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  • 特許-GLP-1分泌促進用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】GLP-1分泌促進用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/899 20060101AFI20231108BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20231108BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231108BHJP
   A61K 127/00 20060101ALN20231108BHJP
【FI】
A61K36/899
A61P3/04
A61P43/00 111
A61K127:00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019126944
(22)【出願日】2019-07-08
(65)【公開番号】P2021011454
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】398028503
【氏名又は名称】株式会社東洋新薬
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 栞
(72)【発明者】
【氏名】森川 琢海
(72)【発明者】
【氏名】神谷 智康
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-3225(JP,A)
【文献】特開2017-165672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/899
A61P 3/04
A61P 43/00
A61K 127/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ササ類植物の葉部の砕粉末を含むGLP-1分泌促進用組成物であって、ササ類植物が、クマザサ(Sasa veitchii)、チシマザサ(Sasa kurilensis)及びクマイザサ(Sasa senanensis Rehder)から選ばれる少なくとも一種である、GLP-1分泌促進用組成物
【請求項2】
ササ類植物の葉部の砕粉末を含む胃排泄又は胃酸分泌の抑制用組成物であって、ササ類植物が、クマザサ(Sasa veitchii)、チシマザサ(Sasa kurilensis)及びクマイザサ(Sasa senanensis Rehder)から選ばれる少なくとも一種である、胃排泄又は胃酸分泌の抑制用組成物
【請求項3】
ササ類植物の葉部の砕粉末を含む食欲又は摂食の抑制用組成物であって、ササ類植物が、クマザサ(Sasa veitchii)、チシマザサ(Sasa kurilensis)及びクマイザサ(Sasa senanensis Rehder)から選ばれる少なくとも一種である、食欲又は摂食の抑制用組成物
【請求項4】
ササ類植物の葉部の砕粉末を含む筋肉への糖の取込み促進用組成物であって、ササ類植物が、クマザサ(Sasa veitchii)、チシマザサ(Sasa kurilensis)及びクマイザサ(Sasa senanensis Rehder)から選ばれる少なくとも一種である、筋肉への糖の取込み促進用組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GLP-1分泌促進用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
GLP-1(Glucagon-like peptide-1;グルカゴン様ペプチド-1)は、内分泌細胞(L細胞)で産生される内分泌生理活性物質である。L細胞は回腸から結腸までの消化管の粘膜上皮に存在する。GLP-1は、インクレチン(Intestine Secretion Insulin)という、栄養素の摂取に伴って消化管から分泌され、膵β細胞に作用してインスリン分泌を促進するホルモンの一種である。GLP-1はGLP-1受容体との結合によってもたらされるシグナル伝達を経由して、様々な生理活性を有することが知られている。
【0003】
