(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】A/D変換回路
(51)【国際特許分類】
H03M 1/46 20060101AFI20231108BHJP
H03M 1/08 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
H03M1/46
H03M1/08 A
(21)【出願番号】P 2021530353
(86)(22)【出願日】2019-07-05
(86)【国際出願番号】 JP2019026856
(87)【国際公開番号】W WO2021005654
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000106276
【氏名又は名称】サンケン電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【氏名又は名称】前島 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】林 秀樹
【審査官】及川 尚人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0068179(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0271245(US,A1)
【文献】特開2014-011768(JP,A)
【文献】特開2005-295315(JP,A)
【文献】特開2002-374169(JP,A)
【文献】特表2008-516511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03M 1/00-1/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力電位をサンプリング・ホールドした電位とデジタル値と参照電源とに基づき比較電位を生成するデジタル/アナログ変換器を備え、前記比較電位を前記参照電源に基づき生成された基準電位と比較し前記比較電位を前記デジタル値に変換し、変換された前記デジタル値を前記デジタル/アナログ変換器に出力するA/D変換回路であって、
前記デジタル/アナログ変換器は、一端に前記比較電位が出力され複数ビットの下位ビットから上位ビットに行くに従って容量値が大きくなるコンデンサ、前記コンデンサの他端に前記入力電位が印加される第1スイッチ、前記コンデンサの他端と前記参照電源との間に第2スイッチと電流量制御素子との直列回路が前記複数ビットに対応して設けられた複数のビット回路と、
前記複数のビット回路の各ビット回路に設けられた前記電流量制御素子に流れる電流量を制御する電流量制御部とを備え、
前記電流量制御部は、前記デジタル値により各ビット回路において上位ビットから順に前記第2スイッチがオンされる場合に、前記コンデンサから前記参照電源に流れ込む電荷に比例するノイズ電流が許容値以上になるいずれかの前記ビット回路内の前記第2スイッチがオンとなる期間に前記いずれかの前記ビット回路内の前記電流量制御素子に電流制御電位を印加することで前記ノイズ電流を許容値未満に制限
し、前記電流制御電位として前記ノイズ電流と時間との関係が長方形になるような電位を前記電流量制御素子に印加するA/D変換回路。
【請求項2】
前記電流量制御部は、前記電流制御電位として一定の電流制御電位よりも減少した電流制御電位を前記電流量制御素子に印加した後、前記一定の電流制御電位よりも増加した電流制御電位を前記電流量制御素子に印加する請求項
1記載のA/D変換回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逐次比較型のA/D変換回路に関する。
【背景技術】
【0002】
A/D変換回路として、比較電位の生成に容量を含むデジタルアナログ変換器(以下、CDACと称する)を用いた逐次比較型のA/D変換回路が知られている。CDACは、
図13に示すように、1C、2C、4Cのように容量値が2
nCに重み付けされたコンデンサC1-C4と、スイッチswA1-swA4,swH1-swH4,swL1-swL4、参照電源(VrefH/VrefL)、参照電源の1/2電位を生成する抵抗R1と抵抗R2とからなる直列回路とを有する。スイッチswA1-swA4,swH1-swH4,swL1-swL4は、
図14に示すように、MOS-FETM1,M2とインバータIN1とからなるアナログスイッチである。
【0003】
CDACは、例えば、3ビットのビット回路D2,D1,D0を有する。入力電位をCDACに入力するためには、
