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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】クッションタンク装置
(51)【国際特許分類】
   C23G 3/00 20060101AFI20231108BHJP
【FI】
C23G3/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022569114
(86)(22)【出願日】2022-08-01
(86)【国際出願番号】 JP2022029523
(87)【国際公開番号】W WO2023067869
(87)【国際公開日】2023-04-27
【審査請求日】2022-11-14
(31)【優先権主張番号】P 2021171334
(32)【優先日】2021-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森本 和浩
(72)【発明者】
【氏名】池田 僚輔
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-087873(JP,A)
【文献】登録実用新案第3009783(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23G 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸洗槽から排出された酸洗液及びスラッジを貯留可能なクッションタンクと、
前記クッションタンクの底部に設けられ、前記クッションタンクの外に前記スラッジを排出するための排出管と、
前記排出管を開閉する開閉部材と、
を備えたクッションタンク装置において、
前記クッションタンクの下部には、前記クッションタンクの内壁面に対する前記スラッジの安息角よりも大きい角度で水平に対して傾き、前記排出管へ前記スラッジを導く斜面部が設けられており、
前記斜面部に、前記クッションタンクの高さ方向で異なる位置に配置された、前記クッションタンクから前記酸洗槽に前記酸洗液を送液するための複数の送液配管を備えることを特徴とするクッションタンク装置。
【請求項2】
請求項1に記載のクッションタンク装置において、
前記斜面部の前記角度は、水平に対して45[°]以上80[°]以下であることを特徴とするクッションタンク装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のクッションタンク装置において、
前記クッションタンク装置の内壁面に沿って洗浄液を通液可能な洗浄配管を備えることを特徴とするクッションタンク装置。
【請求項4】
請求項に記載のクッションタンク装置において、
前記洗浄配管は、前記クッションタンクの内壁面の任意の位置における接線方向に前記洗浄液を通液可能なように配置されていることを特徴とするクッションタンク装置。
【請求項5】
請求項に記載のクッションタンク装置において、
前記洗浄配管は、前記クッションタンクの内壁面の任意の位置における法線と前記洗浄配管とでなす角の角度が、45[°]以上135[°]以下となるように配置されていることを特徴とするクッションタンク装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼帯を酸洗する酸洗槽からの酸洗液及びスラッジを貯留可能なクッションタンク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱間圧延後の鋼帯は、冷間圧延を行う前に、鋼帯表面に付着したスケール等を除去するために酸洗が施される。具体的には、酸洗液を収容した酸洗槽を鋼帯の搬送方向に複数配置し、これら複数の酸洗槽中を連続的に通板しながら鋼帯を酸洗液に浸漬させることによって酸洗が行われている。酸洗方式としては、BOX式、Shallow式、噴流式、及び、Deep式酸洗槽等がある。BOX式及びShallow式は酸洗槽内に堰を設置し、噴流式は槽内に噴射ノズルを設置することによって、Deep式に比べて高い酸洗効率を有しており広く普及している。
【0003】
