(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】抗酸化剤および抗酸化剤用炭素材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 15/02 20060101AFI20231108BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20231108BHJP
C01B 32/182 20170101ALI20231108BHJP
【FI】
C09K15/02
C01B32/05
C01B32/182
(21)【出願番号】P 2019145098
(22)【出願日】2019-08-07
【審査請求日】2022-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2019104934
(32)【優先日】2019-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【氏名又は名称】籾井 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100121636
【氏名又は名称】吉田 昌靖
(72)【発明者】
【氏名】山田 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】郷田 隼
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-254508(JP,A)
【文献】特開2004-189956(JP,A)
【文献】特開2008-195936(JP,A)
【文献】特開2007-330155(JP,A)
【文献】特開2007-075047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K15/00-15/34
C01B32/00-32/991
A23F5/04
A23G1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に、
フロログルシノールの焼成物である炭素材料のみからなり、該炭素材料のC/O比が5.5以下であり、
該炭素材料が、グラフェン構造と、グラフェン構造の欠陥に由来する構造と、を含む、抗酸化剤。
【請求項2】
前記焼成物を形成させるための焼成温度が500℃未満である、請求項1に記載の抗酸化剤。
【請求項3】
バルク状態で存在し得る、請求項1または2に記載の抗酸化剤。
【請求項4】
抗酸化剤に用いる炭素材料の製造方法であって、
フロログルシノールを、500℃未満の焼成温度で焼成して、該炭素材料に、グラフェン構造と、グラフェン構造の欠陥に由来する構造とを形成する、
抗酸化剤用炭素材料の製造方法。
【請求項5】
前記
フロログルシノールを、金属と接触させない状態で焼成する、請求項4に記載の抗酸化剤用炭素材料の製造方法。
【請求項6】
前記
フロログルシノールを、触媒反応を用いずに焼成する、請求項4または5に記載の抗酸化剤用炭素材料の製造方法。
【請求項7】
前記
フロログルシノールをバルク状態で焼成する、請求項4から6までのいずれかに記載の抗酸化剤用炭素材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗酸化剤および抗酸化剤用炭素材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンナノチューブ、フラーレン、グラファイト、グラフェン、酸化グラフェン、還元型酸化グラフェン、人造黒鉛、カーボンブラックなどの炭素材料は、それぞれ、その特徴的な物性に起因して、各種分野における新規な機能性材料として期待されている(例えば、非特許文献1-3)。
【0003】
グラフェンは2次元シート状の炭素材料であり、sp2炭素による六員環で敷き詰められた構造をしている。グラファイトは、通常、2次元シート状のグラフェン同士がファンデルワールス力で結合した2層以上の積層構造をしているものを指すが、1層のグラファイトをグラフェンと称することもある。
【0004】
グラフェンの存在は古くから知られていたが、グラファイトから1枚のグラフェンを取り出す方法は最近まで確立されていなかった。2004年になって、高配向性の無水グラファイトの表面を粘着テープで剥離し、剥離したものを基板の上に貼り付ける方法によってグラフェンの薄片を取り出せることが見出され、その後、大量生産や低コスト生産を目指して、CVD(化学気相蒸着製膜法)などの気相製膜法によるグラフェンの製造方法や、酸化グラフェン(GO)の還元法によるグラフェン(還元型酸化グラフェン:RGO)の製造方法が検討されている。
【0005】
しかし、CVD(化学気相蒸着製膜法)などの気相製膜法によるグラフェンの製造方法は、膜以外の形状(代表的には、バルク状)として得ることができないという問題、可燃性ガスを使用しなければならないという問題、Cu等の触媒性能を有する金属基板上に製膜させるため、金属が不純物として含有してしまうという問題がある。
【0006】
一方、酸化グラフェン(GO)の還元法によるグラフェン(還元型酸化グラフェン:RGO)の製造方法は、上記問題を解決し得る可能性がある製造方法として、近年、検討がなされている。
【0007】
還元型酸化グラフェン(RGO)は、代表的には、黒鉛の酸化によって酸化グラフェンを製造し、得られる酸化グラフェンを還元することによって製造し得る。しかし、この製造方法では、酸化剤や還元剤や触媒に由来する窒素や硫黄やリンやおよびアルカリ金属以外の金属などが不純物として混入し、全元素中の炭素および酸素の合計の含有割合が低下して、高純度の還元型酸化グラフェンが得られ難いという問題がある。
【0008】
なお、可燃性ガスを使用することなくグラファイト膜を簡便に製造する方法が最近報告されている(特許文献1)。しかし、このグラファイト膜も、膜以外の形状(代表的には、バルク状)として得ることができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Nature,354,p.56-58(1991)
