(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】近赤外線センサカバー
(51)【国際特許分類】
G02B 5/22 20060101AFI20231108BHJP
G01S 7/481 20060101ALI20231108BHJP
G01S 17/93 20200101ALI20231108BHJP
G02B 1/11 20150101ALI20231108BHJP
G02B 1/14 20150101ALI20231108BHJP
【FI】
G02B5/22
G01S7/481
G01S17/93
G02B1/11
G02B1/14
(21)【出願番号】P 2019177556
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593148631
【氏名又は名称】新光ネームプレート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】奥村 晃司
(72)【発明者】
【氏名】深川 鋼司
(72)【発明者】
【氏名】三上 航樹
(72)【発明者】
【氏名】池亀 敬澄
【審査官】横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/052057(WO,A1)
【文献】特開2017-215242(JP,A)
【文献】特開2016-156734(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0293763(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/22-5/28
G02B 1/11- 1/14
G01S 7/481
G01S 17/93
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外線センサにおける近赤外線の送信部及び受信部を覆い、かつ近赤外線の透過性を有するカバー本体部を備える近赤外線センサカバーであって、
前記カバー本体部は、
透明な樹脂材料により形成された基材と、
近赤外線の送信方向における前記基材の前側に形成され、かつ前記基材よりも高い硬度を有するハードコート層と、
前記送信方向における前記基材の後側に形成され、かつ通電により発熱する線状の発熱体により構成されるヒータ部と、
前記送信方向における前記ヒータ部の後側に形成され、かつ近赤外線の反射を抑制する反射抑制層と
を備
え、
前記ヒータ部は、前記基材との間に形成され、かつ近赤外線の透過性を有するとともに熱硬化性材料又はUV硬化性材料により形成されたアンダーコート層を介して同基材に密着されており、
前記ヒータ部は、同ヒータ部と前記反射抑制層との間に形成された塗膜であって、かつ近赤外線の透過性を有する保護膜により、前記送信方向における後側から被覆されている近赤外線センサカバー。
【請求項2】
前記基材は、前基材と、前記送信方向における前記前基材の後側に配置された後基材とを備え、
さらに、前記基材における前記前基材及び前記後基材の間には、近赤外線の透過性を有する加飾層が設けられている請求項1に記載の近赤外線センサカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線センサにおける近赤外線の送信部及び受信部を覆う近赤外線センサカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に設置される近赤外線センサは、近赤外線の送信部及び受信部を有する。送信部及び受信部は、近赤外線センサカバーのカバー本体部によって覆われる。カバー本体部は、近赤外線の透過性を有する。
【0003】
上記近赤外線センサでは、送信部から近赤外線が上記カバー本体部を介して車両の外部へ向けて送信される。車両の外部の物体に当たり反射されて戻ってきた近赤外線は、上記カバー本体部を介して受信部で受信される。上記近赤外線センサでは、送信した近赤外線と受信した近赤外線とに基づき、車外の上記物体が認識されるとともに、車両と上記物体との距離、相対速度等が検出される。
【0004】
上記近赤外線センサでは、雪が付着すると、近赤外線の透過を妨げるため、検出を一時的に停止する処置を採っている。しかし、近赤外線センサの普及に伴い、降雪時でも検出を行なうことが要望されている。
【0005】
