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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】鋼の連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/00 20060101AFI20231108BHJP
   B22D 11/10 20060101ALI20231108BHJP
   B22D 41/32 20060101ALI20231108BHJP
   B22D 41/42 20060101ALI20231108BHJP
   C04B 35/043 20060101ALI20231108BHJP
   C04B 35/101 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
B22D11/00 A
B22D11/00 C
B22D11/10 340Z
B22D11/10 360E
B22D41/32
B22D41/42
C04B35/043
C04B35/101
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022551342
(86)(22)【出願日】2022-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2022022570
(87)【国際公開番号】W WO2023286488
(87)【国際公開日】2023-01-19
【審査請求日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2021116201
(32)【優先日】2021-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】杉田 健創
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-141899(JP,A)
【文献】特開平11-217652(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00 - 11/22
B22D 33/00 - 47/02
C04B 35/043
C04B 35/101
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムが無添加で、珪素で脱酸され、カルシウムが添加されてカルシウムを含有する溶鋼を連続鋳造して鋳片を製造する鋼の連続鋳造方法であって、
アルミナ-ジルコニア-カーボン質耐火物からなる第1のスライディングノズルプレートで構成されるスライディングノズルが設置された取鍋に前記溶鋼を収容し、
マグネシア-スピネル質耐火物からなる第2のスライディングノズルプレートで構成されるスライディングノズルが設置されたタンディッシュに、前記取鍋から前記溶鋼を注入し、
前記第2のスライディングノズルプレートの流出孔を流下する前記溶鋼中に不活性ガスを吹き込みながら前記タンディッシュから鋳型に前記溶鋼を注入し、前記溶鋼を連続鋳造し、
前記第1のスライディングノズルプレートは、成分組成で、Al が70~81質量%、SiO が10質量%以下、ZrO が5~18質量%、固定炭素が3~10質量%であり、
前記第2のスライディングノズルプレートは、成分組成で、MgOが89~97質量%、Al が4~7質量%であることを特徴とする、鋼の連続鋳造方法。
【請求項2】
前記溶鋼は、成分組成で、珪素が1.5質量%以上、酸可溶アルミニウムが0.003質量%以下(ゼロを含む)、全カルシウムが0.001質量%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の鋼の連続鋳造方法。
【請求項3】
