(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】冷鉄源溶解率推定装置、転炉型精錬炉制御装置、冷鉄源溶解率推定方法及び溶融鉄の精錬処理方法
(51)【国際特許分類】
C21C 5/30 20060101AFI20231108BHJP
【FI】
C21C5/30 Z
(21)【出願番号】P 2022554546
(86)(22)【出願日】2022-06-14
(86)【国際出願番号】 JP2022023807
(87)【国際公開番号】W WO2023017674
(87)【国際公開日】2023-02-16
【審査請求日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2021130433
(32)【優先日】2021-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】横森 玲
(72)【発明者】
【氏名】川畑 涼
(72)【発明者】
【氏名】菊池 直樹
(72)【発明者】
【氏名】杉野 智裕
(72)【発明者】
【氏名】加瀬 寛人
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-132809(JP,A)
【文献】特開2005-206901(JP,A)
【文献】特開平05-009538(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111235339(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 5/28-5/50
C21C 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉型精錬炉における溶融鉄の精錬に際し、前記転炉型精錬炉に装入された冷鉄源の精錬中での溶解率を推定する冷鉄源溶解率推定装置であって、
精錬中の溶融鉄温度及び溶融鉄中炭素濃度を含む炉内情報の測定値または炉内情報の推定値が
時々刻々入力される入力部と、
前記転炉型精錬炉における溶融鉄の精錬反応に関するモデル式及びパラメーターを格納するデーターベース部と、
前記入力部に入力された前記測定値または前記推定値
と、前記データーベース部に格納されたモデル式及びパラメーターとを用いて、
時々刻々の前記冷鉄源の溶解率を計算する計算部と、
前記計算部で計算された冷鉄源の溶解率を表示する出力部と、
を備え
、
前記計算部は、伝熱計算にハイスラー線図の情報を用いた冷鉄源溶解モデルを用いて溶融鉄と冷鉄源との界面の温度である界面温度を算出し、
前記界面温度から界面の炭素濃度である界面炭素濃度を算出し、
前記界面炭素濃度及び入力された溶融鉄中炭素濃度を用いて溶融鉄と冷鉄源との界面近傍での炭素物質収支計算を行うことで前記冷鉄源の溶解速度を算出し、
前記溶解速度を用いて冷鉄源の溶解率を計算し、
前記計算部は、前記入力部から入力される前記溶融鉄温度及び前記溶融鉄中炭素濃度が、前記冷鉄源が完全溶解していると仮定して算出された推定値である場合、入力される前記溶融鉄温度及び前記溶融鉄中炭素濃度を、前回の計算で得られた前記溶解率を用いて算出することで補正し、補正した後の溶融鉄温度及び溶融鉄中炭素濃度を使用する、冷鉄源溶解率推定装置。
【請求項2】
前記出力部は、前記転炉型精錬炉を操業するオペレーターに監視可能に表示される、請求項1に記載の冷鉄源溶解率推定装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の冷鉄源溶解率推定装置と、
前記精錬の終了時での溶融鉄温度及び溶融鉄成分濃度を目標値とするために供給すべき酸素量、並びに、冷却材または昇熱材の投入要否及び投入量を算出するプロセスコンピューターと、
前記プロセスコンピューターによって算出された酸素量、及び、冷却材または昇熱材の投入量に基づき、前記精錬の終了時での溶融鉄温度及び溶融鉄成分濃度が目標値になるように、操業条件を制御する操業制御用コンピューターと、
を備える、転炉型精錬炉制御装置。
【請求項4】
転炉型精錬炉を用いて溶融鉄を精錬する際に、前記転炉型精錬炉に装入された冷鉄源の精錬中での溶解率を、計算機を使用して推定する冷鉄源溶解率推定方法であって、
精錬中の溶融鉄温度及び溶融鉄中炭素濃度を含む炉内情報の測定値または炉内情報の推定値を前記計算機に
時々刻々入力する入力ステップと、
前記計算機に入力された前記測定値または前記推定値と、
前記転炉型精錬炉における溶融鉄の精錬反応に関するモデル式及びパラメーターと、を用いて
、時々刻々の前記冷鉄源の溶解率を計算する計算ステップと、
前記計算ステップで計算された冷鉄源の溶解率を出力する出力ステップと、
を備え
、
前記計算ステップでは、伝熱計算にハイスラー線図の情報を用いた冷鉄源溶解モデルを用いて溶融鉄と冷鉄源との界面の温度である界面温度を算出し、
前記界面温度から界面の炭素濃度である界面炭素濃度を算出し、
前記界面炭素濃度及び入力された溶融鉄中炭素濃度を用いて溶融鉄と冷鉄源との界面近傍での炭素物質収支計算を行うことで前記冷鉄源の溶解速度を算出し、
前記溶解速度から冷鉄源の溶解率を計算し、
