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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20231108BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20231108BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20231108BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/052
H01M10/0562
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022098356
(22)【出願日】2022-06-17
(62)【分割の表示】P 2020553891の分割
【原出願日】2019-10-28
(65)【公開番号】P2022120181
(43)【公開日】2022-08-17
【審査請求日】2022-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2018203155
(32)【優先日】2018-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】間庭 健
(72)【発明者】
【氏名】近川 修
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-193727(JP,A)
【文献】特開2013-243004(JP,A)
【文献】特開2019-139892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0585
H01M 10/052
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電池であって、
正極層、負極層、および該正極層と該負極層との間に介在する固体電解質層を備える電
池構成単位を積層方向に沿って少なくとも1つ備え、
前記正極層および前記負極層はそれぞれ少なくとも活物質層を有して成り、
前記正極層および前記負極層の少なくとも一方はその端部に緩衝部を更に有して成り、該緩衝部が該端部以外の他の部分における前記活物質層の密度よりも小さい密度を有する、固体電池。
【請求項2】
前記緩衝部が中空となっている、請求項1に記載の固体電池。
【請求項3】
前記緩衝部が多孔質形態となっている、請求項1に記載の固体電池。
【請求項4】
前記緩衝部が、多孔質形態の活物質部材を含んで成る、請求項3に記載の固体電池。
【請求項5】
前記緩衝部が、多孔質形態の固体電解質部材を含んで成る、請求項3又は4に記載の固体電池。
【請求項6】
前記緩衝部が、多孔質形態の絶縁性部材を含んで成る、請求項3~5のいずれかに記載の固体電池。
【請求項7】
絶縁部又は固体電解質部を更に有して成り、該絶縁部又は該固体電解質部が前記緩衝部の端部に隣接して配置されている、請求項1~6のいずれかに記載の固体電池。
【請求項8】
前記緩衝部が、活物質非含有部となっている、請求項1~3、5~7のいずれかに記載の固体電池。
【請求項9】
前記正極層および前記負極層がリチウムイオンを吸蔵放出可能な層となっている、請求項1~8のいずれかに記載の固体電池。
【請求項10】
前記固体電解質層がリチウムイオンを伝導可能な層となっている、請求項1~9のいずれかに記載の固体電池。
【請求項11】
前記活物質層と、前記緩衝部と、前記絶縁部又は前記固体電解質部とが同一層にある、請求項1~10のいずれかに記載の固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より充放電が繰り返し可能な二次電池が様々な用途に用いられている。例えば、二次電池は、スマートフォン、ノートパソコン等の電子機器の電源として用いられている。
【0003】
当該二次電池においてはイオンを移動させるための媒体として有機溶媒等の液体の電解質(電解液)が従来より使用されている。しかしながら、電解液を用いた二次電池においては、電解液の漏液等の問題がある。そのため、液体の電解質に代えて固体電解質を有して成る固体電池の開発が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-5279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
当該固体電池500’は、相互に対向する正極層10A’、負極層10B’、および正極層10A’と負極層10B’との間に介在する固体電解質層20’を備えた電池構成単位100’が積層方向に沿って少なくとも1つ設けられた構成を採っている(図7参照)。
【0006】
正極層10A’は正極集電体11A’および正極活物質層12A’を有して成り、正極集電体11A’の一端が正極端子200A’と電気的に接続されるように構成されている。負極層10B’は負極集電体11B’および負極活物質層12B’を有して成り、負極集電体11B’の一端が負極端子200B’と電気的に接続されるように構成されている。かかる構成において、固体電解質層20’は、相互に対向する正極層10A’と負極層10B’との間に隙間無く設けられ、かつ各電極層の端部30’(端子非接続部分側)と接するように設けられている場合がある(図7参照)。
【0007】
ここで、固体電池500’の充電時に、正極層10A’と負極層10B’との間にて固体電解質中をイオンが移動することに伴い、各電極層の活物質層が膨張し得ることが当業者により知られている(図8参照)。かかる活物質層の膨張が生じる際、以下の問題が生じ得る。
【0008】
具体的には、固体電池500’の充電時に活物質層の膨張が生じる際、各電極層の端部30’(端子非接続部分側)と接する固体電解質層20’は膨張しない。そのため、各電極層の端部30’(端子非接続部分側)と固体電解質層20’との間において、膨張しない固体電解質層20’側に活物質層の膨張に起因した応力が生じ得る。かかる応力が発生すると、これに起因して固体電池500’の周縁部、具体的には固体電解質層20’の周縁部にクラック40’が生じる虞がある(図9および図10参照)。かかるクラック40’の発生により、固体電池500’内の電極層および固体電解質への外部からの水分等の侵入を招く虞がある。そのため、固体電池500’の充放電時に正極層10A’と負極層10B’との間にて固体電解質中をイオンが好適に移動することができない虞がある。その結果、固体電池500’の充放電を好適に実施できない虞があり得る。