前記溶鋼は、成分組成で、炭素が0.0050質量%以下、珪素が1.5~5.0質量%、マンガンが3.0質量%以下、燐が0.2質量%以下、硫黄が0.0050質量%以下、酸可溶アルミニウムが0.003質量%以下(ゼロを含む)、全カルシウムが0.001~0.008質量%であることを特徴とする、請求項2に記載の鋼の連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム(Al)が添加されず、珪素(Si)で脱酸され、カルシウム(Ca)が添加された溶鋼を連続鋳造する鋼の連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶鋼の連続鋳造工程においては、取鍋内の溶鋼をタンディッシュに注入しながら、タンディッシュ内の溶鋼量をほぼ一定に保った状態で、タンディッシュ内の溶鋼を鋳型に注入している。取鍋からタンディッシュへ溶鋼を注入する際の溶鋼注入量制御手段、及び、タンディッシュから鋳型内へ溶鋼を注入する際の溶鋼注入量制御手段として、取鍋及びタンディッシュには、スライディングノズルが用いられている。取鍋において、スライディングノズルは、取鍋の溶鋼流出口に設けられ、上ノズルと下部ノズルとの間に、2枚または3枚のスライディングノズルプレートが配置されて構成されている。また、タンディッシュにおいて、スライディングノズルは、タンディッシュ底部の溶鋼流出口に設けられ、上ノズルと浸漬ノズルとの間に、2枚または3枚のスライディングノズルプレートが配置されて構成されている。
【0003】
スライディングノズルプレートには、それぞれのスライディングノズルプレートの上下面を貫通する流出孔が設けられており、この流出孔の内部を溶鋼が流下する。2枚のスライディングノズルプレートを有する、2枚構造のスライディングノズルでは、通常、上部側のスライディングノズルプレートを固定させ、下部側のスライディングノズルプレートを、固定された上部側のスライディングノズルプレートに密着させて移動(摺動)させ、それぞれの流出孔の重なりあった開口面積を調整することで、流出孔を流下する溶鋼の注入量を制御している。3枚のスライディングノズルプレートを有する、3枚構造のスライディングノズルでは、通常、上部側及び下部側のスライディングノズルプレートを固定させ、中間部のスライディングノズルプレートを、固定された上部側及び下部側のスライディングノズルプレートに密着させて移動させ、それぞれの流出孔の重なりあった開口面積を調整することで、溶鋼の注入量を制御している。
【0004】
取鍋やタンディッシュのスライディングノズルプレートの耐火材料としては、耐熱衝撃性が良く、原料コストが安価であるアルミナ(Al)-カーボン(C)質耐火物やマグネシア(MgO)-カーボン質耐火物が広く適用されている。取鍋やタンディッシュのスライディングノズルプレートの材質は、後述するように、連続鋳造する溶鋼の組成(鋼種)に応じて選択され、通常は、取鍋とタンディッシュとで主成分が同じ材質のスライディングノズルプレートが使用される。即ち、取鍋のスライディングノズルプレートがアルミナ-カーボン質であれば、タンディッシュのスライディングノズルプレートもアルミナ-カーボン質のものが使用され、取鍋のスライディングノズルプレートがマグネシア-カーボン質であれば、タンディッシュのスライディングノズルプレートもマグネシア-カーボン質のものが使用される。
【0005】
ところで、一部の鋼種では鋼中の非金属介在物(以下、単に「介在物」とも記す)の形態制御などの目的で、溶鋼中にCa-Si合金を添加し、溶鋼中に所定量のカルシウムを含有させる精錬(カルシウム添加処理)が行なわれる場合がある。また、溶鋼の脱酸方法としては、アルミニウムによる脱酸(アルミニウムキルド処理)が主要な方法となっているが、珪素鋼など一部の鋼種では、アルミニウムを添加せずに珪素などのアルミニウム以外の脱酸元素のみによって脱酸(キルド処理)を行う場合がある。
【0006】
アルミニウムキルド鋼種にCa-Si合金を添加した場合、そのときに生成する溶鋼中の介在物は、多くの場合、CaO-SiO-Al系の組成となり、一方、アルミニウムを添加せずに珪素キルド処理した鋼種にCa-Si合金を添加した場合、そのときに生成する溶鋼中の介在物は、多くの場合、CaO-SiO系の組成となる。
【0007】
