(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】外観と雰囲気が天然繊維に似た糸と布を製造する方法
(51)【国際特許分類】
D02G 3/04 20060101AFI20231108BHJP
D03D 15/40 20210101ALI20231108BHJP
D04B 1/14 20060101ALI20231108BHJP
D04B 21/00 20060101ALI20231108BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20231108BHJP
A41D 31/04 20190101ALI20231108BHJP
【FI】
D02G3/04
D03D15/40
D04B1/14
D04B21/00 B
A41D31/00 502A
A41D31/04 F
A41D31/04 G
A41D31/00 503G
A41D31/00 503F
A41D31/00 503E
A41D31/00 503B
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018137315
(22)【出願日】2018-07-23
【審査請求日】2021-05-07
(32)【優先日】2017-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507343327
【氏名又は名称】サンコ テキスタイル イスレットメレリ サン ベ ティク エーエス
【氏名又は名称原語表記】SANKO TEKSTIL ISLETMELERI SAN. VE TIC. A.S.
【住所又は居所原語表記】Organize Sanayi Bolgesi 3. Cadde 16400 Inegol-Bursa(TR)
(74)【代理人】
【識別番号】100083389
【氏名又は名称】竹ノ内 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100198317
【氏名又は名称】横堀 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】エルドアン バルシュ オッデン
(72)【発明者】
【氏名】エルトゥグ エルクシュ
(72)【発明者】
【氏名】トゥンジャイ キリジェカン
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-016328(JP,A)
【文献】特開昭62-156323(JP,A)
【文献】特開昭61-000628(JP,A)
【文献】特公昭50-027092(JP,B1)
【文献】特許第072853(JP,C1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0250425(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0095072(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00- 3/48
D01G 1/00-99/00
D01H 1/00-17/02
D03D 1/00-27/18
D04B 1/00- 1/28,
21/00-21/20
A41D 31/00,31/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外観と雰囲気が天然繊維に似た糸を製造する方法であって、
-人造テキスタイル繊維の複数のノイルを
供給するステップであって、前記人造テキスタイル繊維の前記複数のノイルにおける、長さが12.7mm(1/2”)未満である繊維の含有率は、少なくとも5重量%であり、
-複数の
未使用の人造テキスタイル
繊維を供給するステップと、
-前記人造テキスタイル繊維の前記複数のノイルを、
前記複数の
未使用の人造テキスタイル繊維に追加するステップとを含み、
前記糸を製造するための繊維の最終ブレンドを得るために、前記最終ブレンドは、
前記複数の
未使用の人造テキスタイル繊維の長さ分布の変動係数(CV%)よりも高い繊維の長さ分布の変動係数(CV%)を有しており、
前記変動係数(CV%)は、測定値の分布の標準偏差sとその平均値[数1]との比率、
【数1】
すなわち、次式の通りであり、
【数2】
前記人造テキスタイル繊維は再生成されたセルロース系繊維であり、前記製造に使用される前記ノイルは、前記繊維1グラム中の固まりの数として、50~300のカウント/gの前記固まりの数を有することを特徴とする糸の製造方法。
【請求項2】
前記繊維の最終ブレンド中の前記繊維の長さ分布は、少なくとも25%の