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みて為されたものである。即ち、本発明の主たる目的は、固体電池の充電時に固体電解質層にクラックが発生することを好適に抑制可能な固体電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態では、
固体電池であって、
正極層、負極層、および該正極層と該負極層との間に介在する固体電解質層を備える電池構成単位を積層方向に沿って少なくとも1つ備え、
前記正極層および前記負極層はそれぞれ少なくとも活物質層を有して成り、
前記正極層および前記負極層の少なくとも一方の端部に又は該端部に隣接して、緩衝部が供されており、該緩衝部が該端部以外の他の部分における前記活物質層の密度よりも小さい密度を有する、固体電池が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、固体電池の充電時に固体電解質層にクラックが発生することを好適に抑制可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A図1Aは、本発明の一実施形態に係る固体電池を模式的に示した断面図である。
図1B図1Bは、本発明の一実施形態に係る固体電池を模式的に示した平面図である。
図1C図1Cは、図1B内の正極層が配置されている部分(層)に沿った部分の模式平面図である。
図1D図1Dは、図1B内の負極層が配置されている部分(層)に沿った部分の模式平面図である。
図2A図2Aは、電極の端部に多孔質形態の活物質部材を含んで成る緩衝部が供された固体電池を模式的に示した断面図である。
図2B図2Bは、電極の端部に多孔質形態の活物質部材を含んで成る緩衝部が供された固体電池を模式的に示した断面図である。
図3A図3Aは、電極の端部に隣接して中空となっている緩衝部が供された固体電池を模式的に示した断面図である。
図3B図3Bは、電極の端部に隣接して中空となっている緩衝部が供された固体電池を模式的に示した断面図である。
図4A図4Aは、電極の端部に隣接して多孔質形態の固体電解質部材を含んで成る緩衝部が供された固体電池を模式的に示した断面図である。
図4B図4Bは、電極の端部に隣接して多孔質形態の絶縁性部材を含んで成る緩衝部が供された固体電池を模式的に示した断面図である。
図5図5は、緩衝部が活物質非含有部となっている固体電池を模式的に示した断面図である。
図6A図6Aは、本発明の一実施形態に係る固体電池の製造方法を示す模式図である。
図6B図6Bは、中空となっている緩衝部を形成するための固体電池の製造方法を示す模式図である。
図6C図6Cは、多孔質形態となっている緩衝部を形成するための固体電池の製造方法を示す模式図である。
図6D図6Dは、本発明の一実施形態に係る固体電池の製造方法(個片化処理)を示す模式図である。
図7図7は、従来の固体電池を模式的に示した断面図である。
図8図8は、充電時に膨張が生じる活物質層を有して成る従来の固体電池を模式的に示した断面図である。
図9図9は、充電時にクラックが生じた固体電解質層を有して成る従来の固体電池を模式的に示した断面図である。
図10図10は、充電時にクラックが生じた固体電解質層を有して成る従来の固体電池を模式的に示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の「固体電池」を詳細に説明する。必要に応じて図面を参照して説明を行うものの、図示する内容は、本発明の理解のために模式的かつ例示的に示したにすぎず、外観や寸法比などは実物と異なり得る。
【0014】
本発明でいう「固体電池」は、広義にはその構成要素が固体から構成されている電池を指し、狭義にはその電池構成要素(特に好ましくは全ての電池構成要素)が固体から構成されている全固体電池を指している。ある好適な態様では、本発明における固体電池は、電池構成単位を成す各層が互いに積層するように構成された積層型固体電池であり、好ましくはそのような各層が焼結体から成っている。なお、「固体電池」は、充電および放電の繰り返しが可能な、いわゆる「二次電池」のみならず、放電のみが可能な「一次電池」をも包含する。本発明のある好適な態様に従うと「固体電池」は二次電池である。「二次電池」は、その名称に過度に拘泥されるものでなく、例えば、蓄電デバイスなども包含し得る。
【0015】
本明細書でいう「平面視」とは、固体電池を構成する各層の積層方向に基づく厚み方向に沿って対象物を上側または下側から捉えた場合の形態に基づいている。又、本明細書でいう「断面視」とは、固体電池を構成する各層の積層方向に基づく厚み方向に対して略垂直な方向から捉えた場合の形態(端的にいえば、厚み方向に平行な面で切り取った場合の形態)に基づいている。本明細書で直接的または間接的に用いる“上下方向”および“左右方向”は、それぞれ図中における上下方向および左右方向に相当する。特記しない限り、同じ符号または記号は、同じ部材・部位または同じ意味内容を示すものとする。ある好適な態様では、鉛直方向下向き(すなわち、重力が働く方向)が「下方向」に相当し、その逆向きが「上方向」に相当すると捉えることができる。
【0016】
本明細書で言及する各種の数値範囲は、特段の説明が付されない限り、下限および上限の数値そのものを含むことを意図している。つまり、例えば1~10といった数値範囲を例にとれば、特段の説明の付記がない限り、下限値の“1”を含むと共に、上限値の“10”をも含むものとして解釈され得る。
【0017】
[固体電池の基本的構成]
固体電池は、正極・負極の電極層と固体電解質とを少なくとも有して成る。具体的には固体電池は、正極層、負極層、およびそれらの間に介在する固体電解質から成る電池構成単位を含んだ固体電池積層体を有して成る。
【0018】
