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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20231108BHJP
   B60W 40/10 20120101ALI20231108BHJP
【FI】
B60L15/20 Y
B60L15/20 S
B60W40/10
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022558927
(86)(22)【出願日】2021-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2021035002
(87)【国際公開番号】W WO2022091659
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2020181097
(32)【優先日】2020-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【弁理士】
【氏名又は名称】諏訪 華子
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡村 悠太郎
(72)【発明者】
【氏名】田ノ岡 渉
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 亮太
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 直樹
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-166572(JP,A)
【文献】特開2017-200295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 15/20
B60W 40/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の左右輪を駆動する二つの電動機と、前記二つの電動機の回転速度を減速する減速機構を含むとともに前記二つの電動機のトルク差を増幅して前記左右輪の各々に分配する動力分配機構とを具備した車両の制御装置であって、
前記車両の左車軸の要求トルク及び右車軸の要求トルクをそれぞれ算出する第一算出部と、
前記左車軸の等価慣性モーメント及び前記右車軸の等価慣性モーメントをそれぞれ算出する第二算出部と、
前記第一算出部で算出された二つの前記要求トルクと前記第二算出部で算出された二つの前記等価慣性モーメントとに基づいて、前記左右輪の推定角加速度をそれぞれ算出する第三算出部と、
前記左右輪の実角加速度と前記第三算出部で算出された前記推定角加速度とを比較して、前記左右輪のそれぞれについて離地判定を実施する判定部と、を備え
前記第二算出部は、前記推定角加速度の算出に際し、前記動力分配機構の減速比及びトルク差増幅率を用いる
ことを特徴とする、車両の制御装置
【請求項2】
各々の前記等価慣性モーメントは、前記二つの電動機のイナーシャと前記左右輪のイナーシャと前記左右輪の角加速度の比率とに基づき算出される
ことを特徴とする、請求項記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右輪を駆動する二つの電動機が搭載された車両の制御装置に関し、特に、車輪が離地したことを判定する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の左右輪を電動機(電動モータ)で駆動する制御装置において、左右輪のスリップを検出した場合に、スリップが抑制されるように電動機から出力される動力を制限する制御と制動力を付与する制御とを行うものが知られている(特許文献1参照)。この技術では、二種類の制御が干渉しないように優先順位がつけられており、発生したスリップを抑制する際の運転フィーリングを良好なものにできるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-256367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の特許文献1には、スリップが発生しているか否かの判定で用いる閾値αslipについて何ら説明がなく、固定値であるか可変値であるかも不明である。こういった判定では、判定閾値をどのように設定するかが非常に重要であり、判定閾値の設定如何によって判定精度が決まるといっても過言ではない。このことは、スリップ判定に限らず、車輪が路面から完全に浮いた離地状態であるか否かの判定においても言えることである。
【0005】
