(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】ばく露量管理装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/00 20230101AFI20231108BHJP
G06Q 50/10 20120101ALI20231108BHJP
【FI】
G06Q10/00
G06Q50/10
(21)【出願番号】P 2020538362
(86)(22)【出願日】2019-08-16
(86)【国際出願番号】 JP2019032185
(87)【国際公開番号】W WO2020040062
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2018154996
(32)【優先日】2018-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】507122526
【氏名又は名称】foo.log株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122275
【氏名又は名称】竹居 信利
(72)【発明者】
【氏名】辻 佳子
(72)【発明者】
【氏名】飛野 智宏
(72)【発明者】
【氏名】久保田 雅則
【審査官】山崎 誠也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-47171(JP,A)
【文献】特開2006-119980(JP,A)
【文献】特開2011-8545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管理対象物質に対する人ごとのばく露量を管理するばく露量管理装置であって、
前記管理対象物質を含有する管理対象ごとに、含有する前記管理対象物質ごとの含有量に係る情報を保持する手段と、
前記管理対象の位置に係る情報を取得する対象物位置取得手段と、
前記管理対象の使用量に係る情報を取得する対象物使用量取得手段と、
管理対象者の位置に係る情報を取得する対象者位置取得手段と、
を含み、
前記取得した管理対象の位置、管理対象の使用量、及び管理対象者の位置の情報、並びに管理対象が含有する前記管理対象物質ごとの含有量に係る情報を少なくとも用いて、前記管理対象が含有する管理対象物質の、前記管理対象者へのばく露量を予め定めた演算式により演算する演算手段と、
前記管理対象者ごとに、各管理対象物質へのばく露量を累積して記録する手段と、
を含むばく露量管理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のばく露量管理装置であって、
前記対象物位置取得手段は、管理対象の位置に係る情報として、前記管理対象が利用される室内における位置の情報を取得し、
前記対象者位置取得手段は、前記管理対象者の、室内における位置に係る情報を取得し、
前記演算手段は、管理対象物質の蒸気圧、拡散長の情報をさらに取得し、前記室内における前記管理対象と、管理対象者との距離を求め、
前記管理対象が含有する管理対象物質の含有量と管理対象の使用量との情報から管理対象物質ごとの前記室内における使用量に係る情報を求め、
当該求めた管理対象物質ごとの前記室内における使用量と、管理対象物質の蒸気圧と、拡散長の情報と、前記管理対象と、管理対象者との距離とに基づいて、前記管理対象が含有する管理対象物質の、前記管理対象者へのばく露量を演算するばく露量管理装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のばく露量管理装置であって、
前記管理対象者ごとに記録された、各管理対象物質への所定の期間内のばく露量と、各管理対象物質の毒性に関する情報とを比較し、所定の期間内に、毒性に関する情報と比較して有意に高い量のばく露があった前記管理対象者と前記管理対象物質とについての情報を出力するばく露量管理装置。
【請求項4】
コンピュータに、管理対象物質に対する人ごとのばく露量を管理させるためのプログラムであって、
コンピュータを、
前記管理対象物質を含有する管理対象ごとに、含有する前記管理対象物質ごとの含有量に係る情報を保持する手段と、
前記管理対象の位置に係る情報を取得する対象物位置取得手段と、
前記管理対象の使用量に係る情報を取得する対象物使用量取得手段と、
管理対象者の位置に係る情報を取得する対象者位置取得手段と、
を含み、
前記取得した管理対象の位置、管理対象の使用量、及び管理対象者の位置の情報、並びに管理対象が含有する前記管理対象物質ごとの含有量に係る情報を少なくとも用いて、前記管理対象が含有する管理対象物質の、前記管理対象者へのばく露量を予め定めた演算式により演算する演算手段と、
前記管理対象者ごとに、各管理対象物質へのばく露量を累積して記録する手段と、
として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管理対象物質に対する人ごとのばく露量を管理するばく露量管理装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