固体電池は、それを構成する各層が焼成によって形成されるところ、正極層、負極層および固体電解質などが焼結層を成している。好ましくは、正極層、負極層および固体電解質は、それぞれが互いに一体焼成されており、それゆえ固体電池積層体が一体焼結体を成している。
【0019】
正極層は、少なくとも正極活物質を含んで成る電極層である。正極層は、更に固体電解質を含んで成っていてよい。例えば、正極層は、正極活物質粒子と固体電解質粒子とを少なくとも含む焼結体から構成されている。好ましい1つの態様では、正極層が、正極活物質粒子および固体電解質粒子のみを実質的に含む焼結体から構成されている。一方、負極層は、少なくとも負極活物質を含んで成る電極層である。負極層は、更に固体電解質を含んで成っていてよい。例えば、負極層は、負極活物質粒子と固体電解質粒子とを少なくとも含む焼結体から構成されている。好ましい1つの態様では、負極層が、負極活物質粒子および固体電解質粒子のみを実質的に含む焼結体から構成されている。
【0020】
正極活物質および負極活物質は、固体電池において電子の受け渡しに関与する物質である。固体電解質を介してイオンは正極層と負極層との間で移動(伝導)して電子の受け渡しが行われることで充放電がなされる。正極層および負極層は特にリチウムイオンを吸蔵放出可能な層であることが好ましい。つまり、固体電池は、固体電解質を介してリチウムイオンが正極層と負極層との間で移動して電池の充放電が行われる全固体型二次電池であることが好ましい。
【0021】
(正極活物質)
正極層に含まれる正極活物質としては、例えば、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、リチウム含有層状酸化物、および、スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物等から成る群から選択される少なくとも一種が挙げられる。ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、Li(PO等が挙げられる。オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、LiFePO、LiMnPO等が挙げられる。リチウム含有層状酸化物の一例としては、LiCoO、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3等が挙げられる。スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物の一例としては、LiMn、LiNi0.5Mn1.5等が挙げられる。
【0022】
(負極活物質)
負極層に含まれる負極活物質としては、例えば、Ti、Si、Sn、Cr、Fe、NbおよびMoから成る群より選ばれる少なくとも一種の元素を含む酸化物、黒鉛-リチウム化合物、リチウム合金、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、ならびに、スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物等から成る群から選択される少なくとも一種が挙げられる。リチウム合金の一例としては、Li-Al等が挙げられる。ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、Li(PO、LiTi(PO等が挙げられる。オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、LiCuPO等が挙げられる。スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物の一例としては、LiTi12等が挙げられる。
【0023】
正極層および/または負極層は、導電助剤を含んでいてもよい。正極層および負極層に含まれる導電助剤として、銀、パラジウム、金、プラチナ、アルミニウム、銅およびニッケル等の金属材料、ならびに炭素などから成る少なくとも1種を挙げることができる。
【0024】
さらに、正極層および/または負極層は、焼結助剤を含んでいてもよい。焼結助剤としては、リチウム酸化物、ナトリウム酸化物、カリウム酸化物、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化ビスマスおよび酸化リンから成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0025】
なお、ある好適な態様の本発明の固体電池では、正極層と負極層とが同一材料から成っている。本発明の固体電池は、後述するように“集電レス”であるところ、そのような集電レスにおける正極層および負極層が同一材料から成っていてよい(例えば、そのような場合、正極活物質と負極活物質とが同一種類となり得る)。
【0026】
(固体電解質)
固体電解質は、リチウムイオンが伝導可能な材質である。特に固体電池で電池構成単位を成す固体電解質は、正極層と負極層との間においてリチウムイオンが伝導可能な層を成している。なお、固体電解質は、正極層と負極層との間に少なくとも設けられていればよい。つまり、固体電解質は、正極層と負極層との間からはみ出すように当該正極層および/または負極層の周囲においても存在していてもよい。具体的な固体電解質としては、例えば、ナシコン構造を有するリチウム含有リン酸化合物、ペロブスカイト構造を有する酸化物、ガーネット型またはガーネット型類似構造を有する酸化物等が挙げられる。ナシコン構造を有するリチウム含有リン酸化合物としては、Li(PO(1≦x≦2、1≦y≦2、Mは、Ti、Ge、Al、GaおよびZrから成る群より選ばれる少なくとも一種)が挙げられる。ナシコン構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、例えば、Li1.2Al0.2Ti1.8(PO等が挙げられる。ペロブスカイト構造を有する酸化物の一例としては、La0.55Li0.35TiO等が挙げられる。ガーネット型またはガーネット型類似構造を有する酸化物の一例としては、LiLaZr12等が挙げられる。
【0027】
固体電解質は、焼結助剤を含んでいてもよい。固体電解質に含まれる焼結助剤は、例えば、正極層・負極層に含まれ得る焼結助剤と同様の材料から選択されてよい。
【0028】
(保護層)
