(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】酵素電池が搭載されたおむつ並びにシステム
(51)【国際特許分類】
A61F 5/44 20060101AFI20231108BHJP
A61F 13/42 20060101ALI20231108BHJP
G01N 27/327 20060101ALI20231108BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20231108BHJP
H01M 8/00 20160101ALI20231108BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20231108BHJP
H01M 8/16 20060101ALI20231108BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20231108BHJP
【FI】
A61F5/44 S
A61F13/42 F
G01N27/327 353F
G01N27/327 353R
G01N27/416 341A
H01M8/00 Z
H01M8/04 Z
H01M8/16
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2022186268
(22)【出願日】2022-11-22
(62)【分割の表示】P 2018160908の分割
【原出願日】2018-08-30
【審査請求日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2018121800
(32)【優先日】2018-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡部 寛人
(72)【発明者】
【氏名】八手又 彰彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 博友
【審査官】寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/062419(WO,A1)
【文献】特開2018-068583(JP,A)
【文献】特開2013-094175(JP,A)
【文献】特開2013-157317(JP,A)
【文献】特開2011-165464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 5/44
A61F 13/42
G01N 27/327
G01N 27/416
H01M 8/00
H01M 8/04
H01M 8/10
H01M 8/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素電池が搭載されたおむつを使用し、燃料の残存量と発電量とから排尿量を演算する手段を備えるシステムであって、
前記おむつが、構成部材として少なくともトップシート、吸水材、およびバックシートを含むおむつであって、前記トップシートと前記バックシートとの間に酵素電池が位置され、前記酵素電池は、正極および、負極を含んでなり、前記正極または前記負極の少なくとも一方が酵素を含
み、さらに、酵素電池の内部または近傍に燃料を含有することを特徴とする
システム。
【請求項2】
前記酵素電池が、トップシートと吸水材との間に位置する請求項1記載の
システム。
【請求項3】
前記酵素電池が、吸水材の内部に位置する請求項1記載の
システム。
【請求項4】
前記酵素電池が、吸水材とバックシートとの間に位置する請求項1記載の
システム。
【請求項5】
酵素電池が、おむつの外部より供給された尿中の成分により発電しうる酵素を含有する請求項1~4何れか記載の
システム。
【請求項6】
尿中に含まれる1種類以上の有機物により発電しうる酵素を含有する請求項1~
5何れか記載の
システム。
【請求項7】
酵素電池の発電量から、尿中に含まれる1種類以上の有機物の濃度を演算する手段を備える
請求項6記載のシステム。
【請求項8】
排尿による酵素電池の発電量の変化から、排尿回数を演算する手段を備える
請求項1~7何れか記載のシステム。
【請求項9】
さらに、酵素電池の発電に連動する外部伝達手段を備える請求項
1~8何れか記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素電池が搭載されたおむつ並びにシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