【文献】Science,306,p.666-669(2004)
【文献】齋藤理一郎著,「グラフェンの最先端技術と広がる応用」,第2章.グラフェンの基礎物性,3.グラフェンの光電子物性
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明らは、新規な炭素材料およびその用途についての研究を進め、特に、抗酸化剤として有効に用いることができる炭素材料がないか検討を行った結果、特定の炭素材料が抗酸化剤として非常に有効であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明の課題は、実質的に、炭素材料のみからなる、優れた抗酸化性を有する抗酸化剤を提供することにある。さらに、そのような抗酸化剤に用いる炭素材料を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の実施形態による抗酸化剤は、実質的に、分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物の焼成物である炭素材料のみからなり、該炭素材料のC/O比が5.5以下である。
【0014】
一つの実施形態においては、上記焼成物を形成させるための焼成温度が500℃未満である。
【0015】
一つの実施形態においては、本発明の実施形態による抗酸化剤は、バルク状態で存在し得る。
【0016】
本発明の実施形態による抗酸化剤用炭素材料の製造方法は、
抗酸化剤に用いる炭素材料の製造方法であって、
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物を、500℃未満の焼成温度で焼成する。
【0017】
一つの実施形態においては、上記分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物を、金属と接触させない状態で焼成する。
【0018】
一つの実施形態においては、上記分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物を、触媒反応を用いずに焼成する。
【0019】
一つの実施形態においては、本発明の実施形態による抗酸化剤用炭素材料の製造方法は、上記分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物をバルク状態で焼成する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、実質的に、炭素材料のみからなる、優れた抗酸化性を有する抗酸化剤を提供することができる。さらに、そのような抗酸化剤に用いる炭素材料を製造する方法を提供することができる。また、本発明によって提供される抗酸化剤は、一般的な抗酸化剤とは異なり、所定温度で焼成された焼成物であるため、耐熱性が高いという効果も発現し得る。また、本発明によって提供される抗酸化剤は高分子であるため、揮発性が低く、一般的な低分子抗酸化剤で問題となる揮発性の問題が解決され得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】抗酸化作用の評価におけるUV-vis測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
≪1.抗酸化剤≫
本発明の実施形態による抗酸化剤(以下、単に「抗酸化剤」と称することがある)は、実質的に、分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物の焼成物である炭素材料(以下、単に「炭素材料A」と称することがある)のみからなり、該炭素材料のC/O比が5.5以下である。
【0023】
ここにいう「実質的に、」とは、炭素材料Aに起因する効果以外の効果を発現させるための別の成分が、炭素材料Aに積極的に備えられたり、炭素材料Aと積極的に併用されたりする形態を除くことを意味し、例えば、本発明の効果を損なわない範囲で、製造過程などによって不可避に混入する不純物等の含有は許容される。
【0024】
このような、実質的に、炭素材料Aのみからなる抗酸化剤中の、該炭素材料Aの含有割合は、好ましくは95質量%~100質量%であり、より好ましくは99質量%~100質量%であり、さらに好ましくは99.9質量%~100質量%であり、さらに好ましくは99.99質量%~100質量%であり、特に好ましくは99.999質量%~100質量%であり、最も好ましくは100質量%である。
【0025】
炭素材料Aは、分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物を焼成して形成される。
【0026】
なお、本発明における「焼成物」は、焼成によって原料の一部が分解等したものであるため、「焼成物」そのものの構造は複雑であり、一般式(構造)で表すことが到底できないのが現状であり、このような「焼成物」を扱う当業者の技術常識といえる。したがって、本発明における「焼成物」は、その構造によって直接に特定することが不可能であり、「焼成物」を形成するための方法によって初めて特定できるものである。よって、本発明の実施形態による抗酸化剤に関し、出願時において、該抗酸化剤を実質的に主成分として構成する「焼成物」を構造によって直接特定することが不可能又は非現実的である事情が存在する。
【0027】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物としては、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な、分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物を採用し得る。
