(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】内燃機関のピストンの製造方法
(51)【国際特許分類】
F02F 3/10 20060101AFI20231108BHJP
F02B 23/00 20060101ALI20231108BHJP
F02F 3/12 20060101ALI20231108BHJP
F02F 3/14 20060101ALI20231108BHJP
F02F 3/26 20060101ALI20231108BHJP
F16J 1/01 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
F02F3/10 B
F02B23/00 D
F02F3/12
F02F3/14
F02F3/26 D
F16J1/01
(21)【出願番号】P 2022173291
(22)【出願日】2022-10-28
(62)【分割の表示】P 2020005251の分割
【原出願日】2020-01-16
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 剛
【審査官】楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-124187(JP,A)
【文献】特開平06-122995(JP,A)
【文献】特開平11-082031(JP,A)
【文献】特開2018-031302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 3/00~ 3/28
C25D 11/04
F02B 23/00
F16J 1/00~ 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質アルミナから構成される頂面を有する内燃機関のピストンの製造方法であって、
前記頂面は、前記頂面の外周に繋がる領域の一部または全てを含む第1領域と、前記第1領域に隣接し、前記頂面の内側の領域の一部または全てを含む第2領域と、を備え、
前記頂面が鋳肌で覆われたアルミニウム合金製の鋳造ピストンを準備するステップと、
前記第1領域における前記鋳肌を除去して、前記鋳造ピストンの素材面を露出させるステップと、
前記素材面が露出した
前記第1領域および前記鋳肌で覆われた前記第2領域の陽極酸化処理
を、事前に設定された陽極酸化条件であって前記第1領域と前記第2領域の境界に段差を生じさせない条件に従って行い、前記第1および第2領域に多孔質アルミナを形成するステップと、
を備えることを特徴とする内燃機関のピストンの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のピストンの製造方法であって、
前記第1領域が、前記外周に繋がる領域の全てを含み、
前記第2領域が、前記第1領域の内側に位置する
ことを特徴とする内燃機関のピストンの製造方法。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のピストンの製造方法であって、
前記多孔質アルミナが、厚さ方向に延びる細孔を有し、
前記細孔の開口部が、前記頂面に開口する
ことを特徴とする内燃機関のピストンの製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のピストンの製造方法であって、
前記内燃機関が火花点火式の内燃機関である
ことを特徴とする内燃機関のピストンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮熱コーティングが形成された頂面を有する内燃機関(以下、単に「エンジン」とも称す。)のピストンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2019-074009号公報は、遮熱コーティングが形成された頂面を有するエンジンのピストンを開示する。この遮熱コーティングは、多孔質アルミナから構成される層(以下、「アルマイト層」とも称す。)を有する。多孔質アルミナは、ピストンの素材の陽極酸化処理により形成される。アルマイト層は、その構造が故に、素材よりも体積比熱と熱伝導率において低い熱物性を示す。
【0003】
