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特許7381012色素増感型太陽電池用対向電極及びこれを用いた色素増感型太陽電池
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  • 特許-色素増感型太陽電池用対向電極及びこれを用いた色素増感型太陽電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】色素増感型太陽電池用対向電極及びこれを用いた色素増感型太陽電池
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/20 20060101AFI20231108BHJP
【FI】
H01G9/20 115A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019195889
(22)【出願日】2019-10-29
(65)【公開番号】P2021072297
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-09-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開催日 2018年11月3日 集会名 平成30年度日本セラミックス協会 東北北海道支部研究発表会
(73)【特許権者】
【識別番号】000116747
【氏名又は名称】旭カーボン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100113860
【弁理士】
【氏名又は名称】松橋 泰典
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【氏名又は名称】富田 博行
(74)【代理人】
【氏名又は名称】岡本 利郎
(72)【発明者】
【氏名】古崎 毅
(72)【発明者】
【氏名】有満 望
(72)【発明者】
【氏名】山口 東吾
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-059599(JP,A)
【文献】特開2012-186068(JP,A)
【文献】国際公開第2015/141541(WO,A1)
【文献】特開2003-297446(JP,A)
【文献】特開2004-193256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/20
H10K 30/00-30/89
C01B 32/00-32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の特性a)~d)を満たすカーボンブラックYとカーボンブラックZを用いて作製されることを特徴とする色素増感型太陽電池用対向電極。
a)カーボンブラックY:DBP吸収量が135~210mL/100g
:N2SAが50~150m/g
b)カーボンブラックZ:DBP吸収量が55~70mL/100g
:N2SAが120~320m/g
c)カーボンブラックYとZの混合物全体に対するカーボンブラックY、Zの夫々の重量比率をrY、rZとして、rY≧rZである
d)カーボンブラックYとカーボンブラックZの混合物の
:混合DBP吸収量が95~140mL/100g
:混合N2SAが85~185m/g
【請求項2】
請求項1記載の対向電極を用いた色素増感型太陽電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感型太陽電池用対向電極、及び、これを用いた色素増感型太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の再生可能エネルギーの検討において、太陽光発電及びこれに用いる太陽電池が注目されているが、その中でも色素増感型太陽電池は、他の形式の太陽電池と比較して材料や製造費が安価であること及びデザイン性が高いことから、次世代電池として注目されており、構成する部材や構造等の研究開発が盛んに行われている。
色素増感型太陽電池の主要な構成要素の一つに対向電極(対極)があり、一般的には変換効率が高いこと、固着性が高いこと、低コストであること、長期保存などによる材料の劣化が少ないこと等が求められている。しかし、主な材料である白金は非常に高価である上に、電解液への接触により劣化するといった問題があるため、代替材料の検討が大きな課題の一つとなっている。
現在、その対策としてカーボンナノチューブを用いた事例が報告されているが(非特許文献1)、白金より幾分安価であるとはいえ依然平易に得られる材料とは言い難く、生体への安全性も確立されていない為、製造コストが嵩むと考えられる。また、変換効率と固着性のバランスなど、対向電極として好ましい物性については未だ検討の余地がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】白金に代わる色素増感型太陽電池用対極材料 産総研研究成果記事一覧 2010年12月1日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、変換効率と固着性を高度に両立できる色素増感型太陽電池用対向電極、及びこれを用いた色素増感型太陽電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討した結果、上記課題が次の1)~2)の発明によって解決されることを見出した。
1) 次の特性a)~d)を満たすカーボンブラックYとカーボンブラックZを用いて作製されることを特徴とする色素増感型太陽電池用対向電極。
a)カーボンブラックY:DBP吸収量が135~210mL/100g
:N2SAが50~150m/g
b)カーボンブラックZ:DBP吸収量が55~70mL/100g
:N2SAが120~320m/g
c)カーボンブラックYとZの混合物全体に対するカーボンブラックY、Zの夫々の重量比率をrY、rZとして、rY≧rZである
d)カーボンブラックYとカーボンブラックZの混合物の
:混合DBP吸収量が95~140mL/100g
:混合N2SAが85~185m/g
2) 1)記載の対向電極を用いた色素増感型太陽電池。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば変換効率と固着性を高度に両立できる色素増感型太陽電池用対向電極、及びこれを用いた色素増感型太陽電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明のカーボンブラックの製造に用いる製造炉の一例を示す縦断面図。
図2】色素増感型太陽電池の構造と原理を説明するための参考図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
従来技術において、本発明のように色素増感型太陽電池用対向電極にカーボンブラックを用いる試み、特に2種類のカーボンブラックの物性及びその混合比率を規定して、変換効率と固着性を高度に両立させようという試みは、本発明者の知る限り存在しない。
しかも、本発明に係る混合カーボンブラックは、従来用いられてきた部材である白金やカーボンナノチューブでは達成できない顕著な効果を奏する。
上記本発明に係る混合カーボンブラックは、後述する実施例に示すように製造上の操作条件を選択し組み合わせることにより容易に得ることができる。
【0009】
<DBP吸収量、混合DBP吸収量>
DBP吸収量は、カーボンブラック100g当たりに吸収されるジブチルフタレート量(mL/100g)であり、カーボンブラック凝集体の構造特性を評価する一般的な指標である。また、混合DBP吸収量は次の計算式により求められる値である。