前記変動係数(CV%)を有することを特徴とする請求項1に記載の糸の製造方法。
【請求項3】
前記製造に使用される前記ノイルは、4~38mmの長さであることを特徴とする請求項
1に記載の糸の製造方法。
【請求項4】
前記製造に使用される前記ノイルは、長さが12.7mm(1/2インチ)未満の前記繊維の含有率が、5~65重量%であることを特徴とする請求項
1に記載の糸の製造方法。
【請求項5】
前記変動係数(CV%)は、前記
人造テキスタイル繊維の平均繊維長さ(Ln)の関数として計算されることを特徴とする請求項1に記載の糸の製造方法。
【請求項6】
前記人造テキスタイル繊維のノイルを、
前記未使用の人造テキスタイル繊維と混合するステップをさらに含み、前記ノイルは前記糸の総重量に対して、少なくとも5重量%であることを特徴とする請求項1に記載の糸の製造方法。
【請求項7】
前記未使用の人造テキスタイル繊維を前記人造テキスタイル繊維のノイルと混合するステップは、異なるデニール及び/又は異なる断面形状を有する繊維を一緒に混合するステップを含むことを特徴とする請求項6に記載の糸の製造方法。
【請求項8】
前記ノイルは、すべての種類の前記人造テキスタイル繊維のステープル形態のノイルであることを特徴とする請求項
1に記載の糸の製造方法。
【請求項9】
前記再生成されたセルロース系繊維は、リヨセル、ビスコース、モーダル、キュプラ、竹、ポリノジック繊維、またはアセテートから選択されることを特徴とする請求項
8に記載の糸の製造方法。
【請求項10】
前記糸にスラブを形成するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の糸の製造方法。
【請求項11】
未使用の人造テキスタイル繊維と人造テキスタイル繊維のノイルとを含む糸であって、
前記繊維の最終ブレンドは、前記
未使用の複数の人造テキスタイル繊維の長さ分布の変動係数(CV%)よりも高い繊維の長さ分布の変動係数(CV%)を有し、
前記変動係数(CV%)は、測定値の分布の標準偏差sとその平均値[数1]との比率、
【数1】
すなわち、次式の通りであり、
【数2】
前記人造テキスタイル繊維は再生成されたセルロース系繊維であり、
前記人造テキスタイル繊維の前記複数のノイルにおける長さが12.7mm(1/2インチ)未満である繊維の含有率は少なくとも5%であり、前記ノイルは50~300のカウント/gの固まりの数を有することを特徴とする糸。
【請求項12】
請求項
11に記載の前記糸を含むことを特徴とする布。
【請求項13】
請求項
12に記載の前記布を含むことを特徴とする衣服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外観と雰囲気が天然繊維に似た糸と布を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然繊維のような外観と手触りのある糸や布を得るために、人造繊維に質感を与える触感処理が知られている。この触感処理は、フィラメント状の人造繊維に適用され、天然繊維の外観と雰囲気に似た外観と雰囲気を呈するように、この人造繊維を加工処理するものである。
【0003】
この触感処理は、予め配向された供給糸(半延伸糸、POY)を延伸加工された延伸加工糸(DTY)に変換するステップ、すなわち、天然繊維の様な特性を有する製品に変換する仕上げステップである。この触感処理の間に、予め配向された糸には、摩擦を使用した恒久的なしわが形成される。この触感処理は、安定形状の繊維には適用できない。
【0004】
人造繊維は、フィラメント状又は安定形状のいずれかで使用される。安定形状で使用される時、繊維の長さは、ほぼ一定であり、いずれにしても天然繊維と比較した場合、その長さの分布の変動係数(CV%)は小さい。一般に、綿、リンネルなどのような天然繊維の長さは、様々である。
【0005】
長さの異なる繊維を使用することに関し、特許文献1は、綿又は羊毛の糸及び布と同じレベルの快適さ、及び物理的特性を有する合成繊維含有の糸や布を提供することを目的として、異なる長さの合成繊維のブレンドから製造された糸を製造することを記載している。
【0006】
特許文献1に記載の糸は、合成繊維と混合されている。特に、特許文献1に記載されている糸は、少なくとも3つの群からなる合成繊維のブレンドを含み、各群は、実質的に均一な長さの合成繊維からなり、他の群の実質的に均一な長さの合成繊維とは異なっている。より詳細には、上記少なくとも3つの群の各々は、実質的に均一な長が、少なくとも約15%だけ他の群の合成繊維の長さと異なり、また、各群内の繊維長さは5%以内の範囲で異なっている。これらの群のいずれも、混合物の重量の75%を超えることはない。