工業製品のライフサイクル全体で使用されている化学物質を管理することを目的として、無線タグを用いて管理するシステムが特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のシステムを含め、化学物質を管理するシステムでは、化学物質の使用者、あるいは化学物質が使用される現場の近くに所在した人物に対する化学物質のばく露の影響を必ずしも管理できていない。
【0005】
具体的に、化学物質を使用する現場では、例えば混酸のように、複数の酸が含まれる物質を利用する場面において、含まれる複数の酸のそれぞれを評価することが従来、行われていない。
【0006】
また、塩酸HClを利用する場面であっても、塩酸は必ずしも純粋に一つの化合物であるHClのみが含まれるのではなく、水H2O等も、HClとともに含まれている。しかし、従来の技術では使用された化学物質の名称である「塩酸」のみが管理されていた。
【0007】
このように、従来の技術では、ある化学物質製品に複数の化合物が含有されていても、当該複数の化合物等のそれぞれの含有量や、その拡散・漏洩などまで管理されていなかった。
【0008】
また、例えば実験室等では、必ずしも一つの実験のみが行われるものではなく、隣接するテーブルでは別の実験が行われている場合があるが、従来は化学物質の利用される環境等の情報が管理されていない。
【0009】
本発明は上記実情に鑑みて為されたもので、化学物質等の使用者、あるいは化学物質等が使用される現場の近くに所在した人物に対する化学物質のばく露の影響を管理できるばく露量管理装置、及びプログラムを提供することを、その目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記従来例の問題点を解決するための本発明の一態様は、管理対象物質に対する人ごとのばく露量を管理するばく露量管理装置であって、前記管理対象物質を含有する管理対象ごとに、含有する前記管理対象物質ごとの含有量に係る情報を保持する手段と、前記管理対象の位置に係る情報を取得する対象物位置取得手段と、前記管理対象の使用量に係る情報を取得する対象物使用量取得手段と、管理対象者の位置に係る情報を取得する対象者位置取得手段と、を含み、前記取得した管理対象の位置、管理対象の使用量、及び管理対象者の位置の情報、並びに管理対象が含有する前記管理対象物質ごとの含有量に係る情報を少なくとも用いて、前記管理対象が含有する管理対象物質の、前記管理対象者へのばく露量を予め定めた演算式により演算する演算手段と、前記管理対象者ごとに、各管理対象物質へのばく露量を累積して記録する手段と、を含むこととしたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、化学物質等の使用者、あるいは化学物質が使用される現場の近くに所在した人物に対する化学物質等のばく露の影響を管理できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係るばく露量管理装置の構成例及び接続例を表すブロック図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るばく露量管理装置が保持する、管理対象と管理対象物質との関係の情報の例を表す説明図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係るばく露量管理装置の例を表す機能ブロック図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係るばく露量管理装置の動作例を表すフローチャート図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係るばく露量管理装置が保持する、検出装置間の距離の設定情報の例を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本発明の実施の形態に係るばく露量管理装置1は、
図1に例示するように、制御部11、記憶部12、操作部13、表示部14及び通信部15を含んで構成されている。またこのばく露量管理装置1は、複数の検出装置2に接続されている。
【0014】
この検出装置2は、化学物質の所在等を検出するものである。検出装置2は、例えば実験室の各テーブル等、管理対象物質である化学物質を含有する管理対象(試薬等)が使用される場所や保管される場所等所定の位置にそれぞれ配される。この検出装置2のそれぞれは、予め定められた検出範囲内に存在する試薬等、管理対象を特定する情報や、当該管理対象の使用量等の情報を取得して、ばく露量管理装置1に出力する。
【0015】
本実施の形態の一例では、試薬等の管理対象には、管理対象を識別する情報(識別情報)を発信するRFIDタグ、あるいはバーコード等の識別票が付されているものとする。この例では、検出装置2は、設定された検出範囲内に存在するRFIDタグが発信する識別情報を検出し、あるいはバーコードをバーコードリーダで読み取ることで、検出範囲内に存在する管理対象を特定する情報を得てもよい。
【0016】
あるいは、この検出装置2は、キーボードやバーコードリーダ等の入力装置を備えて、設定された検出範囲内において試薬等の管理対象が使用される際に、使用者等がこの入力装置を操作して、管理対象を特定する情報を入力することとしてもよい。
【0017】
