(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】移動体、方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H04B 7/06 20060101AFI20231108BHJP
H01Q 21/06 20060101ALI20231108BHJP
H01Q 1/28 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
H04B7/06 150
H04B7/06 950
H01Q21/06
H01Q1/28
(21)【出願番号】P 2022131161
(22)【出願日】2022-08-19
【審査請求日】2022-08-19
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(令和三年度総務省「無人航空機の目視外飛行における周波数の有効利用技術の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140958
【氏名又は名称】伊藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100137888
【氏名又は名称】大山 夏子
(74)【代理人】
【識別番号】100190942
【氏名又は名称】風間 竜司
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 翼
(72)【発明者】
【氏名】佐野 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】渡部 智宏
【審査官】齊藤 晶
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-168941(JP,A)
【文献】特開2004-297483(JP,A)
【文献】特開2005-249629(JP,A)
【文献】特開2021-184621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/06
H01Q 21/06
H01Q 1/28
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体であって、
電波源の位置情報を記憶する記憶部と、
アレイアンテナと、
前記移動体の姿勢角を取得する姿勢角取得部と、
前記アレイアンテナのアンテナ面上に定義された少なくとも3つの点であって、第1の方向において離隔する2つの点の第1の組、および前記第1の方向に直交する第2の方向において離隔する2つの点の第2の組を有する前記少なくとも3つの点の各々の位置を前記移動体の姿勢角に基づいて算出し、
前記第1の組の2つの点の各々と前記電波源の位置情報が示す位置との経路差情報、および前記第2の組の2つの点の各々と前記電波源の位置情報が示す位置との経路差情報とに基づいて、前記電波源の方位を算出する方位算出部と、
前記電波源の方位に基づいて、前記アレイアンテナにおける通信に指向性を与えるための複素ウェイトを演算する演算部と、
を備える、移動体。
【請求項2】
前記移動体は、
測位用アンテナを有し、前記測位用アンテナにより受信された信号に基づいて測位を行う測位センサをさらに備え、
前記方位算出部は、前記少なくとも3つの点の各々の位置を、前記移動体の姿勢角に加えて、前記測位センサにより得られた位置情報に基づいて算出する、請求項1に記載の移動体。
【請求項3】
前記移動体は、
前記アレイアンテナを構成する各アンテナ要素により前記電波源から受信された信号に基づいて、前記アンテナ面から見た前記電波源の相対方向を推定する方向推定部と、
前記電波源の相対方向を、前記移動体の姿勢角に基づいて重力方向を基準とする絶対方向に変換し、複数の時点で得られた前記電波源の絶対方向および前記複数の時点で前記測位センサにより得られた位置情報に基づいて前記電波源の位置情報を推定する位置推定部と、をさらに備える、請求項2に記載の移動体。
【請求項4】
前記演算部は、前記電波源が通信相手である場合には前記電波源にビームが向くような指向性を与えるための複素ウェイトを演算し、前記電波源が干渉相手である場合には前記電波源にヌルが向くような指向性を与えるための複素ウェイトを演算する、請求項1~3のいずれか一項に記載の移動体。
【請求項5】
前記第1の組の2つの点の各々は、前記第1の方向において電波の1/2波長以上に離隔しており、
前記第2の組の2つの点の各々は、前記第2の方向において電波の1/2波長以上に離隔している、請求項1~3のいずれか一項に記載の移動体。
【請求項6】
前記少なくとも3つの点は、前記第1の組に含まれる2つの点と、前記第1の組に含まれる2つの点とは異なる、前記第2の組に含まれる2つの点と、からなる、4つの点である、請求項1に記載の移動体。
【請求項7】
アレイアンテナを有する移動体により実行される方法であって、
電波源の位置情報を記憶することと、
前記アレイアンテナのアンテナ面上に定義された少なくとも3つの点であって、第1の方向において離隔する2つの点の第1の組、および前記第1の方向に直交する第2の方向において離隔する2つの点の第2の組を有する前記少なくとも3つの点の各々の位置を前記移動体の姿勢角に基づいて算出することと、
前記第1の組の2つの点の各々と前記電波源の位置情報が示す位置との経路差情報、および前記第2の組の2つの点の各々と前記電波源の位置情報が示す位置との経路差情報とに基づいて、前記電波源の方位を算出することと、
