負極20の充填率yが上記の範囲となるように、プレス成型の圧力を調整する。これにより、全固体電池100を得ることができる。ここで、充填率yは、別途負極20のみをプレスしたときの膜厚と負極合材量とから算出することができる。なお、得られた全固体電池100をラミネートフィルム等の公知の外装体を用いて、その内部に封止してもよい。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を用いて、本開示の全固体電池についてさらに説明する。
【0037】
[全固体電池]
以下の方法により、実施例1~2及び比較例1~18の全固体電池を作製した。
【0038】
<実施例1>
(正極構造体の作製)
転動流動造粒コーティング装置でLiNbO3を被覆した正極活物質(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、平均粒径10μm)と、硫化物固体電解質(10LiI・15LiBr・75(0.75Li2S・0.25P2S5)(mol%)、平均粒径0.5μm)と、導電助材(VGCF-H)と、バインダ(SBR)を、重量比で、正極活物質:硫化物固体電解質:導電助材:バインダ=85.4:12.7:1.3:0.6となるように秤量し、分散媒(ジイソブチルケトン)とともに混合した。得られた混合物を、超音波ホモジナイザー(UH-50、株式会社エスエムテー製)で分散させることにより、正極スラリーを得た。得られた正極スラリーを、正極集電体(Al箔、厚さ15μm)上に、アプリケーターによるブレードコート法により塗工し、100℃で30分間乾燥させた。その後、1cm2の大きさに打ち抜くことにより、正極および正極集電体を有する正極構造体を得た。
【0039】
(負極構造体の作製)
負極活物質(Si粒子、平均粒径2.5μm)と、硫化物固体電解質(10LiI・15LiBr・75(0.75Li2S・0.25P2S5)(mol%)、平均粒径0.5μm)と、導電助材(VGCF-H)と、バインダ(SBR)を、重量比で、負極活物質:硫化物固体電解質:導電材:バインダ=62.1:31.7:5.0:1.2となるように秤量し、分散媒(ジイソブチルケトン)とともに混合した。得られた混合物を、超音波ホモジナイザー(UH-50、株式会社エスエムテー製)で分散させることにより、負極スラリーを得た。得られた負極スラリーを、負極集電体(Ni箔、厚さ22μm)上に、アプリケーターによるブレードコート法により塗工し、100℃で30分間乾燥させた。この時のアプリケーターのギャップ(隙間)は、正極容量を207mAh/g、負極容量を3579mAh/gとした場合に、負極容量/正極容量の比(容量比)が2となるように調整した。その後、1cm2の大きさに打ち抜くことにより、負極層および負極集電体を有する負極構造体を得た。
【0040】
(固体電解質層の作製)
硫化物固体電解質(10LiI・15LiBr・75(0.75Li2S・0.25P2S5)(mol%)、平均粒径2.0μm)とバインダ(SBR)を、重量比で、硫化物固体電解質:バインダ=99.6:0.4となるように秤量し、分散媒(ジイソブチルケトン)とともに混合した。得られた混合物を、超音波ホモジナイザー(UH-50、株式会社エスエムテー製)で分散させることにより、スラリーを得た。得られたスラリーを、基材(Al箔、厚さ15μm)上に、アプリケーターによるブレードコート法により塗工し、100℃で30分間乾燥させた。その後、1cm2の大きさに打ち抜くことにより、Al箔を有する固体電解質層を得た。
【0041】
(全固体電池の作製)
得られた固体電解質層と正極構造体とを、正極と固体電解質層とが対向するように重ね合わせ、ロールプレス法により線圧1.6t/cmでプレスした後、固体電解質層からAl箔を剥離することにより、正極上に固体電解質層を転写した。次に、正極上に転写された固体電解質層と、負極構造体とを対向するように重ね合わせ、1軸プレス機により、面圧5.0t/cm2でプレスした後、集電用のタブを正負極集電箔上に配置し、ラミネート封止することにより、全固体電池を得た。ここで、充填率は別途負極構造体を用意し、上記と同様の面圧でプレスした後の負極構造体の膜厚と合材重量とから算出した。
【0042】
<実施例2>
固体電解質層と負極構造体とを重ね合わせる際の1軸プレス機による面圧を4.0t/cm2に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により実施例2の全固体電池を作製した。
【0043】
<比較例1>
負極構造体作製時のアプリケーターのギャップ(隙間)を、負極容量/正極容量の比(容量比)が1.8となるように調整し、かつ、固体電解質層と負極構造体とを重ね合わせる際の1軸プレス機による面圧を6.0t/cm2に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により比較例1の全固体電池を作製した。
