IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニチカ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ガスバリア性積層体 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】ガスバリア性積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20231108BHJP
【FI】
B32B27/30 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019178130
(22)【出願日】2019-09-28
(65)【公開番号】P2020055309
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2018186035
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】荒木 悟郎
(72)【発明者】
【氏名】大葛 貴良
(72)【発明者】
【氏名】岡部 貴史
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-068574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポリ塩化ビニリデン共重合体含有層(III)、ポリアミド系フィルムを含むプラスチック基材(I)及びガスバリア層(II)を順に含む積層体であって、
(1)プラスチック基材(I)は、樹脂成分及び金属化合物を含有し、当該金属化合物の含有量が0.1~20質量%であり、
(2)ガスバリア層(II)は、ポリカルボン酸及び/又はその無水物を含有し、かつ、プラスチック基材(I)の一方の面上に積層されており、
(3)ポリ塩化ビニリデン共重合体含有層(III)は、プラスチック基材(I)のガスバリア層(II)が積層された他方の面上に積層されており、
(4)前記積層体の酸素透過度及び水蒸気透過度において、
(4-1)温度20℃及び相対湿度90%雰囲気下における酸素透過度が100ml/(m・day・MPa)以下であり、
(4-2)温度40℃及び相対湿度90%雰囲気下における水蒸気透過度が30g/(m・day)以下である
ことを特徴とするガスバリア性積層体。
【請求項2】
ガスバリア層(II)がさらにポリアルコールを含有する、請求項1に記載のガスバリア性積層体。
【請求項3】
(A)前記積層体を温度80℃×30分の熱水処理した後の酸素透過度及び水蒸気透過度において、(A1)温度20℃及び相対湿度90%雰囲気下における酸素透過度が50ml/(m・day・MPa)以下であり、(A2)温度40℃及び相対湿度90%雰囲気下における水蒸気透過度が30g/(m・day)以下であり、
(B)前記積層体を温度120℃×30分の熱水処理した後の酸素透過度及び水蒸気透過度において、(B1)温度20℃及び相対湿度90%雰囲気下における酸素透過度が50ml/(m・day・MPa)以下であり、(B2)温度40℃及び相対湿度90%雰囲気下における水蒸気透過度が30g/(m・day)以下である、
請求項1又は2に記載のガスバリア性積層体。
【請求項4】
少なくともポリ塩化ビニリデン共重合体含有層(III)、ポリアミド系フィルムを含むプラスチック基材(I)及びガスバリア層(II)を順に含む積層体であって、
(1)プラスチック基材(I)は、樹脂成分及び金属化合物を含有し、当該金属化合物の含有量が0.1~20質量%であり、
(2)ガスバリア層(II)は、ポリカルボン酸及び/又はその無水物を含有し、かつ、プラスチック基材(I)の一方の面上に積層されており、
(3)ポリ塩化ビニリデン共重合体含有層(III)は、プラスチック基材(I)のガスバリア層(II)が積層された他方の面上に積層されており、
(4)前記積層体の酸素透過度及び水蒸気透過度において、
(4-1)温度20℃及び相対湿度90%雰囲気下における酸素透過度が50 ml/(m・day・MPa)以下であり、
(4-2)温度40℃及び相対湿度90%雰囲気下における水蒸気透過度が30g/(m・day)以下である
ことを特徴とするガスバリア性積層体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のガスバリア性積層体を含む包装材料。
【請求項6】
内容物を密封するために用いられる、請求項5に記載の包装材料。
【請求項7】
少なくともa)ポリ塩化ビニリデン共重合体含有層(III)、b)樹脂成分及び金属化合物を含有し、当該金属化合物の含有量が0.1~20質量%含有するプラスチック基材(I)及びc)ガスバリア層(II)を順に含むガスバリア性積層体を製造する方法であって、
(1)プラスチック基材(I)の一方の面上にポリカルボン酸及び/又はその無水物を含有するガスバリア層(II)形成用塗工液を塗布する工程、
(2)プラスチック基材(I)の他方の面上にポリ塩化ビニリデン共重合体含有層(III)形成用塗工液を塗布する工程、
(3)前記(1)及び(2)の工程後、両塗工液による塗膜が形成された積層体を延伸する工程
を含むことを特徴とするガスバリア性積層体の製造方法。
【請求項8】
請求項3に記載のガスバリア性積層体を製造する方法であって、
少なくともポリ塩化ビニリデン共重合体含有層(III)、ポリアミド系フィルムを含むプラスチック基材(I)及びガスバリア層(II)を順に含む積層体であり、
(1)プラスチック基材(I)は、樹脂成分及び金属化合物を含有し、当該金属化合物の含有量が0.1~20質量%であり、
(2)ガスバリア層(II)は、ポリカルボン酸及び/又はその無水物を含有し、かつ、プラスチック基材(I)の一方の面上に積層されており、
(3)ポリ塩化ビニリデン共重合体含有層(III)は、プラスチック基材(I)のガスバリア層(II)が積層された他方の面上に積層されており、
(4)前記積層体の酸素透過度及び水蒸気透過度において、
(4-1)温度20℃及び相対湿度90%雰囲気下における酸素透過度が100ml/(m・day・MPa)以下であり、
(4-2)温度40℃及び相対湿度90%雰囲気下における水蒸気透過度が30g/(m・day)以下である、
ことを特徴とする積層体を熱水処理する工程を含むことを特徴とするガスバリア性積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたガスバリア性を発現するガスバリア性積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドフィルム等のプラスチックフィルムは、強度、透明性、成形性に優れていることから、包装材料として幅広い用途に使用されている。ところが、これらのプラスチックフィルムは、酸素等のガス透過性が比較的大きいので、一般食品、レトルト処理食品、化粧品、医療用品、農薬等の包装に使用した場合、長期間保存するうちにフィルムを透過した酸素等のガスにより、内容物の変質が生じることがある。このため、これらの包装用途に使用するプラスチックフィルムは、ガスバリア性を有することが必要とされ、また水分を含む食品等の包装においては、高湿度下でのガスバリア性も必要とされている。
【0003】
プラスチックフィルムにガスバリア性を付与する方法として、フィルムにガスバリア層を積層する方法がある。前記ガスバリア層としては、a)ポリカルボン酸系ポリマーと金属化合物とから構成される層、b)無機酸化物の蒸着膜を使用する方法等が知られている。前記a)としては、例えばプラスチック基材(I)にガスバリア層(II)が積層されてなるガスバリア性積層体であって、プラスチック基材(I)が、単層構成のフィルムであり、フィルム層中に金属化合物を0.1~70質量%含有し、ガスバリア層(II)がポリカルボン酸を含有し、ポリカルボン酸がオレフィン-マレイン酸共重合体であることを特徴とするガスバリア性積層体が知られている(特許文献1)。前記b)としては、例えば酸化アルミニウムの非結晶性の薄膜を設けた構成からなる透明バリアフィルムを使用した積層材が知られている(特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5843988号
【文献】特許第3813287号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のガスバリア性積層体は、例えば95℃×30分という熱水処理によって後にはじめて高いバリア性が発現するものであり、比較的厳しい条件での熱水処理が必要とされている。すなわち、従来技術では、熱水処理前の段階、あるいは熱水処理温度が低く、熱水処理時間が短い条件下で処理された後の段階では、十分なガスバリア性を得ることは困難である。
【0006】
さらに、特許文献1のようなガスバリア積層体においては、ガスバリア層の積層によっては水蒸気バリア性の向上は認められない。このため、例えば水蒸気バリア性の低いポリアミドフィルムを用いて、特許文献1のようなガスバリア積層体を作製し、液体調味料等の内容物を長期保管した際には、そのガスバリア性による酸化防止効果により品質低下は抑制されるものの、水分蒸発によって内容物の濃縮が進み、使用時の味及び香りに変化が生じてしまう場合がある。このため、水蒸気バリア性をも備えたガスバリア性フィルムの開発が強く求められている。
【0007】
特許文献2に記載のガスバリア性積層体では、ガスバリア層として酸化アルミニウムの非結晶性の薄膜が用いられているが、このような無機酸化物の薄膜は本来的に柔軟性又は可撓性が低いためにフィルムの屈曲に追従させにくい。その結果、フィルムの屈曲によって薄膜にクラックが発生するリスクが常に潜在することとなる。薄膜にクラックが発生すると、バリア性能が低下することになる。
【0008】
従って、本発明の主な目的は、熱水処理前及び比較的低温又は短時間の熱水処理後でも、優れたガスバリア性を発現するとともに、水蒸気バリア性を兼ね備えたガスバリア性積層体を提供することにある。さらに、本発明は、耐屈曲性に優れたガスバリア性積層体を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、フィルム中に金属化合物を有し、ガスバリア層にポリカルボン酸系化合物を用いたガスバリア性積層体において、ポリ塩化ビニリデン共重合体を含む層を特定の位置に配置したフィルムが上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記のガスバリア性積層体に係る。