前記入力ステップで入力される前記溶融鉄温度及び前記溶融鉄中炭素濃度が、前記冷鉄源が完全溶解していると仮定して算出された推定値である場合、入力される前記溶融鉄温度及び前記溶融鉄中炭素濃度を、前回の計算で得られた前記溶解率を用いて算出することで補正し、補正した後の溶融鉄温度及び溶融鉄中炭素濃度を前記計算ステップで使用する、冷鉄源溶解率推定方法。
【請求項5】
前記精錬が、溶銑の予備脱燐処理である、
請求項4に記載の冷鉄源溶解率推定方法。
【請求項6】
請求項4に記載の冷鉄源溶解率推定方法を用いて、溶融鉄の精錬中での冷鉄源溶解率を監視し、精錬終了時点で冷鉄源の溶け残りが発生すると予想される場合は、昇熱剤の添加または精錬処理時間の延長のいずれか一方または双方を実施する、溶融鉄の精錬処理方法。
【請求項7】
前記精錬が、溶銑の予備脱燐処理である、
請求項6に記載の溶融鉄の精錬処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉型精錬炉に収容された溶融鉄に酸素ガスを供給して溶融鉄を酸化精錬する溶融鉄の精錬において、転炉型精錬炉に装入した冷鉄源の溶解率をリアルタイムで推定する冷鉄源溶解率推定装置、及び、当該冷鉄源溶解率推定装置を具備する転炉型精錬炉制御装置に関する。また、転炉型精錬炉に装入した冷鉄源の溶解率をリアルタイムで推定する冷鉄源溶解率推定方法及び当該冷鉄源溶解率推定方法を用いた溶融鉄の精錬処理方法に関する。ここで、「溶融鉄」とは、溶銑または溶鋼のいずれかを意味しており、溶銑と溶鋼とを明確に区別できる場合には、「溶銑」または「溶鋼」と記載する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止の観点から、鉄鋼業界においてもCO2ガス発生量の低減が求められている。高炉法では、鉄鉱石を炭素で還元して溶銑を製造しており、溶銑1トンを製造するためには、500kg程度の炭素源が必要である。一方、冷鉄源を転炉型精錬炉で溶解して溶銑や溶鋼を製造すれば炭素による還元工程を経ずに溶銑や溶鋼を製造できる。このように、溶銑や溶鋼を同量の冷鉄源に置き換えることで、製造される溶融鉄(溶銑または溶鋼)1トンあたりCO2ガス約1.5トンの低減が見込まれる。すなわち、溶銑または溶鋼の生産量を維持しつつCO2ガスの発生を抑制するためには、製鋼工程において、冷鉄源の使用量を増加させることが有効といえる。
【0003】
しかしながら、転炉型精錬炉において溶銑に冷鉄源を配合した原料を精錬して脱燐溶銑や溶鋼を製造する際には、冷鉄源の昇温及び溶解に伴う吸熱を補償する必要がある。この熱は、精錬の際に吹き込まれる酸素と、溶銑中に不純物元素として含有される炭素及び珪素との反応熱で賄われている。
【0004】
したがって、冷鉄源の使用量を増すために、溶銑配合率を低下させた場合には、溶銑中に含有される炭素及び珪素の反応熱だけでは熱量不足となり、精錬中に冷鉄源が溶解しきれないおそれがある。溶銑配合率とは、全装入量(溶銑装入量と冷鉄源装入量との合計)に対する溶銑装入量の割合(百分率)である。特に、転炉型精錬炉における溶銑の予備脱燐処理では、熱力学的に低温での脱燐が有利であるので、溶銑の処理温度は最高でも1400℃前後である。溶銑の予備脱燐処理の温度は、転炉型精錬炉における溶銑の脱炭処理(以後、「脱炭精錬」とも記載する。)の温度に比べて低温であることから、冷鉄源の未溶解が懸念される。
【0005】
未溶解の冷鉄源は、精錬後に当該チャージを出湯した後も炉底に残留する。その場合、当該転炉型精錬炉を用いた次チャージの転炉型精錬炉での溶銑処理では、溶け残った冷鉄源を溶解させるために、溶銑配合率を上げる必要が生じるので、冷鉄源の使用量は増加しない。その他にも、当該精錬が溶銑の予備脱燐処理の場合には、出湯量が不足し、別途溶銑を追加して次工程の脱炭処理を行う必要があるといった操業阻害が発生する。さらに、炉底に冷鉄源の地金が付着した場合には、底吹羽口の閉塞によって炉内溶湯の撹拌が悪化し、精錬能が低下するといった冶金上のデメリットが発生する。
【0006】
以上のことから、転炉型精錬炉を用いた溶融鉄の精錬において冷鉄源を装入する際には、特に、溶銑の予備脱燐処理において冷鉄源を装入する際には、精錬中における炉内の冷鉄源の溶け残りの有無を把握することが重要である。
【0007】
冷鉄源の溶け残りの有無を把握する方法としては、センシングにより冷鉄源の完全溶解タイミングを判定する方法が主であり、これらの方法は電気炉に用途を限定したものが多い。
【0008】
一方、転炉型精錬炉においては、冷鉄源の溶け残りの有無を把握する方法の提案は少ないが、例えば、特許文献1には、炉体側壁に埋設した測温プローブによって耐火物温度を炉体側壁の厚み方向に多点測定し、得られた温度勾配と耐火物残厚とから、溶銑と接触する側の耐火物表面温度を連続推定する方法が提案されている。これは、炉内の冷鉄源が完全溶解した以降は、炉内の溶銑の温度上昇速度が増すことに着目した方法であり、溶銑と接触する側の耐火物表面温度の推移から冷鉄源の完全溶解時期を判定可能としている。
【0009】