【0044】
<比較例2>
固体電解質層と負極構造体とを重ね合わせる際の1軸プレス機による面圧を4.0t/cm2に変更したこと以外は、比較例1と同様の方法により比較例2の全固体電池を作製した。
【0045】
<比較例3>
固体電解質層と負極構造体とを重ね合わせる際の1軸プレス機による面圧を2.0t/cm2に変更したこと以外は、比較例1と同様の方法により比較例3の全固体電池を作製した。
【0046】
<比較例4>
固体電解質層と負極構造体との重ね合わせにおいて、ロールプレス法により線圧5.0t/cmでプレスしたこと以外は、実施例1と同様の方法により比較例4の全固体電池を作製した。
【0047】
<比較例5>
固体電解質層と負極構造体とを重ね合わせる際の1軸プレス機による面圧を7.0t/cm2に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により比較例5の全固体電池を作製した。
【0048】
<比較例6>
固体電解質層と負極構造体とを重ね合わせる際の1軸プレス機による面圧を6.0t/cm2に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により比較例6の全固体電池を作製した。
【0049】
<比較例7>
固体電解質層と負極構造体とを重ね合わせる際の1軸プレス機による面圧を3.0t/cm2に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により比較例7の全固体電池を作製した。
【0050】
<比較例8>
固体電解質層と負極構造体とを重ね合わせる際の1軸プレス機による面圧を2.0t/cm2に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により比較例8の全固体電池を作製した。
【0051】
<比較例9>
負極構造体作製時のアプリケーターのギャップ(隙間)を、負極容量/正極容量の比(容量比)が3となるように調整し、かつ、固体電解質層と負極構造体との重ね合わせにおいて、ロールプレス法により線圧5.0t/cmでプレスしたこと以外は、実施例1と同様の方法により比較例9の全固体電池を作製した。
【0052】
<比較例10>
固体電解質層と負極構造体との重ね合わせにおいて、1軸プレス機により面圧7.0t/cm2でプレスしたこと以外は、比較例9と同様の方法により比較例10の全固体電池を作製した。
【0053】
<比較例11>
固体電解質層と負極構造体との重ね合わせにおいて、1軸プレス機により面圧6.0t/cm2でプレスしたこと以外は、比較例9と同様の方法により比較例11の全固体電池を作製した。
【0054】
<比較例12>
固体電解質層と負極構造体との重ね合わせにおいて、1軸プレス機により面圧5.0t/cm2でプレスしたこと以外は、比較例9と同様の方法により比較例12の全固体電池を作製した。
【0055】
<比較例13>
固体電解質層と負極構造体とを重ね合わせにおいて、1軸プレス機により面圧4.0t/cm2でプレスしたこと以外は、比較例9と同様の方法により比較例13の全固体電池を作製した。
【0056】
<比較例14>
負極構造体の作製工程を下記のように変更し、かつ、固体電解質層と負極構造体との重ね合わせにおいて、ロールプレス法により線圧5.0t/cmでプレスしたこと以外は、実施例1と同様の方法により比較例14の全固体電池を作製した。
【0057】
負極活物質(Li4Ti5O12(LTO)、平均粒径0.8μm)と、硫化物固体電解質(10LiI・15LiBr・75(0.75Li2S・0.25P2S5)(mol%)、平均粒径0.5μm)と、導電材(VGCF-H)と、バインダ(SBR)を、重量比で、負極活物質:硫化物固体電解質:導電材:バインダ=71.0:23.9:2.5:3.4となるように秤量し、分散媒(ジイソブチルケトン)とともに混合した。得られた混合物を、超音波ホモジナイザー(UH-50、株式会社エスエムテー製)で分散させることにより、負極スラリーを得た。得られた負極スラリーを、負極集電体(Ni箔、厚さ22μm)上に、アプリケーターによるブレードコート法により塗工し、100℃で30分間乾燥させた。この時のアプリケーターのギャップ(隙間)は、負極容量/正極容量の比が3となるように調整した。その後、1cm2の大きさに打ち抜くことにより、負極層および負極集電体を有する負極構造体を得た。
【0058】
<比較例15>
固体電解質層と負極構造体との重ね合わせにおいて、1軸プレス機により面圧7.0t/cm2でプレスしたこと以外は、比較例14と同様の方法により比較例15の全固体電池を作製した。
【0059】