酸洗ラインの停止時には、酸洗槽内に残留する鋼帯の過酸洗を防止する為、鋼帯と酸洗液とを分離することが必要である。Shallow式及びDeep式の酸洗槽では、ライン停止時にストリップリフター等で鋼帯を持ち上げて、酸洗液と分離することが行われている。これに対して、BOX式及び噴流式の酸洗槽では、酸洗槽内の鋼帯上方に搬送ローラやノズルを有する為、鋼帯を持ち上げての過酸洗防止処置が困難である。一般に、BOX式及び噴流式の酸洗槽には、クッションタンクが併設されている。ライン停止時には、酸洗槽内の酸洗液を一時的にクッションタンクに送って貯留し、酸洗槽の液面高さを酸洗液に鋼帯が浸からないところまで下げることによって、鋼帯の過酸洗を防止することが行われている。
【0004】
熱間圧延後の鋼帯を酸洗する場合には、鋼帯表面のスケールや金属と酸洗液とからなる化合物がスラッジとなって、酸洗槽、クッションタンク、及び、これらに付帯する配管内に堆積する。堆積が進行することによって、舞い上がったスラッジが鋼帯に付着して品質異常を発生させたり、堆積したスラッジが固着することによって酸洗液の送液ができなくなったりする等の問題が発生し得る。そのため、スラッジの堆積量が規定値に達する前に、酸洗槽内、クッションタンク内、及び、配管内のスラッジの除去を行う必要がある。このスラッジ除去の作業は、酸洗液を排出した後に、外部からスラッジを吸引したり人力でスラッジを掬ったりすることにより行われる。この作業は、広範囲のスラッジ除去が必要なため、長時間の生産停止が必要であったり、清掃に要する労務コストが高かったりといった問題があった。
【0005】
酸洗槽内のスラッジの堆積を抑制したり、効率的にスラッジを回収したりするための手段として、酸洗槽内に噴射ノズルを設置し、酸洗槽の底部へのスラッジの堆積を抑制する方法(特許文献1)や、磁気力を利用してスラッジを付着除去する方法(特許文献2)や、酸洗槽の底部に傾斜板やホッパーを設けて、スラッジを排出する方法(特許文献3)や、酸系統に可動式のスクレーパーを有するスラッジ排出装置を設置する方法(特許文献4)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2021-14601号公報
【文献】特開2000-189834号公報
【文献】実開昭62-122864号公報
【文献】特開昭62-27581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された、酸洗槽内に噴射ノズルを設置する方法は、BOX式のように堰が多数配置されている酸洗槽では、噴射ノズルの設置スペースが無く適用できないという問題があった。また、噴射ノズルにより酸洗槽の底部へのスラッジの堆積は抑制されるものの、スラッジの回収は付帯のタンクや配管内で従来通り実施する必要があった。
【0008】
特許文献2に開示された、磁気力を利用してスラッジを付着除去する方法では、回収可能なスラッジは主成分がFe等の磁性を有するスラッジに限られる。そのため、ハイテン材や電磁材の酸洗時に発生するSiが主成分のスラッジは回収できないという問題があった。また、スラッジを付着除去させて除去するという方法のため、装置内部に侵入したスラッジの清掃が必要となるといった問題もあった。
【0009】
特許文献3に開示された、酸洗槽の底部に傾斜板及びホッパーを設ける構造では、酸洗槽内に余剰スペースが必要であり、BOX式や噴流式の酸洗槽には適用できないという問題点があった。また、酸洗槽内のスペース制約によって、傾斜板の角度を大きく設定できないため、傾斜板上に堆積したスラッジがホッパーへ流れず滞留するといった問題があった。加えて、酸洗槽の容量と比較してホッパー下部の口径が小さいため、ホッパー下部でスラッジが固着し、スラッジが排出できなくなるという問題があった。さらには、このような構造の設備を設置するためには、酸洗槽本体の更新もしくは改造が必要であり、設置費用が高くなり、また工期も長くなるという点でも問題であった。
【0010】
