(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】薬剤の有効蒸散率の向上方法
(51)【国際特許分類】
A01N 25/18 20060101AFI20231108BHJP
A01N 25/20 20060101ALI20231108BHJP
A01N 53/06 20060101ALI20231108BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
A01N25/18 101
A01N25/20 101
A01N53/06 110
A01P7/04
(21)【出願番号】P 2022062241
(22)【出願日】2022-04-04
(62)【分割の表示】P 2017155037の分割
【原出願日】2017-08-10
【審査請求日】2022-05-02
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000112853
【氏名又は名称】フマキラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 正昭
(72)【発明者】
【氏名】高畑 和紀
【審査官】柳本 航佑
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-034888(JP,A)
【文献】特公昭35-011550(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/00-23/00
A01N 1/00-65/48
A01P 1/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線香基材に、溶剤に溶解させた薬剤を塗布し、上記線香基材の総厚みの1/16の厚みを有する基材外層部に、上記線香基材の全体に含まれる上記薬剤の40%以上を含ませるとともに、上記線香基材の上記基材外層部よりも内側の内層部にも上記薬剤を含ませることを特徴とする薬剤の有効蒸散率の向上方法
(但し、薬剤の噴霧粒子に高電圧電気を帯電させることにより当該薬剤を線香基材に付着させる場合を除く)。
【請求項2】
請求項1に記載の薬剤の有効蒸散率の向上方法において、
ノルマルパラフィン、ヘキサン、エタノール及び水のうち、任意の1種または複数種を混合してなる溶剤に前記薬剤を溶解させることを特徴とする薬剤の有効蒸散率の向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮散性の薬剤の有効蒸散率の向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、害虫を駆除するための線香として蚊取り線香と呼ばれるものが知られている(例えば、特許文献1~5参照)。
【0003】
特許文献1には、クレー等の無機物にピレスロイド系等の殺虫薬剤を配合した無機物層を基材層の厚さの1/3以下の厚さに形成し、その無機物層を基材層の上、下または側面の一部もしくは全部に設けることが開示されている。
【0004】
特許文献2~4には、所定の化学式で示されるエステル化合物と、鎖式飽和炭化水素系溶剤や脂環式飽和炭化水素系溶剤との混合物を線香基材に塗布することが開示されている。
【0005】
特許文献5には、殺虫薬剤を含有する殺虫液に常温難揮発性の成分を含有させた液を生成し、この常温難揮発性の成分を含有する液を線香基材の処理面に処理することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公昭46-28119号公報
【文献】特開2005-200403号公報
【文献】特開2005-298477号公報
【文献】特開2006-256991号公報
【文献】特許第4183790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1では、殺虫薬剤を基材層の上や下等に層状に設けるようにしているが、線香の場合、殺虫薬剤は線香基材の燃焼時の熱の影響等を受けやすく、その熱が殺虫効力に影響を与えることが考えられ、特許文献1のように殺虫薬剤を層状に設けたとしてもその殺虫効力がどの程度であるのか、特許文献1には記載されておらず不明である。
【0008】
また、特許文献2~4のように殺虫薬剤を線香基材に塗布する場合、殺虫薬剤の線香基材深さ方向についての分布はなりゆきで決定されることになり、線香基材の燃焼時の熱の影響を受けて殺虫効力が低下してしまうおそれがある。
【0009】
また、線香としては、殺虫薬剤以外にも香料を含んだものもあり、このような線香においても、含まれる香料をできるだけ少なくしながら十分な効果を得たいという要求がある。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、線香に含まれる薬剤による効力を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明では、基材外層部に薬剤の40%以上を偏在させるようにした。
【0012】
第1の発明は、線香基材に、溶剤に溶解させた薬剤を塗布し、上記線香基材の総厚みの1/16の厚みを有する基材外層部に、上記線香基材の全体に含まれる上記薬剤の40%以上を含ませることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、薬剤の40%以上が基材外層部に偏在することになる。この基材外層部の厚みは線香基材の総厚みの1/16であり、総厚みに対して十分に薄くなっている。総厚みの1/16の基材外層部に薬剤の40%以上が偏在していることで、燃焼時には基材外層部から薬剤が揮散し易くなり、燃焼時の熱が薬剤に対して悪影響を及ぼし難くなる。よって、薬剤による効力が高まる。