【0007】
特許文献2には、天然繊維含有糸の物理的特性、例えばかさ高性や外観を呈すると言われる、合成繊維を含む糸が記載されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載されている技術は、実施が容易ではなく、産業界には十分に受け入れられていない。特に、特許文献1では、糸の製造上の条件(例えば、長さの異なる複数の繊維を取り扱うことによって生じる問題)を考慮すれば、長さの異なる合成繊維群を余りにも多く使用することを思い止まらせるべきであると述べられている。さらに、各長さの群内では、繊維の長さには殆んど変わりがなく(5%未満)、そのような変化に伴う効果は限定的である。
【0009】
一般に、このような制限は、布の自然な外観と雰囲気に、事実上否定的な影響を及ぼしている。別の欠点は、繊維を切断するコストとその複雑さである。上記のように、主要な繊維製造業者は、非常に限定された長さで、人造繊維を提供することは知られている。
【0010】
繊維の切断は、別の業者によって行われるかもしれない。しかし、そのような処理は、追加の費用を要し、またより多くの製造時間を必要とする。さらに、長さの群毎に、それらの割合を整えるためには別の複雑さが加わることもある。これらの全ては、繊維長さが適度に分布していないために、自然な糸の感じを出させないという結果をもたらす。
【0011】
特許文献3は、強度特性を改善した糸と、ステープルファイバの混合物との紡糸を成功させるような、物理的特性を有する合成ステープルファイバを準備するプロセスを記載している。このような文献は、長い間知られていた製造技術に関する先行技術の典型例を示している。
【0012】
特許文献4は、紡糸可能であるが、通常廃棄される綿の繊維を回収し、それから低コストの糸を形成するために、比較的安価なジンの微塵を処理する方法を開示している。この特許文献4の目的は、その中に含まれていた使用可能な綿の繊維を回収するために、安いジン微塵を扱うことである。
【0013】
特許文献4は、上記の結果を得るために、まず微塵をクリーニングし、次いで45%~60%の範囲のCVを提供するようにカーディングし、それらをコーミングして、CVをさらに30%~32%まで低減させることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】米国特許第4,446,237号明細書
【文献】米国特許第4,384,450号明細書
【文献】米国特許第2,271,184号明細書
【文献】米国特許第3,987,615号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ノイルは、糸の製造過程で生ずるくず繊維であることも知られている。
例えば、カーディングステップの間、繊維は平行に整列され、繊維の絡まりや整っていない繊維の塊が機械的に広げられる。この機械的な力は、繊維の一部を破壊し、これらの「短くなった」繊維は、ノイルと呼ばれる。
【0016】
本発明の目的は、人造繊維を含む糸と、天然繊維の外観と感触を有する糸とを含む、テキスタイル布を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の上記目的及び他の目的は、請求項1に記載された、天然繊維の外観と雰囲気を有する糸を製造する方法によって達成される。好ましい実施例は、従属請求項の対象である。
【0018】
本発明の方法は、
-第1の人造テキスタイル繊維の複数のノイル及び/又は第2の天然テキスタイル繊維の複数のノイルを準備するステップと、
-複数の人造繊維を供給するステップと、
-少なくとも1つの前記第1又は第2のテキスタイル繊維の前記複数のノイルを、前記複数の人造繊維に追加するステップ、あるいは、
-前記テキスタイル繊維の前記第1の複数のノイルを前記テキスタイル繊維の前記第2の複数のノイルに追加するステップとを含み、
前記糸を製造するための繊維の最終ブレンドを得るために、前記最終ブレンドは、前記複数の人造繊維の長さ分布の変動係数(CV%)よりも高い繊維の長さ分布の変動係数(CV%)を有していることを特徴とする。
【0019】
上記方法の実施例によれば、前記繊維の最終ブレンド中の前記繊維の長さ分布は、少なくとも25%の変動係数(CV%)を有する。
ある実施例では、前記糸を製造するための前記繊維の最終ブレンド中の繊維の長さ分布の変動係数は、25~80%の値でよい。より好ましい実施例では、前記糸を製造するための前記繊維の最終ブレンド中の繊維の長さ分布の変動係数は、30~75%の値でよい。
別の好ましい実施例では、前記糸を製造するための前記繊維の最終ブレンド中の繊維の長さ分布の変動係数は、30~60%の値でよい。