特許文献4に開示された、酸系統中に可動式スクレーパーを有するスラッジ除去装置を設置する方法では、スラッジの固着によりスクレーパーが破損しやすく、さらにスラッジとの接触による摩耗によって頻繁にスクレーパーを取り替える必要があった。また、酸洗スラッジは非常に軽く沈降には比較的長い時間を必要とするため、スラッジ除去装置内で舞い上がったスラッジが、オーバーフロー配管より流出し、酸洗槽へ返送されてしまう問題があった。さらには、スラッジ除去装置の下方バルブを開放すると、スラッジとともに酸洗液が多量に廃棄されるため、原単位が悪化するという問題があった。また、酸系統中に新たに大規模なスラッジ除去装置の設置が必要であり、既設設備の改造も多く必要であるため、設置費用や工期の点も問題であった。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、簡便な構造で、効率よくスラッジを排出することができるクッションタンク装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るクッションタンク装置は、酸洗槽から排出された酸洗液及びスラッジを貯留可能なクッションタンクと、前記クッションタンクの底部に設けられ、前記クッションタンクの外に前記スラッジを排出するための排出管と、前記排出管を開閉する開閉部材と、を備えたクッションタンク装置において、前記クッションタンクの下部には、前記クッションタンクの内壁面に対する前記スラッジの安息角よりも大きい角度で水平に対して傾き、前記排出管へ前記スラッジを導く斜面部が設けられていることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明に係るクッションタンク装置は、上記の発明において、前記斜面部の前記角度は、水平に対して45[°]以上80[°]以下であることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明に係るクッションタンク装置は、上記の発明において、前記クッションタンクの下部に、前記クッションタンクの高さ方向で異なる位置に配置された、前記クッションタンクから前記酸洗槽に前記酸洗液を送液するための複数の送液配管を備えることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明に係るクッションタンク装置は、上記の発明において、前記クッションタンク装置の内壁面に沿って洗浄液を通液可能な洗浄配管を備えることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明に係るクッションタンク装置は、上記の発明において、前記洗浄配管は、前記クッションタンクの内壁面の任意の位置における接線方向に前記洗浄液を通液可能なように配置されていることを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明に係るクッションタンク装置は、上記の発明において、前記洗浄配管は、前記クッションタンクの内壁面の任意の位置における法線と前記洗浄配管とでなす角の角度が、45[°]以上135[°]以下となるように配置されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るクッションタンク装置は、簡便な構造で、効率よくスラッジを排出することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施形態に係るクッションタンク装置を備えた酸洗設備の概略構成を示す図である。
図2図2は、実施形態に係るクッションタンク装置の概略構成を示す正面図である。
図3図3は、実施形態に係るクッションタンク装置の概略構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係るクッションタンク装置の実施形態について説明する。なお、本実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0021】
図1は、実施形態に係るクッションタンク装置4を備えた酸洗設備100の概略構成を示す図である。
【0022】
図1に示すように、実施形態に係る酸洗設備100は、酸洗槽1、クッションタンク装置4、スラッジ回収タンク6、送液配管7、及び、送液ポンプ9などを備えている。また、実施形態に係るクッションタンク装置4は、クッションタンク40、排出管43、排出バルブ44、送液配管8a,8b、及び、洗浄配管10などを備えている。
【0023】
実施形態に係る酸洗設備100においては、酸洗液3が収容された酸洗槽1が、鋼帯2の搬送方向に沿って酸洗槽1が複数の堰部101によって区分けされている。鋼帯2は、酸洗槽1の入口に設けられた搬送ローラ対102や、各堰部101の上部にそれぞれ設けられた複数の搬送ローラ対103などによって、酸洗槽1の酸洗液3の中を連続的に浸漬されながら搬送される。鋼帯2は、酸洗槽1の酸洗液3の中を連続的に浸漬されることにより、鋼帯2の表面及び裏面に付着したスケール等の洗浄が行われる。また、このように鋼帯2の洗浄が行われることによって、酸洗槽1の底部には、鋼帯2と酸洗液3との反応によって副生されたスラッジが堆積する。