また、実操業への適用例は乏しいものの、冷鉄源の溶解挙動を予測する一次元伝熱モデル(以後、冷鉄源の溶解挙動を計算によって予測する伝熱モデルを「冷鉄源溶解モデル」と記載する。)は多く報告されている。例えば、非特許文献1、2に記載の冷鉄源溶解モデルでは、溶融鉄-冷鉄源間の熱伝達係数及び溶融鉄の物質移動係数を仮定することにより、精度良く冷鉄源の溶解挙動を予測可能としている。冷鉄源溶解モデルを実操業に適用するためには、センシングなどによって得られた溶融鉄温度、溶融鉄中炭素濃度などの情報を逐次入力する必要がある。冷鉄源溶解モデルの計算では、冷鉄源の完全溶解タイミングのみでなく時々刻々の冷鉄源溶解率が得られるので、溶融鉄の精錬中に冷鉄源未溶解の発生を予測可能という利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献】
【0011】
【文献】川上正博、高谷浩一、リヴィウ ブラビエ、鉄と鋼、vol.85(1999)No.9.p.658-665
【文献】磯部浩一、前出弘文、小沢浩作、梅沢一誠、斉藤力、鉄と鋼、vol.76(1990)No.11.p.2033-2040
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記従来技術には以下の問題がある。即ち、特許文献1では、冷鉄源の完全溶解タイミングが判定の基準となる、溶銑と接触する側の耐火物表面温度の上昇速度の閾値には言及しておらず、判定はオペレーターの主観に左右される。加えて、実操業では上底吹ガスの流量変更などの要因によっても、溶銑と接触する側の耐火物表面温度の推移が変化するので、誤判定や判定遅れの懸念が大きい。
【0013】
また、非特許文献1、2に記載されているような従来の冷鉄源溶解モデルでは、下記の(1)式に示す一次元伝熱式を用いて、冷鉄源内部の温度分布及び界面温度を計算するものが一般的である。
【0014】
【0015】
ここで、上記(1)式において、TSは冷鉄源の温度(K)であり、tは時間(s)であり、αSは冷鉄源の熱拡散率(m2/s)であり、xは冷鉄源中の厚み方向位置(m)である。
【0016】
コンピューター上で(1)式を計算する際は離散化して扱われる。このため、冷鉄源の溶解挙動推定の精度向上のために計算メッシュを細かくすると、計算コストが膨れ上がり、計算に時間を要するという問題がある。実操業における冷鉄源の溶解挙動のリアルタイム推定のためには、計算時間を精錬時間よりも大巾に短くする必要がある。
【0017】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、転炉型精錬炉を用いた溶融鉄の精錬において、精錬中における冷鉄源の溶解率をモデル計算によってリアルタイムで推定し、冷鉄源未溶解の発生を予測するにあたり、計算コストを抑え、短時間で精度良く、且つ、オペレーターの主観に左右されることなく冷鉄源溶解挙動を推定可能な冷鉄源溶解率推定装置、転炉型精錬炉制御装置、冷鉄源溶解率推定方法、及び、溶銑の精錬処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
【0019】
[1] 転炉型精錬炉における溶融鉄の精錬に際し、前記転炉型精錬炉に装入された冷鉄源の精錬中での溶解率を推定する冷鉄源溶解率推定装置であって、精錬中の溶融鉄温度及び溶融鉄中炭素濃度を含む炉内情報の測定値または炉内情報の推定値が入力される入力部と、前記転炉型精錬炉における溶融鉄の精錬反応に関するモデル式及びパラメーターを格納するデーターベース部と、前記入力部に入力された前記測定値または前記推定値を用いて前記冷鉄源の溶解率を計算する計算部と、前記計算部で計算された冷鉄源の溶解率を表示する出力部と、を備える、冷鉄源溶解率推定装置。
[2] 前記出力部は、前記転炉型精錬炉を操業するオペレーターに監視可能に表示される、[1]に記載の冷鉄源溶解率推定装置。
[3] [1]または[2]に記載の冷鉄源溶解率推定装置と、前記精錬の終了時での溶融鉄温度及び溶融鉄成分濃度を目標値とするために供給すべき酸素量、並びに、冷却材または昇熱材の投入要否及び投入量を算出するプロセスコンピューターと、前記プロセスコンピューターによって算出された酸素量、及び、冷却材または昇熱材の投入量に基づき、前記精錬の終了時での溶融鉄温度及び溶融鉄成分濃度が目標値になるように、操業条件を制御する操業制御用コンピューターと、を備える、転炉型精錬炉制御装置。
[4] 転炉型精錬炉を用いて溶融鉄を精錬する際に、前記転炉型精錬炉に装入された冷鉄源の精錬中での溶解率を、計算機を使用して推定する冷鉄源溶解率推定方法であって、精錬中の溶融鉄温度及び溶融鉄中炭素濃度を含む炉内情報の測定値または炉内情報の推定値を前記計算機に入力する入力ステップと、前記計算機に入力された前記測定値または前記推定値と、モデル式及びパラメーターと、を用いて冷鉄源の溶解率を計算する計算ステップと、前記計算ステップで計算された冷鉄源の溶解率を出力する出力ステップと、
を備える、冷鉄源溶解率推定方法。
[5] 前記入力ステップで入力される前記溶融鉄温度及び前記溶融鉄中炭素濃度が、1ステップ前の前記計算ステップで得られた冷鉄源溶解率を考慮せずに計算された推定値である場合、入力される前記溶融鉄温度及び前記溶融鉄中炭素濃度を、1ステップ前の冷鉄源の溶解率に応じて補正し、補正した後の溶融鉄温度及び溶融鉄中炭素濃度を前記計算ステップで使用する、[4]に記載の冷鉄源溶解率推定方法。