少子高齢社会化による医療費増大や労働力不足などが問題となっている。特に介護現場においては、慢性的な人手不足が問題となり労働環境の改善が急務となっている。
介護作業の中でも、寝たきり患者や高齢者などに対する排泄ケアは介護者に体力的・精神的に過大な負担を負わせている。
通常、介護施設や病院などでは、排泄があった状態で患者を長時間放置することや、おむつ漏れによるシーツやベッドの汚染を防ぐため、定期的におむつの汚れ具合を確認し、おむつ交換がなされている。しかし、この確認作業には、排泄をしていない場合や、交換する必要がない場合も多分に含まれ、本来不必要なおむつ開閉作業や交換する必要のないおむつ交換作業が発生し、介護者への負担を大きくしている。
排尿の有無をセンサーなどによって検知し、排泄有無をおむつの確認無しに知る事ができれば、不必要なおむつ開閉及び交換作業を軽減させることが可能となる。
【0003】
改善策として、おむつ内側表面に水分センサーを設置し排尿を検知する方法が報告されている(特許文献1、2)。しかし、従来の水分センサーは駆動に電源を別に必要とするため、電池交換の手間や配線の問題、また、センサーに金属電極が使用される場合では、廃棄の際の分別の手間などが問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011 -19726 号公報
【文献】特開平6 - 3 0 0 7 2 3 号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、酵素電池が搭載されたおむつにより、電池交換の手間がなく、容易に廃棄が可能な排尿を検知するセンサーの電源及び、センサーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決すべく検討を重ねた結果、本発明に至った。
すなわち本発明は、構成部材として少なくともトップシート、吸水材、およびバックシートを含むおむつであって、前記トップシートと前記バックシートとの間に酵素電池が位置され、
前記酵素電池は、正極および、負極を含んでなり、
前記正極または前記負極の少なくとも一方が酵素を含むことを特徴とする酵素電池が搭載されたおむつに関する。
【0007】
また、本発明は、前記酵素電池が、トップシートと吸水材との間に位置する上記おむつに関する。
【0008】
また、本発明は、前記酵素電池が、吸水材の内部に位置する上記おむつに関する。
【0009】
また、本発明は、前記酵素電池が、吸水材とバックシートとの間に位置する上記おむつに関する。
【0010】
また、本発明は、酵素電池が、おむつの外部より供給された尿中の成分により発電しうる酵素を含有する上記おむつに関する。
【0011】
また、本発明は、さらに、酵素電池の内部または近傍に燃料を含有する上記おむつに関する。
【0012】
また、本発明は、尿中に含まれる1種類以上の有機物により発電しうる酵素を含有す
る上記おむつに関する。
【0013】
また、本発明は、上記おむつを使用して、燃料の残存量と発電量とから排尿量を演算する手段を備えるシステムに関する。
【0014】
また、本発明は、上記おむつを使用し、酵素電池の発電量から、尿中に含まれる1種類
以上の有機物の濃度を演算する手段を備えるシステムに関する。
【0015】
また、本発明は、上記おむつを使用し、排尿による酵素電池の発電量の変化から、排尿回数を演算する手段を備えるシステムに関する。
【0016】
また、本発明は、さらに、酵素電池の発電に連動する外部伝達手段を備える上記システムに関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の酵素電池を搭載したおむつを用いることにより、電池交換の手間がなく、容易に廃棄が可能な排尿を検知するセンサーの電源及び、センサーが実現可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明における酵素電池が搭載されたおむつに関し、酵素電池の搭載される位置を模式的に示す構成図である(実施例1、4、7)。
【
図2】
図2は、本発明における酵素電池が搭載されたおむつに関し、酵素電池の搭載される位置を模式的に示す構成図である(実施例2、5)。
【
図3】
図3は、本発明における酵素電池が搭載されたおむつに関し、酵素電池の搭載される位置を模式的に示す構成図である(実施例3、6)。
【
図4】
図4は、酵素電池を搭載したおむつ(4)におけるグルコース濃度に対する発電量の変化量を示す図である。
【
図5】
図5は、酵素電池を搭載したおむつ(1)における超純水投入量に対する発電量の変化量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、詳細に本発明について説明する。