混合DBP=DBP:Y×rY + DBP:Z×rZ
(式中、DBP:Y、DBP:Zは夫々カーボンブラックY、ZのDBP吸収量、rY、rZは夫々カーボンブラックの混合物全体に対するカーボンブラックY、Zの重量比率である。)
【0010】
本発明ではDBP吸収量について、カーボンブラックYを135~210mL/100g、カーボンブラックZを55~70mL/100g、混合DBP吸収量を95~140mL/100gとする。
通常、変換効率の向上のためにはカーボンブラックと電解液との接触面積が大きいことが求められるため、カーボンブラックのストラクチャが発達していること、即ちDBP吸収量が高いことが好ましい。一方、固着性の向上のためには集電層との接触面積が大きいことが求められるため、カーボンブラックのストラクチャが発達していないこと、即ちDBP吸収量が低いことが好ましい。そこで本発明では、上記規定を満たすカーボンブラックY、Zを一定比率で混合して用いることにより、それらが互いの物性を阻害することなく対向電極としての物性向上効果を発揮し、変換効率と固着性の高度な両立を成し遂げることが出来るようにした。
【0011】
<N2SA(窒素吸着比表面積)>
N2SAは、カーボンブラック単位重量当たりの比表面積(m/g)であり、カーボンブラックを構成する一次粒子の径を評価する一般的な指標である。また、混合N2SA吸収量は次の計算式により求められる値である。

混合N2SA=N2SA:Y×rY + N2SA:Z×rZ
(式中、N2SA:Y、N2SA:Zは夫々カーボンブラックY、ZのN2SA、rY、rZは夫々混合されたカーボンブラックの混合物全体に対するカーボンブラックY、Zの重量比率である。
【0012】
本発明ではN2SAについて、カーボンブラックYを50~150m/g、カーボンブラックZを120~320m/g、混合N2SAを85~185m/gとする。
通常、変換効率の向上のためにはカーボンブラックと電解液との接触面積が大きいことが求められるため、カーボンブラック一次粒子の径が大きいこと、即ちN2SAが低いことが好ましい。一方、固着性の向上のためには集電層との接触面積が大きいことが求められるため、カーボンブラック一次粒子の径が小さいこと、即ちN2SAが高いことが好ましい。そこで本発明では、上記規定を満たすカーボンブラックY、Zを一定比率で混合して用いることにより、それらが互いの物性を阻害することなく対向電極としての物性向上効果を発揮し、変換効率と固着性の高度な両立を成し遂げることが出来るようにした。
【0013】
前述したように、変換効率の向上のためにはカーボンブラックと電解液との接触面積が大きい方が好ましく、この点からはカーボンブラックYが重要である。そこでカーボンブラックYがカーボンブラックXに埋没することなく電解液と接触できるようにするため、前記重量比率rYとrZについて、rY≧rZとすることが好ましい。この規定を満たせばカーボンブラックYと電解液との十分な接触を担保することができる。
【0014】
図2は、色素増感型太陽電池の構造と原理を説明するための参考図である。
光電極側に光(太陽光)を受けて増感色素が励起状態になると即座に電子は多孔質TiO(酸化チタン)に移動し、その後、外部回路を通って対向電極側でヨウ素のイオン化に使われる。続いてヨウ素イオンが増感色素を還元し、増感色素は基底状態に戻る。

色素増感型太陽電池の一般的な製造方法としては、光電極側の電極基盤として酸化チタンが成膜されたITO硝子を使用する。光電極は前記ITO硝子に増感色素を吸着させて作製する。対向電極は白金層を電解析出させるか又は塗工して作製する。次いで、光電極と対向電極の間を電解液で満たし、周囲を封止して電池とする。
【実施例
【0015】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0016】
カーボンブラックA~G
<カーボンブラックの製造>
上流部より、燃料導入部、原料導入部、狭小円筒部、反応停止用急冷水圧噴霧装置を備えた反応継続兼冷却室が連接した一般的なカーボンブラック製造炉(図1参照)を用い、表1に示した操作条件により、カーボンブラックA~Gを製造した。
得られたカーボンブラックの物理化学特性を表2に示す。
【0017】
【表1】
【表2】
【0018】
上記表2に示した各特性は、以下の方法により測定したものである。

(1)DBP吸収量
JIS K6217-4:2017に記載の方法で測定した。

(2)N2SA
JIS K6217-2:2017に記載の方法で測定した。
【0019】
表2に示したカーボンブラック(CB-A~CB-G)を用いて、表3、表4の各実施例及び比較例の欄に示す混合カーボンブラックを作製した。
【表3】
【表4】
【0020】
<電池作製法>
各実施例及び比較例の混合カーボンブラックを用いて、以下の手順で評価用太陽電池を作製した。
まず、一般的な方法で電極を作製した。即ち、溶媒の2-メトキシエタノールに対し、上記の各混合カーボンブラックを2重量%の濃度で加えて撹拌し分散させた後、得られた分散液をITO硝子(表面にスズドープ酸化インジウムの薄膜を形成した透明導電性硝子)にスプレーして膜厚約5μmの対向電極を作製した。次いで、ITO硝子をN-719色素に浸漬して作製した光電極を前記対向電極と貼り合わせた後、間隙に電解液(Solaronix社製AN-50)を注入して評価用の各色素増感型太陽電池を得た。
【0021】
得られた各太陽電池の特性(変換効率及び固着力)を下記の方法により測定した。
結果を表5、表6に示す。

(1)変換効率
ハロゲンランプ(100mW/cm)照射下で、直流電圧・電流源/モニタと付属のプログラムを用いて測定した。

(2)固着力
電解液注入後にカーボンブラック層の剥離が生じるか否かについて目視で観察し、次の基準で評価した。
○:30日間剥離なし
△:30日以内に一部が剥離した
×:30日以内に全面が弱離した
【0022】
【表5】
【表6】
【0023】
表5、表6の結果から明らかなように、本発明に係るカーボンブラックを用いた色素増感型太陽電池は、変換効率と固着力の両方が優れており、それらの高度な両立を達成できることが分かる。一方、比較例のものは、変換効率と固着力の少なくとも一方に問題があり、実用できないものであった。
図1
図2