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特許7381113グラフェン生成物及びそれを用いた治療法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】グラフェン生成物及びそれを用いた治療法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/182 20170101AFI20231108BHJP
   A61K 33/44 20060101ALI20231108BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20231108BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20231108BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
C01B32/182
A61K33/44
A61P17/00
A61P17/02
A61P17/06
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021503057
(86)(22)【出願日】2019-07-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 EP2019069288
(87)【国際公開番号】W WO2020016324
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】18382531.4
(32)【優先日】2018-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521020516
【氏名又は名称】グラフェナノ メディカル ケア ソシエダ リミターダ
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】マルティネス・ロヴィラ,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】マルティネス・ロヴィラ,ホセ・アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】ラヴィン・ロペス,マリア・デル・プラド
(72)【発明者】
【氏名】ロメロ・イスキエルド,アマヤ
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス・プジョル,マヌエル
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス・プジョル,ディエゴ
(72)【発明者】
【氏名】デ・フルトス・ガルシア,セルヒオ
(72)【発明者】
【氏名】グリエラ・メリノ,メルセデス
(72)【発明者】
【氏名】アテム・バケイロ,マルコ・アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】オロスコ・アグド,アナ・イサベル
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-532046(JP,A)
【文献】特開2013-133257(JP,A)
【文献】特表2016-529310(JP,A)
【文献】国際公開第2015/034930(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/016319(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
A61K 33/33-33/44
A61P 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェンナノファイバーから選択されたグラフェンナノ材料であって、
前記グラフェンナノ材料は、レーザ回折粒子分析器で測定した場合に、数基準の粒子径分布dn(90)が0.60μm以下であり、体積基準のdv(90)が80.00μm以下であることを特徴とする、グラフェンナノ材料。
【請求項2】
BET比表面積が100から500m/gの範囲であることを特徴とする、請求項1に記載のグラフェンナノ材料。
【請求項3】
BET比表面積が300~350m/gの間であることを特徴とする、請求項2に記載のグラフェンナノ材料。
【請求項4】
細孔容積が0.35~0.40cm/gの範囲であることを特徴とする、請求項1に記載のグラフェンナノ材料。
【請求項5】
BET比表面積が300~350m/gの間であり、細孔容積が0.35~0.40cm/gの範囲であることを特徴とする、請求項1に記載のグラフェンナノ材料。
【請求項6】
前記グラフェンナノ材料中の不純物が0.01重量%未満であることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載のグラフェンナノ材料。
【請求項7】
医薬品として使用するための請求項1から6のいずれかに記載のグラフェンナノ材料。
【請求項8】
創傷、瘢痕、湿疹、皮膚の火傷、皮膚潰瘍または他の皮膚の病変の治療に使用するための、請求項1から6のいずれかに記載のグラフェンナノ材料。
【請求項9】
乾癬、糖尿病、癌、感染症、にきび、または血液循環の低下によって生じる皮膚の損傷の治療に使用するための、請求項1から6のいずれかに記載のグラフェンナノ材料。
【請求項10】
請求項1から6のいずれか一項に記載のグラフェンナノ材料製品と、薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬品組成物。
【請求項11】
局所使用に適した、請求項10に記載の医薬品組成物。
【請求項12】
クリーム、軟膏、マイクロエマルジョン、脂肪軟膏、ゲル、エマルジョンゲル、ペースト、フォーム、着色剤、パッチ、包帯、膜、マトリックスおよび経皮治療システムからなる群より選択される形態であることを特徴とする、請求項11に記載の医薬品組成物。
【請求項13】
ヒドロゲル、またはクリームから選択される形態であることを特徴とする、請求項12に記載の医薬品組成物。
【請求項14】
グラフェンナノファイバー原料から、請求項1から6のいずれかに記載の生成物を製造する方法であって、
a)グラフェン原料に存在する金属または不純物を除去するために、グラフェン原料を精製する工程と、
b)精製されたグラフェンナノ材料の粒子径を、剥離プロセス、および、その後の濾過または遠心分離による方割プロセスによって、レーザ回折粒子分析器によって測定した場合に、dn(90)が0.60μm以下であり、かつ、dv(90)が80.00μm以下である粒子径分布を有するように減縮する工程と
含むことを特徴とする、グラフェンナノファイバーの製造方法。
【請求項15】
強酸を使用して、グラフェン原料を精製することを特徴とする、請求項14に記載のグラフェンナノファイバーの製造方法。
【請求項16】