[6] 前記計算ステップは、入力された溶融鉄温度を用いて伝熱計算を行い、溶融鉄と冷鉄源との界面の温度である界面温度を算出する工程と、前記界面温度から溶融鉄と冷鉄源との界面の炭素濃度である界面炭素濃度を算出する工程と、前記界面炭素濃度及び入力された溶融鉄中炭素濃度を用いて溶融鉄と冷鉄源との界面近傍での炭素物質収支計算を行い、冷鉄源の溶解速度を算出する工程と、を含む、[4]に記載の冷鉄源溶解率推定方法。
[7] 前記計算ステップは、入力された溶融鉄温度を用いて伝熱計算を行い、溶融鉄と冷鉄源との界面の温度である界面温度を算出する工程と、前記界面温度から溶融鉄と冷鉄源との界面の炭素濃度である界面炭素濃度を算出する工程と、前記界面炭素濃度及び入力された溶融鉄中炭素濃度を用いて溶融鉄と冷鉄源との界面近傍での炭素物質収支計算を行い、冷鉄源の溶解速度を算出する工程と、を含む、[5]に記載の冷鉄源溶解率推定方法。
[8] 前記伝熱計算が、ハイスラー線図の情報を用いた計算である、[6]に記載の冷鉄源溶解率推定方法。
[9] 前記伝熱計算が、ハイスラー線図の情報を用いた計算である、[7]に記載の冷鉄源溶解率推定方法。
[10] 前記精錬が、溶銑の予備脱燐処理である、[4]から[9]のいずれか1つに記載の冷鉄源溶解率推定方法。
[11] [4]から[9]のいずれか1つに記載の冷鉄源溶解率推定方法を用いて、溶融鉄の精錬中での冷鉄源溶解率を監視し、精錬終了時点で冷鉄源の溶け残りが発生すると予想される場合は、昇熱剤の添加または精錬処理時間の延長のいずれか一方または双方を実施する、溶融鉄の精錬処理方法。
[12] 前記精錬が、溶銑の予備脱燐処理である、[11]に記載の溶融鉄の精錬処理方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、計算コストを抑え、短時間で精度良く、且つ、オペレーターの主観に左右されることなく、転炉型精錬炉を用いた溶融鉄の精錬における冷鉄源の溶解挙動を推定できる。更に、本発明に係る冷鉄源溶解モデルによって、冷鉄源の完全溶解タイミングだけでなく、時々刻々の冷鉄源溶解率を推定するので、精錬中に冷鉄源未溶解の発生も予測できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る冷鉄源溶解率推定装置を備えた転炉型精錬炉の概略図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る冷鉄源溶解率推定装置における鉄スクラップ溶解率計算のフローチャートである。
【
図3】
図3は、実施例1において、実験結果と本実施形態に係る冷鉄源溶解モデルによる計算結果とを比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態の一例を説明する。
図1は、本発明に係る冷鉄源溶解率推定装置を備えた転炉型精錬炉の概略図である。
図1において、符号1は転炉型精錬炉、2は転炉型精錬炉制御装置、3はプロセスコンピューター、4は操業制御用コンピューター、5は冷鉄源溶解率推定装置、6は入力部、7はデーターベース部、8は計算部、9は出力部、10はオペレーター、11は溶銑、12はスラグ、13は攪拌用ガス、14は上吹きランスである。転炉型精錬炉制御装置2は、プロセスコンピューター3、操業制御用コンピューター4及び冷鉄源溶解率推定装置5を備えている。
【0023】
転炉型精錬炉1では、炉内に装入された溶銑11に向けて上吹きランス14から酸素ガス(工業用純酸素)が供給され、且つ、炉底に設置された羽口(図示せず)から攪拌用ガス13が炉内の溶銑11に吹き込まれるように構成されている。つまり、炉内に装入された溶銑11は、攪拌用ガス13によって攪拌されながら、上吹きランス14から供給される酸素ガスによって酸化精錬されるように構成されている。尚、上吹きランス14から炉内の溶銑11に向けて酸素ガスを供給して酸化精錬することを「吹錬」ともいう。
【0024】
転炉型精錬炉1では、一般的に、精錬処理方法として、溶銑11の予備脱燐処理、及び、溶銑11の脱炭処理が行われる。
【0025】
溶銑11の予備脱燐処理では、まず、スクラップシュート(図示せず)を用いて冷鉄源として鉄スクラップを転炉型精錬炉1に装入し、その後、装入鍋(図示せず)を用いて炉内に溶銑11を装入する。溶銑11の装入後に上吹きランス14から酸素ガスを供給し、炉底の羽口から攪拌用ガス13として窒素ガスなどの不活性ガスを供給し、昇熱材、媒溶剤などの副原料を適時添加して、溶銑11の予備脱燐処理を行う。
【0026】
転炉型精錬炉1における溶銑11の予備脱燐処理は、通常、酸素ガスで溶銑中の燐を酸化して燐酸化物(P2O5)を形成させ、形成させた燐酸化物をCaO系媒溶剤の滓化によって生成するスラグ12に3CaO・P2O5(=Ca3(PO4)2)なる安定形態で固定することによって行われている。溶銑11の予備脱燐処理では、炉内の溶銑11の燐濃度が所定値(例えば、0.050質量%以下)になったら、予備脱燐処理を終了する。予備脱燐処理後、炉内には脱燐処理された溶銑(「脱燐溶銑」という)が生成される。
