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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 17/10 20060101AFI20231108BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20231108BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20231108BHJP
   C03C 27/12 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
B32B17/10
B32B5/02 A
B32B27/30 A
C03C27/12 F
C03C27/12 N
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020035518
(22)【出願日】2020-03-03
(65)【公開番号】P2021137989
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】300014738
【氏名又は名称】新光硝子工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515157758
【氏名又は名称】公立大学法人 富山県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100116159
【弁理士】
【氏名又は名称】玉城 信一
(72)【発明者】
【氏名】屋敷 和秀
(72)【発明者】
【氏名】松下 直人
(72)【発明者】
【氏名】末永 孝光
(72)【発明者】
【氏名】永田 員也
(72)【発明者】
【氏名】真田 和昭
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-176583(JP,A)
【文献】特開平09-239936(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C03C 27/00-29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板Aとガラス板Bとの間に中間膜が設けられてなる積層体であって、
前記中間膜がセルロースナノファイバーを含み、
可視光透過率が70%以上であり、
前記中間膜の厚みが1.0~6.0mmであり、
前記中間膜が(メタ)アクリル系樹脂を含有し、該(メタ)アクリル系樹脂はアクリルシラップが硬化したものであり、
工作用安全ガラス用である、積層体。
【請求項2】
前記中間膜における前記セルロースナノファイバーの含有量が、0.05~3質量%である請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記中間膜の可視光透過率が70%以上である請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の積層体を具備する工作用安全ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体及び工作用安全ガラスに関し、特に、合わせガラスに適用可能な積層体及びこれを用いた工作用安全ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
製造現場、土木工事現場、建築現場等で、飛来物から作業者の身を守るために安全ガラスが用いられている。安全ガラスは、上記以外にも、例えば、防弾ガラス、防犯ガラス、種々の車両に搭乗する乗員の安全を確保するための車載ガラス等としても用いられている。このような安全ガラスには、耐貫通性を有する合わせガラスが用いられている。
【0003】
合わせガラスは一般的に、複数のガラスのそれぞれの間に、用途に応じた特性を有する樹脂膜が設けられてなる。上記のような耐貫通性を有する合わせガラスは、各種の飛来物が衝突してガラスが破損した場合でも、そのガラスの間に設けられた中間膜が衝撃を吸収して、飛来物の貫通を防止する。また、中間膜によって貼り合わされたガラスは、破損後もその中間膜によってほとんど飛散せず、貼着したした状態を維持できる。
【0004】
このような合わせガラスは、航空機、自動車のフロントガラスやサイドガラス、建築物の窓ガラス、ショーウィンドウ、水槽、プールの覗き窓、OA関連機器、事務機器、および、電気・電子機器等種々の用途に用いられている。したがって、合わせガラスは、耐貫通性や割れたガラスの飛散防止等の安全性を確保するとともに、透明性に優れることが必要とされている。
【0005】
例えば特許文献1では、基板間に接着用中間膜を介在させて接着一体化してなる積層体において、接着用中間膜が、ポリビニルブチラール樹脂を主成分とする第1の接着樹脂層と、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂を主成分とする第2の接着樹脂層とを備える積層体が提案されている。当該中間膜では、PVB(ポリビニルブチラール)及びEVA(エチレンビニルアセテート)がそれぞれ有する優れた特性を活かし、耐貫通性や透明性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-050750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、PVBの層とEVAの層との積層体では、複数の層を積層させるため厚さが厚くなり、透明性が低下することが懸念され、用途によっては使用が制限される場合がある。
