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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20231108BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20231108BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20231108BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20231108BHJP
   H01M 50/105 20210101ALI20231108BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/13
H01M10/0569
H01M10/0567
H01M50/105
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022532295
(86)(22)【出願日】2021-03-10
(86)【国際出願番号】 JP2021009519
(87)【国際公開番号】W WO2021256015
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2020103184
(32)【優先日】2020-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 智美
(72)【発明者】
【氏名】宮本 昌泰
(72)【発明者】
【氏名】ククレジヤ ラマン
【審査官】長谷川 真一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-250535(JP,A)
【文献】特開2014-232704(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105895958(CN,A)
【文献】国際公開第2017/047019(WO,A1)
【文献】特表2022-528056(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極および負極と共に電解液を備え、
前記負極は、負極活物質層を被覆する被膜を含み、
前記電解液は、鎖状カルボン酸エステルを含み、
誘導結合プラズマ発光分光分析法を用いて前記被膜を分析した際、
前記被膜中におけるホウ素の含有量は、10μmol/m2 以上30μmol/m2 以下であり、
前記被膜中における硫黄の含有量は、20μmol/m2 以上70μmol/m2 以下であり、
前記ホウ素の含有量に対する前記硫黄の含有量の比は、1.0以上3.0以下である、
二次電池。
【請求項2】
前記電解液は、さらに、硫黄含有化合物を含む、
請求項1記載の二次電池。
【請求項3】
前記硫黄含有化合物は、環状スルホン酸エステル、鎖状スルホン酸エステル、環状ジスルホン酸無水物および環状スルホン酸カルボン酸無水物のうちの少なくとも1種を含む、
請求項2記載の二次電池。
【請求項4】
さらに、前記正極、前記負極および前記電解液を収納する可撓性の外装部材を備えた、
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項5】
リチウムイオン二次電池である、
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機などの多様な電子機器が普及しているため、小型かつ軽量であると共に高エネルギー密度を得ることが可能である電源として、二次電池の開発が進められている。この二次電池は、正極および負極と共に電解液を備えており、その二次電池の構成に関しては、様々な検討がなされている。
【0003】
具体的には、優れたサイクル特性を得るために、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy(XPS))を用いた負極の表面の分析結果に関して、2種類のピーク強度の比が規定されている(例えば、特許文献1参照。)。優れた保存寿命を得るために、XPSを用いた負極の表面の分析結果に関して、硫黄濃度に基づいた比が規定されている(例えば、特許文献2参照。)。サイクル特性を向上させるために、硫酸塩などを含む被膜が負極活物質層の上に設けられている(例えば、特許文献3参照。)。長期保存時において電池特性の経時変化を抑制するために、ホウ素-酸素結合を含む化合物が電解液中に含有されている(例えば、特許文献4参照。)。
【0004】
加熱などにより改質された電極(表面改質電極)を製造するために、硫酸エステル化合物などを含む電極表面改質用塗布剤が電極の表面に塗布されている(例えば、特許文献5参照。)。負極の抵抗が上昇することを抑制するために、ホウ素およびシュウ酸イオンを含む被膜(オキサラトボレート型化合物に由来する被膜)が負極の表面に設けられている(例えば、特許文献6参照。)。初期の負極活物質層の抵抗上昇を抑制しながらリチウムの析出を抑制するために、電解液がリチウムビスオキサレートボレートを含んでいると共に、そのリチウムビスオキサレートボレートの分解物を含む被膜が負極活物質粒子の表面に設けられている(例えば、特許文献7参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2014/069460号パンフレット
【文献】国際公開第2005/029613号パンフレット
【文献】特開2009-026691号公報
【文献】特開2008-027782号公報
【文献】特開2016-201244号公報
【文献】特開2014-011065号公報
【文献】特開2016-100051号公報
【発明の概要】
【0006】
二次電池の性能を改善するために様々な検討がなされているが、膨れ特性は未だ十分でないため、改善の余地がある。
【0007】
本技術はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、優れた膨れ特性を得ることが可能である二次電池を提供することにある。
【0008】
本技術の一実施形態の二次電池は、正極および負極と共に電解液を備え、その負極が負極活物質層を被覆する被膜を含み、その電解液が鎖状カルボン酸エステルを含むものである。誘導結合プラズマ発光分光分析法を用いて被膜を分析した際、その被膜中におけるホウ素の含有量が10μmol/m2 以上30μmol/m2 以下であり、その被膜中における硫黄の含有量が20μmol/m2 以上70μmol/m2 以下であり、そのホウ素の含有量に対する硫黄の含有量の比が1.0以上3.0以下である。
【0009】
ここで、被膜中における硫黄の含有量および被膜中におけるホウ素の含有量のそれぞれは、上記したように、誘導結合プラズマ発光分光分析法を用いた被膜の分析により測定される。この誘導結合プラズマ発光分光分析法を用いた被膜の分析手順の詳細に関しては、後述する。
【0010】
本技術の一実施形態の二次電池によれば、負極が被膜を含み、電解液が鎖状カルボン酸エステルを含み、誘導結合プラズマ発光分光分析法を用いた被膜の分析結果に関して上記した3つの条件が同時に満たされているので、優れた膨れ特性を得ることができる。
【0011】
なお、本技術の効果は、必ずしもここで説明された効果に限定されるわけではなく、後述する本技術に関連する一連の効果のうちのいずれの効果でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本技術の一実施形態における二次電池の構成を表す斜視図である。