【0027】
溶銑11の脱炭処理方法では、まず、スクラップシュートを用いて鉄スクラップを炉内へ装入し、その後、装入鍋を用いて溶銑11を炉内へ装入する。溶銑11の装入後に、上吹きランス14から酸素ガスを供給し、炉底の羽口から攪拌用ガス13を供給し、冷却材、昇熱材、媒溶剤などの副原料を適時添加して、溶銑11の脱炭処理を行う。
【0028】
溶銑11の脱炭処理は、酸素ガスと溶融鉄中炭素との脱炭反応(C+O→CO)によって進行し、炉内の溶融鉄の炭素濃度が所定値(例えば0.05質量%以下)になるまで、脱炭処理が行われる。脱炭処理後、炉内では溶銑が脱炭処理されて、溶鋼が生成される。ここで、「溶融鉄」とは、溶銑または溶鋼のいずれかである。溶銑11の脱炭処理では炉内の溶銑は、脱炭処理の進行に伴って溶鋼に変わる。脱炭処理中の炉内の溶湯を溶銑と溶鋼とに区別して表示することは困難であるので、溶銑と溶鋼とをまとめて「溶融鉄」と記載する。
【0029】
プロセスコンピューター3は、予備脱燐処理終了時での溶銑温度及び溶銑成分濃度、並びに、脱炭処理終了時での溶融鉄温度及び溶融鉄成分濃度を目標値とするために供給すべき酸素量、並びに、冷却材または昇熱材の投入要否及び投入量を算出する装置である。
【0030】
操業制御用コンピューター4は、プロセスコンピューター3によって算出された酸素量及び冷却材または昇熱材の投入量に基づき、予備脱燐処理終了時での溶銑温度、溶銑成分濃度、及び、脱炭処理終了時での溶融鉄温度(溶鋼温度)、溶融鉄成分濃度(溶鋼成分濃度)が目標値になるように、操業条件(酸素ガス供給量、ランス高さ、攪拌用ガス供給量、副原料投入量など)を制御する装置である。操業制御用コンピューター4の信号は、精錬をより一層精度良く制御するために、プロセスコンピューター3にフィードバックされる。
【0031】
以下、本実施形態に係る冷鉄源溶解率推定装置5を転炉型精錬炉1における溶銑11の予備脱燐処理で使用する場合を例として説明する。
【0032】
冷鉄源溶解率推定装置5は、転炉型精錬炉制御装置2の一部を構成する計算機であって、入力部6と、データーベース部7と、計算部8と、出力部9とを備える。入力部6には、予備脱燐処理の開始前の溶銑温度及び溶銑中炭素濃度または予備脱燐処理中の溶銑温度及び溶銑中炭素濃度を含む炉内情報の測定値または推定値が逐次入力される。データーベース部7には、転炉型精錬炉1における溶銑11の脱燐反応に関するモデル式及びパラメーターが格納される。計算部8は、炉内情報が入力部6に入力されると、入力された炉内情報を用いて炉内の冷鉄源の溶解率計算を行う。出力部9は、計算部8による冷鉄源の溶解率計算結果を逐次出力する。
【0033】
冷鉄源溶解率推定装置5における鉄スクラップ溶解率計算のフローチャートを
図2に示す。
【0034】
入力部6には、当該チャージの溶銑装入量及び銘柄毎の鉄スクラップ装入量が入力される(入力ステップ:S-1)。また、入力部6には、時々刻々の溶銑温度及び溶銑中炭素濃度の値が入力される。これらの時々刻々の溶銑温度及び溶銑中炭素濃度の値の他、底吹される時々刻々の攪拌用ガス流量などが入力される(入力ステップ:S-2)。時々刻々の溶銑温度などの値が入力される時間間隔は、例えば1分毎でもよいし、30秒毎でもよいし、5秒毎でもよい。
【0035】
ここで、時々刻々の溶銑温度及び溶銑中炭素濃度の値は測定値を用いてもよいが、測定値を用いる場合、分析や測定に時間を要するので、入力の時間間隔を短くすることができない。一方、精錬中に転炉型精錬炉1から排出される排ガス情報などに基づいて時々刻々の溶銑温度及び溶銑中炭素濃度を推定すれば短時間で溶銑温度及び溶銑中の炭素濃度を取得できる。このため、溶銑温度の推定値及び溶銑中炭素濃度の推定値を入力値として用いることが好ましい。
【0036】
溶銑温度及び溶銑中炭素濃度の時々刻々の推定は、次のようにして行うことができる。まず、溶銑中炭素の燃焼に使用された酸素量を、送酸量や投入した酸化鉄などの酸素インプット量と、排ガス流量及び排ガス成分(COガス濃度、CO2ガス濃度、O2ガス濃度など)から得られる酸素アウトプット量とから、炉内酸素収支が最小となるように補正計算をすることで求める。そして、溶銑中炭素の燃焼に使用された酸素量から燃焼した溶銑中の炭素量を求め、燃焼した溶銑中の炭素量から溶銑中炭素濃度を推定する。その際、計算された炭素濃度の変化を反応熱に変換することで、溶銑温度を推定する。
【0037】
尚、溶銑温度及び溶銑中炭素濃度は、鉄スクラップの溶解に伴って変化するが、上記の推定値をそのまま用いる場合には、鉄スクラップ溶解の影響を考慮できない。このため、後述するように、鉄スクラップが完全溶解していると仮定して算出した推定値を用いればよい。一方、底吹される攪拌用ガス流量は実際に流量計で測定される実績値を用いればよい。
【0038】
データーベース部7には、溶銑11の精錬反応(例えば、「脱燐反応」や「脱炭反応」など)や伝熱に関するモデル式及びパラメーターや物性値が格納される。パラメーターは、鉄スクラップの初期厚み、鉄スクラップの初期温度などである。これらのパラメーターは鉄スクラップの銘柄毎に入力される。また、物性値は、鉄スクラップの溶解潜熱や溶銑の比熱などである。