1. 少なくともポリ塩化ビニリデン共重合体含有層(III)、プラスチック基材(I)及びガスバリア層(II)を順に含む積層体であって、
(1)プラスチック基材(I)は、樹脂成分及び金属化合物を含有し、当該金属化合物の含有量が0.1~20質量%であり、
(2)ガスバリア層(II)は、ポリカルボン酸及び/又はその無水物を含有し、かつ、プラスチック基材(I)の一方の面上に積層されており、
(3)ポリ塩化ビニリデン共重合体含有層(III)は、プラスチック基材(I)のガスバリア層(II)が積層された他方の面上に積層されており、
(4)前記積層体の酸素透過度及び水蒸気透過度において、
(4-1)温度20℃及び相対湿度90%雰囲気下における酸素透過度が100 ml/(m・day・MPa)以下であり、
(4-2)温度40℃及び相対湿度90%雰囲気下における水蒸気透過度が30g/(m・day)以下である
ことを特徴とするガスバリア性積層体。
2. プラスチック基材(I)がポリアミド系フィルムを含む、前記項1に記載のガスバリア性積層体。
3. ガスバリア層(II)がさらにポリアルコールを含有する、前記項1又は2に記載のガスバリア性積層体。
4. (A)前記積層体を温度80℃×30分の熱水処理した後の酸素透過度及び水蒸気透過度において、(A1)温度20℃及び相対湿度90%雰囲気下における酸素透過度が50 ml/(m・day・MPa)以下であり、(A2)温度40℃及び相対湿度90%雰囲気下における水蒸気透過度が30g/(m・day)以下であり、
(B)前記積層体を温度120℃×30分の熱水処理した後の酸素透過度及び水蒸気透過度において、(B1)温度20℃及び相対湿度90%雰囲気下における酸素透過度が50 ml/(m・day・MPa)以下であり、(B2)温度40℃及び相対湿度90%雰囲気下における水蒸気透過度が30g/(m・day)以下である、
前記項1~3のいずれかに記載のガスバリア性積層体。
5. 少なくともポリ塩化ビニリデン共重合体含有層(III)、プラスチック基材(I)及びガスバリア層(II)を順に含む積層体であって、
(1)プラスチック基材(I)は、樹脂成分及び金属化合物を含有し、当該金属化合物の含有量が0.1~20質量%であり、
(2)ガスバリア層(II)は、ポリカルボン酸及び/又はその無水物を含有し、かつ、プラスチック基材(I)の一方の面上に積層されており、
(3)ポリ塩化ビニリデン共重合体含有層(III)は、プラスチック基材(I)のガスバリア層(II)が積層された他方の面上に積層されており、
(4)前記積層体の酸素透過度及び水蒸気透過度において、
(4-1)温度20℃及び相対湿度90%雰囲気下における酸素透過度が50 ml/(m・day・MPa)以下であり、
(4-2)温度40℃及び相対湿度90%雰囲気下における水蒸気透過度が30g/(m・day)以下である
ことを特徴とするガスバリア性積層体。
6. 前記項1~5のいずれかに記載のガスバリア性積層体を含む包装材料。
7. 内容物を密封するために用いられる、前記項6に記載の包装材料。
8. 少なくともa)ポリ塩化ビニリデン共重合体含有層(III)、b)樹脂成分及び金属化合物を含有し、当該金属化合物の含有量が0.1~20質量%含有するプラスチック基材(I)及びc)ガスバリア層(II)を順に含むガスバリア性積層体を製造する方法であって、
(1)プラスチック基材(I)の一方の面上にポリカルボン酸及び/又はその無水物を含有するガスバリア層(II)形成用塗工液を塗布する工程、
(2)プラスチック基材(I)の他方の面上にポリ塩化ビニリデン共重合体含有層(III)形成用塗工液を塗布する工程、
(3)前記(1)及び(2)の工程後、両塗工液による塗膜が形成された積層体を延伸する工程
を含むことを特徴とするガスバリア性積層体の製造方法。
9. 前記項4に記載のガスバリア性積層体を製造する方法であって、
少なくともポリ塩化ビニリデン共重合体含有層(III)、プラスチック基材(I)及びガスバリア層(II)を順に含む積層体であり、
(1)プラスチック基材(I)は、樹脂成分及び金属化合物を含有し、当該金属化合物の含有量が0.1~20質量%であり、
(2)ガスバリア層(II)は、ポリカルボン酸及び/又はその無水物を含有し、かつ、プラスチック基材(I)の一方の面上に積層されており、
(3)ポリ塩化ビニリデン共重合体含有層(III)は、プラスチック基材(I)のガスバリア層(II)が積層された他方の面上に積層されており、
(4)前記積層体の酸素透過度及び水蒸気透過度において、
(4-1)温度20℃及び相対湿度90%雰囲気下における酸素透過度が100 ml/(m・day・MPa)以下であり、
(4-2)温度40℃及び相対湿度90%雰囲気下における水蒸気透過度が30g/(m・day)以下である、積層体を
熱水処理する工程を含むことを特徴とするガスバリア性積層体の製造方法。
10. さらに(4)延伸された積層体を熱水処理する工程を含む、前記項8に記載のガスバリア性積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ガスバリア性(特に酸素バリア性)と水蒸気バリア性を兼ね備えており、さらには比較低温又は短時間の熱水処理することによって、より優れたガスバリア性(特に酸素バリア性)を発現するとともに、良好な水蒸気バリア性を兼ね備えたガスバリア性積層体を提供することができる。さらに、本発明は、優れた耐屈曲性も兼ね備えたガスバリア性積層体を提供することもできる。
【0012】
特に、本発明においては、金属化合物を0.1~20質量%含有するプラスチック基材(I)の一方の面にポリカルボン酸類を含有するガスバリア層(II)を積層し、他方の面にポリ塩化ビニリデン共重合体含有層(以下「PVDC層)」ともいう。)(III)を積層することにより、熱水処理中にプラスチック基材(I)から水中に溶出する金属化合物量を減少させることができ、ガスバリア層(II)と金属化合物との反応性を向上させることが可能となる。その結果、ガスバリア層(II)と金属化合物とを比較的マイルドな熱水条件でも十分な架橋反応を進行させることができるため、比較的低温又は短時間の熱水処理後でも安定して優れたガスバリア性を発現させることが可能となる。換言すれば、従来技術のような高温・長時間で熱水処理しなくても十分な量の金属化合物をガスバリア層(II)と反応させることにより、優れたガスバリア性を得ることができる。
【0013】
また同時に、特にPVDC層(III)の積層により、優れたガスバリア性だけでなく、水蒸気バリア性とも兼ね備えたフィルムとなる。このため、水蒸気バリア性が要求される用途にも好適に用いることができる。
【0014】
さらに、本発明は、バリア層として無機酸化物(又は金属)の薄膜に依存しなくても良いので、高い耐屈曲性を発揮させることができる。すなわち、本発明のガスバリア性積層体は、屈曲されても高いガスバリア性等を持続させることができる。その結果、耐久性に優れた包装材料等を提供することが可能となる。
【0015】
このような本発明のガスバリア性積層体は、良好なガスバリア性と水蒸気バリア性を有し、さらに比較的低温又は短時間の熱水処理によってよりいっそう優れたガスバリア性を発現するものである。このため、熱水処理を必要とする食品、医薬品等の包装材料として、幅広い用途に使用することが可能となる。とりわけ、高温又は長時間の熱水処理で変質・劣化しやすい製品、含水率変化によって品質に影響が及ぶ製品の包装に適している。また、本発明のガスバリア性積層体が発現するガスバリア性は、高湿度下でも有効であるため、比較的過酷な環境下での長期保管のために用いられる包装材料等としても好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のガスバリア性積層体の基本的な層構成を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.ガスバリア性積層体
本発明のガスバリア性積層体(本発明積層体)は、少なくともポリ塩化ビニリデン共重合体含有層(III)、プラスチック基材(I)及びガスバリア層(II)を順に含む積層体であって、
(1)プラスチック基材(I)は、樹脂成分及び金属化合物を含有し、当該金属化合物の含有量が0.1~20質量%であり、
(2)ガスバリア層(II)は、ポリカルボン酸及び/又はその無水物を含有し、かつ、プラスチック基材(I)の一方の面上に積層されており、
(3)ポリ塩化ビニリデン共重合体含有層(III)は、プラスチック基材(I)のガスバリア層(II)が積層された他方の面上に積層されており、
(4)前記積層体の酸素透過度及び水蒸気透過度において、
(4-1)温度20℃及び相対湿度90%雰囲気下における酸素透過度が100 ml/(m・day・MPa)以下であり、
(4-2)温度40℃、相対湿度90%雰囲気下における水蒸気透過度が30g/(m・day)以下である
ことを特徴とする。
【0018】
本発明積層体の基本構成を図1に示す。本発明積層体10は、プラスチック基材11の一方の面上にガスバリア層12が積層されており、他方の面上にポリ塩化ビニリデン共重合体含有層13が積層されている。このように、本発明積層体10は、PVDC層13/プラスチック基材11/ガスバリア層12を基本構成とする。これらの各層は、互いに直に接するように積層されていても良いし、必要に応じて他の層(例えば接着剤層等)を介して積層されていても良い。特に、本発明では、プラスチック基材11に直に接するようにガスバリア層12が積層されていることが好ましい。
【0019】
本発明積層体は、PVDC層13/プラスチック基材11/ガスバリア層12を基本構成とし、必要に応じてPVDC層13及び/又はガスバリア層12の面上に他の層が積層されていても良い。他の層としては、例えば印刷層、接着剤層、ヒートシール層、金属箔層等が挙げられる。以下、本発明積層体を構成する各層について説明する。
【0020】
(1)プラスチック基材(I)
プラスチック基材(I)は、樹脂成分(以下「樹脂成分A」ともいう。)及び金属化合物を含有し、当該金属化合物の含有量が0.1~20質量%であることを特徴とする。
【0021】
