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  • 特許-植物繊維強化樹脂組成物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】植物繊維強化樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/285 20190101AFI20231108BHJP
   B29B 7/48 20060101ALI20231108BHJP
   B29B 7/74 20060101ALI20231108BHJP
   B29B 11/16 20060101ALI20231108BHJP
   B29C 31/04 20060101ALI20231108BHJP
   B29C 48/40 20190101ALI20231108BHJP
   B29C 48/57 20190101ALI20231108BHJP
   B29C 70/52 20060101ALI20231108BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20231108BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20231108BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20231108BHJP
   B29K 105/12 20060101ALN20231108BHJP
【FI】
B29C48/285
B29B7/48
B29B7/74
B29B11/16
B29C31/04
B29C48/40
B29C48/57
B29C70/52
C08J3/20 B CES
C08L1/02
C08L101/00
B29K105:12
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019186073
(22)【出願日】2019-10-09
(65)【公開番号】P2021059096
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】片桐 好秀
(72)【発明者】
【氏名】平井 隆行
(72)【発明者】
【氏名】納谷 藍子
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-163742(JP,A)
【文献】特公昭46-001104(JP,B1)
【文献】特開2013-071281(JP,A)
【文献】特開2001-288342(JP,A)
【文献】特開2016-064501(JP,A)
【文献】特開2013-000913(JP,A)
【文献】特表2006-510505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C48/00 - 48/96
B29B 7/00 - 15/14
B29C41/00 - 41/36
B29C41/46 - 41/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と植物繊維とを含む混合物を押出機を用いて混練する工程を有し、前記樹脂は少なくとも2つの投入口から前記押出機に投入され、
前記混練する工程は、樹脂と植物繊維とを混合してなる混合物を混練する工程と、前記混合物に樹脂を混合してなる混合物を混練する工程と、を連続して実施することを含み、
前記少なくとも2つの投入口のうち、最も上流側の投入口と最も下流側の投入口との間における前記混合物に含まれる前記植物繊維の含有率が30質量%以上である、
植物繊維強化樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記少なくとも2つの投入口のうち、最も上流側の投入口と最も下流側の投入口との間における混合物に含まれる植物繊維の含有率が最終的に得られる樹脂組成物に含まれる植物繊維の含有率よりも大きい、請求項1に記載の植物繊維強化樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記少なくとも2つの投入口のうち、最も上流側の投入口と最も下流側の投入口との間における前記混合物に含まれる前記植物繊維の含有率が80質量%以下である、請求項1又は請求項2に記載の植物繊維強化樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記少なくとも2つの投入口のうち、最も下流側の投入口が前記押出機の中央部又は中央部よりも下流部に位置する、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の植物繊維強化樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記押出機の中央部から上流部及び中央部から下流部のそれぞれに、輸送能力のないニーディングディスクが配置されたスクリューセグメントを備える、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の植物繊維強化樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂はポリオレフィン樹脂を含む、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の植物繊維強化樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
前記植物繊維はセルロース繊維を含む、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の植物繊維強化樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記押出機のスクリュー長L/スクリュー径D(L/D)が36以上である、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の植物繊維強化樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物繊維強化樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース等の植物繊維を配合して強度を高めた樹脂組成物は、多分野で利用されている。このような樹脂組成物は、植物繊維及び樹脂に加え、利用目的に応じて物性を改善するための添加剤を用いて製造される場合がある。例えば、特許文献1には、ゴム含有ポリマーを添加した樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-231237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の樹脂組成物に添加されるゴム含有ポリマーは、樹脂組成物の柔軟性を向上させる一方で、剛性を低下させるおそれがある。