前記電波源の方位に基づいて、前記アレイアンテナにおける通信に指向性を与えるための複素ウェイトを演算することと、
を含む、方法。
【請求項8】
アレイアンテナを有する移動体に、
電波源の位置情報を記憶することと、
前記アレイアンテナのアンテナ面上に定義された少なくとも3つの点であって、第1の方向において離隔する2つの点の第1の組、および前記第1の方向に直交する第2の方向において離隔する2つの点の第2の組を有する前記少なくとも3つの点の各々の位置を前記移動体の姿勢角に基づいて算出することと、
前記第1の組の2つの点の各々と前記電波源の位置情報が示す位置との経路差情報、および前記第2の組の2つの点の各々と前記電波源の位置情報が示す位置との経路差情報とに基づいて、前記電波源の方位を算出することと、
前記電波源の方位に基づいて、前記アレイアンテナにおける通信に指向性を与えるための複素ウェイトを演算することと、
を実行させるための、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体、方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の無線システムで周波数を共用する際の干渉を低減するための技術として、基地局がアレーアンテナを用いて周辺に位置する電波源からの電波の到来方向を推定し、所望波にメインビームを向け、他の到来波にはヌル点を向けた指向性を形成するアダプティブアンテナ(適応アンテナ)技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、移動端末に適用される適応アンテナ技術であり、移動端末の向きまたは傾きに応じてアンテナ指向性を制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の技術では、移動体からの指向性送信が他の無線システムにおける通信に干渉を与えてしまう場合があった。例えば、移動体から見た電波源の方向を推定したタイミングと、電波を送信するタイミングとの間に移動体の姿勢が変化すると、干渉波源の方向に指向性を向けて電波が送信されてしまうことが懸念される。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、通信における問題を改善することが可能な、新規かつ改良された移動体、方法およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、移動体であって、電波源の位置情報を記憶する記憶部と、アレイアンテナと、前記移動体の姿勢角を取得する姿勢角取得部と、前記アレイアンテナのアンテナ面上に定義された少なくとも3つの点であって、第1の方向において離隔する2つの点の第1の組、および前記第1の方向に直交する第2の方向において離隔する2つの点の第2の組を有する前記少なくとも3つの点の各々の位置を前記移動体の姿勢角に基づいて算出し、前記第1の組の2つの点の各々と前記電波源の位置情報が示す位置との経路差情報、および前記第2の組の2つの点の各々と前記電波源の位置情報が示す位置との経路差情報とに基づいて、前記電波源の方位を算出する方位算出部と、前記電波源の方位に基づいて、前記アレイアンテナにおける通信に指向性を与えるための複素ウェイトを演算する演算部と、を備える、移動体が提供される。
【0008】
前記移動体は、測位用アンテナを有し、前記測位用アンテナにより受信された信号に基づいて測位を行う測位センサをさらに備え、前記方位算出部は、前記少なくとも3つの点の各々の位置を、前記移動体の姿勢角に加えて、前記測位センサにより得られた位置情報に基づいて算出してもよい。
【0009】
前記移動体は、前記アレイアンテナを構成する各アンテナ要素により前記電波源から受信された信号に基づいて、前記アンテナ面から見た前記電波源の相対方向を推定する方向推定部と、前記電波源の相対方向を、前記移動体の姿勢角に基づいて重力方向を基準とする絶対方向に変換し、複数の時点で得られた前記電波源の絶対方向および前記複数の時点で前記測位センサにより得られた位置情報に基づいて前記電波源の位置情報を推定する位置推定部と、をさらに備えてもよい。
【0010】
前記演算部は、前記電波源が通信相手である場合には前記電波源にビームが向くような指向性を与えるための複素ウェイトを演算し、前記電波源が干渉相手である場合には前記電波源にヌルが向くような指向性を与えるための複素ウェイトを演算してもよい。
【0011】
前記第1の組の2つの点の各々は、前記第1の方向において電波の1/2波長以上に離隔しており、前記第2の組の2つの点の各々は、前記第2の方向において電波の1/2波長以上に離隔していてもよい。
【0012】
前記少なくとも3つの点は、前記第1の組に含まれる2つの点と、前記第1の組に含まれる2つの点とは異なる、前記第2の組に含まれる2つの点と、からなる、4つの点であってもよい。
【0013】
また、上記課題を解決するために本発明の別の観点によれば、アレイアンテナを有する移動体により実行される方法であって、電波源の位置情報を記憶することと、前記アレイアンテナのアンテナ面上に定義された少なくとも3つの点であって、第1の方向において離隔する2つの点の第1の組、および前記第1の方向に直交する第2の方向において離隔する2つの点の第2の組を有する前記少なくとも3つの点の各々の位置を前記移動体の姿勢角に基づいて算出することと、前記第1の組の2つの点の各々と前記電波源の位置情報が示す位置との経路差情報、および前記第2の組の2つの点の各々と前記電波源の位置情報が示す位置との経路差情報とに基づいて、前記電波源の方位を算出することと、前記電波源の方位に基づいて、前記アレイアンテナにおける通信に指向性を与えるための複素ウェイトを演算することと、を含む、方法が提供される。