【0024】
酸洗槽1の底部に堆積したスラッジは、定期メンテナンスなどの際に、開閉バルブ72を開放することによって、鋼帯2の搬送方向において酸洗槽1内の下流側下部に設けられた流出口71から酸洗液3と共に流出する。流出した酸洗液3及びスラッジは、送液配管7を通って、酸洗槽1よりも下方に設けられたクッションタンク装置4が備えるクッションタンク40内に排出される。
【0025】
図2は、実施形態に係るクッションタンク装置4の概略構成を示す正面図である。なお、図2中、矢印Aは水平方向を示しており、矢印Bはクッションタンク40の高さ方向(鉛直方向)を示している。
【0026】
図2に示すように、クッションタンク装置4が備えるクッションタンク40は、酸洗槽1からの酸洗液3及びスラッジ13を一時的に貯留する貯留部である。クッションタンク40は、高さ方向で上部に設けられた円筒部41と、下部に設けられた斜面部42とを有している。酸洗槽1からクッションタンク40に酸洗液3及びスラッジ13を排出するための送液配管7は、クッションタンク40の円筒部41に接続されている。
【0027】
送液配管7を通ってクッションタンク40内に酸洗液3と共に排出されたスラッジ13は、酸洗液3中で静置沈降させて、クッションタンク40内の下部に堆積させる。そして、スラッジ13の沈降完了後、鋼帯2の搬送方向において酸洗槽1内の上流側下部に設けられた流入口91と送液ポンプ9とを繋ぐ配管に設けられた開閉バルブ92を開放する。それとともに、開閉バルブ81aと開閉バルブ81bとの少なくとも一方を開放させて、送液ポンプ9を作動させる。これにより、クッションタンク40内の酸洗液3は、送液配管8aと送液配管8bとの少なくとも一方を通って送液ポンプ9により酸洗槽1へ送液される。
【0028】
酸洗液3をクッションタンク40から酸洗槽1へ酸洗液3を送液した後、クッションタンク40の底部に設けられた排出管43を開閉する開閉部材である排出バルブ44を開放する。これにより、クッションタンク40内のスラッジ13は排出管43を通ってスラッジ回収タンク6へ排出される。
【0029】
ここで、実施形態に係るクッションタンク40の下部に設けられた斜面部42は、排出管43へスラッジ13を導くために、水平(水平方向)に対して角度θで傾いて設けられている。また、斜面部42の角度θは、斜面部42における内壁面40aに対するスラッジ13の安息角よりも大きく設定されている。なお、ここで言う前記安息角は、酸洗液3によって濡れた状態のスラッジ13が、斜面部42における内壁面40aから滑り出さない限界の角度のことである。そのため、本実施形態において、斜面部42の角度θとは、水平(水平方向)に対する斜面部42における内壁面42aの角度とも言える。
【0030】
実施形態に係るクッションタンク装置4においては、斜面部42が前記安息角よりも大きい角度θで水平方向に対して傾いている。これによって、排出バルブ44を開放させて排出管43からスラッジ13をスラッジ回収タンク6へ排出する際に、内壁面40a上のスラッジ13が自重で斜面部42に沿って排出管43に向かって流れ落ちる。このように、実施形態に係るクッションタンク装置4では、クッションタンク40内にスラッジ13がほとんど留まらずにスラッジ回収タンク6へ排出される。よって、実施形態に係るクッションタンク装置4においては、簡便な構造でクッションタンク40内から効率よくスラッジ13を排出して、スラッジ回収タンク6に回収することができる。
【0031】
酸洗する材料や条件によって、スラッジの成分や粒のサイズ、水分量などが変わるため、実際の条件下での安息角よりも大きい角度θとすればよい。なお、実施形態に係るクッションタンク40においては、斜面部42の角度θとして、例えば、45[°]≦θ≦80[°]とするのが好ましく、60[°]≦θ≦80[°]とするのが好適である。
【0032】
斜面部42の角度θが45[°]以上であれば、スラッジ13が自重で斜面部42上から排出管43に向かって流れ落ちやすく、斜面部42における内壁面40a上にスラッジ13が留まり難い。