GLP-1は、中枢神経系に存在するGLP-1受容体との結合を介して、胃排泄や胃酸分泌の抑制、食欲や摂食の抑制などの中枢神経系に対する機能改善作用を示す。更にGLP-1は、すい臓のβ細胞を増やす(増殖)などの作用が動物で確認されている。またGLP-1はインスリンの分泌促進を介して糖の筋肉への取り込みを促し、筋肉細胞の成長や増殖を促す。他にも、GLP-1は、心筋細胞、心内膜、冠動脈などの血管内皮細胞や平滑筋に存在するGLP-1受容体を介して、心筋細胞内のcAMPを高め心筋収縮力を増強することができる。また、血管内皮細胞に存在するGLP-1受容体を介して、血管内皮細胞からの一酸化窒素(NO)産生を促し、血管弛緩反応を改善させることができる。NO産生の増加により、血小板凝集抑制作用、血栓形成抑制作用、動脈硬化改善作用を導く。GLP-1は、収縮期血圧の低下を導くことも知られている。
【0004】
このように、GLP-1は様々な生理活性を有することから、生体内のGLP-1濃度を高めることにより、過剰摂食、心機能低下、動脈硬化などの多くの中高年者が直面する疾患の病因を改善することができ、結果として様々な疾患を予防又は改善することができる。
【0005】
一方で、GLP-1は外部から投与しても蛋白質分解酵素であるDPP-4(dipeptidylpeptidase-4)により速やかに分解される。DPP-4は、ポリペプチドのN末端2位にあるアラニン又はプロリンを認識し、N末端の2アミノ酸を切断する。活性型であるGLP-1(7~37)はN末端2位がアラニンで構成されているため、DPP-4による分解をうけ、それぞれGLP-1(9~37)となり、インクレチン作用等を持たない不活性型となる。このように、GLP-1の活性を保ったままで生体内に留めることは難しいことから、GLP-1の生理活性を期待するのであれば、内因性GLP-1の分泌を促進することが考えられる。特に、経口摂取できるものによって、内因性GLP-1の分泌を促進できれば、日常的に生体内GLP-1濃度を高めることができる。
【0006】
一方、特許文献1には、in-vitroでDPP-4の活性を阻害した成分の一つとして、ササ類植物の葉部の熱水抽出物が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-3225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来よりも更に効果的に食後のGLP-1の分泌を促進できるGLP-1分泌促進剤が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意検討した結果、驚くべきことに、ササ類植物の葉部の熱水抽出物は食後のGLP-1の分泌を促進するものではないこと、これに対し、ササ類植物の葉部の砕粉末は食後のGLP-1の分泌を効果的に促進することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は上記の知見に基づくものであり、ササ類植物の葉部の砕粉末を含むGLP-1分泌促進用組成物を提供するものである。
【0011】
また本発明は、ササ類植物の葉部の砕粉末を含む胃排泄又は胃酸分泌の抑制用組成物、食欲又は摂食の抑制用組成物、筋肉への糖の取込み促進用組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の組成物を使用することにより、内因性GLP-1の分泌を促進し、生体内GLP-1濃度を高めることができる。このことから、GLP-1による生理活性、例えば、胃排泄及び胃酸分泌の抑制、食欲及び摂食の抑制、中枢神経系の機能改善、心筋収縮力の改善、血管弛緩反応の改善、血小板凝集の抑制、血栓形成の抑制、動脈硬化の改善、収縮期血圧の低下、筋肉への糖の取込み促進などを誘発することができ、結果として、過剰摂食、心機能、動脈硬化、筋肉量減少などの疾患又はこれらの疾患に起因する他の疾患を予防又は改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例及び比較例における血中活性型GLP-1を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のGLP-1分泌促進用組成物、胃排泄や胃酸分泌の抑制用組成物、食欲や摂食の抑制用組成物、筋肉への糖の取込み促進用組成物(以下、まとめて「本発明の組成物」ともいう。)について、その好ましい実施形態に基づいて説明する。本明細書において、「GLP-1分泌促進」は、生体内でのGLP-1分泌に伴う血中GLP-1濃度上昇の促進、上昇したGLP-1濃度の維持、又は上昇したGLP-1濃度の低下抑制のいずれをも含む。GLP-1分泌促進の例としては、本発明の組成物を経口摂取することで血中GLP-1量が高まる現象が挙げられる。また食事によって引き起こされる生体内でのGLP-1分泌が本発明の組成物の摂取によって促進される現象も挙げられる。