保護層は、一般に固体電池の最外側に形成され得るもので、電気的、物理的および/または化学的に保護するためのものである。保護層を構成する材料としては絶縁性、耐久性および/または耐湿性に優れ、環境的に安全であることが好ましい。例えば、ガラス、セラミックス、熱硬化性樹脂および/または光硬化性樹脂等を用いることが好ましい。
【0029】
(端子)
固体電池には、一般に端子(例えば外部端子)が設けられている。特に、固体電池の側面に端子が設けられている。より具体的には、正極層と接続された正極側の端子と、負極層と接続された負極側の端子とが設けられている。そのような端子は、導電率が大きい材料を含んで成ることが好ましい。端面電極の具体的な材質としては、特に制限されるわけではないが、銀、金、プラチナ、アルミニウム、銅、スズおよびニッケルから成る群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。
【0030】
[本発明の固体電池の特徴部分]
固体電池の基本的構成を考慮した上で、以下、本発明の一実施形態に係る固体電池の特徴部分について説明する。
【0031】
本願発明者らは、固体電解質層20が相互に対向する正極層10Aと負極層10Bとの間に隙間無く設けられかつ電極層の端部30(端子非接続部分側)と接するように設けられている場合にて、固体電池の充電時に固体電解質層の周縁部にクラックが発生することを好適に抑制するための解決策について鋭意検討した。その結果、本願発明者らは、電極層の端部30(端子非接続部分側)と固体電解質層20との間の界面領域に特徴的な構成を供することを案出するに至った。
【0032】
具体的には、本願発明者らは、「固体電池500において、電極層10の端部30に又は電極層の端部30に隣接して、電極層の端部30以外の他の部分における活物質層12の密度よりも小さい密度を有する緩衝部50を供する」という本発明の技術的思想を案出するに至った(図1A図1D参照)。なお、本明細書でいう「緩衝部」とは、充電時にて膨張しない固体電解質層等に対する膨張する電極層の影響を和らげるものを指し、狭義には膨張する電極層に起因した膨張しない固体電解質層等の応力を和らげるものを指す。ここでいう「密度」とは、緩衝部の断面写真を画像処理することによって求めた断面密度(緩衝部を構成する活物質材の占有率)を実質的に意味している。
【0033】
かかる技術的思想によれば、電極層10の端部30に又は電極層10の端部30に隣接して、電極層10の端部以外の他の部分における活物質層12(正極活物質層12A/負極活物質層12B)の密度よりも小さい密度を有する緩衝部50が供される。具体的には、断面視にて、図1Aに示すように、固体電解質層20を介して正極層10Aと負極層10Bとが相互に対向するように構成されている。又、図1B図1Dに示すように、平面視にて、電極層10(正極層10A/負極層10B)の端部又は当該端部に隣接して、電極層10(正極層10A/負極層10B)が緩衝部50と端子(正極端子200A/負極端子200B)とによって取り囲まれるように構成されている。下記で詳述するが、当該緩衝部50の存在により、固体電池500の充電時にて、膨張しない固体電解質層20側に生じ得る活物質層12の膨張に起因した応力を緩和することが可能となる。
【0034】
本発明の一実施形態では緩衝部が供されることを特徴とするところ、上述のように、当該緩衝部が供される箇所として、(1)電極層の端部に供される場合と(2)電極層の端部に隣接して供される場合とに分けることができる。
【0035】
(1)緩衝部が電極層の端部に供される場合
まず、緩衝部50I,50IIが電極層10I,10IIの端部30I,30IIに供される場合について説明する(図2Aおよび図2B参照)。
【0036】
緩衝部50I,50IIが電極層10I,10IIの端部30I,30IIに供される場合、電極層がその構成要素として緩衝部を有することを意味する。この場合、電極層の一部となる緩衝部50I,50IIも“電極”として機能し得る観点から、緩衝部50I,50IIが多孔質の形態を採り得る。特に、緩衝部50I,50IIが電極層の端部(一部)30I,30IIに供される場合、緩衝部50I,50IIは多孔質形態の活物質部材を含んで成ることが好ましい。なお、図2Aに示す態様および図2Bに示す態様は、緩衝部が多孔質形態の活物質部材を含んで成る点で共通する。その一方で、図2Aに示す態様は電極層の端部30I(端子非接続部分側)と接する部分が絶縁部60Iである一方、図2Bに示す態様は電極層の端部30II(端子非接続部分側)と接する部分が固体電解質部60IIである点で異なる。
【0037】
なお、本明細書でいう「絶縁部」とは、緩衝部の端部に隣接配置され、絶縁性部材を含んで成るものを指す。本明細書でいう「固体電解質部」とは、緩衝部の端部に隣接配置されたものを指し、その構成材料(固体電解質部材)は正極層と負極層との間に介在する固体電解質層の構成材料(固体電解質部材)と同じであるものを指す。
【0038】
緩衝部50I,50IIが多孔質形態を採る場合、ミクロサイズの多数のポアが形成されると共に、ポアが形成されていない部分(ポア非形成部分)では活物質粒子同士が連なっている。これにより、多孔質形態を採る場合にも、緩衝部50I,50IIは例えばリチウムイオンを吸蔵放出可能な部分として好適に機能し得る。
【0039】
上述のように、緩衝部50I,50IIが多孔質形態を採る場合、ミクロサイズの多数のポアが形成される。多数のポアの各々はミクロサイズの空隙(空間)を有するため、ポア形成部分には活物質部材は存在しないこととなる。そのため、ポア形成部分に活物質が存在しないことに起因して、緩衝部50I,50IIを除く電極層10I,10IIの他の部分における活物質層の密度と比べて、緩衝部50I,50IIにおける活物質部材の密度を相対的に小さくし得る。当該活物質部材は固体電池500I,500IIの充電時において全体として電極層10I,10IIに含まれる活物質層12I,12IIの膨張に作用する因子となり得るところ、上記のとおり電極の端部30I,30IIに供された緩衝部50I,50IIでは当該活物質部材の密度が相対的に小さくなり得る。そのため、これに起因して、電極層10I,10IIの端部(一部)30I,30IIに供された緩衝部50I,50IIの膨張の程度を、緩衝部50I,50IIを除く電極層10I,10IIの他の部分における活物質層12I,12IIの膨張の程度よりも小さくすることが可能となる。