【0033】
また、クッションタンク40の高さ方向で斜面部42の上端部分におけるクッションタンク40の径が同じ条件下では、斜面部42の角度θが大きくなるほど、斜面部42の下端部分におけるクッションタンク40の径を大きくする必要がある。そのため、斜面部42の角度θが大きくなるほど、斜面部42の下端部分と接続される排出管43の径が大きくなるとともに、排出管43と接続される排出バルブ44の径も大きくなる。斜面部42の角度θが80[°]以下であれば、排出バルブ44の径を必要以上に大型化させることがないため、スラッジ13を自重で斜面部42上から排出管43に向かって流れ落ちさせる効果に対して、費用対効果に優れる。
【0034】
また、実施形態に係るクッションタンク40においては、斜面部42の角度θをクッションタンク40の高さ方向で段階的に変化させてもよい。これにより、クッションタンク40の形状や設置スペースなどの設計の自由度を向上させることが可能となる。
【0035】
また、実施形態に係るクッションタンク40には、クッションタンク40から酸洗槽1へ酸洗液3を送液するための複数の送液配管8a,8bが、クッションタンク40の高さ方向で異なる位置に配置されるのが好ましい。なお、本実施形態において、送液配管8aと送液配管8bとを特に区別しないときには、単に送液配管8とも記す。また、図1及び図2に示したクッションタンク装置4では、2つの送液配管8a,8bが設けられているが、送液配管8の数としては2つに限定されるものではなく、2つ以上であればよい。また、複数の送液配管8は、クッションタンク40の斜面部42に配置するのが好ましい。
【0036】
送液配管8を複数配置する場合には、クッションタンク40の下部に堆積したスラッジ13の堆積量に応じて、クッションタンク40の高さ方向で異なる位置に配置された複数の送液配管8a,8bから選択して使用する。
【0037】
例えば、図2に示すように下側の送液配管8aと同程度の高さまでスラッジ13が堆積している場合には、送液配管8aに対応した開閉バルブ81aを閉塞したまま上側の送液配管8bに対応した開閉バルブ81bを開放させる。そして、上側の送液配管8bを使用してクッションタンク40から酸洗槽1に酸洗液3を排出する。スラッジ13の堆積が下側の送液配管8aより十分低い場合には、送液配管8aに対応した開閉バルブ81aを開放し、少なくとも下側の送液配管8aを使用してクッションタンク40から酸洗槽1に酸洗液3を排出する。この際、上側の送液配管8bに対応した開閉バルブ81bも開放させ、送液配管8bも酸洗液3の排出に使用することができる。
【0038】
これにより、クッションタンク40の下部に堆積したスラッジ13が、酸洗液3と共に酸洗槽1へ戻されることを抑制することができる。また、スラッジ13と共に排出管43を通ってスラッジ回収タンク6に排出される酸洗液3の量を低減させることができる。
【0039】
なお、クッションタンク40の下部にスラッジ13がどれだけの高さで堆積しているかの判断は、例えば、次の方法によって行うことができる。クッションタンク40がFRP(Fiber Reinforced Plastics)で作製されている場合には、クッションタンク40の外側から内側に光を当てると、スラッジ13の部分が周りの酸洗液3よりも暗い影となる。これを利用して、スラッジ13の堆積している高さを目視によって判断する。また、他の方法としては、クッションタンク40内にスラッジ13の高さを検知するためのスラッジ高さ検知センサを設けて、スラッジ高さ検知センサの検知結果に基づいて、スラッジ13の堆積している高さを判断する。
【0040】
また、実施形態に係るクッションタンク装置4においては、クッションタンク40の外からクッションタンク40内に洗浄液を通液するための洗浄配管10が接続されていることが好ましい。これにより、クッションタンク40の内壁面40aに付着したスラッジ13を洗浄液によって洗い流すことができるため、内壁面40aにスラッジ13が残留するのを抑制することができる。よって、作業者がクッションタンク40内に入って内壁面40aに付着したスラッジ13を回収する作業が不要になる。
【0041】