また、管理対象の使用量についても、検出装置2がキーボードやバーコードリーダ等の入力装置を備えて、設定された検出範囲内において管理対象が使用される際に、使用者等がこの入力装置を操作して、管理対象の使用量に関する情報を入力することとしてもよい。あるいは検出装置2は、その検出範囲内に配された秤により、管理対象の使用前と使用後との重量(試薬であれば容器を含む重量でよい)を測定し、その差から管理対象の使用量を求めて、検出装置2に対して当該求めて得た管理対象の使用量の情報を送出する機能を有してもよい。
【0018】
またこの検出装置2は、上記予め定められた検出範囲内に所在する管理対象者となる人物を特定する情報を、所定のタイミングごと(例えば一定の時間間隔ごと)に繰り返して取得して、ばく露量管理装置1に出力する。この場合も、管理対象者となる人物が、自己を特定する情報を発信するRFIDタグ等の識別票を所持することとなっていてもよい。このときには、検出装置2は設定された検出範囲内に存在するRFIDタグが発信する、人物を特定する情報を、所定のタイミングごとに検出することで、検出範囲内に存在する管理対象者を特定する情報を得てもよい。
【0019】
またこの場合、検出装置2は、検出範囲内に所在する管理対象者を特定する情報が取得できなければ(例えば管理対象者が一人も検出範囲内にいないなどの場合)、管理対象者がない旨の情報を出力する。
【0020】
あるいは、検出装置2がキーボードやバーコードリーダ等の入力装置を備えて、使用者等がこれらの入力装置を操作して、設定された検出範囲内に所在する管理対象者を特定する情報を入力することとしてもよい。
【0021】
本実施の形態のある例では、ばく露量管理装置1の制御部11は、CPU等のプログラム制御デバイスであり、記憶部12に格納されたプログラムに従って動作する。本実施の形態の例では、この制御部11は、各検出装置2から検出装置2の近傍にある管理対象である化学物質等を特定する情報やその使用量に関する情報を受け入れる。そして管理対象である化学物質等を特定する情報やその使用量に関する情報の受け入れ元となる検出装置2の配置位置を用いて、管理対象である化学物質等の位置に係る情報やその位置における管理対象の使用量に関する情報を取得する。
【0022】
またこの制御部11は、管理対象者となる人物を特定する情報の受け入れ元の検出装置2の配置位置の情報を用い、管理対象者の位置に係る情報を取得する。
【0023】
そして制御部11は、当該取得した管理対象の位置、管理対象の使用量、及び管理対象者の位置の情報、並びに管理対象が含有する管理対象物質ごとの含有量に係る情報を少なくとも用いて、管理対象が含有する管理対象物質の、管理対象者へのばく露量を予め定めた演算式により演算し、管理対象者ごとに、各管理対象物質へのばく露量を累積して記録する。この制御部11の具体的動作については後に述べる。
【0024】
記憶部12は、ディスクデバイスやメモリデバイスであり、制御部11によって実行されるプログラムを保持する。このプログラムは、コンピュータ可読かつ非一時的な記録媒体に格納されて提供され、この記憶部12に格納されたものであってもよい。また、この記憶部12は、制御部11のワークメモリとしても動作する。
【0025】
本実施の形態の一例では、この記憶部12には、管理対象物質を含有する管理対象ごとに、含有する管理対象物質ごとの含有量に係る情報を管理対象データベースとして保持してもよい。この管理対象データベースの一例は
図2に示すように、管理対象を特定する情報(D)と、当該管理対象に含有される管理対象物質(C)の含有量の情報(WC)とを関連付けたものである。
【0026】
ここで管理対象を特定する情報は、例えばこのばく露量管理装置1が配される組織が大学等の実験施設であれば、試薬の種類(メーカーや主たる含有成分等)ごとに固有の識別情報でよい。また、管理対象物質については予め定めておくものとし、試薬の種類ごとにそれに含有される管理対象物質の含有量の情報を、例えばモル濃度(mol/l)や、重量%等によって表して、記憶部12に保持したデータベース等に記録しておく。なお、このデータベースには、さらに、管理対象物質に係る蒸気圧Vや拡散長L等の、管理対象物質の拡散状態に関する情報が格納されてもよい。
【0027】
また、本実施の形態の例では、この記憶部12には、各検出装置2を識別する情報(検出装置識別子)と、対応する検出装置2の配置されている場所(位置情報)とを互いに関連付けた検出装置データベースが格納されている。ここで位置情報は、例えば部屋を特定する情報(建物を識別する情報や部屋を識別する情報などを含む)、並びに、同じ部屋に配されている他の検出装置2の検出装置識別子と当該他の検出装置2との距離を表す情報とを関連付けた距離情報を含む。
【0028】
操作部13は、マウスやキーボード等であり、利用者の指示操作を受け入れて制御部11に出力する。表示部14は、ディスプレイ等であり、制御部11から入力される指示に従い、情報を出力する。
【0029】
通信部15は、ネットワークインタフェース等であり、ネットワークを介して検出装置2等のデバイスとの間で通信可能に接続される。本実施の形態では、この通信部15は検出装置2が出力する情報を受け入れて制御部11に出力する。
【0030】
次に、本実施の形態の制御部11の動作について説明する。本実施の形態の制御部11は、機能的には、
図3に例示するように、対象物情報取得部21と、対象者位置取得部22と、演算処理部23と、記録処理部24とを含んで構成されている。
【0031】