図2図1に示した電池素子の構成を表す断面図である。
図3】二次電池の適用例の構成を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本技術の一実施形態に関して、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。

1.二次電池
1-1.構成
1-2.物性
1-3.動作
1-4.製造方法
1-5.作用および効果
2.変形例
3.二次電池の用途
【0014】
<1.二次電池>
まず、本技術の一実施形態の二次電池に関して説明する。
【0015】
ここで説明する二次電池は、電極反応物質の吸蔵および放出を利用して電池容量が得られる二次電池であり、正極および負極と共に、液状の電解質である電解液を備えている。この二次電池では、充電途中において負極の表面に電極反応物質が析出することを防止するために、その負極の充電容量が正極の放電容量よりも大きくなっている。すなわち、負極の単位面積当たりの電気化学容量は、正極の単位面積当たりの電気化学容量よりも大きくなるように設定されている。
【0016】
電極反応物質の種類は、特に限定されないが、具体的には、アルカリ金属およびアルカリ土類金属などの軽金属である。アルカリ金属は、リチウム、ナトリウムおよびカリウムなどであると共に、アルカリ土類金属は、ベリリウム、マグネシウムおよびカルシウムなどである。
【0017】
以下では、電極反応物質がリチウムである場合を例に挙げる。リチウムの吸蔵および放出を利用して電池容量が得られる二次電池は、いわゆるリチウムイオン二次電池である。このリチウムイオン二次電池では、リチウムがイオン状態で吸蔵および放出される。
【0018】
<1-1.構成>
図1は、二次電池の斜視構成を表していると共に、図2は、図1に示した電池素子20の断面構成を表している。ただし、図1では、外装フィルム10と電池素子20とが互いに分離された状態を示していると共に、図2では、電池素子20の一部だけを示している。
【0019】
この二次電池は、図1および図2に示したように、外装フィルム10と、電池素子20と、正極リード31および負極リード32と、封止フィルム41,42とを備えている。ここで説明する二次電池は、電池素子20を収納するための外装部材として、可撓性(または柔軟性)を有する外装フィルム10を用いたラミネートフィルム型の二次電池である。
【0020】
[外装フィルム]
外装フィルム10は、図1に示したように、電池素子20、すなわち後述する正極21、負極22および電解液などを収納する可撓性の外装部材であり、袋状の構造を有している。
【0021】
ここでは、外装フィルム10は、1枚のフィルム状の部材であり、折り畳み方向Rに折り畳み可能である。この外装フィルム10には、電池素子20を収容するための窪み部10U(いわゆる深絞り部)が設けられている。
【0022】
外装フィルム10の構成(材質および層数など)は、特に限定されないため、単層フィルムでもよいし、多層フィルムでもよい。
【0023】
ここでは、外装フィルム10は、融着層、金属層および表面保護層が内側からこの順に積層された3層のラミネートフィルムである。融着層は、ポリプロピレンなどの高分子化合物を含んでいる。金属層は、アルミニウムなどの金属材料を含んでいる。表面保護層は、ナイロンなどの高分子化合物を含んでいる。外装フィルム10が折り畳まれた状態では、互いに対向する外装フィルム10(融着層)のうちの外周縁部同士が互いに融着されている。
【0024】
[封止フィルム]
封止フィルム41,42のそれぞれは、図1に示したように、外装フィルム10の内部に外気などが侵入することを防止するための封止部材である。封止フィルム41は、外装フィルム10と正極リード31との間に挿入されていると共に、封止フィルム42は、外装フィルム10と負極リード32との間に挿入されている。ただし、封止フィルム41,42のうちの一方または双方は、省略されてもよい。
【0025】
具体的には、封止フィルム41は、正極リード31に対して密着性を有するポリオレフィンなどの高分子化合物を含んでおり、そのポリオレフィンは、ポリプロピレンなどである。
【0026】
封止フィルム42の構成は、負極リード32に対して密着性を有することを除いて、封止フィルム41の構成と同様である。すなわち、封止フィルム42は、負極リード32に対して密着性を有するポリオレフィンなどの高分子化合物を含んでいる。
【0027】
[電池素子]
電池素子20は、図1および図2に示したように、外装フィルム10の内部に収納された発電素子であり、正極21と、負極22と、セパレータ23と、電解液(図示せず)とを含んでいる。
【0028】
ここでは、電池素子20は、いわゆる巻回電極体である。すなわち、電池素子20では、正極21および負極22がセパレータ23を介して互いに積層されていると共に、その正極21、負極22およびセパレータ23が巻回軸(Y軸方向に延在する仮想軸)を中心として巻回されている。すなわち、正極21および負極22は、セパレータ23を介して互いに対向している。
【0029】
この電池素子20は、扁平な立体的形状を有しているため、巻回軸と交差する電池素子20の断面(XZ面に沿った断面)の形状は、長軸および短軸により規定される扁平形状である。長軸は、X軸方向に延在すると共に短軸よりも大きい長さを有する仮想軸であると共に、短軸は、X軸方向と交差するZ軸方向に延在すると共に長軸よりも小さい長さを有する仮想軸である。ここでは、電池素子20の断面の形状は、扁平な略楕円形である。
【0030】
(正極)
正極21は、図2に示したように、正極集電体21Aおよび正極活物質層21Bを含んでいる。
【0031】
正極集電体21Aは、正極活物質層21Bが配置される一対の面を有している。この正極集電体21Aは、金属材料などの導電性材料を含んでおり、その金属材料は、アルミニウムなどである。
【0032】
正極活物質層21Bは、リチウムを吸蔵および放出可能である正極活物質のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、正極集電体21Aの両面に配置されている。ただし、正極活物質層21Bは、さらに、正極結着剤および正極導電剤などを含んでいてもよいと共に、正極集電体21Aの片面だけに配置されていてもよい。正極活物質層21Bの形成方法は、特に限定されないが、具体的には、塗布法などである。
【0033】
正極活物質は、リチウム化合物を含んでいる。このリチウム化合物は、リチウムを構成元素として含む化合物の総称であり、より具体的には、リチウムと共に1種類または2種類以上の遷移金属元素を構成元素として含む化合物である。高いエネルギー密度が得られるからである。ただし、リチウム化合物は、さらに、他の元素(リチウムおよび遷移金属元素を除く。)のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。リチウム化合物の種類は、特に限定されないが、具体的には、酸化物、リン酸化合物、ケイ酸化合物およびホウ酸化合物などである。酸化物の具体例は、LiNiO2 、LiCoO2 およびLiMn2 4 などであると共に、リン酸化合物の具体例は、LiFePO4 およびLiMnPO4 などである。
【0034】
正極結着剤は、合成ゴムおよび高分子化合物などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。合成ゴムは、スチレンブタジエン系ゴムなどであると共に、高分子化合物は、ポリフッ化ビニリデンなどである。正極導電剤は、炭素材料などの導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、その炭素材料は、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックおよびケッチェンブラックなどである。ただし、導電性材料は、金属材料および高分子化合物などでもよい。
