(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】樹脂組成物および該樹脂組成物からなるエラストマー材料
(51)【国際特許分類】
C08L 33/14 20060101AFI20231108BHJP
C08L 43/04 20060101ALI20231108BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20231108BHJP
C08F 220/28 20060101ALI20231108BHJP
C08F 230/08 20060101ALI20231108BHJP
C08K 9/06 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
C08L33/14
C08L43/04
C08K3/36
C08F220/28
C08F230/08
C08K9/06
(21)【出願番号】P 2019200134
(22)【出願日】2019-11-01
【審査請求日】2022-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】浅井 文雄
(72)【発明者】
【氏名】関 隆広
(72)【発明者】
【氏名】竹岡 敬和
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-028335(JP,A)
【文献】特許第6840215(JP,B1)
【文献】国際公開第2018/038271(WO,A1)
【文献】特開平11-315125(JP,A)
【文献】国際公開第2019/202889(WO,A1)
【文献】特開2003-206435(JP,A)
【文献】特開2019-065178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
C08F
C08J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアクリレート樹脂と球状シリカ粒子を含有する樹脂組成物であって、
前記ポリアクリレート樹脂が、少なくとも、
下記一般式(1):
【化1】
[式(1)中、R
0
はメチル
基を表す;R
1は水素原子またはメチル基を表す;nは1~
2の整数を表す。]で示されるアクリレートモノマー(A)と
下記一般式(2):
【化2】
[式(2)中、R
2は、水素原子またはメチル基を表す;R
3は、メトキシ基またはエトキシ基を表す;R
4は、メチル基、メトキシ基またはエトキシ基を表す。]
で示されるシランカップリング剤とをモノマーユニットとして含有し、
前記球状シリカ粒子の含有量が該樹脂組成物全体の15~50体積%であり、
前記球状シリカ粒子の平均粒子径が150nm未満であって、
前記シランカップリング剤の前記球状シリカ粒子に対する表面被覆比が0.005~0.080の範囲であることを特徴とする上記樹脂組成物。
【請求項2】
前記シランカップリング剤の前記球状シリカ粒子に対する表面被覆比が0.006~0.076の範囲である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記球状シリカ粒子の含有量が該樹脂組成物全体の20~48体積%である、請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~
3いずれかに記載の樹脂組成物からなるエラストマー材料。
【請求項5】
300%伸長時の引張応力として、少なくとも3.0MPa有し、透明性が70%以上である、請求項
4記載のエラストマー材料。
【請求項6】
300%伸長時の引張エネルギーとして、少なくとも3MJ/m
3有する、請求項
5に記載のエラストマー材料。
【請求項7】
400%伸長時の引張エネルギーとして、少なくとも5MJ/m
3有する、請求項
5に記載のエラストマー材料。
【請求項8】
引張破断応力として、少なくとも4.0MPa有する、請求項
5~
7いずれかに記載のエラストマー材料。
【請求項9】
引張破断ひずみとして、少なくとも350%を示す、請求項
5~
8いずれかに記載のエラストマー材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性、伸張性および靭性に優れた機械的特性を有し、透明性に優れたエラストマー材料として好適に使用することができる樹脂組成物および該樹脂組成物からなるエラストマー材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムに代表されるエラストマー材料は、その優れた柔軟性と靭性から、自動車、工業製品、生活資材に至る数多くの製品の構成部材として広く使用されている。
【0003】
特に、ゴム材料においては、カーボンブラックやシリカ粒子に代表される無機フィラーの充填による補強によって機械的特性が大きく向上することが古くから知られており、耐久性の向上や要求性能に合わせた樹脂特性の制御において、無機フィラーの充填は重要な役割を果たしている。