【0020】
別の実施例では、前記人造繊維を含む、前記糸の製造のために使用される前記テキスタイル繊維は、天然繊維のノイル、人造繊維のノイル、及びこれらの混合物から選択される100%以内のノイルを含んでいる。言いかえれば、本発明はまた、糸の繊維の全体が、ノイルから得られる実施形態を含んでいる。前記ノイルは、好ましくは、全てにおいて、少なくとも25%の前記CV値を有している。
【0021】
本発明は、先行技術に対して幾つかの利点を有している。
上記方法の第一の利点は、糸の製造に使用される繊維が異なる長さを有しており、天然繊維の長さの範囲に類似した長さのものが製造されることである。
【0022】
前記ノイルの使用によって得られた前記長さの範囲による利点に加えて、前記繊維の形状の不規則性によって、別の利点がもたらされる。ノイルは破損した繊維であるので、未使用の繊維には似ていない。ノイルは、破損した後、加えられた力によって引っ張られ、未使用の人造繊維と共に織られる。すなわち、それらは、天然繊維に近い外観を有し、異なるエッジ形状を有する。これは、天然繊維と同様の性質を有する、触感加工された繊維に相当する。
【0023】
各糸の製造工程中に、ある程度の量のノイルが常に生成される。これらのノイルは、廃棄物とみなされるため、それらを再利用することはリサイクルの有益な形態と考えることができる。このことは、本発明の別の重要な利点である。
従って、特許文献2に記載の方法よりも優れた、より経済的で簡単な方法で、天然繊維からなる糸を模倣した糸を作れることの他に、本発明は、産業廃棄物を再利用することができるという利点を有している。
【0024】
他の重要な利点は、天然繊維の代替物を作成できる可能性があることである。本発明によれば、天然繊維を使用することなく、非常に自然な外観を有する繊維を製造することができ、かつ、それを非常に簡単な方法で提供することができる。
【0025】
本発明のさらなる目的は、本発明の(請求項13記載の)方法で得られる糸、この糸を含む(請求項14記載の)布、及びこの布を含む(請求項15記載の)衣服を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明のノイルタイプのテクスチャ加工された人造繊維の例と、形状比較のために、少なくとも触感加工されていない従来の人造繊維とが混合された繊維群を示す図である。
【
図2】触感加工された繊維が、形状において殆んど綿の繊維のように見える人造繊維のノイル群を示す図である。
【
図3】幾つかの繊維糸のこぶがある、人造繊維ノイルの群の例を示す図である。これらの糸のこぶは、天然繊維のものと似ており、かつ、人造繊維では殆んど見ることができないものである。
【
図4】Ne8/1リング精紡機により、従来の100%のモーダル製の糸を示す図である。
【
図5】Ne8/1リング精紡機により、100%のノイル製の糸を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明を詳細に説明する。
【0028】
[未使用の繊維]
本発明において、用語「未使用の繊維」は、従来の人造繊維を示すものである。このような繊維は、非常に狭い範囲内で、実質的に一定の長さを有し、又、いずれの場合にも、その長さ分布の変動係数(CV%)が小さい。
未使用の繊維は、再生成されたセルロース系繊維(リヨセル、ビスコース、モーダル、バンブー、ポリノジック繊維、キュプロ、アセテートなど)、ポリエステルのような任意の人造繊維、ナイロン等でもよい。
【0029】
[人造繊維]
本発明において、用語「人造繊維」は、人間によって作られるあらゆる種類の繊維を示すものである。この用語は、全ての種類の再生成されたセルロース系繊維、有機的な繊維、無機繊維、金属繊維などを含んでいる。
【0030】
[天然繊維]
綿、絹、羊毛、リンネルなどのような植物や動物から得られた繊維を、全て天然繊維と呼ぶ。天然繊維の共通点は、それらが自然界にあり、人間によっては作られていないということである。
【0031】
[ノイルの仕様]
前記したように、ノイルは、工業用繊維の加工プロセスで生じる廃繊維である。そのようなプロセス中に、ある量の繊維が壊れ、それらの破損した繊維は、製造過程から除去され、ノイルとなる。各実施例において、ノイル、すなわち、カーディングのような繊維の加工のプロセスから得られた繊維の長さは、4~38mmの範囲にある。
【0032】
一般的に、本発明の目的のために、人造繊維のノイルは、糸紡績機械または梳綿機などの繊維機械、または紡績繊維、すなわち紡織繊維のスライバーを組み合わせ、延伸するための機械を操作して得ることができる。この延伸は、スライバーがブレンドされ、倍化され、平準化される操作であることは、この分野の技術に精通している人は理解すると思う。