連続鋳造中に、溶鋼が取鍋やタンディッシュのスライディングノズルプレートの流出孔を通過する際、溶鋼中の介在物の一部は、スライディングノズルプレートの流出孔の内面に付着する。スライディングノズルプレートが上記のアルミナ-カーボン質耐火物などのアルミナを主成分とする材質の場合、カルシウム添加処理が行なわれて生成したCaO-SiO-Al系の介在物やCaO-SiO系の介在物が、スライディングノズルプレートの流出孔の内面に付着すると、付着した介在物とスライディングノズルプレート中のAlとで低融点化合物を形成し、スライディングノズルプレートの溶損が発生する。このスライディングノズルプレートの溶損によるスライディングノズルプレートの耐用性低下に起因して、連続-連続鋳造(以下、「連々鋳」と記す)の回数(チャージ数)の低下や、スライディングノズルプレートからの漏鋼といった操業トラブルに繋がることがある。
【0008】
このような問題に対し、カルシウム添加鋼の連続鋳造には、耐溶損性の高いマグネシアを主成分とするスライディングノズルプレートを用いることが知られている。マグネシアを主成分とするスライディングノズルプレートの主な課題は耐スポーリング性であり、これを解決するための取り組みが数多くなされている。
【0009】
例えば、特許文献1には、マグネシア(MgO)-スピネル(MgAl)-カーボン(C)質スライディングノズルプレートにおいて、マグネシアとスピネルとカーボンの含量を100質量部とした際に、マグネシアが27~88質量%、スピネルが10~62質量%、カーボンが2~8質量%であって、0.3mm~4mmの粒度において、前記100質量%に対して22~73質量%であり、そのうちマグネシア原料が0~63質量%、スピネル原料が0~65質量%であって、0.3mm未満の粒度において、前記100質量%対して27~78質量%であり、そのうちマグネシアが25~50質量%、スピネルが0~20質量%、カーボン原料が2~8質量%であり、カーボン原料としてカーボンブラックを1質量%以上とする、スライディングノズルプレート耐火物が提案されている。
【0010】
また、特許文献2には、耐火性骨材と金属アルミニウム及びカーボンからなる配合物にバインダーを添加して混練、成形後、1000℃以下の温度で焼成して得られる煉瓦からなるスライディングノズルプレートであって、上記耐火性骨材は、前記配合物量に対して、35~75質量%のマグネシアと20~60質量%のアルミナとからなるものである取鍋用スライディングノズルプレートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2017-149596号公報
【文献】特開2004-141899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記従来技術には以下の問題がある。
【0013】
即ち、上記のようなカルシウム添加鋼用の耐溶損性を高めた、マグネシアを主成分とするスライディングノズルプレートを使用すると、取鍋及びタンディッシュのスライディングノズルプレートの流出孔の内面に介在物が付着し、付着した介在物が連続鋳造中に成長して流出孔を閉塞させることがある。このため、取鍋内の1チャージ分の溶鋼を連続鋳造しきれずに、連続鋳造の中止を余儀なくされたり、他チャージにわたる連々鋳ができなくなったりするなどの問題が生じていた。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、アルミニウムが無添加で、珪素で脱酸され、カルシウムが添加された溶鋼を連続鋳造して鋳片を製造する鋼の連続鋳造方法において、取鍋のスライディングノズルプレートの流出孔への介在物の付着、及び、それによるノズル閉塞の防止と、タンディッシュのスライディングノズルプレートの溶損抑止、及び、スライディングノズルプレートの流出孔への介在物の付着防止と、を両立させることのできる、鋼の連続鋳造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
【0016】
[1]アルミニウムが無添加で、珪素で脱酸され、カルシウムが添加されてカルシウムを含有する溶鋼を連続鋳造して鋳片を製造する鋼の連続鋳造方法であって、アルミナ-ジルコニア-カーボン質耐火物からなる第1のスライディングノズルプレートで構成されるスライディングノズルが設置された取鍋に前記溶鋼を収容し、マグネシア-スピネル質耐火物からなる第2のスライディングノズルプレートで構成されるスライディングノズルが設置されたタンディッシュに、前記取鍋から前記溶鋼を注入し、前記第2のスライディングノズルプレートの流出孔を流下する溶鋼中に不活性ガスを吹き込みながら前記タンディッシュから鋳型に前記溶鋼を注入し、前記溶鋼を連続鋳造することを特徴とする、鋼の連続鋳造方法。
