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  • 特許-建築物の補強システムおよび補強方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】建築物の補強システムおよび補強方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20231108BHJP
   E04B 1/26 20060101ALI20231108BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
E04G23/02 D
E04B1/26 F
E04B1/58 G
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018189585
(22)【出願日】2018-10-04
(65)【公開番号】P2019065693
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-10-03
(31)【優先権主張番号】P 2017193983
(32)【優先日】2017-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517348949
【氏名又は名称】株式会社斉藤正▲こしき▼工房
(74)【代理人】
【識別番号】100123489
【弁理士】
【氏名又は名称】大平 和幸
(72)【発明者】
【氏名】▲斉▼藤 正
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-002349(JP,A)
【文献】特開2000-154593(JP,A)
【文献】特開2013-249603(JP,A)
【文献】特開2005-344324(JP,A)
【文献】特開2013-217118(JP,A)
【文献】特開2003-301524(JP,A)
【文献】国際公開第99/045215(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/00-23/08
E04B 1/26
E04B 1/58
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
引っ張りブレースをいる建築物の補強システムであって、
回動自由に建物に取り付けられた第1の取り付け部材と、
第1の取り付け部材に連結されたリングと、
リングに挿入連結された帯状部材と、
梱包バンド用金物シールをかしめて帯状部材を固定できる二つの梱包バンド用金物シールと、
該帯状部材に連結された第2のリングと、
該リングに連結された、該第1の取り付け部材と同じ壁面の対角線上の位置に回動自由に建物に取り付けられた第2の取り付け部材と、
を有する、建築物の補強システム。
【請求項2】
前記帯状部材が梱包バンドである、請求項1の建築物の補強システム。
【請求項3】
前記取り付け部材がL字型金具にリングを角に挟んで折り曲げ加工して得られた板状体である、請求項1または2の建築物の補強システム
【請求項4】
前記リングがO金具である、請求項1~3のいずれかに記載の建築物の補強システム。
【請求項5】
ブレース設置方法であって、
リングを取り付け部材に連結する工程と、
該リング連結された取り付け部材を建物の壁面に対する対角線上のそれぞれ1つずつ回動自在に取り付ける工程と、
該リングを介して帯状部材を取り付け部材に連結して、梱包バンド用金物シールをかしめて該帯状部材を固定する工程とを有する
ブレース設置方法。
【請求項6】
前記帯状部材が梱包バンドである、請求項5のブレース設置方法。
【請求項7】
前記取り付け部材がL字型金具にリングを角に挟んで折り曲げ加工して得られた板状体である請求項5または6のブレース設置方法。
【請求項8】
前記リングがO金具である、請求項5~7のいずれかに記載のブレース設置方法。
【請求項9】
ブレース設置方法であって、
第1のリング付き取り付け部材を柱の下部に回動自在に固定する工程と、
該リング付き取り付け部材のリングに帯状部材を手前から奥側へ通して通した端を梱包バンド用金物シールに通してかしめて固定する工程と、
同じ壁面に対して対角線上にある柱の上部に回動自在に固定された第2のリング付き取り付け部材のリングに帯状部材の反対の端を手前から奥側に通す工程と、
該帯状部材の反対の端を第1のリング付き取り付け部材のリングに奥側から手前に通す工程と、
