(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】エレクトロクロミック材料としてタングステンチタンモリブデン酸化物を含むエレクトロクロミックデバイス
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1523 20190101AFI20231108BHJP
【FI】
G02F1/1523
(21)【出願番号】P 2020559396
(86)(22)【出願日】2019-04-17
(86)【国際出願番号】 US2019027931
(87)【国際公開番号】W WO2019209593
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-04-14
(32)【優先日】2018-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509335373
【氏名又は名称】ビュー, インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】195 S. Milpitas Blvd., Milpitas, CA 95035 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロズビッキ、ロバート ティー.
(72)【発明者】
【氏名】カイラサム、スリダー カーティク
【審査官】横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-062696(JP,A)
【文献】特表2017-538965(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0292606(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0112183(KR,A)
【文献】特表2012-523018(JP,A)
【文献】国際公開第2017/011272(WO,A1)
【文献】特開2015-128055(JP,A)
【文献】特開昭48-034547(JP,A)
【文献】国際公開第2016/039157(WO,A1)
【文献】M.A.Arvizu et al.,Electrochromic W1-x-yTixMoyO3 Thin Films Made by Sputter Deposition:Large Optical Modulation,Good Cycling Durability, and Approximate Color Neutrality,CHEMISTRY OF MATERIALS 2017,29,米国,Pages.2246-2253
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/15-1/19
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロクロミックデバイ
スであって、
約10~500nmの厚さを有する第1の導電層と、
W
1-x-yTi
xMo
yO
z(式中、xは、約0.05~0.25であり、yは、約0.01~0.15であり、zは、約3.5~4.5である)の組成を有するタングステンチタンモリブデン酸化物を含むエレクトロクロミック材料を含むエレクトロクロミック層であって、約200~700nmの厚さを有する、エレクトロクロミック層と、
ニッケルタングステン酸化物を含む対極材料を含む対極層であって、約100~400nmの厚さを有する対極層と、
約100~400nmの厚さを有する第2の導電層と、を含み、
前記エレクトロクロミック層および前記対極層が、前記第1の導電層と前記第2の導電層との間に配置され、前記エレクトロクロミックデバイスが、すべて固体かつ無機である、エレクトロクロミックデバイ
ス。
【請求項2】
前記対極材料は、ニッケルタングステンタンタル酸化物を含む、請求項1に記載のエレクトロクロミックデバイ
ス。
【請求項3】
前記対極材料は、ニッケルタングステンニオブ酸化物を含む、請求項1に記載のエレクトロクロミックデバイ
ス。
【請求項4】
前記対極材料は、ニッケルタングステンスズ酸化物を含む、請求項1に記載のエレクトロクロミックデバイ
ス。
【請求項5】
前記エレクトロクロミック層、前記対極層、および前記第2の導電層が、すべてスパッタリングによって形成される、請求項1に記載のエレクトロクロミックデバイ
ス。
【請求項6】
前記エレクトロクロミックデバイ
スが、前記エレクトロクロミック層と前記対極層との間にイオン伝導性の電子絶縁材料の均質層を含まない、請求項1に記載のエレクトロクロミックデバイ
ス。
【請求項7】
前記エレクトロクロミック材料が、前記対極材料と物理的に接触している、請求項1に記載のエレクトロクロミックデバイ
ス。
【請求項8】
前記エレクトロクロミック層および前記対極層のうちの少なくとも1つが、2つ以上の層または部分を含み、前記層または部分のうちの1つに含まれる化合物が、超化学量論的な量の酸素を含む、請求項1に記載のエレクトロクロミックデバイ
ス。
【請求項9】
前記エレクトロクロミック層と前記対極層との間の界面で、その場で形成される、イオン伝導性であり、かつ実質的に電子絶縁性である材料をさらに含む、請求項1に記載のエレクトロクロミックデバイ
ス。
【請求項10】
リチウムシリケート、リチウムアルミニウムシリケート、リチウム酸化物、リチウムタングステート、リチウムアルミニウムボレート、リチウムボレート、リチウムジルコニウムシリケート、リチウムナイオベート、リチウムボロシリケート、リチウムホスホシリケート、リチウムナイトライド、リチウムオキシナイトライド、リチウムアルミニウムフルオリド、リチウムリンオキシナイトライド(LiPON)、リチウムランタンチタネート(LLT)、リチウムタンタル酸化物、リチウムジルコニウム酸化物、リチウムシリコンカーボンオキシナイトライド(LiSiCON)、リン酸チタンリチウム、酸化リチウムゲルマニウムバナジウム、酸化リチウム亜鉛ゲルマニウム、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される材料を含むイオン伝導層をさらに含む、請求項1に記載のエレクトロクロミックデバイ
ス。
【請求項11】
エレクトロクロミックデバイスまたはエレクトロクロミックデバイス前駆体を製作する方法であって、
上部に第1の導電層を有する基板を受容することと、
組成W
1-x-yTi
xMo
yO
z(式中、xは、約0.05~0.25であり、yは、約0.01~0.15であり、zは、約3.5~4.5である)を有するタングステンチタンモリブデン酸化物を含むエレクトロクロミック材料を含むエレクトロクロミック層を形成することと、
ニッケルタングステン酸化物を含む対極材料を含む対極層を形成することと、
第2の導電層を形成することと、を含み、
前記エレクトロクロミック層および前記対極層が、前記第1の導電層と前記第2の導電層との間に配置され、前記エレクトロクロミックデバイスが、すべて固体かつ無機である、方法。
【請求項12】
前記対極材料が、ニッケルタングステンタンタル酸化物を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記対極材料が、ニッケルタングステンニオブ酸化物を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記対極材料が、ニッケルタングステンスズ酸化物を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記エレクトロクロミック層、前記対極層、および前記第2の導電層が、すべてスパッタリングによって形成される、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記エレクトロクロミックデバイスまたはエレクトロクロミックデバイス前駆体が、前記エレクトロクロミック層と前記対極層との間にイオン伝導性の電子絶縁材料の均質層を含まない、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記エレクトロクロミック材料が、前記対極材料と物理的に接触している、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記エレクトロクロミック層および前記対極層のうちの少なくとも1つが、2つ以上の層又は部分を含むように蒸着され、前記2つ以上の層又は部分のうちの1つに含まれる化合物が、超化学量論的な量の酸素を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
イオン伝導性であり、かつ実質的に電子絶縁性である材料を含むイオン伝導層をその場で形成することをさらに含み、前記イオン伝導層が、前記エレクトロクロミック層と前記対極層との間の界面に配置される、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
リチウムシリケート、リチウムアルミニウムシリケート、リチウム酸化物、リチウムタングステート、リチウムアルミニウムボレート、リチウムボレート、リチウムジルコニウムシリケート、リチウムナイオベート、リチウムボロシリケート、リチウムホスホシリケート、リチウムナイトライド、リチウムオキシナイトライド、リチウムアルミニウムフルオリド、リチウムリンオキシナイトライド(LiPON)、リチウムランタンチタネート(LLT)、リチウムタンタル酸化物、リチウムジルコニウム酸化物、リチウムシリコンカーボンオキシナイトライド(LiSiCON)、リン酸チタンリチウム、酸化リチウムゲルマニウムバナジウム、酸化リチウム亜鉛ゲルマニウム、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される材料を含むイオン伝導層を形成することをさらに含み、前記イオン伝導層が、前記エレクトロクロミック層および前記対極層のうちの少なくとも1つを形成する前に形成される、請求項11に記載の方法。
【請求項21】
前記エレクトロクロミック層が、1つまたは複数の金属含有ターゲットと、約40~80%のO
2および約20~60%のArを含む第1のスパッタガスと、を使用してスパッタリングすることによって形成され、前記基板が、少なくとも断続的に、前記エレクトロクロミック層の形成中に約150~450℃に加熱され、前記エレクトロクロミック層が、約200~700nmの厚さを有し、
前記対極層が、1つまたは複数の金属含有ターゲットと、約30~100%のO
2および約0~30%のArを含む第2のスパッタガスと、を使用してスパッタリングすることによって形成され、前記対極層が、約100~400nmの厚さを有する、請求項11に記載の方法。
【請求項22】
前記対極層を形成した後に、
前記基板を不活性雰囲気中、約150~450℃の温度で約10~30分間加熱することと、
前記基板を前記不活性雰囲気中で加熱した後、前記基板を酸素雰囲気中、約150~450℃の温度で約1~15分間加熱することと、
前記基板を前記酸素雰囲気中で加熱した後、空気中、約250~350℃の温度で約20~40分間加熱することと、をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項23】
前記基板が、前記エレクトロクロミック層、前記対極層、および前記第2の導電層の形成中に鉛直方向に維持される、請求項11に記載の方法。
【請求項24】
エレクトロクロミックスタックを製作するための統合された蒸着システムであって、
前記統合された蒸着システムは、直列に整列され、相互接続され、かつ基板を外部環境に曝露することなく前記基板を1つのステーションから次のステーションに通過させるように動作可能な複数の蒸着ステーションを備え、
前記複数の蒸着ステーションは、
W
1-x-yTi
xMo
yO
z(式中、xは、約0.05~0.25であり、yは、約0.01~0.15であり、zは、約3.5~4.5である)の組成を有するタングステンチタンモリブデン酸化物を含むエレクトロクロミック材料を含むエレクトロクロミック層を蒸着するための第1の1つ以上の材料源を含む第1の蒸着ステーションであって、前記エレクトロクロミック層は約200~700nmの厚さを有する、前記第1の蒸着ステーションと、
ニッケルタングステン酸化物を含む対極層を蒸着するための第2の1つ以上の材料源を含む第2の蒸着ステーションであって、前記対極層は約100~400nmの厚さを有する、前記第2の蒸着ステーションと、
前記基板上に、(i)前記エレクトロクロミック層と、(ii)少なくとも前記エレクトロクロミック層及び前記対極層を有するスタックを形成するべく、前記対極層とを蒸着するように、前記複数の蒸着ステーションに前記基板を通過させるためのプログラム命令を含む制御装置と、を含む
統合された蒸着システム。
【請求項25】
前記複数の蒸着ステーションは、約10~500nmの厚さを有する第1の導電層を蒸着するための第3の1つ以上の材料源を含む第3の蒸着ステーションを含む、請求項24に記載の統合された蒸着システム。
【請求項26】
前記複数の蒸着ステーションは、約100~400nmの厚さを有する第2の導電層を蒸着するための第3の1つ以上の材料源を含む第4の蒸着ステーションを含む、請求項25に記載の統合された蒸着システム。
【請求項27】
前記対極層を蒸着するための前記第2の1つ以上の材料源の少なくとも1つは、ニッケル、タングステン、及びタンタルからなる群から選択された元素金属を含む、請求項24に記載の統合された蒸着システム。
【請求項28】
前記対極層を蒸着するための前記第2の1つ以上の材料源の少なくとも1つは、ニッケル、タングステン、及びニオブからなる群から選択された元素金属を含む、請求項24から27のいずれか一項に記載の統合された蒸着システム。
【請求項29】
前記対極層を蒸着するための前記第2の1つ以上の材料源の少なくとも1つは、ニッケル、タングステン、及びスズからなる群から選択された元素金属を含む、請求項24から27のいずれか一項に記載の統合された蒸着システム。
【請求項30】
前記対極層を蒸着するための前記第2の1つ以上の材料源の少なくとも1つは、酸化物を含む、請求項24から27のいずれか一項に記載の統合された蒸着システム。
【請求項31】
前記制御装置はさらに、前記エレクトロクロミック層と前記対極層の間にイオン伝導性の電子絶縁性材料の均質層を含まない前記スタックを形成するためのプログラム命令を含む、請求項24から27のいずれか一項に記載の統合された蒸着システム。
【請求項32】
前記制御装置はさらに、前記エレクトロクロミック層が前記対極層に物理的に接触するように、スタックにおける前記エレクトロクロミック層及び前記対極層を蒸着するためのプログラム命令を含む、請求項24から27のいずれか一項に記載の統合された蒸着システム。
【請求項33】
前記エレクトロクロミック層と前記対極層の少なくとも一方は、2つ以上の層または部分を含み、前記2つ以上の層または部分の1つに含まれる化合物は、超化学量論的な量の酸素を含む、請求項24から27のいずれか一項に記載の統合された蒸着システム。
【請求項34】
前記エレクトロクロミック層と前記対極層との間の界面で、その場で形成されるイオン伝導性であり実質的に電子絶縁性である層を蒸着するための第5の1つ以上の材料源を含む第5の蒸着ステーションをさらに備える、請求項24から27のいずれか一項に記載の統合された蒸着システム。
【請求項35】
(a)タングステン、(b)チタン、(c)モリブデン、及び(d)酸素を含み、
W
1-x-yTi
xMo
yO
z(式中、xは、約0.05~0.25であり、yは、約0.01~0.15であり、zは、約3.5~4.5である)の組成を有する、組成物。
【請求項36】
前記組成物は、約200~700nmの厚さを有する層に含まれる、請求項35に記載の組成物。
【請求項37】
前記組成物は、1つ以上のスパッタターゲットをスパッタリングすることにより形成される、請求項35に記載の組成物。
【請求項38】
前記組成物は、アモルファスである、請求項35に記載の組成物。
【請求項39】
前記組成物は、ナノ結晶性である、請求項35に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、2019年4月15日に出願され、「ELECTROCHROMIC CATHODE MATERIALS」と題された米国特許出願第16/384,822号の優先権を主張するものであり、これは2018年4月24日に出願され、「ELECTROCHROMIC CATHODE MATERIALS」と題された米国仮特許出願第62/662,034号の優先権を主張するものであり、これらのそれぞれは、参照によりその全体およびすべての目的のために本明細書に組み込まれる。
【0002】
さらに、この出願は、以下の出願のそれぞれを、参照により、その全体において、およびすべての目的のために組み込む:米国特許第9,664,974号[代理人明細書VIEWP001]、米国特許第8,300,298号[代理人明細書VIEWP004]、米国特許第8,764,951号[代理人明細書VIEWP004X2]、2017年2月28日に出願され、「COUNTER ELECTRODE FOR ELECTROCHROMIC DEVICES」と題された米国特許第15/507,734号[代理人明細書VIEWP066]、2017年5月16日に出願され、「COUNTER ELECTRODE FOR ELECTROCHROMIC DEVICES」と題された米国特許第15/527,194号[代理人明細書VIEWP074]、2017年5月15日に出願され、「COUNTER ELECTRODE FOR ELECTROCHROMIC DEVICES」と題された米国特許第15/526,969号[代理人明細書VIEWP075]。
【背景技術】
【0003】
エレクトロクロミズムは、材料が、異なる電子状態に置かれたときに、典型的には電圧変化を受けることによって、光学的性質において電気化学的に媒介される可逆変化を示す現象である。光学的性質は、典型的には、色、透過率、吸光度、および反射率のうちの1つまたは複数である。1つの周知のエレクトロクロミック材料が、酸化タングステン(WO3)である。酸化タングステンは、電気化学還元によって、透明から青色への着色移行が起こる陰極エレクトロクロミック材料である。
【0004】
エレクトロクロミック材料は、例えば、家庭用、商業用および他の用途の窓に組み込むことができる。そのような窓の色、透過率、吸光度、および/または反射率は、エレクトロクロミック材料の変化を誘発することによって変化させることができ、換言すれば、エレクトロクロミック窓は、電子的に暗くまたは明るくすることができる窓である。窓のエレクトロクロミックデバイスに小さな電圧を印加すると窓が暗くなり、電圧を逆にすると、明るくなる。この能力は、窓を通過する光の量の制御を可能にし、エレクトロクロミック窓を省エネルギー装置として使用する機会を提供する。
【0005】
エレクトロクロミズムは1960年代に発見されたが、エレクトロクロミックデバイス、特にエレクトロクロミック窓は、残念ながら、依然として様々な問題を抱えており、エレクトロクロミック技術、装置、およびエレクトロクロミックデバイスを製造および/または使用する関連方法における多くの最近の進歩にもかかわらず、それらの完全な商業的可能性を実現し始めていない。
【0006】
本明細書で提供される背景説明は、本開示の文脈を一般的に提示することを目的としている。現在指名されている発明者の研究は、この背景セクションに記載されている範囲で、出願時に先行技術として適格とならない可能性のある説明の態様と同様に、本開示に対する先行技術として明示的または黙示的にも認められていない。
【発明の概要】
【0007】
本明細書における特定の実施形態は、エレクトロクロミックデバイスおよびエレクトロクロミックデバイス前駆体、ならびにそのようなエレクトロクロミックデバイスおよびエレクトロクロミックデバイス前駆体を形成するための方法および装置に関する。様々な実施形態では、エレクトロクロミックデバイスまたはエレクトロクロミックデバイス前駆体は、タングステン、チタン、モリブデン、および酸素を含むエレクトロクロミック材料を含むエレクトロクロミック層を含む。この材料は、一般にタングステンチタンモリブデン酸化物と呼ばれる特定の場合において、タングステンチタンモリブデン酸化物エレクトロクロミック材料は、例えば、デバイスが色付けされた状態にあるときに望ましい色品質を提供するために、特定の対極材料と対にされ得る。
【0008】