c)得られた生成物を発熱物質除去プロセスにかける工程を含むことを特徴とする、請求項14に記載のグラフェンナノファイバーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新しいグラフェン生成物、それらの組成物、及びそれを用いた治療法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンベースまたはグラフェン関連材料は、2010年のノーベル物理学賞を受賞した後脚光を浴び、その後、エネルギー、電子機器、センサー、光処理、医療、環境分野でこれらの材料の多数のアプリケーションの開発が爆発的に増加した。この材料系の「根幹」をなすグラフェンは、六角形のハニカム格子に配置されたsp混成炭素原子でできた2次元材料である。
【0003】
グラフェン関連材料には、グラフェン(単層および多層)、グラファイト、多環式芳香族炭化水素、カーボンナノチューブ、フラーレン、さまざまな次元のさまざまなグラフェンナノ構造(グラフェンナノファイバー、グラフェンナノ粒子、グラフェン量子ドット、グラフェンナノリボン、グラフェンナノメッシュ、グラフェンナノディスク、グラフェンフォーム、グラフェンナノピラー等)、他のグラフェン関連材料の任意の組み合わせ、置換グラフェン関連材料(たとえば、炭素原子のN、B、P、S、Siなどへの置換)、および反応性官能基(例えば、カルボキシル基、エステル、アミド、チオール、ヒドロキシル基、ジオール基、ケトン基、スルホネート基、カルボニル基、アリール基、エポキシ基、フェノール基、ホスホン酸、アミン基、ポルフィリン、ピリジン、ポリマーおよびそれらの組み合わせで官能化されたグラフェン関連材料が含まれる。
【0004】
医療用途のためのグラフェン材料の使用について種々の出版物が発行されている。US2006/0134096は、グラフェン含有組成物、特にフラーレンまたはナノチューブ以外の、グラフェンを含む非多孔質炭素の医学的使用のための組成物および方法を記載している。それらは、毒素の吸着剤として、または血液透析において、創傷に局所的に使用される。
【0005】
EP313353は、神経変性疾患を予防または治療するためのグラフェンナノ構造ベースの医薬組成物を開示している。グラフェンナノ構造は、タンパク質の誤った折り畳みによって引き起こされるフィブリル形成を抑制する。
【0006】
US2014/0120081は、酸化ストレスを処理するためのカーボンナノ材料の使用方法を開示している。当該使用方法によれば、活性酸素種のレベルを下げることによって対象物中の酸素ストレスを処理することができる。カーボンナノ材料は、ナノチューブ、グラフェン、グラフェンナノリボン、グラファイト、酸化グラファイトなどから選択でき、これらの材料には官能基を付与することができる。
【0007】
GB2532449は、癌幹細胞の増殖を阻害することによる癌の治療、予防、または予防に使用するための機能化ナノ材料について開示している。そして、ナノ材料は、単層グラフェン、数層グラフェン、ナノグラフェン、単層または多層カーボンの形態を有する。そして、ナノチューブ、フラーレン、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバー、またはアモルファスまたは部分的にアモルファス化されたナノカーボンまたはそれらの混合物が好ましいことが開示されている。
【0008】
Guranathan S. and Kim J-H. in Intemational Joumal ofNanomedicine,2016:11,pages 1927-1945には、グラフェンおよびグラフェン関連材料の合成、毒性、生体適合性、および生物医学的応用について概説している。この論文で説明されているように、これらの生成物の多くは、毒性および生体適合性の問題を依然として抱えている。グラフェンの毒性効果は、サイズと分布、表面電荷、表面積、層数、横方向の寸法、表面化学、純度、粒子状態、表面官能基、形状などの物理化学的特性によって影響を受ける。抗癌療法、光熱療法、薬物送達、遺伝子トランスフェクション、バイオセンシング、イメージング、および組織工学は、上記論文中で言及されている生物医学的応用の1つである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、毒性が低いかまったくなく、生体適合性が高く、有用な生物学的効果と用途を提供できる新しいグラフェンベースの材料および当該材料の治療用途への開発が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、毒性が低いか毒性が全くなく、治療に有用な、優れた特性を備えた新しいグラフェン生成物を発見した。
【0011】
第1の態様において、本発明は、グラフェンナノファイバーから選択されるグラフェンナノ材料に関する。ここで、グラフェンナノ材料は、レーザ回折粒子分析器で測定した場合において、dn(90)が0.60μm以下であり、かつ、dv(90)が80.00μm以下である粒子径分布を有する。
【0012】
好ましくは、グラフェンナノ材料のBET比表面積は、100から500m/g、より好ましくは300から350m/gである。
【0013】
別の実施形態では、グラフェンナノ材料の細孔容積は、0.35~0.40cm/gである。
【0014】
グラフェンナノ材料中の不純物は0.01重量%未満であることが好ましい。
【0015】
別の態様では、本発明は、薬剤として使用するための上記で定義されたグラフェンナノ材料に関する。一実施形態では、薬剤は、皮膚組織の破壊をもたらす創傷、湿疹、乾癬、瘢痕、潰瘍および他の状態の治療のためのものである。
【0016】
別の態様では、本発明は、上記で定義されたグラフェンナノ材料を含む医薬組成物に関する。
【0017】
さらに別の態様において、本発明は、治療における上記で定義されたグラフェンナノ材料の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】GMC-1のラマンスペクトル。
図2】GMC-1のN2の吸着―離脱。
図3A】GNF原料のX線回折。
図3B】GMC-1のX線回折。
図4A】GNF原料およびGMC-1の数基準の粒子径分布の比較。
図4B】GNF原料及びGMC-1の体積基準における粒子径分布の比較。
図5】GMC-1で24時間処理された培養Hep-G2細胞の毒性分析。 A)トリパンブルー細胞排除によって決定された生存率、およびB)ビヒクル1倍および10倍濃度のGMC-1を用いたMTTによって決定された細胞代謝。これらの値は平均値+/-標準誤差として表示。
図6】背側領域の皮膚創傷治癒齧歯動物モデル(Rattus Norvegicus)に基づく治療効果。この治療においては、2xGMC-1を含むあるいは含まない(CT)製剤を用いて2日ごとに局所的に治療を行った。A)創傷領域の閉鎖の時間経過、B)皮膚の再生(コラーゲン化および再上皮化)、およびC)4日目の急性炎症性浸潤。値は、動物あたりの内側のcontrol創傷(いかなる製剤でも処理されていない)に対してパーセンテージで示され、平均値+/-標準誤差として表示され、統計的に処理される(* P<0.05vs.CT、値は統計的に有意と見なされる)。