【0017】
[2]前記第1のスライディングノズルプレートは、成分組成で、Alが70~81質量%、SiOが10質量%以下、ZrOが5~18質量%、固定炭素が3~10質量%であることを特徴とする、上記[1]に記載の鋼の連続鋳造方法。
【0018】
[3]前記第2のスライディングノズルプレートは、成分組成で、MgOが89~97質量%、Alが4~7質量%であることを特徴とする、上記[1]または上記[2]に記載の鋼の連続鋳造方法。
【0019】
[4]前記溶鋼は、成分組成で、珪素が1.5質量%以上、酸可溶アルミニウムが0.003質量%以下(ゼロを含む)、全カルシウムが0.001質量%以上であることを特徴とする、上記[1]から上記[3]のいずれかに記載の鋼の連続鋳造方法。
【0020】
[5]前記溶鋼は、成分組成で、炭素が0.0050質量%以下、珪素が1.5~5.0質量%、マンガンが3.0質量%以下、燐が0.2質量%以下、硫黄が0.0050質量%以下、酸可溶アルミニウムが0.003質量%以下(ゼロを含む)、全カルシウムが0.001~0.008質量%であることを特徴とする、上記[4]に記載の鋼の連続鋳造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、アルミニウムが無添加で、珪素で脱酸されたカルシウム添加溶鋼の連続鋳造において、介在物の付着・閉塞が進行しやすい取鍋のスライディングノズルでは、アルミナ主成分の材質のスライディングノズルプレートを用いる。一方、溶鋼中の介在物密度が取鍋内溶鋼よりも少なく、また、耐用性向上が連々鋳のチャージ数向上に直結し、鋳型への溶鋼注入量の制御をより精緻に行なうことが求められるタンディッシュのスライディングノズルにおいては、マグネシア主成分の材質のスライディングノズルプレートを用い、且つ、当該スライディングノズルプレートの流出孔を流下する溶鋼中に不活性ガスを吹き込みながら鋳型内に溶鋼を注入する。これらにより取鍋のスライディングノズルプレートの流出孔への介在物の付着防止及びノズル閉塞の防止と、タンディッシュのスライディングノズルプレートの溶損抑止及びスライディングノズルプレートの流出孔への介在物の付着防止とを両立でき、連続鋳造中止のトラブル防止や連々鋳の実施及び連々鋳チャージ数の向上が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を具体的に説明する。
【0023】
本発明に係る溶鋼の連続鋳造方法は、アルミニウム(Al)が無添加で、珪素(Si)で脱酸され、カルシウム(Ca)が添加されてカルシウムを含有する溶鋼を連続鋳造して鋳片を製造する鋼の連続鋳造方法であって、アルミナ(Al)-ジルコニア(ZrO)-カーボン(C)質耐火物からなる第1のスライディングノズルプレートで構成されるスライディングノズルが設置された取鍋に溶鋼を収容し、マグネシア(MgO)-スピネル(MgAl)質耐火物からなる第2のスライディングノズルプレートで構成されるスライディングノズルが設置されたタンディッシュに、取鍋から溶鋼を注入し、第2のスライディングノズルプレートの流出孔を流下する溶鋼中に不活性ガスを吹き込みながらタンディッシュから鋳型内に溶鋼を注入する。
【0024】
まず、本発明における取鍋のスライディングノズルプレート(以下、単に「プレート」とも記す)の材質の選定理由について説明する。
【0025】
通常、溶鋼中のカルシウムは、溶鋼中、スラグ中、及び、耐火物中のAlと反応して、CaO-Al系酸化物を形成する。このCaO-Al系酸化物は、その融点が溶鋼温度よりも低くなる組成を取り得る。したがって、カルシウム添加鋼を、アルミナを主成分とする材質のスライディングノズルプレートを用いて連続鋳造すると、溶鋼とプレートとの接触部(例えば、流出孔)で溶鋼中のカルシウムがプレート中のAlと反応して、CaO-Al系の低融点酸化物を形成し、また、カルシウム処理で生成して溶鋼中に懸濁するCaO-Al介在物がプレートに付着してプレート中のAlと反応し、CaO-Al系の低融点酸化物を形成する。このCaO-Al系の低融点酸化物の形成によってプレートが溶損する。