対象物情報取得部21は、各検出装置2から検出装置2の近傍にある管理対象である試薬等を特定する情報やその使用量に関する情報を受け入れる。そして対象物情報取得部21は、管理対象である試薬等を特定する情報やその使用量に関する情報の受け入れ元となる検出装置2の配置位置を、管理対象である試薬等の所在位置として、当該所在位置を表す情報と、管理対象である試薬等を特定する情報と、その使用量に関する情報と、日時を表す情報(図示しないカレンダーICや時刻サーバ等から取得する)を関連付けて記録する。
【0032】
対象者位置取得部22は、各検出装置2から検出装置2の近傍に所在する管理対象者を特定する情報を所定のタイミングごと(各検出装置2における検出のタイミングごと)に受け入れる。そして対象者位置取得部22は、当該管理対象者を特定する情報と、その情報の受け入れ元となる検出装置2の配置位置と、日時を表す情報(図示しないカレンダーICや時刻サーバ等から取得する)とを関連付けて記録する。
【0033】
この記録は、検出装置2の検出タイミングごとに更新される。また検出装置2が、検出装置2の近傍に所在する管理対象者がいないことを表す情報を出力しているときには、この対象者位置取得部22は、その旨を表す情報を、情報の受け入れ元となる検出装置2の配置位置と、日時を表す情報とに関連付けて記録する。
【0034】
演算処理部23は、例えば管理対象者ごとに、取得した管理対象Dの位置、管理対象Dの使用量、及び当該管理対象者の位置の情報、並びに管理対象Dが含有する管理対象物質Cごとの含有量Dcに係る情報を少なくとも用いて、管理対象Dが含有する管理対象物質Dcの、当該管理対象者へのばく露量を予め定めた演算式により演算する。
【0035】
具体的に、この演算処理部23は、管理対象者のうちから、処理対象となる管理対象者(処理対象者と呼ぶ)を順次選択して
図4に例示する処理を実行する。すなわち演算処理部23は、対象者位置取得部22が記録している情報から、処理対象者についての所在位置を表す情報である、当該管理対象者に関する情報に関連付けられた検出装置2の位置の情報Pcと、日時の情報Tpとの組を取得する。
【0036】
演算処理部23は、そしてこの記録のうち、指定された期間に含まれる日時の情報Tpi(i=1,2,…,N)と、それぞれの日時の情報Tpiに関連付けられた処理対象者についての所在位置を表す情報Ppi(i=1,2,…,N)を抽出する(S1)。
【0037】
また演算処理部23は、対象物情報取得部21が記録した情報のうち、指定された期間に含まれる日時の情報Tcに関連付けられた、検出装置2の位置を表す情報Pcと、管理対象である試薬等の種類C及びその使用量Wに関する情報と(以下、対象物に係る情報と呼ぶ)を取得する(S2)。なお、処理S1,S2の処理順は逆であってもよい。つまり処理S2を実行してから処理S1を実行してもよい。
【0038】
演算処理部23は、処理S1で取得した処理対象者の情報に含まれる日時の情報Tpi(i=1,2,…,N)及びそれぞれの日時の時点での処理対象者の位置を表す情報Ppi(i=1,2,…,N)を参照し、i=2から順にNまで変化させつつ、次の処理を実行する(S3)。ここで各情報は、日時の情報が表す日時の順に並べ替えがされているものとする。つまり、必ずTpi+1>Tpiであるものとする。
【0039】
演算処理部23は、i番目の日時の情報Tpiと、i-1番目の日時の情報Tpi-1とのそれぞれに関連付けられている処理対象者についての所在位置を表す情報Ppi,Ppi-1を参照し、これらが一致しているか(Ppi=Ppi-1であるか、すなわち、直前の所在(i-1の時点)と現在注目している時点の所在(iの時点)とが一致しているか)を調べる(S4)。そして一致していれば(S4:Yes)、演算処理部23は、i番目の日時の情報Tpiと、i-1番目の日時の情報Tpi-1の間の対象物に係る情報を抽出する(S5)。すなわち演算処理部23は、Tpi>Tc≧Tpi-1であるような日時の情報Tcを含む対象物に係る情報を抽出する。
【0040】
演算処理部23は、この処理S5で抽出した対象物に係る情報のうち、処理対象者の所在位置Ppiとの間で、予め定めた関係を有すると判断される検出装置2の位置の情報Pcを見出し、さらに当該見出した検出装置2の位置の情報Pcに関連付けられた、管理対象である試薬等の種類D及びその使用量Wに関する情報を抽出する(S6)。ここで、処理対象者の所在位置Ppとの間の関係は、例えば、同じ室内であるとの関係にあることとしてもよいし、距離が予め定めた距離を下回っている、との関係であることとしてもよい。
【0041】
以下の例では、演算処理部23は、対象物に係る情報のうち、その検出装置2の位置の情報Pcで表される位置が、処理対象者の所在位置Ppで表される位置と同じ室内である(処理対象者を検出した検出装置2と同じ室内にある検出装置2で検出された対象物に係る情報である)ものを抽出することとする。
【0042】
演算処理部23は、処理S6で抽出した情報を用い、処理対象者への管理対象Dに含まれる管理対象物質Cごとの、処理S3で選択している時間範囲(Tpi-1からTpiまでの時間範囲)でのばく露量Xi(C)を、
Xi(C)=Σ(W×Dc×α(C)×f(d)×Ec×Er)
として求める(S7)。
【0043】