図15に示すスイッチswA1-swA4をオンする。入力電位を入力する動作を「サンプリング動作」と呼ぶ。この時、入力電位と比較電位とは、4C、2C、1C、1Cで示したコンデンサC4-C1を介して接続される。コンデンサC4-C1には、入力電位と比較電位との差による電荷が蓄積される。
【0004】
コンデンサC4-C1に蓄積された電荷により、スイッチswA1-swA4をオフしても、
図16に太い実線で示すノードの電位は保存される。この動作を「ホールド動作」と呼ぶ。
【0005】
次に、
図17に示すように、ビット回路D2,D1,D0のそれぞれに設置したスイッチswH1-swH3をオフし、スイッチswH4をオンする。また、スイッチswL1-swL3をオンし、スイッチswL4をオフする。コンデンサC1-C4に参照電源VrefH又はVrefLを印加した時の比較電位を観測する。
【0006】
スイッチのオンの組み合わせを試し、比較電位がサンプリング動作時の参照電源の1/2電位と一致するスイッチの組み合わせを検索する。比較器が、例えば、ビット回路D2のスイッチswH、ビット回路D1,D0のスイッチswLをオンした時に、比較電位を参照電源Vrefの1/2電位である基準電位と比較する。比較電位が参照電源Vrefの1/2電位である基準電位となった場合、比較器は、入力電位に対応するデジタル値は100(2進数)である。即ち、ビット回路D2が「1」、ビット回路D1が「0」、ビット回路D0が「0」を出力する。これがA/D変換回路の変換結果である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このようなA/D変換回路の誤差を小さくするためには、CDACの出力電位の誤差を小さくする必要がある。CDACの出力電位の誤差を小さくするためには、参照電源VrefH,VrefLの電位が意図した正しい電位である必要がある。CDACは、動作時に、参照電源にノイズ電流を注入する構造になっている。参照電源にノイズ電流を注入すると、参照電源には 参照電源が持つインピーダンス ×ノイズ電流 =ノイズ電圧のずれが生じる。このため、A/D変換回路に誤差をもたらす。
【0009】
本発明の課題は、ノイズ電圧を小さく抑え、誤差を小さくすることができるA/D変換回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明のA/D変換回路は、入力電位をサンプリング・ホールドした電位とデジタル値と参照電源とに基づき比較電位を生成するデジタル/アナログ変換器を備え、前記比較電位を前記参照電源に基づき生成された基準電位と比較し前記比較電位を前記デジタル値に変換し、変換された前記デジタル値を前記デジタル/アナログ変換器に出力するA/D変換回路である。
【0011】
前記デジタル/アナログ変換器は、一端に前記比較電位が出力され複数ビットの下位ビットから上位ビットに行くに従って容量値が大きくなるコンデンサ、前記コンデンサの他端に前記入力電位が印加される第1スイッチ、前記コンデンサの他端と前記参照電源との間に第2スイッチと電流量制御素子との直列回路が前記複数ビットに対応して設けられた複数のビット回路と、前記複数のビット回路の各ビット回路に設けられた前記電流量制御素子に流れる電流量を制御する電流量制御部とを備え、前記電流量制御部は、前記デジタル値により各ビット回路において上位ビットから順に前記第2スイッチがオンされる場合に、前記コンデンサから前記参照電源に流れ込む電荷に比例するノイズ電流が許容値以上になるいずれかの前記ビット回路内の前記第2スイッチがオンとなる期間に前記いずれかの前記ビット回路内の前記電流量制御素子に電流制御電位を印加することで前記ノイズ電流を許容値未満に制限し、前記電流制御電位として前記ノイズ電流と時間との関係が長方形になるような電位を前記電流量制御素子に印加する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、デジタル値により各ビット回路において上位ビットから順に第2スイッチがオンされる場合に、ノイズ電流が許容値以上になるいずれかのビット回路内の第2スイッチがオンとなる期間に、いずれかのビット回路内の電流量制御素子に電流制御電位を印加することでノイズ電流を許容値未満に制限する。
【0013】
これにより、参照電源へのノイズ電流を許容値未満にすることができる。即ち、ノイズ電圧を小さく抑え、誤差を小さくすることができるA/D変換回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は第1の実施形態のA/D変換回路の全体構成図である。
【
図2】
図2は第1の実施形態のA/D変換回路内のCDACの構成を示す図である。
【
図3】
図3は第1の実施形態のCDACの参照電源と比較電位との間に設けられたコンデンサとスイッチとの直列回路をビット毎に設けたビット回路を示す図である。