樹脂成分Aとしては、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂のいずれも用いることができるが、本発明では特に熱可塑性樹脂を好適に用いることができる。熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、例えばa)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、b)ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロンMXD6、ナイロン9T等のポリアミド樹脂、c)ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル樹脂、d)その他の樹脂(塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、エチレン-酢酸ビニル系共重合体、エチレン-ビニルアルコール系共重合体等)、e)前記a)~d)の混合物等が挙げられる。
【0022】
本発明では、熱可塑性樹脂の中では、ポリアミド樹脂が好ましく、特にナイロン6がより好ましい。ポリアミド樹脂は親水性のアミド基を有するため、本発明積層体を湿熱処理又は熱水処理に供した際に、プラスチック基材(I)中の金属化合物からなる金属イオンが速やかにガスバリア層(II)に移行し、ポリカルボン酸と反応し、イオン架橋することによってガスバリア性をより強化できるほか、本発明積層体により包装材料(特に包装用袋体)を構成した際により優れた突刺し強力、耐衝撃性等を得ることができる。ポリアミド樹脂は、1種又は2種以上の混合物で用いることができる。
【0023】
プラスチック基材(I)中における樹脂成分Aの含有量は、用いる樹脂成分の種類等に応じて適宜設定できるが、通常は70~100質量%程度とし、特に80~99質量%とすることが好ましい。また、樹脂成分Aとしてポリアミド樹脂を用いる場合、樹脂成分A中におけるポリアミド樹脂の含有割合は、一般的に80~100質量%とし、特に90~99質量%とすることが好ましい。
【0024】
金属化合物を構成する金属としては、特に限定されず、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等の1価の金属、マグネシウム、カルシウム、ジルコニウム、亜鉛、銅、コバルト、鉄、ニッケル、アルミニウム等の2価以上の金属が挙げられる。金属の種類は1種に限定されず、2種以上であっても良い。
【0025】
これらの中でも、ガスバリア層(II)を構成するポリカルボン酸類と反応しやすいという点でイオン化傾向の高い金属が好ましく、ガスバリア性という観点から2価の金属が好ましい。従って、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム及び亜鉛の少なくとも1種であることが好ましく、特にマグネシウム、カルシウム及び亜鉛の少なくとも1種であることがより好ましい。
【0026】
本発明において金属化合物は、上記金属を含有する化合物であれば良く、特に限定されない。例えば、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、無機酸塩(炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、硫酸塩等)、有機酸塩(カルボン酸塩(酢酸塩、ギ酸塩、ステアリン酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩)、スルホン酸塩等)が挙げられる。本発明では、優れたガスバリア性を発現させるという点で特に酸化物又は炭酸塩であることが好ましい。
【0027】
上記の金属化合物のうち、好ましい例として、炭酸リチウム、炭酸水素ナトリウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛等の少なくとも1種を挙げることができる。
【0028】
ガスバリア性の観点からは、2価金属化合物が好ましく、特にマグネシウム化合物、カルシウム化合物及び亜鉛化合物の少なくとも1種を用いることがより好ましい。従って、例えば酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酢酸カルシウム、酸化亜鉛及び酢酸亜鉛の少なくとも1種を好適に用いることができる。また、プラスチック基材(I)の透明性の観点からは、1価金属化合物及び2価金属化合物の少なくとも1種が好ましく、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物の少なくとも1種がより好ましい。従って、例えば炭酸リチウム、炭酸水素ナトリウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム及び水酸化マグネシウムの少なくとも1種を好適に用いることができる。
【0029】
金属化合物の形態(性状)は、限定的ではないが、通常は粉末状であることが好ましい。すなわち、プラスチック基材(I)中に金属化合物の粒子が分散した構成をとることが好ましい。
【0030】
粉末状の金属化合物を用いる場合の平均粒径は、特に限定されないが、通常0.001~10μm程度とすれば良いが、特に0.005~5μmであることが好ましく、さらに0.01~2μmであることより好ましく、その中ても0.05~1μmが最も好ましい。プラスチック基材(I)のヘイズを小さくすることができるという見地より、平均粒径が小さい方が好ましい。他方、平均粒径が0.001μm未満である場合は、表面積が大きいために凝集しやすくなり、粗大凝集物がフィルム中に散在した場合は基材の機械物性を低下させることがある。一方、平均粒径が10.0μmを超える金属化合物を含有するプラスチック基材(I)は、製膜する時に破断する頻度が高くなり、生産性が低下する傾向がある。
【0031】
金属化合物(粒子)は、必要に応じて表面処理(表面皮膜形成処理)を施すことができる。これにより、分散性、耐候性、熱可塑性樹脂との濡れ性、耐熱性、透明性等を改善することができる。表面処理は、公知の無機処理又は有機処理を採用することができる。無機処理としては、例えばアルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化アンチモン、酸化亜鉛等を金属化合物の粒子表面に形成する処理が挙げられる。有機処理としては、例えば脂肪酸化合物、ペンタエリトリット、トリメチロールプロパン等のポリオール化合物、トリエタノールアミン、トリメチロールアミン等のアミン化合物、シリコーン樹脂、アルキルクロロシラン等のシリコーン系化合物を金属化合物の粒子表面に形成する処理が挙げられる。
【0032】
プラスチック基材(I)中の金属化合物の含有量は、通常0.1~20質量%であり、特に0.1~18質量%であることが好ましく、さらに0.2~15質量%であることがより好ましく、その中でも0.3~10質量%であることが最も好ましい。また、ヘイズの観点からは5質量%以下であることが好ましい。プラスチック基材(I)中の金属化合物の含有量が0.1~20質量%であると、優れたガスバリア性と機械物性を得ることができる。これに対し、プラスチック基材(I)中の金属化合物の含有量が0.1質量%未満であると、ガスバリア層(II)のポリカルボン酸類と反応して形成されるイオン架橋構造が少なくなり、所望のガスバリア性が得られなくなる。一方、上記含有量が20質量%を超えるプラスチック基材(I)は、製膜時の延伸において破断する頻度が高くなり、生産性が低下しやすくなり、機械物性も低下しやすくなる。なお、金属化合物の含有量は、例えば後記の試験例1に示すプラズマ原子発光分析装置によって測定された金属含有量の測定結果に基づいて算出することができる。
【0033】
プラスチック基材(I)(特に熱可塑性樹脂)中には、プラスチック基材(I)の性能に悪影響を与えない範囲において、例えば熱安定剤、酸化防止剤、強化材、顔料、劣化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、防腐剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤等の各種の添加剤の1種又は2種以上を必要に応じて添加しても良い。また、プラスチック基材(I)のスリップ性を向上させる等の目的で金属化合物以外の無機系又は有機系滑剤を添加しても良く、例えばシリカを滑剤として好適に添加することができる。なお、これら添加剤が金属化合物に該当する場合は、その添加剤の含有量は前記金属化合物の含有量に含める。
【0034】
プラスチック基材(I)の厚みは、特に限定されず、例えば得られるガスバリア性積層体が必要とする機械的強度等に応じて適宜選択できる。特に、機械的強度、ハンドリングのしやすさ等の理由から、プラスチック基材(I)の厚みは、通常5~100μmとすることが好ましく、特に10~30μmであることがより好ましい。プラスチック基材(I)は、厚みが5μm未満であると、十分な機械的強度が得られず、突刺し強力が低下するおそれがある。
【0035】
(2)ガスバリア層(II)
ガスバリア層(II)は、ポリカルボン酸及び/又はその無水物(本発明では、両者をまとめて「ポリカルボン酸類」と総称する。)を含有し、かつ、プラスチック基材(I)の一方の面上に積層されている。
【0036】
ガスバリア層(II)中に含まれるポリカルボン酸類は、特にプラスチック基材(I)中の金属化合物と反応することによってガスバリア性を発現させる役割を果たす。
【0037】
ポリカルボン酸類は、分子中にカルボキシル基を2個以上有する化合物又はその無水物である。無水物の場合、全てのカルボキシル基が無水物構造[-CO-O-CO-]を有していても良いし、その一部のカルボキシル基が無水物構造を有していても良い。また、ポリカルボン酸類は、単量体又は重合体のいずれの形態であっても良い。
【0038】
ポリカルボン酸類の具体例としては、a)1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸等の単量体化合物、b)ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸-メタクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸-マレイン酸共重合体、アクリル酸-無水マレイン酸共重合体等の(メタ)アクリル酸のホモポリマー又は共重合体、d)ポリマレイン酸、エチレン-マレイン酸共重合体、エチレン-無水マレイン酸共重合体等のオレフィン-マレイン酸系共重合体、e)アルギン酸のように側鎖にカルボキシル基を有する多糖類、f)カルボキシル基を有するポリアミド又はポリエステル等を例示することができる。これらポリカルボン酸類は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。なお、上記「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸及びメタクリル酸を総称したものである(以下同じ。)。
