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特許7381173超疎水コーティング層およびその作製方法と使用
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  • 特許-超疎水コーティング層およびその作製方法と使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】超疎水コーティング層およびその作製方法と使用
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20231108BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20231108BHJP
   C09D 133/12 20060101ALI20231108BHJP
   C09D 125/06 20060101ALI20231108BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20231108BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20231108BHJP
   B05D 3/12 20060101ALI20231108BHJP
   B05D 1/28 20060101ALI20231108BHJP
   B05D 1/18 20060101ALI20231108BHJP
   B05D 1/02 20060101ALI20231108BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20231108BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/62
C09D133/12
C09D125/06
C09K3/18 102
C09K3/18 104
B05D7/24 303B
B05D7/24 303E
B05D3/12 Z
B05D1/28
B05D1/18
B05D1/02 Z
B05D5/00 Z
B05D7/24 302J
B05D7/24 302P
B05D7/24 302Y
C09D183/04
C09K3/18 101
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022532072
(86)(22)【出願日】2020-12-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-30
(86)【国際出願番号】 CN2020138021
(87)【国際公開番号】W WO2021121422
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-05-30
(31)【優先権主張番号】201911328900.8
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521007481
【氏名又は名称】▲広▼▲東▼美的白色家▲電▼技▲術▼▲創▼新中心有限公司
【氏名又は名称原語表記】GUANGDONG MIDEA WHITE HOME APPLIANCE TECHNOLOGY INNOVATION CENTER CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】Building #4,Midea Global Innovation Center,Industry Boulevard,Beijiao,Shunde Foshan,Guangdong 528311,CHINA
(73)【特許権者】
【識別番号】512237419
【氏名又は名称】美的集団股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】MIDEA GROUP CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】B26-28F, Midea Headquarter Building, No.6 Midea Avenue, Beijiao, Shunde, Foshan, Guangdong 528311 China
(73)【特許権者】
【識別番号】521311665
【氏名又は名称】東華大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100205785
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100203297
【弁理士】
【氏名又は名称】橋口 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100135301
【弁理士】
【氏名又は名称】梶井 良訓
(72)【発明者】
【氏名】王 立▲瑩▼
(72)【発明者】
【氏名】姚 俊▲紅▼
(72)【発明者】