そこで、融雪機能を有する近赤外線センサカバーが種々考えられている。例えば、特許文献1には、カバー本体部の骨格部分を構成する透明な基材に対し、上記近赤外線の送信方向における後側からヒータ部を積層してなる近赤外線センサカバーが記載されている。ヒータ部としては、通電により発熱する線状の発熱体を有するヒータフィルムが用いられている。ヒータフィルムは、発熱体と、樹脂材料によって形成され、かつ発熱体を上記送信方向における前後両側から挟み込んで被覆する一対の透明基材とを備える。
【0006】
ここで、ヒータ部が基材に積層される際には、ヒータフィルムが基材に貼付けられる。この貼付けのために、上記送信方向におけるヒータフィルムの最前部が、接着層によって構成される。接着層としては、OCA(OPTICAL CLEAR ADHESIVE)と呼ばれるフィルム状の光学粘着シートが用いられ、このOCAが、上記送信方向における基材の後面に貼付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、上記特許文献1では、ヒータ部の基材への積層に際し、ヒータフィルムのOCAを基材に貼付けなければならず、その貼付け作業が大変である。
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、貼付け作業を行なわずに、融雪機能を付与することのできる近赤外線センサカバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する近赤外線センサカバーは、近赤外線センサにおける近赤外線の送信部及び受信部を覆い、かつ近赤外線の透過性を有するカバー本体部を備える近赤外線センサカバーであって、前記カバー本体部は、透明な樹脂材料により形成された基材と、近赤外線の送信方向における前記基材の前側に形成され、かつ前記基材よりも高い硬度を有するハードコート層と、前記送信方向における前記基材の後側に形成され、かつ通電により発熱する線状の発熱体により構成されるヒータ部と、前記送信方向における前記ヒータ部の後側に形成され、かつ近赤外線の反射を抑制する反射抑制層とを備える。
【0010】
なお、ここでの透明には、無色透明のほか、着色透明(有色透明)も含まれる。
上記の構成によれば、近赤外線センサの送信部から近赤外線が送信されると、その近赤外線は、送信方向におけるカバー本体部の後面に照射される。この際、照射された近赤外線が、カバー本体部の後面で反射されることは、反射抑制層によって抑制される。この抑制の分、反射抑制層を透過する近赤外線の量が多くなる。
【0011】
反射抑制層を透過した近赤外線は、ヒータ部、基材及びハードコート層を順に透過する。このようにして、近赤外線がカバー本体部を透過する。
カバー本体部を透過した近赤外線は、外部の物体に当たって反射された後、再びカバー本体部におけるハードコート層、基材、ヒータ部及び反射抑制層を透過する。カバー本体部を透過した近赤外線は、受信部によって受信される。
【0012】
上述したように反射抑制層で近赤外線の反射が抑制される分、カバー本体部を透過する近赤外線の量が多くなる。
また、ハードコート層は、カバー本体部の耐衝撃性を高め、近赤外線の送信方向におけるカバー本体部の前面に傷が付くのを抑制する。また、ハードコート層は、カバー本体部の耐候性を高め、太陽光、風雨、温度変化等が原因で、カバー本体部が変質したり劣化したりするのを抑制する。そのため、近赤外線センサは検出機能を発揮しやすい。
【0013】
さらに、ヒータ部における線状の発熱体は通電されると発熱する。この熱の一部は、上記送信方向におけるカバー本体部の前面に伝達される。そのため、カバー本体部に雪が付着しても、通電により発熱体が発熱されることで、その雪は、発熱体から伝わる熱によって溶かされる。
【0014】
上記の近赤外線センサカバーでは、ヒータ部が、通電に伴い発熱する線状の発熱体により構成されている。この発熱体が、送信方向における基材の後側に形成されることで、基材と反射抑制層との間にヒータ部が設けられる。従って、従来の近赤外線センサカバーとは異なり、ヒータフィルムを用いなくてもすむ。これに伴い、OCAにおいてヒータフィルムを基材に貼付けるといった面倒な作業を行なわなくてすむ。
【0015】
上記近赤外線センサカバーにおいて、前記基材は、前基材と、前記送信方向における前記前基材の後側に配置された後基材とを備え、さらに、前記基材における前記前基材及び前記後基材の間には、近赤外線の透過性を有する加飾層が設けられていることが好ましい。
【0016】