【0020】
<酵素電池を搭載したおむつ(トップシート、吸水材、バックシート)>
本発明におけるおむつは、少なくとも、トップシート、吸水材、バックシートを含むものである。トップシートは、肌に直接接し、おむつの最も内側(肌側)を構成する部分で、不織布(ポリプロピレン、ポリエステル、レーヨンなど)や綿などからなり、排泄された尿を速やかに拡散、浸透し、吸水材に送る役割を担う。
吸水材は、綿状パルプ、高分子吸水剤、給水紙などからなり、トップシートから流入した尿を吸水、保水する役割を担う。バックシートは、ポリエチレンフィルムなどからなり、防水機能を有し、尿などの漏れを防止する役割を担う。
【0021】
酵素電池をおむつに搭載する場合は、トップシートと吸水材とバックシートとを順に有し、酵素電池がトップシートとバックシートの間にある。つまり、トップシートと吸水材の間、吸水材の内部、および吸水材とバックシートの間のいずれかの位置で搭載される。酵素電池がトップシートの内側に搭載されていることは、安定駆動に必要な酵素電池内部への尿の十分な浸透において重要な意味をなす。トップシートの内側にある場合、親水的材料からなるトップシートや、吸水材から酵素電池へ尿が拡散、浸透されるため、酵素電池がトップシートの外側に露出している場合に比べ、酵素電池内へ尿を効果的に供給することが可能となる。また、トップシートの外側に露出していないため、酵素電池が肌に直接触れることを防ぎ、かぶれや、酵素電池の破損などを防止できる。
【0022】
<酵素電池>
酵素電池は、酵素が、糖やアルコール、有機酸等の多様な有機物を酸化し、アノード(負極)で電子及びイオンを発生させ、カソード(正極)側で酸素還元反応させることにより発電しうる発電デバイスである。
電源としての利用の外に、発電の有無や発電量を検知することにより、燃料となる有機物等を対象としたセンサーとして利用することも可能となる。
更に、酵素反応により発電した電力を用いて、同センサーを駆動させることにより、外部から電力供給不要な電源フリーのセンサーとして利用することが出来る。
尿中に含まれる有機物や水などの成分により起きる発電は、2通りがある。一つは、有機物が燃料として発電する場合であり、もう一つは、予め酵素電池の内部または近傍に燃料が位置され、尿中の水により、当該燃料が移動し、酵素と反応して発電する場合である。
すなわち、尿中や尿糖、尿酸等の有機物を燃料及び/又はセンシング対象物として利用される。また、尿などの外部より供給される生体試料中に燃料として利用できる有機物を含まなくても、予め燃料となる有機物をおむつに内蔵することで、外部より供給された水分などの液体成分により、当該燃料が運ばれ、酵素と反応して発電することもできる。このように、本発明では酵素電池は電源としての利用と、センサーとしての利用、およびその両方としての利用が出来る。
酵素電池の構成としては、燃料を酸化するアノードと、酸素還元が起こるカソードと、アノードとカソードを分離するセパレータを含む。但し、アノードとカソードを電気的に分離することができればセパレータは必ずしもなくても構わない。また、アノードからカソード側にイオンを伝達するためのイオン伝導体を含んでいても良い。小型・軽量化や保存安定性等を考慮すると、燃料及び/又はセンシング対象物である尿中に含まれる電解質を使用する形態の酵素電池の方が好ましい場合がある。
アノードとカソードが完全に分離していない、非セパレータ系や紙等をセパレータに使用する形態の酵素電池においては、燃料等に含まれる不純物成分がカソード反応の酸素還元触媒を被毒する場合があり、活性低下、出力不安定化が生じやすいため注意が必要となる。特に白金等の貴金属触媒は被毒されやすいため同系においての使用は好ましくない場合がある。一方、貴金属を含まない酵素電池用炭素触媒はこれら貴金属触媒よりも被毒に強いため、不純物が存在する系においても好適に使用できる。
加えて、不織布やフェルト、紙など易廃棄なセパレータに直接アノード及びカソードを塗布し作製されるデバイスに対して、本発明に用いられる酵素電池用炭素触媒をカソードに使用すると、高価な貴金属や酸素還元酵素を使用せず低コストで、使い捨て可能(易廃棄、リサイクル不要など)なデバイスを実現することが可能となる。
【0023】
<回路配線>
回路配線とは、酵素電池において正極および負極と外部デバイスを電気的に接続し、回路を形成するための導電性部材である。回路配線は、正極あるいは負極と別途用意された導電性部材を接続し更に外部デバイスに接続してもよく、正極あるいは負極の導電性支持体をそのまま延長して回路配線として外部デバイスと接続してもよい。回路配線と外部デ