ここでΣは、処理S6で抽出した対象物に係る情報ごとの和をとることを意味する。また、Wは管理対象物質である試薬等の使用量であり、α(C)は管理対象物質ごとに定められた管理対象物質の物性による補正量を表すパラメータであり、f(d)は抽出した対象物に係る情報に含まれる検出装置2の位置の情報Pcと、処理対象者の位置の情報Ppとの距離dの関数であり、Ec,Erは管理対象物質の位置及び処理対象者の所在する室内のそれぞれの環境に関する補正量を表すパラメータである。
【0044】
一例としてα(C)は、管理対象物質ごとに予め定められた蒸気圧V及び拡散長L(予めデータベース等に保持しておく)を用いて、aV+b/((4/3)πL3)(ここでa,bはそれぞれ重みを表す管理対象物の種類に関わらない正の値のパラメータであり、予め経験的に定めておく)とすればよい。つまり、α(C)は、管理対象物質Cの蒸気圧V、および拡散長Lを半径とする球の体積の逆数1/vsp(ここでvsp=(4/3)πL3)に関する一次式として表すこととすればよい。
【0045】
また、f(d)は、抽出した対象物に係る情報に含まれる検出装置2の位置の情報Pcと、処理対象者の位置の情報Ppとの距離dを用い、f(d)=c/d3など、dの逆数の累乗に比例する値とする(なお、cは重みを表す、管理対象物の種類に関わらない正の値のパラメータである)。
【0046】
そしてEcは0以上1以下の実数であり、対象物に係る情報に含まれる検出装置2の位置情報が表す位置が、ヒュームフード内であれば「0」、そうでなければ「1」とする環境条件に基づく補正量を表すパラメータである。またErは0以上1以下の実数であり、対象物に係る情報に含まれる検出装置2の位置情報が表す部屋ごとに定められ、例えば十分な換気が為される環境であれば「0.3」、換気装置はあるが、十分でなければ「0.8」など、対象物が室内に残存する可能性が高いほど「1」に近い値とする。つまり、このErは、部屋の機能等に基づく補正量を表すパラメータである。
【0047】
また、i番目の日時の情報Dpiと、i-1番目の日時の情報Dpi-1とのそれぞれに関連付けられている処理対象者についての所在位置を表す情報Ppi,Ppi-1を参照し、これらが一致していなければ(Ppi=Ppi-1でなければ。つまり、S4:Noならば)、Xi(C)=0とする。
【0048】
演算処理部23は、以上の処理S3以下の処理をi=2から順にNまで変化させながら繰り返して実行し、各時間範囲での管理対象Dに含まれる管理対象物質Cごとの、処理対象者へのばく露量Xi(C)を求める。
【0049】
演算処理部23は、管理対象物質Cごとの処理対象者へのばく露量Xi(C)を累算して出力し(S8)、処理を終了する。
【0050】
記録処理部24は、演算処理部23が出力する管理対象物質Cごとの処理対象者へのばく露量Xi(C)の累算値X(C)を、指定された期間内の記録として、処理対象者を特定する情報と、指定された期間を表す情報とに関連付けて、記憶部12に累積して記録する。
【0051】
さらにばく露量管理装置1は、管理対象物質Cごとの毒性に係る情報(例えば半数致死量LD50等の情報、予めデータベース等に記録しておく)を用いて、各管理対象者の各管理対象物質Cへのばく露量の累積記録を参照し、所定の期間内に、半数致死量と比較して有意に高い量のばく露があった管理対象者と管理対象物質とについての情報を出力する。
【0052】
具体的に、本実施の形態のばく露量管理装置1は、例えば月ごとに、各管理対象者の管理対象物質ごとのばく露量の合計を、指定した期間ごとに演算し、累積して記録したばく露量の情報に基づいて演算する(一例としては各ばく露量を総和すればよい)。
【0053】
そしてばく露量管理装置1は、月間のばく露量の総計が、予め定めたしきい値を超えている演算結果がある場合に、当該演算結果に係る管理対象者を特定する情報と、管理対象物質を特定する情報とを出力する。ここでしきい値は、例えば管理対象物質ごとの半数致死量LD50やNOEL(No Observed Effect Level),TDI(Tolerable Daily Intake:健康影響の観点から人が生涯に亘って摂取しても影響がないと考えられる1日あたり、体重1kgあたりの摂取量)といった、管理対象物質ごとの経験的リスク値を用いて定めればよい。ここでは例として、LD50等に対して1/10としておく。
【0054】
なお、ばく露量管理装置1はさらに、管理対象物質ごとの消失半減期を考慮してもよい。この場合ばく露量管理装置1は、各管理対象者を順次、処理対象者として選択する。そしてばく露量管理装置1は、選択した処理対象者について記録された各管理対象物質のばく露量の累積記録のうち、総計を求める期間の始期以降、終期までの記録を取得する。
【0055】
ばく露量管理装置1は、取得した記録を参照し、管理対象物質ごとに、管理対象物質に対する記録X(C,Ti,Ti+1)(以下、管理対象者Xへの、期間TiからTi+1までの管理対象物質Cのばく露量の記録をこのように表す)を次のように累算する。
【0056】
すなわち、ばく露量管理装置1は、総計を求める期間の終期における、処理対象者の管理対象物質Cへのばく露量の総計XTを、
として求める。ここで、総計Σは、期間の始期Tiが、総計を求める期間の始期Tstartを最初に越えた期間T1から、期間の終期Ti+1が、総計を求める期間の終期Tendを越える期間TNまでの和を求めることとする。
【0057】
また、τは、
τ=(Tend-Ti)/t1/2
とする。ここで、t1/2は、管理対象物質Cの人体における消失半減期であるものとする。
【0058】
