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特許7381038固綿への窪みの形成方法及び固綿の製造方法
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  • 特許-固綿への窪みの形成方法及び固綿の製造方法 図1
  • 特許-固綿への窪みの形成方法及び固綿の製造方法 図2
  • 特許-固綿への窪みの形成方法及び固綿の製造方法 図3
  • 特許-固綿への窪みの形成方法及び固綿の製造方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】固綿への窪みの形成方法及び固綿の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06C 23/04 20060101AFI20231108BHJP
   A47C 27/12 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
D06C23/04 B
A47C27/12 F
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019012892
(22)【出願日】2019-01-29
(65)【公開番号】P2020122226
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】503285852
【氏名又は名称】やまと産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111811
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 裕司
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-246575(JP,A)
【文献】特開平05-208470(JP,A)
【文献】特開2003-010572(JP,A)
【文献】特開平07-097772(JP,A)
【文献】登録実用新案第3172502(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06C 3/00-29/00
A47C 27/00-27/22
D04H 1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状の原材料とバインダー繊維とを混合してシート状にしたウェブを固綿の厚み方向に積層した板状の固綿に窪みを形成する方法であって、
前記固綿の厚み方向の少なくとも一方面側と所定の雄型とを、前記雄型または前記固綿の自重で圧接させた状態で所定時間加熱を行った後冷却し、前記雄型に対応した所定の窪みを前記固綿に形成することを特徴とする固綿への窪み形成方法。
【請求項2】
前記加熱の温度が110℃以上140℃以下の範囲である請求項1記載の固綿への窪み形成方法。
【請求項3】
前記加熱が非接触加熱である請求項1又は2記載の固綿への窪み形成方法。
【請求項4】
前記窪みの平面形状が格子状及び平行線状の少なくとも一方である請求項1から3のいずれかに記載の固綿への窪みの形成方法。
【請求項5】
前記固綿がポリエステル固綿である請求項1から4のいずれかに記載の固綿への窪みの形成方法。
【請求項6】
繊維状の原材料とバインダー繊維とを混合してシート状にしたウェブを固綿の厚み方向に積層し、圧縮及び加熱し所定の硬度及び密度を有する板状の固綿を得る第1工程と、
得られた前記固綿の厚み方向の少なくとも一方面側に所定の窪みを形成する第2工程とを有する窪みのある固綿の製造方法であって、
前記第2工程において、前記固綿の少なくとも一方面側と前記固綿に前記窪みを形成するための雄型とを、前記雄型または前記固綿の自重で圧接させた状態で所定時間加熱を行った後冷却することを特徴とする窪みのある固綿の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固綿への窪みの形成方法及び固綿の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から敷き布団用の芯材やマットレス素材として固綿が広く使用されている。固綿は、一般に、繊維状の原材料をシート状に広げたウェブを積層し、これを圧縮及び加熱することで繊維間を熱溶着したものであるため、ギャッジアップなどのベッドの状態変化への追随性及び体圧分散性などが十分とは言えなかった。
【0003】