上記の構成によれば、近赤外線センサの送信部から近赤外線が送信されると、その近赤外線は、カバー本体部における反射抑制層、ヒータ部、後基材、加飾層、前基材及びハードコート層を順に透過する。
【0017】
外部の物体に当たって反射された近赤外線は、再びカバー本体部におけるハードコート層、前基材、加飾層、後基材、ヒータ部及び反射抑制層を順に透過する。カバー本体部を透過した近赤外線は受信部によって受信される。
【0018】
また、カバー本体部に対し、上記送信方向における前側から可視光が照射されると、その可視光はハードコート層及び前基材を透過し、加飾層で反射される。上記送信方向における前方から近赤外線センサカバーを見ると、ハードコート層及び前基材を通して、その前基材の後側(奥側)に加飾層が位置するように見える。このように、加飾層によって近赤外線センサカバーが装飾され、同近赤外線センサカバー及びその周辺部分の見栄えが向上する。
【0019】
上記近赤外線センサカバーにおいて、前記ヒータ部は、前記基材との間に形成され、かつ近赤外線の透過性を有するアンダーコート層を介して同基材に密着されていることが好ましい。
【0020】
上記の構成によれば、基材とヒータ部との間に形成されたアンダーコート層により、ヒータ部の基材に対する密着性が高められる。ヒータ部が基材に接触した状態で形成される場合に比べ、基材に対するヒータ部の密着性を高めることが可能となる。
【0021】
上記近赤外線センサカバーにおいて、前記ヒータ部は、同ヒータ部と前記反射抑制層との間に形成され、かつ近赤外線の透過性を有する保護膜により、前記送信方向における後側から被覆されていることが好ましい。
【0022】
上記の構成によれば、ヒータ部は、近赤外線の送信方向における後側から被覆された保護膜によって保護される。保護膜による保護がない場合に比べ、ヒータ部の耐久性が高められる。
【発明の効果】
【0023】
上記近赤外線センサカバーによれば、貼付け作業を行なわずに、融雪機能を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】第1実施形態における近赤外線センサカバーによってカバーが構成された近赤外線センサの側断面図。
【
図2】
図1におけるカバー本体部の一部を拡大して示す部分側断面図。
【
図3】第2実施形態における近赤外線センサカバーを、近赤外線センサとともに示す側断面図。
【
図4】
図3におけるカバー本体部の一部を拡大して示す部分側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1実施形態)
以下、近赤外線センサカバーを具体化した第1実施形態について、
図1及び
図2を参照して説明する。
【0026】
なお、以下の記載においては、車両の前進方向を前方とし、後進方向を後方として説明する。また、
図1及び
図2では、近赤外線センサカバーにおける各部を認識可能な大きさとするために、縮尺を適宜変更して各部を示している。この点は、第2実施形態を示す
図3及び
図4についても同様である。
【0027】
図1に示すように、車両10の前端部には、近赤外線センサ11が設置されている。近赤外線センサ11は、900nm付近の波長を有する近赤外線IR1を車両10の前方へ向けて送信し、かつ先行車両、歩行者等を含む車外の物体に当たって反射された近赤外線IR2を受信する。近赤外線センサ11は、送信した近赤外線IR1と受信した近赤外線IR2とに基づき、車外の上記物体を認識するとともに、車両10と上記物体との距離、相対速度等を検出する。
【0028】
なお、上述したように、近赤外線センサ11が車両10の前方に向けて近赤外線IR1を送信することから、近赤外線センサ11による近赤外線IR1の送信方向は、車両10の後方から前方へ向かう方向である。近赤外線IR1の送信方向における前方は、車両10の前方と概ね合致し、同送信方向における後方は車両10の後方と概ね合致する。そのため、以後の記載では、近赤外線IR1の送信方向における前方を単に「前方」、「前」等といい、同送信方向における後方を単に「後方」、「後」等というものとする。
【0029】
近赤外線センサ11の外殻部分の後半部はケース12によって構成され、前半部分はカバー17によって構成されている。ケース12は、筒状をなす周壁部13と、周壁部13の後端部に形成された底壁部14とを備えており、前面が開放された有底筒状をなしている。ケース12の全体は、PBT(ポリブチレンテレフタレート)等の樹脂材料によって形成されている。底壁部14の前側には、近赤外線IR1を送信する送信部15と、近赤外線IR2を受信する受信部16とが配置されている。