本実施の形態のこの例によると、ばく露量管理装置1は、各管理対象者の管理対象物質ごとのばく露量を推定して提示できる。また、このばく露量管理装置1は、管理対象者が自ら使用した化学物質等だけでなく、管理対象者が所在した室内で別の人物によって行われた実験等で利用された化学物質等の影響を考慮しており、また、使用した試薬に含まれる化学物質の含有量を考慮している。このため、本実施の形態のばく露量管理装置1によると、化学物質の使用者、あるいは化学物質が使用される現場の近くに所在した人物に対する化学物質のばく露の影響を管理できる。
【0059】
[動作]
本実施の形態は以上の構成を備えており、次のように動作する。以下の例では、試薬M1,M2を用いた実験が行われ得る施設であって、実験室A1,A2がある施設に、本実施の形態のばく露量管理装置1と検出装置2とが配されているものとする。
【0060】
また実験室A1には、実験用のテーブルAT1とAT2とがあるものとし、実験室A2には、ヒュームフードFと、実験用のテーブルAT3とが配されているものとする。さらにこの施設には、各実験室で共用の試薬の保管庫Rが設けられているものとする。この例では、検出装置2は、各テーブルAT1,AT2,AT3及びヒュームフードF、並びに保管庫Rにそれぞれ配されているものとする。
【0061】
さらに以下の例では、試薬M1には、管理対象物質C1,C2がそれぞれCw11重量%,Cw12重量%の濃度で含まれているものとする。また試薬M2には、管理対象物質C1,C3がそれぞれCw21重量%,Cw23重量%の濃度で含まれているものとし、各管理対象物質C1,C2,C3の蒸気圧がV1,V2,V3であり、拡散長はL1,L2,L3であるとする。
【0062】
いま、この施設において管理対象となる管理対象者P1,P2がそれぞれ実験を行う場合を例として説明する。以下の例では、管理対象者P1は試薬M1を用いた実験を行い、第1日目は実験室A1の実験用テーブルAT1にて実験を行い、第2日目は実験室A2のヒュームフードFを用いて実験を行っているものとする(なお、ここでは異なる日での実験を例としているが、同じ日の異なる時刻での実験を対象としてもよい)。また管理対象者P2は試薬M2を用いた実験を行い、第1日目は実験室A1の実験用テーブルAT2を利用し、第2日目は実験室A2の実験用テーブルAT3を用いて実験をしているものとする。
【0063】
このとき、第1日目と第2日目のそれぞれについて、管理対象者P1,P2のそれぞれに対する各管理対象物質C1,C2,C3のばく露量を、次のようにして求める。
【0064】
まず上述の例では、第1日目は保管庫Rに配された検出装置2Rが、時刻t1に管理対象者P1を検出する。また、このとき検出装置2Rは、試薬M1,M2も検出しているものとする。本実施の形態の例では、これらの管理対象者や試薬の検出は、RFIDタグによって行うものとする。
【0065】
管理対象者P1が時刻t2には、試薬M1を持ち出して実験室A1に移動しているものとすると、時刻t2の時点では、検出装置2Rは、試薬M2を検出するが、管理対象者P1及び試薬M1は検出しない。一方、実験室A1のテーブルAT1の範囲を検出対象とする検出装置2ATaは、時刻t2において管理対象者P1及び試薬M1を検出する。
【0066】
同様に、管理対象者P1が時刻t5(便宜的に時刻t2より後の時刻とする)には、保管庫Rに所在しており、その後の時刻t6には、試薬M2を持ち出して実験室A1に移動しているものとすると、時刻t5の時点では、検出装置2Rは、管理対象者P2及び試薬M2を検出するが、時刻t6となると、管理対象者P2及び試薬M2を検出しない状態となる。一方、実験室A1のテーブルAT2の範囲を検出対象とする検出装置2ATbは、時刻t6において管理対象者P2及び試薬M2を検出する。
【0067】
さらに本実施の形態では、検出装置2が、キーボード等の入力装置を備えるものとする。そして設定された検出範囲内において試薬等の管理対象が使用される際に、使用者等が使用している場所(テーブルAT1等)を検出範囲とする検出装置2の入力装置を操作して、管理対象を特定する情報と使用量に関する情報とを入力する。例えば、以下の例では、管理対象者P1が時刻t3(時刻t2より後の時刻とする)において試薬M1をMw1グラムだけ使用したものとし、管理対象者P2が時刻t7(時刻t6より後の時刻とする)において、試薬M2をMw2グラムだけ使用したものとする。
【0068】
また第2日目においても同様に各検出装置2による検出が行われたとすると、ばく露量管理装置1は、各検出装置2の検出結果を次のように記録している状態となる。なお、以下の例では、第1日目をd1、第2日目をd2と表す。
日 時刻 検出装置 検出結果
d1 t1 2R P1,M1,M2
d1 t2 2R M2
d1 t2 2ATa P1,M1
d1 t3 2ATa M1をMw1グラム使用
d1 t5 2R P2,M2
d1 t5 2ATa P1,M1
d1 t6 2ATa P1,M1
d1 t6 2ATb P2,M2
d1 t7 2ATb M2をMw2グラム使用
…
d2 t11 2R P1,M1,M2
d2 t12 2R M2
d2 t12 2ATc P1,M1
d2 t13 2R P2,M2
d2 t13 2ATc P1,M1
d2 t14 2ATc P1,M1
d2 t14 2ATd P2,M2
【0069】