図7】背側領域のバイオプシアに基づく、皮膚創傷治癒げっ歯類モデル(Rattus Norvegicus)の全身生化学的分析。2xGMC-1を含むあるいは含まない(CT)製剤を用いて2日ごとに局所的に治療を行った。A)クレアチニン、B)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)およびwrCRP(広範囲のC反応性タンパク質)を測定。D)末梢血単核細胞(PBMC)では、mRNA発現倍率の変化を、全身性炎症マーカーであるインターロイキン1-ベータ(IL-1-ベータ)発現のRTqPCRによって決定。値は平均値+/-標準誤差として表示。
【発明を実施するための形態】
【0019】
グラフェン原料
本発明において、「グラフェン」という用語は、互いに共有結合した複数の炭素原子を有する多環芳香族分子を形成する材料を指す。共有結合した炭素原子は、繰り返し単位として6員環を形成する。
【0020】
「グラフェンナノファイバー」(GNF)という用語は、積み重ねられたコーン、カップ、またはプレートとして配置されたグラフェン層を備えた円筒形のナノ構造を指す。グラフェン面はファイバー軸から傾斜しており、カーボンナノファイバーの内面と外面とに平面エッジが露出している。
【0021】
「グラフェンナノチューブ」(GNT)という用語は、グラフェンの単層または多層同心円筒を指す。グラフェンナノチューブは円筒形で中空であり、グラフェンナノファイバーはロッド状で稠密となっているため、グラフェンナノチューブの基底面はグラフェンナノファイバーの基底面に比べて反応性が低くなっている。
【0022】
本発明の生成物は、GNFに由来する炭素ベースのナノ材料であり、一連の精製および処理を経て、予期しない生物学的特性を有する医療グレードの材料が得られる。
【0023】
出発カーボンナノ材料は、グラフェンベースの材料(グラフェンナノファイバー)である。一実施形態では、本発明の生成物を調製するために使用されるグラフェンナノファイバーは、粒子数についてdn(90)が4.0μmであり、粒子体積についてdv(90)が105.00μm以下である。好ましくは、上記グラフェンナノファイバーは約250~400m/gの表面積を有する。
【0024】
本発明の生成物を得るために使用される原料は、炭化ケイ素上でのエピタキシャル成長、化学蒸着、グラファイトのマイクロメカニカルまたは機械的剥離、熱的、化学的あるいは多段階還元を利用したグラファイトの化学酸化、金属触媒上での炭化水素の触媒分解、カーボンナノチューブの展開、エレクトロスピニングを使用した酸化グラファイトの還元などの多種多様な方法に従って合成することができる。
【0025】
炭化ケイ素上でのエピタキシャル成長は、グラフェンから分離された単分子層を、基板として使用される単結晶炭化ケイ素結晶(SiC)上で合成する方法である。この方法は、SiCウェーハを高真空下、高温(>1100℃)で加熱して行うことができる。上記の条件下で、シリコン原子は昇華し、その表面でグラフェンのエピタキシャル成長が実現される(炭素原子は再配列してグラフェンを形成する)[Sutter,P.,Epitaxial graphene:How silicon leaves the scene.Nature Materials, 2009. 8(3):p.171-172.]。
【0026】
化学蒸気分解法では、炭素源は触媒基質上で触媒反応によって分解される。触媒表面は、炭化水素の熱分解後、金属内部で生成された炭素原子の溶解を引き起こす[Jacobberger,R.M.,et al.,Simple Graphene Synthesis via Chemical Vapor Deposition. Journal of Chemical Education,2015.92(11): p.1903-1907,Lavin-Lopez,M.P.,et al.,Thickness control of graphene deposited over polycrystalline nickel.New Journal of Chemistry,2015.39(6):p.4414-4423]。
【0027】
グラファイトのマイクロメカニカル剥離は、固体表面物体または粘着テープを使用して、微細な削り取りによってフレーク中の前記固体の最外層を分離することからなる[Geim, A.K. and K.S. Novoselov, The rise of graphene. Nature Materials, 2007. 6(3): p. 183-191]。機械的剥離は、超音波によって有機または水性溶媒中で懸濁グラファイトを形成するシートを分離することによって行う。得られた材料は高品質であるものの、収率が低く、製造コストが高いため、工業的観点からは不向きである[Lotya,M.,et al.,Liquid phase production of graphene by exfoliation of graphite in surfactant/water solutions.Journal of the American Chemical Society,2009.131(10):p.3611-3620]。
【0028】
グラフェンナノファイバー(GNF)を合成するために多種多様な方法を使用することもでき、これは本発明の生成物を調製するために特に好ましい。たとえば、カーボンナノファイバーの化学蒸着法は、触媒の存在下で炭素源を分解して成長したGNFに対する触媒法である。この場合、鉄、ニッケル、コバルト、銅などの遷移金属触媒粒子が触媒として使用される。CVDプロセスは500~1200℃の範囲の温度で行われる[Martin-Gullon,I.,et al.,Differences between carbon nanofibers produced using Fe and Ni catalysts in a floating catalyst reactor. Carbon,2006.44(8):p.1572-1580]。
【0029】
エレクトロスピニングは、GNFの代替製造方法である。この方法では、細い先端を用いたゾルゲル法が適用される。この場合、針の先端に高電圧が印加されるとともに、針の先端からターゲットに向けて溶液が吐出される。溶液の表面張力が十分に高いので、微細な液滴となることなく、上記針の先端から繊維状の構造として抽出することができる[Zhang,L.,et al.,A review:Carbon nanofibers from electrospun polyacrylonitrile and their applications. Journal of Materials Science,2014.49(2):p.463-480]。
【0030】
本発明の複合材料を調製するために使用される多孔質黒鉛材料の平均直径および長さは、透過型電子顕微鏡法(TEM)によって測定される。
【0031】
精製と療法