【0014】
また、上記課題を解決するために本発明の別の観点によれば、アレイアンテナを有する移動体に、電波源の位置情報を記憶することと、前記アレイアンテナのアンテナ面上に定義された少なくとも3つの点であって、第1の方向において離隔する2つの点の第1の組、および前記第1の方向に直交する第2の方向において離隔する2つの点の第2の組を有する前記少なくとも3つの点の各々の位置を前記移動体の姿勢角に基づいて算出することと、前記第1の組の2つの点の各々と前記電波源の位置情報が示す位置との経路差情報、および前記第2の組の2つの点の各々と前記電波源の位置情報が示す位置との経路差情報とに基づいて、前記電波源の方位を算出することと、前記電波源の方位に基づいて、前記アレイアンテナにおける通信に指向性を与えるための複素ウェイトを演算することと、を実行させるための、プログラムが提供される。
【発明の効果】
【0015】
以上説明した本発明によれば、通信における問題を改善することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態による無線システムの構成例を示す説明図である。
【
図2】飛行体20が送信する無線信号の指向性の具体例を示す説明図である。
【
図3】本発明の一実施形態による飛行体20の構成を示す説明図である。
【
図4】通信制御部300の構成を示す説明図である。
【
図5】飛行体20の動作概要を示すフローチャートである。
【
図7】座標変換の流れを示すフローチャートである。
【
図8】アンテナ面上に定義される4点を示す説明図である。
【
図9】到来波源の相対位置Ptを示す説明図である。
【
図10】送信方位の演算の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素を、同一の符号の後に異なるアルファベットを付して区別する場合もある。ただし、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素の各々を特に区別する必要がない場合、複数の構成要素の各々に同一符号のみを付する。
【0019】
<1.無線システムの概要>
本発明の一実施形態は、無線システムに関し、特に、無線システムを構成する飛行体に関する。以下、
図1を参照し、本発明の一実施形態による無線システムおよび飛行体の概要を説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態による無線システムの構成例を示す説明図である。
図1には、本発明の一実施形態による無線システムを構成する無線基地局10および飛行体20に加えて、他の無線システムである干渉波源30Aおよび干渉波源30Bを示している。
【0021】
無線基地局10は、地上に設置されている無線通信装置の一例である。無線基地局10は、
図1において実線の双方向矢印で示したように、飛行体20と多様なデータを無線通信する。例えば、無線基地局10は、飛行体20において検出されたセンサデータ、飛行体20での撮像により得られた画像データなどを受信してもよい。
【0022】
飛行体20は、移動体の一例である。飛行体20は、空中を飛行する装置である。飛行体20は、例えばマルチコプターであり、有人飛行体であってもよいし、無人飛行体(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)であってもよい。飛行体20は、例えば無線基地局10から受信される制御信号に従って、または、事前に設定されている移動計画に従って飛行する。また、飛行体20はアレイアンテナを有する。飛行体20は、アレイアンテナを介して無線基地局10と無線通信することが可能である。
【0023】
干渉波源30Aおよび干渉波源30Bの間でも、無線通信が行われ得る。これら干渉波源30Aおよび干渉波源30Bが送信する無線信号は干渉波として飛行体20に到達し得る。同様に、飛行体20が特段の工夫無しに無線基地局10へ無線信号を送信すると、
図1において破線の矢印で示したように、当該無線信号が干渉波として干渉波源30Aおよび干渉波源30Bに到達し得る。なお、無線基地局10、干渉波源30Aおよび干渉波源30Bは電波源の一例である。
【0024】
このため、飛行体20は、干渉波源30Aおよび干渉波源30Bなどの他の無線システムに与える干渉を低減するために、アレイアンテナから無線基地局10へ送信される無線信号に指向性を与える。
図2を参照して当該指向性の具体例を説明する。
【0025】
図2は、飛行体20が送信する無線信号の指向性の具体例を示す説明図である。
図2に示したように、飛行体20が送信する無線信号には、無線基地局10の方位にビームが向き、干渉波源30Aおよび干渉波源30Bの方位(飛行体20から見て干渉波源30Aおよび干渉波源30Bが位置する方位)にヌルが向く指向性が与えられる。ヌルは、利得が大きく低下する方向である。かかる構成によれば、無線基地局10との円滑な無線通信を実現しつつ、飛行体20が干渉波源30Aおよび干渉波源30Bに与える干渉が低減される。
【0026】
ここで、飛行体20において、干渉波源30から送信された電波の到来方向の推定値に基づき、干渉波源30にヌルを向ける指向性を形成する方法が考えられる。しかし、電波の到来方向を推定したタイミングと、飛行体20が電波を送信するタイミングとの間に飛行体20の位置または姿勢が変化する場合がある。この場合、飛行体20が電波を送信するタイミングにおける干渉波源30の方向と、干渉波源30から送信された電波の到来方向の推定値とが相違することにより、干渉波源30の方向にビームを向けて電波が送信されてしまう恐れがある。同様の事情により、無線基地局10の方位と異なる方位にビームが向けられる恐れがある。