【0026】
一方、溶鋼中のカルシウム及びカルシウム処理により生成したCaO-Alが、プレート中のMgOと反応して形成するCaO-MgO系酸化物やCaO-Al-MgO系酸化物は、CaO-Al系酸化物に比較して融点が高く、その融点は多くの場合、溶鋼温度よりも高い。したがって、カルシウム添加鋼を、マグネシアを主成分とする材質のプレートを用いて連続鋳造してもプレートの溶損は生じにくい。
【0027】
しかし、連続鋳造中は溶鋼がプレートの流出孔に接触しながら通過していくので、プレートの流出孔に接触した溶鋼は局所的に冷却される。その際、溶鋼中に懸濁する介在物が、プレートの流出孔に付着して固結する場合がある。そして、介在物の付着が一旦始まると、これを起点として、後続の溶鋼中に懸濁する介在物もこの部分に接触した際に凝集固結し、ついにはノズルが閉塞し、溶鋼注入が継続できない状態まで、介在物の付着成長が進んでいく。
【0028】
そこで、本発明では、取鍋のスライディングノズルプレートである第1のスライディングノズルプレートに、マグネシアを主成分とするプレートを使用せず、アルミナ-ジルコニア-カーボン質耐火物を用いて、プレート流出孔への介在物の付着・固結を防止する。
【0029】
第1のスライディングノズルプレートに、アルミナ-ジルコニア-カーボン質耐火物を用いることにより、溶鋼中のカルシウムやカルシウム処理により生成して溶鋼中に懸濁するCaO-SiO介在物(本発明では、アルミニウムが無添加で珪素キルドである)が、プレート中のAlと反応することによって、プレートが適度に溶損する。スライディングノズルプレートが適度に溶損することで、溶鋼中の介在物は、プレートの流出孔へ付着してもプレートに固結せずに分離する。
【0030】
尚、溶鋼中のカルシウムやCaO-SiO介在物とプレート中のAlとの反応により、プレートが過度に溶損することが懸念される。しかし、アルミニウムが無添加で珪素脱酸されるカルシウム添加鋼種では、通常のアルミニウム脱酸-カルシウム添加鋼よりも溶鋼中のカルシウムの活量が低いので、溶鋼中のカルシウムとプレート中のAlとの反応は穏やかになる。このため、プレートの過度な溶損は生じない。しかも、後述するタンディッシュのスライディングノズルプレートとは異なり、取鍋のスライディングノズルプレートは、連々鋳の場合であっても少なくとも1チャージ分の取鍋内溶鋼をタンディッシュに注入する期間だけ耐用できれば良いので、操業に支障を及ぼすことはない。
【0031】
次に、本発明におけるタンディッシュのスライディングノズルプレートの材質の選定理由について述べる。
【0032】
本発明では、タンディッシュのスライディングノズルプレートである第2のスライディングノズルプレートにマグネシア-スピネル質耐火物を用いる。前述のとおり、アルミナを主成分とする材質のプレートを用いた場合には、溶鋼中のカルシウムやCaO-SiO介在物がプレート中のAlと反応して、プレートが溶損する。タンディッシュのスライディングノズルプレートは、鋳型への溶鋼注入量の制御をより精緻に行なう必要があるので、プレートの溶損は少量であったとしても避ける必要がある。つまり、アルミナを主成分とする材質のプレートはタンディッシュには不適である。
【0033】
一方、第2のスライディングノズルプレートにマグネシア-スピネル質耐火物を用いることで、プレート流出孔への介在物の付着が懸念される。しかし、溶鋼中の介在物の一部は取鍋内やタンディッシュ内で浮上分離されており、溶鋼中の介在物量が減少していることに加え、タンディッシュのプレート流出孔を流下する溶鋼中に不活性ガスの吹込みを行って、プレート流出孔の内面を洗浄することにより、プレート流出孔への介在物の付着が抑制される。このため、タンディッシュのプレートにマグネシアを主成分とする材質のプレートを使用しても流出孔の閉塞は生じず、連々数の向上が可能となる。タンディッシュのプレート流出孔を流下する溶鋼中に不活性ガスを吹込む方法は、スライディングノズルの上方に設置される上ノズルから不活性ガスを吹込んでもよく、また、スライディングノズルプレートの流出孔内面から吹き込んでもよい。