<比較例16>
固体電解質層と負極構造体との重ね合わせにおいて、1軸プレス機により面圧6.0t/cm2でプレスしたこと以外は、比較例14と同様の方法により比較例16の全固体電池を作製した。
【0060】
<比較例17>
固体電解質層と負極構造体との重ね合わせにおいて、1軸プレス機により面圧5.0t/cm2でプレスしたこと以外は、比較例14と同様の方法により比較例17の全固体電池を作製した。
【0061】
<比較例18>
固体電解質層と負極構造体との重ね合わせにおいて、1軸プレス機により面圧4.0t/cm2でプレスしたこと以外は、比較例14と同様の方法により比較例18の全固体電池を作製した。
【0062】
[耐久試験]
次の通り耐久試験を行った。耐久試験において、比較例1から13および実施例1、2は2.5Vから4.05Vの範囲において電流3.67mAで、比較例14から18は3.0Vから4.35Vの範囲において電流2.32mAで、充放電を50回繰り返し行った。また比較例1から13および実施例1、2の初期抵抗は耐久試験の電圧範囲で充放電を3回行った後、一度充電し、さらに3.0Vまで放電した後、6.2mAで10秒間放電した際の電圧変化から電池の抵抗を算出した。比較例14から18の初期抵抗は耐久試験の電圧範囲で充放電を3回行った後、一度充電し、さらに3.2Vまで放電した後、3.9mAで10秒間放電した際の電圧変化から電池の抵抗を算出した。耐久試験後の抵抗は上記期の充放電を50回繰り返した後に、それぞれの初期抵抗と同様の方法により測定した。結果を表1に示した。
【0063】
また、負極の充填率と抵抗増加率との関係及び耐久試験後の抵抗値との関係について
図2、3にそれぞれ示した。ここで、
図2、
図3では、負極活物質毎及び容量比毎に試験例を分けて、近似直線又は近似曲線を適用している。
【0064】
【0065】
[結果]
表1、
図2、3の結果から、次のように考えることができる。
図2、
図3より、LTOを用いた試験例においては、耐久試験後の抵抗値の増加はほとんど見られなかった。一方で、Siを用いた試験例においては、容量比により、耐久試験後の抵抗増加率及び抵抗値の傾向が変化した。具体的には容量比が1.8である試験例では耐久試験後の抵抗値が顕著に高かった。一方で、容量比が2、3である試験例では、所定の充填率の範囲において、耐久試験後の抵抗値が抑制されていた。また、さらに容量比2の試験例では、所定の充填率の範囲において、耐久後の抵抗値がLTOを用いた試験例と同等以下の大きさであった。上記ではこれらの試験例を実施例1、実施例2とした。
【0066】
次に、
図3の結果から、負極活物質にSi系活物質を用いた場合であっても、LTOを用いた場合と同等以下の耐久試験後の抵抗値を示す範囲を推定した。具体的には、LTOを用いた試験例に基づく近似直線(LTO近似直線)、Siを用いた容量比2である試験例に基づく近似曲線(近似曲線2)、及びSiを用いた容量比3である試験例に基づく近似曲線(近似曲線3)を用いて、次のように検討した。
【0067】
まず、近似曲線2及び近似曲線3の極小値を直線で結び、その直線とLTO近似直線との交点Aを得た。容量比2から容量比3の範囲では極小値が直線的に変化すると仮定すると、交点Aは容量比が2.7である場合の近似曲線の極小値と推定できる。この結果から、Si系活物質を用いた全固体電池において、容量比xが2≦x≦2.7を満たすことが重要であると考えられる。
【0068】
また、容量比を増加させると近似曲線の極小値は充填率と耐久後の抵抗が共に増加すると推定できる。このことから容量比が高くなるとLTO近似曲線を下回る抵抗を示す範囲は小さくなると推定できるため、LTO近似直線と近似曲線2との交点における充填率と、交点Aにおける充填率との関係から、LTOを用いた試験例の耐久試験後の抵抗値と同等以下となる負極の充填率の範囲を算出した。具体的には容量比と充填率の関係から、近似曲線2がLTO近似直線を下回る場合における充填率の最大値及び最小値と、交点Aとを結んで形成される範囲を満たす容量比と充填率との関係を算出した(
図4参照)。その結果、充填率yが21.43x+14.14≦y≦4.29x+60.43を満たすことが重要であることが分かった。
【0069】
以上のことから、Si系負極活物質を用いた全固体電池において、容量比xが2≦x≦2.7を満たし、かつ、充填率yが21.43x+14.14≦y≦4.29x+60.43を満たすことにより、LTOを用いた全固体電池の耐久試験後の抵抗値と同等以下の抵抗値とすることができると考えられる。すなわち、Si系負極活物質を用いた全固体電池において、充放電による抵抗増加を抑制することができると考えられる。
【符号の説明】
【0070】
10 正極
20 負極
30 固体電解質層
40 正極集電体
50 負極集電体
100 全固体電池