【0004】
しかしながら、無機フィラーの充填において、例えば、カーボンブラックを充填すれば、充填した材料の外観は黒く不透明なものとなり、透明性に優れたシリカ粒子を充填したとしても、樹脂とシリカ粒子との屈折率の差から、光の散乱が生じるため不透明または半透明なものとなるため、透明性の高いエラストマー材料が求められていた。
【0005】
このとき、屈折率の異なる樹脂とシリカ粒子であっても、シリカ粒子が凝集体を作らずに規則的に配列した場合、そのシリカ粒子中心間の距離が可視光の波長より十分に小さければ、その散乱光は可視光の波長より短波長になるため、シリカ粒子を充填した樹脂組成物が透明性を保つことはブラッグの法則から明白であるが、これまでに無機フィラーの充填によって補強された透明なエラストマー材料は提案されていない。
【0006】
例えば、特許文献1には、アクリル樹脂とシリカ粒子を含有する透明シートが開示されているが、シリカ粒子の充填配列に由来する構造色を利用して透明化および発色させることを目的としたものであり、透明シートの機械的特性については考慮されておらず、エラストマー材料としての機械的特性は不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決するものであって、特に、柔軟性、伸張性および靭性に優れた機械的特性を有し、透明性に優れたエラストマー材料として好適に使用することができる樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を、(ポリアクリレート樹脂と球状シリカ粒子を含有する樹脂組成物であって、
前記ポリアクリレート樹脂が、少なくとも、
下記一般式(1):
【化1】
[式(1)中、R
0は、水素原子、メチル基またはエチル基を表す;R
1は水素原子またはメチル基を表す;nは1~9の整数を表す。]で示されるアクリレートモノマー(A)と
下記一般式(2):
【化2】
[式(2)中、R
2は、水素原子またはメチル基を表す;R
3は、メトキシ基またはエトキシ基を表す;R
4は、メチル基、メトキシ基またはエトキシ基を表す。]
で示されるシランカップリング剤とをモノマーユニットとして含有し、
前記球状シリカ粒子の含有量が該樹脂組成物全体の15~50体積%であり、
前記球状シリカ粒子の平均粒子径が150nm未満であって、
前記シランカップリング剤の前記球状シリカ粒子に対する表面被覆比が0.005~0.080の範囲であることを特徴とする上記樹脂組成物により達成できることを見出し本発明に到達した。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、新規な樹脂組成物を提供した。
本発明の樹脂組成物は、エラストマー材料として特に適している。
本発明の樹脂組成物からなるエラストマー材料は、柔軟性、伸張性および靭性等の機械的特性に優れ、かつ透明性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1で得られた樹脂組成物の応力/ひずみ曲線
【
図2】実施例2で得られた樹脂組成物の応力/ひずみ曲線。
【
図3】実施例3で得られた樹脂組成物の応力/ひずみ曲線。
【
図4】比較例1で得られた樹脂組成物の応力/ひずみ曲線。
【
図5】比較例2で得られた樹脂組成物の応力/ひずみ曲線。
【
図6】比較例3で得られた樹脂組成物の応力/ひずみ曲線。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の樹脂組成物は、少なくとも、ポリアクリレート樹脂と球状シリカ粒子を含有するものである。
【0013】
まず、前記樹脂組成物に含まれるポリアクリレート樹脂について説明する。
前記ポリアクリレート樹脂は、下記一般式(1)で示されるアクリレートモノマー(A)を、モノマーユニットとして含有することが必要である。
【化3】
【0014】
式(1)中、R0は、水素原子、メチル基またはエチル基、好ましくは水素原子またはメチル基、より好ましくはメチル基を表す。R1は水素原子またはメチル基、好ましくはメチル基を表す。nは1~9、好ましくは1~5、より好ましくは1~3、さらにより好ましくは1~2の整数を表す。
【0015】