バイスを接続する方法としては特に限定するものではなく、接着剤あるいは粘着剤による接続の他に、スナップボタン、マグネット、クリップ、ファスナー、マジックテープ(登録商標)等を用いた接続が例示できる。
回路配線の材料としては、導電性を有する非金属材料であれば特に限定するものではない。例えば、カーボンペーパーやカーボンクロス、カーボンフェルト等の導電性炭素材料の他、紙類、布類等の非導電性支持体に酵素電池回路配線用導電炭素組成物やポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子を塗布、乾燥したものやそれらを併用したものを用いてもよい。廃棄の容易さやコストの観点から非導電性支持体に酵素電池回路配線用導電炭素組成物を塗布、乾燥したものを用いた方が好ましい。特に非導電性支持体は折り曲げ可能な支持体であることが好ましい。更には、紙類の非導電性支持体に酵素電池回路配線用導電炭素組成物を塗布、乾燥したものを用いた方が好ましい。
【0024】
<酵素電池回路配線用導電炭素組成物>
酵素電池回路配線用導電炭素組成物は、少なくとも黒鉛やカーボンブラック、グラフェン系材料などの導電性炭素と、溶剤とバインダーを含む。また、酵素電池回路配線用導電炭素組成物は、必要に応じて分散剤、増粘剤、成膜助剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、pH調整剤等を配合できる。導電性炭素及び溶剤とバインダー、分散剤の割合は、特に限定されるものではなく、広い範囲内で適宜選択され得る。VOC排出の観点から、水あるいは水性溶剤を用いることが好ましく、それに伴いバインダーおよび分散剤等も水性であることが好ましい。
【0025】
<導電性支持体>
酵素電池において、正極および負極に導電性支持体を用いても良い。酵素電池に用いる導電性支持体は、導電性を有する材料であれば特に限定は無い。カーボンペーパーやカーボンクロス等導電性の炭素材料からなる導電層や金属箔、金属メッシュ等が挙げられる。また、回路配線と同様に、紙類、布類等の非導電性支持体に酵素電池回路配線用導電炭素組成物やポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子を塗布、乾燥したものやそれらを併用したものを用いてもよい。前記組成物の塗布方法としては、特に限定されるものではなく、酵素電池用回路配線の作製の際に使用するような一般的な方法を適用できる。
廃棄の容易さやコストの観点から、非導電性支持体に酵素電池回路配線用導電炭素組成物を塗布、乾燥したものを用いた方が好ましい。特に非導電性支持体は折り曲げ可能な支持体であることが好ましい。更に、紙類の非導電性支持体に酵素電池回路配線用導電炭素組成物を塗布、乾燥したものを用いた方が好ましい。
【0026】
<酵素電池用負極>
酵素電池用負極では、燃料の酸化反応により発生した電子をカソードに供給する。酵素電池用負極は、導電性支持体やセパレータ等の基材に前記酵素電池回路配線用導電炭素組成物や、導電性炭素材料や酵素電池用炭素触媒などのペーストを直接塗布し乾燥した塗膜や、転写基材などに前記酵素電池回路配線用導電炭素組成物を塗布し乾燥することにより形成された塗膜を支持体やセパレータ等に転写して作製した塗膜に酵素やメディエータを担持させたり、導電性支持体に酵素やメディエータを直接担持させたり、酵素を含む酵素電池回路配線用導電炭素組成物を支持体に塗布し乾燥したりして作製される。
前記組成物の塗布方法としては、特に限定されるものではなく、酵素電池用回路配線の作製の際に使用するような一般的な方法を適用できる。
酵素やメディエータを担持する方法は、上記組成物に含ませて行っても良いし、塗布後乾燥した塗膜や、導電性支持体に後から行っても良い。後から行う場合では、酵素やメディエータを溶解させた液を上記塗膜や、導電性支持体に浸漬等させた後、乾燥させて担持する方法等が使用できる。
【0027】
<酵素電池負極用酵素>
本発明における酵素としては、反応により電子を授受できる酵素であれば特に制限はなく、供給する燃料やコスト、デバイスの種類等に応じて適宜選択される。酵素としては、物質代謝など生体内での多くの酸化還元反応を触媒する酸化還元酵素が好ましい。
酵素電池の負極に用いる酵素は電子を放出できるものであればよく、糖や有機酸などのオキシダーゼやデヒドロゲナーゼなどが利用できる。中でも、他の酵素に比べ安価で、安定性が高く、人体の血液や尿などの生体試料に含まれるグルコースを燃料にできるグルコースオキシダーゼやグルコースデヒドロゲナーゼが好ましい場合がある。
【0028】
<メディエータ>