【0008】
以上から、本発明は上記に鑑みなされたものであり、高い耐貫通性を有し、かつ透明性が良好な積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、下記本発明により当該課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は下記のとおりである。
[1]ガラス板Aとガラス板Bとの間に中間膜が設けられてなる積層体であって、前記中間膜がセルロースナノファイバーを含み、可視光透過率が70%以上である、積層体。
[2] 前記中間膜における前記セルロースナノファイバーの含有量が、0.05~3質量%である[1]に記載の積層体。
[3] 前記中間膜の可視光透過率が70%以上である[1]又は[2]に記載の積層体。
[4] 前記中間膜が(メタ)アクリル系樹脂を含有する[1]~[3]のいずれかに記載の積層体。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の積層体を具備する工作用安全ガラス。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い耐貫通性を有し、かつ透明性が良好な積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[1.積層体]
本発明の積層体は、ガラス板Aとガラス板Bとの間に中間膜が設けられてなり、中間膜がセルロースナノファイバーを含み、積層体の可視光透過率が70%以上である。可視光透過率が70%以上であることで、安全ガラス用の合わせガラスとして、十分な透明性を担保できる。可視光透過率は、73%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。可視光透過率は実施例に記載の方法により測定することができる。
以下、本発明の実施形態(本実施形態)について詳細に説明する。
【0013】
(中間膜)
中間膜にセルロースナノファイバーが含まれることで優れた耐貫通性が得られる。これは、セルロースナノファイバーの特徴である高強度、高アスペクト比に由来する中間膜を補強する効果によるものと考えられる。また、セルロースナノファイバーを含む状態で中間膜の可視光透過率が70%以上であるということは、セルロースナノファイバーが均一に分散していることを示すもので、耐貫通性が積層体全体で均一に優れているいえる。
【0014】
セルロースナノファイバーは、セルロース原料をナノサイズまで解繊することにより得られる繊維であり、セルロースI型結晶構造を有することが好ましい。セルロースの結晶構造としては、例えば、I型、II型、III型、IV型等が例示でき、低線膨張特性及び良好な弾性率といった観点から、I型結晶構造が好ましい。I型結晶構造を有するセルロースナノファイバーとしては、(株)スギノマシン製のBiNFi-s等、セルロースナノファイバーがパウダー状で表面にアクリル系若しくはアルキル系の分散剤が処理されているものが好ましい。
なお、セルロースの結晶型と結晶化度はX線回折装置にて測定することができる。セルロースI型結晶構造の有無は、X線回折測定において、2θ=22.6°付近にピークがあることで簡易的に判定することができる。
【0015】
セルロースナノファイバーを構成するセルロースがI型結晶構造を有することは、より具体的には、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2θ=14~17°付近と、2θ=22~23°付近の2つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
【0016】
当該セルロースナノファイバーの数平均繊維径は2~500nmであることが好ましくは、2~100nmであることがより好ましい。セルロースナノファイバーの数平均繊維長は5nm~100μmであることが好ましくは、100nm~10μmであることがより好ましい。
【0017】
数平均繊維径は、例えば、セルロースナノファイバーを親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストした後、2%ウラニルアセテートでネガティブ染色したTEM像(倍率:10000倍)から、50本のセルロースナノファイバーを抽出し、その数平均繊維径を求める。また、数平均繊維長についても同様にして求めることができる。
【0018】
セルロースナノファイバーのアスペクト比は20以上であることが好ましく、50~1000であることがより好ましい。アスペクト比は、数平均繊維径及び数平均繊維長を算出し、これらの値を用いて下記の式(1)から求めることができる。
式(1):アスペクト比=数平均繊維長(nm)/数平均繊維径(nm)
【0019】
中間膜におけるセルロースナノファイバーの含有量は、積層体の可視光透過率が70%以上となる範囲にすることができる量とし、具体的には、中間膜中に0.008~4.5質量%であることが好ましく、0.05~3質量%であることがより好ましく、0.1~1.5質量%であることがさらに好ましい。
【0020】