【0028】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物において、該フェノール性ヒドロキシル基が結合する芳香環は炭化水素芳香環であることが好ましい。フェノール性ヒドロキシル基が結合する芳香環がヘテロ芳香環であっても本発明の効果を発揮し得るが、環構造がより安定な炭化水素芳香環であるほうが、得られる炭素材料がより安定となり得る。なお、ヘテロ芳香環とは、炭素によって環構造が構成されている炭化水素芳香環とは異なり、炭素と炭素以外の元素によって環構造が構成されている芳香環を意味する。
【0029】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物は、フェノール性ヒドロキシル基以外の置換基を有していてもよい。このような置換基としては、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な置換基を採用し得る。このような置換基としては、本発明の効果をより高める点では、ヒドロキシル基のみであることが好ましい。ヒドロキシル基以外の置換基が存在しても本発明の効果は発揮され得るが、ヒドロキシル基以外の置換基が存在しないほうが、副反応を防ぎやすく、より炭素材料化しやすい。なお、ここにいうフェノール性ヒドロキシル基以外の置換基としての「ヒドロキシル基」は、フェノール性ではないヒドロキシル基を意味する。なお、当然のことであるが、置換基とは、水素基(-H)に代わって置き換えられた基である。
【0030】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物を構成する元素としては、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な元素を採用し得る。このような元素としては、本発明の効果を高める点では、炭素、酸素、水素のみであることが好ましい。炭素、酸素、水素以外の元素が存在しても本発明の効果は発揮され得るが、炭素、酸素、水素以外の元素が存在しないほうが、副反応を防ぎやすく、より炭素材料化しやすい。
【0031】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物としては、本発明の効果をより発揮させ得るため、該化合物の縮合開始温度が、好ましくは200℃~450℃の範囲であり、より好ましくは200℃~400℃の範囲である。これにより、効果的に炭素材料化することができる。
【0032】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物の縮合開始温度は、TG-DTA(熱重量示差熱分析)によって測定される。分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物が1種類である場合は、その1種類の分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物のTG-DTA分析を、窒素ガス雰囲気下、40℃から、昇温速度10℃/分で昇温し、DTAの最も低温側のピークトップ温度を、その1種類の分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物の縮合反応温度(T℃)と決定する。2種類以上の分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物の混合物である場合は、その混合物を窒素ガス雰囲気下、40℃から、昇温速度10℃/分で昇温し、DTAの最も低温側のピークトップ温度を、その2種類以上の分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物の混合物の縮合開始温度と決定する。ただし、1種類の分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物や2種類以上の分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物の混合物に、例えば、溶媒や水分や水和水等の不純物が含まれている場合は、該不純物の脱離に伴うDTAピーク(不純物ピークと称することもある)が縮合開始温度よりも低温で観測されることがある。このような場合には、上記の不純物ピークは無視して、その化合物や混合物の縮合開始温度を決定する。通常は、上記の不純物ピークは無視した上で、DTAの最も低温側のピークトップ温度を、その化合物や混合物の縮合開始温度と決定する。
【0033】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物の分子量は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な分子量を採用し得る。このような分子量としては、分子が動きやすく、分子間同士の縮合が活発になり得る点で、好ましくは500以下であり、より好ましくは100~400である。
【0034】
焼成に用いる、分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。2種以上の場合でも、分子間での縮合開始温度は上述の範囲内であることが好ましい。
【0035】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物としては、例えば、一般式(1)~(11)に示す化合物が挙げられる。
【0036】
【0037】
一般式(1)~(11)のそれぞれにおいて、Xは水素原子または水酸基を表し、Xの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基である。
【0038】