本発明は上記事情に鑑み、添加物を用いる以外の方法で力学的物性を改善する植物繊維強化樹脂組成物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための具体的手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1>樹脂と植物繊維とを含む混合物を押出機を用いて混練する工程を有し、前記樹脂は少なくとも2つの投入口から前記押出機に投入される、植物繊維強化樹脂組成物の製造方法。
<2>前記少なくとも2つの投入口のうち、最も上流側の投入口と最も下流側の投入口との間における混合物に含まれる植物繊維の含有率が最終的に得られる樹脂組成物に含まれる植物繊維の含有率よりも大きい、<1>に記載の植物繊維強化樹脂組成物の製造方法。
<3>前記少なくとも2つの投入口のうち、最も上流側の投入口と最も下流側の投入口との間における前記混合物に含まれる前記植物繊維の含有率が30質量%以上である、<1>又は<2>に記載の植物繊維強化樹脂組成物の製造方法。
<4>前記少なくとも2つの投入口のうち、最も下流側の投入口が前記押出機の中央部又は中央部よりも下流部に位置する、<1>~<3>のいずれか1項に記載の植物繊維強化樹脂組成物の製造方法。
<5>前記押出機の中央部から上流部及び中央部から下流部のそれぞれに、輸送能力のないニーディングディスクが配置されたスクリューセグメントを備える、<1>~<4>のいずれか1項に記載の植物繊維強化樹脂組成物の製造方法。
<6>前記混合物は樹脂を55質量%~95質量%及び植物繊維を5質量%~45質量%含む、<1>~<5>のいずれか1項に記載の植物繊維強化樹脂組成物の製造方法。
<7>前記樹脂はポリオレフィン樹脂を含む、<1>~<6>のいずれか1項に記載の植物繊維強化樹脂組成物の製造方法。
<8>前記植物繊維はセルロース繊維を含む、<1>~<7>のいずれか1項に記載の植物繊維強化樹脂組成物の製造方法。
<9>前記押出機のスクリュー長L/スクリュー径D(L/D)が36以上である、<1>~<8>のいずれか1項に記載の植物繊維強化樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、添加物を用いる以外の方法で力学的物性を改善する植物繊維強化樹脂組成物の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例で使用する押出機の構成を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
【0009】
本開示の植物繊維強化樹脂組成物(以下、単に樹脂組成物もいう)の製造方法は、樹脂と植物繊維とを含む混合物を押出機を用いて混練する工程を有し、前記樹脂は少なくとも2つの投入口から前記押出機に投入される。
【0010】
上記方法によれば、添加物を用いる以外の方法で樹脂組成物の力学的物性を向上させることができる。その理由は必ずしも明らかではないが、下記のように考えられる。
上記方法では樹脂が2回以上に分割して投入されるため、混練初期の混合物は植物繊維を相対的に多く含み粘度が高い。このため、混合物に充分なせん断応力を与えることが可能になり、植物繊維の開繊が促進される結果、樹脂組成物の力学的物性が向上すると考えられる。
さらに上記方法によれば、従来の方法よりも少ない混練回数で優れた力学的物性を有する樹脂組成物が得られる。このため、生産性向上及び樹脂組成物の劣化(熱による着色等)抑制の点でも有利である。
【0011】
上記方法で使用する二軸押出機の種類は特に制限されない。例えば、樹脂組成物の混練に一般的に使用される二軸押出機、単軸押出機などから選択できる。
押出機のスクリュー長L(材料の最初の投入口から取出口までの長さ)は特に制限されず、例えば、600mm~16,000mmであってもよい。
押出機のスクリュー径Dは特に制限されず、例えば、15mm~400mmであってもよい。スクリュー径が一定でない場合は、その最小値をスクリュー径Dとする。
【0012】
混合物を充分に混練する観点からは、L/Dは36以上であることが好ましい。生産性及び混合物の劣化抑制の観点からは、L/Dは120以下であることが好ましい。
【0013】
樹脂が投入される投入口の押出機における位置は、特に制限されない。混合物に充分なせん断応力を与える観点からは、少なくとも2つの投入口のうち、最も下流側の投入口が押出機の中央部又は中央部よりも下流部に位置することが好ましく、最も下流側の投入口が押出機の中央部と、中央部及び材料の取出口を等分する位置との間に位置することがより好ましい。
【0014】
混合物に充分なせん断応力を与える観点からは、少なくとも2つの投入口のうち、最も上流側の投入口と最も下流側の投入口との間における混合物に含まれる植物繊維の含有率が、最終的に得られる樹脂組成物に含まれる植物繊維の含有率よりも大きいことが好ましい。具体的には、例えば、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。混合物の粘度が高すぎて混練できなくなるのを回避する観点からは、上記含有率は80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましい。
【0015】
少なくとも2つの投入口から投入される樹脂の量の割合は、特に制限されない。混合物に充分なせん断応力を与える観点からは、最初に投入される樹脂の量が樹脂全体の20質量%~80質量%であることが好ましく、30質量%~70質量%であることがより好ましく、40質量%~60質量%であることがさらに好ましい。
【0016】