開示された実施形態の一態様では、約10~500nmの厚さを有する第1の導電層と、組成W1-x-yTixMoyOz(式中、xは、約0.05~0.25であり、yは、約0.01~0.15であり、zは、約2.5~4.5である)を有するタングステンチタンモリブデン酸化物を含むエレクトロクロミック材料を含むエレクトロクロミック層であって、約200~700nmの厚さを有する、エレクトロクロミック層と、ニッケルタングステン酸化物を含む対極材料を含む対極層であって、約100~400nmの厚さを有する対極層と、約100~400nmの厚さを有する第2の導電層と、を含み、エレクトロクロミック層および前記対極層が、第1の導電層と第2の導電層との間に配置され、エレクトロクロミックデバイスが、すべて固体かつ無機である、エレクトロクロミックデバイスまたはエレクトロクロミックデバイス前駆体が提供される。
【0009】
いくつかの実施形態では、エレクトロクロミック層は、結晶性(例えば、ナノ結晶性、微結晶性、またはそれらの組み合わせ)であり得る。いくつかの実施形態では、エレクトロクロミック層は、アモルファスであり得る。これらまたは他の実施形態では、対極材料は、結晶性(例えば、ナノ結晶性、微結晶性、またはそれらの組み合わせ)であり得る。いくつかの実施形態では、対極層は、アモルファスであり得る。特定の実装形態では、対極材料は、ニッケルタングステンタンタル酸化物を含む。特定の実装形態では、対極材料は、ニッケルタングステンニオブ酸化物を含む。特定の実装形態では、対極材料は、ニッケルタングステンスズ酸化物を含む。
【0010】
エレクトロクロミックデバイスまたはエレクトロクロミックデバイス前駆体の層のうちの1つまたは複数は、スパッタリングによって形成され得る。場合によっては、エレクトロクロミック層、対極層、および第2の導電層はすべて、スパッタリングによって形成される。
【0011】
様々な実装形態では、エレクトロクロミックデバイスまたはエレクトロクロミックデバイス前駆体は、エレクトロクロミック層と対極層との間にイオン伝導性の電子絶縁材料の均質層を含まない。場合によっては、エレクトロクロミック材料は、対極材料と物理的に接触している。これらまたは他の場合において、エレクトロクロミック層および対極層のうちの少なくとも1つは、2つ以上の層または部分を含み得、層または部分のうちの1つは、酸素に関して超化学量論的である。一実装形態では、(a)エレクトロクロミック層が、2つ以上の層を含み、酸素に関して超化学量論的である層が、対極層と接触している、または(b)対極層が、2つ以上の層を含み、酸素に関して超化学量論的である層が、エレクトロクロミック層と接触している、のいずれかである。別の実装形態では、(a)エレクトロクロミック層が、2つ以上の部分を含み、2つ以上の部分が、一緒になって傾斜層としてエレクトロクロミック層を形成し、酸素に関して超化学量論的であるエレクトロクロミック層の部分が、対極層と接触している、または(b)対極層が、2つ以上の部分を含み、2つ以上の部分が一緒になって傾斜層として対極層を形成し、酸素に関して超化学量論的である対極層の部分が、エレクトロクロミック層と接触している、のいずれかである。いくつかの実施形態では、エレクトロクロミックデバイスまたはエレクトロクロミックデバイス前駆体は、エレクトロクロミック層と対極層との間の界面で、その場で形成される、イオン伝導性であり、かつ実質的に電子絶縁性である材料をさらに含む。
【0012】
特定の実装形態では、エレクトロクロミックデバイスまたはエレクトロクロミックデバイス前駆体は、リチウムシリケート、リチウムアルミニウムシリケート、リチウム酸化物、リチウムタングステート、リチウムアルミニウムボレート、リチウムボレート、リチウムジルコニウムシリケート、リチウムナイオベート、リチウムボロシリケート、リチウムホスホシリケート、リチウムナイトライド、リチウムオキシナイトライド、リチウムアルミニウムフルオリド、リチウムリンオキシナイトライド(LiPON)、リチウムランタンチタネート(LLT)、リチウムタンタル酸化物、リチウムジルコニウム酸化物、リチウムシリコンカーボンオキシナイトライド(LiSiCON)、リン酸チタンリチウム、酸化リチウムゲルマニウムバナジウム、酸化リチウム亜鉛ゲルマニウム、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される材料を含むイオン伝導層をさらに含む。いくつかのそのような場合において、イオン伝導層は、約5~100nmの厚さを有し得る。いくつかの実施形態では、イオン伝導層は、リチウムシリケート、リチウムアルミニウムシリケート、リチウムジルコニウムシリケート、リチウムボロシリケート、リチウムホスホシリケート、リチウムリン酸窒化物(LiPON)、リチウムシリコン炭素酸窒化物(LiSiCON)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される材料を含む。
【0013】
開示された実施形態のさらなる態様では、エレクトロクロミックデバイスまたはエレクトロクロミックデバイス前駆体を製作する方法が提供され、この方法は、上部に第1の導電層を有する基板を受容することと、組成W1-x-yTixMoyOz(式中、xは、約0.05~0.25であり、yは、約0.01~0.15であり、zは、約2.5~4.5である)を有するタングステンチタンモリブデン酸化物を含むエレクトロクロミック材料を含むエレクトロクロミック層を形成することと、ニッケルタングステン酸化物を含む対極材料を含む対極層を形成することと、第2の導電層を形成することと、を含み、エレクトロクロミック層および対極層は、第1の導電層と第2の導電層との間に配置され、エレクトロクロミックデバイスは、すべて固体かつ無機である。
【0014】
いくつかの実施形態では、エレクトロクロミック層は、結晶性(例えば、ナノ結晶性、微結晶性、またはそれらの組み合わせ)であり得る。いくつかの実施形態では、エレクトロクロミック層は、アモルファスであり得る。これらまたは他の実施形態では、対極層は、結晶性(例えば、ナノ結晶性、微結晶性、またはそれらの組み合わせ)であり得る。いくつかの実施形態では、対極層は、アモルファスである。特定の実装形態では、対極材料は、ニッケルタングステンタンタル酸化物を含む。特定の実装形態では、対極材料は、ニッケルタングステンニオブ酸化物を含む。いくつかの実装形態では、対極材料は、ニッケルタングステンスズ酸化物を含む。
【0015】
層のうちの1つまたは複数は、スパッタリングによって形成され得る。例えば、場合によっては、エレクトロクロミック層、対極層、および第2の導電層はすべて、スパッタリングによって形成される。
【0016】
場合によっては、エレクトロクロミックデバイスまたはエレクトロクロミックデバイス前駆体は、エレクトロクロミック層と対極層との間にイオン伝導性の電子絶縁材料の均質層を含まない。いくつかのそのような場合において、エレクトロクロミック材料は、対極材料と物理的に接触し得る。これらまたは他の場合において、エレクトロクロミック層および対極層のうちの少なくとも1つは、2つ以上の層または部分を含み得、層または部分のうちの1つは、酸素に関して超化学量論的である。例えば、一例では、(a)エレクトロクロミック層が、2つ以上の層を含み、酸素に関して超化学量論的である層が、対極層と接触している、または(b)対極層が、2つ以上の層を含み、酸素に関して超化学量論的である層が、エレクトロクロミック層と接触している、のいずれかである。別の例では、(a)エレクトロクロミック層が2つ以上の部分を含み、酸素に関して超化学量論的であるエレクトロクロミック層の部分が対極層と接触している、または(b)対極層が2つ以上の部分を含み、酸素に関して超化学量論的である対極層の部分がエレクトロクロミック層と接触している、のいずれかである。
【0017】
いくつかの実施形態では、この方法は、イオン伝導性であり、かつ実質的に電子絶縁性である材料を含むイオン伝導層をその場で形成することをさらに含み、イオン伝導層は、エレクトロクロミック層と対極層との間の界面に配置される。いくつかの実施形態では、この方法は、リチウムシリケート、リチウムアルミニウムシリケート、リチウム酸化物、リチウムタングステート、リチウムアルミニウムボレート、リチウムボレート、リチウムジルコニウムシリケート、リチウムナイオベート、リチウムボロシリケート、リチウムホスホシリケート、リチウムナイトライド、リチウムオキシナイトライド、リチウムアルミニウムフルオリド、リチウムリンオキシナイトライド(LiPON)、リチウムランタンチタネート(LLT)、リチウムタンタル酸化物、リチウムジルコニウム酸化物、リチウムシリコンカーボンオキシナイトライド(LiSiCON)、リン酸チタンリチウム、酸化リチウムゲルマニウムバナジウム、酸化リチウム亜鉛ゲルマニウム、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される材料を含むイオン伝導層を形成することをさらに含み得、イオン伝導層は、エレクトロクロミック層および対極層のうちの少なくとも1つを形成する前に形成される。これらまたは他の場合において、イオン伝導層は、約5~100nmの厚さを有し得る。特定の場合において、イオン伝導層は、リチウムシリケート、リチウムアルミニウムシリケート、リチウムジルコニウムシリケート、リチウムボロシリケート、リチウムホスホシリケート、リチウムリンオキシナイトライド(LiPON)、リチウムシリコンカーボンオキシナイトライド(LiSiCON)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される材料を含み得る。
【0018】
特定の実装形態では、エレクトロクロミック層は、1つまたは複数の金属含有ターゲットと、約40~80%のO2および約20~60%のArを含む第1のスパッタガスと、を使用してスパッタリングすることによって形成され、基板は、少なくとも断続的に、エレクトロクロミック層の形成中に約150~450℃に加熱され、エレクトロクロミック層は、約200~700nmの厚さを有し、対極層は、1つまたは複数の金属含有ターゲットと、約30~100%のO2および約0~30%のArを含む第2のスパッタガスと、を使用してスパッタリングすることによって形成され、対極層は、約100~400nmの厚さを有する。この方法は、対極層を形成した後、基板を不活性雰囲気中、約150~450℃の温度で約10~30分間加熱することと、基板を前記不活性雰囲気中で加熱した後、基板を酸素雰囲気中、約150~450℃の温度で約1~15分間加熱することと、基板を酸素雰囲気中で加熱した後、空気中、約250~350℃の温度で約20~40分間加熱することと、を含み得る。様々な実施形態では、基板は、エレクトロクロミック層、対極層、および第2の導電層の形成中に垂直配向に維持され得る。
【0019】
これらのおよび他の特徴は、関連する図面を参照して以下に説明されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】特定の実装形態によるエレクトロクロミックデバイスの図である。
【
図2A】実施形態によるエレクトロクロミックデバイスを製作する方法の態様を説明するプロセスフローのフローチャートである。
【
図2B】
図2Aに関連して説明されたプロセスフローにおけるステップを示す上面図である。
【
図2C】
図2Bに関連して説明されたエレクトロクロミックライトの断面である。
【
図2D】エレクトロクロミックスタックを基板上に蒸着させる方法を説明するフローチャートである。
【
図3A】特定の実施形態による統合された蒸着システムを示す図である。
【
図3B】統合された蒸着システムを斜視図で示す図である。
【
図3C】モジュール式の統合された蒸着システムを示す図である。
【
図3D】2つのリチウム蒸着ステーションを備えた統合された蒸着システムを示す図である。
【
図3E】1つのリチウム蒸着ステーションを備えた統合された蒸着システムを示す図である。
【
図4A】特定の実施形態による回転スパッタターゲットを示す図である。
【
図4B】特定の実施形態による、基板上に材料を蒸着する2つの回転スパッタターゲットの上面図である。
【
図5A-5C】二次スパッタターゲットを使用して一次スパッタターゲットに材料を蒸着し、次に特定の実施形態に従って基板上に蒸着する実施形態に関連する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下の説明では、提示された実施形態の完全な理解を提供するために、多数の具体的な詳細が説明される。開示された実施形態は、これらの具体的な詳細の一部またはすべてがなくても実施され得る。他の例では、開示された実施形態を不必要に分かりにくくしないために、周知のプロセス動作は詳細に説明されていない。開示された実施形態は、特定の詳細と共に説明されるが、開示された実施形態を限定することを意図していないことが理解されるであろう。
【0022】
本明細書における様々な実施形態は、エレクトロクロミックデバイス、エレクトロクロミックデバイス前駆体、ならびにそのようなエレクトロクロミックデバイスおよびエレクトロクロミックデバイス前駆体を形成するための方法および装置に関する。多くの実施形態では、エレクトロクロミックデバイスは、少なくともタングステン、チタン、モリブデン、および酸素を含む特定の組成を有するエレクトロクロミック材料を含む。材料中の酸素の量は、組成物中の金属の化学量論に応じて変動するが、以下に説明するようにより具体的に定義され得る。
【0023】
I.エレクトロクロミックデバイスの概要
いくつかの実施形態によるエレクトロクロミックデバイス100の概略断面図を
図1に示す。エレクトロクロミックデバイスは、基板102、第1の導電層(CL)104、エレクトロクロミック層(EC)106、イオン伝導層(IC)108、対極層(CE)110、および第2の導電層(CL)114を含む。要素104、106、108、110、および114は、集合的にエレクトロクロミックスタック120と称される。場合によっては、以下でさらに考察するように、イオン伝導体層108を省略されてもよい。エレクトロクロミックスタック120にわたって電位を印加するように動作可能な電圧源116は、例えば、漂白状態から着色状態へのエレクトロクロミックデバイスの移行をもたらす。他の実施形態では、層の順序は、基板に対して逆になっている。すなわち、層は、以下の順序である:基板、導電層、対極層、イオン伝導層、エレクトロクロミック材料層、導電層。
【0024】
エレクトロクロミック層106は、陰極着色しているが、対極層110は、陽極着色または光学的に受動的であり得る(デバイスが色付けされていないときにイオンがそこに存在するため、「イオン貯蔵層」と呼ばれることもある)。例えば、酸化タングステンは、陰極的に濃い青色の度合いに着色するが、酸化ニッケルは、陽極的に茶色の色合いに着色する。タンデムで着色すると、より中性な青色が作成される。それでも、改善が必要である。本発明者らは、特定の酸化ニッケルベースの陽極材料とタンデムに着色されると、特定の材料が酸化タングステン陰極材料に変化することにより、エレクトロクロミック窓のより美的に心地よい色合いが得られることを発見した。
【0025】
漂白状態と着色状態との間の移行への言及は、非限定的であり、実装され得るエレクトロクロミック移行の多くのうちの1つの例のみを示唆することを理解されたい。本明細書で特に明記しない限り、漂白-着色移行への言及がされるときは常に、対応するデバイスまたはプロセスは、非反射-反射、透明-不透明などの他の光学状態の移行を包含する。さらに、用語「漂白された」は、光学的に中性な状態、例えば、無着色、透明、または半透明を指す。なおさらに、本明細書中で別段の定めがない限り、エレクトロクロミック移行の「色」は、任意の特定の波長または波長範囲に限定されない。当業者に理解されるように、適切なエレクトロクロミック材料および対電極材料の選択が、関連する光学的移行を左右する。
【0026】
特定の実施形態では、エレクトロクロミックデバイスは、漂白状態と着色状態との間を可逆的に循環する。漂白状態では、エレクトロクロミック材料106を着色状態にすることができるスタック中の利用可能なイオンが、主に対極110中に存在するように、電位がエレクトロクロミックスタック120に印加される。エレクトロクロミックスタック上の電位が反転すると、イオンがイオン伝導層108にわたってエレクトロクロミック材料106に輸送され、材料を着色状態にさせる。
【0027】
特定の実施形態では、エレクトロクロミックスタック120を構成する材料のすべては、無機、固体(つまり、固体状態)、または無機および固体の両方である。有機材料は、経時的に劣化する傾向があるため、無機材料には、長期間機能できる信頼性の高いエレクトロクロミックスタックの利点がある。固体状態での材料には、液体状態での材料によくあるような、封じ込めおよび漏れの問題がないという利点もある。エレクトロクロミックデバイスにおける各層について、以下で詳細に考察する。スタック中の層のうちの任意の1つまたは複数は、ある程度の量の有機物質を含有し得るが、多くの実装形態では、層のうちの1つまたは複数は、有機物をほとんどまたは全く含有しないことを理解されたい。同じことが、1つまたは複数の層中に少量存在し得る液体についても言える。固体材料は、蒸着され得るか、あるいはそうでなければ、ゾル-ゲルまたは化学蒸着を利用する特定のプロセスなどの、液体成分を利用する方法によって形成され得ることも理解されたい。
【0028】
再び
図1を参照すると、電圧源116は、典型的には低電圧電源(使用されるエレクトロクロミックデバイスに応じて約1V~約20Vのオーダー)であり、放射および他の環境センサと関連して動作するように構成され得る。電圧源116はまた、時期、時刻、および測定された環境条件などの要因に従ってエレクトロクロミックデバイスを制御するコンピュータシステムなどのエネルギー管理システムとインターフェースするように構成され得る。そのようなエネルギー管理システムは、大面積のエレクトロクロミックデバイス(つまり、エレクトロクロミック窓)と関連して、建物のエネルギー消費を劇的に低減することができる。
【0029】
A.基板
好適な光学的、電気的、熱的、および機械的性質を有する任意の材料は、
図1において基板102として使用され得る。そのような基板として、例えば、ガラス、プラスチック、および鏡材が挙げられる。
【0030】
基板は、エレクトロクロミックスタック120を支持するのに好適な機械的性質を有する限り、任意の厚さであり得る。基板102は、任意の厚さまたは透明な材料であり得るが、いくつかの実施形態では、それは、ガラスまたはプラスチックであり、約0.01mm~約10mm厚である。特定の実施形態では、基板は、約3mm~9mm厚であり、強化され得るガラスである。他の実施形態では、ガラスは、非常に薄く、約0.01mm~1mm厚、または約0.1mm~1mm厚であり得、ナトリウムを含まないか、またはナトリウムもしくは他のアルカリ含有量が非常に低く、例えば、Corning,Incorporated's(Corning、ニューヨーク州)のGorilla(登録商標)、Willow(登録商標)、EagleXG(登録商標)などの基板、またはAsahi Glass Corporation(AGC、東京、日本)製のものなどの商業的供給源からの他の同様のガラス基板であり得る。
【0031】
本発明のいくつかの実施形態では、基板は建築用ガラスである。建築用ガラスは、建材として使用されるガラスである。建築用ガラスは、通常商業用の建物に使用されるが、住宅用の建物にも使用され得、通常屋内環境を屋外環境から分離するが、必ずしもこれに限定されない。特定の実施形態では、建築用ガラスは、少なくとも20インチ×20インチであり、はるかに大きく、例えば、約72インチ×120インチの大きさであってもよい。建築用ガラスは、典型的には、少なくとも約2mm厚である。
【0032】
B.導電層
図1に戻ると、基板102の上部上に導電層104がある。特定の実施形態では、導電層104および114のうちの一方または両方は、無機および/または固体状態である。導電層104および114は、導電性酸化物、薄い金属コーティング、導電性金属窒化物、および金属酸化物と金属との複合導体を含む、いくつかの異なる材料から作製され得る。典型的には、導電層104および114は、少なくとも、エレクトロクロミズムがエレクトロクロミック層によって示される波長範囲において透明である。透明導電酸化物は、金属酸化物、および1つまたは複数の金属でドープされた金属酸化物を含む。このような金属酸化物およびドープ金属酸化物の例として、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、ドープ酸化インジウム、酸化スズ、ドープ酸化スズ、酸化亜鉛、アルミニウム酸化亜鉛、ドープ酸化亜鉛、酸化ルテニウム、ドープ酸化ルテニウムなどが挙げられる。多くの場合これらの層に酸化物が使用されるので、それらは「透明導電酸化物」(TCO)層と称されることがある。実質的に透明な薄い金属コーティングも使用され得る。そのような薄い金属コーティングに使用される金属の例として、金、白金、銀、アルミニウム、ニッケル合金などを含む遷移金属が挙げられる。グレージング業界で周知の銀をベースにした薄い金属コーティングも使用される。導電性窒化物の例として、窒化チタン、窒化タンタル、酸窒化チタン、および酸窒化タンタルが挙げられる。導電層104および114はまた、複合導体であり得る。そのような複合導体は、導電性の高いセラミックおよび金属ワイヤまたは導電層パターンを基板の面のうちの1つに置き、次いでドープされた酸化スズまたは酸化インジウムスズなどの透明な導電性材料で上塗りすることによって製作され得る。理想的には、そのようなワイヤは、肉眼で見えないほど十分に細くなければならない(例えば、約100μm以下)。他の複合導体として、酸化インジウムスズ-金属-酸化インジウムスズ層などの金属酸化物-金属-金属酸化物サンドイッチ材料が挙げられ、一般に「IMI」と呼ばれることもあり、金属は、例えば、銀、金、銅、アルミニウム、またはそれらの合金である。