ここで、フェノール性ヒドロキシル基とは、芳香環に結合した水酸基を意味する。すなわち、一般式(1)においては、芳香環に結合した6つのXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(2)においては、芳香環に結合した6つのXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(3)においては、芳香環に結合した10個のXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(4)においては、芳香環に結合した11個のXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(5)においては、芳香環に結合した9つのXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(6)においては、芳香環に結合した9つのXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(7)においては、芳香環に結合した10個のXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(8)においては、芳香環に結合した11個のXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(9)においては、芳香環に結合した9つのXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(10)においては、芳香環に結合した9つのXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(11)においては、芳香環に結合した12個のXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基である。
【0039】
焼成物を形成させるための焼成温度は、好ましくは500℃未満であり、より好ましくは200℃~450℃であり、さらに好ましくは230℃~430℃であり、特に好ましくは250℃~400℃である。焼成温度を上記温度範囲に設定して焼成物を形成させることにより、より優れた抗酸化性を有する抗酸化剤を提供することができる。
【0040】
炭素材料Aは、好ましくは、このように、「特定の焼成温度」において、「分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物」を、「製膜ではなく焼成すること」によって形成することができる。
【0041】
炭素材料Aは、そのC/O比が5.5以下であり、好ましくは2.0~5.0であり、より好ましくは2.2~4.5であり、さらに好ましくは2.5~4.0である。炭素材料AのC/O比が上記範囲内にあれば、より優れた抗酸化性を有する抗酸化剤を提供することができる。
【0042】
なお、炭素材料AのC/O比の大きさは、焼成による炭素化が進むほど、言い換えれば、焼成温度が高い場合に、大きくなる傾向があり、効果として耐熱性等の安定性に寄与する。逆に、炭素材料AのC/O比の大きさは、焼成温度が低い場合に、小さくなる傾向があり、効果として抗酸化作用や分散安定性等に寄与する。したがって、炭素材料AのC/O比が上記範囲内にあることは、有効に抗酸化作用を示しながら安定性が高いものとなり得ることを意味し、よって、より優れた抗酸化性を有する抗酸化剤を提供することができる。
【0043】
抗酸化剤は、好ましくは、バルク状態で存在し得る。一般には、バルク状態の物質が備える性質が、その物質の固有の性質である。すなわち、バルク状態の物質は、その物質のもつ基本的な性質、例えば、沸点、融点、粘度、密度などの値を決定できる。ある物質の物性といえば、バルク部分が持つ性質を指す。バルク状態の例としては、粒子、ペレット、フィルム等である。粒子の存在状態としては、例えば、粉体が挙げられる。フィルムとしては、自立したフィルムであることが好ましい。
【0044】
炭素材料Aの実施形態は、代表的には、縮合反応によって、2種以上の基から1つの中性分子が形成されて脱離して得られる炭素材料である。この実施形態においては、1つの化合物が2種以上の基を有している場合であってもよいし、2つ以上の化合物のそれぞれの有する基を組み合わせて2種以上の基となる場合であってもよい。分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物が、同一分子間および/または異種分子間で縮合反応を起こし、炭素材料Aとなり得る。
【0045】
縮合反応としては、2種以上の基から1つの中性分子が形成されて脱離することによる縮合反応であれば、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な縮合反応を採用し得る。このような縮合反応とすることにより、比較的低温で反応を行うことが可能となり得る。このような縮合反応としては、-H基と-OH基とからH2Oが形成されて脱離することによる縮合反応が挙げられる。特に、脱離した中性成分が該脱離温度(焼成温度)で気体成分であると、形成される炭素材料に取り込まれることなく、気相部にあるため、不純物となりにくい。
【0046】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物を焼成することによって炭素材料Aを形成することにより、反応触媒を必要とすることなく、自身の脱水反応による反応が起こるため、化学反応の副生成物や反応触媒が炭素材料中に存在してしまって致命的な不純物となることを抑制でき、より高品質な炭素材料を得ることができる。また、このような分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物を用いることにより、可燃性ガスを使用することなく、炭素材料を得ることができる。また、このような分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物は、触媒作用を必要としない高反応性を有し得る。
【0047】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物の中でも、-H基と-OH基とからH2Oが形成されて脱離することによる縮合反応が起こりやすいと推察され、反応が進行しやすいと推察される点で、好ましくは、フロログルシノール、ヘキサヒドロキシトリフェニレン、ポリフェノールである。