【0027】
本件発明者は、上記事情を一着眼点にして本発明の一実施形態を創作するに至った。本発明の一実施形態によれば、干渉波源30Aおよび干渉波源30Bなどの他の無線システムへの干渉をより効果的に低減することが可能である。また、通信相手である無線基地局10との円滑な通信を実現することが可能である。すなわち、本発明の一実施形態によれば、通信における幾つかの問題を改善することが可能である。以下、このような本発明の一実施形態による飛行体20の構成および動作を順次詳細に説明する。
【0028】
<2.飛行体の構成>
図3は、本発明の一実施形態による飛行体20の構成を示す説明図である。
図3に示したように、本発明の一実施形態による飛行体20は、飛行制御装置220、駆動装置230、バッテリ240および無線制御装置250を備える。
【0029】
(飛行制御装置)
飛行制御装置220は、センサ群222および飛行制御部224を有する。センサ群222は、多様なセンサの集合である。センサ群222は、例えば、測位センサとして機能するGPSセンサ(GPS:Global Positioning System)、ジャイロセンサ(角速度センサ)、加速度センサ、気圧センサ、磁気センサまたは超音波センサなどを含んでもよい。
【0030】
飛行制御部224は、汎用プロセッサおよびメインメモリ装置の集合であり、情報処理装置としての機能を有する。また、飛行制御部224は、センサ群222から出力されたセンサデータを取得する入出力インタフェース機能を有する。また、飛行制御部224は、移動計画情報を外部から取得して記憶し、記憶された移動計画情報に従って自律的に飛行体20が航行するように駆動装置230を制御する機能を有する。飛行制御部224による航空の制御には公知の技術が使用されてもよい。また、飛行制御部224は、例えば、センサ群222から取得したセンサデータ、センサデータを用いて飛行体20の姿勢角を演算する姿勢角取得部としての機能を有する。飛行制御部224は、姿勢角情報、および移動計画情報などのデータを無線制御装置250に提供する。
【0031】
(駆動装置)
駆動装置230は、飛行体20の飛行のための駆動力を発生させる装置である。駆動装置230は、例えば、飛行体20を飛行させるためのモータ、プロペラおよびそれらの回転数を制御するESC(ESC:Electric Speed Controller)により構成される。
【0032】
(バッテリ)
バッテリ240は、飛行制御装置220、駆動装置230および無線制御装置250に電力を供給する。飛行制御装置220、駆動装置230および無線制御装置250は、バッテリ240から供給される電力を用いて動作する。バッテリ240は、例えば、リチウムイオンポリマ二次電池、またはリチウムイオン二次電池であってもよい。
【0033】
(無線制御装置)
無線制御装置250は、無線通信を行うための構成である。
図3に示したように、無線制御装置250は、アレイアンテナ252、RF受信回路254、RF送信回路258および通信制御部300を有する。
【0034】
アレイアンテナ252は、複数(N個)の素子アンテナ1n(n=1、2、・・・、N)を有し、これら素子アンテナがアンテナ面上に配列されている。アレイアンテナ252は、RF受信回路254およびRF送信回路258に接続されている。アレイアンテナ252は、無線信号を電気的な高周波受信信号に変換してRF受信回路254に出力する。また、アレイアンテナ252は、送信処理部390から供給される高周波送信信号を無線信号に変換して送信する。
【0035】
RF受信回路254は、アレイアンテナ252から入力される高周波受信信号のダウンコンバージョンおよびAD変換などの高周波処理を行う。RF受信回路254は、ダウンコンバージョンおよびAD変換により得られた受信信号を通信制御部300へ出力する。
【0036】
RF送信回路258は、通信制御部300から入力された送信信号のDA変換およびアップコンバージョンなどの高周波処理を行う。RF送信回路258は、DA変換およびアップコンバージョンにより得られた高周波送信信号をアレイアンテナ252に出力する。
【0037】
通信制御部300は、汎用プロセッサおよびメインメモリ装置の集合であり、情報処理装置としての機能を有する。通信制御部300は、一部または全部がプログラマブルロジックデバイス(PLD:programmable logic device)であるFPGA(FPGA :Field Programmable Gate Array)であってもよく、またASIC(ASIC :Application Specific Integrated Circuit)などの特定用途向けのICであってもよいい。また、通信制御部300は、飛行制御部224と一つのハードウェアを共用した機能上のブロックであってもよい。
【0038】
通信制御部300は、RF受信回路254から入力される受信信号を用いた処理、および、RF送信回路258に出力する送信信号を生成する処理などを制御する。以下、
図4を参照し、通信制御部300の詳細な構成を説明する。
【0039】
<3.通信制御部の構成>
図4は、通信制御部300の構成を示す説明図である。
図4に示したように、通信制御部300は、到来方向推定部310、受信指向性演算部320、受信処理部330、到来波源位置推定部340、記憶部350、送信方位演算部360、変動予測部370、送信指向性演算部380および送信処理部390を有する。
【0040】