該帯状部材の反対の端を梱包バンド用金物シールに通して該梱包バンド用金物シールをかしめて帯状部材を固定する工程と
を有する、請求項5~8のいずれか1項に記載のブレース設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の補強システムおよび補強方法に関する。より詳しくは、引張ブレースによる建築物の補強システムおよび補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
応急耐震補強法としては、従来、ショアリング、つっかえ棒、圧縮ブレース等の方法が使われてきた。ショアリングは木材を矩形に組み、その内側をブレス補強した構造であるが、作業に熟練と、材料の搬入が必要で機動力がない。つっかえ棒は、建築物の倒壊方向に頬杖を立てるように圧縮剤を設けそれ以上の倒壊を防ぐものであるが、素人でも可能なため安全性に問題がある。圧縮ブレースは、建屋の橋梁などをそのままの形で利用し、その内部に圧縮ブレスをもうけるもので、感覚的に必要箇所に施工できるメリットがあるが、材料が重く作業性が悪い、薄い材料を圧縮材と間違えて施工してしまうことがあるという問題があった。
【0003】
そこで、これらの問題を解決できる建築物の補強構造および補強方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5755559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
簡便で高い強度を有する建築物の補強システムおよび補強方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)引っ張りブレースを持いる建築物の補強システムであって、
回動自由に建物に取り付けられた取り付け部材と、
該取り付け部材に連結された連結部材と、
連結部材に連結された帯状部材と、
該帯状部材に連結された連結部材と、
該連結部材に連結された取り付け部材と、
を有する、建築物の補強システム。
(2)前記帯状部材が梱包バンドである、(1)の建築物の補強システム。
(3)前記取り付け部材がL字型部材である、(1)または(2)の建築物の補強システム。
(4)前記連結部材がリングである、(1)~(3)いずれかの建築物の補強システム。
(5)ブレース設置方法であって、
連結部材を取り付け部材に連結する工程と、
該連結部材を連結された取り付け部材を建物の対角線上の壁面に回動自在に取り付ける工程と、
該連結部材を介して帯状部材を連結して所望の強度にかしめる工程
とを有する、ブレース設置方法。
(6)前記帯状部材が梱包バンドである、(5)のブレース設置方法。
(7)前記取り付け部材がL字型部材である、(5)または(6)のブレース設置方法。
(8)前記連結部材がリングである、(5)~(7)のいずれかに記載のブレース設置方法。
(9)引っ張りブレースを用いる建築物の補強システムであって、
建物に取り付けられた第1の連結取付部材と、
連結取付部材に挿入され、連結された帯状部材と、
該帯状部材に連結された第2の連結取付部材と、
を有する、建築物の補強システム。
(10)前記帯状部材が梱包バンドである、(9)の建築物の補強システム。
(11)ブレース設置方法であって、
第1の連結取付部材を柱に回動自在に固定する工程と、
該連結取付部材の穴に帯状部材を通して対角線上にある柱に回動自在に固定された第2の連結取付部材の穴に帯状部材を通す工程と、
該連結取付部材を介して帯状部材を連結して固定する(所望の強度にかしめる)工程
とを有する、ブレース設置方法。
(12)前記帯状部材が梱包バンドである、(11)のブレース設置方法。
(13)長方形を含む多角形、楕円形またはそれらの組み合わせからなる形状の部材であって、一方の端に固定用の穴を2つ以上有し、他方の端に帯状部材を通す細長い穴を有する部材。ここで多角形は長方形が好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、簡便で高い強度を有する建築物の補強が可能になるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の1実施態様を示す図である。
図2図2は、本発明の施工手順を示す図である。
図3図3は、本発明に使用する部品を示す図である。
図4図4は、本発明の施工例の一例を示す図である。
図5図5は、本発明のブレースの引っ張り強度を示すグラフである。