【0040】
又、本態様において、電極層10I,10IIの端部30I,30IIに供される緩衝部50I,50IIのヤング率(E=E(1-P)(E:ヤング率、P:ポア率))は、緩衝部50I,50IIを除く電極層10I,10IIの他の部分における活物質層12I,12IIのヤング率の50%以下であることが好ましい。当該緩衝部50I,50IIのヤング率が多数のポアの存在に起因して相対的に低くなると(50%以下)、充電時にて活物質層12I,12VIが膨張し得る際に、活物質層12V,12VIの膨張に起因した押圧力が絶縁部60I側又は固体電解質部60II側にかかるとしても、以下の技術的効果が奏され得る。
【0041】
具体的には、緩衝部50I,50IIのヤング率が相対的に低いと、これに起因して緩衝部50I,50IIは緩衝部50I,50IIを除く電極層10I,10IIの他の部分における活物質層12I,12IIと比べて変形し易くなり得る。そのため、当該変形により、緩衝部50I,50IIが、緩衝部50I,50IIを除く電極層10I,10IIの他の部分における活物質層12I,12IIの膨張に起因した押圧力を吸収することができる。これにより、全体として、活物質層12I,12IIの膨張に起因した所定の押圧力が、絶縁部60Iまたは固体電解質部60IIにそのまま伝わることを抑制することが可能となる。
【0042】
それ故、膨張の程度が相対的に小さい緩衝部50I,50IIが電極層10I,10IIの端部30I,30IIに供されるため、電極層10I,10IIの端部30I,30IIに絶縁部60Iまたは固体電解質部60IIが接する場合において、接する絶縁部60I側または固体電解質部60II側には相対的に小さい応力が生じることとなる。これにより、相対的に小さい応力の発生に起因して、絶縁部60Iの周縁部側または固体電解質部60IIの周縁部側にクラックが生じることを好適に抑制することが可能となる。従って、クラック発生の好適な抑制により、固体電池500I,500IIの充放電を好適に実施することが可能となる。
【0043】
なお、上記(1)の態様において、平面視にて、緩衝部は電極層の端子接続部分を除く電極層の端子非接続部分の輪郭の全体に形成されていることが好ましい。これにより、電極層の端子非接続部分の輪郭の一部のみに緩衝部が形成されている場合と比べて、緩衝部による応力緩和をより好適に行うことができる。
【0044】
(2)緩衝部が電極層の端部に隣接して供される場合
次に、緩衝部が電極層の端部に隣接して供される場合について説明する。この場合、(2-1)緩衝部が中空となっている場合、(2-2)緩衝部が多孔質形態をとる場合、および(2-3)緩衝部が活物質非含有部である場合に分けることができる。なお、緩衝部はこれらパターンの任意の組み合わせが採られてもよい。
【0045】
(2-1)緩衝部50III,50IVが中空となっている場合
以下、(2-1)電極層の端部に隣接して供される緩衝部50III,50IVが中空となっている場合について説明する(図3Aおよび図3B参照)。なお、図3Aに示す態様および図3Bに示す態様は、緩衝部が中空となっている点で共通する。その一方で、図3Aに示す態様は電極層の端部30III(端子非接続部分側)に離隔して絶縁部60IIIが供されている一方、図3Bに示す態様は電極層の端部30III(端子非接続部分側)に離隔して固体電解質部60IVが供されている点で異なる。
【0046】
電極層10III,10IVの端部30III,30IVに隣接して供される緩衝部50I,50IIが中空となっている場合、当該中空内には固体電池500III,500Vの構成要素が非存在の状態となる。そのため、電極層10III,10IVの端部30III,30IVと絶縁部60IIIまたは固体電解質部60IVとは、相互に直接接することなく離隔した配置形態を採り得る。
【0047】
かかる離隔配置を採ると、固体電池500III,500IVの充電時に電極層10III,10IVの構成要素である活物質層12III,12IVが膨張するとしても、膨張した活物質層12III,12IVの端部30III,30IVと絶縁部60IIIまたは固体電解質部60IVとは直接接触させないことが可能となる。そのため、膨張した活物質層12III,12IVの端部30III,30IVが絶縁部60IIIまたは固体電解質部60IVを直接押圧することを回避することが可能となり、それに起因して絶縁部60III側または固体電解質部60IV側における応力自体の発生を抑制することが可能となる。これにより、かかる応力の発生抑制に起因して、絶縁部60IIIの周縁部側または固体電解質部60IVの周縁部側にクラックが生じることをより好適に抑制することが可能となる。従って、クラック発生のより好適な抑制により、固体電池500III,500IVの充放電をより好適に実施することが可能となる。
【0048】
(2-2)緩衝部50V,50VIが多孔質形態をとる場合
次に、(2-2)電極層の端部に隣接して供される緩衝部50V,50VIが多孔質形態をとる場合について説明する(図4Aおよび図4B参照)。この場合、図4Aに示す態様および図4Bに示す態様は、電極層の端部に隣接する部分に多孔質形態をとる緩衝部50V,50VIが供される点で共通する。しかしながら、図4Aに示す態様は電極層の端部30V(端子非接続部分側)に隣接して、緩衝部として多孔質形態の絶縁性部材を含んで成るものが供されている一方、図4Bに示す態様は電極層の端部30VI(端子非接続部分側)に隣接して、多孔質形態の固体電解質材を含んで成るものが供されている点で異なる。
【0049】
電極層10V,10VIの端部30V,30VIに隣接する部分に多孔質形態の緩衝部50V,50VIが供される場合、当該部分にミクロサイズの多数のポアが形成される。多数のポアの各々はミクロサイズの空隙(空間)を有することとなる。そのため、ポア形成部分は空隙が形成されていることに起因して、電極層10V,10VIの活物質層12V,12VI(活物質材)の密度と比べて、緩衝部50V,50VIの密度は相対的に小さくなり得る。
【0050】