【0033】
この意味で、ノイルは、機械的な行為にさらされた繊維である。例えば、ビスコースのノイルは、平均繊維長さLnで定義される以下の仕様を有していてもよい。
[繊維ヒストグラム(数に関して)]
平均繊維長さ(数に関して) :29.4mm
CV% :34.8
短繊維含有率(12.7mm未満)% :8.2
【0034】
同じヒストグラム・テストを未使用のビスコースに適用した。その結果を下に示す。
[繊維ヒストグラム(数に関して)]
平均繊維長さ(数に関して) :33.6mm
CV% :24
短繊維含有率(12.7mm未満)% :2.8
上記の結果は、ウスター(Uster)Afis Pro 2 テストに基づく。
特に、平均繊維長(数に関して)Lnは、次式によって計算することができる。
【0035】
【数1】
ここで、Lnは、平均繊維長(数に関して)、niは、長さliの繊維の数、liは繊維iの長さである。
【0036】
さらに、従来技術で知られているように、変動係数(CV%)は、測定値の分布の標準偏差sとその平均値[数2]との比率である。
【数2】
すなわち、
【数3】
上記のヒストグラムを考えれば、データは、変動係数(CV%)の高い値を示している。このようなデータは、ノイルの長さが広範囲に分布し、これが、天然繊維の長さ分布のより良い複製を可能にする要因であることを示している。
【0037】
短繊維含有率及びCV%の差は、繊維長の範囲が広いノイルと未使用の繊維のノイルとの差を示している。
異なる機械又は同じ機械上での異なる設定、又は同じ設定であるが、異なる繊維材料などが、ノイルの長さ、形状及び質感に影響を及ぼすことも考慮されるべきである。ある機械は、遥かに短いノイルを生成し、ある機械はより長いノイルを生成する。
ノイルが広範囲の長さ及び形を持つ限り、これらのバリエーションは、本発明の範囲を妨げるものではない。
【0038】
下記の表1は、ノイルの基準を表わしている。
これらの結果は、ウスター(Uster)Afis Pro 2 テストに基づいている。もし、任意のテキスタイル繊維のノイルが、下記の表1に示す仕様を有する場合、それらは、本発明の範囲内と考えることができる。
【0039】
【0040】
[糸の形状の比較]
天然繊維を含んでいる糸には、細かい、粗い所、固まりの数、毛深さ等、テスト結果がかなり不規則なものとなる。
普通の人造繊維では、不規則なものは、かなり少ない。そのため、布の表面には不規則なものが現われない。
ノイルを人造繊維に加えることによって、それらの不規則性により、より自然な外観を呈する可能性が高まる。
【0041】
表2及び表3は、糸1と表示した従来の糸、及び、糸2として表示した本発明の実施例によって作られた糸との、比較を示すものである。
天然繊維糸である糸3は、100%の綿からできおり、比較のために、表2及び表3に加えられている。
表2及び表3により提供されるデータは、ウスター不完全テストユニットで得られたものである。表2のEPは、特定のスラブ模様が作られる効果プログラムの略である。表2の中で繰り返し使用されている特定の効果プログラムは、JAP-39と呼ばれている。
【0042】
【0043】
【0044】
上記表2と表3から、ビスコースノイル製の糸2の場合、細かい場所や粗い場所、固まりの数などのすべての不規則性が非常に増加していることが明らかである。ここで、U%パラメータは、不規則の量を示している。糸2は、糸1よりU%の値が高く、綿製の糸3と同程度のU%の値を有している。
【0045】
その上、糸2では、毛深さも、明らかに増加している。
この分野の技術に精通している人は、毛深さHが、1cmの糸の突出した繊維に相当することに気づくと思う。さらに表2と表3の両方から、糸2の特徴は、天然繊維糸である糸3の特徴に似ていること、すなわち、比較のために示した100%の綿の特徴に似ていることは明らかである。
【0046】
図1は、触感加工された繊維、及び従来の人造繊維を含む混合繊維の群からなる、本発明の一実施例を示す図である。
触感加工された繊維は、より縮れて、かつ従来の人造繊維よりも不規則である。
【0047】
図2は、人造繊維のノイル群を示す図である。
図2は、さらに焦点をよく合わせたものであり、ノイルの繊維が如何に不揃いであり、綿繊維とほぼ同じであるか、また、従来の人造繊維が、殆んどワイヤのようなものであることを示している。
図3は、人造繊維ノイルの群を示している図である。この場合も、幾つかの繊維糸のこぶを見ることができる。
【0048】
[人造繊維のノイルの詳細]
ノイルは、再生成されたセルロース系繊維(リヨセル、ビスコース、モーダル、アセテート、バンブー、ポリノジック繊維、キュプロ、など)、ポリエステル、ナイロンあるいは他のもののような、ステープル形態で入手可能な人造繊維で作ることができる。