【氏名】▲厳▼ 卓▲華▼
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ ▲龍▼
(72)【発明者】
【氏名】葛 ▲デン▼▲騰▼
(72)【発明者】
【氏名】▲趙▼ 一平
(72)【発明者】
【氏名】▲ユ▼ ▲ティン▼
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106905795(CN,A)
【文献】特開2012-188565(JP,A)
【文献】特開平11-124534(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0044420(US,A1)
【文献】特開2005-082616(JP,A)
【文献】国際公開第2004/052640(WO,A1)
【文献】特開2000-327948(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104046152(CN,A)
【文献】特表2008-542458(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109836052(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構築ユニットと粘着ユニットとを含む三次元多孔質ナノ複合構造を有し、
前記構築ユニットが、無機疎水ナノ粒子により形成され、
前記粘着ユニットが、疎水ポリマーナノミクロスフェアにより形成され、
前記無機疎水ナノ粒子と前記疎水ポリマーナノミクロスフェアとが相互に連結して均一な孔隙を形成し、
各前記疎水ポリマーナノミクロスフェアの表面が、複数の前記無機疎水ナノ粒子に包まれ、ラズベリー状の多段構造を形成し、
前記疎水ポリマーナノミクロスフェアが、ポリスチレンミクロスフェア、有機ケイ素ミクロスフェア又はポリメチルメタクリレートミクロスフェアから選択される少なくとも一種であり、
前記無機疎水ナノ粒子の粒子径と前記疎水ポリマーナノミクロスフェアの粒子径との比が1:(1~2)であることを特徴とする、超疎水コーティング層。
【請求項2】
前記無機疎水ナノ粒子が、フッ素修飾ナノシリカ、メチル修飾ナノシリカ、有機ケイ素修飾ナノシリカ、フッ素修飾ナノアルミナ、メチル修飾ナノアルミナ、有機ケイ素修飾ナノアルミナ又はメチル修飾ナノ四酸化三鉄から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項に記載の超疎水コーティング層。
【請求項3】
前記無機疎水ナノ粒子の粒子径が、200~600nmであり、
及び/又は、前記疎水ポリマーナノミクロスフェアの粒子径が、200~800nmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の超疎水コーティング層。
【請求項4】
前記構築ユニットが平均粒子径200nmのヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン修飾ナノシリカから選択される場合、前記粘着ユニットが平均粒子径200nmのポリスチレンミクロスフェアから選択され;
及び/又は、前記構築ユニットが平均粒子径200nmのメタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル修飾ナノシリカから選択される場合、前記粘着ユニットが平均粒子径400nmの有機ケイ素ミクロスフェアから選択され;
及び/又は、前記構築ユニットが平均粒子径400nmのヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン修飾ナノアルミナから選択される場合、前記粘着ユニットが平均粒子径800nmのポリメチルメタクリレートミクロスフェアから選択され;
及び/又は、前記構築ユニットが平均粒子径600nmのオクタデシルトリメチルシラン修飾ナノ四酸化三鉄から選択される場合、前記粘着ユニットが平均粒子径600nmのポリスチレンミクロスフェアから選択されることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の超疎水コーティング層。
【請求項5】
前記無機疎水ナノ粒子が平均粒子径550~600nmのメチル修飾ナノ四酸化三鉄から選択される場合、前記疎水ポリマーナノミクロスフェアが平均粒子径550nm~600nmのポリスチレンミクロスフェアから選択され、かつ、前記無機疎水ナノ粒子と前記疎水ポリマーナノミクロスフェアとの質量比が(9~10):1であることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の超疎水コーティング層。
【請求項6】
前記無機疎水ナノ粒子、前記疎水ポリマーナノミクロスフェアを分散剤に加えて混合し、塗料液を形成すること;さらに、ディップコートプロセス、ロールコートプロセス、またはスプレーコートプロセスを利用して、前記塗料液を基材の表面に塗布し、乾燥させ、前記三次元多孔質ナノ複合構造の前記超疎水コーティング層を形成することを含むことを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の超疎水コーティング層の作製方法。