【0033】
いくつかの実施形態では、ガラス基板などの市販の基板は、透明な導電層コーティングを含有する。そのような製品は、基板102および導電層104の両方に使用され得る。そのようなガラスの例として、オハイオ州トレドのPilkingtonがTEC Glass(商標)の商標で販売している導電層コーティングガラス、ならびにペンシルバニア州ピッツバーグのPPG IndustriesがSUNGATE(商標)300およびSUNGATE(商標)500の商標で販売している導電層コーティングガラスが挙げられる。TEC Glass(商標)は、フッ素化酸化スズ導電層でコーティングされたガラスである。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態では、同じ導電層が両方の導電層(つまり、導電層104および114)に使用される。いくつかの実施形態では、異なる導電性材料が、各導電層104および114に使用される。例えば、いくつかの実施形態では、TEC Glass(商標)は、基板102(フロートガラス)および導電層104(フッ素化酸化スズ)に使用され、酸化インジウムスズは、導電層114に使用される。上記のように、TEC Glass(商標)を用いるいくつかの実施形態では、ガラス基板102とTEC導電層104との間にナトリウム拡散バリアが存在する。
【0035】
導電層の機能は、エレクトロクロミックスタック120の表面の上に電圧源116によって提供される電位をスタックの内部領域に広げることであり、オーム電位降下はほとんどない。電位は、導電層への電気的接続にかかわらず、導電層に伝達される。いくつかの実施形態では、1つが導電層104と接触し、1つが導電層114と接触しているバスバーが、電圧源116と導電層104および114との間の電気的接続を提供する。導電層104および114はまた、他の従来の手段で、電圧源116に接続され得る。
【0036】
いくつかの実施形態では、導電層104および114の厚さは、約5nm~約10,000nmである。いくつかの実施形態では、導電層104および114の厚さは、約10nm~約1,000nmである。他の実施形態では、導電層104および114の厚さは、約10nm~約500nmである。TEC Glass(商標)が基板102および導電層104に使用されるいくつかの実施形態では、導電層は、約400nm厚である。酸化インジウムスズが導電層114に使用されるいくつかの実施形態では、導電層は、約100nm~400nm厚(一実施形態では280nm)である。より一般的には、導電性材料のより厚い層は、それらが必要な電気的性質(例えば、導電性)および光学的性質(例えば、透過率)を提供する限り、用いられ得る。一般に、導電層104および114は、透明性を高め、かつコストを削減するために可能な限り薄い。いくつかの実施形態では、導電層は、実質的に結晶性である。いくつかの実施形態では、導電層は、結晶性であり、大きな等軸粒子の割合が高い。
【0037】
大きなエレクトロクロミック窓における層に及ぶ面積が比較的大きいため、導電層のシート抵抗(Rs)も重要である。いくつかの実施形態では、導電層104および114のシート抵抗は、約5~30オーム/スクエアである。いくつかの実施形態では、導電層104および114のシート抵抗は、約15オーム/スクエアである。一般に、2つの導電層のそれぞれのシート抵抗は、ほぼ同じであることが望ましい。一実施形態では、2つの層は、それぞれ、約10~15オーム/スクエアのシート抵抗を有する。一実施形態では、2つの層は、それぞれ、10オーム/スクエア未満または5オーム/スクエア未満または3オーム/スクエア未満のシート抵抗を有する。
【0038】
C.エレクトロクロミック層
図1に戻ると、導電層104を覆っているのは、エレクトロクロミック層106である。本発明の実施形態では、エレクトロクロミック層106は、無機および/または固体であり、典型的な実施形態では、無機および固体である。エレクトロクロミック層106には、いくつかの異なる材料を使用することができる。従来のエレクトロクロミックデバイスでは、エレクトロクロミック層は、例えば、酸化タングステンを含有し得る。本発明者らは、本明細書に記載されるように、エレクトロクロミック層にタングステンチタンモリブデン酸化物を使用するエレクトロクロミックデバイスが、従来のデバイスよりも改善された性質を有することを見出した。エレクトロクロミック金属酸化物は、機能するためにプロトン、リチウム、ナトリウム、カリウム、または他のイオンをさらに含み得る。本明細書に記載のエレクトロクロミック層106は、対極層110から移動したそのようなイオンを受容することができる。
【0039】
酸化タングステンは、エレクトロクロミック材料として長い間使用されてきた。経時的に、その性質を調整するために様々な材料が酸化タングステンに添加されてきた。本明細書における様々な実施形態では、エレクトロクロミック層106は、タングステン、チタン、モリブデン、および酸素を含むエレクトロクロミック材料を含む。この材料は、タングステンチタンモリブデン酸化物と呼ばれ得る。タングステンチタンモリブデン酸化物は、特に酸化タングステン、酸化タンタル、ニオブ酸化物、酸化スズ、およびそれらの混合物のうちの1つまたは複数を含有する酸化ニッケルなどの特定の酸化ニッケルベースの対極材料と組み合わせて使用した場合、従来のデバイスよりも高度な耐久性および改善された色特性の両方を示す。
【0040】
エレクトロクロミック材料中にチタンを含めると、エレクトロクロミック層の安定性/耐久性が増加し、これは、イオンおよび電子の挿入/抽出を繰り返すと、経時的にエレクトロクロミックデバイスが故障する可能性が低くなることを意味する。エレクトロクロミック材料中にモリブデンを含めると、エレクトロクロミック層の色特性が変化し、より色が中性なエレクトロクロミックデバイスが得られる。例えば、酸化タングステンは、望ましくない可能性がある濃い青色の外観を有する。この青色は、モリブデンを含むことでより中性になる。これらの2つの変更(例えば、酸化タングステンベースの材料中にチタンおよびモリブデンの両方を含む)を組み合わせて、高度な耐久性および望ましい色特徴の両方を示す材料であるタングステンチタンモリブデン酸化物を製造することができる。
【0041】
本明細書に記載のエレクトロクロミックデバイスで使用されるタングステンチタンモリブデン酸化物材料は、式:W1-x-yTixMoyOzで表し得、材料中の3つの金属の総量は、相対原子百分率で表され、式中、xは、チタンの原子百分率であり、yは、モリブデンの原子百分率であり、1-x-yは、タングステンの原子百分率を表す。例えば、W0.80Ti0.10Mo0.10Ozで表される化合物は、80%(原子)のタングステンならびにそれぞれ10%(原子)のチタンおよびモリブデンである金属含有量を有する。したがって、この例では、100%の総金属含有量は、80%のW、10%のTi、および10%のMoである。
【0042】
もちろん、実際の材料は、3つの金属だけでなく酸素も含有する。材料の場合、zは、3つの金属すべてに対する化合物中の酸素の化学量論を一括して表す。特定の実施形態では、zは、約2.5~3.5である。zの値は、材料の性質に強い影響を与える可能性がある。そのような性質には、材料がエレクトロクロミズムを示すかどうか、および材料がイオン伝導性材料の前駆体として機能できるかどうかが含まれ得る。すなわち、WOzによって表されるエレクトロクロミック酸化タングステンが、zが3以下、典型的には約2.5~3である酸素含有量を有するのと同じように、WOzによって表される超化学量論的酸化タングステン(酸素に関して超化学量論的であり、イオン伝導性材料の前駆体として作用し得る)は、zが3より大きい、例えば、3.1~4の酸素含有量を有し、本明細書に記載の化合物中のタングステンチタンおよびモリブデンは、集合的に、同じ関連量の酸素を有し得る。例えば、材料は、エレクトロクロミズムを示すタングステンチタンモリブデン酸化物の場合、金属原子あたり3つ以下の酸素原子、または酸素に関して超化学量論的である(かつイオン伝導性材料に対する前駆体として作用し得る)タングステンチタンモリブデン酸化物の場合、金属原子あたり3つを超える酸素原子を有し得る。したがって、zが3以下の場合、材料中の3つの金属を組み合わせた場合の化学量論的または準化学量論的酸素レベルを表し、材料は、陰極着色する。特に、エレクトロクロミックタングステンチタンモリブデン酸化物は、例えば、エレクトロクロミックタングステン酸化物よりも色が中性であり、これは色付けされると(例えば、プロトンまたはリチウムイオンなどの陽イオン、および電子の挿入を介して)濃くかつ深い青色を有する。特定の実施形態では、zが3以上である場合、材料は、本明細書でより詳細に説明されるように、例えば、エレクトロクロミックデバイスを製作するための製造方法で使用される場合、超化学量論的に酸素化される(かつ、前述の製造方法で使用されるエレクトロクロミックデバイス前駆体においてそれ自体安定し得る)。
【0043】
タングステンチタンモリブデン酸化物、W1-xyTixMoyOzの場合、下付き文字x、y、およびzは、特定の実施形態では、特定の範囲内にある。例えば、いくつかの実施形態では、xは、少なくとも約0.05、または少なくとも約0.10、または少なくとも約0.15であり得る。これらまたは他の場合、xは、約0.25以下、または約0.20以下、または約0.15以下であり得る。これらまたは他の実施形態では、yは、少なくとも約0.01、少なくとも約0.02、少なくとも約0.05、少なくとも約0.10、または少なくとも約0.15であり得る。これらまたは他の実施形態では、yは、約0.25以下、例えば、約0.20以下、約0.15以下、約0.1以下、または約0.08以下であり得る。これらまたは他の実施形態では、zは、少なくとも約2.5、例えば、少なくとも約2.7、または少なくとも約2.9、または少なくとも約3.0、または少なくとも約3.5、または少なくとも約4.0であり得る。これらまたは他の場合、zは、約4.5以下、例えば、約4.0以下、または約3.5以下、または約3.3以下、または約3.1以下、または約3.0以下、または約2.9以下であり得る。いくつかの実装形態では、xは、約0.05~0.25、または約0.05~0.15、または約0.10~0.15であり得る。これらまたは他の実装形態では、yは、約0.01~0.15、または約0.02~0.10、または約0.02~0.08であり得る。これらまたは他の実装形態では、zは、約2.5~4.5、または約2.5~3.0、または約2.5~2.9、または約3.0~3.5、または約3.5~4.5であり得る。
【0044】
様々な実装形態では、エレクトロクロミック層は、異なる組成を有する2つ以上の材料(例えば、二重層、傾斜層、または他の層の組み合わせとして蒸着される)を含み得、その一方または両方は、タングステンチタンモリブデン酸化物を含み得る。エレクトロクロミック層が2つ以上の材料を含む様々な実施形態では、材料のうちの1つは、エレクトロクロミック特性を提供し得、他の材料は、イオン伝導性であり、かつ実質的に電子絶縁性である材料の前駆体として作用し得る。
【0045】
特定の実施形態では、タングステンチタンモリブデン酸化物は、異なる量の酸素を有する少なくとも2つの異なる組成物で蒸着される。一例では、タングステンチタンモリブデンエレクトロクロミック層は、二重層として蒸着され、二重層の第1の層では、zは、約2.5~約3.0であり、二重層の第2の層では、zは、3より大きい。別の実施形態では、タングステンチタンモリブデンエレクトロクロミック層は、zの値が、層の深さの関数として変動するように製作された単一の傾斜層として蒸着される。例えば、タングステンチタンモリブデン酸化物は、蒸着の初期部分で第1の酸素ガス濃度で基板上にスパッタされ、その後、追加のタングステンチタンモリブデン酸化物材料が蒸着されるにつれて、酸素ガス濃度が増加する。以下でより詳細に記載するように、複数の層間または傾斜層中のそのような変動する酸素濃度を使用して、例えば、対極材料が蒸着された後、およびタングステンチタンモリブデン材料と対極材料との間の界面で、その場でイオン伝導体材料を製作することができる。この製作スキームは、エレクトロクロミック層が対極層の前に形成されることを想定している。エレクトロクロミック層の前に対極層が形成される場合、エレクトロクロミック層の第1および第2の層は、交換され得る(例えば、イオン伝導性であり、かつ実質的に電子絶縁性である材料の前駆体として作用するエレクトロクロミック材料が、エレクトロクロミズムを示すエレクトロクロミック材料の前に蒸着されるように)。
【0046】
ある場合には、エレクトロクロミック層は、その中に異なる金属または金属の組み合わせを有する少なくとも2つの異なる組成物で蒸着される。一例では、エレクトロクロミック層は、二重層として蒸着され、二重層の第1の層は、二重層の第2の層中に存在しない少なくとも1つの金属を含む。これらまたは他の実施形態では、二重層の第2の層は、二重層の第1の層中に存在しない少なくとも1つの金属を含み得る。
【0047】
一例では、二重層の第1の層は、タングステンチタンモリブデン酸化物(例えば、W1-x-yTixMoyOz、式中、zは、約3以下である)であり、二重層の第2の層は、酸化タングステン(例えば、WOz、式中、zは、3より大きい)である。別の例では、二重層の第1の層は、タングステンチタンモリブデン酸化物(例えば、W1-x-yTixMoyOz、式中、zは、約3以下である)であり、二重層の第2の層は、タングステンチタン酸化物(例えば、W1-xTixOz、式中、xは、約0.05~0.20、または約0.05~0.15であり、zは、3より大きい)である。別の例では、二重層の第1の層は、タングステンチタンモリブデン酸化物(例えば、W1-x-yTixMoyOz、式中、zは、約3以下である)であり、二重層の第2の層は、タングステンモリブデン酸化(例えば、W1-xMoxOz、式中、xは、約0.05~0.10、または約0.05~0.08であり、zは、3より大きい)である。特定の他の例では、二重層の第1および第2の層は、例えば、二重層の第2の層が、W1-x-yTixMoyOz(式中、zは、3より大きい)であり、二重層の第1の層が、WOz、W1-xTixOz、またはW1-xMoxOz(式中、xおよびyは、W1-xTixOz、またはW1-xMoxOzに関して上記のとおりであり、zは、約3以下である)であるようにスイッチされ得る。この段落で考察されるW1-x-yTixMoyOz材料の場合、xおよびyの値は、本明細書の他の場所で説明されている範囲内であり得る。
【0048】
上記のように二重層電極を使用する実施形態では、二重層の各層は、別個の形態を有し得る。いくつかの実施形態では、二重層の第1および第2の層のそれぞれは、微結晶相、ナノ結晶相、またはアモルファス相を含む形態を有し、第1および第2の層の形態のそれぞれは別個である。例えば、二重層の第1の層は、アモルファスであるタングステンチタンモリブデン酸化物(例えば、W1-x-yTixMoyOz、式中、zは、約3以下である)であり、二重層の第2の層は、ナノ結晶性である酸化タングステン(例えば、WOz、式中、zは、3より大きい)である。層の異なる形態は、特定の目的のために選定されても、または各層に使用される特定のプロセス条件および/もしくは材料から生じてもよい。
【0049】
以下でさらに考察される対極層は、同様に、酸素含有量、金属含有量などに関して異なる組成を有し得る2つ以上の材料を含む二重層または傾斜層として蒸着され得る。
【0050】
多くの実施形態では、タングステンチタンモリブデン酸化物は、少なくとも約3%(原子)、または少なくとも約5%(原子)、または少なくとも約8%(原子)のチタン含有量を有し得る。これらまたは他の場合において、タングステンチタンモリブデン酸化物は、約20%(原子)以下、例えば、約15%(原子)以下、または約12%(原子)以下のチタン含有量を有し得る。これらまたは他の場合において、タングステンチタンモリブデン酸化物は、少なくとも約1%(原子)、少なくとも約2%(原子)、少なくとも約3%(原子)、または少なくとも約4%(原子)のモリブデン含有量を有し得る。これらまたは他の場合において、タングステンチタンモリブデン酸化物は、約8%(原子)以下、例えば、約6%(原子)以下、または約5%(原子)以下のモリブデン含有量を有し得る。特定の例では、タングステンチタンモリブデン酸化物は、約8~12%(原子)のチタン、および約2~8%(原子)のモリブデンである。
【0051】
特定の実施形態では、タングステンチタンモリブデン酸化物エレクトロクロミック材料は、結晶性、ナノ結晶性、またはアモルファスである。いくつかの実施形態では、エレクトロクロミック材料は、透過型電子顕微鏡法(TEM)によって特徴付けられるように、平均して約5nm~50nm(または約5nm~20nm)の粒子サイズを有する実質的にナノ結晶性である。エレクトロクロミック材料の形態は、X線回折(XRD)、XRDを使用してナノ結晶性として特徴付けられ得る。例えば、ナノ結晶性エレクトロクロミック材料は、以下のXRD特徴によって特徴付けられ得る:約10~100nm(例えば、約55nmの結晶サイズ。さらに、ナノ結晶性エレクトロクロミック材料は、例えば、いくつかの(約5~20)エレクトロクロミック材料ユニットセルのオーダーで、限定された長距離秩序を示し得る。いくつかの実施形態では、タングステンチタンモリブデン酸化物エレクトロクロミック材料は、アモルファスであり得る。例えば、材料の組成ならびに材料の蒸着および処理に使用される条件を含む多くの要因が、エレクトロクロミック材料の形態に影響を与え得る。いくつかの実施形態では、エレクトロクロミック材料は、特定の温度を超える加熱に供されない(例えば、エレクトロクロミック材料の蒸着中または蒸着後に基板を加熱することを伴う任意の処理は、約300℃未満、約250℃未満、約200℃未満、約150℃未満、約100℃未満、約75℃未満、または約50℃未満に保たれ得る)。理論または作用機序に拘束されることを望まないが、この加熱の欠如は、タングステンチタンモリブデン酸化物のアモルファス形態に寄与し得る。いくつかの他の実施形態では、基板を加熱すると、タングステンチタンモリブデン酸化物の形態が結晶性/ナノ結晶性になり得る。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、タングステンチタンモリブデン酸化物中のチタン含有量が、結晶化を阻害すると考えられるが、本明細書に記載の処理条件下、例えば、より高い温度および不活性雰囲気下での加熱とそれに続く空気中での加熱の組み合わせの下で、より結晶性の形態を形成することができる。
【0052】
エレクトロクロミック層が蒸着されて2つ以上の異なる材料を含む実施形態では、異なる材料は、それぞれ、微結晶性、ナノ結晶性、および/またはアモルファス相を独立して含み得る。一例では、エレクトロクロミック層の第1の層または下部は、微結晶性またはナノ結晶性であり、エレクトロクロミック層の第2の層または上部は、アモルファスである。別の例では、エレクトロクロミック層の第1の層または下部は、アモルファスであり、エレクトロクロミック層の第2の層または上部は、微結晶性またはナノ結晶性である。別の例では、エレクトロクロミック層の第1の層/下部および第2の層/上部の両方が微結晶性またはナノ結晶性である。別の例では、エレクトロクロミック層の第1の層/下部および第2の層/上部の両方がアモルファスである。
【0053】
エレクトロクロミック層106の厚さは、エレクトロクロミック層のために選択されたエレクトロクロミック材料に依存する。いくつかの実施形態では、エレクトロクロミック層106は、約50nm~2000nm、または約200nm~700nmである。いくつかの実施形態では、エレクトロクロミック層は、約300nm~約500nmである。
【0054】