本件の車両の制御装置は、このような課題に鑑み案出されたもので、左右輪の離地状態を精度よく判定することを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)ここで開示する車両の制御装置は、車両の左右輪を駆動する二つの電動機と、前記二つの電動機の回転速度を減速する減速機構を含むとともに前記二つの電動機のトルク差を増幅して前記左右輪の各々に分配する動力分配機構とを具備した車両の制御装置であって、前記車両の左車軸の要求トルク及び右車軸の要求トルクをそれぞれ算出する第一算出部と、前記左車軸の等価慣性モーメント及び前記右車軸の等価慣性モーメントをそれぞれ算出する第二算出部と、前記第一算出部で算出された二つの前記要求トルクと前記第二算出部で算出された二つの前記等価慣性モーメントとに基づいて、前記左右輪の推定角加速度をそれぞれ算出する第三算出部と、前記左右輪の実角加速度と前記第三算出部で算出された前記推定角加速度とを比較して、前記左右輪のそれぞれについて離地判定を実施する判定部と、を備え、前記第二算出部は、前記推定角加速度の算出に際し、前記動力分配機構の減速比及びトルク差増幅率を用いる。
【0007】
(2)各々の前記等価慣性モーメントは、前記二つの電動機のイナーシャと前記左右輪のイナーシャと前記左右輪の角加速度の比率とに基づき算出されることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
開示の車両の制御装置によれば、離地判定に用いる閾値としての推定角加速度を、車軸の要求トルク及び等価慣性モーメントに基づき算出するため、左右輪の離地状態を精度よく判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係る制御装置が適用された車両の模式図である。
図2図1に示す車両の動力分配機構の構成を説明するためのスケルトン図である。
図3図3(a)は車両の接地状態でのトルクのつり合いを示し、図3(b)は離地状態でのトルクのつり合いを示す。
図4図1に示す制御装置で実行される判定手順を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照して、実施形態としての車両の制御装置について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0011】
[1.構成]
図1は、本実施形態の制御装置10を備えた車両1の模式図である。車両1には、左右輪5(ここでは後輪)を駆動する二つの電動機2(電動モータ)が搭載される。以下の説明において、符号の末尾に付した「L」又は「R」のアルファベットは、当該符号にかかる要素の配設位置(車両1の左側又は右側にあること)を表す。例えば、5Lは左右輪5のうち車両の左側(Left)に位置する一方(すなわち左輪)を表し、5Rは右側(Right)に位置する他方(すなわち右輪)を表す。
【0012】
二つの電動機2は、車両1の前輪または後輪の少なくともいずれかを駆動する機能を持つものであり、四輪すべてを駆動する機能を持っていてもよい。以下、二つの電動機2のうち左側に配置される一方を左電動機2L(左モータ)ともいい、右側に配置される他方を右電動機2R(右モータ)ともいう。左電動機2L及び右電動機2Rは、互いに独立して作動し、互いに異なる大きさの駆動力を個別に出力しうる。なお、本実施形態の左電動機2L及び右電動機2Rは互いに定格出力が同一であって、「対」で設けられる。
【0013】
本実施形態の車両1は、一対の電動機2のトルク差を増幅して左右輪5の各々に分配する動力分配機構3を備える。図2に示すように、動力分配機構3は、各電動機2の回転速度を減速する一対の減速機構3g(図2中の破線で囲んだギア列)を含む。減速機構3gは、電動機2から出力されるトルク(駆動力)を減速することでトルクを増大させる機構である。減速機構3gの減速比Gは、電動機2の出力特性や性能に応じて適宜設定される。本実施形態では、左右の減速機構3gの減速比Gが互いに同一である。なお、電動機2のトルク性能が十分に高い場合には、減速機構3gを省略してもよい。一対の電動機2は動力分配機構3に接続されており、電動機2の回転速度が減速されることでトルクが増幅されて左右輪5の各々に伝達(分配)される。
【0014】
図1及び図2に示すように、動力分配機構3は、ヨーコントロール機能(AYC機能)を持ったディファレンシャル機構であり、左輪5Lに連結される車軸4(左車軸4L)と右輪5Rに連結される車軸4(右車軸4R)との間に介装される。ヨーコントロール機能とは、左右輪5の駆動力(駆動トルク)の分担割合を積極的に制御することでヨーモーメントを調節し、車両1の姿勢を安定させる機能である。動力分配機構3の内部には、遊星歯車機構や差動歯車機構などが内蔵される。なお、一対の電動機2と動力分配機構3とを含む車両駆動装置は、DM-AYC(Dual-Motor Active Yaw Control)装置とも呼ばれる。