酵素の種類によって、電極に直接電子を伝達できる直接電子移動型(DET型)酵素と直接電子を伝達できない酵素が存在する。DET型以外の酵素は、燃料の酸化によって生じた電子を酵素から電極(アノード)に伝達するまたは、アノードから受け取った電子を電極(カソード)から酵素に伝達する役割を担うメディエータと併用することが好ましい。メディエータとしては、電極と電子の授受ができる酸化還元物質であれば特に制限はなく、従来公知のものを使用できる。
メディエータの使用方法としては、電極に担持させる方法や電解液に溶解させて使用する方法等がある。メディエータとしては、テトラチアフルバレン、ハイドロキノンや1,4‐ナフトキノン等のキノン類、フェロセン、フェリシアン化物、オスミウム錯体、及びこれら化合物を修飾したポリマー等が例示できる。分別、廃棄の観点から非金属化合物が好ましい。
【0029】
<酵素電池用正極>
酵素電池用正極では、アノードで発生した電子を受け取り、電極中の還元反応によりこれを消費する。酵素電池用正極の構造としては、例えば、酸素を電子受容体として使用する酸素還元反応の場合では、反応場となる正極触媒の活性点まで電子及びプロトンの伝導パスや酸素の供給パスが確保されていることが効率的な発電を行う上では好ましい。 酵素電池用正極は、触媒に無機化合物を用いるものと酵素を用いるものがある。導電性支持体(カーボンペーパーや導電性カーボン層など)やセパレータ等の基材に正極触媒を含む組成物を直接塗布し乾燥することにより作製する方法や、転写基材などに前記組成物を塗布し乾燥することにより形成された塗膜を前記導電性支持体やセパレータ等に転写する方法等で作製される。また、正極触媒に酵素を用いるものは、酵素電池用負極と同様の方法で組成物作製、塗布を行ってもよい。
組成物の塗布方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷等の一般的な方法を適用できる。
【0030】
<酵素電池正極用触媒>
酵素電池正極で無機化合物を触媒として用いる場合、酸素還元触媒として貴金属触媒、卑金属酸化物触媒、酵素電池用炭素触媒などが挙げられる。コストの面などから炭素触媒が好ましい。
貴金属触媒とは、遷移金属元素のうちルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金、金から選択される元素を一種以上含む触媒である。これら貴金属触媒は単体でも別の元素や化合物に担持されたものでも良い。
卑金属酸化物触媒は、ジルコニウム、タンタル、チタン、ニオブ、バナジウム、鉄、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、クロム、タングステン、およびモリブデンからなる群より選択された少なくとも1種の卑金属元素を含む酸化物を使用することができ、より好ましくはこれら卑金属元素の炭窒化物や、これら遷移金属元素の炭窒酸化物を使用
することができる。
酵素電池用炭素触媒(以下、単に炭素触媒ともいう)とは、炭素元素を基本骨格とした炭素材料からなり、それらの構成単位間に物理的・化学的な相互作用(結合)を有し、異種元素、たとえばN、B、Pなどのヘテロ原子を含み、更に場合によって卑金属元素が含まれ酸素還元活性を有する触媒材料である。ここでいう卑金属元素とは、遷移金属元素のうち貴金属元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金、金)を除く金属元素であり、卑金属元素としては、コバルト、鉄、ニッケル、マンガン、銅、チタン、バナジウム、クロム、亜鉛、およびスズからなる群より選ばれる一種以上を含有することが好ましい。
ヘテロ元素と卑金属元素を含有することは、酸素還元活性を有する上で重要な意味をなす。酵素電池用炭素触媒は、その触媒活性点として、例えば、炭素材料の基本骨格を構成する炭素の六角網面のエッジ部に導入された窒素原子やその近傍の炭素原子、また触媒表面上に卑金属元素を中心に4個の窒素が平面上に並んだ卑金属-N4構造における窒素原子や卑金属原子などが挙げられる。
酵素電池用炭素触媒は、1種または2種以上の、炭素材料と、窒素元素および/または前記卑金属元素を含有する化合物とを混合し、熱処理を行い作製された炭素触媒であって、従来公知のものを使用できる。炭素触媒に用いられる炭素材料は、無機材料由来の炭素粒子および/または有機材料を熱処理して得られる炭素粒子であれば特に限定されない。
また、酵素を触媒として用いる場合、酵素電池の正極では電子を消費できる酵素であれば良く、ビリルビンオキシダーゼ、ラッカーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼなどの還元酵素の一種で、分子状酸素の還元を触媒する酸素還元酵素を用いることが出来る。酸素還元酵素を使用する酵素電池用正極では、電位負荷や副反応における酵素の劣化により無機化合物の触媒より使用耐久性が低いことがある。