固綿に関して、例えば特許文献1では、固綿の底面の一部を切除して凹陥部を設けて放湿性を向上させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実用新案登録第3031572号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記提案技術によれば放湿性のみならず体圧分散性やベッドの状態変化への追随性もある程度向上すると考えられるが、固綿の一部を切除して凹陥部を設ける方法では、原材料の無駄(切除部分)が発生すると共に切削作業機械など設備が大掛かりとなるおそれがある。
【0006】
そこで本発明は、従来のこのような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、原材料の無駄が生じず、また大掛かりな設備を必要としない固綿への窪み形成方法及び窪みを有する固綿の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成する本発明に係る固綿への窪み形成方法は、板状の固綿の厚み方向の少なくとも一方面側と所定の雄型とを圧接させた状態で所定時間加熱を行った後冷却し、前記固綿に前記雄型に対応した所定の窪みを形成することを特徴とする。
【0008】
前記構成の窪み形成方法において、前記加熱の温度は110℃以上140℃以下の範囲であるのが好ましい。
【0009】
また前記構成の窪み形成方法において、前記加熱は非接触加熱であるのが好ましい。
【0010】
また前記構成の窪み形成方法において、前記窪みの平面形状は格子状及び平行線状の少なくとも一方であってもよい。
【0011】
また前記構成の窪み形成方法において、前記固綿がポリエステル固綿であるのが好ましい。
【0012】
また本発明によれば、繊維状の原材料を圧縮し所定の硬度及び密度を有する板状の固綿を得る第1工程と、得られた前記固綿の厚み方向の少なくとも一方面側に所定の窪みを形成する第2工程とを有する窪みのある固綿の製造方法であって、前記第2工程において、前記固綿の少なくとも一方面側と前記固綿に前記窪みを形成するための雄型とを圧接させた状態で所定時間加熱を行った後冷却することを特徴とする窪みのある固綿の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る固綿への窪み形成方法及び窪みを有する固綿の製造方法によれば、原材料の無駄を生じさせることなく、また大掛かりな設備を必要とせずに固綿に窪みを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態の方法で作製された固綿の斜視図である。
図2】第1実施形態の方法を説明する斜視図である。
図3】第2実施形態の方法を説明する斜視図である。
図4】第3実施形態の方法を説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る固綿への窪み形成方法及び窪みを有する固綿の製造方法について図に基づいてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に何ら限定されるものではない。
【0016】
(第1実施形態)
(固綿の外形)
図1は、積層構造のマットレスの一層を構成する固綿の一実施形態例を示す斜視図である。なお、マットレスに用いる固綿では、ギャッジアップなどのベッドの状態変化への追随性をより高めるため固綿の下面側に窪みを形成することが多い。このため、図1では固綿の上下方向を逆にして固綿に形成される窪みの平面形状が分かり易くなるように描いている。図1に示す固綿1は、平面視が長方形状であって所定の厚みを有する。固綿1としては、ポリエステル繊維や羊毛など繊維状の原材料に樹脂加工や熱加工を加え圧縮し、一定以上の硬度及び密度を有する板状としたものが好適に使用される。これにより多層構造のマットレスの一層として固綿を使用するとマットレスにコシが生まれクッション性と支持性が生じると共に、繊維組織を有しているので通気性、透湿性が向上する。多層構造のマットレスに用いる固綿1の厚みは、通常、30mmから70mmの範囲が好ましい。
【0017】
固綿1の下面側の長手方向足側には、短手方向の一方端から他方端にわたって直線状に連続する第1窪み11が長手方向に所定間隔で平行に複数本形成されている。窪みC1はこれら複数本の第1窪み11から構成される。長手方向足側における第1窪み11の形成間隔は、通常、30mmから50mmの範囲程度である。
【0018】
また、固綿1の下面側の長手方向中央部には、短手方向の一方端から他方端にわたって直線状に連続する第2窪み12が長手方向に所定間隔で複数本形成され、第2窪み12と直交する方向に直線状に連続する第3窪み13が短手方向に所定間隔で複数本形成されている。なお、第3窪み13の長手方向の形成領域は第2窪み12が形成されている領域であり、第3窪み13は第1窪み11とは交差しない。つまり、固綿1の下面側の長手方向中央部には、第2窪み12と第3窪み13とから構成される格子状の窪みC2が形成されている。第2窪み12及び第3窪み13の形成間隔は、通常、90mmから110mmの範囲程度である。