中間膜におけるセルロースナノファイバーの含有量が0.008~4.5質量%であることで中間膜の可視光透過率を70%以上とすることができる。中間膜の可視光透過率が70%以上であれば、積層体自体の可視光透過率も70%以上としやすくなり、高い透明性が得られる。中間膜の可視光透過率は80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。
なお、積層体及び中間膜の可視光透過率は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0021】
中間膜を構成する樹脂としては、(メタ)アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、エチレン-酢酸ビニル系樹脂等が好適に挙げられ、これらのうち透明性の観点から(メタ)アクリル系樹脂が好ましい。上記樹脂は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」の表記は、「アクリル」及び「メタクリル」の両者をまとめて示すものである。また、「(メタ)アクリレート」も同様に、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者をまとめて示すものである。
【0022】
(メタ)アクリル系樹脂は、少なくとも、(メタ)アクリルモノマー及び/又は(メタ)アクリルオリゴマーが硬化したものであるが、これらを含む樹脂組成物が硬化したものも含まれる。
【0023】
(メタ)アクリルモノマー又は(メタ)アクリルオリゴマーとしては、(メタ)アクリル酸エステルのモノマー又はオリゴマー、及びこれらの誘導体、あるいはこれらの2種以上の混合物を用いることができる。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート類、グリシジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロシキエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロシキプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレン(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート等の変性(メタ)アクリレート類、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-1,3-ジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス[4-(メタ)アクリロキシエトキシフェニル]プロパン、2-ヒドロキシ-1-(メタ)アクリロキシ-3-(メタ)アクリロキシプロパン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリットトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリットテトラ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート類等が挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステルは、上述したものを単独で用いてもよく、複数組み合わせて用いてもよい。
【0024】
上記のような(メタ)アクリル酸エステルのモノマー又はオリゴマーとともに、ゴム状重合体を混合した樹脂組成物から(メタ)アクリル樹脂を構成してもよい。
ゴム状重合体としては、(メタ)アクリルゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン-イソプレン共重合体、ポリクロロプレン、スチレン-ブタジエン共重合体等の共役ジエン系ゴム又はその水素添加物;エチレン-プロピレン共重合体ゴム、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体ゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体ゴム、ポリイソブチレンゴム等のオレフィン系ゴム;シリコンゴム;フッ素ゴム;ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー等の熱可塑エラストマー;等が挙げられる。
【0025】
後述するような注入法により中間膜を形成することを考慮すると、比較的低分子量のポリメチルメタクリレート(PMMA)を、モノマーであるメチルメタクリレート(MMA)やグリシジルメタクリレートに溶解させて、さらに必要に応じて重合促進剤や重合開始剤等の添加物を加えた、いわゆるアクリルシラップを用いることが好ましい。
アクリルシラップとは、少なくとも(メタ)アクリル系モノマーまたは(メタ)アクリル系オリゴマーを含み、常温において液状で、重合開始剤により硬化するものをいう。
【0026】