【0015】
本明細書において、「胃排泄の抑制」とは、胃からの内容物の排出速度を低下させる作用を指す。「胃酸分泌の抑制」とは、例えば胃酸量の低下や胃酸増加の抑制を指す。「食欲又は摂食の抑制」とは、例えば食欲若しくは摂食量の低下若しくは増加の抑制を指す。「筋肉への糖の取込み促進」とは血液中の糖(グルコース)の筋細胞内への取り込み速度若しくは取り込み量の増加を促進すること又は取り込み速度又は取り込み量の低下を抑制すること、又はそれによる筋肉細胞の成長や増殖を指す。これらはGLP-1分泌促進を介した作用である。
【0016】
ササ類は単子葉植物イネ科タケ亜科(タケ科とすることもある)に属する植物であり、入手しやすさや風味、GLP-1分泌促進作用の点から、ササ属又はスズタケ属の植物であることが好ましい。ササ属としては、クマザサ(Sasa veitchii)、チシマザサ(Sasa kurilensis)、クマイザサ(Sasa senanensis Rehder)、イブキザサ(Sasa tsboiana)、トクガワザサ(Sasa tokugawana)、チマキザサ(Sasa palmata)、オオバザサ(Sasa megalophylla)、ミヤコザサ(Sasa nipponica)、ウンゼンザサ(Sasa gracillima)等が挙げられる。スズタケ属としては、スズタケ(Sasamorpha borealis)等が挙げられる。本発明においてはササ属の植物であることが好ましく、クマザサ(Sasa veitchii)、チシマザサ(Sasa kurilensis)、クマイザサ(Sasa senanensis Rehder)がより好ましく、特にクマイザサ(Sasa senanensis Rehder)を用いることが、GLP-1分泌促進作用が高い点や筋肉における糖取り込み促進作用の点で好ましい。本発明の組成物は、ササ類植物の葉部を原料として用いる。葉部とは葉又は葉及び葉に近い茎部分を指す。葉に近い茎部分とは、例えば葉から概ね10cm程度以下の部分である。本発明に用いられるササ類植物の葉部は、通常入手可能なものであれば特に限定されず、野生及び栽培されたものの何れを用いてもよい。
【0017】
本発明において、ササ類植物の葉部の砕粉末とは、ササ類植物の葉部に対し、乾燥処理及び粉砕処理の処理を施すことにより得られた粉末を意味し、より好ましくは抽出又は搾汁の処理を施さずに、乾燥処理及び粉砕処理の処理を施すことにより得られた粉末である。すなわち抽出物又は搾汁物並びにそれらの乾燥物は本明細書でいう砕粉末に該当しない。具体的にはササ類植物の葉部の砕粉末とは、ササ類植物の葉部の乾燥粉末が挙げられる。なお、本発明において、粉末とは、必要に応じて賦形剤などを添加し顆粒化したものを含むものとする。本発明ではササ類植物の葉部として砕粉末を用いることで、ササ類植物の葉部における栄養成分、例えば食物繊維、ケイ酸、ビタミン、ミネラル、葉緑素をそのまま保持することができ、このことがGLP-1分泌促進に関与している可能性がある。
【0018】
ササ類植物は、葉部を収穫し、これを水などで洗浄し、適切な長さ(例えば、10cm)に切断し、乾燥し、粉末化する方法を挙げることができる。必要に応じて、乾燥前に素材の変質(緑色の褪色や風味の変化)を防ぐために、ブランチング(熱水)処理、マイクロウェーブ処理、加熱・加圧殺菌処理などを施してもよい。
【0019】
ササ類植物の葉部の砕粉末によるGLP-1分泌促進作用を高める点から、ササ類植物の葉部の砕粉末における食物繊維の含有量は、例えば20質量%以上80質量%以下が好ましく、30質量%以上80質量%以下がより好ましく、35質量%以上75質量%以下が特に好ましい。ササ類植物の葉部の食物繊維の量は、例えば酵素-重量法により測定できる。
【0020】
ササ類植物の葉部の砕粉末はGLP-1分泌促進作用を高める点から、例えば、目開き70メッシュの篩の篩下率が70質量%以上であることが好ましく、目開き100メッシュの篩の篩下率が70質量%以上であることがより好ましく、目開き120メッシュの篩の篩下率が70質量%以上であることが特に好ましく、80質量%以上であることがとりわけ好ましい。前記の篩の篩下率は100質量%であってもよいが、例えば99質量%未満であるものは製造コスト等の点から好ましい。
このような粒径の砕粉末は、ササ類植物の葉部の粗粉砕工程後にジェットミルやボールミル、ハンマーミル等で微粉砕を行うことで得ることができる。
【0021】