【0048】
ポリフェノールとしては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切なポリフェノールを採用し得る。このようなポリフェノールとしては、例えば、イチョウ葉エキス、マンゴスチンエキス、イチゴ種子エキス、クルミポリフェノール、ガラナエキス、ジャワショウガエキス、ノビレチン、ブルーベリー葉エキス、メリンジョエキス、ブドウレスベラトロール、リンゴンベリーエキス、コケモモエキス、グネチンC、ε-ビニフェリン、レスベラトロール、ブドウ種子エキス、黒大豆種皮ポリフェノール、黒豆種皮ポリフェノール、カシスエキス、クルクミン、ホワイトクルクミノイド、ポリメトキシフラボノイド(PMF)、ジヒドロケルセチン、マリアアザミエキス、シリマリン、シリビニン、αGヘスペリジン、ヘスペリジン、メチルヘスペリジン、オレンジ由来ルチノシド、ヘスペレチン、ピクノジェノール、オリゴノール、アマニリグナン、パセリエキス、マキベリーエキス、キウイ種子エキス、シソの実エキス、アカジソエキス、紫蘇葉、アロニアエキス、ハスカップエキス、シアニジン-3-グルコシド、ウラジロガシ抽出エキス、アサイーエキス、カムカムエキス、マロンポリフェノール、大豆イソフラボン、柑橘フルーツエキス、海藻ポリフェノール、パミスエキス、オリーブ果実エキス、スダチ果皮エキス、レンコンエキス、ウコンエキス、エキナケア(エキナセア)、荷葉エキス(ハスの葉)、カンカニクジュヨウ、グアバ葉エキス、クワ葉エキス、ベニバナエキス、コーンシルクエキス、サラシアエキス、シャゼンソウエキス(オオバコ)、セイヨウサンザシエキス、チンピエキス、田七人参エキス、甜茶エキス、トウヒ抽出液、ドクダミエキス、ヤーコンエキス、ラフマエキス、緑茶エキスなどが挙げられる。ポリフェノールは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0049】
炭素材料Aは、好ましくは、ラマン分析によって、Gバンド、Dバンド、G′バンドを示し、XRD分析によって、黒鉛に由来するピークを示さず、XPS分析によって、全元素中の炭素および酸素の合計の含有割合が99.9%以上を示し、XRF分析によって、窒素、硫黄、リン、およびアルカリ金属以外の金属の含有量の割合が、それぞれ100ppm以下である。
【0050】
ラマン分析は、任意の適切なラマン分析方法によって測定でき、例えば、測定装置:顕微ラマン(日本分光NRS-3100)、測定条件:532nmレーザー使用、対物レンズ20倍、CCD取り込み時間1秒、積算64回(分解能=4cm-1)の条件によって測定することができる。
【0051】
XRD分析は、任意の適切なXRD分析方法によって測定でき、例えば、全自動水平型X線回折装置(リガク社製、SMART LAB)を用いて、試料をグローブボックス中にて気密試料台に装填することにより、不活性雰囲気を保った状態とし、CuKα1線:0.15406nm、走査範囲:10°-90°、X線出力設定:45kV-200mA、ステップサイズ:0.020°、スキャン速度:0.5°min-1-4°min-1の条件によって測定することができる。
【0052】
XPS分析は、任意の適切なXPS分析方法によって測定でき、例えば、光電子分光装置(JPS-9000MX,日本電子株式会社製)を用いて行うことができる。なお、XPS分析においては、水素は検出されないため、水素以外の元素の総量を100%として算出すればよい。
【0053】
XRF分析は、任意の適切なXRF分析方法によって測定でき、例えば、蛍光X線分析装置(Philips社製、PW2404)を用いて、検量線法にて測定を行い、元素濃度0.01%以上のものを各成分として読み取ればよい。なお、XRF分析においては、水素は検出されないため、水素以外の元素の総量を100%として算出すればよい。
【0054】
炭素材料Aは、従来公知の炭素材料とは異なる新規な炭素材料である。従来公知の炭素材料としては、例えば、カーボンナノチューブ、フラーレン、グラファイト、グラフェン、酸化グラフェン、還元型酸化グラフェン、人造黒鉛、カーボンブラックなどが挙げられる。
【0055】
炭素材料Aは、代表的には、その構造内にベンゼン環由来のハニカム構造(グラフェン構造)を有する。グラフェン構造は、後述するラマン分光分析によってその有無の確認ができる(例えば、非特許文献3参照)。
【0056】
炭素材料Aは、好ましくは、ラマン分析によって、Gバンド、Dバンド、G′バンドを示す。すなわち、分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物の焼成物である炭素材料は、好ましくは、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいて、Gバンド(一般的に1550cm-1~1650cm-1の範囲内)、Dバンド(一般的に1300cm-1~1400cm-1の範囲内)、G′バンド(一般的に2650cm-1~2750cm-1の範囲内)にピークを示す。ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてこのようなピークを示すことは、炭素材料Aが、グラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有していること、グラフェン構造の欠陥に由来する構造またはグラフェン構造の欠陥に由来する構造に類似の構造を有していること、官能基を含むこと、を意味している。
【0057】
Gバンドは、一般に、強度が高く、シャープであれば、よりきれいなグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有しているといえる。
【0058】