少なくとも2つの投入口のうち、最も上流側の投入口以外の投入口から投入される樹脂は、溶融状態であっても、固体の状態であってもよい。具体的には、例えば、最も上流側の投入口以外の投入口から昇温機能を備える単軸押出機を用いて溶融状態の樹脂を投入してもよく、昇温機能を備えていないサイドフィーダー等を用いて固体状態の樹脂を投入してもよい。
【0017】
少なくとも2つの投入口から投入される植物繊維の量の割合は、特に制限されない。混合物に充分なせん断応力を与える観点からは、最初に投入される植物繊維の量が植物繊維全体の80質量%~100質量%であることが好ましい。
【0018】
押出機は、中央部から上流部及び中央部から下流部のそれぞれに、輸送能力のないニーディングディスクが配置されたスクリューセグメントを備えていることが好ましい。
【0019】
押出機にニーディングディスクが配置される場合、その数は特に制限されず、任意の数に設定できる。隣接するニーディングディスクの長軸がなす角度(ずらし角度)は特に制限されず、例えば、30°~90°の範囲から選択してもよい。ニーディングディスクの主面のアスペクト比(長軸の長さ/短軸の長さ)は特に制限されず、例えば、1.2~2.0の範囲から選択してもよい。
【0020】
本開示の方法は、樹脂と植物繊維とを含む混合物を、樹脂の投入を2回以上に分割して混練する工程を有するのであれば特に制限されず、その他の条件は一般的な混練方法に準じて設定できる。例えば、混練時のシリンダー温度は150℃~250℃の範囲から選択してもよい。
【0021】
混合物に含まれる樹脂の種類は特に制限されない。例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂、及びオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー等の熱可塑性エラストマーが挙げられる。これらの中でもポリオレフィン樹脂が好ましい。
混合物に含まれる樹脂は、1種のみでも2種以上であってもよい。
【0022】
樹脂としては、官能基を有するものを用いてもよい。官能基としてはカルボキシ基、無水マレイン酸等の酸無水物基、エポキシ基などが挙げられる。官能基を有する樹脂を用いることで、樹脂と植物繊維との密着性が向上する効果が期待できる。
官能基を有する樹脂を用いる場合、その量は混合物に含まれる樹脂全体の10質量%以下であることが好ましい。
【0023】
植物繊維としては、セルロース繊維が挙げられる。セルロース繊維の寸法は特に制限されない。例えば、平均繊維長を1μm~100μmの範囲から選択してもよく、平均繊維径を1μm~50μmの範囲から選択してもよい。
混合物に含まれる植物繊維は、1種のみでも2種以上であってもよい。
【0024】
混合物に含まれる樹脂及び植物繊維の含有率は特に制限されず、樹脂組成物の利用目的等に応じて設定できる。
混合物に含まれる樹脂の含有率は、混合物全体の30質量%~99質量%の範囲から選択してもよく、55質量%~95質量%の範囲から選択してもよい。
混合物に含まれる植物繊維の含有率は、混合物全体の1質量%~70質量%の範囲から選択してもよく、5質量%~45質量%の範囲から選択してもよい。
【0025】
必要に応じ、混合物は樹脂及び植物繊維以外の成分を含んでもよい。例えば、植物繊維強化樹脂組成物の添加剤として一般的に用いられる成分を含んでもよい。
上述したように、本開示の方法で製造される樹脂組成物は、添加剤を用いる以外の方法で力学的物性が改善される。このため、例えば、樹脂組成物の何らかの物性を低下させるおそれのある成分であっても、従来の樹脂組成物に比べて使用量を増やしたり、従来の樹脂組成物には使用に適しない成分を使用することが可能になる。
混合物が樹脂及び植物繊維以外の成分を含む場合、その含有率は混合物全体の10質量%以下であってもよい。
【実施例
【0026】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
<樹脂組成物の作製>
図1に示すように、樹脂の投入口を上流側(位置1)と中央部付近(位置2)にそれぞれ配置した押出機を用いて実施例及び比較例の樹脂組成物を作製した。
押出機としては、株式会社日本製鋼所の二軸押出機(TEX30、L/D=77、D=30mm)を使用した。
【0028】
上記押出機を用いて、ポリプロピレン(株式会社プライムポリマー、J108M)71.7質量%、針葉樹パルプ繊維25質量%、及び無水マレイン酸変性ポリプロピレン(Addivant社、ポリボンド3200)3.3質量%の組成となる樹脂組成物を作製した。
【0029】
実施例1では、押出機の位置1からポリプロピレンを1.085kg/h、針葉樹パルプ繊維を1.25kg/h、無水マレイン酸変性ポリプロピレンを0.165kg/hの供給速度で投入し、位置2からポリプロピレンを2.5kg/hの供給速度で投入して、ペレット状の樹脂組成物を得た。位置1と位置2との間における混合物に含まれるパルプ繊維の含有率は、50質量%であった。混練はシリンダー温度170℃、スクリュー回転数136rpmの条件で行い、位置2からのポリプロピレンの投入は170℃に設定した単軸押出機を通して行った。
【0030】
比較例1では、押出機の位置1からポリプロピレンを3.585kg/hの供給速度で投入したことと、位置2からのポリプロピレンの投入を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0031】
比較例2では、押出機の位置1からポリプロピレンを3.585kg/hの供給速度で投入したことと、位置2からのポリプロピレンの投入を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、ペレット状の樹脂組成物を得た。その後、得られた樹脂組成物を位置1から5kg/hの供給速度で投入して混練する工程をさらに2回実施した。
【0032】
<力学的物性の評価>
得られた樹脂組成物から、射出成型機を用いてJIS 1A型多目的試験片を作製し、万能型試験機(インストロン社、モデル5566)を用いて変位速度2mm/min、支点間距離64mmの条件で曲げ試験を行い、曲げ弾性率及び曲げ強度を測定した。結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
表1に示すように、樹脂の投入を分割して行った実施例1の樹脂組成物は、樹脂の投入を一括して行った比較例1の樹脂組成物に比べて曲げ弾性率及び曲げ強度に優れていた。また、混練工程を3回実施した比較例2の樹脂組成物と比べて同等の曲げ弾性率及び曲げ強度を有していた。
図1