【0034】
本発明における「アルミナ-ジルコニア-カーボン質耐火物」は、少なくとも「アルミナ(Al)」、「ジルコニア(ZrO)」、「固定炭素」を成分組成として含んでいればよい。そして、取鍋のスライディングノズルに用いる第1のスライディングノズルプレートとしては、成分組成で、Alが70~81質量%、SiOが10質量%以下、ZrOが5~18質量%、固定炭素が3~10質量%であることが好ましい。
【0035】
ここで、Alの含有量が70質量%より少ないと、適度な溶損性が得られないので好ましくない。一方、Alの含有量が81質量%より多いと溶損が大きくなり過ぎるので好ましくない。
【0036】
ZrOの添加により、溶鋼中カルシウムに対するプレートの耐食性が向上する。但し、ZrOの含有量が多すぎるとスポーリングを起こしやすくなるので、ZrOの範囲は5~18質量%とすることが好ましい。
【0037】
SiOは、ZrOを添加する際に、ZrOの原料に不可避的に含まれる成分である。SiOが10質量%以下であれば特性に影響を及ぼさないので、SiOの含有量は10質量%以下とすることが好ましい。
【0038】
固定炭素(Fixed Cabon)となる原料は、例えばグラファイトである。その他、カーボンブラックやピッチなどが使用できる。グラファイトなどの添加により、耐火物の耐スポーリング性が改善される。一方、固定炭素の添加量が多すぎると、溶鋼中の酸素と固定炭素中のCとが反応してCOガスとして離脱し、プレートに気孔を形成する。このため、固定炭素の含有量は3~10質量%とすることが好ましい。
【0039】
タンディッシュのスライディングノズルに用いる第2のスライディングノズルプレートとしては、成分組成で、MgOが89~97質量%、Alが4~7質量%であることが好ましい。
【0040】
ここで、MgOが89質量%より少ないと、耐食性が低下するので好ましくない。MgOが97質量%より多いと、耐スポーリング性が低下するので好ましくない。尚、MgOの原料としては、MgOの純度が95質量%以上の焼結マグネシアまたは電融マグネシアを用いることが好ましい。純度が95質量%より低いと、不純物によって低融点物ができやすくなり、耐食性が低下するので好ましくない。
【0041】
第2のスライディングノズルプレートに含有されるAlは、プレートの原料としてスピネルを用いることにより含まれる成分である。スピネルは、MgOとAlとが等モルで化合した化合物であり、MgO側とAl側に固溶度を有する。つまり、本発明における「マグネシア-スピネル質耐火物」は、少なくとも「マグネシア(MgO)」、「スピネル(MgAl)」を成分組成として含んでいればよく、他に、固定炭素を含んでもよい。本発明に用いるスピネル原料としては、AlとMgOとの含有量が95質量%以上で、MgOが10~50質量%のものを用いる。また、焼結スピネルまたは電融スピネルのどちらでもスピネル原料として用いることができる。
【0042】
スピネルを原料として用いることにより、耐火物の耐スポーリング性が改善される。スピネルの配合量が少なく、Al含有量が4質量%未満になると、スピネルによる耐スポーリング性向上効果が十分に得られないので好ましくない。一方、スピネルの配合量が多く、Al含有量が7質量%を超えると、耐食性が低下するので好ましくない。
【0043】
固定炭素となる原料は、例えばグラファイトである。その他、カーボンブラックやピッチなどが使用できる。固定炭素はマグネシア相やスピネル相と混合されて存在する。グラファイトなどの添加により、耐火物の耐スポーリング性が改善される。ただし、固定炭素の添加量が多すぎると、溶鋼中の酸素(O)と固定炭素中の炭素(C)とが反応してCOガスとして離脱し、スライディングノズルプレートに孔を形成する。このため、固定炭素の含有量は1~5質量%とすることがより好ましい。
【0044】
本発明者は、上記の検討結果を、以下に記す実験室実験に基づいて得た。
【0045】
表1に示す水準1のスライディングノズルプレート(マグネシア主成分:マグネシア-スピネル質耐火物)、及び、水準2、水準3のスライディングノズルプレート(アルミナ主成分:アルミナ-ジルコニア-カーボン質耐火物)のそれぞれから試験片を切り出し、珪素で脱酸したカルシウム添加溶鋼に浸漬する実験を行った。浸漬時間は30分、試験片の回転速度は300rpmである。