【0014】
第2の発明は、線香基材に、エタノールまたはヘキサンに溶解させた薬剤が含まれた線香の製造方法において、上記線香基材に液状の上記薬剤を塗布し、上記線香基材の総厚みの1/8の厚みを有する基材外層部に、上記線香基材の全体に含まれる上記薬剤の60%以上を含ませることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、燃焼時により一層多くの薬剤が基材外層部から揮散し易くなるので、薬剤による効力がさらに高まる。
【0016】
また、薬剤の60%以上が基材外層部に偏在することになる。この基材外層部の厚みは線香基材の総厚みの1/8であり、総厚みに対して十分に薄くなっている。総厚みの1/8の基材外層部に薬剤の60%以上が偏在していることで、燃焼時には基材外層部から薬剤が揮散し易くなり、燃焼時の熱が薬剤に対して悪影響を及ぼし難くなる。よって、薬剤による効力が高まる。
【0017】
また、上記薬剤は、上記線香基材の表面側及び裏面側の一方に含浸されていることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、線香の製造工程において、薬剤を線香基材の表面側及び裏面側の一方に含浸させればよいので、製造設備が簡単になる。
【発明の効果】
【0019】
第1の発明によれば、線香基材の総厚みの1/16の厚みを有する基材外層部に薬剤の40%以上が含まれているので、薬剤に対して燃焼時の熱の悪影響が及び難くなり、薬剤による効力を高めることができる。
【0020】
第2の発明によれば、線香基材の総厚みの1/8の厚みを有する基材外層部に薬剤の60%以上が含まれているので、薬剤に対して燃焼時の熱の悪影響が及び難くなり、薬剤による効力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0023】
図1は、本発明の実施形態に係る線香1の断面を示すものである。
図1に示す断面は、線香1の延びる方向に直交する方向の断面である。線香1は、例えば直線状に延びる形状であってもよいし、渦巻き状に延びる形状であってもよく、形状は特に限定されるものではない。また、線香1の断面形状についても矩形断面、円形断面、楕円形断面等の各種形状とすることができる。この実施形態では、線香1が渦巻き状に延びる形状であり、断面形状が
図1に示すように矩形に近い形状とされていて4つの角部が円弧に近い形状となっている。尚、
図1中における符号L1、L2で示す破線は、後述する薬剤の分布を説明する際に説明の便宜を図るために記載しているだけであり、実際の線香1には無い線である。
【0024】
線香1は、線香基材2に揮散性薬剤が含まれたものであり、揮散性薬剤としては、殺虫薬剤、各種香料等を挙げることができる。殺虫薬剤としては、例えばジメフルトリン、トランスフルトリン、アレスリン、dl,d-T80-アレスリン、dl,d-T-アレスリン、d,d-T-アレスリン、プラレトリン、メトフルトリン、メパフルトリン、レノフルトリン、エムペントリン、ピレトリン、プロフルトリン、ヘプタフルトリン、テトラフルメトリン等を挙げることができる。
【0025】
線香基材2は、木粉、紙、パルプ等の可燃性を持った燃焼材と、燃焼材を固めるためのコーンスターチ等からなる結合剤とを少なくとも含んでいる。線香基材2には、着色料等が含まれていてもよい。
【0026】
線香1は、揮散性薬剤の濃度分布が線香基材2の深さ方向について不均一になるように製造されている。すなわち、線香基材2の総厚みT1の1/16の厚みT2を有する基材外層部2aに、線香基材2の全体に含まれる揮散性薬剤の40%以上が含まれている。基材外層部2aは、線香基材2の外表面と、破線L1との間の部分であり、線香基材2の表面(
図1における上面)、側面、裏面(
図1における下面)の全体に亘って設けられている。破線L1は、線香基材2の総厚みT1の1/16の厚みの範囲を特定するために示しており、線香基材2の断面形状と相似な枠状の線である。基材外層部2aには、線香基材2の全体に含まれる揮散性薬剤の50%以上が含まれているのが好ましく、線香基材2の全体に含まれる揮散性薬剤の60%以上が基材外層部2aに含まれているのがより好ましい。例えば、線香基材2の総厚みT1が4mmである場合には、総厚みT1の1/16の厚みT2は0.25mmになるので、基材外層部2aの厚みは0.25mmである。この場合、線香基材2の基材外層部2aを除く部分が内層部となり、この内層部には、揮散性薬剤の残りが含まれることになる。尚、T2は0.3mm以下が好ましく、より好ましくは0.25mm以下である。
【0027】
また、線香基材2の総厚みT1の1/8の厚みT3を有する基材外層部2bに、線香基材2の全体に含まれる揮散性薬剤の60%以上が含まれている構成であってもよい。この場合、基材外層部2bは、線香基材2の外表面と、破線L2との間の部分であり、線香基材2の表面、側面、裏面の全体に亘って設けられている。破線L2は、線香基材2の総厚みT1の1/8の厚みの範囲を特定するために示しており、線香基材2の断面形状と相似な枠状の線であり、破線L1の内側に位置している。例えば、線香基材2の総厚みT1が4mmである場合には、総厚みT1の1/8の厚みT3は0.5mmになるので、基材外層部2bの厚みは0.5mmである。この場合、線香基材2の基材外層部2bを除く部分が内層部となり、この内層部には、揮散性薬剤の残りが含まれることになる。
