(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】バッテリ異常警告方法及びバッテリ異常警告装置
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20231108BHJP
H02J 7/04 20060101ALI20231108BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
H02J7/00 Y
H02J7/04 K
H02J7/00 S
H01M10/48 301
H01M10/48 P
(21)【出願番号】P 2022513710
(86)(22)【出願日】2020-04-06
(86)【国際出願番号】 JP2020015482
(87)【国際公開番号】W WO2021205502
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】三津木 宏明
【審査官】田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-140280(JP,A)
【文献】特開2003-197268(JP,A)
【文献】特開2019-198195(JP,A)
【文献】特開2009-10443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00
H02J 7/04
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたバッテリの異常を検出して前記車両の乗員に警告を行うバッテリ異常警告方法であって、
前記バッテリのバッテリパック内の気圧に基づいて、前記バッテリに圧力異常が発生しているか否かを判定し、
前記バッテリのセル電圧に基づいて、前記バッテリに電圧異常が発生しているか否かを判定し、
前記バッテリの圧力異常と前記バッテリの電圧異常が所定時間内にいずれも発生していると判定された場合に、前記バッテリに異常が発生していると判定し、
前記バッテリに異常が発生していると判定されると、前記車両の乗員に警告を出力
し、
前記バッテリに圧力異常が発生していると判定されてから前記所定時間が経過している間に、前記車両の電源がオフされた場合には、前記車両の電源がオンされた時点から前記所定時間を再設定して開始することを特徴とするバッテリ異常警告方法。
【請求項2】
前記バッテリパック内の気圧の変化量が所定の閾値以上になった状態で所定の確定時間が経過した場合に、前記バッテリに圧力異常が発生していると判定することを特徴とする請求項1に記載のバッテリ異常警告方法。
【請求項3】
前記バッテリに圧力異常が発生していると判定されてから前記所定時間が経過するまでの間、前記圧力異常の判定を継続し、前記所定時間が経過すると、前記圧力異常の判定を解除することを特徴とする請求項2に記載のバッテリ異常警告方法。
【請求項4】
前記バッテリに圧力異常が発生していると判定されてから前記所定時間が経過している間に、前記バッテリに圧力異常が発生していると再度判定された場合には、前記バッテリの圧力異常が再度判定された時点から前記所定時間を再設定して開始することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のバッテリ異常警告方法。
【請求項5】
車両に搭載されたバッテリの異常を検出して前記車両の乗員に警告を行うコントローラを備えたバッテリ異常警告装置であって、
前記コントローラは、
前記バッテリのバッテリパック内の気圧に基づいて、前記バッテリに圧力異常が発生しているか否かを判定し、
前記バッテリのセル電圧に基づいて、前記バッテリに電圧異常が発生しているか否かを判定し、
前記バッテリの圧力異常と前記バッテリの電圧異常が所定時間内にいずれも発生していると判定された場合に、前記バッテリに異常が発生していると判定し、
前記バッテリに異常が発生していると判定されると、前記車両の乗員に警告を出力
し、