【0015】
各電動機2L,2Rは、インバータ6(6L,6R)を介してバッテリ7に電気的に接続される。インバータ6は、バッテリ7側の直流回路の電力(直流電力)と電動機2側の交流回路の電力(交流電力)とを相互に変換する変換器(DC-ACインバータ)である。また、バッテリ7は、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池であり、数百ボルトの高電圧直流電流を供給しうる二次電池である。電動機2の力行時には、直流電力がインバータ6で交流電力に変換されて電動機2に供給される。電動機2の発電時には、発電電力がインバータ6で直流電力に変換されてバッテリ7に充電される。インバータ6の作動状態は、制御装置10によって制御される。
【0016】
制御装置10は、車両1に搭載される電子制御装置(ECU,Electronic Control Unit)の一つであり、図示しないプロセッサ(中央処理装置),メモリ(メインメモリ),記憶装置(ストレージ),インタフェース装置などが内蔵され、内部バスを介してこれらが互いに通信可能に接続される。制御装置10で実施される判定や制御の内容は、ファームウェアやアプリケーションプログラムとしてメモリに記録,保存されており、プログラムの実行時にはプログラムの内容がメモリ空間内に展開されて、プロセッサによって実行される。
【0017】
制御装置10には、図1に示すように、アクセル開度センサ21,ブレーキセンサ22,舵角センサ23,車速センサ24,モータ回転速度センサ25,車輪速センサ26が接続される。アクセル開度センサ21はアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)やその踏み込み速度を検出するセンサである。ブレーキセンサ22は、ブレーキペダルの踏み込み量(ブレーキペダルストローク)やその踏み込み速度を検出するセンサである。舵角センサ23は、左右輪5の舵角(実舵角またはステアリングの操舵角)を検出するセンサであり、車速センサ24は、車速(走行速度)を検出するセンサである。
【0018】
モータ回転速度センサ25は、電動機2の回転角速度(すなわちモータ角速度ωLm,ωRm)を検出するセンサであり、各電動機2に個別に設けられる。同様に、車輪速センサ26は、左右輪5(または車軸4)の回転角速度(車輪角速度ωLds,ωRds)を検出するセンサであり、左輪5Lの近傍及び右輪5Rの近傍のそれぞれに個別に設けられる。制御装置10は、これらのセンサ21~26で検出された各情報に基づいてインバータ6の作動状態を制御することで、一対の電動機2の出力を制御する。
【0019】
制御装置10は、左右輪5の角加速度の実際値(実角加速度)と推定値(推定角加速度)とを用いて、左右輪5のそれぞれについて離地判定を実施する。離地判定とは、駆動輪が路面から浮いた状態(空転状態)であるか否かの判定であり、左右輪5のそれぞれについて実施される。離地判定において「YES」と判定された場合には、離地状態を解消するための制御や車両1を停止させる制御等が実施されてよい。また、離地判定において「NO」と判定された場合には、左右輪5がいずれも接地状態(正常)であることを意味する。なお、離地判定は、車両1の主電源がオン状態であるとき(Ready ONのとき)に常に(所定周期で)実施される。
【0020】
図1に示すように、制御装置10の内部には、第一算出部11,第二算出部12,第三算出部13及び判定部14が設けられる。これらの要素は、制御装置10の機能を便宜的に分類して示したものである。これらの要素は、独立したプログラムとして各々を記述することができるとともに、複数の要素を合体させた複合プログラムとして記述することもできる。各要素に相当するプログラムは、制御装置10のメモリや記憶装置に記憶され、プロセッサで実行される。
【0021】
図3(a)に示すように、左右輪5がともに接地状態であるとき、すなわち左右輪5が路面と接触している場合には、路面に伝わるトルクTLroad,TRroadは、左右輪5へ入力される駆動トルク(すなわち、左右の車軸4L,4Rの要求トルクTLds,TRds)から、左右輪5のイナーシャトルクを減じた値となる。したがって、接地状態では下記の式1,式2がともに成り立つ。
【0022】
【数1】
【0023】
一方、図3(b)に示すように、左右輪5のいずれか一方が離地状態であるとき、すなわち左右輪5の一方が路面から離れて空転している場合、路面に伝わるトルクTLroad,TRroadが0になる。このため、上記の式1(左輪5L),式2(右輪5R)のうち、離地している車輪の式の左辺が0となるため、下記の式3又は式4が成り立つ。なお、図3(b)では便宜上、左右輪5がいずれも空転している場合を示しているが、離地判定では左右輪5のいずれか一方の離地状態を判定する。
【0024】
【数2】