本発明の組成物の固形分中、ササ類植物の葉部の砕粉末の含有量の下限値としては特に限定されないが、乾燥質量で、例えば、0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上がさらに好ましく、0.1質量%以上が特に好ましい。ササ類植物の葉部の砕粉末の含有量の上限値としては、100質量%であっても良いが、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましい。ササ類植物の葉部の砕粉末の含有量を0.001質量%以上とすることで、GLP-1分泌促進作用を十分に発揮することが容易となる。また、本発明の組成物がGLP-1分泌阻害成分とともに使用される場合はササ類植物の葉部の砕粉末の含有量を多くし、ササ類植物の葉部の砕粉末とは異なるその他のGLP-1分泌促進成分をさらに含む場合はササ類植物の葉部の砕粉末の含有量を減じることもできる。
【0022】
本発明の組成物は、GLP-1分泌促進作用を得ることを目的とした種々の形態で利用され得る。本発明の組成物は、例えば、経口用又は非経口用の剤とすることができる。非経口の剤としては、例えば胃にカテーテル等で直接投与する方法により投与される剤等が挙げられる。しかしながら本発明の組成物は、経口用とすることが継続的に経口摂取できるというササ類植物の葉部の砕粉末の利点を発揮しやすい点や簡便にGLP-1分泌促進作用を得られる点で好ましい。
【0023】
本発明の組成物を経口用とする場合、その形態は特に限定されず、ササ類植物の葉部の砕粉末を含有するものとして、任意の形態のものとすることができる。本発明の組成物の形態としては、例えば、経口摂取に適した形態、具体的には、粉末状(顆粒状を含む)、錠剤(タブレット)状、チュアブル状、シロップ状、棒状、板状、ブロック状、固形状、丸状、液状、ペースト状、クリーム状、ハードカプセルやソフトカプセルのようなカプセル状などの各形態が挙げられる。中でも、粉末状、錠剤状、カプセル状であることが好ましく、粉末状であることがより好ましい。
【0024】
本発明の組成物は、水等の液体と混合して経口摂取する粉末状(粉末、顆粒などの粉の形態)の形態であることが好ましい。粉末状であることにより、腐敗しにくく長期保存に適するとともに、摂取時に水等の液体と混合することにより鮮やかな色を呈するためである。また本発明の組成物が顆粒状やタブレット状などの固体の形態である場合、上述したように、水等の液体と混合して経口摂取することも可能だが、好みに応じて、固体のまま経口摂取してもよい。なお、粉末状であっても、好みに応じて、固体のまま経口摂取してもよい。
【0025】
本発明の組成物は、ササ類植物の葉部の砕粉末のみを含むものであってもよいし、ササ類植物の葉部の砕粉末に加えて、ササ類植物の葉部の砕粉末以外の成分を含むものであってもよい。本発明の組成物が含有し得るササ類植物の葉部の砕粉末以外の成分は特に限定されないが、例えば、ビタミン類(A、C、D、E、K、葉酸、パントテン酸、ビオチン、これらの誘導体など)、ミネラル(鉄、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、セレンなど)などが挙げられる。また、種々の賦形剤、結合剤、滑沢剤、安定剤、希釈剤、増量剤、増粘剤、乳化剤、着色料、添加物などを含有してもよい。なお、ササ類植物の葉部の砕粉末以外の成分の含有量は、本発明の組成物の形態などに応じて適宜選択することができる。
【0026】
更に、本発明の組成物は、ササ類以外の植物の葉部を含有していてもよい。ササ類以外の植物の葉部の形態は特に限定されないが、例えば砕粉末であると、食物繊維の摂取の点等で好ましい。本発明の組成物においてササ類植物の葉部と、ササ類以外の植物の葉部とを含む場合に、ササ類植物の葉部の質量がササ類以外の植物の葉部の質量を上回ってもよいし、ササ類以外の植物の葉部の質量が、ササ類植物の葉部の質量を上回っていてもよい。本発明の組成物に含有される植物の葉部の合計量中、ササ類植物の葉部の割合としては、特に限定されるものではないが、例えば0.1質量%以上、特に0.5質量%以上が挙げられる。
【0027】
本発明の組成物は、ササ類植物の葉部の砕粉末を含有することにより、GLP-1分泌促進作用を示す。GLP-1分泌促進作用は、後述する実施例に記載のように、血漿中のGLP-1濃度により評価できる。血漿中のGLP-1濃度は、例えば、市販のキットであるレビスGLP-1(Active);富士フイルムワコーシバヤギ社を用いて、キットの添付文書に記載されている手順により測定できる。
【0028】