【0019】
このような平行線状の窪みC1及び格子状の窪みC2が固綿1に形成されることによって体圧分散性が向上すると共に、マットレスが載置されたベッドが背上げ姿勢とされた場合に固綿1がベッドの形状に添って屈曲しやすくなる。なお、体圧分散性は格子状の窪みC2の形成された長手方向中央部の腰部が最も高く(柔らかく)、平行線状の窪みC1の形成された長手方向足側が次に高く、窪みの無い長手方向頭側が最も低く(固い)設定されている。
【0020】
このような窪みC1及び窪みC2は、従来は、例えば前述のように固綿の一部を切削することによって形成していた。しかし、切削による窪みの形成では原材料の無駄が発生すると共に切削機械など設備が大掛かりとなる。そこで本発明者が種々検討を重ねた結果、窪みに対応する所定の雄型と固綿とを圧接し、その状態で所定時間加熱を行った後冷却することによって、雄型に対応した所定の窪みが固綿に形成され得ることを見出し本発明を成すに至った。以下、本発明の窪みのある固綿の製造方法について説明する。
【0021】
(第1工程:固綿の作製)
まず、繊維状の原材料とバインダー繊維を混ぜた後、シート状に薄く広げてウェブを作製する。そして作製したウェブを積層し、これを圧縮及び加熱することで繊維間をバインダー繊維で熱溶着して固綿を得る。なお、ポリエステル固綿は、ポリエステル繊維及び低融点ポリエステル繊維(バインダ-繊維)を主とする混紡綿である。
【0022】
原材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、アクリル、レーヨン、ナイロン繊維などの合成繊維や羊毛、コットン、麻等のなどの天然繊維などの短繊維が好適に使用される。中でもポリエステル短繊維がより好適に使用される。
【0023】
バインダー繊維としては原材料を構成する短繊維の融点より低い融点または軟化点を有するものであればよく、温度差は20℃程度とすればよい。バインダー繊維として用いるポリマーとしては、共重合ポリエステル、共重合ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられ、これらの中でも共重合ポリエステルを用いることが好ましい。
【0024】
加熱処理温度としてはバインダー繊維が溶融軟化する温度であればよく、バインダー繊維の種類などから適宜決定すればよいが、一般に、110℃以上140℃以下の範囲である。
【0025】
作製される固綿の目付に特に限定はないが、一般に、750g/m以上1500g/m以下であることが、通気性・耐久性等の観点から好ましい。
【0026】
(第2工程:窪みの形成)
【0027】
作製された固綿に対して、形成したい窪みの形状に対応する雄型を、固綿上の窪みを形成したい部分に載置する。固綿上に雄型を載置することによって雄型の自重で雄型と固綿とが圧接することになる。図2に、図1に示した窪みのある固綿1を作製する場合の例を示す。平行線状の窪みC1を形成する場合には、垂直断面形状が波形で短手方向に延在する第1雄型M1を固綿1の長手方向足側に載置する。第1雄型M1の短手方向の長さは固綿1の短手方向長さ以上であれば特に限定はないが、後述する加熱処理における装置の必要以上の大型化や作業の容易性などの観点からは固綿1の短手方向両端から若干外方に突出する程度(作業者の手が引っかかる程度)が好ましい。
【0028】
このような形状の第1雄型M1としては、屋根や外壁材として一般に使用されている波形スレート材が好適に使用される。使用する第1雄型M1の形状は、平行線状の窪みC1を構成する第1窪み11の長手方向の形成間隔、幅及び深さ等から適宜決定される。
【0029】
格子状の窪みC2を固綿1に形成する場合には、棒状部材が格子状に組み立てられた第2雄型M2を固綿1の長手方向中央部に載置する。第2雄型M2の短手方向長さは、第1雄型M1と同様に、固綿1の短手方向両端から若干外方に突出する程度(作業者の手が引っかかる程度)が好ましい。第2雄型M2を構成する棒状部材としては鉄などの金属部材が好適に使用される。このような第2雄型M2としては、道路舗装などに使用されている鉄筋溶接網が好適に使用される。使用する第2雄型M2の形状は、格子状の窪みC2を構成する第2窪み12及び第3窪み13の形成間隔、幅及び深さ等から適宜決定される。
【0030】
なお、固綿1に形成する窪みC1,C2は図1及び図2に示した形態に限定されるものではなく、格子状の窪みC2のみであってもよいし、平行線状の窪みC1のみであってもよい。また、窪みを形成する部分にも限定はない。窪みを形成した部分は体圧分散性が高くなる、すなわちクッション性が高くなるので、体圧分散性を必要とする部分に窪みを形成すればよい。