【0030】
近赤外線センサ11におけるカバー17は、近赤外線センサカバー21によって構成されている。近赤外線センサカバー21は、筒状をなす周壁部22と、周壁部22の前端部に形成された板状のカバー本体部23とを備えている。
【0031】
カバー本体部23は、上記ケース12の前端開放部分を塞ぐ大きさに形成されている。カバー本体部23は底壁部14の前方に位置しており、送信部15及び受信部16を前方から覆っている。
【0032】
図2に示すように、カバー本体部23の骨格部分は、基材24によって構成されている。基材24は、近赤外線IR1,IR2の透過性を有する透明な樹脂材料によって形成されている。ここでの透明には、無色透明のほか、着色透明(有色透明)も含まれる。第1実施形態では、基材24はPC(ポリカーボネート)によって形成されているが、そのほかにも、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)、COP(シクロオレフィンポリマー)等によって形成されてもよい。
【0033】
基材24の前面には、近赤外線IR1,IR2の透過性を有するとともに、基材24よりも高い硬度を有するハードコート層25が積層されている。ハードコート層25は、基材24の前面に公知の表面処理剤を塗布することにより形成されている。表面処理剤としては、例えば、アクリレート系、オキセタン系、シリコーン系等の有機系ハードコート剤、無機系ハードコート剤、有機無機ハイブリッド系ハードコート剤等が挙げられる。また、ハードコート剤として、紫外線(UV)の照射によって硬化されるタイプが用いられてもよいし、熱が加えられることによって硬化されるタイプが用いられてもよい。
【0034】
基材24の後面には、アンダーコート層26を介してヒータ部27が形成されている。ヒータ部27は、通電により発熱する発熱体28によって構成されている。発熱体28の材料は、銀、銅等の金属、ITO(酸化インジウムスズ)、酸化スズ等の酸化金属系導電性材料、カーボン発熱体、導電性ペースト等である。発熱体28は、上記の材料をアンダーコート層26に対し、スパッタリングしたり、印刷したり、ディスペンサー(液体定量吐出装置)等を用いて塗布したりすることによって形成されている。導電性ペーストとしては、例えば、樹脂材料中に銀粒子等をフィラーとして分散したものが用いられる。
【0035】
発熱体28は、線状をなしており、例えば、互いに平行に延びる複数の直線部と、隣り合う直線部の端部同士を連結する複数の連結部とを備えている。なお、第1実施形態では、従来のものとは異なり、ヒータ部27としてヒータフィルムは用いられていない。
【0036】
アンダーコート層26を用いたのは、以下の理由による。基材24を形成する樹脂材料としてPCが用いられている第1実施形態では、PCのSP値(溶解度パラメータ)が、発熱体のSP値に対し、適正値よりも高い。このことから、PCと発熱体28とが相溶しにくく、両者の密着性が低い。そのため、基材24とヒータ部27との間にアンダーコート層26を介在させることで、発熱体28の基材24に対する密着性を向上させている。アンダーコート層26を形成する材料としては、熱によって硬化するタイプが用いられてもよいし、紫外線(UV)が照射されることによって硬化するタイプが用いられてもよい。
【0037】
アンダーコート層26及びヒータ部27の後面には、ヒータ部27の耐久性を高めるための保護膜31が形成されている。保護膜31は、アクリル、ウレタン系等の塗料をアンダーコート層26及びヒータ部27に塗布し、これに紫外線を照射して、又は熱を加えて硬化させることにより形成されている。
【0038】
保護膜31の後面には、送信部15から送信された近赤外線IR1の反射を抑制する透明な薄膜からなる反射抑制層(ARコートとも呼ばれる)32が形成されている。反射抑制層32は、近赤外線IR1のカバー本体部23の後面での反射を同近赤外線IR1の干渉により低減し、反射が原因でカバー本体部23を通過する近赤外線IR1の量が少なくなるのを抑制する機能を担っている。反射抑制層32は、例えば、MgF2 (フッ化マグネシウム)等の誘電体が用いられて、真空蒸着、スパッタリング、WETコーティング等が行なわれることによって形成されている。
【0039】