【請求項7】
前記無機疎水ナノ粒子と前記疎水ポリマーナノミクロスフェアと前記分散剤との質量比が、(1~10):(1~10):(80~98)であることを特徴とする請求項に記載の作製方法。
【請求項8】
前記分散剤が、水、エタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールメチルエーテル又はエチレングリコールブチルエーテルのうちの少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項又はに記載の作製方法。
【請求項9】
海洋防食、原油輸送、高層ガラスのセルフクリーニング、電子機器の防水、織物の防水・防汚、飛行機の防氷又は油水分離などの分野における請求項1からのいずれか一項に記載の超疎水コーティング層の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2019年12月20日に提出された特許発明の名称が「耐久性の高い超疎水コーティング層の作製方法」である中国特許出願第201911328900.8号の優先権を主張し、その全開示内容を援用により本明細書に組み込む。
【0002】
本発明は、機能材料の技術分野に属し、具体的には、超疎水コーティング層およびその作製方法と使用に関する。
【背景技術】
【0003】
超疎水コーティング層は、その特殊な表面構造により、例えば、防汚、防曇、洗浄のしやすさ、防水、防食、抵抗低減、防氷、防霜などの多くの潜在的な使用価値を有する。超疎水コーティング層は学界で大きな注目を受けているが、産業界ではほとんど応用されていない。その主な理由は、既存の超疎水コーティング層に安定性が悪く、耐久性が劣るという問題が存在し、実際の産業利用の需要を満たすことができないためである。
【0004】
超疎水コーティング層に存在する問題について、通常の解決方法として、超疎水コーティング層の厚さを増やすことで超疎水コーティング層の耐久性を向上させるものや、粘着層を増加することで超疎水コーティング層と基材との付着力を向上させるものがあるが、この2つの方法はいずれも超疎水コーティング層自体の凝集力が悪く、剥離し易い問題を根本的に解決できない。
【0005】
超疎水コーティング層は、その特殊なコーティング層システムと表面構造の特徴、さらに先行技術の制限により、今のところ、スプレーコート法によってしか超疎水コーティング層を得ることができず、例えば、疎水性マイクロナノ粒子と疎水性樹脂を共に溶剤に加えて超疎水塗料を形成し、スプレーコート法により透明で耐久性のある超疎水コーティング層が得られる;しかし、この方法には、樹脂がナノ粒子を包むという問題が存在し、コーティング層の疎水性が低下し易く、耐久性が良くない;そして、ディップコート又はロールコートはいずれも表面構造の良い超疎水コーティング層を得ることができない。
【0006】
また、先行技術には、ポリマーミクロスフェア分散液、安定化剤及びシリカゾルを用いて複合粒子分散液を構築し、疎水コーティング層を形成した後、さらに疎水コーティング層の表面にシランカップリング剤を疎水剤として噴霧し乾燥させた後、超疎水コーティング層を得るものがある。この方法は、正電荷を帯びたポリマーナノミクロスフェアと負電荷を帯びたシリカナノ粒子の混合を利用して、静電自己組織化によってラズベリー構造を構築し、当該コーティング層は超疎水性ではなく疎水性のみを有するため、疎水処理剤を用いてさらに処理を行うことで超疎水コーティング層を得る必要があり、また、当該コーティング層には結合力が低いなどの欠陥が存在する。
【0007】
本発明は、このようなことを鑑みて提案されたものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の課題の1つを解決するために、本発明は、超疎水コーティング層の本質から出発して、新しい複合構造を有する耐久型超疎水コーティング層を考案し、当該耐久型超疎水コーティング層は、良好な疎水性能を有するだけでなく、作製方法もスプレーコートプロセスに制限されず、ディップコートプロセス又はロールコートプロセスを利用して得ることもでき、ロール材及び異形品の塗布を実現でき、超疎水コーティング層の使用分野を広げた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、超疎水コーティング層の作製方法をさらに提供する。
【0010】
本発明は、超疎水コーティング層の使用をさらに提供する。
【0011】
本発明に記載の超疎水コーティング層は、構築ユニットと粘着ユニットとを含む三次元多孔質ナノ複合構造を有し、
前記構築ユニットは、無機疎水ナノ粒子により形成され、
前記粘着ユニットは、疎水ポリマーナノミクロスフェアにより形成され、
前記無機疎水ナノ粒子と前記疎水ポリマーナノミクロスフェアとは相互に連結して均一な孔隙を形成する。
【0012】