Dバンドは、一般に、強度が低ければ、よりきれいなグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有しているといえる。また、Dバンドが確認できるということは、官能基を有すること、グラフェン構造の欠陥に由来する構造またはグラフェン構造の欠陥に由来する構造に類似の構造を有していること、を意味している。これにより、通常のグラフェンとは異なる性質を発揮し得る。
【0059】
G′バンドは、一般に、その強度は、グラフェン構造が1層のときに最も強く、グラフェン構造の積層数が増えるにつれて徐々に小さくなる。しかしながら、G′バンドは、グラフェン構造の積層数が増えるにつれて徐々に強度が小さくなっても、ピークは観察することができる。したがって、G′バンドにピークを有することは、グラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有しているといえる。G′バンドは、2Dバンドとも呼ばれることがある。
【0060】
炭素材料Aは、ラマン分析によって、好ましくは、D+D′バンド(一般的に2800cm-1~3000cm-1の範囲内)および/または2D′バンド(一般的に3100cm-1~3300cm-1の範囲内)を示す。ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてこのようなピークを示すことは、炭素材料Aが、グラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有していること、グラフェン構造の欠陥に由来する構造またはグラフェン構造の欠陥に由来する構造に類似の構造を有していること、官能基を含むこと、をより意味している。
【0061】
D+D′バンドおよび2D′バンドは、一般に、強度が低ければ、よりきれいなグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有しているといえる。D+D′バンドは、D+Gバンドとも呼ばれることがある。また、D+D′バンドおよび/または2D′バンドが確認できるということは、官能基を有すること、グラフェン構造の欠陥に由来する構造またはグラフェン構造の欠陥に由来する構造に類似の構造を有していること、を意味している。これにより、通常のグラフェンとは異なる性質を発揮し得る。
【0062】
炭素材料Aは、好ましくは、XRD分析によって、黒鉛に由来するピークを示さない。本発明でいう黒鉛に由来するピークとは、XRDにおける(002)面に由来するピークが26.3度以上であることを意味する。黒鉛ピークを有さない炭素材料では26.3度以下にブロードなピークを有することが多い。これは、炭素材料層間距離が黒鉛よりも広く、黒鉛とは異なった材料であることを示す。例えば、グラファイトナノプレート(GNP)はグラフェンと類似した薄いグラファイトであり、XRD分析によって、黒鉛に由来のピークを示す。炭素材料Aが、XRD分析によって、黒鉛に由来するピークを示さないことは、グラファイトナノプレート(GNP)とは異なる炭素材料であることを意味している。
【0063】
炭素材料Aは、好ましくは、炭素および酸素以外の元素を実質的に含有しない。具体的には、分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物の焼成物である炭素材料は、XPS分析によって、全元素中の炭素および酸素の合計の含有割合が、好ましくは99.9%以上であり、より好ましくは99.95%以上であり、さらに好ましくは99.99%以上であり、さらに好ましくは99.995%以上であり、特に好ましくは99.999%以上であり、最も好ましくは実質的に100%である。分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物の焼成物である炭素材料が、XPS分析により測定される全元素中の炭素および酸素の合計の含有割合が上記範囲内にあることは、炭素材料Aの純度が非常に高く、物性の妨げとなる不純物を含まないことを意味する。また実質的に100%とは、XPSによる分析で、炭素および酸素以外のピークが検出されないこと(ベースラインと判別できないこと)を意味する。
【0064】
炭素材料Aは、XRF分析によって、窒素、硫黄、リン、およびアルカリ金属以外の金属の含有量の割合が、それぞれ、好ましくは100ppm以下であり、より好ましくは50ppm以下であり、さらに好ましくは10ppm以下であり、さらに好ましくは5ppm以下であり、特に好ましくは1ppm以下であり、最も好ましくは実質的に0ppmである。分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物の焼成物である炭素材料において、XRF分析により測定される、窒素、硫黄、リン、およびアルカリ金属以外の金属の含有量の割合が上記範囲内にあることは、炭素材料Aが、窒素や硫黄やリンやおよびアルカリ金属以外の金属という不純物の含有量の割合が非常に低い(極めて高純度の)炭素材料であることを意味している。
【0065】
炭素材料Aは、好ましくは、上記のような特徴を有する新規な炭素材料である。すなわち、炭素材料Aは、好ましくは、結晶構造的にはグラフェンと同一または類似した構造を有し、ほぼ単層の酸素含有炭素材料であるという点では還元型酸化グラフェンと類似の構造を有し、しかしながら、炭素および酸素以外の元素を実質的に含有しない点で還元型酸化グラフェンとは異なり、また、結晶構造的に黒鉛とも異なり、窒素、硫黄、リン、およびアルカリ金属以外の金属の含有量の割合が非常に低く(すなわち、極めて高純度であり)、バルク状態で存在し得る、新規な炭素材料である。
【0066】
炭素材料Aは、好ましくは、グラフェン構造の欠陥に由来する構造またはグラフェン構造の欠陥に由来する構造に類似の構造を有している。このような欠陥が存在することにより、炭素材料Aは、優れた抗酸化性の発現に寄与し得る。
【0067】
≪2.抗酸化剤用炭素材料の製造方法≫
本発明の実施形態による抗酸化剤用炭素材料の製造方法は、抗酸化剤に用いる炭素材料の製造方法であって、分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物を、500℃以下の焼成温度で焼成する。