【
図4】
図4は
図3に示す各ビット回路において上位ビットから順にスイッチをオンした時にコンデンサから参照電源に流れ込む電荷に比例するノイズ電流の時間的な変化を示す図である。
【
図5】
図5はコンデンサと参照電源との間にスイッチと電流量制御素子との直列回路を設けた複数のビット回路を示す図である。
【
図6】
図6は
図5に示す複数のビット回路において上位ビットから順にスイッチをオンしたときに電流量制御素子に流れる電流を制限したときのノイズ電流の時間的な変化を示す図である。
【
図7】
図7は各ビット回路の各スイッチをオンさせるときに一定の電流を流したときに発生する問題を説明するための図である。
【
図8】
図8はスイッチをオンさせて一定期間だけ電流量制御素子に印加する一定の電流制御電位を示す図である。
【
図9】
図9は一定の電流制御電位を電流量制御素子に印加した場合に制定時間が長くなる様子を示す図である。
【
図10】
図10は第2の実施形態のA/D変換回路の主要部の構成図である。
【
図11】
図11は一定値に対して増加及び減少させたときの電流制御電位を示す図である。
【
図12】
図12は
図11に示す可変の電流制御電位を電流量制御素子に印加した場合に制定時間が短くなる様子を示す図である。
【
図14】
図14は従来のCDAC内の各スイッチの構成を示す図である。
【
図15】
図15は従来のCDACのスイッチをオン時の入力電位のサンプリング動作を示す図である。
【
図16】
図16は従来のCDACのコンデンサに蓄積された電荷のホールド動作を示す図である。
【
図17】
図17は従来のCDACのアナログ/デジタル変換の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態のA/D変換回路を図面を参照しながら説明する。
【0016】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態のA/D変換回路の全体構成図である。A/D変換回路は、ADC全体制御部1、CDAC10、コンパレータ20、逐次型比較データ生成器30を備えている。
【0017】
ADC全体制御部1は、ADCの全体を制御するもので、サンプリング制御信号SCSをCDAC10のスイッチswA1-swA4に出力する。CDAC10は、入力電位をサンプリングしコンデンサにホールドした電位とデジタル値と参照電源Vrefの電位に基づいて比較電位を生成する。
【0018】
コンパレータ20は、CDAC10からの比較電位と参照電源Vrefに基づいて生成された基準電位Vref/2を比較し比較電位をデジタル値に変換する。逐次型比較データ生成器30は、コンパレータ20で変換されたデジタル値を図示しないレジスタに記憶するとともにレジスタに記憶されたデジタル値をスイッチ信号swH,swLとしてCDAC10に出力する。
【0019】
図2は第1の実施の形態のA/D変換回路内のCDACの構成を示す図である。A/D変換回路は、比較電位の生成に容量を含むCDACを用いた逐次比較型のA/D変換回路である。
【0020】
CDACは、
図13に示すCDACに対して、さらに、コンデンサC1-C4と参照電源VrefHとの間にスイッチswH1-swH4と電流量制御素子QH1-QH4とを設け、コンデンサC1-C4と参照電源VrefLとの間にスイッチswL1-swL4と電流量制御素子QL1-QL4とを設けていることを特徴とする。
【0021】
コンデンサC2-C4は、一端に比較電位が出力され複数ビットの下位ビットから上位ビットに行くに従って容量値が大きくなる。スイッチswA1-swA4は、コンデンサC1-C4の他端に入力電位が印加される。
【0022】
コンデンサC4とスイッチswH4と電流量制御素子QH4とスイッチswL4と電流量制御素子QL4とを含むビット回路D2と、コンデンサC3とスイッチswH3と電流量制御素子QH3とスイッチswL3と電流量制御素子QL3とを含むビット回路D1と、コンデンサC2とスイッチswH2と電流量制御素子QH2とスイッチswL2と電流量制御素子QL2とを含むビット回路D0とが設けられている。
【0023】
電流量制御部11は、電流量制御素子QH1-QH4,QL1-QL4に流れる電流量を制御する。電流量制御素子QH1-QH4,QL1-QL4は、例えば、MOSFETからなる。電流量制御素子QH1-QH4, QL1-QL4は、電流量制御素子Q1-Q4とも称する。
【0024】
スイッチswH,swLは、逐次型比較データ生成器30からデジタル値1又は0を入力し、デジタル値1によりオンし、デジタル値0によりオフする。
【0025】