異なる人造繊維のノイルを混合してもよい。例えば、ビスコースのノイルを、リヨセルのノイルと混合してもよい。人造繊維のノイルを、未使用の人造繊維と混合してもよい。この場合、ノイルは、少なくとも5%とするべきである。糸は、純粋なノイルだけで作られてもよい。
【0049】
さらなる実施例によれば、本発明の目的にとって、異なるデニール(細かさ)及び/又は、異なる断面形状(非円形、不規則、など)を有する繊維の使用は、有益である。この変形は、ノイル又はノイルと混合される他の繊維にも適用できる。
ノイルは、リサイクル後の繊維から得てもよい。例えば、リヨセルで作られている布製品が再利用されれば、この再利用に由来する繊維は一定の長さや形を持たなくてもよい。従って、そのような繊維は、ノイルのように、長さと形に関して「不均一」である。
【0050】
[天然繊維のノイルの詳細]
本発明の目的のために、さらに、綿か羊毛、あるいは他の同様の天然繊維に由来したノイルを使用することもできる。そのようなノイルは、形状において、当然、不均一であり、長さも広い範囲にわたっている。従って、天然繊維に由来したノイルが、人造繊維と混じり合った場合、独特に増強された自然な外観を得ることができる。
さらに、異なるタイプの天然繊維及び/又は人造繊維を、一緒に混合してもよい。天然及び/又は人造繊維のノイルは、糸の総重量に対して、少なくとも5重量%の未使用の人造繊維と混合することができる。
【0051】
本発明の実施例において、未使用の人造繊維を、天然繊維に由来したノイル及び/又は人造繊維と共に混合するステップは、異なるデニール及び/又は異なる断面形状の繊維と共に混合することを含んでいる。
【0052】
[追加細目]
本発明によって製造された糸を、従来の繊維で作られた糸または糸群と一緒に使用してもよい。よく知られているように、スラブは、紡績で完全な糸を生産することができなかった過去の時代に生産された糸の外観を模倣する目的のために作られた、長さ、厚さ、及び頻度が不規則な糸である。スラブの効果は、不規則な外観を与えるためにしばしば使用されている。ノイルを使用する場合には、より自然な外観が得られる。特に、スラブは、見た目をより自然にするために、糸の上に小さな制御されていない不規則性を作り出す。
これらの小さな不規則性は、非常に均一な(長さ、形状又は細かさ)繊維材料が使用された時には実現できない。
【0053】
下記の表4は、以前に比較されたのと同じ、3種類の糸のスラブパラメータの比較を示している。3つの糸は全て、ユニットを走査するアムスラーレーザースキャニングユニットでテストされ、その結果を次に示す。
【0054】
【表4】
ここで、平均厚さは、厚さの平均増加対糸のベースである。
平均長さは、スラブの長さである。
頻度は、メートル当たりのスラブの数である。
上記の3つの糸について、3つのパラメータの全てをチェックすることにより、糸1よりも糸2が、遥かに綿製の糸3に似ていることが明らかになる。
【0055】
先行技術との比較を行うために、
図1において、繊維の混合された群は、人造繊維のノイルタイプの一例として、符号10で示されるテクスチャ加工された繊維と、形状比較のために、符号20で示される少なくとも触感加工されていない従来の人造繊維とを含んでいる。
図2は、触感加工された人造繊維群を示しており、触感加工された繊維は、形状が殆んど綿の繊維のように見える。
【0056】
図3には、繊維のこぶ30を有する人造繊維の一群が示されており、これらのこぶ30は、天然繊維のものと類似しており、人造繊維では殆んど見られない。
【0057】
[紡糸]
上記の実施形態に由来する、天然繊維及び/又は人造繊維のノイルを含む糸は、リングスパン、コアスパン、オープンエンドスパン、エアジェットスピン又は任意の可能な回転システムなどの任意のスピニング技術を使用することによって、糸に紡がれる。
この革新的な方法は、Ne3/1とNe100/1の間の糸に対して適切である。
【0058】
[染色]
この革新的な方法を用いて製造された糸、及び/又は糸でできた布、及び/又は衣服は、次の状態で使用することができるが、これらに限定されない。
染色しない糸、あるいは、インジゴ、インダンスレン、顔料、硫黄、反応性物質などのあらゆる種類の染料/着色剤を用いて、白色や光学に染められた糸、染色された繊維、部分染色された布、染色された布、染色された衣服、印刷やコーティングされた布及び/又は衣類等々。
【0059】
[持続可能性]
ノイルは廃棄物とみなされるので、それらを再利用することは、リサイクルと見なすことができる。従って、先行技術に対して、より費用効率が高く、簡単な方法で、天然繊維製の糸を模倣した糸を作ることができる利点を別にしても、いわゆる産業廃棄物をリサイクルできるという利益が得られる。