【0028】
揮発性薬剤は、線香基材2の表面側及び裏面側の一方にのみ含浸させるようにしてもよいし、線香基材2の表面側及び裏面側の両方に含浸させるようにしてもよい。また、揮発性薬剤を表面側及び裏面側と、側面とに含浸させるようにしてもよい。
【0029】
(線香1の製造方法)
次に、上記のように構成された線香1の製造方法について説明する。まず、線香基材2と、液状の薬剤とを用意する。液状の薬剤は、上記揮散性薬剤と、溶剤とを含んでいる。溶剤としては、例えばパラゾール134等のノルマルパラフィン、ヘキサン、エタノール、水等を挙げることができ、これらのうち、任意の1種または複数種を混合して用いることもできる。揮散性薬剤の量は、例えば1つの線香1につき、3.75mg程度に設定することができるが、これに限られるものではなく、効力を考慮して任意に設定することができる。
【0030】
そして、予め準備している線香基材2に液状の薬剤を塗布し、線香基材2の総厚みの1/16の厚みを有する基材外層部2aに、線香基材2の全体に含まれる薬剤の40%以上を含ませる。これは、溶剤の種類や溶剤の量による薬剤の希釈度合い等によって実現することができる。
【0031】
また、予め準備している線香基材2に液状の薬剤を塗布し、線香基材2の総厚みの1/8の厚みを有する基材外層部2bに、線香基材2の全体に含まれる薬剤の60%以上を含ませるようにしてもよい。これも、溶剤の種類や溶剤の量による薬剤の希釈度合い等によって実現することができる。
【0032】
【0033】
表1は、基材外層部2aに線香基材2の全体に含まれる薬剤の40%以上を含ませる、または、基材外層部2bに線香基材2の全体に含まれる薬剤の60%以上を含ませる具体的な方法とその結果について示すものである。表1の「練り込み製法」とは、線香基材を構成する木粉や結合剤に、揮散性薬剤としてのジメフルトリン3.75mgを練り込んだ後、固めることによって線香を得る製造方法である。ジメフルトリン3.75mgを練り込む木粉の量は、一般的な渦巻き線香の1本分の量である。この練り込み製法によって得られた線香の場合、深さ方向についてジメフルトリンの濃度は略均一になる。内層部には、総薬量(3.75mg)から基材外層部2bの薬量を差し引いた量が存在することになる。薬量はwt%で表すことができる。
【0034】
溶剤がnパラフィン(ノルマルパラフィン)、具体的にはパラゾール134の場合には、基材外層部2aに、線香基材2の全体に含まれるジメフルトリンの40%以上が含まれる。同様に、溶剤が水、エタノール、ヘキサンの場合も基材外層部2aに、線香基材2の全体に含まれるジメフルトリンの40%以上が含まれる。また、溶剤が水、エタノール、ヘキサンの場合には、基材外層部2bに、線香基材2の全体に含まれるジメフルトリンの60%以上が含まれる。また、どの溶剤であっても、線香基材2の外面に近いほど揮散性薬剤の濃度が濃くなっている。
【0035】
尚、基材外層部2a、2bに含まれる揮散性薬剤の量を求める場合には、まず、基材の厚さをノギスにて測定しながら基材外層部2a、2bの厚さに相当する量を削り取り、削り取った部分に含まれる薬剤の量をガスクロマトグラフィを用いて測定する。基材外層部2a、2b以外の部分(内層部)に含まれる薬剤の量も測定する。
【0036】
(実施形態の作用効果)
表1における「有効蒸散率(%)」は、線香1を燃やしたときに、当該線香1に含まれていたジメフルトリンのうち、どれくらいの量が効力を発揮する状態で揮散したかを示す値である。有効蒸散率が100%であれば、線香1に含まれていたジメフルトリンの全てが効力を発揮する状態で揮散したことになり、反対に0%であれば、線香1に含まれていたジメフルトリンの全てが効力を発揮しなかったことになる。測定方法としては、例えば線香1を燃やして排出された気体を全て回収してガスクロマトグラフィ等の計測機器を使用してジメフルトリンの量を測定する。そして、線香1の燃焼した部分に含まれていたジメフルトリンに対する、回収されたジメフルトリンの量の割合を求め、それを有効蒸散率とすることができる。
【0037】
表1から明らかなように、練り込み製法では有効蒸散率が70%であったのに対し、塗布製法で、かつ、基材外層部2aまたは基材外層部2bに所定以上の揮散性薬剤を存在させた場合には、有効蒸散率が79%以上になる。従って、基材外層部2aまたは基材外層部2bに薬剤を大きく偏在させることで、燃焼時には基材外層部2a、2bから薬剤が揮散し易くなり、燃焼時の熱が揮散性薬剤に対して悪影響を及ぼし難くなる。よって、揮散性薬剤による効力が高まる。
【0038】
また、上記実施形態では、揮散性薬剤がジメフルトリンである場合について説明したが、揮散性薬剤がトランスフルトリン、アレスリン等であっても同様な結果となる。また、揮散性薬剤が香料の場合には、香料の効力を高めることができる。
【0039】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上説明したように、本発明は、例えば殺虫用線香や芳香用線香に使用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 線香
2 線香基材
2a 基材外層部
2b 基材外層部