(到来方向推定部)
到来方向推定部310は、各素子アンテナからの受信信号から無線信号の到来方向を推定する機能を有する。例えば、到来方向推定部310は、MUSIC(Multiple Signal Classification)法、またはESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotation Invariance Techniques)法などの高分解能アルゴリズムを用いて無線信号の到来方向を推定する。なお、到来方向推定部310により推定される到来方向は、飛行体20を基準としたローカル座標系で表現される。
【0041】
(受信指向性演算部)
受信指向性演算部320は、無線基地局10に対してビームが向き、干渉波源30に対してヌルが向く指向性を形成するための複素ウェイトを演算する。複素ウェイトは各素子アンテナからの受信信号の位相と振幅を調整する重みである。指向性演算には、例えばDCMP(Directionally Constrained Minimization of Power:方向拘束付き出力電力最小化)法が用いられる。なお、受信指向性演算部320は、記憶部350に記憶されている無線基地局10および干渉波源30の位置情報、飛行制御部224から供給される飛行体20の姿勢角情報および位置情報などに基づき無線基地局10の方位および干渉波源30の方位を特定してもよい。
【0042】
(受信処理部)
受信処理部330は、各素子アンテナからの受信信号に受信指向性演算部320により得られた複素ウェイトを乗算により合成する機能、および合成後の受信信号を通信プロトコルに従って復号する機能を有する。受信処理部330は、復号により得られた受信データを飛行制御部224に出力する。
【0043】
(到来波源位置推定部)
到来波源位置推定部340は、飛行体20が受信した無線信号の送信元である到来波源の位置を推定する位置推定部の一例である。具体的には、到来波源位置推定部340は、到来方向推定部310により推定されたローカル座標系での到来方向を、地球重心を基準とした絶対座標系へ変換する。そして、到来波源位置推定部340は、飛行体20が複数の異なる位置で受信した無線信号に基づいて得られた絶対座標系の到来方向を用いて、例えば交会法等で到来波源の位置を推定し、推定結果を記憶部350に記憶させる。なお、到来波源位置推定部340は、無線基地局10との通信によって取得される到来方向の情報を使用して到来波源の位置を推定してもよい。また、無線基地局10のような到来波源の位置を示す位置情報が事前に記憶部350に記憶されている場合には、当該到来波源の位置を推定する処理は省略可能である。到来波源位置推定部340が到来波源の位置を推定するより詳細な方法は、
図7を参照して後述される。
【0044】
(記憶部)
記憶部350は、飛行体20の動作に用いられる多様な情報を記憶する。例えば、記憶部350は、無線信号の受信に基づいて到来波源位置推定部340により得られた絶対座標系の到来方向、および当該無線信号が受信された時点での飛行体20内の位置を示す情報を記憶する。また、記憶部350は、到来波源位置推定部340により推定された到来波源の位置を示す到来波源位置情報を記憶する。到来波源としては、無線基地局10に加え、干渉波源30Aおよび干渉波源30Bが含まれ得る。
【0045】
(送信方位演算部)
送信方位演算部360は、通信相手が位置する方位(送信方位)、および干渉波源が位置する方位(対象方位)を演算する方位算出部の一例である。例えば、送信方位演算部360は、無線基地局10への送信要求が飛行制御部224から入力されると、記憶部350から無線基地局10、干渉波源30Aおよび干渉波源30Bの位置情報を取得し、これら位置情報と飛行制御部224から入力される飛行体20の位置情報および姿勢角に基づき、無線基地局10の方位、干渉波源30Aの方位および干渉波源30Bの方位を演算する。ここで、送信方位演算部360は、無線信号の送信時点における位置および姿勢角を推定し、当該位置および姿勢角に基づき各方位を演算してもよい。送信方位演算部360は、飛行体20の移動速度データおよび角速度データに基づき無線信号の送信時点における位置および姿勢角を推定し得る。送信方位演算部360による送信方位のより詳細な演算方法は、
図10を参照して後述される。
【0046】
(変動予測部)
変動予測部370は、飛行体20の姿勢変動に関する姿勢変動情報を取得する取得部、および姿勢変動情報に応じて指向性送信を制御する送信制御部として機能する。飛行体20の姿勢変動が大きい場合、上述したように無線信号の送信時点における飛行体20の位置および姿勢角の推定精度が低くなり、結果、各方位の演算結果の誤差が大きくなる恐れがある。そこで、変動予測部370は、姿勢変動情報に基づき、送信方位へのビームの角度広がり、および対象方位へのヌルの角度広がりを大きくするための調整ウェイトを演算してもよい。または、変動予測部370は、飛行体20の姿勢変動が所定基準を上回る場合には、無線信号の送信を停止してもよい。このような変動予測部370による指向性送信の制御方法は多様である。
【0047】
(送信指向性演算部)
送信指向性演算部380は、アレイアンテナ252から無線基地局10への無線信号に指向性を与えるための複素ウェイトを演算する演算部である。送信指向性演算部380は、送信方位演算部360から無線基地局10が位置する送信方位および干渉波源30が位置する対象方位を取得し、送信方位に対してビームが向き、対象方位にヌルが向く指向性が形成されるように複素ウェイトを演算する。ここで、送信指向性演算部380は、変動予測部370からビームおよびヌルの角度広がりを調整する調整ウェイトが供給される場合、当該調整ウェイトを加味して複素ウェイトを演算する。