【0046】
【表1】
【0047】
実験後、各試験片の溶鋼接触界面をSEM観察及びEPMA分析し、CaO-SiO系介在物の付着厚みを調査した。調査結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
表2に示すように、水準1(マグネシア主成分)では、CaO-SiO系介在物の付着が進行した。一方、水準2(アルミナ主成分)及び水準3(アルミナ主成分)では、CaO-SiO系介在物の付着は見られなかった。
【0050】
溶鋼中に存在するCaO-SiO系介在物は試験片表面に一旦付着するが、アルミナ主成分の材質の試験片では、CaO-SiO系介在物と試験片中のAl成分とが反応して、溶鋼温度で液相状態の反応生成物が形成されることで、CaO-SiO系介在物の付着が継続して進行しないことが確認できた。つまり、取鍋のスライディングノズルプレートをアルミナ主成分の材質とすることで、連続鋳造の操業時に、取鍋のスライディングノズルプレートにおいて課題となるプレート流出孔の閉塞トラブルの発生を抑止できることがわかった。
【0051】
本発明に係る溶鋼の連続鋳造方法は、溶鋼の成分組成で、珪素(Si)が1.5質量%以上、酸可溶アルミニウム(sol.Al)が0.003質量%以下(ゼロを含む)、全カルシウム(T.Ca)が0.001質量%以上の溶鋼の連続鋳造に適用すると好適である。ここで、全カルシウムとは、溶鋼に溶解しているカルシウムと溶鋼中の介在物に含まれているカルシウムとの和である。
【0052】
また、本発明に係る溶鋼の連続鋳造方法は、溶鋼の成分組成で、炭素が0.0050質量%以下、珪素が1.5~5.0質量%、マンガンが3.0質量%以下、燐が0.2質量%以下、硫黄が0.0050質量%以下、酸可溶アルミニウムが0.003質量%以下(ゼロを含む)、及び、全カルシウムが0.001~0.008質量%である溶鋼の連続鋳造に適用することが、更に好適である。加えて、当該溶鋼が、無方向性電磁鋼板の素材となる溶鋼であることが好ましい。
【0053】
無方向性電磁鋼板の化学成分を上記のように規定した理由は、以下のとおりである。
【0054】
炭素(C);0.0050質量%以下
炭素は、磁気時効を起こして鉄損を増加させる元素であり、特に、0.0050質量%を超えると、鉄損の増加が顕著となることから、0.0050質量%以下に制限する。好ましくは0.0030質量%以下である。尚、下限については、少ないほど好ましいので、特に規定しない。
【0055】
珪素(Si);1.5~5.0質量%
珪素は、鋼の電気抵抗を高めて鉄損を低減するのに有効な元素である。特に、本発明では、珪素と同じ効果を有するアルミニウムを低減しているために、珪素を1.5質量%以上含有させる。しかし、珪素が5.0質量%を超えると、磁束密度が低下するだけでなく、鋼が脆化し、冷間圧延中に亀裂を生じるなど、製造性を大きく低下させる。よって、上限は5.0質量%とする。
【0056】
マンガン(Mn);3.0質量%以下
マンガンは、珪素と同様、鋼の電気抵抗を高めて鉄損を低減するのに有効な元素である。一方、マンガンが3.0質量%を超えると、磁束密度が低下するので、上限は3.0質量%とする。より好ましくはマンガンを0.05質量%以上含有させる。
【0057】
酸可溶アルミニウム(sol.Al);0.003質量%以下(ゼロを含む)
アルミニウムは、珪素と同様、鋼の電気抵抗を高めて鉄損を低減するのに有効な元素であるが、本発明においては、集合組織を改善し、磁束密度を高める目的から、アルミニウムを低減し、酸可溶アルミニウムで0.003質量%以下に制限する。下限については、少ないほど好ましいので、特に規定しない。
【0058】
燐(P);0.2質量%以下
燐は、微量の含有量で鋼の硬さを高める効果が大きい有用な元素であり、要求される硬さに応じて適宜含有させる。しかし、燐の過剰な含有は、冷間圧延性の低下をもたらすので、燐の上限は0.2質量%とする。
【0059】
硫黄(S);0.0050質量%以下