【0039】
ポリカルボン酸類が重合体である場合、その重量平均分子量は特に制限されないが、一般的には1,000~1,000,000であることが好ましく、特に10,000~150,000であることがより好ましく、その中でも15,000~110,000であることが最も好ましい。ポリカルボン酸類の重量平均分子量が低すぎると、得られるガスバリア層(II)は脆弱になるおそれがある。一方、分子量が高すぎるとハンドリング性が損なわれ、場合によっては後述するガスバリア層(II)を形成するための塗工液中で凝集し、得られるガスバリア層(II)のガスバリア性が損なわれるおそれがある。
【0040】
本発明において、ポリカルボン酸類として、オレフィン-マレイン酸系共重合体を用いることが好ましく、特にエチレン-マレイン酸系共重合体(以下「EMA」ともいう。)を用いることがより好ましい。EMAを用いることによって、より優れたガスバリア性を得ることができる。EMA自体は、公知又は市販のものを使用することができる。また、公知の製造方法によって得られたものを使用することもできる。従って、例えば無水マレイン酸とエチレンとを用いて溶液ラジカル重合等の方法で重合して得られた共重合体も使用することができる。
【0041】
EMA中のマレイン酸単位は、5モル%以上であることが好ましく、20モル%以上であることがより好ましく、30モル%以上であることがさらに好ましく、35モル%以上であることが最も好ましい。なお、オレフィン-マレイン酸系共重合体中のマレイン酸単位は、乾燥状態では隣接カルボキシル基が脱水環化した無水マレイン酸構造となりやすく、湿潤時又は水溶液中では開環してマレイン酸構造となる。このため、本発明においては、特記しない限り、マレイン酸単位と無水マレイン単位とを総称してマレイン酸単位という。
【0042】
また、EMAの重量平均分子量は、特に限定されないが、通常1,000~1,000,000程度とすれば良いが、好ましくは3,000~500,000とし、より好ましくは7,000~300,000とし、最も好ましくは10,000~200,000とすることができる。
【0043】
ガスバリア層(II)中におけるポリカルボン酸類の含有量は、特に限定されず、用いるポリカルボン酸類の種類等に応じて適宜設定できるが、通常は40~90質量%程度とし、特に50~80質量%とすることが望ましい。
【0044】
本発明積層体におけるガスバリア層(II)は、ポリカルボン酸類のほかにも、他の成分(特にポリカルボン酸類と反応してボリカルボン酸類を架橋する成分)が含まれていても良い。例えば、本発明積層体では、ポリアルコール等を含有することが好ましい。
【0045】
ガスバリア層(II)中にポリアルコールを含有させることによって、より高いガスバリア性を得ることができる。すなわち、ガスバリア層(II)中のポリカルボン酸類は、プラスチック基材(I)中の金属化合物と反応することに加えて、ポリアルコール中の水酸基とエステル架橋反応し得るので、ガスバリア性をよりいっそう向上させることができる。
【0046】
ポリアルコールは、分子内に2個以上の水酸基を有する化合物であり、その限りにおいて低分子化合物又は高分子化合物(重合体)のいずれであっても良い。例えば、グリセリン、ペンタエリスリトール等の糖アルコール、グルコース等の単糖類、マルトース等の二糖類、ガラクトオリゴ糖等のオリゴ糖が挙げられる。高分子化合物としては、例えばポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、でんぷん等の多糖類が挙げられる。上記ポリアルコールは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0047】
ポリアルコールがポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等である場合のケン化度は、限定的ではないが、通常は95モル%以上であることが好ましく、98モル%以上であることがよりに好ましい。また、平均重合度は、50~2,000であることが好ましく、200~1,000であることがより好ましい。これによって、より優れたガスバリア性を得ることができる。
【0048】
ポリアルコールの含有量は、限定的ではないが、特にポリアルコール中に含まれるOH基とポリカルボン酸類中に含まれるCOOH基(無水物の場合は[-CO-O-CO-]を2個のCOOH基と換算する。)とのモル比(OH基/COOH基)が、0.01~20となるように設定すれば良いが、特に0.01~10となるようにすることが好ましく、さらに0.02~5となるようすることがより好ましく、その中でも0.04~2となるようにすることが最も好ましい。これによって、より優れたガスバリア性を得ることができる。
【0049】
ガスバリア層(II)には、特にガスバリア性、プラスチック基材(I)との接着性等を大きく損なわない限りにおいて、例えば熱安定剤、酸化防止剤、強化材、顔料、劣化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、離型剤、滑剤、防腐剤、消泡剤、濡れ剤、粘度調整剤等が必要に応じて添加されていても良い。特に、熱安定剤、酸化防止剤、劣化防止剤等としては、例えばヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン類、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物等が挙げられ、これらを混合して使用しても良い。また、強化材としては、例えばクレー、タルク、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、珪酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、ゼオライト、モンモリロナイト、ハイドロタルサイト、フッ素雲母、金属繊維、金属ウィスカー、セラミックウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー、窒化ホウ素、グラファイト、ガラス繊維、炭素繊維、フラーレン(C60、C70等)、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0050】
ガスバリア層(II)の厚みは、特に限定されないが、ガスバリア性積層体のガスバリア性をより確実に得るために0.05μm以上とすることが好ましい。その厚みの上限値は、特に制限されないが、経済性等の見地より5μm程度とすることが好ましい。
【0051】
(3)ポリ塩化ビニリデン共重合体含有層(III)
PVDC層(III)は、図1で示したようにプラスチック基材(I)のガスバリア層(II)が積層された他方の面上に積層される。
【0052】
PVDC層(III)の形成によって、プラスチック基材(I)中の金属化合物が熱水処理中にガスバリア性積層体の外部への溶出を効果的に抑制することができる。その結果、金属化合物とガスバリア層(II)の反応性が高まり、比較的低温又は短時間の熱水処理においても優れたガスバリア性を安定して得ることができる。さらに、PVDC層(III)が有するガスバリア性と水蒸気バリア性とが積層体に付与されることにより、熱水処理がなくても良好なバリア性を得ることができる。
【0053】
PVDC層(III)に含まれるポリ塩化ビニリデン共重合体は、1,1-ジクロロエチレン(塩化ビニリデンモノマー)及びそれと共重合可能な単量体との共重合体であり、1,1-ジクロロエチレンの含有量が50~99質量%であるものを好適に採用することができる。1,1-ジクロロエチレン(塩化ビニリデンモノマー)及びそれと共重合可能な単量体としては、特に限定されず、例えば塩化ビニル、アクリロニトリル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等が挙げられる。
【0054】
このようなポリ塩化ビニリデン共重合体は、公知又は市販のものを使用することもできる。また、公知の製造方法によって得られたものを使用することもできる。
【0055】
例えば、1,1-ジクロロエチレン(塩化ビニリデンモノマー)及びそれと共重合可能な単量体を所定の割合を含む原料を用い、これを乳化重合方法によって重合することにより、媒体に分散したラテックスとして上記共重合体を得ることができる。乳化重合方法は、公知の条件に従って実施することができる。このようにして得られたラテックス又はその濃度を調整した液体をPVDC層(III)形成用塗工液として用いることができる。また、前記の塗工液を成膜して得られたフィルムをPVDC層(III)用フィルムとして用いることもできる。
【0056】
ポリ塩化ビニリデン共重合体の分子量(重量平均分子量)は、特に限定されないが、通常は通常12万~30万程度であり、好ましくは12万~22万である。これにより、より優れた水蒸気バリア性をもつPVDC層(III)を形成することができる。
【0057】
PVDC層(III)中におけるポリ塩化ビニリデン共重合体の含有量は、特に制限されないが、通常は50~100質量%程度とし、好ましくは70~95質量%とすることができる。従って、PVDC層(III)中には、本発明の効果を妨げない範囲内で他の成分が含まれていても良い。例えば、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、防腐剤等の各種添加剤を必要に応じて用いることができる。
【0058】
PVDC層(III)の膜厚は、限定的ではないが、通常は0.5~3.5μm程度とすることが好ましく、特に0.7~3.0μmとすることがより好ましく、その中でも1.0~2.0μmとすることが最も好ましい。膜厚が0.5μm未満である場合は、本発明の目的とする金属化合物の溶出抑制効果が十分発現しない場合がある。一方、膜厚が、3.5μmを超える場合は、造膜性が低下して皮膜の外観が損なわれやすい。また、膜厚が高くなりすぎるとフィルムが硬くなる傾向にあるため、耐ピンホール性、耐屈曲性等が低下しやすくなる。
【0059】
(4)酸素透過度及び水蒸気透過度