なお、反射抑制層32は単層の薄膜によって構成されてもよいし、多層の薄膜によって構成されてもよい。後者の場合、多数の薄膜として、屈折率や厚みが互いに異なるものが用いられてもよい。このようにすると、広範囲での波長について、近赤外線IR1の反射を低減することができる。
【0040】
また、反射抑制層32として、TiO2 (二酸化チタン)、SiO2 (二酸化ケイ素)等の金属酸化物を積層したものが用いられてもよい。
そして、上記のように構成されたカバー本体部23における近赤外線IR1,IR2の透過率は60%以上であり、カバー本体部23の後面での近赤外線IR1の反射率は10%以下である。
【0041】
次に、上記のように構成された第1実施形態の作用について説明する。また、作用に伴い生ずる効果についても併せて説明する。
図1及び
図2に示すように、近赤外線センサ11の送信部15から近赤外線IR1が送信されると、その近赤外線IR1は、カバー本体部23の後面に照射される。この際、照射された近赤外線IR1が、カバー本体部23の後面で反射されることは、反射抑制層32によって抑制される。近赤外線IR1の反射率は10%以下に抑制される。この抑制の分、反射抑制層32を透過する近赤外線IR1の量が多くなる。
【0042】
反射抑制層32を透過した近赤外線IR1は、保護膜31、ヒータ部27、アンダーコート層26、基材24及びハードコート層25を順に透過する。このようにして、近赤外線IR1がカバー本体部23を透過する。
【0043】
カバー本体部23を透過した近赤外線IR1は、先行車両、歩行者等を含む物体に当たって反射される。反射された近赤外線IR2は、再びカバー本体部23におけるハードコート層25、基材24、アンダーコート層26、ヒータ部27、保護膜31及び反射抑制層32を順に透過する。カバー本体部23を透過した近赤外線IR2は、受信部16によって受信される。近赤外線センサ11では、送信した近赤外線IR1と受信した近赤外線IR2とに基づき、上記物体の認識や、車両10と同物体との距離、相対速度等の検出が行われる。
【0044】
上述したように、反射抑制層32で近赤外線IR1の反射が抑制される分、カバー本体部23を透過する近赤外線IR1,IR2の量が多くなる。
カバー本体部23における近赤外線IR1,IR2の透過率が60%以上となり、同カバー本体部23は近赤外線IR1,IR2の透過の妨げとなりにくい。近赤外線IR1,IR2のうち、カバー本体部23によって減衰される量を許容範囲にとどめることができる。そのため、近赤外線センサ11は、上記物体を認識する機能や、車両10と上記物体との距離、相対速度等を検出する機能を発揮しやすい。
【0045】
さらに、近赤外線センサカバー21では、基材24の前面に形成されたハードコート層25が、カバー本体部23の耐衝撃性を高める。従って、カバー本体部23の前面に飛び石等により傷が付くのをハードコート層25によって抑制することができる。また、ハードコート層25は、カバー本体部23の耐候性を高める。従って、太陽光、風雨、温度変化等が原因で、カバー本体部23が変質したり劣化したりするのをハードコート層25によって抑制することができる。この点でも、近赤外線センサ11は、上記物体認識機能や上記検出機能を発揮しやすい。
【0046】
一方、ヒータ部27を構成する線状の発熱体28は、通電されると発熱する。この熱の一部は、カバー本体部23の前面に伝達される。そのため、カバー本体部23の前面に雪が付着しても、通電により発熱体28が発熱されることで、その雪は、発熱体28から伝わる熱によって溶かされる。降雪時でも近赤外線センサ11に、上記物体認識機能や上記検出機能を発揮させることができる。
【0047】
ところで、近赤外線センサカバー21では、上述したようにヒータ部27が、通電に伴い発熱する線状の発熱体28により構成されている。この発熱体28が、送信方向における基材24の後側に対し、スパッタリング、印刷、ディスペンサー(液体定量吐出装置)を用いた塗布等により形成されることで、基材24と反射抑制層32との間にヒータ部27が設けられる。従って、従来の近赤外線センサカバーとは異なり、ヒータ部の形成のためにヒータフィルムを用いなくてもすむ。これに伴い、OCAにおいてヒータフィルムを基材に貼付けるといった面倒な作業を行なわなくてすむ。
【0048】
第1実施形態によると、上記以外にも、次の効果が得られる。
・基材24を、ヒータ部27よりもSP値の高いPCによって形成している。PCと発熱体28とは相溶しにくく、両者の密着性が低い。
【0049】