【0039】
計算部8は、データーベース部7からモデル式及びパラメーターや物性値を呼び出すとともに、逐次入力される溶銑温度及び溶銑中炭素濃度を入力部6から読み出して、パラメーターや物性値とともにモデル式に入力し、冷鉄源の溶解率を計算する(計算ステップ:S-3)。冷鉄源の溶解率の計算は、溶銑温度及び溶銑中炭素濃度が入力部6に入力される都度、または、溶銑温度及び溶銑中炭素濃度が入力部6に複数回(但し、20回以下)入力される毎に行われる。
【0040】
ここで、冷鉄源の溶解率の計算は、入力された溶銑温度を用いて伝熱計算を行なって溶融鉄と冷鉄源との界面の温度である界面温度を算出する工程と、算出した界面温度から界面の炭素濃度である界面炭素濃度を算出する工程と、前記界面炭素濃度及び入力された溶銑中炭素濃度を用いて界面近傍での炭素物質収支計算を行なって冷鉄源の溶解速度を算出する工程と、から構成されることが好ましい。また、伝熱計算は、後述するようにハイスラー線図の情報を用いた方法を採用することが好ましい。ハイスラー線図の情報を用いた方法によれば、計算時間をより短くすることができる。
【0041】
出力部9は、計算部8で計算された冷鉄源の溶解率を表示する装置であって、例えば、液晶ディスプレイである。出力部9は、計算部8で計算された冷鉄源の溶解率を、転炉型精錬炉1を操業するオペレーター10に監視可能に表示する(出力ステップ:S-4)。
【0042】
転炉型精錬炉1のオペレーター10は、出力部9の表示を見て当該チャージの処理中に、その時点でどの程度の鉄スクラップが溶解しているかを確認できる。そして、鉄スクラップの溶解の程度に応じたアクションを取ることができる。
【0043】
計算部8における、具体的な冷鉄源溶解率の計算内容を以下に示す。尚、鉄スクラップの物性値や溶解速度などの鉄スクラップに関する式は、鉄スクラップの銘柄毎に計算するものとする。
【0044】
計算で用いる溶銑の質量、温度及び炭素濃度は、それぞれ下記の(2)式~(4)式で表される。
【0045】
【0046】
ここで、Wは溶銑質量[ton]であり、W0は溶銑装入量[ton]であり、Smは鉄スクラップ溶解率[質量%]であり、WS0は鉄スクラップ装入量[ton]であり、Tは冷鉄源溶解率計算に用いる溶銑温度[K]であり、T0は入力部に入力された溶銑温度[℃]であり、Hmは鉄スクラップの溶解潜熱[MJ/ton]であり、CPは溶銑の比熱[kJ/(kg×K)]であり、Cは冷鉄源の溶解率計算に用いる溶銑中炭素濃度[質量%]であり、C0は入力部に入力された溶銑中炭素濃度[質量%]であり、CSは鉄スクラップの炭素濃度[質量%]であり、WSは未溶解鉄スクラップ質量[ton]である。尚、添え字「t-1」は1ステップ前の計算で得られた値を示し、以下、同様である。
【0047】
溶銑温度及び溶銑中炭素濃度は、鉄スクラップの溶解に伴って変化する。そのため、計算精度を高めるためには、1ステップ前で計算された鉄スクラップ溶解率が反映された溶銑温度及び溶銑中炭素濃度を入力値とし、次のステップの計算を行なうことが好ましい。しかしながら、この方法を行なうためには繰り返し計算が必要になり、計算時間を要する。一方、鉄スクラップ溶解率を考慮しない溶銑温度及び溶銑中炭素濃度の推定値を用いる場合は、鉄スクラップ溶解の影響を考慮できないので計算精度が低下する。
【0048】
このため、鉄スクラップが完全溶解していると仮定して算出した溶銑温度及び溶銑中炭素濃度の推定値を補正して用いることが好ましい。ここで、(3)式及び(4)式は、入力部6に入力される溶銑温度及び溶銑中炭素濃度が、鉄スクラップが完全溶解していると仮定して算出した推定値である場合に、1ステップ前の計算で得られた冷鉄源溶解率に応じた溶銑温度及び溶銑中炭素濃度に補正する式である。
【0049】
(3)式及び(4)式で得られた補正値を冷鉄源溶解率計算に用いることにより、計算精度が向上する。尚、(3)式及び(4)式で得られた補正値は冷鉄源溶解率計算に用いるのみであり、次のステップの溶銑温度推定及び溶銑中炭素濃度推定の計算へのフィードバックは行わない。
【0050】
計算で用いる溶銑の物性値などは、例えば、下記の(5)式~(12)式によって計算することができる。
【0051】
【0052】
【0053】
ここで、ρは溶銑の密度[ton/m3]であり、εBは底吹きされる攪拌用ガスによる攪拌動力[kW/ton]であり、QBは攪拌用ガスの流量[Nm3/min]であり、gは重力加速度[m/s2]であり、L0は転炉型精錬炉内の浴深[m]であり、Pは炉内雰囲気圧[Pa]であり、hは熱伝達率[W/(m2×K)]であり、Dは溶銑の拡散係数[m2/s]であり、αは溶銑の熱拡散率[m2/s]であり、λは溶銑の熱伝導率[W/(m×K)]であり、μは溶銑の粘度[mPa×s]であり、kは溶銑の物質移動係数[m/s]であり、Scはシュミット数[-]であり、Prはプラントル数[-]である。
【0054】