【0035】
(負極)
負極22は、図2に示したように、負極活物質層22Bを被覆する被膜22Cを含んでいる。より具体的には、負極22は、負極集電体22A、負極活物質層22Bおよび被膜22Cを含んでいる。
【0036】
負極集電体22Aは、負極活物質層22Bが配置される一対の面を有している。この負極集電体22Aは、金属材料などの導電性材料を含んでおり、その金属材料は、銅などである。
【0037】
負極活物質層22Bは、リチウムを吸蔵および放出可能である負極活物質のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、負極集電体22Aの両面に配置されている。ただし、負極活物質層22Bは、さらに、負極結着剤および負極導電剤などを含んでいてもよいと共に、負極集電体22Aの片面だけに配置されていてもよい。負極結着剤および負極導電剤のそれぞれに関する詳細は、正極結着剤および正極導電剤のそれぞれに関する詳細と同様である。負極活物質層22Bの形成方法は、特に限定されないが、具体的には、塗布法、気相法、液相法、溶射法および焼成法(焼結法)などのうちのいずれか1種類または2種類以上である。
【0038】
負極活物質は、炭素材料および金属系材料のうちの一方または双方などである。高いエネルギー密度が得られるからである。炭素材料は、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素および黒鉛(天然黒鉛および人造黒鉛)などである。金属系材料は、リチウムと合金を形成可能である金属元素および半金属元素のうちのいずれか1種類または2種類以上を構成元素として含む材料の総称であり、その金属元素および半金属元素は、ケイ素およびスズのうちの一方または双方などである。この金属系材料は、単体でもよいし、合金でもよいし、化合物でもよいし、それらの2種類以上の混合物でもよい、それらの2種類以上の相を含む材料でもよい。金属系材料の具体例は、TiSi2 およびSiOx (0<x≦2、または0.2<x<1.4)などである。
【0039】
被膜22Cは、負極活物質層22Bの表面の全体を被覆していてもよいし、その負極活物質層22Bの表面の一部だけを被覆していてもよい。ただし、後者の場合には、互いに離隔された複数の場所において複数の被膜22Cが負極活物質層22Bの表面を被覆していてもよい。図2では、被膜22Cが負極活物質層22Bの表面の全体を被覆している場合を示している。
【0040】
この被膜22Cは、後述するように、二次電池の製造工程において、負極活物質層22Bの浸漬処理および組み立て後の二次電池の安定化処理(充放電処理)を用いて、その負極活物質層22Bの表面に形成されている。これにより、被膜22Cは、浸漬処理に用いられる浸漬溶液中の物質(ホウ素含有化合物)の反応物および分解物などのうちのいずれか1種類または2種類以上を成分として含んでいると共に、電解液中の物質(硫黄含有化合物)の反応物および分解物などのうちのいずれか1種類または2種類以上を成分として含んでいる。
【0041】
ホウ素含有化合物は、ホウ素の供給源となる物質であり、より具体的には、ホウ素を構成元素として含む化合物である。硫黄含有化合物は、硫黄の供給源となる物質であり、より具体的には、硫黄を構成元素として含む化合物である。このため、上記した浸漬処理および安定化処理を用いて形成される被膜22Cは、ホウ素および硫黄を構成元素として含んでいる。
【0042】
この二次電池では、膨れ特性を改善するために、被膜22Cの物性に関して所定の物性条件が満たされている。この被膜22Cの物性の詳細に関しては、後述する。
【0043】
(セパレータ)
セパレータ23は、図2に示したように、正極21と負極22との間に介在している絶縁性の多孔質膜であり、その正極21と負極22との接触(短絡)を防止しながらリチウムイオンを通過させる。このセパレータ23は、ポリエチレンなどの高分子化合物を含んでいる。
【0044】
(電解液)
電解液は、正極21、負極22およびセパレータ23のそれぞれに含浸されており、溶媒および電解質塩を含んでいる。
【0045】
溶媒は、非水溶媒(有機溶剤)である鎖状カルボン酸エステルのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。鎖状カルボン酸エステルは低い粘度を有しているため、電解液のイオン伝導率(リチウムイオンの伝導性)が向上するからである。これにより、高レート(高い充電電流および高い放電電流)の充放電特性が改善されるため、二次電池が高レートで充放電されても電池容量の低下が抑制される。鎖状カルボン酸エステルの種類は、特に限定されないが、具体的には、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、酪酸メチル、酪酸エチルおよびイソ酪酸エチルなどである。溶媒中における鎖状カルボン酸エステルの含有量は、特に限定されないため、任意に設定可能である。非水溶媒(鎖状カルボン酸エステル)を含んでいる電解液は、いわゆる非水電解液である。
【0046】
この溶媒は、さらに、他の非水溶媒のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。他の非水溶媒の種類は、特に限定されないが、具体的には、炭酸エステル系化合物およびラクトン系化合物などであり、その炭酸エステル系化合物は、環状炭酸エステルおよび鎖状炭酸エステルなどである。
【0047】
なお、溶媒は、硫黄含有化合物のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。充放電時において被膜22Cの一部が分解しても、その後の充放電時において硫黄含有化合物の反応を利用して被膜22Cが追加形成されやすくなるからである。これにより、充放電を繰り返しても、後述する物性条件1~3のそれぞれが維持されやすくなる。
【0048】
硫黄含有化合物は、上記したように、硫黄の供給源となる物質(硫黄を構成元素として含む化合物)である。この硫黄含有化合物は、環状化合物でもよいし、鎖状化合物でもよい。また、硫黄含有化合物は、不飽和炭素結結合である炭素間二重結合および炭素間三重結合のうちの一方または双方を含んでいてもよい。
【0049】
硫黄含有化合物の種類は、特に限定されないが、具体的には、環状スルホン酸エステル、鎖状スルホン酸エステル、環状ジスルホン酸無水物および環状スルホン酸カルボン酸無水物などである。電解液中における硫黄含有化合物の含有量は、特に限定されないため、任意に設定
可能である。
【0050】
環状スルホン酸エステルの具体例は、プロパンスルトン(1,3-プロパンスルトン)、プロペンスルトン(1-プロペン1,3-スルトン)、4-メチル-1,3,2-ジオキサチオラン2,2-ジオキシドおよび1,3,2-ジオキサチラン2,2-ジオキシドなどである。鎖状スルホン酸エステルの具体例は、メタンスルホン酸プロパルギル、エタンスルホン酸プロパルギルおよびベンゼンスルホン酸2-プロピニルなどである。環状ジスルホン酸無水物は、エタンジスルホン酸無水物およびプロパンジスルホン酸無水物などである。環状スルホン酸カルボン酸無水物の具体例は、スルホ安息香酸無水物、スルホプロピオン酸無水物およびスルホ酪酸無水物などである。
【0051】