なお、洗浄配管10は、予め実験や操業実績などから求められる、クッションタンク40の高さ方向でスラッジ13が堆積し得る高さよりも上に位置するように、クッションタンク40に接続することが好ましい。例えば、図2に示すように、洗浄配管10は、クッションタンク40の高さ方向で斜面部42における上側部分に、洗浄液が排出される排出口111が位置するように、クッションタンク40に接続することが好ましい。
【0042】
また、図3に示すように、洗浄配管10は、クッションタンク40の内壁面40aの任意の位置である点Pを通る接線LTの延びる方向(接線方向)に、洗浄液を通液可能なように排出口111を位置させて配置している。これにより、クッションタンク40の内壁面40aに沿って洗浄液を効率よく流すことができ、クッションタンク40の内壁面40aに付着したスラッジ13を効率よく洗い流すことができる。
【0043】
なお、洗浄配管10は、前記接線方向に洗浄液を通液可能なように配置することに限定されるものではない。すなわち、図3に示すように、洗浄配管10は、内壁面40aの任意の位置である点Pを通る法線LNと洗浄配管10とでなす角の角度Φが、45[°]≦Φ≦135[°]となるように配置するのが好ましい。
【実施例
【0044】
図1などに示す本発明のクッションタンク装置を備えた本発明例の酸洗設備(斜面部42の角度θは60[°])と、従来のクッションタンク装置を備えた従来例の酸洗設備とにおけるスラッジの清掃頻度を比較した。同等の鋼帯の生産量にて1年間運転した際に想定される、酸洗槽内、配管内、及び、クッションタンク内のスラッジの清掃頻度を求めた。結果を下記表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1からわかるように、従来例の酸洗設備では、酸洗槽内、配管内、及び、クッションタンク内のそれぞれにおいて、12回/年の清掃が必要である。一方、本発明例の酸洗設備では、定期的に酸洗槽からクッションタンク内に送液し、スラッジ沈降及び回収を実施することによって、酸洗槽内及び配管内の清掃頻度は2回/年に減少した。さらに、本発明例の酸洗設備では、クッションタンク内の清掃頻度は0回/年となり作業者による清掃が不要となる。そのため、本発明例の酸洗設備では、清掃のために必要なライン停止時間が少なくなるとともに、清掃にかかる労務コストを低減させることが可能となる。
【0047】
また、図1に示した酸洗設備100において、クッションタンク40の下部に設けられた斜面部42の角度θ(図2参照)と、底部に接続された排出管43からスラッジ13を排出させたときのスラッジ13の残留との関係の評価を行った。結果を下記表2に示す。なお、下記の表2において、「◎」は斜面部42上にスラッジ13がほとんど留まらなかった場合を示している。「〇」は斜面部42上にスラッジ13がわずかに留まった場合を示している。「×」は斜面部42上に多量のスラッジ13が留まった場合を示している。
【0048】
【表2】
【0049】
表2からわかるように、斜面部42の角度θが0[°]では、クッションタンク40の底部に接続された排出管43からスラッジ13を排出させたときに、斜面部42上にスラッジ13が多量に留まってしまう。そのため、作業者がクッションタンク40内に入ってスラッジを除去する作業が必要となる。一方、斜面部42の角度θが、45[°]及び60[°]では、クッションタンク40の底部に接続された排出管43からスラッジ13を排出させたときに、斜面部42上にスラッジ13がほとんど留まらない。そのため、作業者がクッションタンク40内に入ってスラッジ13を除去する作業が不要となる。斜面部42の角度θが30[°]では、斜面部42上にわずかにスラッジ13の残留が見られたが、洗浄液により除去可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、簡便な構造で、効率よくスラッジを排出することができるクッションタンク装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 酸洗槽
2 鋼帯
3 酸洗液
4 クッションタンク装置
6 スラッジ回収タンク
7,8,8a,8b 送液配管
9 送液ポンプ
10 洗浄配管
13 スラッジ
40 クッションタンク
40a 内壁面
41 円筒部
42 斜面部
43 排出管
44 排出バルブ
71 流出口
72,81a,81b,92 開閉バルブ
91 流入口
100 酸洗設備
101 堰部
102,103 搬送ローラ対
111 排出口
図1
図2
図3