一般に、エレクトロクロミック材料では、エレクトロクロミック材料の着色(または任意の光学的性質、例えば、吸光度、反射率、および透過率の変化)は、材料への可逆的イオン挿入(例えば、インターカレーション)および対応する電荷平衡電子の注入によって引き起こされる。典型的には、光学遷移の原因となるいくらかの割合のイオンが、エレクトロクロミック材料中で不可逆的に結合している。不可逆的に結合されたイオンの一部またはすべては、材料中の「隠れ電荷」を補償するために使用される。ほとんどのエレクトロクロミック材料では、好適なイオンとして、リチウムイオン(Li+)および水素イオン(H+)(つまりプロトン)が挙げられる。しかしながら、場合によっては、他のイオンが好適になる。これらとして、例えば、重水素イオン(D+)、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、カルシウムイオン(Ca++)、バリウムイオン(Ba++)、ストロンチウムイオン(Sr++)、およびマグネシウムイオン(Mg++)が挙げられる。様々な実施形態では、エレクトロクロミック現象を生じさせるためにリチウムイオンが使用される。
【0055】
D.対極層
再び
図1を参照すると、エレクトロクロミックスタック120において、イオン伝導層108は、エレクトロクロミック層106に重なっている。イオン伝導層108の上部には、対極層110がある。いくつかの実施形態では、対極層110は、無機および/または固体である。対極層は、エレクトロクロミックデバイスが漂白状態にあるときにイオン溜としての機能を果たすことが可能ないくつかの異なる材料のうちの1つまたは複数を含み得る。例えば、適切な電位の印加によって開始されるエレクトロクロミック移行中、対極層は、保持するイオンの一部またはすべてをエレクトロクロミック層に移動させ、エレクトロクロミック層を着色状態に変化させる。同時に、例えば、エレクトロクロミックに活性な酸化ニッケルベースの材料の場合、対極層は、イオンの損失と共に着色する。
【0056】
いくつかの実施形態では、対極用の好適な材料として、酸化ニッケル(NiO)、ニッケルタングステン酸化物(NiWO)、酸化ニッケルバナジウム、酸化ニッケルクロム、酸化ニッケルアルミニウム、酸化ニッケルマンガン、酸化ニッケルマグネシウム、酸化クロム(Cr2O3)、酸化マンガン(MnO2)、プルシアンブルー、セリウムチタン酸化物(CeO2-TiO2)、酸化セリウムジルコニウム(CeO2-ZrO2)、酸化物バナジウム(V2O5)、および酸化物の混合物(例えば、Ni2O3とWO3との混合物)が挙げられる。酸化物のドープされた配合物はまた、例えば、タンタルおよびタングステンを含むドーパントと共に使用され得る。対極材料の特定の例として、ニッケルタングステンタンタル酸化物、ニッケルタングステンニオブ酸化物、およびニッケルタングステンスズ酸化物が挙げられる。対極層110は、エレクトロクロミック材料が漂白状態にあるときにエレクトロクロミック材料にエレクトロクロミック現象を生じさせるために使用されるイオンを含有するので、対極は、これらのイオンを大量に保持する場合、高い透過率および中性色を有することが好ましい。
【0057】
いくつかの実施形態では、ニッケルタングステン酸化物(NiWO)は、対極層の対極材料として使用される。特定の実施形態では、ニッケル-タングステン酸化物中に存在するニッケルの量は、ニッケル-タングステン酸化物の最大約90重量%であり得る。具体的な実施形態では、ニッケル-タングステン酸化物中のニッケル対タングステンの質量比は、約4:6~6:4(例えば、約1:1)である。一実施形態では、NiWOは、約15%(原子)のNi~約60%のNi、約10%のW~約40%のW、および約30%のO~約75%のOである。別の実施形態では、NiWOは、約30%(原子)のNi~約45%のNi、約10%のW~約25%のW、および約35%のO~約50%のOである。一実施形態では、NiWOは、約42%(原子)のNi、約14%のW、および約44%のOである。
【0058】
いくつかの実施形態では、ニッケルタングステンタンタル酸化物(NiWTaO)は、対極層の対極材料として使用される。ニッケルタングステンタンタル酸化物は、対極材料として使用される場合、様々な組成を有し得る。特定の実施形態では、NiWTaOの様々な構成要素間で特定のバランスをとり得る。例えば、材料中のNi:(W+Ta)の原子比は、約1.5:1~3:1、例えば、約1.5:1~2.5:1、または約2:1~2.5:1であり得る。特定の例では、Ni:(W+Ta)の原子比は、約2:1~3:1である。Ni:(W+Ta)の原子比は、(i)材料中のニッケル原子と(ii)材料中のタングステン原子およびタンタル原子の数の合計との比に関する。ニッケルタングステンタンタル酸化物材料はまた、W:Taの特定の原子比を有し得る。特定の実施形態では、W:Taの原子比は、約0.1:1~6:1、例えば、約0.2:1~5:1、または約1:1~3:1、または約1.5:1~2.5:1、または約1.5:1~2:1である。場合によっては、W:Taの原子比は、約0.2:1~1:1、または約1:1~2:1、または約2:1~3:1、または約3:1~4:1、または約4:1~5:1である。いくつかの実装形態では、Ni:(W+Ta)とW:Taとの特定の原子比が使用される。開示されたNi:(W+Ta)組成物および開示されたW:Ta組成物のすべての組み合わせが企図されるが、特定の組み合わせのみが本明細書に明示的に記載されている。例えば、Ni:(W+Ta)の原子比は、約1.5:1~3:1であり得、W:Taの原子比は、約1.5:1~3:1である。別の例では、Ni:(W+Ta)の原子比は、約1.5:1~2.5:1であり得、W:Taの原子比は、約1.5:1~2.5:1である。さらなる例では、Ni:(W+Ta)の原子比は、約2:1~2.5:1であり得、W:Taの原子比は、約1.5:1~2:1、または約0.2:1~1:1、または約1:1~2:1、または約4:1~5:1である。
【0059】
いくつかの実施形態では、ニッケルタングステンニオブ酸化物(NiWNbO)は、対極層の対極材料として使用される。ニッケルタングステンニオブ酸化物は、陽極着色材料として使用される場合、様々な組成を有し得る。特定の実施形態では、NiWNbOの様々な構成要素間で特定のバランスをとり得る。例えば、材料中のNi:(W+Nb)の原子比は、約1.5:1~3:1、例えば、約1.5:1~2.5:1、または約2:1~2.5:1であり得る。特定の例では、Ni:(W+Nb)の原子比は、約2:1~3:1である。Ni:(W+Nb)の原子比は、(i)材料中のニッケル原子と(ii)材料中のタングステン原子およびニオブ原子の数の合計との比に関する。ニッケルタングステンニオブ酸化物材料はまた、W:Nbの特定の原子比を有し得る。特定の実施形態では、W:Nbの原子比は、約0.1:1~6:1、例えば、約0.2:1~5:1、または約1:1~3:1、または約1.5:1~2.5:1、または約1.5:1~2:1である。場合によっては、W:Nbの原子比は、約0.2:1~1:1、または約1:1~2:1、または約2:1~3:1、または約3:1~4:1、または約4:1~5:1である。いくつかの実装形態では、Ni:(W+Nb)とW:Nbとの特定の原子比が使用される。開示されたNi:(W+Nb)組成物および開示されたW:Nb組成物のすべての組み合わせが企図されるが、特定の組み合わせのみが本明細書に明示的に記載されている。例えば、Ni:(W+Nb)の原子比は、約1.5:1~3:1であり得、W:Nbの原子比は、約1.5:1~3:1である。別の例では、Ni:(W+Nb)の原子比は、約1.5:1~2.5:1であり得、W:Nbの原子比は、約1.5:1~2.5:1である。さらなる例では、Ni:(W+Nb)の原子比は、約2:1~2.5:1であり得、W:Nbの原子比は、約1.5:1~2:1、または約0.2:1~1:1、または約1:1~2:1、または約4:1~5:1である。
【0060】
いくつかの実施形態では、ニッケルタングステンスズ酸化物(NiWSnO)は、対極層で使用される。ニッケルタングステンスズ酸化物は、陽極着色材料として使用される場合、様々な組成を有し得る。特定の実施形態では、NiWSnOの様々な構成要素間で特定のバランスをとり得る。例えば、材料中のNi:(W+Sn)の原子比は、約1:1~4:1、例えば、約1:1~3:1、または約1.5:1~3:1、または約1.5:1~2.5:1、または約2:1~2.5:1に入り得る。特定の例では、Ni:(W+Sn)の原子比は、約2:1~3:1である。Ni:(W+Sn)の原子比は、(i)材料中のニッケル原子と(ii)材料中のタングステン原子およびスズ原子の数の合計の比に関する。ニッケルタングステンスズ酸化物材料はまた、W:Snの特定の原子比を有し得る。特定の実施形態では、W:Snの原子比は、約1:9~9:1、例えば、約1:1~3:1、または約1.5:1~2.5:1、または約1.5:1~2:1である。いくつかの実装形態では、Ni:(W+Sn)とW:Snとの特定の原子比が使用される。例えば、Ni:(W+Sn)の原子比は、約1:1~3:1であり得、W:Snの原子比は、約1:1~3:1である。別の例では、Ni:(W+Sn)の原子比は、約1.5:1~2.5:1であり得、W:Snの原子比は、約1.5:1~2.5:1である。さらなる例では、Ni:(W+Sn)の原子比は、約2:1~2.5:1であり得、W:Snの原子比は、約1.5:1~2:1である。
【0061】
ニッケルタングステン酸化物からなる対極110から電荷が除去される(つまり、対極110からエレクトロクロミック層106にイオンが輸送される)場合、対極層は、透明状態から茶色の着色状態に変わる。他のエレクトロクロミックに活性な対極材料は、イオン除去時に同様のまたは他の色を示し得る。
【0062】
エレクトロクロミック層に関して上で考察したように、対極層は、異なる組成を有する2つ以上の材料(例えば、二重層、傾斜層、または他の層の組み合わせとして蒸着される)を含むように蒸着され得る。これらの実施形態の多くにおいて、対極材料のうちの1つは、エレクトロクロミック特性を提供し得、他の対極材料は、イオン伝導性であり、かつ実質的に電子絶縁性である材料の前駆体として作用し得る。典型的には、存在する場合、イオン伝導性であり、かつ実質的に電子絶縁性である材料の前駆体として作用する材料は、エレクトロクロミック材料と接触して形成される。エレクトロクロミック層が対極層の前に形成される場合、イオン伝導性であり、かつ実質的に電子絶縁性である材料の前駆体として作用する対極材料は、対極層の第1の層または下部として蒸着され得る。次いで、エレクトロクロミズムを示す対極材料は、対極層の第2の層または上部として提供され得る。対極層がエレクトロクロミック層の前に蒸着される場合、対極の第1の層または下部は、エレクトロクロミズムを示す対極材料で形成され得、対極の第2の層または上部は、イオン伝導性であり、実質的に電子絶縁性である材料の前駆体として作用する対極材料で形成され得る。
【0063】
一例では、対極は、異なる酸素含有量を有する2つの材料を含むように蒸着される。例えば、対極層は、2つの異なる形態の酸化ニッケル、または2つの異なる形態のニッケルタングステン酸化物、または2つの異なる形態のニッケルタングステンタンタルニッケルタングステン酸化物、または2つの異なる形態のニッケルタングステンニオブ酸化物、または2つの異なる形態のニッケルタングステンスズ酸化物などを含み得、2つの異なる形態の対極材料は、異なる酸素濃度を有する。対極材料の一方の形態は、エレクトロクロミズムを示し得、比較的少ない酸素を有し得る。対極材料の他方の形態は、エレクトロクロミズムを示しても、示さなくてもよく、イオン伝導性であり、かつ実質的に電子絶縁性である材料の前駆体として作用し得、比較的多くの酸素を有し得る。比較的多くの酸素を有し、イオン伝導性であり、かつ実質的に電子絶縁性である材料の前駆体として作用する対極材料は、酸素に関して超化学量論的であり得る。エレクトロクロミック層または対極層の異なる層または部分の間の酸素含有量における違いに関する本明細書で提供される詳細は、問題の2つの層または部分の間に他の組成の違い(例えば、異なる金属)があるかどうかに関係なく適用され得る。
【0064】
特定の実施形態では、対極は、異なる金属組成を有する2つ以上の材料を含むように蒸着され得る。例えば、第1の対極材料は、第2の対極材料中に存在しない1つまたは複数の金属を含み得る。同様に、第2の対極材料は、第1の対極材料中に存在しない1つまたは複数の金属を含み得る。第1の対極材料の例として、酸化ニッケル、ニッケルタングステン酸化物、ニッケルタングステンタンタル酸化物、ニッケルタングステンスズ酸化物、およびニッケルタングステンニオブ酸化物が挙げられるが、これらに限定されない。例示的な第2の対極材料として、同様に、酸化ニッケル、ニッケルタングステン酸化物、ニッケルタングステンタンタル酸化物、ニッケルタングステンスズ酸化物、およびニッケルタングステンニオブ酸化物が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの例示的な組み合わせが提供されるが、限定することを意図したものではない。一例では、第1の対極材料は、ニッケルタングステン酸化物であり、第2の対極材料は、酸化ニッケルである。別の例では、第1の対極材料は、ニッケルタングステンタンタル酸化物であり、第2の対極材料は、ニッケルタングステン酸化物である。別の例では、第1の対極材料は、ニッケルタングステンスズ酸化物であり、第2の対極材料は、ニッケルタングステン酸化物である。別の例では、第1の対極材料は、ニッケルタングステンニオブ酸化物であり、第2の対極材料は、ニッケルタングステン酸化物である。これらの例はいずれも、異なる第1/第2の対極材料を含むように変更することができる。
【0065】
対極形態は、結晶性、アモルファス、またはそれらの混合物であり得る。結晶相は、ナノ結晶性であり得る。いくつかの実施形態では、対極材料は、アモルファスまたは実質的にアモルファスである。様々な実質的にアモルファスの対極は、それらの結晶性の対応物と比較して、いくつかの条件下で、良好に実行することが見出されている。対極酸化物材料のアモルファス状態は、以下に説明する特定の処理条件を使用することによって得られ得る。いかなる理論またはメカニズムにも拘束されることを望まないが、特定のアモルファス対極酸化物は、スパッタリングプロセスにおいて比較的低エネルギーの原子によって製造されると考えられている。低エネルギー原子は、例えば、より低いターゲット出力、より高いチャンバ圧力(つまり、より低い真空)、および/またはより大きな供給源から基板までの距離を有するスパッタリングプロセスで得られる。アモルファスフィルムはまた、重原子(例えば、W)の割合/濃度が比較的高い場所で形成される可能性がより高い。記載されているプロセス条件下で、UV/熱曝露下で良好に安定したフィルムが製造される。実質的にアモルファスの材料は、アモルファスマトリックス中に分散したいくつかの結晶性材料を有し得、典型的には必ずしも必要ではないが、ナノ結晶性材料を有し得る。
【0066】
対極が2つ以上の異なる材料を含むように蒸着される実施形態では、異なる材料は、それぞれ、微結晶性、ナノ結晶性、および/またはアモルファス相を独立して含み得る。一例では、対極層の第1の層または下部は、微結晶性またはナノ結晶性であり、対極層の第2の層または上部は、アモルファスである。別の例では、対極層の第1の層または下部は、アモルファスであり、対極層の第2の層または上部は、微結晶性またはナノ結晶性である。別の例では、対極層の第1の層/下部および第2の層/上部の両方が微結晶性またはナノ結晶性である。別の例では、対極層の第1の層/下部および第2の層/上部の両方がアモルファスである。
【0067】
いくつかの実施形態では、対極形態は、微結晶、ナノ結晶、および/またはアモルファス相を含み得る。例えば、対極は、例えば、全体にナノ結晶が分布しているアモルファスマトリックスを有する材料であり得る。特定の実施形態では、ナノ結晶は、対極材料の約50%以下、対極材料の約40%以下、対極材料の約30%以下、対極材料の約20%以下、または対極材料の約10%以下を構成する(実施形態に応じて重量または体積基準で)。特定の実施形態では、ナノ結晶は、約50nm未満、場合によっては約25nm未満、約10nm未満、または約5nm未満の最大直径を有する。場合によっては、ナノ結晶は、約50nm以下、または約10nm以下、または約5nm以下(例えば、約1~10nm)の平均直径を有する。
【0068】
特定の実施形態では、ナノ結晶の少なくとも約50%が平均ナノ結晶直径の1標準偏差以内の直径を有する、例えば、ナノ結晶の少なくとも約75%が平均ナノ結晶直径の1標準偏差以内の直径を有する、またはナノ結晶の少なくとも約90%が平均ナノ結晶直径の1標準偏差以内の直径を有する、ナノ結晶のサイズ分布を有することが望ましい。
【0069】
アモルファスマトリックスを含む対極は、比較的より結晶性である対極と比較して、より効率的に動作する傾向があることが見出された。特定の実施形態では、添加剤は、ベース陽極着色材料のドメインが見出され得るホストマトリックスを形成し得る。様々な場合において、ホストマトリックスは、実質的にアモルファスである。特定の実施形態では、対極における唯一の結晶構造は、例えば、酸化物形態におけるベース陽極着色エレクトロクロミック材料から形成される。酸化物形態におけるベース陽極着色エレクトロクロミック材料の一例は、ニッケルタングステン酸化物である。添加剤は、実質的に結晶性ではないが、ベース陽極着色エレクトロクロミック材料のドメイン(例えば、場合によってはナノ結晶)を組み込むアモルファスホストマトリックスの形成に寄与し得る。例示的な添加剤として、スズ、タンタル、およびニオブが挙げられるが、これらに限定されない。他の実施形態では、添加剤および陽極着色ベース材料は、一緒になって、共有結合および/またはイオン結合を有する化合物を形成する。化合物は、結晶性、アモルファス、またはそれらの組み合わせであり得る。他の実施形態では、陽極着色ベース材料は、添加剤のドメインが別個の相またはポケットとして存在するホストマトリックスを形成する。例えば、特定の実施形態は、第1の材料のアモルファスマトリックスを有するアモルファス対極を含み、第2の材料もポケット、例えば、アモルファスマトリックス全体に分布する結晶性材料について本明細書に記載の直径のポケット中に第1の材料全体に分布するアモルファスである。
【0070】
いくつかの実施形態では、対極の厚さは、約50nm、約650nmである。いくつかの実施形態では、対極の厚さは、約100nm~約400nmであり、好ましくは約200nm~300nmの範囲である。
【0071】
漂白状態中に対極層に(および対応して着色状態中にエレクトロクロミック層に)保持され、エレクトロクロミック移行を駆動するために利用可能なイオンの量は、層の組成ならびに層の厚さおよび製作方法に依存する。エレクトロクロミック層および対極層の両方が、層の表面積1平方センチメートルあたり数十ミリクーロン付近で利用可能な電荷(リチウムイオンおよび電子の形態で)をサポートすることができる。エレクトロクロミックフィルムの電荷容量は、外部電圧または電位を印加することにより、フィルムの単位面積および単位厚さごとに可逆的にロードおよびアンロードできる電荷の量である。一実施形態では、エレクトロクロミック層は、約30~約150mC/cm2/ミクロンの電荷容量を有する。別の実施形態では、エレクトロクロミック層は、約50~約100mC/cm2/ミクロンの電荷容量を有する。一実施形態では、対極層は、約75~約200mC/cm2/ミクロンの電荷容量を有する。別の実施形態では、対極層は、約100~約150mC/cm2/ミクロンの電荷容量を有する。
【0072】
E.イオン伝導層
図1に示されるものなどの様々な実施形態では、イオン伝導体層108が、エレクトロクロミック層106と対極層110との間に提供される。そのような場合、イオン伝導体材料は、例えば、従来の意味で、例えば、スパッタリング、蒸発、ゾル-ゲル技術などを介してエレクトロクロミック層の上に蒸着され、続いて対極材料が蒸着される。他の実施形態では、従来のイオン伝導体層は、省略されてもよい。そのような場合、エレクトロクロミック層および対極層は、互いに直接接触して蒸着されてもよく、これらの2つの層の間の界面にその場で形成されるイオン伝導材料は、従来のイオン伝導体層の目的を果たし得る。エレクトロクロミックデバイス前駆体は、イオン伝導体材料のその場での形成の前に、前述の層のスタックを含み得る。これらの実施形態のそれぞれについて、順番に考察する。
【0073】
i.別々に蒸着されたイオン伝導層を利用する実施形態
図1に示すように、エレクトロクロミック層106と対極層110との間には、イオン伝導層108が存在する。イオン伝導層108は、エレクトロクロミックデバイスが漂白状態と着色状態との間を移行するときにイオンが(電解質のように)中を通って輸送される媒体としての機能を果たす。好ましくは、イオン伝導層108は、エレクトロクロミック層および対極層に関連するイオンに対して高度に伝導性であるが、ごくわずかな電子移動が通常の動作中に起こる、十分に低い電子伝導性を有する。高いイオン伝導率を有する薄いイオン伝導層は、高速イオン伝導、したがって高性能エレクトロクロミックデバイスのための高速スイッチングを可能にする。特定の実施形態では、イオン伝導層108は、無機および/または固体である。材料から製作され、欠陥が比較的少ない方法で製造される場合、イオン伝導体層を非常に薄くして、高性能デバイスを製造することができる。様々な実装形態では、イオン伝導材料は、約10