尚、(7)式は、刊行物1に記載された、容量310トンの上吹き転炉型精錬炉及び容量240トンの底吹き転炉型精錬炉における鉄スクラップの溶解挙動を解析して得た経験式である(刊行物1;H.Gaye,M.Wanin,P.Gugliermina andP.Schittly:68th Steelmaking Conf.Proc.,ISS,Detroit,MI,USA,(1985),91.)。また、(5)式、(8)式、(9)式及び(11)式は便覧などに報告されている文献値を溶銑温度や溶銑中炭素濃度の関数の式の形に直したものである。ここで、(8)式は鉄-炭素溶融合金中における炭素の自己拡散係数を表す式であり、(9)式及び(11)式は、それぞれ溶銑の熱拡散率及び溶銑の粘度であるが、ともに炭素濃度の影響は無視している。
【0055】
計算で用いる鉄スクラップの物性値などは、例えば、下記の(13)式~(19)式によって計算することができる。
【0056】
【0057】
【0058】
ここで、Foはフーリエ数[-]であり、αsは鉄スクラップの熱拡散率[m2/s]であり、tは時間[s]であり、tsは鉄スクラップの厚み[m]であり、θは鉄スクラップの中心無次元温度[-]であり、TSは鉄スクラップの中心温度[K]であり、CPSは鉄スクラップの比熱[kJ/(kg×K)]であり、λSは鉄スクラップの熱伝導率[W/(m×K)]であり、ρSは鉄スクラップの密度[ton/m3]である。
【0059】
尚、(14)式において、鉄スクラップの中心無次元温度変化は、ビオ数Bi=∞且つ平板のハイスラー線図に従うと仮定している。また、鉄スクラップの温度はムラがなく一様であると仮定すると、鉄スクラップの中心温度は(15)式で計算される。更に、(16)式~(18)式は、便覧などに報告されている文献値を鉄スクラップ温度の関数の式の形に直したものであり、いずれも炭素濃度の影響は無視している。
【0060】
溶銑及び鉄スクラップを温度一様の半無限物体と見なすと、界面温度Ti[K]は、理論的に下記の(20)式で表される。
【0061】
【0062】
前述の通り、従来の冷鉄源溶解の計算では、前述した(1)式に示す一次元伝熱式を用いて冷鉄源内部の温度分布及び界面温度を計算する手法が一般的である。しかし、(1)式をコンピューター上で計算する場合は離散化して扱う必要があり、その際、計算精度向上のために計算メッシュを細かくすると、計算コストが膨れ上がってリアルタイム計算が困難になり、一方、計算時間を短縮し且つ計算コストを削減するために計算メッシュを粗くすると、計算精度が犠牲となる。
【0063】
本発明では、計算コスト削減と計算精度の両立のために、通常、(1)式に示される冷鉄源内部の温度分布及び界面温度の計算を、(13)式~(20)式に置き換えた冷鉄源溶解モデルを使用することで、計算回数及び計算時間を大幅に低減することができる。
【0064】
更に、界面炭素濃度Ciにおける液相線温度が界面温度Tiであるとすれば、鉄-炭素二元系合金において界面炭素濃度Ciは、下記の(21)式で表される。
【0065】
【0066】
ここで、Ciは界面炭素濃度[質量%]であり、Tiは界面温度[K]である。
【0067】
界面近傍での炭素の物質収支から、鉄スクラップの溶解速度Δtsは、下記の(22)式で表される。尚、鉄スクラップの溶解が進行する際には、Δtsは正の値を示す。
【0068】
【0069】
ここで、Δtsは鉄スクラップの溶解速度[m/s]であり、kは溶銑の物質移動係数[m/s]である。
【0070】
鉄スクラップが厚み方向の両側からのみ一様に溶解して減肉するとすれば、鉄スクラップの厚みtsは下記の(23)式で表され、また、鉄スクラップの溶解率Smは下記の(24)式で表される。
【0071】
【0072】
ここで、Δtは計算時間間隔[s]であり、tS0は鉄スクラップの初期厚み[m]である。
【0073】
以上の計算により、溶銑11の予備脱燐処理中の鉄スクラップの溶解率推移を求めることができる。
【0074】
計算部8は、全ての銘柄の鉄スクラップの溶解率が100質量%であるか否かを判定する(計算ステップ:S-5)。計算部8は、鉄スクラップ溶解率が100質量%未満の場合には、繰り返して鉄スクラップ溶解率の計算を実施する。一方、全ての銘柄の鉄スクラップの溶解率が100質量%である場合には、「鉄スクラップ溶解率=100質量%」を出力部9に表示させる(出力ステップ:S-6)。
【0075】
計算部8は、「吹錬終了」の信号を、入力部6を介してプロセスコンピューター3から入力されたなら、鉄スクラップ溶解率の計算を終了する(計算ステップ:S-7)。一方、プロセスコンピューター3から「吹錬終了」の信号を受信するまでは、「鉄スクラップ溶解率=100質量%」を出力部9に表示させ続ける。
【0076】
鉄スクラップ溶解率の計算結果は逐次出力部9に表示される。オペレーター10は、出力部9を監視し、鉄スクラップ溶解率の推移から、予備脱燐処理終了時点(精錬終了時点)で鉄スクラップの溶け残りが発生することが予想される場合には、鉄スクラップを完全溶解させるために、鉄-珪素合金やコークスなどの昇熱剤の添加または予備脱燐処理時間(精錬処理時間)の延長のいずれか一方または双方を実施する。尚、溶け残りが5質量%以下の場合には、昇熱剤の添加または予備脱燐処理時間の延長は採用しなくても、実質的な問題は発生しない。
【0077】