本発明のガスバリア性積層体は、高いガスバリア性及び水蒸気バリア性を有する。さらに、熱水処理することによりプラスチック基材(I)中に含まれる金属化合物の金属イオンによる架橋反応が生じ、これにより最終的に所望のガスバリア性及び水蒸気バリア性を得ることができる。ここに、本発明において、前記「熱水処理」とは、プラスチック基材(I)中に含まれる金属化合物の金属イオンによる架橋反応を完了させる熱水での処理を意味し、通常は70℃以上の熱水による処理をいうが、特に酸素透過度を低減できる限りはこれに限定されない。
【0060】
本発明のガスバリア性積層体の酸素透過度においては、温度20℃及び相対湿度90%雰囲気下における酸素透過度は、通常100ml/(m・day・MPa)以下であることが必要であり、80ml/(m・day・MPa)以下であることが好ましく、さらに50 ml/(m・day・MPa)以下であることがより好ましい。その下限値は、例えば30ml/(m・day・MPa)程度とすることができるが、これに限定されない。
【0061】
また、本発明のガスバリア性積層体の水蒸気透過度においては、温度40℃及び相対湿度90%雰囲気下における水蒸気透過度が30g/(m・day)以下であることが必要であり、特に20g/(m・day)以下であることが好ましく、その中でも15g/(m・day)以下であることがより好ましい。その下限値は、例えば5g/(m・day)程度とすることができるが、これに限定されない。
【0062】
2.ガスバリア性積層体の物性
本発明積層体は、基本的にはシート状の形態で提供される。その総厚みは、用途等に応じて適宜設定できるが、通常は5~50μmの範囲内で適宜設定することができるが、中でも10~35μmとすることが好ましい。
【0063】
また、本発明積層体は、特にPVDC層(III)がプラスチック基材表面に形成されているので、特に本発明積層体が湿熱処理又は熱水処理に供された場合にプラスチック基材(I)から溶出する金属化合物量を抑制することができる。より具体的には、本発明積層体に、120℃×30分の熱水処理を施すことによりプラスチック基材(I)から溶出する金属化合物の量(減少量)は、通常20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは15質量%以下、最も好ましくは10質量%以下である。溶出する金属化合物量が20質量%を超える場合、金属化合物とガスバリア層(II)との反応性が低下し、低温・短時間の熱水処理によるバリア性が発現しない。
【0064】
本発明積層体は、温度20℃及び相対湿度90%雰囲気下における酸素透過度において、80℃×30分の熱水処理後の酸素透過度及び120℃×30分の熱水処理後の酸素透過度がともに50ml/(m・day・MPa)以下であることが好ましく、30ml/(m・day・MPa)以下であることがより好ましく、20ml/(m・day・MPa)以下であることが最も好ましい。両酸素透過度は、互いに同じであっても良いし、互いに異なっていても良い。なお、両酸素透過度の下限値は、例えば通常0.01 ml/(m・day・MPa)程度とすることができるが、これに限定されない。従って、例えば0.5ml/(m・day・MPa)程度することもできる。
【0065】
本発明積層体は、温度40℃及び相対湿度90%雰囲気下における水蒸気透過度において、80℃×30分の熱水処理後の水蒸気透過度及び120℃×30分の熱水処理後の水蒸気透過度がともに30g/(m・day)以下であることが好ましく、特に20g/(m・day)以下であることがより好ましく、その中でも15g/(m・day)以下であることが最も好ましい。両水蒸気透過度は、互いに同じであっても良いし、互いに異なっていても良い。なお、両水蒸気透過度の下限値は、例えば通常1g/(m・day)程度とすることができるが、これに限定されない。従って、例えば5g/(m・day)程度とすることもできる。
【0066】
従って、本発明は、上記のような熱水処理後の酸素透過度及び水蒸気透過度を有するガスバリア性積層体も包含する。すなわち、少なくともポリ塩化ビニリデン共重合体含有層(III)、プラスチック基材(I)及びガスバリア層(II)を順に含む積層体であって、(1)プラスチック基材(I)は、樹脂成分及び金属化合物を含有し、当該金属化合物の含有量が0.1~20質量%であり、(2)ガスバリア層(II)は、ポリカルボン酸及び/又はその無水物を含有し、かつ、プラスチック基材(I)の一方の面上に積層されており、(3)ポリ塩化ビニリデン共重合体含有層(III)は、プラスチック基材(I)のガスバリア層(II)が積層された他方の面上に積層されており、(4)前記積層体の酸素透過度及び水蒸気透過度において、(4-1)温度20℃及び相対湿度90%雰囲気下における酸素透過度が50 ml/(m・day・MPa)以下であり、(4-2)温度40℃及び相対湿度90%雰囲気下における水蒸気透過度が30g/(m・day)以下であることを特徴とするガスバリア性積層体も、本発明に含まれる。かかるガスバリア性積層体は、特に、熱水処理前の前記積層体よりも優れた酸素バリア性を発揮するものである。
【0067】
本発明積層体の引張強度は、限定的ではないが、特に150MPa以上であることが好ましく、さらに180MPa以上であることがより好ましい。引張強度が150MPa未満であると、機械的強度が十分ではなく、突刺し強力が低下する傾向がある。また、引張伸度は、限定的ではないが、引張強度と同様の観点から、特に60%以上が好ましく、さらに80%以上であることがより好ましい。
【0068】
本発明積層体の耐屈曲性は、20℃雰囲気下での500回繰り返し屈曲疲労テスト後の酸素透過度及び水蒸気透過度の増加率が40%以下であることが好ましく、特に20%以下であることがより好ましい。具体的にはASTM F 392に従い、ゲルボテスター(テスター産業社製)において20℃×65%RH雰囲気下で、500回屈曲を繰り返した後の透過度を、屈曲疲労テストを行わなかった場合の透過度と比較して評価した。
【0069】
本発明積層体の透明性は、通常はヘイズが30%以下であることが好ましく、特に20%以下であることがより好ましく、10%以下であることが最も好ましい。ただし、用途によっては透明性を必要としない場合があるため、この限りではない。
【0070】
3.ガスバリア性積層体の製造
本発明性積層体の製造方法は、特に限定されず、例えばa)各層を構成し得る混合物を成形することによりシートはフィルムを得る方法、b)各層を構成し得る塗工液による塗膜を形成する方法、c)前記a)及びb)を組み合わせる方法等のいずれかにより各層の形成及び積層を行うことによって実施することができるが、本発明では、特に樹脂成分A及び金属化合物を含む未延伸フィルムをプラスチック基材(I)の前駆体として用い、その前駆体又は延伸フィルムにガスバリア層(II)形成用塗工液及びPVDC層(III)形成用塗工液がプライマー層を介さずに塗布形成させる方法を好適に採用することができる。
【0071】
本発明においては、延伸は、一軸延伸又は二軸延伸のいずれであっても良いが、特に二軸延伸とすることが好ましい。二軸延伸の場合は、逐次二軸延伸又は同時二軸延伸のいずれであっても良い。例えば、両塗工液を塗布・乾燥された未延伸フィルムをテンター式同時二軸延伸機にて縦方向(MD)及び横方向(TD)に同時二軸延伸を施すことで、同時二軸延伸されたガスバリア性積層体を得ることができる。また例えば、両塗工液を塗布・乾燥された未延伸フィルムを縦方向(MD)に延伸した後、前述の方法でガスバリア層(II)、PVDC層(III)を形成し、次いで横方向(TD)に延伸を施すことで、逐次二軸延伸されたガスバリア性積層体を得ることができる。
【0072】
延伸する場合の延伸倍率は、特に限定されないが、一軸延伸の場合は1.5倍以上であることが好ましく、特に2~6倍であることがより好ましい。また、二軸延伸の場合も、特に限定されないが、縦横(MD及びTD)に各々1.5倍以上であることが好ましく、特に2~4倍であることがより好ましい。また、面積倍率としては、通常3倍以上であることが好ましく、特に6~20倍であることがより好ましく、その中でも6.5~13倍であることが最も好ましい。延伸倍率を上記範囲に設定することによって、より優れた物性を有するガスバリア性積層体を得ることが可能となる。
【0073】
本発明では、二軸延伸を採用する場合は、同時二軸延伸又は逐次二軸延伸のいずれかによって下記のような方法を好適に用いることができる。
【0074】
第1方法(同時二軸延伸の場合)としては、ガスバリア性積層体を製造する方法であって、(1)樹脂成分A及び金属化合物を含む未延伸フィルムの片面にガスバリア層(II)形成用塗工液を塗布・乾燥する工程(ガスバリア層(II)形成工程)、(2)前記未延伸フィルムのガスバリア層(II)が積層された反対の面にPVDC層(III)形成用塗工液を塗布・乾燥する工程(水蒸気バリア層(III)形成工程)、(3)前記の両塗工液が塗布・乾燥された未延伸フィルムを同時二軸延伸する工程(延伸工程)を含む方法によって、本発明積層体を好適に製造することができる。
【0075】
第2方法(逐次二軸延伸の場合)としては、ガスバリア性積層体を製造する方法であって、(1)樹脂成分A及び金属化合物を含む未延伸フィルムを縦方向(MD)に延伸する工程(第1延伸工程)、(2)縦方向に延伸されたフィルムの片面にガスバリア層(II)形成用塗工液を塗布・乾燥し、ガスバリア層(II)が積層された反対の面にPVDC層(III)形成用塗工液を塗布・乾燥する工程(塗膜形成工程)、(4)両塗工液が塗布されたフィルムを横方向(TD)に延伸する工程(第2延伸工程)を含む方法によって、本発明積層体を好適に製造することができる。
【0076】
特に、本発明では、第1方法(同時二軸延伸)を採用することが好ましい。同時二軸延伸方法は、一般に機械的特性、光学特性、熱寸法安定性、耐ピンホール性、耐屈曲性等の実用特性を兼備させることができる。これに対し、縦延伸の後に横延伸を行う逐次二軸延伸方法では、縦延伸時にフィルムの配向結晶化が進行して横延伸時の熱可塑性樹脂の延伸性が低下することにより、金属化合物の配合量が多い場合にフィルムの破断頻度が高くなる傾向がある。このため、本発明においては、同時二軸延伸方法を採ることが好ましい。よって、以下においては、上記の第1方法を本発明積層体の製造方法の代表例として説明する。
【0077】
(1a)未延伸フィルム
前記ガスバリア層(II)形成工程で用いる未延伸フィルムは、プラスチック基材(I)の前駆体であり、例えば樹脂成分(熱可塑性樹脂)及び金属化合物を含む混合物をシート状又はフィルム状に成形することによって製造することができる。
【0078】