8シーメンス/cmまたはオーム
-1cm
-1~約10
9シーメンス/cmまたはオーム
-1cm
-1のイオン伝導率および約10
11オーム-cmの電子抵抗を有する。
【0074】
リチウムイオン伝導体層に適した材料の例として、リチウムシリケート、リチウムアルミニウムシリケート、リチウム酸化物、リチウムタングステート、リチウムアルミニウムボレート、リチウムボレート、リチウムジルコニウムシリケート、リチウムナイオベート、リチウムボロシリケート、リチウムホスホシリケート、リチウムナイトライド、リチウムオキシナイトライド、リチウムアルミニウムフルオリド、リチウムリンオキシナイトライド(LiPON)、リチウムランタンチタネート(LLT)、リチウムタンタル酸化物、リチウムジルコニウム酸化物、リチウムシリコンカーボンオキシナイトライド(LiSiCON)、リン酸チタンリチウム、酸化リチウムゲルマニウムバナジウム、酸化リチウム亜鉛ゲルマニウムおよび高い電気抵抗(通過する電子の移動を遮断する)を有しながらリチウムイオンを通過させる他のセラミック材料が挙げられる。しかしながら、低欠陥率で製作でき、電子の通過を実質的に防止しながら、対極層110とエレクトロクロミック層106との間のイオンの通過を可能にするならば、任意の材料がイオン伝導層108に使用され得る。
【0075】
特定の実施形態では、イオン伝導層は、結晶性、ナノ結晶性、またはアモルファスである。典型的には、イオン伝導層は、アモルファスである。別の実施形態では、イオン伝導層は、ナノ結晶性である。さらに別の実施形態では、イオン伝導層は、結晶性である。
【0076】
いくつかの実施形態では、シリコンアルミニウム酸化物(SiAlO)は、イオン伝導層108に使用される。具体的な実施形態では、スパッタリングを介してイオン伝導体層を製作するために使用されるシリコン/アルミニウムターゲットは、約6~約20原子%のアルミニウムを含有する。これは、イオン伝導層中のシリコンとアルミニウムとの比を定義する。いくつかの実施形態では、シリコンアルミニウム酸化物イオン伝導層108は、アモルファスである。
【0077】
イオン伝導層108の厚さは、材料に応じて変動し得る。いくつかの実施形態では、イオン伝導層108は、約5nm~100nm厚、好ましくは約10nm~60nm厚である。いくつかの実施形態では、イオン伝導層は、約15nm~40nm厚、または約25nm~30nm厚である。
【0078】
エレクトロクロミック層と対極層との間のイオン伝導層にわたって輸送されるイオンは、エレクトロクロミック層での色の変化をもたらす働きをする(つまり、エレクトロクロミックデバイスを漂白状態から着色状態に変化させる)。エレクトロクロミックデバイススタック用の材料の選定に応じて、そのようなイオンとして、リチウムイオン(Li+)および水素イオン(H+)(つまり、プロトン)が挙げられる。上記のように、特定の実施形態では、他のイオンが用いられ得る。これらとして、重水素イオン(D+)、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、カルシウムイオン(Ca++)、バリウムイオン(Ba++)、ストロンチウムイオン(Sr++)、およびマグネシウムイオン(Mg++)が挙げられる。
【0079】
ii.別々に蒸着されたイオン伝導層を省略した実施形態
ほとんどの従来のエレクトロクロミックデバイスでは、イオン伝導層は、エレクトロクロミック層と対極層との間の分離を提供するために、別個の蒸着ステップにおいて別個の材料として蒸着される。しかしながら、本明細書の特定の実施形態では、イオン伝導層は、省略されてもよい。そのような場合、エレクトロクロミック層のエレクトロクロミック材料は、対極層の対極材料と直接物理的に接触して蒸着され得る。エレクトロクロミック層と対極層との間の界面領域は、イオン伝導体層の機能を形成し、かつ機能を果たし得(例えば、エレクトロクロミック層と対極層との間の電子ではなくイオンの通過を可能にする)、別個の材料としてのこの層を蒸着する必要はない。これは、イオン伝導体層を形成するための別々の蒸着ステップを提供する必要がないので、エレクトロクロミックデバイスの形成を単純化する。
【0080】
そのような実施形態では、エレクトロクロミック層および対極層の一方または両方は、層の残りの部分と比較して酸素に富む部分を含むように蒸着され得る。酸素に富む部分は、酸素に関して超化学量論的であり得る。典型的には、酸素に富む部分は、他のタイプの層と接触している。例えば、エレクトロクロミックスタックは、エレクトロクロミック材料と接触する対極材料を含み得、エレクトロクロミック材料は、対極材料と直接物理的に接触する酸素に富む部分を含む。別の例では、エレクトロクロミックスタックは、エレクトロクロミック材料と接触する対極材料を含み、対極材料は、エレクトロクロミック材料と直接物理的に接触する酸素に富む部分を含む。さらなる例では、エレクトロクロミック材料および対極材料の両方がそれぞれ酸素に富む部分を含み、エレクトロクロミック材料の酸素に富む部分は、対極材料の酸素に富む部分と直接物理的に接触している。
【0081】
これらの材料の酸素に富む部分は、別個の層として提供され得る。例えば、エレクトロクロミックおよび/または対極材料は、酸素に富む第1の層および酸素に富まない(または第1の層と比較して比較的少ない酸素を有する)第2の層を含み得る。特に明記しない限り、本明細書で使用される場合、「酸素に富む」という用語は、酸素に関して超化学量論的である材料を指す。さらに、第2の材料と比較して「酸素に富む」材料は、第2の材料と比較して、より高度の超化学量論的酸素を有する。いくつかの例では、エレクトロクロミック層は、タングステンチタンモリブデン酸化物の2つの層を含み、タングステンチタンモリブデン酸化物の第2の層は、タングステンチタンモリブデン酸化物の第1の層と比較して酸素に富んでいる。タングステンチタンモリブデン酸化物の第2の層は、酸素に関して超化学量論的であり得る。タングステンチタンモリブデン酸化物の第2の層は、対極層およびタングステンチタンモリブデン酸化物の第1の層と直接物理的に接触し得る。対極層は、均質であり得るか、または上記のように、酸素に富む部分も含み得る。
【0082】
層の酸素に富む部分はまた、傾斜層で提供され得る。例えば、エレクトロクロミックおよび/または対極材料は、酸素濃度における勾配を含み得、勾配は、層の表面に垂直な方向である。いくつかの例では、エレクトロクロミック層は、タングステンチタンモリブデン酸化物の傾斜層であり、層の表面に垂直な方向に傾斜した酸素濃度を有する。例えば、傾斜したタングステンチタンモリブデン酸化物層の最高の酸素濃度は、対極層に近接し得る。対極層は、均質であり得るか、または上記のように、酸素に富む部分も含み得る。
【0083】
イオン伝導体層蒸着ステップが省略され、対極材料がエレクトロクロミック材料と直接接触して蒸着される実施形態は、以下の米国特許でさらに考察され、そのそれぞれは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる:米国特許第8,300,298号、米国特許第8,764,950号、および米国特許第9,261,751号。
【0084】
F.追加の層
エレクトロクロミックデバイス100は、1つまたは複数の不動態層などの1つまたは複数の追加の層(図示せず)を含んでもよい。特定の光学的性質を改善するために使用される不動態層は、エレクトロクロミックデバイス100中に含まれてもよい。耐湿性または耐ひっかき性を提供するための不動態層も、エレクトロクロミックデバイス100中に含まれてもよい。例えば、導電層を、反射防止または保護酸化物または窒化物層で処理してもよい。他の不動態層は、エレクトロクロミックデバイス100を密閉するように働き得る。2013年2月8日に出願された「DEFECT-MITIGATION LAYERS IN ELECTROCHROMIC DEVICES」と題された米国特許出願第13/763,505号に記載されているように、デバイスにおける欠陥の数を最小限に抑えるために、1つまたは複数の欠陥軽減絶縁層も存在し得、これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0085】
II.エレクトロクロミックデバイスおよび前駆体の製作方法
エレクトロクロミックデバイスおよびエレクトロクロミックデバイス前駆体の形成は、基板上へのいくつかの異なる層の蒸着を伴う。これらの層のそれぞれについては、上で考察している。例えば、
図2Aに記載されているように、エレクトロクロミックデバイスまたは前駆体を製作する場合、他の多くのステップをとってもよい。
【0086】
本明細書で使用される場合、エレクトロクロミックデバイス前駆体は、完成したエレクトロクロミックデバイスとして機能するのにまだ適していない、部分的に製作されたエレクトロクロミックデバイスである。典型的には、エレクトロクロミックデバイス前駆体は、少なくとも第1の導電層、エレクトロクロミック層、対極層、および第2の導電層を含む。場合によっては、追加の層が存在し得る。いくつかの実施形態では、エレクトロクロミックデバイス前駆体は、完成したデバイスとしての機能には適さないが、機能するデバイスになるための物理的および/または化学的変換に構成または適合するその構造内の材料を有する。そのようなデバイス前駆体は、例えば、基板が前駆体材料でコーティングされ、格納されるか、または別の施設に出荷されて、後のおよび/もしくは下流の処理のために望ましくなり得る。
【0087】
例えば、別々のイオン伝導層は、特定の実施形態では存在しなくてもよい。イオン伝導層が省略されている場合、エレクトロクロミックデバイス前駆体は、(例えば、エレクトロクロミック層と対極層との間の電子ではなくイオンの通過を可能にする)イオン伝導層の目的を果たす任意の層または領域を欠如している場合がある。エレクトロクロミックデバイス前駆体をさらに処理して、エレクトロクロミックデバイスを形成することができる。イオン伝導層が省略される場合、このさらなる処理は、エレクトロクロミック層と対極層との間の界面領域において、イオン伝導性であり、かつ実質的に電子絶縁性である材料を形成し得る。様々な実施形態では、このさらなる処理は、以下でさらに説明されるように、熱調整を伴い得る。特定の実施形態では、エレクトロクロミックおよび対極材料の一方または両方は、層の界面で超化学量論的に酸素化されるか、さもなければ、過剰の酸素または他の反応種が層間に存在する。超化学量論的に酸素化された材料は、後で、イオン伝導性であり、かつ実質的に電子絶縁性である材料に変換され得る。これらまたは他の実施形態では、さらなる処理は、直接リチウム蒸着または拡散のいずれかによる、エレクトロクロミックデバイス中の1つまたは複数の層のリチウム化を伴い得る。例えば、添加されたリチウムは、界面で酸素または他の反応種と反応するか、さもなければそれらと結合して、エレクトロクロミック層と対極材料層との間の界面でイオン伝導性および電子絶縁材料を形成する。これらまたは他の実施形態では、このさらなる処理は、エレクトロクロミック層と対極層との間に電流を流すことを伴い得る。これらのさらなる処理ステップのうちの任意の1つまたは複数は、特定の実装形態におけるエレクトロクロミックデバイス前駆体からのエレクトロクロミックデバイスの形成に関与し得る。
【0088】
図2Aは、エレクトロクロミックデバイスまたは対向するバスバーを有する他の光学デバイスを製作する方法の態様を説明するプロセスフロー200であり、それぞれが光学デバイスの導電層のうちの1つに適用される。点線は、プロセスフローにおける任意選択のステップを示す。
図2B~Cに関連して説明されるような例示的なデバイス240は、プロセスフローを図示するために使用される。
図2Bは、
図2Aに関連して説明されるようなプロセスフロー200の数値インジケータを含むデバイス240の製作を示す上面図を提供する。
図2Cは、
図2Bに関連して説明されたデバイス240を含むライトの断面を示す。デバイス240は、長方形のデバイスであるが、プロセスフロー200は、導電層のうちのそれぞれ1つに対向するバスバーを有する任意の形状の光学デバイスに適用される。
【0089】
図2Aおよび2Bを参照すると、上部に第1の導電層を有する基板を受容した後、プロセスフロー200は、第1の導電層の任意選択の研磨から始まる。201を参照のこと。研磨は、実行される場合、エッジ削除の前(205を参照のこと)、および/またはプロセスフローにおけるエッジ削除後に行われ得る。
【0090】
再び
図2Aを参照すると、研磨201が実行されない場合、プロセス200は、基板の周囲の一部の周りの第1の幅をエッジ削除することから始まる。205を参照のこと。エッジ削除は、第1の導電層のみを除去してもよく、または存在する場合、拡散バリアも除去してもよい。一実施形態では、基板は、ガラスであり、ナトリウム拡散バリアおよびその上の透明な導電層、例えば、酸化スズベースの透明な金属酸化物導電層を含む。
図2Bにおける点線エリアは、第1の導電層を示す。したがって、プロセス205によるエッジ削除後、幅Aは、基板230の周囲の3つの側面から除去される。この幅は、典型的には、必ずしも均一な幅ではない。第2の幅Bについて以下で説明する。幅Aおよび/または幅Bが均一でない場合、互いに対するそれらの相対的な大きさは、それらの平均幅に関するものである。
【0091】
205で第1の幅Aを除去した結果として、下部導電層の新たに露出したエッジが存在する。特定の実施形態では、第1の導電層のこのエッジの少なくとも一部は、任意選択でテーパにされ得る。207および209を参照のこと。下にある拡散バリア層もテーパにされ得る。後続の層を上部に製作する前に、1つまたは複数のデバイス層のエッジをテーパにすることは、デバイス構造および性能において予想外の利点を有する。エッジテーパプロセスは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第9,454,053号にさらに詳細に記載されている。エッジテーパは、
図2Aにおける207および209の両方で示されるが、実行する場合、エッジテーパは、典型的には、1回実行される(例えば、207または209)。
【0092】
特定の実施形態では、下部導電層は、エッジテーパの前後に任意選択で研磨される。208を参照のこと。
【0093】
第1の幅Aを除去し、上記のように任意選択の研磨および/または任意選択のエッジテーパ後、ECデバイスを基板230の表面上に蒸着させる。210を参照のこと。このECスタックの蒸着については、
図2Dに関連してさらに説明する。この蒸着は、光学デバイスの1つまたは複数の材料層および第2の導電層、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)などの透明な導電層を含む。示されるカバレッジは、基板全体であるが、ガラスを所定の位置に保持する必要があるキャリアのために、一部マスキングすることができる。一実施形態では、第1の導電層の残りの部分の面積全体は、以前に除去された第1の幅Aの周りで第1の導体と重複することを含めて覆われる。これにより、最終的なデバイスアーキテクチャにおいて領域の重複を可能にする。
【0094】
特定の実施形態では、プロセスステップに応じて、電磁放射を使用して、エッジ削除を実行し、基板の周辺領域を提供し、例えば、1つまたは複数の透明導電層(上部導電層およびそれに適用される任意の蒸気バリアを含む)を除去する。一実施形態では、エッジ削除は、少なくとも基板上の透明導電層を含む材料を除去するために実行され、任意選択で、存在する場合は拡散バリアも除去する。特定の実施形態では、エッジ削除は、基板の表面部分、例えばフロートガラスを除去するために使用され、圧縮ゾーンの厚さを超えない深さまで行ってもよい。エッジ削除は、例えば、IGUの一次シールおよび二次シールの少なくとも一部によるシーリングに優れた表面を作成するために実行される。例えば、透明導電層は、導電層が基板の面積全体におよび、したがって二次シールが存在するにもかかわらず露出したエッジを有する場合、接着を失う可能性がある。また、金属酸化物および他の機能層がそのような露出したエッジを有する場合、それらは、水分がバルクデバイスに入る経路として機能を果たし、したがって一次および二次シールを損なう可能性があると考えられている。
【0095】
エッジ削除は、本明細書では、すでにサイズ通りに切断されている基板上で実行されるものとして説明されている。しかしながら、他の開示された実施形態では、基板がバルクガラスシートから切断される前に、エッジ削除を行うことができる。例えば、未強化フロートガラスは、ECデバイスがその上にパターン化された後に個々のライトに切断され得る。本明細書で説明する方法は、バルクシートで実行してから、シートを個々のECライトに切断することができる。特定の実施形態では、エッジ削除は、ECライトを切断する前に、およびそれらがバルクシートから切断された後に、いくつかのエッジエリアで実施され得る。特定の実施形態では、バルクシートからライトを切り取る前に、すべてのエッジ削除が実行される。ペインを切断する前に「エッジ削除」を用いる実施形態では、ガラスシート上のコーティングの一部は、新しく形成されたECライトの切断(したがってエッジ)がどこにあるかを見越して除去することができる。言い換えると、実際の基板エッジはまだなく、エッジを製造するために切断が行われる定義されたエリアのみがある。したがって、「エッジ削除」は、基板エッジが存在すると予想されるエリアにおける1つまたは複数の材料層を除去することを含むことを意味する。上部のECデバイスの製作後にバルクシートから切断することによってECライトを製作する方法は、2010年11月8日に出願された米国特許出願シリアル番号12/941,882号(現在は、米国特許出願第8,164,818号)、および2012年4月25日に出願された米国特許出願シリアル番号13/456,056に記載されており、それぞれ「Electrochromic Window Fabrication Methods」と題され、それぞれが参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。当業者は、バルクガラスシート上で本明細書に記載の方法を実施し、次いでそこから個々のライトを切断する場合、特定の実施形態ではマスクを使用しなければならない場合があるが、所望のエンドサイズのライトで実行する場合は、マスクは、任意選択であることを認識するであろう。
【0096】
例示的な電磁放射として、UV、レーザなどが挙げられる。例えば、材料は、248nm、355nm(UV)、1030nm(IR、例えば、ディスクレーザ)、1064nm(例えば、Nd:YAGレーザ)、および532nm(例えば、グリーンレーザ)のうちの1つまたは複数の波長に向けられ、集束されたエネルギーで除去され得る。レーザ照射は、例えば、光ファイバーまたはオープンビーム経路を使用して基板に送達される。アブレーションは、基板処理装置の選定および構成パラメータに応じて、基板側またはECフィルム側のいずれかから実行することができる。フィルム厚をアブレーションするのに必要なエネルギー密度は、レーザビームを光学レンズに通過させることによって達成される。レンズは、レーザビームを所望の形状およびサイズに集束させる。一実施形態では、例えば、約0.005mm2~約2mm2の焦点エリアを有する「トップハット」ビーム構成が使用される。一実施形態では、ビームの集束レベルを使用して、ECフィルムスタックをアブレーションするために必要なエネルギー密度を達成する。一実施形態では、アブレーションで使用されるエネルギー密度は、約2J/cm2~約6J/cm2である。
【0097】
レーザエッジ削除プロセス中に、レーザスポットがECデバイスの表面の上で周辺に沿って走査される。一実施形態では、レーザスポットは、走査型Fシータレンズを使用して走査される。ECフィルムの均質な除去は、例えば、走査中にスポットエリアを重複することによって達成される。一実施形態では、重複は、約5%~約100%であり、別の実施形態では、約10%~約90%であり、さらに別の実施形態では、約10%~約80%である。例えば、直線、曲線で走査する様々な走査パターンが使用され得、様々なパターンが走査され得、例えば、集合的に、周辺エッジ削除エリアを作成する長方形または他の形状のセクションが走査される。一実施形態では、走査線(または「ペン」、つまり、隣接もしくは重複するレーザスポット、例えば、正方形、円形などによって作成された線)は、スポット重複については上記のレベルで重複する。すなわち、前に走査された線の経路によって定義されたアブレーションされた材料のエリアは、重複があるように、後の走査線と重複する。すなわち、重複するまたは隣接するレーザスポットによってアブレーションされたパターンエリアは、後続のアブレーションパターンのエリアと重複する。重複が使用される実施形態では、スポット、線、またはパターン、例えば約11KHz~約500KHzの範囲のより高い周波数のレーザが使用され得る。露出したエッジ(熱影響部または「HAZ」)でのECデバイスへの熱関連の損傷を最小限に抑えるために、より短いパルス幅のレーザが使用される。一例では、パルス幅は、約100fs(フェムト秒)~約100ns(ナノ秒)であり、別の実施形態では、パルス幅は、約1ps(ピコ秒)~約50nsであり、さらに別の実施形態では、パルス幅は、約20ps~約30nsである。他の実施形態では、他の範囲のパルス幅を使用することができる。