【0048】
(送信処理部)
送信処理部390は、送信用データを通信プロトコルに従い変調し、ベースバンド信号を作成する。そして、送信処理部390は、送信指向性演算部380により演算された複素ウェイトをベースバンド信号に乗算し、乗算して得られた送信信号をRF送信回路258に出力する。
【0049】
<4.飛行体の動作>
以上、本発明の一実施形態による飛行体20の構成を説明した。続いて、
図5および
図6を参照して、飛行体20の動作概要を整理する。
【0050】
図5は、飛行体20の動作概要を示すフローチャートである。飛行体20が起動すると、無線制御装置250は到来波源の位置情報の初期値を取得し、記憶部350に記憶する(S1)。当該位置情報の初期値は、過去に推定された到来波源の位置情報であってもよいし、無線基地局10から提供される既知の到来波源の位置情報であってもよい。
【0051】
そして、飛行制御部224は、初期シーケンスが実行されているか否かを判断する(S2)。初期シーケンスが実行されている場合(S2/Yes)、周囲の電波環境の取得のために、飛行制御部224は飛行体20の位置が変更されるように駆動装置230を制御する(S3)。この時、飛行体20の各位置において、到来方向推定部310が無線信号の到来方向を推定し、到来波源位置推定部340が到来波源の位置を推定する。到来方向から位置推定を行うためには3点以上の測位点が必要になるので、飛行体20は、段階的に高度または位置を変えながら無線信号の到来方向の推定を繰り返すことで、位置推定に必要な情報を取得する。初期シーケンスが終了した後は(S2/No)、飛行制御部224は移動計画情報に従って飛行体20の飛行を制御する(S17)。なお、移動計画情報は無線基地局10からの命令を受けて更新されてもよい。
【0052】
通信制御部300は、飛行制御部224からデータの送信要求がある場合(S4/Yes)、後述する送信処理を実行する(S5)。
【0053】
また、通信制御部300は、RF受信回路254から受信信号の入力を受け(S6)、無線信号の受信の有無を判定する(S7)。無線信号の受信が無い場合はS2からの処理が繰り返される(S7/No)。無線信号の受信がある場合、S8~S12の処理、およびS13~S16の処理が並行して行われた後、S2からの処理が繰り返される(S7/Yes)。
【0054】
S8~S12の処理について、具体的には、到来方向推定部310が、各素子アンテナからの受信信号から無線信号の到来方向を推定する(S8)。ここで推定された到来方向は飛行体20を基準とした相対座標系における方向であるので、到来波源位置推定部340は、当該到来方向を、地球重心を基準とした絶対座標系へ変換する(S9)。そして、到来波源位置推定部340は、飛行体20が複数の異なる位置で受信した無線信号に基づいて得られた絶対座標系の到来方向を用いて、例えば交会法等で到来波源の位置を推定する(S11)。さらに、到来波源位置推定部340は、S11で推定した到来波源の位置情報で、記憶部350に記憶されている到来波源の位置情報を更新する(S12)。
【0055】
S13~S16の処理について、具体的には、受信されている無線信号が無線基地局10から送信された無線信号である場合(S13/Yes)、受信指向性演算部320は、無線基地局10に対してビームが向き、干渉波源30に対してヌルが向く指向性を形成するための複素ウェイトを演算する(S14)。そして、受信処理部330が、各素子アンテナからの受信信号に受信指向性演算部320により得られた複素ウェイトを乗算により合成し、合成後の受信信号を通信プロトコルに従って復号する(S15)。復号により得られた受信データは飛行制御部224に出力される(S16)。
【0056】
続いて、
図6を参照して、S5に示した送信処理を説明する。
【0057】
図6は、送信処理を示すフローチャートである。送信処理においては、まず、変動予測部370が姿勢の変動予測を行う(S17)。当該変動予測の過程で、無線信号の送信が停止された場合(S18/No)、無線信号が送信可能になるまでS17の処理をループする。無線信号の送信が可能であると判断された場合(S18/Yes)、送信方位演算部360が記憶部350から各到来波源の位置情報を取得し(S19)、飛行体20から各到来波源への方位を演算する(S20)。
【0058】
そして、送信指向性演算部380は、各到来波源の方位に基づき、無線基地局10にビームが向き、干渉波源30にヌルが向く指向性が形成されるように複素ウェイトを演算する(S21)。続いて、送信処理部390が、送信用データを通信プロトコルに従い変調し、ベースバンド信号を作成する。そして、送信処理部390は、送信指向性演算部380により演算された複素ウェイトをベースバンド信号に乗算し、乗算して得られた送信信号をRF送信回路258に出力する(S22)。
【0059】
(座標変換)
続いて、
図5のS9に示した座標変換について、
図7を参照してより具体的に説明する。
【0060】
図7は、座標変換の流れを示すフローチャートである。
図7に示したように、まず、到来波源位置推定部340が、到来方向推定部310から無線信号の到来方向の推定結果を取得し(S31)、飛行制御部224から飛行体20の姿勢角を取得する(S33)。姿勢角は、ロール、ピッチ、ヨーで表現される。z軸周りの角度をヨー角(方位角)とし、ヨー角が0度である方位をx軸方向とする。回転順はzyxである。
【0061】