上記混合物を調製する方法は、特に限定されない。例えば、a)樹脂成分(特に熱可塑性樹脂)を合成(重合)する際に金属化合物を添加する方法、b)樹脂成分と金属化合物とを押出機にて混練する方法、c)金属化合物を高濃度に練り込んで配合したマスターバッチを製造し、これを熱可塑性樹脂に添加して希釈する方法(マスターバッチ法)等が挙げられる。本発明においては、金属化合物の含有量を調整しやすく、操業性に優れるという点でマスターバッチ法が好ましく採用される。
【0079】
上記成形方法は、特に制限されず、例えばプレス成形、押出成形、射出成形等の公知の成形方法を採用することができる。例えば樹脂成分(熱可塑性樹脂)及び金属化合物を含む混合物を押出機で加熱溶融してTダイよりフィルム状に押出し、例えばエアーナイフキャスト法、静電印加キャスト法等の公知のキャスティング法により回転する冷却ドラム上で冷却固化することにより、未延伸フィルムを得ることができる。未延伸フィルムが配向していると、後工程で延伸性が低下することがあるため、未延伸フィルムは、実質的に無定形、無配向の状態であることが好ましい。
【0080】
なお、使用できる熱可塑性樹脂、金属化合物、添加剤等の種類、それらの含有量等は、前記「1.ガスバリア性積層体」で示した内容と同様である。
【0081】
ここで、熱可塑性樹脂としてポリアミド樹脂を用いる場合は、得られた未延伸フィルムを80℃を超えないように温調した水槽に移送し、通常5分間以内で浸水処理を施し、約0.5~15%吸湿処理することが好ましい。
【0082】
(1b)ガスバリア層(II)形成工程
ガスバリア層(II)形成工程では、樹脂成分及び金属化合物を含む未延伸フィルムの片面にガスバリア層(II)形成用塗工液を塗布・乾燥する。
【0083】
ガスバリア層(II)形成用塗工液は、ガスバリア層(II)を構成する成分を溶媒に溶解又は分散させることによって調製することができる。
【0084】
溶媒としては、水のほか、各種の有機溶剤を用いることができる。有機溶剤としては、例えばシクロヘキサン、ノルマルヘキサン、ベンゼン等の炭化水素系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール等のアルコール系溶剤、アセトン、ケトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、酢酸イソペンチル等のエステル系溶剤、エチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶剤等が挙げられる。これらの中でも、水及び水溶性有機溶剤の少なくとも1種が好ましく、特に水を用いることがより好ましい。水を用いる場合、上記塗工液は水溶液又は水分散液の形態(すなわち、水性塗工液)であることが好ましく、特に少なくともポリカルボン酸類(あるいはポリアルコールの少なくとも1種とポリカルボン酸類)が水に溶解した水溶液の形態であることがより好ましい。
【0085】
また、ガスバリア層(II)形成用塗工液を調製する場合、ポリカルボン酸類のカルボキシル基に対して0.1~20当量%程度のアルカリ化合物を加えることが好ましい。ポリカルボン酸類は、カルボキシル基の含有量が多いと親水性が高くなるので、アルカリ化合物を添加しなくても水溶液にすることができるが、アルカリ化合物を適正量添加することにより、得られるガスバリア性積層体のガスバリア性を格段に向上することができる。この場合、アルカリ化合物は、ポリカルボン酸類のカルボキシル基を中和できるものであれば良く、例えば、水酸化ナトリウム等を挙げることができる。また、アルカリ化合物の添加量は、限定的ではないが、ポリカルボン酸類のカルボキシル基に対して0.1~20モル%程度となるように設定することが好ましい。
【0086】
ガスバリア層(II)形成用塗工液の調製は、例えば撹拌機を備えた溶解釜等を用いて公知の方法で行うことができる。例えば、ポリカルボン酸類とポリアルコールとを別々に水溶液とし、塗工前に混合する方法が好ましい。この時、上記アルカリ化合物をポリカルボン酸類の水溶液に加えておくと、その水溶液の安定性を向上させることができる。
【0087】
ガスバリア層(II)形成用塗工液を塗布する方法は、特に限定されない。例えば、エアーナイフコーター、キスロールコーター、メタリングバーコーター、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、ディップコーター、ダイコーター等のほか、これらのいずれかを組み合わせた方法を用いることができる。これらは、公知又は市販の装置を用いて実施することができる。
【0088】
ガスバリア層(II)形成用塗工液を塗布した後は、自然乾燥させても良いが、加熱による乾燥を実施することが好ましい。加熱による乾燥方法は、特に制限されず、例えばドライヤー等による熱風の吹き付け、赤外線照射等により水分等を蒸発させて乾燥皮膜としてのガスバリア層(II)を形成させる方法が挙げられる。
【0089】
加熱乾燥する場合の乾燥温度は、特に限定されないが、通常は50~200℃程度とし、特に80~150℃とすることが好ましく、さらに100~120℃とすることがより好ましい。乾燥温度が低過ぎると、乾燥被膜の形成時間が長くなり生産性が低下する。一方、乾燥温度が高過ぎると、プラスチック基材(I)、ガスバリア層(II)等が脆化するおそれ等がある。
【0090】
また、ガスバリア層(II)形成用塗工液を塗布する場合は、その乾燥の前後において、必要に応じて、例えば紫外線、X線、電子線等の高エネルギー線照射処理が施されても良い。このような場合には、高エネルギー線照射により架橋又は重合する成分が適宜配合されていても良い。
【0091】
(2)PVDC層(III)形成工程
PVDC層(III)形成工程では、前記未延伸フィルムの他方の面にPVDC層(III)形成用塗工液を塗布・乾燥する。
【0092】
PVDC層(III)形成用塗工液は、PVDC層(III)を構成する成分を溶媒に溶解又は分散させることによって調製することができる。
【0093】
溶媒としては、水のほか、各種の有機溶剤を用いることができる。有機溶剤としては、例えばシクロヘキサン、ノルマルヘキサン、ベンゼン等の炭化水素系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール等のアルコール系溶剤、アセトン、ケトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、酢酸イソペンチル等のエステル系溶剤、エチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶剤等が挙げられる。これらの中でも、水及び水溶性有機溶剤の少なくとも1種が好ましく、特に水を用いることがより好ましい。水を用いる場合、上記塗工液は水溶液又は水分散液の形態(すなわち、水性塗工液)であることが好ましい。
【0094】
ポリ塩化ビニリデン共重合体は、前記「1.ガスバリア性積層体」で説明した通り、公知又は市販のものを使用すれば良い。また、公知の製法(例えば乳化重合方法等)により得られたものを使用することもできる。この場合、乳化重合方法では、ポリ塩化ビニリデン共重合体はラテックスの形態で得ることができるが、そのラテックス又はその濃度を調整した液体をPVDC層(III)形成用塗工液として用いることもできる。この場合のPVDC層(III)形成用塗工液のポリ塩化ビニリデン共重合体の平均粒径は、通常0.05~0.5μmとすることが好ましく、特に0.07~0.3μmとすることがより好ましい。このような粒度に調整することによりラテックスの貯蔵安定性と塗工性をより高めることができる。
【0095】
また、本発明の効果を妨げない範囲内において、PVDC層(III)形成用塗工液は、必要に応じて例えば顔料、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、防腐剤、充填剤等の添加剤を1種又は2種以上添加することができる。例えば、増量等の目的で、重質又は軟質の炭酸カルシウム、雲母、滑石、カオリン、石膏、クレイ、硫酸バリウム、アルミナ、シリカ、炭酸マグネシウム等の少なくとも1種の充填剤を配合することができる。これらの添加剤の配合量は、PVDC100質量部に対して合計量として0.001~2.0質量部程度の範囲であることが好ましい。
【0096】
PVDC層(III)形成用塗工液の調製は、例えば撹拌機を備えた溶解釜等を用いて公知の方法で行うことができる。例えば、この場合の塗工液中におけるポリ塩化ビニリデン共重合体濃度は、特に限定されないが、例えば5~60質量%程度の範囲で適宜設定することができる。
【0097】
PVDC層(III)形成用塗工液を塗布する方法は、特に限定されない。例えば、エアーナイフコーター、キスロールコーター、メタリングバーコーター、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、ディップコーター、ダイコーター等のほか、これらのいずれかを組み合わせた方法を用いることができる。これらは、公知又は市販の装置を用いて実施することができる。
【0098】
PVDC層(III)形成用塗工液を塗布した後は、自然乾燥させても良いが、加熱による乾燥を実施することが好ましい。加熱による乾燥方法は、特に制限されず、例えばドライヤー等による熱風の吹き付け、赤外線照射等により水分等を蒸発させて乾燥皮膜としてのPVDC層(III)を形成させる方法が挙げられる。
【0099】
加熱乾燥する場合の乾燥温度は、例えば添加成分の有無及びその含有量等によっても適宜設定できるが、通常は50~160℃程度とし、特に80~140℃であることが好ましく、さらに100~120℃であることがより好ましい。乾燥温度が低過ぎると、乾燥被膜の形成時間が長くなり生産性が低下する。一方、熱処理温度が高過ぎると、プラスチック基材(I)が脆化したり、PVDC層(III)形成用塗工液の急激な温度上昇に伴い突沸現象が生じて均一な被膜が得られなくなるおそれがある。
【0100】
また、PVDC層(III)形成用塗工液を塗布する場合は、その乾燥の前後において、必要に応じて、例えば紫外線、X線、電子線等の高エネルギー線照射が施されても良い。このような場合には、高エネルギー線照射により架橋又は重合する成分が配合されていても良い。
【0101】
(3)延伸工程