前記バッテリに圧力異常が発生していると判定されてから前記所定時間が経過している間に、前記車両の電源がオフされた場合には、前記車両の電源がオンされた時点から前記所定時間を再設定して開始することを特徴とするバッテリ異常警告装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されたバッテリの異常を検出して車両の乗員に警告を行うバッテリ異常警告方法及びバッテリ異常警告装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来では、内部の気圧が上昇する異常が生じた蓄電池の使用を止めるための保護装置として、特許文献1が開示されている。特許文献1に開示された保護装置では、筐体の内部を密閉するように筐体と蓋体を結合し、蓄電池内の圧力が上昇すると、蓋体の撓みによって筐体と蓋体との導通を遮断するように構成されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の保護装置のように、蓄電池内の圧力のみに基づいて異常を判断していると、一時的な要因や重要度の低い異常と、重要度の高い異常とを区別できないので、重要度の高い異常を正確に検出できないという問題点があった。例えば、車両に搭載されたバッテリでは、車両が走行している地域の標高やバッテリクーラーの冷却風の強弱によってもバッテリの内部の気圧は変化する。そのため、バッテリの内部の気圧のみに基づいてバッテリの異常を判断していると、一時的な要因や重要度の低い異常によって気圧が上昇しているのか、重要度の高い異常によって気圧が上昇しているのか区別することができなかった。その結果、熱暴走のような重要度の高い異常を正確に検出することができない場合があった。
【0005】
そこで、本発明は上記実情に鑑みて提案されたものであり、一時的な要因や重要度の低い異常と、重要度の高い異常とを区別して、重要度の高い異常を正確に検出することのできるバッテリ異常警告方法及びバッテリ異常警告装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明の一態様に係るバッテリ異常警告方法及びその装置は、バッテリパック内の気圧に基づいてバッテリに圧力異常が発生しているか否かを判定し、バッテリのセル電圧に基づいてバッテリに電圧異常が発生しているか否かを判定する。そして、バッテリの圧力異常とバッテリの電圧異常が所定時間内にいずれも発生していると判定された場合にバッテリに異常が発生していると判定し、バッテリに異常が発生していると判定されると、車両の乗員に警告を出力する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、一時的な要因や重要度の低い異常と、重要度の高い異常とを区別して、重要度の高い異常を正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るバッテリ異常警告システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係るバッテリ異常警告装置によるバッテリの異常警告方法を説明するためのタイミングチャートである。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係るバッテリ異常警告装置によるバッテリの異常警告方法を説明するためのタイミングチャートである。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係るバッテリ異常警告装置によるバッテリの異常警告方法を説明するためのタイミングチャートである。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態に係るバッテリ異常警告装置によるバッテリの異常警告処理の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を適用した一実施形態について図面を参照して説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0010】
[バッテリ異常警告システムの構成]
図1は、本実施形態に係るバッテリ異常警告システムの構成を示すブロック図である。
図1に示すように、本実施形態に係るバッテリ異常警告システム1は、車両に搭載されたバッテリパック3と、車両制御モジュールに実装されたバッテリ異常警告装置5と、車両のメータパネルに設けられた表示部7とを備えている。