一般式(1)で示されるアクリレートモノマーの具体例として、例えば、2-メトキシエチルアクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルアクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(数平均分子量300)、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(数平均分子量1100)が挙げられる。球状粒子の分散性および得られる樹脂組成物の物理的特性から、好ましくは、2-メトキシエチルアクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルアクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、より好ましくは、2-メトキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、さらにより好ましくは2-メトキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、最も好ましくは、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレートである。一般式(1)で示されるアクリレートモノマーは、本発明の効果を損なわない範囲であれば、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0016】
本発明の樹脂組成物に含まれる前記ポリアクリレート樹脂は、下記一般式(2)で示されるシランカップリング剤(B)をモノマーユニットとして含有することが必要である。
【化4】
【0017】
式(2)中、R2は、水素原子またはメチル基、好ましくはメチル基を表す。R3は、メトキシ基またはエトキシ基、好ましくはメトキシ基を表す。R4は、メチル基、メトキシ基またはエトキシ基、好ましくはメチル基またはメトキシ基を表す。
【0018】
一般式(2)で示されるシランカップリング剤の具体例として、例えば、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。機械的特性の向上の高さから、好ましくは3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランまたは3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、より好ましくは3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランである。一般式(2)で示されるシランカップリング剤は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0019】
前記シランカップリング剤は、シランカップリング剤の球状シリカ粒子に対する表面被覆比が0.005~0.080、好ましくは0.006~0.076、より好ましくは0.007~0.080、さらにより好ましくは0.010~0.075の範囲になる量が樹脂組成物に含有されている。表面被覆比が0.005未満の場合、シランカップリング剤の添加効果が小さく、機械的特性の向上効果が乏しいものとなる。表面被覆比が0.080よりも大きい場合、樹脂組成物の伸度が著しく低下したものとなる。
【0020】
ここで、表面被覆比は下記式で得られる値である。
[表面被覆比]=[樹脂組成物に含まれるシランカップリング剤の量(g)]×[シランカップリング剤の最小被覆面積(m2/g)]÷[樹脂組成物に含まれる球状シリカ粒子の表面積(m2)の和]
「シランカップリング剤の最小被覆面積(m2/g)」とは、シランカップリング剤1gがシリカ等の材料表面上にて反応、吸着等したときに、ランカップリング剤がその表面を被覆する面積を意味しており、通常、各シランカップリング剤の最小被覆面積は以下のようにして計算することができる。すなわち、トリアルコキシシランが加水分解して得られるSi(O)3 を半径2.10Åの球形からなるSi原子1個と半径1.52Åの球形からなるO原子3個、Si-Oの結合距離1.51Å、四面体角109.5°と仮定し、更にはシリカ表面のシラノール基とモデル中の3個のO原子が全て反応するとして、3個のO原子が被覆することができる最小の円形面積を計算する。その結果、1分子当たりの被覆面積は1.3×10-19m2/分子、これにアボガドロ定数6.0×1023分子/モルを掛けてモル当たりに換算すると7.8×104m2/モルとなる。各カップリング剤の最小被覆面積は、1モル当たりの被覆面積値を各シランカップリング剤の分子量で割ることにより得られる値をいう。
【0021】
市販されているシランカップリング剤については、その特性値が表示記載されており、本発明においては、販売元が表示記載している値を使用している。
また、「球状シリカ粒子の表面積(m2)の和」は、「平均粒子径から求めた球状シリカ粒子の表面積(m2)」×「球状シリカ粒子の添加量(g)÷「球状シリカ粒子の密度(g/cm3)」÷「平均粒子径から求めた球状シリカ粒子の体積(m3)」を計算することにより得られる値である。
【0022】
本発明の樹脂組成物中のポリアクリレート樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、一般式(1)で示されるアクリレートモノマー(A)の他に異なるアクリレートモノマーを組み合わせてもよく、一般式(2)で示されるシランカップリング剤(B)の他に異なるシランカップリング剤を組み合わせてもよい。
【0023】
次に、本発明で使用する球状シリカ粒子について説明する。