上述のように、固体電池500V,500VIの充電時において活物質層12V,12VIが膨張し得るところ、活物質層12V,12VIの膨張に起因した押圧力が絶縁部60Vまたは固体電解質部60VIに対してかかり得る。本態様では、当該押圧力がかかる部分に、多数のポアを有する絶縁部60Vまたは固体電解質部60VIが供されている。そのため、絶縁部60Vまたは固体電解質部60VIの多孔質“非形成”部分には絶縁部60Vまたは固体電解質部60VIを構成する粒子が互いに連なっているため、活物質層12V,12VIの膨張に起因した押圧力は伝わり得る。その一方で、絶縁部60Vまたは固体電解質部60VIの多孔質“形成”部分には絶縁部60Vまたは固体電解質部60VIを構成する粒子が存在していないため、活物質層12V,12VIの膨張に起因した押圧力を伝わりにくくすることができる。
【0051】
又、本態様において、緩衝部50V,50VIのヤング率(E=E(1-P)(E:ヤング率、P:ポア率))は、電極層10V,10VI(具体的には活物質層12V,12VI)のヤング率の50%以下であることが好ましい。緩衝部50V,50VIのヤング率が多数のポアの存在に起因して相対的に低くなると(50%以下)、充電時にて活物質層12V,12VIが膨張し得る際に、活物質層12V,12VIの膨張に起因した押圧力が緩衝部50V,50VIにかかるとしても、以下の技術的効果が奏され得る。具体的には、緩衝部のヤング率が相対的に低いと、これに起因して緩衝部が押圧力に対して変形し易くなり得る。そのため、当該変形により緩衝部により押圧力を吸収することができる。これにより、活物質層12V,12VIの膨張に起因した所定の押圧力が、絶縁部60Vまたは固体電解質部60VIにそのまま伝わることを抑制することが可能となる。
【0052】
以上により、接する絶縁部60V側または固体電解質部60VI側には相対的に小さい応力が生じることとなる。これにより、相対的に小さい応力の発生に起因して、絶縁部60Vの周縁部側または固体電解質部60VIの周縁部側にクラックが生じることを好適に抑制することが可能となる。従って、クラック発生の好適な抑制により、固体電池500V,500VIの充放電を好適に実施することが可能となる。
【0053】
なお、上記の図4Aに示す態様において、多孔質形態の絶縁性部材を含んで成る緩衝部と絶縁部とは相互に隣接して配置されている。すなわち、平面視で、絶縁部は当該緩衝部の端部に隣接して配置されている。多孔質形態の絶縁性部材を含んで成る緩衝部は、活物質層の膨張に起因した所定の押圧力が絶縁部にそのまま伝わることを抑制する機能を有するものである。一方、絶縁部は多孔質形態を採っていないため、当該機能を有していない。かかる構成の違いおよび機能の違いがあることからも、「多孔質形態の絶縁性部材を含んで成る緩衝部」と「絶縁部」とは、本発明の一実施形態に係る固体電池において、相互に異なる構成部材である。
【0054】
同様に、上記の図4Bに示す態様において、多孔質形態の固体電解質材を含んで成る緩衝部と固体電解質部とは相互に隣接して配置されている。すなわち、固体電解質部は当該緩衝部の端部に隣接して配置されている。多孔質形態の固体電解質部材を含んで成る緩衝部は、活物質層の膨張に起因した所定の押圧力が固体電解質部にそのまま伝わることを抑制する機能を有するものである。一方、固体電解質部は多孔質形態を採っていないため、当該機能を有していない。かかる構成の違いおよび機能の違いがあることからも、「多孔質形態の固体電解質部材を含んで成る緩衝部」と「固体電解質部」とは、本発明の一実施形態に係る固体電池において、相互に異なる構成部材である。
【0055】
(2-3)緩衝部50VIIが活物質非含有部である場合
以下、(2-3)電極層の端部に隣接して供される緩衝部50VIIが活物質非含有部である場合について説明する(図5参照)。なお、図5に示す態様は、図3Aおよび図3Bに示す態様と同様に活物質が存在しない点で共通する。その一方で、図5に示す態様は、図3Aおよび図3Bに示す態様と比べて集電体層11VIIが存在する点で異なる。
【0056】
電極層が活物質層に加えて集電体層も備える場合、図3Aおよび図3Bに示す態様では、固体電池の充電時における活物質層の膨張に起因した問題を解決するために、中空となっている緩衝部50III,50IVが供され得る。しかしながら、当該中空となっている緩衝部には膨張し得る活物質材が存在しないことは不可欠であるものの、膨張し得ない集電体層が存在しないことは不可欠ではない。つまり、図5に示すように、緩衝部50VIIが少なくとも活物質を含まない活物質非含有部であれば、集電体層11VIIは固体電解質部60VIIまたは絶縁部(図示せず)と直接接してもよい。又、集電体層11VII又は11VIIの一端が緩衝部50VII又は50VII内に一部延在していてもよい。
【0057】
上述のように、図5に示す態様では、緩衝部50VIIが少なくとも活物質を含まない活物質非含有部である。そのため、電極層10VIIの端部30VIIにおける活物質層12VII(12VII~12VII)と固体電解質部60VII(60VII~60VII)または絶縁部(図示せず)とは、相互に直接接することなく離隔した配置形態を採り得る。
【0058】
かかる離隔配置を採ると、固体電池500VIIの充電時に電極層10VIIの構成要素である活物質層12VIIが膨張するとしても、膨張した活物質層12VIIの端部30VIIと固体電解質部60VIIまたは絶縁部とは直接接触させないことが可能となる。そのため、膨張した活物質層12VIIの端部30VIIが固体電解質部60VIIまたは絶縁部を直接押圧することを回避することが可能となる。そのため、それに起因して固体電解質部60VII側または絶縁部側における応力自体の発生を抑制することが可能となる。これにより、かかる応力の発生抑制に起因して、固体電解質部60VIIの周縁部側または絶縁部の周縁部側にクラックが生じることを好適に抑制することが可能となる。従って、クラック発生の好適な抑制により、固体電池500VIIの充放電を好適に実施することが可能となる。
【0059】
なお、上記(2)の態様において、平面視にて、緩衝部は電極層の端子非接続部分の輪郭の全体を囲むように形成されていることが好ましい。これにより、電極層の端子非接続部分の輪郭の一部のみを囲むように緩衝部が形成されている場合と比べて、緩衝部による応力緩和をより好適に行うことができる。