本発明は、接着剤として、ポリマー樹脂の代わりに疎水ポリマーナノミクロスフェアを使用することで、先行技術における、接着剤としてのポリマー樹脂が疎水ナノ粒子を包むことによってコーティング層の粗さが低下する情況、及び摩擦によって上層のナノ粒子が破壊され、底層のポリマー層が超疎水性を与え難い情況を回避している。本発明に記載の超疎水コーティング層は、優れる耐久性(最大160%まで向上できる)を有するとともに、先行技術がスプレーコート法によってしか耐久性のある超疎水コーティング層を得ることができないという問題を解決し、ロール材及び異形品の塗布を実現でき、当該コーティング層の使用分野を広げた。
【0013】
本発明の一部の実施例によれば、各前記疎水ポリマーナノミクロスフェアの表面は、複数の前記無機疎水ナノ粒子に包まれ、ラズベリー状の多段構造(multi-level structure)を形成する。本発明の一部の実施例によれば、前記無機疎水ナノ粒子と前記疎水ポリマーナノミクロスフェアとの質量比は、(1~10):(1~5)であり、好ましくは、(9~10):1である。研究によると、この質量比範囲を採用して得られた超疎水コーティング層は、孔隙がより均一に分散され、連結性能と耐久性がより良好であり、総合性能がより高いという利点を有する。
【0014】
本発明の一部の実施例によれば、前記無機疎水ナノ粒子は、フッ素修飾ナノシリカ、メチル修飾ナノシリカ、有機ケイ素修飾ナノシリカ、フッ素修飾ナノアルミナ、メチル修飾ナノアルミナ、有機ケイ素修飾ナノアルミナ又はメチル修飾ナノ四酸化三鉄などから選択される少なくとも一種である。研究によると、構築ユニットとして上記の修飾後のナノシリカ、ナノアルミナ、ナノ四酸化三鉄を使用すると、コーティング層の耐久性及び結合能力を著しく向上させ、これにより、コーティング層の総合性能を向上させることができる。
【0015】
さらに、前記無機疎水ナノ粒子は、フッ素修飾ナノシリカ、メチル修飾ナノシリカ、フッ素修飾ナノアルミナ又はメチル修飾ナノ四酸化三鉄のうちの少なくとも一種であることが好ましい;ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン修飾ナノシリカ、メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル修飾ナノシリカ、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン修飾ナノアルミナ、オクタデシルトリメチルシラン修飾ナノ四酸化三鉄のうちの一種または複数種であることがさらに好ましい。
【0016】
そのうち、前記ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン修飾ナノシリカの調製方法は、シリカゾルをエタノール溶液に加え、さらにヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシランを加えて、反応させてヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン修飾ナノシリカを得ることを含む。
【0017】
前記メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル修飾ナノシリカの調製方法は、シリカゾルをエタノール溶液に加え、さらにメタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピルを加えて、反応させてメタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル修飾ナノシリカを得ることを含む。
【0018】
前記ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン修飾ナノアルミナの調製方法は、アルコール溶剤にヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシランを加えて、pH値を3~4に調整し、室温で加水分解させた後、ナノアルミナを加え、水浴にて加熱反応を行い、ろ過、洗浄、真空乾燥して、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン修飾ナノアルミナを得ることを含む。
【0019】
前記オクタデシルトリメチルシラン修飾ナノ四酸化三鉄の調製方法は、Feナノ粒子を無水エタノールに超音波分散させ、オクタデシルトリメチルシランを加えて、室温で撹拌し、反応させてオクタデシルトリメチルシラン修飾ナノ四酸化三鉄を得るものである。
【0020】
研究によると、上記のようなナノ粒子は、構築ユニットとして他のナノ粒子より優れる疎水性能を有するだけでなく、疎水ポリマーナノミクロスフェアと粘着して構築するコーティング層も、疎水性と耐久性がより良好である。
【0021】