そして、到来波源位置推定部340は、アレイアンテナ252のアンテナ面の中心位置を原点とし、飛行体20の姿勢角が(0,0,0)である場合のアンテナ面上の4点(P1~P4)を定義する。この点について、
図8を参照して具体的に説明する。
【0062】
図8は、アンテナ面上に定義される4点を示す説明図である。
図8に示したように、P1およびP2はy軸上で離隔する第1の組を構成し、P3およびP4はz軸上で離隔する第2の組を構成する。アンテナ面の中心位置O(0,0,0)を基準に、各点の位置は、P1=(0,a,0)、P2=(0,-a,0)、P3=(0,0,a)、P4=(0,0,-a)と表現される。aは電波の波長の1/4以上である。なお、既に4点を定義済みである場合には、S35で改めて4点を定義する必要はない。また、4点の定義は、後述する送信方位の演算の流れの中で行われてもよい。
【0063】
また、
図8には、位置基準点BPを示している。位置基準点BPは、飛行体20が有する測位センサのアンテナ位置であり、アレイアンテナ252のアンテナ面の中心位置O(0,0,0)に対するオフセットとして(Bx,By,Bz)を有している。測位センサにより得られる測位センサのアンテナの絶対位置は、GP(Gx,Gy,Gz)と表現される。
【0064】
図7を参照して座標変換の流れの説明に戻ると、到来波源位置推定部340は、S31において取得した無線信号の到来方向の推定結果、およびS33において取得した飛行体20の姿勢角に基づき、到来波源の絶対位置を推定する(S37)。そのために、まず、到来波源位置推定部340は、アンテナ面から見た到来波源の相対位置Ptを推定する。時刻TにおけるDOA(到来方向の推定処理)結果を(θ,φ)とし、到来波源とアンテナ面の中心位置Oの距離をR、点P=(R,0,0)と仮定すると、到来波源の相対位置Ptは以下のように表される。なお、
図9においても、DOA結果(θ,φ)および点Pと、到来波源の相対位置Ptとの関係を図示している。
Pt=roty(φ)rotz(θ)P
(数式1)
【0065】
さらに、到来波源位置推定部340は、上記の到来波源の相対位置Ptを絶対座標系における絶対位置Ptxに変換する。具体的には、時刻Tにおける飛行体20の姿勢角を(θx,θy,θz)、飛行体20(測位センサのアンテナ)の位置情報をGP(Gx,Gy,Gz)とすると、到来波源の絶対位置Ptxは以下のように表現される。
Ptx=rotx(θx)roty(θy)rotz(θz)Pt+GP-rotx(θx)roty(θy)rotz(θz)BP
(数式2)
【0066】
なお、到来波源とアンテナ面の中心位置Oの距離Rは、複数(好ましくは3つ以上)の時点、複数の位置で推定された無線信号の到来方向を用いて、例えば交会法により推定可能である。複数の時点での無線信号の到来方向の推定結果が得られるまでは、到来波源とアンテナ面の中心位置Oの距離Rは十分に大きな値と仮定され、上記の到来波源の相対位置Ptが実質的には到来波源の相対方向を示すことになる。この場合、数式2の右辺第一項は、重力方向を基準に表現される到来波源の絶対方向を示すとも言える。複数の時点での到来波源の絶対方向、位置情報GP(Gx,Gy,Gz)、位置基準点BP(Bx,By,Bz)および姿勢角(θx,θy,θz)に基づいて到来波源とアンテナ面の中心位置Oとの距離が推定された後に、推定された距離が距離Rに適用される。
【0067】
そして、記憶部350が、S37で推定された到来波源の絶対位置Ptxを記憶する(S39)。
【0068】
(送信方位の演算)
次に、
図6のS20に示した送信方位演算について、
図10を参照してより具体的に説明する。
【0069】
図10は、送信方位の演算の流れを示すフローチャートである。まず、送信方位演算部360は、記憶部350から到来波源の絶対位置Ptxを読み出す(S41)。そして、送信方位演算部360は、飛行制御部224から飛行体20の現在(時刻T+Δt)の姿勢角を取得する(S43)。続いて、送信方位演算部360は、アンテナ面に定義した4点の、現在の絶対位置P1d~P4dを演算する(S45)。
図11には、時刻Tから飛行体20の姿勢角が変化したことにより、それぞれ破線で示したx軸、y軸、z軸が、それぞれ実線で示したx’軸、y’軸、z’軸に変化し、4点の絶対位置も変化した様子が示されている。この移動後の絶対位置P1d~P4dは、飛行体20の現在の姿勢角を(θxd,θyd,θzd)、位置情報をGPd(Gxd,Gyd,Gzd)とすると、以下のように表現される。
P1d=rotx(θxd)roty(θyd)rotz(θzd)P1+GPd-rotx(θxd)roty(θyd)rotz(θzd)BP
P2d=rotx(θxd)roty(θyd)rotz(θzd)P2+GPd-rotx(θxd)roty(θyd)rotz(θzd)BP
P3d=rotx(θxd)roty(θyd)rotz(θzd)P3+GPd-rotx(θxd)roty(θyd)rotz(θzd)BP
P4d=rotx(θxd)roty(θyd)rotz(θzd)P4+GPd-rotx(θxd)roty(θyd)rotz(θzd)BP
(数式3)
【0070】
その後、送信方位演算部360は、上記で得られた絶対位置P1d~P4dおよびS41で読み出した到来波源の絶対位置Ptxを用いて、現在の到来波源の相対方位を演算する(S47)。具体的には、絶対位置P1dと到来波源の絶対位置Ptxとの間の経路と、絶対位置P2dと到来波源の絶対位置Ptxとの間の経路と、の経路差情報から、アンテナ面から見た現在の到来波源の位置のヨー角θ’を演算可能である。また、絶対位置P3dと到来波源の絶対位置Ptxとの間の経路と、絶対位置P4dと到来波源の絶対位置Ptxとの間の経路と、の経路差情報から、アンテナ面から見た現在の到来波源の位置のピッチ角φ’を演算可能である。