【0060】
本発明の別の重要な事項は、天然繊維に代わるものを作れる可能性である。例えば、綿の使用は、最近、持続性の観点から見て広範囲に議論されている。将来的には、人類のための食糧と節水の必要性から、綿花の栽培に使用される畑が減少することが予測されている。その場合、人造繊維はますます利用されるであろう。
しかしながら、不自然な外観及び手触りは、エンドユーザが人造繊維を受け入れることを困難にする。
【0061】
本発明によれば、天然繊維を使用せずに、非常に自然な外観を有するテキスタイルを製造するための、非常に簡単な方法が提供される。
本発明によれば、広範囲の、繊維の長さ及び種類並びに突出したエッジ部を有する糸を製造できるので、触覚的快適性、被覆性、通気性などの有益な特性が得られることは明らかである。製造された糸は、天然繊維からなる糸や布を、かなりよく模倣している。製造された糸は、より自然な外観及び感触を有する布を製造するために、織物又は編み物に使用することができる。製造された糸は、本発明の様々な実施形態による布を含む衣服も製造することができる。
【0062】
[最終製品を検査することによって、革新的な方法で製造された製品を識別する方法]
最終製品を検査することにより、本発明の革新的な方法を用いて製造された製品を識別するための幾つかの方法がある。
【0063】
[1)エキスパート判断]
上述したように、この新しい技術が使用される場合、布及び/又は衣服は、従来の人造繊維によって作られたものよりも自然に見える。本明細書に記載された革新的な方法によって作成された糸、及び/又はこの糸を使用した布、及び/又は衣服で作られたものか否かを確認する必要がある場合、同じタイプの製品を、2つのリファレンスバージョンとして作製する。
第1のバージョンは、天然繊維を用いて作製し、第2のバージョンは従来の人造繊維を用いて作製する。
この第1のリファレンスは、もちろん、布又は衣服の自然な外観を呈する。
その後、この分野の技術に精通している人が、未知の布が新しい技術で作られたか否を判断するために、上記2つのリファレンスのどれに、より似ているかをチェックする。
一般に使用される基準は、手触り、表面の不規則、色及び明るさである。
【0064】
[2)ヒストグラム・テスト]
この革新的な方法を用いて製造された製品を識別する別の方法は、平均繊維長及び短繊維量に関連するものである。この新しい技術で製造された糸は、従来の人造繊維製の糸よりも、はるかに短い繊維を有する。なぜなら、上述したように、この新しい技術では、ノイルが使用されるからである。
布及び/又は衣服が革新的な技術で作られたか否を調べるために、糸を、布及び/又は衣服から取り出し、次いで、これらの糸を解撚することができる。
サンプルを解撚することによって、遊離繊維が得られ、次いで、これをヒストグラム機械に入れて、平均繊維長及び短繊維含量を同定することができる。
従来の人造繊維から製造された糸と比較して、明らかに、短繊維含量が多く、平均繊維長が短い場合は、テストされた糸が、本明細書に記載の革新的な技術によって製造されたものであることを意味する。
【0065】
確実な決定を行うために、前に説明したように、2つのリファレンス糸が提供される。
前記第1のサンプルは、天然繊維を使用して製造され、前記第2のサンプルは、従来の人造繊維を使用して製造され、両方のサンプルもまた、撚り戻しされ、ヒストグラム試験に供する。
これらの2つのリファレンスのヒストグラム・テストを実施することによって、この分野の技術に精通している人は、未知の糸の製造技術についてのアイデアを形成することができる。
もし、未知の糸の繊維が、第1のリファレンスと同様の短繊維含量及び平均繊維長を有する場合、この未知の糸の含有物には、ノイルが存在することを意味し、従ってテスト糸は、本発明に記載の革新的な技術を用いて製造されたことがわかる。
【0066】
[3) 顕微鏡分析]
糸は、それらが本発明に記載の革新的な技術を用いて作られたか否かを判定するために、SEM顕微鏡(走査電子顕微鏡)を使用してチェックすることもできる。
ノイルが使用されている場合、多くの浮遊繊維が見えると予想される。
従来の人造繊維が使用されている場合、多くの浮遊繊維が見られることはなく、より平行で均一な規則的な繊維が見られる。
【0067】
例えば、
図4は、Ne8/1リング精紡機により、100%従来のモーダル製の糸を表している。
比較のために、
図5は、Ne8/1リング精紡機により、100%のノイル製の糸を表している。
図4及び
図5は、浮遊繊維のチェックに役立つ。
図4は、殆んど並列で一定の繊維を示しており、一方、
図5は、不規則な形の浮遊繊維を示している。さらに、