しかし、第1実施形態では、基材24とヒータ部27との間にアンダーコート層26を形成している。そのため、このアンダーコート層26により、ヒータ部27の基材24に対する密着性を高めることができる。ヒータ部27が基材24に接触した状態で形成される場合よりも、ヒータ部27を基材24に密着させ、基材24からのヒータ部27の剥離を抑制することができる。
【0050】
・ヒータ部27を後側から保護膜31によって被覆して保護している。そのため、保護膜31による保護がない場合に比べ、ヒータ部27の耐久性を高めることができる。
・従来技術において、ヒータ部として用いられるヒータフィルムは、上述したように、一対の透明基材、発熱体、OCA等を積層することによって構成されていて、多層構造を有している。層が多くなるに従い、以下に記載する種々の問題が発生する。
【0051】
(a)層間の界面では、近赤外線の反射や吸収が行なわれるところ、ヒータフィルムが用いられることで界面の数が多くなる。そのため、ヒータ部における近赤外線の反射や吸収の量が多くなり、近赤外線センサの検出精度を低下させる。
【0052】
(b)層間の界面では、近赤外線が少なからず屈折する。界面の数が多くなるに従い近赤外線の総屈折角度が多くなり、近赤外線センサの角度に関する検出精度を低下させる。
(c)層の数が多くなるに従い、ヒータ部の製造工程数及び材料が多くなり、製造コストを上昇させる。
【0053】
(d)隣り合う層では剥離の懸念があるところ、層の数が多くなるに従い、剥離の可能性のある箇所が増える。また、隣り合う層の熱膨張率の差が大きくなるに従い剥離が起りやすくなる。そのため、層の数が増えるに従い、界面での密着性を担保することが大変になる。
【0054】
これに対し、第1実施形態では、発熱体28によってヒータ部27を構成している。ヒータ部27の層の数は1つで済み、ヒータフィルムによってヒータ部を構成する場合よりも少なくなる。従って、上記(a)~(d)の事項が、ヒータフィルムによってヒータ部を構成する場合よりも良好になる。
【0055】
(第2実施形態)
次に、近赤外線センサカバーの第2実施形態について、
図3及び
図4を参照して説明する。
【0056】
第2実施形態では、
図3に示すように、近赤外線センサカバー41が近赤外線センサ11とは別に設けられている。より詳しくは、近赤外線センサ11は、送信部15及び受信部16が組み付けられたケース12と、ケース12の前側に配置されて、送信部15及び受信部16を覆うカバー18とによって構成されている。カバー18は、可視光カット顔料の含有された樹脂材料、例えば、PC、PMMA、COP、樹脂ガラス等によって形成されている。
【0057】
近赤外線センサカバー41は、板状のカバー本体部43と、カバー本体部43の後面から後方へ突出する取付け部44とを備えている。カバー本体部43は、カバー18の前方に位置しており、送信部15及び受信部16を、前方からカバー18を介して間接的に覆っている。近赤外線センサカバー41は、取付け部44において車両10に固定されている。
【0058】
近赤外線センサカバー41は、第1実施形態における近赤外線センサ11のカバー17と同様、送信部15及び受信部16を前方から覆う機能を有するほかに、車両10の前部を装飾するガーニッシュとしての機能も有している。
【0059】
そのために、第2実施形態の近赤外線センサカバー41は、基本的には、
図4に示すように第1実施形態と同様に、ハードコート層25、基材、アンダーコート層26、ヒータ部27、保護膜31及び反射抑制層32を備えている。
【0060】
第2実施形態において第1実施形態と異なる点は、基材が、その前部を構成する前基材45と、後部を構成する後基材46とに分割されている点と、前基材45及び後基材46の間に加飾層47が設けられている点である。
【0061】
前基材45及び後基材46は、第1実施形態における基材24と同様の透明な樹脂材料によって形成されており、近赤外線IR1,IR2の透過性を有している。加飾層47は、近赤外線センサカバー41を装飾するための層であり、光輝加飾層や有色加飾層によって構成されている。加飾層47は、近赤外線IR1,IR2の透過率が高く、かつ可視光の透過率が低い材料によって、前後方向に凹凸状をなすように形成されている。
【0062】
上記以外の構成は、第1実施形態と同様である。そのため、第2実施形態において第1実施形態で説明したものと同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