【0098】
再び
図2Aおよび2Bを参照すると、プロセスフロー200は、基板の実質的に全周にわたって、第1の幅Aよりも狭い第2の幅Bを除去し続ける。215を参照のこと。これには、存在する場合、ガラスまたは拡散バリアまでの材料の除去が含まれてもよい。プロセスフロー200が215まで完了した後、例えば、
図2Bに示されるような長方形の基板上に、幅Bの周囲エリアがあり、第1の透明導体、デバイスの1つもしくは複数の材料層、または第2の導電層のいずれもない場合、幅Bを除去すると、拡散バリアまたは基板が露出している。この周囲エリア内には、1つまたは複数の材料層および第2の導電層を重複することによって3つの側面が囲まれた第1の透明導体を含むデバイススタックがある。残りの側面(例えば、
図2Bにおける下側)には、1つまたは複数の材料層と第2の導電層との重複する部分はない。この残りの側面(例えば、
図2Bの底面)の近くに、第1の導電層の一部(バスバーパッド露出、または「BPE」)235を露出するために、1つまたは複数の材料層および第2の導電層が除去される。220を参照のこと。BPE235は、その側面の全長にわたって作動する必要はなく、バスバーを収容し、かつバスバーと第2の導電層との間にいくらかの空間を残して、第2の導電層で短絡しないようにするのに十分な長さである必要がある。一実施形態では、BPE235は、その側面の第1の導電層の長さに及ぶ。
【0099】
様々な実施形態では、BPEは、適用されるバスバーのための表面を作成し、したがって電極と電気的に接触するために、材料層の一部が下部電極または他の導電層(例えば、透明導電性酸化物層)まで除去される場所である。適用されるバスバーは、はんだ付けされたバスバー、およびインクバスバーなどであり得る。BPEは、典型的には、長方形エリアを有するが、これは必須ではなく、BPEは、任意の幾何学的形状または不規則な形状であり得る。例えば、必要に応じて、BPEは、円形、三角形、楕円形、台形、およびその他の多角形の形状であり得る。形状は、ECデバイスの構成、ECデバイスを支える基板(例えば、不規則な形状の窓)、またはさらに、例えば、それを作成するのに使用されるより効率的な(例えば、材料の除去、時間など)レーザアブレーションパターンに依存し得る。一実施形態では、BPEは、ECデバイスの片側の長さの少なくとも約50%に及ぶ。一実施形態では、BPEは、ECデバイスの片側の長さの少なくとも約80%に及ぶ。典型的には、必ずしも、BPEは、バスバーを収容するのに十分な幅である必要はないが、少なくとも能動的なECデバイススタックとバスバーとの間にある程度の空間を考慮する必要がある。一実施形態では、BPEは、実質的に長方形であり、長さは、ECデバイスの片側に近似し、幅は、約5mm~約15mmであり、別の実施形態では、約5mm~約10mmであり、さらに別の実施形態では、約7mm~約9mmである。前述のように、バスバーは、約1mm~約5mmの幅、典型的には約3mmの幅であり得る。
【0100】
前述のように、BPEは、バスバーの幅に対応し、かつバスバーとECデバイスとの間に空間を残すのにも十分な幅で製作される(バスバーは、下部の導電層にのみ接触することになっているため)。バスバーの幅は、バスバーとECデバイスとの間に空間がある限り(L3隔離スクライブがある実施形態では、バスバーは、非活性化された部分に接触してもよい)、BPEの幅を超えなくてもよい(したがって、バスバー材料がエリア241上の下部導体ならびにガラス(および/または拡散バリア)の両方に接する)。バスバーの幅がBPEによって完全に収容される、すなわち、バスバーが全体的に下部導体の上にある実施形態では、バスバーの長さに沿った外縁は、BPEの外縁と整列され得るか、または約1mm~約3mmだけ挿入する。同様に、バスバーとECデバイスとの間の空間は、約1mm~約3mmであり、別の実施形態では、約1mm~2mmであり、別の実施形態では、約1.5mmである。BPEの形成は、TCOである下部電極を有するECデバイスに関して、以下でより詳細に説明される。これは、便宜上のものであり、電極は、透明であろうとなかろうと、光学デバイスに適した任意の電極であり得る。
【0101】
BPEを作製するには、底部のTCO(例えば、第1のTCO)のエリアから蒸着した材料を取り除き、TCO上にバスバーを製作できるようにする。一実施形態では、これは、定義された場所の定義されたエリアに露出された下部TCOを残しながら、蒸着されたフィルム層を選択的に除去するレーザ処理によって達成される。一実施形態では、レーザアブレーション中の選択性を達成するために、すなわち、TCO材料を無傷のままにしながら、TCO上のEC材料が選択的に除去されるように、底部電極および蒸着層の吸収特性が活用される。特定の実施形態では、例えば、蒸着中に発生した可能性のあるTCO材料とEC材料との混合物を除去することによって、バスバーの優れた電気的接触を確実にするために、TCO層の上部(深さ)も除去される。特定の実施形態では、BPEエッジがこれらのエッジでの損傷を最小限に抑えるようにレーザ加工される場合、漏れ電流を制限するためのL3絶縁スクライブ線の必要性を回避することができ-これにより、所望のデバイス性能結果を達成しながら、プロセスステップが不要になる。
【0102】
特定の実施形態では、BPEを製作するために使用される電磁放射は、エッジ削除を実行するための上記と同じである。(レーザ)放射は、光ファイバーまたはオープンビーム経路のいずれかを使用して基板に送達される。アブレーションは、電磁放射波長の選定に応じて、ガラス側面またはフィルム側面のいずれかから実行できる。フィルム厚をアブレーションするのに必要なエネルギー密度は、レーザビームを光学レンズに通過させることによって達成される。レンズは、レーザビームを所望の形状およびサイズ、例えば、一実施形態では、約0.5J/cm2~約4J/cm2のエネルギー密度を有する上記の寸法を有する「トップハット」に集束させる。一実施形態では、BPEのためのレーザ走査重複は、レーザエッジ削除について上で説明したように行われる。特定の実施形態では、可変深度アブレーションがBPE製作に使用される。
【0103】
特定の実施形態では、例えば、ECフィルムにおける吸収の選択的性質のために、焦点面でのレーザ処理により、ある量(約10nm~約100nm)の残留物、例えば酸化タングステンを、下側の導体の露出エリアに残す結果となる。多くのEC材料は、下にある導電層ほど導電性ではないため、この残留物上に製作されたバスバーは、下にある導体と完全に接触せず、バスバーから下部導体の界面への電圧降下が生じる。電圧降下は、デバイスの色に影響を与えるだけでなく、バスバーの下部導体への接着にも影響を与える。この問題を克服する1つの方法は、フィルムの除去に使用されるエネルギー量を増やすことであるが、このアプローチでは、スポット重複でのトレンチの形成が生じ、下部導体が許容できないほど消耗する。この問題を克服するために、焦点面の上のレーザアブレーションが実行され、つまり、レーザビームの焦点をぼかす。一実施形態では、レーザビームの焦点ぼけプロファイルは、修正されたトップハット、または「準トップハット」である。焦点ぼけしたレーザプロファイルを使用することにより、スポット重複領域で下にあるTCOを損傷することなく、表面に供給されるフルエンスを増やすことができる。この方法は、露出した下部導電層上に残る残留物の量を最小限に抑え、したがってバスバーと下部導電層との良好な接触を可能にする。
【0104】
再び
図2Aおよび2Bを参照すると、BPEを形成した後、バスバーがデバイスに適用され、1つは、第1の導電層(例えば、第1のTCO)の露出エリア235にあり、もう1つは、第1の導電層の上ではない第2の導電層の部分上の第2の導電層(例えば、第2のTCO)上のデバイスの反対側にある。225を参照のこと。第2の導電層上のバスバー1のこの配置は、バスバーの下の着色およびこのバスバーの下に機能的なデバイスを有することに関連する他の問題を回避する。この例では、デバイスの製作に必要なレーザ隔離スクライブはなく-これは、1つまたは複数の隔離スクライブが機能しないデバイス部分を最終構成に残す従来の製作方法からの根本的な逸脱である。
【0105】
図2Bは、デバイス240の断面カットZ-Z'およびW-W'を示す。Z-Z'およびW-W'でのデバイス240の断面図を
図2Cに示す。示される層および寸法は、縮尺どおりではなく、構成を機能的に表すことを目的としている。この例では、幅Aおよび幅Bが製作されたときに拡散バリアを除去した。具体的には、周囲エリア241は、第1の導電層および拡散バリアがないが、一実施形態では、拡散バリアは、1つまたは複数の側面上の周囲付近の基板のエッジまで無傷のままである。別の実施形態では、拡散バリアは、1つまたは複数の材料層および第2の導電層と同一の広がりを有する(したがって、幅Aは、拡散バリアまでの深さで製作され、幅Bは、拡散バリアを除去するのに十分な深さまで製作される)。この例では、機能デバイスの3つの側面の周りに、1つまたは複数の材料層の重複部分245がある。第2のTCO上のこれらの重複部分のうちの1つで、バスバー1が製作される。一実施形態では、防湿層は、第2の導電層と同一の広がりを有して製作される。蒸気バリアは、典型的には、透明度が高く、例えば、アルミニウム酸化亜鉛、酸化スズ、二酸化ケイ素、およびそれらの混合物、アモルファス、結晶性、またはアモルファス-結晶性混合物である。この実施形態では、防湿層の一部を除去して、バスバー1のために第2の導電層を露出させる。この露出部分は、バスバー2のためのBPEであるエリア235に類似している。特定の実施形態では、防湿層も導電性であり、第2の導電層の露出を実行する必要はなく、つまり、バスバーは、防湿層上に製作され得る。例えば、防湿層は、ITO、例えば、アモルファスITOであり得るため、この目的のために十分に導電性である。防湿層のアモルファス形態は、結晶形態よりも高い気密性を提供し得る。特定の例において、蒸気バリアは、化学蒸着(CVD)または原子層蒸着(ALD)を使用して蒸着され得、導電性である金属窒化物、窒化ケイ素、酸化ケイ素、またはそれらの混合物を含み得る。
【0106】
図2Dは、特定の実施形態によるエレクトロクロミックデバイスまたは前駆体を製作する方法を説明する別のフローチャートを提供する。
図2Dで説明されている方法は、蒸着ステップに焦点を当てている。方法260は、(a)上部に第1の導電層を有する基板を受容すること、または(b)基板上に第1の導電層を蒸着すること、のいずれかによって始まる。261を参照のこと。上記のように、様々な実施形態では、基板は、その上に第1の導電層を含み、第1の導電層を別々に蒸着する必要はない。他の実施形態では、導電層は、残りの層の蒸着の前に蒸着され得る。第2の導電層の蒸着については、以下でさらに考察する。特定の実施形態では、これらの詳細は、第1の導電層の蒸着にも適用され得る。
【0107】
この方法は、エレクトロクロミック層の蒸着を継続する。263を参照のこと。多くの場合、エレクトロクロミック層は、スパッタリングによって形成される。エレクトロクロミック層が均質である特定の実施形態では、以下の条件を使用して、エレクトロクロミック層を蒸着させ得る。エレクトロクロミック層は、1つまたは複数の金属含有ターゲットと、約40%~約80%のO2および約20%~約60%のArを含むスパッタガスと、を使用してスパッタリングすることによって形成され得る。各ターゲットは、タングステン、チタン、およびモリブデンなどの1つまたは複数の金属を含み得る。エレクトロクロミック層が蒸着される基板は、エレクトロクロミック層の形成中に、少なくとも断続的に、約150℃~約450℃(場合によっては約250℃~350℃)に加熱され得る。エレクトロクロミック層は、約500~600nmの厚さに蒸着され得る。
【0108】
イオン伝導体層が省略されるいくつかの実施形態では、エレクトロクロミック層は、2つ以上の層または傾斜層として蒸着され得る。層のうちの1つまたは傾斜層の一部は、他の層または傾斜層の残りの部分と比較して、酸素に富み得る。酸素に富む部分は、酸素に関して超化学量論的であり得る。典型的には、酸素に富む層または部分は、対極層と接触している。他の実施形態では、界面の酸素に富む材料は、エレクトロクロミック材料の代わりに、またはそれに加えて、対極材料の形態で供給され得る。
【0109】
エレクトロクロミック層が2つ以上の層(そのうちの1つは、酸素に富む)として蒸着される場合、以下の条件が使用され得る。いくつかのそのような場合において、エレクトロクロミック層の第1の層は、約350nm~約450nm厚であり得る。第1の層は、1つまたは複数のターゲットと、約40%~約80%のO2および約20%~約60%のArを含む第1のスパッタガスと、を使用するスパッタリングによって形成され得る。ターゲットは、タングステン、チタン、およびモリブデンなどの1つまたは複数の金属を含み得る。第2の層は、約100nm~約200nm厚であり得る。第2の層は、1つまたは複数のターゲットと、約70%~100%のO2および0%のAr~約30%のArを含む第2のスパッタガスと、を使用するスパッタリングによって形成され得る。この実施形態では、熱は、例えば、基板を少なくとも断続的に、第1のエレクトロクロミック層の蒸着中に約150℃~約450℃に加熱することによって加えられ得るが、第2のエレクトロクロミック層の蒸着中に加熱しない(または実質的に加えない)。より具体的な実施形態では、第1のエレクトロクロミック層は、約400nm厚であり、第1のスパッタガスは、約50%~約60%のO2および約40%~約50%のArを含み、第2のエレクトロクロミック層は、約150nm厚を有し、第2のスパッタガスは、実質的に純粋なO2である。この実施形態では、熱は、第1のエレクトロクロミック層の形成中に約200℃~約350℃に少なくとも断続的に加えられるが、第2のエレクトロクロミック層の形成中には加えられない(または実質的に加えない)。
【0110】
エレクトロクロミック層が傾斜酸素組成を有する傾斜層として蒸着される場合、以下の条件を使用してエレクトロクロミック層を蒸着させ得る。エレクトロクロミック層は、1つまたは複数の金属含有ターゲットおよびスパッタガスを使用するスパッタリングによって形成され得、スパッタガスは、エレクトロクロミック層をスパッタリングする開始時に約40%~約80%のO
2および約20%~約60%のArを含み、スパッタガスは、エレクトロクロミック層をスパッタリングする終了時に、約70%~100%のO
2および0%~約30%のArを含む。基板は、エレクトロクロミック層の形成の始めに少なくとも断続的に約200℃~約350℃に加熱され得るが、エレクトロクロミック層の少なくとも最終部分の蒸着中には加熱されない。この説明は、
図2Dに示すように、エレクトロクロミック層が対極層の前に蒸着していることを前提としている。対極層の形成後にエレクトロクロミック層が傾斜層として蒸着される場合、スパッタリングの「初期」/「開始」および「最終」/「終了」部分に関する詳細を逆にしてもよい。いずれの場合も、より高い酸素濃度を有するエレクトロクロミック材料が対極層と接触し得る。
【0111】
エレクトロクロミック層の構造に関係なく、エレクトロクロミック層の形成中の蒸着ステーションまたはチャンバ中の圧力は、約1~約75mTorr、または約5~約50mTorr、または約10~約20mTorrであり得る。一実施形態では、1つまたは複数のターゲットをスパッタするために使用される電力密度は、約2ワット/cm2~約50ワット/cm2(加えられる電力をターゲットの表面積で割ったものに基づいて決定される)、別の実施形態では、約10ワット/cm2~約20ワット/cm2、さらに別の実施形態では、約15ワット/cm2~約20ワット/cm2であり得る。いくつかの実施形態では、スパッタリングを行うために供給される電力は、直流(DC)を介して提供される。他の実施形態では、パルスDC/AC反応性スパッタリングが使用される。パルスDC/AC反応性スパッタリングが使用される一実施形態では、周波数は、約20kHz~約400kHz、別の実施形態では、約20kHz~約50kHz、さらに別の実施形態では、約40kHz~約50kHz、別の実施形態では、約40kHzである。上記の条件は、高品質のエレクトロクロミック層の蒸着をもたらすために、互いに任意の組み合わせで使用され得る。一実施形態では、ターゲット(カソードまたはソース)と基板表面との間の距離は、約35mm~約150mm、別の実施形態では、約45mm~約130mm、別の実施形態では、約70mm~約100mmである。これらの同じ距離は、デバイスの他の層を蒸着するために使用される他のターゲットに適用され得る。
【0112】
次に、この方法は、イオン伝導層の任意選択の蒸着を継続する。263を参照のこと。存在する場合、イオン伝導層は、いくつかの異なる方法で提供され得る。例えば、イオン伝導体層は、スパッタリング、蒸気ベースの技術、ゾル-ゲル技術などによって形成され得る。多くの場合、イオン伝導層は、省略される。
【0113】
次いで、この方法は、対極層の蒸着を継続する。267を参照のこと。エレクトロクロミック層と同様に、対極層は、均質層、2つ以上の層、または傾斜層として蒸着され得る。対極が2つ以上の層または傾斜層として蒸着される場合、層のうちの1つまたは傾斜層の一部は、他の層または傾斜層の残りの部分と比較して酸素に富んでもよい。酸素に富む層または部分は、エレクトロクロミック層中のエレクトロクロミック材料と直接物理的に接触して配置され得る。そのような場合、蒸着条件は、第1の層と第2の層との間、または傾斜層の初期部分と傾斜層の最終部分との間で変化し得る。エレクトロクロミック層の蒸着に関して上に列挙された酸素濃度および基板温度はまた、様々な実施形態における対極層の蒸着に適用され得る。一般に、酸素に富む層または傾斜層の部分は、他の層または傾斜層の残りの部分を蒸着するために使用されるスパッタガスと比較して、より高い酸素濃度およびより低い濃度の不活性ガスを有するスパッタガスを使用して形成され得る。
【0114】
特定の実装形態では、対極を形成するために使用されるスパッタガスは、約30%~約100%の酸素、別の実施形態では、約80%~約100%の酸素、さらに別の実施形態では、約95%~約100%の酸素、別の実施形態では、約100%の酸素を含み得る。一実施形態では、CEターゲットをスパッタするために使用される電力密度は、約2ワット/cm2~約50ワット/cm2(加えられた電力をターゲットの表面積で割ったものに基づいて決定される)、別の実施形態では、約5ワット/cm2~約20ワット/cm2、さらに別の実施形態では、約8ワット/cm2~約10ワット/cm2、別の実施形態では、約8ワット/cm2である。いくつかの実施形態では、スパッタリングを行うために供給される電力は、直流(DC)を介して提供される。他の実施形態では、パルスDC/AC反応性スパッタリングが使用される。パルスDC/AC反応性スパッタリングが使用される一実施形態では、周波数は、約20kHz~約400kHz、別の実施形態では、約20kHz~約50kHz、さらに別の実施形態では、約40kHz~約50kHz、別の実施形態では、約40kHzである。一実施形態では、蒸着ステーションまたはチャンバ中の圧力は、約1~約50mTorr、別の実施形態では、約20~約40mTorr、別の実施形態では、約25~約35mTorr、別の実施形態では約30mTorrである。特定の実施形態では、対極層は、約150~350nmの厚さ、さらに別の実施形態では、約200~約250nm厚に蒸着される。
【0115】