電解質塩は、リチウム塩などの軽金属塩のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。電解液中における電解質塩の含有量は、特に限定されないため、任意に設定可能である。
【0052】
[正極リードおよび負極リード]
正極リード31は、図1に示したように、電池素子20(正極21)に接続された正極端子であり、外装フィルム10の内部から外部に導出されている。この正極リード31は、アルミニウムなどの導電性材料を含んでおり、その正極リード31の形状は、薄板状および網目状などのうちのいずれかである。
【0053】
負極リード32は、図1に示したように、電池素子20(負極22)に接続された負極端子であり、ここでは、正極21と同様の方向に向かって外装フィルム10の内部から外部に導出されている。この負極リード32は、銅などの導電性材料を含んでおり、その負極リード32の形状に関する詳細は、正極リード31の形状に関する詳細と同様である。
【0054】
<1-2.物性>
この二次電池では、上記したように、膨れ特性を改善するために、被膜22Cの物性に関して所定の物性条件が満たされている。
【0055】
[物性条件]
具体的には、誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma(ICP))発光分光分析法を用いて被膜22Cを分析した際、その分析結果に関して、以下で説明する3種類の物性条件が同時に満たされている。
【0056】
(物性条件1)
被膜22C中におけるホウ素の含有量CBは、10μmol/m2 ~30μmol/m2 である。すなわち、ICP発光分光分析法を用いて被膜22Cを分析することにより、その被膜22C中に含まれているホウ素の含有量CBを測定すると、その含有量CBは、上記した範囲内である。
【0057】
この含有量CBは、浸漬溶液中に含まれるホウ素含有化合物の種類および含有量、ならびに浸漬溶液中における負極活物質層22Bの浸漬時間などの条件を変化させることにより、所望の値となるように調整可能である。
【0058】
(物性条件2)
被膜22C中における硫黄の含有量CSは、20μmol/m2 ~70μmol/m2 である。すなわち、ICP発光分光分析法を用いて被膜22Cを分析することにより、その被膜22C中に含まれている硫黄の含有量CSを測定すると、その含有量CSは、上記した範囲内である。
【0059】
この含有量CSは、電解液中に含まれる硫黄含有化合物の種類および含有量などの条件を変化させることにより、所望の値となるように調整可能である。
【0060】
(物性条件3)
ホウ素の含有量CBに対する硫黄の含有量CSの比(含有比R)は、1.0~3.0である。すなわち、上記した含有量CB,CSに基づいて算出される含有比R(=含有量CS/含有量CB)は、上記した範囲内である。
【0061】
この含有比Rは、上記したように、含有量CB,CSのそれぞれを変化させることにより、所望の値となるように調整可能である。
【0062】
物性条件1~3が同時に満たされているのは、被膜22Cの電気化学的な耐久性が著しく向上するからである。これにより、負極活物質層22Bの表面において電解液の分解反応が特異的に抑制されるため、その電解液の分解反応に起因したガスの発生が著しく抑制される。この理由の詳細に関しては、後述する。
【0063】
[分析手順]
ICP発光分光分析法を用いて被膜22Cを分析することにより、含有量CB,CSおよび含有比Rのそれぞれを特定する手順は、以下で説明する通りである。
【0064】
最初に、電圧が3Vに到達するまで二次電池を放電させる。放電時の電流は、特に限定されないため、任意に設定可能である。続いて、放電後の二次電池を解体することにより、負極22を回収する。続いて、洗浄用の溶媒を用いて負極22を洗浄する。洗浄用の溶媒の種類は、特に限定されないが、具体的には、炭酸ジメチルなどの有機溶剤である。続いて、円盤状(直径=19mm)となるように負極22を打ち抜くことにより、分析用の試料を得る。
【0065】
続いて、ICP発光分光分析装置を用いて試料(被膜22C)を分析することにより、その被膜22C中に含まれているホウ素の含有量(μmol)および硫黄の含有量(μmol)のそれぞれを測定する。このICP発光分光分析装置としては、株式会社日立ハイテクサイエンス(旧エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社)製のICP発光分光分析装置(シーケンシャル型) SPS3500などを使用可能である。続いて、試料の面積(m2 )に基づいて、ホウ素の含有量CB(μmol/m2 )および硫黄の含有量CS(μmol/m2 )のそれぞれを算出する。
【0066】
最後に、含有量CB,CSに基づいて、含有比R(=含有量CS/含有量CB)を算出する。これにより、ICP発光分光分析法を用いた被膜22Cの分析結果に基づいて、含有量CB,CSのそれぞれが測定されると共に、含有比Rが算出される。
【0067】
<1-3.動作>
二次電池の充電時には、電池素子20において、正極21からリチウムが放出されると共に、そのリチウムが電解液を介して負極22に吸蔵される。また、二次電池の放電時には、電池素子20において、負極22からリチウムが放出されると共に、そのリチウムが電解液を介して正極21に吸蔵される。これらの充放電時には、リチウムがイオン状態で吸蔵および放出される。
【0068】
<1-4.製造方法>
以下で説明する手順により、二次電池を製造する。この場合には、後述するように、正極21、負極前駆体および電解液を用いて二次電池を組み立てたのち、その二次電池の安定化処理を行う。
【0069】
[正極の作製]
正極活物質、正極結着剤および正極導電剤などを互いに混合させることにより、正極合剤としたのち、有機溶剤などに正極合剤を投入することにより、ペースト状の正極合剤スラリーを調製する。続いて、正極集電体21Aの両面に正極合剤スラリーを塗布することにより、正極活物質層21Bを形成する。こののち、ロールプレス機などを用いて正極活物質層21Bを圧縮成型してもよい。この場合には、正極活物質層21Bを加熱してもよいし、圧縮成型を複数回繰り返してもよい。これにより、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bが形成されるため、正極21が作製される。
【0070】
[負極の作製]
上記した正極活物質層21Bの形成手順と同様の手順により、負極活物質層22Bを形成する。具体的には、負極活物質、負極結着剤および負極導電剤などを互いに混合させることにより、負極合剤としたのち、有機溶剤などに負極合剤を投入することにより、ペースト状の負極合剤スラリーを調製する。続いて、負極集電体22Aの両面に負極合剤スラリーを塗布することにより、負極活物質層22Bを形成する。こののち、負極活物質層22Bを圧縮成型してもよい。
【0071】
続いて、有機溶剤などにホウ素含有化合物を投入することにより、浸漬溶液を調製する。この浸漬溶液は、浸漬処理を利用して被膜22Cを形成するために用いられる溶液であり、ホウ素含有化合物のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。有機溶剤の種類は、特に限定されないが、具体的には、上記した炭酸エステル系化合物のうちのいずれか1種類または2種類以上である。浸漬溶液中におけるホウ素含有化合物の含有量は、ホウ素の含有量CBなどの条件に応じて、任意に設定可能である。
【0072】