【0060】
[本発明の固体電池の製造方法]
以下、本発明の一実施形態に係る固体電池の製造方法について説明する。本製造方法は、上述の本発明の一実施形態に係る固体電池500を製造するための方法に対応する。なお、以下の工程では、主としてスクリーン印刷法等の印刷法を用いる態様を主として記載するが、これに限定されることなくグリーンシートを用いるグリーンシート法、またはこれらの複合法により製造することができる。
【0061】
(第1工程)固体電解質ペースト20αの作製
まず、支持部80α上に固体電解質ペースト20αをスクリーン印刷する。なお、これに限定されず、シート成形により固体電解質シート20αを形成してよい。
【0062】
(第2工程)電極層ペースト/緩衝部ペースト/固体電解質ペーストまたは絶縁性部材ペーストの作製
固体電解質ペースト20αを作製した後、固体電解質ペースト20α上にスクリーン印刷機を用いて電極層ペースト10α/緩衝部ペースト50α/固体電解質ペーストまたは絶縁性部材ペースト60αをスクリーン印刷する。印刷後、これらペーストを乾燥させる。
【0063】
緩衝部ペースト50αについては、種々の態様を採ることができ得る。一態様では、印刷時に、図6Bに示すように緩衝部ペースト50αとして樹脂材と有機材料と溶剤との混合物50αを選択することができる。樹脂材を選択することで、後刻の焼成時において消失させることができる。樹脂材としては、特に限定されるものではないが後刻の焼成時に飛ぶものであればよく、例えばスチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド系樹脂およびポリアミドイミド系樹脂から成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0064】
別態様では、図6Cに示すように緩衝部ペースト50αとして活物質材と樹脂フィラーと有機材料と溶剤との混合物50αを選択することができる。これに限定されることなく、緩衝部ペースト50αとして絶縁材または固体電解質材と樹脂フィラーと有機材料と溶剤との混合物を選択することができる(図示せず)。樹脂フィラー70αを選択することで、後刻の焼成時において消失させることができる。
【0065】
(第3工程)固体電解質ペースト20αの作製
次に、固体電解質ペースト20αをスクリーン印刷する。その後、固体電解質ペースト20αを乾燥させる。なお、これに限定されず、シート成形により固体電解質シート20αを形成してよい。
【0066】
(第4工程)電極層ペースト/緩衝部ペースト/固体電解質ペーストまたは絶縁性部材ペーストの作製
固体電解質ペースト20αを作製した後、固体電解質ペースト20α上に電極層ペースト10αをスクリーン印刷する。次いで、電極層ペースト10αを囲むように緩衝部ペースト50αをスクリーン印刷するとともに緩衝部ペースト50αを囲むように固体電解質ペーストまたは絶縁性部材ペースト60αをスクリーン印刷する。印刷後、電極層ペースト10αおよび上記ペーストを乾燥させる。
【0067】
緩衝部ペースト50αについては、種々の態様を採ることができ得る。一態様では、図6Bに示すように緩衝部ペースト50αとして樹脂材と有機材料と溶剤との混合物50αを選択することができる。樹脂材を選択することで、後刻の焼成時において消失させることができる。樹脂材としては、特に限定されるものではないが後刻の焼成時に飛ぶものであればよく、例えばポリビニルアセタール樹脂を選択することができる。
【0068】
別態様では、図6Cに示すように緩衝部ペースト50αとして活物質材と樹脂フィラー70αと有機材料と溶剤との混合物50αを選択することができる。これに限定されることなく、緩衝部ペースト50αとして絶縁材または固体電解質材と樹脂フィラー70αと有機材料と溶剤との混合物を選択することができる(図示せず)。樹脂フィラー70αを選択することで、後刻の焼成時において消失させることができる。樹脂フィラー70αの材料としては、特に限定されるものではないが例えばポリビニルアセタール樹脂を選択することができる。
【0069】
(第5工程)固体電解質ペースト20αの作製
次に、固体電解質ペースト20αをスクリーン印刷する。なお、これに限定されず、シート成形により固体電解質シート20αを形成してよい。
【0070】
(第6工程)保護層用ペーストの作製
次に、スクリーン印刷機を用いて保護層用ペーストをスクリーン印刷する。印刷後、保護層用ペーストを乾燥させる。
【0071】
以上により、所定の積層体を得ることができる。
【0072】
なお、上記にて、印刷時における正極層ペーストは、例えば、正極活物質、導電材料、固体電解質材料、有機材料および溶剤を含み得る。印刷時における負極層ペーストは、例えば、負極活物質、導電材料、固体電解質材料、有機材料および溶剤を含み得る。印刷時における固体電解質ペーストは、例えば、固体電解質材料、焼結助剤、有機材料および溶剤を含み得る。印刷時における絶縁性部材ペーストは、例えば絶縁性物質材料、有機材料および溶剤を含み得る。印刷時における保護層用ペーストは、例えば絶縁性物質材料、有機材料および溶剤を含み得る。
【0073】
上記固体電解質材料としては、上述のようにナシコン構造を有するリチウム含有リン酸化合物、ペロブスカイト構造を有する酸化物、および/またはガーネット型またはガーネット型類似構造を有する酸化物からなる粉末を選択してよい。
【0074】
正極活物質材としては、例えば、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、リチウム含有層状酸化物、およびスピネル型構造を有するリチウム含有酸化物等から成る群から少なくとも一種を選択してよい。
【0075】
負極活物質材としては、例えば、Ti、Si、Sn、Cr、Fe、Nb、および、Moからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含む酸化物、黒鉛-リチウム化合物、リチウム合金、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、およびスピネル型構造を有するリチウム含有酸化物等から成る群から少なくとも一種を選択してよい。