上記の方法に従って合成されたグラフェンナノ材料は、本発明のグラフェンベースの医療グレードの材料を合成するための原料として使用される。グラフェンナノ原材料は、合成プロセス中にグラフェンナノ材料構造に導入された金属または不純物を除去するために、好ましくは強酸(HSO、HCl、HF、HNO、HBr等)を使用して精製プロセスにかけられる。また、グラフェン材料の特性に影響を与えることなく不純物を除去できる任意のプロセスを使用できる。酸の中でも、塩酸またはフッ化水素酸が特に好ましいが、当業者は、存在する不純物の量および種類に応じて酸および条件を選択する。精製プロセスは、低温(20~50℃)で数時間(12~24時間)行うことが好ましい。溶液を精製プロセスに使用する場合、精製されたグラフェンナノ材料は、中性のpHになるまでミリポア水で洗浄され、その後、乾燥、たとえば真空乾燥される。
【0032】
精製されたグラフェンナノ材料は、粒子径分布が小さくなるように処理されているため、医療および化粧品の用途に適している。精製されたグラフェンナノ材料は、例えば、そのサイズを縮小し、その特性を変更するプロセスにかけらる。一実施形態では、前記プロセスは、例えば超音波処理、湿式粉砕またはハイブリッドプロセスを介して、室温で剥離プロセスにかけられる。超音波処理は、プロセスが単純であるため特に好ましい。超音波処理は、所定のサンプルが目的の粒子径分布を有しているか否かをモニタリングすることができる。その後、粒子径を10~100μmに制御するための方割プロセスを選択的に実行することができる。当業者であれば、粒子径分布を選択するために必要な技術を直ちに決定できるであろう。例えば、このステップは、濾過または遠心分離によって、好ましくは真空濾過によって、例えば焼結ガラスフィルターを通して達成することができる。方割プロセスは、有利には、dn(90)が0.60μm以下であり、かつ、dv(90)が80.00μm以下である粒子径分布を有する粒子をもたらすことができる。
【0033】
最後に、グラフェンナノ材料が細菌学的汚染やエンドトキシンを含む他の有毒化合物の痕跡を引きずらないように制御し、無菌状態を維持するために、当該材料を、好ましくは500℃で10~60分間加熱して、標準的な発熱物質除去プロセスにかけることもできる。
【0034】
結果として得られる粒子径分布は、粒子サイズ分析器、例えば、実施例で使用されるようなマルバーンパナナリティカルのマスターサイザー2000などの手段によって決定することができる。
【0035】
したがって、本発明のさらなる目的は、グラフェンナノファイバー原料から、
a)グラフェン原料に存在する金属または不純物を除去するために、好ましくは強酸を使用して、グラフェン原料を精製する工程と、
b)精製されたグラフェンナノ材料の粒子径を、剥離プロセスによって、レーザ回折粒子分析器によって測定した場合に、dn(90)が0.60μm以下であり、かつ、dv(90)が80.00μm以下である粒子径分布を有するように減縮する工程と、
c)必要に応じて、得られた生成物を発熱物質除去プロセスにかける工程と、
を含む本発明のグラフェンナノ材料を製造する方法を提供することである。
【0036】
工程(b)は、工程(c)の前に、粒子径に従って粒子を方割する工程をさらに含む。一実施形態では、方割工程は、濾過または遠心分離、好ましくは真空濾過によって達成される。
【0037】
本発明において、粒子数についてdn(90)が0.60μm以下であり、粒子体積についてdv(90)が80.00μm以下である粒子径分布は、選択的に濾過等の方割工程を含む工程(b)によって得ることができる。好ましくは、濾過は、1から20μm、好ましくは4から20μmの間、より好ましくは5から16μmの間からなる孔径の焼結ガラスフィルターを用いた真空濾過である。
【0038】
生成物
本発明の生成物は、dn(90)が約0.60μm以下であり、かつ、dv(90)が80.00μm以下、好ましくは70.00μm以下である粒子径分布を有する精製グラフェンナノ材料である。
【0039】
粒子径分布は、レーザ回折粒度分析装置によって測定される。粒度分布D50は、累積分布の50%での粒子径の値である。D50が所定の値をとる場合、サンプル内の粒子の50%がこの値より大きく、50%が小さいことになる。粒子径分布は、対象のサンプル内のすべてのサイズの総数のパーセンテージとして示される、種々のサイズ範囲のそれぞれに該当する粒子の数である。粒子径分布を記述するために最も広く使用されている方法は、累積質量の10%、50%、および90%の切片であるd値(d10、d50、およびd90)である。
【0040】
これらの値は、粒子が質量の昇順で配置されている場合に、サンプルの質量を指定されたパーセンテージに分割する材料の直径と考えることができる。d10は、サンプルの質量の10%がこの値よりも小さい直径の粒子で構成されている直径である。d50は、サンプルの質量の50%が小さく、サンプルの質量の50%が大きい粒子の直径である。d90は、サンプルの質量の90%がこれよりも小さい直径の粒子で構成されている直径である。これらの値は、累積粒子数を基準とした粒子径(dn)と累積粒子体積を基準とした粒子径(dv)に適用できる。
【0041】
粒子数を基準とした粒子径dn(90)を有する分布とは、サンプル内の材料の総数の90%が含まれるサイズ分布におけるポイントを意味する。
【0042】
粒子体積を基準としたdv(90)を有する分布とは、サンプル内の材料の総体積の90%が含まれるサイズ分布におけるポイントを意味する。
【0043】
本発明の生成物の粒子径分布は、マルバーンパナナリティカルのマスターサイザー3000で測定されたものである。
【0044】
本発明において、「比表面積(SSA)」という用語は、単位質量あたりの材料の総表面積を指す。
【0045】
本出願に記載されている多孔性および比表面積の特性は、吸着材料として窒素を使用する物理吸着技術に適用される、当業者にとって周知であるブルナウアー・エメット・テラー(「BET」)法を使用して測定されたものである。
【0046】
本発明の一実施形態では、本発明の生成物のBET表面積は、300~350m/gである。
【0047】
別の実施形態では、本発明の生成物の細孔容積は、0.35~0.40cm/gである。
【0048】
好ましい実施形態では、本発明の生成物は、300~350m/gの間のBET表面積および0.35~0.40cm/gの間の細孔容積を有する。
【0049】
本発明の生成物は、グラフェンナノファイバーの形態である。
【0050】
組成物
別の態様では、本発明は、本発明のグラフェン生成物および1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物に関する。
【0051】
本明細書で使用される「医薬組成物」は、生理学的に許容可能であり、ヒトまたは動物に投与された場合、通常、アレルギー反応または胃障害、めまいなどと同様の好ましくない反応を生じない組成物および分子実体に関する。好ましくは、「薬学的に許容される」という用語は、それが州または連邦政府の規制機関によって承認され、および/または動物、より具体的にはヒトで使用するために欧州米国薬局方および/または他の一般に認められている薬局方に含まれることを意味する。
【0052】
「賦形剤」という用語は、有効成分と共に投与されるビヒクル、希釈剤またはアジュバントを指す。医薬品添加物は、ピーナッツ油、大豆油、鉱油、ごま油などの石油、動物、植物または合成由来のものを含む、水および油などの無菌液体であり得る。