本発明の一部の実施例によれば、前記疎水ポリマーナノミクロスフェアは、ポリスチレンミクロスフェア、有機ケイ素ミクロスフェア又はポリメチルメタクリレートミクロスフェアなどから選択される少なくとも一種である。研究によると、接着剤として適切な疎水ポリマーナノミクロスフェアを選択して無機疎水ナノ粒子とマッチングすることにより、二種類の粒子が相互に連結して均一な孔隙を形成し、三次元多孔質ナノ複合構造を得ることができ、これにより、接着剤がナノ粒子を包むという先行技術に存在する問題を効果的に解決できる。さらに、前記疎水ポリマーナノミクロスフェアは、ポリスチレンミクロスフェア及び/またはポリメチルメタクリレートミクロスフェアであることが好ましい;
【0022】
さらに好ましくは、前記ポリスチレンミクロスフェアの調製方法は、スチレンモノマーをエタノール溶液に加えて加熱した後、過硫酸カリウムを加えて反応させ、ポリスチレンミクロスフェアを得ることを含む。
【0023】
前記ポリメチルメタクリレートミクロスフェアの調製方法は、メチルメタクリレートモノマーをイオン交換水に加えた後、ヘキサデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを加え、その後、過硫酸カリウム溶液を加えて加熱し、反応させてポリメチルメタクリレートミクロスフェアを得ることを含む。
【0024】
研究によると、この二種類のナノミクロスフェアは、他のナノミクロスフェアと比較して疎水ナノ粒子との粘着性がより良く、構築ユニットと粘着ユニットとの結合力をさらに向上させるとともに、基材と粘着作用を形成でき、超疎水コーティング層が基材から容易に剥離しないことを保証する。
【0025】
本発明の一部の実施例によれば、前記無機疎水ナノ粒子の粒子径は、200~600nmである。
【0026】
本発明の一部の実施例によれば、前記疎水ポリマーナノミクロスフェアの粒子径は、200~800nmである。
【0027】
さらに好ましくは、前記無機疎水ナノ粒子の粒子径と前記疎水ポリマーナノミクロスフェアの粒子径との比が1:(1~2)である場合、得られたコーティング層の総合性能はより良好である。
【0028】
本発明の発明を実施するための形態の1つとして、前記構築ユニットが平均粒子径200nmのヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン修飾ナノシリカから選択される場合、前記粘着ユニットは平均粒子径200nmのポリスチレンミクロスフェアから選択される;
前記構築ユニットが平均粒子径200nmのメタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル修飾ナノシリカから選択される場合、前記粘着ユニットは平均粒子径400nmの有機ケイ素ミクロスフェアから選択される;
前記構築ユニットが平均粒子径400nmのヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン修飾ナノアルミナから選択される場合、前記粘着ユニットは平均粒子径800nmのポリメチルメタクリレートミクロスフェアから選択される;
前記構築ユニットが平均粒子径600nmのオクタデシルトリメチルシラン修飾ナノ四酸化三鉄から選択される場合、前記粘着ユニットは平均粒子径600nmのポリスチレンミクロスフェアから選択される。
【0029】
研究によると、前記構築ユニットと前記粘着ユニットが上記のように組み合わせられた場合、得られたコーティング層の総合性能はより良好である。
【0030】
本発明の一部の実施例によれば、前記無機疎水ナノ粒子が平均粒子径550~600nmのメチル修飾ナノ四酸化三鉄から選択され、前記疎水ポリマーナノミクロスフェアが平均粒子径550nm~600nmのポリスチレンミクロスフェアから選択され、かつ、前記無機疎水ナノ粒子と前記疎水ポリマーナノスフェアとの質量比が(9~10):1である場合、得られた超疎水コーティング層の水接触角が最も大きく、同時に転がり角が最も小さく、コーティング層の総合効果が最も良好である。
【0031】
本発明は、前記無機疎水ナノ粒子、前記疎水ポリマーナノミクロスフェアを分散剤に加えて混合し、塗料液を形成すること;さらに、ディップコートプロセス、ロールコートプロセス、またはスプレーコートプロセスを利用し、前記塗料液を基材の表面に塗布して乾燥させ、前記三次元多孔質ナノ複合構造の前記超疎水コーティング層を形成することを含む、上記超疎水コーティング層の作製方法をさらに提供する。
【0032】
本発明は、構築ユニット及び粘着ユニットとして二種類の特定のナノ粒子を選択し、それらを分散剤を用いて混合し分散させた後、基材の表面に塗布して超疎水コーティング層を形成しており;当該方法は、既存の超疎水コーティング層の作製プロセスの複雑さを大きく低下させると同時に、二種類のナノ粒子の混合により、二種類のナノ粒子の間に一定の粘着力が存在するようにし、三次元多孔質ナノ複合構造を形成して、超疎水コーティング層システムの凝集力が劣るという問題を効果的に解決し、超疎水コーティング層の耐久性を向上させる。
【0033】
本発明の一部の実施例によれば、前記無機疎水ナノ粒子と前記疎水ポリマーナノミクロスフェアと前記分散剤との質量比は、(1~10):(1~10):(80~98)であり、好ましくは(9~10):1:(89~90)である。研究によると、二種類の粒子と分散剤を適切な使用量の比率で混合し分散させると、均一な分散により有利であり、理想的な超疎水コーティング層が得られる。