【0076】
絶縁性部材ペーストに含まれる絶縁性物質材料としては、例えば、ガラス材、セラミック材等から構成され得る。保護層用ペーストに含まれる絶縁性物質材料としては、例えば、ガラス材、セラミックス材、熱硬化性樹脂材、光硬化性樹脂材等から成る群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0077】
有機材料は特に限定されないが、ポリビニルアセタール樹脂、セルロース樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂およびポリビニルアルコール樹脂などから成る群から選択される少なくとも1種の高分子材料を用いることができる。溶剤は上記有機材料を溶解可能な限り特に限定されず、例えば、トルエンおよび/またはエタノールなどを用いることができる。
【0078】
焼結助剤としては、リチウム酸化物、ナトリウム酸化物、カリウム酸化物、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化ビスマス、および酸化リンからなる群から選択される少なくとも1種であり得る。
【0079】
(第7工程)積層体の焼成/個片化
次に、得られた所定の積層体を焼成に付す。当該焼成は、窒素ガス雰囲気中又は大気中で例えば600℃~1000℃で加熱することで実施する。各層内に複数の構成要素が存在するように積層体を形成した場合には、図6Dに示すように必要に応じて個片化処理を行う。
【0080】
(第8工程)端子設置
最後に、個片化処理をした積層体に端子をつける。具体的には、焼成後に露出した電極層の端部と接合するように外部端子を焼付処理する。正極側および負極側の外部端子は、積層体の焼結後に形成することに限らず、焼成前に形成し、同時焼結に付してもよい。
【0081】
正極側の外部端子は、焼結積層体における正極層露出側面に対して導電性ペーストを塗布することを通じて形成できる。同様にして、負極側の外部端子は、焼結積層体における負極露出側面に対して導電性ペーストを塗布することを通じて形成できる。正極側および負極側の外部端子は、焼結積層体の主面にまで及ぶように設けると、次工程において実装ランドに小面積で接続できるので好ましい。外部端子の成分としては、銀、金、プラチナ、アルミニウム、銅、スズおよびニッケルから成る群から選択される少なくとも一種から選択され得る。
【0082】
以上により、本発明の一実施形態に係る固体電池500を好適に製造することができる。
【0083】
上述のように、製造される本発明の一実施形態に係る固体電池500は、電極層10の端部30に又は電極層10の端部30に隣接して、電極層10の端部以外の他の部分における活物質層12の密度よりも小さい密度を有する緩衝部50が供される。かかる緩衝部50の存在により、固体電池500の充放電時にて、膨張しない固体電解質層20側に生じ得る活物質層12の膨張に起因した応力を緩和することが可能となる。この点で製造される本発明の一実施形態に係る固体電池500は技術的に特異な特徴を有する。
【0084】
以上、本発明の一実施形態について説明してきたが、本発明の適用範囲のうちの典型例を例示したに過ぎない。従って、本発明はこれに限定されず、種々の改変がなされ得ることを当業者は容易に理解されよう。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の一実施形態に係る固体電池は、蓄電が想定される様々な分野に利用することができる。あくまでも例示にすぎないが、本発明の一実施形態に係る固体電池は、モバイル機器などが使用される電気・情報・通信分野(例えば、携帯電話、スマートフォン、スマートウォッチ、ノートパソコンおよびデジタルカメラ、活動量計、アームコンピューター、電子ペーパーなどのモバイル機器分野)、家庭・小型産業用途(例えば、電動工具、ゴルフカート、家庭用・介護用・産業用ロボットの分野)、大型産業用途(例えば、フォークリフト、エレベーター、湾港クレーンの分野)、交通システム分野(例えば、ハイブリッド車、電気自動車、バス、電車、電動アシスト自転車、電動二輪車などの分野)、電力系統用途(例えば、各種発電、ロードコンディショナー、スマートグリッド、一般家庭設置型蓄電システムなどの分野)、医療用途(イヤホン補聴器などの医療用機器分野)、医薬用途(服用管理システムなどの分野)、ならびに、IoT分野、宇宙・深海用途(例えば、宇宙探査機、潜水調査船などの分野)などに利用することができる。
【符号の説明】
【0086】
500,500I,500II,500III,500IV,500V,500VI,500VII,500’ 固体電池
200A,200A’ 正極端子
200B,200B’ 負極端子
100,100’ 電池構成単位
10,10I,10II,10III,10IV,10V,10VI,10VII 電極層
10A,10A’ 正極層
10B,10B’ 負極層
10α 電極層ペースト
10Aα 正極層ペースト
10α 負極層ペースト
11,11I,11II,11III,11IV,11V,11VI,11VII、11VII、11VII、11VII 集電体層
11A,11A’ 正極集電体層
11B,11B’ 負極集電体層
12,12I,12II,12III,12IV,12V,12VI,12VII、12VII、12VII、12VII 活物質層
12A,12A’ 正極活物質層
12B,12B’ 負極活物質層
20,20I,20II,20III,20IV,20V,20VI,20VII,20’ 固体電解質層
固体電解質ペースト 20α
30,30I,30II,30III,30IV,30V,30VI,30VII,30’ 電極の端部
40’ クラック
50,50I,50II,50III,50IV,50V,50VI,50VII、50VII、50VII、50VII 緩衝部
50α 緩衝部ペースト
50α,50α 混合物
60,60I,60II,60III,60IV,60V,60VI,60VII、60VII、60VII、60VII 絶縁部または固体電解質部
60α 固体電解質ペーストまたは絶縁性部材ペースト
70α 樹脂フィラー
80α 支持部
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8
図9
図10