【0025】
このように、左右輪5のいずれか一方が離地状態であれば、離地状態である車輪の角加速度は上記の式3又は式4で算出された車輪角加速度と同等(あるいはこれ以上)となる。したがって、離地判定では、左右の車輪速センサ26L,26Rで検出された実際の車輪速ωLds,ωRdsの時間微分値である実角加速度を、上記の式3又は式4で算出された車輪角加速度(推定角加速度)と比較することで行う。
【0026】
第一算出部11は、左車軸4L(左輪5L)の要求トルクTLds及び右車軸4R(右輪5R)の要求トルクTRdsをそれぞれ算出するものである。第一算出部11は、例えば、アクセル開度,ブレーキペダルストローク,舵角,車速などに基づいて、左右車軸4の要求トルクTLds,TRdsを個別に算出する。
【0027】
第二算出部12は、左車軸4Lの等価慣性モーメントILds及び右車軸4Rの等価慣性モーメントIRdsをそれぞれ算出するものである。等価慣性モーメントとは、左右の電動機2から左右輪5までの各経路についてのイナーシャである。第二算出部12は、例えば車輪速ωLds,ωRdsの時間微分値,モータイナーシャIm,タイヤイナーシャIt,減速比G,ギア比b1,b2などに基づき、左右車軸4の等価慣性モーメントILds,IRdsを個別に算出する。
【0028】
第三算出部13は、第一算出部11で算出された二つの要求トルクTLds,TRdsと第二算出部12で算出された二つの等価慣性モーメントILds,IRdsと基づいて、左右輪5の推定角加速度をそれぞれ算出するものである。推定角加速度は、離地判定で用いられる判定閾値であり、例えば上記の式3,式4から算出可能である。
【0029】
判定部14は、左右輪5の実角加速度と第三算出部13で算出された推定角加速度とを比較して、左右輪5のそれぞれについて離地判定を実施するものである。判定部14は、左右の車輪速センサ26L,26Rで検出された実際の車輪速ωLds,ωRdsを一回微分し、得られた時間微分値(すなわち実角加速度)が推定角加速度以上であれば離地状態であると判定し、実角加速度が推定角加速度未満であれば接地状態であると判定する。
【0030】
ここで、図2を用いて、動力分配機構3の一例を説明する。図2に示す動力分配機構3は、減速比Gに設定された一対の減速機構3gと、所定の増幅率でトルク差を増幅する機能を持った遊星歯車機構とを有する。動力分配機構3は、車幅方向において、左右の電動機2L,2R間に配置されることが好ましい。
【0031】
遊星歯車機構は、サンギア3s1及びリングギア3rが入力要素であり、サンギア3s2及びキャリア3cが出力要素であるダブルピニオン遊星歯車である。サンギア3s1には左電動機2Lからのトルクが入力され、リングギア3rには右電動機2Rからのトルクが入力される。入力要素は後述する遊転ギア37と一体回転するよう設けられ、出力要素は出力軸33と一体回転するように設けられる。
【0032】
各減速機構3gは、いずれも平行に配置された三つの軸31,32,33に設けられた四つのギア34,35,36,37によって、電動機2の回転速度を二段階で減速するよう構成される。以下、三つの軸を、電動機2から左右輪5への動力伝達経路の上流側から順に、モータ軸31,カウンタ軸32,出力軸33と呼ぶ。これらの軸31~33は、動力分配機構3に二つずつ設けられる。左右に位置する二つのモータ軸31,二つのカウンタ軸32,二つの出力軸33は、それぞれが同様に(左右対称に)構成される。また、これらの軸31~33に設けられる減速機構3gも左右で同様に(左右対称に)構成される。
【0033】
モータ軸31は、左右の電動機2L,2Rの各回転軸と同軸上に位置し、第一固定ギア34を有する。カウンタ軸32には、第一固定ギア34と噛合する第二固定ギア35と、第二固定ギア35よりも小径の第三固定ギア36とが設けられる。大径の第二固定ギア35が、小径の第三固定ギア36よりも車幅方向内側に配置される。出力軸33には、第三固定ギア36と噛合する遊転ギア37が設けられる。第一固定ギア34と第二固定ギア35とで、一段目の減速ギア列が構成され、第三固定ギア36と遊転ギア37とで、二段目の減速ギア列が構成される。なお、左側の遊転ギア37にはサンギア3s1が連結され、右側の遊転ギア37にはリングギア3rが連結される。
【0034】
減速機構3gの減速比Gは、電動機2から減速機構3gに伝達される回転角速度と、減速機構3gから動力分配機構3に伝達される回転角速度の比(あるいはギアの歯数の比)として表すことができる。また、動力分配機構3の内部において、左電動機2Lの駆動力が右輪5Rに伝達される経路の減速比をb1とし、右電動機2Rの駆動力が左輪5Lに伝達される経路の減速比をb2とする。この場合、上記の式1,式2は下記の式5,式6と表現できる。
【0035】
【数3】
【0036】