延伸工程では、前記の両塗工液が塗布・乾燥された未延伸フィルムを延伸する。すなわち、いわゆるインラインコート法によって本発明積層体を好適に得ることができる。インラインコート法を用いることによって、フィルムの延伸、熱固定に必要な熱処理とガスバリア層(II)、PVDC層(III)への熱処理を同時に、かつ、比較的高温で実施することが可能となり、ガスバリア性及び生産性を高めることができる。これに対し、延伸フィルムにガスバリア層(II)、PVDC層(III)を形成するに際して熱処理を行う場合(いわゆるオフラインコート法による場合)には、延伸工程において熱処理を受けた延伸フィルムがさらに塗布後の熱処理に晒されるために、プラスチック基材(I)が受ける熱量が過多となって脆化し、強伸度、耐ピンホール性、耐屈曲性等が低下するおそれがある。また、PVDC層(III)形成用塗工液を延伸後のフィルムに塗工する場合、延伸フィルム中の金属化合物がPVDC層(III)側に移行し、ガスバリア層(II)中に含まれるポリカルボン酸類とプラスチック基材(I)中の金属化合物とが反応しにくくなり、ガスバリア性能が低下する場合がある。
【0102】
フィルムの延伸倍率は、限定的ではないが、縦方向(MD)及び横方向(TD)に各々1.5倍以上であることが好ましく、特に2~4倍であることがより好ましい。また、面積倍率としては、通常3倍以上であることが好ましく、特に6~20倍であることがより好ましく、その中でも6.5~13倍であることが最も好ましい。延伸倍率を上記範囲に設定することによって、より優れた機械物性をもつガスバリア性積層体を得ることが可能となる。
【0103】
延伸工程における温度条件は、例えば、前記のように同時二軸延伸を行う際には通常100~250℃程度の温度範囲(好ましくは150~200℃)で延伸することが好ましい。このような温度範囲に制御することによって、より確実に本発明フィルムを製造することが可能となる。これらの温度等は、例えば延伸装置の予熱ゾーン等にて予熱しながら設定・制御することができる。
【0104】
延伸工程を経たフィルムは、延伸処理が行われたテンター内において150~300℃の温度で熱固定され、必要に応じて0~10%、好ましくは2~6%の範囲で縦方向及び/又は横方向の弛緩処理が施される。熱収縮率を低減するためには、熱固定時間の温度及び時間を最適化するだけでなく、熱弛緩処理を熱固定処理の最高温度より低い温度で行うことが望ましい。
【0105】
本発明において好適としたインラインコート法においては、主として、フィルムの熱固定における熱処理がガスバリア層(II)及びPVDC層(III)への熱処理となる。
【0106】
ガスバリア層(II)への熱処理温度は、例えば添加成分の有無及びその含有量等によっても適宜設定できるが、通常は120~300℃程度とし、特に160~250℃であることが好ましく、さらに180~220℃であることがより好ましい。熱処理温度が低過ぎると、例えばポリカルボン酸類とポリアルコールとのエステル架橋反応を十分に進行させることができない等の理由により、その後の熱水処理によるプラスチック基材(I)の金属化合物とのイオン架橋反応を十分に進行させることができず、十分なガスバリア性を有する積層体を得ることが困難になることがある。一方、熱処理温度が高過ぎると、積層体が脆化するおそれ等がある。
【0107】
また、熱処理時間は、通常5分間以下とすれば良いが、特に1秒間~5分間とすることが好ましく、その中でも3秒間~2分間とすることがより好ましく、さらに5秒間~1分間とすることが最も好ましい。熱処理時間が短すぎると、上記架橋反応を充分に進行させることができず、ガスバリア性を有する積層体を得ることが困難になり、一方、熱処理時間が長すぎると生産性が低下する。
【0108】
PVDC層(III)への熱処理温度は、例えば添加成分の有無及びその含有量等によっても適宜設定できるが、通常は120~300℃程度とし、特に160~250℃であることが好ましく、さらに180~220℃であることがより好ましい。熱処理温度が低過ぎると、PVDC層(III)の被膜形成性が不十分となり、ガスバリア性及び水蒸気バリア性が低下したり、プラスチック基材(I)との密着性が低下するおそれがある。一方、熱処理温度が高過ぎると、積層体が脆化するおそれ等がある。
【0109】
熱処理時間は、通常5分間以下とすれば良いが、1秒間~5分間とすることが好ましく、特に3秒間~2分間であることがより好ましく、さらには5秒間~1分間とすることが最も好ましい。熱処理時間が短すぎると、PVDC層(III)の被膜形成性が不十分となり、ガスバリア性及び水蒸気バリア性が低下したり、プラスチック基材(I)との密着性が低下するおそれがある。一方、熱処理時間が長すぎると生産性が低下することがある。
【0110】
本発明のガスバリア性積層体には、必要に応じて、コロナ放電処理等の表面処理を施しても良い。また、本発明のガスバリア性積層体には、必要に応じて、通常40~60℃程度という比較的低温のエージング処理を24~96時間程度施しても良い。
【0111】
本発明のガスバリア性積層体は、必要に応じてシーラント層等を積層することにより、種々の積層フィルムとすることができる。
【0112】
シーラント層の形成に用いる樹脂としては、特に限定されず、例えば低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン/ポリプロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン-アクリル酸/メタクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸/メタクリル酸エステル共重合体、ポリ酢酸ビニル系樹脂等が挙げられ、ヒートシール強度や材質そのものの強度が高いポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン/ポリプロピレン共重合体等のポリオレフィン樹脂が好ましい。これらの樹脂は、単独で用いても良いし、また他の樹脂と溶融混合して用いても良い。また、これらの樹脂は、酸変性等が施されていても良い。
【0113】
シーラント層をガスバリア性積層体に形成する方法としては、限定的でなく、例えばa)シーラント樹脂からなるフィルム又はシートを、接着剤を介してガスバリア性積層体にラミネートする方法、b)シーラント樹脂をガスバリア性積層体に押出ラミネートする方法等が挙げられる。前者の方法においては、シーラント樹脂からなるフィルム又はシートは、未延伸状態であっても良いし、低倍率の延伸状態でも良いが、実用的には未延伸状態であることが好ましい。
【0114】
シーラント層の厚みは、特に限定されないが、通常は20~100μm程度とすることが好ましく、特に40~70μmとすることがより好ましい。
【0115】
本発明では、上記のようにして得られた積層体をさらに(4)熱水処理する工程に供しても良い。これにより、酸素バリア性等をより高めることができる。熱水処理については、通常は上記のようにして得られた積層体によって形成された包装体(内容物を密閉してなる包装品等)の状態で熱水処理に供されるが、これに代えて、その使用に先立って予め包装体の状態で熱水処理する方法、、上記のようにして得られた積層体をフィルム状の状態で熱水処理する方法等のいずれも採用することもできる。熱水処理の条件は、限定的ではないが、後記「4.ガスバリア性積層体の使用」に記載の熱水処理の方法に従うことが好ましい。
【0116】
従って、本発明では、前記(1)~(3)の工程で得られた積層体と同様の物性を有する積層体を出発材料とし、これを熱水処理する工程を含む製造方法も包含される。すなわち、 少なくともポリ塩化ビニリデン共重合体含有層(III)、プラスチック基材(I)及びガスバリア層(II)を順に含む積層体であり、(1)プラスチック基材(I)は、樹脂成分及び金属化合物を含有し、当該金属化合物の含有量が0.1~20質量%であり、(2)ガスバリア層(II)は、ポリカルボン酸及び/又はその無水物を含有し、かつ、プラスチック基材(I)の一方の面上に積層されており、(3)ポリ塩化ビニリデン共重合体含有層(III)は、プラスチック基材(I)のガスバリア層(II)が積層された他方の面上に積層されており、(4)前記積層体の酸素透過度及び水蒸気透過度において、(4-1)温度20℃及び相対湿度90%雰囲気下における酸素透過度が100 ml/(m・day・MPa)以下であり、(4-2)温度40℃及び相対湿度90%雰囲気下における水蒸気透過度が30g/(m・day)以下であることを特徴とする積層体を熱水処理する工程を含むことを特徴とするガスバリア性積層体の製造方法を包含する。
【0117】
この製造方法によって、出発材料となる積層体の酸素バリア性等をより強化することができる。すなわち、上記の熱水処理する工程は、熱水処理によって酸素透過度を低減させる工程となり得るものであり、その低減量としては例えば酸素透過度を5ml/(m・day・MPa)以上(特に10~100ml/(m・day・MPa))の範囲で低減させることができれば良いが、これに限定されない。
【0118】
4.ガスバリア性積層体の使用
本発明積層体は、各種の用途に用いることができるが、特にそのガスバリア性と水蒸気バリア性を活かして包装材料として好適に用いることができる。特に、袋体を構成するための材料(包装用袋)として用いることができる。
【0119】
より具体的には、内容物を密封するための包装用袋を構成するための材料として好ましく用いることができる。さらには、レトルトパウチのように、熱水処理に供される密閉型包装用袋として好適に用いることができる。すなわち、本発明積層体から形成された包装体に内容物が密封されてなる包装品の状態で好適に熱水処理を施すことができる。
【0120】
ここで熱水処理の条件は、特に限定されず、所望の酸素透過度(ガスバリア性)が発現できる程度の範囲内で設定することができる。例えば、熱水処理の温度(水温)は通常30~130℃(100℃以上の場合は加圧下)程度とし、特に60℃以上100℃未満とすることが好ましく、その中でも70~95℃とすることが最も好ましい。また熱水処理の時間は、通常は1秒~100時間程度の範囲内で処理温度等に応じて適宜設定することができるが、これに限定されない。
【0121】
袋体の形態は、特に限定されず、例えば二方袋、三方袋、チャック付三方袋、合掌袋、ガゼット袋、底ガゼット袋、スタンド袋、スタンドチャック袋、二方袋、四方柱平底ガゼット袋、サイドシール袋、ボトムシール袋等のいずれにも適用することができる。
【0122】
このような包装用袋は、例えば飲食品、果物、ジュ-ス、飲料水、酒、調理食品、水産練り製品、冷凍食品、肉製品、煮物、餅、液体ス-プ、調味料、その他等の各種の飲食料品、液体洗剤、化粧品、化成品等の各種の内容物を充填包装することができる。
【実施例