【0011】
バッテリ異常警告システム1は、車両に搭載されており、バッテリパック3に発生した異常を検出して車両の乗員に警告を行うシステムである。バッテリ異常警告システム1では、バッテリパック3に発生した異常のうち、一時的な要因や重要度の低い異常と重要度の高い異常とを区別し、重要度の高い異常を検出できるようにしている。特に、バッテリ異常警告システム1は、重要度の高い異常として熱暴走を検出し、熱連鎖に至る前に乗員に警告を行う機能を有する。熱暴走は、バッテリパック3のリチウムイオン電池を構成するセルがショートすることによって発熱、焼損する異常であり、熱連鎖は、熱暴走したセルの熱が周囲のセルに伝わって連鎖していく異常である。尚、本実施形態では、重要度の高い異常として熱暴走の場合を一例として説明するが、熱暴走以外の異常であってもよい。
【0012】
バッテリパック3は、車両に搭載されており、リチウムイオン電池を備えた高電圧バッテリパックである。バッテリパック3は、バッテリコントローラ31と、圧力センサ33a、33bを備えており、この他にバッテリクーラーやジャンクションボックスを備えている。バッテリパック3は密閉されているが、ブリーザー(通気口)を備えているので、内部の気圧は緩やかにコントロールされている。
【0013】
バッテリコントローラ31は、リチウムイオン電池の状態を監視しており、リチウムイオン電池の充電状態や入出力電圧、温度などを検出して監視している。特に、バッテリコントローラ31は、リチウムイオン電池を構成するセルの最低電圧、平均電圧、最高電圧などを検出してCAN(Controller Area Network)通信によって車両制御モジュールに出力している。
【0014】
圧力センサ33a、33bは、バッテリパック3内の気圧を検出してCAN通信またはワイヤーハーネスによって車両制御モジュールに出力している。圧力センサは2つ設置されており、いずれかの圧力センサが故障した場合でも継続してバッテリパック3内の気圧を検出できるようにしている。また、車両制御モジュールでは、2つの圧力センサによって検出された値を比較することによって、圧力センサの故障を診断している。
【0015】
バッテリ異常警告装置5は、車両制御モジュール(Vehicle Control Module)に実装され、バッテリパック3の異常を検出して車両の乗員に警告を行う装置である。
図1に示すように、バッテリ異常警告装置5は、電圧異常判定部51と、圧力異常判定部53と、バッテリ異常判定部55と、走行状態判定部57と、警告部59とを備えている。バッテリ異常警告装置5は、バッテリコントローラ31からリチウムイオン電池の状態を示す情報を取得しており、特にリチウムイオン電池を構成するセルの最低電圧をCAN通信によって取得している。また、バッテリ異常警告装置5は、圧力センサ33a、33bからバッテリパック3内の気圧をCAN通信またはワイヤーハーネスによって取得している。そして、バッテリ異常警告装置5は、バッテリパック3に異常が発生していると判定すると、車両の乗員に警告を出力する。このとき、バッテリ異常警告装置5は、表示部7に警告メッセージを表示させるとともに、車室内に設置されたスピーカから警告音や警告メッセージの音声を出力する。
【0016】
電圧異常判定部51は、バッテリコントローラ31からリチウムイオン電池を構成するセルの最低電圧を取得し、リチウムイオン電池のセル電圧に基づいて、バッテリパック3に電圧異常が発生しているか否かを判定する。具体的に、電圧異常判定部51は、セルの最低電圧が所定の電圧判定閾値以下となった場合に、バッテリパック3に電圧異常が発生していると判定する。尚、電圧判定閾値は、リチウムイオン電池に異常が発生していると考えられる電圧を実験やシミュレーションによって検証して、設定されている。
【0017】
尚、バッテリパック3で熱暴走が発生している場合には、リチウムイオン電池がショートしているので、セル電圧が低下すると再び上昇することはない。そのため、電圧異常の判定が一度行われると、その判定は継続することになる。一方、熱暴走以外の異常が発生している場合には、セル電圧が低下しても再び上昇する場合があり、その場合には電圧異常の判定は解除される。ただし、電圧異常の判定を解除する場合には、セル電圧が電圧判定閾値を超えればよいのではなく、電圧判定閾値よりも一定値だけ高い電圧を超えなければ、電圧異常の判定は解除されない。また、CAN通信に異常があり、データを正常に取得できない場合には、電圧異常判定部51は、念のため電圧異常が発生していると判定する。