次に、この方法は、第2の導電層の蒸着を継続する。269を参照のこと。記載された条件を用いて、酸化スズ中に酸化インジウムを含有するターゲットを、例えば酸素の有無にかかわらずアルゴンスパッタガスでスパッタリングすることにより、酸化インジウムスズの薄い低欠陥層を形成し得る。これは単なる一例であり、他の材料および条件が他の場合に使用され得る。一実施形態では、TCO層の厚さは、約5nm~約10,000nm、別の実施形態では、約10nm~約1,000nm、さらに別の実施形態では、約10nm~約500nmである。一実施形態では、第2の導電層の蒸着中の基板温度は、約20℃~約300℃、別の実施形態では約20℃~約250℃、別の実施形態では約80℃~約225℃である。一実施形態では、TCO層の蒸着は、不活性ガス、任意選択で酸素を用いて、約80%(重量)~約99%のIn2O3および約1%~約20%のSnO2を含むターゲットをスパッタリングすることを含む。より具体的な実施形態では、ターゲットは、約85%(重量)~約97%のIn2O3、および約3%~約15%のSnO2である。別の実施形態では、ターゲットは、約90%のIn2O3および約10%のSnO2である。一実施形態では、ガス組成物は、約0.1%~約3%の酸素、別の実施形態では、約0.5%~約2%の酸素、さらに別の実施形態では、約1%~約1.5%の酸素、別の実施形態では、約1.2%の酸素を含有する。一実施形態では、TCOターゲットをスパッタするために使用される電力密度は、約0.5ワット/cm2~約10ワット/cm2(加えられた電力をターゲットの表面積で割ったものに基づいて決定される)、別の実施形態では、約0.5ワット/cm2~約2ワット/cm2、さらに別の実施形態では、約0.5ワット/cm2~約1ワット/cm2、別の実施形態では、約0.7ワット/cm2である。いくつかの実施形態では、スパッタリングを行うために供給される電力は、直流(DC)を介して提供される。他の実施形態では、パルスDC/AC反応性スパッタリングが使用される。パルスDC/AC反応性スパッタリングが使用される一実施形態では、周波数は、約20kHz~約400kHz、別の実施形態では、約50kHz~約100kHz、さらに別の実施形態では、約60kHz~約90kHz、別の実施形態では、約80kHzである。一実施形態では、蒸着ステーションまたはチャンバ中の圧力は、約1~約10mTorr、別の実施形態では、約2~約5mTorr、別の実施形態では、約3~約4mTorr、別の実施形態では約3.5mTorrである。一実施形態では、酸化インジウムスズ層は、約20%(原子)のIn~約40%のIn、約2.5%のSn~約12.5%のSn、約50%のO~約70%のO、別の実施形態では、約25%のIn~約35%のIn、約5.5%のSn~約8.5%のSn、約55%のO~約65%O、別の実施形態では、約30%のIn、約8%のSn、および約62%のOである。上記の条件は、高品質の酸化インジウムスズ層の蒸着をもたらすために、互いに任意の組み合わせで使用され得る。
【0116】
図2Dの方法を実施する場合、蒸着された層のうちの1つまたは複数は、次の層の蒸着の前にリチウム化され得る。例えば、エレクトロクロミック層、任意選択のイオン伝導層、および対極層のうちの1つまたは複数がリチウム化され得る。一例では、エレクトロクロミック層がリチウム化される。別の例では、対極層がリチウム化される。別の例では、イオン伝導体層がリチウム化される。別の例では、エレクトロクロミック層および対極層の両方がリチウム化される。別の例では、エレクトロクロミック層、対極層、およびイオン伝導層が、すべてリチウム化される。別の例では、エレクトロクロミック層およびイオン伝導体層がリチウム化される。別の例では、対極層およびイオン伝導層がリチウム化される。さらに、これらの層のいずれも、その層の蒸着中にリチウム化され得る。場合によっては、層の一部が蒸着され、次いでリチウム化され、次いでその層の残りの部分が蒸着され得る。一例では、エレクトロクロミック層の第1の部分が蒸着され、次いでリチウム化され、次いでエレクトロクロミック層の第2の部分が蒸着される。別の例では、対極層の第1の部分が蒸着され、次いでリチウム化され、次いで対極層の第2の部分が蒸着される。関連する層のこれらの第1および第2の部分は、同じ条件または異なる条件に従って蒸着され得る。場合によっては、関連する層の第1および第2の部分は、異なる組成を有し得る。
【0117】
イオン伝導層が省略される場合、エレクトロクロミックおよび/または対極層のリチウム化は、エレクトロクロミック層と対極層との間の界面領域の形成を促進し得、界面領域は、イオン伝導性であり、かつ実質的に電子絶縁である材料を含む。例えば、いくつかのそのような実施形態では、エレクトロクロミックおよび対極材料が接し、材料の一方または両方が過剰の酸素を含有する場合(例えば、化学量論的レベルを超える)、リチウム挿入およびその後の加熱により、2つの電極材料間(例えば、エレクトロクロミック材料と対極材料との間)の界面での化学変化が可能になり、エレクトロクロミック層と対極層との間の界面領域においてイオン伝導性および電気絶縁性材料を形成する。例えば、本明細書に記載の多段階熱調整は、イオン伝導性および電気絶縁性材料の形成を促進し得る。
【0118】
図2Dに示される動作は、様々な実施形態ではエレクトロクロミックデバイス前駆体を形成するために使用され得る。エレクトロクロミックデバイス前駆体からエレクトロクロミックデバイスを形成するために、上記のように1つまたは複数のステップをとり得る。前述のように、エレクトロクロミックデバイス前駆体からエレクトロクロミックデバイスを形成するために使用でされ得る1つの技術は、多段階熱調整である。この調整は、不活性雰囲気下での基板の加熱、酸素雰囲気下での基板の加熱、および空気中での基板の加熱を含む一連の加熱動作を伴い得る。
【0119】
一実施形態では、
図2Dに記載されるように形成されたスタックは、(269で第2の導電層を蒸着する前後のいずれかで)約150℃~約450℃、Ar下で約10分~約30分間加熱され、次いで、O
2下で約1分~約15分間加熱される。この処理後、スタックは、スタックを空気中、約250℃~約350℃で約20分~約40分間加熱することによって、さらに処理される。特定の例では、スタックは、スタックを不活性雰囲気下の約250℃で約15分間、続いてO
2雰囲気下で5分間加熱し、次いで空気中、約300℃で約30分間スタックを加熱することによって処理される。エレクトロクロミックデバイスの初期活性化サイクルの一部として、エレクトロクロミック層と対極層との間に電流を流すことも実行することができる。
【0120】
図2Dは、エレクトロクロミック層が対極層の前に蒸着していることを前提とするが、常にそうであるとは限らない。特定の実装形態では、動作263および267は、逆電極層がエレクトロクロミック層の前に蒸着されるように逆にしてもよい。
【0121】
III.エレクトロクロミックデバイスおよび前駆体を製作するための装置
統合された蒸着システムを用いて、例えば、建築用ガラスまたは他の基板上にエレクトロクロミックデバイスを製作し得る。エレクトロクロミックデバイスは、断熱ガラスユニット(IGU)を作製するために使用され得、次に、エレクトロクロミック窓を作製するために使用され得る。「統合された蒸着システム」という用語は、光学的に透明および半透明の基板上にエレクトロクロミックデバイスを製作するための装置を意味する。装置は、複数のステーションを有し、それぞれがエレクトロクロミックデバイスの特定の構成要素(または構成要素の一部)の蒸着、ならびにそのようなデバイスまたはその一部の洗浄、エッチング、および温度制御などの特定の単位操作に専念する。複数のステーションは、エレクトロクロミックデバイスが製作されている基板が、外部環境に曝露されることなく、あるステーションから次のステーションへ通過することができるように完全に統合される。統合された蒸着システムは、プロセスステーションがあるシステム内部の制御された周囲環境で動作する。完全に統合されたシステムにより、蒸着された層間の界面品質の良好な制御が可能になる。界面品質は、とりわけ、層間の接着の品質および界面領域における汚染物質の欠如を指す。「制御された周囲環境」という用語は、開放大気環境またはクリーンルームなどの外部環境から分離された密閉環境を意味する。制御された周囲環境では、圧力およびガス組成のうちの少なくとも1つは、外部環境における条件とは無関係に制御される。一般に、必ずしもそうとは限らないが、制御された周囲環境は、大気圧より低い圧力、例えば、少なくとも部分的な真空を有する。制御された周囲環境の条件は、処理操作中は一定のままであってもよく、または経時的に変動してもよい。例えば、エレクトロクロミックデバイスの層は、制御された周囲環境における真空下で、および蒸着動作の終わりに蒸着され得、環境は、パージまたは試薬ガスで埋め戻され、圧力は、例えば、別のステーションで処理するために大気圧に上昇させ、次いで、次の動作などのために真空を再確立させた。
【0122】
一実施形態では、システムは、直列に整列され、相互接続され、かつ基板を外部環境に曝露することなく基板をあるステーションから次のステーションに通過させるように動作可能な複数の蒸着ステーションを含む。複数の蒸着ステーションは、(i)陰極着色エレクトロクロミック層を蒸着するためのうちの1つまたは複数のターゲットを含有する第1の蒸着ステーションと、(ii)イオン伝導層を蒸着するための1つまたは複数のターゲットを含有する第2の任意選択の蒸着ステーションと、(iii)対極層を蒸着するための1つまたは複数のターゲットを含有する第3の蒸着ステーションと、を備える。場合によっては、第2の蒸着ステーションは、省略されてもよい。例えば、装置は、別々のイオン伝導体層を蒸着するためのいかなるターゲットも含まなくてもよい。このシステムはまた、スタックを形成するために、(i)エレクトロクロミック層と、(ii)(任意選択の)イオン伝導層と、(iii)対極層と、を基板上に順次蒸着するように基板を複数のステーションに通過させるためのプログラム命令を含有する制御器を含む。エレクトロクロミック層または対極層が2つ以上の層を含む場合、層は、他の要因の中でもとりわけ、各層の所望の組成に応じて、異なるステーションまたは同じステーションに形成され得る。一例では、第1のステーションを使用して、エレクトロクロミック層を蒸着させ、第2のステーションを使用して、対極層の第1の層を蒸着させ、第3のステーションを使用して、対極層の第2の層を蒸着させ得る。
【0123】
一実施形態では、複数の蒸着ステーションは、真空を破壊することなく、あるステーションから次のステーションに基板を通過させるように動作可能である。別の実施形態では、複数の蒸着ステーションは、エレクトロクロミック層、任意のイオン伝導層、および対極層を建築用ガラス基板上に蒸着するように構成される。別の実施形態では、統合された蒸着システムは、複数の蒸着ステーション中にある間、建築用ガラス基板を垂直方向に保持するように動作可能な基板ホルダーおよび輸送機構を含む。さらに別の実施形態では、統合された蒸着システムは、外部環境と統合された蒸着システムとの間で基板を通過させるための1つまたは複数のロードロックを含む。別の実施形態では、複数の蒸着ステーションは、エレクトロクロミック層、イオン伝導層、および対極層からなる群から選択される層を蒸着するための少なくとも2つのステーションを含む。
【0124】
いくつかの実施形態では、統合された蒸着システムは、1つまたは複数のリチウム蒸着ステーションを含み、それぞれがリチウム含有ターゲットを含む。一実施形態では、統合された蒸着システムは、2つ以上のリチウム蒸着ステーションを含有する。一実施形態では、統合された蒸着システムは、動作中に個々のプロセスステーションを互いに隔離するための1つまたは複数の隔離弁を有する。一実施形態では、1つまたは複数のリチウム蒸着ステーションは、隔離バルブを有する。この文書では、「隔離バルブ」という用語は、統合された蒸着システム中の他のステーションのプロセスから、あるステーションで実施されている蒸着または他のプロセスを隔離するためのデバイスを意味する。一例では、隔離弁は、リチウムが蒸着されている間に係合する、統合された蒸着システム内の物理的(固体)隔離弁である。実際の物理的な固体バルブは、統合された蒸着システム中の他のプロセスまたはステーションからリチウム蒸着を完全にまたは部分的に隔離(もしくはシールド)するように係合し得る。別の実施形態では、隔離弁は、ガスナイフまたはシールドであり得、例えば、アルゴンまたは他の不活性ガスの分圧が、リチウム蒸着ステーションと他のステーションとの間のエリアを通過して、他のステーションへのイオンの流れを遮断する。別の例では、隔離弁は、リチウム蒸着ステーションと他のプロセスステーションとの間の排気領域であり得、その結果、リチウムイオンまたは排気領域に入る他のステーションからのイオンは、隣接するプロセスを汚染するのではなく、例えば、廃棄物の流れに除去される。これは、例えば、リチウム蒸着が、統合された蒸着システムにおける他のプロセスから十分に隔離されるように、統合された蒸着システムのリチウム化ステーション中の差圧を介した制御された周囲環境における動的な流れを介して達成される。繰り返すが、隔離弁は、リチウム蒸着ステーションに限定されない。
【0125】
いくつかの実施形態では、統合された蒸着システムは、導電層(例えば、TCOと呼ばれることもある透明導電性酸化物層)を蒸着するための1つまたは複数のステーションを含む。第1および第2の導電層の両方が基板上に蒸着される場合、それぞれが導電層のうちの1つを蒸着することに専用される2つのステーションが提供され得る。他の実施形態では、単一のステーションを使用して、両方の導電層を蒸着させ得る。単一の導電層のみが蒸着される場合、単一の導電層蒸着ステーションのみが必要とされる。例えば、多くの場合、基板は、その上に提供される第1の導電層と共に受容され、エレクトロクロミックデバイスの製作中に第2の導電層のみが蒸着される。
【0126】
図3Aは、特定の実施形態による統合された蒸着システム300を概略的に示す。この例では、システム300は、基板をシステムに導入するための入口ロードロック302およびシステムから基板を取り外すための出口ロードロック304を含む。ロードロックにより、システムの制御された周囲環境を乱すことなく、基板をシステムに導入し、システムから取り外すことが可能になる。統合された蒸着システム300は、複数の蒸着ステーションを備えたモジュール306、EC層蒸着ステーション、IC層蒸着ステーション、およびCE層蒸着ステーションを有する。最も広い意味で、統合された蒸着システムは、ロードロックを有する必要はなく、例えば、モジュール306は、単独で統合された蒸着システムとして機能を果たすことができる。例えば、基板は、モジュール306にロードされ得、制御された周囲環境が確立され、次いで、基板は、システム内の様々なステーションを通して処理される。統合された蒸着システム内の個々のステーションは、ヒーター、クーラー、様々なスパッタターゲット、およびそれらを移動する手段、RFおよび/またはDC電源ならびに電力供給メカニズム、エッチングツール、例えば、プラズマエッチング、ガス源、真空源、グロー放電源、プロセスパラメータモニター、およびセンサ、ロボット工学、電源などを含有することができる。
【0127】
図3Bは、統合された蒸着システム300のセグメント(または簡略化されたバージョン)を斜視図で示し、内部の断面図を含むより詳細なものである。この例では、システム300は、モジュール式であり、入口ロードロック302および出口ロードロック304は、蒸着モジュール306に接続されている。例えば、建築用ガラス基板325をロードするための入口ポート310が存在する(ロードロック304は、対応する出口ポートを有する)。基板325は、トラック315に沿って動くパレット320によって支持される。この例では、パレット320は、吊り下げを介してトラック315によって支持されるが、パレット320は、装置300の底部近くにあるトラック、または例えば装置300の上部と底部との間の中間のトラックに支持することもできる。パレット320は、システム300を通って前方および/または後方に並進することができる(両頭矢印によって示されるように)。例えば、リチウム蒸着中に、基板は、リチウムターゲット330の前で前後に移動し、所望のリチウム化を達成するために複数のパスを作製し得る。パレット320および基板325は、実質的に垂直方向にある。実質的に垂直な配向は、限定されないが、例えば、スパッタリングによる原子の凝集から生成され得る粒子状物質は、重力に屈する傾向があり、したがって基板325上に蒸着しないため、欠陥を防止するのに役立ち得る。また、建築用ガラス基板は、大きくなる傾向があるため、統合された蒸着システムのステーションを並進するときの基板の垂直方向により、より厚い高温ガラスで発生するたるみの心配が少なくなるため、より薄いガラス基板のコーティングが可能になる。
【0128】
ターゲット330、この場合は円筒形のターゲットは、蒸着が行われる基板表面に実質的に平行かつその前に配向される(便宜上、他のスパッタ手段は、ここには示されていない)。基板325は、蒸着中にターゲット330を通過して並進することができ、かつ/またはターゲット330は、基板325の前を移動することができる。ターゲット330の移動経路は、基板325の経路に沿った並進に限定されない。ターゲット330は、その長さにわたって軸に沿って回転し、基板の経路に沿って(前方および/または後方に)並進し、基板の経路に垂直な経路に沿って並進し、基板325などに平行な平面内の円形経路で移動し得る。ターゲット330は、円筒形である必要はなく、平面であるか、または所望の性質を有する所望の層の蒸着に必要な任意の形状であり得る。また、各蒸着ステーションに複数のターゲットが存在してもよく、かつ/またはターゲットは、所望のプロセスに応じてステーションからステーションへ移動してもよい。
【0129】
統合された蒸着システム300はまた、システム内の制御された周囲環境を確立および維持する様々な真空ポンプ、ガス入口、圧力センサなどを有する。これらの構成要素は、示されていないが、むしろ当業者によって認識されるであろう。システム300は、例えば、
図3BにLCDおよびキーボード335によって表されたコンピュータシステムまたは他の制御器を介して制御される。当業者は、本明細書における実施形態が、1つまたは複数のコンピュータシステムに格納された、またはそれを通して転送されたデータを伴う様々なプロセスを用い得ることを認識するであろう。実施形態はまた、これらの動作を実行するための、コンピュータおよびマイクロ制御器などの装置に関する。これらの装置およびプロセスは、本明細書における方法のエレクトロクロミック材料およびそれらを実装するように設計された装置を蒸着するために用いられ得る。制御装置は、必要な目的のために特別に構築され得るか、またはコンピュータプログラムおよび/もしくはコンピュータに格納されたデータ構造によって選択的に起動または再構成される汎用コンピュータであり得る。本明細書に提示されるプロセスは、特定のコンピュータまたは他の装置に本質的に関連していない。特に、本明細書における教示に従って書かれたプログラムと共に様々な汎用機械が使用され得、または必要な方法およびプロセスを実行および/もしくは制御するためのより特殊な装置を構築することがより便利であり得る。
【0130】
前述のように、統合された蒸着システムの様々なステーションは、モジュール式であり得るが、接続されると、システム内の様々なステーションで基板を処理するために、制御された周囲環境が確立および維持される連続システムを形成する。
図3Cは、システム300と同様の統合された蒸着システム300aを示しているが、この例では、各ステーションは、モジュール式であり、具体的には、EC層ステーション304a、IC層ステーション304b、およびCE層ステーション306cである。同様の実施形態では、IC層ステーション304bは、省略されている。モジュラー形態は、必要ないが、必要に応じて、カスタムのニーズおよび新たなプロセスの進歩に応じて統合された蒸着システムを組み立てることができるため、便利である。例えば、
図3Dは、2つのリチウム蒸着ステーション307aおよび307bを備えた統合された蒸着システム300bを示している。システム300bは、例えば、二重リチウム化法などの上記のような本明細書の方法を実施するために装備される。システム300bはまた、例えば、基板の処理中にリチウムステーション307bのみを利用することによって、単一のリチウム化方法を実施するために使用され得る。しかし、モジュラー形式では、例えば、単一のリチウム化が所望のプロセスである場合、そのとき、
図3Eに示すように、リチウム化ステーションのうちの1つが冗長であり、システム300cを使用することができる。システム300cは、1つのリチウム蒸着ステーション307のみを有する。
【0131】
システム300bおよび300cはまた、ECスタック上にTCO層を蒸着するための1つまたは複数のTCO層ステーション308を有する。TCOは、透明な導電性酸化物を指す。
図1を参照すると、導電層104および114は、TCO層であり得る。
図3Dおよび3Eは、単一のTCO層ステーション308のみを示しているが、第1の導電層が基板上に蒸着される場合(例えば、基板がその上に第1の導電層を提供されるのではなく)、追加のTCOステーションは、例えば、入口ロードロック302とEC層ステーション306aとの間に(または、対極層がエレクトロクロミック層の前に蒸着される場合には、入口ロードロック302とCE層ステーション306cとの間に)提供され得ることが理解される。プロセスの要求に応じて、追加のステーションを統合蒸着システム、例えば、洗浄プロセス用のステーション、レーザスクライブ、キャッピング層などに追加することができる。