アルマイト層が形成されたピストンによれば、エンジンの燃焼室内の作動ガスの温度に、頂面の温度を追従させることが可能となる。すなわち、膨張行程では、上昇する燃焼ガスの温度に、頂面の温度を追従させることが可能となる。また、吸気行程では、比較的低い吸気の温度に、頂面の温度を追従させることが可能となる。このような追従特性は、「スイング特性」とも呼ばれる。スイング特性によれば、冷却損失の低減と、ノッキングの発生抑制と、を両立させることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アルマイト層の表面には、厚さ方向に延びる無数の細孔が開口している。そのため、燃焼室内の燃料は、これらの細孔の開口部からアルマイト層の内部に入り込むことが予想される。つまり、燃焼室内の燃料は、アルマイト層に染み込むことが予想される。
【0006】
アルマイト層の温度が高ければ、このような燃料の染み込みは起こりにくい。何故なら、この場合は、アルマイト層に燃料が接触したとしても、この燃料の霧化状態が保たれることが予想されるためである。ところが、上述したスイング特性によれば、吸気行程ではアルマイト層の温度が低下する。そのため、アルマイト層に接触した燃料がアルマイト層に染み込み、圧縮行程でも蒸発しない可能性がある。
【0007】
また、上述したスイング特性によれば、膨張行程ではアルマイト層の温度が上昇する。そのため、アルマイト層に染み込んでいる燃料が、膨張行程の後半に蒸発する可能性がある。そうすると、この燃料を膨張行程で燃焼させることができず、その後の排気行程で燃焼室外に排出される。したがって、アルマイト層が形成されたエンジンでは、燃焼に寄与しない燃料が発生してエネルギ効率が低下するという問題がある。
【0008】
上述した頂面の一部の領域には、開口部を封じる封孔層がアルマイト層の上に形成されている。開口部が封じられていれば、燃料の染み込みを抑制することが可能となる。ところが、封孔層が形成されれば、遮熱コーティングの層厚が増すことになる。そうすると、遮熱コーティング全体の熱容量が増加する可能性がある。また、封孔層が形成されれば、その体積比熱および熱伝導率が遮熱コーティングの熱物性に影響する可能性がある。したがって、スイング特性の維持が困難になるおそれがあった。
【0009】
本発明の1つの目的は、アルマイト層が形成された頂面を有するピストンを備えるエンジンにおいて、アルマイト層によるスイング特性を活かしつつ、燃焼に寄与しない燃料の発生を抑えることのできる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、内燃機関のピストンの製造方法であり、次の特徴を有する。
前記ピストンは、多孔質アルミナから構成される頂面を有する。
前記頂面は、第1領域と、第2領域と、を備える。
前記第1領域は、前記頂面の外周に繋がる領域の一部または全てを含む。
前記第2領域は、第1領域に隣接する。前記第2領域は、前記頂面の内側の領域の一部または全てを含む。
前記製造方法は、
前記頂面が鋳肌で覆われたアルミニウム合金製の鋳造ピストンを準備するステップと、
前記第1領域における前記鋳肌を除去して、前記鋳造ピストンの素材面を露出させるステップと、
前記素材面が露出した前記鋳造ピストンの陽極酸化処理により、前記第1および第2領域に多孔質アルミナを形成するステップと、
を備える。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、更に次の特徴を有する。
前記頂面には、バルブリセス部が形成され、
前記バルブリセス部を構成する面は、前記第2領域に属する。
【0012】
第3の発明は、第1の発明において、更に次の特徴を有する。
前記頂面には、バルブリセス部が形成され、
前記バルブリセス部を構成する面が、前記第1領域に属する。
【0013】
第4の発明は、第1~3のいずれか1つの発明において、更に次の特徴を有する。
前記第1領域が、前記外周に繋がる領域の全てを含み、
前記第2領域が、前記第1領域の内側に位置する。
【0014】
第5の発明は、第1~4のいずれか1つの発明において、更に次の特徴を有する。
前記多孔質アルミナが、厚さ方向に延びる細孔を有し、
前記細孔の開口部が、前記頂面に開口する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、その頂面が多孔質アルミナから構成されるピストンを得ることができる。頂面が多孔質アルミナから構成されるということは、細孔の開口部を封じるための層(すなわち、封孔層)は設けられていないことを意味する。そのため、封孔層の形成に伴って増加する各種の問題は生じない。したがって、アルマイト層の熱物性を活かして、スイング特性による効果を確実に得ることが可能となる。
【0016】