【0018】
圧力異常判定部53は、圧力センサ33a、33bからバッテリパック3内の気圧を取得し、バッテリパック3内の気圧に基づいて、バッテリパック3に圧力異常が発生しているか否かを判定する。具体的に、圧力異常判定部53は、バッテリパック3内の気圧の変化量が所定の圧力判定閾値以上になった状態で所定の確定時間が経過した場合に、バッテリパック3に圧力異常が発生していると判定する。
【0019】
ここで、圧力異常判定部53は、バッテリパック3内の気圧の絶対値ではなく、気圧の変化量を用いて圧力異常を判定している。バッテリパック3内の気圧は、車両が標高の高い地域を走行している場合には低くなるので、気圧の絶対値を用いて圧力異常を判定していると誤判定する場合がある。そこで、圧力異常判定部53は、一定時間前の気圧の値からの変化量を算出し、この気圧の変化量を用いて圧力異常を判定している。これにより、車両が走行している地域の標高が変化してバッテリパック3内の気圧が変化したとしても、正確に圧力異常を判定することができる。
【0020】
さらに、圧力異常判定部53は、気圧の変化量が圧力判定閾値以上になった状態で所定の確定時間が経過した場合に、バッテリパック3に圧力異常が発生していると判定する。確定時間は、圧力異常が発生した場合に気圧の上昇が継続すると考えられる時間に設定されている。バッテリパック3で圧力異常が発生して気圧が上昇しても、バッテリパック3はブリーザーを備えているので、徐々に気圧は低下していく。そこで、圧力異常が発生した場合に、圧力判定閾値以上の気圧の変化量が継続する時間を、実験やシミュレーションによって検証して確定時間を設定する。尚、圧力判定閾値についても、圧力異常が発生した場合の気圧の変化量を実験やシミュレーションによって検証して設定されている。
【0021】
こうして圧力異常が判定されると、圧力異常判定部53は、バッテリパック3に圧力異常が発生していると判定されてから所定時間が経過するまでの間、圧力異常の判定を継続し、所定時間が経過すると、圧力異常の判定を解除する。圧力異常判定部53は、圧力異常の判定を継続する継続時間を設定し、この継続時間の間は、バッテリパック3の気圧が低下しても圧力異常の判定を継続する。そして、継続時間が経過すると、圧力異常の判定を解除する。
【0022】
バッテリパック3に発生する異常のうち熱暴走が発生した場合には、圧力異常だけではなく電圧異常も発生する。そこで、熱暴走が発生した場合に、圧力異常の発生からどの程度の時間内に電圧異常が発生するかを実験やシミュレーションによって検証して継続時間を設定する。そして、継続時間の間に電圧異常が判定された場合には、バッテリ異常判定部55によって、バッテリパック3に熱暴走が発生していると判定される。
【0023】
バッテリ異常判定部55は、バッテリパック3の圧力異常と、バッテリパック3の電圧異常が所定時間内にいずれも発生していると判定された場合に、バッテリパック3に異常が発生していると判定する。すなわち、バッテリ異常判定部55は、バッテリパック3に圧力異常が発生していると判定され、その継続時間内に電圧異常も発生していると判定された場合に、バッテリパック3に異常が発生していると判定する。また、バッテリ異常判定部55は、バッテリパック3に電圧異常が発生していると判定されているときに圧力異常も発生していると判定された場合に、バッテリパック3に異常が発生していると判定する。
【0024】
走行状態判定部57は、車両制御モジュール等からの情報に基づいて、車両の走行状態を判定する。具体的に、走行状態判定部57は、車両が走行中であるのか、停車しているのかを判断し、その結果を警告部59に出力する。
【0025】
警告部59は、バッテリ異常判定部55によってバッテリパック3に異常が発生していると判定されると、車両の乗員に警告を出力する。具体的に、警告部59は、表示部7に警告メッセージを出力して表示させるとともに、車室内に設置されたスピーカに警告音や警告メッセージの音声を出力する。このとき、警告部59は、走行状態判定部57から取得した車両の走行状態に応じて警告メッセージを変化させる。例えば、