【0031】
<セパレータ>
セパレータとしては、負極と正極を電気的に分離できる(短絡の防止)ものであれば、特に限定されず従来公知の材料を用いる事ができる。具体的には、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ガラス繊維、樹脂不織布、ガラス不織布、フェルト、濾紙、和紙等を用いることができる。また、正極と負極が十分な距離を保ち接触による短絡が無い構造を取るならば、セパレータを用いなくてもよい。
【0032】
<イオン伝導体>
本発明におけるイオン伝導体はアノードとカソードの間でイオンの伝導を行うものである。イオン伝導体の形態はイオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではない。イオン伝導体としては、リン酸塩やナトリウム塩など電解質が溶けている電解液や、固体のポリマー電解質などを使用しても良い。
電解質はおむつに予め内蔵して利用しても良いし、尿中に含まれる電解質を利用して、その両方でも良い。
【0033】
<燃料>
本願の酵素電池を動作させるために必要な燃料としては、酵素で分解できる有機物であれば特に限定はされず、D-グルコース等の単糖類、デンプン等の多糖類、有機酸などの有機物であれば幅広く利用できる。
おむつに搭載された酵素電池を動作させる場合では、燃料となる一種以上の有機物を予め酵素電池若しくはおむつに内蔵し、尿の水分中に有機物が溶出、拡散することで酵素電池を動作させたり、尿中に含まれる一種以上の有機物、例えばグルコースなどを利用して酵素電池を動作させたり、燃料となる一種以上の有機物を予め酵素電池若しくはおむつに内蔵し、尿の水分中に溶出した前記有機物と、尿中に含まれる一種以上の有機物を利用して、酵素電池を動作させたりできる。
予め燃料を内蔵する場合では、糖等の固体の燃料が好ましい。またコストや汎用性の観
点からグルコースを利用することが好ましい
【0034】
本発明における酵素電池を搭載したおむつでは前述の様に、尿の供給により酵素電池で発電した電力を用いた電源やセンサー(水分、有機物)として機能できる。使い方としては、従来の抵抗検知型などのセンサー用の電源として本発明の酵素電池を利用したり、電源及びセンサーとして本発明の酵素電池を1種類以上利用したりすることができる。
【0035】
<外部伝達手段を備えるシステム>
本発明における酵素電池を搭載したおむつでは、無線送信機と組み合わせ、センシング情報をワイヤレスで外部に送信するシステムとして使うことができる。
例えば、排尿センサーの場合、予め燃料を内蔵し尿中の水分をセンシング対象とし、また同時に水分を利用し発電し得られた電力で無線送信機を作動したり、予め燃料を内蔵し尿中の水分を利用し発電し得られた電力で無線送信機及び別方式の排尿センサーを作動したり、また、尿糖値センサーの場合、尿中の糖を燃料及びセンシング対象として利用し、得られた電力で無線送信機を作動したり、尿中の糖をセンシング対象として利用し、予め燃料を内蔵し尿中の水分を利用し発電し得られた電力で無線送信機を作動したりできる。<排尿量を演算する手段、有機物の濃度を演算する手段、排尿回数を演算する手段を備えるシステム>
本発明における酵素電池を搭載したおむつでは、発電量、発電量変化は、排尿量、尿中の有機物の濃度、排尿回数などと相関することから、これらの情報から、排尿量、尿中の有機物の濃度、排尿回数を演算により求めるシステムとして使うことができる。演算された情報は、前記、外部伝達手段により、外部に送信することができる。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例および比較例における「部」は「質量部」、%は質量%を表す。
【0037】
<酵素電池回路配線用導電炭素組成物の作製>
鱗状黒鉛CB-150(日本黒鉛社製)を18部、ファーネスブラックVULCAN(登録商標)XC72(CABOT社製)を4.5部、バインダーとしてエマルション型アクリル樹脂分散溶液(トーヨーケム社製:W-168)を3部(固形分50%)、分散剤
としてカルボキシメチルセルロース水溶液50部(固形分2%)、溶剤として水49.5部をミキサーに入れて混合し、更にサンドミルに入れて分散を行い、酵素電池回路配線用導電炭素組成物(1)を得た。
【0038】
<酵素電池用回路配線の作製>
前記酵素電池回路配線用導電炭素組成物(1)を、基材となる定性ろ紙No.1(アドバンテック社製)上にドクターブレードを用いて塗布した後、加熱乾燥し、導電層の厚さが80μmとなるよう調整し、酵素電池用回路配線(1)を得た。