本発明によれば、また、鋳造ピストンの鋳肌の除去が第1領域においてのみ行われる。そのため、鋳肌の除去を第1および第2領域において行う場合に比べて、加工に要する時間を短縮することが可能となる。したがって、ピストンの製造コストを削減することが可能となる。
【0017】
本発明によれば、また、第1領域においては素材面を露出させ、第2領域においては鋳肌を残した状態で、陽極酸化処理が行われる。ここで、鋳肌を構成する素材の酸化速度は、素材面を構成する素材のそれよりも遅い。したがって、素材面と鋳肌が混在する状態で陽極酸化処理が行われることで、第2領域におけるアルマイト層が第1領域におけるそれよりも薄いピストンを得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施の形態に係る製造方法により得られるピストンの第1の構成例を示す平面図である。
【
図2】
図1に示した2-2線に沿って切断したピストンの断面図である。
【
図3】
図1に示した3-3線に沿って切断したピストンの断面図である。
【
図4】実施の形態に係る製造方法により得られるピストンの第2の構成例を示す平面図である。
【
図5】実施の形態に係る製造方法により得られるピストンの第3の構成例を示す平面図である。
【
図6】実施の形態に係る製造方法により得られるピストンの第4の構成例を示す平面図である。
【
図7】実施の形態に係る製造方法により得られるピストンの第5の構成例を示す平面図である。
【
図8】実施の形態に係る製造方法により得られるピストンの第6の構成例を示す平面図である。
【
図9】実施の形態に係る製造方法により得られるピストンの第7の構成例を示す平面図である。
【
図10】実施の形態に係るピストンの製造方法の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において、同一または相当する部分には同一符号を付してその説明を簡略化ないし省略する。
【0020】
1.ピストンの構成例
まず、
図1~9を参照して本発明の実施の形態に係る製造方法により得られるピストンの構成について説明する。本実施の形態に係る製造方法により得られるピストンは、好ましくは、車両に搭載されるエンジンに適用される。このようなエンジンとしては、火花点火式のエンジンおよび圧縮自着火式のエンジンが例示される。
【0021】
1-1.第1の構成例
図1は、本実施の形態に係る製造方法により得られるピストンの第1の構成例を示す平面図である。
図1の上方に示される“IN”の方向はエンジンの吸気側の方向を表し、“EX”の方向は、エンジンの排気側の方向を表している。
図2は、
図1に示した2-2線に沿って切断したピストンの断面図である。
図3は、
図1に示した3-3線に沿って切断したピストンの断面図である。
【0022】
図1~3に示されるピストンは、火花点火式のエンジンに適用される。
図1~3に示されるように、このピストンの頂面10には、皿状の窪み部11と、平面部12および13と、傾斜部14と、が形成されている。窪み部11は、頂面10の中央部に形成される。窪み部11は、インジェクタ(不図示)から噴射された燃料と、吸気との混合気を燃焼室内に拡散させる目的で形成される。平面部12および13は、窪み部11の外側に形成される。傾斜部14は、平面部12および13の外側に形成される。傾斜部14は、頂面10の中心から離れるほどピストンの内側方向に傾斜している。傾斜部14は、ピストンの上昇時、シリンダヘッド(不図示)の底面との間にスキッシュエリアを形成する。
【0023】
図1~3に示されるピストンの形状それ自体は公知である。公知のピストンには、平面部12および13を有さず、窪み部11の外側に傾斜部14が位置するピストンも例示される。
【0024】
図1~3に示されるように、頂面10にはアルマイト層ALが形成されている。アルマイト層ALは、厚さ方向に規則正しく延びる無数の細孔を有している。アルマイト層ALのこのような構造は、例えば特開2013-060620号公報に開示されている。アルマイト層ALの熱物性については、既に説明したとおりである。
【0025】
第1の構成例の特徴は、第1領域におけるアルマイト層ALの層厚TH1と、第2領域におけるそれの層厚TH2との違いにある。
図1において、ハッチングが掛けられている領域が第2領域に該当する。つまり、第2領域は、窪み部11、平面部12および13を構成する面の領域に相当する。第2領域以外の領域が、第1領域に該当する。つまり、第1領域は、傾斜部14を構成する面の領域に相当する。
【0026】