ホウ素含有化合物の種類は、特に限定されないが、具体的には、ホウ素含有リチウム塩などである。ホウ素含有リチウム塩の具体例は、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(リチウムビス(オキサレート)ボレート)およびジフルオロオキサラトホウ酸リチウム(リチウムジフルオロ(オキサレート)ボレート)などである。
【0073】
続いて、負極活物質層22Bが形成された負極集電体22A(以下、単に「負極活物質層22B」と説明する。)を浸漬溶液中に浸漬させる。浸漬時間は、ホウ素の含有量CBなどの条件に応じて、任意に設定可能である。続いて、浸漬溶液中から負極活物質層22Bを取り出したのち、その負極活物質層22Bを乾燥させることにより、有機溶剤を揮発させる。これにより、負極活物質層22Bの表面に浸漬溶液の塗膜が形成されるため、負極前駆体が作製される。この負極前駆体は、被膜22Cの代わりに浸漬溶液の塗膜を備えていることを除いて、負極22の構成と同様の構成を有している。
【0074】
最後に、後述するように、負極前駆体を用いて二次電池を組み立てたのち、その二次電池の安定化処理(充放電処理)を行う。これにより、ホウ素および硫黄を構成元素として含む被膜22Cが負極活物質層22Bの表面に形成される。よって、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bおよび被膜22Cが形成されるため、負極22が作製される。
【0075】
(電解液の調製)
溶媒に電解質塩を投入したのち、その溶媒に硫黄含有化合物を添加する。これにより、溶媒中において電解質塩および硫黄含有化合物のそれぞれが分散または溶解されるため、電解液が調製される。浸漬溶液中における硫黄含有化合物の含有量は、硫黄の含有量CSなどの条件に応じて、任意に設定可能である。
【0076】
(二次電池の組み立て)
最初に、溶接法などを用いて正極21(正極集電体21A)に正極リード31を接続させると共に、溶接法などを用いて負極22(負極集電体22A)に負極リード32を接続させる。
【0077】
続いて、セパレータ23を介して正極21および負極前駆体を互いに積層させたのち、その正極21、負極前駆体およびセパレータ23を巻回させることにより、巻回体を作製する。この巻回体は、負極22の代わりに負極前駆体を備えていると共に、正極21、負極前駆体およびセパレータ23のそれぞれに電解液が含浸されていないことを除いて、電池素子20の構成と同様の構成を有している。続いて、プレス機などを用いて巻回体を押圧することにより、扁平形状となるように巻回体を成型する。
【0078】
続いて、窪み部10Uの内部に巻回体を収容したのち、外装フィルム10を折り畳むことにより、その外装フィルム10同士を互いに対向させる。続いて、熱融着法などを用いて、互いに対向する外装フィルム10(融着層)のうちの2辺の外周縁部同士を互いに融着させることにより、袋状の外装フィルム10の内部に巻回体を収納する。
【0079】
最後に、袋状の外装フィルム10の内部に電解液を注入したのち、熱融着法などを用いて外装フィルム10(融着層)のうちの残りの1辺の外周縁部同士を互いに融着させる。この場合には、外装フィルム10と正極リード31との間に封止フィルム41を挿入すると共に、外装フィルム10と負極リード32との間に封止フィルム42を挿入する。これにより、巻回体に電解液が含浸されるため、巻回電極体である電池素子20が作製されると共に、袋状の外装フィルム10の内部に電池素子20が封入されるため、二次電池が組み立てられる。
【0080】
(二次電池の安定化)
組み立て後の二次電池を充放電させる。環境温度、充放電回数(サイクル数)および充放電条件などの条件は、任意に設定可能である。
【0081】
これにより、上記したように、ホウ素および硫黄を構成元素として含む被膜22Cが負極活物質層22Bの表面に形成されるため、負極22が作製される。この場合には、負極活物質層22Bの表面が被膜22Cにより保護されるため、二次電池の状態が電気化学的に安定化する。
【0082】
なお、二次電池の安定化処理が完了したのち、すなわち負極22が作製された(負極活物質層22Bの表面に被膜22Cが形成された)のちにおいて、その被膜22Cを形成するために用いられた硫黄含有化合物は、電解液中に残存していてもよいし、その電解液中に残存していなくてもよい。
【0083】
よって、外装フィルム10を用いた二次電池、すなわちラミネートフィルム型の二次電池が完成する。
【0084】
<1-5.作用および効果>
この二次電池によれば、負極22が被膜22Cを含んでいると共に、電解液が鎖状カルボン酸エステルを含んでいる。また、ICP発光分光分析法を用いた被膜22Cの分析結果(被膜22Cの物性である含有量CB,CSおよび含有比R)に関して、上記した物性条件1~3が同時に満たされている。
【0085】
この場合には、電解液が鎖状カルボン酸エステルを含んでいるため、上記したように、その電解液のイオン伝導率が向上する。しかも、被膜22Cの物性に関して物性条件1~3が同時に満たされていることに起因して、その被膜22Cの電気化学的な耐久性が著しく向上するため、電解液が鎖状カルボン酸エステルを含んでいても、負極活物質層22Bの表面において電解液(鎖状カルボン酸エステル)の分解反応が特異的に抑制される。これにより、特に、高温環境中において二次電池が使用(充放電)および保存されても、電解液の分解反応が十分に抑制されるため、ガスの発生が十分に抑制される。
【0086】
よって、電解液が鎖状カルボン酸エステルを含んでいても、ガスの発生に起因した二次電池の膨れが効果的に抑制されるため、優れた膨れ特性を得ることができる。
【0087】
ここで、物性条件1~3が同時に満たされているため、電解液の分解反応に起因したガスの発生が著しく抑制されるメカニズムは、以下で説明する通りであると考えられる。
【0088】
ホウ素を構成元素として含む被膜22Cが負極活物質層22Bの表面に形成されていると、高温環境中において二次電池が使用および保存されても、その負極活物質層22Bの表面において電解液の分解反応が抑制されるため、その電解液の分解反応に起因したガスの発生が抑制される。このホウ素を構成元素として含む被膜22Cは、ホウ素含有化合物を含む電解液を備えた二次電池を充放電させることにより、負極活物質層22Bの表面に形成される。
【0089】
しかしながら、電解液が鎖状カルボン酸エステルを含んでいる場合には、ホウ素を構成元素として含む被膜22Cが負極活物質層22Bの表面に形成されていても、その負極活物質層22Bの表面において電解液(鎖状カルボン酸エステル)の分解反応が十分に抑制されないため、ガスが発生しやすくなる。なぜなら、電解液中の溶媒である鎖状カルボン酸エステルは、充放電時において炭酸エステル系化合物などよりも分解されやすい性質を有しているからである。
【0090】
そこで、本実施形態の二次電池に対する比較例の二次電池を製造する方法として、ホウ素含有化合物と共に硫黄含有化合物を含む電解液を備えた二次電池を充放電させることにより、ホウ素と共に硫黄を構成元素として含む被膜22Cを形成することが考えられる。
【0091】
この場合には、被膜22Cがホウ素と共に硫黄を構成元素として含んでいると、電解液が鎖状カルボン酸エステルを含んでいても、負極活物質層22Bの表面において電解液(鎖状カルボン酸エステル)の分解反応が抑制されるため、ガスが発生しにくくなる。なぜなら、被膜22Cの形成時(充放電処理)時において、求電子性のホウ素含有化合物と求核性の硫黄含有化合物とが互いに強固に結合するため、その被膜22Cの電気化学的な耐久性が向上するからであると考えられる。
【0092】
しかしながら、ホウ素および硫黄を構成元素として含む被膜22Cを形成する場合において、その被膜22Cの電気化学的な耐久性を十分に向上させることは、現実的には困難である。