【0039】
<酵素電池用導電性支持体の作製>
酵素電池用回路配線と同様に、前記酵素電池回路配線用導電炭素組成物を、基材となる定性ろ紙No.1(アドバンテック社製)上にドクターブレードを用いて塗布した後、加熱乾燥し、導電層の厚さが80μmとなるよう調整した。長さ9cm幅8cmの長方形に切り出したものを酵素電池用導電性支持体(1)とした。
【0040】
<酵素電池用負極の作製>
導電性炭素材料としてファーネスブラックVULCAN(登録商標)XC72(CABOT社製)の組成物をドクターブレードにより、導電性支持体(1)の片端に、加熱乾燥
後の導電性炭素材料の目付け量が2mg/cm2となるように塗布した後、メディエータ
としてテトラチアフルバレンのメタノール溶液と、負極触媒としてグルコースオキシダーゼ水溶液をそれぞれ滴下し、自然乾燥させ酵素電池用負極(1)を得た。
【0041】
<酵素電池用炭素触媒の製造>
[製造例1]
グラフェンナノプレートレットxGnP-C-750(XGscience社製)と鉄フタロシアニン P-26(山陽色素社製)を、質量比1/0.5(グラフェンナノプレ
ートレット/鉄フタロシアニン)となるようにそれぞれ秤量し、乾式混合を行い、混合物を
得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間熱処理を行い、酵素電池用炭素触媒(1)を得た。
【0042】
<酵素電池用正極の作製>
酵素電池用炭素触媒(1)4.8部、水性液状媒体として水49.2部、更に分散剤としてカルボキシメチルセルロース水溶液40部(固形分2%)をミキサーに入れて混合し、更にサンドミルに入れて分散した。その後、バインダーとしてエマルション型アクリル樹脂分散溶液(トーヨーケム社製:W-168)6部(固形分50%)を加えミキサーで混合し、酵素電池正極用電極組成物(1)を得た。
その後、酵素電池正極用電極組成物(1)を、ドクターブレードにより、導電性支持体(1)およびの片端に、乾燥後の酵素電池用炭素触媒の目付け量が2mg/cm2となる
ように塗布し、待機雰囲気中95℃、60分間乾燥し、酵素電池用正極(1)を得た。
【0043】
<酵素電池の作製>
上記作製した酵素電池用回路配線、同正極、同負極に加えて、セパレータに燃料としてグルコース、イオン伝導体として塩化ナトリウムが担持された、ろ紙を貼り合わせて、酵素電池(1)を作製した。セパレータにグルコースと塩化ナトリウムを担持していない以外は同様の方法で、酵素電池(2)を作製した。
【0044】
[実施例1~6][比較例1]
<酵素電池が搭載されたおむつの作製>
トップシート、吸水材、およびバックシートからなる介護用おむつ(ライフリー4回分吸収用ユニ・チャーム社製)を解体し、おむつ内部の
図1~3に示す位置に、上記で作製した酵素電池(1)をそれぞれに設置した後、元に戻し酵素電池が搭載されたおむつ(1)~(3)を作製した(実施例1~3)
また、酵素電池(1)を酵素電池(2)に変更した以外は酵素電池が搭載されたおむつ(1)~(3)と同様の方法で、酵素電池が搭載されたおむつ(4)~(6)を作製した(実施例4~6)。
また、酵素電池(1)を介護用おむつ(ライフリー4回分吸収用ユニ・チャーム社製)のトップシートの外側に両面テープで貼りつけ、酵素電池が搭載されておむつ(7)を作製した。(比較例1)
【0045】
<無線通信回路の構築>
上記作製した酵素電池について、昇圧コンバーター(LTC3108 ストロベリーリ
ナックス(登録商標)社製)、無線モジュール(送信モジュール IM315TX、受信
モジュール IM315RX インタープラン社製)を、おむつ内の酵素電池から昇圧コ
ンバーターへ接続し、昇圧コンバーターから送信モジュールに接続、更に送信モジュールから発信された無線信号を受信モジュールで受信する無線通信回路を構築した。酵素電池正極(1)および負極(1)から昇圧コンバーターへの接続は、回路配線(1)を貼り合わせて行った。
【0046】
<酵素電池が搭載されたおむつの無線送信の評価>
実施例1~3のおむつのトップシートに、尿中の水分を模擬し、超純水を投入したところ、いずれにおいても受信モジュールで信号の受信が確認された。これは、水の投入によって酵素電池まで到達した水中に、ろ紙内のグルコース及び塩化ナトリウムが溶解、拡散し、それぞれ燃料およびイオン伝導体として機能し酵素電池が発電していることを示している。実施例1および2のおむつであれば150mLの水を一度に投入したところ無線の信号の受信が確認された。一方、実施例3のおむつの場合は600mL以上の投入したところではじめて無線の信号の受信が確認された。これは、実施例3の場合では、吸水材の許容量を超えた段階ではじめて投入した水が酵素電池に到達し、発電が生じたためと考えられる。