【0053】
好ましい実施形態では、本発明の医薬品組成物は、例えば、クリーム、ローション、軟膏、マイクロエマルジョン、脂肪軟膏、ゲル、エマルジョンゲル、ペースト、フォーム、着色剤、溶液、パッチ、包帯および経皮治療システムなどの皮膚への局所投与に適している。最も好ましいのは、クリーム、またはエマルジョンゲルである。
【0054】
クリームやローションは水中油型エマルジョンである。使用できる油性塩基は、脂肪アルコール、特に12~18個の炭素原子を含むもの、例えばラウリル、セチルまたはステアリルアルコール、脂肪酸、特に10~18個の炭素原子を含むもの、例えばパルミチン酸またはステアリン酸、脂肪酸性エステル、例えばグリセリルトリカプリロカプレート(中性油)またはパルミチン酸セチル、液体から固体のワックス、例えばミリスチン酸イソプロピル、ウールワックスまたは蜜蝋、および/または炭化水素、特に液体、半固体または固体の物質またはそれらの混合物、例えば石油ゼリー(鉱油、ワセリン)またはパラフィンオイルである。
【0055】
適切な乳化剤は、対応する非イオン性乳化剤、例えば、多価アルコールの脂肪酸エステルおよび/またはそのエチレンオキシド付加物、特に(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)との対応する脂肪酸エステルなど、主に親水性を有する表面活性物質である。プロピレングリコールまたはソルビトール、特に10~18個の炭素原子を含む脂肪酸部分、特にポリグリセロール脂肪酸エステルまたはポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(Tweens)などのポリヒドロキシエチレンソルビタンの部分的グリセロール脂肪酸エステルまたは部分的脂肪酸エステル、また、ポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテルまたは脂肪酸エステル、特に12~18個の炭素原子を含む脂肪アルコール部分、および特に10~18個の炭素原子を含む脂肪酸部分、例えば、ポリヒドロキシエチレングリセロール脂肪酸エステル(例えば、タガットS)、または脂肪アルコール硫酸塩のアルカリ金属塩、特にハビなどの対応するイオン乳化剤脂肪アルコール部分の12から18の炭素原子、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、セチル硫酸ナトリウム、またはステアリル硫酸ナトリウムである。これらは通常、脂肪アルコール、例えばセチルアルコールまたはステアリルアルコールの存在下で使用される。水相への添加剤は、とりわけ、クリームが乾燥するのを防ぐ薬剤、例えば、グリセロール、ソルビトール、プロピレングリコールおよび/またはポリエチレングリコールなどのポリアルコールなどの保湿剤、ならびに防腐剤、香料、ゲル化剤などである。
【0056】
軟膏は、最大70%、好ましくは約20%から約50%の水または水相を含む油中水型エマルジョンである。脂肪相として適切なのは、特に炭化水素、例えばワセリン、パラフィン油および/または硬質パラフィンであり、これらは、水結合能力を改善するために、好ましくは、脂肪アルコールまたはそのエステル、例えばセチルアルコールまたはウールワックスアルコール、ウールワックスまたは蜜蝋を含む。乳化剤は、ソルビタン脂肪酸エステル(スパン)、例えばオレイン酸ソルビタンおよび/またはイソステアリン酸ソルビタンなどの、例えば上記のタイプの対応する親油性物質である。水相への添加剤は、とりわけ、ポリアルコール、例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトールおよび/またはポリエチレングリコールなどの保湿剤、ならびに防腐剤、香料などである。
【0057】
マイクロエマルジョンは、次の4つの成分に基づく等方性システムである:水、たとえば張力活性剤等の界面活性剤、非極性または極性油などの脂質、たとえばパラフィン油、オリーブ油やトウモロコシ油などの天然油、および例えば、2-オクチルドデカノールまたはエトキシル化グリセロールまたはポリグリセロールエステル等の親油性基を含むアルコールまたはポリアルコール。必要に応じて、他の添加剤をマイクロエマルジョンに加えることができる。マイクロエマルジョンは、200nm未満のサイズのミセルまたは粒子を持ち、透明または半透明のシステムであり、自発的に形成され、安定している。脂肪軟膏は水を含まず、例えばパラフィン、石油ゼリーおよび/または液体パラフィン、また天然または部分的に合成された脂肪等の炭化水素、例えばココナッツ脂肪酸トリグリセリド等のグリセロールの脂肪酸エステル、水素化落花生油、ヒマシ油またはワックス等の硬化物油を含む。また、例えば、モノステアリン酸およびジステアリン酸グリセロール油等のグリセロールの脂肪酸部分エステル、および例えば、吸水能力を増加させる脂肪酸アルコール、乳化剤および/または軟膏に関連して言及された添加物を含むことができる。
【0058】
ゲルに関しては、水性ゲル、水を含まないゲル、および膨潤性のゲル形成材料からなる低含水率のゲルがあり、特に、無機または有機高分子系の透明なヒドロゲルが使用されている。ゲル形成特性を有する高分子量無機成分は、主に、ベントナイトなどのケイ酸アルミニウム、ビーガムなどのケイ酸マグネシウムアルミニウム、またはアエロジルなどのコロイド状ケイ酸などの含水ケイ酸塩である。高分子量の有機物質として、例えば、天然、半合成、または合成高分子が使用される。天然および半合成ポリマーは、例えば、セルロース、デンプン、トラガカンス、アラビアゴムおよび寒天などの多種多様な炭水化物成分、ならびにゼラチン、アルギン酸、およびアルギン酸ナトリウム等の塩、低級アルキルセルロース、メチルまたはエチルセルロース、カルボキシ-またはヒドロキシ-低級アルキルセルロース、例えば、カルボキシメチルまたはヒドロキシエチル-セルロース等の誘導体である。合成ゲル形成高分子の成分は、例えば、ビニルアルコール、ビニルピロリジン、アクリル酸またはメタクリル酸などの適切に置換された不飽和脂肪族化合物である。
【0059】
エマルジョンゲル(「エマルゲル」とも呼ばれる)は、ゲルの特性と水中油型エマルジョンの特性とを組み合わせた組成物である。ゲルとは対照的に、それらは脂質相を含み、その脂肪回復特性により、脂質の塊をマッサージすることができ、同時に、皮膚へ直接吸収される。さらに、親油性有効成分の溶解度が増加する。水中油型エマルジョンに対するエマルジョンゲルの利点の1つは、追加のアルコール成分が存在する場合、その蒸発時の冷却効果が挙げられる。
【0060】