【0071】
なお、到来波源として無線基地局10に着目している場合には到来波源の相対方位が送信方位に該当し、到来波源として干渉波源30に着目している場合には到来波源の相対方位が対象方位に該当する。
【0072】
<5.作用効果>
以上説明した本発明の一実施形態によれば、多様な作用効果が得られる。例えば、本発明の一実施形態によれば、無線信号の到来方向の推定時刻から飛行体20の姿勢または位置に変化が生じた場合でも、その時点での到来波源の相対方位を演算可能である。従って、干渉波源30Aおよび干渉波源30Bなどの他の無線システムへの干渉をより効果的に低減することが可能である。結果、他の無線システムにおける通信品質の低下を抑制することが可能である。また、通信相手である無線基地局10との円滑な通信を実現することが可能である。
【0073】
また、本発明の一実施形態によれば、各到来波源の絶対位置が既知でなくても、複数の時点における無線信号の到来方向、飛行体20の姿勢角(θx,θy,θz)、位置情報GP(Gx,Gy,Gz)および位置基準点BP(Bx,By,Bz)などに基づいて、各到来波源の絶対位置を推定することが可能である。
【0074】
また、本発明の一実施形態によれば、アンテナ面に定義される4つの点は、P1=(0,a,0)、P2=(0,-a,0)、P3=(0,0,a)、P4=(0,0,-a)と表現され、aは電波の波長の1/4以上である。従って、点P1と点P2のy軸上での離隔長さは電波の波長の1/2以上となり、点P3と点P4のz軸上での離隔長さも電波の波長の1/2以上となる。このような4つの点の位置を用いることにより、到来波源の相対方位を適切に演算することが可能となる。
【0075】
なお、干渉波源30Bのように、干渉相手または通信相手が移動体であることも想定される。その場合、厳密には、干渉相手の絶対位置Ptxは一定ではない。しかし、十分に飛行体20と干渉相手との距離Rが大きければ、干渉相手の移動が相対方位の演算結果に与える影響は限定的である。また、干渉相手が無線信号を送信する頻度が高いほど、干渉相手の絶対位置が高頻度に更新されるので、この場合にも干渉相手の移動が相対方位の演算結果に与える影響は限定的であると考えられる。
【0076】
<6.補足>
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0077】
例えば、上記では干渉波源として他の無線通信システム(干渉波減30Aおよび干渉波源B)を用いて説明したが、単独の干渉波源であってもよい。例えば、発電施設や航空機用のレーダー装置は、それ単独で干渉波源30としてもよい。その際、移動体20は当該施設および装置の絶対座標での位置を記憶部350に予め記憶されていてもよい。その際、当該位置情報をS19で取得される到来波源の位置として用いてもよい。また、3以上の干渉波源30が存在してもよい。
【0078】
また、上記ではアンテナ面に4つの点を定義する例を説明したが、アンテナ面に定義される点の数は3であってもよい。すなわち、上記では、y軸上で離隔する2つの点と、z軸上で離隔する2つの点が異なる例を説明したが、y軸上で離隔する2つの点と、y軸上で離隔する2つの点のうちの一方の点とz軸上で離隔する1つの点、からなる3つの点が定義されてもよい。この場合でも、上述した方法に準じて到来波源の相対方位を演算することが可能である。
【0079】
また、本明細書の飛行体20の処理における各ステップは、必ずしもシーケンス図またはフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はない。例えば、飛行体20の処理における各ステップは、フローチャートとして記載した順序と異なる順序で処理されても、並列的に処理されてもよい。
【0080】
また、飛行体20に内蔵されるCPU、ROMおよびRAMなどのハードウェアに、上述した飛行体20の各構成と同等の機能を発揮させるためのコンピュータプログラムも作成可能である。また、該コンピュータプログラムが記憶された非一時的な記憶媒体も提供される。
【符号の説明】
【0081】
10 無線基地局
20 飛行体
220 飛行制御装置
222 センサ群
224 飛行制御部
230 駆動装置
240 バッテリ
250 無線制御装置
252 アレイアンテナ
254 RF受信回路
258 RF送信回路
300 通信制御部
310 到来方向推定部
320 受信指向性演算部
330 受信処理部
340 到来波源位置推定部
350 記憶部
360 送信方位演算部
370 変動予測部
380 送信指向性演算部
390 送信処理部
30 干渉波源
【要約】
【課題】通信における問題を改善する。
【解決手段】移動体であって、電波源の位置情報を記憶する記憶部と、アレイアンテナと、前記移動体の姿勢角を取得する姿勢角取得部と、前記アレイアンテナのアンテナ面上に定義された少なくとも3つの点であって、第1の方向において離隔する2つの点の第1の組、および前記第1の方向に直交する第2の方向において離隔する2つの点の第2の組を有する前記少なくとも3つの点の各々の位置を前記移動体の姿勢角に基づいて算出し、前記第1の組の2つの点の各々と前記電波源の位置情報が示す位置との経路差情報、および前記第2の組の2つの点の各々と前記電波源の位置情報が示す位置との経路差情報とに基づいて、前記電波源の方位を算出する方位算出部と、前記電波源の方位に基づいて、前記アレイアンテナにおける通信に指向性を与えるための複素ウェイトを演算する演算部と、を備える、移動体。
【選択図】
図4