【0068】
抗酸化剤用炭素材料は、抗酸化剤に用いる炭素材料であり、好ましくは、本発明の実施形態による抗酸化剤に含有される炭素材料である。
【0069】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物については、≪1.抗酸化剤≫の項における分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物の説明をそのまま援用し得る。
【0070】
焼成温度は、好ましくは500℃未満であり、より好ましくは200℃~450℃であり、さらに好ましくは230℃~430℃であり、特に好ましくは250℃~400℃である。焼成温度を上記温度範囲に設定して焼成物を形成させることにより、得られる炭素材料を含有する抗酸化剤は、より優れた抗酸化性を有する。
【0071】
本発明の実施形態による抗酸化剤用炭素材料の製造方法においては、好ましくは、分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物を、金属と接触させない状態で焼成する。分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物を、金属と接触させない状態で焼成することにより、得られる炭素材料中に金属が不純物として含有してしまうことを抑制し得る。ただし、上記のように金属と接触させないというのは積極的に金属に接触させないという意味であり、製造の工程上、例えば焼成炉の底面、壁面に接触してしまう場合は含まない。積極的に接触させるというのは、後述のような、本発明の分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物を薄膜状にすることで、金属との接触面積を積極的に増やす等の操作を意味する。
【0072】
本発明の実施形態による抗酸化剤用炭素材料の製造方法においては、好ましくは、分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物を、触媒反応を用いずに焼成する。分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物を、触媒反応を用いずに焼成することにより、反応触媒が炭素材料中に存在してしまって致命的な不純物となることを抑制し得る。
【0073】
本発明の実施形態による抗酸化剤用炭素材料の製造方法においては、好ましくは、分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物をバルク状態で焼成する。分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物をバルク状態で焼成するとは、例えば、(i)分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物からなる粒子(粉体)を焼成する、(ii)分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物からなる粒子(例えば、粉体)を圧縮成形等でペレット状やフィルム状に成形を行った後、その成形体を焼成する、等の行為を包含する。粒子(例えば、粉体)や成形体を焼成する際、例えば、容器に入れて加熱してもよい。容器としては、任意の適切な容器を採用し得る。このような容器としては、例えば、加熱温度で実質的に変質しない材質からなるものが好ましい。また、粒子(例えば、粉体)や成形体が接触する表面が、焼成する際に、分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物と化学反応しないような材質であることが好ましい。粒子(例えば、粉体)や成形体を好ましい条件で焼成することにより、炭素材料を得ることが可能となり、その加熱する工程において、分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物の融点付近で該化合物が融解して液体状になることがある。このような経過を経る場合も「分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物をバルク状態で焼成する」ことに含まれる。一方、本発明の意味する「バルク状態で焼成する」ものではない例としては、例えば、分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物を溶剤に溶解して任意の基材状に塗布して膜状にして該基材とともに加熱することにより薄膜を形成する方法、化学気相成長法(CVD)法、物理気相成長法(PVD)、薄膜蒸着加熱法、などが挙げられる。薄膜としてはおおむね膜厚が1μm以下の範囲を意味する。
【0074】
本発明の実施形態による抗酸化剤用炭素材料の製造方法においては、焼成により、代表的には、縮合反応によって、2種以上の基から1つの中性分子が形成されて脱離し、炭素材料が得られる。この実施形態においては、1つの化合物が2種以上の基を有している場合であってもよいし、2つ以上の化合物のそれぞれの有する基を組み合わせて2種以上の基となる場合であってもよい。分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物が、同一分子間および/または異種分子間で縮合反応を起こし、炭素材料が得られ得る。
【0075】
縮合反応としては、2種以上の基から1つの中性分子が形成されて脱離することによる縮合反応であれば、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な縮合反応を採用し得る。このような縮合反応とすることにより、比較的低温で反応を行うことが可能となり得る。このような縮合反応としては、-H基と-OH基とからH2Oが形成されて脱離することによる縮合反応が挙げられる。特に、脱離した中性成分が該脱離温度(焼成温度)で気体成分であると、形成される炭素材料に取り込まれることなく、気相部にあるため、不純物となりにくい。