【0034】
本発明の一部の実施例によれば、前記分散剤は、水、エタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールメチルエーテル又はエチレングリコールブチルエーテルのうちの少なくとも一種を含むが、これらに限定されない。研究によれば、適切な分散剤を選択すると、無機疎水ナノ粒子と前記疎水ポリマーナノミクロスフェアを均一に分散させることにとってより有益であり、超疎水コーティング層の総合性能が向上する。
【0035】
本発明は、海洋防食、原油輸送、高層ガラスのセルフクリーニング、電子機器の防水、織物の防水・防汚、飛行機の防氷又は油水分離などの分野における上記超疎水コーティング層の使用をさらに提供する。
【0036】
本発明の有益な効果は以下の通りである。
【0037】
本発明により作製される超疎水コーティング層は、ナノ構造が均一で、付着力及び耐久性が良好であるといった特徴を有し、その耐久性を160%まで向上させることができ;そして、本発明に記載の超疎水コーティング層の作製方法は、簡単で、量産化に適しており、ロール材及び異形品の塗布を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1図1は、超疎水コーティング層の構造模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面及び実施例を組み合わせて本発明の実施形態をさらに詳細に説明する。以下の実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を制限するためのものではない。
【0040】
以下の実施例で使用される基材は、具体的に、ガラス、鉄、アルミニウムなどであるが、本発明に記載の超疎水コーティング層は、これらの基材に限定されない。
【0041】
なお、塗料を塗布する前に、前処理液を用いて基材表面の油脂を完全に洗浄する必要がある;ただし、本発明では、基材表面の油脂がきれいに洗浄される限り、前処理液及び具体的な前処理の操作・ステップは特に限定されない。
【0042】
実施例1
本実施例は、下記のステップを含む超疎水コーティング層の作製方法を提供する。
【0043】
(1)塗料の調製:
質量分率で、配合は下記のとおりである。
【0044】
粒子径が約200nmのヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン修飾ナノシリカ 1%;粒子径が約200nmのポリスチレンミクロスフェア 5%;水 94%。
【0045】
そのうち、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン修飾ナノシリカは、下記の方法、すなわち、粒子径が約200nmのシリカゾル2mLをエタノール溶液40mLに加え、さらに質量分率0.2%のヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシランを加えて、10時間反応させることにより調製されたものである。
【0046】
そのうち、ポリスチレンミクロスフェアは、下記の方法、すなわち、スチレンモノマー3mLをエタノール溶液200mLに加え、70℃にまで加熱した後、質量分率0.1%の過硫酸カリウム水溶液30mLを加え、24時間反応させることにより調製されたものである。
【0047】
(2)コーティング層の作製:ステップ(1)で調製された塗料を、ロールコートにより基材の表面に塗布し、100℃の条件で乾燥させ、超疎水コーティング層を作製した。
【0048】
図1は、超疎水コーティング層の構造模式図である。
【0049】
実施例2
本実施例は、下記のステップを含む超疎水コーティング層の作製方法を提供する。
【0050】
(1)塗料の調製:
質量分率で、配合は下記のとおりである。
【0051】
粒子径が約200nmのメタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル修飾ナノシリカ 1%;粒子径が約400nmの有機ケイ素ミクロスフェア 1%;エタノール 98%。
【0052】
そのうち、メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル修飾ナノシリカは、下記の方法、すなわち、粒子径が約200nmのシリカゾル2mLをエタノール溶液80mLに加え、さらに質量分率1%のメタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピルを加えて、18時間反応させることにより調製されたものである。
【0053】
そのうち、粒子径が約400nmの有機ケイ素ミクロスフェアは、モメンティブ社から購入したものであり、型番はTospearl 120である。
【0054】
(2)コーティング層の作製:ステップ(1)で調製された塗料を、ディップコートにより基材の表面に塗布し、150℃の条件で乾燥させ、超疎水コーティング層を作製した。