本発明の組成物が有するGLP-1分泌促進作用は、本発明の組成物を使用した場合の生体内GLP-1濃度が、本発明の組成物を使用しない場合(以下、コントロールとよぶ。)の生体内GLP-1濃度と比較して高くなればよく、例えば、コントロールの生体内GLP-1濃度よりも1.1倍以上、好ましくは1.2倍以上、より好ましくは1.3倍以上である。本発明の組成物は、GLP-1分泌促進作用を得ることを目的とした種々の形態で利用され得る。例えば、特別な処理を加えることなく種々の目的に利用されてもよい。
【0029】
本発明の組成物の1回あたりの摂取量は特に制限されないが、摂取量の下限値としては、例えば、0.001mg/kg体重以上が好ましく、0.01mg/kg体重以上がさらに好ましく、0.1mg/kg体重以上が特に好ましい。上限値としては、例えば、5000mg/kg体重以下が好ましく、4000mg/kg体重以下がより好ましく、3000mg/kg体重以下が特に好ましい。
【0030】
本発明の組成物の使用対象は特に限定されず、例えば、乳児、幼児、小児、少年、成人などのヒトが挙げられるが、ネコ、イヌ、ウシ、ウマなどの哺乳動物であってもよい。ただし、本発明の組成物は、GLP-1分泌促進作用を有することにより、GLP-1の生理活性により恩恵を受ける使用対象に使用されることが好ましい。具体的には、本発明の組成物は、胃排泄及び/又は胃酸分泌の抑制、食欲及び/又は摂食の抑制、中枢神経系の機能改善、心筋収縮力の改善、血管弛緩反応の改善、血小板凝集の抑制、血栓形成の抑制、動脈硬化の改善、収縮期血圧の低下、グルカゴン分泌抑制、膵β細胞の増殖促進、筋肉量の維持や筋力の低下抑制などを必要とする使用対象に使用することが好ましい。本発明の組成物は、ササ類植物の葉部の砕粉末及び医薬品(医薬部外品を含む)及び食品(いわゆる健康食品を含む)の何れとして用いられてもよい。本発明の組成物はヒトを手術、治療又は診断する方法以外の方法に用いることができる。
【実施例
【0031】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
以下のとおりに、ラットを用いたin vivo試験にて、ササ類植物の葉部の砕粉末及びササ類植物の葉部の熱水抽出物とのGLP-1分泌促進作用の違いを実証した。
【0033】
〔実施例1〕
ササ類植物として、クマイザサ(Sasa senanensis Rehder)の葉部を採取し、抽出及び搾汁を経ずに乾燥及び粉砕してなる砕粉末(食物繊維量70.1質量%)を被験試料として用いた。このクマイザサの砕粉末は緑色をしており、上記の方法で測定したところ、目開き120メッシュの篩を90質量%が通過するものであった。この砕粉末を0.5質量%カルボキシメチルセルロース水溶液に、200mg/mL濃度となるように懸濁させた懸濁液を用意した。
【0034】
(GLP-1分泌試験)
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA-2Na;同仁化学研究所社)及びDPP-4阻害薬(アプロチニン(生化学用;富士フイルム和光純薬工業社)及びDiprotin-A(ペプチド研究所社)を混合して、DPP-4の作用を阻害するDPP-4阻害溶液を調製した。DPP-4は活性型GLP-1を不活性型GLP-1に変換する酵素である。具体的には、生理食塩溶水(大塚製薬工場社)を溶媒として、血液中最終濃度が、(a)EDTA-2Na 1mg/mL、(b)アプロチニン 500KIU/mL、及び(c)Diprotin-A 0.1mMとなるように、50倍濃度の混合液を作製した。氷上で冷やしながら溶解させ、調製後は氷上に置き、その状態で使用時まで保存した。
【0035】
6週齢のSD系雄性ラットを5日間馴化させた後、試験前日より16時間以上絶食させた。その後、各ラットは、試験当日に血糖値及び体重値がほぼ均一となるように被験試料摂取群とコンロール摂取群とで群わけした(1群6匹)。各群のラットに対して、試験当日の体重値に基づき、実施例1の被験試料懸濁液又は0.5質量%カルボキシメチルセルロース水溶液をそれぞれ10mL/kg、ゾンデを用いて強制的に経口投与した。
【0036】
各被験試料の投与30分後にイソフルラン麻酔下で開腹し、門脈採血を行った。門脈採血は、2.5mLシリンジ及び23G針を使用し、肝臓に向かう方向に刺入し、1mLの血液を採取することにより実施した。採血直前にDPP-4阻害溶液20μLをシリンジに入れた。採血後、DPP-4阻害溶液が採取血液中になじむようにゆっくり10回、転倒混和した。シリンジ内の血液はエッペンチューブに移し、遠心分離まで氷上に放置した。
【0037】
得られた血液を、1,000g、10分、4℃の条件下で遠心し、遠心上清物として血漿を採取した。得られた血漿は測定まで-80℃下にて冷凍保存した。
【0038】