泡は、例えば、加圧容器において形成され、エアロゾル形態の水中油型エマルジョンである。アルカン、例えばプロパンおよび/またはブタンなどの非置換炭化水素が促進剤として使用される。油相として、とりわけ炭化水素、例えばパラフィン油、脂肪アルコール、例えばセチルアルコール、脂肪酸エステル、例えばミリスチン酸イソプロピル、および/または他のワックスが使用される。乳化剤として、とりわけ、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(トゥイーン)などの主に親水性を有する乳化剤と、ソルビタン脂肪酸エステル(スパン)などの主に親油性を有する乳化剤との混合物が使用される。防腐剤などの通常の添加物も添加される。着色剤および溶液は、一般にエタノールベースであり、これに水を加えることができ、とりわけ、蒸発を低減するための吸湿剤としてのポリアルコール、例えば、グリセロール、グリコールおよび/またはポリエチレングリコール、および脂肪回復物質が加えられる。当該脂肪回復物質としては、低分子ポリエチレングリコール、プロピレングリコールまたはグリセロールを含む脂肪酸エステル、すなわち、エタノールによって皮膚から除去された脂肪物質の代わりとして、水性混合物に可溶な親油性物質、および必要に応じて、その他の添加剤および添加剤を挙げることができる。適切なチンキ剤または溶液はまた、適切な装置によってスプレー形態で適用され得る。
【0061】
本発明のグラフェン生成物の局所送達を伴う経皮治療システムは、有効量のグラフェン生成物を任意選択で担体と共に含む。有用な担体は、皮膚を通る有効成分の通過を助けるための吸収性の薬理学的に適切な溶媒を含む。経皮送達システムは、例えば、(a)基質(=裏打ち層またはフィルム)、(b)有効成分、任意選択で担体、および任意選択で(しかし好ましくは)システムを皮膚に取り付けるための特殊接着剤を含むマトリックス、および(c)保護フォイル(=剥離ライナー)を有するパッチの形態である。マトリックス(b)は通常、すべての成分の混合物として存在するか、分離した層の形態で存在する。
【0062】
本発明のグラフェン生成物を含む膜およびマトリックスは、それ自体で、または創傷被覆材、包帯などのより複雑な生成物の一部として、生成物の局所適用に適している。そのような膜の例またはマトリックスは、多糖類(アルギネート、キチン、キトサン、ヘパリン、コンドロイチン、カラゲナン)、プロテオグリカン、タンパク質(コラーゲン、ゼラチン、フィブリン、ケラチン、シルクフィブロイン、卵殻膜)などの天然ポリマー、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリアクリル酸、ポリ-ε-カプロラクトン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールからなるヒドロゲルまたは生体模倣細胞外マトリックスマイクロ/ナノスケール繊維などの合成ポリマーである。
【0063】
これらのシステムはすべて、当業者によく知られている。局所投与可能な医薬品または医薬品の製造は、それ自体が知られている方法で、例えば、本発明のグラフェン生成物をベースに、または必要に応じてその一部に懸濁することによって行われる。
【0064】
本発明による組成物は、特にメチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベンのようなパラベンエステル等の防腐剤;塩化ベンザルコニウムのような四級アンモニウム化合物;イミダゾニジニル尿素のようなホルムアルデヒド供与体;ベンジルアルコール、フェノキシエタノールアルコールなどのアルコール;安息香酸、ソルビン酸などの酸;pH緩衝液賦形剤として使用される酸;特にヒドロキノン、トコフェロールおよびそれらの誘導体のようなフェノール性抗酸化剤;フラボノイド、またはアスコルビン酸、パルミチン酸アスコルビルのような雑多な抗酸化剤;香水;カオリンやでんぷんなどのフィラー;顔料または着色剤;UVスクリーニング剤;特にグリセリン、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、尿素、ヒアルロン酸またはそれらの誘導体等の保湿剤;ビタミンEまたはその誘導体等の抗フリーラジカル剤;特にプロピレングリコール等の浸透促進剤;エタノール;イソプロパノール;ジメチルスルホキシド;N-メチル-2-ピロリドン;オレイン酸、オレイルアルコールなどの脂肪酸/アルコール;リモネン、メントール、1-8シネオールなどのテルペン;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのアルキルエステル;サリチル酸などのイオンペア剤保湿剤等の従来の添加剤およびアジュバントを含み得る。
【0065】
この組成物は、顔または体のためのマスク、クレンジング、保護、処理またはケアクリーム(例えば、デイクリーム、ナイトクリーム、メイクアップ除去クリーム、ファンデーションクリームまたはアンチサンクリーム)、メイクアップ除去ミルク、クレンジングローション等の、肌をケアするためのローション、ジェルまたはフォームを構成することができる。
【0066】
適切な局所製剤に関する詳細は、Remington “The science and Practice of pharmacy”22nd Edition(2012)などの標準的な教科書を参照することで得ることができる。
【0067】
配合物中の本発明のグラフェンナノ材料生成物の量は、0.01%から10%w/w、好ましくは0.01%から5%w/w、より好ましくは0.1%から3%w/wの範囲である。
【0068】
有益な効果と用途
以下の実施例によって証明されるように、本発明の生成物は、局所適用の場合にも毒性がなく、良好な生体適合性を有する。
【0069】
さらに、そして驚くべきことに、本発明の生成物は、実施例に示されるように、皮膚の修復および創傷治癒に有効である。
【0070】
したがって、本発明のグラフェン生成物、およびそれを含む組成物は、医薬品として有用である。
【0071】
「治療」または「治療的」という用語は、ヒトまたは動物の疾患を治療または予防し、ヒトまたは動物の生理学的機能を回復、修正または改変することを意図している。
【0072】
糖尿病、外傷、炎症性疾患、代謝異常、出血性疾患、乾癬などの自己免疫疾患など、多くの状態が皮膚と皮膚機能の完全性を損なう可能性がある。したがって、原因物質の性質に関係なく、皮膚病変の治癒を促進することが非常に重要である。皮膚への損傷後、創傷の閉鎖は、ケラチノサイトまたは線維芽細胞などの異なる細胞型の創傷端への増殖および方向性移動による新しい上皮の形成によって推進される[Bennet NT et al.,Am J Surg 1993;166:74-81.;Wong VW et al.,J Biomed Biotechnol. 2011:969618.]。
【0073】
本発明のグラフェン生成物は、ラットモデルの創傷の修復に有効であり、in vivoでの腎臓、肝臓、または炎症マーカーに関して無害であることが証明されている。
【0074】
したがって、上記グラフェン生成物は、創傷、瘢痕、火傷、潰瘍、乾癬、切り傷、または他の方法で外傷を受けた哺乳動物の皮膚など、皮膚の完全性の破壊をもたらすあらゆる状態の治療に有用である。このような病変は、広範囲の事象によって引き起こされる可能性があり、および/または他の疾患に関連している可能性がある。治療される病変には、切開、裂傷、擦過傷、水疱、血腫、穿刺、貫通、電気、照射、化学物質、外傷、圧挫、咬傷、火傷、霜、手術、原発性癌または転移、良性腫瘍、にきびに関連する病変が含まれる、細菌感染症(真菌またはウイルス性寄生虫感染症と組み合わされる可能性がある)などの感染症、静脈不全または動脈不全に関連する下肢潰瘍および足潰瘍などの血液循環の低下に関連する病変、褥瘡または床ずれ、および真性糖尿病または乾癬に関連する病変が含まれる。