【0055】
実施例3
本実施例は、下記のステップを含む超疎水コーティング層の作製方法を提供する。
【0056】
(1)塗料の調製:
質量分率で、配合は下記のとおりである。
【0057】
粒子径が約400nmのヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン修飾ナノアルミナ 5%;粒子径が約800nmのポリメチルメタクリレートミクロスフェア 1%;エタノール 94%。
【0058】
そのうち、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン修飾ナノアルミナは、下記の方法、すなわち、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン希釈溶液2mLをエタノール溶剤100mLに加え、酸水溶液をpH値が3~4になるまで滴下し、室温で1時間加水分解させ、約400nmのナノアルミナ2gを溶液に加えて、水浴で80℃にまで加熱し、一定時間反応させた後濾過し、トルエンで洗浄し、60℃で24時間真空乾燥させることにより調製されたものである。
【0059】
そのうち、ポリメチルメタクリレートミクロスフェアは、下記の方法、すなわち、メチルメタクリレートモノマー10mLをイオン交換水80mLに加えた後、0.025mol/Lのヘキサデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム10mLを加え、その後、質量分率1%の過硫酸カリウム溶液20mLを加え、70℃にまで加熱し、4時間反応させることにより調製されたものである。
【0060】
(2)コーティング層の作製:ステップ(1)で調製された塗料を、ロールコートにより基材の表面に塗布し、140℃の条件で乾燥させ、超疎水コーティング層を作製した。
【0061】
実施例4
本実施例は、下記のステップを含む超疎水コーティング層の作製方法を提供する。
【0062】
(1)塗料の調製:
質量分率で、配合は下記のとおりである。
【0063】
粒子径が約600nmのオクタデシルトリメチルシラン修飾ナノ四酸化三鉄 10%、粒子径が約600nmのポリスチレンミクロスフェア 1%、酢酸ブチル 89%。
【0064】
そのうち、オクタデシルトリメチルシラン修飾ナノ四酸化三鉄は、下記の方法、すなわち、Feナノ粒子0.5gを無水エタノール100mLに超音波分散させ、オクタデシルトリメチルシラン0.5mLを加えて、室温で機械的に攪拌しながら12時間反応させることにより調製されたものである。
【0065】
そのうち、ポリスチレンミクロスフェアは、下記の方法、すなわち、スチレンモノマー12mLをエタノール溶液200mLに加え、70℃にまで加熱した後、質量分率0.1%の過硫酸カリウム水溶液20mLを加え、24時間反応させることにより調製されたものである。
【0066】
(2)コーティング層の作製:ステップ(1)で調製された塗料を、ディップコートにより基材の表面に塗布し、150℃の条件で乾燥させ、超疎水コーティング層を作製した。
【0067】
比較例1
本比較例は、下記のステップを含むコーティング層の作製方法を提供する。
【0068】
(1)塗料の調製:
質量分率で、配合は下記のとおりである。
【0069】
粒子径が約400nmのヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン修飾ナノシリカ 1%、シリコーン樹脂 25%、プロピレングリコールメチルエーテル 74%。
【0070】
そのうち、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン修飾ナノシリカは、下記の方法、すなわち、粒子径が約400nmのシリカゾル2mLをエタノール溶液40mLに加え、さらに質量分率0.2%のヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシランを加えて、10時間反応させることにより調製されたものである。
【0071】
そのうち、シリコーン樹脂は、ドイツのワッカー社から購入したものであり、型番はSilres REN 80である。
【0072】
(2)コーティング層の作製:ステップ(1)で調製された塗料を、ロールコートにより基材の表面に塗布し、150℃の条件で乾燥させ、超疎水コーティング層を作製した。
【0073】
比較例2
本比較例は、下記のステップを含むコーティング層の作製方法を提供する。
【0074】
(1)塗料の調製:
質量分率で、配合は下記のとおりである。
【0075】
シリコーン樹脂 25%、プロピレングリコールメチルエーテル 75%。
【0076】
そのうち、前記シリコーン樹脂はドイツのワッカー社から購入したものであり、型番はSilres REN 80である。
【0077】
(2)コーティング層の作製:ステップ(1)で調製された塗料を、ロールコートにより基材の表面に塗布し、150℃の条件で乾燥させ、通常の疎水コーティング層を作製した。
【0078】
比較例3