硫黄は、硫化物となって介在物を形成し、製造性(熱間圧延性)や製品鋼板の磁気特性を低下させるので、少ないほど好ましい。そこで、本発明においては、上限は0.0050質量%まで許容されるが、磁気特性を重視する場合には、0.0025質量%以下とすることが好ましい。尚、硫黄は少ないほど好ましいので、下限は特に規定しない。
【0060】
全カルシウム(T.Ca);0.001~0.008質量%
カルシウムは、CaSとなって粗大な硫化物を形成し、MnSなどの微細な硫化物の析出を抑制するので、結晶粒の成長を改善して鉄損を低減する効果がある。このため、全カルシウムは0.001質量%以上とする。一方で、全カルシウムが0.008質量%を超えると、カルシウムの硫化物や酸化物の量が増加して結晶粒の成長を阻害し、却って鉄損特性が低下する。したがって、全カルシウムの上限を0.0080質量%とする。
【0061】
以上説明したように、本発明によれば、取鍋のスライディングノズルプレートの流出孔への介在物の付着防止及びノズル閉塞の防止と、タンディッシュのスライディングノズルプレートの溶損抑止及びスライディングノズルプレートの流出孔への介在物の付着防止とを両立でき、連続鋳造中止のトラブル防止や連々鋳の実施及び連々鋳チャージ数の向上が可能になる。
【実施例
【0062】
表1に示す水準1の材質のプレート(マグネシア主成分)、及び、水準2または水準3の材質のプレート(アルミナ主成分)を取鍋のスライディングノズル及びタンディッシュのスライディングノズルに用い、アルミニウムが無添加で、珪素で脱酸したカルシウム添加溶鋼(溶鋼量は1チャージ250トン)の連続鋳造を行った。カルシウム添加溶鋼の成分は、炭素が0.0050質量%以下、珪素が3.5~5.0質量%、マンガンが3.0質量%以下、燐が0.02質量%以下、硫黄が0.0010質量%以下、酸可溶アルミニウムが0.003質量%以下、及び、全カルシウムが0.001~0.003質量%である。
【0063】
取鍋のスライディングノズルにマグネシア主成分の材質のプレートを適用し、タンディッシュのスライディングノズルにアルミナ主成分の材質のプレートを適用した場合(従来方式1)、取鍋のスライディングノズル及びタンディッシュのスライディングノズルの双方にマグネシア主成分の材質のプレートを適用した場合(従来方式2)、取鍋のスライディングノズルにアルミナ主成分の材質のプレートを適用し、タンディッシュのスライディングノズルにマグネシア主成分の材質のプレートを適用した場合(本発明方式)について、タンディッシュのスライディングノズルの耐用数(連々鋳のチャージ数)及び取鍋のスライディングノズル閉塞トラブル発生率を比較する試験を実施した。試験結果を表3に示す。尚、水準2の材質のプレートと水準3の材質のプレートとで、試験結果に差は見られず、表3は水準2の材質のプレートを使用したときの結果である。
【0064】
【表3】
【0065】
表3に示すように、従来方式1では、タンディッシュのアルミナ主成分の材質のスライディングノズルプレートが溶鋼中カルシウムによって溶損され、連々鋳のチャージ数は2チャージであった。また、取鍋のスライディングノズルでは、CaO-SiO系介在物の付着による閉塞トラブルが、チャージ数の4%程度の割合で発生した。
【0066】
従来方式2では、タンディッシュのスライディングノズルプレートに高耐食性のマグネシア主成分の材質のプレートを用いることで、連々鋳のチャージ数は5チャージまで向上した。一方、取鍋のスライディングノズルでは、従来方式1と同様にCaO-SiO系介在物の付着による閉塞トラブルが、チャージ数の4%程度の割合で発生した。
【0067】
本発明方式では、取鍋のスライディングノズルプレートとして、溶鋼中のCaO-SiO系介在物と液相の反応生成物を生ずるアルミナ主成分の材質のプレートを適用することで、取鍋のスライディングノズルにおける介在物閉塞トラブルの発生を解消できた。
【0068】
また、タンディッシュのスライディングノズルプレートでは、取鍋及びタンディッシュにおける介在物浮上分離効果、及び、タンディッシュのプレート流出孔を流下する溶鋼への不活性ガス吹き込みによる洗浄効果によって、介在物の付着が抑制されており、マグネシア主成分の材質のプレートを適用することで、連々鋳のチャージ数は5チャージまで向上した。