実施例4~6に関して、超純水をグルコースが0.01M溶解したpH7の0.1Mリン酸緩衝液に変更した以外は、実施例1~3と同様の方法で、無線モジュールの動作を検証したところ、同様の挙動が見られた。これは尿中のグルコースを燃料として、機能し酵素電池が発電していることを示している。
【0047】
実施例1~6より、尿中の成分(水分や有機物)でおむつ内に搭載された酵素電池が駆動可能であることが明らかとなった。また同時に、電源不要で且つ、廃棄も容易で生体に安全な材料で構成された排尿センサーを搭載されたおむつが実現でき、また、発電した電力で送信機が動作することで、センシング情報をワイヤレス、例えば、受信機や携帯端末などに送信できることが可能になる。
【0048】
<酵素電池が搭載されたおむつの安定駆動の評価>
実施例4~6及び比較例1の酵素電池が搭載されたおむつを用いて、酵素電池の安定駆動の評価を行った。模擬尿としてグルコースが0.01M溶解したpH7の0.1Mリン酸緩衝液を用いた。実施例4~6及び比較例1のおむつを各4個ずつ作製し(lot1~4)、おむつの内側に模擬尿を投入し無線モジュールが動作するかを検証した。結果を表1に示す。
【0049】
【0050】
安定駆動の評価基準を以下に示す。
【0051】
(安定駆動評価)
〇:無線モジュールが動作する
×:無線モジュールが動作しない
【0052】
表1より、実施例4~6のおむつは比較例1に比べ、酵素電池が安定して駆動できることがわかる。これは発電に必要な酵素電池内部への模擬尿の浸透において、酵素電池がトップシートの外側に露出している比較例1とは異なり、実施例4~6では、トップシートの内側にあることで親水的材料からなるトップシートや吸水材から酵素電池へ尿が十分に拡散、浸透されるため、安定した駆動に繋がったと考えられる。
【0053】
[実施例7]
<尿糖に対するセンシング能評価>
酵素電池が搭載されたおむつ(4)の酵素電池用正極を作用極、酵素電池用負極を対極として、ポテンショ・ガルバノスタット(VersaSTAT3、Princeton Applied Research社製)に接続し、糖尿病患者の尿を模擬し、グルコース濃度が0.001~0.01M溶解したpH7の0.1Mリン酸緩衝液を、おむつの内
側に投入し、室温下におけるLSV測定において、グルコース(センシング対象物)濃度に対する発電量の変化を調べた。その結果を
図4に示す。
図4から明らかなように、グルコース濃度の変化に応じて比例的に発電量が変化することが見出されたことから、本発明により作製された酵素電池が搭載されたおむつ(4)では、発電量の履歴を調べることで尿中のグルコース濃度を検知できるセンサーとして使用できることが分かった。
【0054】
[実施例8]
<排尿量センシング>
酵素電池が搭載されたおむつ(1)に150、300、600mLの超純水をそれぞれ投入してから30分経過後、酵素電池用正極を作用極、酵素電池用負極を対極として、ポテンショ・ガルバノスタット(VersaSTAT3、Princeton Applied Research社製)に接続し、室温下におけるLSV測定から発電量を調べた。その結果を
図5に示す。
図5から明らかなように、超純水の投入量に応じて比例的に発電量が減衰することが見出された。これは投入した液量に応じて、燃料として内蔵したグルコースが溶出し、残存したグルコース量に応じた発電量となっていることを示している。このことから酵素電池が搭載されたおむつ(1)では、残存している燃料の量に応じた発電量を調べることで、排尿量をセンシング出来る可能性が示唆された。
【0055】
[実施例9]
<排尿回数センシング>
実施例4の酵素電池が搭載されたおむつを用いて150mLの擬似尿として超純水を投入後、90分及び180分経過後に、更にそれぞれ150mLの超純水を投入し、無線モジュールが動作するかを検証した。その結果を表2に示す。
表2から明らかなように、超純水の投入直後においてのみ無線モジュールの動作が確認された。
これは超純水投入後90分経過した状態に比べ超純水投入直後では、酵素電池内部が十分に濡れており、反応に必要なイオンの拡散が十分に生じ、送信モジュールの動作に必要な発電量を得る事ができたためと考えられる。これにより、液の投入による発電量の変化を検出し、排尿回数をセンシング可能であることが分かった。
【0056】
【0057】
(無線の動作)
〇:無線モジュールが動作する
×:無線モジュールが動作しない
【符号の説明】
【0058】
1・・・酵素電池、2・・・トップシート、3・・・吸水材、4・・・バックシート