【0123】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0124】
A.使用原料について
各実施例及び比較例で用いた原料は、以下のとおりである。
(1)プラスチック基材(I)構成用の熱可塑性樹脂
a)ナイロン6樹脂:ナイロン6樹脂(ユニチカ社製「A1030BRF」、相対粘度3.0(25℃))
b)SiO含有マスターチップ:シリカ6質量%含有ナイロン6樹脂(ユニチカ社製「A1030QW」、相対粘度2.7(25℃))
【0125】
(2)プラスチック基材(I)構成用の金属化合物
a)MgO:酸化マグネシウム(タテホ化学工業社製「PUREMAG FNM-G」、平均粒径0.4μm)
b)CaCO:炭酸カルシウム(白石工業社製「VIgot15」、平均粒径0.5μm)
c)ZnO:酸化亜鉛 (堺化学工業社製「FINEX-50」、平均粒径0.02μm)
【0126】
(3)ガスバリア層(II)形成用塗工液のポリカルボン酸成分
a)EMA水溶液:
エチレン-マレイン酸系共重合(重量平均分子量60,000)と水酸化ナトリウムとを水に加え、加熱溶解後、室温に冷却して調製した、EMAのカルボキシル基の10モル%が水酸化ナトリウムにより中和された、固形分15質量%のEMA水溶液。(表1中で「EMA」と表記)
b)PAA水溶液:
ポリアクリル酸(東亞合成社製「A10H」、重量平均分子量200,000、25重量%水溶液)と、水酸化ナトリウムとを用いて調製した、ポリアクリル酸のカルボキシル基の10モル%が水酸化ナトリウムにより中和された、固形分15質量%のポリアクリル酸(PAA)水溶液。(表1中で「PAA」と表記)
【0127】
(4)ガスバリア層(II)形成用塗工液の他の樹脂成分
a)PVA水溶液:
ポリビニルアルコール(クラレ社製「ポバール105」、ケン化度98~99%、平均重合度約500)を水に加え、加熱溶解後、室温に冷却することにより調製した、固形分15質量%のポリビニルアルコール(PVA)水溶液。(表1中で「PVA」と表記)
b)EVOH水溶液:
エチレン-ビニルアルコール共重合体(クラレ社製「エクセバールAQ-4105」)を溶解した、固形分10質量%のエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)水溶液。(表1中で「EVOH」と表記)
【0128】
(5)ポリ塩化ビニリデン共重合体樹脂含有層(III)形成用塗工液
a)ポリ塩化ビニリデン共重合体樹脂1
旭化成社製 サランラテックス L536B(固形分濃度49質量%)(表1中で「L536B」と表記)
b)ポリ塩化ビニリデン共重合体樹脂2
旭化成社製 サランラテックス L549B(固形分濃度48質量%)(表1中で「L549B」と表記)
c)ポリ塩化ビニリデン共重合体樹脂3
旭化成社製 サランラテックス L509(固形分濃度50質量%)(表1中で「L509」と表記)
【0129】
B.実施例及び比較例について
実施例1
ナイロン6樹脂、SiO含有マスターチップ及び酸化マグネシウムを、酸化マグネシウムの含有量が約0.5質量%、シリカの含有量が約1.5質量%となるように混合した。この混合物を押出機に投入し、270℃のシリンダー内で溶融した。溶融物をTダイオリフィスよりシート状に押出し、10℃に冷却した回転ドラムに密着させて急冷することにより、厚さ150μmの未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムを50℃の温水槽に送り、2分間の浸水処理を施した。
次に、EMAとPVAの質量比(固形分)が70/30になるように、EMA水溶液とPVA水溶液とを混合して、固形分10質量%のガスバリア層(II)形成用塗工液を得た。この塗工液を、浸水処理を施した未延伸フィルムの片面にエアーナイフコーティング法により塗布し、温度110℃の赤外線照射機により30秒間乾燥処理を行った。
ガスバリア層(II)形成用塗工液が塗布された未延伸フィルムにおいて、そのガスバリア層(II)形成用塗工液が塗布された反対面に対してPVDC層(III)形成用塗工液である、ポリ塩化ビニリデン共重合体樹脂1からなる塗工液をエアーナイフコーティング法により塗布し、温度110℃の赤外線照射機により30秒間乾燥処理を行った。
未延伸フィルムの両面にガスバリア層(II)形成用塗工液とPVDC層(III)形成用塗工液が積層されたフィルムの端部をテンター式同時二軸延伸機のクリップに保持させ、180℃でMD及びTDにそれぞれ3.3倍に延伸した。その後、TDの弛緩率を5%として、210℃で4秒間の熱処理を施し、室温まで徐冷して、厚みが15μmのプラスチック基材(I)に、厚みが0.3μmのガスバリア層(II)と1.5μmのポリ塩化ビニリデン樹脂共重合体層(III)が形成された積層体を得た。
【0130】
実施例2~11及び比較例1~5
表1に記載したように、熱可塑組成樹脂フィルム(I)中の金属化合物の種類及び含有量、ガスバリア層(II)、PVDC(III)の組成と塗布厚みを変更した以外は、実施例1と同様の方法で積層体を得た。
【0131】
実施例12
PVDC層(III)の形成を、延伸前ではなく、延伸フィルムの徐冷後に変更した以外は、実施例1と同様の方法で積層体を得た。PVDC層(III)の形成は、ガスバリア層(II)が積層された反対面に対して、PVDC(III)形成用塗工液をエアーナイフコーティング法により塗布し、温度110℃の赤外線照射機により30秒間乾燥処理を行った。
【0132】
比較例6
比較例1と同様の方法で積層体を得た後に、公知の真空蒸着法によりガスバリア層(II)の反対面に対して厚み300Åの酸化アルミニウムによる蒸着膜を形成した。
【0133】
試験例1
各実施例及び比較例で得られた試料(積層体)について、以下の物性についてそれぞれの測定方法に従って測定した。その結果を表1に示す。
【0134】
(1)各層の厚み
得られたガスバリア性積層体を温度23℃及び相対湿度50%RHの環境下に2時間以上放置してから、走査型電子顕微鏡(SEM)によりフィルム断面観察を行い、各層の厚みを測定した。
【0135】
(2)酸素透過度
得られたガスバリア性積層体の熱水処理前後の酸素透過度は、酸素バリア測定器(製品名「OX-TRAN 2/20」モコン社製)を用い、温度20℃及び相対湿度90%の雰囲気下にて測定した。測定の前処理として、熱水処理前のガスバリア性積層体、あるいは80℃×30分又は120℃×30分の条件で熱水処理して付着した水滴を拭き取った熱水処理後のガスバリア性積層体を温度20℃及び相対湿度90%RHの環境下にて2時間以上放置した後、測定を行った。単位は「ml/(m・day・MPa)」である。
【0136】
(3)水蒸気透過度
得られたガスバリア性積層体の熱水処理前後の水蒸気透過度は、水蒸気バリア測定器(製品名「PERMATRAN-W 3/33」モコン社製)を用い、温度40℃及び相対湿度90%の雰囲気下にて測定した。測定の前処理として、熱水処理前のガスバリア性積層体、あるいは80℃×30分又は120℃×30分の条件で熱水処理して付着した水滴を拭き取った熱水処理後のガスバリア性積層体を温度20℃及び相対湿度90%RHの環境下にて2時間以上放置した後、測定を行った。単位は「g/(m・day)」である。
【0137】
(4)フィルム中の金属含有量と減少量
120℃×30分の熱水処理前後のガスバリア性積層体を硝酸と硫酸の混酸中で加熱した後、不溶部分を過塩素酸とフッ酸の混酸中で加熱して完全に溶解させた。この溶解液中の金属濃度をプラズマ原子発光分析装置(製品名「iCAP6500Duo」サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)により測定し、フィルム中の金属含有量を算出し、金属含有量の減少率を下記式に基づいて計算した。
金属含有量減少率(%)=[(MA-MB)/MA]×100
MA:熱水処理前のフィルム中の金属含有量(質量%)
MB:120℃×30分熱水処理後のフィルム中の金属含有量(質量%)
【0138】
(5)耐屈曲性
得られたガスバリア性積層体を120℃×30分の条件で熱水処理して付着した水滴を拭き取った熱水処理後のガスバリア性積層体を温度20℃及び相対湿度90%RHの環境下にて2時間放置した後、ASTM F 392に従い、ゲルボテスター(テスター産業社製)において20℃×65%RH雰囲気下で500回屈曲(90mmで440度の屈曲プラス65mmの直動がある条件)を繰り返した後に酸素透過度及び水蒸気透過度を前記(2)、(3)と同様の方法でそれぞれ測定し、下記式に従って各透過度の増加率を算出した。前記増加率が20%以下である場合を「○」とし、20%を超えた場合を「×」とした。
透過度増加率(%)=[(PA-PB)/PA]×100
PA:500回屈曲後の透過度
PB:500回屈曲前の透過度
【0139】
【表1】
【0140】
表1の結果からも明らかなように、実施例1~12では、金属化合物を0.1~20質量%含有するプラスチック基材(I)の一方の面にポリカルボン酸を含有するガスバリア層(II)が積層され、他方の面にPVDC層(III)が積層されているため、熱水処理前酸素ガスバリア性と水蒸気バリア性に優れることに加え、比較的低温・短時間での熱水処理後においても良好な酸素ガスバリア性と水蒸気バリア性を兼ね備えたガスバリア性積層体が得られることがわかる。特に、実施例1と実施例12を対比すると、インラインコート法でPVDC層(III)を積層した実施例1の熱水処理後の酸素透過度は、実施例12よりも低く、ガスバリア性により優れていることもわかる。
【0141】
一方、比較例1は、PVDC層(III)が形成されていないため、熱水処理前の酸素透過度が高く、酸素バリア性が低いことがわかる。また、熱水処理による金属流出量も多くなったため、比較的低温・短時間での熱水処理後でも酸素透過度が高くなっていることがわかる。
比較例2は、プラスチック基材(I)に含有する金属化合物量が本発明で規定する範囲より少ないため、熱水処理後の酸素透過度が高かった。
比較例3は、ガスバリア層(II)がポリカルボン酸を含有していないため、得られた積層体の熱水処理後の酸素透過度が高かった。
比較例4は、ガスバリア層(II)が形成されていないため、得られた積層体の熱水処理後の酸素透過度が高かった。
比較例5は、PVDC層(III)がプラスチック基材(I)のガスバリア層(II)が積層された他方の面上に積層されなかったため、得られた積層体の熱水処理後の酸素透過度が高かった。
比較例6は、酸素透過度及び水蒸気透過度は低かったが、屈曲後の酸素透過度及び水蒸気透過度が低下したため、所望の性能を維持できなかった。
図1