重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、1,1-ジ-t-ブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、2,4,4-トリメチルベンジルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-イソブチレート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルカーボネート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-アミルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-アミルパーオキシベンゾエート、t-アミルクメンヒドロパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等の有機過酸化物が挙げられる。また、2,2-アゾビスイソブチロニトリル、2-フェニルアゾ-2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。これらの重合開始剤は、単独であるいは2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0027】
中間膜を構成する樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、粘着付与樹脂、増粘剤、チキソ性付与剤、増量剤、充填剤、分散剤等の添加剤を適宜配合してもよい。
【0028】
中間膜の厚みは、0.1~6.0mmとすることが好ましく、1.0~4.0mmとすることがより好ましい。
【0029】
(ガラス板A,B)
ガラス板A及びBとしては、有機ガラス板、無機ガラス板等の透明なものを用いることができる。ガラス板Aとガラス板Bとは、それぞれを同じ材質でも異なる材質でもよい。
【0030】
(1)有機ガラス板:
有機ガラス板を構成する樹脂としては、透明性が高く、耐衝撃性に優れることから、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂等が挙げられ、なかでもポリカーボネート樹脂が好ましい。2枚の有機ガラス板で中間膜を挟む場合、これらの有機ガラスは同じ材質でも異なる材質でもよい。
【0031】
有機ガラス板の厚みは0.5~15mmであることが好ましく、0.7~13mmであることがより好ましい。厚みが0.5~15mmであることで、軽量化を図りながら良好な耐貫通性を得ることができる。
【0032】
(2)無機ガラス板:
ガラス板は、一般に板ガラスや合わせガラスに用いられるものを使用することができ、例えば、ソーダ石灰ガラス、リン珪酸ガラス、ホウ珪酸ガラス、石英ガラス、カリ石灰ガラス、鉛アルカリガラス、アルミナ珪酸ガラス、バリウムガラス等が挙げられる。また、合わせガラスの強度の点からは、強化ガラスを用いることが好ましい。ガラス板の製造方法については、特に限定されず、一般的なフロート・ガラス法などが用いられる。2枚の無機ガラス板で中間膜を挟む場合、これらの無機ガラスは同じ材質でも異なる材質でもよい。
【0033】
ガラス板の厚さについては軽量化の観点から、1mm~5mmの範囲が好ましい。1mm以上であると成形性がよく、また加工時に割れにくい。一方、5mm以下であると合わせガラスを軽量化することができる。以上の点から、さらに1.5~4mmの範囲が好ましい。
【0034】
[2.積層体の製造方法]
本実施形態の積層体は例えば、種々の貼りあわせ方法により作製することができるが、特に中間膜が(メタ)アクリル系樹脂を含有する場合は、アクリル注入法により作製することが好ましい。
【0035】
アクリル注入法は、例えば、1枚のガラス板の一方の面の周囲にスペーサーとなる両面接着テープを貼り付ける。スペーサーを設置したガラスと同じ大きさのもう1枚のガラスを貼り合わせ、3辺を接着し、2枚のガラス板の間に空間を形成する。4辺のうち1辺のスペーサーは、片面に剥離紙がある状態にし、その位置を樹脂液の注入孔とする。注入孔からガラス板の間の空間に、準備した樹脂液を注入した後、注入孔の位置の剥離紙を取り除き、スペーサーをガラス板に貼り付けて注入孔を塞ぐ。その後15~30℃で4~15時間静置して、積層体が製造される。
【0036】
ここで、セルロースナノファイバーを中間膜中に良好に分散させるために、注入する際の樹脂液にカップリング剤又はアクリル系の界面活性剤等の分散剤を添加しておくことが好ましい。分散剤は、セルロースナノファイバー100質量部に対して、10~30質量部程度添加することが好ましい。
【0037】
以上のようなアクリル注入法は、オートクレーブを用いるPVB膜の貼り合わせ法よりも耐脱落破壊性が高い。一般に、破壊は界面から生じやすく、中間膜の内部からの破壊は、界面の場合よりも生じにくい。注入法によれば、接着面の小さい凹凸にも良好に追従するため、界面との接着性が高く、中間膜内から破壊が起こるまで破壊が生じることがほとんどない。
したがって、防曇試験若しくは耐湿試験でもアクリル注入法により得られる中間膜は、優れた効果を発揮する。また、中間膜を形成するためにオートクレーブを使用する必要がなく、常温で作製することができる点で生産性が高い。また、顔料による着色がしやすかったり、また、厚くできるといった利点もある。
【0038】
[3.工作用安全ガラス]
本発明の積層体は、例えば、これを具備する工作用安全ガラスとして用いることが好ましい。