【0031】
次に、第1雄型M1及び第2雄型M2を固綿1に載置した状態、すなわち圧接した状態で加熱処理を行う。加熱することによってバインダー繊維が再び溶融状態となり、固綿1に載置された第1雄型M1及び第2雄型M2が自重によって固綿1内に入り込む。これにより窪みC1及び窪みC2が形成される。
【0032】
固綿1を加熱する手段としては非接触加熱が好ましく、例えば熱風を当てることによる加熱が好ましい。加熱処理温度としてはバインダー繊維が溶融状態となる温度であればよく、通常、110℃以上140℃以下の範囲である。また加熱時間はバインダー繊維の種類などから適宜決定すればよいが、通常、数分程度で足りる。
【0033】
このような加熱処理が終了した後、固綿1を冷却する。冷却することによってバインダー繊維が再び固化し窪みC1及び窪みC2の形状が保持されるようになる。なお、固綿の冷却は冷却手段による冷却であってもよいが自然放冷であってもよい。冷却温度は常温までで足りる。固綿1を冷却した後、第1雄型M1及び第2雄型M2を固綿1から取り外す。
【0034】
以上説明した第1工程及び第2工程によって図1に示す窪みC1及び窪みC2が形成された固綿1が作製される。
【0035】
(第2実施形態)
図2に示した実施形態では固綿1の窪みC1,C2を形成したい面を上側とし、その上に雄型M1,M2を載置して固綿1に窪みを形成していたが、これとは逆に固綿1の窪みを形成したい面を下側として固綿1を雄型に載せて固綿1に窪みを形成するようにしてもよい。図3に一例を示す。
【0036】
図3に示す実施形態は、固綿1の下面の長手方向中央部に格子状の窪みC2を形成する場合であって、まず、棒状部材が格子状に組み立てられた第2雄型M2を上面が平面とされた所定の載置台9上の所定位置に置く。次に、固綿1を下面を下にして第2雄型M2が固綿1の長手方向中央部に位置するように置く。これにより、第2雄型M2と固綿1とは固綿1の自重によって圧接することになる。この状態で前記実施形態と同様に加熱処理を行いその後冷却することで、固綿1の下面の長手方向中央部に窪みC2が形成される。
【0037】
(第3実施形態)
以上説明した実施形態は固綿の一方面側に窪みを形成する場合の実施形態であったが、固綿の両面に窪みを形成することも可能である。図4に実施形態例を示す。
【0038】
図4に示す実施形態は、固綿1の下面の長手方向中央部に格子状の窪みC2を形成し、固綿1の上面の長手方向足側に平行線状の窪みC1を形成し、長手方向中央部に格子状の窪みC2を形成する場合である。まず、棒状部材が格子状に組み立てられた第2雄型M2aを載置台9上の所定位置に置く。次に、固綿1を下面を下にして第2雄型M2aが固綿1の長手方向中央部に位置するように置く。そして、固綿1の上面の長手方向足側に第1雄型M1bを、長手方向中央部に第2雄型M2bをそれぞれ載置する。もちろん、固綿1の上面の長手方向足側に第1雄型M1bを、長手方向中央部に第2雄型M2bをそれぞれ載置した固綿1を第2雄型M2aの置かれた載置台9上に置いても構わない。このようにして、第1雄型M1b及び第2雄型M2bはそれぞれの自重によって固綿1と圧接し、第2雄型M2aと固綿1とは固綿1(第1雄型M1bと第2雄型M2bの重さが付加された)の重量によって圧接することになる。次いで、この状態で前記各実施形態と同様に加熱処理を行いその後冷却する。これにより固綿1の上面に窪みC1,C2が、下面に窪みC2がそれぞれ形成される。
【0039】
なお、固綿の一方面側に窪みを形成した後、他方面側に窪みを形成することも考えられるが、固綿への窪みの形成及び保持が、固綿の原材料であるバインダー繊維の溶融及び固化によるところが大きい場合には、他方面に窪みを形成する際の加熱処理によって、一方面側の形成済みの窪みが消滅あるいは弱まるおそれがあるので、窪み形成のための加熱処理は1回とするのが望ましい。
【0040】
(その他)
本発明の製造方法で製造された固綿は敷き布団などとして単独で使用してもよいし、ウレタンマットなどの他のクッション材と共に積層化してマットレスとして使用してもよい。また、固綿に形成される窪みは格子状及び線状のみならず点状など従来公知の形状であっても勿論構わない。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る固綿への窪み形成方法及び窪みを有する固綿の製造方法によれば、原材料の無駄を生じさせることなく、また大掛かりな設備を必要とせずに固綿に窪みを形成することが可能となる。
【符号の説明】
【0042】
1 固綿
11 第1窪み
12 第2窪み
13 第3窪み
C1 平行線状の窪み
C2 格子状の窪み
M1 第1雄型
M2 第2雄型
M1b 第1雄型
M2a 第2雄型
M2b 第2雄型
図1
図2
図3
図4