ここで、実験室A2のヒュームフードFを検出範囲とする検出装置2を、検出装置2ATc、実験室A2のテーブルAT3を検出範囲とする検出装置2を、検出装置2ATdとしている。また、ここでは、検出の対象となる管理対象者や試薬を検出しなかった旨の情報については、記録の記載を省略している。
【0070】
次にこの施設における各管理対象者の、管理対象物質に対するばく露量を管理する管理者が、日d1からd2までの間の各管理対象者P1,P2の各管理対象物質に対するばく露量を求めることとして、その旨の指示をばく露量管理装置1に入力すると、ばく露量管理装置1は次のように動作する。
【0071】
ばく露量管理装置1は、管理対象者P1,P2のそれぞれの人物を順次、処理対象者として選択する。ここではまず管理対象者P1を処理対象者として選択したものとする。ばく露量管理装置1は、処理対象者P1についての所在位置の情報と日時の情報との組を取得する。上述の例であれば、
【0072】
日時 所在位置
d1 t1 2R
d1 t2 2ATa
d1 t5 2ATa
…
d2 t11 2R
…
といった情報を取得する。
【0073】
ばく露量管理装置1は、指定された期間(日d1からd2まで)に含まれる日時の情報に関連付けられた、検出装置2の位置を表す情報Pcと、管理対象である試薬等の種類C及びその使用量Wに関する情報と(以下、対象物に係る情報と呼ぶ)を取得する。
【0074】
上述の例では、ばく露量管理装置1は、
日時 位置 試薬等 使用量
d1 t1 2R M1,M2
d1 t2 2R M2
d1 t2 2ATa M1
d1 t3 2ATa M1 Mw1グラム
d1 t5 2R M2
d1 t5 2ATa M1
d1 t6 2ATa M1
d1 t6 2ATb M2
d1 t7 2ATb M2 Mw2グラム
…
d2 t11 2R M1,M2
d2 t12 2R M2
…
といった情報を取得する。
【0075】
ばく露量管理装置1は、処理対象者P1の情報に含まれる日時の情報が表す日時の順に、各日時情報の時点をTpi(例えばTp1=d1,t1、Tp2=d1,t2…)での処理対象者P1の位置を表す情報をPpi(i=1,2,…,N)を参照し、i=2から順にNまで変化させつつ、次の処理を実行する。
【0076】
まずばく露量管理装置1は、i番目の日時の情報Tpiと、i-1番目の日時の情報Tpi-1とのそれぞれに関連付けられている処理対象者P1についての所在位置を表す情報Ppi,Ppi-1を参照し、これらが一致しているか(Ppi=Ppi-1であるか)を調べる。
【0077】
当初はi=2であるので、d1,t2の時点と、d1,t1の時点とのそれぞれでの処理対象者P1の位置の情報は、検出装置2ATaの検出範囲と、検出装置2Rの検出範囲と、というように一致していない。ばく露量管理装置1は、この時間範囲での処理対象者P1への各管理対象物質Cのばく露量Xi(C)を、X2(C)=0とする。
【0078】
次に、ばく露量管理装置1は、iを「1」だけインクリメントする。先に取得した情報においてi=3に相当する時点の情報は、Tp3=d1,t5であり、その時点での処理対象者P1の位置は、検出装置2ATaの検出範囲となっている。また、i-1=2に相当する時点Tp2=d1,t2とにおいても、処理対象者P1の位置は、検出装置2ATaの検出範囲であるため、ばく露量管理装置1は、各時点での処理対象者の位置が一致していると判断する。
【0079】
そこでばく露量管理装置1は、i=3番目の日時の情報Tp3以降、i-1=2番目の日時の情報Tp2より前の対象物に係る情報を抽出する。この間における対象物に係る情報は、
d1 t2 2R M2
d1 t2 2ATa M1
d1 t3 2ATa M1 Mw1グラム
である。
【0080】
ばく露量管理装置1は、ここで抽出した対象物に係る情報のうち、処理対象者P1の所在位置Pp3=検出装置2ATaの検出範囲との間で、予め定めた関係を有する検出装置2の位置の情報Pcに関連付けられた管理対象である試薬等の種類D及びその使用量Wに関する情報を抽出する。
【0081】
ここでは、ばく露量管理装置1には予め、各検出装置2の位置間の距離の情報が設定され記憶されているものとする。具体的に、この各検出装置2の位置間の距離の情報は、
図5に例示するように、各検出装置2の配置位置から、当該検出装置2とは異なる検出装置2の配置位置までの距離の情報をそれぞれ記録したものである。ここで互いに異なる部屋に配された検出装置2間の距離は、実際の距離に関わらず、「∞」としておく。これは、部屋が異なれば、管理対象物質のばく露の影響がないことを表す。
【0082】
もっとも、例えば隣接する部屋の間で仕切りが開放されている場合等であれば、部屋が異なっていても実際の距離を設定してもよい。この設定は予め管理者等によって行われるものとする。
【0083】
本実施の形態のここでの例では、ばく露量管理装置1は、ここで抽出した対象物に係る情報のうち、処理対象者P1の所在位置Pp3=検出装置2ATaの検出範囲(配置位置)との間で「∞」でない距離の情報が設定されている(すなわち、検出装置2ATaと同じ実験室A1内に配置されている)検出装置2に係る情報を抽出する。
【0084】
この結果、ばく露量管理装置1が抽出する情報は、
d1 t2 2ATa M1
d1 t3 2ATa M1 Mw1グラム
となる。
【0085】