図2および3に示されるように、層厚TH2は層厚TH1よりも薄い。なお、層厚TH1およびTH2の代表的な測定方法としては、直接法が例示される。直接法では、まず、アルマイト層ALの厚さ方向にピストンが切断される。そして、第1および第2領域に相当する領域における任意の点で、アルマイト層ALの厚さが測定される。測定点は複数でもよい。この場合、層厚TH1およびTH2は、複数の測定値の平均値、中央値または最頻値により表される。
【0027】
層厚TH1とTH2の大小関係は、以下に説明する第2~7の構成例においても同じである。そのため、第2~7の構成例の説明では、第1および第2領域の位置関係の説明を主に行い、断面図を用いた大小関係の説明を省略する。
【0028】
1-2.第2の構成例
図4は、本実施の形態に係る製造方法により得られるピストンの第2の構成例を示す平面図である。
図4に示されるピストンは、火花点火式のエンジンに適用される。
図4に示されるように、このピストンの頂面20には、バルブリセス部21および22と、平面部23と、が形成されている。バルブリセス部21および22は、2本の排気バルブ(不図示)が頂面20に干渉するのを防止する目的で形成される。バルブリセス部21および22は、頂面20の中心から離れるほどピストンの内側方向に傾斜している。平面部23は、バルブリセス部21および22の間に形成される。平面部23は、
図1の排気側における平面部12の一部に該当する。
【0029】
図4において、ハッチングが掛けられている領域が第2領域に該当する。つまり、第2領域は、窪み部11、平面部12、13および23、バルブリセス部21および22を構成する面の領域に相当する。第2領域以外の領域が、第1領域に該当する。つまり、第1領域は、傾斜部14を構成する面の領域に相当する。
【0030】
1-3.第3の構成例
図5は、本実施の形態に係る製造方法により得られるピストンの第3の構成例を示す平面図である。
図5に示されるピストンは、火花点火式のエンジンに適用される。
図5に示されるように、このピストンの頂面30には、バルブリセス部31および32と、平面部33と、が形成されている。バルブリセス部31および32は、2本の吸気バルブ(不図示)が頂面30に干渉するのを防止する目的で形成される。バルブリセス部31および32は、頂面30の中心から離れるほどピストンの内側方向に傾斜している。平面部33は、バルブリセス部31および32の間に形成される。平面部33は、
図1の吸気側における平面部12の一部に該当する。
【0031】
図5において、ハッチングが掛けられている領域が第2領域に該当する。つまり、第2領域は、窪み部11、平面部13、23および33、および、バルブリセス部21、22、31および32を構成する面の領域に相当する。第2領域以外の領域が、第1領域に該当する。つまり、第1領域は、傾斜部14を構成する面の領域に相当する。
【0032】
1-4.第4の構成例
図6は、本実施の形態に係る製造方法により得られるピストンの第4の構成例を示す平面図である。
図6に示されるピストンは、火花点火式のエンジンに適用される。
図6に示されるように、このピストンの頂面40には、皿状の窪み部41が形成されている。窪み部41の基本的な形状は、
図1に示した窪み部11と同じである。ただし、窪み部41の中央部には、窪み部42が更に形成されている。窪み部42は、燃焼状態の改善を目的として形成される。窪み部42の形状としては、半球状が例示される。窪み部41の外側には、傾斜部43が形成されている。傾斜部43は、シリンダヘッドの底面との間にスキッシュエリアを形成する。
【0033】
図6において、ハッチングが掛けられている領域が第2領域に該当する。つまり、第2領域は、窪み部41、および、バルブリセス部21、22、31および32を構成する面の領域に相当する。第2領域以外の領域が、第1領域に該当する。つまり、第1領域は、窪み部42および傾斜部43を構成する面の領域に相当する。
【0034】
第1~3の構成例では、第1領域の内側の全てを第2領域が占めている。これに対し、第4の構成例では、2つの第1領域の間に第2領域が位置している。つまり、第1領域の内側の一部のみを第2領域が占めている。このような位置関係にした理由は、燃焼前の混合気との接触機会が多い領域に着目しているからである。接触機会が多い領域では、接触機会が少ない領域に比べて、細孔の開口部からアルマイト層ALの内部に混合気が入り込み易い。そのため、接触機会が多い領域では、混合気中の燃料がアルマイト層ALに染み込み易い。
【0035】
1-5.第5の構成例