また、左右の電動機2L,2Rの慣性トルクTLIm,TRImは、下記の式7,式8で表現でき、左右の電動機2L,2Rの角加速度は、下記の式9,式10で表現できる。
【数4】
【0037】
式5,式6に上記の式7~10をそれぞれ代入すると、路面に伝わるトルクTLroad,TRroadは下記の式11,式12で表現できる。
【数5】
【0038】
上記の式11,式12の各右辺の第一項は、左右車軸4の要求トルクTLds,TRdsであり、各右辺の第二項は、左右車軸4の等価慣性モーメントILds,IRdsと左右輪5の角加速度(車輪速ωLds,ωRdsの時間微分値)との積である。すなわち、左右車軸4の等価慣性モーメントILds,IRdsは、二つの電動機2のイナーシャImと左右輪5のイナーシャItと左右輪5の角加速度の比率とに基づき算出される。
【0039】
上述したように、左右輪5のいずれか一方が離地状態である場合は、路面に伝わるトルクTLroad,TRroadが0になるため、上記の式11,式12の左辺を0とし、角加速度について解くと、下記の式13,式14を導出できる。つまり、この場合の推定角加速度は、式13,式14で表現できる。したがって、図2に示す動力分配機構3を備えた車両1の制御装置10では、第二算出部12が、推定角加速度の算出に際し、動力分配機構3の減速比G及びトルク差増幅率を用いる。
【0040】
【数6】
【0041】
[2.フローチャート]
図4は、制御装置10で実行されるフローチャートの一例である。本フローチャートは、例えば車両1がReady ON状態になってからReady OFFになるまでの間、所定の周期で繰り返し実行される。
【0042】
ステップS1では、各種センサ21~26で検出された情報が制御装置10に入力される。ステップS2では、第一算出部11によって、左右車軸4の要求トルクTLds,TRdsが算出される。ステップS3では、第二算出部12によって、左右車軸4の等価慣性モーメントILds,IRdsが算出される。続くステップS4では、第三算出部13によって、左右輪5の推定角加速度が算出される。
【0043】
ステップS5では、左輪5Lについての離地判定が実施される。すなわち、左輪5Lの実際の角加速度が、ステップS4で算出された左輪5Lの推定角加速度以上であるか否かが判定される。この判定結果がYESの場合はステップS7に進み、左輪5Lが離地状態であると判定されて、このフローをリターンする。一方、ステップS5の判定結果がNOの場合はステップS6に進み、右輪5Rについての離地判定が実施される。
【0044】
すなわち、右輪5Rの実際の角加速度が、ステップS4で算出された右輪5Rの推定角加速度以上であるか否かが判定される。この判定結果がYESの場合はステップS8に進み、右輪5Rが離地状態であると判定されて、このフローをリターンする。一方、ステップS6の判定結果がNOの場合はステップS9に進み、左右輪5がいずれも接地状態であると判定されて、このフローをリターンする。
【0045】
[3.作用,効果]
(1)上述した制御装置10では、離地判定に用いる閾値としての推定角加速度が、車軸4の要求トルクTLds,TRds及び等価慣性モーメントILds,IRdsに基づき算出される。このため、判定閾値を車両1の運転状態に基づいて常に適切に設定することができることから、左右輪5の離地状態を精度よく判定することができる。
【0046】
(2)図2に示すような動力分配機構3を備えた車両1の場合、動力分配機構3の減速比G及びトルク差増幅率を用いて推定角加速度が算出されるため、判定閾値を適切に設定でき、離地判定精度を高めることができる。
(3)また、等価慣性モーメントILds,IRdsが、二つの電動機2のイナーシャImと左右輪5のイナーシャItと左右輪5の角加速度の比率とに基づき算出されることから、左右輪5の回転角速度の変化率に応じて判定閾値を設定でき、離地判定精度を高めることができる。
【0047】
[4.その他]
上述した車両1及び制御装置10は一例であって、上述したものに限られない。例えば、動力分配機構3の構成は図2に示すものに限られず、様々な構成の遊星歯車機構や遊星歯車機構以外の機構を採用可能である。また、上述した車両1では、図2に示す動力分配機構3を備えたものを例示したが、動力分配機構3は必須ではなく、例えば、駆動源としてのインホイールモータを備えた車両に対し上述した制御装置10を適用してもよい。この場合であっても、上述した実施形態と同様、推定角加速度と実角加速度とを比較することで離地判定を行うことができる。
【符号の説明】
【0048】
1 車両
2 電動機
2L 左電動機
2R 右電動機
3 動力分配機構
3g 減速機構
4 車軸
4L 左車軸
4R 右車軸
5 車輪
5L 左輪
5R 右輪
10 制御装置(ECU)
11 第一算出部
12 第二算出部
13 第三算出部
14 判定部
26,26L,26R 車輪速センサ
図1
図2
図3
図4