電流量制御部11は、各ビット回路D2,D1,D0において上位ビットから順にスイッチswH4、swH3、swH2、swH1の順(スイッチswL4、swL3、swL2、swL1の順)でオンされる場合に、コンデンサC4、C3、C2、C1から参照電源VrefH(VrefL)に流れ込む電荷に比例するノイズ電流が許容値以上になるいずれかのビット回路、例えばビット回路D2内のスイッチswH4(swL4)がオンとなる期間に、電流量制御素子QH4(QL4)に電流制御電位を印加することでノイズ電流を許容値未満に制限する。
【0026】
また、電流量制御部11は、いずれかのビット回路D2を除くビット回路D1,D0内のスイッチswH3,swH2(swL3,swL2)がオンとなる期間に、電流量制御素子QH4(QL4)をオンさせることで電流量を制限しないようにする。
【0027】
図3に参照電源Vrefと比較電位との間に設けられたコンデンサC4-C2とスイッチsw4-sw2との直列回路をビット毎に設けたビット回路を示す。
図4に上位ビットのビット回路から順にスイッチsw4、sw3、sw2をオンした時にコンデンサC4、C3、C2から参照電源Vrefに流れ込む電荷に比例するノイズ電流の時間的な変化を示す。
【0028】
逐次比較型A/D変換回路の動作は、まず、CDACを動作させ、比較電位を基準電位と比較し、次のCDACのデジタル値を決める処理を繰返し行う。逐次比較型では、デジタル値を上位(値の大きい)のビットから求めて行くので、参照電源のノイズを考える場合に、
図3に示すスイッチsw4、sw3、sw2を順にオンするモデルで考えれば良い。
【0029】
スイッチsw4、sw3、sw2を順にオンすると、コンデンサC4、C3、C2から4C、2C、1Cの電荷が参照電源Vrefに流れ込む。CDACのワースト・モデルでは、4C、2C、1Cの電荷量は4:2:1である。
【0030】
参照電源Vrefに流れ込む電荷量とノイズ電流が比例関係にあるならば、ノイズ電流、ノイズ電圧は、スイッチsw4をオンした時のノイズ電流(ノイズ電圧)は4である時、スイッチsw3をオンした時のノイズ電流(ノイズ電圧)は2であり、スイッチsw2をオンした時のノイズ電流(ノイズ電圧)は1である。従って、ノイズを抑制するには、上位ビットの動作に着目する。
【0031】
図4では、許容電流を超えている場合を示している。時刻t1に、上位ビットのスイッチsw4をオンさせると、ノイズ電流が許容値を超えて流れ、時刻t2でゼロになる。時刻t3で比較電位と基準電位との電位比較を行う。時刻t4に、スイッチsw3をオンさせると、ノイズ電流が許容値以下で流れ、時刻t5でゼロになる。
【0032】
時刻t6で比較電位と基準電位との電位比較を行う。時刻t7に、スイッチsw2をオンさせると、ノイズ電流が許容値以下で流れ、時刻t8でゼロになる。時刻t9で比較電位と基準電位との電位比較を行う。
【0033】
このように、上位ビットのスイッチsw4をオンさせると、ノイズ電流が許容値を超えるため、ノイズ誤差が大きくなる。このため、
図5に示すようにスイッチsw4、sw3、sw2と参照電源Vrefとの間に電流量制御素子Q4、Q3、Q2を設けている。
【0034】
電流量制御部11は、
図5に示すように、上位ビットから順にスイッチsw4、sw3、sw2の順でオンされる場合に、コンデンサC4、C3、C2から参照電源Vrefに流れ込む電荷に比例するノイズ電流が許容値以上になるビット回路D2内のスイッチsw4がオンとなる期間(
図6に示す時刻t11-t13)に、電流量制御素子Q4に電流制御電位を印加することでコンデンサC4からのノイズ電流を許容値未満に制限する。
【0035】
これにより、参照電源Vrefへのノイズ電流を許容値未満にすることができる。即ち、ノイズ電圧を小さく抑え、誤差を小さくすることができるA/D変換回路を提供することができる。
【0036】
また、電流の制限を与えたビット回路D2の制定時間(正しい電位を出力するのに要する時間t12-t13)が大きくなるので、当該ビット回路の電位比較時刻を遅らせる処理を行なう。この処理にはA/D変換回路の変換速度を遅くする要素がある。しかし、全てのビットの変換が遅くなるのではなく、電流制限を与えたビット回路の制定時間のみが遅いので、参照電源のノイズの問題の解決が優先されるケースにおいて、従来技術に比べて、この処理には大きな利点がある。
【0037】
なお、電流の制限を当該ビットの切り替え期間で当該ビットの電流のみとした理由について、以下に説明する。CDACの各スイッチをオンさせるときに、一定の電流しか流れないようにしたスイッチsw4、sw3、sw2を設置すれば、本発明と同じ効果を持つと思われるかもしれない。
【0038】