本発明において、「球状」とは、棒状、板状のものを除き、真球、略球状、回転楕円体である場合をいい、表面に凹凸があるものでもよい。「球状シリカ粒子」とは、そのような「球状」の形状をしたシリカ粒子である。
【0024】
このような球状シリカ粒子としては、公知のもの、例えば、粉末状の球状シリカ粒子、コロイダルシリカ(シリカゾル)等を使用することができ、異なる平均粒径を有する種々の公知のものが知られており、市販もされている。
【0025】
本発明で使用する球状シリカ粒子は、平均粒子径が150nm未満であり、好ましくは130nm未満、より好ましくは120nm未満である。本発明において平均粒子径とは、遠心沈降式粒子径分布測定装置により測定したモード径で表している。
【0026】
結晶のような周期構造をもつ物質にある波長の光が照射されると、関係式2dsinθ=nλ(d:結晶面の間隔、θ:結晶面と光が成す角度、λ:光の波長、n:自然数)で示されるブラッグの条件において、周期構造の間隔と光の入射角に対応した光路差と光の波長の関係から、散乱光の干渉が起きる。球状シリカ粒子はある体積分率以上において、粒子が周期的に配列したコロイド結晶構造を形成し、隣接した球状シリカ粒子の中心間距離が上記関係式のd(結晶面の間隔)となる。可視光の短波長端の波長は約380nmであるため、球状シリカ粒子の中心間距離がこの波長の2分の1より短ければ、散乱光の干渉は可視光領域よりも短波長(紫外線領域)になるため、干渉光による構造発色は生じない。樹脂組成物中において、隣接した球状シリカ粒子が互いに接触した状態では、樹脂組成物は柔軟性のない固体として振る舞うため、樹脂組成物がエラストマー材料としての機械的特性を発現するためには、球状シリカ粒子の表面間距離は少なくとも10~20nm以上は必要である。つまり、散乱光の干渉波長を可視光領域より短波長にし、構造発色による呈色と可視光の散乱を避けるため、本発明の球状シリカ粒子は、平均粒径を150nm未満にすることが必要である、これによって透明性に優れた樹脂組成物が得られる。
【0027】
前記球状シリカ粒子の含有量は、樹脂組成物全体の15~50体積%、好ましくは20~48体積%、より好ましくは25~45体積%、さらにより好ましくは、30~45体積%である。球状シリカ粒子の含有量が15体積%未満の場合、可視光領域の散乱光の干渉が多くなることによる透明性の低下と球状シリカ粒子充填による補強効果の低下が生じる。粒状シリカ粒子の含有量が50体積%より多い場合、球状シリカ粒子のアクリレートモノマーへの均一分散が困難になる。
【0028】
本発明における球状シリカ粒子の含有量を示す樹脂組成物中の体積%(V(%))は、
樹脂組成物の密度(d(g/m3))と、500℃、1時間加熱後の重量(m(g))残差から求めた重量保持率(%)から、下記式に従い得られる。
V(%)=[樹脂組成物の密度(g/cm3)]×[500℃、1時間加熱後の重量保持率(%)]÷[球状シリカ粒子の密度(2.2g/cm3)]
【0029】
本発明の樹脂組成物は、少なくとも一般式(1)で表されるアクリレートモノマー(A)、一般式(2)で表されるシランカップリング剤、球状シリカ粒子およびシランカップリング剤を含む分散液を重合することにより得られる。
【0030】
重合方法としては、熱による熱重合、紫外線等の活性エネルギー線による光重合などを用いることができ、本発明の効果を損なわない範囲であれば、その他の重合方法を用いても良い。反応性の高さと操作の簡便性から熱重合が好ましく、樹脂組成物中に熱重合開始剤を含有させることが好ましい。熱重合開始剤としては、ラジカル発生剤が好ましく、例えば、アゾイソブチロニトリル(AIBN)、ベンゾイルパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、t-ブチルパーオキシ(2-エチルヘキサノエート)等が挙げられ、反応性からアゾイソブチロニトリル(AIBN)が好ましい。熱重合開始剤の添加量は、アクリルモノマー成分100重量部に対して、3重量部以下が好ましい。これらの熱重合開始剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
球状シリカ粒子として、粉末状の球状シリカ粒子を用いる場合、まず、球状シリカ粒子をアクリレートモノマー(A)に分散させることが好ましい。球状シリカ粒子のアクリレートモノマー(A)への分散方法は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、特に限定されないが、分散効果の高さから超音波処理による方法が好ましい。
【0032】
球状シリカ粒子として、コロイダルシリカ(シリカゾル)を用いる場合、有機溶媒としては、前記アクリルモノマー成分を混合するものを用いることが好ましく、例えば、アルコール類、ケトン類、エステル類、グリコールエーテル類が挙げられる。脱溶媒のしやすさから、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、n-プロピルアルコール等のアルコール系、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系の有機溶媒が挙げられ、具体的には、メタノール、イソプロピルアルコールあるいはメチルエチルケトンに分散されたコロイダルシリカ(シリカゾル)が好ましい。