図6図6は、本発明のブレースの評価を示すグラフである。
図7図7は、本発明のブレースの詳細な図である。
図8図8は、本発明の連結取付部材を示す図である。
図9図9は、図8の連結取付部材を用いた本発明の実施態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、震災などで建築物が損傷を受けた場合に、該建築物を簡便、迅速に補強できるシステムおよび方法である。また、損傷時のみでなく、木造建築の立て方(組立て)の仮補強にも使用できる。
【0010】
震災が起きて建築物が被害を受けた後、余震によって倒壊することが問題となっている。その際、本格的な補強工事をするには、十分な調査と強度計算をしたうえで補強部材を搬入して工事をする必要がある。しかしながら、余震が数日後に起きた場合には、そのような時間と労力のかかる方法では時期を逸して被害が拡大するおそれがある。そこで、迅速に震災を受けた被害建物を補強する必要がある。また、建築途中で仮補強が必要な場合もある。
【0011】
本発明は、そのような要求に応えるもので、市販の梱包バンド)、リング、梱包バンド用金物シールやL字型金具等一般に市販されている材料や容易に自作できる部材を用いて、簡便、迅速かつ高い強度で建築物を補強できるものである。例えば、L字型金具(取り付け部材)については、厚み0.6mm以上の鉄板を15×90~150mmにカットし、ちょうど中央で二つ折りにし、折り曲げた両面に直径4mmの穴を先端から15mmと30mmのところに開けることで制作できる。リング(連結部材)については、径5mm、内長30mmのリングを使用する。市販のチェーンを切断し利用することもできる(図3参照。各図面の縮尺は揃えていない)。これらのL字金具やリングは一例であり、建築物の補強に使用できる限りサイズは特に制限されない。本発明の補強システムおよび補強方法は、木造建築物に好ましく用いられるが、これに限らず、ブレース設置により強度が増すものであれば特に制限なく用いることができる。
【0012】
本発明は、梱包バンド(帯状部材)を用いたブレースを利用することで、建築物の強度を補強するものである。梱包バンドとは、荷造りなどに使われるポリプロピレン製のバンドであり、PPバンドともいわれる。図1に記載のように、傾いた家屋1の柱2の間に対角線上にブレースを設置するのが好ましい。設置方法としては、リング4を取り付けたL字型金具5を柱梁接合部、柱土台接合部に近いところに、回転可能に1本の釘またはネジ、ビス等の固定部材により固定する。固定部材は、L字型金具が回転できるように固定できる限り特に制限されない。
【0013】
次に、連結部材であるリング4に帯状部材、例えば梱包バンド3を通し、帯状部材から50cm位内側で梱包バンド用金物シール(スポットシール、PPバンド用シール)を用いてかしめ、さらに、もう一度帯状部材3をリング4に通し、50cm内側の位置(最初にかしめた位置とは別の位置)で3本をまとめてかしめる。これにより、十分な強度(150kg重程度)が得られる。この後、取付部材の回動自在に取り付けた穴より内側の穴に釘またはネジ等を挿入し、建物の柱や梁に固定することが望ましい。
【0014】
ここでは、帯状部材として梱包バンドを用いているが、同程度かそれ以上の強度が得られる帯状部材であれば材質は特に制限されない。強度としては、1本の梱包バンドで作成するブレースあたり100kg重以上、より好ましくは150kg重以上である。
【0015】
梱包バンドのメーカーは特に限定されないが、好ましくは幅が100~200mm、より好ましくは140~160mm、最も好ましくは150mm程度のものが好ましく用いられる。
【0016】
本発明のブレースは、必ずしも建物全体に設置する必要はなく、例えば、図4のように一部分に設置することができる。例えば、壁量の少ない面を中心に部分的に設置してもよい。本発明のブレースをどこに設置するかは、建物の状況を調査して脆弱な部分に設置するのが好ましい。
【0017】
図5は、本発明のブレースの強度を示す図である。本発明のブレースは1本(二重)で約150kg重程度であり、例えば、7本を束ねることで1トンの強度が得られる。
【0018】
本発明のブレースを施工する時間は3人で施工する場合、6時間以内で可能なので、例えば、地震が起きた場合にすぐに施工することで、余震による倒壊を防止し得る。ただし、本発明のブレースは恒久的なものではないので、設置後に調査を行い、本格的に補強するか、建て替えるかを選択するのが好ましい。
【0019】