仮に、スイッチsw4をオンした時にノイズ電流(ノイズ電圧)が許容値を超え、スイッチsw3、sw2をオンしたときには問題がないケースを考える。スイッチsw4のオン抵抗が電流を抑制する値に設計したとする。この設計は、本発明と同様に、スイッチsw4をオンしたとき、ビット回路D2の制定時間を長くするのと引き換えにスイッチsw4によるノイズ電流(ノイズ電圧)を抑制することができるだろう。
【0039】
しかし、この設計には問題がある。
図7に示すように、スイッチsw4のオン抵抗Rが大きいと、スイッチsw3又はスイッチsw2をオンオフする時にも制定時間が大きくなる。
【0040】
図7において、スイッチsw3をオンして比較電位を下げるケースにおいて、本来、コンデンサC4の一端が参照電位であるべきであるが、大きな抵抗Rの存在により一時的に参照電位を超えた電位になる。このため、比較電位も一時的に誤った値になる。これは、参照電位からコンデンサC4の一端に電荷が注入されることで解消するが、抵抗Rが大きいと解消するのに時間がかかる。
【0041】
従って、ノイズ電流(ノイズ電圧)を抑制する目的でスイッチsw4のオン抵抗を大きくすることは、スイッチsw3、スイッチsw2の切り替え時の制定時間を大きくする。
【0042】
このため、第1の実施形態では、電流量制御部11は、スイッチsw4がオンとなる期間に、電流量制御素子Q4に電流制御電位を印加することでノイズ電流を許容値未満に制限し、スイッチsw3,sw2がオンとなる期間に、電流量制御素子Q4の電流量を制限しない。
【0043】
これにより、制定時間が大きくなるのは、電流を制限した時に限定される。電流を制限しない時に制定時間に影響を与えないようにすることで、従来技術よりも速い変換時間と小さいノイズとを両立したA/D変換回路を提供することができる。
【0044】
(第2の実施形態)
第1の実施形態のA/D変換回路では、CDACのスイッチをオンしてCDACが動作を開始し、動作を完了するまでの期間、
図8に示すように、電流量制御素子Q1-Q4に一定の電流制御電位を印加して、電流を抑制した。
【0045】
この場合、電流量制御素子Q1-Q4は、抵抗のように振る舞い、電流を抑制する。その結果、大きな電流は流れないが、流れ終わる時間、即ち、
図9に示すように、CDACの制定時間は長くなる。
【0046】
電流量制御素子Q1-Q4がオンしてから抵抗のように振る舞う場合、電流と時間の関係は、
図6に示すように、直角三角形のような形になる。
【0047】
第2の実施の形態で解決したい課題は、ノイズ電流(ノイズ電圧)のピークを抑制することであるので、電流と時間との関係を長方形のような形にして、面積(電荷量)は同じであるが、高さ(電流のピーク)が低いのが望ましい。
【0048】
前記課題を解決するために、第2の実施形態のA/D変換回路は、
図10に示す一定電圧発生回路11a、減電圧発生回路11b、増電圧発生回路11c、スイッチ13を備えている。一定電圧発生回路11a、減電圧発生回路11b、増電圧発生回路11cは、電流量制御部11内に設けられる。スイッチ13は、一定電圧発生回路11a、減電圧発生回路11b、増電圧発生回路11cを切り替え選択する。
【0049】
次に、
図6に示す直角三角形をなしたノイズ電流に対して、
図11に示す電流制御電位を電流量制御素子に印加したときにノイズ電流のピークが低くなることを説明する。
【0050】
まず、一定電圧発生回路11aは、時刻t11前に、
図11に示す一定の電流制御電位Vaをスイッチ13を介して電流量制御素子Q4に印加する。次に、時刻t11に、減電圧発生回路11bは、電流制御電位Vaよりも減少した電流制御電位Vbをスイッチ13を介して電流量制御素子Q4に印加する。
【0051】
次に、時刻t12に、増電圧発生回路11cは、電流制御電位Vaよりも増加した電流制御電位Vcをスイッチ13を介して電流量制御素子Q4に印加する。
【0052】
このため、電流と時間との関係が長方形のような形になり、面積(電荷量)は同じであるが、高さ(電流のピーク)が低くなる。
【0053】
これにより、
図12に示すように、電流制御電位を一定にして可変制御しない場合の制定時間と、電流制御電位を可変制御する場合の制定時間とが略同じとなる。従って、CDACの制定時間、よって、A/D変換回路の変換時間を損なうことなく、ノイズ電流(ノイズ電圧)の小さいA/D変換回路を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、CDACに適用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 ADC全体制御部
10 CDAC
11 電流量制御部
20 コンパレータ
30 逐次型比較データ生成器
C1-C4 コンデンサ
swA0-swA4,swH1-swH4,swL1-swL4 スイッチ
QH1-QH4,QL1-QL4 電流量制御素子
VrefH,VrefL 参照電源