【0033】
本発明の樹脂組成物の好ましい製造方法は、所定量の球状シリカ粒子を、一般式(1)で表されるアクリレートモノマー(A)に混合分散させた分散液を作製し、該分散液に所定量の一般式(2)で表されるシランカップリング剤、必要により重合開始剤、その他のアクリルモノマー、所望の添加剤を混合分散させ、得られた分散液を重合することからなる。該所望の添加剤としては、例えば、可塑剤、界面活性剤、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、架橋剤、有機溶剤等が挙げられ、目的に応じ、本発明の効果を損なわない範囲で添加使用することができる。
【0034】
本発明の樹脂組成物は、エラストマー材料として好適に使用できる。
本発明の樹脂組成物からなるエラストマー材料は、透明性、補強性、機械的特性に優れている。
【0035】
本発明において「透明性」とは、可視光に対する透明性をいい、「透明性に優れる」とは、本発明の樹脂組成物の厚さ1mmのシートを分光光度計にかけ、波長480nmの可視光が70%以上、好ましくは73%以上、より好ましくは75%以上、さらにより好ましくは80%以上透過する場合を意味している。
【0036】
本発明の樹脂組成物からなるエラストマー材料は、また柔軟性、伸張性および靭性等に優れ、300%伸長時の引張応力、引張破断応力、引張破断ひずみ、引張エネルギー等の機械的特性に優れている。
【0037】
本発明の樹脂組成物からなるエラストマー材料は、300%伸長時の引張応力として、3.0MPa以上、好ましくは5MPa以上、さらに好ましくは6MPa以上を有する。
【0038】
本発明の樹脂組成物からなるエラストマー材料は、引張破断ひずみとして、350%以上、好ましくは400%以上を有する。
【0039】
本発明の樹脂組成物からなるエラストマー材料は、引張破断応力として、4.0MPa以上、好ましくは5MPa以上、さらに好ましくは6MPa以上を有する。
【0040】
本発明の樹脂組成物からなるエラストマー材料は、300%伸長時の引張エネルギーとして3MJ/m3以上、好ましくは5MJ/m3以上、より好ましくは8MJ/m3以上を有する。
【0041】
本発明の樹脂組成物からなるエラストマー材料は、400%伸長時の引張エネルギーとして5MJ/m3以上、好ましくは8MJ/m3以上、より好ましくは11MJ/m3以上、さらにより好ましくは15MJ/m3以上を有する。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の樹脂組成物は、エラストマー材料として好適に使用でき、ディスプレイ用部材、ガラス中間膜、コーティング剤、粘着剤、接着剤、制振材料、3Dプリンター用フィラメント、自己修復材料等の用途に利用可能である。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例中の各特性値の測定、評価方法は以下のように行った。
(1)樹脂組成物中の球状シリカ粒子の体積%
島津製作所製、乾式密度計(AccPyc1330)を用いて求めた樹脂組成物の密度(d(g/m3))と、島津製作所製、示差熱・熱重量同時測定装置(DTG-60)を用いて求めた500℃、1時間加熱後の重量(m(g))残差から求めた重量保持率(%)から、球状シリカ粒子の体積%(V(%))を下記式に従い計算した。
V(%)=[樹脂組成物の密度(g/cm3)]×[500℃、1時間加熱後の重量保持率(%)]÷[球状シリカ粒子の密度(2.2g/cm3)]
【0044】
(2)機械的特性
JISK7161-2に準じて、応力/ひずみ曲線を得、300%伸長時の引張応力、引張破断応力、引張破断ひずみ、300%伸長時の引張エネルギー、400%伸長時の引張エネルギーを測定した。
【0045】
引張試験は、厚さ1mmの樹脂組成物のシートから、打ち抜き型を用いて7号ダンベル試験片(JISK7161-2)を作製した。島津製作所製、引張試験機(EZ-LX)を用いて、標準環境(温度23±2℃、空気中、湿度(50±10%))下、10mm/minの引張速度にて行った。
【0046】
(2-1)300%伸長時の引張応力
下記の基準で、300%伸長時の引張応力を評価した。
〇:3.0MPa≦300%伸長時の引張応力
×:300%伸長時の引張応力<3.0MPa
【0047】
(2-2)引張破断応力
下記の基準で、引張破断応力を評価した。
〇:4.0MPa≦引張破断応力
×:引張破断応力<4.0MPa
【0048】
(2-3)引張破断ひずみ
(2)下記の基準で、引張破断ひずみを評価した。
〇:350%≦引張破断ひずみ
×:引張破断ひずみ<350%
【0049】
(2-4)引張エネルギー