図1に示すように、車両が走行中である場合には、「車両を安全に停車して車外の安全な場所に退避して下さい」という警告メッセージを出力し、車両が停車中である場合には、「車外の安全な場所に退避して下さい」という警告メッセージを出力する。
【0026】
表示部7は、メータパネルに設けられたディスプレイであり、
図1に示すように警告メッセージを表示する。この他に、予めメータパネルに警告灯を設けておき、その警告灯を点灯させてもよい。警告メッセージを表示するときには、同時にスピーカから警告音や警告メッセージの音声を出力する。
【0027】
尚、バッテリ異常警告装置5はコントローラを備え、コントローラはマイクロコンピュータ、マイクロプロセッサ、CPU(Central Processing Unit)を含む汎用の電子回路とメモリ等の周辺機器から構成されている。そして、コントローラは、バッテリパック3の異常を検出して警告を出力する機能を有する。コントローラの各機能は、1または複数の処理回路によって実装することができる。処理回路は、例えば電気回路を含む処理装置等のプログラムされた処理装置を含み、また実施形態に記載された機能を実行するようにアレンジされた特定用途向け集積回路(ASIC)や従来型の回路部品のような装置も含んでいる。
【0028】
[バッテリの異常警告方法]
次に、本実施形態に係るバッテリ異常警告装置5によるバッテリの異常警告方法を説明する。
図2は、本実施形態に係るバッテリ異常警告装置5によるバッテリの異常警告方法を説明するためのタイミングチャートである。
【0029】
図2に示すように、時刻t1において、バッテリパック3内の気圧が上昇し、気圧の変化量が圧力判定閾値以上となる。そして、気圧の変化量が圧力判定閾値以上になった状態で、確定時間T1が経過して時刻t2になると、圧力異常判定部53は、バッテリパック3に圧力異常が発生していると判定して、圧力異常フラグを設定する。
【0030】
時刻t2において、圧力異常フラグが設定されると、圧力異常判定部53は、継続時間T2のカウントを開始し、継続時間T2の間は、バッテリパック3内の気圧が低下しても圧力異常の判定を継続する。しかし、継続時間T2の間に、電圧異常が判定されないので、時刻t1における圧力異常は、バッテリクーラーの冷媒異常のような熱暴走以外の異常であると考えられる。
【0031】
その後、電圧異常が判定されることなく、時刻t3になってバッテリパック3内の気圧が再度上昇し、気圧の変化量が圧力判定閾値以上となる。そして、気圧の変化量が圧力判定閾値以上になった状態で、確定時間T1が経過して時刻t4になると、圧力異常判定部53はバッテリパック3に圧力異常が発生していると再度判定し、圧力異常が再度判定された時刻t4から継続時間T2を再設定して開始する。
【0032】
この後、時刻t5において、最低セル電圧が電圧判定閾値以下となり、電圧異常判定部51は、バッテリパック3に電圧異常が発生していると判定して、電圧異常フラグを設定する。これと同時に、バッテリ異常判定部55は、継続時間T2内において、圧力異常と電圧異常がいずれも発生していると判定されたので、バッテリパック3に熱暴走の異常が発生していると判定して異常検出フラグを設定する。この後、警告部59が警告を出力する。
【0033】
このように、バッテリ異常警告装置5は、圧力異常と電圧異常が所定時間内にいずれも発生していると判定された場合に、バッテリパック3に異常が発生していると判定するので、熱暴走のような重要度の高い異常の発生を確実に検出することができる。例えば、
図2の時刻t1における圧力異常のように、圧力異常のみでバッテリの異常を判定すると、バッテリクーラーの冷媒異常のような重要度の低い異常を検出してしまう可能性がある。しかし、圧力異常と電圧異常の両方を用いてバッテリの異常を判定することによって、熱暴走のような重要度の高い異常の発生を確実に検出することができる。
【0034】
また、バッテリ異常警告装置5は、圧力異常の発生を再度判定した場合には、圧力異常が再度判定された時点から継続時間T2を再設定して開始する。これにより、複数の異常が同時に発生している場合でも、重要度の高い異常を確実に検出することができる。例えば、