【0093】
なぜなら、電解液がホウ素含有化合物および硫黄含有化合物の双方を含んでいる場合には、充放電時において、そのホウ素含有化合物に由来するホウ素を構成元素として含む被膜22Cが形成される前に、その硫黄含有化合物に由来する硫黄を構成元素として含む被膜22Cが優先的に形成されやすいからである。これにより、被膜22Cは、硫黄を構成元素として十分に含むことができるのに対して、ホウ素を構成元素として十分に含むことができない。
【0094】
また、ホウ素含有化合物に由来する被膜22Cが形成される場合には、負極22におけるホウ素含有化合物の還元分解反応よりも、正極21におけるホウ素含有化合物の酸化分解反応が優先的に進行するからである。これにより、ホウ素含有化合物に由来する被膜が正極活物質層21Bの表面に形成されやすくなると共に、硫黄素含有化合物に由来する被膜22Cが負極活物質層22Bの表面に形成されやすくなるため、その負極活物質層22Bの表面に形成される被膜22Cは、やはり、ホウ素を構成元素として十分に含むことができない。
【0095】
よって、比較例の製造方法により製造される二次電池では、電解液がホウ素含有化合物および硫黄含有化合物の双方を含んでいても、電気化学的な耐久性を向上させるためにホウ素および硫黄の双方を構成元素として適正に含む被膜22C、すなわち物性条件1~3が同時に満たされている被膜22Cを形成することは、事実上困難である。
【0096】
これに対して、本実施形態の二次電池の製造方法では、上記したように、ホウ素含有化合物を含む浸漬溶液中に負極活物質層22Bを浸漬させたのち、硫黄含有化合物を含む電解液を備えた二次電池の安定化処理(充放電処理)を行うことにより、被膜22Cを形成している。
【0097】
この場合には、浸漬処理後において負極活物質層22Bの表面に十分な量のホウ素含有化合物が存在している状態において、硫黄含有化合物を含む電解液を備えた二次電池が充放電されることにより、その負極活物質層22Bの表面に被膜22Cが形成される。これにより、被膜22Cは、硫黄を構成元素として十分に含むことができるだけでなく、ホウ素も構成元素として十分に含むことができるため、物性条件1~3が同時に満たされる。
【0098】
よって、本実施形態の製造方法により製造される二次電池では、上記した比較例の製造方法により製造される二次電池とは異なり、ホウ素および硫黄の双方を構成元素として適正に含む被膜22C、すなわち物性条件1~3が同時に満たされている被膜22Cが形成される。
【0099】
これらのことから、本実施形態の二次電池では、物性条件1~3が同時に満たされることにより、被膜22Cの電気化学的な耐久性が十分に向上するため、電解液(鎖状カルボン酸エステル)の分解反応に起因したガスの発生が著しく抑制される。よって、電解液が鎖状カルボン酸エステルを含んでいても、二次電池の膨れが効果的に抑制されるため、膨れ特性を向上させることができる。この場合には、二次電池が高温環境中において使用および保存されても、その二次電池の膨れが十分に抑制されるため、膨れ特性を効果的に向上させることができる。
【0100】
特に、電解液が硫黄含有化合物を含んでいれば、二次電池の使用時(充放電時)において被膜22Cが追加形成される。よって、充放電を繰り返しても物性条件1~3が維持されやすくなるため、より高い効果を得ることができる。この場合には、硫黄含有化合物が環状スルホン酸エステルなどを含んでいれば、物性条件1~3がより維持されやすくなるため、さらに高い効果を得ることができる。
【0101】
また、二次電池が可撓性の外装フィルム10を備えていれば、内圧の変化(電解液(鎖状カルボン酸エステル)の分解反応に起因したガスの発生)に起因して変形しやすい外装フィルム10を用いても、二次電池の膨れが効果的に抑制されるため、より高い効果を得ることができる。
【0102】
また、二次電池がリチウムイオン二次電池であれば、リチウムの吸蔵および放出を利用して十分な電池容量が安定に得られるため、より高い効果を得ることができる。
【0103】
<2.変形例>
次に、上記した二次電池の変形例に関して説明する。二次電池の構成は、以下で説明するように、適宜、変更可能である。ただし、以下で説明する一連の変形例のうちの任意の2種類以上は、互いに組み合わされてもよい。
【0104】
[変形例1]
多孔質膜であるセパレータ23を用いた。しかしながら、ここでは具体的に図示しないが、多孔質膜であるセパレータ23の代わりに、高分子化合物層を含む積層型のセパレータを用いてもよい。
【0105】
具体的には、積層型のセパレータは、一対の面を有する多孔質膜と、その多孔質膜の片面または両面に配置された高分子化合物層とを含んでいる。正極21および負極22のそれぞれに対するセパレータの密着性が向上するため、電池素子20の位置ずれ(正極21、負極22およびセパレータのそれぞれの巻きずれ)が発生しにくくなるからである。これにより、電解液の分解反応などが発生しても、二次電池が膨れにくくなる。高分子化合物層は、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子化合物を含んでいる。ポリフッ化ビニリデンなどは、物理的強度に優れていると共に、電気化学的に安定だからである。
【0106】
なお、多孔質膜および高分子化合物層のうちの一方または双方は、複数の絶縁性粒子のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。二次電池の発熱時において複数の絶縁性粒子が放熱するため、その二次電池の安全性(耐熱性)が向上するからである。絶縁性粒子は、無機粒子および樹脂粒子などである。無機粒子の具体例は、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ベーマイト、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化マグネシウムおよび酸化ジルコニウムなどの粒子である。樹脂粒子の具体例は、アクリル樹脂およびスチレン樹脂などの粒子である。
【0107】
積層型のセパレータを作製する場合には、高分子化合物および有機溶剤などを含む前駆溶液を調製したのち、多孔質膜の片面または両面に前駆溶液を塗布する。この場合には、必要に応じて前駆溶液に複数の絶縁性粒子を添加してもよい。
【0108】
この積層型のセパレータを用いた場合においても、正極21と負極22との間においてリチウムイオンが移動可能になるため、同様の効果を得ることができる。
【0109】
[変形例2]
液状の電解質である電解液を用いた。しかしながら、ここでは具体的に図示しないが、電解液の代わりに、ゲル状の電解質である電解質層を用いてもよい。
【0110】
電解質層を用いた電池素子20では、セパレータ23および電解質層を介して正極21および負極22が互いに積層されたのち、その正極21、負極22、セパレータ23および電解質層が巻回されている。この電解質層は、正極21とセパレータ23との間に介在していると共に、負極22とセパレータ23との間に介在している。
【0111】
具体的には、電解質層は、電解液と共に高分子化合物を含んでおり、その電解質層中では、電解液が高分子化合物により保持されている。漏液が防止されるからである。電解液の構成は、上記した通りである。高分子化合物は、ポリフッ化ビニリデンなどを含んでいる。電解質層を形成する場合には、電解液、高分子化合物および有機溶剤などを含む前駆溶液を調製したのち、正極21および負極22のそれぞれの片面または両面に前駆溶液を塗布する。
【0112】