工作機械には加工状況を確認するための、のぞき窓(透光部)が付いている。こののぞき窓は、加工物の切粉による傷による劣化という過酷な条件に耐えなければならない。一方で、本発明の積層体は既述のとおり耐貫通性に優れるため、もしガラスが破損しても飛散被害を最小限に防ぐことができる。軽量化を図ることができるため、作業性を向上させることができる。そのため、マシニングセンタや旋盤といった工作機械用途に最適である。
【実施例
【0039】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
以下に使用した材料を示す。
(1)アクリルシラップ:
三井化学(株)製の商品名:アルマテックスDC500を用いた。
【0041】
(2)ガラス板
・無機ガラス板
AGC(株)製のフロート板ガラスを用いた(厚さ:5mm)。
・有機ガラス板
タキロンシーアイ(株)製のポリカーボネート樹脂板(商品名:PCMR61600)を用いた(厚さ:5mm)。
(3)セルロースナノファイバー
セルロースナノファイバーとして、(株)スギノマシン製の商品名:BiNFi-sを用いた。数平均繊維径は50nmであり、数平均繊維長は3μmであり、アスペクト比は60で、セルロースI型結晶構造を有していた。
【0042】
[実施例1]
(積層体の作製)
無機ガラス板(500mm×1000mm)の一方の面の周囲にスペーサーとなる両面接着テープを貼り付けた。両面接着テープには、厚さが2.0mm、幅が6.0mmのものを用いた。スペーサーを設置した無機ガラス板と同じ大きさのもう1枚の有機ガラス板を貼り合わせ、3辺を接着し、2枚のガラス板の間に空間を作った。4辺のうち1辺のスペーサーは、片面に剥離紙がある状態にし、その位置を樹脂液の注入孔とした。
【0043】
注入孔からガラス板の間の空間に、樹脂液を注入した後、注入孔の位置の剥離紙を取り除き、スペーサーをガラス板に貼り付けて注入孔を塞いだ。このとき、注入には、当該空間を挿通できる注射針を取り付けたシリンジを用い、注射針をスペーサー部分に刺して、余分な空気を取り除いた。その後、23℃で8時間静置して積層体を作製した。なお、中間膜の厚さは、2mmであった。
【0044】
なお、樹脂液はアクリルシラップ20部とセルロースナノファイバー1部とを混合して、ビーズミル(日本コークス工業(株)製)にて分散処理して作製した。分散処理は、Φ0.3mmのビーズを使用して40時間運転した後、さらに、Φ0.1mmのビーズを使用して40時間運転して行った。
【0045】
作製した積層体について、下記のようにして積層体の可視光透過率の測定及び積層体の評価を行った。
【0046】
(積層体の可視光透過率)
紫外可視赤外分光光度計(日立ハイテクサイエンス株式会社 型式UH4150)を用いて、積層体における可視光透過率を求めた。なお、測定条件はJIS R3106「板ガラスの透過率・反射率・放射率の試験方法及び建築用板ガラスの日射熱取得率の算定方法」に記載の可視光透過率測定方法に準拠した。
【0047】
(耐貫通性試験による積層体の評価:落錘衝撃試験)
EN12417 付属書Aを参考にし、加撃体後部に質量を加えることで加撃体全体の質量を8.75kgとして、任意の高さから自由落下により試験体(積層体)中央部に衝突させた。試験体の寸法は500×500mmとし、4辺それぞれの端部より25mmの領域を試験体支持枠に挟み込むことで試験体を固定した。
試験体の温度管理は、試験直前まで23℃に保持した部屋にて4時間以上静置し、また、試験体支持枠の周辺温度を23℃に調整することで試験体の温度を一定に保った。試験体への加撃面は無機ガラス面側とし、加撃回数は1回とした。初期の加撃体の衝撃エネルギーは450Jに設定し、試験後の評価で合格の場合は任意のステップで衝撃エネルギーを増大させ、不合格の場合は任意のステップで衝撃エネルギーを減少させて次の試験を行った。これを繰り返し行い、複数回合格し複数回不合格になった衝撃エネルギーの境界を耐衝撃エネルギー値とした。また、前述の要件に合わない結果であった場合では、合格した場合と合格しなかった場合が発生した衝撃エネルギーの値を採用し、その値未満を耐衝撃エネルギー値とした。
評価は、貫通クラック(一方の表面からもう一方の表面まで目に見えるクラック)若しくは貫通(材料の加撃体貫通)があった場合には不合格とし、座屈/ふくらみ(き裂のない恒久的な変形)若しくは初期クラック(表面のみに見えるクラック)があった場合には合格とした。評価指標は下記のとおりとした。結果を下記表1に示す。
<耐貫通性の評価指標>
A:耐衝撃エネルギー値が550J以上
B:耐衝撃エネルギー値が500J以上550J未満
C:耐衝撃エネルギー値が450J以上500J未満
D:耐衝撃エネルギー値が450J未満
【0048】
(中間膜の可視光透過率)
また、中間膜の可視光透過率について、下記のようにして測定を行った。
紫外可視赤外分光光度計(日立ハイテクサイエンス株式会社 型式UH4150)を用いて、各例と同じ中間膜だけの試験片における可視光透過率を求めた。なお、測定条件はJIS R3106「板ガラスの透過率・反射率・放射率の試験方法及び建築用板ガラスの日射熱取得率の算定方法」に記載の可視光透過率測定方法に準拠した。
【0049】
(実施例2~5、比較例1~2)
樹脂液中のセルロースナノファイバーの含有量を変えて、中間膜中のセルロースナノファイバーの含有量を下記表1のように変更した以外は実施例1と同様にして積層体を作製した。作製した積層体について実施例1と同様な測定及び評価を行った。また中間膜の可視光透過率も実施例1と同様にして測定した。結果を下記表1に示す。
【0050】
【表1】