図2の時刻t1における圧力異常のように熱暴走以外の圧力異常が発生している場合では、時刻t2に開始した継続時間T2は電圧異常が判定される時刻t5にはすでに終了しているので、熱暴走を検出することはできない。しかし、バッテリ異常警告装置5は、時刻t4に継続時間T2を再設定して開始するので、時刻t5の電圧異常の判定によって熱暴走のような重要度の高い異常を検出することができる。
【0035】
次に、
図3のタイミングチャートに基づいて、圧力異常が発生する前に電圧異常が発生する場合のバッテリの異常警告方法を説明する。
図3に示すように、時刻t1において、最低セル電圧が電圧判定閾値以下となり、電圧異常判定部51は、バッテリパック3に電圧異常が発生していると判定して、電圧異常フラグを設定する。この後、バッテリパック3で熱暴走が発生している場合には、セル電圧が再び上昇することはないので、電圧異常の判定は継続する。
【0036】
そして、時刻t2において、バッテリパック3内の気圧が上昇し、気圧の変化量が圧力判定閾値以上となる。そして、気圧の変化量が圧力判定閾値以上になった状態で、確定時間T1が経過して時刻t3になると、圧力異常判定部53は、バッテリパック3に圧力異常が発生していると判定して、圧力異常フラグを設定する。これと同時に、バッテリ異常判定部55は、圧力異常と電圧異常がいずれも発生していると判定されたので、バッテリパック3に熱暴走の異常が発生していると判定して異常検出フラグを設定する。この後、警告部59が警告を出力する。
【0037】
このように、バッテリ異常警告装置5は、圧力異常と電圧異常がいずれも発生していると判定された場合に、バッテリパック3に異常が発生していると判定するので、熱暴走のような重要度の高い異常を確実に検出することができる。
【0038】
次に、
図4のタイミングチャートに基づいて、継続時間が経過している間に車両の電源がオフされた場合のバッテリの異常警告方法を説明する。尚、ここでは車両の電源がオフされる場合について説明するが、バッテリ異常警告装置5の電源がオフされる場合であってもよい。
図4に示すように、時刻t1において、バッテリパック3内の気圧が上昇し、気圧の変化量が圧力判定閾値以上となる。そして、気圧の変化量が圧力判定閾値以上になった状態で、確定時間T1が経過して時刻t2になると、圧力異常判定部53は、バッテリパック3に圧力異常が発生していると判定して、圧力異常フラグを設定する。
【0039】
時刻t2において、圧力異常フラグが設定されると、圧力異常判定部53は、継続時間T2のカウントを開始し、継続時間T2の間は、バッテリパック3内の気圧が低下しても圧力異常の判定を継続する。
【0040】
その後、時刻t3において車両の電源がオフされると、圧力異常判定部53は、圧力異常フラグをメモリにバックアップする。そして、時刻t4に車両の電源がオンされると、バックアップされていた圧力異常フラグを再設定し、車両の電源がオンされた時刻t4から継続時間T2を再設定してカウントを開始する。
【0041】
この後、時刻t5において、最低セル電圧が電圧判定閾値以下となり、電圧異常判定部51は、バッテリパック3に電圧異常が発生していると判定して、電圧異常フラグを設定する。これと同時に、バッテリ異常判定部55は、継続時間T2内において、圧力異常と電圧異常がいずれも発生していると判定されたので、バッテリパック3に熱暴走の異常が発生していると判定して異常検出フラグを設定する。この後、警告部59が警告を出力する。
【0042】
このように、バッテリ異常警告装置5は、車両の電源がオフされた場合には、圧力異常フラグをバックアップして車両の電源がオンされた時点から継続時間T2を再設定して開始する。これにより、車両の電源がオフされても圧力異常フラグがクリアされないので、継続時間T2が中断してしまうことを防止でき、重要度の高い異常を確実に検出することができる。例えば、
図4の時刻t2に開始した継続時間T2は、電圧異常が判定される時刻t5にはすでに終了しているので、熱暴走を検出することはできない。しかし、バッテリ異常警告装置5は、車両の電源がオンされた時刻t4に継続時間T2を再設定して開始するので、時刻t5の電圧異常の判定によって熱暴走のような重要度の高い異常を検出することができる。