この電解質層を用いた場合においても、正極21と負極22との間において電解質層を介してリチウムイオンが移動可能になるため、同様の効果を得ることができる。
【0113】
<3.二次電池の用途>
次に、上記した二次電池の用途(適用例)に関して説明する。
【0114】
二次電池の用途は、特に限定されない。電源として用いられる二次電池は、電子機器および電動車両などの主電源または補助電源である。主電源とは、他の電源の有無に関係なく、優先的に用いられる電源である。補助電源は、主電源の代わりに用いられる電源、または主電源から切り替えられる電源である。
【0115】
二次電池の用途の具体例は、以下の通りである。ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、ノート型パソコン、ヘッドホンステレオ、携帯用ラジオおよび携帯用情報端末などの電子機器である。バックアップ電源およびメモリーカードなどの記憶用装置である。電動ドリルおよび電動鋸などの電動工具である。電子機器などに搭載される電池パックである。ペースメーカおよび補聴器などの医療用電子機器である。電気自動車(ハイブリッド自動車を含む。)などの電動車両である。非常時などに備えて電力を蓄積しておく家庭用または産業用のバッテリシステムなどの電力貯蔵システムである。これらの用途では、1個の二次電池が用いられてもよいし、複数個の二次電池が用いられてもよい。
【0116】
電池パックは、単電池を用いてもよいし、組電池を用いてもよい。電動車両は、二次電池を駆動用電源として作動(走行)する車両であり、その二次電池以外の駆動源を併せて備えたハイブリッド自動車でもよい。家庭用の電力貯蔵システムでは、電力貯蔵源である二次電池に蓄積された電力を利用して家庭用の電気製品などを使用可能である。
【0117】
ここで、二次電池の適用例の一例に関して具体的に説明する。以下で説明する適用例の構成は、あくまで一例であるため、適宜、変更可能である。
【0118】
図3は、電池パックのブロック構成を表している。ここで説明する電池パックは、1個の二次電池を用いた電池パック(いわゆるソフトパック)であり、スマートフォンに代表される電子機器などに搭載される。
【0119】
この電池パックは、図3に示したように、電源51と、回路基板52とを備えている。この回路基板52は、電源51に接続されていると共に、正極端子53、負極端子54および温度検出端子55を含んでいる。
【0120】
電源51は、1個の二次電池を含んでいる。この二次電池では、正極リードが正極端子53に接続されていると共に、負極リードが負極端子54に接続されている。この電源51は、正極端子53および負極端子54を介して外部と接続可能であるため、充放電可能である。回路基板52は、制御部56と、スイッチ57と、熱感抵抗素子(PTC素子)58と、温度検出部59とを含んでいる。ただし、PTC素子58は省略されてもよい。
【0121】
制御部56は、中央演算処理装置(CPU)およびメモリなどを含んでおり、電池パック全体の動作を制御する。この制御部56は、必要に応じて電源51の使用状態の検出および制御を行う。
【0122】
なお、制御部56は、電源51(二次電池)の電圧が過充電検出電圧または過放電検出電圧に到達すると、スイッチ57を切断することにより、電源51の電流経路に充電電流が流れないようにする。過充電検出電圧および過放電検出電圧は、特に限定されない。一例を挙げると、過充電検出電圧は、4.2V±0.05Vであると共に、過放電検出電圧は、2.4V±0.1Vである。
【0123】
スイッチ57は、充電制御スイッチ、放電制御スイッチ、充電用ダイオードおよび放電用ダイオードなどを含んでおり、制御部56の指示に応じて電源51と外部機器との接続の有無を切り換える。このスイッチ57は、金属酸化物半導体を用いた電界効果トランジスタ(MOSFET)などを含んでおり、充放電電流は、スイッチ57のON抵抗に基づいて検出される。
【0124】
温度検出部59は、サーミスタなどの温度検出素子を含んでおり、温度検出端子55を用いて電源51の温度を測定すると共に、その温度の測定結果を制御部56に出力する。温度検出部59により測定される温度の測定結果は、異常発熱時において制御部56が充放電制御を行う場合および残容量の算出時において制御部56が補正処理を行う場合などに用いられる。
【実施例
【0125】
本技術の実施例に関して説明する。
【0126】
(実施例1~11および比較例1~7)
以下で説明するように、二次電池を製造したのち、その二次電池の性能を評価した。
【0127】
[二次電池の製造]
以下で説明する手順により、ラミネートフィルム型の二次電池(リチウムイオン二次電池)を製造した。
【0128】
(正極の作製)
最初に、正極活物質95質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン)4質量部と、正極導電剤(黒鉛)1質量部とを互いに混合させることにより、正極合剤とした。続いて、有機溶剤(N-メチル-2-ピロリドン)に正極合剤を投入したのち、その有機溶剤を撹拌することにより、ペースト状の正極合剤スラリーを調製した。続いて、コーティング装置を用いて正極集電体21A(厚さ=15μmである帯状のアルミニウム箔)の両面に正極合剤スラリーを塗布したのち、その正極合剤スラリーを乾燥させることにより、正極活物質層21Bを形成した。最後に、ロールプレス機を用いて正極活物質層21Bを圧縮成型した。これにより、正極21が作製された。
【0129】
(負極の作製)
最初に、負極活物質(黒鉛)90質量部と、負極結着剤(ポリフッ化ビニリデン)10質量部とを互いに混合させることにより、負極合剤とした。続いて、有機溶剤(N-メチル-2-ピロリドン)に負極合剤を投入したのち、その有機溶剤を撹拌することにより、ペースト状の負極合剤スラリーを調製した。続いて、コーティング装置を用いて負極集電体22A(厚さ=15μmである帯状の銅箔)の両面に負極合剤スラリーを塗布したのち、その負極合剤スラリーを乾燥させることにより、負極活物質層22Bを形成した。続いて、ロールプレス機を用いて負極活物質層22Bを圧縮成型した。
【0130】
続いて、ホウ素含有化合物(四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 ))を含む浸漬溶液(濃度=1mol/kg)中に、負極活物質層22Bが形成された負極集電体22Aを浸漬させた。浸漬時間(時間)は、表1~表3に示した通りである。続いて、浸漬溶液中から、負極活物質層22Bが形成された負極集電体22Aを取り出すことにより、その負極活物質層22Bの表面に塗布された浸漬溶液を乾燥させた。これにより、負極活物質層22Bの表面に浸漬溶液の塗膜が形成されたため、負極前駆体が得られた。
【0131】
最後に、後述するように、負極前駆体を用いて二次電池を組み立てたのち、その二次電池の安定化処理(充放電処理)を行った。これにより、ホウ素および硫黄を構成元素として含む被膜22Cが負極活物質層22Bの表面に形成されたため、負極22が作製された。
【0132】
(電解液の調製)
溶媒に電解質塩(六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 ))を添加したのち、その溶媒を撹拌した。溶媒としては、環状炭酸エステルである炭酸エチレンおよび炭酸プロピレンと、鎖状カルボン酸エステルであるプロピオン酸プロピル(PP)とを用いた。この場合には、溶媒の混合比(体積比)を炭酸エチレン:炭酸プロピレン:鎖状カルボン酸エステル=10:20:70としたと共に、電解質塩の含有量を溶媒に対して1mol/kgとした。
【0133】