上記説明は、転炉型精錬炉1における溶銑11の予備脱燐処理に本実施形態に係る冷鉄源溶解率推定装置5を使用する場合を例として説明したが、転炉型精錬炉1における溶銑11の脱炭処理にも、上記に沿って本実施形態に係る冷鉄源溶解率推定装置5を使用することができる。但し、溶銑11の脱炭処理では、炉内の溶銑は、脱炭処理の進行に伴って溶鋼に変わる。脱炭精錬中の炉内の溶湯を溶銑と溶鋼とに区別して表示することは困難であるので、
図2における「溶銑中炭素濃度」を「溶融鉄中炭素濃度」に、「溶銑温度」を「溶融鉄温度」に置き換えて、本実施形態に係る冷鉄源溶解率推定装置5を使用する。
【0078】
以上説明したように、本実施形態に係る冷鉄源溶解率推定装置5を用いることで、計算コストを抑え、短時間で精度良く、且つ、オペレーターの主観に左右されることなく、転炉型精錬炉を用いた溶融鉄の精錬における冷鉄源の溶解挙動を推定できる。更に、本実施形態に係る冷鉄源溶解モデルによって、冷鉄源の完全溶解タイミングのみでなく、時々刻々の冷鉄源溶解率を推定するので、精錬中に冷鉄源未溶解の発生を予測することもできる。
【実施例1】
【0079】
内径430mmの円筒形の炉で300kgの溶銑を溶製し、この溶銑に冷鉄源(鉄スクラップ)を模した角型純鉄製のサンプル(サイズ;50mm×50mm×100mm)を80mm浸漬させ、所定時間後のサンプル溶解率を調査する実験を行った。
【0080】
溶銑の温度及び炭素濃度は、(1)溶銑の予備脱燐処理の開始時点相当(溶銑温度=1300℃、溶銑中炭素濃度=3.8質量%)、(2)溶銑の予備脱燐処理の終了時点相当(溶銑温度=1400℃、溶銑中炭素濃度=2.8質量%)の2通りである。尚、溶銑へのガスの吹き込みは行わず、自然対流によって溶銑を攪拌した。
【0081】
サンプルを所定時間浸漬した後に回収して空冷し、下記の(25)式によってサンプルの溶解率を算出した。
【0082】
【0083】
上記(25)式において、Sm’はサンプルの溶解率[質量%]であり、WS0は浸漬前のサンプル質量[kg]であり、WSは浸漬後のサンプル質量[kg]であり、LSはサンプルの高さ(=100[mm])であり、DSはサンプルの浸漬深さ[mm]である。
【0084】
また、溶銑温度及び溶銑中炭素濃度の測定のために、サンプルの浸漬前後には、適宜、浸漬型熱電対による溶銑温度の測温、溶銑からの化学分析用試料の採取を行った。
【0085】
実験結果と本実施形態に係る冷鉄源溶解モデルによる計算結果とを比較して
図3に示す。本実施形態に係る冷鉄源溶解モデルでは、溶銑温度などの値が入力される時間間隔を5秒毎とし、溶銑温度などの値が入力される毎に冷鉄源の溶解率を計算した。
図3より、本実施形態に係る冷鉄源溶解モデルを用いることで、冷鉄源の溶解推移を精度良く推定できることがわかった。
図3において、浸漬時間が最も短いサンプルの溶解率の実績値がマイナスになっている。この理由は、鉄スクラップの温度が低く、周りの溶鋼が凝固して鉄スクラップに付着し、鉄スクラップの質量が増加したので、サンプル溶解率の実績値が見かけ上マイナスになったからである。
【実施例2】
【0086】
容量320トン規模の上底吹の転炉型精錬炉(酸素上吹+アルゴンガス底吹)において、スクラップシュートから冷鉄源(鉄スクラップ)を転炉型精錬炉に7~50トン装入し、その後、溶銑を装入して炉内の溶銑の予備脱燐処理を行った。
【0087】
予備脱燐処理の開始と同時に、鉄スクラップが完全溶解していると仮定して排ガス情報などに基づき、溶銑温度及び溶銑中炭素濃度を別途推定し、これらの炉内情報の推定値及び底吹流量の実績値を用いて、本実施形態に係る冷鉄源溶解モデルによって鉄スクラップの溶解挙動をリアルタイムで推定した。本実施例では、溶銑温度などの値が入力される時間間隔を5秒毎とし、溶銑温度などの値が入力される毎に冷鉄源の溶解率を計算した。
【0088】
脱燐処理完了時点での鉄スクラップの未溶解率の計算値を表1に示す。表1において「未溶解発生」は、脱燐処理完了時点において実際に未溶解の鉄スクラップが確認されたチャージである。「未溶解懸念」は、脱燐処理完了時点において未溶解の鉄スクラップは確認されなかったものの、溶銑温度の推移または溶銑中炭素濃度から、未溶解発生が疑われたチャージである。「未溶解なし」は脱燐処理完了時点において未溶解の鉄スクラップが確認されず、且つ、未溶解発生も疑われなかったチャージである。
【0089】
【0090】
表1に示すように「未溶解なし」では、チャージ数の10%の確率で鉄スクラップ未溶解判定となったが、「未溶解発生」では、100%の確率で鉄スクラップ未溶解を検知できた。この結果から、本実施形態に係る冷鉄源溶解モデルは未溶解を過検知する傾向があるものの、未溶解発生チャージの検知には成功している。また、「未溶解懸念」では、チャージ数の73%の確率で鉄スクラップ未溶解判定となっていることからも、本実施形態に係る冷鉄源溶解率推定装置及び冷鉄源溶解率推定方法を実操業に適用できることが確認できた。
【符号の説明】
【0091】
1 転炉型精錬炉
2 転炉型精錬炉制御装置
3 プロセスコンピューター
4 操業制御用コンピューター
5 冷鉄源溶解率推定装置
6 入力部
7 データーベース部
8 計算部
9 出力部
10 オペレーター
11 溶銑
12 スラグ
13 攪拌用ガス
14 上吹きランス