得られた血漿を用いて、市販のキット(レビスGLP-1(Active);富士フイルムワコーシバヤギ社)を用いて、血漿中の活性型GLP-1濃度を測定し、得られた活性型GLP-1濃度について、各群で平均値を算出した。実施例1の活性型GLP-1濃度のコントロール群に対する相対値を図1に示す。
【0039】
〔比較例1〕
実施例1で用いたクマイザサ砕粉末90gを量りとり、三角フラスコに入れた。次に、三角フラスコに900mLの超純水を加え、砕粉末を懸濁した。二重にしたアルミ箔で三角フラスコに蓋をし、オートクレーブ機で121℃ 60分間加熱した。加熱後、室温まで放冷した。冷却後、5Aの濾紙を用いて吸引濾過し、濾液を回収した。濾紙上の残渣を超純水で洗浄後、洗浄後の濾液を回収し、先に回収した濾液と合わせた。回収した濾液を液量が20~30%程度になるまで減圧濃縮し、濃縮液を凍結乾燥した。収率は6.8%であった。この乾燥エキス粉末を0.5質量%カルボキシメチルセルロース水溶液に、砕粉末200mg/mLに相当する濃度(13.6mg/mL)となるように懸濁させた懸濁液を用意した。この懸濁液について実施例1と同様の活性型GLP-1分泌試験を行った。比較例1の活性型GLP-1濃度のコントロール群に対する相対値を図1に示す。なお実施例1と比較例1とでコントロールを合計2回試験したが2回の血中における活性型GLP-1濃度の差はほとんどなかった。
【0040】
図1に示すように、実施例1のクマイザサ砕粉末の摂取群は、コントロール群に比べて、約1.5倍の血中活性型GLP-1濃度の増加を示した。一方、比較例1のクマイザサ熱水抽出物群ではコントロール群に比して、約0.8倍の血中活性型GLP-1濃度を示した。これらの結果から特許文献1に記載されたものと同様のササ類植物の葉部の熱水抽出物は活性型GLP-1分泌増加作用を有さないこと、一方、ササ類植物の葉部の砕粉末は優れた活性型GLP-1分泌促進作用を有することが示された。本発明の活性型GLP-1分泌促進作用はDPP-4を阻害する条件において示されており、特許文献1に記載されたようなDPP-4阻害とは、血中の活性型GLP-1量の増加に対する作用機序が異なることが明らかである。
【0041】
[配合実施例1]
下記成分からなる顆粒剤(1包あたり3000mg)を製造した。得られた顆粒剤を1日2回、1回あたり1包を水に懸濁して摂取することで、優れたGLP-1分泌促進効果、胃酸分泌の抑制効果、摂食の抑制効果、筋肉への糖の取込み促進効果が得られる。
【0042】
【表1】
【0043】
[配合実施例2]
下記成分からなる顆粒剤(1包あたり3000mg)を製造した。得られた顆粒剤を1日2回、1回あたり1包を水に懸濁して摂取することで、優れたGLP-1分泌促進効果、胃酸分泌の抑制効果、摂食の抑制効果、筋肉への糖の取込み促進効果が得られる。
【0044】
【表2】
【0045】
[配合実施例3]
下記成分からなる錠剤(1粒あたり250mg)を製造した。得られた顆粒剤を1日1回、1回あたり2粒を摂取することで、優れたGLP-1分泌促進効果、胃酸分泌の抑制効果、摂食の抑制効果、筋肉への糖の取込み促進効果が得られる。
【0046】
【表3】
【0047】
[配合実施例4]
下記成分からなる錠剤(1粒あたり200mg)を製造した。得られた顆粒剤を1日2回、1回あたり2粒を摂取することで、優れたGLP-1分泌促進効果、胃酸分泌の抑制効果、摂食の抑制効果、筋肉への糖の取込み促進効果が得られる。
【0048】
【表4】
【0049】
[配合実施例5]
下記成分からなる顆粒を配合したハードカプセル剤(1粒あたり200mg)を製造した。得られたハードカプセル剤を1日1回、1回あたり1粒を摂取することで、優れたGLP-1分泌促進効果、胃酸分泌の抑制効果、摂食の抑制効果、筋肉への糖の取込み促進効果が得られる。
【0050】
【表5】
【0051】
[配合実施例6]
下記成分からなる顆粒を配合したハードカプセル剤(1粒あたり150mg)を製造した。得られたハードカプセル剤を1日1回、1回あたり1粒を摂取することで、優れたGLP-1分泌促進効果、胃酸分泌の抑制効果、摂食の抑制効果、筋肉への糖の取込み促進効果が得られる。
【0052】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の組成物は、日常的な使用態様によって高度なGLP-1分泌促進作用が期待できるものである。したがって、本発明は、GLP-1の薬理活性によって症状が改善されることが期待できる疾病、例えば、過剰な胃排泄又は胃酸分泌、過剰摂食、心機能低下、膵β細胞の減少、筋肉量の減少、動脈硬化などの症状・疾患を予防又は改善することができるものである。
図1