第2実施形態では、近赤外線センサ11の送信部15から近赤外線IR1が送信されると、その近赤外線IR1が、カバー本体部43における反射抑制層32、保護膜31、ヒータ部27、アンダーコート層26、後基材46、加飾層47、前基材45及びハードコート層25を順に透過する。
【0063】
車外の物体に当たって反射された近赤外線IR2は、再びカバー本体部43におけるハードコート層25、前基材45、加飾層47、後基材46、アンダーコート層26、ヒータ部27、保護膜31及び反射抑制層32を順に透過する。カバー本体部43を透過した近赤外線IR2は受信部16によって受信される。
【0064】
従って、第2実施形態でも、第1実施形態と同様の作用及び効果が得られる。そのほかにも第2実施形態では、次の作用及び効果が得られる。
・カバー本体部43に対し前側から可視光が照射されると、その可視光はハードコート層25及び前基材45を透過し、加飾層47で反射される。車両前方から近赤外線センサカバー41を見ると、ハードコート層25及び前基材45を通して、その前基材45の後側(奥側)に加飾層47が位置するように見える。このように、加飾層47によって近赤外線センサカバー41が装飾され、同近赤外線センサカバー41及びその周辺部分の見栄えが向上する。
【0065】
特に、加飾層47は、前基材45及び後基材46の間に形成されていて、凹凸状をなしている。そのため、車両10の前方からは、加飾層47が立体的に見える。従って、近赤外線センサカバー41及びその周辺部分の見栄えがさらに向上する。
【0066】
・可視光の加飾層47での上記反射は、近赤外線センサ11よりも前側で行われる。加飾層47は、近赤外線センサ11を覆い隠す機能を発揮する。そのため、近赤外線センサカバー41の前側からは、近赤外線センサ11が見えにくい。従って、近赤外線センサ11が近赤外線センサカバー41を介して透けて見える場合に比べて意匠性が向上する。
【0067】
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。上記実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0068】
・近赤外線センサ11のカバー17として機能する第1実施形態の近赤外線センサカバー21における基材の構成が、近赤外線センサ11とは別に設けられる第2実施形態の近赤外線センサカバー41における基材の構成に適用されてもよい。また、第2実施形態の近赤外線センサカバー41における基材の構成が、第1実施形態の近赤外線センサカバー21における基材の構成に適用されてもよい。
【0069】
・ハードコート層25の前面に撥水層が積層されてもよい。撥水層は、例えば、有機系塗装膜、シリコーン膜等によって構成される。
・第1実施形態において基材24を形成する樹脂材料の種類によっては、発熱体28との相溶性が良好であって、両者の密着性に問題のない場合がある。第2実施形態における前基材45及び後基材46を形成する樹脂材料の種類についても同様である。例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等である。こうした樹脂材料によって基材24、前基材45及び後基材46が形成される場合には、アンダーコート層26を省略可能である。
【0070】
・ヒータ部27の耐久性が許容できる程度である場合には、保護膜31によるヒータ部27の被覆が省略されてもよい。
・近赤外線センサカバー21,41は、近赤外線センサ11が車両10の前部とは異なる箇所、例えば後部に設置された場合にも適用可能である。この場合、近赤外線センサ11は、車両10の後方に向けて近赤外線IR1を送信する。近赤外線センサカバー21,41は、近赤外線IR1の送信方向における送信部15の前方、すなわち、送信部15に対し車両10の後方に配置される。
【0071】
また、近赤外線センサカバー21,41は、近赤外線センサ11が車両10の前部又は後部の両側部、すなわち、斜め前側部や斜め後側部に設置された場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0072】
11…近赤外線センサ、15…送信部、16…受信部、21,41…近赤外線センサカバー、23,43…カバー本体部、24…基材、25…ハードコート層、26…アンダーコート層、27…ヒータ部、28…発熱体、31…保護膜、32…反射抑制層、45…前基材(基材)、46…後基材(基材)、47…加飾層、IR1,IR2…近赤外線。