続いて、電解質塩を含む溶媒に硫黄含有化合物(環状スルホン酸エステルであるプロパンスルトン(PS))を添加したのち、その溶媒を攪拌した。この場合には、電解液中における硫黄含有化合物の含有量を1重量%とした。これにより、硫黄含有化合物を含む電解液が調製された。
【0134】
(二次電池の組み立て)
最初に、正極21(正極集電体21A)に正極リード31(帯状のアルミニウム箔)を溶接したと共に、負極前駆体(負極集電体22A)に負極リード32(帯状の銅箔)を溶接した。
【0135】
続いて、セパレータ23(厚さ=25μmである微孔性ポリエチレンフィルム)を介して正極21および負極前駆体を互いに積層させたのち、その正極21、負極前駆体およびセパレータ23を巻回させることにより、巻回体を作製した。続いて、プレス機を用いて巻回体をプレスすることにより、扁平形状となるように巻回体を成型した。
【0136】
続いて、窪み部10Uに収容された巻回体を挟むように外装フィルム10を折り畳んだのち、その外装フィルム10(融着層)のうちの2辺の外周縁部同士を互いに熱融着することにより、袋状の外装フィルム10の内部に巻回体を収納した。外装フィルム10としては、融着層(厚さ=30μmであるポリプロピレンフィルム)と、金属層(厚さ=40μmであるアルミニウム箔)と、表面保護層(厚さ=25μmであるナイロンフィルム)とが内側からこの順に積層されたアルミラミネートフィルムを用いた。
【0137】
最後に、袋状の外装フィルム10の内部に電解液を注入したのち、減圧環境中において外装フィルム10(融着層)のうちの残りの1辺の外周縁部同士を互いに熱融着した。この場合には、外装フィルム10と正極リード31との間に封止フィルム41(厚さ=5μmであるポリプロピレンフィルム)を挿入したと共に、外装フィルム10と負極リード32との間に封止フィルム42(厚さ=5μmであるポリプロピレンフィルム)を挿入した。これにより、巻回体に電解液が含浸されたため、巻回電極体である電池素子20が作製されたと共に、袋状の外装フィルム10の内部に電池素子20が封入されたため、二次電池が組み立てられた。
【0138】
(二次電池の安定化)
常温環境中(温度=25℃)において、組み立て後の二次電池を1サイクル充放電させた。充電時には、0.1Cの電流で電圧が4.2Vに到達するまで定電流充電したのち、その4.2Vの電圧で電流が0.005Cに到達するまで定電圧充電した。放電時には、0.1Cの電流で電圧が2.5Vに到達するまで定電流放電した。0.1Cとは、電池容量(理論容量)を10時間で放電しきる電流値であると共に、0.005Cとは、電池容量を200時間で放電しきる電流値である。
【0139】
これにより、上記したように、負極前駆体において負極活物質層22Bの表面に被膜22Cが形成されたため、負極22が作製された。よって、二次電池の状態が安定化したため、ラミネートフィルム型の二次電池が完成した。
【0140】
二次電池の完成後、その二次電池を解体することにより、負極22を回収したのち、ICP発光分光分析法を用いて負極22(被膜22C)を分析することにより、含有量CB,CS(μmol/m2 )のそれぞれを測定すると共に、含有比Rを算出したところ、表1~表3に示した結果が得られた。
【0141】
二次電池の製造工程では、浸漬溶液中におけるホウ素含有化合物の含有量と、浸積処理時の浸積時間と、電解液中における硫黄含有化合物の含有量とのうちのいずれか1種類または2種類以上を変更することにより、含有量CB,CSおよび含有比Rのそれぞれを調整した。
【0142】
なお、比較ために、浸漬処理を行う代わりに、電解液に硫黄含有化合物だけでなくホウ素含有化合物も含有させたことを除いて同様の手順により、二次電池を作製した。この場合には、電解液中におけるホウ素含有化合物の含有量を1重量%とした。これにより、二次電池の安定化処理時(充放電時)において、ホウ素および硫黄を構成元素として含む被膜22Cが負極活物質層22Bの表面に形成された。この場合における含有量CB,CSおよび含有比Rのそれぞれは、表1に示した通りである。
【0143】
[性能の評価]
二次電池の性能(膨れ特性)を評価したところ、表1~表3に示した結果が得られた。
【0144】
膨れ特性を調べる場合には、最初に、常温環境中(温度=23℃)において二次電池を充電させたのち、その二次電池の厚さ(保存前の厚さ(mm))を測定した。充電条件は、上記した二次電池の安定化処理時における充電条件と同様にした。続いて、高温環境中(温度=60℃)において充電状態の二次電池を保存(保存時間=720時間)したのち、その二次電池の厚さ(保存後の厚さ(mm))を測定した。最後に、膨れ率(%)=[(保存後の厚さ-保存前の厚さ)/保存前の厚さ]×100を算出した。
【0145】
【表1】
【0146】
【表2】
【0147】
【表3】
【0148】
[考察]
表1~表3に示したように、膨れ特性は、被膜22Cの物性(含有量CB,CSおよび含有比R)に応じて大きく変動した。
【0149】
具体的には、浸漬溶液を用いた浸漬処理を行った場合(実施例1~11および比較例1,2,4~7)には、ホウ素および硫黄の双方を構成元素として含む被膜22Cが形成されたため、含有量CB,CSのそれぞれが測定されると共に、含有比Rが算出された。
【0150】
この場合には、含有量CBが10μmol/m2 ~30μmol/m2 であり、含有量CSが20μmol/m2 ~70μmol/m2 であり、含有比Rが1.0~3.0であるという3つの条件(物性条件1~3)が同時に満たされていると(実施例1~11)、その物性条件1~3が同時に満たされていない場合(比較例1,2,4~7)と比較して、膨れ率が大幅に減少した。
【0151】
なお、浸漬溶液を用いた浸漬処理を用いなかった場合(比較例3)には、ホウ素および硫黄の双方を構成元素として含む被膜22Cは形成されたが、物性条件1~3が同時に満たされなかったため、膨れ率が増加した。
【0152】
[まとめ]
表1~表3に示した結果から、負極22が被膜22Cを含んでおり、電解液が鎖状カルボン酸エステルを含んでおり、ICP発光分光分析法を用いた被膜22Cの分析結果(含有量CB,CSおよび含有比R)に関して物性条件1~3が同時に満たされていると、膨れ率が大幅に減少した。よって、二次電池において優れた膨れ特性が得られた。
【0153】
以上、一実施形態および実施例を挙げながら本技術に関して説明したが、その本技術の構成は、一実施形態および実施例において説明された構成に限定されないため、種々に変形可能である。
【0154】
具体的には、二次電池の電池構造がラミネートフィルム型である場合に関して説明したが、その電池構造は、特に限定されないため、円筒型、角型、コイン型およびボタン型などの他の電池構造でもよい。
【0155】
また、電池素子の素子構造が巻回型である場合に関して説明したが、その電池素子の素子構造は、特に限定されないため、電極(正極および負極)が積層された積層型および電極(正極および負極)がジグザグに折り畳まれた九十九折り型などの他の素子構造でもよい。
【0156】
さらに、電極反応物質がリチウムである場合に関して説明したが、その電極反応物質は、特に限定されない。具体的には、電極反応物質は、上記したように、ナトリウムおよびカリウムなどの他のアルカリ金属でもよいし、ベリリウム、マグネシウムおよびカルシウムなどのアルカリ土類金属でもよい。この他、電極反応物質は、アルミニウムなどの他の軽金属でもよい。
【0157】
本明細書中に記載された効果は、あくまで例示であるため、本技術の効果は、本明細書中に記載された効果に限定されない。よって、本技術に関して、他の効果が得られてもよい。
図1
図2
図3