接触機会に着目した場合、バルブリセス部21、22、31および32を構成する面の領域での接触機会は、窪み部41を構成する面の領域での接触機会に比べて少ないことが予想される。そのため、バルブリセス部を構成する面の領域は、第1領域に設定されてもよい。つまり、バルブリセス部を構成する面の領域におけるアルマイト層ALは、層厚TH1を有していてもよい。
【0036】
図7は、本実施の形態に係る製造方法により得られるピストンの第5の構成例を示す平面図である。
図7に示される第5の構成例の形状は、第2の構成例のそれと同じである。ただし、第5の構成例では、バルブリセス部21および22を構成する面の領域が、第2領域ではなく第1領域に該当する点において、第2の構成例と異なる。
【0037】
第5の構成例における変形は、
図5および6に示した第3および4の構成例に適用されてもよい。つまり、バルブリセス部21、22、31および32を構成する面の領域が、第1領域に該当してもよい。
【0038】
更に、バルブリセス部21、22、31および32を構成する面のうちの一部の領域が、第1領域に設定されてもよい。インジェクタからの噴射態様によっては、接触機会の多い領域が吸気側または排気側の領域に偏ることが想定されるためである。例えば、接触機会の多い領域が排気側の領域に偏るエンジンの場合を考える。この場合は、吸気側の領域での接触機会が少なくなることが予想される。よって、この場合は、吸気側のバルブリセス部を構成する面の領域(例えば、第3および4の構成例におけるバルブリセス部31および32を構成する面の領域)が第1領域に設定されてもよい。
【0039】
1-6.第6の構成例
図8は、本実施の形態に係る製造方法により得られるピストンの第6の構成例を示す平面図である。
図8に示されるピストンは、圧縮自着火式のエンジンに適用される。
図8に示されるように、このピストンの頂面60には、窪み部61と、平面部62と、バルブリセス部63~66と、が形成されている。窪み部61は、エンジンの主たる燃焼室を構成する。バルブリセス部63~66は、平面部62と平行に設けられる。バルブリセス部63および64は、排気バルブ(不図示)との干渉を防止する目的で形成される。バルブリセス部65および66は、吸気バルブ(不図示)との干渉を防止する目的で形成される。
【0040】
図8において、ハッチングが掛けられている領域が第2領域に該当する。つまり、第2領域は、窪み部61、およびバルブリセス部63~66を構成する面の領域に相当する。第2領域以外の領域が、第1領域に該当する。つまり、第1領域は、平面部62を構成する面の領域に相当する。
【0041】
ここで、平面部62を構成する面は、隣り合う2つのバルブリセス部によって4つに分割されている。つまり、第6の構成例において、第1領域は、頂面60の外周に繋がる領域の一部を含んでいる。バルブリセス部63~66を構成する面は、頂面60の外周の一部を含んでいる。つまり、第6の構成例において、第2領域は、頂面60の外周に繋がる領域の一部を含んでいる。
【0042】
1-7.第7の構成例
図9は、本実施の形態に係る製造方法により得られるピストンの第7の構成例を示す平面図である。
図9に示される第7の構成例の形状は、第6の構成例のそれと同じである。ただし、第7の構成例では、バルブリセス部63~66を構成する面の領域が、第2領域ではなく第1領域に該当する点において、第6の構成例と異なる。つまり、第6および7の構成例の関係は、上述した第2および5の構成例の関係と同じである。
【0043】
1-8.効果
以上説明した各種の構成例では、アルマイト層ALのみから頂面が構成される。つまり、各種の構成例では、開口部を封じるための層(すなわち、封孔層)が設けられていない。そのため、封孔層の形成に伴って増加する各種の問題(すなわち、遮熱コーティングの全体厚および全容積の問題)は生じない。このように、本実施の形態に係るピストンによれば、アルマイト層ALの熱物性を活かして、スイング特性による効果を確実に得ることが可能となる。
【0044】
また、各種の構成例では、層厚TH2が層厚TH1よりも薄い。層厚THが薄ければ、細孔の開口部からアルマイト層ALの内部に入り込む混合気の量を抑えて、アルマイト層ALに染み込む燃料の量を抑えることが可能となる。また、層厚THが薄ければ、アルマイト層ALに染み込んだ燃料が蒸発したときに開口部から容易に抜け出すことも可能となる。したがって、本実施の形態に係るピストンによれば、燃焼に寄与しない燃料が発生してエネルギ効率が低下するのを抑えることができる。
【0045】
特に、第2~4および6の構成例では、バルブリセス部を構成する領域が第2領域に設定される。そのため、バルブリセス部が頂面に形成されるピストンが適用されるエンジンにおいても、上述した効果を得ることが可能となる。