【0043】
[バッテリの異常警告処理]
次に、本実施形態に係るバッテリ異常警告装置5によるバッテリの異常警告処理を説明する。
図5は、本実施形態に係るバッテリ異常警告装置5によるバッテリの異常警告処理の処理手順を示すフローチャートである。バッテリの異常警告処理は、車両の電源がオンされると開始する。
【0044】
図5に示すように、ステップS101において、バッテリ異常警告装置5は、バッテリパック3の異常を診断するための診断許可条件を満たしているか否かを判定する。診断許可条件を満たしていない場合には、バッテリパック3の異常を正常に診断することができないので、
図5に示すバッテリの異常警告処理は実行されない。診断許可条件は、バッテリ異常警告装置5を構成するコントローラが作動するのに十分な電源電圧が供給されていること、バッテリ異常警告装置5を構成するCPUが正常であること、メンテナンス機能を使用していないこと、車両のスタータースイッチがオフであること等である。これらの診断許可条件を満たしている場合にはステップS103へ進み、満たしていない場合には継続して診断許可条件を満たしているか否かを判定する。
【0045】
ステップS103において、バッテリ異常警告装置5は、バッテリの異常警告処理を実行するために必要なデータを取得する。例えば、電圧異常判定部51は、バッテリコントローラ31から最低セル電圧のデータを取得し、圧力異常判定部53は圧力センサ33a、33bからバッテリパック3の気圧のデータを取得する。
【0046】
ステップS105において、圧力異常判定部53は、一定時間前の気圧の値からの変化量を、バッテリパック3の気圧の変化量として算出する。ただし、圧力異常判定部53は、圧力センサ33a、33bが故障していないこと、車両制御モジュールが起動直後や故障からの復帰直後ではないこと等の条件を満たしている場合に気圧の変化量を算出する。
【0047】
ステップS107において、圧力異常判定部53は、ステップS105で算出した気圧の変化量が圧力判定閾値以上であるか否かを判定する。気圧の変化量が圧力判定閾値以上である場合にはステップS115へ進み、気圧の変化量が圧力判定閾値未満である場合にはステップS109へ進む。
【0048】
ステップS109において、電圧異常判定部51は、バッテリパック3の最低セル電圧が電圧判定閾値以下であるか否かを判定する。最低セル電圧が電圧判定閾値以下である場合にはステップS111へ進み、最低セル電圧が電圧判定閾値より大きい場合にはステップS113へ進む。
【0049】
ステップS111において、電圧異常判定部51は、バッテリパック3に電圧異常が発生していると判定してステップS107へ戻り、継続してバッテリパック3に圧力異常が発生しているか否かを判定する。
【0050】
ステップS113において、バッテリ異常警告装置5は、車両の電源がオフされたか否かを判定し、オフされている場合には本実施形態に係るバッテリの異常警告処理を終了する。一方、オフされていない場合にはステップS101へ戻って、継続してバッテリの異常警告処理を実行する。
【0051】
一方、ステップS107において気圧の変化量が圧力判定閾値以上であると判定された場合には、ステップS115に進み、圧力異常判定部53は、気圧の変化量が圧力判定閾値以上になった状態で確定時間が経過したか否かを判定する。確定時間が経過する前に気圧の変化量が圧力判定閾値未満に低下した場合にはステップS113へ進み、気圧の変化量が圧力判定閾値以上になった状態で確定時間が経過した場合にはステップS117へ進む。
【0052】
ステップS117において、圧力異常判定部53は、バッテリパック3に圧力異常が発生していると判定し、同時にステップS119において、継続時間のカウントを開始する。
【0053】
ステップS121において、電圧異常判定部51は、バッテリパック3の最低セル電圧が電圧判定閾値以下であるか否かを判定する。最低セル電圧が電圧判定閾値以下である場合にはステップS127へ進み、最低セル電圧が電圧判定閾値より大きい場合にはステップS123へ進む。
【0054】