【0076】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物を焼成することによって炭素材料を形成することにより、反応触媒を必要とすることなく、自身の脱水反応による反応が起こるため、化学反応の副生成物や反応触媒が炭素材料中に存在してしまって致命的な不純物となることを抑制でき、より高品質な炭素材料を得ることができる。また、このような分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物を用いることにより、可燃性ガスを使用することなく、炭素材料を得ることができる。また、このような分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物は、触媒作用を必要としない高反応性を有し得る。
【0077】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物の中でも、-H基と-OH基とからH2Oが形成されて脱離することによる縮合反応が起こりやすいと推察され、反応が進行しやすいと推察される点で、好ましくは、フロログルシノール、ヘキサヒドロキシトリフェニレン、ポリフェノールである。
【0078】
ポリフェノールの具体的な例は、≪1.抗酸化剤≫の項における説明をそのまま援用し得る。
【0079】
焼成の方法としては、管状炉、ボックス炉のような焼成炉、熱媒を利用した加熱反応装置、マイクロ波を利用した加熱反応装置などが使用できる。焼成の条件としては、真空下、常圧下、加圧下などで行うことができる。焼成雰囲気の条件としては、大気下、不活性ガス雰囲気下などで行うことができる。焼成雰囲気の条件としては、好ましくは、窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下である。
【0080】
焼成の時間としては、製造する炭素材料に求める分子量または溶解性や分散性等により、任意の適切な加熱時間を採用し得る。このような加熱時間としては、例えば、好ましくは1分~48時間であり、より好ましくは15分~24時間であり、さらに好ましくは30分~12時間であり、特に好ましくは1時間~10時間である。
【実施例】
【0081】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「重量%」を意味する。また、本明細書において、「重量」は「質量」と読み替えても良い。
【0082】
<抗酸化作用の評価>
評価対象品を10mg秤量し、1mgの2,2-ジフェニル-1-ピクリルヒドラジル(DPPH)を30mLのアセトンに溶かした溶液中に溶解または懸濁させ、吸光度520nmに見られるDPPHラジカルの消失についてUV-vis測定によって確認した。なお、DPPHは、安定なフリーラジカルであり、疑似活性酸素種として一般に用いられるものであり、このDPPHラジカルを消失させることができれば、抗酸化作用があるものと判断できる。
【0083】
〔実施例1〕
フロログルシノール(東京化成工業株式会社製、融点:220℃、分解点:330℃、1g)を石英ボート(容積:5ml)に乗せ、環状炉(東洋サーモシステム株式会社製、KTF045N1、炉心管:石英φ50mm×1m)を用いて、窒素流通下、250℃で2時間焼成した。焼成後、黒色固体の炭素材料(1)を777mg得た。得られた炭素材料(2)をXPSにより分析したところC/Oは2.8であった。
得られた炭素材料(1)を抗酸化剤(1)とし、抗酸化作用の評価を行ったところ、
図1に示すように、UV-vis測定によって吸光度520nmにピークが見られず、明らかに抗酸化作用があることがわかった。
【0084】
〔実施例2〕
フロログルシノール(東京化成工業株式会社製、融点:220℃、分解点:330℃、1g)を石英ボート(容積:5ml)に乗せ、環状炉(東洋サーモシステム株式会社製、KTF045N1、炉心管:石英φ50mm×1m)を用いて、窒素流通下、300℃で2時間焼成した。焼成後、黒色固体の炭素材料(2)を633mg得た。得られた炭素材料(2)をXPSにより分析したところC/Oは3.3であった。
得られた炭素材料(2)を抗酸化剤(2)とし、抗酸化作用の評価を行ったところ、
図1に示すように、UV-vis測定によって吸光度520nmにピークが見られず、明らかに抗酸化作用があることがわかった。
【0085】
〔比較例1〕
フロログルシノール(東京化成工業株式会社製、融点:220℃、分解点:330℃、1g)を石英ボート(容積:5ml)に乗せ、環状炉(東洋サーモシステム株式会社製、KTF045N1、炉心管:石英φ50mm×1m)を用いて、窒素流通下、500℃で2時間焼成した。焼成後、黒色固体の炭素材料(C1)を458mg得た。得られた炭素材料(2)をXPSにより分析したところC/Oは5.9であった。
得られた炭素材料(C1)について、抗酸化作用の評価を行ったところ、
図1に示すように、UV-vis測定によって吸光度520nmにピークが見られ、抗酸化作用が弱いか無いことがわかった。
【0086】
〔比較例2〕
フロログルシノール(東京化成工業株式会社製、融点:220℃、分解点:330℃、1g)自体について、抗酸化作用の評価を行ったところ、
図1に示すように、UV-vis測定によって吸光度520nmにピークが見られ、抗酸化作用が弱いか無いことがわかった。
【0087】
〔参考例1〕
焼成物である炭素材料ではない抗酸化剤であるビタミンCについて、抗酸化作用の評価を行ったところ、
図1に示すように、UV-vis測定によって吸光度520nmにピークが見られず、明らかに抗酸化作用があることがわかった。ただし、ビタミンCは、焼成物である炭素材料ではなく、耐熱性は低い。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の抗酸化剤は、抗酸化作用の発現が求められる各種材料に有効に利用可能である。