本比較例は、下記のステップを含むコーティング層の作製方法を提供する。
【0079】
(1)塗料の調製:
質量分率で、配合は下記のとおりである。
【0080】
粒子径が約400nmのメタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル修飾ナノシリカ 3%、粒子径が約1.2μmの有機ケイ素ミクロスフェア 5%、エチレングリコールメチルエーテル 92%。
【0081】
そのうち、メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル修飾ナノシリカは、下記の方法、すなわち、粒子径が約400nmのシリカゾル2mLをエタノール溶液80mLに加え、さらに質量分率1%のメタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピルを加えて、18時間反応させることにより調製されたものである。
【0082】
その中、有機ケイ素ミクロスフェアは、モメンティブ社から購入したものであり、型番はTospearl 120である。
【0083】
(2)コーティング層の作製:ステップ(1)で調製された塗料を、ディップコートにより基材の表面に塗布し、140℃の条件で乾燥させ、超疎水コーティング層を作製した。
【0084】
比較例4
本比較例は、下記のステップを含むコーティング層の作製方法を提供する。
【0085】
(1)塗料の調製:
質量分率で、配合は下記のとおりである。
【0086】
粒子径が約1μmのヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン修飾ナノシリカ 3%、粒子径が約600nmの有機ケイ素ミクロスフェア 5%、エタノール 92%。
【0087】
そのうち、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン修飾ナノシリカは、下記の方法、すなわち、粒子径が約1μmのシリカゾル2mLをエタノール溶液40mLに加え、さらに質量分率0.2%のヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシランを加えて、10時間反応させることにより調製されたものである。
【0088】
その中、有機ケイ素ミクロスフェアは、モメンティブ社から購入したものであり、型番はTospearl 120である。
【0089】
(2)コーティング層の作製:ステップ(1)で調製された塗料を、ディップコートにより基材の表面に塗布し、150℃の条件で乾燥させ、超疎水コーティング層を作製した。
【0090】
試験例1
1.疎水性能の試験:実施例1~4及び比較例1~4のコーティング層の水接触角及び転がり角を接触角計で測定し、その結果を表1に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
表1から、実施例1~4及び比較例1、比較例3で得られた超疎水コーティング層が、大きい水接触角を有するとともに、小さい転がり角を有し、そのうち、実施例4で得られた超疎水コーティング層の性能が最良であることが分かる。一方、比較例2の水接触角は過小であり、転がり角は過大であって、通常の疎水コーティング層であり;比較例4の転がり角は過大である。
【0093】
2.加速耐久性の試験:3枚の試料をサンプルホルダーに固定し、水流量1L/min~3L/minの水タンクに浸し(非循環水を使用)、取り出して乾燥させ、任意の三箇所にてその転がり角を測定し、その転がり角がすべて≧90°に減衰したとき、試料を流水に浸した時間を記録し、測定環境の実際の温度と湿度を記録した。結果を表2に示す。
【0094】
【表2】
【0095】
上記の実施形態は、本発明を説明するためのものにすぎず、本発明を制限するものではない。本発明は実施例を参照して詳細な説明を行ったが、当業者は、本発明の技術案に対する様々な組み合わせ、修正または等価置換がすべて本発明の技術案の趣旨と範囲から逸脱しておらず、本発明の保護範囲内に含まれることを理解できるはずである。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、超疎水コーティング層およびその作製方法と使用を提供する。前記超疎水コーティング層は、構築ユニットと粘着ユニットとを含む三次元多孔質ナノ複合構造を有し;前記構築ユニットは、無機疎水ナノ粒子により形成され;前記粘着ユニットは、疎水ポリマーナノミクロスフェアにより形成され;前記無機疎水ナノ粒子と前記疎水ポリマーナノミクロスフェアとは相互に連結して均一な孔隙を形成する。本発明は、超疎水コーティング層の本質から出発して、新しい複合構造を有する耐久型超疎水コーティング層を考案し、当該耐久型超疎水コーティング層は、スプレーコートプロセスに限らず、ディップコートプロセス又はロールコートプロセスを利用して処理することもでき、ロール材及び異形品の塗布を実現でき、且つ、得られたコーティング層は、総合性能が良く、当該コーティング層の利用分野を広げており、良好な経済的価値及び使用の見通しがある。
図1