ステップS123において、圧力異常判定部53は、継続時間が経過したか否かを判定する。継続時間が経過した場合には圧力異常の判定を解除してステップS113へ進み、継続時間が経過していない場合にはステップS125へ進む。
【0055】
ステップS125において、圧力異常判定部53は、継続時間中に圧力異常の判定が行われたか、あるいは継続時間中に車両の電源がオフされた後にオンへ切り替えられたか否かを判定する。継続時間中に圧力異常の判定か、車両の電源の切り替えのいずれかが行われた場合には、ステップS119へ戻って継続時間を再設定して開始する。一方、継続時間中に圧力異常の判定と車両の電源の切り替えのいずれも行われなかった場合には、ステップS121へ戻って電圧異常の判定を継続して行う。
【0056】
ステップS121において、最低セル電圧が電圧判定閾値以下である場合にはステップS127へ進む。ステップS127において、電圧異常判定部51がバッテリパック3に電圧異常が発生していると判定するとともに、バッテリ異常判定部55がバッテリパック3に熱暴走のような重要度の高い異常が発生していると判定する。
【0057】
ステップS129において、警告部59は、表示部7やスピーカに警告を出力して、本実施形態に係るバッテリの異常警告処理を終了する。
【0058】
[実施形態の効果]
以上、詳細に説明したように、本実施形態に係るバッテリ異常警告装置5では、バッテリパック内の気圧に基づいてバッテリに圧力異常が発生しているか否かを判定し、バッテリのセル電圧に基づいてバッテリに電圧異常が発生しているか否かを判定する。そして、バッテリの圧力異常とバッテリの電圧異常が所定時間内にいずれも発生していると判定された場合にバッテリに異常が発生していると判定し、車両の乗員に警告を出力する。これにより、一時的な要因や重要度の低い異常と、重要度の高い異常とを区別して、重要度の高い異常を正確に検出することができ、車両の乗員にバッテリの異常を確実に警告することができる。
【0059】
また、本実施形態に係るバッテリ異常警告装置5では、バッテリパック内の気圧の変化量が所定の閾値以上になった状態で所定の確定時間が経過した場合に、バッテリに圧力異常が発生していると判定する。これにより、バッテリを搭載した車両が走行する地域の標高が変化してバッテリパック内の気圧が変化したとしても、正確に圧力異常を判定することができる。
【0060】
さらに、本実施形態に係るバッテリ異常警告装置5では、バッテリに圧力異常が発生していると判定されてから所定時間が経過するまでの間、圧力異常の判定を継続し、所定時間が経過すると、圧力異常の判定を解除する。これにより、バッテリがブリーザーを備えていることにより圧力異常で気圧が上昇しても緩やかに低下してしまう場合でも、バッテリの異常を正確に検出することができる。
【0061】
また、本実施形態に係るバッテリ異常警告装置5では、バッテリに圧力異常が発生していると判定されてから所定時間が経過している間に、圧力異常が再度判定された場合には、バッテリの圧力異常が再度判定された時点から所定時間を再設定して開始する。これにより、複数の圧力異常が同時に発生している場合でも、重要度の高い異常を確実に検出することができる。
【0062】
さらに、本実施形態に係るバッテリ異常警告装置5では、バッテリに圧力異常が発生していると判定されてから所定時間が経過している間に、車両の電源がオフされた場合には、車両の電源がオンされた時点から所定時間を再設定して開始する。これにより、所定時間が経過している間に車両の電源がオフされた場合でも、重要度の高い異常を確実に検出することができる。
【0063】
なお、上述の実施形態は本発明の一例である。このため、本発明は、上述の実施形態に限定されることはなく、この実施形態以外の形態であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計などに応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0064】
1 バッテリ異常警告システム
3 バッテリパック
5 バッテリ異常警告装置
7 表示部
31 バッテリコントローラ
33a、33b 圧力センサ
51 電圧異常判定部
53 圧力異常判定部
55 バッテリ異常判定部
57 走行状態判定部
59 警告部