【0075】
投与方法
本方法で使用される組成物は、好ましくは局所的に適用される。
【0076】
本発明のグラフェン生成物を含む局所製剤の1日投与量は、性別、年齢、体重、および患者の個々の状態などの様々な要因に依存し得る。
【実施例
【0077】
例1:GMC-1の準備と物理的-化学的特性
【0078】
原材料
本発明のグラフェンナノ材料を調製するために使用することができる原材料のテクスチャー特性、黒鉛化の程度、および材料の物理化学的および熱的特性は、以下の表1に示されている。
【0079】
【表1】
表1:GNF原料の物理化学的特性
【0080】
本実施例では、グラフェンナノファイバー(GNF)を使用して、本発明による材料を調製した。
【0081】
グラフェンベースのカーボンナノ材料(GNF)は、合成プロセス中にGNF構造に導入された金属と不純物を除去するためにHFを使用した精製プロセスにかけられる。精製プロセスは、低温(20~50℃)で数時間(12~24時間)行われる。その後、精製されたカーボンナノ材料を真空乾燥し、中性のpHになるまでミリポア水で洗浄する。
【0082】
次に、精製されたGNFは、水または他の溶媒を含む溶液中で、室温で数時間(2~5時間)剥離プロセスにかけられた。最後に、材料は熱による標準的な脱ピロゲン化プロセスにかけられる(200-500℃で10-60分)。
【0083】
得られた製品(GMC-1)は次のように特徴付けられている。
【0084】
GMC-1の元素分析
GMC-1と原材料の主な違いは、元素分析で確認できる(表2)。原料と比較すると、GMC-1は炭素と酸素のみで構成されている。毒物学実験で確認されたように、人の健康に害を及ぼす可能性のある不純物の痕跡はない。
【0085】
【表2】
表2:CNF原料とGMC-1との元素分析
【0086】
GMC-1のラマン分光法
GMC-1のラマンスペクトルは512nmレーザを使用して得、石炭材料の特徴的なピークを示した(図1)。すなわち、ピークD、1332cm-1、およびピークG、1580cm-1である。Gバンドは炭素原子のネットワーク、つまり理想的なグラファイト構造に対応し、Dバンドは基底面とエッジの両方に欠陥が存在するために出現する。グラフェンナノファイバーは、バンドGよりも大きな強度のバンドDを有する。これらのナノファイバーの場合のように、エッジが多数含まれている場合、グラファイト材料に大きなDピークが現れる可能性がある。ピークDとGの両方の帯域幅が高すぎないという事実も、ナノファイバーの結晶性を示している。
【0087】
GMC-1の吸収-窒素脱着分析
ガスの物理吸着によって固体の総表面積を測定するためには、固体の表面を覆うのに必要なガス分子数を検出することである。分子が占める面積がわかれば、固体の表面積は、吸収されたガスの分子の数から推定でき、体積または重量分析で測定できる(Brunauer, Emmett and Teller)。
【0088】
総表面積はマルチポイントBET方程式によって計算され、総細孔容積は、細孔がその後液体吸着物で満たされると仮定して、相対圧力P/Po=0.99で吸着された蒸気の量によって決定した。
【0089】
円筒形であると仮定した平均細孔径は、1未満の相対圧力で充填されなかった細孔が細孔サンプルの体積と表面積に寄与しなかったと仮定して、総細孔容積値と表面積から推定した。
【0090】
表面積、細孔容積、および細孔面積の分析は、相対値を収集するソフトウェア(QUADRAWIN)で制御されるs1x脱気ポートと3つの分析ポートを備えたQUANTACHROMモデルであるQUADRASORB SIモデルを使用して、77KでのNの吸着脱着によって行った。図2に、GMC-1の表面積、細孔容積、細孔径を示す。
BET表面積:300-350m/g
細孔容積:0,35-0,4cm/g
細孔径:5-6nm
【0091】
GMC-1のX線回折
GNFのサンプルに対するX線回折が実行された(図3A)。図3Aから分かるように、グラファイトの平面002間の距離、またはグラフェンのシート間の距離に対応する25.9o付近にピークを示す。結晶性の高いグラファイトの層間距離は0.334nmである。本例では、ナノファイバーの距離はわずかに長く、0.343nmである。これは、ナノファイバーが短距離では結晶化度を保つが、乱層構造であることを示している。平面002(Lc)に垂直な方向の結晶サイズは4.64nmであり、上記の事実を示している。
【0092】
図3Bは、本発明の材料サンプルに対応する回折図である。GNFとGMC-1とは同じピークを示しているが、GMC-1ではこれらのピークは2θの低い値を示している。
【0093】
表3は、GNFおよびGMC-1の特徴的な結晶学的パラメータを示している。
層間空間(d002)
結晶スタック高さ(Lc)
面内結晶子サイズ(La)
結晶中のグラフェン層の数(npg)
ここで、
λ、放射波長(λ=0.15404nm)
θ1、回折ピーク位置(o)
θ2、回折ピーク位置(o)
kl、形状因子(k=0,9)
k2、ウォーレンフォームファクタ定数(k=1,84)
FWHM、ピーク半値幅(rad)
【0094】
【表3】
表3:GNFおよびGMC-1のX線回折パラメータ
【0095】
GNFがGMC-1に変換されると、材料の結晶構造が変化する。このように、GMC-1では、精製、洗浄、剥離により、結晶スタック高さ(Lc)、面内結晶子サイズ(La)、結晶中のグラフェン層数(Nc)の減少が見られる。GMC-1の層間距離は、材料の剥離プロセスに起因して増加している。結晶スタックの高さ(Lc)と面内の結晶子サイズ(La)は、精製と剥離のプロセスに起因して減少した。
【0096】
粒度分布
原料GNFおよび本発明GMC-1による製品の粒子径分布は、Malvern PanalyticalのMastersizer 3000を用いて測定された。Mastersizer 3000は、レーザ回折の技術を使用して粒子のサイズを測定する。これは、レーザービームが分散した粒子状サンプルを通過するときに散乱する光の強度を測定することによって行われる。次に、このデータを分析して、散乱パターンに由来する粒子のサイズを計算する。
【0097】
図4Aは、GNFとGMC-1の数基準における粒子径分布の比較を示している。
【0098】
図4Bは、GNFとGMC-1の体積基準における粒子径分布の比較を示してる。
【0099】
パラメータd(0.1)、d(0.5)、およびd(0.9)は図から確認することができる。dnは累計粒子数を基準とする場合を表わし、dvは累計粒子体積を基準とする場合を表わしている。
【0100】