【0132】
層(例えば、エレクトロクロミック層または対極層)を形成するためのスパッタリングプロセスは、1つまたは複数のスパッタターゲットを利用し得る。1つのスパッタターゲットを使用する場合、ターゲットは、蒸着層に所望されるすべての金属を含み得る(例えば、NiWO層の場合はニッケルおよびタングステン、NiWTaO層の場合はニッケル、タングステン、およびタンタル、NiWNbO層の場合はニッケルタングステンおよびニオブ、NiWSnO層の場合はニッケル、タングステン、およびスズ、WTiMoO層の場合はタングステン、チタン、およびモリブデンなど)。そのような場合、ターゲットは、金属合金、金属間混合物、金属酸化物材料、またはそれらの組み合わせの形態であり得る。金属合金または金属間化合物の混合物が用いられる場合、ターゲットの組成は、酸素なしで、変数xおよびyを使用して、本明細書に記載の金属比を反映する(zは0である)。例えば、金属スパッタターゲットは、84%(原子)のタングステン、10%(原子)のチタン、および6%(原子)のモリブデン(x=0.10およびy=0.06、これは93.6重量%のタングステン、2.9重量%のチタン、および3.5重量%のモリブデンに相当する)の組成を有し得る。金属ターゲットの原子比は、3つの金属が異なる速度で酸素と反応したり、および異なる速度でターゲットからスパッタしたりし得るため、スパッタされたタングステンチタンモリブデン酸化物の金属比に直接変換されない場合があることが理解される。複数のターゲットが使用される場合、ターゲットは、同じ組成または異なる組成を有し得る(例えば、各ターゲット上に異なる金属または金属の組み合わせを有する)。
【0133】
スパッタターゲットは、グリッドまたはグリッドの異なる部分が異なる関連材料を含む他の重複する形状を含み得る(例えば、グリッドの特定の部分は、一緒に所望の組成を形成する元素金属または金属の合金を含み得る)。例えば、2つのターゲットがタングステンチタンモリブデン酸化物エレクトロクロミック層を形成するために使用される場合、各ターゲットは、タングステン、チタン、およびモリブデンのうちの1つまたは複数を含み得る。一例では、第1のターゲットは、タングステンおよびチタンを含み、第2のターゲットは、モリブデンを含む。別の例では、第1のターゲットは、タングステンおよびモリブデンを含み、第2のターゲットは、チタンを含む。別の例では、第1のターゲットは、チタンおよびモリブデンを含み、第2のターゲットは、タングステンを含む。特定の実施形態では、2つのターゲットを使用して、ニッケルタングステンタンタル酸化物対極を形成する。そのような場合、第1のターゲットは、ニッケルを含み得、第2のターゲットは、タングステンおよびタンタルを含み得るか、または第1のターゲットは、ニッケルおよびタングステンを含み得、第2のターゲットは、タンタル含み得るか、または第1のターゲットは、ニッケルおよびタンタルを含み得、第2のターゲットは、タングステンを含み得る。同様の例は、ニッケルタングステンスズ酸化物およびニッケルタングステンニオブ酸化物を含むがこれらに限定されない他の材料でも可能であり、これらのそれぞれは、特定の実施形態では対極材料として使用され得る。2つ以上の金属が同じターゲット上に一緒に提供される場合はいつでも、金属は、合金として、またはそれらの組み合わせとして、別々に(例えば、グリッドもしくは他のパターンで一緒に提供される元素金属として)提供され得る。
【0134】
場合によっては、スパッタターゲットは、関連する材料の合金を含み得る(例えば、タングステンチタンモリブデン酸化物層を形成するためのタングステン、チタン、およびモリブデンのうちの2つ以上、ニッケルタングステンタンタル酸化物層を形成するためのニッケル、タングステン、およびタンタルのうちの2つ以上、ニッケルタングステンスズ酸化物層を形成するためのニッケル、タングステン、およびスズのうちの2つ以上、またはニッケルタングステンニオブ酸化物層を形成するためのニッケル、タングステン、およびニオブのうちの2つ以上)。2つ以上のスパッタターゲットが使用される場合、各スパッタターゲットは、関連する材料のうちの少なくとも1つを含み得る(例えば、関連する金属の元素および/または合金形態、これらのいずれも酸化物形態で提供することができる)。場合によっては、スパッタターゲットが重複してもよい。いくつかの実施形態では、スパッタターゲットも回転し得る。前述のように、エレクトロクロミック層および対極層はそれぞれ、典型的には、酸化物材料である。酸素は、スパッタターゲットおよび/またはスパッタガスの一部として提供され得る。場合によっては、スパッタターゲットは、実質的に純粋な金属または合金(例えば、酸素が欠如している)であり、スパッタリングは、酸素の存在下で行われて酸化物を形成する。
【0135】
一実施形態では、エレクトロクロミック層または対極層の蒸着速度を正規化するために、複数のターゲットを使用して、蒸着速度を増加させるための不適切な高出力(または所望のプロセス条件に対する他の不適切な調整)の必要性を取り除く。
【0136】
前述のように、場合によっては、1つまたは複数の回転ターゲットが使用され得る。様々な場合において、回転ターゲットは、内部磁石を含み得る。
図4Aは、回転ターゲット400の図を提示する。回転ターゲット400の内部には磁石402があり、これは(ターゲットに適切な電力が供給されるとき)材料をスパッタコーン406中のターゲット表面404からスパッタさせる(スパッタコーンは、スパッタプラズマと呼ばれることもある)。磁石402は、スパッタターゲット400の長さに沿って延在し得る。様々な実施形態では、磁石402は、結果として生じるスパッタコーン406が、ターゲットの表面404に垂直な方向(スパッタコーン406の中心軸に沿って測定される方向、これは典型的には、スパッタコーン406の平均方向に対応する)にスパッタターゲット400から出るように、半径方向外向きに延在するように配向され得る。スパッタコーン406は、上から見たときにV字形であり得、ターゲット400の高さ(またはターゲット400の高さと同じでない場合は磁石402の高さ)に沿って延在し得る。回転ターゲット400の内部の磁石402は、固定され得(つまり、ターゲット400の表面404は、回転し、ターゲット400内の磁石402は、回転しない)、その結果スパッタコーン406も固定される。スパッタコーン406に示される小さな円/ドットは、スパッタターゲット400から出るスパッタされた材料を表す。回転ターゲットは、必要に応じて、他の回転ターゲットおよび/または平面ターゲットと組み合わされ得る。
【0137】
一例では、2つの回転ターゲットを使用して、タングステンチタンモリブデン酸化物エレクトロクロミック層を蒸着する:第1のターゲットは、タングステンおよびチタンを含み、第2のターゲットは、モリブデンを含む(いずれかまたは両方が任意選択で、酸化物形態である)。上記のように、これらの金属の他の組み合わせを使用して、同じ材料を製造し得る。別の例では、2つの回転ターゲットを使用して、ニッケルタングステンタンタル酸化物対極層を蒸着する:第1のターゲットは、ニッケルおよびタングステンを含み、第2のターゲットは、タンタルを含む(いずれかまたは両方が任意選択で、酸化物形態である)。上記のように、これらの金属の他の組み合わせを使用して、同じ材料を製造し得る。同様に、これらの例は、ニッケルタングステン酸化物、ニッケルタングステンニオブ酸化物、およびニッケルタングステンスズ酸化物を含むが、これらに限定されない他の所望の材料を蒸着するために適用することができる。
【0138】
図4Bは、このようにエレクトロクロミックデバイスの層を蒸着するための蒸着システムの上面図を提示する。この例は、タングステンおよびチタンを含む第1のターゲットならびにモリブデンを含む第2のターゲットを使用して、タングステンチタンモリブデン酸化物エレクトロクロミック層を形成する状況で提示される。しかしながら、これらの技術は、所望の組成を提供するターゲットの任意の組み合わせ(例えば、関連する層の所望の金属のすべてを一緒に含むターゲットの組み合わせ)を使用して、本明細書に記載の混合金属酸化物のいずれかを形成するために適用され得る。第1のターゲット410および第2のターゲット412は、それぞれ、内部磁石414を含む。磁石414は、第1のターゲット410および第2のターゲット412からのスパッタコーン416および418がそれぞれ重複するように、互いに対して傾けられる。このようにして、第1のターゲット410からスパッタされたタングステンおよびチタンは、第2のターゲット412からスパッタされたモリブデンと混合して、所望のタングステンチタンモリブデン酸化物を形成する。
図4Bはまた、ターゲット410および412の前を通過する基板420を示す。示すように、スパッタコーン416および418は、それらが基板420に衝突する場所で密接に重複する。いくつかの実施形態では、様々なスパッタターゲットからのスパッタコーンは、互いに密接に重複し得る(例えば、基板上に蒸着するときに単一のスパッタコーンのみが到達する非重複面積は、いずれかのスパッタコーンが到達する総面積の約10%未満、例えば、約5%未満である)。他の実施形態では、スパッタコーンは、スパッタコーンのいずれかまたは両方が、いずれかのスパッタコーンが到達する総面積の少なくとも約10%、例えば、少なくとも約20%、または少なくとも30%、または少なくとも約50%である非重複面積を有するように、互いにより大きく発散し得る。
【0139】
図4Bに示されるものと同様の実施形態では、一方のスパッタターゲットは、タングステンおよびモリブデン(別々にまたは合金として)であり、他方のターゲットは、チタンである(いずれかまたは両方のターゲットは、任意選択で酸化物形態である)。同様に、一方のスパッタターゲットは、タングステンであり得、他方は、チタンとモリブデンとの組み合わせ(別々にまたは合金として)であり得る(いずれかまたは両方のターゲットは、任意選択で酸化物形態である)。関連する実施形態では、3つのスパッタターゲットを使用して、タングステンチタンモリブデン酸化物を形成する:タングステンターゲット、チタンターゲット、およびニッケルターゲット(これらのいずれも任意選択で酸化物形態であり得る)。3つのターゲットのそれぞれからのスパッタコーンは、必要に応じて磁石を傾けることによって重複し得る。また、シールド、格子、および/または他の追加のプラズマ成形要素を使用して、適切なプラズマ混合物を作成して、所望の組成物を形成するのを助け得る。上記のように、これらの例は、ターゲットが所望の組成を提供するように選択される限り、エレクトロクロミックデバイス中の他の材料を形成するために適用することができる。
【0140】
表1は、特定の実施形態による、タングステンチタンモリブデン酸化物を形成するために一緒に使用され得るターゲットのセットの様々な例を提供する。これらの材料のいずれも、酸化物の形態で提供され得る。2つの金属が一緒に提供される場合、それらは、元素金属として(例えば、グリッドもしくは他のパターンで)提供され得るか、またはそれらは、合金として提供され得る。
【表1】
【0141】
表2は、特定の実施形態による、ニッケルタングステンタンタル酸化物を形成するために一緒に使用され得るターゲットのセットの様々な例を提供する。これらの材料のいずれも、酸化物の形態で提供され得る。2つの金属が一緒に提供される場合、それらは、元素金属として(例えば、グリッドもしくは他のパターンで)提供され得るか、またはそれらは、合金として提供され得る。
【表2】
【0142】
表3は、特定の実施形態による、ニッケルタングステンニオブ酸化物を形成するために一緒に使用され得るターゲットのセットの様々な例を提供する。これらの材料のいずれも、酸化物の形態で提供され得る。2つの金属が一緒に提供される場合、それらは、元素金属として(例えば、グリッドもしくは他のパターンで)提供され得るか、またはそれらは、合金として提供され得る。
【表3】
【0143】
表4は、特定の実施形態によるニッケルタングステンスズ酸化物を形成するために一緒に使用され得るターゲットのセットの様々な例を提供する。これらの材料のいずれも、酸化物の形態で提供され得る。2つの金属が一緒に提供される場合、それらは、元素金属として(例えば、グリッドもしくは他のパターンで)提供され得るか、またはそれらは、合金として提供され得る。
【表4】
【0144】
表1~4は、タングステンチタンモリブデン酸化物、ニッケルタングステンタンタル酸化物、ニッケルタングステンニオブ酸化物、およびニッケルタングステンスズ酸化物の形成に関連する様々な例を示す。これらは、単なる例であり、限定することを意図したものではない。他の例では、異なるエレクトロクロミックおよび/または対極材料が使用され得る。
【0145】
様々なスパッタターゲットの設計、配向、および実装形態は、米国特許第9,261,751号でさらに考察されており、これは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0146】
スパッタターゲットからスパッタする材料の密度および配向/形状は、例えば、スパッタプラズマを生成するために使用される磁場の形状および強度、圧力、ならびに電力密度を含む様々な要因に依存する。隣接するターゲット間の距離、および各ターゲットと基板との間の距離も、スパッタプラズマをどのように混合するか、および結果として生じる材料が基板上にどのように蒸着するかに影響を与える可能性がある。
【0147】
特定の実施形態では、2つの異なるタイプのスパッタターゲットが、エレクトロクロミックスタックに単一の層を蒸着するために提供される:(a)基板上に材料をスパッタする一次スパッタターゲット、および(b)一次スパッタターゲット上に材料をスパッタする二次スパッタターゲット。一次および二次スパッタターゲットは、蒸着層において所望の組成を達成する金属、金属合金、および金属酸化物の任意の組み合わせを含み得る(表1~4に記載された組み合わせのいずれかを含むが、これらに限定されず、「第1のターゲット」は、一次ターゲットまたは二次ターゲットのいずれかに対応する表にリストされている)。ターゲットがタングステンチタンモリブデン酸化物を形成するために使用される特定の一例では、一次スパッタターゲットは、タングステンとチタンとの合金を含み、二次スパッタターゲットは、モリブデンを含む。同様の例では、一次スパッタターゲットは、チタンを含み、二次スパッタターゲットは、モリブデンとタングステンとの合金を含む。これらのスパッタターゲットを一緒に使用して、タングステンチタンモリブデン酸化物を含むエレクトロクロミック層を蒸着させ得る。必要に応じて、元素金属と合金との他の組み合わせも使用することができる。
【0148】
一次および二次の両方のスパッタターゲットを使用する場合は、多くの異なる設定が可能である。
図5Aおよび5Bは、エレクトロクロミックデバイスの層(例えば、エレクトロクロミック層および/または対極層)を蒸着するための蒸着ステーションの一実施形態のトップダウン図を提示する。本明細書で考察されるスパッタターゲット構成は、ターゲットがスタック中に所望の材料を蒸着するのに適切な組成であるという条件で、エレクトロクロミックスタック中に任意の材料を蒸着するために使用され得る。一次スパッタターゲット501および二次スパッタターゲット502が提供され、それぞれに内部磁石503を有する。この例における各スパッタターゲットは、回転するスパッタターゲットであるが、平面または他の形状のターゲットも使用され得る。ターゲットは、同じ方向または反対方向に回転してもよい。
図5Aに示すように、2つのターゲット間に基板504が存在しない場合、二次スパッタターゲット502は、一次スパッタターゲット501上に材料をスパッタする。これは、二次スパッタターゲット502から一次スパッタターゲット501上に材料を蒸着させる。次いで、基板504が2つのターゲット間の位置に移動すると、
図5Bに示すように、二次スパッタターゲット502からのスパッタリングが停止し、一次スパッタターゲット501から基板504へのスパッタリングが始まる。
【0149】
材料が一次スパッタターゲット501からスパッタされて基板504上に蒸着されるとき、蒸着された材料は、それぞれ一次スパッタターゲット501および二次スパッタターゲット502の両方に由来する材料を含む。事実上、この方法は、一次スパッタターゲット501上に混合されたスパッタターゲット表面のその場での形成を伴う。この方法の1つの利点は、二次スパッタターゲット502からの材料の新しいコーティングが一次スパッタターゲット501の表面上に周期的に蒸着されることである。次いで、混合された材料は、一緒に基板504に送達される。
【0150】
図5Cに示される関連する実施形態では、二次スパッタターゲット522は、一次スパッタターゲット521の後ろに配置され、基板504は、2つのターゲット521と522との間の視線を遮断しないように、一次スパッタターゲット521の前を通過する。スパッタターゲットのそれぞれは、磁石523を含み得る。この実施形態では、二次スパッタターゲット521から一次スパッタターゲット522上へのスパッタリングを定期的に停止する必要はない。代わりに、そのようなスパッタリングは、連続的に発生する可能性がある。一次スパッタターゲット521が基板504と二次スパッタターゲット522との間にある場合(例えば、二次スパッタターゲット522と基板504との間に視線がない)、一次スパッタターゲット521は、一次スパッタターゲット521上に蒸着された材料が基板504上にスパッタできるように回転しなければならない。二次スパッタターゲット522の設計には、より柔軟性がある。関連する実施形態では、二次スパッタターゲットは、平面または他の非回転ターゲットであり得る。2つの回転ターゲットが使用される場合、ターゲットは、同じ方向または反対方向に回転し得る。
【0151】
同様の実施形態では、二次スパッタターゲット(例えば、
図5A~5Cにおける二次ターゲット)は、別の二次材料源で置き換えられ得る。二次材料源は、スパッタリング以外の手段を通して一次スパッタターゲットに材料を提供し得る。一例では、二次材料源は、蒸発した材料を一次スパッタターゲットに提供する。蒸発した材料は、蒸着される層の任意の成分であり得る。様々な例において、蒸発した材料は、元素金属または金属酸化物である。蒸発した材料の特定の例として、ニッケル、タングステン、タンタル、ニオブ、スズ、チタン、およびモリブデンが挙げられ、これらは、本明細書に記載の様々な材料を形成するために使用され得る。一実施形態では、元素状モリブデンは、タングステンとチタンとの混合物および/または合金を含む一次スパッタターゲット上に蒸発されて、タングステンチタンモリブデン酸化物を形成する。別の実施形態では、元素状タンタルは、ニッケルとタングステンとの混合物および/または合金を含む一次スパッタターゲット上に蒸発されて、ニッケルタングステンタンタル酸化物を形成する。二次材料源が蒸発した材料を提供する場合、二次材料源は、一次スパッタターゲットおよび基板に対して任意の場所に提供され得る。いくつかの実施形態では、二次材料源は、
図5Cに示される設定と同様に、それが後ろにあり、主に一次スパッタターゲット上に蒸着するように提供される。
【0152】
一次および二次スパッタターゲットの両方が使用される場合、二次スパッタターゲットは、一次スパッタターゲット(すでに陰極である)の電位と比較して陰極である電位で動作され得る。あるいは、ターゲットを独立して動作し得る。なおさらに、相対的なターゲット電位に関係なく、二次ターゲットから放出された中性種は、一次ターゲット上に蒸着する。中性原子は、フラックスの一部であり、相対的な電位に関係なく、陰極の一次ターゲット上に蒸着する。
【0153】
本明細書に記載の構成および/またはアプローチは、本質的に例示的なものであり、これらの特定の実施形態または実施例は、多数の変形が可能であるため、限定的な意味で考慮されるべきではないことを理解されたい。本明細書で説明される特定のルーチンまたは方法は、任意の数の処理戦略のうちの1つまたは複数を表し得る。したがって、図示された様々な行為は、図示された順序で、他の順序で、並行して、または場合によっては省略されて実行され得る。同様に、上記のプロセスの順序は、変化し得る。特定の参考文献は、参照により本明細書に組み込まれている。そのような参考文献でなされたいかなる免責事項または否認も、本明細書に記載された実施形態に必ずしも適用されないことが理解される。同様に、そのような参考文献に必要であると記載されている任意の特徴は、本明細書の実施形態では省略され得る。
【0154】
本開示の主題は、本明細書に開示される様々なプロセス、システム、および構成、ならびに他の特徴、機能、行為、および/または性質のすべての新規かつ非自明な組み合わせおよびサブ組み合わせ、ならびにそれらのすべての同等物を含む。
【0155】
特定のパラメータについて別段の定義がない限り、本明細書で使用される「約」および「おおよそ」という用語は、関連する値に対して±10%を意味することを意図している。