下記基準で、300%伸長時の引張エネルギーを評価した。
〇:300%伸長時の引張エネルギー≧3MJ/m3
×:3MJ/m3>300%伸長時の引張エネルギー
【0050】
下記基準で、400%伸長時の引張エネルギーを評価した。
〇:400%伸長時の引張エネルギー≧5MJ/m3
×:5MJ/m3>400%伸長時の引張エネルギー
【0051】
(2-5)透明性(480nmにおける平行光線透過率)
厚さ1mmの樹脂組成物のシートを紫外可視赤外分光光度計V-670(日本分光製)にかけ、青色の可視光に相当する波長480nmの平行光線透過率を測定し、下記の基準で評価した。
〇:480nmにおける平行光線透過率≧70%
×:70%>480nmにおける平行光線透過率
【0052】
(6)表面被覆比
表面被覆比は、下記式:
[表面被覆比]=[樹脂組成物に含まれるシランカップリング剤の量(g)]×[シランカップリング剤の最小被覆面積(m2/g)]÷[樹脂組成物に含まれる球状シリカ粒子の表面積(m2)の和]
により求めた。
【0053】
最小被覆面積
シランカップリング剤の最小被覆面積(m2/g)」は、販売元が表示記載している値を使用した。
・シランカップリング剤KBM-502(信越化学工業製)(3-メタクリロキシプロピルジメトキシメチルシラン)(335m2/g)
・シランカップリング剤KBM-503(信越化学工業製)(3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)(314m2/g)
【0054】
球状シリカ粒子の表面積(m2)の和
「樹脂組成物に含まれる球状シリカ粒子の表面積(m2)の和」は、平均粒径から求めた球の表面積と球状シリカ粒子の添加量から計算した値を使用した。
【0055】
実施例1
ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(MEO2MA、アルドリッチ製)2712質量部、平均粒径110nmの球状シリカ粒子(Silbol 110、富士化学製)3288質量部を試験管に仕込み、超音波ホモジナイザー(THU-80、アズワン製)にて5℃で10分間かけて分散させた。
次に、シランカップリング剤として、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-503、信越化学工業製)3.98質量部、重合開始剤として、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(関東化学製)3.55質量部を加え、混合した。
その後、得られた分散液を、FEPシートを張り付けたガラス板2枚で挟んだ厚み1mmの型枠に注入し、70℃のオーブンで15時間加熱し、厚み1mmのシートを得た。
【0056】
下記表1に、実施例1に用いた樹脂組成物の各成分、その量、シランカップ剤の球状シリカ粒子に対する表面被覆比、球状シリカ粒子の樹脂組成物中の体積%をまとめて表示した。
【0057】
厚み1mmのシートを使用して、引張試験を行った。得られた応力/ひずみ曲線を
図1に示す。
【0058】
また、応力/ひずみ曲線から得られる機械的特性(300%伸長時の引張応力、引張破断応力、引張破断ひずみ、300%および400%引張エネルギーおよび透明性をまとめて表1に示した。
【0059】
実施例2~3、比較例1~4
アクリレートモノマー(A)、シランカップリング剤(B)を表1に示すものになるように変更した以外は、実施例1と同様にしてシートを作製し評価した。
【0060】
実施例2~3、比較例1~4で得られた各シートを使用して得られた応力/ひずみ曲線を
図2~7に示す。
結果を実施例1と同様に表1中に合わせて示した。
【0061】
【0062】
表1から明らかなように、実施例1~3で得られた樹脂組成物は、300%伸長時の引張エネルギーが大きく、300%伸長時の引張応力および引張破断応力が高く、引張破断ひずみの大きい、高靭性の優れた機械的特性を有しており、透明性にも優れるものであった。また、400%伸長時の引張エネルギーが5MJ/m3以上であり、高伸長下における弾性に極めて優れていることを示している。
【0063】
一方、比較例1の樹脂組成物は、シランカップリング剤(B)を含まないため、300%伸長時の引張エネルギーは3MJ/m3未満であり、300%伸長時の引張応力が低いものであった。
【0064】
比較例2の樹脂組成物は、シランカップリング剤(B)の添加量が多いため、引張破断ひずみが小さく、硬くて脆いものであった
【0065】
比較例3の樹脂組成物は、球状シリカ粒子の充填量が少なく、300%伸長時の引張エネルギーは3MJ/m3未満であり、300%伸長時の引張応力、引張破断応力および引張破断ひずみのいずれもが低く、球状シリカ粒子の充填による補強効果が小さく、透明性にも劣るものであった。
【0066】
比較例4ではアクリレートモノマー(A)に球状シリカ粒子を分散する際に、分散液が高粘度になり、分散が困難になったため、樹脂組成物を得ることができなかった。