ばく露量管理装置1は、ここで抽出した情報を用い、処理対象者P1への管理対象M1に含まれる管理対象物質Cごとの、時間範囲t2からt5までのばく露量X5(C)を、
X5(C)=Σ(W×Dc×α(C)×f(d)×Ec×Er)
として求める。
【0086】
ここで管理対象M1には、管理対象物質C1,C2がそれぞれCw11重量%,Cw12重量%の濃度で含まれているとしているので、
管理対象物質C1について:W×Dc=Mw1×Cw11
管理対象物質C2について:W×Dc=Mw1×Cw12
となる。また、ここでは管理対象者P1と管理対象M1とが同じ検出装置2ATaにより検出されているのでその距離は「0」であり、この場合はf(d)=1としておく。
【0087】
従って、
ばく露量X5(C1)=Mw1×Cw11×(aV1+bL1)×1×Ec×Er、
ばく露量X5(C2)=Mw1×Cw12×(aV2+bL2)×1×Ec×Er
となる。
【0088】
なお、Ec,Erは、例えば検出装置2ごとに定めておけばよく、ここでは処理対象者P1を検出した検出装置2ATaについて予めEc=1(ヒュームフードでない)、Er=0.8(換気は行われているが十分でない)、といったように設定される。
【0089】
ばく露量管理装置1は、以下の時間範囲についても同様に処理を行い、t7(管理対象M2がMw2グラム使用された日時)を含む時間範囲の処理において、管理対象M2に含まれる管理対象物質C1,C3に対する管理対象者P1のばく露量が、
ばく露量X7(C1)=Mw2×Cw21×(aV1+bL1)×f(d)×Ec×Er、
ばく露量X7(C3)=Mw2×Cw23×(aV3+bL3)×f(d)×Ec×Er
として演算される。なお、ここでEc,Erは、先の例と同様に、Ec=1(ヒュームフードでない)、Er=0.8(換気は行われているが十分でない)、とする。また、f(d)は、管理対象者P1の位置(検出装置2ATaの検出範囲)と、管理対象M2の検出位置(検出装置2ATbの検出範囲)の距離であり、検出装置2ATaと検出装置2ATbとの距離として予め定められた値dについて、例えばf(d)=c/d3と定める。ここでcは予め実験的ないし経験的に定めた正の値とする。
【0090】
また、さらに翌日(第2日目)における、処理対象者P1の各管理対象物質に対するばく露量が演算されるが、第2日目では、処理対象者P1は、管理対象M1をヒュームフードF内で扱うため、Ec=0となり、管理対象M1に含まれる管理対象物質に対するばく露量は「0」となる。
【0091】
一方、第2日目に同じ実験室A2にて行われた実験で用いられた、管理対象M2に含まれる管理対象物質に対するばく露量では、当該実験がヒュームフードF外で行われているので、Ec=1であり、先の例と同様に、管理対象M2に含まれる管理対象物質に対するばく露量が演算される。以下、管理対象者P2についても同様の演算が行われる。
【0092】
そしてばく露量管理装置1は、管理対象者P1について、この2日間での各管理対象物質C1,C2,C3のばく露量を、
X(C1)=X5(C1)+X7(C1)+…
X(C2)=X5(C2)
X(C3)=X7(C3)+…
というように求める。
【0093】
ばく露量管理装置1は、管理対象物質Cごとの毒性に係る情報(例えば半数致死量LD50等の情報であり、予め記憶しておくものとする)を用いて、各管理対象者の各管理対象物質Cへのばく露量の累積記録を参照し、所定の期間内に、半数致死量等、毒性に関する情報(毒性の影響が経験的に懸念されるばく露量に関する情報)と比較して有意に高い量のばく露があった管理対象者と管理対象物質とについての情報を出力する。例えば半数致死量の1/10を超えるばく露量があったときに、当該ばく露を受けた管理対象者を特定する情報と、半数致死量の1/10を超える量のばく露があった管理対象物質を特定する情報とを出力する。
【0094】
[演算処理の変形例]
なお、ここまでに説明したばく露量の演算処理は、一例であり、ばく露量を演算する期間内の各時点での、管理対象者の所在する位置における管理対象物質の濃度を累算(積分)する処理(また管理対象者による消失半減期を考慮してもよい)を行うことができれば、どのような処理であってもよい。
【0095】
例えば、上述の例において、所定のタイミングごとの、各検出装置2の位置での管理対象物質の残存量を、管理対象物質が使用された時点からの経過時刻Δtを用いて、
W×ε×exp[-γ・Δt]
などと定め、これを当該検出装置2の場所に所在する管理対象者に対するばく露量の演算の基準(先の式におけるW×Dcに相当)としてもよい。
【0096】
この後者の方法では、試薬が使用された後に入室した管理対象者に対する、試薬に含まれる管理対象物質の影響も算定できる。
【0097】
[その他の変形例]
またここでの例では、管理対象として試薬を例とし、管理対象物質は化学物質であるものとしていたが、本実施の形態はこれに限られず、例えば管理対象は微生物等であってもよい。また、管理対象が化学物質であって、管理対象物質は当該化学物質に含まれる放射性物質であってもよい。この場合、ばく露量は具体的には放射性物質からの放射線被曝量となる。この場合は、被爆した量を人体への影響量に換算して累算することとしてもよい。
【符号の説明】
【0098】
1 ばく露量管理装置、2 検出装置、11 制御部、12 記憶部、13 操作部、14 表示部、15 通信部、21 対象物情報取得部、22 対象者位置取得部、23 演算処理部、24 記録処理部。