図4及び
図5は、糸の表面の繊維のエッジ40の数をカウントすることによって比較することを可能にしている。
【0068】
単に、短い繊維が使用される場合、糸の表面に多数の繊維のエッジ40が見えることが予想される。
これを確認するために、3cmの糸が顕微鏡でチェックされる。
このアイデアは、最大多数の糸のエッジが存在する幾つかの写真を見て獲得することである。
エッジが観察されない、及び/又は殆んどエッジが見えない場所は、無視すべきである。
基本的に、最大多数の糸のエッジ40が見える少なくとも4枚の写真における、エッジの数の平均をとる。
【0069】
これら4枚の写真を撮るには、少なくとも12枚の写真を撮る必要がある(比率は1:3)。これらの最小12枚の写真のうち、最大4つの繊維のエッジが選択され、それらの選択された写真から、繊維のエッジの平均数が計算される。
これらの写真を使用して、平方メートル単位で、例えば単位mm2を用いて、糸の表面をチェックすることができる。
従って、関心のある箇所の比率を計算するために、エッジ40の数を表面積(mm2)で除算する。
下記の表5は、リング紡績糸の範囲を示す表である。
【0070】
【0071】
ノイルの量の増加は、エッジの数を増加させる。特定のテスト組成物中のノイルの量が多いほど、エッジ40の数が多くなる。
最良の写真を撮影するには、仕上げ前の糸を使用するか、損傷が最小限の糸の部分を使用するのがよい。例えば、デニムファブリックは石で洗浄することができるが、これは、糸の表面に影響を及ぼし、繊維が小繊維化されたとき糸のエッジを見ることが困難となることがある。この場合、損傷が最少の所で、糸のサンプルを得るべきである。
【0072】
リング精紡機製の糸は、この分析に最もよく反応する。しかし、空気精紡(OE)やエアジェットタイプの紡糸技術は、繊維が非常にコンパクトであり、顕微鏡でそれらを見ることが困難である。また、コンパクトな紡糸技術では、見える縁の数をより少なくするように、糸の端部を繊維に挿入する。しかし、いずれにしても、未知の糸は、リファレンス糸と比較されるべき糸のエッジ数、及び浮遊繊維に関してSEM顕微鏡下で分析することができる。上記のように、第1のサンプルは、天然繊維を使用して作られ、第2のサンプルは、従来の人造繊維を使用して作られる。
【0073】
染料、布仕上げ又は衣服仕上げの影響がある場合、エッジ40の数は、前記した公差の範囲外で計算してもよい。この場合、上記と同様に、リファレンス布/衣服は、糸(天然繊維を使用して製造された第1のサンプル及び従来の人造繊維を使用して製造された第2のサンプル)から製造され、リファレンスの布/衣服は、未知の布及び/又は衣服と比較される未知サンプルと同じ方法で、処理/染色されるべきである。
【0074】
天然繊維のノイルが人造繊維と共に使用されるとき、リファレンス糸は、糸のエッジ40の数を把握するのに役立つ。例えば、綿のノイルがモーダルと混合されると、この糸のエッジ40の数は、同じモーダルの繊維を有する従来の綿から製造された糸のエッジ40の数よりも多い。さらに、浮遊繊維の数も、より多くなると思われる。
【0075】
さらに、例えば、これに限定するものではないが、オープンシーブイ(OpenCV)などの現在入手可能な画像処理ライブラリを使用し、従来の人工のものと比較してより、詳細な電子顕微鏡法などの顕微鏡検査によって生成された繊維のエッジを自動的に評価し、ランク付けしてもよい。
このようなアプリケーションは、糸に沿ってイメージ・フレーム内のエッジを計数し、定量的な比較と順位付けのために、各サンプルに数値を割り当てることができる。各サンプルが同じ方法で準備され、同じ視点及び倍率で画像化されている場合、定量的比較又はベンチマークのために、数値比較を使用することができる。上記と同じように、ここでも、本発明の製品の数値の値は天然繊維の値に似ているものとなる。
【0076】
少なくとも1つの例示的な実施形態を、概要及び詳細な説明で提示したが、膨大な数の変形が存在することを理解されたい。これらの例示的な実施形態又は例示は、単なる例であり、いかなる形であれ、範囲、適用可能性又は構成を限定することを意図するものではないことを理解されたい。
【0077】
前述の要約及び詳細な説明は、この分野の技術に精通している人に、少なくとも1つの例示的な実施形態を実装するための便利なロードマップを提供し、添付の特許請求の範囲及びその法的均等物の範囲から逸脱することなく、例示的な実施形態に記載された要素の機能及び配置に、様々な変更を加えることができることは理解されると思う。
【符号の説明】
【0078】
10 触感加工されたファイバー
20 触感加工されていない従来の人造繊維
30 繊維のこぶ
40 糸のエッジ