GNFの場合、dn(10)パラメータは粒子数の10%が1.121μm以下の粒子径であることを意味し、dn(50)パラメータは粒子数の50%が1.573μm以下の粒子径であることを意味している。dn(90)パラメータは、粒子数の90%が3.909μm以下の粒子径であることを意味している。GNFの場合、dv(10)パラメータはサンプルの体積の10%が19.764μm以下の粒子径の粒子で占められていることを意味し、dv(50)パラメータはサンプルの体積の50%が57.711μm以下の粒子径の粒子で占められていることを意味している。dv(90)パラメータは、サンプルの90%が103.114μm以下の粒子径の粒子によって占められていることを意味している。
【0101】
GMC-1の場合、dn(10)パラメータは粒子数の10%が0.313μm以下であることを意味し、dn(50)パラメータは粒子数の50%が0.394μm以下であることを意味している。dn(90)パラメータは、粒子数の90%が0.577μm以下の粒子径であることを意味している。GMC-1の場合、dv(10)パラメータはサンプルの体積の10%が10.549μm以下の粒子径で占められていることを意味し、dv(50)パラメータはサンプルの体積の50%が39.693μm以下の粒子径の粒子で占められ、dv(90)パラメータは、サンプルの90%が69.576μm以下の粒子径の粒子で占められていることを意味している。
【0102】
GNFとGMC-1の数基準および体積基準の粒度分布を比較すると、GMC-1の粒度分布が低くなっていることが分かる。要約すると、GNFのdn(90)は3.909μm以下、dv(90)は103,114μm以下であるが、GMC-1のdn(90)は0.577μm以下、dv(90)は69.576μm以下である。図4Aおよび4Bは、使用される原材料(GNF)と比較した、GMC-1のdn及びdvが減少していることを明確に示している。
【0103】
生物活性
統計
示されているデータは、可変数の実験の平均値±標準誤差として表されている。スチューデントt検定は、2つのサンプルに使用され、一元配置または二元配置分散分析は、ペアまたは非ペアの設計に続いて多重比較検定を使用して、>2サンプル(ANOVA)に使用された。P<0.05の値は統計的に有意であると見なした。
【0104】
例2:HEP-G2細胞株の毒性分析
薬理学的および毒物学的研究で使用される培養細胞(肝細胞株Hep-G2)に対してGMC-1を使用して試験を行った。
【0105】
6ウェル培養皿において、ウェルあたり300,000個の細胞を播種し、10%ウシ胎児血清を添加した培地(デフォルトではDMEM)で培養した。細胞は、37℃、5%CO、湿度の制御されたインキュベーター条件下で維持した。細胞が合体すると、これらの細胞中の16ハウスから血清が失われた。生成物は24時間、同じ条件下で保持された後、異なる濃度で懸濁液として加えられた。その後、細胞は処理され、薬理学的および毒物学的研究で説明されているISOで規定された2つのテストによって生存率と毒性について補完的に試験された。
a)生細胞と死細胞を区別するトリパンブルー排除
b)MTT(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)による細胞染色による代謝活性
【0106】
結果を図5に示す。データは、GMC-1が培養細胞Hep-G2に対して無毒であることを示している。
【0107】
例3:動物モデルでの創傷治癒 皮膚の創傷治癒は、創傷を閉じ、上皮バリアとその下にある結合組織を再構築するための普遍的な再生プロセスである。
【0108】
多くの要因と全身の状態とが皮膚機能を損なう原因となっている。皮膚の損傷後、創傷を閉じるために新しい上皮が形成する必要がある。
【0109】
創傷治癒には、細胞移動の増殖、分化、および細胞外マトリックスの形成が含まれる。静脈性、糖尿病性足病変、または褥瘡などの慢性創傷は、細菌のコロニー形成および/または感染の増加を含む治癒過程によって特徴付けられ、糖尿病、外傷、炎症性疾患、代謝異常、出血性疾患、喫煙、免疫抑制、栄養失調、肥満などの他の状態および疾患によって引き起こされる。
【0110】
創傷治癒のげっ歯類モデルで皮膚再生分析を実施した。GMC-1の製剤は、主要な賦形剤成分としてゼラチンを含む[X.J.Yang,et al.,Polym.Int.44(1997)448-452]。
【0111】
使用した動物モデルは、実験開始時の体重300~500の3~8か月齢のオスまたはメスのラット、n=18)である。ラットを2つのグループに分け、生成物を含む製剤または生成物を含まない製剤で処理した。動物をイソフルランで麻酔し、背部皮膚を剃毛した。70%エタノールで消毒した後、直径4mmの皮膚生検パンチを使用して、背部皮膚に5種類の創傷を形成した。創傷のうちの4つは、GMC-1を含む製剤またはGMC-1を含まない製剤(control)のパッチで治療した。5つ目の創傷は被覆しないで放置した。製剤は2日ごとに適用した。創傷閉鎖は、デジタルカメラ(PowerShot Pro1、Canon)を使用して、損傷後0~2日および4日で各創傷の写真を撮る平面測定によって経時的に監視した。創傷領域を分析した(Jimage、NIH)。各時点での創傷閉鎖のパーセンテージは、以下の式によって導き出された:(1-[現在の創傷サイズ/初期創傷サイズ])×100。この値は、被覆しない第5の創傷(動物の内部control)に対してパーセンテージで示される。
【0112】
4日目に、動物を犠牲にし、治癒した創傷の領域を切除し、10%中和ホルムアルデヒドで24時間固定し、パラフィンに包埋した。厚さ3μmの切片をキシレンで脱ロウし、エタノールの濃度を下げながら連続的に浸漬することで再水和し、組織病理学的測定(再上皮化、コラーゲン化、急性炎症性浸潤)を行った。各創傷の上皮化は、上記でコメントされた組織病理学的分析によって決定された個々のスコアに基づいてスコア付けした。
【0113】
結果を図6に示す。局所的に塗布されたGMC-1はin vivoで真皮を再生することを示している。
【0114】
安楽死後、血漿および末梢血単核細胞(血液中を循環する主要な白血球集団)が保存され、研究された。血漿の一般的な生化学が確認され、さまざまな腎臓、肝臓、および炎症のマーカーが研究された(クレアチニン、トランスアミナーゼ、および他の間の広範囲のC反応性タンパク質)。PBMCを操作して、炎症誘発性マーカーであるインターロイキン1-ベータの発現を研究した。この発現変化は、逆転写-定量的ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)を使用して決定した。異なるサンプルから抽出された元のmRNAの100ngの変換されたDNA(cDNA)は、市販の遺伝子発現分析(TaqMan、Life Technologies)で増幅した。値は内因性コントロール(ベータアクチン)に対して正規化され、倍数変化はメソッド2^-deltadeltaCtを使用して行った。
【0115】
結果を図7に示す。皮膚の創傷領域に局所的に塗布されたGMC-1は、in vivoでの腎臓、肝臓、または炎症マーカーに関して無害である。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A)】
図5B)】
図6A)】
図6B)】
図6C)】
図7A)】
図7B)】
図7C)】
図7D)】