また、建築中に簡易に強度を得たい場合にも本発明のブレースを利用することができる。
【0020】
本発明の補強システムおよび方法は、図6に示すように、各項目で高い数値を示し、バランスのよいシステムおよび方法であることがわかる。
【0021】
本発明においては、リング付きL字金具をPPバンドの固定手段として用いる以外に、リングとL字金具を一体化した機能を持つ部材を用いてPPバンドを固定してもよい。かかる部材は、取付部材と連結部材を一体化した部材であることから、以下、連結取付部材と呼ぶ。
【0022】
連結取付部材は、十分な連結強度が得られる限り特に制限はないが、例えば、図8のような、長方形の平板を一部折り曲げた形状が好ましい。折り曲げる角度は、PPバンドを装着でき、家の構造を安定化できる限り特に制限されないが、好ましくは、10~20度が好ましい。特に好ましくは15度である
【0023】
本発明の連結取付部材は、長方形が好ましいが、それ以外の形状であってもよい。例えば、長方形等の多角形、楕円形またはそれらの組み合わせからなる形状で、一方の端はネジや釘等により、柱など建物側に固定し、他方の端にPPバンドを通す開口部を含む。ネジや釘等により固定する穴は2以上あることが好ましい。最初に回動自在に1点のみで固定し、PPバンドを通し、対角線上にある連結取付部材とつないで、必要な回数PPバンドを通して張力をかけて角度を最適化した後にもう1つの穴で固定することが好ましい(例えば、図9)。
以下に実施例により本発明を説明するが、それらは本発明の1形態を例示するものであって、本発明は実施例により何ら制限されるものではない。
【実施例
【0024】
(実施例1)
施工手順
1 梱包バンド固定用のスポットシールを2つ用意し、あらかじめセロハンテープでその2つを直列に繋ぐ。
2 取付金具を柱梁接合部、柱土台接合部に近いところにビス(釘でも可)1本で固定する。この際、金物がビスを中心に自由に動くように固定する。
3 梱包バンド(PPバンド、信越工業製)を梱包バンド用金物シール(昌弘機工製。PPバンド用シール)で固定し、残り一方を対角の金物に通し、最後に梱包バンド用金物シールの残り一方に通し固定する。
【0025】
より詳細には、図2に記載のように、まず、柱下部にリング付き金物を通したL字金具を取り付ける。L字型金具はリングを通した後、折り曲げて2つの板が、穴が一致するように接触させる。L字金具は釘またはビスなどを1本で固定するようにしてL字金具が回転可能にする。次にリング付き金物に梱包バンドを通し、リング付き金物から50cm程度の位置でかしめる。かしめる位置はブレースの長さに応じて適宜変更できる。要は、最終的にブレースがきちんと設置できればよい。次にPPバンドを柱の上部に取り付けたL字型金具に連結したリングに通し、最初の柱下部のリングの内側から外側にPPバンドを通し、3本をまとめてかしめる。
【0026】
2つ目のPPバンド用シールの通し方の例としては、手前→下部で奥側へ(ここで下部から50cm程度の位置で1つ目のPPバンド用シールでかしめる)→上部で手前から奥側へ(2つ目のPPバンド用シールを通す)→下部で奥側から手前へ→2つ目のPPバンド用シールを通す→3重になったPPバンドを2つ目のPPバンド用シールでかしめる(詳細は図7を参照)。これにより動滑車の原理により通常の締め方よりも強い強度が得られる。
【0027】
ここで、かしめるには、梱包バンド用金物シール(昌弘機工製)を用い、封緘器(昌弘機工製)を用いてかしめる。全てかしめて固定したあとは、L字型金具にもう1本釘またはビスを打って固定するのが好ましい。
【0028】
(実施例2)
実験:梱包バンド(PPバンド)による補強,引張実験
1000kN万能試験機による引っ張り試験により、引っ張り強度を測定した。その結果を図4に示す。梱包バンドの張力よりもそれをつなぎとめるスポットシールの摩擦力により、強度が決まることがわかった。 摩擦力の限界は、平均的に1400N(125N/mm2)であり、都合7本束ねると10000Nの引張力があることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、建築業、リフォーム業、震災復興事業などに利用できる。
【符号の説明】
【0030】
1 建物
2 側壁
3 バンド
4 連結部材(リング)
5 取付部材
6 固定部材
7 スポットシール
8 連結取付部材
9 開口部
10 固定用穴
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9