【0046】
一方、第5および7の構成例では、バルブリセス部を構成する領域が第1領域に設定される。第1領域に設定されれば、第2領域に設定される場合に比べて層厚THが増加する。そうすると、バルブリセス部を構成する面の領域における熱容量が増加する。熱容量が増加すれば、バルブリセス部を構成する面の領域の温度が、エンジンのサイクルを通じて上昇する。
【0047】
ここで、バルブリセス部は、燃焼室内の浮遊物(例えば、煤)やエンジンオイルが溜まり易い形状を有している。そのため、バルブリセス部は、頂面に形成されている他の部位に比べてデポジットが堆積し易いと言える。この点、バルブリセス部を構成する領域が第1領域に設定されれば、ここに付着した浮遊物やエンジンオイルを膨張行程で燃焼させることが可能となる。よって、バルブリセス部に堆積するデポジットの量を減らすことが可能となる。
【0048】
2.ピストンの製造方法
次に、
図10~12を参照して本発明の実施の形態に係るピストンの製造方法について説明する。
【0049】
2-1.製造方法の流れ
図10は、本実施の形態に係るピストンの製造方法の流れを示すフローである。
図10に示されるように、本実施の形態に係る方法では、先ず、アルミニウム合金製の鋳造ピストンが準備される(ステップS1)。鋳造ピストンは、例えば、金型鋳造法に従って製造される。金型鋳造法では、液体状のアルミニウム合金が金型に流し込まれ、その後、熱処理が行われる。アルミニウム合金の凝固後、鋳型から鋳造ピストンが取り出される。
【0050】
ステップS1に続いて、第1領域の機械加工が行われる(ステップS2)。
図11は、ステップS2の概要を示す図である。
図11には、鋳造ピストンの頂面の周囲の含む一部の断面が模式的に描かれている。
図11に示されるように、鋳造ピストンの頂面は、鋳肌CSで覆われている。ステップS2では、砥石、エンドミル等を用い、第1領域に相当する領域の鋳肌CSが除去され、これにより素材面MSが露出する。一方、第2領域に相当する鋳肌CSは除去されずに残る。
【0051】
ステップS2に続いて、鋳造ピストンの頂面の全領域の陽極酸化が行われる(ステップS3)。陽極酸化は、成膜領域(すなわち、頂面の全領域)に電解液を供給しながら、当該成膜領域を構成する素材(すなわち、アルミニウム合金)を酸化する処理である。
図12は、ステップS3の概要を示す図である。
図12に示されるように、ステップS3では、厚み方向にアルマイト層ALが生成する。
【0052】
陽極酸化では、成膜領域を構成する素材が消費される。ただし、素材面MSを構成する素材の消費速度は、鋳肌CSを構成する素材のそれよりも速い。つまり、第1領域におけるアルマイト層ALの成長速度は、第2領域におけるそれよりも速い。この理由は、鋳肌CSの構造に起因する。そのため、頂面の全領域を陽極酸化すると、層厚TH2が層厚TH1よりも薄いアルマイト層ALが得られる。
【0053】
本実施の形態に係る製造方法では、第1領域と第2領域におけるアルマイト層ALの高さを揃えるための陽極酸化条件が事前に設定されている。そのため、この陽極酸化条件に従ってステップS3が行われることで、第1領域と第2領域の境界に段差を有することのない頂面が形成される。
【0054】
2-2.効果
以上説明した製造方法によれば、ステップS2において第1領域に相当する領域の鋳肌CSのみが除去される。そのため、鋳造ピストンの頂面の全領域の鋳肌CSを除去する場合に比べて鋳造ピストンの頂面の機械加工に要する時間を短縮することが可能となる。したがって、ピストンの製造コストを削減することが可能となる。
【0055】
また、上述した製造方法によれば、ステップS3において素材面MSと鋳肌CSの両方を含んだ頂面の全領域が陽極酸化される。アルマイト層ALは、その構造が故に、頂面の切削加工によって層厚THを調整することは困難である。この点、ステップS3では、鋳肌CSと素材面MSの反応速度の違いを利用した陽極酸化が行われる。したがって、層厚TH2が層厚TH1よりも薄いアルマイト層ALを容易に得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0056】
10,20,30,40,50,60,70 頂面
11,41,42,61 窪み部
12,13,23,33 平面部
14,43 傾斜部
21,22,31,32,63,64,65,66 バルブリセス部
AL アルマイト層
CS 鋳肌
MS 素材面
TH,TH1,TH2 層厚